(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1開口部を通じて前記内部空間と前記外部とが気体伝搬音を伝達できるように接続される構造で、前記第1開口部を通じて流入する音に対して共鳴現象を生じる構造である請求項1〜6のいずれか1項に記載の防音構造。
前記移動機構は、レール、及び前記隣接する2つの防音ユニットの少なくとも一方の防音ユニットを載置して、前記レール上を走行する車輪を備えるレール走行機構である請求項12に記載の防音構造。
前記移動機構は、ボールねじ、及び前記隣接する2つの防音ユニットの少なくとも一方の防音ユニットが取り付けられ、前記ボールねじに螺合するナットを備えるねじ移動機構、又は前記隣接する2つの防音ユニットの少なくとも一方の防音ユニットが取り付けられたラック、及び該ラックと噛合するラックアンドピニオン機構である請求項12に記載の防音構造。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る防音構造、及び防音システムを添付の図面に示す好適実施形態を参照して詳細に説明する。
本発明の防音構造は、内部に中空の内部空間を持ち、一方の端部となる面には外部に開放された開口部を備える筒形状の外殻を有する防音ユニットの開口部同士を20mm未満に近接させて配置することで、共鳴周波数が低周波側にシフトし、同一体積で低周波側の音を防音できることを特徴とする。
本発明によれば、簡単な構成によって低周波側の音を防音する(即ち、低周波数の音を選択的に強く遮蔽する)ことができ、かつ小型軽量であるとともに、その周波数特性を容易に変化させることができる。
また、本発明によれば、外部の騒音環境に応じて防音の中心周波数を簡単に調整することができる。
【0019】
気柱共鳴は、音響の分野では従来より良く知られた共鳴現象であり、片側開放、片側閉塞筒状構造体(例えば、片側閉管の筒状構造(例えば、気柱共鳴管)や、断面四角形の四角柱管の5面が閉じられ、1面だけが開放された筒状構造)において、筒(管)に長さに対して開口端補正を行った長さが波長の1/4(波長/4)の長さに一致するときに共鳴を起こす現象である。この時、気柱共鳴管では、管内で強い共鳴が生じることにより音の吸収や反射が生じる。気柱共鳴管を用いる構造では、必要なものが筒状構造だけであることにより、構成は、非常に単純で強固にすることも可能である。また、このような構造では、特定の薄膜吸収構造又は微細貫通孔等を持たずに管全体で音を吸収するため、特定の薄い吸音部のみに負荷がかかることがなく、耐久性に関しても強固にすることができる。さらに、特定の薄い吸音構造を持たないために、吸収周波数や吸収率が筒全体の大きさに依存するために、比較的サイズに関するロバスト性が大きいというメリットがある。一方で、防音、又は消音に用いる際の課題としては、筒の長さが1/4波長のオーダになることにより、特に低周波側の消音に用いるためには構造が非常に大きくなってしまうことが挙げられる。(例えば、振動膜型吸音材、及びヘルムホルツ共振型吸音体等を用いる構造においては、それぞれ振動膜、及び貫通孔の位相変化を利用することで、1/4波長より小さいサイズの構造で音の吸収が実現できる。)
【0020】
本発明は、上記の片側閉管の筒状構造を用意し、それらの開口部同士の距離を近接させることで、共鳴周波数が低周波側にシフトし、コンパクトな構造で低周波側の音を防音できるという発明である。
本発明においては、低周波側へシフトする周波数量は、2つの第1開口部間の距離に依存し、距離が小さくなるほど低周波側にシフトする。よって、2つの第1開口部間の距離を調整するだけで、防音周波数を調整可能であるという特徴も有する。したがって、レール等のような距離を調整する機構を防音ユニットの移動機構として組み合わせることで、簡単に防音する周波数を変化させることができる。また、マイクロフォン等で騒音を計測し、解析装置等でその周波数を解析することで、解析結果に応じて2つの防音ユニット間の距離を調整することにより、適切な防音を達成することができる。
このように、本発明は、小型軽量の低周波防音材であるとともに、その周波数特性を容易に変化させることができる新規な防音構造である。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る防音構造の一例を模式的に示す断面図であり、
図2は、
図1に示す防音構造の左側面図であり、
図3は、
図1に示す防音構造のIII−III線矢視図である。
図1、
図2、及び
図3に示す本発明の防音構造10は、2つの防音ユニット12(12a,12b)を有する。
各防音ユニット12(12a,12b)は、
図1〜
図3に示す例では、同一の構成を有し、正方形状の中空の内部空間13(13a,13b)を持ち、一方の端部となる面に設けられ、外部に開放された正方形状の開口部14(14a,14b)を備える正方形の筒形状(例えば、正方形管状)の外殻16(16a,16b)を有し、外殻16(16a,16b)は、その一方の端部となる面の開口部14(14a,14b)に対向する他方の端部となる面に設けられ、内部空間13(13a,13b)と外部の空間とをわける(例えば、内部空間13(13a,13b)と外部の空間とを音響的に分離する、好ましくは気密に遮断する)正方形状の蓋部材18(18a,18b)を備える。
【0022】
図示例の防音構造10においては、2つの防音ユニット12aと12bとは、それぞれの外殻16aの開口部14aと外殻16bの開口部14bとが対向するように外殻16a及び16bの筒形状の軸方向(例えば、中心軸方向)を揃えて近接して配置される。
ここで、近接して配置された2つの防音ユニット12a及び12bの間、具体的には2つの防音ユニット12aと12bの外殻16a及び16bのそれぞれの開口部(開口端)14aと14bとの間には内部空間13a及び13bと連通する直方体形状のスリット20が形成される。
なお、本発明では、2つの防音ユニット12aと12bとが近接しているとは、2つの外殻16a及び16bのそれぞれの一方の端部となる開口部(以下、開口端ともいう)14a及び14b同士が近接していることを言う。即ち、2つの防音ユニット12aと12bとが近接しているとは、2つの外殻16a及び16bのそれぞれの開口部14a及び14b同士の平均距離が、20mm未満となるように近づいているが、離間していることを言う。
【0023】
ところで、本発明では、2つの外殻16a及び16bの開口端同士の距離(例えば、2つの開口部14a及び14b同士の距離)は、2つの開口端(即ち、開口部14a及び14b)との間の距離、又は間隔を言う。したがって、本発明では、2つの開口端14a及び14bは、外殻16a及び16bの筒形状の軸方向(例えば中心軸方向)を揃えて、又は一致させて、開口端14aの開口端面と開口端14bの開口端面との両開口端面同士のそれぞれの位置が軸方向において一致するように対向していることが好ましい。しかしながら、本発明においてはこれに限定されず、2つの外殻16a及び16bの気柱共鳴の共鳴周波数を、両者を近接させることにより低周波側にシフトさせることができれば、2つの開口端14a及び14bは、両開口端面同士が完全に対向していなくも良い。2つの開口端14a及び14bは、例えば後述する
図27に示す防音構造10dのように、一方に対して他方が、並進(平行に位置ずれ)していても良く、回転していても良く、又は
図29に示す防音構造10eのように、位置ずれしていると共に回転していても良い。このような場合には、両開口端面同士の距離は、開口端面同士の平均距離で表わせば良い。
この場合、2つの外殻16aと16bとが、両開口端14a及び14b同士に全く重ね合わせのない状態で対向している場合には、単体の場合と比較して周波数シフトがなくなる。すなわち、並進、及び/又は回転は許容されるが、両開口端面に重なりのある状態で対向していることが必要である。両開口端面に重なりのある状態とは、一方の防音ユニットの開口端から、その開口端面垂線方向に、その開口端部分の射影投影図を、もう一方の防音ユニットの開口端上に示したとき、もう一方の開口端と重なりを有する状態を示す。
【0024】
本発明においては、2つの防音ユニットの両開口端面同士の「距離」を以下のようにして定義する。
まず、
図29に示すように、2つの防音ユニット(12a及び12b)の開口端(14a及び14b)が位置ずれ(並進)していると共に回転している防音構造(10e)においても、2つの防音ユニット(12a及び12b)が相対する配置となるように、一方の防音ユニット(例えば、12b)を点線で示す位置まで並進操作をする。次に、こうした上で、完全に対向する2つの防音ユニット(12a及び12b)の開口端(14a及び14b)の開口端面に関する鏡像面(21)を決定する。ここで、「距離」を、各開口端面から鏡像面21に垂直な線を下ろした時の2つの開口端面からの垂線の長さda及びdbで定義する時、2つの開口端の間の距離(垂線の長さの和da+db)の、開口端面全体における平均値を「2つの防音ユニットの開口端同士の平均距離」と定義する。
なお、
図27に示すように、位置ずれ(並進)している防音構造10dの場合には、一方の防音ユニット(12a、又は12b)を並進操作して2つの防音ユニット(12a及び12b)の開口端面を完全に対向させた上で、上記と同様に定義すれば良いし、単に回転している場合には、並進操作をすることなく、上記と同様に定義すれば良い。
【0025】
