特許第6615570号(P6615570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6615570
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】導波管スロットアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/22 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
   H01Q13/22
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-210830(P2015-210830)
(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公開番号】特開2017-85311(P2017-85311A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】園嵜 智和
(72)【発明者】
【氏名】赤井 洋
(72)【発明者】
【氏名】榊原 久二男
(72)【発明者】
【氏名】平山 雄一
【審査官】 新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05422652(US,A)
【文献】 特開2000−341030(JP,A)
【文献】 特開平03−007406(JP,A)
【文献】 特開2015−027072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面方形状をなした導波管と、該導波管の一壁部に管軸方向に沿って所定間隔で設けられた複数の放射スロットとを備え、前記導波管の中空部を管軸方向に沿って伝搬する高周波電力が前記放射スロットを介して自由空間に放射される導波管スロットアンテナにおいて、
前記一壁部に、前記中空部側に突出し、前記導波管の管路断面積を部分的に縮小させる絞り部が管軸方向に沿って所定間隔で設けられ、各絞り部の管軸方向に沿って延びる面に一の放射スロットの内側端部が開口しており、
前記一壁部と対峙する他壁部に、前記中空部を伝搬する高周波電力を各放射スロットに向けて誘導する誘導壁が管軸方向に沿って所定間隔で立設されていることを特徴とする導波管スロットアンテナ。
【請求項2】
前記一壁部の外面に開口した凹部が管軸方向に沿って所定間隔で設けられ、各凹部の内底面に一の放射スロットの外側端部が開口している請求項に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項3】
前記導波管は、管軸方向と直交する方向の断面が有端状をなした第1および第2の導波管形成部材の結合体からなり、
前記第1の導波管形成部材が前記一壁部を有し、前記第2の導波管形成部材が前記他壁部を有する請求項1又は2に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項4】
前記第1の導波管形成部材と前記第2の導波管形成部材の少なくとも一方が溶融材料の射出成形品である請求項に記載の導波管スロットアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管スロットアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、装置全体の大きさ(アンテナの設置スペース)に制約があり、また、数百メートル単位の検知距離や高い分解能が要求される車載用レーダでは、高周波帯域の電波、特にミリ波帯の電波が好ましく利用されている。また、ミリ波帯の電波は、例えば、ギガビット通信を可能とする第5世代移動通信(5G)への応用も検討されている。そして、上記のようなミリ波帯の電波を送信又は受信するためのアンテナとしては、例えば、導波管スロットアンテナ(導波管スロットアレーアンテナなどとも称される)が使用される。
【0003】
導波管スロットアンテナは、例えば下記の特許文献1に記載されているように、断面方形状をなした導波管(方形導波管)と、該導波管の一壁部に管軸方向に沿って所定間隔で設けられた複数の放射スロットとを備える。なお、放射スロットとは、導波管の中空部(導波路)と自由空間とを連通させるスロット状の開口部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−341030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成を有する導波管スロットアンテナにおいては、通常、中空部の管軸方向一方側の端部に供給・入力された高周波電力が、中空部の管軸方向他方側(終端側)に向けて中空部を伝搬しながら順次放射スロットを介して自由空間に放射される。このとき、中空部を伝搬する高周波電力の一部が放射スロットに当たって反射することにより、中空部の管軸方向他方側から一方側に向かう反射波が生じるため、個々の放射スロットからの電波放射効率が低下するという問題がある。
