特許第6610375号(P6610375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6610375
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】接着剤および複合接合体
(51)【国際特許分類】
   C09J 153/02 20060101AFI20191118BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20191118BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20191118BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20191118BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   C09J153/02
   C09J11/06
   B32B15/08 A
   B32B27/00 D
   H05K1/03 630H
   H05K1/03 650
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-62066(P2016-62066)
(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-171833(P2017-171833A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大道
(72)【発明者】
【氏名】小原 禎二
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/077267(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/176258(WO,A1)
【文献】 特開2015−078090(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/043708(WO,A1)
【文献】 特開2005−320459(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/147903(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/014757(WO,A1)
【文献】 特開2008−189823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B32B 15/08,27/00
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂層と金属層との接着に用いられる接着剤であって、
芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック(B)とからなり、全重合体ブロック(A)がブロック共重合体(C)全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック(B)がブロック共重合体(C)全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比wA:wBが30:70〜60:40であるブロック共重合体(C)の、主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合及び芳香環の炭素−炭素不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物(D)に、アルコキシシリル基が導入されてなる変性ブロック共重合体水素化物(E)を主成分とし、沸点90℃以上の有機溶剤をさらに含み、
変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部が、前記沸点90℃以上の有機溶剤100〜1000重量部に溶解されてなる接着剤。
【請求項2】
変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部に対して、シランカップリング剤が0.1〜10重量部の割合で配合されてなる、請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
耐熱性樹脂層と金属層とが、請求項1又は2に記載の接着剤で接着されてなる複合接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層と耐熱性樹脂層とを強固に接着することができる、低誘電率の接着剤、及び、金属層と耐熱性樹脂層とが前記接着剤により強固に接着されてなる複合接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型・薄型化、軽量化が要望されており、それに伴いプリント基板の高密度化の要求が増加している。また、高周波用途では伝送損失を低下させるために表面粗度の小さい銅箔が必要となっており、電解銅箔のマット面の凹凸を抑えたロープロファイル銅箔や表面粗さが小さい圧延銅箔が使用されるようになっている。
しかしながら、表面粗度の小さい銅箔は樹脂基材との接着力が弱く、細密回路では接着力が不足し、高密度化への障害となっている。
【0003】
表面粗度の小さい銅箔と樹脂基材との接着力を向上させる手段として、これまでにも、銅箔表面にシランカップリング剤を塗布する方法が多数提案されている(特許文献1〜4)。また、銅箔とシランカップリング剤の反応性を向上させるため、金属アルコラ−ト等により銅箔表面を前処理する方法(特許文献5)や、銅箔表面にポリシロキサン膜を付与する方法(特許文献6)等も提案されている。
しかしながら、これらの方法では、耐湿性や耐熱性等の、接着特性の耐環境安定性は改善されるものの、初期の接着強度そのものは、電解銅箔の粗化処理によるアンカ−効果の低減分を十分に補うことができるものではなかった。
【0004】
一方、プリント基板の一種であるフレキシブルプリント基板は、機器の内部配線や部品搭載基板として重要な部材である。フレキシブルプリント基板としては、ポリイミドフィルムに代表される絶縁フィルムと銅箔が直接接着された2層CCL(Copper Clad Laminate)や、絶縁フィルムと銅箔が接着剤を介して接着された3層CCLが知られている。2層CCLは接着剤を介さないものであるため、高温時の信頼性に優れるが、銅箔にポリイミドの前駆体であるポリアミック酸溶液を塗布し、乾燥、加熱イミド化する等の工程を要し、その製造は必ずしも容易ではない。一方、3層CCLはポリイミドフィルム等の絶縁フィルムと銅箔を接着剤により接着して積層するものであるため、工業的に製造が容易でコストも安価であり、また絶縁フィルムと銅箔の接着性にも優れる。このため、汎用用途では3層CCLが主に使用されている。
【0005】
3層CCLの製造に使用される接着剤には、接着性、電気絶縁性、耐薬品性、半田耐熱性等の特性が要求される。従来、これらの要求を満たす接着剤として、ポリアミド(ナイロン)/エポキシ系、ポリエステル/エポキシ系、フェノール/ブチラール系、ニトリルゴム/エポキシ系、アクリル系、ウレタン系等のものが使用されている。
しかし、これらの接着剤を使用して、表面粗度の小さい銅箔とポリイミド系フィルムとを強固に接着するためには、例えば、ポリアミド/エポキシ系接着剤を使用する場合において、予め銅箔表面をアミノシランカップリング剤で処理する必要があった(特許文献7)。