本発明は、本発明者らが困難な低周波域での防音について鋭意研究を重ねた結果、従来知られていなかった筒形状の外殻等の気柱共鳴管の開口端同士を近づけることで吸音周波数が低周波シフトすること、即ち、開口端同士の平均距離が20mm未満で、この低周波シフトの効果が起こり、開口端同士の平均距離が小さくなるほど顕著に効果が現れることを知見することによりなされたものである。これらの知見がなされていなかったのは、音響の波長はこの開口端同士の距離であるギャップサイズと比較して極めて大きいためであることと、気柱共鳴管を吸音に用いる場合には、その開口端は主に音に相対して配置されるか、少なくとも特許文献2のように音が通過する面を向いて開口端が配置されること(ダクト内で壁に水平方向に置く構造等)が一般的であり、開口端同士を近づけることによって、開口端面を音が通過する面に対して直接は向かい合わない配置とすることで吸音させる構造は一般的ではなかったために、想到することが容易ではなかったためと考えられる。
これに対し、本発明の防音構造10は、開口部14(14a、及び14b)を通じて内部空間13(13a、及び13b)と外部の空間とが気体伝搬音を伝達できるように接続される構造であることが好ましく、開口部14(14a、及び14b)を通じて流入する音に対して気柱共鳴現象を生じる構造であることが好ましい。
【0026】
本発明においては、
図1に示す、2つの開口端14aと14bとの開口端同士の平均距離Dは、20mm未満に限定する必要がある。その理由は、2つの開口端14a及び14b同士の平均距離Dが20mm以上になると、吸音周波数の低周波シフトの効果が見られなくなるからである。
なお、本発明においては、開口端14a及び14b同士の平均距離Dは、15mm以下であることが望ましく、10mm以下であることがより望ましく、5mm以下であることが更に望ましく、2mm以下であることが最も望ましい。
ところで、本発明の防音構造10においては、2つの防音ユニット12a及び12bの開口部14a及び14bの周辺の枠(角管体)の大きさLsのサイズを大きくして、開口端14a及び14b同士の平均距離Dを近づけると、本発明の気柱共鳴による吸収ピークと、枠(角管体)に挟まれスリットとなった部分での熱音響効果による摩擦熱が生じることによるスリットヘルムホルツ共鳴による吸収ピークとが共に出現させることができる。
なお、以下では、防音構造10の2つの防音ユニット12a及び12b、内部空間13a及び13b、開口部(開口端)14a及び14b、外殻16a及び16b、並びに蓋部材18a及び18b等の構成要素については、同一の構成であって、特に区別を要しない場合には、区別せずに、まとめて、防音ユニット12、内部空間13、開口部(開口端)14、外殻16、並びに蓋部材18等として説明する。
【0027】
図4は、
図1に示す防音構造に用いられる防音ユニットの一例の模式的断面図である。なお、
図4に示す防音ユニットの左側面図は、
図3に示す防音構造の左側面図と同じであり、
図4に示す防音ユニットの右側面図は、
図2に示す防音構造のIII−III線矢視図と同じであるので、図示は省略する。
図4に示すように、防音ユニット12は、内部に中空の内部空間13を持つ外殻16を有するものである。また、外殻16は、筒形状の枠、例えば
図2〜
図4では4つの側面板状部材17aからなる断面正方形の角管体17と、筒形状の枠である角管体17の軸方向の一方の端部の面が外部の空間に開放され、外殻16の内部空間13と外部の空間の境界となる開口部14と、外殻16の筒形状の角管体(枠)17の軸方向の他方の端部の面に設けられ、外殻16の内部空間13と外部の空間とを遮断し、角管体(枠)17の他方の端部を閉塞する蓋部材18と、を備える。
【0028】
本発明において用いられる防音ユニット12は、外殻16の角管体(枠)17、開口部14、及び蓋部材18によって形成される片側の閉管の共鳴、いわゆる気柱共鳴によって音の吸収、及び/又は反射を起こすためのものである。しかしながら、外殻16は、気柱共鳴が生じる片側が閉じた枠構造、例えば角管体構造であり、管全体で音の定在波が形成されて管全体で音波が吸収されるという特徴を有する。このため、外殻16は、蓋部材18のみならず、4つの側面板状部材17aも閉じ切られた共鳴管構造が好ましい。
本発明で用いられる防音ユニット12は、外殻16の気柱共鳴によって音の吸収、及び/又は反射を起こすことができれば、特に限定されず、どのような防音ユニットであっても良い。即ち、防音ユニット12は、角管体17、その開口端14とその背面の蓋部材18を持つ外殻16によって形成される内部空間13、好ましくは閉空間である内部空間13において気柱共鳴が可能であれば、いかなる防音ユニットであっても良い。
【0029】
このように、本発明の防音ユニット12における気柱共鳴は、一般的な振動膜による膜振動、貫通孔によるヘルムホルツ共鳴、又は特許文献1に開示のスリットヘルムホルツ共鳴を利用する場合に比べて、防音ユニットのサイズは大きくなるが、最も単純な共振現象であるので、非常に強固でロバスト性が大きく、構造のブレが小さい。また、このような防音ユニット12は、2つの防音ユニット12を近接配置して防音構造10とした時の2つの開口端14間の近接距離の変化に対する気柱共鳴の周波数のピーク、即ち防音周波数のシフト量が大きいため、様々な周波数を上記の近接距離で確実かつ簡単に制御することができる。
したがって、防音ユニット12は、内部空間13と開口部14によって、共鳴現象として、音に対して略閉管の気柱共鳴を生じることが好ましい。
【0030】
本発明に用いられる2つの防音ユニット12の配置方法は、特に制限的ではなく、例えば、2つの防音ユニット12a及び12bを、それぞれの外殻16aの開口部14aと外殻16bの開口部14bとが対向するように外殻16a及び16bの筒形状の中心軸方向を揃えて近接して配置するとき、
図30Aに示す防音構造80Aのように、防音ユニット12aには、外殻16aの端部にピン状の凸部82を設け、また、防音ユニット12bには、その外殻16bの端部に凸部82が挿し込まれる凹部84を設け、且つ、凸部82の長さを凹部84の溝の長さよりも長くすることで、凸部82を凹部84に挿し込んだ際、2つの防音ユニット12a及び12bの開口端間の距離を所定の長さに維持することができる。
また、
図30Bに示す防音構造80Bのように、凸部85が凹部84に嵌合可能な寸法を持つピン状の細部86と、凹部84の径寸法よりも大きな径寸法を持つ太部88とからなり、凸部85の細部86が凹部84に嵌合し、凸部85の太部88が凹部84の開口部に係合することにより、2つの防音ユニット12a及び12bの開口端間の距離を所定の長さに維持することができる。
【0031】
図4、及び
図2〜
図3に示すように、防音ユニット12の外殻16は、断面四角形(正方形)を有するので、その側面の4面と、蓋部材18の1面との5面が閉じられ、開口部14の1面だけが開放された構造を有する。
このような構造を有する外殻16は、その内部空間13では、
図5に示すように、閉塞された蓋部材18を音場の定在波Swの節Ndとし、開口端14から外側に開口端補正距離ΔLだけ離れた位置を腹Anとするλ/4の共鳴、いわゆる気柱共鳴を持ち、その周波数で反射、及び吸収を起こす。即ち、
図5に示すように、音場の定在波Swの腹Anは、開口端補正距離ΔLだけ、外殻16の開口端14の外側に、はみ出しており、外殻16の外であっても防音性能を有することができる。なお、開口端補正距離ΔLは、円筒形の管体の場合の、大凡0.61×管半径で与えられるので、例えば、
図1〜
図4に示すような正方形状の管体である外殻16の場合には、正方形状の開口端14の開口面積に相当する開口面積を持つ円管に近似した時の近似半径を管半径として、近似的に求めても良い。
【0032】
外殻16は、厚みのある側面板状部材17aで4つの側面を環状に囲むように形成された角管体17の内部に中空の内部空間13を有し、一方の側において内部空間13を外部に開放する開口部14、及び他方の側において内部空間13をと外部の空間とを遮断する蓋部材18を備えた片側閉塞構造体である角管体17を構成するためのもので、この外殻16の内部空間13において気柱共鳴現象を生じさせるものである。したがって、外殻16の角管体17の側面板状部材17a、及び蓋部材18は、内部空間13と、外部の空間とを分けるものであれば良いが、例えば両者を音響的に分離する部材であることが好ましく、両者を完全に遮断する、もしくは気密に遮断する部材であることがより好ましい。このような部材は、例えば緻密な部材、剛性が高い部材、又は単位面積当たりの質量及び剛性が共に高い部材であることが好ましい。
なお、外殻16は、外殻16の筒形状の軸方向の両方の端部となる2面(開口部14及び蓋部材18の取付面)を除いて、内部空間13と外部の空間とを遮断することが好ましく、気密に、又は完全に遮断することがより好ましい。即ち、角管体17は、内部空間13と外部の空間とを遮断することが好ましく、気密に、又は完全に遮断することがより好ましい。
【0033】
外殻16は、開口部14によって片側(即ち、一方の側の一面)のみが開放され、残りの5面が閉じられた断面正方形の管状の構造体(具体的には、他方の側の一面を閉じる蓋部材18によって閉じられ、4つの側面が側面板状部材17aからなる角管体17)によって閉じられた断面正方形の角管状の構造体であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、外殻16においては、気柱共鳴の妨げにならない限り、蓋部材18、蓋部材18と角管体17との間、及び角管体17の4つの側面板状部材17aの少なくとも1つに貫通穴等の1以上の開口を有していても良い。
例えば、