【0006】
このような実情に鑑み、本発明の主な目的は、個々の放射スロットからの電波の放射効率に優れた導波管スロットアンテナを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らが鋭意研究を進めた結果、導波管のうち、放射スロットが設けられた一壁部の構造(特に放射スロットの周辺構造)に工夫を凝らすことが上記の目的を達成する上で有益であることを見出し、本発明を創案するに至った。
【0008】
すなわち、上記の目的を達成するために創案された本発明は、断面方形状をなした導波管と、この導波管の一壁部に管軸方向に沿って所定間隔で設けられた放射スロットとを備え、導波管の中空部を管軸方向に沿って伝搬する高周波電力が放射スロットを介して自由空間に放射される導波管スロットアンテナにおいて、上記一壁部に、中空部側に突出し、導波管の管路断面積を部分的に縮小させる絞り部が管軸方向に沿って所定間隔で設けられ、各絞り部の管軸方向に沿って延びる面に一の放射スロットの内側端部が開口していることを特徴とする。なお、本発明でいう「所定間隔」とは、管軸方向で隣り合う2つの放射スロット(および絞り部)の設置間隔が、全て同一の場合のみならず、相互に異なる場合も含む概念である。さらに言えば、絞り部、さらには後述する凹部や誘導壁の設置間隔は、放射スロットの設置間隔を基準として決定付けられる。
【0009】
上記のような絞り部を設けておけば、中空部を高周波電力が伝搬する際に、絞り部のうち、高周波電力の伝搬方向後方側(高周波電力が入力される側)の端面で反射波を生成することができる。この場合、当該反射波で、放射スロットで生成される反射波を打ち消すことが可能となるので、個々の放射スロットの反射特性を改善して個々の放射スロットからの電波の放射効率を高めることができる。また、中空部のうち絞り部の形成領域(放射スロットの近傍領域)では、導波管の管路断面積(中空部の断面積)が縮小する分、電力密度を高める(電磁界を強くする)ことができるので、この点からも放射スロットからの電波の放射効率を高めることができる。
【0010】
なお、複数の放射スロットを管軸方向に沿って所定間隔で配置してなる導波管スロットアンテナでは、中空部の管軸方向一方側から他方側の端部(終端側)に向けて伝搬する高周波電力が放射スロットを介して自由空間に放射されていくため、中空部を伝搬する高周波電力の伝搬量は終端側に向かうにつれて徐々に低下するが、通常は、各放射スロットからの電波の放射量(「各放射スロットにおける結合量」とも言える。ここで、「結合量」とは、放射スロットが入射電力に対してどれだけの割合で放射するかを示すパラメータである[単位:%]。)が概ね一定となるように、各放射スロットの形状・大きさ等が設計される。本発明の構成では、上述したとおり、各放射スロットからの電波の放射効率を高めることができるため、各放射スロットで必要とされる電波の放射量を確保するための設計自由度が高まる。従って、中空部の終端に近付くにつれて低下する電波放射量の変動を少なくすることもできる。
【0011】
一壁部と対峙する他壁部には、中空部を伝搬する高周波電力を一壁部(放射スロット)側に誘導する誘導壁を管軸方向に沿って所定間隔で立設することができる。
【0012】
このようにすれば、中空部のうち放射スロットの近傍領域における電力密度を一層高めることができるので、各放射スロットからの電波の放射効率を一層高めることができる。
【0013】
また、上記の構成を採用すれば、各誘導壁でも反射波を生成することができる。この場合、一組の放射スロット、絞り部および誘導壁のそれぞれで生成される3つの反射波が互いに打ち消し合うように各誘導壁の位置や大きさ等を設定すれば、例えば、それぞれで反射波を生成し得る絞り部又は誘導壁の何れかのみを設ける場合に比べ、個々の要素で生成される反射波の反射量を小さくすることができる分、各放射スロットの反射特性を改善することができる。これにより、導波管スロットアンテナの動作周波数帯域を広帯域化することができる。
【0014】
