(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドから構成され、前記NV中心は、各々配向軸が互いに異なる第1NV中心、第2NV中心、第3NV中心、および第4NV中心を含み、前記第1NV中心の配向軸と前記第4NV中心の配向軸とは、x軸を中心に180°回転した関係にあり、前記第2NV中心の配向軸と前記第3NV中心の配向軸とは、前記x軸を中心に180°回転した関係にあり、前記NV中心における電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させることが可能とされた検出素子と、
前記検出素子の全ての前記NV中心における電子スピンを基底状態に偏極させる電子スピン状態制御部と、
前記第1NV中心,前記第2NV中心,前記第3NV中心,および前記第4NV中心の全ての配向軸をそれぞれ前記x軸に直交するy軸を中心にπ/2回転させるように、前記第1NV中心の共振周波数の第1マイクロ波、前記第2NV中心の共振周波数の第2マイクロ波、前記第3NV中心の共振周波数の第3マイクロ波、および前記第4NV中心の共振周波数の第4マイクロ波を前記検出素子に照射する第1マイクロ波印加部と、
前記第1NV中心および前記第4NV中心の配向軸と、前記第2NV中心および前記第3NV中心の配向軸とを、前記x軸の周りに互いに異なる角度で回転させるように、第1マイクロ波および第4マイクロ波は第1の強度とし、第2マイクロ波および第3マイクロ波は前記第1の強度とは異なる第2の強度として前記検出素子に照射する第2マイクロ波印加部と、
前記検出素子にレーザー光を照射するレーザー光源と、
前記レーザー光源によりレーザー光が照射された前記検出素子の前記NV中心の電子スピンの状態を検出する電子スピン状態検出部と
を備えることを特徴とする磁場検出装置。
ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドから構成され、前記NV中心は、各々配向軸が互いに異なる第1NV中心、第2NV中心、第3NV中心、および第4NV中心を備え、前記第1NV中心の配向軸と前記第4NV中心の配向軸とは、x軸を中心に180°回転した関係にあり、前記第2NV中心の配向軸と前記第3NV中心の配向軸とは、前記x軸を中心に180°回転した関係にある検出素子の全てのNV中心における電子スピン|0〉に偏極させる電子スピン状態制御ステップと、
前記全てのNV中心における電子スピンを|0〉に偏極した後、前記第1NV中心の共振周波数の第1マイクロ波、前記第2NV中心の共振周波数の第2マイクロ波、前記第3NV中心の共振周波数の第3マイクロ波、および前記第4NV中心の共振周波数の第4マイクロ波を前記検出素子に照射し、前記第1NV中心,前記第2NV中心,前記第3NV中心,および前記第4NV中心の全ての配向軸をそれぞれ前記x軸に直交するy軸を中心にπ/2回転させる第1配向制御ステップと、
前記第1配向制御ステップの後で、前記第1NV中心,前記第2NV中心,前記第3NV中心,前記第4NV中心の各々の電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させる相互作用ステップと、
前記相互作用ステップの後で、第1マイクロ波および第4マイクロ波は第1の強度とし、第2マイクロ波および第3マイクロ波は前記第1の強度とは異なる第2の強度として前記検出素子に照射し、前記第1NV中心および前記第4NV中心の配向軸と、前記第2NV中心および前記第3NV中心の配向軸とを、前記x軸の周りに互いに異なる角度で回転させる第2配向制御ステップと、
前記第2配向制御ステップの後で、前記検出素子にレーザー光を照射することで前記第1NV中心,前記第2NV中心,前記第3NV中心,前記第4NV中心の各電子スピンの状態を検出する電子スピン状態検出ステップと
を備えることを特徴とする磁場検出方法。
【背景技術】
【0002】
生物学やナノテクノロジーなどの分野では、ナノメートル程度の空間分解能で微弱な磁場を検出できる検出装置(検出器)の実現が望まれている。このような高性能磁場検出のひとつとして、単一NV中心を含んだダイヤモンドを用いる技術が存在する。NV中心は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素(Nitrogen)と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔(Vacancy)との対からなる複合不純物欠陥である。
【0003】
NV中心はスピン1であるが、磁場を印加すると、実効的に二準位系として扱えることが知られている。NV中心の配向軸は、