図6に示す防音ユニット12cのように、外殻16cの蓋部材18cの中心に開口22を有していても良いし、図示しないが、複数の貫通穴を有していても良い。
また、
図7に示す防音ユニット12dのように、外殻16dの蓋部材18cと角管体17との間に開口23を有していても良い。なお、
図7に示す外殻16dでは、蓋部材18cと角管体17の各側面板状部材17aとの間に接続部材19を取り付け、接続部材19によって蓋部材18cを角管体17に支持し、複数、例えば4つに分断された開口23を設けているが、本発明はこれに限定されない。防音ユニット12dでは、例えば、蓋部材18cと、角管体17とをそれぞれ支持する部材(図示せず)を防音構造の中に設けて、両者を離間させて両者間に連続した開口を設けても良い。
【0034】
また、図示しないが、角管体17の4つの側面板状部材17aの少なくとも1つに1以上の貫通穴を設けても良い。しかしながら、気柱共鳴における管内面全体による音の吸収の点からは、貫通穴があると吸収が低下するので、特に、角管体17の4つの側面板状部材17aには、貫通穴は設けない方が好ましい。
上述したように、
図6及び
図7に示す防音ユニット12c及び12dの開口22及び23等の角管体17の4つの側面板状部材17a、及び蓋部材18、並びに両者間に設けられる貫通穴等の開口は、気柱共鳴の妨げにならないのが前提であるので、比較的小さなサイズの開口であり、防音ユニット12c及び12dの開口部14のサイズに比べて小さい必要がある。即ち、防音ユニット12、12a,12b,12c,及び12dの開口部14(14a、及び14b)は、外殻16(16a、16b、16c、及び16d)に設けられた最大のサイズの開口部である本発明の第1開口部である。
一方、
図6及び
図7に示す防音ユニット12c及び12dの開口22及び23等は、開口部14(14a、及び14b)等の本発明の第1開口部より小さなサイズの本発明の第2開口部である。
【0035】
また、外殻16(16a,16b、16c、及び16d)の形状は、
図1、及び
図4〜
図7に示すように、その筒形状の中心軸方向に垂直な断面形状が軸方向に沿って同一形状である場合(即ち、角管体17の対応する、又は対向する2つの側面板状部材17aが平行である場合)には、その筒形状の中心軸方向に垂直な断面形状、又は端面形状を持つ管状体として特徴付けられるが、外殻16によって形成される内部空間13の形状ということもできるし、蓋部材18の形状、又は開口部14の開口形状を持つ管状体ということもできる。
外殻16の断面形状又は端面形状(即ち、開口部14の形状は、
図2及び
図3に示す例では正方形)であるが、本発明においては、特に制限的ではなく、例えば、長方形、ひし形、又は平行四辺形等の他の四角形、正三角形、二等辺三角形、又は直角三角形等の三角形、正五角形、又は正六角形等の正多角形を含む多角形、円形、若しくは楕円形等であっても良いし、不定形であっても良い。なお、外殻16の内部空間13の片側の端部は、閉塞されておらず、外殻16の断面形状の開口形状に等しい形状を持つ開口部14となって外部に開放されている。
【0036】
また、防音ユニット12(12a,12b,12c,及び12d)は、その内部空間13(13a,13b)、又は防音ユニット12の外側に接する配置で多孔質吸音体を有していてもよい。
ここで、多孔質吸音体とは、材料によって形成される微小な空隙部分を有し、この空隙部分に空気を含むものであり、音がこの微小な空隙部分を通過するとき、材料近傍の空気の粘性摩擦が生じることで音が吸音される吸音する機能を有するものを言う。
多孔質吸音体として、例えば、(1)発泡ウレタン、軟質ウレタンフォーム、木材、セラミックス粒子焼結材、フェノールフォーム等の発泡材料及び微小な空気を含む材料、(2)石膏ボード、(3)グラスウール、ロックウール、マイクロファイバー(3M社製シンサレートなど)、フロアマット、絨毯、メルトブローン不織布、金属不織布、ポリエステル不織布、金属ウール、フェルト、インシュレーションボード、及びガラス不織布等のファイバー、並びに不織布類材料、(4)木毛セメント板、及び(5)シリカナノファイバーなどのナノファイバー系材料等、公知の吸音材を適宜用いることができる。
【0037】
外殻16の形状は、
図1、及び
図4〜
図7に示すように、その筒形状の中心軸方向に垂直な断面形状が軸方向の全域に亘って同一形状であるものに限定されず、その中心軸方向の一部の領域において断面形状が同一形状である管状体部分を有していれば良い。
例えば、
図8に示す防音構造の10aの2つの防音ユニット12eをそれぞれ構成する外殻16eのように、中心を通る第1平面と、この第1平面に垂直な半径の途中を通り第1の平面に平行な第2の平面とで切断された球形の殻(球殻)の一部からなり、第2の平面とで切断された端面からなる円形の開口部14cを持つ基端部分15aと、基端部分15aの第1の平面とで切断された半球殻の端面に接続される同一形状の端面を持つ円管部分15bと、円管部分15bの端面に接続される同一形状の端面を持つ半球殻からなる先端部分15cと、を備えるものであっても良い。
図8に示すように、円管部分15bのように部分的に筒形状の部分を有していれば、開口部14に対向する先端部分15cは、蓋部材18と同様に内部空間13cと外部の空間を遮断しているが、平板形状の蓋部材18のように2次元形状である必要はなく、球殻形状等の3次元形状であっても良いし、開口部14cを持つ基端部分15aも筒形状、又は菅形状でなくても良い。なお、外殻16eの内部空間13cは、基端部分15a、円管部分15b、及び先端部分15cの内部の空間によって構成される。
【0038】
また、
図8Aに示す防音構造の10bの防音ユニット12fの外殻16fのように、開口部14dを持つ直管状の基端部分15d、及び基端部分15dから垂直に折れ曲がる直管状の先端部分15eからなる折れ曲がり管体17bと、折れ曲がり管体17bの先端部分15eの先端開口に取り付けられ、折れ曲がり管体17bの内部空間13dと外部の空間を遮断する蓋部材18cとを備えるものであっても良い。
なお、
図8Aに示す防音構造の10bは、2つの防音ユニット12fの外殻16fの基端部分15dの開口部14d同士を、直線状に配列された2つの基端部分15dに対して、2つの外殻16fの先端部分15eが同じ側に向う状態で対向させて配置しているが、本発明はこれに限定されず、2つの開口部14d同士を、2つの外殻16fの先端部分15eが互いに異なる側に向う状態で対向させて配置しても良い。
【0039】
また、防音ユニット12(12a,12b、12c及び12d)の外殻16(16a、16b、16c及び16d)の形状では、
図1、及び
図4〜
図7に示すように、角管体17の対向する側面板状部材17a間の距離(開口部14の口径)よりも、角管体17の長さ(管長)の方が長く、管長/口径で表されるアスペクト比は、1より大であるが、本発明はこれに限定されない。
図8Bに示す防音構造の10cの防音ユニット12gの外殻16gのように、角管体17cの対向する側面間の距離(開口部14eの口径)よりも、角管体17cの長さ(管長)の方が短く、管長/口径で表されるアスペクト比が1以下であっても良い。
なお、以下では、
図1〜
図4に示す例を代表例として説明する。
【0040】
また、外殻16の開口部14のサイズLoとしては、
図2及び
図3に示す正方形のような正多角形、又は円の場合には、その中心を通る対向する辺間の距離、又は円相当直径と定義することができ、多角形、楕円又は不定形の場合には、円相当直径と定義することができる。本発明において、円相当直径及び半径とは、それぞれ面積の等しい円に換算した時の直径及び半径である。
なお、外殻16の断面形状の外側サイズ、及び蓋部材18のサイズとしては、
図1〜
図7に示す例では、外殻16の開口部14のサイズLoに対して、角管体17の対向する2つの側面板状部材17aの厚みLsを加えた(Lo+2*Ls)として求めることができる。
【0041】
また、外殻16の厚みとしては、
図1〜
図3に示すように、外殻16の角管体17の側面板状部材17aの厚みLs、又は外殻16の蓋部材18の厚みLcによって表すことができる。ここで、側面板状部材17aの厚みLsと蓋部材18の厚みLcとは、同じであっても、異なっていても良いが、取り扱いの点からは同一であることが好ましい。
また、外殻16のサイズとしては、外殻16において生じる気柱共鳴の定常波の波長に依存する外殻16の筒形状の中心軸方向の長さが重要であり、開口端14と蓋部材18との間に挟まれた外殻16の構成部材である側面板状部材17aの長さLtとして定義することができる。即ち、外殻16のサイズとしては、角管体17の長さLtとして定義することができ、外殻16の内部空間13の軸方向のサイズとしても定義できる。
【0042】
このような外殻16のサイズLt、厚み(Ls、Lc)、開口部14のサイズLoは、特に制限的ではなく、本発明の防音構造10、及び10a(以下、防音構造10で代表する)が防音のために適用される防音対象物、例えば複写機、送風機、空調機器、換気扇、ポンプ類、発電機、ダクト、その他にも塗布機、回転機、搬送機など音を発する様々な種類の製造機器等の産業用機器、自動車、電車、航空機等の輸送用機器、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機、テレビジョン、コピー機、電子レンジ、ゲーム機、エアコン、扇風機、PC、掃除機、空気清浄機等の一般家庭用機器などに応じて設定すればよい。
