(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6609097
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】光共振器
(51)【国際特許分類】
H01S 3/042 20060101AFI20191111BHJP
H01S 3/139 20060101ALI20191111BHJP
H01S 3/137 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
H01S3/042
H01S3/139
H01S3/137
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-216911(P2014-216911)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2016-86045(P2016-86045A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 達也
【審査官】
村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−016713(JP,A)
【文献】
特開平11−330601(JP,A)
【文献】
特開平09−260792(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0136104(US,A1)
【文献】
特開2005−340359(JP,A)
【文献】
米国特許第06384978(US,B1)
【文献】
米国特許第04962503(US,A)
【文献】
特開2004−087782(JP,A)
【文献】
特表2005−521233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低熱膨張金属で形成される筐体と、前記筐体に設けられる一対の反射面と、前記反射面間に配置されたレーザ結晶および波長選択素子と、を備え、励起される前記レーザ結晶からの光を前記反射面間で共振させ、かつ、前記波長選択素子により単一縦モードのレーザ光を出力する光共振器であって、
前記レーザ結晶には、前回の電源投入時に使用した設定温度から当該設定温度を更新することなく、その設定温度となるように当該レーザ結晶の温度を一定に維持する第一温度維持手段が設けられ、
前記波長選択素子には、当該波長選択素子へのレーザ光の入射角を調整するための角度調整手段、および、前記第一温度維持手段とは独立して、前回の電源投入時に使用した設定温度から当該設定温度を更新することなく、その設定温度となるように当該波長選択素子の温度を一定に維持する第二温度維持手段が設けられ、
角度調整手段は、前記レーザ結晶および前記波長選択素子の一定温度下で調整された入射角を維持可能に設けられ、
前記一対の反射面の少なくとも一方は、前記レーザ光の光路に沿って進退する可動鏡であり、前記筐体には、目標波長のレーザ光が得られるように前記可動鏡を位置決めする移動手段が設けられることを特徴とする光共振器。
【請求項2】
請求項1記載の光共振器において、
前記角度調整手段は、前記筐体に定められた軸回りに回転可能な可動保持部材を有し、当該可動保持部材が前記波長選択素子を保持し、
前記第二温度維持手段は、前記可動保持部材に設けられることを特徴とする光共振器。
【請求項3】
請求項1記載の光共振器において、
前記第一温度維持手段は、前記筐体において前記波長選択素子よりも前記レーザ結晶に近い位置に設けられ、
前記第二温度維持手段は、前記筐体において前記レーザ結晶よりも前記波長選択素子に近い位置に設けられることを特徴とする光共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光共振器、特に内蔵する光学素子の温度制御システムの最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に半導体レーザでレーザ結晶を励起するタイプのレーザ装置では、一対の反射面間にレーザ結晶やエタロンなどの光学素子を配置して構成される光共振器を用いる。光共振器における温度制御システムは、特許文献1、2等が示すように、効率よくレーザ出力を安定させる上で欠かせない。
【0003】
