【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
石英ガラスからなるガラスロッドは、光通信や光学の分野において主に光ファイバの製造に用いられる。従来から、このようなガラスロッド(光ファイバ母材)は、たとえば、気相軸付け(VAD)法により作製したコア部形成用ガラスロッドの周囲に、外付気相堆積(OVD)法または粉体成形法によりシリカガラスの多孔質体を形成して、多孔質母材を作製し、さらに多孔質母材を加熱焼結して製造される。
【0003】
光ファイバの中に単一のコア部を含むいわゆるシングルコア型の光ファイバを製造する場合、コア部形成用ガラスロッドは1本であり、多孔質母材は多孔質体の中心軸付近から1本のコア部形成用ガラスロッドが突出している構造を有する。多孔質母材を焼結する際には、この1本のコア部形成用ガラスロッドを把持することにより多孔質母材を焼結炉内で保持し、焼結を行う。
【0004】
一方、光ファイバ通信における近年の伝送容量の増大に対応すべく、光ファイバの断面内に複数のコア部を有するマルチコアファバが検討されている。マルチコアファイバ用の光ファイバ母材の製造方法としては、ガラスロッドに複数の孔を開けて孔のそれぞれにコア部形成用ガラスロッドを挿入する穿孔法、あるいはコア部形成用ガラスロッドを束ねて線引きするスタックアンドドロー法が一般的に用いられている。しかし、穿孔法の場合、ガラスロッドを作製しさらにこれに複数の孔を開ける工程を含むため、大型の光ファイバ母材を製造することが困難であり、コストアップの問題がある。また、スタックアンドドロー法の場合、大型の光ファイバ母材を製造することが困難である上、コア位置精度を高くすることが困難である等、コスト面や構造面での制約が存在する。
【0005】
これに対して、上述した多孔質母材を作製し、これを焼結する方法は、光ファイバの製造方法として広く普及した方法であり、大型の光ファイバ母材を製造することが可能であることから、マルチコアファイバを製造する場合においてもコスト的に有利である。
【0006】
たとえば、
図15(a)に模式的に示すような、コア部1が、中心に位置するコア部1aとその周囲に正六角形を形成するように配置された6個のコア部1bで構成され、これらのコア部1の外周にクラッド部2が形成されたマルチコアファイバ3を製造する場合を考える。なお、マルチコアファイバ3にて破線で囲まれる領域は、後述するようにコア部形成用のガラスロッドにより形成される領域である。
【0007】
図15(b)は、マルチコアファイバ3を製造するための多孔質母材4を模式的に示している。多孔質母材4は、コア部形成用の7本のガラスロッド5の周囲にガラス微粒子からなる多孔質体6が堆積し、かつ多孔質体6から7本のガラスロッド5が突出している構造を有する。ここで、ガラスロッド5は、コア部1を形成するためのコア部形成部の周囲に、クラッド部2の一部(
図15(a)で、コア部1の外縁と破線とで囲まれた領域)を形成するためのクラッド部形成部が形成された構造を有する。
【0008】
この多孔質母材4を焼結する場合は、突出しているガラスロッド5のうち、中心に位置するガラスロッド5aの突出している側の端部を把持具7により把持することにより多孔質母材4を焼結炉内で保持し、多孔質母材4を軸周りに回転させながら焼結を行う(特許文献1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明に係る光ファイバ母材の製造方法および光ファイバの製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。
【0019】
本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、複数のガラスロッドの周囲にガラス微粒子からなる多孔質体を形成する工程と、形成した多孔質体を焼結する工程と、を有しており、かつ多孔質体を形成する工程は、複数のガラスロッドのうち2本以上が多孔質体から突出するように多孔質体を形成し、焼結する工程は、突出している2本以上のガラスロッドの突出している側の端部を支持治具により一括して支持して焼結することを特徴としている。これにより、多孔質母材の重量を、2本以上のガラスロッドにより支えることができるので、多孔質体に亀裂等が発生することが抑制または防止されることにより、光ファイバ母材の製造歩留まりの低下が抑制される。
