(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及び酸素を電気化学的に反応させて電力を得る。燃料電池の発電に伴って生じる生成物は、原理的に水のみである。それ故、地球環境への負荷がほとんどない、クリーンな発電システムとして注目されている。
【0003】
燃料電池は、アノード(燃料極)側に水素を含む燃料ガスを、カソード(空気極)側に酸素を含む酸化ガスを、それぞれ供給することにより、起電力を得る。ここで、アノード側では下記の(1)式に示す酸化反応が、カソード側では下記の(2)式に示す還元反応が進行し、全体として(3)式に示す反応が進行して外部回路に起電力を供給する。
H
2→2H
++2e
- (1)
(1/2)O
2+2H
++2e
-→H
2O (2)
H
2+(1/2)O
2→H
2O (3)
【0004】
燃料電池は、電解質の種類によって、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)及び固体酸化物型(SOFC)等に分類される。このうち、PEFC及びPAFCにおいては、カーボン担体等の導電性の担体と、該導電性の担体に担持された白金又は白金合金等の触媒活性を有する触媒金属の粒子(以下、「触媒粒子」とも記載する)とを有する電極触媒を使用することが一般的である。
【0005】
電極触媒に使用されるカーボン担体は、通常は、触媒粒子の担持密度を高めるために高比表面積を有する。高比表面積を有するカーボン担体としては、多数の細孔を有するカーボン担体を挙げることができる。
【0006】
例えば、特許文献1は、触媒と、前記触媒を担持する多孔質担体と、高分子電解質とを含み、前記多孔質担体の平均粒子径が20〜100 nmであり、前記多孔質担体の空孔直径4〜20nmの空孔容積が0.23〜0.78 cm
3/gであり、前記多孔質担体の空孔分布のモード径が4〜20 nmである、燃料電池用電極触媒層を記載する。当該文献は、多孔質担体の一次空孔が従来の多孔質担体よりも広く浅く形成されていることを記載する。当該文献は、一次空孔内に触媒が担持されることにより、一次空孔内に存在する触媒表面への高分子電解質の吸着が防止され、触媒の有効反応表面積の低下を防止し得ると記載する。
【0007】
特許文献2は、炭素を含む棒状体又は環状体が枝分かれしてなり、BET比表面積が870m
2/g以上であることを特徴とする、樹状の炭素ナノ構造体を記載する。当該文献はまた、金属又は金属塩を含む溶液を準備する工程と、前記溶液に対して超音波を印加した状態でアセチレンガスを吹き込み、前記金属及び炭素を含む樹状結晶体を作製する工程と、前記樹状結晶体に第1の加熱処理を施して前記樹状結晶体中の前記金属を偏析させ、前記炭素を含む棒状体または環状体が枝分かれしてなる樹状の炭素ナノ構造体中に、前記金属が内包されてなる金属内包樹状炭素ナノ構造物を作製する工程と、前記金属内包樹状炭素ナノ構造物に対して第2の加熱処理を施して、前記金属内包樹状炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させる工程と、を具えることを特徴とする、炭素ナノ構造体の作製方法を記載する。
【0008】
特許文献3は、多孔質炭素材料であって、吸着過程の窒素吸着等温線をDollimore-Heal法で解析して求められた細孔径2〜50 nmのメソ孔の比表面積S
Aが600 m
2/g以上1600 m
2/g以下であり、且つラマン分光スペクトルにおけるG’-バンド2650〜2700 cm
-1の範囲に存在するピーク強度(IG’)とG-バンド1550〜1650 cm
-1の範囲に存在するピークのピーク強度(IG)との相対的強度比(IG’/IG)が0.8〜2.2であるとともに、G’-バンドのピーク位置が2660〜2670 cm
-1であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用担体炭素材料を記載する。当該文献は、金属又は金属塩を含む溶液中にアセチレンガスを吹き込み、金属アセチリドを生成させるアセチリド生成工程と、前記金属アセチリドを加熱し金属粒子を内包した金属粒子内包中間体を作製する第1の加熱処理工程と、前記金属粒子内包中間体を圧密成形し、得られた成形体を昇温して加熱し、前記金属粒子内包中間体から金属粒子を噴出させて炭素材料中間体を得る第2の加熱処理工程と、前記第2の加熱処理工程で得られた炭素材料中間体を熱濃硝酸又は濃硫酸と接触させ、炭素材料中間体を清浄化する清浄処理工程と、前記清浄処理工程で清浄化された炭素材料中間体を加熱し、担体炭素材料を得る第3の加熱処理工程とからなる、前記固体高分子形燃料電池用担体炭素材料の製造方法を記載する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
