特許第6615150号(P6615150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6615150接着フィルム、半導体ウェハ加工用テープ、半導体パッケージおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6615150
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】接着フィルム、半導体ウェハ加工用テープ、半導体パッケージおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/30 20180101AFI20191125BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20191125BHJP
   C09J 171/10 20060101ALI20191125BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20191125BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20191125BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   C09J7/30
   C09J11/04
   C09J171/10
   C09J163/00
   C09J11/06
   H01L21/52 E
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-91351(P2017-91351)
(22)【出願日】2017年5月1日
(65)【公開番号】特開2018-188540(P2018-188540A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】切替 徳之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 透
(72)【発明者】
【氏名】森田 稔
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−155946(JP,A)
【文献】 特開2012−033638(JP,A)
【文献】 特開2010−205498(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/092804(WO,A1)
【文献】 特表2015−507677(JP,A)
【文献】 特開2012−207222(JP,A)
【文献】 特開2011−241245(JP,A)
【文献】 特開2012−131899(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/158994(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 − 201/10
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂および熱伝導フィラーを含有する接着剤層からなる接着フィルムであって、
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が150〜300g/eqであり、
前記フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)が−50℃〜50℃であり、かつ質量平均分子量が10,000〜100,000であり、
前記フェノキシ樹脂の含有量は前記エポキシ樹脂100質量部に対して10〜500質量部であり、
前記熱伝導フィラーが、熱伝導率12W/m・K以上であって前記接着フィルム中の含有量が30〜50体積%であり、前記熱可塑性樹脂が少なくとも1種のフェノキシ樹脂を含み、かつ、硬化後の接着剤層が、
下記数式(1)で算出される信頼性係数S1が50〜220(×10−6GPa)であり、
下記数式(2)で算出される信頼性係数S2が10〜120(×10−8GPa)であり、
熱伝導率が0.5W/m・K以上であり、
飽和吸水率WAが1.0質量%以下であることを特徴とする接着フィルム。
【数1】
数式(1)、(2)において、S1、S2、Tg、CTEα1、貯蔵弾性率E’および飽和吸水率WAは、硬化後の接着剤層に対するものであり、S1は前記信頼性係数S1であり、S2は前記信頼性係数S2である。Tgはガラス転移温度であり、CTEα1は該ガラス転移温度以下での線膨張係数であり、貯蔵弾性率E’は260℃で測定した値である。また、[]内は単位を示す。
【請求項2】
前記フェノキシ樹脂が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載の接着フィルム。
【化1】
一般式(I)において、Lは、単結合または2価の連結基を表し、Ra1およびRa2は、各々独立に置換基を表す。maおよびnaは各々独立に、0〜4の整数を表す。Xはアルキレン基を表し、nbは1〜10の整数を表す。
【請求項3】
前記熱伝導フィラーが、アルミナおよび窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の接着フィルム。
【請求項4】
硬化剤にフェノール系樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の接着フィルム。
【請求項5】
硬化促進剤にホスホニウム塩化合物を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の接着フィルム。
【請求項6】
基材フィルム上に、粘着剤層を有し、該粘着剤層上に請求項1〜のいずれか1項に記載の接着フィルムを有することを特徴とする半導体ウェハ加工用テープ。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の接着フィルムを用いたことを特徴とする半導体パッケージ。
【請求項8】
表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体チップの裏面に、請求項1〜のいずれか1項に記載の接着フィルムの接着剤層を貼合せた接着剤層付き半導体チップと配線基板とを該接着剤層を介して熱圧着する第1の工程、および、
前記接着剤層を熱硬化する第2の工程、
を含むことを特徴とする半導体パッケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着フィルム、半導体ウェハ加工用テープ、半導体パッケージおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化および高機能化、多機能化が進む中で、その内部に搭載される半導体パッケージにおいても高機能化、多機能化が進んでおり、半導体ウェハ配線ルールの微細化が進行している。高機能化、多機能化に伴い、半導体チップを多段に積層し、高容量化したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及している。半導体チップの実装には基板または半導体チップ上に直接搭載する方法〔FOD(Film on Device)実装〕と基板上に既に実装されている半導体チップまたはワイヤーを埋め込んで搭載する方法〔FOW(Film on Wire)実装〕がある。ワイヤー埋込型の半導体パッケージ(FOW実装)は、ワイヤーが接続された半導体チップに高流動な接着剤を圧着させてワイヤーを接着剤で覆った半導体パッケージであり、携帯電話、携帯オーディオ機器用のメモリパッケージなどに搭載されている。
【0003】
上記のように、半導体装置のデータ処理の高速化が進むにつれて、半導体チップからの発熱量が多くなり、放熱性を持たせた半導体装置の設計の重要性が増している。熱は、半導体装置そのものに対してはもちろん、それを組み込んだ電子機器本体にもさまざまな悪影響を及ぼす。放熱のためのパッケージ対策としては様々な方法が考えられるが、最も重要なのがプリント基板やリードフレームなどの基板を介しての放熱である。
【0004】
そこで従来、基板と半導体チップの接着には高熱伝導性を有する接着剤が使用される場合がある。このような接着剤としては、比較的熱伝導率の高い銀ペーストや、最近になって提案されているシート状の接着フィルム(ダイボンドフィルム)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
なかでも、シート状の接着フィルムは、チップの割れ、接着剤の回り込み、チップの傾きは抑制することができるものの、銀ペーストに比べて熱伝導性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−218571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体パッケージや半導体装置のなかでも高周波デバイス(RFデバイス)は特に発熱量が多く、放熱性が問題となる。一方、高周波デバイスなどの半導体パッケージや半導体装置には、吸湿リフロー試験(半導体耐熱性試験)のMoisture Sensitivity Levels(MSL)1などを満足する信頼性が要求される。
なお、MSL1は、IPC/JEDEC(米国共同電子機器技術委員会)が規定するレベル規格である。
しかしながら、従来の接着フィルムはリードフレームへの密着性が高くなく、接着フィルムとリードフレームの間で剥離が生じることがあり、上記のような半導体パッケージの信頼性について、一段と高レベル化することが重要である。
【0007】
従って、本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、放熱性が高く、半導体パッケージの信頼性が高度に優れた接着フィルム、これに加えて、半導体の加工性に優れた半導体ウェハ加工用テープ、該接着フィルムまたは半導体ウェハ加工用テープを用いた半導体パッケージおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、熱伝導率12W/m・K以上の熱伝導フィラー、熱硬化性樹脂に加えて、熱可塑性樹脂のフェノキシ樹脂を使用し、硬化後の接着剤層のガラス転移温度ガラス転移温度以下での線膨張係数、260℃での貯蔵弾性率E’に加え、特に飽和吸水率を含め、特定の関係で満たすことで、上記課題が解決できる見通しを得た。
【0009】
すなわち、上記課題は下記構成により達成されることがわかった。
(1)エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂および熱伝導フィラーを含有する接着剤層からなる接着フィルムであって、
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が150〜300g/eqであり、
前記フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)が−50℃〜50℃であり、かつ質量平均分子量が10,000〜100,000であり、
前記フェノキシ樹脂の含有量は前記エポキシ樹脂100質量部に対して10〜500質量部であり、
前記熱伝導フィラーが、熱伝導率12W/m・K以上であって前記接着フィルム中の含有量が30〜50体積%であり、前記熱可塑性樹脂が少なくとも1種のフェノキシ樹脂を含み、かつ、硬化後の接着剤層が、
下記数式(1)で算出される信頼性係数S1が50〜220(×10−6GPa)であり、
下記数式(2)で算出される信頼性係数S2が10〜120(×10−8GPa)であり、
熱伝導率が0.5W/m・K以上であり、
