(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪拡散剤組成物≫
拡散剤組成物は、不純物拡散成分(A)と、加水分解によりシラノール基を生成し得るSi化合物(B)とを含む。本明細書においてシラノール基を生成し得るSi化合物(B)を、加水分解性シラン化合物(B)とも記す。以下、拡散剤組成物が含む、必須又は任意の成分と、拡散剤組成物の調製方法とについて説明する。
【0012】
〔不純物拡散成分(A)〕
不純物拡散成分(A)は、従来から半導体基板へのドーピングに用いられている成分であれば特に限定されず、n型ドーパントであっても、p型ドーパントであってもよい。n型ドーパントとしては、リン、ヒ素、及びアンチモン等の単体、並びにこれらの元素を含む化合物が挙げられる。p型ドーパントとしては、ホウ素、ガリウム、インジウム、及びアルミニウム等の単体、並びにこれらの元素を含む化合物が挙げられる。
【0013】
不純物拡散成分(A)としては、入手の容易性や取扱いが容易であることから、リン化合物、ホウ素化合物、又はヒ素化合物が好ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、ジ亜リン酸、ポリリン酸、及び五酸化二リンや、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、亜リン酸トリス(トリアルキルシリル)、及びリン酸トリス(トリアルキルシリル)等が挙げられる。好ましいホウ素化合物としては、ホウ酸、メタホウ酸、ボロン酸、過ホウ酸、次ホウ酸、及び三酸化二ホウ素や、ホウ酸トリアルキルが挙げられる。好ましいヒ素化合物としては、ヒ酸、及びヒ酸トリアルキルが挙げられる。
【0014】
リン化合物としては、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、亜リン酸トリス(トリアルキルシリル)、及びリン酸トリス(トリアルキルシリル)が好ましく、その中でもリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、リン酸トリス(トリメトキシシリル)、及び亜リン酸トリス(トリメトキシシリル)が好ましく、リン酸トリメチル、亜リン酸トリメチル、及びリン酸トリス(トリメチルシリル)がより好ましく、リン酸トリメチルが特に好ましい。
【0015】
ホウ素化合物としては、トリメチルホウ素、トリエチルホウ素、トリメチルボレート、及びトリエチルボレートが好ましい。
【0016】
ヒ素化合物としては、ヒ酸、トリエトキシヒ素、及びトリ−n−ブトキシヒ素が好ましい。
【0017】
拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の含有量は特に限定されない。拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の含有量は、不純物拡散成分(A)中に含まれる、リン、ヒ素、アンチモン、ホウ素、ガリウム、インジウム、及びアルミニウム等の半導体基板中でドーパントしての作用を奏する元素の量(モル)が、加水分解性シラン化合物(B)に含まれるSiのモル数の0.01〜5倍となる量が好ましく、0.05〜3倍となる量がより好ましい。
【0018】
〔加水分解性シラン化合物(B)〕
拡散剤組成物は、加水分解性シラン化合物(B)を含有する。加水分解性シラン化合物(B)は、下式(1):
R
4−nSi(NCO)
n・・・(1)
(式(1)中、Rは炭化水素基であり、nは3又は4の整数である。)
で表される化合物である。
【0019】
このため、本願の拡散剤組成物を半導体基板に塗布して薄膜を形成すると、加水分解性シラン化合物が主に塗布環境の雰囲気中の水分により加水分解縮合して、塗布膜内にケイ素酸化物系の極薄い膜が形成される。
【0020】
式(1)中のRとしての炭化水素基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。Rとしては、炭素原子数1〜12の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1〜12の芳香族炭化水素基、炭素原子数1〜12のアラルキル基が好ましい。
【0021】
