特許第6610014号(P6610014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6610014摩擦材組成物、摩擦材組成物を用いた摩擦材および摩擦部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6610014
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】摩擦材組成物、摩擦材組成物を用いた摩擦材および摩擦部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20191118BHJP
   F16D 55/00 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   C09K3/14 520G
   C09K3/14 520M
   F16D55/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-117635(P2015-117635)
(22)【出願日】2015年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-2186(P2017-2186A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光本 真理
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−167076(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/034878(WO,A1)
【文献】 特開2015−059142(JP,A)
【文献】 特開2016−204575(JP,A)
【文献】 特開2015−147913(JP,A)
【文献】 特開2012−035473(JP,A)
【文献】 日本機械学会論文集 C編,56巻, 521号,222-227頁 (1990).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 49/00 − 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材、および繊維基材を含有する摩擦材組成物であり、
元素としての銅を含まない、または銅の含有率が0.5質量%を超えず、
チタン酸カリウムを含有し、
さらにチタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち少なくとも1種類を含有し、
前記チタン酸カリウムおよび前記チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち少なくとも1種類の合計が10〜35質量%であり、
大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5〜20%である、回生協調ブレーキ用摩擦材組成物。
【請求項2】
珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムのうち少なくとも1種類を11〜30質量%含有する請求項1に記載の回生協調ブレーキ用摩擦材組成物。
【請求項3】
金属粉、あるいは金属繊維として鉄、錫、亜鉛、アルミニウムのうち少なくとも1種類を0.5〜5質量%含有する、請求項1または2に記載の回生協調ブレーキ用摩擦材組成物。
【請求項4】
硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ムライト、クロマイト、酸化チタン、シリカ及び活性アルミナからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の回生協調ブレーキ用摩擦材組成物。
【請求項5】
結合材、有機充填材、無機充填材、および繊維基材を含有し、
元素としての銅を含まない、または銅の含有率が0.5質量%を超えず、
チタン酸カリウムを含有し、
さらにチタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち少なくとも1種類を含有し、
前記チタン酸カリウムおよび前記チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち少なくとも1種類の合計が10〜35質量%である摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、
大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5〜20%である部分を有する、回生協調ブレーキ用摩擦材。
【請求項6】
前記摩擦材組成物が、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムのうち少なくとも1種類を11〜30質量%含有する請求項に記載の回生協調ブレーキ用摩擦材。
【請求項7】
前記摩擦材組成物が、金属粉、あるいは金属繊維として鉄、錫、亜鉛、アルミニウムのうち少なくとも1種類を0.5〜5質量%含有する請求項5または6に記載の回生協調ブレーキ用摩擦材。
【請求項8】
硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ムライト、クロマイト、酸化チタン、シリカ及び活性アルミナからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項5〜7のいずれかに記載の回生協調ブレーキ用摩擦材。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の回生協調ブレーキ用摩擦材と裏金とを一体化してなる回生協調ブレーキ用摩擦部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の制動に用いられるディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材に適した摩擦材組成物、該摩擦材組成物を用いた摩擦材および摩擦部材に関するものであり、特に、アスベストを含有しない摩擦材組成物、いわゆるノンアスベスト摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等には、制動のためにディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材は、相手材となるディスクロータやブレーキドラム等と摩擦することによって制動の役割を果たす。そのため摩擦材には、使用条件に応じた適切な摩擦係数(効き特性)が求められるだけでなく、ブレーキ鳴きが発生しにくいこと(鳴き特性)、摩擦材の寿命が長いこと(耐摩耗性)等が要求される。
【0003】
摩擦材は繊維基材としてスチール繊維を30〜60質量%含有するセミメタリック材と、スチール繊維を30質量%未満含有するロースチール材と、スチール繊維を含有しないNAО材に大別される。ただし、スチール繊維を微量に含有する摩擦材もNAО材に分類されることもある。
【0004】
NAО材はスチール繊維を含有しない、あるいはスチール繊維の含有率が極めて低いため、セミメタリック材やロースチール材と比較して、相手材であるディスクロータへの攻撃性が低いという特徴がある。このため現在、日本や米国では効き、鳴き、耐摩耗性のバランスに優れるNAО材が主流となっている。また、欧州では高速制動時の摩擦係数保持の観点でロースチール材が用いられることが多かったが、近年は市場の高級志向化に応えるべく、タイヤのホイール汚れやブレーキ鳴きが発生しにくいNAО材が用いられることも増えてきている。
【0005】
NAO材は、粉末や繊維の状態の銅を含有するものが一般的となっている。しかし、銅や銅合金を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉中に銅を含むため、河川や湖を汚染するという可能性が示唆されており、米国のカリフォルニア州、ワシントン州では2021年以降は銅を5質量%以上、2023年以降は銅を0.5質量%以上含有する摩擦材の販売および新車への組み付けを禁止する法案が可決されており、これに対応するため銅を含有しない、あるいは銅の含有量が少ないNAO材の開発が急務となっている。
【0006】
このような動きの中、銅を含有しない、あるいは銅の含有量が少ない摩擦材に関していくつかの特許(特許文献1、2等)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−138273号公報
【特許文献2】特開2015−004037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
NAО材は、ディスクロータ表面に摩擦材組成物が移着したトランスファフィルム(TF)を形成するが、このTFが摩擦係数の安定化に寄与するとともに、摩耗の抑制にも寄与する。このため、NAO材の機能発現において、適正量のTF形成が極めて重要である。
【0009】
TFを形成する摩擦材中の成分としては、各種有機物やチタン酸塩が挙げられる。フェノール樹脂やゴム成分、およびカシューダスト等の有機物は、ブレーキ時に発生する熱によって液状分解物となってディスクロータ表面にTFを形成する。また、チタン酸カリウムやチタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムに代表されるチタン酸塩は、制動によって摩擦界面に延び、TFの成分となる。
【0010】
その他に、TFを構成する摩擦材中の重要な成分として、銅も挙げられる。銅は粉末や繊維の状態で摩擦材に用いられるが、延性、展性が高く、制動によって摩擦材表面、およびディスクロータ表面に伸びてTFを形成する。また、新品時のブレーキロータ表面に残る製造時の研磨溝を潰す、あるいは埋めることで、上記の有機分解物やチタン酸塩等がTFとして定着しやすい面を形成する効果もある。しかしながら、銅を含有しない、あるいは銅の含有量が少ない摩擦材については、このような作用を有さず、TFが形成され難いいものとなる。
【0011】
さらに、近年では、自動車市場では回生協調ブレーキの普及が進んでいる。回生協調ブレーキでは、従来通りの摩擦材による摩擦抵抗だけでなく、タイヤの回転力を電力に変換する際の抵抗も制動力として利用する。このような回生協調ブレーキを用いる自動車においては、高速走行状態での制動においては、タイヤの回転力が高く、発電効率が大きくなることから回生協調ブレーキが多用され、摩擦材による制動は、回生協調ブレーキの発電効率の低い低速走行状態に限定されることとなり、摩擦材による制動の比率が格段に減ることとなる。
【0012】
このため、回生協調ブレーキを用いる自動車においては、摩擦材による制動時に摩擦界面で生じる熱量が小さいため、有機分解物やチタン酸塩等のTF成分がディスクロータ表面に移着し難いものとなる。また、上記の理由から銅も使用できなくなるため、よりいっそう、TFを形成して安定した摩擦特性を発現することが難くなる。
【0013】
