特許第6615070号(P6615070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6615070両末端変性ポリシロキサンマクロモノマー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6615070
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】両末端変性ポリシロキサンマクロモノマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/46 20060101AFI20191125BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   C08G77/46
   G02C7/04
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-168136(P2016-168136)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-35231(P2018-35231A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2018年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】一戸 省二
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−138255(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/092858(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/092859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
G02C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均構造式[I]:
RMeSiO(MeSiO)SiMe [I]
(上記式中、Rは−CO(CO)C(=O)NH(CO)C(=O)C(Q)=CHを表し、Meはメチル基を表わし、pは40〜100の整数であり、qは5〜10の整数であり、sは1〜3の整数であり、Qはメチル基又はHである)
で表される両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーの製造方法において、
下記工程:
(a)平均構造式[II]:
R’’MeSiO(MeSiO)SiMeR’’ [II]
(上記式中、R’’は−CO(CO)Hを表し、Me、pおよびqは上記で定義した通りである)で表される両末端ポリオキシエチレン変性ポリシロキサンと、一般式[III]:
OCN(CO)C(=O)C(Q)=CH [III]
(上記式中、Qおよびsは上記で定義した通りである)で表される化合物を触媒存在下で反応させる工程、
(b)前記工程(a)で得られた反応混合物をヘキサン及びアセトニトリルによる液々抽出に付す工程、および
(c)ヘキサン層からヘキサンを除去して、上記一般式[I]で表される両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーを得る工程
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
sが2または3である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(b)において、ヘキサン及びアセトニトリルの量がそれぞれ、上記反応混合物の質量の1〜3倍である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(b)において、ヘキサンとアセトニトリルとの質量比が1:3〜3:1である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーが分子量分布(Mw/Mn)1.3以下を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
平均構造式[I]’:
R’MeSiO(MeSiO)SiMeR’ [I]’
