【実施例】
【0025】
以下、本発明による複合酸化物およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0026】
[実施例1]
硝酸ランタン六水和物(La(NO
3)
3・6H
2O)121.6gと、硝酸ストロンチウム(Sr(NO
3)
2)43.8gと、硝酸鉄九水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)151.8gと、硝酸コバルト六水和物(Co(NO
3)
2・6H
2O)30.5gをそれぞれイオン交換水2652gに溶解させ、さらに(0.1質量%のセリウムを含む複合酸化物を作製するために)硝酸セリウム(III)六水和物(硝酸第一セリウム六水和物)(Ce(NO
3)
3・6H
2O)0.36gを混合して、硝酸塩の混合溶液Aを作成した。
【0027】
また、イオン交換水807.3gと炭酸アンモニウム192.7gを溶解槽に入れ、攪拌しながら水温を25℃になるよう調整した。この炭酸アンモニウム溶液を、硝酸塩の混合溶液Aに徐々に加えて中和反応を行い、セリウム酸化物の前駆体とペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させた後、これらの前駆体を30分間熟成させて反応を完了させた。
【0028】
このようにして得られた前駆体を濾過した後に水洗し、得られたウエットケーキを直径5mmの細長い円柱形のペレット状に成形した。この成形後直ぐにペレット状の成形体に空気を通風しながら250℃で90分間加熱して乾燥させ、黒色の乾燥粉末を得た。
【0029】
次に、この乾燥粉末を大気中において1000℃で2時間焼成した後、乾式粉砕処理を行って、結晶性のペロブスカイト型複合酸化物である複合酸化物粉末を得た。なお、このようにして得られた焼成後の複合酸化物について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製の720ES)によって組成分析を行ったところ、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のセリウム濃度が0.1質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末に微量のセリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、粉末X線回折法(XRD)による測定を行ったところ、
図1の回折線に示すように、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3−zの(LSCF)の単一相であり、セリウムが固溶していることがわかった。
【0030】
得られた複合酸化物について、BET測定装置(カンタクロム社製のMONOSORB)を用いてBET比表面積を測定したところ、3.3m
2/gであった。
【0031】
得られた複合酸化物について、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製の9320−X100)を使用して、平均粒径D
50を測定したところ、8.5μmであった。
【0032】
得られた複合酸化物を空気極の材料として使用し、この空気極の材料にバインダとしてエチルセルロースを混合することによって空気極ペーストを作製した。また、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の紛体をプレス成形後に1400℃で焼成することによって、20mm径、厚さ0.5mmのディスク状基板を作製し、このディスク状基板の両面に、Gd添加CeO
2(GDC)がエタノールとトルエンの混合液に分散したGDCスラリーをディップコーティングし、1200℃で焼成することによって、空気極評価用基板を得た。
【0033】
このようにして得られた空気極評価用基板の両面にカソード層として上記の空気極ペーストを塗布し、1050℃で焼成することによって、評価用対称セルを得た。
【0034】
このようにして得られた評価用対称セルについて、交流インピーダンス測定装置(GAMRY社製のR600)を使用して、空気雰囲気において評価温度585℃で交流インピーダンス測定を行ったところ、
図4に示す曲線(Cole−Coleプロット)が得られた。この曲線について、データ解析ソフトウェア(Scribner Associates社製のZview)を使用して、
図3に示す等価回路モデルによって、オーム抵抗R0、高周波数成分の抵抗R1および低周波数成分の抵抗R2を分離して算出した。その結果、オーム抵抗R0は10.5Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は11.4Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.2Ω・cmであり、反応抵抗Rr(=R1−R0)は0.9Ω・cm、ガス拡散抵抗Rd(=R2−R1)は0.8Ω・cm、電極抵抗Re(=Rr+Rd)は1.7Ω・cmであった。
【0035】
[実施例2]
0.2質量%のセリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸セリウム(III)六水和物の添加量を0.73gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0036】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のセリウム濃度が0.1質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末に微量のセリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は4.9m
2/gであり、平均粒径D
50は0.7μmであった。また、
図4に示す曲線(Cole−Coleプロット)が得られ、オーム抵抗R0は11.0Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.0Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.9Ω・cmであり、反応抵抗Rrは1.0Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは0.9Ω・cm、電極抵抗Reは1.9Ω・cmであった。
【0037】
[比較例1]
硝酸セリウム(III)六水和物を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0038】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末からなる複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.1m
2/gであり、平均粒径D
50は3.1μmであった。また、
図4に示す曲線(Cole−Coleプロット)が得られ、オーム抵抗R0は11.0Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.9Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は15.7Ω・cmであり、反応抵抗Rrは1.9Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは2.8Ω・cm、電極抵抗Reは4.7Ω・cmであった。
【0039】
[比較例2]
0.5質量%のセリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸セリウム(III)六水和物の添加量を1.813gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0040】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のセリウム濃度が0.5質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末にセリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.2m
2/gであり、平均粒径D
50は0.9μmであった。また、
図4に示す曲線(Cole−Coleプロット)が得られ、オーム抵抗R0は10.5Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.4Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は13.2Ω・cmであり、反応抵抗Rrは1.9Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは0.8Ω・cm、電極抵抗Reは2.7Ω・cmであった。
【0041】
[実施例3]
0.1質量%のバリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸セリウム(III)六水和物の代わりに、硝酸バリウム(Ba(NO
3)
2)0.22gを混合した以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。この複合酸化物について、粉末X線回折法(XRD)による測定を行ったところ、
