(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネトロンスパッタリング装置では、ターゲットはスパッタリングするにつれてターゲット表面が掘れ厚みが減じるが、ターゲットを交換するためにはスパッタリング装置の真空雰囲気を破って大気に戻す必要がある。このため、ターゲットの交換頻度を削減することは、スパッタリング装置の生産効率を向上させるための重要な要素である。
【0006】
しかしながら、ターゲットの交換頻度を削減するためにスパッタリングターゲットの厚みを厚くすると、ターゲットのスパッタリングによる掘れが進行するにつれて、スパッタリングターゲットを均一にスパッタリングすることができなくなり、ターゲットの使用効率が悪化する。このため、ターゲットの厚みを厚くしてターゲットの交換頻度を削減しようとしても、厚くしたターゲットの使用効率が悪化するため、結果としてターゲットを交換する頻度の削減効果が得られないという問題があった。
【0007】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、使用効率が高いターゲット装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、バッキングプレートと、前記バッキングプレートの片面に配置され、スパッタリングされるスパッタ面が露出されたスパッタリングターゲットと、前記バッキングプレートの前記スパッタリングターゲットが配置された側とは反対の側に配置された磁石装置とを有するターゲット装置であって、前記磁石装置は、上端が、スパッタリングされる前の前記スパッタリングターゲットの前記スパッタ面と平行な磁石平面に位置し、リング形形状にされた外側磁石と、上端が、前記磁石平面に位置し、前記外側磁石の内側に、前記外側磁石とは非接触に配置された内側磁石と、前記バッキングプレートの透磁率よりも大きい透磁率を有するリング形形状の高透磁率板と、を有し、前記高透磁率板は、前記内側磁石を取り囲み、前記外側磁石によって取り囲まれる位置に配置され、前記高透磁率板の表面は、前記磁石平面と一致するか、又は、前記磁石平面よりも前記スパッタリングターゲットの近くに位置し、前記高透磁率板の裏面は前記磁石平面と一致するか、又は前記磁石平面よりも前記スパッタリングターゲットから遠くに位置するように配置され、
磁場の垂直成分がゼロである点を結んで得られ、前記高透磁率板の表面に対して垂直方向に伸びる第一の線分と、磁場の垂直成分がゼロである点を結んで得られ、前記外側磁石の上端の内周から前記内側磁石の上端の外縁に伸びるか、もしくは、前記高透磁率板の表面の一方の端部から他方の端部に伸びる第二の線分とが交差する特異点における水平方向の磁場強度が140G以上230G以下の値になるようにされて前記スパッタ面上に磁力線が形成され
、前記高透磁率板は、透磁率が0.9×10-3H/m以上の金属材料で構成されたターゲット装置である。
本発明は、前記高透磁率板は、前記外側磁石と前記内側磁石とに非接触にされたターゲット装置である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽の内部に配置されたターゲット装置と、を有するスパッタリング装置であって、前記ターゲット装置は、バッキングプレートと、前記バッキングプレートの片面に配置され、スパッタリングされるスパッタ面が露出されたスパッタリングターゲットと、前記バッキングプレートの前記スパッタリングターゲットが配置された側とは反対の側に配置された磁石装置とを有し、前記磁石装置は、上端が、スパッタリングされる前の前記スパッタリングターゲットの前記スパッタ面と平行な磁石平面に位置し、リング形形状にされた外側磁石と、上端が、前記磁石平面に位置し、前記外側磁石の内側に、前記外側磁石とは非接触に配置された内側磁石と、前記バッキングプレートの透磁率よりも大きい透磁率を有するリング形形状の高透磁率板と、を有し、前記高透磁率板は、前記内側磁石を取り囲み、前記外側磁石によって取り囲まれる位置に配置され、前記高透磁率板の外側側面と内側側面とは前記磁石平面と交叉し、又は、前記外側側面の上端と前記内側側面の上端若しくは前記外側側面の下端と前記内側側面の下端とが前記磁石平面と一致するように配置され、
磁場の垂直成分がゼロである点を結んで得られ、前記高透磁率板の表面に対して垂直方向に伸びる第一の線分と、磁場の垂直成分がゼロである点を結んで得られ、前記外側磁石の上端の内周から前記内側磁石の上端の外縁に伸びるか、もしくは、前記高透磁率板の表面の一方の端部から他方の端部に伸びる第二の線分とが交差する特異点における水平方向の磁場強度が140G以上230G以下の値になるようにされて前記スパッタ面上に磁力線が形成され