図3の(a),(b),(c),(d)に示すように、4つの異なる方向をとりえる。空孔Vから窒素Nに向かう方向がNV中心の配向軸である。各々直交するxyz軸による座標上で、NV中心配向軸は、(1,−1,−1)、(−1,1,−1)、(−1,−1,1)、(1,1,1)のいずれかに沿うことが知られている。磁場の検出対象(ターゲット磁場)の配向軸成分をBとすると、NV中心の共振周波数がg
μBBだけシフトする。なお、gはg因子、μBはボーア磁子である。この周波数シフトが、量子状態の歳差運動を起こす。
【0004】
従来技術では、マイクロ波を用いてNV中心の重ね合わせ状態を生成し、ターゲット磁場のもとでラーモア歳差運動をさせ、レーザー光を用いてスピン状態を読み出すことで、磁場の強度を求めていた(非特許文献1参照)。
【0005】
ダイヤモンド中の多くのNV中心は、配向軸の方向はNV中心ごとにランダムに決定される。予め、ターゲット磁場の他に磁場を印加すると、上述した4種類のNV中心の共振周波数を異なるものにすることができる。従来技術では、4種類のNV中心のうち、1種類だけを用いて磁場の検出を行うことが多かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した磁場検出では、後述するように、検出に用いない3種類のNV中心からの余分なノイズが生じてしまうため、高感度な磁場検出が難しかった。
【0008】
近年になって、形成されているNV中心の配向軸の方向がひとつにそろっているようなダイヤモンドが作製されるようになった。これを用いることで、ダイヤモンド中の全てのNV中心を用いて磁場検出をすることが可能になった。
【0009】
しかしながら、NV中心を用いた磁場検出では、高い精度で読み出せるのは、ターゲット磁場の配向軸成分のみである。このため、NV中心の配向軸がそろったダイヤモンドを用いると、感度が、ターゲットの磁場の方向に強く依存してしまう。ダイヤモンド自体を力学的に回転させることで、原理的には全ての方向での高感度センサが実現できるが、この場合はレーザーなど光学系の調整をやり直す必要があるので、現実的ではない。
【0010】
上述したように、従来では、NV中心を用いた任意の方向に対する高感度な磁場検出が、容易に実施できないという問題があった。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、NV中心を用いた任意の方向に対する高感度な磁場検出が、容易に実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る磁場検出装置は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドから構成され、NV中心は、各々配向軸が互いに異なる第1NV中心、第2NV中心、第3NV中心、および第4NV中心を含み、第1NV中心の配向軸と第4NV中心の配向軸とは、x軸を中心に180°回転した関係にあり、第2NV中心の配向軸と第3NV中心の配向軸とは、x軸を中心に180°回転した関係にあり、NV中心における電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させることが可能とされた検出素子と、検出素子の全てのNV中心における電子スピンを基底状態に偏極させる電子スピン状態制御部と、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,および第4NV中心の全ての配向軸をそれぞれx軸に直交するy軸を中心にπ/2回転させるように、第1NV中心の共振周波数の第1マイクロ波、第2NV中心の共振周波数の第2マイクロ波、第3NV中心の共振周波数の第3マイクロ波、および第4NV中心の共振周波数の第4マイクロ波を検出素子に照射する第1マイクロ波印加部と、第1NV中心および第4NV中心の配向軸と、第2NV中心および第3NV中心の配向軸とを、x軸の周りに互いに異なる角度で回転させるように、第1マイクロ波および第4マイクロ波は第1の強度とし、第2マイクロ波および第3マイクロ波は第1の強度とは異なる第2の強度として検出素子に照射する第2マイクロ波印加部と、検出素子にレーザー光を照射するレーザー光源と、レーザー光源によりレーザー光が照射された検出素子のNV中心の電子スピンの状態を検出する電子スピン状態検出部とを備える。
【0013】
上記磁場検出装置において、電子スピン状態制御部は、レーザー光源により検出素子にレーザー光を照射して検出素子の電子スピンを|0〉に偏極させ、電子スピン状態検出部は、レーザー光源により検出素子にレーザー光を照射した検出素子から放出される光子を検出する光子検出部である。
【0014】