一壁部には、その外面に開口した凹部を管軸方向に沿って所定間隔で設け、各凹部の内底面に一の放射スロットの外側端部を開口させることができる。このような構成によれば、当該導波管スロットアンテナの動作周波数帯域をより一層広帯域化することができることに加え、各放射スロットから放射される電波の指向性を鋭くして利得を向上することができる。
【0015】
上記構成において、導波管は、管軸方向と直交する方向の断面が有端状をなした第1および第2の導波管形成部材の結合体で構成することができ、この場合、第1の導波管形成部材が上記一壁部を有し、第2の導波管形成部材が上記一壁部と対峙する他壁部を有するものとすることができる。このようにすれば、放射スロットおよび絞り部、さらには、誘導壁や凹部を備えた導波管(導波管スロットアンテナ)を容易かつ精度良く作製することができる。
【0016】
方形導波管を、上記のような第1および第2の導波管形成部材の結合体で構成する場合、第1の導波管形成部材と第2の導波管形成部材の少なくとも一方は溶融材料の射出成形品とすることができる。上記の溶融材料としては、例えば、樹脂や低融点金属を挙げることができる。このようにすれば、両導波管形成部材の少なくとも一方を、容易かつ精度良く量産することができるので、本発明に係る高性能の導波管スロットアンテナを低コストに提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上に示すように、本発明によれば、個々の放射スロットからの電波の放射効率に優れ、また動作周波数帯域が広帯域化した高性能の導波管スロットアンテナを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)図は、本発明の一実施形態に係る導波管スロットアンテナの部分概略平面図、(b)図は、(a)図中に示すX−X線矢視断面図、(c)図は、(a)図中に示すY−Y線矢視断面図である。
図2】(a)図および(b)図は、何れも、本発明の他の実施形態に係る導波管スロットアンテナの概略横断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る導波管スロットアンテナの部分概略平面図である。
図4】本発明の有用性を実証するために実施した解析の結果を示す図である。
図5】本発明の有用性を実証するために実施した解析の結果を示す図である。
図6】本発明の有用性を実証するために実施した解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1(a)に、本発明の一実施形態に係る導波管スロットアンテナ1の部分概略平面図を示し、図1(b)に同アンテナ1の横断面図[図1(a)中に示すX−X線矢視断面図]を示し、図1(c)に同アンテナ1の縦断面図[図1(a)中に示すY−Y線矢視断面図]を示す。この導波管スロットアンテナ1は、ミリ波帯の電波(波長1〜10mm、周波数30〜300GHzの電波)を送信するためのアンテナとして使用されるものであって、例えば79GHzの電波送信用に使用することができる。
【0021】
図1(a)〜(c)に示すように、導波管スロットアンテナ1は、断面方形状をなした導波管(方形導波管)10と、導波管10の管軸方向[図1(a)(c)に示すx軸方向。以下同様。]に延びる一壁部に設けられた複数の放射スロット3とを備え、放射スロット3は管軸方向に沿って所定間隔で設けられている。放射スロット3は、導波管10の中空部2と自由空間とを連通させるスロット状(長孔状)の開口部である。本実施形態において、各放射スロット3は、その長軸が管軸方向に沿うように設けられているが、その長軸が管軸方向に対して所定角度傾くように設けられる場合もある。また、当該導波管スロットアンテナ1に供給される高周波電力の自由空間波長をλ0とした場合、各放射スロット3の長軸方向寸法は概ね0.5λ0に設定される。
【0022】
導波管10は、中空部2を介して高さ方向[図1(b)(c)に示すz軸方向。以下同様。]で対峙する第1および第2壁部10a,10bと、中空部2を介して幅方向[図1(a)(b)に示すy軸方向。以下同様。]で対峙する第3および第4壁部10c,10dを備え、第1および第2壁部10a,10bの横断面寸法は、第3および第4壁部10c,10dの横断面寸法よりも短寸である。従って、第1および第2壁部10a,10bはいわゆる狭壁を構成し、第3および第4壁部10c,10dはいわゆる広壁を構成する。本実施形態では、第1壁部10aに放射スロット3を設けているので、第1壁部10aが本発明でいう“一壁部”に相当する。図示は省略しているが、導波管10の管軸方向一方側[図1(c)において左側]の端部には、中空部2に高周波電力Pを供給・入力するための給電口が設けられ、導波管10の管軸方向他方側[図1(c)において右側]の端部には、第1〜第4壁部10a〜10dで画成される開口部を閉塞する(中空部2を終端させる)終端壁が設けられている。