炭素原子数1〜12の脂肪族炭化水素基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−シクロヘプチル基、n−オクチル基、n−シクロオクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、及びn−ドデシル基が挙げられる。
【0022】
炭素原子数1〜12の芳香族炭化水素基の好適な例としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、及びビフェニリル基が挙げられる。
【0023】
炭素原子数1〜12のアラルキル基の好適な例としては、ベンジル基、フェネチル基、α−ナフチルメチル基、β−ナフチルメチル基、2−α−ナフチルエチル基、及び2−β−ナフチルエチル基が挙げられる。
【0024】
以上説明した炭化水素基の中では、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0025】
式(1)で表される加水分解性シラン化合物(B)の中では、テトライソシアネートシラン、メチルトリイソシアネートシラン、及びエチルトリイソシアネートシランが好ましく、テトライソシアネートシランがより好ましい。
【0026】
拡散剤組成物中の加水分解性シラン化合物(B)の含有量は、Siの濃度として、0.001〜3.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましい。拡散剤組成物がこのような濃度で加水分解性シラン化合物(B)を含有することにより、拡散剤組成物を用いて形成された薄い塗布膜からの不純物拡散成分(A)の外部拡散を良好に抑制し、不純物拡散成分を良好に半導体基板に拡散させることができる。
【0027】
〔有機溶剤(S)〕
拡散剤組成物は、通常、薄膜の塗布膜を形成できるように、溶媒として有機溶剤(S)を含む。有機溶剤(S)の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
【0028】
また、拡散剤組成物は、加水分解性シラン化合物(B)を含むため、実質的に水を含まないのが好ましい。拡散剤組成物中が実質的に水を含まないとは、加水分解性シラン化合物(B)が本発明の目的を阻害する程度まで加水分解されてしまう量の水を、拡散剤組成物が含有しないことを意味する。
【0029】
有機溶剤(S)の具体例としては、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類;N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシメチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン等のラクタム類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン等の他のエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン等のケトン類;2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、乳酸エチルアセテート等の乳酸アルキルエステル類;3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−i−プロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸−i−ブチル、ぎ酸−n−ペンチル、酢酸−i−ペンチル、プロピオン酸−n−ブチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸−i−プロピル、酪酸−n−ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸−n−プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸エチル等の他のエステル類;β−プロピロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−ペンチロラクトン等のラクトン類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、メチルオクタン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、ナフタレン、1,3,5−トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;p−メンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、テルピネン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン等のテルペン類;等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