、前記高透磁率板は、透磁率が0.9×10-3H/m以上の金属材料で構成されたスパッタリング装置である。
本発明は、前記高透磁率板は、前記外側磁石と前記内側磁石とに非接触にされたスパッタリング装置である。
【発明の効果】
【0009】
厚いスパッタリングターゲットでも、均一にスパッタリングすることができるので、ターゲット使用効率が高い。スパッタリングターゲットを高効率で長時間使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1のスパッタリング装置11は本発明の一例であり、真空槽12を有しており、真空槽12の内部には、本発明のターゲット装置14が配置されている。
このターゲット装置14の平面図を、
図2に示し、そのA-A線截断断面図を
図3に示す。ターゲット装置14は、板状のバッキングプレート21を有しており、バッキングプレート21の片面には、スパッタリングターゲット22が配置されている。
【0012】
真空槽12の内部のターゲット装置14とは反対側の位置には、基板ホルダ17が配置されている。スパッタリングターゲット22の片面であるスパッタ面24は、真空槽12の内部に露出されており、基板ホルダ17に基板18が配置されると、基板18の成膜面19は、スパッタ面24と平行に対面する。
【0013】
真空槽12には、真空排気装置13とガス供給装置16とが接続されており、真空排気装置13によって真空槽12の内部を真空排気し、真空槽12の内部に真空雰囲気が形成された後、ガス供給装置16から真空槽12の内部にスパッタリングガスを供給し、真空槽12の内部に、スパッタリングガスを含有する真空状態であるスパッタリングガス雰囲気を形成する。
【0014】
バッキングプレート21のスパッタリングターゲット22が配置された面とは反対側の面の近傍には、磁石装置23が配置されている。
この磁石装置23は、スパッタリングターゲット22のスパッタ面24とは反対側である裏面側に位置している。
【0015】
磁石装置23は、透磁性を有する透磁性材料が平板状に成形されたヨーク28と、ヨーク28の片面上に配置された内側磁石26と、内側磁石26が配置された片面に配置され、内側磁石26を取り囲むリング形形状の外側磁石25とを有している。
【0016】
N極とS極のうち、いずれか一方を第一磁極とし、他方を第二磁極とすると、内側磁石26は、ヨーク28に向けられた方の端部に第一の磁極が配置され、ヨーク28とは反対側に向けられた端部に第二の磁極が配置されており、外側磁石25は、内側磁石26とは正反対に、ヨーク28に向けられた方の端部に第二の磁極が配置され、ヨーク28とは反対側に向けられた端部に第一の磁極が配置されている。磁極については、第一の磁極がN極で第二の磁極がS極である場合と、第一の磁極がS極で第二の磁極がN極である場合とがある。
【0017】
スパッタリングターゲット22は、内側磁石26と外側磁石25の、ヨーク28とは反対側に向けられた端部の近くに、バッキングプレート21を介して位置している。
【0018】
バッキングプレート21は、透磁率が真空の値に近い銅で構成されており、ここでは、スパッタリングターゲット22も、真空の値に近い材料が用いられている。磁石装置23のN極から放出された磁力線は、バッキングプレート21とスパッタリングターゲット22とを貫通し、スパッタ面24上に漏出され、スパッタ面24上で湾曲し、スパッタリングターゲット22とバッキングプレート21とを貫通して、磁石装置23のS極に入る。
【0019】
バッキングプレート21は、スパッタ電源34に接続されており、スパッタリング雰囲気が形成された状態でスパッタ電源34によってバッキングプレート21に電圧を印加すると、カソード電極(ここでは
スパッタリングターゲット22)の表面から電子が放出される。
【0020】
カソード電極から放出された電子は、スパッタ面24上の磁力線に沿って螺旋運動をし、スパッタリングガスとの相互作用によってスパッタ面24の近傍にプラズマを発生させ、スパッタ面24がスパッタリングされる。
【0021】
このとき、スパッタ面24上に漏出された磁力線のうち、垂直方向の磁気成分がゼロの部分、即ち、スパッタ面24上に漏出された磁力線のうちのスパッタ面24と平行な方向に伸びる部分の真下位置のプラズマは高密度になり、スパッタ面24のうち、その高密度プラズマと接触する部分が多量にスパッタリングされる。
【0022】
従って、スパッタ面24のうち、スパッタ面24と平行に伸びる磁力線の真下に位置する部分の面積が広いほど、スパッタリングターゲット22の広い領域がスパッタリングされ、使用効率が向上する。
【0023】
本発明の磁石装置23は、
図3に示すように、外側磁石25と内側磁石26との間は、樹脂29が配置されており、外側磁石25と内側磁石26とは、樹脂29によって互いに離間した状態で固定されている。