【0023】
第1壁部10aには、その外表面に開口した凹部4が管軸方向に沿って所定間隔で設けられ、各凹部4の内底面に一の放射スロット3の外側端部が開口している。本実施形態では、凹部4の平面形状を、長辺が管軸方向に延びた長方形状に形成しているが、これに限られない。すなわち、凹部4は、平面視円形状や楕円状等に形成しても良い。
【0024】
また、第1壁部10aは、中空部2側に突出し、導波管10の管路断面積(中空部2の断面積)を部分的に縮小させる絞り部6を有し、絞り部6は管軸方向に沿って所定間隔で設けられている。各絞り部6は、管軸方向と直交する方向に延びた一端面(yz平面)6aと、この一端面6aの内側端部から管軸方向他方側に向けて延びた平坦面(xy平面)6bとを有し、平坦面6bに一の放射スロット3の内側端部が開口している。各絞り部6の幅方向寸法は中空部2の幅方向寸法と同一であり、従って、各絞り部6は第3および第4壁部10c,10dとも一体的に設けられている。
【0025】
一組の放射スロット3、凹部4および絞り部6の管軸方向寸法を対比すると、本実施形態では、放射スロット3よりも凹部4を僅かに長寸に形成し、また、凹部4よりも絞り部6を長寸に形成しているが[図1(c)を参照]、これに限られるわけではない。また、本実施形態では、放射スロット3の高さ方向寸法と、絞り部6の突出量(高さ方向寸法)とを同一に設定している。そのため、凹部4の深さ寸法(高さ方向寸法)は、第1の壁部10aのうち、絞り部6が設けられていない部分の肉厚と同一である。
【0026】
第2壁部10bは、中空部2を伝搬する高周波電力Pを第1壁部10a(対応する放射スロット3)側に誘導する複数の誘導壁5を有し、誘導壁5は管軸方向に沿って所定間隔で立設されている。各誘導壁5の配設位置や高さ方向寸法は、対応する放射スロット3に向けて誘導すべき電力量(各放射スロット3から放射すべき電波量)に応じて適宜設定することができる。なお、本実施形態では、各誘導壁5を、対応する放射スロット3の管軸方向中央部よりも管軸方向他方側にシフトした位置に設けている[図1(c)を参照]。
【0027】
なお、本実施形態では、絞り部6の突出量を概ね統一すると共に、各放射スロット3とこれに対応する誘導壁5との管軸方向における相対位置を概ね統一する一方、誘導壁5の高さ方向寸法を相互に異ならせることにより、各放射スロット3からの電波の放射効率が概ね均一化するようにしている。より具体的には、管軸方向で隣り合う二つの誘導壁5のうち、相対的に管軸方向一方側に設けられた誘導壁5よりも、相対的に管軸方向他方側に設けられた誘導壁5の高さ方向寸法を大きく設定してある[図1(c)を参照]。
【0028】
以上の構成を有する導波管10は、管軸方向と直交する断面が有端状をなす第1および第2の導波管形成部材11,12の結合体からなる。具体的には、複数の放射スロット3、凹部4および絞り部6が設けられた第1壁部10a、並びに第3および第4壁部10c,10dの一部を一体に有する第1の導波管形成部材11と、複数の誘導壁5が設けられた第2壁部10b、並びに第3および第4壁部10c,10dの残部を一体に有する第2の導波管形成部材12とを結合することで導波管10が形成される。両導波管形成部材11,12の結合方法は任意であり、例えば、接着、溶着、凹凸嵌合などを採用することができる。また、本実施形態における両導波管形成部材11,12の結合部は、導波管10の高さ方向中央部にある。これは、中空部2を伝搬する高周波電力Pの外部漏洩を可及的に防止する上で有利であるためである。
【0029】
第1および第2の導波管形成部材11,12の何れか一方又は双方は、例えば、金属材料の機械加工品や、低融点金属の射出成形品とすることも可能であるが、本実施形態では、第1および第2の導波管形成部材11,12の双方を樹脂の射出成形品とする。この場合、第1の導波管形成部材11を射出成形するのと同時に放射スロット3、凹部4および絞り部6が型成形され、また、第2の導波管形成部材12を射出成形するのと同時に誘導壁5が型成形される。このようにすれば、第1および第2の導波管形成部材11,12を容易かつ精度良く作製することができる。
【0030】
