特許第6609263号(P6609263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許6609263帯電不織布およびそれを用いた濾材、帯電不織布の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6609263
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】帯電不織布およびそれを用いた濾材、帯電不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/009 20120101AFI20191111BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20191111BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   D04H3/009
   B01D39/16 A
   B03C3/28
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-556563(P2016-556563)
(86)(22)【出願日】2015年10月26日
(86)【国際出願番号】JP2015080140
(87)【国際公開番号】WO2016068090
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-219402(P2014-219402)
(32)【優先日】2014年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-219405(P2014-219405)
(32)【優先日】2014年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城谷 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】白石 育久
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−245772(JP,A)
【文献】 特開2001−210549(JP,A)
【文献】 特開2008−221074(JP,A)
【文献】 特開2012−224946(JP,A)
【文献】 特表2010−501663(JP,A)
【文献】 特開2009−226321(JP,A)
【文献】 特開昭60−99058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
B01D 39/16
B03C 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性ポリマーを主成分とする繊維を用いて形成された帯電不織布であって、
前記非晶性ポリマーは非晶性ポリエーテルイミドであり、
平均繊維径が1.2〜25μmである、帯電不織布
【請求項2】
表面電荷密度が1×10−10クーロン/cm以上である、請求項1に記載の帯電不織布。
【請求項3】
面速度8.6cm/秒における、粒径1μmの粉塵の捕集効率が40%以上であり、QF値が0.05以上であり、かつ、100℃で24時間放置後の粉塵捕集効率の減少率が10%以下である、請求項1または2に記載の帯電不織布。
【請求項4】
QF値が0.1以上であり、かつ、100℃で24時間放置後の粉塵捕集効率の減少率が20%以下である、請求項3に記載の帯電不織布。
【請求項5】
前記非晶性ポリマーのガラス転移温度が200℃以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の帯電不織布。
【請求項6】
厚みが10〜1000μmの範囲内である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の帯電不織布
【請求項7】
メルトブローン法またはスパンボンド法によって製造されたものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の帯電不織布
【請求項8】
コロナ放電法およびハイドロチャージング法のうちの少なくともいずれかの方法で帯電させたものである、請求項7に記載の帯電不織布。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の帯電不織布を用いた濾材
【請求項10】
非晶性ポリマーを主成分とする繊維を用いて、メルトブローン法またはスパンボンド法によって不織布を形成し、コロナ放電法およびハイドロチャージング法のうちの少なくともいずれかの方法で帯電させる、帯電不織布の製造方法であって、