特に、回生協調ブレーキでは制動が電子制御されるため、摩擦材の摩擦係数が安定していないとドライバーが想定した以上の制動力が発生して急ブレーキになってしまうことがある。逆に、ドライバーが求める制動力が得られず制動距離が伸びてしまうこともあり、快適なドライビングが損なわれる。
【0014】
このような観点から考えると、特許文献1、2は、銅の高い熱伝導率や高温潤滑性に着目した、高速走行時の高負荷制動時の摩擦特性の補完を課題とするものであり、低速走行からの低負荷制動については考慮されていない。例えば特許文献1では、熱伝導の補完を目的として、銅の代わりに酸化マグネシウムと黒鉛を摩擦材中に45〜80体積%含有し、酸化マグネシウムと黒鉛の比率を1/1〜4/1とする方法が提案されているが、研削材である酸化マグネシウムと、潤滑材である黒鉛の添加量が極端に多くなり、各種摩擦特性をバランス良く改善することは困難である。
【0015】
また特許文献2では、高温潤滑性の補完を目的として、銅の代わりに硫化第一鉄を1〜15質量%含有するとともに、平均粒子径が1〜100μmの薄片状黒鉛を0.3〜5質量%含有させることで高速高負荷制動時の摩擦係数、および耐摩耗性を改良する方法が提案されているが、軽負荷制動時の摩擦係数の安定性を改善することは困難である。
【0016】
そこで、本発明は、元素としての銅を含まない、あるいは含有率が0.5質量%を超えない環境有害性、および人体有害性が低い組成で、回生協調ブレーキに代表される軽負荷の制動でも適切にTFを形成し、安定した摩擦係数を発現する摩擦材を与える摩擦材組成物を提供することを目的とする。また、該摩擦材組成物を用いた摩擦材および摩擦部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、TFの形成に必須の有機充填材およびチタン酸塩について研究し、低速での軽負荷制動時において、その温度での有機充填材の分解量をある程度とすることができれば適正量のTFが形成できることを見出した。すなわち、チタン酸塩は制動によってブレーキロータ表面に転移することでTFを形成するが、低速低負荷条件において、それ単独では十分量のTFが形成できない。このため、低温で分解しやすい有機充填材の量を調整して、軽負荷制動時の摩擦熱に相当する温度で、ある程度の量の有機充填材が分解するよう摩擦材組成物を構成すれば、軽負荷制動時において有機充填材の分解物とチタン酸塩の転延物により良好なTFが形成されることを見出した。また、軽負荷制動時の摩擦熱に相当する温度での有機充填材の分解量は、熱重量分析における質量の減少量として把握できることを見出した。
【0018】
本発明の摩擦材組成物は、これらの知見からなされたものであり、具体的に、結合材、有機充填材、無機充填材、および繊維基材を含有する摩擦材組成物であって、元素としての銅を含まない、または銅の含有率が0.5質量%を超えず、大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5〜20%であり、チタン酸カリウムを含有し、さらにチタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち少なくとも1種類を含有し、前記チタン酸カリウムおよび前記チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち少なくとも1種類の合計が10〜35質量%としたものである。
【0019】
本発明の摩擦材組成物においては、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムのうち少なくとも1種類を11〜30質量%含有することが好ましく、また、金属粉、あるいは金属繊維として鉄、錫、亜鉛、アルミニウムのうち少なくとも1種類を0.5〜5質量%含有することが好ましい。
【0020】
また、本発明の摩擦材は、結合材、有機充填材、無機充填材、および繊維基材を含有し、元素としての銅を含まない、または銅の含有率が0.5質量%を超えず、チタン酸カリウムを含有し、さらにチタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち少なくとも1種類を含有し、前記チタン酸カリウムおよび前記チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち少なくとも1種類の合計が10〜35質量%である摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5〜20%である部分を有するものである。
【0021】
本発明の摩擦材においては、前記摩擦材組成物が、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムのうち少なくとも1種類を11〜30質量%含有することが好ましく、また、前記摩擦材組成物が、金属粉、あるいは金属繊維として鉄、錫、亜鉛、アルミニウムのうち少なくとも1種類を0.5〜5質量%含有することが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の摩擦部材は、上記の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを一体化してなるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、自動車用ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材に用いた際に、環境有害性、および人体有害性が低い組成としつつ、回生協調ブレーキ等に代表される、軽負荷制動時に安定したTFを形成し、安定した摩擦係数を発現する摩擦材を与える摩擦材組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記特性を有する摩擦材および摩擦部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の摩擦材組成物、これを用いた摩擦材および摩擦部材について詳述する。なお、本発明の摩擦材組成物は、アスベストを含有しないアスベストを含有しない摩擦材組成物、いわゆるノンアスベスト摩擦材組成物である。