【0020】
(実施形態1)
以下、実施形態1に係る多孔質体の形成工程およびその焼結工程について具体的に説明する。多孔質体の形成工程においては、複数のガラスロッドを準備し、これらの周囲にガラス微粒子を堆積し、多孔質体を形成する。ガラスロッドはVAD法により作製されたものを用いることができる。また、多孔質体の形成工程では、OVD法を用いる。
【0021】
図1は、実施形態1に係る多孔質体の形成工程で用いる支持治具の構成例1を説明する模式図である。
図1(a)に全体図を示すように、支持治具10は、7本のガラスロッド5を支持できるものであり、
図15(a)に示すマルチコアファイバ3を製造する際に使用されるものである。支持治具10は、回転軸棒11と、7本のガラスロッド支持パイプ12と、12本の連結棒13とを備えている。これらの構成要素はたとえば金属材料からなる。
【0022】
回転軸棒11は、OVD法による多孔質体の形成工程においてガラスロッド5を回転させる際の回転軸となる部材である。ガラスロッド支持パイプ12は、ガラスロッド5が挿入されてガラスロッドを支持する部材である。ガラスロッド支持パイプ12は、ガラスロッド5が、作製する多孔質母材におけるガラスロッドの配置となるように配置されている。本実施形態1では、7本のガラスロッド支持パイプ12のうちガラスロッド支持パイプ12aが中心に配置され、これを中心として6本のガラスロッド支持パイプ12bがその外周に正六角形を形成するように配置されている。以下、ガラスロッド支持パイプ12aとガラスロッド支持パイプ12bとを区別しない場合はガラスロッド支持パイプ12と記載する。
【0023】
図1(b)に要部拡大図を示すように、12本の連結棒13のうちの6本は、回転軸棒11とガラスロッド支持パイプ12bのそれぞれとを連結するように設けられている。12本の連結棒13のうちの残りの6本は、ガラスロッド支持パイプ12aとガラスロッド支持パイプ12bのそれぞれとを連結するように設けられている。
【0024】
また、
図1(b)に示すように、ガラスロッド支持パイプ12には1個のロッド孔位置調整用孔12d、3個のロッド固定用ネジ孔12c、12eが、それぞれ形成されている。3個のロッド固定用ネジ孔12c、12eは、それぞれ、互いに120°の角度をなすように配置されている。ガラスロッド5は、その両端が2つの支持治具10のそれぞれが備えるガラスロッド支持パイプ12に挿入され、固定ネジ14を各ロッド固定用ネジ孔12c、12eに螺合することで固定されることで、支持治具10により支持される。なお、
図1(c)ではロッド固定用ネジ孔12eについて示しているが、ロッド固定用ネジ孔12cも同様に配置される。
【0025】
つぎに、
図2に示すように、支持治具10の回転軸棒11をOVD装置20のチャック21で把持し、ガラスロッド5を回転させる。そして、ガラスロッド5を回転させながら、ガラス微粒子合成用のバーナであるメインバーナ22に、ガラス原料ガスおよび燃焼ガス例えばH
2ガスとO
2ガスとを供給し、端部バーナ23に燃焼ガス例えばH
2ガスとO
2ガスとを供給し、ガラスロッド5にガラス微粒子を堆積させる。ガラス原料ガスとしてはたとえばSiCl
4ガス等を用いることができる。
【0026】
メインバーナ22は、燃焼ガスによって形成される火炎中でガラス原料ガスを火炎加水分解させてガラス微粒子を合成する。なお、メインバーナ22は、ガラスロッド5の延在方向に往復移動し、ガラスロッド5の延在方向に均一にガラス微粒子を堆積させ、シリカガラスからなる多孔質体31を形成する。なお、端部バーナ23は多孔質体31の両端部における外径を多孔質体31の長手方向中央部における外径と同程度にするために用いられる。堆積しなかったガラス微粒子は排気フード24から排気管25を介して排気される。これにより、多孔質体31が形成されるとともに、多孔質体31から7本のガラスロッド5が突出している多孔質母材30が形成される。
【0027】
つぎに、多孔質体31の焼結工程について説明する。