多数の細孔を有するカーボン担体は、触媒粒子を高担持密度で担持した燃料電池用電極触媒を得るために有用である。しかしながら、このようなカーボン担体を用いる従来技術の燃料電池用電極触媒には性能向上の余地が存在した。
【0011】
例えば、特許文献1に記載の燃料電池用担持触媒の場合、多孔質担体の一次空孔が従来の多孔質担体よりも広く浅く、洞窟形状に形成されている。このため、特許文献1に記載の燃料電池用担持触媒においては、多数の触媒粒子が洞窟形状の一次空孔の内部に担持される。このような構造により、一次空孔内に存在する触媒粒子が高分子電解質によって被覆されることを防止し得る。他方、特許文献1に記載の燃料電池用担持触媒の場合、カーボン担体の一次空孔内に酸素及び/又は水素が到達し難いため、結果として得られる燃料電池のガス拡散抵抗が増大する可能性がある。この場合、電極に過電圧が発生して、燃料電池の性能が低下する可能性がある。
【0012】
それ故、本発明は、燃料電池用電極触媒において、カーボン担体内部のガス流通を向上させ、燃料電池のガス拡散抵抗の増大を実質的に防止する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、特許文献2に記載の炭素ナノ構造体の作製方法又は特許文献3に記載の多孔質炭素材料の製造方法において、金属内包樹状炭素ナノ構造物又は金属粒子内包中間体の加熱処理条件を最適化することにより、所定の細孔直径及び細孔容積を有する1個以上の細孔が所定の範囲内で形成されたカーボン担体を得て、該1個以上の細孔の内部に所定の割合の触媒粒子を担持できることを見出した。また、本発明者らは、前記電極触媒を用いて得られる燃料電池は、質量活性を維持しつつ、低いガス拡散抵抗を有することを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 細孔を有するカーボン担体と、該カーボン担体に担持された白金又は白金合金を含有する触媒粒子とを含む燃料電池用電極触媒であって、該電極触媒の細孔が、2〜5 nmの範囲の細孔のモード径を有し、該電極触媒の細孔において2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔容積が、0.4 cm
3/g以上であり、該触媒粒子が2〜5 nmの範囲の白金の(220)面の結晶子径を有し、触媒粒子の担持密度が総質量に対して10〜50質量%の範囲である、燃料電池用電極触媒。
(2) 電極触媒の細孔において、2〜50 nmの範囲の細孔直径の細孔容積に対する2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔容積の比が0.55以上である、前記(1)に記載の燃料電池用電極触媒。
(3) 前記(1)又は(2)に記載の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池。
(4) 前記(1)又は(2)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
金属又はその塩を含有する金属含有溶液を準備する、金属含有溶液準備工程;
金属含有溶液とアセチレンガスとを混合して金属アセチリドを形成させる、金属アセチリド形成工程;
金属アセチリドを40〜80℃の範囲の温度で加熱処理して金属粒子内包中間体を形成させる、第一加熱処理工程;
金属粒子内包中間体を5〜50℃/分の範囲の昇温速度で100〜200℃の範囲の温度まで昇温しながら加熱処理して金属粒子内包中間体に内包される金属を噴出させて、細孔を有するカーボン担体を得る、第二加熱処理工程;
第二加熱処理工程によって得られたカーボン担体と、触媒金属の塩を含有する触媒金属材料とを反応させて、該カーボン担体に触媒金属材料を担持させる、触媒金属塩担持工程;
触媒金属塩担持工程によって得られたカーボン担体に担持された触媒金属材料に含有される触媒金属の塩を還元して金属形態の白金又は白金合金を形成させる、触媒粒子形成工程;
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、燃料電池用電極触媒において、カーボン担体内部のガス流通を向上させ、燃料電池のガス拡散抵抗の増大を実質的に防止する手段を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0018】
