(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マルチビームの1つのビームあたりの試料の単位照射領域毎に、1回のショットあたりの最大照射時間のショットが分割された、同じ単位照射領域に連続して行われる複数の分割ショットの各分割ショットを前記マルチビームの一括偏向により切り替え可能な複数のビームの少なくとも1つに割り振る工程と、
単位照射領域毎に、当該単位照射領域に照射されるビームの照射時間を演算する工程と、
単位照射領域毎に合計照射時間が演算された前記ビームの照射時間に相当する組合せになるように前記複数の分割ショットの各分割ショットをビームONにするか、ビームOFFにするかを決定する工程と、
前記マルチビームの一括偏向により前記複数のビームを切り替えながら、当該単位照射領域に、同じ単位照射領域に連続して行われる前記複数の分割ショットのうちビームONになる複数の対応分割ショットを前記複数のビームを用いて行う工程と、
を備え、
各ビームの照射量誤差を補正するように、ビームONになる前記複数の対応分割ショットが決定されることを特徴とするマルチ荷電粒子ビームの描画方法。
割り振られたビーム間で当該単位照射領域に照射される照射時間の合計が均一に近づくように、前記複数の分割ショットの各分割ショットは前記複数のビームの少なくとも1つに割り振られることを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビームの描画方法。
前記マルチビームを形成する複数の開口部の開口面積誤差に起因する各ビームの照射量誤差を補正するように、ビームONになる前記複数の対応分割ショットが決定されることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のマルチ荷電粒子ビームの描画方法。
マルチビームの1つのビームあたりの試料の単位照射領域毎に、1回のショットあたりの最大照射時間のショットが分割された、同じ単位照射領域に連続して行われる複数の分割ショットの各分割ショットを前記マルチビームの一括偏向により切り替え可能な複数のビームの少なくとも1つに割り振る割振部と、
単位照射領域毎に、当該単位照射領域に照射されるビームの照射時間を演算する照射時間演算部と、
単位照射領域毎に合計照射時間が演算された前記ビームの照射時間に相当する組合せになるように前記複数の分割ショットの各分割ショットをビームONにするか、ビームOFFにするかを決定する決定部と、
前記マルチビームの一括偏向により前記複数のビームを切り替えながら、当該単位照射領域に、同じ単位照射領域に連続して行われる前記複数の分割ショットのうちビームONになる複数の対応分割ショットを前記複数のビームを用いて行うように、前記マルチビームを用いて前記試料にパターンを描画する描画部と、
を備え、
各ビームの照射量誤差を補正するように、ビームONになる前記複数の対応分割ショットが決定されることを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ部材203、ブランキングアパーチャアレイ部204、縮小レンズ205、共通ブランキング用の偏向器212、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、及び偏向器208,209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0017】
制御部160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ロジック回路131、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、ステージ制御部138、ステージ位置測定部139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ステージ制御部138、ステージ位置測定部139及び記憶装置140,142は、図示しないバスを介して互いに接続されている。記憶装置140(記憶部)には、描画データが描画装置100の外部から入力され、格納されている。偏向制御回路130には、ロジック回路131、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ部204が図示しないバスを介して接続されている。また、ロジック回路131は、偏向器212に接続される。ステージ位置測定部139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を利用してXYステージ105の位置を測定する。
【0018】
制御計算機110内には、パターン面積密度ρ演算部60、近接効果補正照射係数Dp演算部62、画素内パターン面積密度ρ’演算部64、照射量D演算部66、照射時間t演算部68、配列加工部70、特定部72、特定部74、割振部76、ソート処理部78、階調値N算出部86、決定部88、データ生成部90、判定部92、ビームシフト処理部94、判定部96、加算部98、転送処理部82、及び描画制御部84が配置されている。パターン面積密度ρ演算部60、近接効果補正照射係数Dp演算部62、画素内パターン面積密度ρ’演算部64、照射量D演算部66、照射時間t演算部68、配列加工部70、特定部72、特定部74、割振部76、ソート処理部78、階調値N算出部86、決定部88、データ生成部90、判定部92、ビームシフト処理部94、判定部96、加算部98、転送処理部82、及び描画制御部84といった一連の「〜部」は、少なくとも1つの電気回路、少なくとも1つのコンピュータ、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの回路基板、或いは、少なくとも1つの半導体装置等といった、少なくとも1つの回路で構成され、実行される。パターン面積密度ρ演算部60、近接効果補正照射係数Dp演算部62、画素内パターン面積密度ρ’演算部64、照射量D演算部66、照射時間t演算部68、配列加工部70、特定部72、特定部74、割振部76、ソート処理部78、階調値N算出部86、決定部88、データ生成部90、判定部92、ビームシフト処理部94、判定部96、加算部98、転送処理部82、及び描画制御部84に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0019】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0020】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ部材の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ部材203には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。
図2では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、
図2のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0021】
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ部の一部を示す上面概念図である。なお、
図3において、電極24,26と制御回路41の位置関係は一致させて記載していない。ブランキングアパーチャアレイ部204は、
図3に示すように、
図2に示した成形アパーチャアレイ部材203の各穴22に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。そして、各通過孔25の近傍位置に、該当する通過孔25を挟んでブランキング偏向用の電極24,26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、各通過孔25の近傍には、各通過孔25用の例えば電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の2つの電極24,26の他方(例えば、電極26)は、接地される。また、各制御回路41は、制御信号用の例えば1ビットの配線が接続される。各制御回路41は、例えば1ビットの配線の他、クロック信号線および電源用の配線等が接続される。マルチビームを構成するそれぞれのビーム毎に、電極24,26と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。偏向制御回路130から各制御回路41用の制御信号が出力される。各制御回路41内には、後述するシフトレジストが配置され、例えば、n×m本のマルチビームの1列分の制御回路内のシフトレジスタが直列に接続される。そして、例えば、n×m本のマルチビームの1列分の制御信号がシリーズで送信され、例えば、n回のクロック信号によって各ビームの制御信号が対応する制御回路41に格納される。
【0022】
各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立に対となる2つの電極24,26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。マルチビームのうちの対応ビームをそれぞれブランキング偏向する。このように、複数のブランカーが、成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0023】
図4は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。
図4に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向に向かって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショット(後述する分割ショットの合計)では、成形アパーチャアレイ部材203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で各穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0024】
図5は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図5において、ストライプ領域32は、例えば、マルチビームのビームサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割される。かかる各メッシュ領域が、描画対象画素36(単位照射領域、或いは描画位置)となる。描画対象画素36のサイズは、ビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズの1/n(nは1以上の整数)のサイズで構成されても構わない。
図5の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。
図5の例では、512×512列のマルチビームの場合を示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチがマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。
図5の例では、隣り合う4つの画素28で囲まれると共に、4つの画素28のうちの1つの画素28を含む正方形の領域で1つのグリッド29を構成する。
図5の例では、各グリッド29は、4×4画素で構成される場合を示している。
【0025】
図6は、実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。
図6では、
図5で示したストライプ領域32を描画するマルチビームのうち、y方向3段目の座標(1,3),(2,3),(3,3),・・・,(512,3)の各ビームで描画するグリッドの一部を示している。
図6の例では、例えば、XYステージ105が8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)する場合を示している。かかる4つの画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。
図6の例では、8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)することで1回のトラッキングサイクルを実施する場合を示している。