(上記式中、R’は−CO(CO)C(=O)NH(CO)C(=O)C(Q)=CHを表し、Meはメチル基を表し、pは40〜100の整数であり、qは5〜10の整数であり、rは2〜3の整数であり、Qはメチル基又はHである)で表され、分子量分布(Mw/Mn)が1.3以下である、両末端変性ポリシロキサンマクロモノマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の親水性モノマーと共重合することにより、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズに好適なポリマーを与えることができる、両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼用レンズ用のポリシロキサンマクロモノマーとして、ポリオキシエチレン基を有する親水性基を両末端に有するポリシロキサンが知られている。例えば、特許文献1は、式:RMeSiO(MeSiO)(CFMeSiO)(RMeSiO)SiMe(式中、Rは−COCOC(=O)NHCOC(=O)C(Me)=CHであり、Rは−CO(CO)Meであり、Meはメチル基を表し、a/(b+c)=1/10〜100/1であり、b/c=1/10〜10/1であり、a+b+c=10〜1000であり、dは1〜200である)で表わされる化合物を開示している。
【0003】
特許文献2は、式:CH=C(Me)C(=O)OCMeSiO(MeSiO)(RMeSiO)SiMeOC(=O)C(Me)=CH(Rは−CO(CO)Meであり、eおよびfは1以上の整数であり、e+fは20〜500であり、gは4〜100の整数である)で表わされる化合物を開示している。
【0004】
特許文献3は、式:RMeSiO(MeSiO)SiMe(Rは−CO(CO)C(=O)C(Me)=CHであり、hは1〜700の整数であり、iは1〜20の整数である)で表わされる化合物を開示している。
【0005】
特許文献4は、式:XMeSiO−[Y]―SiMe−X(XはCH=C(Me)C(=O)OC−NHCOO−(CO)−(CH−であり、nは3〜10の整数であり、qは0〜20の整数であり、[Y]はシロキサン結合が2個以上連結してなるポリシロキサン骨格である)で表わされる化合物を開示している。
【0006】
特許文献5は、式:RMeSiO(MeSiO)SiMe(Rは−CO(CO)C(=O)NHCOC(=O)C(Me)=CHであり、jは5〜150の整数であり、kは2〜21の整数である)で表わされる化合物を開示している。上記化合物は、ハードコート塗料用である。
【0007】
ところで、ポリシロキサンマクロモノマーは、コンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズの製造に用いる場合には、分子量分布(Mw/Mn)が狭い方が、得られるレンズの物性のばらつきが少ないことが知られている。
【0008】
また、親水性基を両末端に有するポリシロキサンマクロモノマーは一般に、両末端がポリオキシエチレンで変性されたポリシロキサンと、一方の末端に(メタ)アクリル基を有する化合物とを反応させることにより得られる。ポリオキシエチレン基が、上記ポリシロキサンの末端だけでなく側鎖としても存在すると、側鎖の数を制御することが困難であるため、分子量分布が広くなる。また、親水性を高めるためには、末端のポリオキシエチレン基は鎖長が長い方が良いが、鎖長が長いほど、分子量分布は広くなる。
【0009】
特許文献1及び2に記載の化合物は、ポリオキシエチレン基を側鎖として有しており、その結果、広い分子量分布を有する。
【0010】
特許文献3〜5に記載の化合物は、ポリオキシエチレン基を末端のみに有するが、これらの文献は、分子量分布を何ら記載していない。また、特許文献3記載の化合物は、ウレタン基を有しておらず、したがって、硬化性に劣る。
【0011】
特許文献4は、目的の化合物を水およびメタノールなどの親水性媒体による洗浄によって精製することを記載しているが、上記精製は、特許文献4に関して上述した式においてqが1であるポリシロキサンのみについて記載されている。このポリシロキサンは、両末端におけるポリオキシエチレン基の鎖長が短いので、親水性が十分でなく、したがって、他の親水性モノマーとの共重合性に劣る。特許文献5は、この文献に関して上述した式においてjが9であり、kが8であるポリシロキサンの製造を記載している。上記製造では、精製を行っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3441024号公報
【特許文献2】WO09/099164号公報
【特許文献3】特開平6−32855号公報
【特許文献4】WO01/044861号公報
【特許文献5】特開2010−138255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、親水性が高くかつ分子量分布が狭く、したがって眼用レンズ材料として有用である、ポリシロキサンマクロモノマーおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
