(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、卓上電子計算機、電子時計、自動車や機械類の計器類、テレビ、ノートパソコン、携帯電話等に液晶表示装置が用いられ、それに伴い偏光板の需要も増大している。
かかる偏光板は、一般に偏光能を有する偏光フィルムの両面あるいは片面に接着剤層を介して保護フィルムが接着されて構成されている。現在、知られている代表的なPVA系偏光フィルムには、PVA系フィルムにヨウ素を染色・吸着させたものや有機染料を染色・吸着させたものが挙げられるが、中でもヨウ素を染色・吸着させた偏光フィルムは、偏光性能が特に優れる点から好ましく用いられる。
【0003】
このように、PVA系フィルムにヨウ素や有機染料などの二色性の材料を染色・吸着させた偏光フィルムは、PVA系樹脂の水溶液を製膜し、得られるPVA系フィルムに対して、染色処理、耐久化のためのホウ素化合物処理及び一軸延伸処理を施してなるものであり、好ましくは染色処理後、ホウ素化合物処理を行いながら一軸延伸を行ってなるものであり、また、保護フィルムとしては、酢酸セルロース系フィルムが光学的透明性、無配向性等に優れているため汎用されている。
【0004】
上記の偏光フィルムのうち、ヨウ素を染色・吸着させたヨウ素系偏光フィルムは、染料系偏光フィルムに比べて、高透過率及び高偏光度が得られるという点から、ヨウ素系偏光フィルムが広く用いられている。
【0005】
このようなヨウ素系偏光フィルムの製造に際し、染色処理後のホウ素化合物処理中において、ホウ素化合物処理液に、溶解したPVAやホウ素化合物により架橋されたPVAからなる異物が発生してしまうことがある。具体的には、染色槽からホウ素化合物処理槽に持ち込まれるヨウ素や溶出されたPVAがホウ素化合物処理槽中のホウ酸、ヨウ化カリウムと共に冷却され会合することにより、異物、即ち、ポリヨードイオン・PVA錯体が生成すると考えられる。
かかる異物は、偏光フィルムに付着し、欠点となって偏光フィルムの品質を低下させてしまい、歩留まりも低下するという問題点がある。
【0006】
そこで、上記のようなPVAに起因する異物を除去する方法として、架橋剤及びヨウ化物を含有する処理液中にポリビニルアルコールフィルムを浸漬して、所定の処理をする工程を含む偏光フィルムの製造方法であって、前記処理は、前記処理液を活性炭に接触させることにより処理液中のポリビニルアルコールフィルムを吸着除去しながら行う偏光フィルムの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、PVA系フィルムにヨウ素が吸着配向された偏光子であって、かかる偏光子は、少なくとも一つの還元剤を含有する処理浴による処理が施され、該偏光子は還元剤の酸化体を含有し、還元剤及びその酸化体の含有量が所定量である偏光子が提案されている(例えば、特許文献2参照。)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるPVA系フィルムは、PVA系樹脂を含有する樹脂水溶液を用いて流延製膜される。
【0018】
PVA系樹脂としては、通常、未変性のPVA系樹脂、即ち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(例えば、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等が挙げられる。
【0019】
また、PVA系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0020】
本発明で用いるPVA系樹脂の平均ケン化度は、通常90モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上、殊に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以上である。平均ケン化度が小さすぎるとPVA系樹脂を偏光フィルムとする場合に充分な光学性能が得られない傾向がある。
【0021】
ここで、本発明における平均ケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析することにより得られる。
【0022】
更に、かかるPVA系樹脂の粘度は、20℃にける4重量%水溶液粘度として、通常8〜500mPa・sであることが好ましく、特には20〜400mPa・s、更には40〜400mPa・sが好ましい。4重量%水溶液粘度が小さすぎると偏光フィルム作製時の延伸性が低下する傾向にあり、大きすぎるとフィルムの平面平滑性や透明性が低下する傾向にある。