<1. 燃料電池用電極触媒>
本発明は、燃料電池用電極触媒に関する。本発明の燃料電池用電極触媒は、カーボン担体と、該カーボン担体に担持された触媒粒子とを含むことが必要である。
【0019】
従来、燃料電池用電極触媒において、触媒粒子を高分散且つ高担持密度で担持することによって活性を向上することを目的として、高比表面積を有するカーボン担体が使用された。高比表面積を有するカーボン担体としては、多数の細孔を有する多孔質のカーボン担体を挙げることができる。このような電極触媒の場合、カーボン担体上の細孔の内部に触媒粒子が担持される構造により、該電極触媒を高分子電解質(以下、「アイオノマ」とも記載する)で被覆する際に細孔の内部に存在する触媒粒子がアイオノマによって被覆されることを防止して、触媒粒子の有効反応表面積の低下を回避し得る(例えば、特許文献1)。他方、このような構造を有する電極触媒の場合、細孔の内部に酸素及び/又は水素ガスが到達し難いため、結果として得られる燃料電池のガス拡散抵抗が高くなる可能性がある。この場合、電極に過電圧が発生して、燃料電池の性能が低下する可能性がある。
【0020】
多孔質のカーボン担体の製造方法としては、特許文献2に記載の炭素ナノ構造体の作製方法又は特許文献3に記載の多孔質炭素材料の製造方法を挙げることができる。当該文献に記載の方法においては、中間体の内部に予め導入された金属を加熱処理によって噴出させることにより、多孔質の炭素材料を得ることができる。
【0021】
燃料電池用電極触媒において、触媒粒子の平均粒子径は、通常は約3 nmであり、該電極触媒を被覆するアイオノマの平均厚さは、通常は約5 nmである。それ故、カーボン担体上の細孔の内部に触媒粒子が高密度で担持されており、且つ細孔の内部の触媒粒子がアイオノマによって被覆されることを実質的に防止し得る燃料電池用電極触媒を得るためには、多孔質のカーボン担体において、細孔のモード径が約3 nm以上且つ約5 nm以下の範囲であることが好ましい。しかしながら、従来技術の方法では、多孔質のカーボン担体における細孔の大きさを所望の範囲内に精密に制御することは困難であった。
【0022】
本発明者らは、特許文献2に記載の炭素ナノ構造体の作製方法又は特許文献3に記載の多孔質炭素材料の製造方法において、金属内包樹状炭素ナノ構造物又は金属粒子内包中間体の加熱処理条件を最適化することにより、所定の細孔直径及び細孔容積を有する1個以上の細孔が所定の範囲内で形成されたカーボン担体を得て、該1個以上の細孔の内部に所定の割合の触媒粒子を担持できることを見出した。また、本発明者らは、前記電極触媒を用いて得られる燃料電池は、質量活性を維持しつつ、低いガス拡散抵抗を有することを見出した。このような特徴を備える本発明の燃料電池用電極触媒を用いることにより、質量活性のような燃料電池の性能の低下を実質的に防止することができる。
【0023】
なお、本発明の燃料電池用電極触媒のガス拡散抵抗及び質量活性は、例えば、該燃料電池用電極触媒をアノード及び/又はカソードとして備える燃料電池の膜電極複合体(MEA)を作製し、該MEAを用いて当該技術分野で通常使用されるガス拡散抵抗及び質量活性の評価試験を実施することにより、評価することができる。
【0024】
本発明の燃料電池用電極触媒の一実施形態の形状を示す断面図を
図1に示す。本発明の燃料電池用電極触媒は、カーボン担体11と、該カーボン担体11に担持された触媒粒子12とを含む。本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体11は、細孔13を有する。細孔13は、通常は複数である。細孔13は、少なくとも1個の端部がカーボン担体11の表面において開口を形成しており、残りの端部がカーボン担体11の内部に配置される形態であってよく、或いは全ての端部がカーボン担体11の表面において開口を形成している形態であってもよい。本発明の燃料電池用電極触媒の細孔13は、2〜5 nmの範囲の細孔のモード径を有することが必要である。本発明において、燃料電池用電極触媒に存在する細孔のモード径は、該燃料電池用電極触媒の細孔分布において出現比率が最も大きい細孔直径を意味する。本発明の燃料電池用電極触媒の細孔は、通常は、カーボン担体11に存在する細孔13を意味する。細孔のモード径は、3〜4.5 nmの範囲であることが好ましい。以下において説明するように、本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子は、2〜5 nmの範囲の白金の(220)面の結晶子径を有する。ここで、本発明の燃料電池用電極触媒において、電極触媒の細孔のモード径が前記下限値以上の場合、触媒粒子が該細孔の内部に担持される可能性が高くなる。また、