飽和吸水率WAが1.0質量%以下であることを特徴とする接着フィルム。
【0010】
【数1】
【0011】
数式(1)、(2)において、S1、S2、Tg、CTEα1、貯蔵弾性率E’および飽和吸水率WAは、硬化後の接着剤層に対するものであり、S1は前記信頼性係数S1であり、S2は前記信頼性係数S2である。Tgはガラス転移温度であり、CTEα1は該ガラス転移温度以下での線膨張係数であり、貯蔵弾性率E’は260℃で測定した値である。また、[]内は単位を示す。
)前記フェノキシ樹脂が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする(1)に記載の接着フィルム。
【0012】
【化1】
【0013】
一般式(I)において、Lは、単結合または2価の連結基を表し、Ra1およびRa2は、各々独立に置換基を表す。maおよびnaは各々独立に、0〜4の整数を表す。Xはアルキレン基を表し、nbは1〜10の整数を表す。
)前記熱伝導フィラーが、アルミナおよび窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする(1)または(2)に記載の接着フィルム。
)硬化剤にフェノール系樹脂を含有することを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の接着フィルム。
)硬化促進剤にホスホニウム塩化合物を含有することを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の接着フィルム。
)基材フィルム上に、粘着剤層を有し、該粘着剤層上に(1)〜()のいずれか1項に記載の接着フィルムを有することを特徴とする半導体ウェハ加工用テープ。
)前記(1)〜()のいずれか1項に記載の接着フィルムを用いたことを特徴とする半導体パッケージ。
)表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体チップの裏面に、(1)〜()のいずれか1項に記載の接着フィルムの接着剤層を貼合せた接着剤層付き半導体チップと配線基板とを該接着剤層を介して熱圧着する第1の工程、および、
前記接着剤層を熱硬化する第2の工程、
を含むことを特徴とする半導体パッケージの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、放熱性が高く、半導体パッケージの信頼性が高度に優れた接着フィルム、半導体ウェハ加工用テープ、該接着フィルムまたは半導体ウェハ加工用テープを用いた半導体パッケージおよびその製造方法を提供することが可能となった。
また、本発明の半導体ウェハ加工用テープは、放熱性が高く、半導体パッケージの信頼性が高度に優れた接着フィルムを有し、これらの性能に加え、半導体の加工性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<接着フィルム>>
本発明の接着フィルムは、少なくとも、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂および熱伝導フィラーを含有する接着剤層からなり、硬化後の接着剤層が、特定の信頼性係数の範囲を満たし、熱伝導率が0.5W/m・K以上である。
【0016】
なお、本発明では、接着フィルムとは、フィルム状の接着剤(以後、単に接着剤もしくは接着剤層とも称す。)であり、この接着剤層単独のフィルムでも、離型フィルム上に接着剤層を有するフィルムでもよい。
【0017】
<接着剤層の成分>
本発明の接着フィルム(接着剤層)は、少なくとも、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂および熱伝導フィラーを含有し、特に好ましくは、硬化剤、硬化促進剤を含有する。
【0018】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂またはフッ素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明では、これらの熱可塑性樹脂のうち、少なくとも1種のフェノキシ樹脂を使用する。フェノキシ樹脂は耐熱性が高く、飽和吸水率が小さく、半導体パッケージの信頼性を確保するためにも好ましい。また、フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と構造が類似していることから相溶性がよく、樹脂溶融粘度も低く、接着性もよい。
【0020】
フェノキシ樹脂は、ビスフェノールもしくはビフェノール化合物とエピクロルヒドリンのようなエピハロヒドリンとの反応、液状エポキシ樹脂とビスフェノールもしくはビフェノール化合物との反応で得ることができる。
いずれの反応においても、ビスフェノールもしくはビフェノール化合物としては、下記一般式(A)で表される化合物が好ましい。
【0021】
【化2】
【0022】
一般式(A)において、Lは、単結合または2価の連結基を表し、Ra1およびRa2は、各々独立に置換基を表す。maおよびnaは各々独立に、0〜4の整数を表す。
【0023】
において、2価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−O−、−S−、−SO−、−SO−またはアルキレン基とフェニレン基が組み合わされた基が好ましい。
アルキレン基は、炭素数が1〜10が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましく、1または2が特に好ましく、1が最も好ましい。
アルキレン基は、−C(Rα)(Rβ)−が好ましく、ここで、RαおよびRβは各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基を表す。RαとRβが互いに結合して、環を形成してもよい。RαおよびRβは、水素原子またはアルキル基(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル)が好ましい。アルキレン基は、なかでも−CH−、−CH(CH)、−C(CH−が好ましく、−CH−、−CH(CH)がより好ましく、−CH−がさらに好ましい。
【0024】
フェニレン基は、炭素数が6〜12が好ましく、6〜8がより好ましく、6がさらに好ましい。フェニレン基は、例えば、p−フェニレン、m−フェニレン、o−フェニレンが挙げられ、p−フェニレン、m−フェニレンが好ましい。
アルキレン基とフェニレン基が組み合わされた基としては、アルキレン−フェニレン−アルキレン基が好ましく、−C(Rα)(Rβ)−フェニレン−C(Rα)(Rβ)−がより好ましい。
αとRβが結合して形成する環は、5または6員環が好ましく、シクロペンタン環、シクロヘキサン環がより好ましく、シクロヘキサン環がさらに好ましい。
【0025】
は、単結合またはアルキレン基、−O−、−SO−が好ましく、アルキレン基がより好ましい。
【0026】
a1およびRa2において、置換基は、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子が好ましく、アルキル基、アリール基、ハロゲンン原子がより好ましく、アルキル基がさらに好ましい。
【0027】
maおよびnaは、0〜2が好ましく、0または1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0028】
ビスフェノールもしくはビフェノール化合物は、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールAP、ビスフェノールAF、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールG、ビスフェノールM、ビスフェノールS、ビスフェノールP、ビスフェノールPH、ビスフェノールTMC、ビスフェノールZや、4,4’−ビフェノール、2,2’−ジメチル−4,4’−ビフェノール、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール等が挙げられ、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、4,4’−ビフェノールが好ましく、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールFがより好ましく、ビスフェノールFが特に好ましい。
【0029】
一方、液状エポキシ樹脂としては、脂肪族ジオール化合物のジグリシジルエーテルが好ましく、下記一般式(B)で表される化合物がより好ましい。
【0030】
【化3】
【0031】
一般式(B)において、Xはアルキレン基を表し、nbは1〜10の整数を表す。
【0032】
アルキレン基は、炭素数が2〜10が好ましく、2〜8がより好ましく、3〜8がさらに好ましく、4〜6が特に好ましく、6が最も好ましい。
例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、オクチレンが挙げられ、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘプタメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレンが好ましい。
【0033】
nbは1〜6が好ましく、1〜3がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0034】
ここで、nbが2〜10の場合、Xはエチレンまたはプロピレンが好ましく、エチレンがさらに好ましい。
【0035】
ジグリシジルエーテルにおける脂肪族ジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオールが挙げられる。
【0036】
上記反応において、ビスフェノールもしくはビフェノール化合物や脂肪族ジオール化合物は各々において、単独で反応して得られたフェノキシ樹脂で、2種以上混合して反応して得られたフェノキシ樹脂でも構わない。例えば、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルとビスフェノールAとビスフェノールFの混合物との反応が挙げられる。
【0037】
フェノキシ樹脂は、本発明では、液状エポキシ樹脂とビスフェノールもしくはビフェノール化合物との反応で得られたフェノキシ樹脂が好ましく、下記一般式(I)で表される繰り返し単位のフェノキシ樹脂がより好ましい。
【0038】
【化4】
【0039】
一般式(I)において、L、Ra1、Ra2、maおよびnaは、一般式(A)におけるL、Ra1、Ra2maおよびnaと同義であり、好ましい範囲も同じである。Xおよびnbは、一般式(B)におけるXおよびnbと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0040】
本発明では、これらのなかでも、ビスフェノールFと1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルとの重合体が好ましい。
【0041】
フェノキシ樹脂の質量平均分子量は、10,000以上が好ましく、10,000〜100,000がより好ましい。
また、エポキシ基が僅かに残存するが、エポキシ当量は、5,000g/eq以上が好ましい。
ここで、質量平均分子量は、GPC〔ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)〕によるポリスチレン換算で求めた値である。
【0042】
フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、100℃未満が好ましく、80℃未満がより好ましく、本発明では、−50℃〜50℃が特に好ましく、−50℃〜30℃が最も好ましい。
【0043】
フェノキシ樹脂は、上記のような方法で合成してもよく、また市販品を使用しても構わない。市販品としては、例えば、YX7180(商品名:ビスフェノールF+1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型フェノキシ樹脂、三菱化学(株)製)、1256(商品名:ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、三菱化学(株)製)、YP−70(商品名:ビスフェノールA/F型フェノキシ樹脂、新日化エポキシ製造(株)製)、FX−316(商品名:ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、新日化エポキシ製造(株)製)、および、FX−280S(商品名:カルド骨格型フェノキシ樹脂、新日化エポキシ製造(株)製)、4250等が挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂の含有量は、熱硬化性樹脂(特にエポキシ樹脂)100質量部に対して、10〜500質量部が好ましく、30〜450質量部がより好ましく、60〜400質量部がさらに好ましい。含有量をこのような範囲とすることで、硬化前の接着フィルムの剛性と柔軟性を調整することができる。
【0045】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂が知られているが、本発明では、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0046】
エポキシ樹脂は、液体、固体または半固体のいずれであってもよい。本発明において液体とは、軟化点が50℃未満であることをいい、固体とは、軟化点が60℃以上であることをいい、半固体とは、軟化点が上記液体の軟化点と固体の軟化点との間(50℃以上60℃未満)にあることをいう。本発明で使用するエポキシ樹脂としては、好適な温度範囲(例えば60〜120℃)で低溶融粘度に到達することができる粘着剤層が得られるという観点から、軟化点は100℃以下が好ましい。なお、本発明において、軟化点とは、軟化点試験(環球式)法(測定条件:JIS−2817に準拠)により測定した値である。
【0047】
本発明で使用するエポキシ樹脂において、硬化体の架橋密度が高くなり、結果として、配合されるフィラー同士の接触確率が高く接触面積が広くなることでより高い熱伝導率が得られるという観点から、エポキシ当量は600g/eq以下が好ましく、150〜550g/eqがより好ましく、150〜450g/eqがさらに好ましく、150〜300g/eqが特に好ましく、150〜200g/eqが最も好ましい。なお、本発明において、エポキシ当量とは、1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数(g/eq)をいう。
【0048】
エポキシ樹脂の分子量もしくは質量平均分子量は、3,000未満が好ましく、150以上3,000未満がより好ましく、200〜2,000がさらに好ましく、200〜1,000が特に好ましく、300〜600が最も好ましい。
ここで、質量平均分子量は、GPC〔ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)〕によるポリスチレン換算で求めた値である。
【0049】
エポキシ樹脂の骨格としては、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ビフェニル型、フルオレンビスフェノール型、トリアジン型、ナフトール型、ナフタレンジオール型、トリフェニルメタン型、テトラフェニル型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、トリメチロールメタン型、ダイマー酸エステル型等が挙げられる。このうち、樹脂の結晶性が低く、良好な外観を有する接着剤層を得られるという観点から、トリフェニルメタン型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、クレゾールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型が好ましく、トリフェニルメタン型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型がより好ましく、トリフェニルメタン型、ビスフェノールA型が、これらのなかでも好ましい。
【0050】
エポキシ樹脂は1種を単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
エポキシ樹脂の含有量は、接着フィルムを構成する成分の総質量100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、4〜10質量部がより好ましい。このような範囲にすることで、硬化させたときに架橋密度が好ましい範囲となり、熱伝導率が向上しにくくなる架橋密度の高い樹脂成分の生成を抑え、しかも、少しの温度変化でもフィルム状態(フィルムタック性等)が変化しやすくなるオリゴマー成分の生成を抑えることができる。
【0052】
(硬化剤および硬化促進剤)
本発明において、エポキシ樹脂を熱硬化するために、硬化剤もしくは硬化促進剤を使用することが特に好ましい。
エポキシ樹脂を熱硬化するための硬化剤もしくは硬化促進剤としては、例えば、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素錯化合物、有機ヒドラジッド化合物、アミン類、ポリアミド樹脂、イミダゾール化合物、尿素もしくはチオ尿素化合物、ポリメルカプタン化合物、メルカプト基を末端に有するポリスルフィド樹脂、酸無水物、硬化触媒複合系多価フェノール類、光・紫外線硬化剤、リン−ホウ素系硬化促進剤が挙げられる。
このうち、三フッ化ホウ素錯化合物としては、種々のアミン化合物(好ましくは第1級アミン化合物)との三フッ化ホウ素−アミン錯体が挙げられ、有機ヒドラジッド化合物としては、イソフタル酸ジヒドラジドが挙げられる。
【0053】
アミン類としては、鎖状脂肪族アミン化合物(ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N−ジメチルプロピルアミン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノ)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、m−キシレンジアミン等)、環状脂肪族アミン化合物(N−アミノエチルピペラジン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等)、ヘテロ環アミン化合物(ピペラジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、メラミン、グアナミン等)、芳香族アミン化合物(メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノ、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等)、ポリアミド樹脂(ポリアミドアミンが好ましく、ダイマー酸とポリアミンの縮合物)が挙げられる。
【0054】
イミダゾール化合物としては、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−n−ヘプタデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、エポキシ・イミダゾール付加体、イミダゾール化合物と芳香族多価カルボン酸化合物との複合化合物等が挙げられる。
【0055】
尿素もしくはチオ尿素化合物としては、N,N−ジアルキル尿素化合物、N,N−ジアルキルチオ尿素化合物等が挙げられる。
酸無水物としてはテトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0056】
硬化触媒複合系多価フェノール類としては、ノボラック型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂、ポリビニル型フェノール樹脂、クレゾール型フェノール樹脂が挙げられる。
光・紫外線硬化剤としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0057】
リン−ホウ素系硬化促進剤としては、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート(商品名;TPP−K)、テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリボレート(商品名;TPP−MK)、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン(商品名;TPP−S)などのリン−ホウ素系硬化促進剤が挙げられる(いずれも北興化学工業(株)製)。なかでも、潜在性に優れるため室温での保存安定性が良好であるという点から、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリボレートが好ましい。
【0058】
本発明では、硬化剤として、硬化触媒複合系多価フェノール類が好ましく、水酸基当量は、100〜150g/eqが好ましい。
なお、本発明において、水酸基当量とは、1グラム当量の水酸基を含む樹脂のグラム数(g/eq)をいう。
硬化触媒複合系多価フェノール類のうち、本発明では、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく、クレゾールノボラック型フェノール樹脂がより好ましい。
また、硬化促進剤としては、潜在性に優れ、接着フィルムの信頼性を長期に保つことができる観点から、リン−ホウ素系硬化触媒や、カプセル化したイミダゾールが好ましい。
本発明では、硬化促進剤は、特に、リン−ホウ素系硬化促進剤が好ましく、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートが最も好ましい。
【0059】
硬化剤もしくは硬化促進剤の接着剤層中の含有量は、特に限定されず、最適な含有量は硬化剤もしくは硬化促進剤の種類によって異なる。
硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.5〜80質量部が好ましく、1〜70質量部がより好ましい。
硬化促進剤の含有量は、硬化剤の含有量より少ない方が好ましく、硬化剤100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1〜15質量部がさらに好ましい。
【0060】
(熱伝導フィラー)
本発明では、接着剤層中に、熱伝導率が12W/m・K以上の少なくとも1種の熱伝導フィラーを含有する。
熱伝導フィラーの熱伝導率が12W/m・K未満であると、目的の熱伝導率を得るためにより多くの熱伝導フィラーを配合することになり、その結果、接着フィルムの溶融粘度が上昇し、実装基板に圧着する際に基板の凹凸を埋め込むことができず密着性が低下する。
【0061】