導波管形成部材11,12の成形用樹脂としては、例えば、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)およびポリアセタール(POM)の群から選択される少なくとも一種の熱可塑性樹脂をベース樹脂としたものが使用され、ベース樹脂には、必要に応じて、グラスファイバー(GF)やカーボンファイバー(CF)等の充填材が一種又は複数種添加される。以上で例示した樹脂の中でも、LCPは、PPS等に比べて形状安定性に優れ、かつ成形に伴うバリの発生量を抑制し得る点で好ましい。
【0031】
詳細な図示は省略しているが、第1および第2の導波管形成部材11のうち、少なくとも中空部2に臨む面は、高周波電力の良好な伝搬性を担保するために導電性被膜で被覆されている。導電性被膜は、例えば、両導波管形成部材11,12に電解メッキ処理あるいは無電解メッキ処理を施すことで形成される。なお、導電性被膜は、両導波管形成部材11,12の表面全域に形成しても構わない。このようにすれば、導電性被膜の形成前におけるマスキングの形成作業と、導電性被膜の形成後におけるマスキングの除去作業とが不要となるので、導波管10、ひいては導波管スロットアンテナ1の製造コストを抑えることができる。
【0032】
導電性被膜は、単層の金属メッキ被膜で構成することができる他、導波管形成部材11,12に析出形成した第1被膜と、この第1被膜上に析出形成した第2被膜の積層構造とすることもできる。導電性被膜を積層構造とする場合、第1被膜は、銅、銀、金等、特に導電性に優れた金属のメッキ被膜とすることができ、また、第2被膜は、ニッケル等、耐久性(耐腐食性)に優れた金属のメッキ被膜とすることができる。導電性被膜をこのような積層構造とすることにより、導電性被膜に高い導電性と耐久性とを同時に付与することができることに加え、高価な金属である銅や銀等の使用量を抑えてコスト増を抑えることができる。
【0033】
導電性被膜の膜厚は、これが薄過ぎると耐久性に乏しくなることに加えて損失が大きくなる。一方、導電性被膜の膜厚が厚過ぎると、被膜形成に多大な時間を要してコスト高を招来する。かかる観点から、導電性被膜の膜厚は0.2μm以上1.5μm以下とするのが好ましい。なお、導電性被膜を第1被膜と第2被膜の積層構造とする場合、第1被膜および第2被膜の膜厚は、それぞれ、例えば0.1〜1.0μm程度および0.1〜0.5μm程度とすることができる。
【0034】
以上の構成を有する導波管スロットアンテナ1において、図示しない給電口を介して中空部2に供給・入力された高周波電力Pは、中空部2をその管軸方向一方側から他方側に向けて伝搬しながら、順次放射スロット3から自由空間に放射される。上記態様で高周波電力Pが中空部2を伝搬する際には、高周波電力Pが放射スロット3に当たって反射することで反射波が生成されるが、本発明に係る導波管スロットアンテナ1では、中空部2側に突出した絞り部6を設けているので、各絞り部6の一端面6aでも反射波を生成することができる。この場合、各放射スロット3による反射波を、該放射スロット3の内側端部が開口した絞り部6による反射波で打ち消すことが可能となるので、個々の放射スロット3の反射特性を改善し、個々の放射スロット3からの電波の放射効率を高めることができる。
【0035】
また、中空部2のうち、各絞り部6の形成領域(各放射スロット3の近傍領域)では、中空部2の断面積が縮小する分、中空部2を伝搬する高周波電力Pの電力密度を高めることができる。さらに、本実施形態では、第2壁部10bに、中空部2を伝搬する高周波電力Pを第1壁部10a(対応する放射スロット3)側に誘導する誘導壁5を設けているので、中空部2のうち各放射スロット3の近傍領域における電力密度を一層高めることができる。このように、各放射スロット3の近傍領域における電力密度が高まれば、各放射スロット3からの電波の放射効率を一層高めることができる。この場合、各放射スロット3で必要とされる電波の放射量を確保するための設計自由度が高まる。そのため、中空部2の終端側に近付くにつれて低下する電波放射量の変動を少なくすることができる。
【0036】
また、第2壁部10bに、上記の誘導壁5を設けておけば、この誘導壁5でも反射波を生成することができる。この場合、一組の放射スロット3、絞り部6および誘導壁5のそれぞれで生成される3つの反射波が互いに打ち消し合うように各誘導壁5を設けておけば、例えば、それぞれで反射波を生成し得る絞り部6又は誘導壁5の何れかのみを設ける場合に比べ、個々の要素で生成される反射波の反射量を小さくすることができる分、個々の放射スロット3の反射特性を改善することができる。これにより、導波管スロットアンテナ1の動作周波数帯域を広帯域化することができる。なお、本実施形態のように、それぞれが反射波を生成し得る絞り部6および誘導壁5を設けておけば、例えば、誘導壁5のみで上記の反射波を生成する場合に比べ、誘導壁5の高さ方向寸法を小さくしても全体として必要な反射量と放射量を確保することができる。この場合、誘導壁5を設けるべき第2の導波管形成部材12の設計自由度を高めることができる。
