(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理液は、前記基板に対する薬液処理の前処理として行われる処理を行うために用いられ、前記前処理は、前記薬液処理を行う処理部において前記基板に対して行われる初めての液処理である、請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の基板液処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明者らは、pHが5〜9の範囲内の所望の値の処理液を生成するにあたって、以下のようなことに着目した。純水に二酸化炭素ガス及びアンモニア水を溶解させると、中和反応により炭酸アンモニウムが生じ、溶液中には下記のイオンが存在するようになる。
【数1】
【0011】
すなわち、上記溶液は弱塩基とその塩の緩衝溶液である。緩衝溶液の特性として知られているように、NH3が単独で水に溶けている溶液と比較して、緩衝溶液のpHは小さく(中性に近づく)、かつ、溶液に酸または塩基を添加したときのpH変化も小さくなる。
本願発明者らは、この緩衝溶液の特性を利用することにより、pHが5〜9範囲内の所望の値の処理液を容易に安定的に生成することができるとの考えに至った。
【0012】
以下に、上記の考え方に基づきなされた本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る基板処理システムの概略構成を示す図である。以下では、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。
【0014】
図1に示すように、基板処理システム1は、搬入出ステーション2と、処理ステーション3とを備える。搬入出ステーション2と処理ステーション3とは隣接して設けられる。
【0015】
搬入出ステーション2は、キャリア載置部11と、搬送部12とを備える。キャリア載置部11には、複数枚のウエハWを水平状態で収容する複数のキャリアCが載置される。
【0016】
搬送部12は、キャリア載置部11に隣接して設けられ、内部に基板搬送装置13と、受渡部14とを備える。基板搬送装置13は、ウエハWを保持する基板保持機構を備える。また、基板搬送装置13は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、基板保持機構を用いてキャリアCと受渡部14との間でウエハWの搬送を行う。
【0017】
処理ステーション3は、搬送部12に隣接して設けられる。処理ステーション3は、搬送部15と、複数の処理ユニット16とを備える。複数の処理ユニット16は、搬送部15の両側に並べて設けられる。
【0018】
搬送部15は、内部に基板搬送装置17を備える。基板搬送装置17は、ウエハWを保持する基板保持機構を備える。また、基板搬送装置17は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、基板保持機構を用いて受渡部14と処理ユニット16との間でウエハWの搬送を行う。
【0019】
処理ユニット16は、基板搬送装置17によって搬送されるウエハWに対して所定の基板処理を行う。
【0020】
また、基板処理システム1は、制御装置4を備える。制御装置4は、たとえばコンピュータであり、制御部18と記憶部19とを備える。記憶部19には、基板処理システム1において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。制御部18は、記憶部19に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって基板処理システム1の動作を制御する。
【0021】
なお、かかるプログラムは、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御装置4の記憶部19にインストールされたものであってもよい。コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体としては、たとえばハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルディスク(MO)、メモリカードなどがある。
【0022】
上記のように構成された基板処理システム1では、まず、搬入出ステーション2の基板搬送装置13が、キャリア載置部11に載置されたキャリアCからウエハWを取り出し、取り出したウエハWを受渡部14に載置する。受渡部14に載置されたウエハWは、処理ステーション3の基板搬送装置17によって受渡部14から取り出されて、処理ユニット16へ搬入される。
【0023】
処理ユニット16へ搬入されたウエハWは、処理ユニット16によって処理された後、基板搬送装置17によって処理ユニット16から搬出されて、受渡部14に載置される。
そして、受渡部14に載置された処理済のウエハWは、基板搬送装置13によってキャリア載置部11のキャリアCへ戻される。
【0024】
次に、処理ユニット16の概略構成について
図2を参照して説明する。
図2は、処理ユニット16の概略構成を示す図である。
【0025】
図2に示すように、処理ユニット16は、チャンバ20と、基板保持機構30と、処理流体供給部40と、回収カップ50とを備える。
【0026】
チャンバ20は、基板保持機構30と処理流体供給部40と回収カップ50とを収容する。チャンバ20の天井部には、FFU(Fan Filter Unit)21が設けられる。FFU21は、チャンバ20内にダウンフローを形成する。
【0027】
基板保持機構30は、保持部31と、支柱部32と、駆動部33とを備える。保持部31は、ウエハWを水平に保持する。支柱部32は、鉛直方向に延在する部材であり、基端部が駆動部33によって回転可能に支持され、先端部において保持部31を水平に支持する。駆動部33は、支柱部32を鉛直軸まわりに回転させる。かかる基板保持機構30は、駆動部33を用いて支柱部32を回転させることによって支柱部32に支持された保持部31を回転させ、これにより、保持部31に保持されたウエハWを回転させる。
【0028】
処理流体供給部40は、ウエハWに対して処理流体を供給する。処理流体供給部40は、処理流体供給源70に接続される。
【0029】
回収カップ50は、保持部31を取り囲むように配置され、保持部31の回転によってウエハWから飛散する処理液を捕集する。回収カップ50の底部には、排液口51が形成されており、回収カップ50によって捕集された処理液は、かかる排液口51から処理ユニット16の外部へ排出される。また、回収カップ50の底部には、FFU21から供給される気体を処理ユニット16の外部へ排出する排気口52が形成される。
【0030】
次に、処理流体供給源70の構成について
図3を参照して説明する。
【0031】
処理流体供給源70は、純水にアンモニア水を添加するとともに二酸化炭素ガスを溶解してなるpHが約5〜9程度の水溶液(上記処理液供給部40で用いられる処理液)を生成する処理液生成部である。後述するように、アンモニア及び二酸化炭素が純水中で反応して炭酸アンモニウム(塩)が形成され、炭酸アンモニウムの存在により水溶液は緩衝溶液として振る舞う。以下において、記載の簡略化のため、純水にアンモニア水及び二酸化炭素ガスを添加してなる水溶液を「緩衝溶液」とも呼ぶこととする。
【0032】
処理流体供給源70は、処理液としての緩衝溶液を貯留するタンク701と、タンク701に緩衝溶液の原料としての二酸化炭素溶解水(炭酸水)を供給する二酸化炭素溶解水供給部710と、タンク701に緩衝溶液の原料としてのアンモニア水を供給するアンモニア水供給部720と、タンク701に接続された循環ライン702とを有する。
【0033】
循環ライン702にはポンプ703及びフィルタ704が設けられている。ポンプ703を作動させることにより、タンク701に貯留された緩衝溶液が循環ライン702を循環する。循環ライン702を循環する緩衝溶液中に含まれるパーティクル等の汚染物質が、フィルタ704により除去される。
【0034】
循環ライン702には、抵抗率計715(導電率計でもよい)と、pH計719が設けられている。
【0035】
循環ライン702には、分岐ライン705を介して前述した複数の処理ユニット16が接続されている。必要に応じて、各分岐ライン705に設けられた図示しない開閉弁が開かれ、制御された流量で対応する処理ユニット16に緩衝溶液が送られる。処理ユニット16は、この緩衝溶液をリンス液(処理液)として上記の処理流体供給部40(これには例えば処理液ノズル等が含まれる)を介してウエハWに吐出して、ウエハWのリンス処理を行う。
【0036】
二酸化炭素溶解水供給部710は、純水(DIW)供給源711に接続された純水ライン712と、二酸化炭素ガス供給源716に接続された二酸化炭素ガスライン717とを有している。
【0037】
純水ライン712には、上流側から順に、定圧弁713a、開閉弁713b、可変絞り弁713c、二酸化炭素ガス溶解モジュール714及び抵抗率計715(導電率計でもよい)が設けられている。定圧弁713a、開閉弁713b及び可変絞り弁713cは、純水流量制御機構713を構成する。
【0038】
二酸化炭素ガスライン717には、上流側から順に、定圧弁718a、開閉弁718b及び可変絞り弁718cが設けられている。二酸化炭素ガスライン717の下流端は、二酸化炭素ガス溶解モジュール714が設けられている。定圧弁718a、開閉弁718b及び可変絞り弁718cは、二酸化炭素ガス流量制御機構718を構成する。
【0039】
純水流量制御機構713及び二酸化炭素ガス流量制御機構718の構成は図示されたものに限定されるものではなく、二酸化炭素ガス溶解モジュール714に制御された所望の流量で純水及び二酸化炭素ガスを流入させることができるのであれば任意の構成を採用することができる。
【0040】
二酸化炭素ガス溶解モジュール714は、純水ライン712に接続された内部液体流路(図示せず)と、当該内部液体流路中にある純水に二酸化炭素ガスを注入する注入部(図示せず)とから構成される。注入部は、例えば中空糸膜モジュールにより構成することができる。中空糸膜内に加圧された二酸化炭素ガスを送り込むと、二酸化炭素ガスは内部液体流路内を流れる純水中に溶け込み、これにより二酸化炭素溶解水が生成される。中空糸膜モジュールを利用して液体(水に限らない)にガス(二酸化炭素ガスに限らない)を溶け込ませるためのガス溶解モジュールの構成は公知であり、詳細な説明は省略する。二酸化炭素ガス溶解モジュール714の形式は、中空糸膜モジュールを用いたものに限定されるものではなく、制御された量の二酸化炭素ガスを純水に溶解することができる任意の形式のものを用いることができる。
【0041】
アンモニア水供給部720は、アンモニア水供給源721に接続されたアンモニア水ライン722を有しており、アンモニア水ライン722には、上流側から順に、定圧弁723a、開閉弁723b、可変絞り弁723c及び流量計724が設けられている。アンモニア水供給源721からは、例えばアンモニア濃度30%の工業用アンモニア水が供給される。
【0042】
次に、処理流体供給源70のタンク701及び循環ライン702に予め定められた所望の抵抗率(デバイス構成要素に静電破壊を生じさせない抵抗率、例えば0.05MΩ・cm以下)を有し、かつ、予め定められた所望のpH(pH5〜9の範囲内の任意の範囲、ここでは例えば微アルカリ性のpH7〜8範囲内の値)を有する緩衝溶液を供給する方法について説明する。
【0043】
予備実験(処理流体供給源70を用いた試験運転)を行い、所望の抵抗率およびpHを有する緩衝溶液を生成するために必要な条件を予め確認しておく。 ここで、必要な条件には、
− (1)二酸化炭素溶解水供給部710において二酸化炭素溶解水を生成する際における、純水ライン712に流す純水の流量、二酸化炭素ガスライン717に流す二酸化炭素ガスの流量、及び得られる二酸化炭素溶解水の抵抗率
− (2)上記(1)に基づき生成された二酸化炭素溶解水に混合すべきアンモニア水の量(混合比)
が含まれる。
【0044】
図11のグラフに、二酸化炭素溶解水中の二酸化炭素ガス濃度と二酸化炭素溶解水のpHとの関係を示す。また、
図12のグラフに、二酸化炭素ガス濃度と二酸化炭素溶解水の抵抗率との関係を示す。ここでは、目標とする二酸化炭素溶解水の抵抗率を0.2MΩ・cmとする。このとき、二酸化炭素溶解水中の二酸化炭素濃度は約15mg/L、二酸化炭素溶解水のpHは約4.9である。抵抗率0.2MΩ・cm付近では、二酸化炭素ガス濃度の変化に対して抵抗率の変化およびpHの変化は比較的緩やかであり、二酸化炭素溶解水の抵抗率およびpHを所望の値に調整することが比較的容易である。
【0045】
まず、二酸化炭素溶解水供給部710の純水ライン712に上記(1)で定めた流量で純水を流し、また、二酸化炭素ガスライン717に上記(1)で定めた流量で二酸化炭素ガスを流す。二酸化炭素ガス溶解モジュール714内で二酸化炭素ガスが純水中に溶解し、二酸化炭素溶解水が生成される。二酸化炭素溶解水はタンク701に流入する。このとき、抵抗率計715で二酸化炭素溶解水の抵抗率をモニタし、抵抗率が目標とする値(ここでは0.2MΩ・cm)に到達するまで、タンク701に接続されたドレンライン701aから二酸化炭素溶解水を廃棄する。抵抗率計715により検出される抵抗率が目標とする値に到達したら、ドレンライン701aを閉じ、タンク701に二酸化炭素溶解水を貯留する。上記に代えて、純水ライン712に例えば三方弁を介してドレンライン712a(
図3において破線で示す)を接続し、抵抗率計715により検出される抵抗率が目標とする値に到達するまで、二酸化炭素溶解水をタンク701に送らずに、ドレンライン712aから廃棄してもよい。
【0046】
上記の工程により生成された二酸化炭素溶解水のpHは5より小さい(例えば4.9)。二酸化炭素ガスを純水中に溶解させると、H
+イオンとCO3
2−イオンが生じ、二酸化炭素溶解水の抵抗率は二酸化炭素溶解水中に含まれるイオン濃度に相応した値となる。
従って、抵抗率計715の検出値に基づいて、予め定められた量の二酸化炭素ガスが純水中に溶け込んだことを確認することができる。
【0047】
タンク701に予め定められた量の二酸化炭素溶解水が貯留されたことが液位計706により検出されたら、ポンプ703を起動し、循環ライン702に二酸化炭素溶解水を循環させる。循環ライン702に設けられた抵抗率計715’により、実際に循環ライン702を流れている二酸化炭素溶解水の抵抗率を確認してもよい。
【0048】
次に、アンモニア水供給部720によりタンク701に上記(2)で定めた量のアンモニア水を供給する。これにより、タンク701及び循環ライン702を循環する二酸化炭素溶解水にアンモニア水が混合され、両者は十分に混ざり合う。タンク701に予め定められた量のアンモニアが供給されたか否かは、流量計724の測定値の時間積分値により把握することができる。アンモニア水ライン722にドレンライン722aを設け、流量が安定するまでの間、アンモニア水をタンク701に送らずに、ドレンライン722aから廃棄してもよい。タンク701に送られるアンモニア水の総量は少ないため、流量が安定した状態でアンモニア水をタンク701に送ることにより、タンク701に送られるアンモニア水の総量をより精確に制御することができる。
【0049】
説明の冒頭で述べたように、二酸化炭素溶解水にアンモニア水を混合することにより、中和反応が生じ、混合液のpHは前述したpHを7〜8の範囲内の所望の値にすることができる。さらに抵抗率も所望の値(0.05MΩ・cm以下)にすることができる。また、この中和反応により混合液中には、下記のイオンが存在するようになる。
【数2】
【0050】
すなわち、混合液は、弱塩基とその塩の緩衝溶液である。従って、緩衝溶液の特性として知られているように、NH3が単独で水に溶けている溶液と比較して、緩衝溶液のpHは小さく(中性に近づく)、かつ、液に酸または塩基を添加したときのpH変化も小さくなる。
【0051】
緩衝溶液の抵抗率を、循環ライン702に設けた抵抗率計715’により常時または定期的に監視してもよい。また、緩衝溶液のpHを循環ライン702に設けたpH計719により定期的に監視してもよい。処理ユニット16でウエハWの処理が開始される前には、循環ライン702を流れる緩衝溶液の抵抗率(導電率)およびpHを確認することが好ましい。なお、pHの監視を行う場合には、循環ライン702にサンプリングライン(図示せず)を接続して、サンプリングラインから緩衝溶液を定期的に取り出し、別の場所でpHの測定をするのがよい。なお、緩衝溶液のpHは安定しているため、基板処理システム1が通常運転状態にある場合には、高頻度でpHの監視を行う必要はない。また、抵抗率計715’またはpH計719による測定値をもとに、タンク701に供給するアンモニアの量をフィードバック制御してもよい。
【0052】
次に、上記実施形態の利点について説明する。
【0053】
図4は、純水にアンモニア水を添加することにより得た希アンモニア水中のアンモニア濃度とpHとの関係を示すグラフである。グラフの横軸のアンモニア濃度(mg/L)とは、純水1L当たりに添加した30%濃度のアンモニア水の重量(mg)を意味する。このグラフに示すように、中性に近づくに従ってアンモニア濃度の変化に対するpH変化がより急激になるので、pH7〜8程度の希アンモニア水を生成することが非常に困難であることがわかる。
【0054】
図5は、純水にアンモニア水を添加することにより得た希アンモニア水中のアンモニア濃度(mg/L)と抵抗率(MΩ・cm)との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、アンモニア濃度が低くなると、抵抗率が急激に上昇している。また、
図5のグラフを
図4のグラフと比較対照することにより、pHが9以下となるようなアンモニア濃度が低い条件では、低い抵抗率を達成することが非常に困難または不可能であることがわかる。
【0055】
なお、先に参照した
図11のグラフから明らかなように、中性に近づくに従って二酸化炭素ガス濃度の変化に対するpH変化がより急激となるので、pH5以上の所望の濃度の二酸化炭素溶解水を調整することが非常に困難であることがわかる。また、
図12のグラフから明らかなように、二酸化炭素ガス濃度が低くなると抵抗率が急激に上昇するので、pH5以上となるような二酸化炭素ガス濃度が低い条件では、低い抵抗率を達成することが非常に困難または不可能であることがわかる。
【0056】
図6は、pH10となるように純水にアンモニア水を添加することにより得た希アンモニア水に二酸化炭素ガスを溶け込ませたときの、二酸化炭素ガス添加量(mg/L))とpHとの関係を示すグラフである。グラフ横軸のCO2添加量とは、純水1L当たりにバブリングした二酸化炭素ガスの重量(mg)を意味する。比較的広い二酸化炭素ガス溶解量の範囲内で、7〜8程度のpHが得られていることがわかる。これは前述した緩衝溶液の特性である。
【0057】
図7は、pH10となるように純水にアンモニア水を添加することにより得た希アンモニア水に二酸化炭素ガスを溶け込ませたときの、二酸化炭素ガス添加量(mg)と抵抗率(MΩ・cm)との関係を示すグラフである。
図4及び
図5のグラフより、pH10の希アンモニア水中のアンモニア濃度は約10mg/Lであり、このときの希アンモニア水の抵抗率は約0.05MΩ・cmである。この状態の希アンモニア水に二酸化炭素ガスを添加してゆくと、
図6に示すようにpHはほぼ単調減少してゆくが、
図7に示すように抵抗率も減少し、二酸化炭素ガス未添加時の約0.05MΩ・cmよりも低い値に維持される。これは緩衝溶液に多くの電解質が含まれるためである。
【0058】
上記の実施形態によれば、抵抗率が低い微〜弱アルカリ性(pHが7〜8程度)の緩衝溶液を得ることができる。このため、アルカリにより侵される可能性のあるデバイス構成要素(例えば金属配線)が基板表面に露出している場合、デバイス構成要素の腐食を最小限にすることができる。さらに、デバイス構成要素の静電破壊を防止することができる。
しかも、純水にアンモニア水及び二酸化炭素ガスの一方を添加した後に他方を添加してゆく過程においては、添加量変化に伴うpH変化は鈍いため、アンモニア水または二酸化炭素ガスの添加量を厳しく(非常に精密に)管理する必要はない。純水にアンモニア水だけを添加した(二酸化炭素ガスを溶解しない)希アンモニア水のpHを中性付近で調整する際に必要とされる微小流量の超精密制御が不要となるので、高価な流量制御装置を用いる必要がなくなる。もちろん、二酸化炭素ガスの添加量とアンモニア水の添加量の比率を変更することにより、pHが8〜9程度の弱アルカリ性の緩衝溶液を得ることも可能であるし、pHが5〜7程度の微〜弱酸性の緩衝溶液を得ることも可能である。つまり、上記実施形態によれば、純水にアンモニア水だけを添加、あるいは純水に二酸化炭素ガスだけを添加することによっては製造が困難なpHが5〜9程度の溶液を容易に製造することができる。
【0059】
上記の実施形態では、まず、純水に二酸化炭素ガスを溶解して二酸化炭素溶解水を生成し、その後、この二酸化炭素溶解水にアンモニア水を添加することにより緩衝溶液を生成したが、これには限定されない。まず、純水にアンモニア水を添加して希アンモニア水を生成し、その後、この希アンモニア水に二酸化炭素ガスを溶解することにより緩衝溶液を生成してもよい。
【0060】
純水に二酸化炭素ガスを先に溶かす場合、まず、純水に二酸化炭素ガスを溶かすときに、得られた二酸化炭素溶解水の抵抗率が目標とする値となっているか否かを抵抗率計で確認する。目標とする二酸化炭素溶解水の抵抗率は、pHが5より小さい値、例えばpH4.9に対応する抵抗率とすることができる。その後、二酸化炭素溶解水にアンモニア水を添加して緩衝溶液を生成する。目標とする抵抗率とpHを有する緩衝溶液を得るために必要なアンモニア水の添加量は、実験により予め求めておく。そして、実際に緩衝溶液を生成するときには、アンモニア水の添加量は、その測定値に基づいてアンモニア水の総添加量を求めることが可能な機器、例えば流量計を用いて管理する。緩衝溶液の生成後、生成した緩衝溶液を実際にウエハWに供給する前に、この緩衝溶液の実際の抵抗率およびpHを、抵抗率計およびpH計を用いて測定する(確認する)。
【0061】
純水に二酸化炭素ガスを先に溶かす場合、二酸化炭素ガスの溶解量の管理を、インライン測定が容易な抵抗率計(あるいは導電率計)による抵抗率(あるいは導電率)の測定値に基づいて行うことができる。アンモニア水の添加量は、例えば流量計724の測定値の時間積分値により直接的(二酸化炭素ガス溶解量の測定のように抵抗率を介した間接的な測定ではなく、流量計724による液量の直接的な測定という意味において)かつ精確に測定することができる。
【0062】
なお、純水に二酸化炭素ガスを溶かすときに、pH計によるpH測定値に基づいて二酸化炭素ガスの溶解量を管理してもよい。あるいは、フローメーター等の二酸化炭素ガスの添加量自体を測定しうる測定機器を用いて、二酸化炭素ガスの溶解量を管理してもよい。
この場合、目標とする抵抗率あるいはpHを得るために必要な純水への二酸化炭素ガスの添加量は、実験により予め求めておく(
図11,
図12のグラフを参照)。
【0063】
なお、
図3の構成では、二酸化炭素ガスライン717を流れる二酸化炭素ガスの流量自体を管理する必要はなく、目標とする二酸化炭素溶解量を実現しうる二酸化炭素ガス流量制御機構718の初期設定をし、抵抗率計715の検出値に応じて二酸化炭素ガス流量制御機構718をフィードバック制御するだけ(流路を絞るか開くかを調整するだけ)でよい。
【0064】
純水にアンモニア水を先に溶かす場合、まず、予め定められた量のアンモニア水を純水に溶解する。アンモニア水の添加量は、その測定値に基づいてアンモニア水の総添加量を求めることが可能な機器、例えば流量計を用いて管理することができる。この場合、例えばpH9より大きな値、例えばpH10が得られるようなアンモニア水の添加量を予め実験により求めておけばよい。アンモニア水の添加量を予め定めておくことに代えて、抵抗率及びpHをモニタしながら、目標とする抵抗率及び目標とするpH(例えばpH10)が得られるまで、アンモニア水を純水に添加してもよい。その後、純水にアンモニア水を添加した希アンモニア水に、二酸化炭素ガスを溶かして緩衝溶液を生成する。このときには、抵抗率及びpHをモニタしながら、目標とする抵抗率または目標とするpHが得られるまで、二酸化炭素ガスを溶かし込む。
【0065】
純水にアンモニア水を先に溶かす場合、希アンモニア水に二酸化炭素ガスを溶かすときに、予め定められた量の二酸化炭素ガスを希アンモニア水中に溶かし込んでもよい。二酸化炭素ガスの純水中への溶解量は、二酸化炭素ガスライン717にフローメーターを設けて二酸化炭素ガスのバブリング量を測定し、かつ、バブリング量と実際の溶解量との関係を事前に把握しておくことにより、測定することが可能である。
【0066】
上記に代えて、二酸化炭素ガスライン717上における二酸化炭素ガス溶解モジュール714の一次側圧力を測定する圧力計(図示せず)を設けることにより、二酸化炭素ガスのバブリング量(純水への注入量)を推定(演算)することができる。すなわち、この圧力計による圧力測定値の時間積分値と二酸化炭素ガスのバブリング量(二酸化炭素ガスライン717を流れた二酸化炭素ガスの総流量)との関係を予め実験により求めておけば、圧力計の測定値に基づいて二酸化炭素ガスのバブリング量、ひいては二酸化炭素ガスの純水中への溶解量を演算により求めることができる。
【0067】
pH計を用いて緩衝溶液の組成管理を行うのであれば、純水に二酸化炭素ガスを先に溶かしても、アンモニア水を先に溶かしても構わない。但し、二酸化炭素ガスを先に溶かしてその後アンモニア水を添加する方が、緩衝溶液の組成管理を容易に行うことができる。
【0068】
処理流体供給源70の構成は、
図3に示したものに限定されるものではなく、例えば
図8に示すようなものであってもよい。すなわち、純水ライン712から二酸化炭素ガス溶解モジュール714を除去し、循環ライン702に二酸化炭素ガス溶解モジュール714を設けてもよい。
図8において、
図3と同じ構成要素に対しては同一の参照符号を付し、重複説明は省略する。
【0069】
図8に示す処理流体供給源70の運用の一例を以下に説明する。まず、タンク701に、純水ライン712から所定量の純水を供給するとともに、アンモニア水ライン722から所定量のアンモニア水を供給する。ポンプ703を駆動して、タンク701内の液(純水+アンモニア)を循環ライン702に循環させることにより、純水とアンモニア水を十分に混合し、希アンモニア水を生成する。その後、循環ライン702内における希アンモニア水の循環を継続しながら、二酸化炭素ガスライン717から二酸化炭素ガス溶解モジュール714に二酸化炭素ガスを供給し、希アンモニア水中に二酸化炭素ガスを溶解させて、緩衝溶液を生成する。この場合、循環ライン702に設けられた抵抗率計715’は、予め定められた量のアンモニア水が純水に添加されたことを確認するために用いることができる。
【0070】
図8に示す処理流体供給源70の運用の他の例を以下に説明する。まず、タンク701に、純水ライン712から所定量の純水を供給する。タンク701内の純水を循環ライン702に循環させながら、二酸化炭素ガスライン717から二酸化炭素ガス溶解モジュール714に二酸化炭素ガスを供給し、純水中に二酸化炭素ガスを溶解させ二酸化炭素溶解液を生成する。その後、二酸化炭素溶解液の循環を継続しながら、アンモニア水ライン722から所定量のアンモニア水をタンク701に供給する。循環ライン702内における液循環を継続することにより、二酸化炭素溶解液にアンモニア水が十分に混合され、緩衝溶液が生成される。この場合、循環ライン702に設けられた抵抗率計715’は、予め定められた量の二酸化炭素ガスが純水中に溶解したことを確認するために用いることができる。
【0071】
図3及び
図8の実施形態において、アンモニア水供給部720はタンク701にアンモニア水を供給しているが、これに限定されるものではなく、循環ライン702の適当な位置、例えば、
図8に符号720’で示すように、タンク701の下流側であってかつポンプの上流側にアンモニア水を供給するように設けてもよい。
【0072】
図3及び
図8の実施形態においては、処理流体供給源70はタンク701及び循環ライン702を備えたものであったが、これには限定されない。例えば
図9に概略的に示したように、二酸化炭素溶解水供給部710の二酸化炭素ガスライン717にアンモニア水供給部720のアンモニア水ライン722を合流させ、この合流部にて二酸化炭素溶解水とアンモニア水とを混合することにより生成された緩衝溶液を、直接的に、処理ユニット16に供給してもよい。この場合、二酸化炭素ガスライン717とアンモニア水ライン722との合流部あるいはその近傍に、混合を促進するミキシングバルブ(図示せず)を設けることが好ましい。なお、
図9の実施形態の場合には、アンモニア水供給部720から供給されるアンモニア水の濃度を比較的低く、例えば1%程度にすることが好ましい。
【0073】
処理ユニット16においては、例えば、
(工程1)基板保持機構30によりウエハWを水平に保持させた状態で鉛直軸線周りに回転させながら薬液供給源70’(
図3、
図8を参照)から供給される薬液を処理流体供給部40(例えばノズル)からウエハWに薬液を供給することにより行われる薬液洗浄処理またはウエットエッチング処理、
(工程2)引き続きウエハWを回転させながら処理流体供給部40(例えば別のノズル)から上記緩衝溶液をウエハに供給することにより行われるリンス処理、及び
(工程3)引き続きウエハWを回転させながらウエハWへの液の供給を止めることにより行われるスピン乾燥(振り切り乾燥)処理
が順次行われる。
【0074】
炭酸アンモニウム溶液を乾燥させると固体粉末となるので、工程(2)から工程(3)に直接移行すると、ウエハWから振り切られずにウエハW上に残留した緩衝溶液が乾燥することにより固体粉末が生成し、これがパーティクルとなる可能性がある。このパーティクルが問題となるのであれば、工程(2)と工程(3)の間に、(工程2.1)ウエハWを回転させながら処理流体供給部40(例えばさらに別のノズル)からウエハWに純水、若しくは希アンモニア水(例えばpH9〜10程度)を供給することにより行われるリンス処理を追加してもよい。純水、若しくは希アンモニア水(例えばpH9〜10程度)を供給するリンス処理は、緩衝液を供給するリンス処理よりも短い時間で行われることが好ましい。
【0075】
純水リンスを行った場合には、純水とウエハ表面との摩擦により静電破壊の原因となる帯電が生じる可能性がある。しかしながら、ウエハW上に残存している緩衝溶液から純水への置換が完全に終了したら直ちに純水リンスを停止すれば、問題となるレベルの帯電は回避することができる。
【0076】
上記の緩衝溶液は、ポリマーを除去するための薬液洗浄処理(薬液処理)の前処理として用いることができる。ここで、ポリマーとは、当業者に良く知られているように、半導体ウエハの表面に形成されたアルミニウム、銅、チタン、タングステン等の金属膜、あるいは、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、有機絶縁膜などを、レジスト膜をマスクとしてドライエッチングした際にウエハ表面に生じた反応生成物を意味している。このようなポリマーを除去するために用いられる薬液としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヒドロキシルアミン等の有機アルカリ液を含む液体、モノエタノールアミン、アルカノールアミン等の有機アミンを含む液体、フッ酸、燐酸等の無機酸を含む液体、フッ化アンモニウム系物質を含む液体などが例示される。
【0077】
上記の緩衝溶液をポリマー除去処理の前処理に使用する基板処理システムの構成を
図10に示す。
図10に示す基板処理システムは、
図3に示す基板処理システムが有する構成要素に加えて、タンク701にIPA(イソプロピルアルコール)等の溶剤を供給する溶剤供給部730と、各処理ユニット16に、リンス液を供給するリンス液供給部70”とを備えている。溶剤供給部730は、溶剤タンク731をタンク701に接続する溶剤ライン732と、溶剤ライン732に介設された開閉弁733および流量計734を有する。リンス液供給部70”が供給するリンス液は、前述した緩衝溶液であってもよい。
【0078】
図10に示す基板処理システムの運用について以下に説明する。処理流体供給源70において、先に説明した方法に従って所定の導電率および所定のpHを有する緩衝溶液を生成した後、溶剤供給部730からタンク701にIPAが供給される。IPAは、IPAと緩衝溶液の体積比率が1:1となるように供給され、両者は、タンク701および循環ライン702からなる循環系を流れる間に十分に混合される。
【0079】
処理ユニット16の表面に上記ドライエッチング後のポリマーが付着したウエハWが搬入され、ウエハWが基板保持機構30により保持される。ウエハWが回転させられ、この回転するウエハWの表面に上記のIPAと緩衝溶液との混合液が供給され、ポリマー除去処理の前処理工程が行われる。この混合液により、ウエハW表面に付着している分子レベルのサイズの残留ガス成分(例えば前工程のドライエッチングで用いられたフッ素系のガス)が混合液中の緩衝溶液成分により除去される。また、混合液中のIPAがポリマーに浸透し、ウエハW表面からポリマーが除去しやすくなる。
【0080】
次に、ウエハWを引き続き回転させながら、(混合液の供給を停止し)薬液供給部70’から薬液として上述したポリマー除去用の薬液をウエハWに供給して、ポリマー除去工程(薬液洗浄工程)を行う。前処理工程によりウエハWの表面から残留ガス成分が除去されるとともにポリマーにIPAが浸透しているため、ウエハW表面からポリマーを容易に除去することができる。
【0081】
次に、ウエハWを引き続き回転させながら、(ポリマー除去液の供給を停止し)リンス液供給部からリンス液として緩衝溶液(IPAを含まない)をウエハWに供給して、リンス工程を行う。なお、IPAと緩衝溶液との混合液をリンス液として用いることも可能である。
【0082】
次に、リンス液の供給を停止し、ウエハWを引き続き回転させながら、ウエハW上に残留するリンス液を振り切ることにより乾燥させる乾燥工程を行う。乾燥工程の前に、IPAをウエハWに供給して、ウエハW上のリンス液をIPAに置換する溶剤置換工程を実施してもよい。
【0083】
上記各実施形態では、処理対象の基板は半導体ウエハであったが、これに限定されるものではなく、他の基板、例えば液晶ディスプレイ用のガラス基板、セラミック基板等であってもよい。また、フォトレジストの現像処理後に行われるリンス処理において、上記緩衝溶液をリンス液として用いてもよい。