樹脂29上には、内側磁石26を取り囲むリング形形状の高透磁率板27が配置されており、後述するように、スパッタ面24と平行に伸びる磁力線が多い。
【0024】
図5は、高透磁率板27が配置されていない磁石装置33dであり、磁石装置33dによって形成される磁力線30は、外側磁石25と内側磁石26のほぼ中間位置で最大値となるように湾曲しており、磁力線30のうち、スパッタ面24と平行に伸びる部分は少ない。
【0025】
図4(a)〜(e)の磁石装置23、33a、33bは、高透磁率板27を有しており、樹脂29の記載は省略されている。高透磁率板27の外周と外側磁石25の内周との間と、高透磁率板27の内周と内側磁石26の外周との間とには、隙間が設けられており、高透磁率板27は外側磁石25と非接触にされ、また、内側磁石26とも非接触にされ、過剰な磁力
線が高透磁率板27の中を通ることがなく、また、磁力線30の形状が偏ることがないようにされている。
【0026】
外側磁石25の上端と内側磁石26の上端とは、未だスパッタリングされていないスパッタリングターゲット22のスパッタ面24と平行で同一の磁石平面31に位置している。
【0027】
高透磁率板27は、バッキングプレート21よりも大きな透磁率を有する材料で構成されており、真空や空気の透磁率よりも大きい透磁率であるから、外側磁石25と内側磁石26との間に形成される磁力線30のうち、一部の磁力
線が、高透磁率板27の外周付近又は内周付近のうちのいずれかから高透磁率板27の内部に入り、高透磁率板27の内部を通って、他方から外部に出るようになっている。
【0028】
特に、
図4(b)の磁石装置23では、高透磁率板27は、高透磁率板27の表面33が磁石平面31と一致し、且つ、高透磁率板27の表面33とは反対側の裏面が、磁石平面31よりもスパッタリングターゲット22から遠くに位置するように配置されており、
図4(c)の磁石装置23では、高透磁率板27の表面33が磁石平面31よりもスパッタリングターゲット22の近くに位置し、且つ、高透磁率板27の表面33とは反対側の裏面32が、磁石平面31よりもスパッタリングターゲット22から遠くに位置するように配置されている。また、
図4(d)の磁石装置23では、高透磁率板27は、高透磁率板27の裏面32が磁石平面31と一致するように配置されている。
【0029】
外側磁石25の上端と内側磁石26の上端の間に形成される磁力線30のうち、内側磁石26の中央付近と外側磁石25の外周付近との間に形成される磁力
線を上方磁力線35と呼び、内側磁石26の外縁付近と外側磁石25の内周付近との間に形成される磁力
線を下方磁力線36と呼ぶと、外側磁石25の上端と内側磁石26の上端とから一定距離離間したスパッタリングターゲット22のスパッタ面24上には、上方磁力線35が半環状に漏出して電子を巻き付ける一方、下方磁力線36は、スパッタ面24上には漏出しないが、高透磁率板27が設けられていない
図5の磁石装置33dでは、下方磁力線36が上方磁力線35の中央部分を押し上げるため、スパッタ面24上で上方磁力線35が湾曲し、スパッタ面24と平行に伸びる磁力
線の部分が減少する。
【0030】
それに対し、高透磁率板27を有する
図4(a)〜(e)の磁石装置23,33a、33bのうち、本発明に用いる同図(b)、(c)、(d)の磁石装置23では、下方磁力線36の一部が高透磁率板27の外周付近又は内周付近のうち、一方の付近から高透磁率板27の中に入り、高透磁率板27の中を通って、他方の付近から高透磁率板27の外部に漏出する。
【0031】
上方磁力線35の中央の真下位置では、高透磁率板27の外部を通る下方磁力線36は少なくなるから、上方磁力線35の中央部分は、下方から押圧されず、スパッタ面24に対して平行に伸びる部分が増加し、スパッタリングされる面積が増大する。
【0032】
他方、
図4(a)のように、高透磁率板27の表面33が磁石平面31よりも下方にされている磁石装置33aの場合は、高透磁率板27の内部を通る磁力
線が減少し、上方磁力線35が下方磁力線36によって上方に押圧されるため、スパッタ面24に対して平行に伸びる部分は減少する。
【0033】
図4(e)のように高透磁率板27の裏面32が磁石平面31の上方に位置している磁石装置33bでは、多量の磁力線が高透磁率板27の中を通るようになり、特に上方磁力線35の一部も高透磁率板27の中を通るようになる。このとき、上方磁力線35は下方磁力線36により押圧されず、スパッタ面24に対して平行に伸びる部分が増加するため、スパッタリングされる面積は増大するが、スパッタ面24上の磁力
線が減少し、スパッタリング効率が低下してしまう。
【0034】
