特許第6614895号(P6614895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614895
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】複合酸化物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20191125BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20191125BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20191125BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20191125BHJP
【FI】
   C01G51/00 B
   C04B35/01
   H01M4/86 T
   H01M8/12
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-189223(P2015-189223)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-65932(P2017-65932A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】永富 晶
(72)【発明者】
【氏名】木村 洋介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊男
(72)【発明者】
【氏名】山口 十志明
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−217461(JP,A)
【文献】 特表2012−519071(JP,A)
【文献】 特開2009−037872(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0132772(US,A1)
【文献】 特開2010−027358(JP,A)
【文献】 特開2012−227142(JP,A)
【文献】 特開2006−179807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−47/00
C01G 49/10−99/00
C04B 35/00−35/22
C04B 35/42−35/515
H01M 4/86
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0.35<x<0.45、0.75<y<0.85、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物の出発原料を湿式混合した後、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させ、この前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成する、複合酸化物の製造方法において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.05〜0.4質量%になるように、バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料をペロブスカイト型複合酸化物の出発原料に添加して湿式混合し、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させる際にバリウムまたはセリウムの酸化物の前駆体を析出させ、これらの前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成することを特徴とする、複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.1〜0.3質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型複合酸化物が、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0<x<1、0<y<1、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料が、ランタン(La)とストロンチウム(Sr)とコバルト(Co)と鉄(Fe)の各々の硝酸塩であり、前記バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料が、バリウム(Ba)またはセリウム(Ce)の硝酸塩であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体の析出が、前記ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料と前記バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料を湿式混合して得られた混合溶液を中和することによって行われることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体の乾燥粉末の焼成が、前記前駆体の乾燥粉末を900〜1200℃で焼成することによって行われることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
組成式La1−xSrCo1−yFe3−z0.35<x<0.450.75<y<0.85、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物に0.05〜0.4質量%のバリウムまたはセリウムが添加されていることを特徴とする、複合酸化物。
【請求項8】
前記複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.1〜0.3質量%であることを特徴とする、請求項に記載の複合酸化物。
【請求項9】
前記ペロブスカイト型複合酸化物中にバリウムまたはセリウムが固溶していることを特徴とする、請求項7または8に記載の複合酸化物。
【請求項10】
請求項乃至のいずれかに記載の複合酸化物を空気極の材料として使用していることを特徴とする、固体酸化物型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物およびその製造方法に関し、特に、固体酸化物型燃料電池の空気極の材料に適したペロブスカイト型複合酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(SOFC(Solid Oxide Fuel Cell))は、一般に、酸化物からなる空気極と固体電解質と電極(空気極と燃料極)とからなる単セルをインターコネクタによって接続したスタック構造を採っている。このような固体酸化物型燃料電池の作動温度は、通常1000℃程度である。近年、固体酸化物型燃料電池の作動温度が低温化されているが、実用化されている固体酸化物型燃料電池の最低温度は700℃以上と依然として高温である。
【0003】
このようなセル構造と高い作動温度のため、固体酸化物型燃料電池の電極の材料は、基本的に、酸素イオン導電性や電子伝導性が高く、熱膨張が電解質と同等あるいは近似し、化学的な安定性が高く、他の構成材料との適合性が良好であることが要求されている。また、固体酸化物型燃料電池の電極は、固体電解質上に電極の材料を塗布した後に焼成して形成されており、その焼結体が多孔質であり、一定の強度を有することなどの特性が要求されている。また、近年、固体酸化物型燃料電池の空気極の性能を向上させることによって、固体酸化物型燃料電池の性能を向上させ、作動温度を低下させることが試みられている。
【0004】
このような固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として、ペロブスカイト型金属酸化物と、互いに異なる少なくとも2種のランタノイド異種元素によってドーピングされ、ランタノイド異種元素の平均イオン半径が0.90〜1.02オングストロームであるセリア系金属酸化物とを含む燃料電池用正極材料(例えば、特許文献1参照)や、ペロブスカイト型の酸化物とセリウム酸化物の両方を含むコンポジット状態からなる固体酸化物形燃料電池のカソード(空気極)形成用材料(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−227142号公報(段落番号0009)