前記非晶性ポリマーは非晶性ポリエーテルイミドであり、
平均繊維径が1.2〜25μmである、帯電不織布の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、難燃性に優れた帯電不織布およびその製造方法、ならびに、当該帯電不織布を用いた耐熱性、難燃性に優れた濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスクフィルタ、空調フィルタなどには、ポリプロピレン繊維で形成された不織布に、コロナ放電法、ハイドロチャージング法などの方法で帯電させた帯電(エレクトレット)不織布が一般的に用いられている。しかしながら、このようなポリプロピレン繊維を用いた帯電不織布の場合、耐熱性に劣るため、たとえば各種の排ガスフィルタ、ディーゼルエンジンなどから排出される高温ダストなどの集塵、除去など、耐熱性が必要とされる用途における濾材(耐熱フィルタ)としては適していない。
【0003】
上述のような耐熱性が必要とされる用途に供するための耐熱フィルタとして、従来、耐熱性の繊維を用いた不織布を適用することが知られている。たとえば特開2009−119327号公報(特許文献1)には、アラミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリイミド繊維、PPS繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリエステル繊維、66ナイロン繊維、フェノール繊維などの耐熱短繊維を含む不織布を用いた軽量耐熱フィルタが開示されている。またたとえば特開2011−183236号公報(特許文献2)には、ポリフェニレンサルファイド繊維、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリイミド繊維などの耐熱性繊維を用いた耐熱フィルタが知られている。
【0004】
また、特開2010−90512号公報(特許文献3)には、たとえば全芳香族ポリアミドなどを用いた超極細繊維の繊維構造体からなる超極細繊維層と、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、熱可塑性ポリイミドなどを用いた熱可塑性繊維を含む不織布層とを線状、波状またはジグザグ状の熱圧着部において熱圧着により接合一体化させた2層以上の積層構造体をフィルタ濾材に用いることが開示されている。このような積層構造体は、超極細繊維層の存在により捕集効率が良好であり、かつ、圧力損失が極めて少ないものであり、鉄鋼、火力発電所、ごみ焼却炉、石炭ボイラーなどから排出されるガスから有害物質を除去するための耐熱フィルタとして好適であることが特許文献3に記載されている。
【0005】
さらに、ガラス繊維を用いた耐熱フィルタなども従来より広く知られているが、比重(重量)が重く、また飛散した繊維が皮膚を刺激するため、取扱い性が悪く、また廃棄処理においても問題があった。
【0006】
上述のように、従来より様々な耐熱フィルタが知られているものの、性能がさらに向上された新規な濾材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−119327号公報
【特許文献2】特開2011−183236号公報
【特許文献3】特開2010−90512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、従来よりも性能が向上された(すなわち圧力損失が少なく、捕集効率に優れた)耐熱性、難燃性に優れた新規な濾材、およびそれに用いられる、不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
捕集効率に優れた不織布を得る方法のひとつとして、エレクトレットによる帯電加工技術がある。エレクトレット加工は、ポリプロピレンなど主にポリオレフィン系ポリマーを用いた不織布に対して適応されてきたが、その他の樹脂からなる不織布については、高帯電エレクトレット不織布が得られるものの、これらの電荷は通常、特に高温条件下では寿命が短いことが知られていた。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特に非晶性ポリマーを用いた不織布に対してコロナ放電法およびハイドロチャージング法の少なくともいずれかの方法によってエレクトレット加工を行ったところ、圧力損失が少なく、捕集効率に優れ、その効果が長時間、高温条件下でも持続することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
本発明の帯電不織布は、非晶性ポリマーを主成分とする繊維を用いて形成されたものであることを特徴とする。
【0012】
