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特許6608775車載用周波数選択板および車載レーダシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608775
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】車載用周波数選択板および車載レーダシステム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20191111BHJP
   H01Q 1/32 20060101ALI20191111BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20191111BHJP
   G01S 13/93 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   H01Q15/14 B
   H01Q1/32 Z
   G01S7/03 246
   G01S7/03 240
   G01S13/93 220
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-145492(P2016-145492)
(22)【出願日】2016年7月25日
(65)【公開番号】特開2018-19136(P2018-19136A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】青木 豊
(72)【発明者】
【氏名】榊原 久二男
【審査官】 新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−104052(JP,A)
【文献】 特開2011−112942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
G01S 7/03
G01S 13/93
H01Q 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ波を送受するレーダ装置(10)、及び車体の外側面を構成する部材であって前記レーダ装置にて送受されるレーダ波が透過するように設けられた誘電体部材(2,3,4)、を有する車両(1)において、前記誘電体部材における、前記レーダ装置から送信された特定周波数帯域のレーダ波である送信波が入射する面に設置される、車載用周波数選択板であって、
面状に配列された特定形状の複数の導体素子(21〜24、51〜54、81〜83)を備え、
前記複数の導体素子のそれぞれは、前記送信波に対する前記誘電体部材に設置された状態の前記導体素子での反射係数を決定付けるパラメータであって前記導体素子の寸法を決定付けるパラメータである素子パラメータ(Lp、LWb)が、前記送信波の前記導体素子への入射角に基づき、その入射角で入射される前記送信波の前記反射係数が最小となるような値になるように形成されている、
車載用周波数選択板(20,50,70)。
【請求項2】
請求項1に記載の車載用周波数選択板であって、
前記複数の導体素子は、環状に形成されたループスロット(21c、22c、23c、24c)を有するループスロット型導体素子(21〜24、51〜54、81〜83)であり、
前記素子パラメータは、前記ループスロットの周方向の全長であるループ長(Lp)である、
車載用周波数選択板。
【請求項3】
請求項2に記載の車載用周波数選択板であって、
前記複数の導体素子のそれぞれは、前記ループスロットを形成する導体であって前記ループスロットに囲まれた導体である内部導体(21,22,23,24)における、前記レーダ波の入射面に平行な方向の寸法(LWb1,LWb2,LWb3,LWb4)が、前記送信波の前記入射角によって異なる値にされることによって、前記ループ長が前記入射角に応じた値となるように形成されている、
車載用周波数選択板。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の車載用周波数選択板であって、
前記複数の導体素子のそれぞれは、前記ループ長が、前記ループ長を前記入射角の二次関数で近似した演算式に基づいて算出される値に設定されている、
車載用周波数選択板。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車載用周波数選択板であって、
前記誘電体部材を第1の誘電体部材として、当該周波数選択板の両面のうち前記第1の誘電体部材に対向する面とは反対側の面に、第2の誘電体部材(110)が設けられている、
車載用周波数選択板。
【請求項6】
車両に搭載される車載レーダシステムであって、
レーダ波を送受するレーダ装置と、
前記車両の車体の外側面を構成する部材であって前記レーダ装置にて送受されるレーダ波が透過するように設けられた誘電体部材と、
前記誘電体部材における、前記レーダ装置から送信されたレーダ波である送信波が入射する表面に設置される周波数選択板と、
を有し、
前記周波数選択板は、
面状に配列された特定形状の複数の導体素子を備え、
前記複数の導体素子のそれぞれは、前記送信波に対する前記誘電体部材に設置された状態の前記導体素子での反射係数を決定付けるパラメータであって前記導体素子の寸法を決定付けるパラメータである素子パラメータが、前記送信波の前記導体素子への入射角に基づき、その入射角で入射される前記送信波の前記反射係数が最小となるような値になるように形成されている、