【特許文献2】特開2013−143242号公報(段落番号0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の燃料電池用正極材料は、ペロブスカイト型金属酸化物とセリア系金属酸化物との含有量比が1:9〜9:1(好ましくは3:7〜7:3)の重量比になるように混合した混合粉末であり、固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用した場合に、600℃以下の低温域において電極抵抗を低くするには不十分であった。
【0007】
また、特許文献2の固体酸化物形燃料電池のカソード形成用材料は、ペロブスカイト型の酸化物とセリウム酸化物を所定の配合比(重量%で95:5〜30:70)になるように秤量してボールミルなどの混合機で混合した混合粉末を焼成することによって製造しており、特許文献1の場合と同様に、固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用した場合に、600℃以下の低温域において電極抵抗を低くするには不十分であった。
【0008】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用した場合に、600℃以下の低温域において電極抵抗を低くすることができる、ペロブスカイト型複合酸化物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料を湿式混合した後、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させ、この前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成する、複合酸化物の製造方法において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.05〜0.4質量%になるように、バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料をペロブスカイト型複合酸化物の出発原料に添加して湿式混合し、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させる際にバリウムまたはセリウムの酸化物の前駆体を析出させ、これらの前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成することにより、固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用した場合に、600℃以下の低温域において電極抵抗を低くすることができる、ペロブスカイト型複合酸化物を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明による複合酸化物の製造方法は、ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料を湿式混合した後、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させ、この前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成する、複合酸化物の製造方法において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.05〜0.4質量%になるように、バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料をペロブスカイト型複合酸化物の出発原料に添加して湿式混合し、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させる際にバリウムまたはセリウムの酸化物の前駆体を析出させ、これらの前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成することを特徴とする。
【0011】
この複合酸化物の製造方法において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.1〜0.3質量%であるのが好ましい。ペロブスカイト型複合酸化物は、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0<x<1、0<y<1、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物であるのが好ましく、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0.35<x<0.45、0.75<y<0.85、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物であるのがさらに好ましい。ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料は、ランタン(La)とストロンチウム(Sr)とコバルト(Co)と鉄(Fe)の各々の硝酸塩であるのが好ましく、バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料は、バリウム(Ba)またはセリウム(Ce)の硝酸塩であるのが好ましい。前駆体の析出は、ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料とバリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料を湿式混合して得られた混合溶液を中和することによって行われるのが好ましい。前駆体の乾燥粉末の焼成は、前駆体の乾燥粉末を900〜1200℃で焼成することによって行われるのが好ましい。
【0012】
また、本発明による複合酸化物は、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0<x<1、0<y<1、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物に0.05〜0.4質量%のバリウムまたはセリウムが添加されていることを特徴とする。
【0013】
この複合酸化物において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.1〜0.3質量%であるのが好ましい。ペロブスカイト型複合酸化物は、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0.35<x<0.45、0.75<y<0.85、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物であるのが好ましい。また、ペロブスカイト型複合酸化物中にバリウムまたはセリウムが固溶しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用した場合に、600℃以下の低温域において電極抵抗を低くすることができる、ペロブスカイト型複合酸化物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られた複合酸化物についての粉末X線回折法(XRD)による測定結果を示す図である。
図2】実施例3で得られた複合酸化物についてのXRDによる測定結果を示す図である。
図3】固体酸化物型燃料電池の交流インピーダンス測定により得られる複素インピーダンス平面プロット(Cole−Coleプロット)の等価回路モデルを示す図である。
図4】実施例1〜2および比較例1〜2で得られた複合酸化物により作製した評価用対称セルの交流インピーダンス測定により得られたCole−Coleプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による複合酸化物の製造方法の実施の形態では、ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料を湿式混合した後、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させ、この前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成する、複合酸化物の製造方法において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.05〜0.4質量%になるように、バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料をペロブスカイト型複合酸化物の出発原料に添加して湿式混合し、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させる際にバリウムまたはセリウムの酸化物の前駆体を析出させ、これらの前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成する。