特許文献1のレーザ装置は、モニター用光検出器の出力を半導体レーザの駆動回路へフィードバックすることにより所定出力のレーザ光が外部に出力されるように制御するオートパワー制御装置を備える。そして、各温度制御装置によってブロック(筐体)、半導体レーザおよびエタロンの温度を各別に変化させたときの半導体レーザ駆動電流を読み取り、最も駆動電流が小さくなる温度を各別に求めて、それらをブロック用温度制御装置、半導体レーザ用温度制御装置およびエタロン用温度制御装置の各設定温度としてそれぞれ設定する温度チューニング用制御装置を備えることに特徴がある。この温度チューニング用制御装置は、オートパワー制御装置が作動している状態で動作するようになっている。これにより、各温度を検出するそれぞれの温度センサの経年変化やブロックの機構的・寸法的経年変化などを補償し、かつ、効率の良いレーザ出力を安定に行うことができると説明している。
【0004】
特許文献1での温度チューニングは具体的に、まず、波長変換素子(SHG)の温度に基づき、ブロックの温度を変化させる。そして、最も駆動電流が小さくなる温度を求め、その温度にブロックの設定温度を更新する。これにより温度センサの経年変化などが補償される。また、ブロックに固定されたSHGの屈折率の温度依存性を利用して、SHG内の光学的な光路長を変化させて、ブロックの寸法変化を補償するとも説明している。
【0005】
また、エタロンの温度コントロールにより、エタロンのピーク透過波長を変化させ、最も駆動電流が少なくなるエタロン温度を求め、その温度をエタロンの設定温度にしている。ここで、駆動電流が最も小さくなる場合は、エタロンの波長選択特性が設計値に一致したときであるとみなし、温度センサの経年変化などが補償されると説明している。
【0006】
特許文献2のレーザ装置には、光共振器全体の温度制御装置と、エタロンの温度制御装置とが独立して設けられ、前者の温度制御装置で光共振器全体が一定温度に維持され、後者の温度制御装置でエタロンのピーク透過波長がレーザ出力のピーク発振波長に合うようにエタロンの温度が制御されるようになっている。具体的には、発振レーザ光強度が最大となるように、エタロンの温度設定値を変えてピーク透過波長位置をシフトさせている。エタロンの温度を単独制御して、エタロンのピーク透過波長をレーザ出力のピーク発振波長に合わせるという点で、特許文献1と共通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−158316号公報
【特許文献2】特開2000−208849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のレーザ装置は、共振器の光路長の変動や温度センサの経年変化などを、光学素子の温度調整によって補償することが前提になっており、電源投入の都度、温度チューニングを実施してブロックやペルチェ素子の各設定温度を更新する。そのため、光路長の変動や経年変化が進めば、各素子の設定温度と室温などとの差が徐々に大きくなり、これらをキャンセルするために必要となる温度制御装置(ペルチェ素子など)の消費電力も徐々に増えてしまい、結果的に効率の良いレーザ出力が困難になってしまう。また、温度チューニングによりエタロンの温度を変化させてピーク透過波長を変化させることが、出力波長の不安定化の要因になり得る。
【0009】
特許文献2のレーザ装置も、同様に、エタロンの温度制御装置がエタロンのピーク透過波長をレーザ出力のピーク発振波長にあうようにエタロンの温度を制御するため、出力波長の不安定化が懸念される。
【0010】
本発明は、前記先行技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は、レーザ出力の安定化および出力波長の安定化を効率よく実現するため、光共振器内の各光学素子の温度制御システムの最適化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明は、
低熱膨張金属で形成される筐体と、前記筐体に設けられる一対の反射面と、前記反射面間に配置されたレーザ結晶および波長選択素子と、を備え、励起される前記レーザ結晶からの光を前記反射面間で共振させ、かつ、前記波長選択素子により単一縦モードのレーザ光を出力する光共振器であって、
前記レーザ結晶には、
前回の電源投入時に使用した設定温度から当該設定温度を更新することなく、その設定温度となるように当該レーザ結晶の温度を一定に維持する第一温度維持手段が設けられ、
前記波長選択素子には、当該波長選択素子へのレーザ光の入射角を調整するための角度調整手段、および
、前記第一温度維持手段とは独立して
、前回の電源投入時に使用した設定温度から当該設定温度を更新することなく、その設定温度となるように当該波長選択素子の温度を一定に維持する第二温度維持手段が設けられ、
角度調整手段は、前記レーザ結晶および前記波長選択素子の一定温度下で調整された入射角を維持可能に設けられ、