図2の回折線に示すように、LSCFの単一相であり、バリウムが固溶していることがわかった。
【0042】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のバリウム濃度が0.1質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末に微量のバリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は2.9m
2/gであり、平均粒径D
50は7.4μmであった。また、オーム抵抗R0は11.3Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.7Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は13.6Ω・cmであり、反応抵抗Rrは1.4Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは0.9Ω・cm、電極抵抗Reは2.3Ω・cmであった。
【0043】
[実施例4]
0.2質量%のバリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸バリウム(Ba(NO
3)
2)の添加量を0.45gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0044】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のバリウム濃度が0.2質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末に微量のバリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は5.2m
2/gであり、平均粒径D
50は0.6μmであった。また、オーム抵抗R0は11.0Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は11.3Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.7Ω・cmであり、反応抵抗Rrは0.3Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは1.4Ω・cm、電極抵抗Reは1.7Ω・cmであった。
【0045】
[比較例3]
0.5質量%のバリウムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸バリウム(Ba(NO
3)
2)の添加量を1.11gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0046】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のバリウム濃度が0.5質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末に微量のバリウム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.2m
2/gであり、平均粒径D
50は9.4μmであった。また、オーム抵抗R0は9.9Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は12.1Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.9Ω・cmであり、反応抵抗Rrは2.2Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは0.8Ω・cm、電極抵抗Reは3.0Ω・cmであった。
【0047】
[比較例4]
0.1質量%のプラセオジムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸セリウム(III)六水和物の代わりに、硝酸プラセオジム(III)六水和物(Pr(NO
3)
3・6H
2O)0.361gを混合した以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0048】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のプラセオジム濃度が0.1質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末に微量のプラセオジム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は2.2m
2/gであり、平均粒径D
50は13.2μmであった。また、オーム抵抗R0は11.1Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は13.1Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は14.4Ω・cmであり、反応抵抗Rrは2.0Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは1.3Ω・cm、電極抵抗Reは3.3Ω・cmであった。
【0049】
[比較例5]
0.2質量%のプラセオジムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸プラセオジム(III)六水和物(Pr(NO
3)
3・6H
2O)の添加量を0.72gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0050】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のプラセオジム濃度が0.2質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末に微量のプラセオジム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.1m
2/gであり、平均粒径D
50は5.8μmであった。また、オーム抵抗R0は9.7Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は11.8Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は12.9Ω・cmであり、反応抵抗Rrは2.1Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは1.1Ω・cm、電極抵抗Reは3.2Ω・cmであった。
【0051】
[比較例6]
0.5質量%のプラセオジムを含む複合酸化物を作製するために、硝酸プラセオジム(III)六水和物(Pr(NO
3)
3・6H
2O)の添加量を1.81gとした以外は、実施例1と同様の方法により、複合酸化物粉末を得た。
【0052】
このようにして得られた複合酸化物粉末について、実施例1と同様の方法により、組成分析を行い、BET比表面積および平均粒径D
50を測定するとともに、交流インピーダンス測定を行った。その結果、La:Sr:Co:Feのモル比が0.6:0.4:0.2:0.8、複合酸化物粉末中のプラセオジム濃度が0.5質量%であり、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3粉末にプラセオジム酸化物が添加された複合酸化物粉末であることがわかった。また、BET比表面積は3.3m
2/gであり、平均粒径D
50は9.6μmであった。また、オーム抵抗R0は10.6Ω・cm、高周波数成分の抵抗R1は13.4Ω・cm、低周波数成分の抵抗R2は14.5Ω・cmであり、反応抵抗Rrは2.8Ω・cm、ガス拡散抵抗Rdは1.1Ω・cm、電極抵抗Reは3.9Ω・cmであった。
【0053】
これらの実施例および比較例の複合酸化物の製造条件および特性を表1に示す。
【表1】
【0054】
実施例1〜4のように、ペロブスカイト型複合酸化物の出発原料を湿式混合した後、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させ、この前駆体を乾燥させて得られた乾燥粉末を焼成する、複合酸化物の製造方法において、複合酸化物中のバリウムまたはセリウムの含有量が0.05〜0.4質量%になるように、バリウムまたはセリウムの酸化物の出発原料をペロブスカイト型複合酸化物の出発原料に添加して湿式混合すると、焼成後の複合酸化物のXRD測定において、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3−z(LSCF)の単一相になり、バリウムまたはセリウムが固溶する。また、表1からわかるように、実施例1〜4の複合酸化物を固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用すると、交流インピーダンス測定において600℃以下の低温域で電極抵抗が2.5Ω・cmと低くなることがわかる。そのため、実施例1〜4の複合酸化物を固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として使用すると、空気極の電気抵抗を低くして、固体酸化物型燃料電池の発電効率を高くすることができる。