図1に示すように、電極触媒の細孔13のモード径が前記上限値以下の場合、細孔13の内部にアイオノマ14が進入する可能性が低くなる。このような燃料電池用電極触媒を燃料電池に適用することにより、触媒粒子がアイオノマによって直接被覆され、触媒粒子の有効反応表面積が低下することを実質的に防止することができる。それ故、本発明の燃料電池用電極触媒の細孔のモード径が前記範囲内の場合、燃料電池の性能低下を実質的に防止することができる。
【0025】
本発明の燃料電池用電極触媒の細孔のモード径は、例えば、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法等の手段によって得られる電極触媒の細孔直径とlog微分細孔容積との関係を示す細孔分布曲線において、log微分細孔容積の極大値を示す細孔直径に基づき、決定することができる。細孔分布曲線は、例えば、以下の手順で得ることができる。77.4 K(窒素の沸点)の窒素ガス中で、窒素ガスの圧力P(mmHg)を徐々に高めながら、各圧力Pで、カーボン担体の窒素ガス吸着量(ml/g)を測定する。次いで、圧力P(mmHg)を窒素ガスの飽和蒸気圧P
0(mmHg)で除した値を相対圧力P/P
0として、各相対圧力P/P
0に対する窒素ガス吸着量をプロットすることにより、吸着等温線を得る。その後、この吸着等温線から、BJH法に従ってカーボン担体の細孔分布を求める。このようにして、細孔分布曲線を得ることができる。なお、BJH法については、例えば、J. Am. Chem. Soc., 1951年, 第73巻, p. 373-380等の公知文献を参照することができる。
【0026】
本発明の燃料電池用電極触媒の細孔において、2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔容積は、0.4 cm
3/g以上であることが必要である。本発明において、燃料電池用電極触媒の細孔の特定の細孔直径の細孔容積は、該細孔において特定の細孔直径を有する細孔の細孔容積の合計値を意味する。2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔容積は、0.5 cm
3/g以上であることが好ましい。本発明の燃料電池用電極触媒の細孔において、2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔容積が前記下限値以上の場合、1個以上の細孔がカーボン担体の内部で互いに連通し得る。このような構造により、連通した細孔を通って酸素及び/又は水素ガスが拡散しやすくなることから、ガス拡散抵抗が低下し得る。また、連通した細孔を通って反応によって生成する水がカーボン担体の外部へ放出されやすくなる。
【0027】
本発明の燃料電池用電極触媒の細孔において、2〜50 nmの範囲の細孔直径の細孔容積に対する2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔容積の比は、0.55以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。本発明の燃料電池用電極触媒の細孔において、前記比が前記下限値以上の場合、細孔に占める2〜5 nmの範囲の細孔直径を有する細孔の割合が大きくなる。この場合、触媒粒子が該細孔の内部に担持される可能性が高くなる。また、この場合、細孔の内部にアイオノマが進入する可能性が低くなる。このような燃料電池用電極触媒を燃料電池に適用することにより、触媒粒子がアイオノマによって直接被覆され、触媒粒子の有効反応表面積が低下することを実質的に防止することができる。
【0028】
本発明の燃料電池用電極触媒の細孔における2〜5 nm又は2〜50 nmの範囲の細孔直径の細孔容積は、例えば、電極触媒の細孔直径と積分細孔容積との関係を示す細孔分布曲線に基づき、決定することができる。
【0029】
前記で説明した特徴を有するカーボン担体は、以下において説明する本発明の一態様の燃料電池用電極触媒の製造方法によって得ることができる。