前記一対の反射面の少なくとも一方は、前記レーザ光の光路に沿って進退する可動鏡であり、前記筐体には、目標波長のレーザ光が得られるように前記可動鏡を位置決めする移動手段が設けられることを特徴とする。
【0012】
また、前記光共振器において、
前記角度調整手段は、前記筐体に定められた軸回りに回転可能な可動保持部材を有し、当該可動保持部材が前記波長選択素子を保持し、
前記第二温度維持手段は、前記可動保持部材に設けられることが好ましい。
【0013】
また、前記光共振器において、
前記第一温度維持手段は、前記筐体において前記波長選択素子よりも前記レーザ結晶に近い位置に設けられ、
前記第二温度維持手段は、前記筐体において前記レーザ結晶よりも前記波長選択素子に近い位置に設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、各光学素子の設定温度を諸条件に応じて更新するのではなく、温度制御システムが各光学素子を一定温度に維持することを前提としている。そのために、まず、低熱膨張金属の筐体を用いる。これにより筐体の熱膨張による光路長の変動が抑えられ、レーザ出力の低下などを回避する。次に、波長選択素子の角度調整手段を設けて、一定温度下、素子が所望の波長を選択できるように、入射角を調整できるようにした。この角度調整により、加工精度等による波長選択特性の製品間でのバラツキをキャンセルすることができる。
【0015】
さらに、2つの温度維持手段を作動させ、各光学素子を設定温度に維持するので、各光学素子の熱膨張による光学的な光路長の変動が抑えられる。波長選択素子については温度変化に伴うピーク透過波長の変化も抑えられる。
【0016】
これらの低熱膨張金属の筐体、波長選択素子の角度調整手段、および、2つの温度維持手段を備えることにより、波長選択素子のピーク透過波長と光共振器の光路長さに基づく発振波長とが一致するので、各光学素子の設定温度を変えることなく、レーザ出力の低下や出力波長の変動を回避できる。
【0017】
このようなシステムに加えて、可動鏡およびその移動手段によって可動鏡の位置を変えて、空気の屈折率の変動などに起因する極僅かな光学的な光路長の変化をキャンセルするので、レーザ出力および出力波長の変動をより高いレベルで安定させることができる。
【0018】
ここで、特筆すべきことは、上記の構成の温度制御システムを採用したことで、低熱膨張金属の筐体を用いることによる悪影響を回避できるようになったことである。各光学素子は直接または間接的に筐体に支持されるので、各光学素子の有する熱エネルギーは筐体に伝わり易い。同様に、筐体の有する熱エネルギーも各光学素子に伝わり易い。筐体に採用される低熱膨張金属は、一般的に他の金属と比べて熱伝導率が小さいので、筐体の各部分に熱が籠りやすくなる。このため、筐体(ブロック)全体を一様に温度制御しようとしても、それぞれの光学素子に近い部分では、それらの光学素子との熱エネルギーの授受が支配的となり、筐体全体に熱が拡散しにくいので、筐体の温度にムラが生じる。結果として、筐体全体を一様に温度制御するシステムでは、筐体温度のムラによって個々の光学素子の温度が不安定になり易く、出力レーザの安定化に影響を及ぼす。これに対して本発明では、2つの温度維持手段がそれぞれ特定の光学素子を対象に、直接温度制御するため、筐体温度のムラによる影響を受けにくくなり、各光学素子の温度制御が安定するというメリットがある。
【0019】
以上のような低熱膨張金属の筐体、波長選択素子の角度調整手段、2つの温度維持手段、可動鏡およびその移動手段を備えた構成によって、光共振器を使用する際には、目標波長のレーザ光が得られるように可動鏡を位置決めする動作を実行するだけで、安定したレーザ出力および所望の出力波長が高い精度で効率よく得られる。
【0020】
また、本発明において、波長選択素子を可動支持部材に取り付けて、この可動保持部材の傾斜を調整することによって、入射角を調整する場合は、第二温度維持手段を可動保持部材に設けて、この可動保持部材を介して波長選択素子の温度を制御する。このようにすれば、第二温度維持手段を波長選択素子に直接設けられない場合にも、波長選択素子に近い部分での温度制御により波長選択素子の温度が安定する。
【0021】
また、筐体に温度維持手段を設ける場合も、出来る限り対象の光学素子に近い筐体部分に温度維持手段を設けるようにする。筐体に温度のムラが生じていても、各光学素子に近い部分で温度コントロールすることにより、素子の温度が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る光共振器の全体構成を一部断面で示す正面図。