【0026】
具体的には、ステージ位置検出器139が、ミラー210にレーザを照射して、ミラー210から反射光を受光することでXYステージ105の位置を測長する。測長されたXYステージ105の位置は、制御計算機110に出力される。制御計算機110内では、描画制御部84がかかるXYステージ105の位置情報を偏向制御回路130に出力する。偏向制御回路130内では、XYステージ105の移動に合わせて、XYステージ105の移動に追従するようにビーム偏向するための偏向量データ(トラッキング偏向データ)を演算する。デジタル信号であるトラッキング偏向データは、DACアンプ134に出力され、DACアンプ134は、デジタル信号をアナログ信号に変換の上、増幅して、トラッキング偏向電圧として偏向器208に印加する。
【0027】
そして、描画部150は、当該ショット(後述する分割ショット合計)におけるマルチビームの各ビームのそれぞれの照射時間のうちの最大描画時間Ttr内のそれぞれの画素36に対応する描画時間、各画素36にマルチビーム20のうちONビームのそれぞれ対応するビームを照射する。実施の形態1では、1回分のショットを後述する複数の分割ショットに分けて、1回分のショットの動作中に、かかる複数の分割ショットを行う。さらに、実施の形態1では、各画素36に、かかる複数の分割ショットを行う際、途中で、ビームを切り替えて残りの分割ショットを行う。まずは、複数の分割ショットを1回分のショットと見立てて、各ショットの動作を次に説明する。
【0028】
図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)(基準ビーム)と後述する切り替えビームとによって、時刻t=0からt=最大描画時間Ttrまでの間に注目グリッド29の例えば最下段右から1番目の画素に1ショット目の複数の分割ショットのビームの照射が行われる。例えば、複数の分割ショットの前半の分割ショットはビーム(1)で照射し、途中でビームが切り替わり、残りの分割ショットは切り替えビームによりビーム照射が行われる。或いは、複数の分割ショットの前半の分割ショットは切り替えビームで照射し、途中でビームが切り替わり、残りの分割ショットはビーム(1)によりビーム照射が行われる。
図6では、切り替え後の状態は省略している。時刻t=0からt=Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
【0029】
当該ショットのビーム照射開始から当該ショットの最大描画時間Ttrが経過後、偏向器208によってトラッキング制御のためのビーム偏向を継続しながら、トラッキング制御のためのビーム偏向とは別に、偏向器209によってマルチビーム20を一括して偏向することによって各ビームの描画位置(前回の描画位置)を次の各ビームの描画位置(今回の描画位置)にシフトする。
図6の例では、時刻t=Ttrになった時点で、注目グリッド29の最下段右から1番目の画素から下から2段目かつ右から1番目の画素へと描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は定速移動しているのでトラッキング動作は継続している。
【0030】
そして、トラッキング制御を継続しながら、シフトされた各ビームの描画位置に当該ショットの最大描画時間Ttr内のそれぞれ対応する描画時間、マルチビーム20のうちONビームのそれぞれ対応するビームを照射する。
図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)と後述する切り替えビームとによって、時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間に注目グリッド29の例えば下から2段目かつ右から1番目の画素に2ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
【0031】
図6の例では、時刻t=2Ttrになった時点で、注目グリッド29の下から2段目かつ右から1番目の画素から下から3段目かつ右から1番目の画素へと偏向器209によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)と切り替えビームとによって、時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間に注目グリッド29の例えば下から3段目かつ右から1番目の画素に3ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。時刻t=3Ttrになった時点で、注目グリッド29の下から3段目かつ右から1番目の画素から下から4段目かつ右から1番目の画素へと偏向器209によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)と切り替えビームとによって、時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間に注目グリッド29の例えば下から4段目かつ右から1番目の画素に4ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。以上により、注目グリッド29の右から1番目の画素列の描画が終了する。
【0032】
図6の例では初回位置から3回シフトされた後の各ビームの描画位置にビームを切り替えながらそれぞれ対応するビームを照射した後、DACアンプユニット134は、トラッキング制御用のビーム偏向をリセットすることによって、トラッキング位置をトラッキング制御が開始されたトラッキング開始位置に戻す。言い換えれば、トラッキング位置をステージ移動方向と逆方向に戻す。
図6の例では、時刻t=4Ttrになった時点で、注目グリッド29のトランキングを解除して、x方向に8ビームピッチ分ずれた注目グリッドにビームを振り戻す。なお、
図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)について説明したが、その他の座標のビームについてもそれぞれの対応するグリッドに対して同様に描画が行われる。すなわち、座標(n,m)のビームは、t=4Ttrの時点で対応するグリッドに対して右から1番目の画素列の描画が終了する。例えば、座標(2,3)のビーム(2)は、
図6のビーム(1)用の注目グリッド29の−x方向に隣り合うグリッドに対して右から1番目の画素列の描画が終了する。
【0033】
なお、各グリッドの右から1番目の画素列の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後に、次回のトラッキングサイクルにおいてまず偏向器209は、各グリッドの下から1段目かつ右から2番目の画素にそれぞれ対応するビームの描画位置を合わせる(シフトする)ように偏向する。
【0034】
以上のように同じトラッキングサイクル中は偏向器208によって照射領域34を試料101に対して相対位置が同じ位置になるように制御された状態で、偏向器209によって1画素ずつシフトさせながら各ショット(複数の分割ショット)を行う。そして、トラッキングサイクルが1サイクル終了後、照射領域34のトラッキング位置を戻してから、
図4の下段に示すように、例えば1画素ずれた位置に1回目のショット位置を合わせ、次のトラッキング制御を行いながら偏向器209によって1画素ずつシフトさせながら各ショットを行う。ストライプ領域32の描画中、かかる動作を繰り返すことで、照射領域34a〜34oといった具合に順次照射領域34の位置が移動していき、当該ストライプ領域の描画を行っていく。
【0035】
図7は、実施の形態1における個別ブランキング制御回路と共通ブランキング制御回路の内部構成を示す概念図である。
図7において、描画装置100本体内のブランキングアパーチャアレイ部204に配置された個別ブランキング制御用の各ロジック回路41には、シフトレジスタ40、レジスタ42、AND演算器44、及びアンプ46が配置される。なお、AND演算器44については、省略しても構わない。実施の形態1では、従来、例えば、10ビットの制御信号によって制御されていた各ビーム用の個別ブランキング制御を、例えば1ビットの制御信号によって制御する。すなわち、シフトレジスタ40、レジスタ42、及びAND演算器44には、1ビットの制御信号が入出力される。制御信号の情報量が少ないことにより、制御回路の設置面積を小さくできる。言い換えれば、設置スペースが狭いブランキングアパーチャアレイ部204上にロジック回路を配置する場合でも、より小さいビームピッチでより多くのビームを配置できる。これはブランキングアパーチャアレイ部204を透過する電流量を増加させ、すなわち描画スループットを向上することができる。
【0036】
また、共通ブランキング用の偏向器212には、アンプが配置され、ロジック回路131には、レジスタ50、及びカウンタ52が配置される。こちらは、同時に複数の異なる制御を行うわけではなく、ON/OFF制御を行う1回路で済むため、高速に応答させるための回路を配置する場合でも設置スペース、回路の使用電流の制限の問題が生じない。よってこのアンプはブランキングアパーチャ上に実現できるアンプよりも格段に高速で動作する。このアンプは例えば、10ビットの制御信号によって制御する。すなわち、レジスタ50、及びカウンタ52には、例えば10ビットの制御信号が入出力される。
【0037】
実施の形態1では、上述した個別ブランキング制御用の各ロジック回路41によるビームON/OFF制御と、マルチビーム全体を一括してブランキング制御する共通ブランキング制御用のロジック回路131によるビームON/OFF制御との両方を用いて、各ビームのブランキング制御を行う。
【0038】
図8は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図8において、実施の形態1における描画方法は、1回分のショット毎に、画素毎の基準ビーム特定工程(S102)と、切り替えビーム特定工程(S104)と、分割ショット割振り工程(S106)と、ソート処理工程(S108)と、照射時間演算工程(S110)と、階調値N算出工程(S112)と、分割ショットON/OFF決定工程(S114)と、照射時間配列データ生成工程(S116)と、照射時間配列データ加工工程(S118)と、k番目データ転送工程(S122)と、判定工程(S124)と、ビーム切り替え工程(S126)と、k番目分割ショット工程(S128)と、判定工程(S130)と、加算工程(S132)と、いう一連の工程を実施する。
【0039】
画素毎の基準ビーム特定工程(S102)として、特定部72は、画素36毎に、当該画素にビームを照射する基準ビームを特定する。マルチビーム描画では、
図4〜
図6において説明したように、画素をずらしながらトラッキングサイクルを繰り返すことによりストライプ領域30の描画を進めていく。どの画素36をマルチビームのうちのどのビームが担当するかは描画シーケンスによって定まる。特定部70は、画素36毎に、描画シーケンスによって定まった当該画素36のビームを基準ビームとして特定する。
図6の例では、例えば、座標(1,3)のビーム(1)が、当該ショット(複数の分割ショット)における注目グリッド29の最下段右から1番目の画素の基準ビームとして特定されることになる。
【0040】
切り替えビーム特定工程(S104)として、特定部74は、画素36毎に、マルチビームの一括偏向により切り替え可能なビームを当該画素にビームを照射する切り替えビームとして特定する。
【0041】
図9は、実施の形態1における複数の分割ショットの途中でのビーム切り替えを説明するための図である。
図9(a)の例では、5×5のマルチビーム20を用いて、試料にマルチビーム20をショットする場合の一例を示している。例えば、注目グリッド29の最上段左から1番目の画素36をマルチビーム20のうちのビームaが基準ビームとして担当する場合を示している。ビームaは、一度に照射可能な照射領域34を照射する5×5のマルチビーム20の上から2段目左から2列目のビームを示す。複数の分割ショットのうち、例えば、1番目の分割ショット〜8番目の分割ショットをビームaが担当して行った後、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ
図9(a)が示す上方へ一括偏向によりビーム照射位置をシフトする。これにより、