本発明の帯電不織布は、表面電荷密度が1×10−10クーロン/cm以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の帯電不織布において、面速度8.6cm/秒における、粒径1μmの粉塵の捕集効率が40%以上であり、QF値が0.05以上であり、かつ、100℃で24時間放置後の粉塵捕集効率の減少率が10%以下であることが好ましい。この場合、QF値が0.1以上であり、かつ、100℃で24時間放置後の粉塵捕集効率の減少率が20%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の帯電不織布において、非晶性ポリマーのガラス転移温度が200℃以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の帯電不織布において、非晶性ポリマーは非晶性ポリエーテルイミドであることが好ましい。
【0016】
本発明の帯電不織布は、平均繊維径が1〜25μmである繊維からなるものであることが好ましい。
【0017】
本発明の帯電不織布は厚みが10〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
本発明の帯電不織布は、メルトブローン法またはスパンボンド法によって製造されたものであることが好ましく、また、コロナ放電法およびハイドロチャージング法のうちの少なくともいずれかの方法で帯電させたものであることがより好ましい。
【0018】
本発明は、上述の帯電不織布を用いた濾材についても提供する。
本発明は、非晶性ポリマーを主成分とする繊維を用いて、メルトブローン法またはスパンボンド法によって不織布を形成し、コロナ放電法およびハイドロチャージング法のうちの少なくともいずれかの方法で帯電させる、帯電不織布の製造方法についても提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来よりも性能が向上された(すなわち圧力損失が少なく、捕集効率に優れた)耐熱性、難燃性に優れ、さらに操作性もよく、廃棄処理の際も問題が起こりにくい濾材、およびそのための帯電不織布、その製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の帯電(エレクトレット)不織布は、非晶性ポリマーを主成分とする繊維を用いて形成されたものであることを特徴とする。ここで、「帯電」とは、不織布が電気を帯びている状態を指し、好適にはその表面電荷密度(ファラデーケージ[静電電荷量計]を用いて電荷量を測定し、測定面積で除するというようにして算出した値)が1.0×10−10クーロン/cm以上、より好適には1.5×10−10クーロン/cm以上、さらに好適には2.0×10−10クーロン/cm以上である。
【0021】
本発明における非晶性ポリマーとしては、たとえば、非晶性のポリエーテルイミド(ガラス転移温度:215℃)、ポリスチレン(ガラス転移温度:100℃)、ポリカーボネート(ガラス転移温度:150℃)、ポリエーテルスルホン(ガラス転移温度:225℃)、ポリアミドイミド(ガラス転移温度:275℃)、変性ポリフェニレンエーテル(ガラス転移温度:210℃)、ポリスルホン(ガラス転移温度:190℃)、ポリアリレート(ガラス転移温度:193℃)などが挙げられる。なお、「非晶性」であることは、得られた繊維を示差走査型熱量計(DSC)にかけ、窒素中、10℃/分の速度で昇温し、吸熱ピークの有無で確認することができる。吸熱ピークが非常にブロードであり明確に吸熱ピークを判断できない場合は、実使用においても問題ないレベルであるので、実質的に非晶性と判断しても差し支えない。
【0022】
このような非晶性ポリマーを主成分とする繊維を用いて形成された本発明の帯電不織布は、従来よりも性能が向上(後述)された、耐熱性、難燃性に優れ、さらに操作性もよく、廃棄処理の際も問題が起こりにくい濾材に好適である。
【0023】
非晶性ポリマーを主成分とする繊維は、非晶性ポリマーを50重量%以上含んでいることが好ましく、80〜100重量%の範囲内で含んでいることがより好ましく、90〜100重量%の範囲内で含んでいることがさらに好ましい。本発明の帯電不織布に用いられる繊維は、本発明の効果を阻害しない範囲で非晶性ポリマー以外の成分を含んでいてもよく、このような非晶性ポリマー以外の成分としては、たとえばポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、液晶ポリマー、各種添加物(後述)などが挙げられる。また、本発明の帯電不織布は、本発明の効果を阻害しない範囲で、非晶性ポリマーを主成分とする繊維以外の繊維を含んでいても勿論よく、このような非晶性ポリマーを主成分とする繊維以外の繊維としては、たとえば、非導電性繊維(後述)、ガラス繊維などが挙げられる。