本発明に係る磁場検出方法は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドから構成され、NV中心は、各々配向軸が互いに異なる第1NV中心、第2NV中心、第3NV中心、および第4NV中心を備え、第1NV中心の配向軸と第4NV中心の配向軸とは、x軸を中心に180°回転した関係にあり、第2NV中心の配向軸と第3NV中心の配向軸とは、x軸を中心に180°回転した関係にある検出素子の全てのNV中心における電子スピン|0〉に偏極させる電子スピン状態制御ステップと、全てのNV中心における電子スピンを|0〉に偏極した後、第1NV中心の共振周波数の第1マイクロ波、第2NV中心の共振周波数の第2マイクロ波、第3NV中心の共振周波数の第3マイクロ波、および第4NV中心の共振周波数の第4マイクロ波を検出素子に照射し、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,および第4NV中心の全ての配向軸をそれぞれx軸に直交するy軸を中心にπ/2回転させる第1配向制御ステップと、第1配向制御ステップの後で、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の各々の電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させる相互作用ステップと、相互作用ステップの後で、第1マイクロ波および第4マイクロ波は第1の強度とし、第2マイクロ波および第3マイクロ波は第1の強度とは異なる第2の強度として検出素子に照射し、第1NV中心および第4NV中心の配向軸と、第2NV中心および第3NV中心の配向軸とを、x軸の周りに互いに異なる角度で回転させる第2配向制御ステップと、第2配向制御ステップの後で、検出素子にレーザー光を照射することで第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の各電子スピンの状態を検出する電子スピン状態検出ステップとを備える。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、検出対象の磁場に相互作用させた後、配向軸が異なるNV中心のなかで、互いに配向軸がx軸を中心に180°回転した関係にあるNV中心毎に、x軸の周りに異なる角度に回転させるようにしたので、NV中心を用いた任意の方向に対する高感度な磁場検出が、容易に実施できるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る磁場検出装置ついて
図1を参照して説明する。この磁場検出装置は、検出素子101、電子スピン状態制御部102、第1マイクロ波制御部103、第2マイクロ波制御部104、光源(レーザー光源)112、光子検出部(電子スピン状態検出部)105を備える。
【0018】
検出素子101は、ダイヤモンドから構成され、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心121を有する。NV中心121は、各々配向軸が互いに異なる第1NV中心、第2NV中心、第3NV中心、および第4NV中心が存在している。ここで、第1NV中心の配向軸と第4NV中心の配向軸とは、x軸を中心に180°回転した関係にある。また、第2NV中心の配向軸と第3NV中心の配向軸とは、x軸を中心に180°回転した関係にある。検出素子101は、NV中心121における電子スピンを、測定対象113の磁場に相互作用させることが可能とされている。
【0019】
検出素子101は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)のプローブ110の先端に取り付けて用いればよい。また、走査型トンネル顕微鏡(STM)および走査型近接場光顕微鏡(SNOM)などの走査型プローブ顕微鏡のプローブ先端に取り付けて用いてもよい。
【0020】
電子スピン状態制御部102は、検出素子101のNV中心における電子スピンを|0〉(基底状態)に偏極させる。例えば、電子スピン状態制御部102は、光源112を制御して検出素子101にレーザー光を照射し、光学的遷移を利用して電子スピンを|0〉の状態に偏極させる。電子スピン状態制御部102は、第1NV中心、第2NV中心、第3NV中心、および第4NV中心の全てにおいて、電子スピンを基底状態に偏極させる。
【0021】