熱伝導率が12W/m・K以上の熱伝導フィラーは、アルミナ粒子(熱伝導率:36W/m・K)、窒化アルミニウム粒子(熱伝導率:150〜290W/m・K)、窒化ホウ素粒子(熱伝導率:60W/m・K)、酸化亜鉛粒子(熱伝導率:54W/m・K)、窒化ケイ素フィラー(熱伝導率:27W/m・K)、炭化ケイ素粒子(熱伝導率:200W/m・K)および酸化マグネシウム粒子(熱伝導率:59W/m・K)からなる群より選択される少なくとも1種のフィラーが好ましい。特にアルミナ粒子は高熱伝導率であり、分散性、入手容易性の点で好ましい。また、窒化アルミニウム粒子や窒化ホウ素粒子は、アルミナ粒子よりもさらに高い熱伝導率であり好ましい。本発明では、なかでもアルミナ粒子と窒化アルミニウム粒子が好ましい。
【0062】
窒化アルミニウム粒子は、高熱伝導化、線膨張係数の低減に貢献する。
窒化アルミニウム粒子は、粉末状態において水との接触によって表面が加水分解し、アンモニウムイオンを生成しやすいものの、エポキシ樹脂の硬化剤に、吸湿率が小さいフェノール樹脂を使用することで、加水分解が抑制できる。
【0063】
熱伝導フィラーは、表面処理や表面改質されていてもよく、このような表面処理や表面改質としては、シランカップリング剤やリン酸もしくはリン酸化合物、界面活性剤が挙げられる。
例えば、シランカップリング剤により熱伝導フィラーを処理する方法としては特に限定されず、溶媒中で熱伝導フィラーとシランカップリング剤を混合する湿式法、気相中で熱伝導性粒子とシランカップリング剤を処理させる乾式法、予めバインダー樹脂である熱可塑性樹脂にシランカップリング剤を混合するインテグラル法などが挙げられる。
【0064】
窒化アルミニウム粒子の場合、加水分解を抑制するために表面改質されていることが好ましい。窒化アルミニウムの表面改質方法としては、表面層に酸化アルミニウムの酸化物層を設け耐水性を向上させ、リン酸もしくはリン酸化合物による表面処理を行い樹脂との親和性を向上させる方法が特に好ましい。
【0065】
窒化アルミニウムを含む熱伝導フィラーに対して表面処理で使用されるリン酸は、オルトリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、メタリン酸((HPO)n、nは縮合度を表す整数である)もしくはこれらの金属塩が挙げられる。リン酸化合物としては、アルキルホスホン酸、アリールホスホン酸、アルキルリン酸、アリールリン酸等の有機リン酸(例えば、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ビニルホスホン酸、フェニルホスホン酸、メチルリン酸、エチルリン酸、ヘキシルリン酸)が挙げられる。
【0066】
熱伝導フィラーの表面をシランカップリング剤で表面処理することも好ましい。
また、さらにイオントラップ剤を併用するのも好ましい。
【0067】
シランカップリング剤は、ケイ素原子にアルコキシ基、アリールオキシ基のような加水分解性基が少なくとも1つ結合したものであり、これに加えて、アルキル基、アルケニル基、アルケニル基、アリール基が結合してもよい。アルキル基は、アミノ基、アルコキシ基、エポキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基が置換したものが好ましく、アミノ基(好ましくはフェニルアミノ基)、アルコキシ基(好ましくはグリシジルオキシ基)、(メタ)アクリロイルオキシ基が置換したものがより好ましい。
シランカップリング剤は、例えば、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロイルオキプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0068】
界面活性剤(分散剤)は、アニオン性、カチオン性またはノニオン性のいずれであってもよく、また高分子化合物であっても構わない。
本発明では、アニオン性界面活性剤が好ましく、リン酸エステル系界面活性剤がより好ましい。
リン酸エステル系界面活性剤は、東邦化学(株)製のフォスファノールシリーズとして市販されているものを使用することができる。例えば、フォスファノールRS−410、610、710、フォスファノールRL−310、フォスファノールRA−600、フォスファノールML−200、220、240、フォスファノールGF−199(いずれも商品名)が挙げられる。
【0069】
シランカップリング剤や界面活性剤は、熱伝導フィラー100質量部に対し、0.1〜2.0質量部含有させるのが好ましい。
【0070】
熱伝導フィラーの形状は、特に限定されず、例えば、フレーク状、針状、フィラメント状、球状、鱗片状のものを使用することができるが、熱伝導性粒子と樹脂の接触面積を小さくでき、120℃〜130℃における流動性を高められる点で球状粒子が好ましい。
また、平均粒径は0.01〜5μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましい。平均粒径をこのような範囲にすることで、フィラー間で凝集することなく、粘着剤層を設ける際にむらやスジが生じることなく、接着剤層の膜厚の均一性が保たれる。
【0071】
なお、本発明において、平均粒径とは、粒度分布において粒子の全体積を100%としたときに50%累積となるときの粒径をいい、レーザー回折・散乱法(測定条件:分散媒−ヘキサメタリン酸ナトリウム、レーザー波長:780nm、測定装置:マイクロトラックMT3300EX)により測定した粒径分布の粒径の体積分率の累積カーブから求めることができる。また、本発明において、球状とは、真球または実質的に角のない丸味のある略真球であるものをいう。
【0072】
本発明では、熱伝導フィラーの含有量は、接着剤層の全体積に対し、30〜50体積%である。このような範囲とすることで、接着フィルムを用いて製造される半導体パッケージは、放熱性に優れ、しかも、応力緩和性に優れ、熱変化時に半導体パッケージに生じる内部応力を緩和することが可能で、被着体からの剥離を生じ難くすることができる。
なお、熱伝導フィラーの含有量が30体積%未満であると、接着剤層の熱伝導率が低くなり、半導体パッケージからの放熱効果が弱まる。熱伝導フィラーの含有量が50体積%を超えると、応力緩和性が劣り、熱変化時に半導体パッケージに生じる内部応力を緩和することが困難になり、被着体からの剥離を生じやすくなる。
熱伝導フィラーの含有量の下限は、好ましくは35体積%以上、より好ましくは40体積%以上である。
【0073】
(その他の添加物)
本発明では、接着剤層中に、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱伝導フィラーの他に、硬化剤および硬化促進剤を含有するのが好ましいが、これら以外に、本発明の効果を阻害しない範囲において、粘度調整剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、ブタジエン系ゴムやシリコーンゴム等の応力緩和剤等の添加剤をさらに含有してもよい。
【0074】
(樹脂成分の含有量)
本発明では、少なくとも熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を含有するが、これらを含めた樹脂成分の接着剤層中の含有量は、好ましくは50体積%以上である。樹脂成分の接着剤層中の含有量上限は、好ましくは70体積%以下であり、より好ましくは65体積%以下、さらに好ましくは60体積%以下である。
また、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の合計量の100質量部に対して、熱硬化性樹脂の配合割合としては、所定条件下で加熱した際に接着フィルム(接着剤層)が熱硬化型としての機能を発揮する程度であれば特に限定されないが、120℃〜130℃における流動性を高められるという点から、10〜80質量部の範囲が好ましく、20〜70質量部の範囲がより好ましい。
一方、熱可塑性樹脂の配合割合としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の合計量の100質量部に対して、120℃〜130℃における流動性を高められるという点から、20〜80質量部の範囲が好ましく、30〜70質量部の範囲がより好ましい。
【0075】
(接着フィルム(接着剤層)の厚さ)
接着フィルムの厚さは、5〜200μmが好ましく、配線基板、半導体チップ表面の凹凸をより十分に埋め込むことができるという観点から、10〜40μmがより好ましい。厚さを上記範囲とすることで、配線基板、半導体チップ表面の凹凸を十分に埋め込み、十分な密着性を担保することができ、しかも有機溶媒の除去が容易であり、残存溶媒量が少なく、タック性が強くなるような問題も生じない。
【0076】
<離型フィルム>
離型フィルムは、離型処理したフィルムであり、接着フィルム(接着剤層)のカバーフィルムとして機能するものであって、被着体に接着フィルムである接着剤層を貼り付ける際に剥離されるものであり、接着フィルムの取り扱い性をよくする目的で用いられる。
離型処理はどのような処理でも構わないが、代表的にはシリコーン処理である。
【0077】
離型フィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ピニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等の離型処理されたフィルムが挙げられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。
これらのうち、離型処理されたポリエチレン、離型処理されたポリプロピレン、離型処理されたポリエチレンテレフタレートが好ましく、離型処理されたポリエチレンテレフタレートがなかでも好ましい。
【0078】
離型フィルムの表面張力は、40mN/m以下が好ましく、35mN/m以下がより好ましい。
離型フィルムの膜厚は、通常は5〜300μmであり、好ましくは10〜200μm、特に好ましくは20〜150μm程度である。
【0079】
<接着フィルム(接着剤層)の特性>
本発明の接着フィルム(接着剤層)は、熱硬化後(以後、単に硬化後とも称す)の接着剤層、すなわち、硬化物が、以下の特性を示す。
なお、接着剤層の硬化物の測定は、180℃で1時間加熱処理した硬化物に対して求めたものである。
【0080】
(信頼性係数)
本発明では、硬化後の接着剤層は、下記数式(1)で算出される信頼性係数S1が50〜220(×10−6GPa)であり、下記数式(2)で算出される信頼性係数S2が10〜120(×10−8GPa)である。
【0081】
【数2】
【0082】
数式(1)、(2)において、S1、S2、Tg、CTEα1、貯蔵弾性率E’および飽和吸水率WAは、硬化後の接着剤層に対するものであり、S1は前記信頼性係数S1であり、S2は前記信頼性係数S2である。Tgはガラス転移温度であり、CTEα1は該ガラス転移温度以下での線膨張係数であり、貯蔵弾性率E’は260℃で測定した値である。また、[]内は単位を示す。
【0083】
ここで、信頼性係数S1およびS2は、吸湿工程とリフロー工程を模した260℃の加熱工程を含み、温度変化による変形や水分の蒸発による半導体パッケージのチップと基板間の剥離が起こらないかどうかを評価するものである。
硬化後の接着剤層のガラス転移温度(Tg)以下では、温度変化によって変形が生じ、歪みが発生する。温度変化による変形量は、上記数式(1)の(Tg−25[℃])×(CTEα1[ppm] )で計算される。
ガラス転移温度(Tg)以上では、ゴム状態であるため変形を緩和できる。
また、260℃での貯蔵弾性率E’が小さいと常温(25℃)から260℃までに蓄積された歪みを内部応力で緩和する緩和能に優れる。
信頼性係数S1は、以上を加味して得られた関係式である。
一方、信頼性係数S2は、飽和吸水量が多いと260℃の加熱工程での水分の蒸発により半導体パッケージの内部において、各接着剤層界面での剥離が生じ易くなることをさらに加味して得られた関係式である。