【0030】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子は、白金(Pt)又は白金合金を触媒金属として含有することが必要である。前記触媒粒子は、白金合金を含有することが好ましい。前記白金合金は、通常は、Pt及び1種以上のさらなる金属からなる。この場合、白金合金を形成する1種以上のさらなる金属としては、コバルト(Co)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)、並びにガドリニウム(Gd)、ランタン(La)及びセリウム(Ce)等のランタノイド元素を挙げることができる。本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子が前記の触媒金属を含有する場合、高い活性及び高い耐久性を備える電極触媒を得ることができる。
【0031】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子の組成及び担持密度は、例えば、王水を用いて、電極触媒から触媒粒子に含まれる触媒金属を溶解させた後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて該溶液中の触媒金属イオンを定量することにより、決定することができる。
【0032】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子のPtの(220)面の結晶子径は、2〜5 nmの範囲であることが必要であり、2〜3.5 nmの範囲であることが好ましい。
【0033】
一般に、燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子の粒子径は、燃料電池用電極触媒の製造において、触媒粒子の担持後の焼成温度を高くするほど大きくなる。前記範囲のPtの(220)面の結晶子径を有する触媒粒子を得るための具体的な条件は、前記の要因を考慮して、予め予備実験を行って焼成処理の条件との相関関係を取得しておき、該相関関係を適用することによって決定することができる。このような手段により、前記範囲のPtの(220)面の結晶子径を有する触媒粒子を得ることができる。
【0034】
触媒粒子のPtの(220)面の結晶子径は、例えば、以下の方法で決定することができる。X線回折(XRD)装置を用いて、本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子のXRDを測定する。得られたXRDにおいて、触媒粒子に含まれる触媒金属結晶の(220)面に対応するピークパターンに正規分布曲線をフィッティングする。フィッティングした正規分布曲線の半値幅を計算し、得られた半値幅に基づき、公知の方法(JIS H7805等)によって、触媒粒子のPtの(220)面の結晶子径を算出する。
【0035】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子は、10〜50質量%の担持密度を有することが必要である。本発明において、触媒粒子の担持密度は、電極触媒の総質量に対する触媒粒子の質量の百分率を意味する。触媒粒子の担持密度は、20〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0036】
本発明の燃料電池用電極触媒は、燃料電池のアノード及びカソードのいずれにも適用することができる。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池に関する。本態様の燃料電池は、アノード及びカソードの少なくともいずれかとして本発明の燃料電池用電極触媒を備え、さらにアイオノマ及び必要であればアノード又はカソードを備える。本発明の燃料電池に使用されるアノード、カソード、及びアイオノマは、当該技術分野で通常使用される材料から適宜選択することができる。本発明の燃料電池用電極触媒をアノード及びカソードの少なくともいずれかに適用することにより、ガス拡散抵抗の増大を回避して、燃料電池の性能低下を実質的に防止することができる。それ故、本態様の燃料電池を自動車等の用途に適用することにより、長期に亘る使用においても性能低下を実質的に防止して、安定的に高い性能を発揮することができる。
【0037】
<2:燃料電池用電極触媒の製造方法>
本発明者らは、特許文献2に記載の炭素ナノ構造体の作製方法又は特許文献3に記載の多孔質炭素材料の製造方法において、金属内包樹状炭素ナノ構造物又は金属粒子内包中間体の加熱処理条件を最適化することにより、所定の細孔直径及び細孔容積を有する細孔が所定の範囲内で形成されたカーボン担体を得て、該細孔の内部に所定の割合の触媒粒子を担持した燃料電池用電極触媒を得られることを見出した。それ故、本発明の別の一態様は、前記で説明した本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法に関する。本態様の方法は、金属含有溶液準備工程、金属アセチリド形成工程、第一加熱処理工程、第二加熱処理工程、触媒金属塩担持工程、及び触媒粒子形成工程を含むことが必要である。各工程について、以下において説明する。