図3は、実施形態1に係る多孔質体の焼結工程で用いる支持治具の構成例1を説明する模式図である。支持治具40は、多孔質母材30の多孔質体31から突出している7本のガラスロッド5を支持できるものである。支持治具40は、
図3(a)に示すように、回転軸棒41と、支持部材42と、3本の連結棒43と、7本の固定ピン44とを備えている。これらの構成要素はシリカガラス材料からなる。
【0028】
回転軸棒41は、焼結工程において多孔質母材30を回転させる際の回転軸となる部材である。支持部材42は、円板状の基部42aに円筒状の支持部42bが設けられた構成を有している。支持部42bは、ガラスロッド5の配置に対応する位置に配置されている。各支持部42bには各ガラスロッド5の端部が挿入される。なお、本実施形態では、各ガラスロッド5の両端が多孔質体31から突出しているが、ガラスロッドの一方の端部だけが多孔質体から突出するように多孔質母材を作製した場合は、ガラスロッドの突出している側の端部を支持部に挿入する。
連結棒43は、回転軸棒41と基部42aとを連結するように設けられている。
【0029】
また、
図3(b)は
図3(a)におけるA−A線要部断面を示す図であるが、支持部42bおよびガラスロッド5には、それぞれ貫通孔42ba、5cが形成されている。貫通孔42ba、5cには固定ピン44が挿通されている。これにより、ガラスロッド5は支持部42bに固定される。その結果、7本のガラスロッド5は支持治具40により一括して支持されることとなる。このように、7本のガラスロッド5を支持治具40により支持することで、多孔質母材30を焼結炉内で保持し、かつ軸周りに回転させながら、多孔質体31を加熱して焼結する。これにより、多孔質体31はガラス化し、多孔質母材30は光ファイバ母材となる。
【0030】
なお、貫通孔42ba、5cに固定ピン44を挿通するには、各ガラスロッド5と支持部42bとにおいて、貫通孔42baと貫通孔5cとが連通するような位置関係になっている必要がある。これを実現するためには、ガラスロッド5を
図1に示す支持治具10に取り付ける際に、ガラスロッド5の貫通孔5cとガラスロッド支持パイプ12のロッド孔位置調整用孔12dとが連通するように取り付けを行えばよい。このとき、貫通孔5cとロッド孔位置調整用孔12dとに固定ボルトを挿通し、固定ボルトの先端からナットを螺合してガラスロッド支持パイプ12に締結することで、貫通孔5cとロッド孔位置調整用孔12dとの位置関係を確実にすることができる。ガラスロッド支持パイプ12のロッド孔位置調整用孔12dと支持部42bの貫通孔42baとの位置関係を対応するように設定しておくことで、貫通孔42baと貫通孔5cとが連通するような位置関係とすることができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態1では、7本のガラスロッド5の端部を一括して支持できる支持治具40により支持することで多孔質母材30を焼結炉内で保持しながら、多孔質体31を加熱して焼結するので、多孔質母材30の全重量を、7本のガラスロッド5で支えることとなるので、多孔質体31とガラスロッド5の間に掛かる応力は小さくなる。その結果、多孔質体31に亀裂等が発生することが防止される。これにより、製造歩留まりの低下が防止される。
【0032】
(実施形態2)
実施形態2に係る多孔質体の形成工程およびその焼結工程について具体的に説明する。
図4は、多孔質体の形成工程で用いる支持治具の構成例2を説明する模式図である。支持治具10Aは、VAD法により作製した3本のガラスロッド5Aを支持できるものであり、
図16に示すマルチコアファイバ3Aを製造する際に使用されるものである。なお、
図1に示すガラスロッド5とガラスロッド5Aとは略同じものであるが、その相違点を後に詳述する。支持治具10Aは、回転軸棒11Aと、3本のガラスロッド支持パイプ12Aと、1個の連結板13Aとを備えている。これらの構成要素はたとえば金属材料からなる。
【0033】
回転軸棒11Aは、OVD法による多孔質体の形成工程においてガラスロッド5Aを回転させる際の回転軸となる部材である。ガラスロッド支持パイプ12Aは、ガラスロッド5Aが挿入されてガラスロッド5Aを支持する部材である。ガラスロッド支持パイプ12Aは、ガラスロッド5Aが、作製する多孔質母材におけるガラスロッドの配置となるように配置されている。本実施形態2では、3本のガラスロッド支持パイプ12Aが正三角形を形成するように配置されている。
