特許第6616192号(P6616192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特許6616192-成膜方法 図000002
  • 特許6616192-成膜方法 図000003
  • 特許6616192-成膜方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616192
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20191125BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   C23C14/34 R
   C23C14/06 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-1389(P2016-1389)
(22)【出願日】2016年1月6日
(65)【公開番号】特開2017-122262(P2017-122262A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】藤井 佳詞
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−192864(JP,A)
【文献】 特開2003−088939(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/050542(WO,A1)
【文献】 特開2008−255462(JP,A)
【文献】 特開平11−100671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物をその表面に原子量が90以上の金属で構成される金属層を有するものとし、この金属層の表面にカーボン膜をスパッタリング法により成膜する成膜方法であって、
アモルファスカーボン製ターゲットを用い、成膜対象物に0.2W/cmより大きいバイアス電力を投入して成膜するものにおいて、
前記アモルファスカーボン製ターゲットのスパッタ面のラフネスが0.5μmRa以下であることを特徴とする成膜方法
【請求項2】
記金属は、Ta、Pt、W、Ru、Nb及びMoの中から選択されることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関し、より詳しくは、成膜対象物をその表面に金属層を有するものとし、この金属層の表面にカーボン膜をスパッタリング法により成膜するものに関する。
【背景技術】
【0002】
大容量の不揮発性半導体記憶装置として、NAND型フラッシュメモリが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、電極膜としてのカーボン膜を量産性よく成膜するためにスパッタリング法による成膜方法が用いられている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0003】
このような成膜方法では、真空チャンバ内にスパッタガスを導入し、カーボン製のターゲットに電力投入してターゲットをスパッタリングし、ターゲットから飛散したスパッタ粒子を成膜対象物の表面に付着、堆積させることでカーボン膜が成膜される。ここで、成膜される薄膜の表面のラフネスを整えるために、スパッタリング中、成膜対象物にバイアス電力を投入することが一般的である。
【0004】
しかしながら、成膜対象物をその表面に金属層を有するものとし、バイアス電力を投入した状態で複数枚の成膜対象物に対してカーボン膜を連続成膜すると、成膜レートが徐々に低下することが判明した。そこで、本発明者らは鋭意研究を重ね、ターゲットからのスパッタ粒子が金属層の表面に衝突して飛散し、この金属粒子がターゲット表面に付着して反応し、これによりカソード電圧が上昇することに起因することを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−138941号公報
【特許文献2】特開平8−31573号公報
【特許文献3】国際公開第2015/122159号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、複数枚の成膜対象物に対してカーボン膜を連続成膜する場合でも、カソード電圧の上昇を抑制することができると共に成膜レートの低下を抑制することができる成膜方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、成膜対象物をその表面に原子量が90以上の金属で構成される金属層を有するものとし、この金属層の表面にカーボン膜をスパッタリング法により成膜する本発明の成膜方法は、アモルファスカーボン製ターゲットを用い、成膜対象物に0.2W/cmより大きいバイアス電力を投入して成膜することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、成膜対象物に0.2W/cmより大きいバイアス電力を投入することで、カーボン膜の表面のラフネスを整えることができる。ここで、成膜対象物表面に金属層が露出していると、ターゲットからのスパッタ面から飛散したスパッタ粒子やスパッタガスのイオンが金属層表面に衝突し、金属層表面から金属粒子が飛散する。金属層を構成する金属が原子量90以上の比較的重い金属である場合、金属層から飛散した金属粒子は成膜対象物表面に対して垂直方向に飛散する割合が高く、ターゲットのスパッタ面に到達する金属粒子の量が多くなる。本発明では、スパッタ面のラフネスが小さいアモルファスカーボン製ターゲットを用いるため、スパッタ面に金属粒子が付着し難く、スパッタ面と金属粒子との反応を抑制することができる。従って、複数枚の成膜対象物に対してカーボン膜を連続成膜する場合でも、カソード電圧の上昇を抑制することができると共に成膜レートの低下を抑制することができる。
