(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二次電池正極用ポリマー粒子の体積平均粒子径D50が2000μm以下であり、前記正極活物質の体積平均粒子径D50に対する前記二次電池正極用ポリマー粒子の体積平均粒子径D50の比が200以下である、請求項1に記載の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法。
前記共重合体が前記ニトリル基含有単量体単位を80質量%以上99.9質量%以下含み、前記親水性基含有単量体単位を0.1質量%以上20質量%以下含む、請求項1または2に記載の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法は、二次電池正極用スラリー組成物の調製に用いられる。また、本発明の二次電池用正極は、本発明の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法により得られる二次電池正極用スラリー組成物を用いて作製されることを特徴とする。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用正極を備えることを特徴とする。
【0018】
(二次電池正極用スラリー組成物の製造方法)
本発明の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法は、少なくとも、二次電池正極用ポリマー粒子と、正極活物質と、導電材と、分散媒とを所定の手順で混合して二次電池正極用スラリー組成物を製造する方法である。
ここで、本発明の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法に使用する二次電池正極用ポリマー粒子は、ニトリル基含有単量体単位および親水性基含有単量体単位の双方を含む共重合体を含有し、その体積平均粒子径D50が、1μm以上であって且つ正極活物質の体積平均粒子径D50に対する比(ポリマー粒子の正極活物質に対する粒子径比)が0.1以上である、ことを特徴とする。そして、本発明の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法は、上述した二次電池正極用ポリマー粒子、正極活物質、および導電材を乾式混合して乾式混合物を得る工程と、前記乾式混合物と分散媒を混合して二次電池正極用スラリー組成物を得る工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
ここで、本発明の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法を用いれば、上述した所定の二次電池正極用ポリマー粒子を正極活物質および導電材と乾式混合し、その後得られた乾式混合物を分散媒と混合しているため、正極の高電位耐久性を十分に高めうる二次電池正極用スラリー組成物を調製することができる。そして当該正極を用いることで、高電位に長時間曝された場合であっても、優れた寿命特性などの電池特性を発揮する二次電池を得ることができる。
【0020】
なお、所定の二次電池正極用ポリマー粒子を、分散媒の添加に先んじで正極活物質および導電材と乾式で予混合することで、正極の高電位耐久性を十分に高め、二次電池に優れた電池特性を発揮させることができる理由は定かではないが、以下の理由によるものと推察される。すなわち、上述した組成および性状を有するポリマー粒子、正極活物質、並びに導電材の予混合により、導電材が好適に分散することで正極合材層中の導電パスを良好に形成しつつ、予混合の際にポリマー粒子が均質に正極活物質表面に吸着することで、得られる正極において共重合体による正極活物質表面の十分な保護が可能となる。それにより、高電位における正極活物質表面の劣化が抑制されるためと推察される。
【0021】
以下、スラリー組成物に配合する成分およびそれら成分を用いたスラリー組成物の調製手順について説明する。
【0022】
<二次電池正極用ポリマー粒子>
二次電池正極用ポリマー粒子は、結着材として機能する共重合体を含む成分である。この共重合体は、本発明のスラリー組成物の製造方法を用いて得られるスラリー組成物を使用して製造した正極において、正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持する。そして二次電池正極用ポリマー粒子に含まれる共重合体は、ニトリル基含有単量体単位および親水性基含有単量体単位の双方を含むことが必要である。なお、共重合体は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意に、ニトリル基含有単量体単位および親水性基含有単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。
【0023】
[共重合体の組成]
[[ニトリル基含有単量体単位]]
ニトリル基含有単量体単位は、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位である。
ここで、ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、共重合体の結着力を高める観点からは、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
そして、共重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合は、共重合体中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、80質量%以上が好ましく、82質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましく、99.9質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98.5質量%以下が更に好ましい。共重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合を上述の範囲内とすれば、共重合体の結着力および得られるスラリー組成物の分散性が向上し、正極のピール強度を十分に高めることができ、また共重合体自体の高電位耐久性も高めることができる。従って、正極合材層の剥離を防止し、また二次電池の内部抵抗を低減し、高電位に長時間曝された場合であっても、寿命特性などの電池特性に優れる二次電池を得ることができる。
【0025】
[[親水性基含有単量体単位]]
親水性基含有単量体単位は、親水性基含有単量体由来の繰り返し単位である。
ここで、親水性基含有単量体としては、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、水酸基を有する単量体が挙げられる。
【0026】
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
その他、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステルおよびジエステルも挙げられる。
【0027】
スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。また、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0028】
リン酸基を有する単量体としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0029】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH
2=CR
1−COO−(C
nH
2nO)
m−H(式中、mは2〜9の整数、nは2〜4の整数、R
1は水素またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0030】
上述した親水性基含有単量体は、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。そしてこれらの中でも、正極のピール強度および高電位耐久性を高める観点から、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸がより好ましい。すなわち、共重合体は、親水性基含有単量体単位として、メタクリル酸、アクリル酸、およびイタコン酸からなる群から選択される少なくとも1種に由来する単量体単位を含むことがより好ましい。
【0031】
そして、共重合体中の親水性基含有単量体単位の含有割合は、共重合体中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以下であることが好ましく、17質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。共重合体中の親水性基含有単量体単位の含有割合を0.1質量%以上とすれば、共重合体の接着力が向上することで正極のピール強度が高まり、また正極合材層中において共重合体が正極活物質をより良好に被覆可能となるため正極の高電位耐久性を高めることができる。一方、共重合体中の親水性基含有単量体単位の含有割合を20質量%以下とすれば、正極合材層中において正極活物質が共重合体により過度に被覆されることもなく、内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0032】
−その他の単量体単位−
共重合体は、ニトリル基含有単量体単位および親水性基含有単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。そのようなその他の単量体単位としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が挙げられる。
ここで、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。
【0033】
その他の単量体単位を形成しうる単量体は、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
そして、その他の単量体単位の含有割合は、特に限定されないが、本発明の所望の効果を十分に得る観点から、共重合体中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
[共重合体の性状]
[[重量平均分子量(Mw)]]
共重合体は、重量平均分子量が、500,000以上であることが好ましく、1,000,000以上であることがより好ましく、2,500,000以下であることが好ましく、2,000,000以下であることがより好ましい。共重合体の重量平均分子量が500,000以上であれば、低分子量成分の増加により正極活物質が共重合体に過度に被覆されることもなく、二次電池の内部抵抗を低減することができる。また、重合体の重量平均分子量が2,500,000以下であれば、ポリマー粒子を用いて得られるスラリー組成物が過度に増粘することもなく、均一な厚みを有する正極合材層を形成することができる。そのため、正極の高電位耐久性を高めつつ、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0035】
[[分子量分布(Mw/Mn)]]
共重合体は、分子量分布が10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、8以下であることが更に好ましく、7以下であることが特に好ましい。共重合体の分子量分布が10以下であれば、低分子量成分の増加により正極活物質が共重合体に過度に被覆されることもなく、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0036】
[[ガラス転移温度(Tg)]]
共重合体は、ガラス転移温度が60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることが更に好ましく、170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましい。共重合体のガラス転移温度が60℃以上であれば、乾式混合中の粒子同士のブロッキングが抑制され、ポリマー粒子、正極活物質、および導電材を均一に分散させることができる。そのため、正極合材層中において共重合体が正極活物質をより良好に被覆可能となり、正極の高電位耐久性を高めつつ、二次電池の内部抵抗を低減することができる。また、共重合体のガラス転移温度が170℃以下であれば、正極の柔軟性を確保してピール強度を高めることができる。
【0037】
[共重合体を含むポリマー粒子の調製]
ポリマー粒子は、上述した共重合体を含んでいれば、その調製方法は特に限定されない。共重合体を含むポリマー粒子は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合して共重合体を粒子状に形成させた後、必要に応じて凝固、ろ過、および減圧乾燥などを経て得ることもできるし、上述した単量体を含む単量体組成物を任意の重合溶媒中で重合して共重合体を得た後、噴霧乾燥することにより得ることもできる。
ここで、本発明において単量体組成物中の各単量体の含有割合は、ポリマー粒子を構成する共重合体中の各単量体単位の含有割合に準じて定めることができる。
重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
中でも、共重合体の重量平均分子量が高めつつ分子量分布を狭め、加えて所定の体積平均粒子径D50を有するポリマー粒子を好適に製造する観点からは、重合様式として懸濁重合法を採用したラジカル重合により単量体組成物を重合することが好ましい。そして、このラジカル重合に際しては、分散剤や重合開始剤など既知の添加剤を使用することができる。このような既知の添加剤としては、例えば特許第5573966号に記載のものが挙げられる。
【0038】
[ポリマー粒子の体積平均粒子径D50]
上述のようにして得られるポリマー粒子の体積平均粒子径D50は、1μm以上であることが必要であり、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが更に好ましく、200μm以上であることが特に好ましく、2000μm以下であることが好ましく、1800μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることが特に好ましい。ポリマー粒子の体積平均粒子径D50が1μm未満であると、正極合材層中において正極活物質を被覆する共重合体の層が過度に薄くなるため、正極の高電位耐久性を確保することができず、また正極のピール強度も低下する。一方、ポリマー粒子の体積平均粒子径D50が2000μm以下であれば、正極合材層中において正極活物質を被覆する共重合体の層が過度に厚くなることもなく、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
なお、ポリマー粒子の体積平均粒子径D50は、ポリマー粒子の調製条件(重合濃度、重合温度および攪拌速度、分散剤、重合開始剤および連鎖移動剤の種類および量、並びに噴霧乾燥の噴霧速度および乾燥温度など)を調節することにより変更することができる。
【0039】
そして、正極活物質の体積平均粒子径D50に対するポリマー粒子の体積平均粒子径D50の比が0.1以上であることが必要であり、1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、20以上であることが特に好ましく、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましい。ポリマー粒子の正極活物質に対する粒子径比が0.1未満であると、正極合材層中において正極活物質を被覆する共重合体の層が過度に薄くなるため、正極の高電位耐久性を確保することができず、また正極のピール強度も低下する。一方、ポリマー粒子の正極活物質に対する粒子径比が200以下であれば、正極合材層中において正極活物質を被覆する共重合体の層が過度に厚くなることもなく、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0040】
<正極活物質>
正極活物質は、二次電池の正極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えばリチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
【0041】
具体的には、リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O
2)、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、Li
1+xMn
2-xO
4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4等の既知の正極活物質が挙げられる。
上述した中でも、二次電池の電池容量などを向上させる観点からは、正極活物質としては、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2またはLiNi
0.5Mn
1.5O
4を用いることが好ましく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2またはLiNi
0.5Mn
1.5O
4を用いることがより好ましい。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
正極活物質の体積平均粒子径D50は、上述したポリマー粒子の正極活物質に対する粒子径比が所定の範囲内となれば特に限定されないが、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0043】
<導電材>
導電材は、正極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。中でも、導電材としては、カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラックがより好ましい。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
<分散媒>
上述したポリマー粒子、正極活物質および導電材を乾式混合した後、得られる乾式混合物に添加する分散媒としては特に限定されることなく、有機溶媒を用いることができる。そして、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
中でも、分散媒としては、NMPが好ましい。
【0045】
<その他の成分>
本発明のスラリー組成物の製造方法においては、上述した以外の成分を使用してもよい。そのような他の成分としては、例えば、上述した共重合体以外の結着材を含んでなる重合体粉末や、国際公開第2012/115096号に記載の補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤などの既知の添加剤が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そして、これらその他の成分の添加時期は特に限定されず、その性状に応じていずれかの工程において適宜添加すればよい。また上述した重合体粉末を構成する結着材(重合体)の性状は任意であり、例えばガラス転移温度が40℃以下の重合体を使用することもできる。
【0046】
<調製手順>
本発明の二次電池正極用スラリー組成物では、上述した成分を用いて、スラリー組成物を調製する。具体的には、二次電池正極用ポリマー粒子、正極活物質、および導電材を乾式混合して乾式混合物を得る工程(乾式混合工程)と、乾式混合工程で得られた乾式混合物と分散媒を混合して二次電池正極用スラリー組成物を得る工程(分散媒混合工程)とを経て、スラリー組成物を調製する。
【0047】
[乾式混合工程]
まず、ポリマー粒子と、正極活物質と、導電材とを、混合時の混合物の固形分濃度が90質量%超の状態で混合(乾式混合)して、乾式混合物を得る。なお、乾式混合の際の混合物の固形分濃度は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上である。乾式混合においては、それぞれ粉体の状態で、意図的に水や有機溶媒を添加することなく混合することが好ましい。なお、本発明において、乾式混合の際の混合物の固形分濃度(%)は、混合前の混合物を、例えば、品温25℃の約3gの測定対象をアルミ皿にとって精秤した(乾燥前質量)後、105℃の乾燥機で24時間乾燥し、水分を揮発させ、その後デシケータ内で25℃まで冷却して得られた乾燥物の質量(乾燥後質量)を精秤し、乾燥後質量を乾燥前質量で除して100を乗ずることにより得ることができる。
【0048】
乾式混合の混合方法は特に限定されないが、混合機を用いて混合することが好ましい。乾式混合の際に用いる混合機としては、乾式タンブラー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、フラッシュミキサー、エアーブレンダー、フロージェットミキサー、ドラムミキサー、リボコーンミキサー、パグミキサー、ナウターミキサー、リボンミキサー、スパルタンリューザー、レディゲミキサー、プラネタリーミキサーが挙げられ、さらに、スクリュー型ニーダー、脱泡ニーダー、ペイントシェーカー等の装置、加圧ニーダー、二本ロールなどの混練機も挙げられる。上述した装置の中で比較的容易に使用できるものとして、撹拌による分散が可能なプラネタリーミキサーなどのミキサー類が好ましく、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサーが特に好ましい。
【0049】
乾式混合の混合時間は、各成分が均一に混合すれば特に限定されないが、例えば、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、更に好ましくは10分以上であり、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下、更に好ましくは20分以下である。
【0050】
また乾式混合に際し、ポリマー粒子、正極活物質、および導電材の添加量比は特に限定されない。
例えばポリマー粒子の添加量は、正極活物質100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましい。正極活物質100質量部当たりのポリマー粒子の添加量が0.5質量部以上であれば、得られるスラリー組成物を用いて形成される正極合材層において共重合体が正極活物質を好適に被覆し、正極の高電位耐久性およびピール強度を十分に確保することができる。一方、正極活物質100質量部当たりのポリマー粒子の配合量が5質量部以下であれば、二次電池の内部抵抗が過度に上昇することもない。
そして、導電材の添加量は、正極活物質100質量部当たり、1質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。導電材の添加量が上述の範囲内であれば、得られるスラリー組成物を用いて形成される正極合材層中で導電パスが良好に形成され、二次電池の内部抵抗を低減しつつ、正極の高電位耐久性を十分に確保することができる。
【0051】
[分散媒混合工程]
次いで、乾式混合工程を経て得られた乾式混合物に上述した分散媒を添加し、混合することでスラリー組成物を調製する。
【0052】
乾式混合物に分散媒を添加する方法は特に限定されず、一括添加であっても逐次添加であってもよいが、各成分が均一に分散したスラリー組成物を得る観点からは、逐次添加が好ましい。
【0053】
また分散媒混合工程における分散媒の添加量は特に限定されず、例えば得られるスラリー組成物の固形分濃度が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下となる量で、分散媒を添加する。
【0054】