【0017】
この複合酸化物の製造方法の実施の形態において、バリウムまたはセリウムの添加量は、複合酸化物に対して0.05〜0.4質量%であり、0.1〜0.3質量%であるのが好ましい。複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.4質量を超えると、複合酸化物を固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用した場合に、反応抵抗が高くなって、電極抵抗(=反応抵抗+ガス拡散抵抗)も高くなり、0.05質量%未満であると、ガス拡散抵抗が高くなって、電気抵抗も高くなるからである。すなわち、複合酸化物がバリウムまたはセリウムを含有することにより、ペロブスカイト構造の焼結時の過剰なネッキングを抑えることができ、表面積が大きくなって、複合酸化物を固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用した場合に、ガス拡散抵抗を低下させることができるが、バリウムまたはセリウムの含有量が多過ぎると、ペロブスカイト構造が崩れて結晶性が悪くなって、反応抵抗が高くなる。そのため、複合酸化物が微量(0.05〜0.4質量%、好ましくは、0.1〜0.3質量%)のバリウムまたはセリウムを含有することにより、600℃以下の低温域でも電極抵抗を低く(2.5Ω・cm以下に)抑えることができる。
【0018】
ペロブスカイト型複合酸化物は、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0<x<1、0<y<1、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物(LSCF)であるのが好ましく、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0.35<x<0.45、0.75<y<0.85、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物であるのがさらに好ましい。この場合、ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料として、ランタン(La)とストロンチウム(Sr)とコバルト(Co)と鉄(Fe)の各々の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩または酸化物を使用することができるが、ランタン(La)とストロンチウム(Sr)とコバルト(Co)と鉄(Fe)の各々の硝酸塩を使用するのが好ましい。また、バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料として、バリウムまたはセリウムの硝酸塩、炭酸塩または酸化物を使用することができるが、バリウムまたはセリウムの硝酸塩を使用するのが好ましい。
【0019】
前駆体の析出は、ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料とバリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料を湿式混合して得られた混合溶液に炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、アンモニウムなどのアルカリを添加して、混合溶液を中和することによって行われるのが好ましい。
【0020】
ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させた後、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体のウエットケーキを得て、このウエットケーキを素早く乾燥させるのが好ましく、ウエットケーキを乾燥させ易くするために、例えば、ウエットケーキを円柱形または角柱形のペレット状(棒状)に成形するのが好ましく、直径2〜10mmのペレット状に形成するのが好ましい。この場合、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体の乾燥が、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体のウエットケーキのペレット状の成形体を200〜400℃で1〜3時間乾燥させることによって行われるのが好ましい。
【0021】
前駆体の乾燥粉末の焼成は、前駆体の乾燥粉末を900〜1200℃で焼成することによって行われるのが好ましく、950〜1100℃で焼成するのがさらに好ましい。
【0022】
また、本発明による複合酸化物の実施の形態では、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0<x<1、0<y<1、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物に0.05〜0.4質量%のバリウムまたはセリウムが添加されている。
【0023】
この複合酸化物の実施の形態において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.1〜0.3質量%であるのが好ましい。ペロブスカイト型複合酸化物は、組成式La1−xSrCo1−yFe3−z(0.35<x<0.45、0.75<y<0.85、0<z<1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物であるのが好ましい。また、ペロブスカイト型複合酸化物中にバリウムまたはセリウムが固溶しているのが好ましい。
【0024】
なお、固体酸化物型燃料電池の電極抵抗は、交流インピーダンス測定によって求めることができる。交流インピーダンス測定では、固体酸化物型燃料電池内で起こっている様々な現象(燃料や空気の電極内拡散、酸素や燃料の化学反応、イオンや電子の流れなど)をそれぞれの電気抵抗の値として分離することができるので、固体酸化物型燃料電池の電極の性能を評価することができる。このような固体酸化物型燃料電池の交流インピーダンス測定によって、図3に示すように、横軸にインピーダンスの実成分Z’、縦軸に虚数成分Z”をプロットした複素インピーダンス平面プロット(Cole−Coleプロット)を得ることができる。図3において、1つの半円形の円弧が電極内で起こっている1つの現象に対応している。一般に、左側の円弧(高周波成分)が電極反応抵抗Rr、右側の円弧(低周波成分)がガス拡散抵抗Rdを示し、電極反応抵抗Rrとガス拡散抵抗Rdの和(Rr+Rd)が電極抵抗Reと呼ばれている。電極反応抵抗Rrは、高周波成分の抵抗R1とオーム抵抗(交流(周波数)に依存しない抵抗成分(電解質の抵抗成分や集電に関する抵抗成分))R0の差(R1−R0)から求められ、ガス拡散抵抗Rdは、低周波成分の抵抗R2と高周波成分の抵抗R1の差(R2−R1)から求められる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明による複合酸化物およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0026】
[実施例1]
硝酸ランタン六水和物(La(NO・6HO)121.6gと、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)43.8gと、硝酸鉄九水和物(Fe(NO・9HO)151.8gと、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)30.5gをそれぞれイオン交換水2652gに溶解させ、さらに(0.1質量%のセリウムを含む複合酸化物を作製するために)硝酸セリウム(III)六水和物(硝酸第一セリウム六水和物)(Ce(NO・6HO)0.36gを混合して、硝酸塩の混合溶液Aを作成した。
【0027】
また、イオン交換水807.3gと炭酸アンモニウム192.7gを溶解槽に入れ、攪拌しながら水温を25℃になるよう調整した。この炭酸アンモニウム溶液を、硝酸塩の混合溶液Aに徐々に加えて中和反応を行い、セリウム酸化物の前駆体とペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させた後、これらの前駆体を30分間熟成させて反応を完了させた。
【0028】
このようにして得られた前駆体を濾過した後に水洗し、得られたウエットケーキを直径5mmの細長い円柱形のペレット状に成形した。この成形後直ぐにペレット状の成形体に空気を通風しながら250℃で90分間加熱して乾燥させ、黒色の乾燥粉末を得た。
【0029】