【0024】
本発明の帯電不織布に用いられる非晶性ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が200℃以上であることが好ましく、205〜300℃の範囲内であることが好ましい。非晶性ポリマーのガラス転移温度が200℃未満であると、帯電性が維持されにくい傾向にあるためである。また、非晶性ポリマーの中でも、非晶性ポリエーテルイミド(PEI)の場合には、帯電性の維持の観点の他、ガラス転移温度が高いほど、耐熱性に優れた不織布が得られるので好ましいが、高すぎると融着させる場合に、その融着温度も高くなってしまい、融着時にポリマーの分解を引き起こす可能性があり、ガラス転移温度は、200〜230℃であることがより好ましく、205〜220℃であることが更に好ましい。
【0025】
本発明における非晶性ポリマーは、上述した中でも、耐熱性、難燃性に優れ、また、熱溶融(加工性)に優れるという理由からは、非晶性PEIであることが好ましい。非晶性PEIは、下記一般式で示されるポリマーが好適に使用される。但し、式中R1は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、R2は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、2〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。
【0026】
【化1】
【0027】
本発明の不織布を構成する繊維のうち非晶性ポリマーを主成分とする繊維の平均繊維径が1〜25μmであることが好ましい。帯電不織布を構成する繊維の平均繊維径が1μm未満では風綿が発生したり、ウェブの形成が困難となる虞があり、また、25μmを超えると緻密性の観点から好ましくない場合がある。平均繊維径は、1.2〜15μmであることがより好ましく、1.5〜10μmであることがさらに好ましい。
【0028】
非晶性PEIの分子量は特に限定されるものではないが、得られる繊維や不織布の機械的特性や寸法安定性、工程通過性を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が1000〜80000であることが好ましい。高分子量のものを用いると、繊維強度、耐熱性などの点で優れるので好ましいが、樹脂製造コストや繊維化コストなどの観点から、重量平均分子量が2000〜50000であることが好ましく、3000〜40000であることがより好ましい。
【0029】
本発明では、非晶性PEIとして、非晶性、溶融成形性、コストの観点から、下記式で示される構造単位を主として有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このPEIは、「ウルテム」の商標でサービックイノベイティブプラスチックス社から市販されている。
【0030】
【化2】
【0031】
また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、非晶性PEIの主鎖に環状イミド、エーテル結合以外の構造単位、たとえば脂肪族、脂環族または芳香族エステル単位、オキシカルボニル単位などが含有されていてもよい。
【0032】
本発明の帯電不織布を構成する非晶性ポリマーを主成分とする繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、帯電防止剤、ラジカル抑制剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機物、などを含んでいてもよい。かかる無機物の具体例としては、カーボンナノチューブ、フラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよび、黒鉛などが用いられる。更には、繊維の耐加水分解性を改良する目的で、モノまたはジエポキシ化合物、モノまたはポリカルボジイミド化合物、モノまたはジオキサゾリン化合物、モノまたはジアジリン化合物などの末端基封鎖剤を含んでいてもよい。
【0033】
帯電不織布の坪量は、特に制限されないが、1〜1000g/mであることが好ましい。帯電不織布の坪量が1g/m未満の場合、強力が低くなり加工時に破断してしまう可能性があり、帯電不織布の坪量が1000g/mを超える場合、生産性の観点から好ましくない。帯電不織布の坪量は、2〜950g/mであることがより好ましく、3〜900g/mであることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の帯電不織布の通気度は、特に制限されないが、1〜300cc/cm/secの範囲内であることが好ましく、10〜250cc/cm/secの範囲内であることがより好ましく、50〜200cc/cm/secの範囲内であることがさらに好ましい。帯電不織布の通気度が1cc/cm/sec未満である場合、通気性が損なわれ、フィルタとして使用した場合、目が詰まりやすいという傾向にあり、また、300cc/cm/secを超える場合、繊維粗密の斑が大きく、フィルタとして使用した場合、性能がばらつくという傾向にある。