【0009】
本発明において、前記アモルファスカーボン製ターゲットとして、スパッタ面のラフネスが0.5μmRa以下であるものを用いることが好ましい。スパッタ面のラフネスが0.5μmRaよりも大きいと、スパッタ面に金属粒子が付着し易くなる場合がある。
【0010】
本発明は、前記金属層を構成する金属が、Ta、Pt、W、Ru、Nb及びMoの中から選択される場合に適用することが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の成膜方法を実施するスパッタリング装置を示す模式的断面図。
図2】本発明の実施形態の成膜方法を説明する断面図。
図3】本発明の効果を確認する実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、SMは、本実施形態の成膜方法を実施するスパッタリング装置である。スパッタリング装置SMは、処理室1aを画成する真空チャンバ1を備える。以下においては、真空チャンバ1の天井部側を「上」、その底部側を「下」として説明する。
【0013】
真空チャンバ1の底部には、排気管10を介してターボ分子ポンプやロータリーポンプなどからなる真空ポンプPが接続され、処理室1a内を所定圧力(例えば10−5Pa)まで真空引きできるようにしている。真空チャンバ1の側壁には、図示省略のガス源に連通し、マスフローコントローラ11が介設されたガス管12が接続され、Arなどの希ガスからなるスパッタガスを処理室1a内に所定流量で導入できるようになっている。
【0014】
真空チャンバ1の底部には、ステージ2が配置され、ステージ2には図示省略する静電チャックが設けられ、成膜対象物Wがその金属層(成膜面)を上側にして位置決め保持されるようにしている。また、ステージ2にはバイアス電源E2としての公知の構造を有する交流電源からの出力が接続され、成膜するカーボン膜の表面のラフネスを整えるため、スパッタリング中、成膜対象物Wにバイアス電力として0.2W/cmより大きい交流電力(例えば、0.4W/cm)を投入できるようになっている。尚、バイアス電力の上限は、ターゲット31の冷却能力に応じて適宜設定することができ、例えば、0.7W/cmに設定することができる。
【0015】
真空チャンバ1の天井部には、ターゲットアッセンブリ3が設けられている。ターゲットアッセンブリ3は、成膜しようとする薄膜(カーボン膜)の組成に応じて適宜選択されるアモルファスカーボン製ターゲット31と、ターゲット31のスパッタ面31aと背向する面(上面)に図示省略のインジウムやスズ等のボンディング材を介して接合される例えばCu製のバッキングプレート32とを備える。バッキングプレート32には図示省略の冷媒用通路が形成され、この冷媒用通路に冷媒を循環させることで、ターゲット31を冷却出来るようになっている。ターゲット31には、スパッタ電源E1としての公知の構造を有するパルス直流電源からの出力が接続され、スパッタリング中、所定のパルス直流電力(例えば、80kHz〜400kHz、1〜10kW)が投入される。アモルファスカーボン製ターゲット31としては、そのスパッタ面31aのラフネスが0.5μmRa以下であるものを用いることができる。
【0016】
バッキングプレート32の上方には、ターゲット31のスパッタ面31aの下方空間に磁場を発生させる公知構造を有する磁石ユニット4が配置され、ターゲット31からのスパッタ粒子を効率よくイオン化できるようにしている。
【0017】
処理室1a内には、筒状の防着板5u,5dが上下に配置され、真空チャンバ1の内壁面にスパッタ粒子が付着することを防止している。下側の防着板5dには、図示省略のシール手段を介して真空チャンバ1の底板を貫通する駆動手段50の駆動軸51が接続されている。駆動軸51を駆動することで、防着板5dを、図中仮想線で示す成膜位置と、実線で示す搬送位置との間で上下動させることができる。上記スパッタリング装置SMは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた図示省略する公知の制御手段を有し、マスフローコントローラ12の稼働、真空排気手段Pの稼働、スパッタ電源E1及びバイアス電源E2の稼働等を統括制御することで、成膜対象物W表面にカーボン膜を成膜することができる。以下、図2も参照して、本発明の実施形態の成膜方法について、成膜対象物Wをシリコン基板Sの表面に原子量が90以上の金属で構成される金属層Mを有するものとし、この金属層Mの表面にカーボン膜Cをスパッタリング法により成膜する場合を例に説明する。尚、金属層Mを構成する金属は、不揮発性半導体記憶装置への要求能に応じて、Ta、Pt、W、Ru、Nb及びMoの中から適宜選択される。
【0018】