第1マイクロ波制御部103は、マイクロ波照射部111を制御し、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,および第4NV中心の全ての配向軸をそれぞれx軸に直交するy軸を中心にπ/2回転させるように、マイクロ波を検出素子に照射する(第1マイクロ波印加部)。ここで、第1マイクロ波制御部103は、マイクロ波照射部111を制御し、第1NV中心の共振周波数の第1マイクロ波、第2NV中心の共振周波数の第2マイクロ波、第3NV中心の共振周波数の第3マイクロ波、および第4NV中心の共振周波数の第4マイクロ波を検出素子101に照射する。
【0022】
第2マイクロ波制御部104は、マイクロ波照射部111を制御してマイクロ波を検出素子101に照射し、第1NV中心および第4NV中心の配向軸と、第2NV中心および第3NV中心の配向軸とを、x軸の周りに互いに異なる角度で回転させる(第2マイクロ波印加部)。これらの状態とするために、第2マイクロ波制御部104は、マイクロ波照射部111を制御し、第1マイクロ波および第4マイクロ波は第1の強度とし、第2マイクロ波および第3マイクロ波は第1の強度とは異なる第2の強度として検出素子101に照射する。
【0023】
光子検出部105は、光源112によりレーザー光が照射された検出素子101のNV中心の電子スピンの状態を検出する。光子検出部105は、光源112によりレーザー光を照射された検出素子101から放出される光子を検出する。
【0024】
次に、本発明の実施の形態における磁場検出方法について、
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0025】
まず、ステップS201で、電子スピン状態制御部102により、検出素子101における全てのNV中心における電子スピン|0〉に偏極させる(電子スピン状態制御ステップ)。実施の形態では、ステップS201で、検出素子101における第1NV中心、第2NV中心、第3NV中心、および第4NV中心の全てにおいて、電子スピンを基底状態に偏極させる。
【0026】
上述したように全てのNV中心における電子スピンを|0〉に偏極した後、ステップS201で、第1NV中心の共振周波数の第1マイクロ波、第2NV中心の共振周波数の第2マイクロ波、第3NV中心の共振周波数の第3マイクロ波、および第4NV中心の共振周波数の第4マイクロ波を検出素子101に照射する。第1マイクロ波制御部103が、マイクロ波照射部111を制御し、上述した各マイクロ波を検出素子101に同時に照射する。この照射により、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の全ての配向軸を、x軸に直交するy軸を中心にπ/2回転させる(第1配向制御ステップ)。
【0027】
次に、ステップS203で、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の各々の電子スピンを測定対象113の磁場に相互作用させる(相互作用ステップ)。例えば、プローブ110を動作させて検出素子101を移動させ、測定対象113からの磁場(ターゲット磁場)が検出可能な位置に検出素子101を配置すればよい。この相互作用は、所定の時間継続させる。
【0028】
次に、ステップS204で、第1マイクロ波および第4マイクロ波は第1の強度とし、第2マイクロ波および第3マイクロ波は第1の強度とは異なる第2の強度として検出素子101に照射する。第2マイクロ波制御部104が、マイクロ波照射部111を制御し、上述した条件とした各マイクロ波を検出素子101に同時に照射する。これにより、第1NV中心および第4NV中心の配向軸と、第2NV中心および第3NV中心の配向軸とを、x軸の周りに互いに異なる角度で回転させる(第2配向制御ステップ)。
【0029】
次に、ステップS205で、検出素子101にレーザー光を照射することで第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の各電子スピンの状態を検出する(電子スピン状態検出ステップ)。電子スピン状態制御部102の制御により光源112からのレーザー光を検出素子101に照射し、この結果、検出素子101から放出される光子を光子検出部105で検出することで、NV中心における電子スピンの状態を検出する。この後、ステップS206で、検出された電子スピンの状態が|0〉となる確率を求め、ステップS207で、測定対象113における磁場の強度を算出する。
【0030】
以下、本発明について、より詳細に説明する。はじめに、従来用いられているNV中心を用いた磁場の検出について説明する。NV中心は、周波数選択則を用いることで実効的に二準位系として扱えるため、ハミルトニアンH
kは以下のように書き表せる。
【0032】
なお、Bは、ターゲット磁場の配向軸成分を示すベクトル、gはg因子、μBはボーア磁子である。また、d
kは、NV中心の配向軸を示すベクトルであり、kの値に応じて以下に示す式により定義される。