車載レーダシステム(7)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されるレーダ装置から車外へ向けて送信されるレーダ波が車体を構成する誘電体部材で反射するのを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波、マイクロ波のレーダ波を用いて車両周囲の監視を行うために、レーダ波の送受信を行うレーダ装置を、例えばバンパカバーの内側、フロントガラスの内側、樹脂ボディの内側などに取り付けることが求められている。しかし、バンパカバー等の誘電体部材は、レーダ波の反射率が高い。そのため、バンパカバー等の内側にレーダ装置を搭載した場合、バンパカバー等で反射されてレーダ装置に戻る不要なレーダ波の影響によって、車両周囲の物標に到達し反射してレーダ装置に戻ってくるレーダ波を検出することが困難になる可能性がある。
【0003】
これに対し、非特許文献1には、バンパカバーによるレーダ波の反射を抑制する技術として、バンパカバーの裏面に周波数選択板を設置する技術が開示されている。バンパカバー等の裏面に周波数選択板を設置することで、特定の方向(例えば周波数選択板の板面に対して垂直な方向)から入射するレーダ波に対して所望の周波数において反射係数を低減させることが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Frerk Fitzek,Ralph H.Rasshofer,Erwin M.Biebl、「Broadband matching of high-permittivity coatings with frequency selective surfaces」(独国)、Proceedings of the 6th German Microwave Conference、2011年3月14-16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、バンパカバー等は、部位によっては曲率を持つため、周波数選択板の設置場所がその曲率を持つ部位であると、周波数選択板に入射するレーダ波の入射角が、周波数選択板上の位置によって異なる状態になる場合がある。例えば、周波数選択板において、ある位置に対してはレーダ波が垂直に入射するものの他の位置に対しては斜めに入射する状態になる場合がある。
【0006】
曲率を持つ部位に限らず、平面上に周波数選択板が設置される場合であっても、周波数選択板とレーダ装置との位置関係やレーダ装置におけるレーダ波を送信する送信アンテナの構成などによっては、周波数選択板に対するレーダ波の入射角が周波数選択板内の位置によって異なる状態になる場合がある。
【0007】
本開示は、バンパカバー等の誘電体部材に設置された周波数選択板に対するレーダ波の入射角が周波数選択板上の位置によって異なっても、所望の周波数帯域のレーダ波に対する反射係数を効果的に低減できるようにする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の車載用周波数選択板(20,50,70)は、レーダ波を送受するレーダ装置(10)、及び車体の外側面を構成する部材であってレーダ装置にて送受されるレーダ波が透過するように設けられた誘電体部材(2,3,4)、を有する車両(1)において、誘電体部材における、レーダ装置から送信された特定周波数帯域のレーダ波である送信波が入射する面に設置される。
【0009】
本開示の車載用周波数選択板は、面状に配列された、特定形状の複数の導体素子(21〜24、51〜54、81〜83)を備える。複数の導体素子のそれぞれは、素子パラメータが、導体素子に対するレーダ装置からの送信波の入射角に基づき、その入射角で入射される送信波の反射係数が最小となるような値になるように形成されている。なお、ここでいう反射係数は、レーダ装置からの送信波に対する、誘電体部材に設置された状態の導体素子での反射係数である。また、素子パラメータは、その反射係数を決定付けるパラメータであり、且つ導体素子の寸法を決定付けるパラメータである。
【0010】
このような構成によれば、車載用周波数選択板が有する複数の導体素子がそれぞれ、当該導体素子の素子パラメータが当該導体素子への送信波の入射角に応じた値、即ちその入射角で入射される送信波の反射係数が最小となるような値になるように形成される。そのため、特定周波数帯域の送信波に対し、その入射角が導体素子によって異なっていても、個々の導体素子における反射係数を効果的に低減でき、ひいては車載用周波数選択板全体の反射係数を効果的に低減できる。
【0011】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の車両の斜視図である。
図2】第1実施形態のレーダシステムの概要を示す斜視図である。
図3】第1実施形態のレーダシステムを構成する構成要素の位置関係を示す説明図である。
図4】周波数選択板に入射するレーダ波の入射角が位置によって異なる態様を示す説明図である。
図5】第1実施形態の周波数選択板を示す説明図である。
図6】第1実施形態の周波数選択板が有する導体素子群の具体的構成を説明するための説明図である。
図7】入射角によって反射係数が最小となる周波数が異なることを示す説明図である。
図8】異なる入射角毎に導体素子における内部導体のX軸方向長さLWbの適値を演算するための、導体素子のシミュレーションモデルを示す説明図である。
図9図8のIX−IX断面図である。
図10】入射角が0度の場合の、送信波の周波数と反射係数の関係を示すシミュレーション結果である。
図11】入射角が15度の場合の、送信波の周波数と反射係数の関係を示すシミュレーション結果である。
図12】入射角が30度の場合の、送信波の周波数と反射係数の関係を示すシミュレーション結果である。