図9(b)に示すように、注目グリッド29の最上段左から1番目の画素36は、ビームaからビームbに切り替わる。そして、複数の分割ショットのうち、残りの分割ショットをビームbが担当する。これにより、注目グリッド29の最上段左から1番目の画素36は、ビームaとビームbの2つのビームによって多重露光されることになる。ビームaを成形する成形アパーチャアレイ部材203の穴22(アパーチャ)の径が設計値に対して加工誤差が生じていた場合でも、ビームbを重ねて照射することで、ビーム電流量の誤差を平均化することができる。その結果、当該画素へのドーズ量誤差を低減できる。例えば、ビームaとビームbの2つのビームで照射することで、ビームaだけで照射する場合に比べてかかる画素36に照射されるビーム電流のばらつきの統計誤差を低減できる。例えば、2つのビーム間で照射時間が同じにできれば、ビーム電流のばらつきの統計誤差を1/2
(1/2)倍に低減できる。
図9では、基準ビーム(ビームa)が先に分割ショットを行う場合を説明したが、後述するように切り替えビーム(ビームb)が先に分割ショットを行っても構わない。
図9(b)のように照射領域34から外れたビームは、上方に隣接するストライプ内の画素の露光に用いることができる。このため、各ストライプの始点、終点のX座標とストライプ内の画素の露光順を同一にする必要がある。または、照射領域は34より小さな照射領域34’を定義し、ストライプ30の高さを照射領域34’の高さと同じに設定してもよい。こうすると
図8の処理を含めた描画処理をストライプ毎に完結できるため好適である。なおこの場合
図9(b)のように照射領域34’からはずれたビームはOFFとして画素を露光しないよう制御される。または、照射領域を構成するのに必要なビームアレイより一行多い開口を持つようにアパーチャ203、204を構成しておいてもよい。
【0042】
なお、
図9の例では、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ上方(y方向)へ一括偏向する場合を示したがこれに限るものではない。例えば、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ左側(x方向)へ一括偏向しても良い。或いは、例えば、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ右側(−x方向)へ一括偏向しても良い。或いは、例えば、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ下方(−y方向)へ一括偏向しても良い。また、ビームのシフト量も1ビームピッチ分に限るものではない。2ビームピッチ以上であってもよい。ビームのシフト量が偏向器209で偏向可能なビームピッチの整数倍であれば、いずれかのビームに切り替えることができる。
【0043】
分割ショット割振り工程(S106)として、割振部76は、マルチビーム20の1つのビームあたりの試料101の画素36(単位照射領域)毎に、1回のショットあたりの最大照射時間Ttrのショットが分割された、同じ画素36に連続して行われる照射時間の異なる複数の分割ショットの各分割ショットをマルチビーム20の一括偏向により切り替え可能な複数のビームの少なくとも1つに割り振る。実施の形態1では、例えば、複数の分割ショットの各分割ショットをマルチビーム20の一括偏向により切り替え可能な複数のビームのいずれかに割り振る。
【0044】
図10は、実施の形態1における複数の分割ショットとビームの割振りの一例を示す図である。実施の形態1では、1回分のショットの最大照射時間Ttrを同じ位置に連続して照射される照射時間が異なるn回の分割ショットに分割する。まず、最大照射時間Ttrを量子化単位Δ(階調値分解能)で割った階調値Ntrを定める。例えば、n=10とした場合、10回の分割ショットに分割する。階調値Ntrを桁数nの2進数の値で定義する場合、階調値Ntr=1023になるように量子化単位Δを予め設定すればよい。これにより、最大照射時間Ttr=1023Δとなる。そして、
図10(a)に示すように、n回の分割ショットは、512Δ(=2
9Δ),256Δ(=2
8Δ),128Δ(=2
7Δ),64Δ(=2
6Δ),32Δ(=2
5Δ),16Δ(=2
4Δ),8Δ(=2
3Δ),4Δ(=2
2Δ),2Δ(=2
1Δ),Δ(=2
0Δ)のいずれかの照射時間を持つ。すなわち、1回分のマルチビームのショットは、512Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、256Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、128Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、64Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、32Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、16Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、8Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、4Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、2Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、に分割される。
【0045】
よって、各画素36に照射する任意の照射時間t(=NΔ)は、かかる512Δ(=2
9Δ),256Δ(=2
8Δ),128Δ(=2
7Δ),64Δ(=2
6Δ),32Δ(=2
5Δ),16Δ(=2
4Δ),8Δ(=2
3Δ),4Δ(=2
2Δ),2Δ(=2
1Δ),Δ(=2
0Δ)及びゼロ(0)の少なくとも1つの組み合わせによって定義できる。例えば、N=50のショットであれば、50=2
5+2
4+2
1なので、2
5Δの照射時間をもつ分割ショットと、2
4Δの照射時間をもつ分割ショットと、2
1Δの照射時間をもつ分割ショットと、の組み合わせになる。なお、各画素36に照射する任意の照射時間tの階調値Nを2進数変換する場合には、できるだけ大きい桁の値を使用するように定義すると好適である。
【0046】
割振部76は、各画素について、例えば、512Δの照射時間tkをもつ分割ショットを切り替えビーム(ビームb)に割り振る。256Δの照射時間tkをもつ分割ショットを基準ビーム(ビームa)に割り振る。128Δの照射時間tkをもつ分割ショットを切り替えビーム(ビームb)に割り振る。64Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、32Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、16Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、8Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、4Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、2Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、を基準ビーム(ビームa)に割り振る。
【0047】
どの分割ショットを基準ビームに割り振り、どの分割ショットを切り替えビームに割り振るかは予め設定しておけばよい。ここでは、画素にそれぞれ特定された実際の基準ビームと実際の切り替えビームに複数の分割ショットを割り振ればよい。n回の分割ショットによる露光で、ビーム電流のばらつきが、画素36を露光するドーズに寄与する割合は各回の分割ショットの照射時間(露光時間)に比例する。従って、ビーム毎のビーム電流のばらつきを低減させる意味では、長い照射時間(露光時間)をもつ分割ショットを複数のビームに割り振った方が効果的である。
図10(a)の例では、照射時間(露光時間)が長い、例えば上位3つの、512Δ,256Δ,128Δの分割ショットあたりで複数ビームを用いることは効果が大きいが、逆に、64Δ以下の分割ショットあたりで複数ビームを用いることは効果が小さい。よって、実施の形態1では、照射時間(露光時間)が長い上位の分割ショットについてビームを切り替える。
【0048】
ソート処理工程(S108)として、ソート処理部78は、分割ショットの実施順をビーム単位でまとめるようにソート処理する。ビーム単位でまとめることで、ビームの切り替え動作を減らすことができ、描画時間を短縮できる。
図10(b)の例では、切り替えビーム(ビームb)が担当する分割ショットを先にまとめ、その後に基準ビーム(ビームa)が担当する分割ショットが続く。具体的には、512Δの照射時間tkをもつ分割ショット(切り替えビーム(ビームb))、128Δの照射時間tkをもつ分割ショット(切り替えビーム(ビームb))、256Δの照射時間tkをもつ分割ショット(基準ビーム(ビームa))、64Δの照射時間tkをもつ分割ショット(基準ビーム(ビームa))、32Δの照射時間tkをもつ分割ショット(基準ビーム(ビームa))、16Δの照射時間tkをもつ分割ショット(基準ビーム(ビームa))、8Δの照射時間tkをもつ分割ショット(基準ビーム(ビームa))、4Δの照射時間tkをもつ分割ショット(基準ビーム(ビームa))、2Δの照射時間tkをもつ分割ショット(基準ビーム(ビームa))、及びΔの照射時間tkをもつ分割ショット(基準ビーム(ビームa))の順にソート処理する。
【0049】
図10(b)の例では、同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkが長い分割ショットが先に実施されるように示しているが、これに限るものではない。同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkが短い分割ショットが先に実施されても良い。或いは、同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkがランダムになる順序で分割ショットが実施されても良い。
【0050】
照射時間演算工程(S110)として、画素36(単位照射領域)毎に、当該画素36に照射されるビームの照射時間(当該画素36に必要なビーム照射時間)を演算する。具体的には以下のように演算されればよい。
【0051】
まず、ρ演算部60は、描画領域(ここでは、例えばストライプ領域32)を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。ρ演算部60は、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度ρを演算する。
【0052】
次に、Dp演算部62は、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dpを演算する。ここで、近接効果補正照射係数Dpを演算するメッシュ領域のサイズは、パターン面積密度ρを演算するメッシュ領域のサイズと同じである必要は無い。また、近接効果補正照射係数Dpの補正モデル及びその計算手法は従来のシングルビーム描画方式で使用されている手法と同様で構わない。
【0053】
次に、ρ’演算部64は、画素36毎に、当該画素36内のパターン面積密度ρ’を演算する。ρ’のメッシュサイズは例えば画素28の大きさと同じにする。
【0054】
次に、D演算部66は、画素(描画対象画素)36毎に、当該画素36に照射するための照射量Dを演算する。照射量Dは、例えば、予め設定された基準照射量Dbaseに近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρ’とを乗じた値として演算すればよい。このように、照射量Dは、画素36毎に算出されたパターンの面積密度に比例して求めると好適である。次に、t演算部68は、画素36毎に、当該画素36に演算された照射量Dを入射させるための電子ビームの照射時間tを演算する。照射時間tは、照射量Dを電流密度Jで割ることで演算できる。
【0055】