【0023】
ここで、本発明における水溶液粘度は、ヘプラー粘度計における鋼球の落下秒数を計測することにより測定される。
【0024】
本発明に用いるPVA系樹脂として、上記PVA系樹脂において、変性種、平均ケン化度、粘度などの異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0025】
本発明で用いるPVA系樹脂水溶液には、必要に応じてグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等、一般的に使用される可塑剤の一種又は二種以上をPVA系樹脂に対して30重量%以下、好ましくは3〜25重量%、更に好ましくは5〜20重量%含有させることもできる。該可塑剤が多すぎるとフィルム強度が低下する傾向がある。
【0026】
また、更に好ましくはフィルムの製膜時の基材(ロールやベルト等)からの剥離性を向上させるために、各種界面活性剤の一種又は二種以上をPVA系樹脂に対して5重量%以下、好ましくは0.001〜3重量%、更に好ましくは0.001〜2重量%含有させる。該界面活性剤が多すぎるとフィルムの表面の外観不良やフィルム同士のブロッキングが起こる傾向がある。
【0027】
上記PVA系樹脂水溶液は、水に溶解したものであるが、溶媒として、水の他に、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類及びこれらの混合物を併用することもできる。
PVA系樹脂水溶液中のPVA系樹脂の濃度は、通常5〜50重量%、好ましくは20〜40重量%である。
【0028】
本発明において、偏光フィルムの製造法としては、PVA系樹脂水溶液を調製し、該水溶液をT型スリットダイより、ドラム型ロールまたはエンドレスベルト、好ましくはドラム型ロールに流延して製膜し乾燥することで原反フィルムを製造し、その後、該原反フィルムに、染色処理、ホウ素化合物処理、一軸延伸処理を施して、偏光性能を付与し、偏光フィルムとする方法が一般的である。
【0029】
上記のドラム型ロールの材質としては、通常ステンレスが好適に用いられ、かかるロール表面は傷つき防止のため金属メッキが施されていることが好ましい。金属メッキの種類としては、例えばクロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキ等が好適に用いられ、単独で又は2種以上の多層の組み合わせで使用することができ、特に表面平滑化の容易さやその耐久性の点から最表面がクロムメッキであることが好ましい。ドラムの表面は平滑性を保持することが望ましく、表面粗さが3S以下、特に0.5S以下が望ましい。
【0030】
製膜時のドラム型ロールの温度は50〜120℃が実用的であり、フィルムの含水率が5〜30重量%程度に達した時点でロールから剥離する。続いて、単独又は多段ロールを用いて乾燥、好ましくは多段ロールを用いてフィルムの表裏面の交互乾燥が継続され、乾燥した後に、未延伸のPVA系フィルムが形成される。
【0031】
必要に応じて、乾燥後、熱処理や調湿が行われ、芯管にロール状態に巻き取られてPVA系フィルムが得られる。得られるPVA系フィルムの膜厚としては、10〜100μmが好ましく、更には20〜90μm、特に好ましくは30〜80μmで、膜厚が薄すぎると延伸が難しくなる傾向があり、厚すぎると膜厚精度が低下する傾向がある。
【0032】
フィルムの幅は、通常、50cm〜6mであるが、近時の市場の要求が強い幅広フィルムの場合、2m以上、好ましくは2.5m以上、特に好ましくは3m以上、殊に好ましくは4m以上が有用である。フィルムの長さも通常、1000m〜30000m、好ましくは5000m〜20000mである。
【0033】
次に、PVA系フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法について説明する。
本発明においては、PVA系フィルムに、染色処理、ホウ素化合物処理、一軸延伸処理を施して、偏光性能を付与し、偏光フィルムとなるが、好ましくは、PVA系フィルムを少なくとも水洗処理、ヨウ素染色処理、ホウ素化合物処理の順に通過させて偏光フィルムを製造する。このとき、少なくともホウ素化合物処理中で一軸延伸することがポリヨードイオン・PVA錯体の生成と高い配向性の達成による優れた光学特性発現の点で好ましい。
【0034】
また、水洗処理とヨウ素染色処理の間に、PVA系フィルムを膨潤させる膨潤処理を設けることもPVA系フィルムの過度の膨潤によるシワ発生を防止する点で好ましい。
【0035】