【0025】
[摩擦材組成物]
本発明の摩擦材組成物は、結合材、有機充填材、無機充填材、および繊維基材を含有する摩擦材組成物であり、元素としての銅を含まない、または銅の含有率が0.5質量%を超えないものである。このため、制動時に生成する摩耗粉中に銅を含まない、または極微量であるため、河川や湖を汚染する虞がないものである。
【0026】
[大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率]
本発明の摩擦材組成物は、有機充填材および結合材を含む。有機充填材および結合材は摩擦に際して発生する熱により熱分解してディスクロータ表面にTFを形成する。したがって、軽負荷制動時の摩擦熱に相当する温度におけるこれらの成分の熱分解量をある程度以上とすれば、軽負荷制動時であっても良好なTFがディスクロータ表面に形成される。この観点から、本発明摩擦材組成物においては、大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5〜20%の範囲とする。より好ましくは5〜18%、さらに好ましくは6〜15%の範囲とする。大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5%に満たないと分解する有機充填材の量が乏しく、ディスクロータ表面に良好なTFが形成されない。その一方で大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が20%を超えると分解する有機充填材の量が過多となり、摩擦材の摩耗が促進される。
【0027】
摩擦材は、摩擦材組成物を予備成形した予備成形体を熱圧成形、もしくは摩擦材組成物を直接熱圧成形し、必要に応じて熱処理を施して結合材の熱硬化を行って製造される。
このようにして製造された新品の摩擦材においては、摩擦材全体が上記のように大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5〜20%の範囲であればよい。しかしながら、使用された摩擦材においては、制動時の摩擦熱により熱履歴を受けているため、熱履歴を受けた部分を除去した後の摩擦材の部分が、上記のように大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5〜20%の範囲であればよい。
【0028】
また、摩擦材の製造工程においては、制動時の摩擦熱による熱履歴を予め新品の摩擦材表面に与えて、使用初期より繰り返し使用時とブレーキの効きが変わらないようにするスコーチ処理を行うことがある。このようなスコーチ処理を施された摩擦材は、新品の摩擦材であっても既に熱履歴を受けていることとなる。この場合においても、熱履歴を受けた部分を除去した後の摩擦材の部分が、上記のように大気雰囲気下500℃で加熱した際の質量減少率が5〜20%の範囲であればよい。
【0029】
なお、上記の質量減少率は、スコーチ処理を受けていない新品の摩擦材の場合には、摩擦材表面の表面から削り出した試料を用いて熱重量分析(Thermogravimetric Analysis:TG)を行った際の質量の減少量から調べることができる。また、スコーチ処理を受けた摩擦材の場合、あるいは繰り返し使用された摩擦材の場合には、熱履歴を受けた部分を除去した後の表面から削り出した試料を用いることで、摩擦材の質量減少率を調べることができる。
【0030】
摩擦材の500℃における質量減少率を上記の範囲とするためには、摩擦材に含まれるカシューダストやゴム成分等の有機充填材の量を調整することで行うことができる。すなわち、有機充填材として用いられるカシューダストやゴム成分等は、分解温度が比較的低いため、軽負荷制動時に発生する摩擦熱で分解してディスクロータ表面にTFを形成する。したがって、カシューダストやゴム成分等の含有量を調整することで、軽負荷制動時に発生する摩擦熱に相当する、大気雰囲気下500℃の温度で加熱した際の摩擦材の質量減少量を適正な範囲に調整して、ディスクロータ表面に適量のTFを形成することができる。
【0031】
このような観点から、摩擦材に含まれるカシューダストとゴム成分の合計量は1〜20質量%とすることが好ましい。1〜15質量%であることがより好ましく、2〜10質量%であることがさらに好ましい。なお、カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを重合、硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。また、ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、カシューダストとゴム成分とを併用する場合には、カシューダストをゴム成分で被覆したものを用いてもよいが、音振性能の観点から、カシューダストとゴム成分を別個に与えてもよい。
【0032】
[チタン酸塩(無機充填材)]