【0084】
(飽和吸水率WA)
本発明では、硬化後の接着剤層の飽和吸水率WAは、1.0質量%以下が好ましい。飽和吸水率WAは、0.7質量%以下がより好ましい。飽和吸水率WAが1.0質量%を超えると、吸湿工程を含む信頼性試験において、半導体パッケージをリフロー方式によりはんだ付けする際に接着フィルム内部の水分の爆発的な気化によりパッケージクラックが発生しやすくなる傾向にある。なお、飽和吸水率WAは、恒温恒湿器を用いて熱硬化後の接着フィルムにおける吸水前の質量と、温度85℃、相対湿度85%の条件で飽和するまで吸湿させた後の質量を測定して算出することができる。
【0085】
飽和吸水率WAは、樹脂成分と熱伝導フィラーの含有比率および樹脂成分の種類と含有量を変更するで、調節することができる。
【0086】
(硬化後の接着剤層のガラス転移温度(Tg))
本発明では、硬化後の接着剤層のガラス転移温度(Tg)は、80℃以上が好ましい。
ガラス転移温度(Tg)が、80℃以上であると、半導体パッケージの通常の使用温度範囲および熱サイクル信頼性試験の温度範囲における急激な物性変化を抑制でき、また、飽和吸水率WAが高くなることを抑制できる。硬化後の接着剤層のガラス転移温度(Tg)は、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。一方、硬化後の接着剤層のガラス転移温度(Tg)の上限は、200℃以下が好ましい。200℃以下であると、温度変化によって生じる歪みを抑制できる。硬化後の接着剤層のガラス転移温度(Tg)の上限はより好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。
【0087】
硬化後の接着剤層のガラス転移温度(Tg)は、樹脂成分の種類と含有量および硬化条件を変更することで、調節することができる。
【0088】
(貯蔵弾性率E’)
本発明では、硬化後の接着剤層の260℃における貯蔵弾性率E’は、好ましくは1GPa以下である。260℃における貯蔵弾性率E’が1GPa以下であると、応力緩和性に優れ、熱変化時に半導体装置に生じる内部応力を緩和することが可能で、被着体からの剥離を生じ難くすることができる。260℃における貯蔵弾性率E’の下限は、好ましくは1MPa以上である。260℃における貯蔵弾性率E’が1MPa以上であると、高温での凝集破壊を起こしにくく、耐リフロー性に優れる。260℃における貯蔵弾性率E’は、より好ましくは0.01GPa以上である。
【0089】
貯蔵弾性率E’は、樹脂成分と熱伝導フィラーの含有比率および樹脂成分の種類と含有量を変更することで、調節することができる。
【0090】
(ガラス転移温度(Tg)以下での線膨張係数CTEα1)
本発明では、硬化後の接着剤層のガラス転移温度(Tg)以下での線膨張係数CTEα1は、好ましくは40ppm/K以下である。ガラス転移温度(Tg)以下での線膨張係数CTEα1が40ppm/K以下であると、接着剤層と被着体の接着界面において、熱時に発生する剥離応力による接着剤層の凝集破壊を防止することができる。ガラス転移温度(Tg)以下での線膨張係数CTEα1の下限は、好ましくは5ppm/K以上である。ガラス転移温度(Tg)以下での線膨張係数CTEα1が5ppm/K以上であると、接着剤層と被着体の接着界面において、熱時に発生する剥離応力を接着剤層が緩和・吸収し、接着界面の剥離を防止することができる。
【0091】
ガラス転移温度(Tg)以下での線膨張係数CTEα1は、樹脂成分の種類と含有量を変更することで、調節することができる。
【0092】
(硬化後の接着剤層の熱伝導率)
本発明では、硬化後の接着剤層の熱伝導率は、0.5W/m・K以上であり、1.2W/m・K以上が好ましく、1.5W/m・K以上がより好ましい。硬化後の接着剤層の熱伝導率が0.5W/m・K以上であると、接着フィルムを用いて製造される半導体パッケージは、放熱性に優れる。なお、硬化後の接着剤層の熱伝導率は高いほど好ましいが上限は、現実的には、例えば、20W/m・K以下である。
【0093】
硬化後の接着剤層の熱伝導率は、樹脂成分の種類と含有量、熱伝導フィラーの種類と含有量などを変更することで、調節することができる。
【0094】
ガラス転移温度Tg、ガラス転移温度(Tg)以下での線膨張係数CTEα1、260℃における貯蔵弾性率E’、飽和吸水率WAおよび硬化後の接着剤層の熱伝導率は、いずれも実施例に記載の方法で測定できる。
【0095】
<<半導体ウェハ加工用テープおよびその製造方法>>
本発明の接着フィルムは、本発明の接着フィルム単独で使用してもよいが、基材フィルム上に、粘着剤層を有し、この粘着剤層上に本発明の接着フィルムである接着剤層(以後、単に接着剤層と称す。)を有する半導体ウェハ加工用テープ(ダイシング・ダイボンドフィルム)として使用してもよい。
以下に、半導体ウェハ加工用テープを説明する。
【0096】
(基材フィルム)
基材フィルムの材質は、通常、半導体ウェハ加工用の粘着テープで用いられるものを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマーなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル等のエンジニアリングプラスチック、ポリウレタン、スチレン−エチレン−ブテンもしくはペンテン系共重合体等の熱可塑性エラストマーが挙げられ、これらの群から選ばれる2種以上が混合されたものであっても構わない。
本発明ではダイシング時の接着フィルムおよび半導体チップの保持と、ピックアップ時の半導体チップの均一拡張性の観点から、架橋性の樹脂が好ましく、例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体またはエチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸を、金属イオンで架橋したアイオノマーが好ましい。
【0097】
基材フィルムは、単層のフィルムであっても、2層以上のフィルムが積層された基材フィルムであっても構わない。
基材フィルムの厚さは50〜200μmが好ましい。
【0098】
(粘着剤層)
粘着剤層を形成する粘着剤としては特に制限されず、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等の一般的な感圧性粘着剤や、紫外線の照射で硬化する放射線硬化型粘着剤のいずれでも構わない。半導体ウェハの加工に使用される感圧性粘着剤はアクリル系粘着剤が一般的であり、好ましい。
【0099】
本発明では感圧性粘着剤より、放射線硬化型粘着剤が好ましい。
放射線硬化型粘着剤は、炭素−炭素二重結合等の放射線硬化性の官能基を有し、かつ粘着性を示すものであれば、どのようなものでも構わない。
例えば、アクリル系粘着剤等の一般的な感圧性粘着剤に、放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分を配合した放射線硬化型粘着剤やベースポリマーとして、炭素−炭素二重結合をポリマーの側鎖、主鎖または主鎖末端に有する放射線硬化型粘着剤が挙げられる。ベースポリマーが、炭素−炭素二重結合を有する放射線硬化型粘着剤(以後、炭素−炭素二重結合を有するポリマーを放射線硬化性ポリマーと称す)は、低分子成分であるオリゴマー成分等を含有する必要がなく、仮にこれらの成分を含んだとしても多く含まないため、経時でオリゴマー成分等が粘着剤層中を移動することなく、安定した層構造の粘着剤層を形成することができるため、好ましい。
【0100】
アクリル系粘着剤等の一般的な感圧性粘着剤に、放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分を配合した放射線硬化型粘着剤の場合、放射線硬化性のモノマー成分としては、例えば、ウレタンオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また放射線硬化性のオリゴマー成分はウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系等種々のオリゴマーが挙げられる。これらの分子量は、通常100〜30000であり、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100質量部に対して、5〜500質量部含有する、
【0101】
ベースポリマーが、炭素−炭素二重結合を有する放射線硬化型粘着剤では、放射線硬化性ポリマーにおいて、放射線の照射で重合して硬化する炭素−炭素二重結合(以後、エチレン性不飽和基と称す)は、ビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルロイルアミノ基などが挙げられる。
【0102】
放射線硬化性ポリマーに特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリル共重合体、ポリエステル、エチレンもしくはスチレン共重合体、ポリウレタンが挙げられ、(メタ)アクリル共重合体が好ましい。
なお、(メタ)アクリル共重合体における(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタクリルを包括するものであり、いずれか一方でもこれらの両方でも構わない。
【0103】
放射線硬化性ポリマーの合成方法としては、例えば(a)エチレン性不飽和基を有するポリマーである場合、エチレン性不飽和基を有する化合物とポリマーとを反応させて、エチレン性不飽和基が導入されたポリマーを得る方法、(b)エチレン性不飽和基を有するオリゴマー〔例えば、架橋剤の一種であるウレタン(メタ)アクリルオリゴマー等〕を利用する方法、が簡便、かつ容易であり、好ましく、なかでも上記(a)の方法が好ましい。
上記(a)の方法では、エチレン性不飽和基を有する化合物として、該エチレン性不飽和基と異なる反応性の基(反応性基αと称す)を有する構造の化合物を用い、エチレン性不飽和基が導入されるポリマーとしては、該エチレン性不飽和基を有する化合物の反応性基αと反応する反応性基βを有する構造のポリマー(以下、「反応性基βを有するポリマー」という。)を用いて、反応性基αとβを反応させる。
【0104】
このような反応性基α、βは、例えば、一方が、求核攻撃する基、他方が、求核攻撃を受ける基もしくは付加反応を受ける基とすることが好ましい。このような反応性基としては、例えば水酸基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、イソシアネート基、環状の酸無水物を形成している基、ハロゲン原子、アルコキシもしくはアリールオキシカルボニル基等が挙げられる。
ここで、反応性基αおよびβのいずれか一方が水酸基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基である場合、他方の反応性基はエポキシ基、オキセタン基、イソシアネート基、環状の酸無水物を形成する基、ハロゲン原子、アルコキシもしくはアリールオキシカルボニル基とすることができる。
【0105】
エチレン性不飽和基を有する化合物が有する反応性基αは、求核攻撃を受ける基または付加反応を受ける基であることが好ましく、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、イソシアネート基、環状の酸無水物を形成する基、ハロゲン原子、アルコキシまたはアリールオキシカルボニル基が好ましく、エポキシ基、オキセタン基、イソシアネート基または環状の酸無水物を形成する基がより好ましく、エポキシ基、オキセタニル基またはイソシアネート基がさらに好ましく、なかでもイソシアネート基が好ましい。