また、この防音構造10自体をパーティションのように用いて、複数の騒音源からの音を遮る用途に用いることもできる。この場合も、外殻16のサイズは対象となる騒音の波長、又は周波数から選択することができる。
【0043】
また、外殻16の開口部14のサイズLoは、防音ユニット12の吸収ピークにおける回折による音の漏れを防止するために、吸収ピーク周波数に対応する波長サイズ以下であることが好ましい。
例えば、外殻16の開口部14のサイズLoは、0.5mm〜200mmであることが好ましく、1mm〜100mmであることがより好ましく、2mm〜30mmであることが最も好ましい。
【0044】
例えば、外殻16の厚み、特に角管体17の側面板状部材17aの厚みLsは、開口部14のサイズLoが0.5mm〜50mmの場合には、0.5mm〜20mmであることが好ましく、0.7mm〜10mmであることがより好ましく、1mm〜5mmであることが最も好ましい。
また、外殻16の厚み、特に角管体17の側面板状部材17aの厚みLsは、開口部14のサイズLoが、50mm超、200mm以下の場合には、1mm〜100mmであることが好ましく、3mm〜50mmであることがより好ましく、5mm〜20mmであることが最も好ましい。
外殻16の厚みとしての外殻16の蓋部材18の厚みLcは、特に制限的ではないが、上述した角管体17の側面板状部材17aの厚みLsと同じ厚みにすることが好ましい。
【0045】
また、外殻16のサイズLtとしては、外殻16において生じる気柱共鳴の定常波の波長に応じて設定することが好ましく、防音の対象とする音の波長の1/4(λ/4)の長さから開口端補正距離を差し引いた長さとすることが最も強い気柱共鳴を生じさせることができることから最も好ましい。しかしながら、外殻16のサイズLtとしては、本発明はこれに限定されず、気柱共鳴を生じさせることができれば、どのような長さとしても良い。外殻16のサイズLtとしては、使用上の容易性の点からは、0.5mm〜200mmであっても良いし、0.7mm〜100mmであることがより好ましく、1mm〜50mmであることが最も好ましい。
【0046】
外殻16、例えば角管体17の側面板状部材17a、及び蓋部材18の材料、又は素材は、上述した防音対象物に適用する際に適した強度を持ち、防音対象物の防音環境に対して耐性があれば、特に制限的ではなく、防音対象物及びその防音環境に応じて選択することができる。例えば、外殻16の材料としては、金属材料、樹脂材料、強化プラスチック材料、ゴム材料、及びカーボンファイバ等を挙げることができる。金属材料としては、例えばアルミニウム、チタン、マグネシウム、タングステン、鉄、スチール、クロム、クロムモリブデン、ニクロムモリブデン、及びこれらの合金等を挙げることができる。また、樹脂材料としては、例えばアクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリアミドイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリイミド、及びトリアセチルセルロース等を挙げることができる。また、強化プラスチック材料としては、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、及びガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)等を挙げることができる。ゴム材料としては、シリコンゴム、合成ゴム、天然ゴム、またはそれらにフィラー等を加えた構造を挙げることができる。
また、これらの外殻16の材料の複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
なお、外殻16の材料、又は素材は、同一であっても、異なっていても良い。即ち、角管体17の側面板状部材17aの材料、又は素材と、外殻16の蓋部材18の材料、又は素材とは、同一であっても、異なっていても良い。
しかしながら、本発明においては、防音ユニット12の外殻16(即ち、角管体17の側面板状部材17a、及び蓋部材18)は、同一の素材、又は材料で構成されていることが好ましく、また、気体伝搬音として音を通さない素材、又は材料で構成されていることが好ましい。
本発明においては、外殻16の角管体17と、蓋部材18とは、その材料、又は素材とが同一の場合では、一体的に構成されていても良いが、製造適性の点からは、それぞれ別体として構成されていることが好ましい。外殻16の角管体17と、蓋部材18とは、その材料、又は素材とが異なる場合には、それぞれ別体として構成されていることが好ましいのは勿論である。
【0048】
ここで、外殻16の枠となる角管体17と、蓋部材18とがそれぞれ別体として構成されている場合には、蓋部材18を角管体17の片方の端面に固定する必要がある。
外殻16の角管体17への蓋部材18の固定方法は、特に制限的ではなく、蓋部材18を角管体17の片側の開放端面に、この開放端面を塞ぎ、気柱共鳴の定在波の節となるように固定できればどのようなものでも良い。例えば、接着剤用いる方法、又は物理的な固定具を用いる方法などを挙げることができる。
接着剤を用いる方法は、接着剤を角管体17の片側の開放端面を囲む表面上に接着剤を塗布し、その上に蓋部材18を載置し、蓋部材18を接着剤で角管体17に固定する。接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤(アラルダイト(登録商標)(ニチバン株式会社製)等)、シアノアクリレート系接着剤(アロンアルフア(登録商標)(東亜合成株式会社製)など)、アクリル系接着剤等を挙げることができる。なお、接着剤を直接用いる代わりに、予め両面に接着剤が塗布された両面テープ(例えば、日東電工株式会社製両面テープ)を用いても良い。
物理的な固定具を用いる方法としては、角管体17の片側の開放端面を覆うように配置された蓋部材18を角管体17の片側の開放端面と棒等の固定部材との間に挟み、固定部材をネジやビス等の固定具を用いて角管体17に固定する方法等を挙げることができる。
【0049】
なお、図示例の防音構造10、10a、10b、及び10cにおいては、2つの防音ユニット12(12aと12b、12c、12d、12e、12f、及び12g)は、同一であるが、本発明はこれに限定されず、一方の防音ユニット12と他方の防音ユニット12とは異なる防音ユニットであっても良い。
ここで、隣接する2つの防音ユニット12が異なる場合とは、2つの防音ユニット12の形状、又は構造が互いに異なる場合、例えば防音ユニット12a(又は12b)、12c、12d、12e、12f、及び12gの内の異なる2つの防音ユニット12を組み合わせる場合であっても良いし、2つの防音ユニット12として用いられる外殻16(16aと16b)、16c、16e、16f、又は16g、もしくは角管体17、17c、又は折れ曲がり管体17b等が異なる、あるいはそれぞれ対向して配置される2つの開口端14(14aと14b、14c、14d、又は14e)が異なる場合であっても良い。
また、図示例の防音構造10、10a、10b、及び10cにおいては、互いに向き合う、即ち対向して隣接する2つの防音ユニット12からなるものであるが、本発明はこれに限定されない。隣接する2つの防音ユニット12を含んでいれば、3つ以上の防音ユニット12からなるものであっても良い。
【0050】
例えば、
図9に示す防音構造11のように、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a、及び12bを1組の防音ユニット組24として構造物の壁26に配置して良い。なお、
図9に示す例では、2つの防音ユニット12a及び12bの防音ユニット対を1組の防音ユニット組24として、1組目の防音ユニット組24の防音ユニット12bの蓋部材18bと、2組目の防音ユニット組24の防音ユニット12aの蓋部材18aとを接触させて一体化して、2組の防音ユニット組24を壁26に配置しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、2以上の防音ユニットを1組の防音ユニット組としても良いし、また、3組以上の防音ユニット組を壁に配置しても良いし、隣接する防音ユニット組の背面板同士を離間させて配置しても良いし、完全に一体化させて1つの背面板としても良い。
【0051】
構造物の壁26への2つの防音ユニット12a、及び12bの固定方法は、特に制限的ではなく、公知の方法を使用することができるが、
図31の防音構造90に示すように、構造物の壁26に突起物92を設け、2つの防音ユニット12a、及び12bの開口端14a及び14bが対向するように、各防音ユニットの外殻16aの端部、及び外殻16bの端部をそれぞれ突起物82の対向する端面に固定する方法を用いることができる。突起物92は、所定の長さを有しているので、容易に、2つの防音ユニットを開口端14aと14bとの間を所定の距離に維持した位置に配置することができる。
突起物92の端面に各防音ユニットを固定する方法としては、外殻16aの端部、及び外殻16bの端部を挿し込むことができる孔部、又は凹部を突起物92に形成する方法が挙げられる。
【0052】
また、
図10に示す防音構造11aのように、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a、及び12bを1組の防音ユニット組24として複数組、
図10に示す例では、4組の防音ユニット組24を組み合わせることで防音壁28として機能させることが好ましい。
また、
図10Aに示す防音構造11bのように、