本発明の摩擦材組成物は無機充填材を含有する。無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるために摩擦調整材として含まれるものである。本発明の摩擦材組成物において、無機充填材としてはチタン酸塩を含有する。チタン酸塩は、上記のように制動によって摩擦界面に延び、TFの成分となる作用を有する。
【0033】
上記チタン酸塩の合計含有率は10〜35質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましく、13〜25質量%であることがさらに好ましい。チタン酸塩の含有率を10質量%以上とすることで摩擦係数の安定性が向上し、35質量%以下とすることで、極端な気孔率上昇を避けることができる。気孔率が極端に上昇してしまうと、摩擦材の機械強度が低下するだけでなく、吸湿による摩擦係数の安定性低下、および摩擦材と相手が錆で固着する危険性が高まる。また、チタン酸塩としては、8チタン酸カリウム、6チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等を用いることができる。ただし、チタン酸カリウムのみ含有する場合、耐摩耗性の悪化が問題となることがあり、逆にチタン酸リチウムカリウム、あるいはチタン酸マグネシウムカリウムのみ含有する場合は摩擦係数が極端に低下してしまうことが問題となることがある。したがって、チタン酸カリウムだけでなく、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムのうち、少なくとも1種類を含有することが必須である。また、本実施形態の摩擦材組成物に用いることができるチタン酸塩は、極端な特性の悪化を招かない限りであれば、粒度、形状等の制約を受けるものではない。例えば、形状としては針状、板状、粒状、アメーバ状等であっても問題ない。
【0034】
[珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウム(無機充填材)]
また、本発明の摩擦材組成物は、無機充填材として上記チタン酸塩の他に、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムのうち少なくとも1種類を含有する。珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムは研削材として作用し、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムの含有量を合計で11質量%以上とすることで、相手材であるディスクロータへの攻撃性が適切に付与され、新品時のブレーキロータ表面に残る製造時の研磨溝が研磨され、TFが定着し易い面を形成することができる。一方、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムの含有量が過多となると、相手材であるディスクロータへの攻撃性が過大となりディスクロータの摩耗を引き起こすとともに、摩擦材の強度の低下が著しくなるほか、摩擦時に脱落した研削材が研磨粉として作用して摩擦材の摩耗量が増大することとなる。このため、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムの含有量を30質量%以下とすることでこれらの不具合を解する。なお、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムの含有量は、上記のとおり、合計で11〜30質量%とするが、11〜25質量%であることがより好ましく、11〜22質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
上記の珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムのメジアン径は、0.5〜30μmであることが好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましい。珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムのメジアン径を0.5μm以上とすることで良好な摩擦係数、ディスクロータへの攻撃性が発現し、30μm以下とすることで摩擦界面での分散性を高め、摩擦係数を安定化できるだけでなく、相手材への攻撃性が極端に高くなることを回避できる。
【0036】
なお、上記珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムのメジアン径は、レーザー回折粒度分布測定などの方法を用いて測定することができる。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置、商品名:LA・920(株式会社堀場製作所製)で測定することができる。また、本発明の効果を損なわない程度であれば、本実施形態のチタン酸塩、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムに、通常、摩擦材に用いられる無機充填材を組み合わせて用いることができる。
【0037】
[その他の無機充填材]
前記のチタン酸塩、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウム以外の無機充填材としては、例えば、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、珪酸ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、シリカ、γ−アルミナ等の活性アルミナを用いることができ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