【0006】
本願発明に関連して、特許文献8には、ブロック共重合体水素化物にアルコキシシリル基が導入された変性ブロック共重合体水素化物(E)は、ガラスや金属に対する接着性を有し、電気絶縁性にも優れていることから、太陽電池の封止材に利用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭60−15654号公報
【特許文献2】特公平2−19994号号公報
【特許文献3】特開昭63−183178号公報
【特許文献4】特開平2−26097号公報
【特許文献5】特開平5−230667号公報
【特許文献6】特開平10−226009号公報
【特許文献7】特開2003−298230号公報
【特許文献8】WO2012/043708号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面粗度の小さい金属層と耐熱性樹脂層との接着性に優れ、かつ低誘電率で電気絶縁性に優れた新規な接着剤、及び、金属層と耐熱性樹脂層とが前記接着剤により強固に接着されてなる複合接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、アルコキシシリル基が導入されてなる特定の変性ブロック共重合体水素化物を(E)主成分として含有する接着剤が、金属層及び耐熱性樹脂層に対して強固な接着性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(3)の接着剤、及び、(4)の複合接合体が提供される。
(1)金属層と耐熱性樹脂層との接着に用いられる接着剤であって、
芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック(B)とからなり、全重合体ブロック(A)がブロック共重合体(C)全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック(B)がブロック共重合体(C)全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比wA:wBが30:70〜60:40であるブロック共重合体(C)の、主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合及び芳香環の炭素−炭素不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物(D)に、アルコキシシリル基が導入されてなる変性ブロック共重合体水素化物(E)を主成分とする接着剤。
(2)変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部に対して、シランカップリング剤が0.1〜10重量部の割合で配合されてなる、(1)に記載の接着剤。
(3)沸点90℃以上の有機溶剤をさらに含み、変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部が、前記沸点90℃以上の有機溶剤に100〜1000重量部の割合で溶解されてなる、(1)又は(2)に記載の接着剤。
(4)耐熱性樹脂層と金属層とが、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の接着剤で接着されてなる複合接合体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面粗度の小さい金属層と耐熱性樹脂層とを強固に接着性できる、高密度プリント基板等の製造に好適に使用される低誘電率、低誘電正接の接着剤、及び、金属層と耐熱性樹脂層とが、前記接着剤により強固に接着されてなる複合接合体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、1)接着剤、及び、2)複合接合体に項分けして、詳細に説明する。
1)接着剤
本発明の接着剤は、金属層と耐熱性樹脂層との接着に用いられる接着剤であって、
芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック(B)とからなり、全重合体ブロック(A)がブロック共重合体(C)全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック(B)がブロック共重合体(C)全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比wA:wBが30:70〜60:40であるブロック共重合体(C)の、主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合及び芳香環の炭素−炭素不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物(D)に、アルコキシシリル基が導入されてなる変性ブロック共重合体水素化物(E)を主成分とするものである。
【0013】
(1)ブロック共重合体(C)
ブロック共重合体(C)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体である。
【0014】
重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とするものである。重合体ブロック(A)中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、通常95重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位以外の成分として、鎖状共役ジエン由来の構造単位及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位を含むことができる。その含有量は通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
重合体ブロック(A)中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位が少なすぎると、接着剤の耐熱性が低下するおそれがある。
【0015】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン;2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン等の置換基としてアルキル基を有するスチレン類;4−モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、4−モノフルオロスチレン等の置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4−フェニルスチレン等の置換基としてアリール基を有するスチレン類;等が挙げられる。なかでも、低誘電率、低吸湿性の面で極性基を含有しないものが好ましく、工業的な入手の容易さからスチレンが特に好ましい。
芳香族ビニル化合物と共重合させることができる鎖状共役ジエン及びその他のビニル化合物としては、後述する重合体ブロック(B)の構造単位となる鎖状共役ジエン及びその他のビニル化合物と同様のものがあげられる。
【0016】