図10に示す複数組、例えば3組の防音ユニット組24の直線状の組み合わせを、並列に、複数段、
図10Aに示す例では、4段組み合わせることで、新たな防音壁構造28aとして機能させることも好ましい。この防音壁構造28aでは、同じ位置に4段積まれた4組の防音ユニット組24の2つの防音ユニット12a及び12bの開口部14a及び14b同士のスリット20をたがいに連通するように積み重ねることにより、近接部を外部に連通する開口とすることができる。
【0053】
ここで、
図9〜
図10Aに示す防音構造11、11a、及び11bにおいては、防音ユニット組24を周期的に配置することが好ましい。また、これらの防音ユニット組24を単位ユニットとして、複数の単位ユニットを配置して防音構造とすることが好ましい。
なお、
図9〜
図10Aに示す防音構造11、11a、及び11bにおいて、1組の防音ユニット組24とするのは、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12(12a及び12b)に限定されず、
図6〜
図8Bに示す防音ユニット12c、12d、12e、12f、及び12gの少なくとも1つであっても良い。
以下の説明においては、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a及び12bを代表例として説明するが、上記と同様に、
図6〜
図8Bに示す防音ユニット12c、12d、12e、12f、及び12gの少なくとも1つを用いても良いのは勿論である。
【0054】
また、
図11に示す防音構造30のように、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a及び12bを管状部材32内に配置しても良い。なお、矢印は、音の侵入方向を示す。この場合には、2つの防音ユニット12a及び12bは、その開口端14aと14bとの間のスリット20が、管状部材32の長手方向(即ち、音の侵入方向)に直交する方向(即ち、半径方向)となるように、配置されることが好ましい。
また、
図12に示す防音構造30aのように、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a、及び12bからなる防音ユニット組24を複数組(
図12に示す例では2組)、管状部材32内に、その開口端14aと14bとの間のスリット20が、管状部材32の長手方向(矢印で示す音の侵入方向)に直交する方向(即ち、半径方向)となるように、長手方向に沿って並べて配置しても良い。
なお、この場合にも、防音ユニット組24を増やすことにより、吸収ピーク周波数における吸収率のピーク値を増大させることができる。
【0055】
また、
図13に示す防音構造30bのように、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a及び12bを、管状部材32内に、その開口端14aと14bとの間のスリット20が、管状部材32の長手方向(即ち、音の侵入方向)に沿って(好ましくは、音の侵入方向に平行になるように)配置されることが好ましい。
図13に示す防音構造30bのように、
図11に示す防音構造30に対して、2つの防音ユニット12a及び12bの配置を90°変更しても、配置方法によらず、吸収ピーク周波数はほとんど変化しないので、防音ユニットの向きに関するロバスト性がある。
なお、
図14に示す防音構造30cのように、管状部材32内に、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a及び12bからなる防音ユニット組24を複数組、図示例では2組、長手方向に沿って配置することが好ましい。この場合にも、防音ユニット組24は、そのスリット20が、管状部材32の長手方向(矢印で示す音の侵入方向)に沿って(好ましくは、音の侵入方向に平行になるように)配置されることが好ましい。防音ユニット組24を増やすことにより、吸収ピーク周波数における吸収率のピーク値を増大させることができる。
【0056】
更に、
図15に示す防音構造30dのように、管状部材32内に、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a及び12bからなる防音ユニット組24を複数組(
図15に示す例では2組)、長手方向に沿って配置し、一方の防音ユニット組24の2つの防音ユニット12a及び12bの開口端14aと14bとの間の間隔(即ちスリット20の幅)を他方の防音ユニット組24と異ならしめても良い。なお、この場合にも、2組の防音ユニット組24のスリット20は、幅が異なるものの、管状部材32の長手方向(矢印で示す音の侵入方向)に沿って伸びる方向(好ましくは、音の侵入方向)には平行になる。各防音ユニット組24のスリット20の幅が異なるため、各防音ユニット組24の吸収ピーク周波数が少し異なるため、複数(例えば2つ)の吸収ピーク周波数が存在することになり、低周波側において吸収の広帯域化を図ることができる。
なお、
図11〜
図15に示す防音構造30、及び30a〜30dにおいては、2つの防音ユニット12a及び12bからなる防音ユニット組24は、管状部材32内の内側の孔部33の略中央に配置され、管状部材32の内側の壁(即ち内壁面32a)と、防音ユニット12a及び12bとの間は、長手方向(矢印で示す音の侵入方向)に沿って開口されていることが好ましい。
【0057】
また、
図16に示す防音構造30eのように、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a及び12bからなる防音ユニット組24を複数組(
図16に示す例では4組)、管状部材32内に、その内壁面32aに沿って配置しても良い。この場合には、各防音ユニット組24の2つの防音ユニット12a及び12bは、共に壁に沿って配置され、その開口端14aと14bとの間のスリット20が、管状部材32の長手方向(即ち音の侵入方向に沿って(好ましくは音の侵入方向に)平行になり、かつ管状部材32の孔部33の中心に向かうように配置される。
なお、
図17に示す防音構造30fのように、
図1に示す防音構造10の2つの防音ユニット12a及び12bからなる防音ユニット組24を複数組(
図17に示す例では4組)、管状部材32内に、その内壁面32aに沿って配置しても良い。この場合には、各防音ユニット組24の2つの防音ユニット12a及び12bの一方、図示例では防音ユニット12bが壁に沿って配置され、その開口端14aと14bとの間のスリット20が、管状部材32の長手方向(即ち音の侵入方向)に沿って(好ましくは音の侵入方向に)平行になり、かつ管状部材32の孔部33の円周方向に向かうように配置される。
図16及び
図17に示す防音構造30e及び30fでは、管状部材32の孔部33の中央部、及び隣接する防音ユニット組24の間は、長手方向(矢印で示す音の侵入方向)に沿って開口されている。
本発明に用いられる防音ユニット、及び2つの防音ユニットを用いる本発明の防音構造は、基本的に以上のように構成される。
【0058】
図18に示す防音構造60は、
図1に示す防音構造10と、防音構造10の防音ユニット12bを載置して支持する載置台62と、載置台62に固定されたトラベリングナット64、及びトラベリングナット64に螺合するドライブスクリュー66を備え、防音構造10の防音ユニット12aに対して防音ユニット12bを移動させるねじ移動機構68とを有する。
ここで、防音構造10の防音ユニット12aは、図示しない基台に支持されており、その基台に、ボールねじ等からなるドライブスクリュー66は、回転可能に支持される。
こうして、ドライブスクリュー66を手動で、又は自動的に回転させることにより、防音ユニット12aに対して防音ユニット12bを移動させて、防音ユニット12aの開口端14aと、防音ユニット12bの開口端14の間の開口端同士の平均距離を変えることにより、吸収率がピークとなる吸収ピーク周波数を調整することができる。
なお、ねじ移動機構68等の移動機構が自動的に動く自動移動機構である場合には、図示しないが、モータなどの駆動源と、駆動源の駆動を制御する制御部を備え、制御部に付与された移動量に応じて制御部が駆動源を自動的に制御して、自動的に移動量だけ移動させることができる。
【0059】
ここで、
図18に示す例のねじ移動機構68は、防音ユニット12aに対して防音ユニット12bを移動させるものであるが、本発明はこれに限定されず、防音ユニット12bに対して防音ユニット12aを移動させる移動機構であっても良いし、防音ユニット12a及び12bの両方を移動させる移動機構であっても良い。
即ち、本発明に用いられる移動機構は、防音ユニット12a及び12bの一方を他方に対して相対的に移動させて、両者の開口端14a及び14bとの間の開口端同士の平均距離を変化させるものであれば良い。
このような移動機構としては、特に制限的ではなく、隣接する2つの防音ユニット12a及び12bの少なくとも一方を移動できればいかなる移動機構でも良い。例えば、図示例のねじ移動機構68に加え、図示しないが、レール、及び隣接する2つの防音ユニット12a及び12bの少なくとも一方を載置して、レール上を走行する車輪を備えるレール走行機構、隣接する2つの防音ユニット12a及び12bの少なくとも一方が取り付けられたラック、及びラックと噛み合うラックアンドピニオン機構、及びピエゾ(圧電)素子を用いたピエゾアクチュエータ等の移動機構を挙げることができる。
【0060】
上述したねじ移動機構68を備える防音構造60等の防音構造は、騒音(ノイズ)源からの騒音に応じて適切に防音する防音システムとして構成することもできる。