【0106】
一方、エチレン性不飽和基が導入されるポリマーが有する反応性基βは、求核攻撃する基が好ましく、例えば、水酸基、アミノ基、メルカプト基またはカルボキシ基が好ましく、水酸基、アミノ基またはメルカプト基がより好ましく、水酸基、アミノ基またはカルボキシ基がさらに好ましく、水酸基またはカルボキシ基がさらに好ましく、なかでも水酸基が好ましい。
【0107】
エチレン性不飽和基と反応性基αを有する化合物、または、反応性基βを有するポリマーの合成に用いる反応性基βを有するモノマーとしては、以下の化合物が挙げられる。
【0108】
−反応性基がカルボキシ基である化合物−
(メタ)アクリル酸、桂皮酸、イタコン酸、フマル酸等
【0109】
−反応性基が水酸基である化合物−
アルコール部に水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート〔例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート〕、アミン部に水酸基を有するアルキルアミンのN−(ヒドロキシアルキル)アルキル(メタ)アクリルアミド〔例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ビスメチロール(メタ)アクリルアミド〕、アリルアルコール等
【0110】
−反応性基がアミノ基である化合物−
アルコール部にアミノ基を有するアミノアルキル(メタ)アクリレート〔例えば、2−(アルキルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、3−(アルキルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート〕、(メタ)アクリルアミド等
【0111】
−反応性基が環状の酸無水物である化合物−
無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸、無水フタル酸等
【0112】
−反応性基がエポキシ基もしくはオキセタニル基である化合物−
グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン等
【0113】
−反応性基がイソシアネート基である化合物−
(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート〔例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート〕、多価イソシアネート化合物のイソシアネート基の一部を、水酸基もしくはカルボキシ基と、エチレン性不飽和基とを有する化合物でウレタン化したもの〔例えば、2〜10官能の(メタ)アクリルのウレタンアクリレートオリゴマー〕等
【0114】
なお、上記のウレタンアクリレートオリゴマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール トリ(メタ)アクリレート等のアルコール部に水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、トルエンジイソシアナート、メチレンビスフェニルジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、メチレンビスシクロヘキシルイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートや3官能以上のイソシアネートを反応させて得られる、イソシアネート基を少なくとも1つ有するオリゴマーが好ましい。また、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと多価イソシアネートに加えて、ポリオール化合物、ポリエーテルジオール化合物またはポリエステルジオール化合物を反応させて得られるオリゴマーでもよい。
【0115】
−反応性基がハロゲン原子である化合物−
2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジクロロ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン等のハロゲン化トリアジン等
【0116】
上記のエチレン性不飽和基と反応性基αを有する化合物としては、上記の反応性基がイソシアネート基である化合物が好ましく、一方、反応性基βを有するポリマーの合成に用いるモノマーとしては上記の反応性基がカルボキシ基である化合物または反応性基が水酸基である化合物が好ましく、反応性基が水酸基である化合物がより好ましい。
なかでも、本発明においては、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートが好ましく、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートが特に好ましい。
【0117】
前記(b)の方法は、上記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを使用するもので(該オリゴマーは後述するように架橋剤の一種でもある)、(メタ)アクリル共重合体とウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを共存させて紫外線硬化性の粘着剤層を構成することができる。(メタ)アクリル共重合体としては、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを重合させて得られるものであることが好ましい。(メタ)アクリル共重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル成分の好ましい形態は、後述する反応性基βを有するポリマーにおける共重合成分として説明したものと同一である。
【0118】
反応性基βを有するポリマーの合成に用いる反応性基βを有するモノマーは、アルコール部に水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや(メタ)アクリル酸が好ましい。
上記反応性基βを有するポリマーを構成する全モノマー成分に占める、上記反応性基βを有するモノマー成分の割合は、アルコール部に水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの場合、5〜50モル%が好ましく、20〜40モル%がより好ましく、20〜35モル%がさらに好ましく、50〜75モル%が特に好ましい。
一方、(メタ)アクリル酸の場合、全モノマー成分に占めるアクリル酸もしくはメタクリル酸は、0.1〜3モル%が好ましく、0.5〜2.5がより好ましく、0.5〜2がさらに好ましい。
【0119】
また、エチレン性不飽和基と反応性基αとを有する化合物と、反応性基βを有するポリマーとを反応させて、反応性基βを有するポリマーにエチレン性不飽和基を導入するに際しては、反応性基αを有する化合物を、反応性基βを有するポリマー100質量部に対して、5〜40質量部反応させることが好ましく、10〜30質量部反応させることがより好ましく、10〜20質量部反応させることがさらに好ましい。
上記の反応性基αとβの反応後において、未反応の反応性基βを残すことにより、後述する架橋剤等で樹脂特性を調節することができる。
【0120】
上記の反応性基βを有するポリマーは、その構成成分として前記の反応性基βを有するモノマー成分とともに、共重合成分として、(メタ)アクリル酸エステル成分を有することが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、1種または2種以上の(メタ)アクリ酸アルキルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルのアルコール部は前記反応性基βを有さない。好ましくは、上記(メタ)アクリル酸エステルのアルコール部は無置換である。
このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルコール部の炭素数は1〜12が好ましい。アルコール部の炭素数は、1〜10がより好ましく、4〜10がさらに好ましく、なかでもアルコール部が分岐アルキルのものが好ましく、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0121】
また、上記放射線硬化性ポリマーが構成成分として(メタ)アクリル酸エステル成分を複数種含む場合は、(メタ)アクリル酸エステル成分には、アルコール部の炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸エステル成分が含まれることが好ましく、なかでも、メチル(メタ)アクリレート成分またはブチル(メタ)アクリレート成分が含まれることが好ましい。
以下に、上記共重合成分としてポリマー中に組み込まれるモノマーの具体例を挙げる。
【0122】
−(メタ)アクリル酸のアルキルエステル−
(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、アルコール部の炭素数が1〜12のものが好ましく、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソデシルなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。2種以上を併用することで粘着剤としての種々の機能を発揮させることができ、さらに半導体ウェハ表面の段差への追従性および糊残り防止を含む非汚染性を両立できるようになる。
【0123】
−(メタ)アクリル酸のアルキルエステル以外のモノマー−
(メタ)アクリル酸のアルキルエステル以外のモノマーとしては、酢酸ビニル、スチレンや(メタ)アクリル酸アミド、例えば、N,N−ジエチルアクリル酸アミド、N,N−ジエチルアクリル酸アミド、N−イソプロピルアクリル酸アミド、N−アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0124】
本発明では、反応性基βを有するモノマーと組み合わせる共重合成分のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0125】
上記反応性基βを有するポリマーを構成する全モノマー成分に占める上記共重合成分の割合は、5〜85モル%が好ましく、20〜80モル%がより好ましく、55〜75モル%がさらに好ましく、60〜75モル%が特に好ましい。
【0126】
なお、放射線硬化性ポリマー中に残存する反応性基βの量は、反応性基αを有する化合物の配合量にもよるが、後述する架橋剤の種類および配合量によっても調節することができる。
【0127】
放射線硬化性ポリマーの水酸基価は5〜70mgKOH/gが好ましく、酸価は、0〜10mgKOH/gが好ましく、ガラス転移温度(Tg)は、−40〜−10℃が好ましく、質量平均分子量は、15万〜130万が好ましい。
【0128】
なお、酸価は、JIS K5601−2−1:1999に準拠して測定したものであり、水酸基価はJIS K 0070に準拠して測定したものである。
ここで、ガラス転移温度は、昇温速度0.1℃/分でDSC(示差走査熱量計)により測定されたガラス転移温度をいう。
また、質量平均分子量は、テトラヒドロフランに溶解して得た1%溶液を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウォーターズ社製、商品名:150−C ALC/GPC)により測定した値をポリスチレン換算の質量平均分子量として算出したものである。
【0129】