【0034】
連結板13Aは、正三角形状であり、各頂点に各ガラスロッド支持パイプ12Aが設けられ、中心に回転軸棒11Aが立設されている。
【0035】
また、ガラスロッド支持パイプ12Aには、それぞれ6個のロッド固定用ネジ孔12Aeが形成されている。6個のロッド固定用ネジ孔12Aeは、3個を1組とするロッド固定用ネジ孔12Aeの各組が、互いに120°の角度をなすように配置されている。ガラスロッド5Aは、その両端が2つの支持治具10Aのそれぞれが備えるガラスロッド支持パイプ12Aに挿入され、固定ネジを各ロッド固定用ネジ孔12Aeに螺合することで固定されることで、支持治具10Aにより支持される。
【0036】
ここで、
図5は、ガラスロッド5Aの端部の構造を説明する模式図である。
図5によりガラスロッド5とガラスロッド5Aとの相違点を説明する。
図5(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、ガラスロッド5Aの端部の側面図、B矢視図、上面図、斜視図である。
【0037】
ガラスロッド5Aの端部の側面には、底面5Aaaおよび互いに平行な内側面5Aabをそれぞれ有する2つの凹部5Aaが形成されている。2つの凹部5Aaの底面5Aaaは互いに平行になっている。
【0038】
多孔質母体の形成工程では、支持治具10Aを用いて、実施形態1と同様にOVD法により、多孔質体を形成するとともに、多孔質体から3本のガラスロッド5Aの両端が突出している多孔質母材を形成する。
【0039】
つぎに、多孔質体の焼結工程について説明する。
図6は、実施形態2に係る多孔質体の焼結工程で用いる支持治具の構成例3を説明する模式図である。支持治具40Aは、多孔質母材30Aの多孔質体31Aから突出している3本のガラスロッド5Aを支持できるものである。支持治具40Aは、回転軸棒41Aと、支持部材42Aと、回転軸棒41Aと支持部材42Aとを連結するように設けられた3本の連結棒43Aとを備えている。これらの構成要素はシリカガラス材料からなる。
【0040】
回転軸棒41Aは、焼結工程において多孔質母材30Aを回転させる際の回転軸となる部材である。支持部材42Aは、円板状であり、3個の長孔42Aaが設けられた構成を有している。長孔42Aaは、ガラスロッド5Aの配置に対応する位置に配置されており、支持部材42Aの中心から放射状に伸びている。各ガラスロッド5Aはその端部に形成された凹部5Aaが各長孔42Aaに嵌合することで、支持部材42Aに支持される。その結果、3本のガラスロッド5Aは支持治具40Aにより一括して支持されることとなる。
【0041】
ところで、各ガラスロッド5Aの凹部5Aaを各長孔42Aaに嵌合するために、支持治具40Aはたとえば以下のような構成を有している。
図7は、支持治具40Aの支持部材42Aの構成の一例を示す模式図である。支持部材42Aは、1個の部材42Abと、2個の部材42Acと、1個の部材42Adとを連結することで構成される。
図7(a)は支持部材42Aの上面図、
図7(b)、(c)は、それぞれ、部材42Abと部材42Adとを嵌合した状態の側面図、斜視図、
図7(d)は、部材42Acの斜視図である。
【0042】
部材42Adは、連結用リング部材であって、連結棒43Aが設けられるとともに、その内周側に、部材42Ab、42Acを嵌合するための段差部42Adaが形成されている。
【0043】
部材42Abは、段差部42Adaに嵌合する段差部(不図示)と、長孔42Aaを形成するための凹部42Abaとを有する略扇形の板部42Abbと、部材42Acの一部を収容するための円筒部42Abcと、板部42Abbと円筒部42Abcとを連結する連結部42Abdとを有する。
【0044】
部材42Acは、外周に形成される、段差部42Adaに嵌合する段差部42Aceと長孔42Aaを形成する凹部42Acaとを有する略扇形の板部42Acbと、板部42Acbから延伸する延伸部42Acdとを有する。
【0045】