図19に示す防音システム70は、騒音源に対して、開口端同士の距離を調整することにより吸収ピーク周波数を自動的に調整して、適切な周波数において吸収を生じさせるシステムであり、防音構造の周囲環境の騒音、特に騒音源からの騒音の周波数に応じて、防音構造の吸収ピーク周波数を調整し、吸収ピーク周波数を騒音の周波数に一致させる、又は可能な限り近づけることにより、騒音を適切に防音(即ち遮蔽)するものである。
防音システム70は、
図1に示すような、隣接する2つの防音ユニット12a及び12bを備える防音構造10と、防音構造10の周囲環境のノイズ源78の騒音を計測するマイクロフォン(以下、単にマイクという)72と、マイク72で計測された騒音の周波数を解析するパーソナルコンピュータ(以下、PCという)74と、PC74の解析結果に応じて隣接する2つの防音ユニット12a及び12bの開口端14a及び14b同士の距離を変化させる自動ステージ76と、を有する。
【0061】
ここで、マイク72は、防音構造10の周囲環境のノイズ源78から騒音の音圧を計測する計測器であり、計測部を構成する。この時、マイク72の位置は防音構造10よりもノイズ源78側にあることが望ましいが、騒音が計測できる位置であればどこに配置されていても良く、どこであっても分析できる。
PC74は、マイク72で計測された騒音の音圧データを受信し、周波数特性、即ち周波数スペクトルに変換し、防音又は消音対象とする防音対象周波数を決定する。防音対象周波数としては、特に制限的ではないが、可聴域内で最大となる音圧の周波数とすることが好ましい。例えば、周波数スペクトルの中の最大値を消したい、即ち遮蔽したい周波数であると想定して、防音対象周波数を決定することが好ましい。
【0062】
次いで、PC74は、防音対象周波数に対応する開口端14a及び14bとの開口端同士の平均距離(以下、層間距離ともいう)を求める。具体的には、PC74は、予め求められて、メモリ等の記憶部の記憶されているデータを参照し、それらのデータから防音対象周波数に対応する(即ち吸収ピーク周波数が防音対象周波数となる)、又は最も近づく開口端14a及び14b同士の層間距離を決定する。ここで、PC74は、周波数スペクトルの解析装置であり、解析部を構成する。
なお、PC74のメモリの記憶データは、隣接する2つの防音ユニット12a及び12bの開口端14a及び14bの層間距離と、吸収ピーク周波数との関係を示すルックアップテーブル、即ち層間距離と周波数との対応表(データ)である。
このような対応表は、予め、開口端14a及び14bの層間距離と、吸収ピーク周波数との関係を実測し、実測値に基づいて決定しておくことが好ましい。
PC74は、こうして決定した開口端14a及び14bの層間距離を自動ステージ76に送信(入力)する。
【0063】
自動ステージ76は、図示しないが、
図18に示すねじ移動機構68等の移動機構と、モータなどの駆動源、及び駆動源の駆動を制御するコントローラ等の制御部を備える自動移動機構である。自動ステージ76は、PC74から受信した開口端14a及び14b同士の層間距離となるように、隣接する2つの防音ユニット12a及び12bの少なくとも一方を移動させて、防音構造10の吸収ピーク周波数を調整し、吸収ピーク周波数を、防音対象周波数に合わせる。
こうして、本発明の防音システム70は、適切に防音対象周波数の騒音を消すことができる。
なお、図示例の防音システム70は、自動ステージ76を備えているが、自動ステージ76の代わりに、移動機構のみを備えていても良く、その場合には、PC74が決定した層間距離に応じて、手動で移動機構を動かしても良い。
【0064】
なお、PC74が、予め準備された層間距離と周波数との対応表を有していない場合には、2つのマイクを用いてその音圧をとりながら、自動ステージ76にフィードバックを書けるようにしても良い。
図20に示す防音システム70aは、フィードバック機構を備えており、フィードバックをかけながら防音構造の吸収周波数が防音対象周波数に合うように層間距離を調整することで、事前に吸収周波数−層間距離の対応表を作成していなくても自動防音システムであり、防音構造のデバイス特性が変化した場合などでも自動消音機構を機能させることができるシステムである。
防音システム70aは、防音構造10と、2本のマイク(マイク1)72a及び(マイク2)72bと、自動ステージ76と、PC74とを有する。
【0065】
防音システム70aにおいては、防音システム70と同様に、2本のマイク72a及び72bの少なくとも1本のマイクで騒音の音圧を計測し、PC74でマイクのスペクトル情報(周波数スペクトルデータ)から防音対象周波数を決定する。
2本のマイク72a及び72bは、ノイズ源78からの騒音の防音対象周波数における音圧を測定する。ここで、一方のマイク、例えばマイク72aでは、防音対象周波数における音圧の大きい騒音を取り、他方のマイク、例えばマイク72bでは、防音対象周波数における音圧の小さい騒音を取る。ここでは、
図20に示すように、大きな音圧のマイク72aがノイズ源78側にあると判断できる。マイク72aの防音対象周波数における大きな音圧をp1とし、マイク72bの防音対象周波数における小さな音圧をp2とする。
防音システム70aでは、音圧P1小さい方の音圧P2が、大きい方の音圧p1に対して最小になる、即ちp2/p1が最小となるように自動ステージ76でフィードバック調整する。
【0066】
まず、2本のマイク72a及び72bを用いて、自動ステージ76を動かす前の音圧比abs(p2)/abs(p1)を測定する。
次に、自動ステージ76を動かしながら音圧比abs(p2)/abs(p1)を測定していく。この中で、音圧比abs(p2)/abs(p1)が最小となる層間距離を探索することで、適切な層間距離を決定することができる。
最後に、適切な層間距離に合うように自動ステージ76によって層間距離を調整することで吸収周波数を防音対象周波数に合わせ、防音対象周波数の騒音を最も減らすことができる。
なお、図示例では、2本のマイク72a及び72bで取られた音圧の大きい騒音及び音圧の小さい騒音をPC74に送信し、音圧比p2/p1を算出して、自動ステージ76でフィードバック調整するようにしているが、本発明はこれに限定されず、PC74を介さず、2本のマイク72a及び72bの出力を直接自動ステージ76に送信するようにしても良い。
【0067】
以下に、本発明の防音構造を持つ防音部材に組合せることができる構造部材の物性、又は特性について説明する。
[難燃性]
建材用、及び機器内防音部材として本発明の防音構造を持つ防音部材を使用する場合、難燃性であることが求められる。
そのため、外殻(管体(枠)、及び蓋部材)も、難燃性の材質であることが好ましく、アルミニウム等の金属、セラミックなどの無機材料、ガラス材料、難燃性ポリカーボネート(例えば、PCMUPY610(タキロン株式会社製))、及び/又はや難燃性アクリル(例えば、アクリライト(登録商標)FR1(三菱レイヨン株式会社製))などの難燃性プラスチックなどが挙げられる。
更に、蓋部材を管体(枠)に固定する方法も、難燃性接着剤(スリーボンド1537シリーズ(株式会社スリーボンド製))、半田による接着方法、又は蓋部材を管体(枠)にビスやねじ等で固定するなどの機械的な固定方法が好ましい。
【0068】
[耐熱性]
環境温度変化にともなう、本発明の防音構造の構造部材の膨張伸縮により防音特性が変化してしまう懸念があるため、この構造部材を構成する材質は、耐熱性、特に低熱収縮のものが好ましい。
外殻(管体(枠)、及び蓋部材)は、ポリイミド樹脂(TECASINT4111(エンズィンガージャパン株式会社製))、及び/又はガラス繊維強化樹脂(TECAPEEKGF30(エンズィンガージャパン株式会社製))などの耐熱プラスチックを用いること、及び/又はアルミニウム等の金属、又はセラミック等の無機材料やガラス材料を用いることが好ましい。
更に、接着剤も、耐熱接着剤(TB3732(株式会社スリーボンド製)、超耐熱1成分収縮型RTVシリコーン接着シール材(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、及び/又は耐熱性無機接着剤アロンセラミック(登録商標)(東亜合成株式会社製)など)を用いることが好ましい。これら接着剤を蓋部材、又は管体(枠)に塗布する際は、1μm以下の厚みにすることで、膨張収縮量を低減できることが好ましい。
【0069】
[耐候・耐光性]
屋外や光が差す場所に本発明の防音構造を持つ防音部材が配置された場合、構造部材の耐侯性が問題となる。
そのため、外殻(管体(枠)、及び蓋部材)の材料は、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリル(アクリル)などの耐侯性が高いプラスチックやアルミニウム等の金属、セラミック等の無機材料、及び/又はガラス材料を用いることが好ましい。
更に、接着剤も、エポキシ樹脂系のもの、及び/又はドライフレックス(リペアケアインターナショナル社製)などの耐侯性の高い接着剤を用いることが好ましい。
耐湿性についても、高い耐湿性を有する外殻(管体(枠)、及び蓋部材)、及び接着剤を適宜選択することが好ましい。吸水性、耐薬品性に関しても適切な外殻(管体(枠)、及び蓋部材)、及び接着剤を適宜選択することが好ましい。
【0070】
本発明の防音構造及び防音システムは、基本的に以上のように構成される。