上述したように、両末端におけるポリオキシエチレン基の鎖長が短いポリシロキサンマクロモノマーは、水やメタノールなどの親水性媒体による洗浄によって精製することができるが、そのようなマクロモノマーは、ポリオキシエチレン基の鎖長が短いので、親水性が十分でない。一方、ポリオキシエチレン基の鎖長を長くしてマクロモノマーの親水性を高めると、界面活性剤の性質が強くなり、その結果、水やメタノールなどの親水性媒体による洗浄に付したとき、泡立ちを生じて、目的のマクロモノマーを分離精製することができない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意検討した結果、鎖長の長いポリオキシエチレン基を両末端に有する特定のポリシロキサンマクロモノマーが、ヘキサン及びアセトニトリルによる液々抽出により分離精製できることを見出した。そして、原料のポリシロキサンとして、ポリオキシエチレン基を末端のみに有するものを使用し、かつ反応生成物をヘキサン及びアセトニトリルにより液々抽出することにより、親水性が高く、かつ分子量分布が狭いポリシロキサンマクロモノマーが得られることを見出し、本発明を成すに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、
平均構造式[I]:
RMeSiO(MeSiO)SiMe [I]
(上記式中、Rは−CO(CO)C(=O)NH(CO)C(=O)C(Q)=CHを表し、Meはメチル基を表わし、pは40〜100の整数であり、qは5〜10の整数であり、sは1〜3の整数であり、Qはメチル基又はHである)
で表される両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーの製造方法において、
下記工程:
(a)平均構造式[II]:
R’’MeSiO(MeSiO)SiMeR’’ [II]
(上記式中、R’’は−CO(CO)Hを表し、Me、pおよびqは上記で定義した通りである)で表される両末端ポリオキシエチレン変性ポリシロキサンと、一般式[III]:
OCN(CO)C(=O)C(Q)=CH [III]
(上記式中、Qおよびsは上記で定義した通りである)で表される化合物を触媒存在下で反応させる工程、
(b)前記工程(a)で得られた反応混合物をヘキサン及びアセトニトリルによる液々抽出に付す工程、および
(c)ヘキサン層からヘキサンを除去して、上記一般式[I]で表される両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーを得る工程
を含む、前記製造方法である。
また、本発明は、上記製造方法によって得られる両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法は親水性が高く、かつ分子量分布が狭い両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーを提供することができる。該両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーは眼用レンズの材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られた両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーのH−NMRスペクトルを示す。
図2】実施例1で得られた両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーの13C−NMRスペクトルを示す。
図3】実施例1で得られた両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーの29Si−NMRスペクトルを示す。
図4】実施例1で得られた両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーのGPCチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の製造方法についてより詳細に説明する。
本発明の製造方法は、(a)上記式[II]で表される化合物と上記式[III]で表される化合物を触媒存在下で反応(ウレタン化反応)させる工程、(b)該工程(a)で得られた反応混合物をヘキサン及びアセトニトリルによる液々抽出に付す工程、次いで(c)ヘキサン層からヘキサンを除去して上記式[I]の目的化合物を得る工程を含む。上記式[I]で表される化合物は、親水性が高いが、pおよびqが特定の範囲にあることにより、工程(b)においてヘキサン層に移行する。ヘキサン層からヘキサンを除去して得られる式[I]で表される化合物は、分子量分布(Mw/Mn)が狭く、好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.2以下であることができる。そのため、本発明の製造方法では、親水性が高く、かつ分子量分布が狭い両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーを提供することができる。なお、分子量分布は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とする標準ポリスチレン換算のGPC分析によって決定される。