図13】入射角が45度の場合の、送信波の周波数と反射係数の関係を示すシミュレーション結果である。
図14】入射角が60度の場合の、送信波の周波数と反射係数の関係を示すシミュレーション結果である。
図15】入射角と、送信波の反射係数を最小にするLWbと、の関係が二次関数で近似できることを示す説明図である。
図16】第2実施形態の周波数選択板を示す説明図である。
図17】周波数選択板の変形例を示す説明図である。
図18】周波数選択板を構成する導体素子の他の形状の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[1.第1実施形態]
(1−1)レーダシステムの概要
図1に示すように、車両1は、バンパカバー2、フロントガラス3、ドアボディ4を備え、バンパカバー2の裏面側にレーダシステム7が搭載されている。バンパカバー2及びドアボディ4は樹脂製である。よって、車両1において、バンパカバー2、フロントガラス3、及びドアボディ4はいずれも、電気的に誘電体として機能する誘電体部材である。
【0014】
本開示におけるレーダシステムは、レーダ装置と、周波数選択板と、この周波数選択板が設置される誘電体部材とを備える。図1に示すレーダシステム7も、図2に示すように、レーダ装置10と、周波数選択板20と、誘電体部材としてのバンパカバー2とを備えている。
【0015】
なお、車両1におけるレーダシステムの搭載位置は特に限定されるものではなく、レーダシステムの搭載位置や搭載数は、使用目的に応じて適宜決めてもよい。例えば、レーダシステムをフロントガラス3の裏面側に搭載してもよい。この場合、周波数選択板は誘電体部材であるフロントガラス3の裏面に設置される。また例えば、レーダシステムをドアボディ4の裏面側に搭載してもよい。この場合、周波数選択板は誘電体部材であるドアボディ4の裏面に設置される。
【0016】
以下の説明では、図1に示すように、車両1の前方直進方向をZ軸方向、車両1の上下方向(即ち路面に垂直な方向)をY軸方向、車両1の左右方向をX軸方向として説明する。
【0017】
レーダ装置10は、特定周波数帯域のレーダ波を送信し、その送信したレーダ波が車外の物標に反射して帰ってくる反射波を受信することで、主に車両1の周囲に存在する物標を認識する。また、周波数選択板のことを、以下、「FSS」と略称することがある。「FSS」とは、「Frequency Selective Surface 」の略称である。
【0018】
レーダ装置10は、図2に示すように、ハウジング12と、レドーム11とを備える。 ハウジング12とレドーム11とにより形成される収容空間には、アンテナ部13と、レーダ本体14とが収容されている。
【0019】
アンテナ部13は、アンテナ基板と、このアンテナ基板に形成された送信アンテナ及び受信アンテナとを備える。レーダ本体14は、所定の送信タイミングでレーダ波をアンテナ部13の送信アンテナから送信させる。送信アンテナから送信されたレーダ波(以下、「送信波」とも称する)は、FSS20及びバンパカバー2を透過して車外に放射される。車外に放射された送信波が物標200に反射して車両1に戻ってきた場合、その反射波(以下、「物標反射波」とも称する)は、バンパカバー2及びFSS20を透過してアンテナ部13の受信アンテナで受信される。
【0020】
レーダ本体14は、アンテナ部13の受信アンテナで物標反射波が受信された場合、その物標受信波に対する各種信号処理を行って、物標200の認識を行う。レーダ本体14による物標200の検出結果は、車両1内における不図示の制御装置へ出力される。
【0021】
なお、レーダ本体14は、例えば、FM−CW(Frequency Modulation-Continuous Wave)方式にて物標200の検出を行う。また、レーダ本体14がアンテナ部13の送信アンテナから送信させる送信波は、特定の周波数帯域のレーダ波である。本実施形態の送信波は、例えば、周波数帯域が24.05GHz〜24.25GHzの帯域であって、中心周波数が24.15GHzである。
【0022】
FSS20は、バンパカバー2における表裏両面のうち裏面、即ち車両1の外部に面する外面とは反対側の面であってレーダ装置10と対向する面に設置されている。FSS20は、後述するように、面状に配列された特定形状の複数の導体素子を有する。各導体素子の形状は、本実施形態では、矩形ループスロット形状である。つまり、本実施形態の各導体素子は、矩形導体板に矩形環状のループスロットが形成された、ループスロット型の導体素子である。
【0023】
レーダシステム7を車両1の上部からY軸方向に見た場合、バンパカバー2、レーダ装置10及びFSS20の位置関係は、図3に示すようになる。なお、図3に破線で示すように、FSS20の両面のうちバンパカバー2に対向する面とは反対側の面に裏面誘電体110が設けられていてもよい。裏面誘電体110は、FSS20を物理的に支持する誘電体部材であるとともに、FSS20による反射抑制効果をより向上させることができる誘電体部材である。
【0024】
図2及び図3に示すような配置関係により、レーダ装置10からレーダ波が送信されると、その送信波は、FSS20及びバンパカバー2に入射し、これらを透過して車外へ放射される。
【0025】
FSS20は、レーダ装置10から送信された送信波がバンパカバー2で反射するのを抑制するために設けられる。ただし、送信波の反射を抑制する効果は、FSS20単独で得られるわけではなく、FSS20と、このFSS20が設置される誘電体部材(本実施形態ではバンパカバー2)とを少なくとも含む多層構造体によって得られる。なお、図3に破線で示す裏面誘電体110が設けられている場合は、FSS20とその両面側のバンパカバー2及び裏面誘電体110を含む三層の多層構造体によって、送信波の反射抑制効果が得られる。裏面誘電体110を設けることで、反射抑制効果を向上させることが可能となる。