偏光フィルムの製造方法としては、上記のPVA系フィルムを、例えば、水洗した後(必要に応じて更に膨潤させた後)、(1)延伸してヨウ素染色液に浸漬し染色する、又は(2)延伸と染色を同時に行う、又は(3)ヨウ素染色液により染色して延伸を行う、の(1)〜(3)のいずれかの処理を行い、その後、ホウ素化合物により耐久化処理する方法が挙げられる。又、水洗処理や膨潤処理中に延伸したり、染色した後ホウ素化合物の溶液中で延伸する方法等もあり、適宜選択して用いることができるが、特には、少なくとも染色処理中及び/又はホウ素化合物処理中で延伸を行うことが光学性能の向上の点で好ましく、更には、ホウ素化合物処理中で延伸を行うことが好ましい。更に必要に応じていずれかの工程を二回またはそれ以上行ってもよい。
【0036】
水洗処理では、15〜40℃程度の水を用いてPVA系フィルムを洗浄することが好ましく、また、膨潤処理では、水または少量のホウ酸等の架橋剤を含有させた20〜40℃程度の水浴中で処理し、PVA系フィルムを膨潤させることが好ましい。
【0037】
次に、ヨウ素染色処理中のヨウ素染色液は、通常ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/l、ヨウ化カリウムの濃度は10〜100g/l、ヨウ化カリウム/ヨウ素の重量比は20〜100が適当である。ヨウ素染色液の温度は5〜50℃が好ましい。水溶媒以外にも水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させても差し支えない。またホウ酸等の架橋剤が含まれていてもよい。接触手段としては浸漬、塗布、噴霧等の任意の手段が適用できる。
【0038】
次に、ヨウ素染色処理されたPVA系フィルムは次いで耐久性向上のためホウ素化合物処理される。ホウ素化合物としてはホウ酸、ホウ砂が実用的である。ホウ素化合物は水溶液又は水−有機溶媒混合液の形で濃度0.3〜2モル/l程度で用いられ、液中には少量のヨウ化カリを共存させるのが実用上望ましい。
【0039】
処理方法としては浸漬法が望ましいが、勿論塗布法、噴霧法も実施可能である。処理時の温度は40〜70℃程度、処理時間は1〜20分程度が好ましく、また、該ホウ素化合物処理中に延伸操作を行うことが好ましい。
【0040】
本発明において、延伸は湿式延伸または乾式延伸で、一軸方向に3〜10倍、好ましくは3.5〜8倍延伸することが望ましい。特には、湿式延伸で行うことがより好ましい。この際、前記と直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度あるいはそれ以上の延伸)を行っても差し支えない。延伸時の温度条件は40〜170℃から選ぶのが望ましい。更に、かかる延伸倍率は最終的に上記の範囲に設定されれば良く、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すれば良い。
【0041】
本発明においては、欠点のない、光学特性に優れた偏光フィルムを得るために、PVA系フィルムをホウ素化合物処理するに際して、ホウ素化合物処理中にシュウ酸塩を含有させることを最大の特徴とするものである。
【0042】
上記ホウ素化合物処理中にシュウ酸塩を含有させるに際しては、ホウ素化合物処理液中に、シュウ酸塩を配合しておくことが好ましく、その含有量としては、ホウ素化合物処理液に対して0.02〜10重量%が好ましく、0.05〜5重量%がより好ましく、0.1〜2重量%が特に好ましく、0.2〜1重量%が最も好ましい。かかる含有量が少なすぎると、ヨウ素の還元除去性が低下しPVAに起因する異物の除去性が低下する傾向があり、多すぎると、延伸処理後の偏光フィルム表面の付着液を洗浄する際の負荷が大きくなる傾向がある。
【0043】
上記シュウ酸塩としては、例えば、シュウ酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸マグネシウム等が挙げられるが、中でもホウ素化合物処理液への溶解の点でシュウ酸アルカリ金属塩が好ましく、特にはヨウ素還元後の生成ヨウ化物がホウ素化合物処理液の一成分と同じになる点でシュウ酸カリウムが好ましい。具体的には、ヨウ素とシュウ酸カリウムの反応は、次式の如くであり、酸化体の炭酸ガスは系外に出て、残るヨウ化カリウムはホウ素化合物処理槽液の構成成分であるので繰返し添加しても不要な成分は何も蓄積しないこととなり、かかる点からもシュウ酸カリウムが好適である。
【0044】
(式1)
(COOK)
2+I
2 → 2CO
2+2KI
【0045】
本発明においては、上記シュウ酸塩をホウ素化合物処理中に含有させることにより、PVAに起因する異物を生成させる核となるヨウ素を還元除去することができ、そして、ポリヨードイオン・PVA錯体の会合を阻止することとなり、欠点のない偏光フィルムを製造することができる。