【0035】
本発明の帯電不織布は、密度についても特に制限されないが0.05〜0.30g/cmの範囲内であることが好ましく、0.10〜0.25g/cmの範囲内であることがより好ましい。帯電不織布の密度が上述の範囲内であることで、不織布として好ましい形態や性質を保持することができ、通気性など所望の性能を得やすく、後述する圧力損失を低くしながら、厚みが小さくとも優れた捕集効率を備える不織布を得やすくなる。
【0036】
本発明の帯電不織布は、後述するように濾材、特に耐熱性が要求されるような用途における濾材として好適に用いることができるものである。本発明は、このように、本発明の帯電不織布を用いた濾材についても提供するものである。濾材において、捕集効率と圧力損失とのバランスを得ることが重要であるが、本発明の帯電不織布を用いれば、その帯電性によって、圧力損失を低くしながら、厚みが小さくとも優れた捕集効率を得ることができる。本発明の帯電不織布は、その厚みは制限されるものではないが、好適には10〜1000μmの範囲内、より好適には100〜500μmの範囲内という小さな厚みでも優れた捕集効率を得ることができる。
【0037】
本発明の帯電不織布は、
(1)面速度8.6cm/秒における、粒径1μmの石英粉塵の捕集効率が40%以上であり、
(2)QF値が0.05以上であり、かつ、
(3)100℃で24時間放置後の粉塵捕集効率の減少率が10%以下
という濾材として優れた性能を示すものである。
【0038】
上記(1)は、JIS T 8151の規定に準拠して測定することができる、濾材の捕集効率を示す数値であり、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上である。
【0039】
上記(2)は、−ln(1−捕集効率(%)/100)/圧力損失(Pa)で算出されるQF(Quality Factor)値であり、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.12以上である。ここで、圧力損失は、JIS T 8151の規定に準拠して測定することができる。QF値は、その数値が高ければ高いほど、捕集効率と圧力損失とのバランスがとれた濾材であることを意味する。
【0040】
上記(3)は、100℃で24時間放置後の粉塵捕集効率の減少率であり、この減少率が小さいほど、高温環境下で捕集効率が低下しにくい、すなわち、耐熱性を要求される環境下でも捕集効率が低下することなく使用できる優れた濾材(フィルタ)であることを意味する。なお、そもそも室温でもQF値の低い濾材は、高温環境下で粉塵捕集効率は減少しにくい(減少する余地が少ない)が、本発明においては上記(2)を満たすことにより、室温でQF値が低い濾材は除外されている。100℃で24時間放置後の粉塵捕集効率の減少率は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下である。
【0041】
本発明の帯電不織布は、非晶性ポリマーを主成分とする繊維を用いて、メルトブローン法またはスパンボンド法によって不織布に形成されたものであることが好ましい。メルトブローン法またはスパンボンド法を用いることで、極細繊維からなる不織布の製造が比較的容易にでき、紡糸時に溶剤を必要とせず環境への影響を最小限とすることができるという利点がある。
【0042】
メルトブローン法の場合、紡糸装置は従来公知のメルトブローン装置を用いることができ、紡糸条件としては、紡糸温度350〜440℃、熱風温度(一次エアー温度)360〜450℃、ノズル長1mあたり、エアー量5〜50Nmで行なうことが好ましい。
【0043】
また、スパンボンド法の場合、紡糸装置は従来公知のスパンボンド装置を用いることができ、紡糸条件としては、紡糸温度350〜440℃、熱風温度(延伸エアー温度)360〜450℃、延伸エアーは500〜5000m/分で行なうことが好ましい。
【0044】
本発明の帯電不織布は、スパンレース、ニードルパンチ、スチームジェットにより三次元交絡されたものであってもよい。
【0045】