【0034】
説明を簡単にするため、4つのNV中心を用いて磁場検出装置を構成する場合を考え、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の配向軸は、各々、d
1、d
2、d
3、d
4で特徴づけられるものとする。ターゲット磁場の他に、値が既知である磁場をあらかじめ印加しておくことで、各配向軸によって、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心に異なる共振周波数を持たせることができる。このため、周波数選択則により、異なる配向軸を持つ第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心は独立に操作することが可能である。
【0035】
d
kで特徴づけられる配向軸を持つNV中心は、マイクロ波の印加がない場合、以下の式で記述されるマスター方程式に従って時間発展(ターゲット磁場との相互作用)を行う。
【0037】
この系で、グリーンレーザーを用いて初期化を行い、全てのNV中心を状態|0〉にする。次いで、d
kで特徴づけられる配向軸を持つ第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心に、各々の共振周波数のマイクロ波を照射してy軸周りにπ/2回転を行うことで、以下の状態とする。
【0039】
式(7)で示される状態から、マスター方程式に従い時間tだけ、ターゲット磁場に相互作用させて時間発展させた後、マイクロ波を照射してx軸周りにπ/2回転を行うと、d
kで特徴づけられる配向軸を持つ各NV中心の密度行列の対角成分は、以下のように表される(ただし、d
k以外の配向軸を持つNV中心は|0〉の状態のままである)。なお、ターゲット磁場に相互作用させた状態では、NV中心の配向軸がxy平面(座標)上で回転しており、この状態を検出することができない。このため、x軸周りに所定の角度回転させて回転面をz軸方向に移動させ、状態が検出できるようにする。
【0041】
ここで、ω
k=g
μbB・d
kと定義する。
【0042】
以上の操作の後で、グリーンレーザーの照射により全てのNV中心の状態を光に転写すると、以下に記述される光子の状態が得られる。
【0044】
α
j(j=0,1)はNV中心が|j〉の状態にあるときに光子を放出する確率を表し、|j〉
phは光子のフォック状態を表す。また、実験では多くの光子が環境に吸収されるため、α
j≪1の条件を仮定する。
【0046】
ここでは、ターゲット磁場の配向軸成分Bが微弱であることを仮定している。上述した式で記述される実験を、k=1とk=4とに関して行い、以下の期待値を得る。得られた期待値から、ターゲット磁場の強度を算出する。
【0048】
従って、B
xの推定値の誤差は、以下の式により計算されるものとなる。
【0050】
B
yとB
zに関しても、kの選びかたを変えることで、上述した操作と同様の計算を行うことができる。
【0051】
以上に説明したように、従来では、ある1つの配向軸を持つNV中心のみをマイクロ波で制御するため、これ以外の3つの配向軸を持つNV中心(磁場の強度に関わらず状態は|0〉のままである)からの発光がノイズとなり、感度が悪化することが問題であった。
【0052】
本発明では、4つの異なる周波数のマイクロ波を同時に印加することで、第1NV中心、第2NV中心、第3NV中心、および第4NV中心の全てを同時に制御し、磁場推定の誤差を抑えることを特徴とする。具体的には、まず、光源112からのグリーンレーザーによる初期化を実施する(電子スピン状態制御ステップ)。次に、第1マイクロ波制御部103による4つの異なる周波数のマイクロ波の同時印加によりy軸周りにπ/2回転を行う(第1配向制御ステップ)。次に、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の各々の電子スピンをターゲット磁場に相互作用させ、時間tだけマスター方程式に従う時間発展を行う(相互作用ステップ)。
【0053】
次に、第2マイクロ波制御部104により、第1マイクロ波および第4マイクロ波は第1の強度とし、第2マイクロ波および第3マイクロ波は前記第1の強度とは異なる第2の強度として照射することで、第1NV中心および第4NV中心はx軸周りにπ/2回転させ、第2NV中心,第3NV中心は、x軸周りに3π/2回転を行う。
【0054】
これらのことにより、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の状態が、ターゲット磁場の依存性を持つようになり、レーザー光の照射により検出素子101から放出される光子の総量が、微弱な磁場に対しても大きく変化するようになる。この結果、本発明によれば、従来に比較して感度を約4倍にすることができる。