【0046】
かくして本発明の偏光フィルムが得られるのであるが、その片面又は両面に光学的に等方性の高分子フィルム又はシートを保護フィルムとして積層接着して偏光板として用いることもできる。
【0047】
かかる保護フィルムとしては、例えば、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド、シクロ系ないしはノルボルネン系ポリオレフィンなどのフィルムまたはシートが挙げられる。
【0048】
又、かかる偏光フィルムには、薄膜化を目的として上記保護フィルムの代わりに、その片面又は両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂等の硬化性樹脂を塗布し、積層させることもできる。
【0049】
更に、かかる偏光フィルム(又はその少なくとも片面に保護フィルムあるいは硬化性樹脂を積層したもの)は、その一方の表面に必要に応じて、透明な感圧性接着剤層が通常知られている方法で形成されて、実用に供される場合もある。該感圧性接着剤層としてはアクリル酸エステル、例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等とα−モノオレフィンカルボン酸、例えばアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、クロトン酸等との共重合物(アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチロールの如きビニル単量体を添加したものも含む。)を主体とするものが、偏光フィルムの偏光特性を阻害することがないので特に好ましいが、これに限定されることなく、透明性を有する感圧性接着剤であれば使用可能で、例えばポリビニルエーテル系、ゴム系等でもよい。
【0050】
又、更に偏光フィルム(または偏光板)の片面に各種機能層を設けることも可能であり、機能層としては、例えばアンチグレア層、ハードコート層、アンチリフレクション層、ハーフリフレクション層、反射層、蓄光層、拡散層、エレクトロルミネッセンス層、視野角拡大層、輝度向上層等が挙げられ、更に、各種2種以上の組み合わせをすることも可能で、例えばアンチグレア層とアンチリフレクション層、蓄光層と反射層、蓄光層とハーフリフレクション層、蓄光層と光拡散層、蓄光層とエレクトロルミネッセンス層、ハーフリフレクション層とエレクトロルミネッセンス層等の組み合わせが挙げられる。但し、これらに限定されることはない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0052】
偏光フィルムの製造において、ホウ素化合物処理中にシュウ酸塩を含有させることによる異物の除去性について、下記の通り評価を行った。
【0053】
〔評価の基準液の調製〕
5日間連続運転した後のホウ素化合物処理槽内の処理液を室温で一夜放置したところ、黄褐色の液中に暗青色の沈殿が生じた。沈殿は極微細で撹拌により容易に分散、黄褐色がかった青緑色の液となった。
一見均一なこの液に、チオ硫酸ナトリウム5水和物を0.015%添加し室温下撹拌したところ無色透明になった。下記反応とするとヨウ素が0.0076%存在していたと推定される。
【0054】
(式2)
2Na
2S
2O
3+I
2 → Na
2S
4O
6+2NaI
【0055】
〔評価1〕
前記青緑色のホウ素化合物処理槽内の処理液に、シュウ酸カリウム1水和物を0.1%添加し、80℃、2時間加熱したところ無色透明となり、一夜放置後も着色や沈殿の生成はなかった。
この無色透明になったホウ素化合物処理槽内の処理液に偏光フィルムの小片を浸漬したところ、室温放置で小片に変化はおこらず、更に60℃で5分間の加熱したところ小片はカールしたものの、小片の色相に変化はおこらなかった。
以上の結果より、上記ホウ素化合物処理槽内の処理液中に含まれていたヨウ素は、シュウ酸カリウムの添加により消失したことは明らかであり、偏光フィルムを浸漬させた際にも、異物の付着がおこらず、脱色もしないという本発明の作用効果を奏するものであることが確かめられた。
【0056】
〔評価2〕
前記青緑色のホウ素化合物処理槽内の処理液に、シュウ酸カリウム1水和物を5.0%添加したところ、室温では変化がおこらず、60℃で1時間加熱した際には無色透明液となり、一夜放置後も着色や沈殿の生成がおこらなかった。
この液に偏光フィルムの小片を浸漬したところ、60℃で5分間加熱した後に小片はカールしたものの、小片の色相に変化は無く、更に1時間経過後も変化は無かった。