本発明の防音構造及び防音システムは、以上のように構成されているため、従来の防音構造において困難であった低周波遮蔽を可能にし、更に、低周波化を図ることができる。また、低周波域における吸収ピーク周波数の調整ができるので、様々な周波数の騒音に合わせて強く防音又は遮音する構造を設計できるという特徴も有する。
【0071】
本発明の防音構造は、以下のような防音部材として使用することができる。
例えば、本発明の防音構造を持つ防音部材としては、
建材用防音部材:建材用として使用する防音部材、
空気調和設備用防音部材:換気口、空調用ダクトなどに設置し、外部からの騒音を防ぐ防音部材、
外部開口部用防音部材:部屋の窓に設置し、室内又は室外からの騒音を防ぐ防音部材、
天井用防音部材:室内の天井に設置され、室内の音響を制御する防音部材、
床用防音部材:床に設置され、室内の音響を制御する防音部材、
内部開口部用防音部材:室内のドア、ふすまの部分に設置され、各部屋からの騒音を防ぐ防音部材、
トイレ用防音部材:トイレ内又はドア(室内外)部に設置、トイレからの騒音を防ぐ防音部材、
バルコニー用防音部材:バルコニーに設置し、自分のバルコニー又は隣のバルコニーからの騒音を防ぐ防音部材、
室内調音用部材:部屋の音響を制御するための防音部材、
簡易防音室部材:簡易に組み立て可能で、移動も簡易な防音部材、
ペット用防音室部材:ペットの部屋を囲い、騒音を防ぐ防音部材、
アミューズメント施設:ゲームセンター、スポーツセンター、コンサートホール、映画館に設置される防音部材、
工事現場用仮囲い用の防音部材:工事現場を多い周囲に騒音の漏れを防ぐ防音部材、
トンネル用の防音部材:トンネル内に設置し、トンネル内部及び外部に漏れる騒音を防ぐ防音部材、等を挙げることができる。
【実施例】
【0072】
本発明の防音構造を実施例に基づいて具体的に説明する。
まず、本発明の防音構造に用いられる単一の防音ユニット(単セル)を参考例1として作製した。
(参考例1)
まず、参考例1として、
図4に示す防音ユニット(単セル)12を作製した。
外殻16の角管体17の側面板状部材17aとしてその厚みLsが2mmのアクリル板を用いて、外殻16のサイズ(角管体17の長さ)、即ち開口部14と蓋部材18との間に挟まれた側面板状部材17aの長さLtが30mm、開口部14の(内側)サイズLoが一辺10mmの正方形状である両端開放の筒状構造の角管体17を作製した。また、蓋部材18として一辺14mmの正方形、厚みLc2mmのアクリル板を用意し、筒状構造の角管体17の片面に取り付け、蓋部材18とした。角管体17への蓋部材18の取り付け方法は、角管体17の筒状構造の端面の枠部に両面テープ(日東電工株式会社製)を付け、隙間のないように密着するように取り付けた。このようにして、外殻16のサイズLtが30mmの筒状構造の防音ユニット(単セル)12を作製した。
この単セルの防音ユニット12の測定を行った。
【0073】
音響特性は、自作のアクリル製音響管(管状部材32:
図11参照)に4本のマイクを用いて伝達関数法による測定を行った。この手法は、「ASTM E2611-09: Standard Test Method for Measurement of Normal Incidence Sound Transmission of Acoustical Materials Based on the Transfer Matrix Method」に従う。音響管(32)としては、例えば日本音響エンジニアリング株式会社製のWinZacと同一の測定原理である。この方法で広いスペクトル帯域において音響透過損失を測定することができる。特に、透過率と反射率を同時に測定することで、サンプルの吸収率も正確に測定した。100Hz〜4000Hzの範囲で音響透過損失測定を行った。音響管(32)の内径は40mmであり、4000Hz以上までは十分に測定することができる。
この伝達関数法を用いて、単セルの防音ユニット12の音響特性を測定した。配置は、単セルの防音ユニット12の開口端14が音響管(32)の断面に平行(音響管(32)の長さ方向と開口端14が垂直)となる配置とした。単セルの防音ユニット12が含まれる断面を考えると、単セルの防音ユニット12は音響管(32)内の16%しか面積を専有せず、即ち略84%が開口部である状態となっている。この測定で透過率と反射率とを測定し、吸収率を(1−透過率−反射率)として求めた。こうして求めた吸収率を
図21、反射率を
図22に記載した。
また、参考例1の測定結果(吸収ピーク周波数及び単体との周波数差)について表1に示した。
【0074】
(実施例1)
次に、上記単セルの防音ユニット12を合計2つ作製して用意した。
図1に示す防音構造10のように、2つの防音ユニット12の開口部14(14a及び14b)同士が向かい合う配置として、その開口部14(14a及び14b)同士の層間距離が0.5mmになるように調整した配置とした。この2つの防音ユニット12の向かい合わせ防音構造10の音響特性を測定した。配置は、
図11に示す防音構造30のように、2つの開口端14(14a及び14b)が音響管(32)の断面に平行になるように、すなわち参考例1と同じ配置にして開口端14(14a及び14b)が向かい合わせになるような配置とした。
この実施例1の測定では、透過率と反射率とを測定し、吸収率を(1−透過率−反射率)として求めた。こうして求めた吸収率を
図21、反射率を
図22に記載した。
また、実施例1の測定結果(吸収ピーク周波数及び単体との周波数差)について表1に示した。
なお、以下では、特別に記述のない限り、配置は、実施例1と同様の配置方法で測定した。
【0075】
(実施例2〜6、比較例1)
実施例1と同様にして、開口部14同士の距離を1mm(実施例2)、2mm(実施例3)、3mm(実施例4)、5mm(実施例5)、10mm(実施例6)、及び20mm(比較例1)として、それぞれ音響特性を測定した。
実施例1及び参考例1も含めて、これらの実施例2〜6、及び比較例1の測定結果の吸収率、及び反射率の周波数依存性をそれぞれ
図21、及び
図22に示した。また、これらの結果(吸収ピーク周波数及び単体との周波数差)を表1にまとめた。
【0076】
【表1】
【0077】
図21、
図22、及び表1から明らかなように、開口端14(14a及び14b)同士の距離が近づくほどに、その吸収ピーク、及び反射ピークがともに低周波側に近づいていることが分かる。特に、実施例1では、開口端14(14a及び14b)同士の距離を0.5mmまで近づけたことで、参考例1の単セルの防音ユニット12の吸収ピーク周波数よりも885Hzだけ低周波シフトさせることができた。また、開口端14(14a及び14b)同士の距離を近づけて、両者の隙間を非常に小さくしても、吸収量は大きく保たれることが分かる。
また、
図21から明らかなように、比較例1では、開口端14(14a及び14b)同士の距離が20mmと遠いために、吸収ピークの周波数が参考例1の単体の防音ユニットの吸収ピークの周波数と略同じであり、低周波シフトが見られないことが分かった。
図22からも明らかなように、比較例1では、反射ピークの周波数が参考例1の単体の防音ユニットの吸収ピークの周波数に近く、低周波シフトが小さいことが分かった。
【0078】
また、これらの結果から、
図23に吸収、反射についてピーク周波数の距離に対するシフトを示した。距離が小さくなるほどにピークが低周波化すること、特に5mm以下になるとシフト量が大きくなることが分かる。
図24には、透過率と吸収率のそれぞれのピーク値を示した。距離が比較的大きい10mmにおいては反射の方が大きく、距離が小さくなることで吸収が優位になることが分かる。すなわち、距離を小さくしたときは、周波数が低周波化し吸収率が大きくなるという特徴がある。これは、機器内のダクトなどで防音する場合に、反射で音を返してしまうと別の場所から漏れ出す可能性があるため、吸収する防音部材を用いることは極めて有用であるので、そのような部位には特に適している。この部材は、低周波をコンパクトに吸収するという特徴を持つことを示していることが分かる。
【0079】
(参考例2)
次に、3Dプリンタを用いて、厚みLsが3mmで、開口部14の(内側)サイズLoが15mm×46mmで、外殻16のサイズ、角管体17の長さ(枠の厚み)Ltが35mmとなる両端開放の筒状構造の角管体(枠)17を作成した。その素材(材料)はABS樹脂であった。また、蓋部材18として、21mm×52mmの長方形、厚み3mmのアクリル製の板を用意し、筒状構造の角管体17の片面に固定して蓋部材18とした。角管体17への蓋部材18の固定方法は、実施例1と同様に両面テープで隙間がないように固定した。このように、実施例1より巨大な筒状構造の防音ユニット(単セル)12を参考例2として作製した。
この参考例2の単セルの防音ユニット12を実施例1と同様にして測定した。
【0080】
(実施例7)
次に、上記単セルの防音ユニット12を合計2つ作製して用意した。
直径80mmの自作音響管(管状部材32:
図11参照)を用いた以外は、実施例1と同様にして、伝達関数法による音響特性の測定を行った。
図1に示す防音構造10のように、2つの防音ユニット12の開口部14(14a及び14b)同士が向かい合う配置として、その開口部14(14a及び14b)同士の層間距離が1.0mmになるように調整した配置とした。この2つの防音ユニット12の向かい合わせ防音構造10の音響特性を測定した。配置は、
図11に示す防音構造30のように、2つの開口端14(14a及び14b)が音響管(32)の断面に平行になるように、すなわち実施例1と同じ配置にして開口端14(14a及び14b)が向かい合わせになるような配置で、実施例1と同様に測定した。
