(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
「抗光老化剤」
本実施形態の抗光老化剤は、式(I)で表わされる化合物またはその塩を有効成分として含有する。
【0021】
(式(I)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルケニル基を表す。R
3は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルケニル基を表す。Xは、水素原子、糖分子数1〜10の直鎖状または分岐状の糖鎖を表す。)
【0022】
式(I)において、R
1は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルケニル基であり、炭素数1〜5の直鎖状のアルキル基、メトキシ基、ビニル基であることが好ましく、炭素数1〜2のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0023】
R
2は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルケニル基であり、炭素数1〜5の直鎖状のアルキル基、メトキシ基であることが好ましく、炭素数1〜2のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
なお、R
2が炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルケニル基である場合、−CH
2−C
4H
7基であると、紫外線吸収能に関係のある電子の共役に対する影響が少ないため好ましい。
【0024】
R
3は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルケニル基であり、水素原子または炭素数1〜2アルキル基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
【0025】
式(I)において、R
3が水素原子である場合、式(I)で表わされる化合物が有しているカルボキシル基は、塩を形成していてもよい。化合物の有しているカルボキシル基が塩を形成している場合、カルボン酸アルカリ金属塩またはカルボン酸アミン塩であることが好ましく、カルボン酸アルカリ金属塩であることがより好ましく、カルボン酸ナトリウム塩であることが最も好ましい。
【0026】
Xは、水素原子、糖分子数1〜10の直鎖状または分岐状の糖鎖であり、水素原子または糖分子数1〜10の直鎖状の糖鎖であることが好ましく、水素原子または糖分子数3〜8の直鎖状の糖鎖であることがより好ましく、水素原子または糖分子数5の直鎖状の糖鎖であることがさらに好ましい。
【0027】
式(I)で表わされる化合物またはその塩は、特に、R
1およびR
2がメチル基であり、R
3およびXが水素原子である式(II)で表される化合物またはその塩、またはR
1およびR
2がメチル基であり、R
3が水素原子であり、Xが糖分子数5の直鎖状の糖鎖である化合物またはその塩であることが好ましい。糖分子はピラノースでもフラノースでもよいが、ピラノースであることが好ましい。
【0029】
R
1およびR
2がメチル基であり、R
3が水素原子であり、Xが糖分子数5の直鎖状の糖鎖である化合物またはその塩は、Xが互いに1,4−グリコシド結合した5つの六炭糖(ピラノース)からなる糖鎖である式(III)で表される化合物またはその塩、Xが互いに1,6−グリコシド結合した5つの六炭糖(ピラノース)からなる糖鎖である式(IV)で表される化合物またはその塩、式(I)におけるXが5つの六炭糖(ピラノース)からなる直鎖状の糖鎖であって六炭糖同士が1,4−グリコシド結合している部分と1,6−グリコシド結合している部分とが混在している糖鎖である化合物またはその塩であることが好ましい。式(III)で表される化合物またはその塩、式(IV)で表される化合物またはその塩、式(I)におけるXが5つの六炭糖(ピラノース)からなる直鎖状の糖鎖であって六炭糖同士が1,4−グリコシド結合している部分と1,6−グリコシド結合している部分とが混在している糖鎖である化合物またはその塩は、これらの中から選ばれる2種以上が任意の割合で混合された混合物として存在していてもよい。
【0032】
式(II)で表わされる化合物またはその塩は、式(V)で表わされる平衡状態の分子内塩として存在しているものであってもよい。より詳細には、式(V)では、式(II)で表わされる化合物またはその塩における炭素原子と二重結合している窒素原子から別の窒素原子との間の構造(N=C−C=C−N)が、平衡状態(N
+=C−C=C−N⇔N−C=C−C=N
+)となっている。
【0034】
式(I)、式(III)、式(IV)で表される化合物またはその塩においても、式中における(N=C−C=C−N)の部分が、平衡状態(N
+=C−C=C−N⇔N−C=C−C=N
+(式(V)参照))の分子内塩として存在していてもよい。
また、式(I)で表される化合物またはその塩には、複数の立体異性体が存在する。式(I)で表される化合物またはその塩には、これらすべての立体異性体が包含される。
【0035】
本実施形態の抗光老化剤に含まれる化合物またはその塩は、式(I)で表わされる構造を有するため、水系溶媒に対する溶解性を有し、皮膚をUVAに暴露することによって起こる皮膚の光老化を抑制する機能と、UVA領域での紫外線を吸収する機能とに優れる。
式(I)で表わされる化合物またはその塩における紫外線吸収能は、式(I)における共役系(炭素原子と二重結合している窒素原子からR
1の結合した窒素原子との間の構造(N=C−C=C−N))が寄与するものと推定される。詳細なメカニズムは不明だが、pH等を調整することにより、式(I)における(N=C−C=C−N)の部分が平衡状態(N
+=C−C=C−N⇔N−C=C−C=N
+(式(V)参照))を形成し、電子の共役に関与して、紫外線吸収能を示すものと考えられる。
【0036】
なお、式(I)で表わされる化合物またはその塩では、R
1、R
2、R
3、Xはいずれも上述した電子の共役に影響を与えない位置に配置されている。このため、式(I)で表わされる化合物またはその塩におけるR
1、R
2、R
3、Xが、上述した如何なるものであっても同様に優れた紫外線吸収能が得られる。
【0037】
「化合物またはその塩の製造方法」
本実施形態の抗光老化剤に含まれる式(I)で表される化合物またはその塩は、例えば、以下に示す製造方法により製造できる。
すなわち、植物に生育する微生物を培養して菌体を得る工程(第1工程)と、菌体を溶媒で抽出して抽出物を得る工程(第2工程)と、抽出物から式(I)で表される化合物またはその塩を回収する工程(第3工程)とを行う。
【0038】
(第1工程)
本実施形態において培養する微生物は、植物に成育しているものである。
微生物を採取する植物の種類は、特に限定されるものではない。植物の種類としては、例えば、コムギ穂、イチゴ葉、月見草の花弁、イネ葉鞘などが挙げられる。これらの植物は、式(I)で表わされる化合物またはその塩を生成するメチロバクテリウム属の微生物が多く生育しているため好ましい。
植物に生育する微生物を植物から採取する方法としては、例えば、植物をリン酸緩衝液中に浸漬して、乳鉢中で磨砕し、微生物を含む磨砕液を得る方法などが挙げられる。
【0039】
微生物の培養方法としては、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、微生物の培養方法として、液体培養法を用いてもよいし、固体培養法を用いてもよいし、液体培養法および固体培養法を用いてもよく、培養する菌体の種類等に応じて適宜決定できる。
微生物の培養に用いる培地としては、例えば、標準寒天培地、L(Lennox)培地、LB(Luria Bertani)培地、NB(Nutrient Broth)培地、PD(ポテトデキストロース)培地、PPD(ポテト・ぺプトン・デキストロース)培地、TB(Terrific broth)培地などを使用できる。
【0040】
本実施形態では、微生物の培養方法の一例として、以下に示す方法を用いる場合を例に挙げて説明する。
まず、植物から採取した微生物を固体培養法により培養し、植物から採取した微生物中に含まれる各菌体を分離回収する。具体的には、上記の方法により植物から採取した微生物を含む磨砕液を、固体培地の表面に塗布(塗抹)して培養し、コロニーを形成させる。固体培地を用いる場合における微生物の培養条件としては、従来公知の条件を採用できる。具体的には、例えば、25℃で3〜7日間、好気条件とすることができる。
【0041】
次いで、固体培地の表面に出現した単コロニーを掻き取る方法により、単コロニーを形成している菌体を回収し、植物から採取した微生物中に含まれる各菌体を分離する。
固体培地の表面に出現した単コロニーから回収した各菌体は、必要に応じて、各菌体毎に、新たな固体培地の表面に塗布して培養(純粋培養)し、回収してもよい。
【0042】
次に、このようにして植物から採取した微生物中から分離回収した各菌体について、分光測色方法、吸光光度法などにより、紫外線吸収能の有無を調べる。
次いで、分離回収した各菌体のうち紫外線吸収能を有する菌体を同定する。菌体の同定方法としては、例えば、rRNA遺伝子の塩基配列に基づき同定する方法など、従来公知の方法を用いることができる。
【0043】
本実施形態では、同定した菌体のうち、メチロバクテリウム属の菌体を、液体培養法により培養する。メチロバクテリウム属の微生物は、式(I)で表される化合物またはその塩を生成する。メチロバクテリウム属に属する微生物の中でも特に、後述するWI−182株(菌株名)、W−213株(菌株名)、f11株(菌株名)、24N−25株(菌株名)を用いることが好ましい。これらの菌株は、植物に成育する微生物であり、培養により増やすことができ、式(I)で表される化合物またはその塩を効率よく生成できる。特に、WI−182株(菌株名)は、培養により容易に増やすことができ、好ましい。
【0044】
次に、植物から採取した微生物中から上記の方法により分離回収したメチロバクテリウム属の菌体を、液体培養法により培養する。植物から採取した微生物から分離回収した菌体中に、複数種のメチロバクテリウム属の菌体が含まれている場合、複数種のメチロバクテリウム属の菌体から紫外線吸収能の最も高い菌体を選択して、液体培養法により培養することが好ましい。
本実施形態では、植物から採取した微生物を個体培養法により培養・分離回収し、得られた各菌体のうち、紫外線吸収能を有するメチロバクテリウム属の菌体のみを液体培養法により培養する。このため、植物から採取した微生物中に含まれる紫外線吸収能を有する菌体を、効率よく増やすことができる。
【0045】
液体培地を用いる場合における菌体の培養条件としては、従来公知の条件を採用できる。具体的には、例えば、25℃で3〜7日間、好気条件とすることができる。
液体培養法では、菌体を効率よく増やすために、菌体を含む液体培地を撹拌したり振盪したり、菌体を含む液体培地に空気を供給したりしながら培養してもよい。
液体培地を用いて培養して得られた菌体は、例えば、遠心分離法、濾過法などを用いて回収できる。液体培地から回収した菌体は、凍結し、真空乾燥してから、次の工程において溶媒で抽出してもよいし、回収した状態のまま、次の工程において溶媒で抽出してもよい。
【0046】
また、液体培地で培養した菌体は、式(I)で表される化合物またはその塩の生成量を十分に確保するために、必要に応じて、新たな液体培地を用いてさらに培養してから回収してもよい。
【0047】
(第2工程)
次に、第1工程で培養して回収したメチロバクテリウム属の菌体を、溶媒で抽出して抽出物を得る。抽出物を得る方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。まず、菌体に溶媒を加えて撹拌し、菌体から溶媒中に式(I)で表される化合物またはその塩を抽出する。次いで、抽出後の菌体を含む溶媒を濾過することにより、濾過液として抽出液を得る。その後、抽出液を濃縮し、凍結、真空乾燥させることにより、抽出物が得られる。
本実施形態において、菌体の抽出に用いる溶媒としては、例えば、アルコール、またはアルコールと水との混合溶液などが挙げられる。これらの中でも、溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、またはこれらと水との混合溶液を用いることが好ましく、メタノールと水との混合溶液を用いることがより好ましい。
【0048】
(第3工程)
次に、第2工程で得た抽出物から目的物である式(I)で表される化合物またはその塩を回収する工程を行う。
本実施形態では、抽出物から目的物を回収する工程として、アルカリ処理と精製処理とを行う。アルカリ処理は、精製処理の前に行ってもよいし、精製処理の後に行ってもよいし、精製処理とともに行ってもよい。
【0049】
アルカリ処理は、抽出物とアルカリ性溶液とを接触させて、抽出物からさらに目的物を抽出することにより実施する。アルカリ性溶液のpHは、好ましくは9.0〜14.0、より好ましくは10.0〜13.0、さらに好ましくは11.0〜12.0である。アルカリ性溶液としては、例えば、アンモニア水とメタノールとの混合溶液が挙げられる。
【0050】
精製処理の方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、アニオン交換クロマトグラフィー法、カチオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法、逆相クロマトグラフィー法などが挙げられる。精製処理は、上記のクロマトグラフィー法を混合した混合モードクロマトグラフィー法により行ってもよいし、異なる種類のクロマトグラフィー法を複数回実施する方法により行ってもよい。精製処理の方法としては、上記の中でも特に、カラムとしてWATERS製のPoraPak Rxn CX等を用いるカチオン交換クロマトグラフィー法、カラムとしてクロマニックテクノロジーズ製のSunrise C28等を用いる疎水性クロマトグラフィー法が好ましい。
【0051】
精製処理とともにアルカリ処理を行う方法としては、例えば、前述のクロマトグラフィー法を前述のアルカリ性溶液を用いて実施する方法が挙げられる。具体的には、カラムとしてWATERS製のPoraPak Rxn CXを用いるカチオン交換クロマトグラフィー法を用い、アルカリ性溶液であるアンモニア水とメタノールとの混合溶液で溶出した成分を回収する方法を用いることが好ましい。
【0052】
以上の工程を行うことにより、目的物である式(I)で表される化合物またはその塩が得られる。
【0053】
本実施形態の製造方法により回収した目的物は、LC/MS(液体クロマトグラフィー質量分析)解析、NMR(核磁気共鳴)解析、X線結晶構造解析などを用いて、式(I)で表される化合物であることを確認できる。
【0054】
LC/MS解析は、例えば、以下に示す条件で実施できる。
LC(液体クロマトグラフィー)としては、株式会社島津製作所製のLCSolution、PDA検出器(SPD−M10A)を用い、カラム温度40℃、流速1.0ml/minm、移動相として、ギ酸アンモニウム、ギ酸水溶液、ギ酸メタノール溶液から選ばれるいずれか1種以上を用いて実施できる。MS(質量分析)は、ESI(エレクトロスプレーイオン化)イオントラップ法にしたがって実施できる。
NMR解析は、例えば、BRUKER BIOSPIN製のAVANCE500を使用して、重水中で実施できる。
【0055】
式(I)で表わされる化合物またはその塩は、紫外線吸収能および水系溶媒に対する溶解性を有する。特に、式(I)で表わされる化合物またはその塩は、波長350〜360nm領域に高い吸収ピークを有し、UVA領域での紫外線吸収能に優れる。
また、本実施形態の化合物またはその塩は、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトニトリル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールのいずれか1種以上と水との混合液、アルカリ金属、アルカリ土類金属塩、有機酸、アミノ酸のいずれか1種以上と水との混合液、水などの水系溶媒に対する溶解性に優れるので、抗光老化剤の材料として用いる場合、水系溶媒を用いて容易に配合できる。
【0056】
また、本実施形態の化合物またはその塩の製造方法によれば、高純度の式(I)で表わされる化合物またはその塩を製造できる。したがって、例えば、本実施形態の製造方法で得られた式(I)で表わされる化合物またはその塩を、抗光老化剤の材料として用いた場合、式(I)で表わされる化合物またはその塩に含まれる不純物に起因する不具合が生じにくく、好ましい。
【0057】
なお、式(I)で表わされる化合物またはその塩の製造方法は、上記の方法に限定されるものではない。
例えば、本実施形態の製造方法により製造した目的物を原料として化学的に合成することにより、製造した目的物と式(I)中のR
1、R
2、R
3、Xのうちのいずれか1以上が異なっている式(I)で表わされる化合物またはその塩を製造してもよい。
また、原料として、植物に生育する微生物を培養して得た菌体から抽出したものを用いず、天然に由来しない成分のみを用いて、式(I)で表わされる化合物またはその塩を化学的に合成してもよい。
【0058】
本実施形態の抗光老化剤に含まれる式(I)で表わされる化合物またはその塩は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。本実施形態の抗光老化剤は、式(I)で表わされる化合物のみを含有し、式(I)で表わされる化合物の塩を含有していないものでもよいし、式(I)で表わされる化合物の塩のみを含有し、式(I)で表わされる化合物を含有していないものでもよいし、式(I)で表わされる化合物および式(I)で表わされる化合物の塩を共に含有するものでもよい。抗光老化剤の含有する式(I)で表わされる化合物またはその塩が2種以上である場合、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。
【0059】
本実施形態の抗光老化剤は、式(I)で表わされる化合物またはその塩の他に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、薬学的に許容される担体などの他の成分を、一般的な濃度で含有していてもよい。
薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、希釈剤、増粘剤、湿潤剤、pH調整剤、油剤、注射剤用溶剤等を使用できる。
【0060】
その他の成分としては、特に制限されず、例えば、保湿剤、感触向上剤、界面活性剤、高分子化合物、増粘・ゲル化剤、溶剤、噴射剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、防腐剤、抗菌剤、キレート剤、pH調整剤、酸、アルカリ、粉体、無機塩、紫外線吸収剤、美白剤、ビタミン類及びその誘導体、消炎剤、抗炎症剤、育毛用薬剤、血行促進剤、刺激剤、ホルモン類、抗しわ剤、抗老化剤、ひきしめ剤、冷感剤、温感剤、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、植物・動物・微生物エキス、鎮痒剤、角質剥離・溶解剤、制汗剤、清涼剤、収れん剤、酵素、核酸、香料、色素、着色剤、染料、顔料、水、金属含有化合物、不飽和単量体、多価アルコール、高分子添加剤、消炎鎮痛剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗生物質、麻酔剤、抗菌性物質、抗てんかん剤、冠血管拡張剤、生薬、補助剤、湿潤剤、収れん剤、増粘剤、粘着付与物質、止痒剤、角質軟化剥離剤、紫外線遮断剤、防腐殺菌剤、金属セッケン等が挙げられる。
【0061】
薬学的に許容される担体及びその他の成分としては、例えば、第十六改正日本薬局方、化粧品原料基準第二版注解(日本公定書教会編、薬事日報社、1984年)、化粧品原料基準外成分規格(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料基準外成分規格追補(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品種別許可基準(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料辞典(日光ケミカルズ社、平成3年)、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook 2002 Ninth Edition Vol.1〜4,by CTFA等に記載されている一般的な原料を使用できる。より具体的には、例えば、特開2014−114289号公報に記載された各原料等が挙げられる。
【0062】
本実施形態の抗光老化剤は、常法(例えば、日本薬局方記載の方法)にしたがって、式(I)で表わされる化合物またはその塩、および必要に応じて含有される他の成分を混合して製剤化することにより製造できる。
【0063】
抗光老化剤としては、具体的には、クリーム、ローション、化粧水、乳液、ファンデーション、パック剤、フォーム剤、皮膚洗浄剤、エキス剤、硬膏剤、軟膏剤、酒精剤、懸濁剤、チンキ剤、パップ剤、リニメント剤、エアゾール剤等の剤型が挙げられる。
【0064】
本実施形態の抗光老化剤は、式(I)で表わされる化合物またはその塩を含有する。このことによって、本実施形態の抗光老化剤は、これを塗布した皮膚がUVAに暴露された場合に、マトリックス成分であるコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸の遺伝子発現を促進するとともに、コラーゲン分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を産生する遺伝子の発現を抑制する。このため、本実施形態の抗光老化剤を塗布した皮膚は、UVAに暴露された場合に、真皮におけるマトリックス成分の減少が生じにくく、マトリックス成分の減少に伴うしわや弾力性の低下が抑制され、光老化が防止される。
【0065】
また、本実施形態の抗光老化剤は、UVA吸収能を有する。よって、本実施形態の抗光老化剤は、これを塗布した皮膚がUVAに暴露された場合に、皮膚をUVAから遮蔽し、UVAに暴露されることによる皮膚の光老化を効果的に抑制する。
【0066】
なお、従来の紫外線遮蔽剤は、物理化学的に紫外線を吸収したり、散乱させたりする機能によって、紫外線に起因する光老化を防止するものであり、皮膚をUVAに暴露することによって起こる皮膚の光老化自体を生理的に抑制する機能を有するものではなかった。
これに対し、本実施形態の抗光老化剤を皮膚に塗布した場合、皮膚をUVAから遮蔽するだけでなく、皮膚をUVAに暴露することにより生じる皮膚の老化を生理的に抑制する効果が得られる。さらに、抗光老化剤のコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸の遺伝子発現を促進する機能により、皮膚をUVAに暴露した後の真皮においてマトリックス成分が増大し、老化を改善する効果も期待できる。上記効果は、UVAに暴露された後の皮膚に、本実施形態の抗光老化剤を塗布した場合にも発現する。
【0067】
また、本実施形態の抗光老化剤は、水系溶媒に対する溶解性を有する式(I)で表わされる化合物またはその塩を含むため、疎水性溶媒を使わずに製造できるとともに、用途に応じて様々な剤型にすることができる。
【0068】
本実施形態の抗光老化剤の具体的な組成としては、例えば、表1〜表5に示す組成例1〜組成例8の組成が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
<実施例>
「1.微生物の採取」
イチゴ葉を10mMリン酸緩衝液中に浸漬して、乳鉢中で磨砕し、微生物を含む磨砕液を得た。
【0075】
「2.微生物の培養」
「1.微生物の採取」で得た微生物を含む磨砕液を、標準寒天培地(Difco製)の表面に塗布し、25℃で5日間、好気条件で培養した。その後、標準寒天培地の表面に出現した単コロニーを掻き取り、単コロニーを形成している菌体を分離回収した。
次に、単コロニーから回収した各菌体を、複数のNB(Nutrient Broth)寒天平板培地(Difco製)の表面に塗布して、それぞれ25℃で6日間、好気条件で培養した。その後、寒天平板培地の表面に出現したコロニーを掻き取り、菌体を回収した。
【0076】
次に、このようにして植物から採取した微生物中から分離回収した各菌体について、吸光光度法により、紫外線吸収能の有無を調べた。
次いで、分離回収した各菌体のうち最も高い紫外線吸収能を有する菌体を同定した。菌体の同定は、rRNA遺伝子の塩基配列に基づいて行った。その結果、菌体はメチロバクテリウム属であった。この菌体をWI−182株と名付けた。
【0077】
次に、メチロバクテリウム属の菌体(WI−182株)の得られた寒天平板培地を2枚用意し、各寒天平板培地にそれぞれ無菌精製水10mlを加えて懸濁し、懸濁液を得た。2枚の寒天平板培地から得た懸濁液を混合して混合液とし、7本の100mlのPD培地(Difco製)にそれぞれ2mlずつ加え、25℃で90時間、好気条件で培養した。
7本のPD培地で培養した培養物から600ml採取して、30LのPD培地(Difco製)に加えた。そして、菌体を含む液体培地を回転速度400rpmで撹拌機を用いて撹拌しながら、液体培地に15L/minの空気を供給し、好気状態で、25℃で7日間培養した。
【0078】
「3.菌体の回収」
上記の通りにして培養した培養物28kg(培養した菌体を含む液体培地)を、回転速度8000rpmで20分間遠心分離して、ウェット状の菌体を回収した。その後、回収した菌体を凍結し、真空乾燥して、51gの菌体を得た。
【0079】
「4.微生物からの抽出」
上記の通りにして得た菌体(WI−182株)45gに、水とメタノールとの混合溶液(水:メタノール(体積比)=2:8)2250mlを加えて、25℃で1時間、スリーワンモータ(登録商標)撹拌翼を用いて回転速度140rpmで撹拌することにより抽出した。次いで、抽出後の菌体を含む溶媒を吸引濾過することにより、濾過液として抽出液を回収した。その後、回収した抽出液をロータリーエバポレーターで濃縮し、凍結、真空乾燥させて12.2gの抽出物を得た。
【0080】
「5.抽出物からの目的物の回収(1)」
以下に示すように、アルカリ性溶液を用いるカチオン交換クロマトグラフィー法により、抽出物を精製した。
まず、メタノールに抽出物を加えて溶解し、メタノール溶液とした。次いで、メタノール溶液をカラム(WATERS製 PoraPak Rxn CX)に通過させて、イオン交換樹脂に抽出物を吸着させた。次に、カラムに、アルカリ性溶液としてアンモニア水(28質量%)とメタノールとの混合溶液(アンモニア水:メタノール(体積比)=5:95(pH11.2))を通過させて、イオン交換樹脂に吸着した抽出物からアルカリ性溶液に溶解する成分を溶出させて溶出液を得た。
その後、溶出液をロータリーエバポレーターで濃縮し、凍結、真空乾燥させて粗精製物である1.36gの黄褐色化合物を回収した。
【0081】
「6.抽出物からの目的物の回収(2)」
上記の通りにして得られた粗精製物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(株式会社島津製作所製LCSolution、PDA(フォトダイオードアレイ)検出器(SPD−M10A))を用いて精製した。条件は下記の通りとした。
【0082】
カラム:Sunrise C28(カラム内に充填されている基材の粒子径:5μm、カラムの内径:10mm、カラムの長さ:250mm、クロマニックテクノロジーズ製)
カラム温度:40℃
流速:5.0ml/min
移動相A:10mMギ酸アンモニウム、0.2%ギ酸
溶媒 水
移動相B:10mMギ酸アンモニウム、0.2%ギ酸
溶媒 水とメタノールとの混合溶液(メタノール:水(体積比)=95:5)
グラジエント条件:0〜7min 移動相A100%で固定
7〜15min 移動相A:移動相B=100:0〜移動相A:移動相B=24:76のリニアグラジエント
15〜25min 移動相B95%で固定
25〜35min 移動相A100%で固定
【0083】
高速液体クロマトグラフィー解析結果を
図1に示す。
図1は、実施例で得られた粗精製物の紫外線吸収強度と溶出時間との関係を示したグラフである。
図1に示すように、実施例で得られた粗精製物では、UV測定波長360nmで測定したときに、溶出時間3.3min、4.3min、5.2min、16.8min、17.6minの位置に主要ピークが検出された。溶出時間4.3min、16.8min、17.6minのピークにおいては、波長350〜360nm領域に高い吸収ピークを示すことが確認された。
【0084】
「光老化関連遺伝子発現促進効果」
実施例で得られた粗精製物をイオン交換カラムにて精製し、5%アンモニア水で溶出する画分を分取後、エバポレーターにて溶媒を除去し、精製された固形分を得た。この精製物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)解析結果の面積比から、前項記載のUV測定波長360nmで測定したときに、式(II)で表される化合物と式(V)で表される化合物に相当する溶出時間4.3minの主要ピークを64%、その他の化合物を36%の割合(質量比)で含むものであると推定される。
次いで、得られた精製物について、以下に示す方法により、光老化関連遺伝子(コラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、ヒアルロン酸合成酵素(HAS3)遺伝子)発現促進効果を調べた。
【0085】
(試料1)
理化学研究所バイオリソースセンター製の正常ヒト線維芽細胞(NB1RGB細胞)を、10000個/cm
2の播種密度でプラスチックシャーレに播種し、10%ウシ胎児血清を含むSigma社製ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地中で24時間培養した。
続いて、NB1RGB細胞に、UVP社のUVA照射装置を用いて15J/cm
2のUVAを照射した。その後、プラスチックシャーレに、60%エタノールに溶解した上記精製物を、DMEM培地中の培養液に含まれる上記精製物の濃度が0.01質量%となるように添加し、更に24時間培養して試料1を得た。
【0086】
(試料2)
UVAを照射した後、プラスチックシャーレに、60%エタノールに溶解した上記精製物に代えて、60%エタノールを添加したこと以外は、試料1と同様にして試料2を得た。
(試料3)
UVAを照射しなかったこと以外は、試料2と同様にして試料3を得た。
【0087】
試料1〜試料3の細胞からそれぞれ総RNA(リボ核酸)を抽出し、cDNA(相補的デオキシリボ核酸)を合成した。続いて、上記のcDNAを鋳型として、定量リアルタイムPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行い、試料1〜試料3のNB1RGB細胞におけるコラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、HAS3遺伝子の発現量を定量した。
【0088】
また、試料1〜試料3のNB1RGB細胞におけるコラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、HAS3遺伝子の発現量と同様にして、試料1〜試料3のNB1RGB細胞における内部標準遺伝子の発現量を定量した。内部標準遺伝子として、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子を用いた。
そして、試料1〜試料3のNB1RGB細胞におけるGAPDH遺伝子の発現量に基づいて、NB1RGB細胞におけるコラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、HAS3遺伝子の各遺伝子の発現量を標準化し、試料3のコラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、HAS3遺伝子の各遺伝子の発現量を1.00としたときの発現量(相対値)を算出した。その結果を表6に示す。
【0089】
なお、GAPDH遺伝子増幅用プライマーとしては、タカラバイオ社製のGAPDH(ID:HA067812)を使用した。また、コラーゲン遺伝子増幅用プライマーとしては、タカラバイオ社製のCOLA1(ID:HA181838)を使用し、エラスチン遺伝子増幅用プライマーとしては、タカラバイオ社製のELA(ID:CH000581)を使用し、HAS3遺伝子増幅用プライマーとしては、タカラバイオ社製の(ID:HA095624)を使用した。
【0090】
【表6】
【0091】
表6に示すように、NB1RGB細胞を入れたプラスチックシャーレに上記精製物を添加した試料1では、コラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、HAS3遺伝子の各遺伝子の発現量が、UVAを照射していない試料3と比較して多くなっている。
これに対し、上記精製物を添加していない試料2では、UVAを照射していない試料3と比較して、コラーゲン遺伝子、エラスチン遺伝子、HAS3遺伝子の各遺伝子の発現量が少なくなっている。
【0092】
「MMP−1遺伝子発現抑制効果」
以下に示す方法により、上記精製物のマトリックスメタロプロテアーゼー1(MMP−1)遺伝子発現抑制効果を調べた。
【0093】
試料1〜試料3の細胞からそれぞれ総RNA(リボ核酸)を抽出し、cDNA(相補的デオキシリボ核酸)を合成した。続いて、上記のcDNAを鋳型として、定量リアルタイムPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行い、試料1〜試料3のNB1RGB細胞におけるMMP−1遺伝子の発現量を定量した。
【0094】
そして、試料1〜試料3のNB1RGB細胞におけるGAPDH遺伝子の発現量に基づいて、NB1RGB細胞におけるMMP−1遺伝子の発現量を標準化し、試料3のMMP−1遺伝子の発現量を1.00としたときの発現量(相対値)を算出した。その結果を表7に示す。
なお、MMP−1遺伝子増幅用プライマーとしては、タカラバイオ社製のMMP−1(ID:HA205024)を使用した。
【0095】
【表7】
【0096】
表7に示すように、NB1RGB細胞を入れたプラスチックシャーレに上記精製物を添加した試料1では、上記精製物を添加していない試料2と比較して、UVAを照射したことによるMMP−1遺伝子の発現量が少なくなっている。