階調値N算出工程(S112)として、階調値N算出部86は、画素36毎に得られた照射時間tを量子化単位Δ(階調値分解能)で割ることで整数の階調値Nデータを算出する。階調値Nデータは、例えば、0〜1023の階調値で定義される。量子化単位Δは、様々に設定可能であるが、例えば、1ns(ナノ秒)等で定義できる。量子化単位Δは、例えば1〜10nsの値を用いると好適である。ここでは、上述したように1ショットあたりの最大照射時間Ttrの階調値Ntrが1023になるように量子化単位Δを設定する。但し、これに限るものではない。最大照射時間Ttrの階調値Ntrが1023以下になるように量子化単位Δを設定すればよい。
【0056】
分割ショットON/OFF決定工程(S114)として、決定部88は、画素36毎に、ビームONにする分割ショットの合計照射時間が、演算されたビームの照射時間に相当する組合せになるように複数の分割ショットの各分割ショットをビームONにするか、ビームOFFにするかを決定する。画素36毎に得られた照射時間tは、値0と1のいずれかを示す整数wkと、n個の分割ショットのk番目の分割ショットの照射時間Tkとを用いて、以下の式(1)で定義される。整数wkが1になる分割ショットはON、整数wkが0になる分割ショットはOFFに決定できる。
【0058】
図11は、実施の形態1における分割ショットのON/OFF決定方法の工程を示すフローチャート図である。決定部88は、
図11に示すフローチャート図の各工程を実施する。
【0059】
まず、初期設定工程(S202)として、変数T=NΔを設定する。各画素36に照射する任意の照射時間tの階調値Nを2進数変換する場合には、できるだけ大きい桁の値を使用するように定義すると好適である。よって、n個の整数時間の数列Tkを大きい順に設定する。ここでは、n=10、数列Tk={512Δ(=T1),256Δ(=T2),128Δ(=T3),64Δ(=T4),32Δ(=T5),16Δ(=T6),8Δ(=T7),4Δ(=T8),2Δ(=T9),Δ(=T10)}を設定する。n個の整数wkを「0」に設定する。変数kを「1」に設定する。
【0060】
判定工程(S204)として、変数T−Tk>0かどうかを判定する。T−Tk>0の場合、設定工程(S206)に進む。T−Tk>0ではない場合、判定工程(S208)に進む。
【0061】
設定工程(S206)において、wk=1を設定する。また、T=T−Tkを演算する。演算後、判定工程(S208)に進む。
【0062】
判定工程(S208)において、変数k<nかどうかを判定する。k<nの場合、加算工程(S210)に進む。k<nではない場合、終了する。
【0063】
加算工程(S210)において、変数kに1を加算する(k=k+1)。そして、判定工程(S204)に戻る。そして、判定工程(S208)において、k<nではなくなるまで、判定工程(S204)から加算工程(S210)を繰り返す。
【0064】
例えば、N=700であれば、T1=512Δなので、700Δ−512Δ=188Δとなる。よって、T−T1>0となる。よって、設定工程(S206)において、w1=1が設定される。また、T=700Δ−512Δ=188Δとなる。k=1であれば、1<10となるので、k=k+1を演算後、判定工程(S204)に戻る。同様に繰り返すことで、w1=1、w2=0、w3=1、w4=0、w5=1、w6=1、w7=1、w8=1、w9=0、w10=0、となる。よって、T1の分割ショットがON、T2の分割ショットがOFF、T3の分割ショットがON、T4の分割ショットがOFF、T5の分割ショットがON、T6の分割ショットがON、T7の分割ショットがON、T8の分割ショットがON、T9の分割ショットがOFF、T10の分割ショットがOFF、と決定することができる。
【0065】
照射時間配列データ生成工程(S116)として、データ生成部90は、1回分のショットを同じ位置に連続して照射される照射時間が異なる複数回の分割ショットに分割するための分割ショットの照射時間配列データを生成する。データ生成部90は、画素36毎に、当該画素に実施される分割ショットの照射時間配列データを生成する。例えば、N=50であれば、50=2
5+2
4+2
1なので、“0000110010”となる。例えば、N=500であれば、同様に、“0111110100”となる。例えば、N=700であれば、同様に、“1010111100”となる。例えば、N=1023であれば、同様に、“1111111111”となる。
【0066】
照射時間配列データ加工工程(S118)として、配列加工部70は、各ビームのショット順に、照射時間配列データを加工する。
図6で説明したように、ステージの移動方向に隣の画素36が次にショットされるわけではない。よって、ここでは、描画シーケンスに沿って、マルチビーム20が順にショットすることになる画素36順に各画素36の照射時間配列データが並ぶように順序を加工する。さらに、1つのショット内においても、ソート処理工程(S108)によって分割ショットの順序が入れ替わっているので、各画素36の照射時間配列データについてかかる順序も入れ替える。
【0067】
図12は、実施の形態1における照射時間配列データの一部の一例を示す図である。
図12では、マルチビームを構成するビームの内、例えばビーム1〜5についての所定のショットの照射時間配列データの一部を示している。
図12の例では、ビーム1〜5について、k番目の分割ショットからk−3番目の分割ショットまでの照射時間配列データを示している。例えば、ビーム1について、k番目からk−3番目までの分割ショットについてデータ”1101”を示す。ビーム2について、k番目からk−3番目までの分割ショットについてデータ”1100”を示す。ビーム3について、k番目からk−3番目までの分割ショットについてデータ”0110”を示す。ビーム4について、k番目からk−3番目までの分割ショットについてデータ”0111”を示す。ビーム5について、k番目からk−3までの分割ショットについてデータ”1011”を示す。加工された照射時間配列データは、記憶装置142に格納される。
【0068】
k番目データ転送工程(S122)として、転送処理部82は、各ビームのショット(当該ショット用の複数の分割ショット)毎に、照射時間配列データを偏向制御回路130に出力する。偏向制御回路130は、分割ショット毎に、各ビーム用のロジック回路41に照射時間配列データを出力する。また、これと同期して、偏向制御回路130は、共通ブランキング用のロジック回路131に各分割ショットのタイミングデータを出力する。
【0069】
図7において説明したように、ロジック回路41にシフトレジスタ40を用いているので、データ転送の際、偏向制御回路130は、同じ順番の分割ショットのデータをビームの配列順(或いは識別番号順)にブランキングアパーチャアレイ部204の各ロジック回路41にデータ転送する。例えば、ブランキングアパーチャアレイ部204に行列状に配置されたブランカーを行或いは列単位でグループにまとめ、グループ単位でデータ転送する。また、同期用のクロック信号(CLK1)、データ読み出し用のリード信号(read)、及びAND演算器信号(BLK信号)を出力する。
図12の例では、例えば、ビーム1〜5のk番目のデータとして、後のビーム側から”10011”の各1ビットデータを転送する。各ビームのシフトレジスタ40は、クロック信号(CLK1)に従って、上位側から順にデータを次のシフトレジスタ40に転送する。例えば、ビーム1〜5のk番目のデータは、5回のクロック信号によって、ビーム1のシフトレジスタ40には1ビットデータである”1”が格納される。ビーム2のシフトレジスタ40には1ビットデータである”1”が格納される。ビーム3のシフトレジスタ40には1ビットデータである”0”が格納される。ビーム4のシフトレジスタ40には1ビットデータである”0”が格納される。ビーム5のシフトレジスタ40には1ビットデータである”1”が格納される。
【0070】
次に、各ビームのレジスタ42が、リード信号(read)を入力すると、各ビームのレジスタ42が、シフトレジスタ40からそれぞれのビームのk番目のデータを読み込む。
図12の例では、k番目のデータとして、ビーム1のレジスタ42には1ビットデータである”1”が格納される。kビット目(k桁目)のデータとして、ビーム2のレジスタ42には1ビットデータである”1”が格納される。k番目のデータとして、ビーム3のレジスタ42には1ビットデータである”0”が格納される。k番目のデータとして、ビーム4のレジスタ42には1ビットデータである”0”が格納される。k番目のデータとして、ビーム5のレジスタ42には1ビットデータである”1”が格納される。各ビームの個別レジスタ42は、k番目のデータを入力すると、そのデータに従って、ON/OFF信号をAND演算器44に出力する。k番目のデータが”1”であればON信号を、”0”であればOFF信号を出力すればよい。そして、AND演算器44では、BLK信号がON信号であって、レジスタ42の信号がONであれば、アンプ46にON信号を出力し、アンプ46は、ON電圧を個別ブランキング偏向器の電極24に印加する。それ以外では、AND演算器44は、アンプ46にOFF信号を出力し、アンプ46は、OFF電圧を個別ブランキング偏向器の電極24に印加する。
【0071】
そして、かかるk番目のデータが処理されている間に、偏向制御回路130は、次のk−1番目のデータをビームの配列順(或いは識別番号順)にブランキングアパーチャアレイ部204の各ロジック回路41にデータ転送する。
図12の例では、例えば、ビーム1〜5のk−1番目のデータとして、後のビーム側から”01111”の各1ビットデータを転送する。各ビームのシフトレジスタ40は、クロック信号(CLK1)に従って、上位側から順にデータを次のシフトレジスタ40に転送する。例えば、ビーム1〜5のk−1番目のデータは、5回のクロック信号によって、ビーム1のシフトレジスタ40には1ビットデータである”1”が格納される。ビーム2のシフトレジスタ40には1ビットデータである”1”が格納される。ビーム3のシフトレジスタ40には1ビットデータである”1”が格納される。ビーム4のシフトレジスタ40には1ビットデータである”1”が格納される。ビーム5のシフトレジスタ40には1ビットデータである”0”が格納される。そして、偏向制御回路130は、k番目の照射時間が終了したら、次のk−1番目のリード信号を出力する。k−1番目のリード信号によって、各ビームのレジスタ42が、シフトレジスタ40からそれぞれのビームのk−1番目のデータを読み込めばよい。以下、同様に、1番目のデータ処理まで進めればよい。
【0072】
ここで、
図7に示したAND演算器44については、省略しても構わない。但し、ロジック回路41内の各素子のいずれかが故障して、ビームOFFにできない状態に陥った場合などに、AND演算器44を配置することでビームをOFFに制御できる点で効果的である。また、
図7では、シフトレジスタを直列にした1ビットのデータ転送経路を用いているが、複数の並列の転送経路を設けることで、2ビット以上のデータで制御することもでき、転送の高速化を図ることができる。
【0073】
判定工程(S124)として、判定部92は、データ転送されたk番目の分割ショットのデータがk’番目のデータかどうかを判定する。
図10(b)の例では、1,2番目の分割ショットを切り替えビーム(ビーム(b))が実施し、3番目の分割ショット以降を基準ビーム(ビーム(a))が実施することになるので、k’=3が設定されることになる。k番目の分割ショットのデータがk’番目のデータであれば、ビーム切り替え工程(S126)に進む。k番目の分割ショットのデータがk’番目のデータでなければ、k番目分割ショット工程(S128)に進む。
【0074】
照射時間が短い分割ショットから順に行う場合には、1〜8番目の分割ショットを基準ビーム(ビーム(a))が実施し、9番目の分割ショット以降を切り替えビーム(ビーム(b))が実施することになるので、k’=9が設定されることになる。
【0075】
ビーム切り替え工程(S126)として、ビームシフト処理部94は、データ転送されたk番目の分割ショットのデータがk’番目のデータの場合、上述した基準ビームと切り替えビームの一方から他方へ各画素に照射するビームが切り替わるように、マルチビーム20全体を一括偏向するためのビームシフト信号を偏向制御回路130に出力する。偏向制御回路130は、DACアンプ132にマルチビーム20全体を一括偏向するための偏向信号を出力する。そして、DACアンプ132は、かかるデジタル信号の偏向信号をアナログの偏向電圧に変換した上で偏向器209に印加する。これにより、