【0026】
なお、FSS20に対してバンパカバー2とは反対側の面に誘電体部材を設ける場合、その誘電体部材は、図3に示した裏面誘電体110に限定されず、他の形状や物性のものであってもよい。例えば、レーダ装置10のレドーム11をFSS20に密着させることで、レドーム11を、三層の多層構造体における一層分の誘電体部材として機能させるようにしてもよい。
【0027】
ここで、FSS20を含む多層構造体による送信波の反射抑制の原理について、簡単に説明する。送信波の反射は、主に、物理的性質が異なる2つの媒質の境界面(以下、界面)における、その2つの媒質の屈折率の違いに起因して発生する。また、界面における屈折率の違いによって、送信波の位相シフトも生じる。
【0028】
例えば、自由空間中にバンパカバー2が単独で存在していてそのバンパカバー2に対して送信波が入射するケースを想定すると、送信波の反射ルートは主に2つである。即ち、バンパカバー2に到達してその到達面ですぐ反射する第1のルートと、到達面からその反対側の面までバンパカバー2内を通過してその反対側の面で反射して帰ってくる第2のルートである。第1のルートでは、位相シフトは1カ所で生じ、第2のルートでは、位相シフトは3カ所で生じる。
【0029】
FSSがなくバンパカバー2が単独で存在している場合は、上記2つのルートの反射波を効果的に相殺させることが困難である。
これに対し、バンパカバー2の裏面にFSSを設置すれば、送信波の反射率を低減することが可能となる。FSS以外での反射波をFSSでの反射波で相殺できるように、FSS以外での反射波の合成波に対してその合成波の逆位相の反射波がFSSで発生するように、FSSを構成することで、多層構造体全体として、送信波の反射係数を低く抑えることが可能となる。またその反射係数の低減効果は、多層構造体を三層構造とすることで二層構造よりも高めることが可能となる。
【0030】
(1−2)FSSの構成
FSS20の構成について説明する前に、FSS20に対するレーダ装置10からの送信波の入射角について、図4を用いて説明する。図4に示すパターンAは、バンパカバー2における平面状の領域にFSS20が設置されていて、Y軸方向から見た場合、即ちXZ面上においてはレーダ装置10の送信アンテナを等価的に点波源130とみなせる場合を例示している。図4に示すパターンBは、バンパカバー2における曲率を有する面の領域にFSS20が設置されていて、そのFSS20に対してレーダ装置10から一様な方向に送信波が入射される場合を例示している。
【0031】
パターンAでは、点波源130からの送信波は、FSS20全面に対して同じ入射角では入射されず、FSS20上の位置によって入射角が異なる。具体的に、パターンAでは、FSS20における位置P1においては、送信波の入射角は0度、つまり送信波が板面に対して垂直に入射されるが、位置P1から離れている位置P2、P3においては入射角が0度より大きいθ1となる。位置P1からの距離が位置P2、P3よりもさらに離れている位置P4、P5においては、入射角がθ1よりもさらに大きいθ2となる。
【0032】
パターンBでは、レーダ装置10からの送信波は一様な方向に伝搬されるものの、FSS20が設置されるバンパカバー2が曲率を有していることによってFSS20自体が全体としてそのバンパカバー2の曲率に沿って曲がった状態となっている。そのため、パターンBでは、FSS20の位置によって、送信波の入射角が異なる。
【0033】
FSS20は、特定形状の導体素子が複数配列された構成となっている。仮に、FSSとして、導体素子の寸法形状が全て同じもの(以下、「基本FSS」と称す)を用いた場合、図4に例示したように入射位置によって送信波の入射角が異なると、全体として所望の反射抑制効果が得られなくなる可能性がある。
【0034】
即ち、例えば基本FSSに対して送信波が一様に垂直に入射されるという前提のもとで、その垂直に入射される送信波の所望の周波数帯域での反射係数が最小値(例えば−20dB以下の値)となるように導体素子の寸法形状を決定したとする。この場合、基本FSSの全体に渡って前提条件の通りに送信波が一様に垂直に入射されれば、基本FSS全体として所望の周波数帯域の送信波の反射を効果的に抑えることができる。しかし、基本FSSに対して、図4に例示したように位置によって送信波の入射角が異なると、基本FSSを構成する各導体素子による反射抑制効果が、当該導体素子に対する送信波の入射角が大きくなるほど低減し、これにより基本FSS全体としての反射係数が大きく(例えば−20dBよりも大きく)なり、基本FSSの反射抑制効果が低減する。
【0035】
そこで、本実施形態のFSS20は、当該FSS20を構成する複数の導体素子を一律に同じ寸法形状とせず、送信波の入射角に応じた寸法形状としている。
図5に示すように、本実施形態のFSS20は、複数の導体素子21,22,23,24が面状に配列された構成となっている。なお、個々の導体素子21〜24は、それぞれ物理的に独立して配置されていてもよいし、一体的に形成されていてもよい。本実施形態では、一例として、個々の導体素子21〜24が物理的に切り離されておらず互いに繋がっていて一体的に形成されている例を示している。
【0036】
FSS20は、図5に示すように、X軸方向に一列に7個の導体素子が配列されてなる導体素子群が、Y軸方向に6個配列されて構成されている。個々の導体素子群は、第1導体素子21と、この第1導体素子21の両側に各々配置された2つの第2導体素子22と、各第2導体素子22にそれぞれ隣接して配置された2つの第3導体素子23と、各第3導体素子23にそれぞれ隣接して配置された2つの第4導体素子24と、を備える。