支持部材42Aは、2つの部材42Acの各延伸部42Acdを部材42Abの円筒部42Abcに挿入し、部材42Abと2つの部材42Acとを連結し、この連結した部材を部材42Adに嵌合することにより組み立てられる。このとき、部材42Abの凹部42Abaと部材42Acの凹部42Aca、および、2つの部材42Acの凹部42Aca同士が組み合わさって各長孔42Aaが形成される。
【0046】
部材42Abと2つの部材42Acとを連結する際に、各ガラスロッド5Aの凹部5Aaを凹部42Abaまたは凹部42Acaに嵌合させてから連結することにより、各ガラスロッド5Aの凹部5Aaを各長孔42Aaに嵌合させることができる。
【0047】
さて、以上のように3本のガラスロッド5Aを支持治具40Aにより支持することで、多孔質母材30Aを焼結炉内で保持し、かつ軸周りに回転させながら、多孔質体31Aを加熱して焼結する。これにより、多孔質体31Aはガラス化し、多孔質母材30Aは光ファイバ母材となる。
【0048】
本実施形態2では、実施形態1の場合と同様に、焼結工程において、多孔質母材30Aの全重量を、3本のガラスロッド5Aで支えることとなるので、多孔質体31Aとガラスロッドの間に掛かる応力は小さくなる。その結果、実施形態1の場合と同様に、製造歩留まりの低下が防止される。
さらに、このように多孔質母材30Aの中心軸にガラスロッド5Aが存在しない場合においても、多孔質体に偏った応力が掛かることを抑制でき、製造歩留まりの低下が防止される。このような効果は、以下に説明する、多孔質母材の中心軸にガラスロッドが存在しない実施形態3〜6においても得られる。
【0049】
ところで、多孔質体31Aを焼結させてガラス体とする過程では、多孔質体31Aの体積が収縮する。この収縮に伴い、多孔質体31Aは3本のガラスロッド5Aに、これらを互いに近づけるような応力を及ぼす。具体的には、多孔質体31Aは3本のガラスロッド5Aに、これらを多孔質体31Aの軸中心に近づけるような応力を及ぼす。
【0050】
本実施形態2では、各ガラスロッド5Aは、凹部5Aaが各長孔42Aaに嵌合することで、支持部材42Aに支持されている。したがって、
図8に示すように、多孔質体31Aが収縮して光ファイバ母材35Aのガラス体36Aとなる過程で、3本のガラスロッド5Aに応力を及ぼすと、各ガラスロッド5Aは、各長孔42Aaにガイドされて、多孔質体31の中心軸に近づくように移動する。このように支持治具40Aは、ガラスロッド5Aが多孔質体31の中心軸に近づく方向に移動することができるようにガラスロッド5Aを支持できるように構成されているので、各ガラスロッド5Aが湾曲することが防止される。
【0051】
なお、支持治具40Aとは異なり、各ガラスロッドの端部を固定するような支持治具を用いると、多孔質体の収縮によって、各ガラスロッドは多孔質体31の中心軸に近づくため、支持治具に固定された部分よりもガラス体内に位置する部分の方が互いに近くなるので、各ガラスロッドは湾曲することとなる。
【0052】
(実施形態3)
実施形態3に係る多孔質体の形成工程およびその焼結工程について説明する。本実施形態3に係る多孔質体の形成工程は、実施形態2の場合と略同じであるが、ガラスロッドとしては実施形態1におけるガラスロッド5を用いる。
【0053】
つぎに、多孔質体の焼結工程について説明する。
図9は、実施形態3に係る多孔質体の焼結工程で用いる支持治具の構成例4を説明する模式図である。支持治具40Bは、多孔質母材30Bの多孔質体31Bから突出している3本のガラスロッド5を支持できるものである。支持治具40Bは、回転軸棒41Bと、支持部材42Bと、回転軸棒41Bと支持部材42Bとを連結するように設けられた3本の連結棒43Bと、3個の固定リング44Bと、3本の固定ピン45Bとを備えている。これらの構成要素はシリカガラス材料からなる。
【0054】
回転軸棒41Bは、焼結工程において多孔質母材30Bを回転させる際の回転軸となる部材である。支持部材42Bは、円板状であり、3個の長孔42Baと、各長孔42Baの外縁に設けられたガイド溝42Bbとが設けられた構成を有している。長孔42Baは、ガラスロッド5の配置に対応する位置に配置されており、支持部材42Bの中心から放射状に伸びている。各固定リング44Bは各ガイド溝42Bbに嵌合し、かつ各ガラスロッド5が挿入されている。
【0055】
また、