【0038】
[2-1:金属含有溶液準備工程]
本態様の方法は、金属又はその塩を含有する金属含有溶液を準備する、金属含有溶液準備工程を含む。本工程において、金属含有溶液に含有される金属は、銀が好ましく、また金属の塩は、硝酸銀が好ましい。本工程は、例えば、特許文献2又は3に記載の方法における工程と同様に実施することができる。
【0039】
[2-2:金属アセチリド形成工程]
本態様の方法は、金属含有溶液とアセチレンガスとを混合して金属アセチリドを形成させる、金属アセチリド形成工程を含む。本工程は、例えば、特許文献2又は3に記載の方法における工程と同様に実施することができる。本工程を実施することにより、樹状構造を有する金属アセチリドを形成することができる。
【0040】
[2-3:第一加熱処理工程]
本態様の方法は、金属アセチリドを加熱処理して金属粒子内包中間体を形成させる、第一加熱処理工程を含む。本工程は、例えば、特許文献2又は3に記載の方法における工程と同様に実施することができる。
【0041】
本工程において、金属アセチリドを加熱処理する温度は、40〜80℃の範囲であることが好ましく、60〜80℃の範囲であることがより好ましい。金属アセチリドを加熱処理する時間は、12時間以上であることが好ましい。前記条件で本工程を実施することにより、金属を内包し且つ樹状構造を有する、金属内包樹状炭素ナノ構造物を形成させることができる。
【0042】
[2-4:第二加熱処理工程]
本態様の方法は、金属粒子内包中間体を昇温しながら加熱処理して金属粒子内包中間体に内包される金属を噴出させる、第二加熱処理工程を含む。本工程は、例えば、特許文献2又は3に記載の方法における工程と同様に実施することができる。
【0043】
本工程において、金属粒子内包中間体を加熱処理する際の昇温速度は、5〜50℃/分の範囲であることが好ましく、10〜40℃/分の範囲であることがより好ましい。金属粒子内包中間体を昇温した後、加熱処理する温度は、100〜200℃の範囲であることが好ましく、160〜170℃の範囲であることがより好ましい。金属粒子内包中間体を加熱処理する時間は、1〜60分間の範囲であることが好ましく、10〜30分間の範囲であることがより好ましい。前記条件で本工程を実施することにより、金属粒子内包中間体から金属の粒子を噴出させて、カーボン担体に所定の形状の細孔を形成することができる。これにより、細孔を有するカーボン担体を得ることができる。本工程において得られるカーボン担体の細孔は、通常は、2〜5 nmの範囲の細孔のモード径を有し、2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔容積が、0.4 cm
3/g以上である。本工程において得られる細孔を有するカーボン担体を用いて以下において説明する触媒金属塩担持工程及び触媒粒子形成工程を実施することにより、2〜5 nmの範囲の細孔のモード径を有し、2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔容積が、0.4 cm
3/g以上である燃料電池用電極触媒を形成することができる。
【0044】
本工程において、所望により、金属の粒子を噴出させて得られた中間体を、熱濃硝酸又は濃硫酸と接触させ、該中間体を清浄化する清浄処理工程、及び前記清浄処理工程で清浄化された中間体を加熱し、1個以上の細孔を有するカーボン担体を得る第三加熱処理工程をさらに実施してもよい。前記清浄処理工程及び第三加熱処理工程は、例えば、特許文献2又は3に記載の方法における工程と同様に実施することができる。
【0045】
[2-5:触媒金属塩担持工程]
本態様の方法は、第二加熱処理工程によって得られたカーボン担体と、触媒金属の塩を含有する触媒金属材料とを反応させて、該カーボン担体に触媒金属材料を担持させる、触媒金属塩担持工程を含む。
【0046】
本工程において使用される触媒金属材料に含有される触媒金属の塩は、例えば触媒金属がPtの場合、ヘキサヒドロキソ白金硝酸、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸又はヘキサヒドロキソ白金アンミン錯体であることが好ましい。触媒金属が白金合金の場合、本工程において使用される触媒金属材料は、白金合金を形成するさらなる金属の塩を含有することが好ましい。この場合、白金合金を形成するさらなる金属の塩は、該さらなる金属と硝酸又は酢酸との塩であることが好ましく、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸ニッケル又は酢酸マンガンであることがより好ましい。