拡散剤組成物が加水分解性シラン化合物(B)を含むため、有機溶剤(S)は、加水分解性シラン化合物(B)と反応する官能基を持たないものが好ましく使用される。特に加水分解性シラン化合物(B)がイソシアネート基を有する場合、加水分解性シラン化合物(B)と反応する官能基を持たない有機溶剤(S)を用いるのが好ましい。
【0031】
加水分解性シラン化合物(B)と反応する官能基には、加水分解により水酸基を生成し得る基と直接反応する官能基と、加水分解により生じる水酸基(シラノール基)と反応する官能基との双方が含まれる。加水分解性シラン化合物(B)と反応する官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0032】
加水分解性シラン化合物(B)と反応する官能基を持たない有機溶剤の好適な例としては、上記の有機溶剤(S)の具体例のうち、モノエーテル類、鎖状ジエーテル類、環状ジエーテル類、ケトン類、エステル類、活性水素原子を持たないアミド系溶剤、スルホキシド類、ハロゲンを含んでいてもよい脂肪族炭化水素系溶剤、及び芳香族炭化水素系溶剤の具体例として列挙された有機溶剤が挙げられる。
【0033】
〔その他の成分〕
拡散剤組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤等の種々の添加剤を含んでいてもよい。また、拡散剤組成物は、塗布性や、製膜性を改良する目的でバインダー樹脂を含んでいてもよい。バインダー樹脂としては種々の樹脂を用いることができ、アクリル樹脂が好ましい。
【0034】
〔拡散剤組成物の調製方法〕
拡散剤組成物は、上記の必須又は任意の成分を混合して均一な溶液とすることで、調製できる。拡散剤組成物の調製時には、不純物拡散成分(A)や、加水分解性シラン化合物(B)は、予め有機溶剤に(S)に溶解させた溶液として使用されてもよい。拡散剤組成物は、必要に応じて、所望する開口径のフィルターによりろ過されてもよい。かかるろ過処理により、不溶性の不純物が除去される。
【0035】
また、前述の通り、拡散剤組成物は、実質的に水を含まない。具体的には、拡散剤組成物の水分含有量は0.05質量%以下であり、0.015質量%以下であるのが好ましい。拡散剤組成物の水分含有量がこのような範囲まで低減されている場合、不純物拡散成分(A)を半導体基板中に特に良好に拡散させやすい。
【0036】
拡散剤組成物中の水分含有量は、カールフィッシャー法により測定することができる。
また、拡散剤組成物中の水分量の測定は、拡散剤組成物中の有機溶剤(S)の組成比率が99%以上である場合、有機溶剤(S)の水分量を測定することで、代用できる。
なお、有機溶剤(S)中の水分量が、0.045〜0.055質量%である場合には、有機溶剤(S)の水分量を代用することなく、拡散剤組成物中の水分量を測定するのが好ましい。
【0037】
拡散剤組成物の水分含有量を低減させる方法は特に限定されない。水分含有量を低減させる方法としては、モレキュラーシーブ、無水硫酸マグネシウム、及び無水硫酸ナトリウム等の脱水剤を用いる方法や、蒸留法が挙げられる。水分含有量を低減させる処理は、調製された拡散剤組成物に対して行われてもよく、有機溶剤(S)や、不純物拡散成分(A)や加水分解性シラン化合物(B)の有機溶剤(S)溶液に対して行われてもよい。
【0038】
≪半導体基板の製造方法≫
以下、上述の拡散剤組成物を用いる、半導体基板の製造方法について説明する。
半導体基板の好適な製造方法としては、
半導体基板上に拡散剤組成物を塗布して30nm以下の膜厚の塗布膜を形成する塗布工程と、
拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる、拡散工程と、を含む方法が挙げられる。以下、塗布工程と、拡散工程とについて説明する。