次に、この乾燥粉末を大気中において1000℃で2時間焼成した後、乾式粉砕処理を行って、結晶性のペロブスカイト型複合酸化物である複合酸化物粉末を得た。なお、このようにして得られた焼成後の複合酸化物について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製の720ES)によって組成分析を行ったところ、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のセリウム濃度が0.1質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末に微量のセリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、粉末X線回折法(XRD)による測定を行ったところ、図1の回折線に示すように、La1−xSrCo1−yFe3−zの(LSCF)の単一相であり、セリウムが固溶していることがわかった。
【0030】
得られた複合酸化物について、BET測定装置(カンタクロム社製のMONOSORB)を用いてBET比表面積を測定したところ、3.3m/gであった。
【0031】
得られた複合酸化物について、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製の9320−X100)を使用して、平均粒径D50を測定したところ、8.5μmであった。
【0032】
得られた複合酸化物を空気極の材料として使用し、この空気極の材料にバインダとしてエチルセルロースを混合することによって空気極ペーストを作製した。また、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の紛体をプレス成形後に1400℃で焼成することによって、20mm径、厚さ0.5mmのディスク状基板を作製し、このディスク状基板の両面に、Gd添加CeO(GDC)がエタノールとトルエンの混合液に分散したGDCスラリーをディップコーティングし、1200℃で焼成することによって、空気極評価用基板を得た。
【0033】
このようにして得られた空気極評価用基板の両面にカソード層として上記の空気極ペーストを塗布し、1050℃で焼成することによって、評価用対称セルを得た。
【0034】
このようにして得られた評価用対称セルについて、交流インピーダンス測定装置(GAMRY社製のR600)を使用して、空気雰囲気において評価温度585℃で交流インピーダンス測定を行ったところ、図4に示す曲線(Cole−Coleプロット)が得られた。この曲線について、データ解析ソフトウェア(Scribner Associates社製のZview)を使用して、図3に示す等価回路モデルによって、オーム抵抗R0、高周波数成分の抵抗R1および低周波数成分の抵抗R2を分離して算出した。その結果、オーム抵抗R0は10.5Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は11.4Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.2Ω・cmであり、反応抵抗Rr(=R1−R0)は0.9Ω・cm、ガス拡散抵抗Rd(=R2−R1)は0.8Ω・cm、電極抵抗Re(=Rr+Rd)は1.7Ω・cmであった。
【0035】
[実施例2]
0.2質量%のセリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸セリウム(III)六水和物の添加量を0.73gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0036】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のセリウム濃度が0.1質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末に微量のセリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は4.9m/gであり、平均粒径D50は0.7μmであった。また、図4に示す曲線(Cole−Coleプロット)が得られ、オーム抵抗R0は11.0Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.0Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.9Ω・cmであり、反応抵抗Rrは1.0Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは0.9Ω・cm、電極抵抗Reは1.9Ω・cmであった。
【0037】
[比較例1]
硝酸セリウム(III)六水和物を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0038】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末からなる複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.1m/gであり、平均粒径D50は3.1μmであった。また、図4に示す曲線(Cole−Coleプロット)が得られ、オーム抵抗R0は11.0Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.9Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は15.7Ω・cmであり、反応抵抗Rrは1.9Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは2.8Ω・cm、電極抵抗Reは4.7Ω・cmであった。
【0039】
[比較例2]
0.5質量%のセリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸セリウム(III)六水和物の添加量を1.813gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0040】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のセリウム濃度が0.5質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末にセリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.2m/gであり、平均粒径D50は0.9μmであった。また、図4に示す曲線(Cole−Coleプロット)が得られ、オーム抵抗R0は10.5Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.4Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は13.2Ω・cmであり、反応抵抗Rrは1.9Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは0.8Ω・cm、電極抵抗Reは2.7Ω・cmであった。
【0041】
[実施例3]
0.1質量%のバリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸セリウム(III)六水和物の代わりに、硝酸バリウム(Ba(NO)0.22gを混合した以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。この複合酸化物について、粉末X線回折法(XRD)による測定を行ったところ、図2の回折線に示すように、LSCFの単一相であり、バリウムが固溶していることがわかった。
【0042】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のバリウム濃度が0.1質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末に微量のバリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は2.9m/gであり、平均粒径D50は7.4μmであった。また、オーム抵抗R0は11.3Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.7Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は13.6Ω・cmであり、反応抵抗Rrは1.4Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは0.9Ω・cm、電極抵抗Reは2.3Ω・cmであった。
【0043】
[実施例4]