以上の結果より、ホウ素化合物処理槽内の処理液中に含まれていたヨウ素は、シュウ酸カリウムの添加により消失したことは明らかであり、偏光フィルムを浸漬させた際にも、異物の付着がおこらず、脱色もしないという本発明の作用効果を奏するものであることが確かめられた。
【0057】
〔評価3〕
前記青緑色のホウ素化合物処理槽内の処理液に、チオ硫酸ナトリウム5水和物を0.1%添加したところ、処理液は室温下直ちに無色透明となった。
この液に偏光フィルムの小片を浸漬したところ、室温放置で小片は徐々に脱色し、一夜放置後には淡褐色透明となった。
この結果より、ホウ素化合物処理槽内の処理液中に含まれていたヨウ素はチオ硫酸ナトリウムの添加により消失したものの、その還元性が強いため、偏光フィルムを浸漬した場合には、偏光フィルム中のヨウ素までをも還元し、脱色してしまった。したがって、良好な光学特性を有する偏光フィルムを得ることができないものであった。
【0058】
次いで、種々条件に設定したホウ素化合物処理漕を用いて偏光フィルムを製造し、その光学性能を評価した。
【0059】
〔実施例1〕
〔PVAフィルムの製造方法〕
重量平均分子量135,000、ケン化度99.7モル%のポリビニルアルコール系樹脂100部、可塑剤としてグリセリン12部、界面活性剤としてポリオキシエチレンドデシルアミン0.1部を用いて、30重量%濃度のポリビニルアルコール系樹脂水溶液(可塑剤、剥離剤も固形分として含む)を調製した後、T型スリットダイよりドラム型ロールで流延製膜し、乾燥、熱処理、調湿を行い含水率3重量%、幅3000mm、厚み60μmのポリビニルアルコール系フィルムを作製した。
【0060】
〔偏光フィルムの製造方法〕
まず、得られたポリビニルアルコール系フィルムを、水温30℃の水槽に浸漬しつつ、1.5倍に延伸した。次に、ヨウ素0.9g/L、ヨウ化カリウム40g/Lよりなる染色槽(30℃)にて浸漬しつつ1.3倍に延伸した。
次いで、ホウ酸40g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成に調整し5日間連続運転した後のホウ素化合物処理槽内の処理液に、80℃撹拌下シュウ酸カリウム1水和物を0.3g/L添加し2時間経過後、淡黄褐色透明液になった処理液を60℃に調温した。かかるホウ素化合物処理液槽に、上記染色後のポリビニルアルコール系フィルムを浸漬するとともに、同時に3.08倍に一軸延伸しつつ3分間にわたってホウ酸処理を行った。
最後に、乾燥することにより、総延伸倍率6倍の偏光フィルムを製造した。
〔光学性能評価造〕
得られた偏光フィルムの両面に40μmセルローストリアセテートフィルムを保護フィルムとして貼り合せ、光学性能評価用サンプルを製造した。
自動偏光フィルム測定装置(日本分光(株)製:VAP7070)を用いて、上記光学性能評価用サンプルの耐熱条件下(80℃×0〜200時間)の光学性能(二色比、単体透過率、偏光度)を測定した。
【0061】
〔実施例2〜4]
実施例1において、偏光フィルム製造途中のホウ酸処理時に配合するシュウ酸カリウム1水和物の量を、表1に記載の量に変更した以外は実施例1と同様にして偏光フィルムを製造し、光学性能を測定した。
【0062】
〔比較例1〜3〕
実施例1において、偏光フィルム製造途中のホウ酸処理時に配合するシュウ酸カリウム1水和物に変えてチオ硫酸ナトリウム五水和物を使用し、更にその配合量を表1に記載の量に変更した以外は実施例1と同様にして偏光フィルムを製造し、光学性能を測定した。
【0063】
〔比較例4〕
実施例1において、偏光フィルム製造途中のホウ酸処理時にシュウ酸カリウム1水和物を配合しなかった以外は実施例1と同様にして偏光フィルムを製造し、光学性能を測定した。
【0064】
【表1】
【0065】
偏光フィルム製造時のホウ素化合物処理槽内の処理液に、シュウ酸塩(シュウ酸カリウム1水和物)を配合した実施例1〜4の偏光フィルムは、製造時のシュウ酸塩の配合量が処理液中の残留ヨウ素量に対して過剰である場合でも、高い光学性能を示すことが確かめられた。
一方、処理液にチオ硫酸ナトリウム5水和物を配合した比較例1〜3の偏光フィルムは、その配合量が処理液中の残留ヨウ素量に対して過剰になるにつれて、光学性能が低下することがわかる。
また、ホウ素化合物処理液に配合剤を配合しなかった比較例4の偏光フィルムは、光学性能、特に単体透過率が劣るものであることがわかる。
これらの結果より、偏光フィルム製造時のホウ素化合物処理槽内の処理液に、シュウ酸塩を配合することにより、常時変化するホウ酸化合物処理液中のヨウ素濃度変動要因に左右されることなく良好な偏光フィルムが得られることが確かめられた。