【0039】
<塗布工程>
半導体基板としては、従来から不純物拡散成分を拡散させる対象として用いられている種々の基板を特に制限なく用いることができる。半導体基板としては、典型的にはシリコン基板が用いられる。
【0040】
半導体基板は、立体構造を拡散剤組成物が塗布される面上に有していてもよい。本発明によれば、半導体基板がこのような立体構造、特に、ナノスケールの微小なパターンを備える立体構造をその表面に有する場合であっても、以上説明した拡散剤組成物を30nm以下の膜厚となるように塗布して形成された薄い塗布膜を半導体基板上に形成することによって、不純物拡散成分を半導体基板に対して良好且つ均一に拡散させることができる。
【0041】
パターンの形状は特に限定されないが、典型的には、断面の形状が矩形である直線状又は曲線状のライン又は溝であったり、円柱や角柱を除いて形成されるホール形状が挙げられる。
【0042】
半導体基板が、立体構造として平行な複数のラインが繰り返し配置されるパターンをその表面に備える場合、ライン間の幅としては60nm以下、40nm以下、又は20nm以下の幅に適用可能である。ラインの高さとしては、30nm以上、50nm以上、又は100nm以上の高さに適用可能である。
【0043】
拡散剤組成物は、拡散剤組成物を用いて形成される塗布膜の膜厚が30nm以下、好ましくは0.2〜10nmとなるように半導体基板上に塗布される。拡散剤組成物を塗布する方法は、所望の膜厚の塗布膜を形成できる限り特に限定されない。拡散剤組成物の塗布方法としては、スピンコート法、インクジェット法、及びスプレー法が好ましい。なお、塗布膜の膜厚は、エリプソメーターを用いて測定された5点以上の膜厚の平均値である。
【0044】
塗布膜の膜厚は、半導体基板の形状や、任意に設定される不純物拡散成分(A)の拡散の程度に応じて、30nm以下の任意の膜厚に適宜設定される。
【0045】
拡散剤組成物を半導体基板表面に塗布した後に、半導体基板の表面を有機溶剤によりリンスするのも好ましい。塗布膜の形成後に、半導体基板の表面をリンスすることにより、塗布膜の膜厚をより均一にすることができる。特に、半導体基板がその表面に立体構造を有するものである場合、立体構造の底部(段差部分)で塗布膜の膜厚が厚くなりやすい。しかし、塗布膜の形成後に半導体基板の表面をリンスすることにより、塗布膜の膜厚を均一化できる。
【0046】
リンスに用いる有機溶剤としては、拡散剤組成物が含有していてもよい前述の有機溶剤を用いることができる。
【0047】
≪拡散工程≫
拡散工程では、拡散剤組成物を用いて半導体基板上に形成された薄い塗布膜中の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる。不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる方法は、加熱により拡散剤組成物からなる塗布膜から不純物拡散成分(A)を拡散させる方法であれば特に限定されない。
【0048】
典型的な方法としては、拡散剤組成物からなる塗布膜を備える半導体基板を電気炉等の加熱炉中で加熱する方法が挙げられる。この際、加熱条件は、所望する程度に不純物拡散成分が拡散される限り特に限定されない。
【0049】
通常、酸化性気体の雰囲気下で塗布膜中の有機物を焼成除去した後に、不活性ガスの雰囲気下で半導体基板を加熱して、不純物拡散成分を半導体基板中に拡散させる。
有機物を焼成する際の加熱は、好ましくは300〜1000℃、より好ましくは400〜800℃程度の温度下において、好ましくは1〜120分、より好ましくは5〜60分間行われる。
不純物拡散成分を拡散させる際の加熱は、好ましくは800〜1400℃、より好ましくは800〜1200℃の温度下において、好ましくは1〜120分、より好ましくは5〜60分間行われる。
【0050】
また、不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる際の加熱は、ランプアニール法、レーザーアニール法、及びマイクロ波照射法からなる群より選択される一種以上の方法により行われてもよい。
【0051】
ランプアニール法としては、ラピッドサーマルアニール法や、フラッシュランプアニール法が挙げられる。