【
図2】本発明の第二実施形態に係る光共振器の全体構成を一部断面で示す正面図。
【
図3】本発明に係る光共振器を用いたレーザ装置の全体構成を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づき、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1に、第一実施形態に係る光共振器の全体構成を示す。同図の光共振器10は、外部に設けられた半導体レーザ50から励起光を受け、内部でレーザ光を発生し、増幅、高調波変換、波長選択の各プロセスを経て、出力窓から所望波長(例えば532nm)のレーザ光を出力するためのものであり、以下の構成要素を含む。
【0024】
すなわち、光共振器10は、筐体12、励起光により励起されて光を放出するレーザ結晶16、第二高調波素子(SHG)17、波長選択素子としてのエタロン18、レーザ光の出力窓としての可動鏡28、可動鏡の移動手段として圧電素子30を有し、さらに、エタロン18の角度調整機構、および、2つの温調システム20,24を有する。
【0025】
レーザ結晶(例えばNd:YVO4)は、励起光の照射窓として筐体12に配置されており、励起光が照射されるレーザ結晶16の外側表面と、ハーフミラーである可動鏡28の反射面とによって、本発明に係る一対の反射面14a,14bが形成される。光共振器10は、励起されたレーザ結晶16が発する光を上記反射面間で共振させて、反射面間の光路長すなわち共振器長さに応じた波長(1064nm)のレーザ光を出力する。
【0026】
また、筐体内に配置されたSHG17がレーザ光を第二高調波(532nm)に変換するので、可動鏡28から1064nmの波長と532nmの波長の2種類のレーザ光が出力される。SHGとして、KTiOPO
4(KTP)などの非線形光学結晶を用いる。SHGを反射面間に配置することで、緑レーザ光などの可視レーザ光を出力することができる。もちろん、赤外レーザ光(1064nm)を供給する光共振器には、SHGを設ける必要はない。
【0027】
エタロン18は、特定の波長を強めて透過するという波長フィルターの機能がある。エタロン18を用いない場合は、マルチ縦モードのレーザ光が出力される。レーザ結晶16からの光は、ある自然幅のスペクトル分布を示し、その内の光共振器10の共振周波数に一致する波長光が増幅されることで、複数のピーク周波数を持ったレーザ光が生じる。エタロンが光路上に配置されることで、所望の1つの共振周波数のレーザ光のみが透過され、単一縦モードのレーザ光が出力される。
【0028】
以下、本発明に特徴的な温度制御システムについて、詳しく説明する。本実施形態に係る温度制御システムは次の5つの構成からなる。
(1)低熱膨張金属で形成された筐体。
(2)レーザ結晶およびSHGを一定温度に維持する第一温調システム。
(3)エタロンへのレーザ光の入射角を調整する角度調整機構。
(4)第一温調システムとは独立してエタロンを一定温度に維持する第二温調システム。
(5)可動鏡による波長制御システム。
【0029】
(1)筐体の材質
筐体12の材質は、0.1〜3.0×10
-6(K
-1)の範囲内の熱膨張係数および10〜15(W・m
-1・K
-1)以下の熱伝導率を示す低熱膨張金属とする。特に、ニッケル合金であるインバー(Fe64-Ni36)は入手が容易で扱いやすい。インバーの一般的な熱特性を示す。
平均熱膨張係数(室温〜100℃):0.5〜2.0×10
-6(K
-1)、
熱伝導率(23℃):13〜14(W・m
-1・K
-1)
【0030】
(2)レーザ結晶およびSHGの定温制御
第一温調システム20は、本発明の第一温度維持手段に相当し、温度センサ34A、熱移動素子であるペルチェ素子36A、および、温度制御回路37Aを有する。
図1のように、レーザ結晶16およびSHG17は、筐体12と一体形成された載置部42に固定されており、温度センサ34Aとペルチェ素子36Aは、この共通の載置部42に取付けられている。温度センサ34Aは、載置部42の温度を検出することによって、レーザ結晶16およびSHG17の温度を取得する。温度制御回路37Aは、設定温度と検出温度との差分に応じて、ペルチェ素子36Aを駆動制御する。ペルチェ素子36Aは、載置部42に対して吸熱及び放熱を行って、各光学素子の温度を設定温度に維持する。この定温制御により、レーザ結晶16やSHG17の光学的な光路差の変動が抑えられる。
【0031】
(3)エタロンの入射角調整