【0055】
以下、本発明の実施の形態について、より詳細に説明する。
【0056】
[電子スピン状態制御ステップ]
前述と同じ系を用いてグリーンレーザーによる初期化を行い、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心を状態|j〉にする(初期化)。
【0057】
[第1配向制御ステップ]
次に、第1NV中心,第2NV中心,第3NV中心,第4NV中心の各々に、共振周波数の第1マイクロ波,第2マイクロ波,第3マイクロ波,第4マイクロ波を照射し、全ての配向軸を前記x軸に直交するy軸を中心にπ/2回転させ、以下の式(19)で示す状態とする。
【0059】
[相互作用ステップ]
上述した状態から、マスター方程式に従い時間tだけターゲット磁場に相互作用させて時間発展させる。
【0060】
[第2配向制御ステップ]
次に、d
1およびd
4で特徴づけられる配向軸を持つ第1NV中心および第4NV中心は、第1マイクロ波および第4マイクロ波を第1の強度として照射し、例えばx軸周りに3π/2回転させる。一方、d
2およびd
3で特徴づけられる配向軸を持つ第2NV中心および第3NV中心は、第2マイクロ波および第3マイクロ波を第2の強度として照射してx軸周りにπ/2回転させる。
【0061】
上述したように、第1NV中心,第4NV中心と、第2NV中心,第3NV中心とで異なる操作をすると、各NV中心の密度行列の対角成分は、以下に示すように表される。まず、第2マイクロ波および第3マイクロ波の密度行列の対角成分は、式(21)および式(22)で表される。また、第1マイクロ波および第4マイクロ波の密度行列の対角成分は、式(22)および式(23)で表される。
【0063】
[電子スピン状態検出ステップ]
上述した操作の後、電子スピン状態制御部102の制御により光源112からのレーザー光を検出素子101に照射し、この結果、検出素子101から放出される光子を光子検出部105で検出すると、以下に記述される光子の状態が得られる。
【0065】
従って、検出素子101より放出される光子の総量の期待値は、以下に示すものとなる。
【0067】
従って、実施の形態によれば、ターゲット磁場の推定値の誤差は、以下の式(28)で計算されるものとなる。
【0069】
従来の技術では、式(18)に示したように、ターゲット磁場の推定値は、以下の式(29)となる。
【0071】
α
0≒α
1であることから、実施の形態によれば、従来に比較して推定値の誤差を1/4にできることが分かる。同様にして印加するマイクロ波を代えることで、δB
yおよびδB
zも推定することができる。
【0072】
ところで、上述した実施の形態では、α
0、α
1、γが全てのNV中心で等しいことを仮定していた。実際の実験では、NV中心の持つ配向軸の種類によって、α
0、α
1、γの値が、各々わずかに変わりうる。このような場合は、相互作用させる(時間発展させる)時間tを、配向軸の種類によって変えることで、上述した実施の形態と同様に、ベクトル磁場の検出が可能であることを示す。
【0073】
具体的には、上述した実施の形態と同様であるが、d
kで特徴づけられるNV中心に関してはt
kだけ時間発展させる点だけ変更する。第1NV中心と第2NV中心と第3NV中心と第4NV中心とで、各々相互作用させる時間を変更する。
【0074】
これにより、読み出しのグリーンレーザーの照射により、全てのNV中心の状態を光に転写すると、以下に記述される光子の状態が得られる。
【0076】
以上のことより、各々相互作用させる時間を変更して本発明の磁場検出方法を実施すると、検出素子101より放出される光子の総量の期待値は、以下の式(33)で示されるものとなる。
【0078】
また、一般性を失うことなく、以下の条件が全てのkに対して成立することが仮定できる。
【0080】
以上に示した場合、B
xの推定誤差は、以下の式(40) で示されるものとなる。
【0082】
t
max=Mαx{t
1,t
2,t
3,t
4}であるので、上述した方法においてもやはり、従来と比較して約4倍の感度の向上が可能である。
【0083】
以上に説明したように、本発明によれば、検出対象の磁場に相互作用させた後、配向軸が異なるNV中心のなかで、互いに配向軸がx軸を中心に180°回転した関係にあるNV中心毎に、x軸の周りに異なる角度に回転させるようにしたので、NV中心を用いた任意の方向に対する高感度な磁場検出が、容易に実施できるようになる。
【0084】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。