先ず、防着板5dを搬送位置に下降させた状態で図示省略する搬送ロボットによりステージ2上に成膜対象物Wを搬送し、成膜対象物Wをその金属層を上側にして位置決め保持し、防着板5dを成膜位置に上昇させる。そして、処理室1a内の圧力が所定の圧力(例えば、1×10−5Pa)に達すると、マスフローコントローラ12を制御してアルゴンガスを所定流量で導入し(このとき、処理室1aの圧力が0.01〜30Paの範囲となる)、スパッタ電源E1からターゲット31にパルス直流電力を例えば80kHzで1kW〜10kW投入し、真空チャンバ1内にプラズマを形成する。このとき、成膜するカーボン膜Cの表面ラフネスを整えるために、バイアス電源E2からステージ2にバイアス電力として0.2W/cmより大きい交流電力を投入する。これにより、ターゲット31のスパッタ面31aがスパッタリングされて飛散したスパッタ粒子が成膜対象物Wの表面に付着、堆積することにより、金属層Mの表面にカーボン膜Cが成膜される。
【0019】
ここで、成膜開始時に露出している金属層Mにスパッタ粒子やアルゴンイオンが衝突すると、金属層Mから金属粒子が飛散する。金属層Mを構成する金属が原子量90以上の比較的重い金属である場合、金属層Mから飛散した金属粒子は成膜対象物Wの表面に対して垂直方向に飛散する割合が高く、ターゲット31のスパッタ面31aに到達する金属粒子の量が多くなる。本発明では、スパッタ面31aのラフネスが小さいアモルファスカーボン製ターゲット31を用いるため、スパッタ面31aに金属粒子が付着し難く、スパッタ面31aと金属粒子との反応を抑制することができる。
【0020】
カーボン膜Cを所定時間成膜した後、スパッタガスの導入及び電力投入を停止し、防着板5dを搬送位置に下降させて、成膜済みの成膜対象物Wを搬出すると共に、成膜前の成膜対象物Wを搬入し、以上の処理を繰り返す。
【0021】
以上説明したように、本実施形態によれば、金属層Mから飛散した金属粒子がターゲット31のスパッタ面31aに付着して反応することを抑制することができる。このため、複数枚の成膜対象物Wに対してカーボン膜Cを連続成膜する場合でも、カソード電圧の上昇を抑制することができると共に、成膜レートの低下を抑制することができる。しかも、成膜中、成膜対象物Wに比較的高いバイアス電力を投入しているため、カーボン膜Cの表面のラフネスを所望の範囲内に整えることができる。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態では、バイアス電力を0.4W/cmに設定する場合を例に説明したが、0.2W/cmよりも大きいバイアス電力を設定すれば、カーボン膜Cの表面ラフネスを整えることができる。
【0023】
次に、上記効果を確認するために、上記スパッタリング装置SMを用いて次の実験を行った。本実験では、成膜対象物Wとしてφ300mmのSi基板Sの表面に金属層MたるTa膜が30nmの厚さで成膜されたものを用い、スパッタ面31aのラフネス(平均値)が0.4μmRaであるφ400mmのアモルファスカーボン製のターゲット31が組み付けられた真空チャンバ1内のステージ2に成膜対象物Wをセットした後、Ta膜Mの表面にカーボン膜Cを成膜した。成膜条件は、アルゴンガス流量:100sccm(処理室1a内の圧力:0.2Pa)、ターゲット31への投入電力:80kHz、2kW、バイアス電力:0.4W/cm、ターゲット31と成膜対象物Wとの間の距離(TS間距離):190mm、成膜時間:30secとした。このようなカーボン膜Cの成膜を5枚の成膜対象物Wに対して連続で行い、1枚目〜5枚目のカソード電圧及び成膜レートを測定した結果を図3に示す。これによれば、カソード電圧(平均値)は約514Vで安定しており、成膜レートも約15Å/minで安定していることが確認された。また、成膜されたカーボン膜Cの表面ラフネスを所望の範囲に整えることができることが確認された。
【0024】
また、バイアス電力を0.267W/cm,0.533W/cmに変化させる点以外は、上記実験の成膜条件で成膜し、それぞれの場合についてカソード電圧及び成膜レートを測定したところ、上記実験と同様の結果が得られた。さらに、バイアス電力を0.2W/cmに変化させて成膜したところ、カーボン膜Cの表面ラフネスが大きくなることが確認された。これより、カーボン膜Cの表面ラフネスを整えるためには、バイアス電力を0.2W/cmよりも大きく設定する必要があることが判った。
【0025】
また、金属層MとしてTa膜に代えて、Pt膜、W膜、Ru膜、Nb膜、Mo膜が成膜された成膜対象物Wを用いる点以外は、上記実験の成膜条件で成膜し、それぞれの場合についてカソード電圧及び成膜レートを測定したところ、上記実験と同様の結果が得られた。これより、原子量90以上の金属の場合、金属層Mにスパッタ粒子やアルゴンイオンが衝突した際、成膜対象物W表面から垂直方向に飛散する割合が大きく、ターゲット31のスパッタ面31aに到達する量が多くなると考えられるが、本発明を適用することでスパッタ面31aと金属粒子との反応を抑制できることが判った。
【0026】
上記実験に対する比較のため、以下の比較実験を行った。比較実験では、上記アモルファスカーボン製のターゲットに代えて、スパッタ面のラフネス(平均値)が0.97μmRaであるパイロカーボン製のターゲットを用いる点以外は、上記実験の成膜条件で成膜し、上記実験と同様に成膜時のカソード電圧及び成膜レートを測定し、その測定結果を比較例として図3に併せて示す。これによれば、2枚目以降にカソード電圧が上昇し、3枚目以降に成膜レートが低下することが確認された。
【符号の説明】
【0027】
W…成膜対象物、M…Ta層(金属層)、C…カーボン膜、31…アモルファスカーボン製ターゲット、31a…スパッタ面。
図1
図2
図3