エタロン18は、図示しない角度調整機構によって姿勢を変え、レーザ光の入射角が調整できるように支持されている。エタロン18は、その加工誤差に起因する製品間のピーク透過波長のバラツキを有する。しかし、角度調整機構によって入射角を調整することにより、どの加工品を使っても所望のピーク透過波長の特性が得られ、エタロンの歩留まりが良くなる。さらに、エタロン18の温度を一定に維持すれば、ピーク透過波長の変動も抑えられ、初期に調整したピーク透過波長特性を継続して発揮させることができる。従って、通常は、エタロン18の角度調整は製造時の初期調整の際に行えばよく、使用の都度、再調整する必要はない。この角度調整機構は、筐体12と一体形成された載置部43に固定されている。
【0032】
(4)エタロンの定温制御
第二温調システム24は、第一温調システムと同様に構成される。但し、温度センサ34Bとペルチェ素子36Bは、エタロン用の載置部43に取付けられている。温度センサ34Bは、載置部43の温度を検出することによって、エタロン18の温度を取得する。温度制御回路37Bは、設定温度と検出温度との差分に応じて、ペルチェ素子36Bを駆動制御する。ペルチェ素子36Bは、載置部43に対して吸熱及び放熱を行って、エタロン18の温度を設定温度に維持する。エタロン18の設定温度は、レーザ結晶16およびSHG17の設定温度と同じにする。この定温制御により、エタロン18の光学的な光路差の変動が抑えられるだけでなく、エタロン18のピーク透過波長も変動しない。
【0033】
(5)可動鏡による波長制御
一対の反射面14a,14b間の光路長は、筐体12が低熱膨張金属で形成されているため、ほとんど変動しないと言える。しかし、微量とは言え、経年的な寸法変化が起こり得る。
また、筐体内の各光学素子(レーザ結晶16、SHG17、エタロン18など)の温度が一定に制御されれば、各光学素子の熱膨張による寸法変化もほとんど生じないと言える。しかし、各光学素子の特性などの経年変化が起こり得る。
これらの経年変化が生じないとしても、筐体内の空気の圧力(大気圧)に変動が生じると、空気の屈折率が変化して、光共振器10の光路長が変わり、目標波長のレーザ光が得られなくなる。
【0034】
本実施形態では、空気の屈折率の変動の影響や、経年変化の影響を受けないように、可動鏡28をPZT等の圧電素子30によって光路に沿って進退可能にして、反射面間の距離を調整できる。圧電素子は
図1のように筐体12に設けられ、図示しない圧電駆動制御回路とともに、本発明の移動手段を構成する。
なお、可動鏡28の位置調整の方法は、光共振器10の外部に出力レーザの波長検出手段(不図示)を設けて、その波長検出値が目標波長に一致するように可動鏡28を移動させるとよい。その他、出力レーザの強度が最大になる位置に可動鏡28を位置決めしてもよい。波長検出手段として、後述するヨウ素セルなどを用いた吸収線検波部を採用すれば、出力波長の変動を1×10
-8以下のレベルに抑えた周波数安定化レーザ装置に本実施形態の光共振器10を適用させることができる。特に、圧電素子による変調機能を可動鏡28に追加して、出力レーザの波長を変調させることにより、ヨウ素分子の吸収線をより高い精度で検波すれば、波長変動を1×10
-10以下に抑えた高レベルの周波数安定化レーザ装置に光共振器10を適用させることができる。
【0035】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以上の温度制御システムを備えているので、低熱膨張金属の筐体12を用いることによる悪影響を回避できる。一般的に低熱膨張金属は他の金属と比べて熱伝導率が小さく、筐体12の各部分に熱が籠りやすい。このため、従来のように筐体全体を一様に温度制御しようとすると、例えばレーザ結晶16やエタロン18などの光学素子に近い部分では、それらの光学素子との熱エネルギーの授受が支配的となり、筐体全体に熱が拡散しにくく、筐体12の温度にムラが生じてしまう。特に、筐体12の設定温度と、エタロン18などの個別の光学素子の設定温度とに差を設ける場合は、筐体12の温度のムラが顕著になる。
その結果、筐体全体を一様に温度制御しようとしても、筐体12の温度ムラによって個々の光学素子の温度が不安定になり易く、出力レーザの安定化に影響を及ぼしてしまう。これに対して本実施形態では、第一温調システム20がレーザ結晶16およびSHG17を直接温度制御し、かつ、第二温調システム24がエタロン18を直接温度制御することによって、筐体12の温度ムラによる影響を受けにくくした。これにより、各光学素子の温度制御が安定するので、光共振器12を使用する際には、最初に目標波長となるように可動鏡28を位置決めする動作を実行するだけで、安定したレーザ出力および所望の出力波長が高い精度で効率よく得られる。
【0036】
(第二実施形態)
図2に、第二実施形態に係る光共振器の全体構成を示す。この光共振器10aは、低熱膨張金属の筐体12が角筒状に形成され、内部に各光学素子が配置されている。筐体12は2つの部材12a,12bに分かれており、前段の部材12aはペルチェ素子34cを介してベース46上に載置され、後段の部材12bはスペーサ35を介してベース46上に載置されている。2つの部材12a,12b間には隙間が設けられ、そこに熱緩衝材44が封入されている。ベース46上の光共振器はカバー48で覆われる。
【0037】
レーザ結晶16は、ホルダ42aを介して筐体の部材12aに固定されている。SHGは、別のホルダ42bを介して同じ部材12aに固定されている。SHG用のホルダ42bにはIC温度センサ36cが取付けられ、レーザ結晶16およびSHG17のすぐ下方に位置するペルチェ素子34cとともに、本実施形態の第一温調システム20aを構成する。この第一温調システム20aの設定温度は25℃(室温)であり、レーザ結晶16とSHG17は、検出温度が25℃±0.1℃の範囲に入るように定温制御される。なお、IC温度センサ36cをSHG用のホルダ42bではなく、レーザ結晶用のホルダ42aに取付けてもよい。
【0038】
エタロン18は、可動保持部材としてのスイング板22に保持されている。スイング板22の基端は、後段の部材12bの下方に設けられた軸38を中心に回転可能に設けられる。部材12bには、軸38に対面する位置に、開口部12cがあり、スイング板22の先端が開口部12cまで延設され、エタロン18との熱の授受が筐体外部との間でなされるようになっている。すなわち、スイング板22の先端付近にペルチェ素子34dが取付けられ、放熱板39等を介して吸熱および放熱を行う。スイング板22の先端には、IC温度センサ36dも取付けられ、ペルチェ素子34dとともに、本実施形態の第二温調システム24aを構成する。この第二温調システム24aの設定温度も25℃(室温)であり、エタロン18は、検出温度が25℃±0.1℃の範囲に入るように定温制御される。
【0039】
本実施形態のように、エタロン18をスイング板22に取り付けて、このスイング板22の傾斜を変えることで、入射角を調整する場合は、IC温度センサ36dおよびペルチェ素子34dをスイング板22に設けて、スイング板22を介してエタロン18の温度を制御する。このようにすれば、センサやペルチェ素子をエタロン18に直接取り付けられない場合にも、エタロン18に近い部分での温度制御によりエタロン18の温度を安定させ易くすることができる。
【0040】
(変形例)
なお、本実施形態では2部材に分かれた筐体12a,12bを用いるが、必ずしも2部材に分ける必要は無く、共通の筐体12を用いてもよい。また、第二温調システム24aのペルチェ素子34dについても、エタロン用のスイング板22に設けるものに限られない。例えば、
図2のベース46上のスペーサ35の位置に、このスペーサ35に代えて、ペルチェ素子を配置して、筐体12を介してエタロン18を定温制御してもよい。この変形例では、共通の筐体12において、第一温調システム20aを比較的レーザ結晶16やSHG17に近い位置に配置し、第二温調システム24aを比較的エタロン18に近い位置に配置したものになる。このように、共通の筐体12に各温調システムのペルチェ素子を設ける場合には、出来る限り制御対象の光学素子に近い筐体12の部分にペルチェ素子を設けるようにする。筐体12に温度のムラが生じていても、各光学素子に近い部分で温度コントロールすることにより、各光学素子の温度を安定させ易くすることができる。
【0041】
各実施形態に係る光共振器は、
図3に示すようなレーザ装置100の主要機器に適する。レーザ装置100は、半導体レーザ50と、光共振器10と、導波光学部60と、吸収線検波部70とを備え、ヨウ素セルを使った吸収線検波部70によって、出力レーザの波長を高精度に検出し、この検出波長が所望の波長になるように、光共振器10の可動鏡28を位置決めするようになっている。吸収線検波部70は、光共振器10とは独立したモジュールとして説明するが、本発明の光共振器に係る波長検出手段の一例である。
【符号の説明】
【0042】
10 光共振器
12 筐体
14a,14b 一対の反射面
16 レーザ結晶
17 SHG(第2高周波素子)
18 エタロン(波長選択素子)
20 第一温調システム(第一温度維持手段)
22 角度調整機構
24 第二温調システム(第二温度維持手段)
28 可動鏡
30 圧電素子(移動手段)
50 半導体レーザ(励起光発生源)
60 導波光学部
70 吸収線検波部
100 レーザ装置