無機充填材の総含有量は、チタン酸塩、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、および酸化マグネシウムを含め、摩擦材用組成物において20〜80質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましく40〜80質量%であることがさらに好ましい。無機充填材の含有量を20〜80質量%とすると、耐熱性の悪化を避けることができる。
【0039】
[繊維基材]
本発明の摩擦材組成物は繊維基材を含有する。繊維基材は摩擦材において補強作用を示すものである。繊維基材としては、有機繊維、無機繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0040】
本発明の摩擦材組成物は有機繊維としてアラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、フェノール樹脂繊維等を用いることができ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。この中でも、耐熱性、補強効果の観点から、アラミド繊維を用いることが好ましい。
【0041】
無機繊維としては、ウォラストナイト、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、アルミノシリケート繊維等を用いることができ、1種または2種類以上を組み合わせて用いることができるが、人体への有害性の観点から、吸引性のチタン酸カリウム繊維等を含有しないことが好ましい。
【0042】
なお、ここでいう鉱物繊維とは、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維であり、Al元素を含む天然鉱物であることがより好ましい。具体的には、SiO、Al、CaO、MgO、FeO、NaO等が含まれるもの、またはこれら化合物が1種または2種以上含有されるものを鉱物繊維として用いることができ、これらのうちAl元素を含むものがより好ましい。摩擦材組成物中に含まれる鉱物繊維全体の平均繊維長が大きくなるほど摩擦組成物中の各成分との接着強度が低下する傾向があるため、鉱物繊維全体の平均繊維長は500μm以下が好ましく、より好ましくは100〜400μmである。ここで、平均繊維長とは、該当する全ての繊維の長さの平均値を示した数平均繊維長のことをいう。例えば200μmの平均繊維長とは、摩擦材組成物原料として用いる鉱物繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長を測定し、その平均値が200μmであることを示す。
【0043】
本発明で用いられる鉱物繊維は、人体有害性の観点で生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、かつ呼吸による短期バイオ永続試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内または腹膜内試験で過度の発癌性の証拠がないかまたは長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生がないことを満たす繊維を示す(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO−Al−CaO−MgO−FeO−NaO系繊維等が挙げられ、SiO、Al、CaO、MgO、FeO、NaO等を任意の組み合わせで含有した繊維が挙げられる。市販品としてはLAPINUS FIBERS B.V.製のRoxulシリーズ(「Roxul」は、登録商標。)等が挙げられる。「Roxul」には、SiO、Al、CaO、MgO、FeO、NaO等が含まれる。
【0044】
金属繊維としては鉄系繊維、チタン繊維、亜鉛繊維、アルミ繊維等を用いることができ、1種または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
繊維基材は、摩擦材組成物中に5〜40質量%含有することが好ましく、5〜35質量%含有することがより好ましく、6〜30質量%含有することがさらに好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%とすると、効き特性の著しい低下等の弊害を与えることなく、適度な補強効果を摩擦材に付与する効果がある。
【0046】
[結合材]
本発明の摩擦材組成物は、結合材を含有する。結合材は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材および繊維基材等を一体化して、強度を与えるものである。本実施形態の摩擦材組成物に含まれる結合材としては、通常、摩擦材に用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、シリコーンゴム変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂が挙げられ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。良好な耐熱性、成形性および摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、シリコーンゴム変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0047】