乾式混合物と分散媒を混合する方法は特に限定されず、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて乾式混合物と分散媒とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。
【0055】
そして、分散媒混合工程における混合時間は、乾式混合物と分散媒が均一に混合すれば特に限定されないが、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、更に好ましくは10分以上であり、好ましくは120分以下、より好ましくは90分以下、更に好ましくは60分以下である。
【0056】
(二次電池用正極)
本発明の二次電池用正極は、集電体と、集電体上に形成された正極合材層とを備え、正極合材層は上記二次電池正極用スラリー組成物の製造方法により得られる二次電池正極用スラリー組成物を用いて形成されている。
そして、本発明の二次電池用正極は、本発明の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法により得られる二次電池正極用スラリー組成物を使用して作製しているので、高電位耐久性およびピール強度に優れる。そして、本発明の二次電池用正極は、二次電池の内部抵抗を低減させることができ、また高電位に長時間曝された場合であっても、二次電池に優れた寿命特性を発揮させることができる。
【0057】
<正極の製造方法>
なお、本発明の二次電池用正極は、例えば、上述したスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に正極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
なお、本発明の二次電池用正極は、上述したスラリー組成物を乾燥造粒して複合粒子を調製し、当該複合粒子を用いて集電体上に正極合材層を形成する方法によっても製造することができる。
【0058】
[塗布工程]
上記スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる正極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0059】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に正極合材層を形成し、集電体と正極合材層とを備える二次電池用正極を得ることができる。
【0061】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、正極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、正極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
さらに、正極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、正極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0062】
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極として本発明の二次電池用正極を用いたものである。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用正極を備えているので、内部抵抗の上昇が抑制されており、また長時間高電位(例えば、4.4V以上)に曝された場合であっても、寿命特性に優れる。
【0063】
<負極>
負極としては、既知の負極を用いることができる。具体的には、負極としては、例えば、金属リチウムの薄板よりなる負極や、負極合材層を集電体上に形成してなる負極を用いることができる。
なお、集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いることができる。また、負極合材層としては、負極活物質と結着材とを含む層を用いることができる。更に、結着材としては、特に限定されず、任意の既知の材料を用いうる。
【0064】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましく、LiPF
6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0065】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5〜15質量%することが好ましく、2〜13質量%とすることがより好ましく、5〜10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、既知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネートやエチルメチルスルホンなどを添加することができる。
【0066】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0067】
<二次電池の製造方法>
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される構造単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
そして、実施例および比較例において、各粒子の体積平均粒子径D50、共重合体の分子量(重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布)およびガラス転移温度、正極のピール強度および高電位耐久性、並びに二次電池の内部抵抗は、下記の方法で測定および評価した。
【0069】
<体積平均粒子径D50>
レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、「マイクロトラックMT3200II」)を用いて乾式測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径として求めた。
<分子量>