図9(b)に示すように、マルチビーム20全体を一括偏向して、各画素を照射するビームを基準ビームと切り替えビームの一方から他方に切り替える。
図10(b)の例では、切り替えビーム(ビーム(b))が担当する分割ショットが先に実施されるので、3番目の分割ショットのデータに沿って分割ショットを行う際に、切り替えビーム(ビーム(b))から基準ビーム(ビーム(a))に切り替える。
【0076】
k番目分割ショット工程(S128)として、描画制御部84の制御のもと、描画部150は、XYステージ105の移動に同期しながら、電子ビームによるマルチビーム20を用いて、k番目の分割ショットを試料101に実施する。ここでは、k番目の分割ショットに対応するビームで分割ショットを行う。
【0077】
判定工程(S130)として、判定部96は、1回分のショットに対応する複数の分割ショットがすべて終了したかどうかを判定する。1回分のショットに対応する全分割ショットが終了していれば次のショットに進む。まだ、終了していなければ加算工程(S132)に進む。
【0078】
加算工程(S132)として、加算部98は、kに1を加算して新たなkとする。そして、k番目データ転送工程(S122)に戻る。判定工程(S130)において1回分のショットに対応する複数の分割ショットがすべて終了するまで、k番目データ転送工程(S122)から加算工程(S132)までを繰り返す。
図10(b)の例では、
【0079】
このように、描画部150は、マルチビーム20の一括偏向により複数のビームを切り替えながら、当該画素に、同じ画素に連続して行われる複数の分割ショットのうちビームONになる複数の対応分割ショットを複数のビームを用いて行う。複数の分割ショットを行っている途中で、同じ画素36を複数のビームで照射することによって、各ビームを成形する穴22の加工精度の誤差に起因する照射量(ドーズ量)の誤差があってもドーズ量の誤差を平均化できる。
【0080】
図13は、実施の形態1における1ショット中の複数の分割ショットの一部についてのビームON/OFF切り替え動作を示すタイミングチャート図である。
図13では、例えば、マルチビームを構成する複数のビームのうち、1つのビーム(ビーム1)について示している。ここでは、例えば、ビーム1のk番目から(k−3)番目までの分割ショットについて示している。照射時間配列データは、例えば、k番目が”1”、k−1番目が”1”、k−2番目が”0”、k−3番目が”1”の場合を示している。
【0081】
まず、k番目のリード信号の入力によって、個別レジスタ42は、格納されているk番目のデータ(1ビット)に従ってON/OFF信号を出力する。
【0082】
k番目のデータがONデータであるので、個別アンプ46(個別アンプ1)はON電圧を出力し、ビーム1用のブランキング電極24にON電圧を印加する。一方、共通ブランキング用のロジック回路131内では、当該ショットで使用する分割ショットの各分割ショットのタイミングデータに従って、ON/OFFを切り替える。共通ブランキング機構では、各分割ショットの照射時間だけON信号を出力する。当該ショットの複数の分割ショットが、例えば512Δ、256Δ、64Δ、32Δの各照射時間になる4回の分割ショットで構成される場合、例えば、Δ=1nsとすれば、1回目の分割ショットの照射時間が512Δ=512nsとなる。2回目の分割ショットの照射時間が256Δ=256nsとなる。3回目の分割ショットの照射時間が64Δ=64nsとなる。4回目の分割ショットの照射時間が32Δ=32nsとなる。ロジック回路131内では、レジスタ50に各分割ショットのタイミングデータが入力されると、レジスタ50がk番目のONデータを出力し、カウンタ52がk番目の分割ショットの照射時間をカウントし、かかる照射時間の経過時にOFFとなるように制御される。省略された分割ショットに対しては、各分割ショットのタイミングデータの入力を省略し、また、対応する照射時間配列データの転送を省略することで効率良く描画時間の短縮を行うことができる。
【0083】
また、共通ブランキング機構では、個別ブランキング機構のON/OFF切り替えに対して、アンプ46の電圧安定時間(セトリング時間)S1/S2を経過した後にON/OFF切り替えを行う。
図13の例では、個別アンプ1がONになった後、OFFからONに切り替え時の個別アンプ1のセトリング時間S1を経過後に、共通アンプがONになる。これにより、個別アンプ1の立ち上がり時の不安定な電圧でのビーム照射を排除できる。そして、共通アンプは対象となるk番目の分割ショットの照射時間の経過時にOFFとなる。その結果、実際のビームは、個別アンプと共通アンプが共にONであった場合に、ビームONとなり、試料101に照射される。よって、共通アンプのON時間が実際のビームの照射時間になるように制御される。一方、個別アンプ1がOFFになるときには、共通アンプがOFFになった後、セトリング時間S2を経過後に個別アンプ1がOFFになる。これにより、個別アンプ1の立ち下がり時の不安定な電圧でのビーム照射を排除できる。
【0084】
以上のように、個別ブランキング機構により各ビームのON/OFF切り替えが行われる制御とは別に、共通ブランキング機構(ロジック回路131、及び偏向器212等)を用いてマルチビーム全体に対して一括してビームのON/OFF制御を行い、k番目の各分割ショットに対応する照射時間だけビームONの状態になるようにブランキング制御を行う。これにより、マルチビームの各ショットは、同じ位置に連続して照射される照射時間が異なる複数回の分割ショットに分割される。
【0085】
図14は、実施の形態1におけるブランキング動作を説明するための概念図である。電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ部材203全体を照明する。成形アパーチャアレイ部材203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングアパーチャアレイ部204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器:個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、すくなくとも個別に通過する電子ビーム20を分割ショットの設定された描画時間(照射時間)+αの間は個別レジスタ42に従いビームON、OFFの状態を保つ。上述したように、各分割ショットの照射時間は偏向器212(共通ブランキング機構)によって制御される。
【0086】
ブランキングアパーチャアレイ部204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ部204のブランカーによって偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ部204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、偏向器212(共通ブランキング機構)によって、偏向されなければ、
図1に示すように制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFと共通ブランキング機構のON/OFFとの組み合わせによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、個別ブランキング機構或いは共通ブランキング機構によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより、1回分のショットをさらに分割した複数の分割ショットの各ビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208及び偏向器209によって、制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。また、例えばXYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器208によって制御される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0087】
なお、ビーム切り替えを行った場合、次の分割ショットを行う前にDACアンプ132の出力が静定するまで次の分割ショットを待つ必要がある。かかる待ち時間だけ描画時間が延びることになる。しかし、ビームピッチが例えば160nm等と小さい場合、DACアンプ132の静定時間(セトリング時間)は100ns以下で済む。一方、1画素あたりの最大照射時間Ttrは10〜100nmと桁違いに長いので、ビーム切り替えに伴う描画時間の遅延は無視できる程度にできる。
【0088】
以上のように、実施の形態1によれば、マルチビームを成形するアパーチャ径誤差に起因するドーズ量誤差を低減できる。
【0089】
図15は、実施の形態1における描画方法の変形例の要部工程を示すフローチャート図である。
図15において、実施の形態1における描画方法の変形例は、
図8の各工程に、さらに、アパーチャ径測定工程(S90)と、照射量誤差割合算出工程(S92)と、を追加した点以外は、
図8と同様である。アパーチャ径測定工程(S90)と、補正係数算出工程(S92)とは描画処理を実施する前に予め実施しておけばよい。成形アパーチャアレイ部材203の穴22(アパーチャ)の大きさは、例えば、1〜2μmと非常に小さいため、かかる穴22の面積を均一にすることは困難である。そこで、各穴22の誤差を考慮して分割ショットのON/OFF決定を行うことで照射時間を補正する。
【0090】
アパーチャ径測定工程(S90)として、予め、光学顕微鏡や電子顕微鏡を使って、製造された成形アパーチャアレイ部材203の各穴22の径(アパーチャ径)を測定する。
【0091】
照射量誤差割合算出工程(S92)として、測定された各穴22の面積をそれぞれ穴22の設計面積で割ることで、照射量誤差割合a(x)を算出する。各穴22の照射量誤差割合a(x)は、記憶装置140に格納される。
【0092】
照射量誤差割合a(x)は、成形アパーチャアレイ部材203の各穴22の顕微鏡画像から画像処理で面積を算出して定めてもよい。またマルチビーム20のうち角孔22に対応するものの電流値を測定し、これと目標電流値の比としてさだめてもよい。この場合角孔22の面積の誤差だけでなく、電子ビーム200が成形アパーチャ203を照明する際の不均質も含めた照射量誤差割合a(x)になる。なおアパーチャ径とアパーチャを通過するビーム電流は小さいため、a(x)には測定誤差起因の誤差が含まれる可能性が高い。
【0093】
基準ビーム特定工程(S102)から階調値N算出工程(S112)までの各工程の内容は上述した通りである。
【0094】
分割ショットON/OFF決定工程(S114)として、決定部88は、画素36毎に、マルチビーム20を形成する複数の穴22のアパーチャ誤差(開口面積誤差)に起因する各ビームの照射量誤差を補正するように、ビームONになる複数の対応分割ショットを決定する。画素36毎に得られた照射時間t(x)は、過不足時間δT(x)と各回の分割ショットを担当するビームの照射量誤差割合akと、値0と1のいずれかを示す整数wkと、n個の分割ショットのk番目の分割ショットの照射時間Tkとを用いて、以下の式(2)で定義できる。xは画素36の座標を示す。画素36毎の各回の分割ショットを担当するビームの照射量誤差割合akは、使用するビームの照射量誤差割合a(x)を記憶装置140から読み出せばよい。整数wkが1になる分割ショットはON、整数wkが0になる分割ショットはOFFに決定できる。
【0096】
図16は、実施の形態1における分割ショットのON/OFF決定方法の変形例の工程を示すフローチャート図である。決定部88は、
図16に示すフローチャート図の各工程を実施する。
【0097】
まず、初期設定工程(S302)として、変数T=NΔを設定する。各画素36に照射する任意の照射時間tの階調値Nを2進数変換する場合には、できるだけ大きい桁の値を使用するように定義すると好適である。よって、n個の整数時間の数列Tkを大きい順に設定する。ここでは、n=10、数列Tk={512Δ(=T1),256Δ(=T2),128Δ(=T3),64Δ(=T4),32Δ(=T5),16Δ(=T6),8Δ(=T7),4Δ(=T8),2Δ(=T9),Δ(=T10)}を設定する。n個の整数wkを「0」に設定する。変数kを「1」に設定する。