本発明の摩擦材組成物における、結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることがさらに好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴き等の音振性能悪化を抑制できる。
【0048】
[金属粉]
また、本発明の摩擦材組成物には、金属粉を配合することができる。金属粉としては、例えば、鉄粉、錫粉、亜鉛粉、アルミニウム粉等、およびそれらの合金粉等が挙げられ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用できる。金属粉の含有量は合計で0.5〜5質量%であることが好ましく、0.5〜4質量%であることがより好ましく、1〜4質量%であることがさらに好ましい。金属粉の含有量を合計で0.5質量%以上とすることで、金属粉がディスクロータ表面にTFを形成するとともに、新品時ディスクロータの研磨溝を研磨する、あるいは埋めることで、有機充填材やチタン酸塩等、および金属粉によるTFが定着し易いディスクロータ面を生成し、軽負荷制動時の摩擦係数が安定する。また、金属粉の合計量を5質量%以下とすることで、過剰な金属間凝着等を抑制し、摩擦材、およびディスクロータの極端な摩耗悪化を避けることができる。
【0049】
また、本発明の摩擦材組成物に用いることができる金属粉は、極端な特性の悪化を招かない限りであれば、粒度、形状等の制約を受けるものではない。例えば、形状としては一般的なアトマイズ法等で製造された球状であっても、一般的な切削法等で製造された柱状等であっても問題ない。また、金属としての純度は90%以上であることが好ましいが、金属粉、および摩擦材組成物の長期保管等により金属粉表面が金属酸化物等に変化しても問題ない。
【0050】
[その他の成分]
また、本発明の摩擦材組成物は、前記の材料以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。
【0051】
<摩擦材および摩擦部材>
本発明の摩擦材組成物は、自動車等のディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材としてまたは本実施形態の摩擦材組成物を目的形状に成形、加工、貼り付け等の工程を施すことによりクラッチフェーシング、電磁ブレーキ、保持ブレーキ等の摩擦材としても使用することができる。
【0052】
本発明の摩擦材組成物は、摩擦面となる摩擦部材そのものとして用いて摩擦材を得ることができる。それを用いた摩擦材としては、例えば、下記の構成などが挙げられる。
(1)摩擦部材のみの構成
(2)裏金と、該裏金の上に形成させ、摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦部材とを有する構成
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦部材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、裏金と摩擦部材の接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成、等が挙げられる。
【0053】
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属または繊維強化プラスチック等を用いることができ、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチックが挙げられる。プライマー層および接着層としては、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0054】
本発明の摩擦材組成物は、一般に使用されている方法を用いて摩擦材を製造することができ、本発明の摩擦材組成物を加熱加圧成形して製造することができる。詳細には、例えば、本実施形態の摩擦材組成物をレーディゲミキサー(「レーディゲ」は、登録商標。)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は、登録商標。)等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130〜160℃、成形圧力20〜50MPa、成形時間2〜10分間の条件で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理することにより本実施形態の摩擦材を得ることができる。なお、必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理等を行ってもよい。
【0055】
本発明の摩擦材組成物は、摩擦係数の安定性や高温での耐摩耗性等に優れるため、ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦部材の「上張り材」として有用であり、さらに摩擦部材の「下張り材」として成形して用いることもできる。
なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0057】
<実施例1〜7および比較例1〜6>
[ディスクブレーキパッドの作製]
表1および2に示す配合比率にしたがって材料を配合し、実施例1〜7および比較例1〜6の摩擦材組成物を得た。
【0058】