【0047】
本工程は、コロイド法又は析出沈殿法等のような、当該技術分野で通常使用される反応を用いることにより、実施することができる。
【0048】
[2-6:触媒粒子形成工程]
本態様の方法は、触媒金属塩担持工程によって得られたカーボン担体に担持された触媒金属材料に含有される触媒金属の塩を還元して金属形態の白金又は白金合金を形成させる、触媒粒子形成工程を含む。
【0049】
本工程において、触媒金属材料を担持したカーボン担体を加熱処理することによって、カーボン担体に担持された触媒金属材料に含有される触媒金属の塩を還元する。これにより、金属形態の白金又は白金合金を含有する、カーボン担体に担持された触媒粒子を形成させる。加熱処理の温度は、40〜90℃の範囲であることが好ましい。前記加熱処理は、エタノール、ヒドラジン、メタノール、プロパノール、水素化ホウ素ナトリウム又はイソプロピルアルコールのような還元剤の存在下で実施されることが好ましい。前記条件で触媒金属材料を担持したカーボン担体を加熱処理することにより、触媒金属の塩を還元して、触媒金属として白金又は白金合金を含有する触媒粒子を形成させることができる。
【0050】
本工程は、所望により、加熱処理によって形成された触媒粒子を有する電極触媒を焼成する、焼成工程をさらに含んでもよい。焼成工程において、触媒粒子を有する電極触媒を焼成する温度は、80〜900℃の範囲であることが好ましい。焼成工程を実施することにより、触媒粒子の粒子径を前記で説明した範囲とすることができる。また、触媒金属材料が白金合金を形成するさらなる金属の塩を含有する場合、さらなる金属の塩からPt及びさらなる金属を合金化させて、金属形態の白金合金を形成させることができる。
【0051】
本態様の燃料電池用電極触媒の製造方法により、前記で説明した特徴を有する燃料電池用電極触媒を得ることが可能となる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
<I:電極触媒の調製>
[I-1:カーボン担体の調製]
実施例及び比較例に使用するカーボン担体は、特許文献2又は3に記載の方法に基づき調製した。第一加熱処理工程の加熱処理温度、並びに第二加熱処理工程の昇温速度及び加熱処理温度を表1に示す。
【表1】
【0054】
[I-2:触媒粒子の担持]
前記I-1の手順で得られた10 gのカーボン担体を純水に分散させた。この分散液に、硝酸水溶液を加えてpHを2以下に調整した。この分散液に、最終生成物の総質量に対して30質量%のPt担持量となるPt仕込量(4.29 g)を含有するジニトロアンミン白金(II)硝酸溶液、及び50 gの99.5%エタノールを順に加えた。この混合物を、実質的に均質な状態となるように十分に攪拌した後、60〜90℃、3時間の条件で加熱した。加熱終了後、得られた分散液を、濾液の導電率が5 μS/cm以下となるまで繰り返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理した。得られた30質量%Pt担持カーボン担体を、該カーボン担体の総質量に対して30倍の質量の純水に分散させた。この分散液に、硝酸コバルト水溶液を、Coに対するPtのモル比が7となる量まで滴下した。前記硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト六水和物を純水に溶解させることによって調製した。硝酸コバルト水溶液の滴下後、得られた混合物に、純水で希釈した水素化ホウ素ナトリウムを、Coに対するモル比が1〜6の範囲となる量まで滴下した。水素化ホウ素ナトリウムの滴下後、得られた混合物を1〜20時間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた粉末ケーキを、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、800℃で熱処理して合金化した。前記手順により、電極触媒の粉末を得た。
【0055】
<II:電極触媒の評価>
[II-1:触媒金属の担持密度]
王水を用いて、所定量の実施例及び比較例の電極触媒から触媒金属であるPt及びCoを溶解させた。ICP発光分析装置(ICPV-8100;島津製作所製)を用いて、得られた溶液中の触媒金属イオンを定量した。前記溶液の体積及び溶液中の触媒金属定量値と、触媒金属の仕込み量及びカーボン仕込み量とから、電極触媒に担持された触媒金属の担持密度(電極触媒の総質量に対する質量%)を決定した。