【0037】
また、第1壁部10aに、その外表面に開口した凹部4を管軸方向に沿って所定間隔で設け、各凹部4の内底面に一の放射スロット3の外側端部を開口させれば、導波管スロットアンテナ1の動作周波数帯域を大幅に広くすることができる。その理由は、放射スロット3から放射される電波の放射方向前方側において、誘導電磁界の分布範囲を大きくすることができる(共振構造の電気的体積を増加させ得る)ためであると推察される。また、このような凹部4を設けておけば、各放射スロット3から放射される電波の指向性を鋭くし、各放射スロット3から放射された電波が相互に結合する可能性を効果的に低減することができるので、設計精度を高め、利得を向上することもできる。
【0038】
以上より、本発明によれば、個々の放射スロット3からの電波の放射効率に優れ、また、動作周波数帯域が広帯域化した高性能の導波管スロットアンテナ1を実現することができる。
【0039】
以上、本発明の第1実施形態に係る導波管スロットアンテナ1について説明を行ったが、導波管スロットアンテナ1には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更を施すことが可能である。
【0040】
例えば、以上で説明した導波管スロットアンテナ1では、横断面寸法が相対的に短寸で、いわゆる狭壁を構成する第1壁部10aに放射スロット3(さらには絞り部6や凹部4)を設けるようにしたが、図2(a)に示すように、放射スロット3は、横断面寸法が相対的に長寸に形成された第1壁部10aに設けることもできる。すなわち、本発明は、いわゆる狭壁に複数の放射スロット3が設けられる導波管スロットアンテナ1のみならず、いわゆる広壁に複数の放射スロット3が設けられる導波管スロットアンテナ1に適用することも可能である。
【0041】
また、以上で説明した導波管スロットアンテナ1では、導波管10を、横断面形状が何れも凹字形状をなす第1および第2の導波管形成部材11,12の結合体で構成したが、両導波管形成部材11,12のうち、何れか一方を平板状に形成することもできる。図2(b)はその一例であり、平板状に形成した第1の導波管形成部材11と、断面凹字形状の第2の導波管形成部材12との結合体で導波管10(導波管スロットアンテナ1)を構成している。なお、図2(b)は、いわゆる広壁に放射スロット3を設けた導波管スロットアンテナ1であるが、図1(a)〜(c)に示すように、いわゆる狭壁に放射スロット3を設けた導波管スロットアンテナ1に同様の構成を適用することも可能である。
【0042】
また、以上で説明した導波管スロットアンテナ1は、放射スロット3の配列を一次元とした(放射スロット3を一列に配置した)ものであるが、本発明は、放射スロット3の配列を二次元とした導波管スロットアンテナ1に適用することも可能である。図3はその一例であり、複数の放射スロット3を管軸方向に沿って所定間隔で配置してなる放射スロット列を導波管10の幅方向に離間した二箇所に設けると共に、一方の放射スロット列を構成する放射スロット3と他方の放射スロット列を構成する放射スロット3の管軸方向における配設位置を互いに異ならせている。また、図3に示す導波管スロットアンテナ1は、図示外の給電口よりも高周波電力Pの伝搬方向前方側で、中空部2を二条の中空部2A,2Bに分岐させる分岐壁10eを有し、給電口を介して中空部2に供給・入力された高周波電力Pは、二条の中空部2A,2Bに沿って伝搬しながら各放射スロット列を構成する放射スロット3を介して自由空間に放射される。
【0043】
また、以上で説明した導波管スロットアンテナ1は、第1壁部10aに、内底面に一の放射スロット3の外側端部が開口した凹部4が設けられると共に、第2壁部10bに、導波管10の中空部2を伝搬する高周波電力Pを第1壁部10a(各放射スロット3)側に誘導する誘導壁5が設けられたものであるが、上記の凹部4および誘導壁5の何れか一方又は双方は必ずしも設ける必要はなく、必要とされるアンテナ性能に応じて設ければ足りる。但し、動作周波数帯域が広帯域化された導波管スロットアンテナ1を実現する上では、上記の凹部4および誘導壁5の双方を設けておくのが好ましい。
【0044】