ここで、スパッタ面24の上において、磁場の垂直成分がゼロである点を結んで得られる線分は、スパッタ面24の上に漏出した複数の磁力線と交叉しており、その線分には、
図4(b)と
図4(d)に示すように、高透磁率板27の表面に対してほぼ垂直方向に伸びる第一の線分41と、外側磁石25の上端の内周から内側磁石26の上端の外縁に伸びるか、もしくは、高透磁率板27の表面の一方の端部から他方の端部に伸びる第二の線分42が含まれる。
【0035】
第一の線分41と第二の線分42との交点を垂直磁場ゼロの特異点43と呼ぶと、
図4(b)の磁石装置23の第二の線分42は、外側磁石25の上端の内周から内側磁石26の上端の外縁に伸びており、
図4(b)と
図4(d)とでは、特異点43は上方磁力線35と下方磁力線36の間付近に形成されることがわかる。
【0036】
、
図6のグラフの左縦軸は、特異点における水平方向の磁場強度を示し、右縦軸は、特異点における水平方向の磁場強度±5Gの強度を有する磁力線の幅(磁石平面31と平行な平面内の直線方向であって、外側磁石25と内側磁石26との間の距離を示す直線とは垂直な直線方向の長さ)を示しており、
図6のグラフの横軸の(a)〜(e)は、
図4(a)〜(e)の同じアルファベットの磁石装置23,33a,33bに対応付けられている。
【0037】
実験では、特異
点における水平方向の磁場強度が140G以上230G以下の値の場合に、安定した放電が得られ、かつスパッタ面24が広くスパッタリングされることが確認されている。特異
点における水平方向の磁場強度が140Gよりも小さいと、スパッタリングターゲット22のスパッタ面24の近傍に発生するプラズマが不安定になり、放電電圧が上昇する傾向が見られた。
【0038】
一方、特異
点における水平方向の磁場強度が230Gよりも大きいと、磁力線に沿って螺旋運動する電子の磁力線に対する拘束が強くなるので、高密度なプラズマ領域が狭くなり、スパッタリングターゲット22のスパッタ面24でスパッタリングされる領域が狭くなってしまった。
【0039】
図6から、
図4(b)、(c)、(d)の磁石装置23が140G以上230G以下の範囲内の磁場強度になっている。また、磁場強度±5Gの強度を有する磁力線の幅は、いずれの磁石装置23,33a,33bでも、10mmを超えており、広いスパッタ領域を得ることが可能となっている。すなわち、
図4(b)、(c)、(d)の磁石装置23は、スパッタ面24上の半環状の磁力線を大きく減少させることは無いため、厚いスパッタリングターゲット22も均一にスパッタリングすることができる。
【0040】
ここで、
図4(b)の磁石装置23と
図4(e)の磁石装置33bを用いて、それぞれ厚さ14mmのターゲットをスパッタリングした際の、ターゲットの長手方向中央部における断面形状、すなわちターゲット表面のプロファイルを
図7に示す。
【0041】
このとき、
図4(b)の磁石装置23では、特異点43における水平方向の磁場強度は208Gであり、磁場強度±5Gの強度を有する磁力線の幅は13mmであった。また、
図4(e)の磁石装置33bでは、特異点における水平方向の磁場強度は119Gであり、磁場強度±5Gの強度を有する磁力線の幅は15mmであった。
【0042】
スパッタリングターゲット22の断面積から各スパッタリングターゲット22の使用効率を計算すると、
図4(e)では42.8%であったところ、
図4(b)では53.5%となり、10%以上の改善が見られた。
【0043】
図4(e)の磁石装置33bでは、磁場強度が119Gであって140Gよりも小さく、このため放電が安定せず、磁力線が集中し、比較的磁場の強い中央側に放電が集中したため、スパッタリングによりスパッタされる量に偏りが生じたと考えられる。
【0044】
この点、
図4(b)の磁石装置23では、磁場強度が208Gであって140Gから230Gの範囲に収まっており、磁力線の幅も13mmと広いため、
スパッタリングターゲット22の深い位置、すなわち、スパッタリングが進行した後でも、広いスパッタ領域を得ることができていると考えられる。
なお、高透磁率板27の厚さは数mm程度であり、ステンレス、鉄、パーマロイを平板状に加工した板や、他の透磁材料の板を用いることができる。
バッキングプレート
21を構成する銅の透磁率μ(H/m)は1.26×10
-6であり、本発明の高透磁率板27を構成する材料は、マルテンサイトステンレス鋼(焼き鈍し:9.42×10
-4、1,19×10
-3)、フェライトステンレス(焼き鈍し:1.26×10
-3、2.26×10
-3)、パーマロイ(1.2×10
-2)、鉄(99.8%純鉄:6.3×10
-3)ケイ素鋼(5.0×10
-3)、鉄コバルト合金(2.3×10
-2)等の透磁率μが0.9×10
-3以上の金属材料を使用することができる。