ラピッドサーマルアニール法とは、拡散剤組成物が塗布された半導体基板の表面を、ランプ加熱により高い昇温速度で所定の拡散温度まで昇温させ,次いで、短時間、所定の拡散温度を保持した後、半導体基板の表面を急冷する方法である。
フラッシュランプアニール法とは、キセノンフラッシュランプ等を使用して半導体基板の表面に閃光を照射し、拡散剤組成物が塗布された半導体基板の表面のみを短時間で、所定の拡散温度に昇温させる熱処理方法である。
【0052】
レーザーアニール法とは、半導体基板の表面に種々のレーザーを照射することで、拡散剤組成物が塗布された半導体基板の表面のみを極短時間で、所定の拡散温度に昇温させる熱処理方法である。
マイクロ波照射法とは、半導体基板の表面にマイクロ波を照射することで、拡散剤組成物が塗布された半導体基板の表面のみを極短時間で、所定の拡散温度に昇温させる熱処理方法である。
【0053】
ランプアニール法、レーザーアニール法、及びマイクロ波照射法等を用いる場合、不純物拡散成分を拡散させる際の拡散温度は、好ましくは600〜1400℃、より好ましくは800〜1200℃である。基板表面の温度が拡散温度に到達した後は、当該拡散温度を所望する時間保持してもよい。予め定めた拡散温度を保持する時間は、不純物拡散成分が良好に拡散する範囲で短いほど好ましい。
拡散工程において、基板表面を所望する拡散温度まで昇温させる際の昇温速度は、25℃/秒以上が好ましく、不純物拡散成分が良好に拡散する範囲で、できる限り高いことが好ましい。
【0054】
また、本発明に係る方法より製造される半導体基板を用いて形成される半導体素子について、その構造によっては、半導体基板表面の浅い領域において高濃度で不純物拡散成分を拡散させる必要がある場合がある。
この場合、上記の不純物拡散方法において、基板表面を所定の拡散温度まで急速に昇温させた後、半導体基板表面を急速に冷却する温度プロファイルを採用するのが好ましい。このような温度プロファイルによる加熱処理は、スパイクアニールと呼ばれる。
【0055】
スパイクアニールにおいて、所定の拡散温度での保持時間は1秒以下が好ましい。また、拡散温度は950〜1050℃が好ましい。このような拡散温度及び保持時間によりスパイクアニールを行うことにより、半導体基板表面の浅い領域において、高濃度で不純物拡散成分を拡散させやすい。
スパイクアニールにおいて、所定の拡散温度での保持時間は1秒以下が好ましい。また、拡散温度は950〜1050℃が好ましい。このような拡散温度及び保持時間によりスパイクアニールを行うことにより、半導体基板表面の浅い領域において、高濃度で不純物拡散成分を拡散させやすい。
【0056】
以上説明したように本発明にかかる拡散剤組成物を用いる場合、半導体基板上に拡散剤組成物をナノスケールの膜厚で塗布する場合でも、不純物拡散成分を半導体基板中に良好に拡散させることができる。
【0057】
上記効果が得られる理由は明らかではないが、以下のような理由が考えられる。
本発明の拡散剤組成物を半導体基板に塗布すると、基板表面で加水分解性シラン化合物(B)が雰囲気中の水分により加水分解縮合して、半導体基板表面に拡散剤組成物の膜が形成される。加水分解性シラン化合物(B)は、加水分解縮合の反応速度が速いため、塗布環境中のわずかな水分と反応して、基板塗布時に反応をすることで極薄い膜を形成できるが、その反面、組成物中の水分とも反応して、塗布前に部分的に加水分解縮重合が進行してしまう場合がある。しかし、本発明の拡散剤組成物は、拡散剤組成物中の水分が上限値以下の場合、拡散剤組成物の溶液中で加水分解縮重合が最小限に抑制され、均一で極薄い塗布膜が形成できる。その結果、半導体基板に不純物拡散成分(A)が良好に拡散できると考えられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
〔実施例1〜4、並びに比較例1及び2〕
拡散剤組成物の成分として以下の材料を用いた。不純物拡散成分(A)としては、トリ−n−ブトキシヒ素(濃度4質量%の酢酸−n−ブチル溶液)を用いた。加水分解性シラン化合物(B)としては、テトライソシアネートシランを用いた。有機溶剤(S)としては、酢酸−n−ブチルを用いた。
【0060】
上記の不純物拡散成分(A)と、加水分解性シラン化合物(B)と、有機溶剤(S)とを、固形分濃度0.6質量%、As/Siの元素比率が0.5となるように均一に混合した後、孔径0.2μmのフィルターでろ過して、拡散剤組成物を得た。
拡散剤組成物の含有水分量を、混合前の有機溶剤(S)をモレキュラーシーブを用いて脱水することで調整して、実施例1〜4、並びに比較例1及び2の拡散剤組成物を得た。
【0061】
平坦な表面を備えるシリコン基板(4インチ、P型)の表面に、スピンコーターを用いて上述の拡散剤組成物を塗布し、膜厚4.5nmの塗布膜を形成した。
塗布膜の形成後、以下の方法に従って、不純物拡散成分の拡散処理を行った。
まず、ホットプレート上で塗布膜をベークした。次いで、アルバック社製のラピッドサーマルアニール装置(MILA−3000、ランプアニール装置)を用いて、流量1L/mの窒素雰囲気下において昇温速度10℃/秒の条件で加熱を行い、拡散温度1000℃、保持時間1分の条件で拡散を行った。拡散の終了後、半導体基板を室温まで急速に冷却した。
【0062】
拡散処理後、シート抵抗測定器(ナプソン RG−200PV)を用いて四探針法によりP型シリコン基板の不純物拡散成分の拡散処理が施された面のシート抵抗値を求めた。測定されたシート抵抗値を表1に記す。測定されたシート抵抗値から、以下の基準に基づいて、不純物拡散成分の拡散状況を判定した。
◎:シート抵抗値が500ohm/sq.以下である。
○:シート抵抗値が500ohm/sq.超、1,000ohm/sq.以下である。
△:シート抵抗値が1,000ohm/sq.超、1,300ohm/sq.以下である。
×:シート抵抗値が1,300ohm/sq.超である。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から、含水量が0.05質量%を超える比較例1及び2の拡散剤組成物を用いる場合、拡散処理後の半導体基板のシート抵抗値が高く、不純物拡散成分が良好に拡散していないことが分かる。
他方、実施例1〜4から、拡散剤組成物の含水量が0.05質量%以下、特に0.015質量%以下である場合、半導体基板のシート抵抗値が顕著に低下しており、不純物拡散成分が良好に拡散していることが分かる。
【0065】
〔実施例5〜7〕
拡散剤組成物の成分として以下の材料を用いた。不純物拡散成分(A)としては、トリ−n−ブトキシヒ素(濃度4質量%の酢酸−n−ブチル溶液)を用いた。加水分解性シラン化合物(B)としては、テトライソシアネートシランを用いた。有機溶剤(S)としては、酢酸−n−ブチルを用いた。
【0066】
上記の不純物拡散成分(A)と、加水分解性シラン化合物(B)と、有機溶剤(S)とを、固形分濃度0.40質量%、As/Siの元素比率が0.77となるように均一に混合した後、孔径0.2μmのフィルターでろ過して、拡散剤組成物を得た。
拡散剤組成物の含有水分量を、混合前の有機溶剤(S)をモレキュラーシーブを用いて脱水することで調整して、実施例5〜7の拡散剤組成物を得た。
【0067】
平坦な表面を備えるシリコン基板(4インチ、P型)の表面に、スピンコーターを用いて上述の拡散剤組成物を塗布し、表2に記載の膜厚の塗布膜を形成した。
塗布膜の形成後、以下の方法に従って、不純物拡散成分の拡散処理を行った。
まず、ホットプレート上で塗布膜をベークした。次いで、アルバック社製のラピッドサーマルアニール装置(MILA−3000、ランプアニール装置)を用いて、流量1L/mの窒素雰囲気下において昇温速度10℃/秒の条件で加熱を行い、拡散温度1000℃、保持時間7秒の条件で拡散を行った。拡散の終了後、半導体基板を室温まで急速に冷却した。
【0068】
拡散処理後、シート抵抗測定器(ナプソン RG−200PV)を用いて四探針法によりP型シリコン基板の不純物拡散成分の拡散処理が施された面のシート抵抗値を求めた。測定されたシート抵抗値を表2に記す。測定されたシート抵抗値から、以下の基準に基づいて、不純物拡散成分の拡散状況を判定した。
◎:シート抵抗値が500ohm/sq.以下である。
○:シート抵抗値が500ohm/sq.超、1,000ohm/sq.以下である。
△:シート抵抗値が1,000ohm/sq.超、1,300ohm/sq.以下である。
×:シート抵抗値が1,300ohm/sq.超である。
【0069】
【表2】
【0070】
以上の結果より、テトライソシアネートシランを含む拡散剤組成物の水分含有量が0.05質量%以下である場合に、拡散処理温度での保持時間が実施例1〜4での60秒から7秒に短縮されても、不純物拡散成分が良好に拡散されることが分かる。
【0071】
〔実施例8及び9〕