図9(b)は
図9(a)におけるC−C線要部断面を示す図であるが、固定リング44Bおよびガラスロッド5には、それぞれ貫通孔44Ba、5cが形成されている。貫通孔44Ba、5cには固定ピン45Bが挿通されている。これにより、ガラスロッド5は固定リング44Bに固定され、支持部材42Bに支持される。その結果、3本のガラスロッド5は支持治具40Bにより一括して支持されることとなる。このように、3本のガラスロッド5を支持治具40Bにより支持することで、多孔質母材30Bを焼結炉内で保持し、かつ軸周りに回転させながら、多孔質体31Bを加熱して焼結する。これにより、多孔質体31Bはガラス化し、多孔質母材30Bは光ファイバ母材となる。
【0056】
本実施形態3では、実施形態1、2の場合と同様に、焼結工程において、多孔質母材30Bの全重量を、3本のガラスロッド5で支えることとなるので、多孔質体31Bとガラスロッドの間に掛かる応力は小さくなる。その結果、実施形態1、2の場合と同様に、製造歩留まりの低下が防止される。
【0057】
さらに、本実施形態3では、実施形態2と同様に、支持治具40Bが、ガラスロッド5が多孔質体31Bの中心軸に近づく方向に移動することができるようにガラスロッド5を支持できるように構成されている。具体的には、多孔質体31Bが収縮してガラス体となる過程で、3本のガラスロッド5に応力を及ぼすと、各ガラスロッド5は、各ガラスロッド5に固定されている固定リング44Bがガイド溝42Bbにガイドされることにより、多孔質体31Bの中心軸に近づくように移動する。その結果、実施形態2の場合と同様に、各ガラスロッド5が湾曲することが防止される。
【0058】
(実施形態4)
実施形態4に係る多孔質母体の形成工程およびその焼結工程について具体的に説明する。本実施形態4に係る多孔質体の形成工程は、実施形態2、3の場合と略同じであるが、ガラスロッドとしては以下に説明するガラスロッドを用いる。
【0059】
図10は、ガラスロッド5Cの端部の構造を説明する模式図である。
図5(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、ガラスロッド5Cの端部の側面図、D矢視図、上面図、斜視図である。
【0060】
ガラスロッド5Cの端部の側面には、底面5Caa、および互いに対向する平面状の内側面5Cabと円筒側面状の曲面を成す内側面5Cacとをそれぞれ有する2つの凹部5Caが形成されている。2つの凹部5Caの底面5Caaは互いに平行になっている。また、内側面5Cacは内側面5Cabよりもガラスロッド5Cの端部側に形成されている。
【0061】
つぎに、多孔質体の焼結工程について説明する。
図11は、多孔質体の焼結工程で用いる支持治具の構成例5を説明する模式図である。支持治具40Cは、多孔質母材30Cの多孔質体31Cから突出している3本のガラスロッド5Cを支持できるものである。支持治具40Cは、回転軸棒41Cと、円板状の支持部材42Cとを備えている。これらの構成要素はシリカガラス材料からなる。
【0062】
回転軸棒41Cは、支持部材42Cの中心に立設されており、焼結工程において多孔質母材30Cを回転させる際の回転軸となる部材である。支持部材42Cは、外縁に3個の切欠き42Caが設けられた構成を有している。切欠き42Caは、ガラスロッド5Cの配置に対応する位置に設けられている。各ガラスロッド5Cはその端部に形成された凹部5Caが各切欠き42Caに嵌合することで、支持部材42Cに支持される。その結果、3本のガラスロッド5Cは支持治具40Cにより一括して支持されることとなる。
【0063】
このように3本のガラスロッド5Cを支持治具40Cにより支持することで、多孔質母材30Cを焼結炉内で保持し、かつ軸周りに回転させながら、多孔質体31Cを加熱して焼結する。これにより、多孔質体31Cはガラス化し、多孔質母材30Cは光ファイバ母材となる。
【0064】
本実施形態4では、実施形態1〜3の場合と同様に、焼結工程において、多孔質母材30Cの全重量を、3本のガラスロッド5Cで支えることとなるので、多孔質体31Cとガラスロッドの間に掛かる応力は小さくなる。その結果、実施形態1〜3の場合と同様に、製造歩留まりの低下が防止される。
【0065】