【0037】
各導体素子群は同じ構成であるため、1つの導体素子群に着目して、その導体素子群のより具体的な構成を図6を用いて説明する。なお、図6において、下段側に示す図は、導体素子群をZ軸方向に見た図であり、上段側に示す図は、導体素子群をY軸方向に見た図である。
【0038】
図6の下段に示すように、第1導体素子21は、矩形ループ状の外部導体21aと、この外部導体21aに囲まれるように配置される矩形状の内部導体21bとを有する。外部導体21aと内部導体21bとの間には、導体が存在しない矩形ループ状の領域であるループスロット21cが存在している。外部導体21aの中心、内部導体21bの中心、及びループスロット21cの中心点は、いずれも同じ位置である。つまり、これら3者はいずれも、共通の中心点を通りX軸に平行な線を対称軸として線対称であり、共通の中心点を通りY軸に平行な線を対称軸としても線対称であり、共通の中心点を対称の中心として点対称でもある。
【0039】
他の第2導体素子22、第3導体素子23及び第4導体素子24も、X軸方向の一部寸法を除き、第1導体素子21と同じ形状、寸法である。即ち、第2導体素子22は、外部導体22aと、内部導体22bと、ループスロット22cとを有する。第3導体素子23は、外部導体23aと、内部導体23bと、ループスロット23cとを有する。第4導体素子24は、外部導体24aと、内部導体24bと、ループスロット24cとを有する。
【0040】
各外部導体21a,22a,23a,24aにおいて、周方向に垂直な方向の幅である導体幅はいずれも同じWaである。各ループスロット21c,22c,23c,24cにおいて、周方向に垂直な方向の幅であるループ幅はいずれも同じWbである。各内部導体21b,22b,23b,24bにおいて、Y軸方向の長さはいずれも同じLHbである。各外部導体21a,22a,23a,24aにおいてもY軸方向の長さはいずれも同じで値、即ち、LHb+2・Wb+2・Waである。
【0041】
一方、各内部導体21b,22b,23b,24bにおいて、X軸方向の長さはそれぞれ異なる。即ち、第1導体素子21の内部導体21bのX軸方向長さはLWb1である。第2導体素子22の内部導体22bのX軸方向長さは、LWb1よりも長いLWb2である。第3導体素子23の内部導体23bのX軸方向長さは、LWb2よりも長いLWb3である。第4導体素子24の内部導体24bのX軸方向長さは、LWb3よりも長いLWb4である。各内部導体のX軸方向の長さが上記のように異なるため、各外部導体21a,22a,23a,24aのX軸方向長さも異なり、また、各ループスロット21c,22c,23c,24cのループ長も異なる。
【0042】
即ち、第1導体素子21の外部導体21aのX軸方向長さはLWa1である。第2導体素子22の外部導体22aのX軸方向長さは、LWa1よりも長いLWa2である。第3導体素子23の外部導体23aのX軸方向長さは、LWa2よりも長いLWa3である。第4導体素子24の外部導体24aのX軸方向長さは、LWa3よりも長いLWa4である。
【0043】
また、第1ループスロット21cのループ長はLp1(=2・LWb1+2・LHb+4・Wb)である。第2ループスロット22cのループ長は、Lp1よりも長いLp2(=2・LWb2+2・LHb+4・Wb)である。第3ループスロット23cのループ長は、Lp2よりも長いLp3(=2・LWb3+2・LHb+4・Wb)である。第4ループスロット24cのループ長は、Lp3よりも長いLp4(=2・LWb4+2・LHb+4・Wb)である。
【0044】
このように、1つの導体素子群が有する4種類の導体素子21,22,23,24は、各々のループスロットのループ長が異なっている。より具体的には、導体素子を構成する内部導体のX軸方向の長さLWbが異なっている。LWbは、送信波の入射面に平行な方向の寸法である。
【0045】
ループスロット型の導体素子において、ループ長は、電気的に重要な意味を持つ。即ち、ある一定方向から入射される送信波に対する反射係数が、ループスロットのループ長に応じて異なる。つまり、ループスロットのループ長は、導体素子の寸法を決定付けるパラメータであって、且つ、多層構造体の状態における当該導体素子の設置領域での反射係数を決定付けるパラメータである、素子パラメータである。なお、以下の説明で、FSSあるいはこれを構成する導体素子について、反射或いは反射係数というときは、特にことわりのない限り、少なくとも車外側の面に誘電体部材が配置された前述の多層構造体の状態になっていることを前提としているものとする。
【0046】
図6の下段に示すように4種類の導体素子21〜24のループスロットのループ長を異なる値にしている理由は、これら4種類の導体素子21〜24に入射する送信波の周波数帯域は同じであるものの、入射角が異なるからである。本願発明者は、後述するように、特定周波数帯域の送信波の反射係数が最小となるループ長(以下、「最小反射ループ長」と称す)は送信波の入射角によって異なり、入射角が大きいほど最小反射ループ長も大きくなる、という知見を得た。その知見に基づき、4種類の導体素子21〜24のループスロットのループ長は、送信波の入射角に応じて異なる値、より具体的には入射角に対応した最小反射ループ長にされている。
【0047】