拡散剤組成物の成分として以下の材料を用いた。不純物拡散成分(A)としては、トリメチルボレートを用いた。加水分解性シラン化合物(B)としては、テトライソシアネートシランを用いた。有機溶剤(S)としては、酢酸−n−ブチルを用いた。
【0072】
上記の不純物拡散成分(A)と、加水分解性シラン化合物(B)と、有機溶剤(S)とを、固形分濃度1.42質量%、B/Siの元素比率が1.95となるように均一に混合した後、孔径0.2μmのフィルターでろ過して、拡散剤組成物を得た。
拡散剤組成物の含有水分量を、混合前の有機溶剤(S)をモレキュラーシーブを用いて脱水することで調整して、実施例8及び9の拡散剤組成物を得た。
【0073】
平坦な表面を備えるシリコン基板(4インチ、N型)の表面に、スピンコーターを用いて上述の拡散剤組成物を塗布した後、拡散剤組成物に用いたのと同じ脱水されたn−ブタノールでリンスを行い、膜厚10.8nmの塗布膜を形成した。
塗布膜の形成後、以下の方法に従って、不純物拡散成分の拡散処理を行った。
まず、ホットプレート上で塗布膜をベークした。次いで、アルバック社製のラピッドサーマルアニール装置(MILA−3000、ランプアニール装置)を用いて、流量1L/mの窒素雰囲気下において昇温速度25℃/秒の条件で加熱を行い、拡散温度1100℃又は1200℃で、表3に記載の保持時間で拡散を行った。拡散の終了後、半導体基板を室温まで急速に冷却した。
【0074】
拡散処理後、シート抵抗測定器(ナプソン RG−200PV)を用いて四探針法によりシリコン基板の不純物拡散成分の拡散処理が施された面のシート抵抗値を求めるとともに、N型からP型への反転が生じているか否か確認した。
その結果、1100℃での拡散処理及び1200℃での拡散処理のいずれでもN型からP型への反転が生じていた。拡散処理後のシート抵抗値を、表3に記す。
【0075】
【表3】
【0076】
以上の結果より、不純物拡散成分がホウ素化合物である場合も、テトライソシアネートシランを含む拡散剤組成物の水分含有量が0.05質量%以下である場合に、不純物拡散成分が良好に拡散されることが分かる。
【0077】
〔実施例10〜12〕
拡散剤組成物の成分として以下の材料を用いた。不純物拡散成分(A)としては、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)を用いた。加水分解性シラン化合物(B)としては、メチルトリイソシアネートシランを用いた。有機溶剤(S)としては、酢酸−n−ブチルを用いた。
【0078】
上記の不純物拡散成分(A)と、加水分解性シラン化合物(B)と、有機溶剤(S)とを、固形分濃度0.43質量%、P/Siの元素比率が0.45となるように均一に混合した後、孔径0.2μmのフィルターでろ過して、拡散剤組成物を得た。
拡散剤組成物の含有水分量を、混合前の有機溶剤(S)をモレキュラーシーブを用いて脱水することで調整して、実施例10〜12の拡散剤組成物を得た。
【0079】
平坦な表面を備えるシリコン基板(4インチ、P型)の表面に、スピンコーターを用いて上述の拡散剤組成物を塗布した後、拡散剤組成物に用いたのと同じ脱水されたn−ブタノールでリンスを行い、表4に記載の膜厚の塗布膜を形成した。
塗布膜の形成後、以下の方法に従って、不純物拡散成分の拡散処理を行った。
まず、ホットプレート上で塗布膜をベークした。次いで、アルバック社製のラピッドサーマルアニール装置(MILA−3000、ランプアニール装置)を用いて、流量1L/mの窒素雰囲気下において昇温速度25℃/秒の条件で加熱を行い、拡散温度1000℃又は1100℃で、表4に記載の保持時間で拡散を行った。拡散の終了後、半導体基板を室温まで急速に冷却した。
【0080】
拡散処理後、シート抵抗測定器(ナプソン RG−200PV)を用いて四探針法によりシリコン基板の不純物拡散成分の拡散処理が施された面のシート抵抗値を求めるとともに、P型からN型への反転が生じているか否か確認した。
その結果、1000℃での拡散処理及び1100℃での拡散処理のいずれでも、保持時間によらずP型からN型への反転が生じていた。拡散処理後のシート抵抗値を、表4に記す。
【0081】
【表4】
【0082】
以上の結果より、不純物拡散成分がリン化合物である場合も、メチルトリイソシアネートシランを含む拡散剤組成物の水分含有量が0.05質量%以下である場合に、不純物拡散成分が良好に拡散されることが分かる。