この摩擦材組成物をレーディゲミキサー(株式会社マツボー製、商品名:レーディゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業株式会社製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力35MPa、成形時間5分間の条件で成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて、日立オートモティブシステムズ株式会社製の裏金(鉄製)とともに加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ9.5mm、摩擦材投影面積52cm)を得た。
【0059】
なお、実施例および比較例において使用した各種材料は次のとおりである。
[結合材]
・樹脂A(フェノール樹脂):日立化成株式会社製HP491UP
・樹脂B(フェノール樹脂):日立化成株式会社製PR1950W
[有機充填材]
・カシューダスト:東北化工株式会社製FF−1051
・ゴム成分A(タイヤゴム粉):株式会社カークエスト製粉末TPA
・ゴム成分B(ニトリルブタジエンゴム):日本ゼオン株式会社製Nipol1411
[無機充填材]
・チタン酸塩A(8チタン酸カリウム):大塚化学株式会社製テラセスTF−S
・チタン酸塩B(チタン酸リチウムカリウム):大塚化学株式会社製テラセスL
・チタン酸塩C(チタン酸マグネシウムカリウム):大塚化学株式会社製テラセスPCS
・硫酸バリウム
・黒鉛
・硫化錫
・マイカ
・水酸化カルシウム
・研削材A(珪酸ジルコニウム):第一稀元素化学工業株式会社製MZ1000B
・研削材B(酸化ジルコニウム):第一稀元素化学工業株式会社製BR−QZ
・研削材C(酸化マグネシウム):協和化学工業株式会社製工業用酸化マグネシウム2000
[繊維基材]
・アラミド繊維(有機繊維)
・鉱物繊維(無機繊維)
[金属粉、金属繊維]
・鉄繊維:GMT製#0
・亜鉛粉:福田金属箔粉工業株式会社製Zn−At−200
・錫粉:山石金属株式会社製AT−Sn No.200
・アルミニウム粉:山石金属株式会社製VA−40
【0060】
[500℃重量減少率の評価]
前記の方法で作製した実施例1〜7および比較例1〜6のディスクブレーキパッドについて、TF形成成分となり得る有機充填材の含有量の指標として、500℃における重量減少量を熱重量分析(Thermogravimetric Analysis:TG)を用いて評価した。重量減少率は、重量減少量/熱重量分析前の重量として算出した。評価には新品時摩擦材表面から2〜3mm深さの層から採取した試料を用いた。なお、試料の削り出しにはフライスカッターやエンドミル等を用いることができる。また、削り出した試料の粒度が大きい場合は、乳鉢等を用いて熱重量分析に適した粒度に調整できる。上記の熱重量分析は、株式会社リガク製Thermo plus EVO TG8120等を用いることができる。測定雰囲気は大気、測定温度範囲は25〜800℃、昇温速度は10℃/分。試料量10mg、試料容器はアルミナ製のものを用いることが推奨される。ここで、500℃重量減少率の評価について、11〜15%を優秀として「◎」、5%〜10%および16〜20%を良好として「○」、0〜4%および21%以上を不適として「×」を表1および表2にそれぞれ記載した。
【0061】
また、実施例1〜7および比較例1〜6のディスクブレーキパッドについて、ブレーキダイナモ試験機(新日本特機株式会社製)を用いて各種性能の評価を行った。実験には、一般的なピンスライド式のコレット型キャリパーおよび株式会社キリウ製ベンチレーテッドディスクローター(FC250(ねずみ鋳鉄))を用い、日産自動車株式会社製、スカイラインV35の半分の慣性モーメントで評価を行った。
【0062】
[効き特性の評価]
試験は車速40km/h、0.1Gの制動をブレーキ開始時のディスクロータ温度50℃で100回繰り返し、制動100回目の摩擦係数を評価した。一般的に、新品時の摩擦材の表面は馴らされていないためディスクロータとの接触面積が小さく、さらにTFも形成されていないため摩擦係数が低いものとなる。制動の繰り返しとともに摩擦係数が上昇し安定するが、上記のような車速や減速度、ディスクロータ温度が低い軽負荷制動では摩擦係数が安定し難い。ここで、摩擦係数の評価について、0.37〜0.43を優秀として「◎」、0.34〜0.36および0.44〜0.47を良好として「○」、0.34未満および0.48以上を不適として「×」を表1および表2にそれぞれ記載した。
【0063】
[耐摩耗性の評価]
試験はJASO C427に準拠し、制動前ブレーキ温度が400℃におけるディスクパッドの摩耗量をそれぞれ計測し、耐摩耗性として評価した。ここで、摩耗量の評価について、0.60mm未満を優秀として「◎」、0.60〜0.99mmを良好として「○」、1.00mm以上を不適として「×」を表1および表2にそれぞれ記載した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1〜7は、銅を含有する比較例6と同水準の摩擦係数、耐摩耗性を示した。また、実施例1〜7は、500℃での重量減少が少ない比較例1、チタン酸塩としてチタン酸カリウムしか含有しない比較例2、チタン酸塩としてチタン酸リチウムカリウムしか含有しない比較例3、チタン酸カリウムとチタン酸リチウムカリウムを両方含有するが合計量が少ない比較例4、500℃での重量減少が極端に多い比較例5に対して摩擦係数、および耐摩耗性が優れることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の摩擦材組成物は従来品と比較して、環境負荷の高い銅を用いなくとも、軽負荷制動でも適正量のTFを形成することで安定した摩擦係数を発現するため、一般的な乗用車向けには勿論、回生協調ブレーキ搭載の乗用車用ブレーキパッドなどの摩擦材および摩擦部材に好適である。