ところで、多孔質体31Cを焼結させてガラス体とする過程では、その収縮に伴い、3本のガラスロッド5Cに、これらを多孔質体31Cの中心軸に近づけるような応力を及ぼす。これにより、
図12に示すように、多孔質体31Cが収縮して光ファイバ母材35Cのガラス体36Cとなる過程で、3本のガラスロッド5Cに応力を及ぼすと、各ガラスロッド5Cは、お互いの距離が、支持治具40Cに固定された部分よりもガラス体36C内に位置する部分の方が近くなるように湾曲する。
【0066】
本実施形態4では、各ガラスロッド5Cは、凹部5Caが各切欠き42Caに嵌合することで、支持部材42Cに支持されているが、支持部材42Cの上面には曲面を成す内側面5Cacが略線接触している。そして、各ガラスロッド5Cが上記のように湾曲した際には、曲面を成す内側面5Cacが支持部材42Cの上面との線接触を維持しながら転がる。すなわち、ガラスロッド5Cは、支持治具40Cに対して、ガラスロッド5Cが多孔質体の中心軸に近づく方向に傾くことができるように構成されている。ここで、ガラスロッド5Cが傾くとは、ガラスロッド5Cが多孔質体31Cの中心軸に対して傾くことを意味する。その結果、各ガラスロッド5Cが湾曲しても支持部材42Cとガラスロッド5Cとの間に、ガラスロッド5Cを破損するような応力が掛からないようにできる。なお、ガラスロッド5Cを破損するような応力が掛からないようにするために、ガラスロッド5Cが湾曲しても凹部5Caの内側面5Cabが支持部材42Cの下面と接触しないように内側面5Cabと内側面5Cacとの距離を設定することが好ましい。
【0067】
(実施形態5)
実施形態5に係る多孔質体の形成工程およびその焼結工程について説明する。本実施形態5に係る多孔質体の形成工程は、実施形態4の場合と略同じである。一方、多孔質体の焼結工程においては、
図13に示す構成例6の支持治具を用いる。支持治具40Dは、多孔質母材の多孔質体から突出している3本のガラスロッド5Cを支持できるものである。支持治具40Dは、回転軸棒41Dと、支持部材42Dと、回転軸棒41Dと支持部材42Dとを連結するように設けられた3本の連結棒43Dとを備えている。これらの構成要素はシリカガラス材料からなる。
【0068】
回転軸棒41Dは、焼結工程において多孔質母材を回転させる際の回転軸となる部材である。支持部材42Dは、円板状であり、外縁に3個の切欠き42Daが設けられた構成を有している。切欠き42Daは、ガラスロッド5Cの配置に対応する位置に配置されており、支持部材42Dの中心に向かって伸びている。各ガラスロッド5Cはその端部に形成された凹部5Caが各切欠き42Daに嵌合することで、支持部材42Dに支持される。その結果、3本のガラスロッド5Cは支持治具40Dにより一括して支持されることとなる。
【0069】
このように3本のガラスロッド5Cを支持治具40Dにより支持することで、多孔質母材を焼結炉内で保持し、かつ軸周りに回転させながら、多孔質体を加熱して焼結する。これにより、多孔質体はガラス化して
図13に示すようにガラス体36Dとなり、多孔質母材は光ファイバ母材35Dとなる。
【0070】
本実施形態5では、実施形態1〜4の場合と同様に、焼結工程において、多孔質母材の全重量を、3本のガラスロッド5Cで支えることとなるので、多孔質体とガラスロッドの間に掛かる応力は小さくなる。その結果、実施形態1〜4の場合と同様に、製造歩留まりの低下が防止される。
【0071】
また、本実施形態5では、実施形態2、3と同様に、支持治具40Dは、切欠き42Daが支持部材42Dの中心に向かって伸びていることにより、ガラスロッド5Cが多孔質体の中心軸に近づく方向に移動することができるようにガラスロッド5Cを支持できるように構成されている。さらには、ガラスロッド5Cは、支持治具40Dに対して、ガラスロッド5Cが多孔質体の中心軸に近づく方向に傾くことができるように構成されている。その結果、各ガラスロッド5Cが湾曲することが抑制されるとともに、各ガラスロッド5Cが湾曲しても支持部材42Dとガラスロッド5Cとの間に、ガラスロッド5Cを破損するような応力が掛からないようにできる。
【0072】
(実施形態6)