0.2質量%のバリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸バリウム(Ba(NO)の添加量を0.45gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0044】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のバリウム濃度が0.2質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末に微量のバリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は5.2m/gであり、平均粒径D50は0.6μmであった。また、オーム抵抗R0は11.0Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は11.3Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.7Ω・cmであり、反応抵抗Rrは0.3Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは1.4Ω・cm、電極抵抗Reは1.7Ω・cmであった。
【0045】
[比較例3]
0.5質量%のバリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸バリウム(Ba(NO)の添加量を1.11gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0046】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のバリウム濃度が0.5質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末に微量のバリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.2m/gであり、平均粒径D50は9.4μmであった。また、オーム抵抗R0は9.9Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.1Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.9Ω・cmであり、反応抵抗Rrは2.2Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは0.8Ω・cm、電極抵抗Reは3.0Ω・cmであった。
【0047】
[比較例4]
0.1質量%のプラセオジムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸セリウム(III)六水和物の代わりに、硝酸プラセオジム(III)六水和物(Pr(NO・6HO)0.361gを混合した以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0048】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のプラセオジム濃度が0.1質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末に微量のプラセオジム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は2.2m/gであり、平均粒径D50は13.2μmであった。また、オーム抵抗R0は11.1Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は13.1Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は14.4Ω・cmであり、反応抵抗Rrは2.0Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは1.3Ω・cm、電極抵抗Reは3.3Ω・cmであった。
【0049】
[比較例5]
0.2質量%のプラセオジムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸プラセオジム(III)六水和物(Pr(NO・6HO)の添加量を0.72gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0050】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のプラセオジム濃度が0.2質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末に微量のプラセオジム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.1m/gであり、平均粒径D50は5.8μmであった。また、オーム抵抗R0は9.7Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は11.8Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.9Ω・cmであり、反応抵抗Rrは2.1Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは1.1Ω・cm、電極抵抗Reは3.2Ω・cmであった。
【0051】
[比較例6]
0.5質量%のプラセオジムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸プラセオジム(III)六水和物(Pr(NO・6HO)の添加量を1.81gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0052】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のプラセオジム濃度が0.5質量%であり、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粉末にプラセオジム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.3m/gであり、平均粒径D50は9.6μmであった。また、オーム抵抗R0は10.6Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は13.4Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は14.5Ω・cmであり、反応抵抗Rrは2.8Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは1.1Ω・cm、電極抵抗Reは3.9Ω・cmであった。
【0053】
これらの実施例および比較例の複合酸化物の製造条件および特性を表1に示す。
【表1】
【0054】
実施例1〜4のように、ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料を湿式混合した後、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させ、この前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成する、複合酸化物の製造方法において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.05〜0.4質量%になるように、バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料をペロブスカイト型複合酸化物の出発原料に添加して湿式混合すると、焼成後の複合酸化物のXRD測定において、La1−xSrCo1−yFe3−z(LSCF)の単一相になり、バリウムまたはセリウムが固溶する。また、表1からわかるように、実施例1〜4の複合酸化物を固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用すると、交流インピーダンス測定において600℃以下の低温域で電極抵抗が2.5Ω・cmと低くなることがわかる。そのため、実施例1〜4の複合酸化物を固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用すると、空気極の電気抵抗を低くして、固体酸化物型燃料電池の発電効率を高くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明による複合酸化物は、600℃以下の低温域において電極抵抗が低いペロブスカイト型複合酸化物であり、固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用することができる。
図1
図2
図3
図4