不織布を帯電させる方法としては、摩擦、接触により電荷を付与する方法、活性エネルギー線(たとえば電子線、紫外線、X線など)を照射する方法、コロナ放電、プラズマなどの気体放電を利用する方法、高電界を利用する方法、水などの極性溶媒を用いたハイドロチャージング法などの公知の適宜のエレクトレット化処理が挙げられ、特に制限されるものではないが、比較的に低い電力量で高い帯電性が得られるという理由からは、本発明の帯電不織布はまた、コロナ放電法およびハイドロチャージング法のうちの少なくともいずれかの方法で帯電させたものであることが好ましい。
【0046】
コロナ放電法は、従来公知の適宜の装置、条件を用いて行えばよく、特に制限されるものではないが、たとえば直流高電圧安定化電源(春日電機社製)を用い、たとえば電圧を印加する電極間の直線距離が5〜70mmの範囲内(より好ましくは10〜30mmの範囲内)で、−50〜−10kVおよび/または10〜50kVの範囲内(より好適には−40〜−20kVおよび/または20〜40kVの範囲内)の電圧を、常温(20℃)〜100℃の範囲内(より好ましくは30〜80℃の範囲内の温度で、0.1〜20秒の範囲内(より好ましくは0.5〜10秒の範囲内)の時間、印加することが好ましい。
【0047】
またハイドロチャージング法は、たとえば従来公知の適宜の装置、条件を用いて行えばよく、特に制限されるものではないが、たとえば水、有機溶媒などの極性溶媒(排水など生産性の観点からは、好ましくは水)を、不織布に噴霧したり振動させることによって帯電させる。不織布に衝突させる極性溶媒の圧力は、好ましくは0.1〜5MPaの範囲内(より好ましくは0.5〜3MPaの範囲内)であり、下部からの吸引圧力は500〜5000mmHO(より好ましくは1000〜3000mmHO)であり、吸引ハイドロチャージングの処理時間は好ましくは0.01〜5秒の範囲内(より好ましくは0.02〜1秒の範囲内)である。ハイドロチャージング法を施した後の帯電させた不織布は、40〜100℃の範囲内(より好ましくは50〜80℃の範囲内)の温度で乾燥させることが好ましい。
【0048】
なお、帯電性をより発揮させるためには、本発明の帯電不織布は、非晶性ポリマーを主成分とする繊維以外に、非導電性繊維をさらに含んでいてもよい。ここでいう非導電性は、体積抵抗率が1012Ω・cm以上であることが好ましく、1014Ω・cm以上であることがより好ましい。体積抵抗率はASTM D257に従い測定される。このような非導電性繊維は、不織布中、0〜10重量%の範囲内で含まれることが好ましく、このように非導電性繊維を含む不織布に帯電性を付与した場合、非導電性繊維を含まない場合と比較して、電荷量を多く保持することができ、結果として捕集性能が優れ、圧力損失の小さな濾材に適した帯電不織布が得られる。非導電性繊維の材料としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂、およびこれらの共重合体または混合物などを挙げることができる。
【0049】
本発明はまた、上述した本発明の帯電不織布を好適に製造する方法についても提供する。本発明の帯電不織布の製造方法は、非晶性ポリマーを主成分とする繊維を用いて、メルトブローン法またはスパンボンド法によって不織布を形成し、コロナ放電法およびハイドロチャージング法のうちの少なくともいずれかの方法で帯電させることを特徴とする。本発明の帯電不織布は、このような本発明の帯電不織布の製造方法によって製造されたものであっても他の製造方法で製造されたものであってもよいが、本発明の帯電不織布の製造方法によって製造されたものであることが好ましい。メルトブローン法、スパンボンド法、コロナ放電法およびハイドロチャージング法の好適な条件については上述したとおりである。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0051】
〔平均繊維径(μm)〕
不織布を走査型電子顕微鏡で拡大撮影し、任意の100本の繊維の径を測定し、平均値を算出し、平均繊維径とした。
【0052】
〔不織布の厚さ(μm)〕
得られた連続繊維不織布を標準環境下(温度:20℃、相対湿度:65%)に4時間以上放置した後、PEACOCK Dial−Thickness Gauge H Type(株式会社安田精機製作所製:φ10mm×180g/cm)にて5ヶ所厚さを測定し、平均値を不織布の厚さとして表した。
【0053】
〔不織布の坪量(g/m)〕
JIS P8124に準じて測定した。
【0054】
〔不織布の密度(g/cm)〕
〔不織布の厚さ〕と〔不織布の坪量〕とを用いて不織布の体積を測定し、これらの結果から不織布の密度を算出した。
【0055】
〔不織布の通気度(cc/cm/sec)〕
通気度JIS L1913「一般不織布試験方法」のフラジール形法に準拠して測定した。
【0056】
〔難燃性〕
JIS A1322試験法に準拠して、45℃に配置した試料の下端に対して、試料の下端から50mm離れたメッケルバーナーで10秒間加熱したときの炭化長を測定した。その炭化長の結果から、下記の基準にしたがって難燃性を評価した。