【0056】
[II-2:白金の(220)面の結晶子径]
XRD装置(Rint2500;リガク製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒のXRDを測定した。測定条件は、以下のとおりである:Cu管球、50 kV、300 mA。得られたXRDスペクトルに基づき、Scherrerの式を用いて、白金の(220)面の結晶子径を決定した。
【0057】
[II-3:電極触媒の細孔分布]
細孔分布測定装置(3Flex;Micromeritics製)を用いて、定容法で実施例及び比較例の電極触媒の窒素ガスによる吸着等温線を測定した。細孔分布の解析は、BJH法を用いて行った。比較例2の電極触媒の細孔分布を
図2及び3に示す。図中、横軸は、電極触媒の細孔直径(nm)を、左縦軸は、電極触媒の積算細孔容積(cm
3/g)を、右縦軸は、電極触媒のlog微分細孔容積(cm
3/g)を、それぞれ示す。
【0058】
図3に示すように、比較例2の電極触媒において出現比率が最も大きい細孔直径であるモード径は、約2.7 nmであった。また、2〜5 nmの範囲の細孔直径の細孔の細孔容積は、約0.3 cm
3/gであり、2〜50 nmの範囲の細孔直径の細孔の細孔容積は、約0.6 cm
3/gであった。
【0059】
<III:MEAの作製>
[III-1:電極触媒インクの調製]
1 gの電極触媒を、10 mLの水、5 mLのエタノール、及びアイオノマ(ナフィオン(登録商標) DE2020;DuPont製)溶液を混合した。アイオノマ溶液は、アイオノマの固形分の質量(I)と電極触媒に含まれるカーボン担体の質量(C)との比(I/C)が0.75となる量を使用した。この混合液を、マグネチックスターラーを用いて十分に攪拌して分散させた。得られた分散液を、超音波ホモジナイザを用いて30分間分散処理することにより、電極触媒インクを調製した。
【0060】
[III-2:電極触媒層の作製]
前記III-1の手順で得られた電極触媒インクを、基材シートの表面に均一に塗工した。塗工後の基材シートを、80℃で3時間乾燥させて、電極触媒層を作製した。電極触媒インクは、塗工面の単位面積あたりの電極触媒に含まれるPtの質量が0.2 mg/cm
2となるように塗工した。また、基材シートは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用いた。
【0061】
[III-3:MEAの作製]
固体高分子電解質膜として、ナフィオン(登録商標)NR-211(DuPont製)を用いた。前記III-2の手順で得られた電極触媒層をアノード及びカソードに用いた。アノードとカソードとの間に固体高分子電解質膜を挟持し、140℃でホットプレスすることによって接合して、MEAを作製した。
【0062】
<IV:MEAの評価>
[IV-1:質量活性]
実施例及び比較例のMEAの両極の露点を55℃、相対湿度を80%、温度を60℃に調整した状態で、アノードに水素(0.5 L/min, 50 kPa-G)を、カソードに空気(2 L/min, 50 kPa-G)を、それぞれ流通した。電極触媒粒子の表面が一旦還元状態となる0.2 Vの電圧値で数時間保持した。次いで、0.1 V、0.2 V、0.3 Vのように0.1〜0.9 Vまで0.1 V単位で電圧値を上昇させ、各電圧値で3分間ずつ保持した。0.88 Vにおける電流密度(A/cm
2)を、カソード側の電極の表面に存在するPtの総質量で除算することにより、実施例及び比較例のMEAの質量活性を算出した。
【0063】
[IV-2:ガス拡散抵抗]
60℃の低加湿(30%RH)又は高加湿(80%RH)条件下で、反応ガスを低酸素濃度環境(水素濃度:100%、酸素濃度:数%)に調整した状態で、実施例及び比較例のMEAのIV特性を測定した。IV特性上において、電圧値が低下しても電流値が増加しない部分における電流(限界電流)の値を、電極触媒層の表面積で除算することにより、限界電流密度を算出した。得られた限界電流密度、並びに測定時の温度、相対湿度及び酸素濃度に基づき、1分子の酸素が1 m移動するのに要する時間を算出することにより、ガス拡散抵抗を決定した。
【0064】
<V:電極触媒及びMEAの評価結果>
実施例及び比較例の電極触媒の物性値及び該電極触媒を用いて作製したMEAの性能値を表2に示す。
【表2】
【0065】
表2に示すように、実施例1及び2の電極触媒を用いて作製したMEAは、比較例1及び2の電極触媒を用いて作製したMEAと比較して、同等の質量活性を有し、且つ約20%低いガス拡散抵抗を示した。