重合体ブロック(B)は、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とするものである。重合体ブロック(B)中の鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位の含有量は、通常95重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。重合体ブロック(B)は、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位以外の成分として、芳香族ビニル化合物由来の構造単位及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位を含むことができる。その含有量は、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位が上記範囲にあると、接着剤の接着性が優れる。
【0017】
鎖状共役ジエン系化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。なかでも、吸湿性の観点から、極性基を含有しない鎖状共役ジエン系化合物が好ましく、工業的な入手の容易さから、1,3−ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0018】
その他のビニル系化合物としては、鎖状ビニル化合物、環状ビニル化合物、不飽和の環状酸無水物、不飽和イミド化合物等が挙げられる。これらの化合物は、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、吸湿性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、4,6−ジメチル−1−ヘプテン等の炭素数2〜20の鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサン、ノルボルネン等の炭素数5〜20の環状オレフィン;1,3−シクロヘキサジエン、ノルボルナジエン等の環状ジエン化合物;等の極性基を含有しないものが好ましい。
【0019】
ブロック共重合体(C)は、全重合体ブロック(A)のブロック共重合体(C)全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック(B)のブロック共重合体(C)全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比wA:wBが20:80〜60:40、好ましくは25:75〜55:45、より好ましくは30:70〜50:50のものである。wAとwBとの比wA:wBがこの範囲にあれば、良好な接着強度を有する接着剤が得られる。
【0020】
ブロック共重合体(C)中の重合体ブロック(A)の数は、通常3個以下、好ましくは2個であり、重合体ブロック(B)の数は、通常2個以下、好ましくは1個である。
ブロック共重合体(C)のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもラジアル型ブロックでも良いが、鎖状型ブロックであるものが、機械的強度に優れ好ましい。ブロック共重合体(C)の最も好ましい形態は、重合体ブロック(B)の両端に重合体ブロック(A)が結合した、(A)−(B)−(A)型のトリブロック共重合体である。
複数の重合体ブロック(A)同士は、互いに同一であっても、相異なっていても良い。また、重合体ブロック(B)が複数有る場合には、重合体ブロック(B)同士は、互いに同一であっても、相異なっていても良い。
【0021】
ブロック共重合体[C]の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常40,000〜200,000、好ましくは45,000〜150,000、より好ましくは50,000〜100,000である。また、ブロック共重合体[C]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。Mw及びMw/Mnが上記範囲となるようにすると、機械的強度の良好な接着剤が得られる。
【0022】
ブロック共重合体[C]の製造方法としては、例えば、リビングアニオン重合等の方法により、芳香族ビニル化合物を主成分として含有するモノマー混合物(a)と鎖状共役ジエン系化合物を主成分として含有するモノマー混合物(b)を交互に重合させる方法;芳香族ビニル化合物を主成分として含有するモノマー混合物(a)と鎖状共役ジエン系化合物を主成分として含有するモノマー混合物(b)を順に重合させた後、重合体ブロック[B]の末端同士を、カップリング剤によりカップリングさせる方法等が挙げられる。
【0023】
(2)ブロック共重合体水素化物(D)
ブロック共重合体水素化物(D)は、上記のブロック共重合体(C)の主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合及び芳香環の炭素−炭素不飽和結合を水素化して得られる高分子である。その水素化率は通常90%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上である。水素化率が高いほど、耐酸化劣化性や耐光性の良好な接着剤が得られる。
ブロック共重合体水素化物(D)の水素化率は、ブロック共重合体水素化物(D)のH−NMRを測定することにより求めることができる。
【0024】
不飽和結合の水素化方法や反応形態等は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。なかでも、水素化率を高くでき、重合体鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような水素化方法としては、WO2011/096389号パンフレット、WO2012/043708号パンフレット等に記載された方法を挙げることができる。
【0025】
上記した方法で得られるブロック共重合体水素化物(D)は、水素化触媒および/または重合触媒を、ブロック共重合体水素化物(D)を含む反応溶液から除去した後、反応溶液から回収される。回収されたブロック共重合体水素化物(D)の形態は限定されるものではないが、通常はペレット形状にして、その後のアルコキシシリル基の導入反応に供することができる。
【0026】
ブロック共重合体水素化物(D)の分子量は、THFを溶媒としたGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常40,000〜200,000、好ましくは45,000〜150,000、より好ましくは50,000〜100,000である。また、ブロック共重合体水素化物(D)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。Mw及びMw/Mnが上記範囲となるようにすると、機械的強度が良好な接着剤が得られる。
【0027】
(3)変性ブロック共重合体水素化物(E)
変性ブロック共重合体水素化物(E)は、上記のブロック共重合体水素化物(D)に、アルコキシシリル基が導入されることにより得られたものである。
ブロック共重合体水素化物(D)にアルコキシシリル基を導入することにより、金属層及び耐熱性樹脂層に対する強固な接着性を付与することができる。
【0028】
アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等の、トリ(炭素数1〜6アルコキシ)シリル基;メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、プロピルジメトキシシリル基、プロピルジエトキシシリル基等の、(炭素数1〜20アルキル)ジ(炭素数1〜6アルコキシ)シリル基;フェニルジメトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基等の、(アリール)ジ(炭素数1〜6アルコキシ)シリル基;等が挙げられる。また、アルコキシシリル基は、ブロック共重合体水素化物(D)に、炭素数1〜20のアルキレン基や、炭素数2〜20のアルキレンオキシカルボニルアルキレン基等の2価の有機基を介して結合していても良い。
【0029】
ブロック共重合体水素化物(D)へのアルコキシシリル基の導入量は、通常、ブロック共重合体水素化物(D)100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部である。アルコキシシリル基の導入量が多過ぎると、得られる変性ブロック共重合体水素化物(E)を保存中に微量の水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋が進み、ゲル化したり、溶融成形時の流動性が低下して、接着剤としての接着性が低下するおそれがある。また、アルコキシシリル基の導入量が少な過ぎると、接着剤として金属層及び耐熱性樹脂層に対する接着性が低下するおそれがある。
【0030】
変性ブロック共重合体水素化物(E)は、公知の方法に従って製造することができる。製造方法としては、例えば、WO2012/043708号パンフレット、国WO2013/176258号パンフレット等に記載された方法が挙げられる。より具体的には、上記のブロック共重合体水素化物(D)に、有機過酸化物の存在下で、エチレン性不飽和シラン化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0031】
用いるエチレン性不飽和シラン化合物としては、ブロック共重合体水素化物[D]とグラフト重合し、ブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入するものであれば、特に限定されない。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラ、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、等が好適に用いられる。これらのエチレン性不飽和シラン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。
エチレン性不飽和シラン化合物の使用量は、ブロック共重合体水素化物(D)100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0032】
有機過酸化物としては、1分間半減期温度が170〜190℃のものが好ましく使用される。例えば、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が好適に用いられる。これらの過酸化物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。過酸化物の使用量は、ブロック共重合体水素化物(D)100重量部に対して、通常0.05〜2重量部、好ましくは0.1〜1重量部、より好ましくは0.2〜0.5重量である。
【0033】
上記のブロック共重合体水素化物(D)とエチレン性不飽和シラン化合物とを、過酸化物の存在下で反応させる方法は、特に限定されない。例えば、二軸混練機にて所望の温度で所望の時間混練することにより、ブロック共重合体水素化物(D)にアルコキシシリル基を導入することができる。二軸混練機による混練温度は、通常180〜220℃、好ましくは185〜210℃、より好ましくは190〜200℃である。加熱混練時間は、通常0.1〜10分、好ましくは0.2〜5分、より好ましくは0.3〜2分程度である。温度、滞留時間が上記範囲になるようにして、連続的に混練、押出しをすればよい。得られた変性ブロック共重合体水素化物(E)の形態は限定されるものではないが、通常はペレット形状にして、その後の接着剤の製造に供することができる。
【0034】
変性ブロック共重合体水素化物(E)の分子量は、導入されるアルコキシシリル基の量が少ないため、原料として用いたブロック共重合体水素化物(D)の分子量と実質的には変わらない。一方、過酸化物の存在下で、エチレン性不飽和シラン化合物と反応させるため、重合体の架橋反応、切断反応が併発し、変性ブロック共重合体水素化物(E)の分子量分布の値は大きくなる。
【0035】
変性ブロック共重合体水素化物(E)の分子量は、THFを溶媒としたGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常40,000〜200,000、好ましくは50,000〜150,000、より好ましくは60,000〜100,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下である。Mw及びMw/Mnが上記範囲となるようにすると、変性ブロック共重合体水素化物(E)の機械的強度が維持される。
【0036】
(4)接着剤
本発明の変性ブロック共重合体水素化物(E)を主成分として含有する接着剤は、金属層および耐熱性樹脂層との接着性に優れるものである。
本発明の接着剤において、変性ブロック共重合体水素化物(E)の含有量は、表面粗度の小さい金属層と耐熱性樹脂層とを強固に接着する観点から、通常9重量%以上、好ましくは11重量%以上、より好ましくは14重量%以上である。
【0037】
本発明の接着剤は、耐熱性樹脂層との接着強度をさらに高めるために、主成分としての変性ブロック共重合体水素化物(E)に加えてシランカップリング剤を含むことが好ましい。
【0038】
配合するシランカップリング剤としては、接着剤の特性をより向上させる観点から、エポキシシラン系カップリング剤、アミノシラン系カップリング剤が好ましく、エポキシシラン系カップリング剤が特に好ましい。
【0039】
エポキシシラン系カップリング剤の具体例としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
アミノシラン系カップリング剤の具体例としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
シランカップリング剤の配合量は、変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部に対して、通常、0.1〜10重量部以下、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部の割合で配合される。シランカップリング剤の配合量を上記範囲とすることにより、本発明の接着剤と極性基を有する耐熱性樹脂層との接着性をさらに高めることができ、ブロック共重合体水素化物(D)が有する低誘電率特性が維持される。
【0041】
本発明の接着剤の耐熱変形性をさらに向上させる目的で、変性ブロック共重合体水素化物(E)に架橋助剤及び有機過酸化物を配合することができる。
架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、多価アクリル酸エステル、多価メタクリル酸エステル等が挙げられる。これらの架橋助剤は、それぞれ単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
架橋助剤の配合量は、変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部に対して、通常5重量部以下、好ましくは3重量部以下、より好ましくは2重量部以下である。この範囲であれば、接着剤の耐熱変形性を改善し、誘電率の増大を小さく抑えることができる。
【0042】
有機過酸化物としては、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルチクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ラウロイルパーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、p−メンタンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの有機過酸化物は、それぞれ単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
架橋剤の使用量は変性ブロック共重合体水素化物[E]100重量部に対して、通常1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下である。この範囲であれば接着剤の耐熱変形性を改善し、誘電率の増大を小さく抑えることができる。
【0043】
本発明の接着剤には、耐熱劣化性をさらに向上させるために、酸化防止剤を配合することができる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、等が使用できる。酸化防止剤の配合量は、変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部に対して0.3重量部以下、好ましくは0.2重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下である。この範囲であれば、接着剤の耐熱劣化性を改善し、誘電率の増加を抑止できる。
【0044】
本発明の接着剤には、難燃性を付与するために、難燃化剤を配合することができる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、等が使用できる。難燃剤の配合量は、変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下である。この範囲であれば、接着剤の難燃性を改善しつつ、誘電率の増加を抑止できる。
【0045】
本発明の接着剤は、通常、有機溶剤、変性ブロック共重合体水素化物(E)、及び必要に応じて配合剤からなる。
有機溶剤としては、変性ブロック共重合体水素化物(E)を溶解する有機溶剤が使用できる。具体的には、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の芳香族系溶剤;デカリン等の飽和炭化水系溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;リモネン等のテルペン系溶剤;シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;等が挙げられる。
これらの有機溶剤はそれぞれ単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、基材へ塗布された接着剤からの溶剤の揮発性及び塗布工程での作業性の観点から、沸点(1気圧=1024hPaにおける沸点)90℃以上の有機溶剤が好ましく、沸点が100〜150℃の有機溶剤が特に好ましい。これらの溶剤には、沸点が90℃を下まわる有機溶剤を混合して使用することもできる。
【0046】
本発明の接着剤が有機溶剤を含む場合、有機溶剤の使用量は、本発明の接着剤を基材に塗布する工程での作業性を考慮して適宜選定すればよい。また、変性ブロック共重合体水素化物(E)の他の各種配合剤も溶液中に溶解乃至混合して使用できる。有機溶剤の含有量は、変性ブロック共重合体水素化物(E)100重量部に対し、通常100〜1000重量部、好ましくは150〜800重量部、より好ましくは200〜600重量部の割合である。
【0047】
本発明の接着剤は、表面粗度の小さい金属層と耐熱性樹脂層との接着性に優れ、かつ低誘電率で電気絶縁性に優れる。
本発明の接着剤が、接着性に優れることは、例えば、実施例に記載のようにして測定される剥離強度が4N/cm以上であることから、確認することができる。本発明の接着剤が低誘電率で電気絶縁性に優れることは、例えば、実施例に記載の、空洞共振器摂動法(ASTM D2520)により測定される、5GHzにおける誘電率が、2.5以下であり、誘電正接が0.002以下であることから、確認することができる。
【0048】
(5)接着剤の使用方法
本発明の有機溶剤を含む接着剤は、通常、耐熱性樹脂層及び/又は金属層に塗布した後、溶剤を揮発除去して接着剤を塗膜状にして使用する。
本発明の接着剤の塗膜が形成された耐熱性樹脂層及び/又は金属層は、塗膜面にもう一方の被着体である金属層及び/又は耐熱性樹脂層を積層して、加熱及び加圧することにより、耐熱性樹脂層と金属層が本発明の接着剤で接着された複合接合体となる。
【0049】
本発明の有機溶剤を含む接着剤を使用する場合、溶剤を揮発除去した後の接着剤の厚さは、通常5〜100μm、好ましくは8〜70μm、より好ましくは10〜50μmである。接着剤の厚さがこの範囲であれば、残留する有機溶剤が少なく、他の被着体層と良好な接着性が得られる。
【0050】
本発明の接着剤を使用して耐熱性樹脂層と金属層を接着する際の加熱温度は、通常、100〜200℃、好ましくは110〜190℃、より好ましくは120〜180℃である。本発明の接着剤を使用して耐熱性樹脂層と金属層を接着する際の被着体にかける圧力は、通常、0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜5MPa、より好ましくは0.1〜1MPaである。また、加熱及び加圧する時間は、通常、1〜90分、好ましくは3〜60分、より好ましくは5〜30分である。
温度、圧力及び時間がこの範囲であれば、耐熱性樹脂層と金属層との良好な接着性が得られる。
【0051】
本発明の接着剤は、金属層とセラミック層と強固に接着させることもできる。
セラミック層は、通常、無機粉末に、適宜、焼結助剤や、有機溶媒や水等の混合用補助剤を配合して均一混合物として、プレス成形等により成形品とし、さらに、混合補助剤を乾燥、加熱等により除去した後、焼成して焼結させて製造されるシート状のものが使用できる。
【0052】
使用するセラミックスの具体例としては、窒化アルミ−窒化硼素複合体、アルミナ−窒化硼素複合体、酸化ジルコニウム−窒化硼素複合体、窒化珪素−窒化硼素複合体、β−ウォラストナイト、コーディエライト、雲母、等を主原料としてなる焼結体;アルミニウム、珪素、ストロンチウム等主成分として、チタン、ビスマス、銅、マンガン、ナトリウム、カリウム等を副成分とするセラミック;アルミニウム、マグネシウム及び珪素を含むセラミック;アルミニウム、珪素、ジルコニウム及びマグネシウムを含むセラミック;アルミナ、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム等;が挙げられる。
【0053】
セラミック層の厚さは特に限定されないが、通常0.5〜2mm、好ましくは0.6〜1.5mm、より好ましくは0.7〜1.2mmである。厚さがこの範囲にあれば、取扱作業性、機械的強度、等が良好である。
【0054】
金属層とセラミック層とを本発明の接着剤により接着されてなる複合接合体の例としては、セラミック層/接着剤層/銅層等のような3層の複合接合体;銅層/接着剤層/セラミック層/接着剤層/銅層等のような5層の複合接合体;等が挙げられる。
【0055】
2)複合接合体
本発明の複合接合体は、耐熱性樹脂層と金属層とが本発明の接着剤で接着されてなることを特徴とする。
【0056】
(1)金属層
本発明の複合接合体の金属層は、本発明の接着剤で接着する被着体である。当該金属層としては、基材の上に鍍金や蒸着等の方法により積層された金属層、基材の上に接着剤で金属箔が接着された金属層、金属からなる単層又は多層のシート状のもの等が挙げられる。また、金属層は電気回路のように基材の上に線状や面状のパターンが形成されたものであってもよい。
【0057】
金属層を構成する金属の具体例としては、アルミニウム、ガリウム、インジウム、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛等の金属;鉄合金、銅合金、アルミ合金、ニッケル合金、半田、ウッドメタル、超鋼合金、ホワイトゴールド等の合金;等が挙げられる。
【0058】
金属層の厚さは特に限定されないが、通常0.01〜300μm、好ましくは0.05〜200μm、より好ましくは0.1〜100μmである。金属層の厚みは、電気回路、導電層、電磁波遮蔽層、酸素、水、等のバリアー層、選択的光反射層、等の目的により適宜選定される
【0059】
金属層の表面粗さも目的により適宜選定される。例えば、金属層が高周波電気回路である場合は、金属層の表面粗度は、最大高さ粗さRzで通常3.0μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下である。最大高さ粗さRzがこの範囲にあれば、高周波領域での伝送損失が小さくなる。上述のように、本発明の接着剤を用いることにより、最大高さ粗さRzで通常3.0μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下という表面粗度の小さい金属層と耐熱性樹脂層とが強固に接着された複合接合体が得られる。
【0060】
(2)耐熱性樹脂層
本発明の複合接合体の耐熱性樹脂層は、本発明の接着剤で接着する被着体である。当該耐熱性樹脂層は、通常180℃以上、好ましくは220℃以上、より好ましくは260℃以上の耐熱変形性を有する耐熱性樹脂からなる層である。
耐熱変形性は、JIS K7919−1法(プラスチック−荷重たわみ温度の求め方)に従って求められる荷重たわみ温度で評価できる。
耐熱性樹脂の荷重たわみ温度が上記範囲であれば、電気絶縁材料等として有用である。
【0061】
耐熱性樹脂層は、基材の上に積層された耐熱性樹脂からなる層であっても、耐熱性樹脂からなる単層又は多層のフィルム状のものであってもよい。
耐熱性樹脂層を構成する耐熱性樹脂の具体例としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルルイミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ビスマレイミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0062】
耐熱性樹脂層の厚さは特に限定されないが、通常1〜500μm、好ましくは10〜300μm、より好ましくは20〜200μmである。厚さがこの範囲にあれば、耐熱性樹脂層の電気絶縁性、機械的強度、等が良好である。
【0063】
(3)複合接合体
本発明の複合接合体は、耐熱性樹脂層と金属層が本発明の接着剤で接着されてなる積層体である。
本発明の複合接合体は、少なくとも、耐熱性樹脂層、接着剤層及び金属層をこの順で有する積層体であれば、その層構成に特に制限されない。
本発明の複合接合体の具体例としては、ポリイミド樹脂層/接着剤層/銅層、液晶ポリマー層/接着剤層/銅層、ポリエーテルサルホン樹脂層/接着剤層/銅層、等のような3層の複合接合体;銅層/接着剤層/ガラス繊維・エポキシ樹脂層/接着剤層/銅層、銅層/接着剤層/ポリイミド樹脂層/接着剤層/銅層等のような5層の積層体;等が挙げられる。
【0064】
本発明の複合接合体は、例えば、次のステップ(I)、ステップ(II)及びステップ(III)を経ることにより製造することができる。
・ステップ(I):まず、耐熱性樹脂フィルム及び/又は金属箔に、有機溶剤を含む本発明の接着剤(接着剤溶液)を塗布し、得られた塗膜から溶剤を蒸発除去させ、接着剤層を形成する。溶剤を蒸発除去した後の接着剤の厚さは、通常5〜100μm、好ましくは8〜70μm、より好ましくは10〜50μmである。
・ステップ(II):次いで、接着剤層(本発明の接着剤の塗膜)が形成された耐熱性樹脂層及び/又は金属層の接着剤層面と、もう一方の被着体である金属層及び/又は耐熱性樹脂層とを積層して、積層物を得る。
・ステップ(III):次いで、得られた積層物を加熱及び加圧することにより、耐熱性樹脂層と金属層が本発明の接着剤で接着された複合接合体を得ることができる。
【0065】
得られた積層物を加熱する温度は、通常、100〜200℃、好ましくは110〜190℃、より好ましくは120〜180℃である。加圧圧力は、通常、0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜5MPa、より好ましくは0.1〜1MPaである。また、加熱及び加圧する時間は、通常、1〜90分、好ましくは3〜60分、より好ましくは5〜30分である。
温度、圧力及び時間がこの範囲であれば、耐熱性樹脂層と金属層との良好な接着性が得られる。
【0066】
本発明の複合接合体の製造方法において、前記ステップ(III)は、より具体的には次のようにして実施することができる。すなわち、ステップ(II)により得られた積層物を、NY(ナイロン)/接着層/PP(ポリプロピレン)の層構成を有する所定厚み(例えば、75μm)の樹脂製の袋に入れる。次いで、袋の開口部の中央部を所定の幅(例えば、200mm幅)を残して両側をヒートシーラーでヒートシールした後、市販の密封パック器を使用して、袋内を脱気しながら開口部をヒートシールして積層物を密封包装する。その後、密封包装した積層物をオートクレーブに入れて、所定温度、圧力(例えば、温度150℃、圧力0.8MPa)で所定時間(例えば、30分間)加熱加圧し、耐熱性樹脂フィルム/接着剤層/金属層の層構成を有する複合接合体を得ることができる。
【0067】
本発明の接着剤を使用して製造されるポリイミド樹脂層と表面粗度の小さい銅層を積層した複合接合体は、高周波フレキシブルプリント基板用材料等として好適に使用することができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を示しながら、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお「部」及び「%」は特に断りのない限り重量基準である。
【0069】
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
(1)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定
ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の分子量は、GPCにより38℃において測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。測定装置としては、東ソー社製HLC8020GPCを用いた。
(2)水素化率の測定
ブロック共重合体水素化物[D]の主鎖、側鎖及び芳香環の水素化率は、H−NMRスペクトルを測定して算出した。
【0070】
(3)誘電率、誘電正接の評価方法
離形性PETフィルム(厚さ100μm)上に、接着剤層の厚みが20〜30μmになるように接着剤溶液を塗布し、イナートオーブン中で溶剤を蒸発除去させた。離形性PETフィルムから接着剤層を剥がし、接着剤層を多数重ねて、140℃で真空プレス成形して、厚み700〜760μmの接着剤シートを成形した。得られた接着剤シートを、イナートオーブン中で、150℃で1時間加熱処理して揮発成分を除去させ、誘電率、誘電正接を評価する試料とした。
この接着剤シートから、縦80mm、横1.5mmの試験片を作製し、空洞共振器摂動法(ASTM D2520)より、5GHzにおける誘電率、誘電正接を測定した。
【0071】
(4)接着性の評価方法
耐熱性樹脂層と接着剤の接着性、及び金属層と接着剤の接着性を、以下のようにして評価した。
耐熱性樹脂フィルム(厚み50〜150μm)又は金属箔(厚み10〜50μm)の片面に、部分的に接着剤を塗布しない箇所を残し、溶剤を除去させた後の接着剤層の厚みが10〜20μmになるように接着剤溶液を塗布し、イナートオーブン中で溶剤を蒸発除去させた。
接着剤を塗布した耐熱性樹脂フィルム又は金属箔を、接着剤を塗布していない箇所を含み、接着剤の塗布面が幅15mm×長さ150mmの大きさになるように切断して試験片とした。次に、この試験片2枚を、接着剤塗布面を対向させて重ね合わせ、所定の条件で加熱加圧して接着して剥離強度測定用の試験片を作製した。
耐熱性樹脂フィルム又は金属箔の接着剤を塗布していない部分を引張り試験機(製品名「AGS−10KNX」、島津製作所社製)に固定し、剥離速度100mm/分で、JIS K 6854−2に準じて180°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。
接着性は、剥離強度が4N/cm以上の場合、接着性は良好(○)、4N/cmを下回る場合は不十分(×)と評価した。
【0072】
[製造例1]変性ブロック共重合体水素化物(E1)のペレットの製造
WO2012/043708号パンフレット及び/又はWO2014/077267号パンフレットに記載の方法を参考にして、ブロック共重合体水素化物(D1)(重量平均分子量(Mw):55,200、分子量分布(Mw/Mn):1.05、水素化率:ほぼ100%)100部に対して、ビニルトリメトキシシラン1.8部が結合したアルコキシシリル基が導入された変性ブロック共重合体水素化物(E1)を製造した。
変性ブロック共重合体水素化物(E1)には、上記特許文献に記載の方法と同様にして、変性ブロック共重合体水素化物(E1)100部に対して、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.1部を配合して、変性ブロック共重合体水素化物(E1)のペレットを得た。
【0073】
[実施例1]接着剤(F1)の製造
製造例1で得た変性ブロック共重合体水素化物(E1)のペレット100部を、トルエン(沸点110℃)300部に溶解させた後、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越シリコーン社製)1部を添加して溶解させ、接着剤(F1)溶液を製造した。
【0074】
接着剤(F1)溶液から溶剤を除去させて作製した接着剤(F1)シートの、周波数5GHzでの誘電率は2.14、誘電正接は0.00098であり、高周波絶縁材料として十分低い値であった。
【0075】
縦300mm、横300mmの下記の耐熱性樹脂フィルム又は金属箔に、バーコーターを使用して接着剤(F1)溶液を塗布し、イナートオーブン中で、50℃で溶剤を蒸発除去させ、厚み10〜15μmの接着剤層を形成させた。
使用した耐熱性樹脂フィルムは、ポリイミドフィルム(製品名「カプトン(登録商標) 200H」、厚さ50μm、東レ・デュポン社製)、ポリエーテルサルホンフィルム(製品名「スミライト(登録商標) FS−1300」、厚さ100μm、住友ベークライト社製)、及び、液晶ポリマーフィルム(製品名「ベクスター(登録商標) CT−Z」、厚さ100μm、クラレ社製)である。また、使用した金属箔は、アルミニウム箔(材質(JIS H 4160合金番号):1N30、厚さ30μm)、銅箔(商品名「FV−WS」、厚さ18μm、最大高さ粗さRz:1.5μm、古河電工社製)、及び、ステンレス箔(材質SUS304、厚さ50μm)である。
【0076】
接着剤(F1)を塗布した耐熱性樹脂フィルム2枚又は金属箔2枚の同種同士を、接着剤層面を対向させて重ね合わせた。得られた積層物を、NY/接着層/PPの層構成を有する厚み75μmの樹脂製の袋に入れた。袋の開口部の中央部を200mm幅残して両側をヒートシーラーでヒートシールした後、密封パック器(BH−951、パナソニック社製)を使用して、袋内を脱気しながら開口部をヒートシールして積層物を密封包装した。
その後、密封包装した積層物をオートクレーブに入れて、温度150℃、圧力0.8MPaで30分間加熱加圧し、耐熱性樹脂フィルム/接着剤(F1)層/耐熱性樹脂フィルム又は金属箔/接着剤(F1)層/金属箔からなる複合接合体を製造した。
【0077】
得られた複合接合体から、幅15mm×長さ200mmの大きさになるように剥離強度測定用の試験片を切り出し、剥離強度測定用の試験片とした。この試験片を用いて、複合接合体の剥離強度を測定して、接着剤(F1)と耐熱性樹脂層又は接着剤(F1)と金属層との接着性を評価した。
その結果、各層に対する接着力の値及びその評価は、接着剤(F1)/ポリイミド層間では24N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F1)/ポリエーテルサルホン層間では13N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F1)/液晶ポリマー層間では11N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F1)/アルミニウム層間では14N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F1)/銅層間では18N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、また、接着剤(F1)/ステンレス層間では15N/cmであり、接着性の評価は良好(○)であった。
【0078】
接着剤(F1)を塗布したポリイミドフィルムと接着剤(F1)を塗布した銅箔を、接着剤面を対向させて重ね、上記と同様にして、ポリイミドフィルム/接着剤(F1)層/銅箔からなる複合接合体を製造した。
この複合接合体の剥離試験を実施すると、銅箔と接着剤(F1)層の界面で剥離し、剥離強度は18N/cmであり、接着性は良好(〇)であった。
この複合接合体を、オーブン中で260℃に60秒間保持したところ、外観上の大きな変形は無かったが、ポリイミドフィルムと銅箔の間に部分的な剥離が認められ、必ずしも十分な耐熱性を示してはいなかった。
【0079】
[実施例2]接着剤(F2)の製造
製造例1で得た変性ブロック共重合体水素化物(E1)のペレット100部を、トルエン300部に溶解させた後、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−503、信越シリコーン社製)1部、トリアリルイソシアヌレート(製品名「TAIC(登録商標)」、日本化成社製)3部、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(製品名「パーヘキサ(登録商標)25B」、日油社製)0.2部加えて、均一に混合して、接着剤(F2)溶液を製造した。
【0080】
接着剤(F2)溶液から溶剤を除去して作製した接着剤(F2)シートの、周波数5GHzでの誘電率は2.17、誘電正接は0.00104であり、高周波絶縁材料として十分低い値であった。
【0081】
実施例1において、接着剤(F1)に代えて接着剤(F2)を使用し、オートクレーブでの加熱加圧条件を温度160℃にする以外は、実施例1と同様にして、耐熱性樹脂フィルム/接着剤(F2)層/耐熱性樹脂フィルム又は金属箔/接着剤(F2)層/金属箔からなる複合接合体を製造した。
【0082】
得られた複合接合体を使用して、実施例1と同様にして、接着剤(F2)と耐熱性樹脂層又は接着剤(F2)と金属層との接着性を評価した。
その結果、各層に対する接着力は、接着剤(F2)/ポリイミド層間では26N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F2)/ポリエーテルサルホン層間では14N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F2)/液晶ポリマー層間では15N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F2)/アルミニウム層間では13N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F2)/銅層間では16N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、また、接着剤(F2)/ステンレス層間では14N/cmであり、接着性の評価は良好(○)であった。
【0083】
接着剤(F2)を塗布したポリイミドフィルムと接着剤(F2)を塗布した銅箔を、接着剤層面を対向させて重ね、上記と同様にして、ポリイミドフィルム/接着剤(F2)層/銅箔からなる複合接合体を製造した。製造した複合接合体は、更にイナートオーブン中で、160℃で60分の加熱処理を行った。
【0084】
得られた複合接合体の剥離試験では、銅箔と接着剤(F2)層の界面で剥離し、剥離強度は16N/cmであり、接着性は良好(〇)であった。
また、この複合接合体を、オーブン中で260℃に60秒間保持したが、試験片の外観上の異常は認められず、接着剤(F2)の耐熱性が高いことが確認された。
【0085】
[実施例3]接着剤(F3)の製造
製造例1で得た変性ブロック共重合体水素化物(E1)のペレット100部を、シクロヘキサン(沸点80℃)300部に溶解させた後、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603、信越シリコーン社製)1部、トリアリルイソシアヌレート(製品名「TAIC(登録商標)」、日本化成社製)2部、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(製品名「パーヘキサ(登録商標) 25B」、日油社製)0.2部加えて、均一に混合して、接着剤(F3)溶液を製造した。
【0086】
接着剤(F2)溶液から溶剤を除去して作製した接着剤(F2)シートの、周波数5GHzでの誘電率は2.19、誘電正接は0.00110であり、高周波絶縁材料として十分低い値であった。
【0087】
実施例2において、接着剤(F2)に代えて接着剤(F3)を使用する以外は、実施例2と同様にして、耐熱性樹脂フィルム/接着剤(F3)層/耐熱性樹脂フィルム又は金属箔/接着剤(F3)層/金属箔からなる複合接合体を製造した。接着剤(F3)のシクロヘキサン溶液を使用した場合、耐熱性樹脂フィルム又は金属箔にバーコーターを使用して塗布し、イナートオーブン中で乾燥させた段階では塗膜面に多くの発泡を生じ、外観上は不良であった。しかし、オートクレーブで加熱加圧して複合接合体を製造するのに支障はなかった。
【0088】
得られた複合接合体を使用して、実施例1と同様にして、接着剤(F3)と耐熱性樹脂層又は接着剤(F3)と金属層との接着性を評価した。
その結果、各層に対する接着力は、接着剤(F3)/ポリイミド層間では25N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F3)/ポリエーテルサルホン層間では14N/cm、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F3)/液晶ポリマー層間では11N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F3)/アルミニウム層間では15N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、接着剤(F3)/銅層間では20N/cmであり、接着性の評価は良好(○)、また、接着剤(F3)/ステンレス層間では17N/cmであり、接着性の評価は良好(○)であった。
【0089】
接着剤(F3)を塗布したポリイミドフィルムと接着剤(F3)を塗布した銅箔を、接着剤層面を対向させて重ね、上記と同様にして、ポリイミドフィルム/接着剤(F3)層/銅箔からなる複合接合体を製造した。製造した複合接合体は、更にイナートオーブン中で、160℃で60分の加熱処理を行った。
【0090】
得られた複合接合体の剥離試験では、銅箔と接着剤(F3)層の界面で剥離し、剥離強度は19N/cmであり、接着性は良好(○)であった。
また、この複合接合体を、オーブン中で260℃に60秒間保持したが、試験片の外観上の異常は認められず、接着剤(F3)の耐熱性が高いことが確認された。
【0091】
本実施例の結果から以下のことがわかる。
アルコキシシリル基を導入した変性ブロック共重合体水素化物(E)を主成分とする接着剤は、耐熱性樹脂層及び金属層に対する良好な接着性及び高周波領域でも良好な電気特性(低誘電率、低誘電正接)を示す(実施例1〜3)。
アルコキシシリル基を導入した変性ブロック共重合体水素化物(E)を主成分とする接着剤は、表面粗度の小さい金属面に対しても良好な接着性を示す(実施例1〜3の銅箔との接着例)。
アルコキシシリル基を導入した変性ブロック共重合体水素化物(E)を主成分とする接着剤を使用することで、耐熱性樹脂層と金属層の複合接合体を製造できる(実施例1〜3)。
アルコキシシリル基を導入した変性ブロック共重合体水素化物(E)に架橋助剤を配合した接着剤は、リフロー半田工程に対応した260℃の熱処理に対しても十分な耐熱性を有する(実施例2、3)。
アルコキシシリル基を導入した変性ブロック共重合体水素化物(E)を主成分とする接着剤を溶液として使用する場合、沸点が90℃以上の有機溶剤を使用することにより、基材へ接着剤を塗布する工程での、発泡等の外観上の不良が低減される(実施例1、2と実施例3の比較)。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の接着剤及び複合接合体は、耐熱性樹脂層と表面粗度の小さい金属層に対する接着性に優れ、かつ低誘電率で電気絶縁性に優れるため、高周波回路基板の製造に有用である。