【0020】
本発明の製造方法において使用される出発原料の一つは、平均構造式[II]:
R’’MeSiO(MeSiO)SiMeR’’ [II]
(上記式中、Meはメチル基を表わし、R’’は−CO(CO)Hを表す)で表わされる、ポリオキシエチレン基を両末端のみに有するポリシロキサンである。ポリオキシエチレン基を末端のみに有することにより、分子量分布が狭いマクロモノマーを得ることができる。ポリオキシエチレン基が、末端の他に、側鎖としても存在すると、側鎖の数の制御が困難であるため、得られるマクロモノマーの分子量分布が広くなる。
【0021】
上記式[II]において、pは40〜100の整数であり、好ましくは50〜80である。pが上記上限より大きいと、得られる式[I]で表されるマクロモノマーの疎水性が高くなり、他の親水性モノマーとの共重合性に問題が出る。pが上記下限より小さいと、式[I]で表されるマクロモノマーと他の親水性モノマーとの共重合性は良好なものの、共重合体の架橋密度が高いため、硬化物の柔軟性に欠け、また、式[I]で表されるマクロモノマーが、本発明のヘキサン及びアセトニトリルによる液々抽出において、ヘキサン中に抽出され難くなる。qは5〜10の整数であり、好ましくは6〜8である。qが上記下限より小さいと、式[I]で表されるマクロモノマーの親水性が下がるため、他の親水性モノマーとの共重合性が低くなる。qが上記上限より大きいと、式[I]で表されるマクロモノマーと他の親水性モノマーとの共重合性には問題ないが、式[I]で表されるマクロモノマー中のシロキサンの重量%が小さいため、共重合体の酸素透過性が低くなり、また、式[I]で表されるマクロモノマーが、本発明のヘキサン及びアセトニトリルによる液々抽出において、ヘキサン中に抽出され難くなる。
【0022】
本発明の方法において使用される他方の出発原料は、下記一般式[III]:
OCN(CO)C(=O)C(Q)=CH [III]
(上記式中、Qはメチル基又はHであり、sは1〜3の整数である)で表わされる、(メタ)アクリル基とイソシアネート基を有する化合物である。上記化合物においてイソシアネート基が存在しないと、得られるモノマーがウレタン基を有さず、したがって、硬化性に劣る。好ましくは、sが2または3であり、特にはsが2である。Qはメチル基であるのが好ましい。
【0023】
工程(a)のウレタン化反応は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、上記式[II]で表される化合物と上記式[III]で表される化合物を、ウレタン化反応触媒の存在下で、好ましくは20〜100℃、より好ましくは40〜80℃の温度で、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは1〜10時間程度で反応させることにより行われる。上記式[III]で表される化合物は通常、上記式[II]で表される化合物における水酸基1モルに対して1〜3モルの割合で使用される。該反応において重合禁止剤をさらに添加してもよい。重合禁止剤としては、例えば、ビス−t−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びp−メトキシフェノール(MQ)が挙げられ、これらの1以上を使用することができる。重合禁止剤の量は通常、上記式[II]で表される化合物と上記式[III]で表される化合物の合計100重量部に対して0.001〜0.5重量部であることが好ましい。
【0024】
ウレタン化反応のための触媒は、従来公知の触媒であればよい。例えば、有機鉄化合物やアミン類が好ましく用いられる。有機鉄化合物としては、鉄(III)アセチルアセトナートなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばトリエチレンジアミンなどの環状3級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの脂肪族3級アミン;及びジメチルアニリン、トリフェニルアミンなどの芳香族3級アミンなどが挙げられる。これらの中で、有機鉄化合物が好ましく、鉄(III)アセチルアセトナートが特に好ましい。
【0025】
触媒の量は特に制限されるものでなくウレタン化反応を十分に進行させる量(触媒量)であればよい。通常、ウレタン化反応に供される式[II]で表される両末端ポリオキシエチレン変性ポリシロキサンと式[III]で表されるイソシアネート化合物の質量の合計に対し、好ましくは1ppm以上、さらに好ましくは30ppm以上である。また、反応後の触媒の残存を低減する点から、好ましくは10,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