また、本発明は、ミリ波帯の電波を送信するための導波管スロットアンテナ1のみならず、例えばセンチメートル波帯の電波を送信するための導波管スロットアンテナ1に適用することも可能である。
【0045】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論である。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【実施例】
【0046】
本発明の有用性を確認・実証するため、放射スロットの周辺構造(放射スロットおよび誘導壁を含んで構成される放射素子の構造)を相互に異ならせた4種類のアンテナモデル(第1−第4モデル)を設計・作成し、各モデルについて種々の解析を実施した。各アンテナモデルで採用した構造は以下のとおりである。
・第1モデル:放射スロット+誘導壁
・第2モデル:放射スロット+凹部+誘導壁
・第3モデル:放射スロット+絞り部+誘導壁
・第4モデル:放射スロット+絞り部+凹部+誘導壁
なお、解析に使用したアンテナモデルの基本構造は、図1(a)〜(c)に例示したものと同様とした。すなわち、アンテナモデルは、横断面形状が凹字状をなす2つの導波管形成部材を広壁の中央部で結合してなる導波管のうち、一方の狭壁に放射スロットを設けると共に他方の狭壁に誘導壁を設けたものを基本モデル(第1モデル)とし、第2−第4モデルにおいては、凹部および絞り部の何れか一方又は双方を上記一方の狭壁に追加的に設けた。
【0047】
各モデルの解析に際しては、導波管の広壁幅(中空部を画成する長辺の寸法)および狭壁幅(中空部を画成する短辺の寸法)をはじめとする幾つかのパラメータ値を固定する一方、放射スロットの長軸長さ、誘導壁の高さ方向寸法、および対をなす放射スロットと誘導壁の管軸方向相対位置などを調整することにより、所望の放射分布を実現するのに必要な放射スロット(放射素子)ごとに異なる結合量を実現した。なお、「結合量」とは、上述したとおり、各放射スロットが入射電力に対してどれだけの割合で放射するかを示すパラメータ[単位:%]であり、通常は、管軸方向で隣り合う2つの放射スロットのうち相対的に中空部の終端側に位置する放射スロットの方が結合量は大きく設定される。また、中空部の最も終端側に位置する放射スロットにおいては、入射電力の全量が放射されるように(反射がゼロになるように)結合量が100%に設定される。
【0048】
参考までに、数値を固定したパラメータおよびその値は以下のとおりである。
・導波管の広壁幅:3.3mm
・導波管の狭壁幅:0.9mm
・放射スロットの高さ方向寸法:0.4mm
・放射スロットの幅(短軸長さ):0.4mm
・誘導壁の管軸方向寸法:0.5mm
・凹部の高さ方向寸法:1.0mm
・凹部の管軸方向寸法:2.3mm
・絞り部の高さ方向寸法:0.4mm
・絞り部の管軸方向寸法:3.1mm
【0049】
まず、第1−第4モデルのそれぞれにおいて結合量を60%に設定した放射スロットの反射特性(設計周波数79GHz)を調査・解析したので、その結果を図4に示す。なお、図4では、比較のために、第4モデルにおいて結合量を100%に設定した放射スロット(中空部の最も終端側に配置される放射スロットであり、図中「終端整合素子」と表現している。)の反射特性も併せて示す。同図に示すように、−20dBにおける各モデルの帯域幅は、第1モデル:1.9GHz、第2モデル:8.6GHz、第3モデル:2.5GHz、第4モデル:14.3GHzであり、また、終端整合素子:7.3GHzであった。この解析結果から、放射スロットの反射特性を改善し、個々の放射スロットの広帯域化を図る上では、絞り部を追加することが有効であり、凹部を追加することがさらに有効であり、絞り部および凹部の双方を追加することが最も有効であることがわかる。
【0050】
次に、第1−第4モデルのそれぞれにおいて、放射スロットの結合量を変化させた場合に帯域幅がどのように変化するかを調査・解析した。この解析に際しては、設計周波数79GHzで反射特性が最小となるように、誘導壁の高さ方向寸法、さらには、放射スロットの管軸方向中央部と誘導壁の管軸方向中央部との離間距離を調整した。解析結果(各モデルにおける結合量と帯域幅の関係)を図5に示す。なお、図5において、横軸は結合量[%]であり、縦軸は−20dBにおける帯域幅[GHz]である。
【0051】
図5を参照しながら、以下検証する。