本実施形態では、レーダ装置10の送信アンテナを、等価的に点波源がY軸方向に一列に複数配列されたもの、即ちY軸方向に並んだアレイ状の点波源とみなせ、各導体素子21〜24への送信波の入射面はいずれもXZ面に平行な面であるものとみなせる。即ち、FSS20に入射する送信波の入射角は、Y軸方向においては位置によらず同じ角度である。一方、X軸方向においては、位置によって入射角が異なる。
【0048】
具体的に、図6の上段に示すように、第1導体素子21に対しては入射角0度で送信波が入射する。これに対し、第2導体素子22に対しては、入射角θ1で送信波が入射する。第3導体素子23に対しては、θ1よりも大きい入射角θ2で送信波が入射する。第4導体素子24に対しては、θ2よりも大きい入射角θ3で送信波が入射する。そのため、第1導体素子21、第2導体素子22、第3導体素子23、第4導体素子24、の順に、各々のループスロットのループ長が長くなっている。
【0049】
なお、送信波の入射角は、1つの導体素子においても、細かく見れば場所によって異なるが、本実施形態では、設計の簡素化のため、1つの導体素子に対する入射角を同じ値とみなしている。本実施形態では、図6の上段に示すように、導体素子毎に、その導体素子の中心点に入射する送信波の入射角を、当該導体素子への送信波の入射角と規定して、各々のループ長を設計している。
【0050】
(1−3)入射角と最小反射ループ長との関係について
入射角に応じたループスロットのループ長の導出方法について説明する。まず、送信波の入射角によって反射係数の周波数特定が変化することについて説明する。前提として、24.15GHzを中心周波数とする特定周波数帯域の送信波が垂直に入射する場合、即ち入射角が0度の場合に、その送信波の反射係数が最小となるような導体素子を有するFSSを想定する。このFSSにおける、送信波の周波数をスイープさせた場合の反射係数のシミュレーション結果を、図7に示す。図7は、異なる複数種類の入射角毎に、周波数と反射係数との関係が示されている。
【0051】
図7に示すように、入射角が0度の場合は、送信波の周波数帯域と同じ帯域において反射係数が20dBを下回る値となる。これに対し、入射角が大きくなるほど、反射係数が最小となる周波数(以下、「最小反射周波数」と称す)が高周波側にシフトしていく。
【0052】
図7のシミュレーション結果が得られた原因として、1つの仮説を立てることができる。それは、入射角が大きくなるほど、入射方向からみたループスロットのループ長が短く見えるということである。この仮説から、入射角に応じて実際のループ長を変えれば、入射角によらず最小反射周波数を同じ特定周波数帯域にできることが予想される。
【0053】
この予想に基づき、導体素子のループ長と反射係数との関係を異なる入射角毎にシミュレーションした結果を、図10図14に示す。シミュレーションの前提条件、即ちシミュレーションのモデルとなる導体素子150を図8及び図9に示す。図8及び図9に示すように、導体素子150は誘電体部材2に設けられており、導体素子150に対して入射面Swに沿って送信波が一様な入射角θで入射するものとする。
【0054】
誘電体部材2は、導体素子が設置される実際の車両1の誘電体部材2を想定し、その実際の誘電体部材2と同じ物性、寸法とする。導体素子150の外形は図5図6に示した本実施形態のFSS20の各導体素子21〜24と同じであり、矩形状の外部導体150aと、矩形状の内部導体150bと、矩形ループ状のループスロット150cとを有する。これらの寸法も、LWbを除き、基本的に本実施形態のFSS20と同じである。
【0055】
ループスロット150cのループ長Lpを変化させる具体的態様として、ここでは、内部導体150bのX軸方向の長さ、即ち送信波の入射面に平行な方向の長さLWbを変化させる。導体素子150のループ長Lpは、2・LWb+2・LHb+4・Wb、で表せる。よって、LWbを変化させると必然的にループ長Lpも変化することになる。
【0056】
図10に示すように、入射角θが0度の場合、即ち送信波が垂直に入射する場合は、特定周波数帯域の中心周波数である24.15GHzで反射係数が最小となるようなLWbは、約2.49mmである。
【0057】
入射角θが15度の場合は、図11に示すように、特定周波数帯域の中心周波数である24.15GHzで反射係数が最小となるようなLWbは、約2.55mmである。
入射角θが30度の場合は、図12に示すように、特定周波数帯域の中心周波数である24.15GHzで反射係数が最小となるようなLWbは、約2.75mmである。
【0058】
入射角θが45度の場合は、図13に示すように、特定周波数帯域の中心周波数である24.15GHzで反射係数が最小となるようなLWbは、約2.98mmである。
入射角θが60度の場合は、図14に示すように、特定周波数帯域の中心周波数である24.15GHzで反射係数が最小となるようなLWbは、約3.16mmである。
【0059】
図10図14のシミュレーション結果、入射角θと、24.15GHzの送信波の反射係数が最小となるようなLWbとの関係は、図15に示す関係となる。この関係は、例えば二次関数で近似することができる。具体的に、24.15GHzの送信波の反射係数が最小となるようなLWbは、図15にも示しているように、次式(1)で表せる。
LWb=9・10−5・θ+0.0067・θ+2.4706 ・・・(1)
このように、FSS20において、特定の周波数の送信波の反射係数が最小となるようなLWbと入射角θとの関係は、一般に、次式(2)のように二次関数で表すことができる。
LWb=a・θ+b・θ+c ・・・(2)
なお、式2において、a,b,cは、多層構造体全体の形状や寸法、物性などによって定まる定数であり、例えば上述のようなシミュレーションや実測などによって得ることができる。上記式(2)の関係を求めることで、入射角θに応じた最適なLWbを算出することができる。これは即ち、入射角θに応じた最適なループ長Lpを算出することができるということを意味する。
【0060】
つまり、特定の周波数の送信波の反射係数が最小となるようなループ長Lpと入射角θとの関係を、次式(3)で表すことができる。
Lp=2・LWb+2・LHb+4・Wb
=2・(a・θ+b・θ+c)+2・LHb+4・Wb ・・・(3)
図6に示した各導体素子21〜24のそれぞれのLWbも、前述の要領で、予め車両1に実装された状態での入射角θとLWbとの関係を二次関数で近似し、その二次関数に基づいて導出されたものである。
【0061】
このようにLWbが導出されることで、結果として、導体素子毎に、当該導体素子への送信波の入射角θに応じた最適なループ長Lpが算出されることになる。よって、導体素子毎に、その算出された最適なループ長Lpを持つループスロットを形成することで、反射係数を低く抑えることができる。
【0062】
つまり、導体素子それぞれ、ループスロットを一律に同じ形状にすることは必須ではなく、ループ長Lpが入射角に応じた適切な値である限り、ループスロットの具体的形状は適宜決めてもよい。例えば、ある導体素子のループスロットは本実施形態のように矩形ループであるものの、別の導体素子のループスロットは、例えば5角以上の多角形ループあるいは円環状ループであってもよい。
【0063】
(1−4)第1実施形態の効果
以上説明した第1実施形態によれば、以下の(1a)〜(1d)の効果を奏する。
(1a)FSS20が有する複数の導体素子21〜24がそれぞれ、当該導体素子のループスロットのループ長Lpが当該導体素子への送信波の入射角θに応じた値、即ちその入射角θで入射される特定周波数帯域の送信波の反射係数が最小となるような値になるように形成される。
【0064】
より具体的には、ループ長Lpを決定付けるパラメータの1つである、内部導体のX軸方向の長さLWbについて、そのLWbを、送信波の入射角θに応じた値としている。
そのため、特定周波数帯域の送信波に対し、その入射角が導体素子によって異なっていても、個々の導体素子における反射係数を効果的に低減でき、ひいてはFSS20全体の反射係数を効果的に低減できる。
【0065】
(1b)導体素子での反射係数を決定付け且つ導体素子の寸法を決定付ける各種パラメータのうち、本実施形態では特に、ループスロットのループ長Lpに着目し、そのループ長Lpを入射角θに応じて変化させている。より具体的には、前述のようにLWbパラメータとして、このLWbを入射角θに応じて変化させることで、入射角θに応じたループ長Lpの変化を実現している。そのため、各導体素子を、入射角θに応じた寸法形状に容易に形成することができる。
【0066】
(1c)入射角θに応じて変化させるパラメータであるLWbは、導体素子を構成する内部導体における、送信波の入射面に平行な方向の寸法である。つまり、入射角が異なると見かけ上の長さも変わってしまう部位の寸法である。そのため、このように入射角によって見かけ上の長さが変わってしまうような部位の寸法を入射角に応じて適切に設定することで、より効果的に反射係数を低減できる。
【0067】
(1d)本実施形態では、入射角θと、特定周波数帯域の送信波に対する反射係数が最小となるようなLWbとの関係を、予め二次関数で近似し、その二次関数に基づいて、導体素子毎にその導体素子への入射角θに応じた適切なLWbが設定される。そのため、反射係数を効果的に抑制可能なFSS20を容易に設計することができる。
【0068】
(1−5)特許請求の範囲の文言との対応関係
ここで、第1実施形態の文言と特許請求の範囲の文言との対応関係について説明する。図3において、バンパカバー2が第1の誘電体部材の一例に相当し、裏面誘電体110が第2の誘電体部材の一例に相当する。
【0069】
[2.第2実施形態]
FSSについて、図5に示した第1実施形態のFSS20とは異なる構成の一例を、図16に示す。
【0070】
図16に示すFSS50は、第1実施形態のFSS20と同様、X軸方向に一列に7個の導体素子が配列されてなる導体素子群が、Y軸方向に6個配列されて構成されている。個々の導体素子群は、第1導体素子51と、この第1導体素子51の両側に各々配置された2つの第2導体素子52と、各第2導体素子52にそれぞれ隣接して配置された2つの第3導体素子53と、各第3導体素子53にそれぞれ隣接して配置された2つの第4導体素子54と、を備える。
【0071】
各導体素子51〜54は、いずれも、第1実施形態と全く同様、矩形ループスロット型の形状である。各導体素子51〜54が有する各内部導体のY軸方向の長さは、いずれも、第1実施形態と同じくLHbである。また、各導体素子51〜54のY軸方向の長さも、第1実施形態と同じ長さ、即ち、LHb+2・Wb+2・Waである。
【0072】
また、第1導体素子51が有するループスロットのループ長は、第1実施形態のFSS20における第1導体素子21のループ長と同じである。第2導体素子52が有するループスロットのループ長も、第1実施形態のFSS20における第2導体素子22のループ長と同じである。第3導体素子53が有するループスロットのループ長も、第1実施形態のFSS20における第3導体素子23のループ長と同じである。第4導体素子54が有するループスロットのループ長も、第1実施形態のFSS20における第4導体素子24のループ長と同じである。なお、ループスロットのループ幅は、各導体素子51〜54いずれも、第1実施形態と同じくWbである。
【0073】
そして、図16に示すFSS50が第1実施形態のFSS20と異なるのは、各導体素子のX軸方向の長さ、つまり外部導体のX軸方向の長さである。本第2実施形態では、各導体素子51〜54のX軸方向の長さは、全て同じ値である。本第2実施形態では、各導体素子51〜54のX軸方向の長さは全て同じ値にしつつ、その内部におけるループスロットのループ長については第1実施形態と全く同じように送信波の入射角に応じた値にされている。
【0074】
このように構成された第2実施形態のFSS50によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を奏する。
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0075】
(3−1)上記実施形態では、レーダ装置10の送信アンテナを等価的に点波源がY軸方向に一列に複数配列されたもの、即ちY軸方向に並んだアレイ状の点波源とみなせる場合のFSS20の構成例を示したが、このような送信アンテナの構成はあくまでも一例である。
【0076】
送信アンテナの構成及びFSSの設置面の形状によって、FSSに入射する送信波の入射角は必ずしも一様にならず、FSS内の位置によって入射角が異なる状況が発生し得る。また、FSS内の位置によって入射角がどのように異なるかについても、送信アンテナの構成及びFSSの設置面の形状によって種々の態様が生じ得る。
【0077】
このような様々な態様に対して、本開示の技術を適用して、各導体素子のループスロットのループ長を入射角に応じた適切な長さ、即ち送信波の反射係数が最小となるような長さに設定することができる。
【0078】
例えば、FSSの中心の導体素子の直上に1つの点波源が存在しているとみなせる場合は、そのFSS中心の導体素子に対する入射角は0度であるが、それ以外の各導体素子への入射角は0度ではなく、中心の導体素子よりも端側の導体素子ほど入射角が大きくなる。
【0079】
このような場合、図17に例示するFSS70のように、ループスロットにおけるX軸方向の長さを、X軸方向中心の導体素子を最も短くして、その中心の導体素子からX軸方向両端に近付くに従って長くしていき、且つ、ループスロットにおけるY軸方向の長さも、Y軸方向中心の導体素子を最も短くして、その中心の同隊素子からY軸方向両端に近付くに従って長くしていくようにしてもよい。
【0080】
このようにすることで、FSS70の中心から端に行くに従って入射角が大きくなることによる、反射係数が最小となる周波数の高周波側へのシフトが補正され、各導体素子それぞれにおいて、同じ特定周波数帯域の送信波に対する反射係数を極小化することができる。
【0081】
(3−2)上記実施形態では、各導体素子のパラメータのうち、内部導体のX軸方向の長さ、即ち入射面に平行な方向の長さLWbについて、入射角θに対するLWbを二次関数で近似したが、他のパラメータを入射角θに対する二次関数で近似して、そのパラメータを入射角θに応じた値とするようにしてもよい。
【0082】
例えば、ループ長Lp全体を、入射角θに対する次式(4)の二次関数で近似してもよい。なお、g、h、kは定数である。
Lp=g・θ+h・θ+k ・・・(4)
そして、入射角θに応じて上記式(4)で算出されるLpをループ長とするような導体素子を形成してもよい。
【0083】
また、ループスロットの形状は、必ずしも一律に矩形状とする必要はなく、例えば円環状のループスロットであってもよいし、3角形状あるいは5角以上の多角形状のループスロットであってもよい。
【0084】
ループスロットが円環状である場合も、例えば図18に示すように、入射角θが大きいほどループスロットのループ長が大きくなる。図18は、レーダ装置10の送信アンテナを第1実施形態と同様に等価的に点波源がY軸方向に一列に複数配列されたもの、即ちY軸方向に並んだアレイ状の点波源とみなせる場合における、FSSを構成する1つの導体素子群を示している。送信波の入射面はXZ面に平行な面である。
【0085】
図18において、第1導体素子81に対する送信波の入射角θは0度である。これに対し、第1導体素子81の両側に位置している2つの第2導体素子82に対する送信波の入射角θは、いずれも、0度より大きいθ1である。また、各第2導体素子82に隣接する2つの第3導体素子83に対する送信波の入射角θは、いずれも、θ1より大きいθ2である。よって、第1導体素子81のループ長に比べて第2導体素子82のループ長の方が長く、第2導体素子82のループ長よりも第3導体素子83のループ長の方がさらに長い。なお、図18において、各導体素子81,82,83の各ループスロットのY軸方向の長さは等しい。
【0086】
(3−3)FSSを構成する導体素子の数や配列方法は適宜決めてもよい。導体素子の形状についても、ループスロット型であることはあくまで一例であり、ループスロット型とは異なる形状の導体素子であってもよい。
【0087】
(3−4)レーダ装置10から送信される送信波の周波数帯域は、上記実施形態に示した帯域に限定されず、他の周波数帯域であってもよい。
(3−5)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0088】
1…車両、2…バンパカバー、3…フロントガラス、4…ドアボディ、7…レーダシステム、10…レーダ装置、11…レドーム、13…アンテナ部、20,50,70…周波数選択板、21〜24,51〜54,81〜83,150…導体素子、21…第1導体素子、21a,22a,23a,24a,150a…外部導体、21b,22b,23b,24b,150b…内部導体、21c,22c,23c,24c,150c…ループスロット、110…裏面誘電体、130…点波源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18