(光重合開始剤)
放射線硬化型粘着剤は、光重合開始剤を含有することが特に好ましい。粘着剤中の光重合開始剤の配合量を調整することにより架橋後の粘着力を制御することができる。このような光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、ベンジルメチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパンなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、また併用して使用してもよい。
【0130】
光重合開始剤は、通常は放射線硬化性ポリマー(エチレン性不飽和基を有するポリマー)およびエチレン性不飽和基を有する化合物の総量100質量部に対し、0.1〜10質量部の割合で用いられる。また、粘着剤を構成するベース樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜6質量部がより好ましい。
【0131】
このようにして形成される放射線硬化型粘着剤層に対して紫外線等の放射線を照射することにより、接着力を大きく低下させることができ、容易に接着剤層から粘着テープを剥離することができる。
【0132】
(架橋剤)
本発明では、粘着剤に架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤の架橋性基である反応性基は、反応性基βを有するポリマーの反応性基βと反応する架橋剤が好ましい。
例えば、反応性基βを有する樹脂の反応性基βが、カルボキシ基や水酸基の場合、架橋剤の架橋性基である反応性基は環状の酸無水物、イソシアネート基、エポキシ基、ハロゲン原子であることが好ましく、イソシアネート基またはエポキシ基であることがより好ましい。
このような架橋剤を使用することで、その配合量により、反応性基βを有するポリマーの反応性基βの残存量を調節でき、タック力も制御することができる。
また、架橋剤を使用することで、粘着剤(粘着剤層)の凝集力を制御することもできる。
【0133】
上記架橋剤としては、多価イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、多価アジリジン化合物、キレート化合物等を挙げることができる。多価イソシアネート化合物としては、具体的にはトルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびこれらのアダクトタイプ等を挙げることができる。
【0134】
多価エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステルアクリレート等を挙げることができる。多価アジリジン化合物は、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、トリス〔1−(2−メチル)−アジリジニル〕ホスフィンオキシド、ヘキサ〔1−(2−メチル)−アジリジニル〕トリホスファトリアジン等を挙げることができる。またキレート化合物としては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等を挙げることができる。
【0135】
また、粘着剤に、分子内にエチレン性不飽和基を少なくとも2個以上有する架橋剤、好ましくはオリゴマーもしくはポリマーの架橋剤を用いて、架橋剤自体を放射線硬化性樹脂として用いてもよい。
【0136】
分子内にエチレン性不飽和基を少なくとも2個以上有する低分子化合物として、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート等を挙げることができる。
【0137】
この他にも、ウレタンアクリレートオリゴマーも用いることができ、具体的にはポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物〔例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4−ジイソシアネートなど)を反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート〕を反応させて得られるものが広く適用可能である。
【0138】
架橋剤の含有量は、粘着剤の粘着力、タック力が所望の範囲となるよう調整すればよく、上記のベース樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましく、0.6〜5質量部がさらに好ましく、0.7〜3質量部が特に好ましい。
【0139】
(添加剤)
粘着剤は、上記以外に添加剤を含有していてもよい。
このような添加剤としては、例えば、濡れ防止もしくはスリップ性向上のための添加剤として、シリコーンアクリレート(例えば、シリコーンジアクリレート、シリコーンヘキサアクリレート)、放射線硬化促進剤が挙げられる。また、添加剤として耐水剤としてのアミノアクリレートを含んでもよい。また、添加剤として可塑剤を含んでもよい。また、ポリマーの重合の際に用いられる界面活性剤を含んでいてもよい。
【0140】
(粘着剤層の厚み)
粘着剤層の厚みは、特に限定されるものではないが、3〜300μmが好ましく、3〜100μmがより好ましく、5〜50μmがさらに好ましい。
【0141】
(その他の層)
本発明においては、粘着剤層上に、必要に応じてプライマー層などの中間層を設けてもよい。
【0142】
<<接着フィルム、半導体ウェハ加工用テープの用途>>
本発明の接着フィルム、半導体ウェハ加工用テープは、FOD実装した半導体パッケージの製造などに使用することが好ましい。また、配線基板と半導体チップとの接着剤を、従来のように多段積層される半導体チップ間の接着剤と異なった接着剤でなく、同じ接着剤にして半導体パッケージを製造するのにも好適である。
【0143】
<<半導体パッケージおよびその製造方法>>
本発明では、半導体パッケージは、表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体チップの裏面に、本発明の接着フィルムの接着剤層を貼合せた接着剤層付き半導体チップと配線基板とを該接着剤層を介して熱圧着する第1の工程、および、該接着剤層を熱硬化する第2の工程、を少なくとも含む製造方法で製造することが好ましい。
【0144】
半導体ウェハとしては、表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体ウェハを適宜用いることができ、例えば、シリコンウェハ、SiCウェハ、GaSウェハが挙げられる。このような半導体ウェハ加工用テープの接着剤層を半導体ウェハの裏面に設ける際に用いる装置としては特に制限されず、例えば、ロールラミネーター、マニュアルラミネーターのような公知の装置を適宜用いることができる。
【0145】
半導体ウェハ加工用テープを使用する場合、先ず、表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体ウェハの裏面に、本発明の半導体ウェハ加工用テープを接着剤層側で熱圧着して設ける。このような半導体ウェハ加工用テープの接着剤層を半導体ウェハの裏面に設ける際に用いる装置としては特に制限されず、例えば、ロールラミネーター、マニュアルラミネーターのような公知の装置を適宜用いることができる。
次いで、半導体ウェハ1と接着剤層とを同時にダイシングすることにより半導体ウェハと接着剤層とを備える接着剤層付き半導体チップを得る。ダイシングに用いる装置は、特に制限されず、適宜公知のダイシング装置を用いることができる。
【0146】
次いで、接着剤層からダイシングテープ(基材フィルム上に粘着剤層を有する部分)を脱離し、接着剤層付き半導体チップと配線基板とを接着剤層を介して熱圧着し、配線基板に接着剤層付き半導体チップを実装する。配線基板としては、表面に半導体回路が形成された基板を適宜用いることができ、例えば、プリント回路基板(PCB)、各種リードフレーム、および、基板表面に抵抗素子やコンデンサー等の電子部品が搭載された基板が挙げられる。
【0147】
このような配線基板に接着剤層付き半導体チップを実装する方法としては特に制限されず、接着剤層を利用して接着剤層付き半導体チップを配線基板または配線基板の表面上に搭載された電子部品に接着させることが可能な従来の方法を適宜採用することができる。このような実装方法としては、上部からの加熱機能を有するフリップチップボンダーを用いた実装技術を用いる方法、下部からのみの加熱機能を有するダイボンダーを用いる方法、ラミネーターを用いる方法等の従来公知の加熱、加圧方法を挙げることができる。
【0148】
このように、本発明の接着フィルムの接着剤層を介して接着剤層付き半導体チップを配線基板上に実装することで、電子部品により生じる配線基板上の凹凸に接着剤層を追従させることができるため、半導体チップと配線基板とを密着させて固定することが可能となる。
【0149】
次いで、接着剤層を熱硬化させる。熱硬化の温度としては、接着剤層の熱硬化開始温度以上であれば特に制限がなく、使用する樹脂の種類により異なるものであり、一概に言えるものではないが、例えば、100〜180℃が好ましく、より高温にて硬化した方が短時間で硬化可能であるという観点から、140〜180℃がより好ましい。温度が熱硬化開始温度未満であると、熱硬化が十分に進まず、接着剤層の強度が低下する傾向にあり、他方、上記上限を超えると硬化過程中に接着剤層中のエポキシ樹脂、硬化剤や添加剤等が揮発して発泡しやすくなる傾向にある。また、硬化処理の時間は、例えば、10〜120分間が好ましい。本発明においては、高温でフィルム状接着剤を熱硬化させることにより、高温温度で硬化してもボイドが発生することなく、配線基板と半導体チップとが強固に接着された半導体パッケージを得ることができる。
【0150】
次いで、配線基板と接着剤層付き半導体チップとをボンディングワイヤーを介して接続することが好ましい。このような接続方法としては特に制限されず、従来公知の方法、例えば、ワイヤーボンディング方式の方法、TAB(Tape Automated Bonding)方式の方法等を適宜採用することができる。
【0151】
また、搭載された半導体チップの表面に、別の半導体チップを熱圧着、熱硬化し、再度ワイヤーボンディング方式により配線基板と接続することにより、複数個積層することもできる。例えば、半導体チップをずらして積層する方法、もしくは2層目の接着剤層を厚くすることで、ボンディングワイヤーを埋め込みながら積層する方法等がある。
【0152】
本発明では、封止樹脂により配線基板と接着剤層付き半導体チップとを封止することが好ましく、このようにして半導体パッケージを得ることができる。封止樹脂としては特に制限されず、半導体パッケージの製造に用いることができる適宜公知の封止樹脂を用いることができる。また、封止樹脂による封止方法としても特に制限されず、適宜公知の方法を採用することが可能である。
【実施例】
【0153】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0154】
使用した材料は以下の素材である。
【0155】
〔熱可塑性樹脂〕
・フェノキシ樹脂A1:YP−70
新日化エポキシ製造(株)製 商品名、ビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型、質量平均分子量約5.5万、ガラス転移温度Tg60℃
・フェノキシ樹脂A2:YX7180
三菱化学(株)製 商品名、ビスフェノールF+1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型フェノキシ樹脂、質量平均分子量約5.5万、ガラス転移温度Tg15℃
【0156】
〔熱硬化性樹脂〕
・エポキシ樹脂B1:RE−310S
日本化薬(株)製 商品名、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル)、エポキシ当量185g/eq
・エポキシ樹脂B2:EPPN−501H
日本化薬(株)製 商品名、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタンのトリグリシジルエーテル)、エポキシ当量164g/eq
・エポキシ樹脂B3:JER871
三菱化学(株)製 商品名、ダイマー酸エステル型エポキシ樹脂(ダイマー酸ジグリシジルエステル)、エポキシ当量390〜470g/eq
【0157】
〔硬化剤〕
・ジシアンジアミド系:DICY−7
三菱化学(株)製 商品名、NH−C(=NH)−NH−CN
・フェノール系:PSM−4271
群栄化学工業(株)製 商品名、クレゾールノボラック硬化剤、水酸基当量106g/eq
【0158】
〔硬化促進剤〕
・ホスホニウム塩:TPP−K
北興化学工業(株)製 商品名、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート
【0159】
〔応力緩和剤〕
・エポキシ変性ポリブタジエン:E−1800−6.5
日本石油化学(株)製 商品名、数平均分子量1,800、エポキシ当量250g/eq
【0160】
〔熱伝導フィラー〕
・アルミナ:熱伝導率36W/m・K、平均粒子径2〜3μmの球状粒子
・窒化アルミニウム:熱伝導率150W/m・K、平均粒子径1.0〜1.5μmの球状粒子
【0161】
実施例1
1.接着フィルムの作製
フェノキシ樹脂A2(三菱化学(株)製 YX7180)70質量部、エポキシ樹脂B1(日本化薬(株)製 RE−310S)18質量部、フェノール系硬化剤(群栄化学工業(株)製 PSM−4271)11質量部、硬化促進剤(北興化学工業(株)製 TPP−K)1.0質量部、熱伝導フィラー(アルミナ)329質量部およびシクロペンタノン30mlからなる接着剤組成物ワニスを、厚さ38μmの離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に塗布して加熱乾燥(130℃で10分間保持)し、接着剤層の厚さが20μmの接着フィルムを作製した。
【0162】
実施例2〜7および比較例1〜9
実施例1において、熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、応力緩和剤およびフィラーを、下記表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜7および比較例1〜9の各接着フィルムを作製した。
【0163】
〔接着フィルムの性能評価〕
実施例1〜7および比較例1〜9で作製した接着フィルムを使用し、熱硬化後の熱伝導率、抽出水の塩素イオン濃度、ガラス転移点、260℃の貯蔵弾性率、ガラス転移温度以下での線膨張係数および飽和吸水率の測定を行った。
また、得られたガラス転移温度、260℃の貯蔵弾性率、ガラス転移温度以下での線膨張係数および飽和吸水率を用いて、下記数式(1)、(2)により、信頼係数S1およびS2を算出した。
【0164】
【数3】
【0165】
数式(1)、(2)において、S1、S2、Tg、CTEα1、貯蔵弾性率E’および飽和吸水率WAは、硬化後の接着剤層に対するものであり、S1は前記信頼性係数S1であり、S2は前記信頼性係数S2である。Tgはガラス転移温度であり、CTEα1は該ガラス転移温度以下での線膨張係数であり、貯蔵弾性率E’は260℃で測定した値である。また、[]内は単位を示す。
【0166】
さらに、上記で作製した各粘着フィルムを、半導体パッケージの信頼性試験(MSL)および半導体加工用テープ〔(古河電気工業(株)製〕と室温にて貼合し、ダイシング・ダイボンドフィルムを作製し、半導体ウェハ加工性(ダイシング性およびピックアップ性)を評価した。
【0167】
(熱伝導率の測定)
上記で作製した各接着フィルムから12×12×2mmの試験片を成形加工により作製し、これを180℃で1時間加熱硬化させて測定試料を得た。この試験片の熱拡散率をレーザーフラッシュ法〔LFA447、(株)ネッチ製、25℃〕で測定し、さらにこの熱拡散率と、示差走査熱量測定装置〔Pyris1、(株)パーキンエルマー製〕で得られた比熱容量とアルキメデス法で得られた比重の積より、25℃における熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0168】
(抽出水の塩素イオン濃度の測定)
熱硬化前の各接着フィルムを約10g切り取り、熱風オーブンを用いて温度180℃にて1時間の熱処理を行い、熱硬化後のサンプルを作製した。容器に熱硬化後のサンプル2gと純水50mLを入れ、温度121℃にて20時間の熱処理を行い、得られた抽出水の塩素イオン濃度をイオンクロマトグラフィー〔HIC−SP、(株)島津製作所製〕により測定した。
【0169】
(ガラス転移点の測定および260℃の貯蔵弾性率の測定)
上記で作製した各接着フィルムからPETフィルムを剥離し、接着剤層を積層して厚さ1000μmの積層体を形成した。積層体を180℃で1時間加熱して硬化させた後、硬化物から長さ20mm×幅5mmの測定試料を切り出した。この熱硬化後のサンプルについて、固体粘弾性測定装置〔Rheogel−E4000、(株)UBM製〕を用いて、25℃〜300℃における貯蔵弾性率および損失弾性率を測定した。測定条件は、周波数10Hz、昇温速度5℃/分とした。さらに、tanδ〔E’’(損失弾性率)/E’(貯蔵弾性率)〕の値を算出することによりガラス転移点(Tg)を得た。
【0170】
(線膨張係数の測定)
上記で作製した各接着フィルムから5mm角柱を成形加工により作製し、これを180℃で1時間加熱して硬化させ、測定試料を得た測定試料を熱機械分析装置〔TMA7100、(株)日立ハイテクサイエンス製〕の測定用治具にセットした後、−50℃〜300℃の温度域で、押し込み荷重0.02N、プローブ径3mmφ、昇温速度7℃/分の条件下において、膨張率を測定し、ガラス転移温度(Tg)以下における線膨張係数(CTEα1)を算出した。
【0171】
(飽和吸水率の測定)
上記で作製した各接着フィルムからPETフィルムを剥離し、直径50mm、厚さ3mmの円盤状に成型加し、熱風オーブンを用いて温度180℃で1時間の加熱処理を行い、加熱硬化後の試験片を作製した。この試験片の吸水前の質量(W)を測定した後、恒温恒湿器(商品名:SH−222、エスペック(株)製)を用いて、温度85℃、相対湿度85%において吸水させ、吸水後における試験片の質量が測定後に再び温度85℃、相対湿度85%において24時間以上吸水させても質量の増加率が10質量%以下であることが確認された時点を吸水後の質量(W)として、下記式により飽和吸水率を求めた。
【0172】
飽和吸水率WA(質量%)={(W−W)/W}×100
【0173】
(半導体ウェハ加工性:ダイシング性、ピックアップ性)
1)ダイシング性
作製した各接着フィルムを、アイオノマー樹脂を基材フィルムとしてアクリル系粘着剤層を設けたダイシングテープに室温下で貼合し、ダイシング・ダイボンドフィルムを作製した。次に、温度70℃の条件下で、50μmの厚さに切削研磨されたシリコンウェハの研磨面(粗さ:#2,000)に貼合し、ダイシングにより、横8mm、縦9mmの接着フィルム付き半導体チップとした。その際にダイシングされたチップがダイシングの最中に加工用テープから剥離し飛散する現象を「チップ飛び」と称し、また、ダイシング後のチップ切断面を顕微鏡で観察した際に角が欠けている現象を「チッピング」と称して、チップ飛びは、発生数が全チップ数(140〜160個)の10%以下であれば「合」とし、10%以上の場合を「否」とした。チッピングは、ダイシング後のチップを無作為に20個抜き出し、顕微鏡観察で欠けの最大高さがチップ厚みに対して50%以下(すなわち25μm以下)であれば「合」とし、50%以上の場合は「否」とした。
【0174】
2)ピックアップ性
上記の1)でダイシングされたダイシング・ダイボンドフィルムをピックアップした際に、接着フィルムと加工用テープの界面が剥離できずにダイボンディング装置が停止する現象を「ピックアップミス」と称し、ピックアップ後に加工用テープ上に接着フィルムが一部分でも残る現象を「DAF残り」と称し、いずれもピックアップした全チップ数(72〜96個)に対して、発生数が10%以上の場合を「合」とし、10%以下の場合を「否」とした。
【0175】
(信頼性試験:MSL)
以下のようにして、半田耐熱性試験MSL(Moisture Sensitivity Level)(耐湿リフロー性)の評価を行った。
上記で作製したダイシング・ダイボンドフィルム付きの半導体チップを、接着フィルムを介して有機基板にボンディングした。ボンディング条件は、温度140℃、圧力0.1MPa、1秒とした。次に、半導体チップがボンディングされたリードフレームを、乾燥機で、120℃で1時間、150℃で1時間、さらに180℃で1時間熱処理した。その後封止樹脂でパッケージングすることにより、半導体パッケージを得た。封止条件は加熱温度175℃、120秒とした。その後、125℃で24時間乾燥させた後、85℃、相対湿度85%、168時間の条件下で吸湿を行い、さらに260℃以上で10秒間保持する様に設定したIRリフロー炉に、半導体パッケージを載置し、このリフロー試験(260℃以上で10秒間保持)を3回行った。その後、半導体パッケージを超音波顕微鏡で観察して、接着フィルムと有機基板の境界における剥離の有無を確認した。確認は半導体チップ8個に対して行い、剥離が生じている半導体チップが0個の場合を「合」、1個以上の場合を「否」とした。
なお、表1に記載したMSL1は、IPC/JEDEC(米国共同電子機器技術委員会)が規定するレベル規格である。
【0176】
得られた結果をまとめて下記表1に示す。
なお、比較例9は、熱伝導率が0.4W/m・Kであり、規定の0.5W/m・K以上を満たさなかったため、半導体ウェハ加工性の評価は行ったものの、残りの評価は行わなかった。
ここで、素材の配合量を示す数は質量部である。また、表中の「−」は未使用であることを示す。また、半導体ウェハ加工性は「半導体加工性」として示した。
【0177】
【表1】
【0178】
上記表1より、以下のことがわかる。
本発明の実施例1〜7では、硬化後の接着フィルム(接着剤層)の熱伝導率が高く、放熱性に優れ、しかも、半田耐熱性の信頼性試験(MSL)も優れる。また、これに加えて、半導体の加工性に優れる。
ここで、比較例9のように、熱伝導フィラーの含有量が、30体積%未満であると、硬化後の接着フィルム(接着剤層)の熱伝導率が0.5W/m・K未満となり、放熱性が低下する。
熱伝導フィラーの含有量が、30体積%以上であると、熱伝導率は0.5W/m・K以上となる。
しかしながら、比較例1〜8のように、信頼性係数S1が50〜220×10−6GPa、信頼性係数S2が10〜120×10−6GPaの範囲をいずれも満たさない限り、半田耐熱性の信頼性試験(MSL)において、接着フィルムと有機基板の境界で剥離が生じてしまう。
なお、熱伝導フィラーの含有量が、70体積%を超えた、信頼性係数S1およびS2のいずれかが本発明で規定する上記範囲を満たさないと、半導体の加工性が悪化することが多い。ここで、比較例1では、使用するフェノキシ樹脂が、一般式(I)で表される繰り返し単位のフェノキシ樹脂であり、特に、ビスフェノールFと1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルとの重合体であるため、半導体の加工性に優れるものと思われる。