ポリマー粒子に含まれる共重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を、濃度10mMのLiBr−DMF溶液を使用し、下記の測定条件でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)より測定し、あわせて分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
・分離カラム:Shodex KD−806M(昭和電工株式会社製)
・検出器:示差屈折計検出器 RID−10A(株式会社島津製作所製)
・溶離液の流速:0.3mL/分
・カラム温度:40℃
・標準ポリマー:TSK 標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
<ガラス転移温度>
ポリマー粒子を成形して厚み1±0.3mmのフィルムを得た。このフィルムを、120℃の熱風オーブンで1時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとして、JIS K 7121に準じて、測定温度−100℃以上180℃以下、昇温速度5℃/分の条件下、DSC6220SII(示差走査熱量分析計、ナノテクノロジー社製)を用いて、ポリマー粒子に含まれる共重合体のガラス転移温度(℃)を測定した。
<ピール強度>
実施例および比較例において作製した正極を、幅1.0cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とした。そして、試験片の正極合材層側の表面にセロハンテープを張り付けた。この際、セロハンテープはJIS Z1522に規定されるものを用いた。その後、セロハンテープを試験台に固定した状態で試験片を一端側から50mm/分の速度で他端側に向けて引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、応力の平均値を求めて、これをピール強度とし、以下の基準で評価した。ピール強度が大きいほど集電体に対する正極合材層の密着性が優れていることを示す。
A:ピール強度が50N/m以上
B:ピール強度が10N/m以上50N/m未満
C:ピール強度が10N/m未満
<高電位耐久性>
実施例および比較例において作製した二次電池正極用スラリー組成物を、コンマコーターで集電体としてのアルミ箔(厚さ20μm)上に乾燥後の目付量が20mg/cm
2になるように塗布し、90℃で20分、120℃で20分間乾燥後、さらに真空下にて60℃で10時間加熱処理して、集電体上に正極合材層を備える正極を得た。
この正極を直径12mmの円形に切り抜いて、当該切り抜いた正極の正極合材層側に、円形ポリプロピレン製多孔膜(直径18mm、厚さ25μm)、金属リチウム(直径14mm)、そしてエキスパンドメタルをこの順に積層し、積層体を得た。この積層体を、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液(濃度1.0MのLiPF
6溶液(溶媒は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/7(重量比)の混合溶媒))を空気が残らないように注入した。電解液の注入後、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコインセルを製造した。
得られたコインセルに、25℃の雰囲気下、4.4Vの電圧を10時間印加した。10時間後に流れる正極合材層の単位質量当たりの電流密度(mA/g)を求め、酸化電流密度とした。酸化電流密度が小さいほど、高電位耐久性の高い共重合体が良好に正極活物質へ被覆され、高電圧を印加した際の正極活物質表面の酸化反応、および正極活物質表面近傍の電解液の酸化反応が抑制されていることを意味し、すなわち正極が高電位耐久性に優れることを示す。
A:酸化電流密度が0.2mA/g未満
B:酸化電流密度が0.2mA/g以上0.3mA/g未満
C:酸化電流密度が0.3mA/g以上0.4mA/g未満
D:酸化電流密度が0.4mA/g以上0.5mA/g未満
E:酸化電流密度が0.5mA/g以上
<内部抵抗>
二次電池の内部抵抗を評価するために、以下のようにしてIV抵抗を測定した。25℃雰囲気下、1C(Cは定格容量(mA)/1h(時間)で表される数値)でSOC(State Of Charge:充電深度)の50%まで充電した後、SOCの50%を中心として0.5C、1.0C、1.5C、2.0Cで20秒間充電と20秒間放電とをそれぞれ行った。それぞれの場合(充電側および放電側)における20秒後の電池電圧を電流値に対してプロットし、その傾きをIV抵抗(Ω)(充電時IV抵抗および放電時IV抵抗)として求めた。得られたIV抵抗の値(Ω)について、以下の基準で評価した。IV抵抗の値が小さいほど、内部抵抗が少ないことを示す。
A:IV抵抗が2.0Ω以下
B:IV抵抗が2.0Ω超2.3Ω以下
C:IV抵抗が2.3Ω超2.5Ω以下
D:IV抵抗が2.5Ω超3.0Ω以下
E:IV抵抗が3.0Ω超
【0070】
(実施例1)
<二次電池正極用ポリマー粒子の調製>
撹拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を装備した耐圧容器に、イオン交換水400部を仕込み、ゆるやかに撹拌機を回転しながら、減圧(−600mmHg)と窒素ガスによる常圧化を3回繰り返し、反応容器の気相部分の酸素濃度が1%以下であること及び水中の溶存酸素が1ppm以下であることを、溶存酸素計を用いて確認した。その後、分散剤として部分けん化ポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製、「ゴーセノールGH−20」(けん化度86.5mol%〜89.0mol%))0.2部を徐々に投入してよく分散させた後、60℃まで昇温しながら撹拌を継続し、30分間保ち、部分けん化ポリビニルアルコールを溶解させた。