【0026】
工程(b)における液々抽出の回数は特に制限されないが、通常は2回で十分である。必要により5回程度行ってもよい。ヘキサン及びアセトニトリルは、液々抽出に付される反応混合物の質量に対し、それぞれ1〜3倍の量で使用することが好ましい。ヘキサンとアセトニトリルとの質量比は好ましくは、1:3〜3:1、好ましくは1:2〜2:1である。
【0027】
式[I]の化合物は、親水性が高いが、pおよびqが上記範囲にあることにより、工程(b)の液々抽出によって、ヘキサン層に移行する。式[I]においてp及びqの一方が上記範囲外である化合物は、ヘキサン層に移行しない程度に親水性が高いので、アセトニトリル層に移行する。特に、シロキサン鎖長の短い(pが上記下限値未満である)化合物はアセトニトリル層に移行して除去され得る。したがって、工程(b)に付される反応混合物がこのような化合物を含んでいても、当該化合物はヘキサン層に移行しないので、工程(c)で得られる式[I]の化合物は、狭い分子量分布を有する。従って、例えば原料であるポリシロキサン[II]が広い分子量分布(例えば、分子量分布(Mw/Mn)1.3超)を有していても、得られるポリシロキサン[I]は狭い分子量分布を有することができる。
【0028】
上記式[II]で表される両末端ポリオキシエチレン変性ポリシロキサンの合成方法は特に限定されない。例えば、下記平均構造式[IV]で表される両末端ハイドロジェンポリシロキサン1モルに対し、2モル以上、好ましくは2.3モル〜2.5モルの下記平均構造式[V]で表されるポリオキシエチレンモノアリルエーテルを、白金触媒の存在下で付加反応させることによって合成できる。
HMeSiO(MeSiO)SiMeH [IV]
CH=CHCH(CO)H [V]
(上記式中、pは40〜100の整数であり、qは5〜10の整数である。)
【0029】
上記付加反応は通常、60℃〜100℃で、数時間で完結する。無溶剤での反応も可能だが、通常溶剤を使用する。溶剤は適宜選択可能だが、トルエン及びヘキサン等の炭化水素や、エタノール及びイソプロピルアルコール等のアルコール類が好適に使用される。この中でイソプロピルアルコールが最も好適に使用される。上記白金触媒は、白金、白金黒、および塩化白金酸等を包含する。例えば、HPtCl・mHO、KPtCl、KHPtCl・mHO、KPtCl、KPtCl・mHO、PtO・mHO(mは、正の整数)等や、これらと、オレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等を例示することができ、これらを単独で、または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0030】
反応後、溶剤を減圧条件下で加熱ストリップすることにより、式[II]の化合物と未反応の式[V]の化合物との混合物が得られる。
【0031】
この混合物をヘキサン及びアセトニトリルによる液々抽出に付して、ヘキサン層に式[II]の化合物を移行させる。この抽出では、上記未反応のポリオキシエチレンモノアリルエーテル[V]、及び、式[II]においてp及びqの一方が上記範囲外である化合物は、ヘキサン層に移行しない程度に親水性が高いので、液々抽出においてアセトニトリル層に移行し、その結果、ヘキサン層に含まれる式[II]の化合物の分子量分布が狭くなる。次いで、ヘキサン層からヘキサンを除去すると、式[II]の化合物が単離される。上記液々抽出の回数は特に制限されないが、通常は2回で十分である。必要により5回程度行っても問題はない。ヘキサン及びアセトニトリルは、液々抽出に付される混合物の質量に対し、それぞれ1〜3倍の量で使用することが好ましい。
【0032】
あるいは、式[II]の化合物を単離することなく、反応混合物をそのまま、式[III]の化合物と反応させ、その後、ヘキサン及びアセトニトリルによる液々抽出を数回繰り返し、ヘキサン層からヘキサンを除去して目的とする式[I]の化合物を得ることもできる。このやり方の方が、工程が少ないので、好ましい。
【0033】
該両末端変性ポリシロキサンマクロモノマー[I]は、他の親水性モノマーと共重合されて、眼用レンズに好適なポリマーを提供することができる。上記他の親水性モノマーとしては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、グリセロールメタクリレートなどの水酸基含有モノマー;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などのカルボン酸基含有モノマー;ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのアルキル置換アミノ基含有モノマー;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニル−N−メチルアセトアミドなどのアミド基含有モノマー;及びメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート等のオキシアルキレン基含有モノマー等が挙げられる。