【0098】
判定工程(S304)として、変数T−ak・Tk>0かどうかを判定する。T−ak・Tk>0の場合、設定工程(S306)に進む。T−ak・Tk>0ではない場合、判定工程(S308)に進む。
【0099】
設定工程(S306)において、wk=1を設定する。また、T=T−ak・Tkを演算する。演算後、判定工程(S308)に進む。
【0100】
判定工程(S308)において、変数k<nかどうかを判定する。k<nの場合、加算工程(S310)に進む。k<nではない場合、終了する。
【0101】
加算工程(S310)において、変数kに1を加算する(k=k+1)。そして、判定工程(S304)に戻る。そして、判定工程(S308)において、k<nではなくなるまで、判定工程(S304)から加算工程(S310)を繰り返す。
【0102】
Tkのうち一番小さな値をTminとすると、
図16に示したフローチャートに沿って分割ショットのON/OFFを決定することにより、0≦|δT(x)|<Tminにできる。一方、
図11のフローチャートに沿って分割ショットのON/OFFを決定する場合、|δT(x)|>Tminになる可能性もある。照射時間演算工程(S110)において当該画素36の照射時間が、例えば、T=500Δとなったが、アパーチャ誤差に起因するビームの照射量誤差を補正するために当該画素に必要な照射時間が、例えば、T=501.3Δである場合を想定する。かかる場合、
図11のフローチャートに沿って分割ショットのON/OFFを決定することにより、式(1)の右辺の値は500Δになる。よって、その際の過不足時間δT(x)は1.3Δとなり、|δT(x)|>Tmin(=Δ)になる。これに対して、
図16に示したフローチャートに沿って分割ショットのON/OFFを決定することにより、式(2)の右辺の値は501Δになる。よって、その際の過不足時間δT(x)は0.3Δとなり、0≦|δT(x)|<Tmin(=Δ)になる。よって、過不足時間δT(x)の絶対値を小さくできる。よって、アパーチャ誤差に起因するビームの照射量誤差を補正するために当該画素に必要な照射時間と実際に照射される照射時間の差を小さくできる。
【0103】
さらに、δT(x)>Tmin/2になる場合には、初期設定工程(S302)における変数T=NΔの代わりに、変数T=NΔ+Tminにして、wkを決め直しても好適である。照射時間演算工程(S110)において当該画素36の照射時間が、例えば、T=500Δとなったが、アパーチャ誤差に起因するビームの照射量誤差を補正するために当該画素に必要な照射時間が、例えば、T=500.7Δである場合を想定する。かかる場合、
図16に示したフローチャートに沿って分割ショットのON/OFFを決定することにより、式(2)の右辺第2項の値は500Δになる。よって、その際のδT(x)は0.7Δとなる。しかし、初期設定工程(S302)において、Tmin=Δを変数Tに加算しておくことで、式(2)の右辺第2項の値は501Δになる。よって、その際のδT(x)は−0.3Δになり、過不足時間δT(x)の絶対値を小さくできる。よって、アパーチャ誤差に起因するビームの照射量誤差を補正するために当該画素に必要な照射時間と実際に照射される照射時間の差を小さくできる。
【0104】
一部または全部のアパーチャの開口面積が設計値より小さくakのうち少なくとも1つがak<1となる場合、すべてのwkを1にしても|δT(x)|>Tminになる可能性がある。つまり、NΔのとりうる最大値は全てのTkの和であるが、NΔがこの値に近い場合すべてのwkを1にしても式(2)右辺にあるak・Tkの和がNΔより小さい場合があり得る。この場合、測定されたakの値に応じてカウンタ52のクロックを低い値に変更して描画制御を行う。つまりカウンタの52のクロックを低くすると制御上の量子化時間Δが大きくなるので、より小さいNで同じ露光量が得られるので、露光に必要なNΔの最大値がak・Tkの和より常に小さくなるようにできる。
【0105】
照射時間配列データ生成工程(S116)以降の各工程については上述した内容と同様である。
【0106】
以上のように、実施の形態1の変形例によれば、複数の分割ショットを2つのビームで切り替えながら実施する上に、さらに、照射量誤差を補正する照射時間にできる。よって、マルチビームを成形するアパーチャ径の製作誤差と校正のための測定誤差に起因するドーズ量誤差をさらに低減できる。
【0107】
実施の形態2.
実施の形態1では、照射時間の異なる複数の分割ショットを2つのビームのいずれかに振り分けることで、ビーム電流のばらつきの平均化を図った。しかし、上述したようにn回の分割ショットの露光で、ビーム電流のばらつきが、画素を露光するドーズに寄与する割合は各分割ショットの露光時間に比例する。よって、割り振られた2つのビーム間で当該画素36に照射される照射時間の合計がより均一になる方が望ましい。
【0108】
図17は、実施の形態2の比較例における複数の分割ショットとビームの割振りの一例を示す図である。
図17(a)に示す各分割ショットの照射時間は、
図10(a)で説明したように、2進数の各桁の値を用いているので、最上位の512Δの照射時間をもつ分割ショットとほぼ同じ照射時間を得るためには、256Δ以下の照射時間を合計する必要がある。よって、例えば、512Δの分割ショットを切り替えビーム(ビームb)が担当する場合、
図17(b)に示すように、割り振られた2つのビーム間で当該画素36に照射される照射時間の合計がより均一になるためには、256Δ以下の照射時間をもつすべての分割ショットを基準ビーム(ビームa)が担当する必要がある。しかし、かかる振り分けの仕方では、画素36によっては、必要な照射時間が511Δ以下の場合もあり得る。かかる場合、512Δの分割ショットがビームOFFとなり、ビームbが使用されることが無くなってしまう。それでは、ビーム電流のばらつきの平均化が困難となってしまう。よって、複数の分割ショットのうち、照射時間が長い上位の分割ショットについては、複数のビームに振り分けられることが望ましい。なお、例えば64Δ以下の照射時間をもつ下位の分割ショットについては、もともと照射時間が短いのでビーム電流のばらつきが生じても露光するドーズに寄与する割合は小さいので許容することができる。
【0109】
図18は、実施の形態2における複数の分割ショットとビームの割振りの一例を示す図である。実施の形態2では、複数の分割ショットの少なくとも1つの分割ショットが複数のサブ分割ショットに分割される。
図18(a)の例では、
図10(a)に示した複数の分割ショットのうち、最上位の512Δの照射時間をもつ分割ショットと、上位2番目の256Δの照射時間をもつ分割ショットとが、それぞれ2つずつのサブ分割ショットに分割される場合を示す。すなわち、512Δの照射時間をもつ分割ショットは、256Δの照射時間をもつ2つのサブ分割ショットに分割される。同様に、256Δの照射時間をもつ分割ショットは、128Δの照射時間をもつ2つのサブ分割ショットに分割される。その他は
図10(a)と同様である。
【0110】
なお、実施の形態2における描画装置100の構成は
図1と同様である。また、実施の形態2における描画方法の要部工程を示すフローチャートは
図8或いは
図15と同様である。また、以下特に説明する点以外の内容は実施の形態1と同様である。
【0111】
基準ビーム特定工程(S102)と切り替えビーム特定工程(S104)の内容は実施の形態1と同様である。
【0112】
分割ショット割振り工程(S106)として、割振部76は、マルチビーム20の1つのビームあたりの試料101の画素36(単位照射領域)毎に、1回のショットあたりの最大照射時間Ttrのショットが分割された、同じ画素36に連続して行われる照射時間の異なる複数の分割ショットの各分割ショットをマルチビーム20の一括偏向により切り替え可能な複数のビームの少なくとも1つに割り振る。実施の形態2において、割振部76は、割り振られたビーム間で当該画素36に照射される照射時間の合計ができるだけ均一に近づくように、複数の分割ショットの各分割ショットを複数のビームの少なくとも1つに割り振る。そのために、割振部76は、複数のサブ分割ショットの各サブ分割ショットと、サブ分割ショットに分割されなかった残りの分割ショットとを複数のビームのいずれかに割り振る。特に、実施の形態2では、サブ分割ショットについては、複数のビームにそれぞれ割り振る。
【0113】
割振部76は、各画素について、例えば、512Δの照射時間tkをもつ分割ショットを分割した256Δの照射時間tkをもつ2つのサブ分割ショットの一方を切り替えビーム(ビームb)に割り振る。256Δの照射時間tkをもつ2つのサブ分割ショットの他方を基準ビーム(ビームa)に割り振る。256Δの照射時間tkをもつ分割ショットを分割した128Δの照射時間tkをもつ2つのサブ分割ショットの一方を切り替えビーム(ビームb)に割り振る。128Δの照射時間tkをもつ2つのサブ分割ショットの他方を基準ビーム(ビームa)に割り振る。128Δの照射時間tkをもつ分割ショットを切り替えビーム(ビームb)に割り振る。64Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、32Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、16Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、8Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、4Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、2Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、を基準ビーム(ビームa)に割り振る。
【0114】
どの分割ショットを基準ビームに割り振り、どの分割ショットを切り替えビームに割り振るかは予め設定しておけばよい。ここでは、画素にそれぞれ特定された実際の基準ビームと実際の切り替えビームに複数の分割ショット及び複数のサブ分割ショットを割り振ればよい。
【0115】
ソート処理工程(S108)として、ソート処理部78は、分割ショットの実施順をビーム単位でまとめるようにソート処理する。ビーム単位でまとめることで、ビームの切り替え動作を減らすことができ、描画時間を短縮できる。
図18(b)の例では、
図10(b)と同様、切り替えビーム(ビームb)が担当する分割ショットを先にまとめ、その後に基準ビーム(ビームa)が担当する分割ショットが続く。
【0116】
図18(b)の例では、同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkが長い分割ショットが先に実施されるように示しているが、これに限るものではない。同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkが短い分割ショットが先に実施されても良い。或いは、同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkがランダムになる順序で分割ショットが実施されても良い。
【0117】
サブ分割ショットを用いることで、
図18(b)に示すように、基準ビーム(ビームa)の合計照射時間は511Δになり、切り替えビーム(ビームb)の合計照射時間は512Δとなる。よって、割り振られたビーム間で当該画素36に照射される照射時間の合計をより均一に近づけることができる。照射時間演算工程(S110)以降の各工程の内容は実施の形態1と同様である。
【0118】
なお、分割ショットを複数のサブ分割ショットに分割した場合、増えた分だけ次の分割ショット(或いはサブ分割ショット)を行う前に、個別ブランキング機構のアンプ46の電圧安定時間(セトリング時間)を待つ回数が増えることになるが、1画素あたりの最大照射時間Ttr(例えば10〜100μs)に比べて大幅に小さいので描画時間の遅延は無視できる程度にできる。
【0119】
以上のように実施の形態2によれば、割り振られたビーム間で当該画素36に照射される照射時間の合計をより均一に近づけることができる。よって、ビーム電流のばらつきの平均化をより進めることができる。
【0120】
実施の形態3.
実施の形態2では、2つのビームでビーム電流のばらつきの平均化を図った。しかし、使用した2つのビームを形成するアパーチャ径がいずれも大きく誤差が生じていた場合、平均化効果が小さい。よって、1つの画素36に割り振られるビーム数は多い方が平均化の効果が高い。
【0121】
図19は、実施の形態3における複数の分割ショットの途中でのビーム切り替えを説明するための図である。
図19(a)の例では、5×5のマルチビーム20を用いて、試料にマルチビーム20をショットする場合の一例を示している。例えば、注目グリッド29の最上段左から1番目の画素36をマルチビーム20のうちのビームaが基準ビームとして担当する場合を示している。ビームaは、一度に照射可能な照射領域34を照射する5×5のマルチビーム20の上から2段目左から2列目のビームを示す。複数の分割ショットのうち、例えば、1〜7番目の分割ショットをビームaが担当して行った後、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ
図19(a)が示す上方へ一括偏向によりビーム照射位置をシフトする。これにより、
図19(b)に示すように、注目グリッド29の最上段左から1番目の画素36は、ビームaからビームbに切り替わる。そして、複数の分割ショットのうち、8,9番目の分割ショットをビームbが担当して行った後、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ
図19(b)が示す左側へ一括偏向によりビーム照射位置をシフトする。これにより、
図19(c)に示すように、注目グリッド29の最上段左から1番目の画素36は、ビームbからビームcに切り替わる。そして、複数の分割ショットのうち、10,11番目の分割ショットをビームcが担当して行った後、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ
図19(c)が示す下方へ一括偏向によりビーム照射位置をシフトする。これにより、
図19(d)に示すように、注目グリッド29の最上段左から1番目の画素36は、ビームcからビームdに切り替わる。そして、残りの分割ショットをビームdが担当する。これにより、注目グリッド29の最上段左から1番目の画素36は、ビームa〜dの4つのビームによって多重露光されることになる。ビームaを成形する成形アパーチャアレイ部材203の穴22(アパーチャ)の径が設計値に対して加工誤差が生じていた場合でも、ビームb,c,dを重ねて照射することで、ビーム電流量の誤差の平均化をさらに進めることができる。その結果、当該画素へのドーズ量誤差を低減できる。例えば、ビームa〜dの4つのビームで照射することで、ビームaだけで照射する場合に比べてかかる画素36に照射されるビーム電流のばらつきの統計誤差を低減できる。例えば、4つのビーム間で照射時間が同じにできれば、ビーム電流のばらつきの統計誤差を1/4
(1/2)倍に低減できる。
【0122】
図19の例では、基準ビーム(ビームa)、切り替えビーム(ビームb)、切り替えビーム(ビームc)、切り替えビーム(ビームd)の順で分割ショットを行う場合を説明したが、これに限るものではない。例えば、後述するように切り替えビーム(ビームd)、切り替えビーム(ビームc)、切り替えビーム(ビームb)、基準ビーム(ビームa)、の順で分割ショットを行っても構わない。
【0123】
なお、
図9の例では、5×5のマルチビーム20を偏向器209により1ビームピッチ分だけ上方(y方向)、左側(−x方向)、下方(−y方向)の順で一括偏向する場合を示したがこれに限るものではない。4つのビームが順に対応画素へと照射できればよい。また、ビームのシフト量も1ビームピッチ分に限るものではない。2ビームピッチ以上であってもよい。ビームのシフト量が偏向器209で偏向可能なビームピッチの整数倍であれば、いずれかのビームに切り替えることができる。
【0124】
図20は、実施の形態3における複数の分割ショットとビームの割振りの一例を示す図である。実施の形態3では、複数の分割ショットの少なくとも1つの分割ショットが複数のサブ分割ショットに分割される。
図20(a)の例では、
図10(a)に示した複数の分割ショットのうち、最上位の512Δの照射時間をもつ分割ショットが4つのサブ分割ショットに分割され、上位2番目の256Δの照射時間をもつ分割ショットが2つのサブ分割ショットに分割される場合を示す。すなわち、
図18(a)の例では上位2番目の256Δの照射時間をもつ分割ショットと同じ256Δの照射時間をもつサブ分割ショットを残したが、
図20(a)の例では、上位1,2番目の照射時間をもつ分割ショットを上位3番目の128Δの照射時間をもつ分割ショットと同じ128Δの照射時間をもつ6つのサブ分割ショットに分割する。そして、4つのビームa,b,c,dに振り分ける。その他は
図18(a)と同様である。
【0125】
なお、実施の形態3における描画装置100の構成は
図1と同様である。また、実施の形態3における描画方法の要部工程を示すフローチャートは
図8或いは
図15と同様である。また、以下特に説明する点以外の内容は実施の形態1と同様である。
【0126】
基準ビーム特定工程(S102)の内容は実施の形態1と同様である。
【0127】
切り替えビーム特定工程(S104)として、特定部74は、画素36毎に、マルチビームの一括偏向により切り替え可能なビームを当該画素にビームを照射する切り替えビームとして特定する。
図19の例では、基準ビーム(ビームa)に対して、3つの切り替えビーム(ビームb、ビームc、ビームd)を特定する。
【0128】
分割ショット割振り工程(S106)として、割振部76は、マルチビーム20の1つのビームあたりの試料101の画素36(単位照射領域)毎に、1回のショットあたりの最大照射時間Ttrのショットが分割された、同じ画素36に連続して行われる照射時間の異なる複数の分割ショットの各分割ショットをマルチビーム20の一括偏向により切り替え可能な複数のビームの少なくとも1つに割り振る。実施の形態3において、割振部76は、割り振られたビーム間で当該画素36に照射される照射時間の合計ができるだけ均一に近づくように、複数の分割ショットの各分割ショットを複数のビームの少なくとも1つに割り振る。そのために、割振部76は、複数のサブ分割ショットの各サブ分割ショットと、サブ分割ショットに分割されなかった残りの分割ショットとを複数のビームのいずれかに割り振る。特に、実施の形態3では、サブ分割ショットについては、より多くの複数のビームにそれぞれ割り振る。
【0129】
割振部76は、各画素について、例えば、512Δの照射時間tkをもつ分割ショットを分割した128Δの照射時間tkをもつ4つのサブ分割ショットの1つ目を切り替えビーム(ビームd)に割り振る。128Δの照射時間tkをもつ4つのサブ分割ショットの2つ目を切り替えビーム(ビームc)に割り振る。128Δの照射時間tkをもつ4つのサブ分割ショットの3つ目を切り替えビーム(ビームb)に割り振る。128Δの照射時間tkをもつ4つのサブ分割ショットの4つ目を切り替えビーム(ビームa)に割り振る。256Δの照射時間tkをもつ分割ショットを分割した128Δの照射時間tkをもつ2つのサブ分割ショットの一方を切り替えビーム(ビームd)に割り振る。128Δの照射時間tkをもつ2つのサブ分割ショットの他方を基準ビーム(ビームc)に割り振る。128Δの照射時間tkをもつ分割ショットを切り替えビーム(ビームb)に割り振る。64Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、32Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、16Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、8Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、4Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、2Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、Δの照射時間tkをもつ分割ショットと、を基準ビーム(ビームa)に割り振る。
【0130】
どの分割ショットを基準ビームに割り振り、どの分割ショットを切り替えビームに割り振るかは予め設定しておけばよい。ここでは、画素にそれぞれ特定された実際の基準ビームと実際の切り替えビームに複数の分割ショット及び複数のサブ分割ショットを割り振ればよい。
【0131】
ソート処理工程(S108)として、ソート処理部78は、分割ショットの実施順をビーム単位でまとめるようにソート処理する。ビーム単位でまとめることで、ビームの切り替え動作を減らすことができ、描画時間を短縮できる。
図20(b)の例では、切り替えビーム(ビームd)、切り替えビーム(ビームc)、切り替えビーム(ビームb)、基準ビーム(ビームa)、の順で担当する分割ショットが続く。
【0132】
図20(b)の例では、同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkが長い分割ショットが先に実施されるように示しているが、これに限るものではない。同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkが短い分割ショットが先に実施されても良い。或いは、同じビームが担当する複数の分割ショット内で、照射時間tkがランダムになる順序で分割ショットが実施されても良い。
【0133】
サブ分割ショットを用いることで、
図20(b)に示すように、基準ビーム(ビームa)の合計照射時間は255Δになり、切り替えビーム(ビームb)の合計照射時間は256Δになり、切り替えビーム(ビームc)の合計照射時間は256Δになり、切り替えビーム(ビームd)の合計照射時間は256Δとなる。よって、割り振られたビーム間で当該画素36に照射される照射時間の合計をより均一に近づけることができる。照射時間演算工程(S110)以降の各工程の内容は実施の形態1と同様である。
【0134】
なお、判定工程(S124)において、判定部92は、データ転送されたk番目の分割ショットのデータがk’番目のデータかどうかを判定する。
図29(b)の例では、1,2番目の分割ショットを切り替えビーム(ビーム(d))が実施し、3,4番目の分割ショットを切り替えビーム(ビーム(c))が実施し、5,6番目の分割ショットを切り替えビーム(ビーム(b))が実施し、7番目の分割ショット以降を基準ビーム(ビーム(a))が実施することになるので、k’=3,5,7が設定されることになる。k番目の分割ショットのデータがk’番目のデータであれば、ビーム切り替え工程(S126)に進む。k番目の分割ショットのデータがk’番目のデータでなければ、k番目分割ショット工程(S128)に進む。
【0135】
照射時間が短い分割ショットから順に行う場合には、1〜8番目の分割ショットを基準ビーム(ビーム(a))が実施し、9,10番目の分割ショット以降を切り替えビーム(ビーム(b))が実施が実施し、11,12番目の分割ショット以降を切り替えビーム(ビーム(c))が実施し、13,14番目の分割ショット以降を切り替えビーム(ビーム(d))が実施することになるので、k’=9,11,13が設定されることになる。
【0136】
そして、ビーム切り替え工程(S126)において、ビームシフト処理部94は、
図19(a)から
図19(d)に示すように、マルチビーム20全体を一括偏向して、各画素を照射するビームを基準ビームと3つの切り替えビームの間で順に切り替える。
図20(b)の例では、切り替えビーム(ビームd)、切り替えビーム(ビームc)、切り替えビーム(ビームb)、基準ビーム(ビームa)、の順に分割ショットが実施されるので、3番目の分割ショットのデータに沿って分割ショットを行う際に、切り替えビーム(ビーム(d))から基準ビーム(ビーム(c))に切り替える。同様に、5番目の分割ショットのデータに沿って分割ショットを行う際に、切り替えビーム(ビーム(c))から基準ビーム(ビーム(b))に切り替える。同様に、7番目の分割ショットのデータに沿って分割ショットを行う際に、切り替えビーム(ビーム(b))から基準ビーム(ビーム(a))に切り替える。
【0137】
なお、実施の形態3では、ビーム切り替え回数が3回と多くなった分、次の分割ショットを行う前にDACアンプ132の出力が静定するまで次の分割ショットを待つ回数が多くなる。しかし、上述したように、ビームピッチが例えば160μm等と小さい場合、DACアンプ132の静定時間(セトリング時間)は100ns以下で済む。一方、1画素あたりの最大照射時間Ttrは10〜100μsと桁違いに長いので、ビーム切り替えに伴う描画時間の遅延は無視できる程度にできる。また、サブ分割ショットの数も増えるが、同様に、描画時間の遅延は無視できる程度にできる。
【0138】
以上のように実施の形態3によれば、より多くのビームによりビーム電流のばらつきの平均化ができる。さらに、ビーム間の照射時間を同程度にすることで、ビーム間で平均化効果での重みを同じにできる。さらに、上位1番目の長い照射時間をもつ分割ショットと上位2番目の長い照射時間をもつ分割ショットとのどちらかがビームOFFになった場合でも、4つのビームで画素を照射できる。
【0139】
以上のように各実施の形態でのマルチビーム描画装置は、複数ビームと、ビーム毎独立なON/OFF制御と、ビームに共通な偏向制御を用いて描画を行う。かかる描画方式により、試料101面上に例えばビームサイズと同じ画素を定義して、画素36毎に必要な照射量を与えることができる。また、ビームサイズよりも細かいパターンの寸法と位置の制御を実現するには、グレービーム描画方式を用いればよい。これはパターン端に重なる画素の照射量を、レジストの解像に最適な値よりも同じか少ない照射量で制御してパターン端の位置を制御する方法である。VSB描画装置では、露光に最適なドーズに対応する露光時間を用いるのに対し、グレービーム描画方式では、(1)パターン内部ではVSB描画装置と同じ露光時間を用いる一方、(2)パターン端に重なる画素では、画素内のパターン占有率に応じてほぼゼロの露光時間から最適露光時間までの広い露光時間制御が行われる。
【0140】
また、各実施の形態でのマルチビーム描画装置は、上述したように、ビーム毎の露光時間を独立にNビットで制御する。ブランキング制御回路それぞれにnビットのカウンタを配置するとなるとブランキングアパーチャの製作が困難である。しかし、各実施の形態でのマルチビーム描画装置は、
図7において説明したようにnビットの共通カウンタによる露光時間制御とビーム毎のON/OFF制御を組みあわせて、露光時間が異なる複数回の露光工程を行い、露光時間の和nビットでビーム毎独立に制御できる。
【0141】
図21は、各実施の形態の比較例における露光シーケンスの一例を示す図である。マルチビーム用アパーチャでは、アパーチャ径の大きさが例えば1〜2μmと非常に小さいためアパーチャの面積とビーム毎のビーム電流を均一にすることは困難である。対策として、ビーム毎の電流を正確に測定して露光時間で補正を掛ける方法が考えられるが、ビームの数が多い、照明電流の変化があるなどの理由で常に正確な電流量を把握して補正することは困難である。
【0142】
かかる場合、同一画素を複数のビームで露光することでビーム電流量の誤差を平均化することができる。
図21(a)では、分割ショットの回数nがn=6の場合に、ある画素をビームaでのみ露光する場合を示している。
図21(b)では、ある画素をビームaとビームbで露光する場合の二通りの制御方法を示す。
図21(b)では、露光時間の制御単位としてt’=t/2を用いて、ビームaでのn回の露光と、ビームbでのn回の露光を行っている場合を示す。
図21(b)の方法では、2つのビームで同一画素を露光することにより、ビーム電流のばらつきの統計誤差を1/√2に低減することができる。一方で1画素を露光するのに必要なデータ量は2倍の2nビットになる。従って、データ転送速度を2倍にするか、描画時間を長く設定してデータ転送完了の待ち時間を確保するなどの対応が必要になる。また露光時間制御のカウンタの動作周波数を2倍にする必要がある。
【0143】
また、
図21(b)ではn回の露光すべてを、2つのビームで実施している。n回の各回の露光で、ビーム電流のばらつきが、画素を露光するドーズに寄与する割合は各回の露光時間に比例する。従って、ビーム毎のビーム電流のばらつきを低減させる意味では、露光時間が32Δt,16Δt,8Δtの工程で複数ビームを用いることは効果が大きいが、露光時間が4Δt,2Δt,Δtの露光工程で複数ビームを用いることは効果が小さい。
【0144】
そのため、上述したように、各実施の形態では、1画素を複数回露光して露光時間の総和としてnビットの露光時間制御を行う描画方法において、複数回の露光時間を2つ以上のビームを切り替えて行う。特に、複数回の露光のうち、露光時間の長いものを2つ以上のビームを切り替えて行う。
【0145】
図22は、各実施の形態を比較した露光シーケンスの一例を示す図である。
図22の例では、縦軸にビーム電流を示し、横軸に時間を示す。また、
図22の例では、分割ショットの数をn=6とした場合について示している。実施の形態1に対応する
図22(a)の例では、露光時間が32Δtと8Δtである2回の露光時間をビームbで、それ以外の4回の露光をビームaで実施している場合を示す。実施の形態2に対応する
図22(b)の例では、露光時間が32Δtの露光時間を16Δtの2つのサブ露光時間に分割し、16Δtの露光時間を8Δtの2つのサブ露光時間に分割した場合を示している。そして、16Δtの2つのサブ露光時間の一方をビームaで実施し、16Δtの2つのサブ露光時間の他方をビームbで実施し、8Δtの露光時間をビームbで、それ以外の4回の露光をビームaで実施している場合を示す。実施の形態3に対応する
図22(c)の例では、露光時間が32Δtの露光時間を8Δtの4つのサブ露光時間に分割し、16Δtの露光時間を8Δtの2つのサブ露光時間に分割した場合を示している。そして、32Δtを分割した8Δtの4つのサブ露光時間をビームa〜dでそれぞれ1回ずつ実施し、16Δtを分割した8Δtの2つのサブ露光時間をビームc,dでそれぞれ1回ずつ実施し、8Δtの露光時間をビームbで、それ以外の4回の露光をビームaで実施している場合を示す。n=6の場合、画素の総露光時間Tは0,Δt,2Δt,・・・,63Δtのいずれかである。総露光時間に応じて、
図22(a)の例では6回のビームのON/OFFが切り替えられる。
図22(b)の例では8回のビームのON/OFFが切り替えられる。
図22(c)の例では10回のビームのON/OFFが切り替えられる。
図22(a)より
図22(b)の方がよりビーム電流のばらつきの平均化における各ビームの影響の偏りが小さいことがわかる。そして、
図22(b)より
図22(c)の方がよりビーム電流のばらつきの平均化の効果が大きいことがわかる。次に、サブ露光時間を用いない場合での切り替えビーム数の効果について説明する。
【0146】
図23は、実施の形態1における2つのビーム切り替えにより描画した場合の各ビーム露光時間を比較した一例を示す図である。露光時間に応じて複数回の露光でのビームのON/OFFは変わり、同時にビームaの露光時間の和とビームbの露光時間の和も変わる。ビーム電流の誤差を平均化する観点では、ビームaの露光時間とビームbの露光時間がほぼ同じであることが望ましいが、
図23の例では50%以上の開きがある場合が多い。
図23の例は、ビーム電流の誤差の低減方法として最適ではないが、一定の効果はある。
図23において、T=7Δtの場合はビームbの露光時間は0であり、ビーム電流の誤差の平均化効果はなくなるが、総露光時間自体が小さいので描画精度への影響は小さい。一方T=40Δtの場合は長い露光時間をビームbでのみ露光することになり、描画精度への影響が大きく好ましくない。
【0147】
図24は、実施の形態1の変形例において3つのビーム切り替えにより描画した場合の各ビーム露光時間を比較した一例を示す図である。
図24の例では、ビームa,b,cの3のビームで1つの画素を露光する。ビーム数を2つから3つにすれば、総露光時間が40Δtの場合でもビームa,cでの2つのビームで露光を行いビーム電流の平均化効果を
図23で示した例より高めることができる。
【0148】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述した例では、各画素に対して複数の分割ショットを1回ずつ行う場合を示したが、これに限るものではない。さらに、mパスの多重描画をおこなっても良い。例えば、mパスの多重描画の各パスの複数の分割ショットの合計照射時間が互いに同程度であり、1パス分の複数の分割ショットを担当するp個のビームの照射時間がビーム間で同程度である場合には、1つのビームだけで1回分の複数の分割ショットを行う場合に比べてかかる画素36に照射されるビーム電流のばらつきの統計誤差を1/(m・p)
(1/2)倍に低減できる。
【0149】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0150】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。