続いて、窒素ガス通気量0.5ml/分の条件下で、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル85部、親水性基含有単量体としてメタクリル酸5部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.2部を仕込み、撹拌混合し、60±2℃に保った。ここに、油溶性の重合開始剤である1,1−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)(大塚化学社製、「OTAZO−15」;略称OTアゾ−15)0.4部をニトリル基含有単量体であるアクリロニトリル10部に溶解した液を添加し、反応を開始した。60±2℃で3時間反応を進めた後、更に70±2℃で2時間反応継続し、更に80±2℃で2時間反応を進めた。その後、40℃以下まで冷却し、共重合体を含むポリマー粒子を得た。得られたポリマー粒子を、200メッシュのろ布に回収し、イオン交換水100部で3回洗浄した後、70℃で12時間減圧乾燥して単離及び精製した(回収率70%)。この単離及び精製後のポリマー粒子の体積平均粒子径D50、並びにポリマー粒子を構成する共重合体の分子量(重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布)およびガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。
<二次電池正極用スラリー組成物の調製>
正極活物質としての層状構造を有する三元系活物質(LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)(体積平均粒子径D50:10μm)100部と、導電材としてのアセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業、比表面積68m
2/g、個数平均粒子径35nm)3.0部と、上述したポリマー粒子2.0部とをプラネタリーミキサーに投入し、攪拌羽根の回転数5rpm、固形分濃度90%超で20分間乾式混合して、乾式混合物を得た(乾式混合工程)。得られた乾式混合物に、分散媒として適量のNMPを逐次添加しつつ、20分間混合することで、二次電池正極用スラリー組成物を得た(分散媒混合工程)。なお、得られたスラリー組成物の固形分濃度は70質量%であり、JIS Z8803:1991に準じてB型粘度計により測定した60rpmでの粘度は4400mPa・s(25℃、スピンドル形状:4)であった。そして、このスラリー組成物を用いて、正極の高電位耐久性を評価した。結果を表1に示す。
<二次電池用正極の作製>
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。そして、上述の二次電池正極用スラリー組成物をアルミ箔の片面に乾燥後の塗布量が20mg/cm
2になるように塗布し、90℃で20分、120℃で20分間乾燥した。その後、更に60℃で10時間加熱処理して、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.2g/cm
3の正極合材層とアルミ箔とからなる、厚さ70μmの正極を作製した。得られた正極を用いて、正極のピール強度を評価した。結果を表1に示す。
<二次電池用負極の作製>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として人造黒鉛(体積平均粒子径D50:24.5μm、比表面積4m
2/g)100部と、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬製、「BSH−12」)を固形分相当で1部加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分混合した。そして、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分混合し混合液を得た。この混合液に、結着材としてのスチレン−ブタジエン共重合体(ガラス転移温度:−15℃)の40%水分散液を固形分相当量で1.0部およびイオン交換水を加えて最終固形分濃度が50%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い二次電池負極用スラリー組成物を得た。
上記二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚さが80μmである負極を作製した。
<セパレータの用意>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を、5cm×5cmの正方形に切り抜いた。
<二次電池の製造>
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。次いで、正極の正極合材層の面上に、上記で得られた5cm×5cmの正方形のセパレータを配置した。さらに、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。そして、電解液(濃度1.0MのLiPF
6溶液(溶媒は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/7(重量比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート1.5体積%(溶媒比)を添加))を充填した。さらにアルミニウム包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池を用いて、内部抵抗を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例2、3)
ポリマー粒子の調製の際に、分散剤としての部分けん化ポリビニルアルコールの量をそれぞれ0.1部、2.0部に変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池正極用ポリマー粒子、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極および二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例4〜6)
ポリマー粒子の調製の際に、それぞれ表1に記載の単量体を当該表に示す割合で使用した以外は、実施例1と同様にして、二次電池正極用ポリマー粒子、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極および二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
なお、実施例6においては、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、2−エチルヘキシルアクリレートを使用した。
【0073】
(実施例7)
ポリマー粒子の調製の際に、連鎖移動剤としてのt−ドデシルメルカプタンの量を0.1部に変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池正極用ポリマー粒子、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極および二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(比較例1)
ポリマー粒子として、ポリフッ化ビニリデンからなる粒子(体積平均粒子径D50:300μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、二次電池正極用ポリマー粒子、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極および二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)
<二次電池正極用ワニスの調製>
撹拌機、温度計、冷却管および窒素ガス導入管を装備した耐圧容器に、実施例1で得られたポリマー粒子100部と、NMP1800部を仕込み、極微量(200ml/分)の窒素ガス通気下、撹拌しながら80±2℃に昇温し、3時間保持した。そして含有水分を除く為、85±2℃、減圧下(25torr以下)で、水分率が1000ppm以下になるまで撹拌溶解を行った。その後40℃以下まで冷却し、100μmろ過フィルターでろ過を行い、二次電池正極用ワニス(固形分:6%)を得た。
<二次電池正極用スラリー組成物の調製>
正極活物質としての層状構造を有する三元系活物質(LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)(体積平均粒子径D50:10μm)100部と、導電材としてのアセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業、比表面積68m
2/g、個数平均粒子径35nm)3.0部をプラネタリーミキサーに投入し、攪拌羽根の回転数5rpmで20分間混合して、混合物を得た。得られた混合物に、上述したワニス(固形分で2.0部)および分散媒として適量のNMPを逐次添加しつつ、20分間混合することで、二次電池正極用スラリー組成物を得た。なお、得られたスラリー組成物の固形分濃度は70質量%であり、JIS Z8803:1991に準じてB型粘度計により測定した60rpmでの粘度は4400mPa・s(25℃、スピンドル形状:4)であった。このスラリー組成物を用いて、正極の高電位耐久性を評価した。結果を表1に示す。
そして、このようにして得られた二次電池正極用スラリー組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、二次電池用正極、二次電池用負極および二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例3)
ポリマー粒子の調製の際に、分散剤としての部分けん化ポリビニルアルコールの量を3.0部に変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池正極用ポリマー粒子、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極および二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例4)
ポリマー粒子の調製の際に、表1に記載の単量体を当該表に示す割合で使用した以外は、実施例1と同様にして、二次電池正極用ポリマー粒子、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池用負極および二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
なお、比較例4においては、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2−エチルヘキシルアクリレートを使用した。
【0078】
なお、以下に示す表1中、
「AN」はアクリロニトリルを示し、
「MAA」はメタクリル酸を示し、
「2EHA」は、2−エチルヘキシルアクリレートを示し、
「PVDF」は、ポリフッ化ビニリデンを示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1の実施例1〜7および比較例1〜4より、実施例1〜7では、高電位耐久性に優れる正極が得られていることがわかる。また実施例1〜7では、正極がピール強度に優れ、そして二次電池の内部抵抗を十分に低減できていることがわかる。
ここで、表1の実施例1〜3より、ポリマー粒子の体積平均粒子径D50を調節することで、正極のピール強度および高電位耐久性を更に向上させうり、また二次電池の内部抵抗を一層低減しうることがわかる。
そして、表1の実施例1、4〜6より、ポリマー粒子に含まれる共重合体の組成を変更することで、正極のピール強度および高電位耐久性を更に向上させうり、また二次電池の内部抵抗を一層低減しうることがわかる。
また、表1の実施例1、7より、ポリマー粒子に含まれる共重合体の分子量分布を調節することで、正極の高電位耐久性を更に向上させうり、また二次電池の内部抵抗を一層低減しうることがわかる。