【0034】
さらに共重合可能であれば、上記他の親水性モノマーに加えて、疎水性モノマーも併用することができる。疎水性モノマーとして、(メタ)アクリル酸フルオロアルキルエステルなどの含フッ素モノマー、例えばトリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート及びヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレートが挙げられ、意図する重合体に必要な相溶性、親水性、含水率及び耐汚染性に応じて選択出来る。さらに、酸素透過性を向上させる為に、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート等のシリコーンモノマーも使用可能である。
【0035】
本発明は、特に、下記平均構造式[I]’:
R’MeSiO(MeSiO)SiMeR’ [I]’
(上記式中、R’はCO(CO)C(=O)NH(CO)C(=O)C(Q)=CHを表し、Meはメチル基を表し、pは40〜100の整数、好ましくは50〜80の整数であり、qは5〜10の整数、好ましくは6〜8の整数であり、rは2〜3の整数であり、Qはメチル基又はHである)
で表される、両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーを提供する。さらに特には、上記式[I]’で表され、分子量分布(Mw/Mn)1.3以下を有する、両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーを提供する。
【0036】
上記式[I]’のマクロモノマーは上述した本発明の製造方法で得ることができる。該両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーは、上記した他の親水性モノマー(及びさらに疎水性モノマー)と共重合されて、眼用レンズに好適なポリマーを提供することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0038】
GPC分析は、下記の条件で標準ポリスチレン換算として行った。
装置:東ソー(株)製HLC−8120GPC
カラム:東ソー(株)製TSKgel Super HM−N、H2500(ガードカラム有)
検出器:RI検出、UV検出
溶離液:THF
流速:0.6mL/min
温度:40℃
注入量:10μL
試料濃度:0.02g/10mL
また、下記においてNMR測定にはJNM−ECP500(日本電子社製)、溶媒CDClを用いた。
【0039】
[合成例1]両末端ポリオキシエチレン変性ポリシロキサン[II]−1の合成
平均構造式HMeSiO(MeSiO)40SiMeHで表される両末端ハイドロジェンポリシロキサン309.4g(0.1モル)、下記平均構造式[V]−1で表されるポリオキシエチレンモノアリルエーテル102.5g(0.25モル)、イソプロピルアルコール(溶剤)400g、塩化白金酸とテトラメチルジビニルジシロキサンとの錯体のエタノール溶液(白金含有量3重量%)0.08gを2Lフラスコに量りとり、イソプロピルアルコール還流下(内温84℃)で5時間反応させた。イソプロピルアルコールを減圧下で除去して淡褐色透明液体を得た。これは下記平均構造式[II]−1で表される両末端ポリオキシエチレン変性ポリシロキサン(0.1モル)及び未反応の[V]−1(0.05モル)の混合物であった。GPC分析による[II]−1の分子量分布Mw/Mnは1.42であった。
R’’MeSiO(MeSiO)40SiMeR’’ [II]−1
(R’’:−CO(CO)H)

CH=CHCH(CO)H [V]−1
【0040】
[実施例1]両末端変性ポリシロキサンマクロモノマー[I]−1の合成
合成例1で得られた両末端ポリオキシエチレン変性ポリシロキサン[II]−1と式[V]−1の化合物との混合物173.9g(水酸基換算0.1モル相当)、重合禁止剤としてのBHT(ビス−t−ブチルヒドロキシトルエン)0.12g及びMQ(p−メトキシフェノール)0.48g、及び鉄(III)アセチルアセトナート0.048gを500mlフラスコに量りとり、1時間攪拌して上記鉄触媒を上記混合物に溶解させた。次に、OCN(CO)C(=O)C(Me)=CH(昭和電工社製、カレンズMOI−EG)39.8g(0.2モル)を内温25℃で滴下ロートを使用し滴下した。滴下終了後、40℃×3時間熟成し、次いでメタノール19.2gを加えて反応を停止した。反応液をヘキサン500gに溶解し、アセトニトリル500gを加えて液々抽出した。次いで、下層のアセトニトリル層を除去し、新たにアセトニトリル500gを加えて液々抽出する操作をさらに4回行った。最後にヘキサン層のヘキサンを減圧ストリップして、淡黄色透明の粘稠液を得た。得られた生成物はH−NMR、13C−NMRおよび29Si−NMR分析により下記平均構造式[I]−1で表されるポリシロキサンであった。また、GPC分析による[I]−1の分子量分布Mw/Mnは1.16であった。下記[I]−1に示すように得られたポリシロキサンの平均鎖長は原料であるポリシロキサン[II]−1の平均鎖長より大きい。これは、鎖長の短い成分がアセトニトリル層に移行して除かれたことにより、精製後のポリシロキサンの分子量分布が狭くなったためである。
RMeSiO(MeSiO)60SiMe [I]−1
[R:−CO(CO)C(=O)NH(CO)C(=O)C(Me)=CH
H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトル、29Si−NMRスペクトル、及びGPCチャートを順に図1〜4に示す。
H−NMR測定は、試料濃度10%、積算回数64回にて行った。
13C−NMR測定は、試料濃度40%、積算回数2400回にて行った。
29Si−NMR測定は、試料濃度10%、、積算回数2400回にて行った。
また、図4において、上の図はIR検出によるGPCチャートであり、下の図はUV検出によるGPCチャートである。
【0041】
[実施例2]両末端変性ポリシロキサンマクロモノマー[I]−2の合成
合成例1で得られた両末端ポリオキシエチレン変性ポリシロキサン[II]−1と式[V]−1の化合物との混合物173.9g(水酸基換算0.1モル相当)、重合禁止剤としてのBHT(ビス−t−ブチルヒドロキシトルエン)0.12g及びMQ(p−メトキシフェノール)0.48g、及び鉄(III)アセチルアセトナート0.048gを500mlフラスコに量りとり、1時間攪拌して上記鉄触媒を上記混合物に溶解させた。次に、OCN(CO)C(=O)C(Me)=CH(昭和電工社製、カレンズMOI)31.0g(0.2モル)を内温25℃で滴下ロートを使用し滴下した。滴下終了後、40℃×3時間熟成し、次いでメタノール19.2gを添加して反応を停止した。反応液をヘキサン500gに溶解し、アセトニトリル500gを加え、液々抽出した。次いで、下層のアセトニトリル層を除去し、新たにアセトニトリル500gを加えて液々抽出する操作をさらに4回行った。最後にヘキサン層のヘキサンを減圧ストリップして、淡黄色透明の粘稠液を得た。これは、H−NMR、13C−NMRおよび29Si−NMR分析により、下記平均構造式[I]−2で表されるポリシロキサンであることが確認された。また、GPC分析による[I]−2の分子量分布Mw/Mnは1.19であった。下記[I]−2に示すように得られたポリシロキサンの平均鎖長は原料であるポリシロキサン[II]−1の平均鎖長より大きい。これは[I]−1と同じく、鎖長の短い成分がアセトニトリル層に移行して除かれたことにより、精製後のポリシロキサンの分子量分布が狭くなったためである。
R’MeSiO(MeSiO)60SiMeR’ [I]−2
[R’:CO(CO)C(=O)NH(CO)C(=O)C(Me)=CH
【0042】
[比較例1]
ポリオキシエチレン基を側鎖として有し、親水性基を両末端に有する親水性ポリシロキサンマクロモノマーの合成(メタノール/水で洗浄)
上記特許文献1(特許第3441024号公報)の実施例と同様の方法で、平均構造式RMeSiO(MeSiO)70(CFMeSiO)(RMeSiO)SiMe(式中、Rは−COCOC(=O)NHCOC(=O)C(Me)=CHであり、Rが−CO(CO)Meである)で表される親水性ポリシロキサンマクロモノマーを得た。
より詳細には、特許文献1の実施例7と同様の方法で、平均構造式HOCOCMeSiO(MeSiO)70(CFMeSiO)(RMeSiO)SiMeOCOH(Rは上記で定義した通りである)で表される化合物を合成した。次いで、特許文献1の実施例1と同様の方法で、上記化合物とメタクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応を行い、メタノール/水で洗浄して、上記した親水性ポリシロキサンマクロモノマーを得た。
GPC分析による該親水性ポリシロキサンマクロモノマーの分子量分布Mw/Mnは1.42であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の製造方法は、親水性が高くかつ分子量分布が狭い両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーを提供する。該両末端変性ポリシロキサンマクロモノマーは、特に眼科デバイス、例えばコンタクトレンズ、眼内レンズ、及び人工角膜などを製造するために好適に使用することができる。
図1
図2
図3
図4