実施形態6に係る多孔質体の形成工程およびその焼結工程について説明する。本実施形態6に係る多孔質体の形成工程は、粉体成形法を用いる。また、ガラスロッドとしてはガラスロッド5Aを用いる。
【0073】
図14は、粉体成形法による多孔質体の形成工程を説明する模式図である。粉体成形法では、3本のガラスロッド5Aを加圧型50内に把持し、加圧型50内にシリカガラスの造粒粒子51を投入し、加圧プランジャ52により加圧成形し、加圧成形体としての多孔質体を形成する。これにより、多孔質体から3本のガラスロッド5Aが突出している多孔質母材が形成される。なお、図面上方においてガラスロッド5Aの先端が、ガラスロッド5Aの外径が略一定の部分の外径よりも大きい直径の球面体に加工されているのは、後の焼結工程においてガラスロッド5Aが多孔質体Eから抜けにくくするためである。
【0074】
その後の多孔質体の焼結工程は、実施形態2の場合と同じ方法を用いて実行することができる。これにより、実施形態1〜5の場合と同様に、製造歩留まりの低下が防止される。
【0075】
なお、上記の各実施形態により製造した光ファイバ母材から周知の線引炉を用いた周知の方法にて光ファイバを線引きすることにより、光ファイバを製造することができる。
【0076】
(実施例1)
本発明の実施例1として、実施形態1の方法にしたがって3本の多孔質母材を製造し、これらを実施形態1の方法にしたがって焼結して3本の光ファイバ母材を製造した。3本の光ファイバ母材は、上部に亀裂が見られたものの、その他の大部分では亀裂などの異常は見られず、良好なものであった。
【0077】
(比較例1)
比較例1として、実施形態1の方法にしたがって3本の多孔質母材を製造した。7本のガラスロッドのうち中心の1本だけを支持して焼結を行った。3本の多孔質母材のうち2本は、焼結できたものの、ガラス体の上部には亀裂が入っていた。また、3本の多孔質母材のうち1本は、焼結途中で多孔質体に亀裂が入り、外周側のガラスロッド1本が落下してしまった。
【0078】
(実施例2)
本発明の実施例2として、実施形態2の方法にしたがって3本の多孔質母材を製造し、これらを実施形態2の方法にしたがって焼結して3本の光ファイバ母材を製造した。3本の光ファイバ母材には亀裂などの異常は見られず、良好なものであった。
【0079】
(実施例3)
本発明の実施例3として、実施形態4の方法にしたがって3本の多孔質母材を製造し、これらを実施形態4の方法にしたがって焼結して3本の光ファイバ母材を製造した。3本の光ファイバ母材は、上部に亀裂が見られたものの、その他の大部分では亀裂などの異常は見られず、良好なものであった。なお、焼結後の支持治具付近を確認すると、ガラスロッドはガラス体と支持治具との間で傾いた状態となっていた。
【0080】
(実施例4)
本発明の実施例4として、実施形態5の方法にしたがって3本の多孔質母材を製造し、これらを実施形態5の方法にしたがって焼結して3本の光ファイバ母材を製造した。3本の光ファイバ母材は、上部に亀裂が見られたものの、その他の大部分では亀裂などの異常は見られず、良好なものであった。なお、焼結後の支持治具付近を確認すると、ガラスロッドはガラス体と支持治具との間で傾いた状態となっていた。
【0081】
(実施例5)
本発明における実施例5として、実施形態6の方法にしたがって3本の多孔質母材を製造し、これらを実施形態2の方法にしたがって焼結して3本の光ファイバ母材を製造した。
具体的には、市販の平均1次粒径10μmの気相合成シリカ粒子、粒子結合剤としてのポリビニルアルコール(PVA)に溶媒の純水を加えてシリカ粒子スラリーを作製した。スプレードライヤー装置を用いて、作製したシリカ粒子スラリーから体積50%値粒子径100μmのシリカ造粒粒子を作製した。
つぎに、3本のコアロッドを把持した加圧型内にシリカ造粒粒子を投入し、加圧プランジャを用いて加圧成形体としての多孔質体を得た。加圧型は分割式となっており、加圧後に分割して多孔質母材を取り出した。得られた多孔質体を酸素雰囲気中で熱処理し、PVAを酸化除去した後、実施例2の場合と同様の支持治具を用いて焼結して3本の光ファイバ母材を製造した。3本の光ファイバ母材には亀裂などの異常は見られず、良好なものであった。
【0082】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。