(1)第1モデルと、第1モデルに対して絞り部を追加した第3モデルとを対比すると、全ての結合量において第3モデルの方が第1モデルよりも広帯域化していることがわかる。具体的な数字を挙げて説明すると、例えば、結合量60%の場合、第3モデルは第1モデルよりも0.6GHz広帯域化し、また結合量25%の場合、第3モデルは第1モデルよりも1.6GHz広帯域化している。倍数表示すると、結合量60%の場合、第3モデルの帯域幅は第1モデルの帯域幅の1.32倍(=2.5GHz/1.9GHz)となり、結合量25%の場合、第3モデルの帯域幅は第1モデルの帯域幅の1.57倍(=4.4GHz/2.8GHz)となっている。
(2)第1モデルと、第1モデルに対して凹部を追加した第2モデルとを対比すると、全ての結合量において第2モデルの方が第1モデルよりも大幅に広帯域化していることがわかる。具体的な数字を挙げて説明すると、例えば、結合量60%の場合、第2モデルは第1モデルよりも6.7GHz広帯域化し、また結合量25%の場合、第2モデルは第1モデルよりも5.3GHz広帯域化している。倍数表示すると、結合量60%の場合、第2モデルの帯域幅は第1モデルの帯域幅の4.53倍(=8.6GHz/1.9GHz)となり、結合量25%の場合、第2モデルの帯域幅は第1モデルの帯域幅の2.89倍(=8.1GHz/2.8GHz)となっている。
(3)第1モデルと、第1モデルに対して絞り部および凹部を追加した第4モデルとを比較すると、全ての結合量において第4モデルの方が第1モデルよりも一層大幅に広帯域化していることがわかる。具体的な数字を挙げて説明すると、例えば、結合量60%の場合、第4モデルは第1モデルよりも12.4GHz広帯域化し、また結合量25%の場合、第4モデルは第1モデルよりも13.3GHz広帯域化している。倍数表示すると、結合量60%の場合、第4モデルの帯域幅は第1モデルの帯域幅の7.53倍(=14.3GHz/1.9GHz)となり、結合量25%の場合、第4モデルの帯域幅は第1モデルの帯域幅の5.75倍(=16.1GHz/2.8GHz)となっている。
なお、絞り部のみを追加した場合に得られる効果と、凹部のみを追加した場合に得られる効果とを掛け合わせると、結合量60%のときには、1.9GHz×1.32×4.53=11.4GHzとなり、結合量25%のときには、2.8GHz×1.57×2.89=12.7GHzとなるが、上記のとおり、絞り部および凹部を同時に追加した場合に得られる効果はこれらを上回ることになる。
【0052】
以上から、絞り部を追加すれば、結合量の設定値に関わらず、放射スロットの帯域幅を広くすることができるが、絞り部を追加するだけでは、放射スロットの帯域幅を十分に拡大することができない。但し、絞り部および凹部を同時に追加すれば、絞り部のみ、あるいは凹部のみを追加する場合に比べ、放射スロットの帯域幅の拡大効果が飛躍的に高まる。
【0053】
次に、第1−第4モデルのそれぞれについて、所望の結合量を確保するために必要な誘導壁の高さ方向寸法を調査・解析したので、その結果を図6に示す。第1モデルと第2モデルとを対比すると、誘導壁の高さ方向寸法を平均で0.29mm低減でき、また、第1モデルと第3モデルとを対比すると、誘導壁の高さ方向寸法を平均で0.37mm低減することができる。さらに、第1モデルと第4モデルとを対比すると、誘導壁の高さ方向寸法を平均で0.62mm低減することができる。
【0054】
この解析結果より、放射スロットが設けられる一壁部に絞り部や凹部を追加すれば、上記一壁部と対峙する他壁部に誘導壁を設ける場合でも、誘導壁の高さ方向寸法をむやみに増大する必要がなくなると言える。この場合、特に上記他壁部の設計自由度を高めることが可能となる。
【0055】
以上で説明した解析結果から、放射スロットが設けられた一壁部に、導波管の中空部側に突出し、導波管の管路断面積を部分的に縮小させる絞り部を設け、この絞り部の管軸方向に沿って延びる面に一の放射スロットの内側端部を開口させること、また、上記一壁部にその外表面に開口した凹部を設け、この凹部の内底面に一の放射スロットの外側端部を開口させることは、各放射スロットの反射特性を改善し、各放射スロットの周波数帯域を広帯域化する上で有効であることが理解される。従って、放射スロット、並びに上記の絞り部および/又は凹部を管軸方向に沿って所定間隔で設けてなる本発明に係る導波管スロットアンテナは、アンテナ全体の反射特性が改善され、動作周波数帯域が広帯域化されたものになると言える。
【符号の説明】
【0056】
1 導波管スロットアンテナ
2 中空部
3 放射スロット
4 凹部
5 誘導壁
6 絞り部
10 導波管
10a 第1壁部(一壁部)
10b 第2壁部(他壁部)
11 第1の導波管形成部材
12 第2の導波管形成部材
P 高周波電力
図1
図2
図3
図4
図5
図6