【0057】
a:炭化長が5cm未満、
b:炭化長が5cm以上。
【0058】
〔表面電荷密度〕
得られた不織布から5cm×5cmの試験片を切り出し、JIS L 1094の規定に準拠して、春日電機株式会社製のファラデーケージ(静電電荷量計:KQ431B型)を用い、電荷量を測定した後、試料面積25cmで除して、表面電荷密度(クーロン/cm)とした。
【0059】
〔捕集効率〕
JIS T 8151に準拠し、不織布を11cmφの大きさに切り出し、濾過部8.6cmφの試料台にセットし(濾過面積:58.1cm)、風量30L/分、面速度8.6cm/秒で石英粉塵(平均粒径:1μm)を濾過したときの捕集効率(%)を測定した。なお、捕集効率の減少率は、以下の計算式
(減少率)=(初期の捕集効率−(100℃、24時間放置後の捕集効率))/初期の捕集効率×100
により求めた。
【0060】
〔圧力損失〕
JIS T 8151に準拠し、不織布を11cmφの大きさに切り出し、濾過部8.6cmφの試料台にセットし(濾過面積:58.1cm)、風量30L/分、面速度8.6cm/秒で石英粉塵(平均粒径:1μm)を濾過したときの圧力損失(Pa)を測定した。
【0061】
〔100℃、24時間放置後の捕集効率、圧力損失〕
得られた不織布を100℃、24時間放置した後、上述したようにして捕集効率、圧力損失を測定した。
【0062】
〔QF値〕
上述のように測定された初期および100℃、24時間放置後の捕集効率、圧力損失から、下記式
−ln(1−捕集効率(%)/100)/圧力損失(Pa)
にて、初期QF値および100℃、24時間放置後のQF値をそれぞれ測定した。
【0063】
[実施例1]
非晶性ポリエーテルイミド(ガラス転移温度:215℃)を使用し、紡糸温度420℃で坪量25g/m、平均繊維径が2.2μmのメルトブローン不織布を紡糸した。その後、ロール温度200℃、接圧30kg/cmにてカレンダー処理し、直流高電圧安定化電源(春日電機社製)を用い、コロナ放電法で、電圧間距離が20mm、電圧が30kV、温度が30℃、時間が3秒の条件で電圧を印加した。得られた帯電不織布の物性を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
非晶性ポリエーテルイミド(ガラス転移温度:215℃)を使用し、紡糸温度435℃で坪量25g/m、平均繊維径が5.1μmのスパンボンド不織布を紡糸した。その後、ロール温度200℃、接圧30kg/cmにてカレンダー処理し、直流高電圧安定化電源(春日電機社製)を用い、コロナ放電法で、電圧間距離が20mm、電圧が30kV、温度が30℃、時間が3秒の条件で電圧を印加した。得られた帯電不織布の物性を表1に示す。
【0065】
[実施例3]
非晶性ポリエーテルイミド(ガラス転移温度:215℃)を使用し、紡糸温度420℃で坪量25g/m、平均繊維径が2.5μmのメルトブローン不織布を紡糸した。その後、ロール温度200℃、接圧80kg/cmにてカレンダー処理し、直流高電圧安定化電源(春日電機社製)を用い、コロナ放電法で、電圧間距離が20mm、電圧が30kV、温度が30℃、時間が3秒の条件で電圧を印加した。得られた帯電不織布の物性を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
非晶性ポリカーボネート(PC)(ガラス転移温度:145℃)を使用し、紡糸温度350℃で坪量25g/m、平均繊維径が5.4μmのメルトブローン不織布を紡糸した。その後、ロール温度100℃、接圧30kg/cmにてカレンダー処理し、直流高電圧安定化電源(春日電機社製)を用い、コロナ放電法で、電圧間距離が20mm、電圧が30kV、温度が30℃、時間が3秒の条件で電圧を印加した。得られた帯電不織布の物性を表1に示す。
【0067】
[比較例1]
ASTM D 1238に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレート(MFR)が1100g/10分であるポリプロピレン(ガラス転移温度:0℃)を使用し、紡糸温度280℃で坪量25g/m、平均繊維径が3.1μmのメルトブローン不織布を紡糸した。直流高電圧安定化電源(春日電機社製)を用い、コロナ放電法で、電圧間距離が20mm、電圧が30kV、温度が30℃、時間が3秒の条件で電圧を印加した。得られた帯電不織布の物性を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
コロナ放電法を施さなかったこと以外は実施例1と同様に行った。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。