【0081】
(実施例8〜11、比較例1)
実施例7と同様にして、開口部14同士の距離を2mm(実施例8)、3mm(実施例9)、5mm(実施例10)、及び10mm(実施例11)として、それぞれ音響特性を測定した。
なお、参考例2及び実施例7〜11の測定では、実施例1と同様に透過率と反射率とを測定した。また、吸収率を(1−透過率−反射率)として求めた。こうして求めた吸収率を
図25、反射率を
図26に記載した。
また、参考例2及び実施例7〜11の測定結果(吸収ピーク周波数及び単体との周波数差)について表2に示した。
【0082】
【表2】
【0083】
図25、
図26、及び表2から明らかなように、実施例7〜11においても、実施例1〜6と同様に、距離が近づくほどに周波数ピークが低周波側にシフトすることが分かった。
また、吸収に着目すると、特に距離が1mmの場合に低周波側の590Hzにおいて、別の吸収ピークが現れていることが分かる。本発明では、防音構造10の開口部14間の距離を小さくすることで気柱共鳴ピーク周波数が低周波側にシフトすることを示した。さらに、本発明の防音構造は、角管体17の長さ(枠の厚み)Ltも大きく開口部14の面積(サイズ)も大きいために、筒状構造であっても、開口部14が近づいているときの角管体17の開口部14の端部(枠の部分)が狭いスリット状となり、スリット部分で摩擦が生じる、スリットを用いたヘルムホルツ共振現象が生じていると考えられる。つまり、筒状構造を用いることで、気柱共鳴周波数による吸収率の高い防音と、より低周波側のスリット摩擦を用いたスリットヘルムホルツ共鳴防音の両方を用いることができる。
以上のように、実施例1と比較してより大きい筒状構造の防音ユニットにおいても、2つの防音ユニットの開口部間距離を近づけることで、気柱共鳴現象による吸収ピークや反射ピークが低周波側にシフトすることが分かった。また、シフト量が距離に依存するために、距離をパラメータとする防音周波数制御が容易に行えることも分かった。
【0084】
(実施例12)
実施例3の防音構造において、対向する防音ユニットの開口部間の距離を変化するのではなく、対向する開口部間の距離(対向距離)を2mmに保ったまま、2つのセル(
図1に示す防音ユニット12a及び12b)を互いに並進方向にずらしたときの周波数変化を検証した。
即ち、対向距離2mmで完全に重なった状態(並進シフトδ=0mm)の場合である実施例に対して、
図27に示すように、並進方向に5mmずらした防音構造10dを作製して、測定を行った。防音構造10dでは、並進シフトは、開口部14(14a、及び14b)の正方形状の辺に平行な方向に行った。このとき、開口部14(14a、及び14b)は一辺10mmの正方形であったので、並進シフト5mmの場合は、開口部14同士が5mmの重なりがある状態となる。
図28、及び表3に測定結果をまとめて示す。単体セルと比較すると、並進シフトがあっても低周波側にシフトしている。
【0085】
(比較例2)
実施例3と同様に対向距離を2mmとし、並進シフトδを10mmとした、開口部14(14a、及び14b)が一辺10mmの正方形であったため、この条件では開口部14同士の重なりはない。この防音構造の測定を行い、測定結果を
図28、及び表3にまとめて示す。並進シフトが大きく、開口部14同士の重なりのない本比較例2においては、単体の場合から低周波側へのシフトはなくなった。
図28、及び表3に示す測定結果から明らかなように、防音ユニット12の開口部14同士に重なりがある限り、並進方向にシフトしている対向構造でも低周波側にシフトすること、最も低周波側へのシフト量が大きいのは、開口部14同士の重なりの大きい場合であることが分かる。
以上の測定結果から、2つの防音ユニット12の開口部14の対向距離ではなく、近接した構造に関して並進方向へのシフトを用いて周波数を調整させることができることも明らかになった。
【0086】
【表3】
【0087】
また、本発明の防音システムの確認を行った。
騒音源に対して、防音ユニットの開口端の層間距離を調整することにより吸収周波数を自動的に調整して、適切な周波数において吸収を生じさせる
図19に示す防音システム70を作成した。
図19に示したとおり、マイク72、PC74、自動ステージ76上に設置された本発明のデバイス(
図1に示す防音構造10)の構成とした。防音構造としては、実施例1で使用したサンプルとした。まず、開口端近接防音構造10を自動ステージ76にとりつけ、開口端間距離を自動ステージ76によって調整できるようにした。距離を自動ステージ76で調整したところ、実施例1〜4の各結果を再現することを確認した。
更に、防音システム70に対してフィードバック機構を設けることで、事前に吸収周波数-開口端間距離の対応表を作成していなくても自動消音システムを構築できた。これにより、もしデバイス特性が変化した場合などでも自動消音機構を機能させることができた。
以上から、本発明の防音構造、及び防音システムの効果は、明らかである。
【0088】
ここで、本発明の防音構造は、よりロバスト性の大きい気柱共鳴による吸収を利用する防音構造である。
これに対し、上述した特許文献1は、気柱共鳴を用いた吸収ではなく、スリット型ヘルムホルツ共振を用いる吸音方法を開示するものである。特許文献1に開示のスリット型ヘルムホルツ共鳴を出すためにはスリット厚みを大きくするなどスリット部における摩擦を大きくする工夫が必要であるため、特許文献1に開示の発明では、構造が限定される。
この点において、本発明は、よりロバスト性の大きい気柱共鳴による吸収を利用するので、特許文献1に開示の発明のように、スリット部摩擦のみに吸収を頼るスリットヘルムホルツと比べて、構造のブレが吸収に影響しにくい。また、側壁部が音を遮蔽する限りにおいてスリット厚みとなる枠の厚みを厚くする必要がない本発明の構造は、摩擦のために側壁部を厚くする必要のあるスリットヘルムホルツ構造と比較して、防音構造を軽く保つことができる。
また、周波数を開口端間の距離によって制御する観点からすると、特許文献1に開示のスリットヘルムホルツ共振の周波数シフト量と比べて、本発明の気柱共鳴の周波数シフトの方が大きくなる。また、スリットヘルムホルツ共振は、
図25にも見られるように、スリット幅を大きくすると摩擦が急速に小さくなり、吸収がほぼなくなってしまう。したがって、スリットヘルムホルツ共振の場合には、距離を変化させた時に機能する距離の幅が、本発明の気柱共鳴現象よりも小さい。よって、様々な周波数を近接距離で制御する点に関して、本発明の方が優位に働く。
【0089】
特許文献1は、C型のチャネル構造を用いて端部スリットの摩擦現象であるスリットヘルムホルツ現象を利用して周波数に応じた防音を開示しているが、チャネル構造を用いているため気柱共鳴は現れていない。本発明は、気柱共鳴を起こす筒状構想の共鳴管を用いるのに対して、特許文献1は、チャネル構造を用いており、構造的に異なる。
特許文献1において、摩擦現象を考えればスリットヘルムホルツのスリット幅を短くすることで摩擦が増大し、共振周波数がシフトすることは考えられるが、本発明のように、共鳴管全体で吸収する現象である気柱共鳴を利用して、共鳴管の大きさの中のごく一部である開口部同士を近づけることで共振周波数をシフトさせることはできない。
なお、本発明においては、上述の実施例7及び8等では、スリットヘルムホルツ共鳴と気柱共鳴とが共に現れるパターンを見出している。本発明では、特許文献1で用いられるチャネル構造とは異なり、角管体の5面を閉じる構造として気柱としたことで、2つの吸収ピークが現れるブロードバンドな吸収を実現できる。
【0090】
特許文献2に開示の発明は、片側閉塞の角管からなる単一の共振セルではなく、複数個の片側閉塞の角管を波長オーダまで多数並べて波面の制御を行う技術であり、ダクト消音装置のセル構造は、波長オーダの大きさが必要である。このため、特許文献2の発明は、本発明のように、互いに向かい合う2つのセルの相互作用によって共鳴周波数を制御して防音するものではない。また、特許文献2の発明は、多数を並べて波面制御する発明であるので、対を成す一組のセルだけを取り出して近接させ、2つのセルの相互作用させることはできない。
また、特許文献2の発明は、気柱共鳴管同士の距離をあけて、ダクト端部がソフト境界となる波面を作る必要がある。このため、特許文献2の発明は、本発明のように、互いに対向した気柱共鳴管同士に相互作用が存在すると波面に影響を与えてしまうため、管同士の相互作用が小さい領域(すなわちダクトがある程度太い領域)で、互いに対向した気柱共鳴管同士が離れた状態での使用が前提の発明である。
また、ダクトを細くし、互いに対向した気柱共鳴管同士を近づけることは、摩擦によりそもそも風や熱が通りにくくなる現象が生じるので、特許文献2の発明において、本発明のように、気柱共鳴管同士を近づけることはない。
【0091】
本発明は、気柱共鳴は非常に強くロバストな構造で吸収する手法であり、ダクト共鳴の他にもトンネル内爆破音の抑制など、様々な分野で使用することができるものである。それら分野では、特に低周波音に対する問題は、構造サイズが大きくなることが問題となるため、本発明の低周波化と周波数チューニングが幅広いメリットとなる。
【0092】
以上、本発明の防音構造、及び防音システムについての種々の実施形態及び実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は、これらの実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのはもちろんである。