特許第6617312号(P6617312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6617312リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6617312
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20191202BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20191202BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20191202BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20191202BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20191202BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20191202BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20191202BHJP
   H01M 10/654 20140101ALI20191202BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/58
   H01M10/613
   H01M10/651
   H01M10/654
【請求項の数】2
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-34805(P2017-34805)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-142420(P2018-142420A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2017年6月1日
【審判番号】不服2018-5604(P2018-5604/J1)
【審判請求日】2018年4月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】北川 高郎
(72)【発明者】
【氏名】休石 紘史
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 亀ヶ谷 明久
【審判官】 平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−113783(JP,A)
【文献】 特開2013−65467(JP,A)
【文献】 特開2013−243152(JP,A)
【文献】 特開2015−49995(JP,A)
【文献】 特開2016−186933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiPOで表わされる化合物(但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦a≦1.0、0<b≦1.0)を含む第一の電極活物質と、
一般式Liで表される化合物(但し、Bは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦c≦1.0、0<d≦1.0)、コバルト酸リチウム系化合物、マンガン酸リチウム系化合物およびニッケル酸リチウム系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む第二の電極活物質と、
導電助剤と、
バインダーと、を含む混合物からなる電極合剤層を備えるリチウムイオン二次電池用電極であって、
前記電極合剤層の熱拡散率、定圧比熱および密度を用いて下記式(1)により導出された、前記電極合剤層の熱伝導率が0.9W/(m・K)以上であり、
前記電極合剤層の密度が2.0g/cm以上であり、
前記第一の電極活物質は、少なくとも前記一般式LiPOで表わされる化合物の表面を被覆する炭素質被膜を有し、
前記炭素質被膜の密度が0.3g/cm以上かつ1.5g/cm以下であり、
前記第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)に対して、前記第一の電極活物質の二次粒子の平均粒子径が0.01M以上かつ0.30M以下であり、前記第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)が10μm以上かつ200μm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
λ=α×Cp×ρ×100・・・(1)
λ:熱伝導率[W/(m・K)]
α:熱拡散率[cm/sec]
Cp:定圧比熱[J/(g・K)]
ρ:密度[g/cm
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極およびそれを備えたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化、高出力化が期待される電池として、リチウムイオン二次電池等の非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。
このリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極および負極と、非水系の電解質とから構成されている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池は、電力貯蔵用蓄電池、自動二輪車、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、アイドリングストップシステム等への適用が検討されている。これに伴って、リチウムイオン二次電池の研究開発は、大容量化および高エネルギー密度化の方向へと広がりを見せている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の負極材料としては、負極活物質として、一般に炭素系材料またはチタン酸リチウム(LiTi12)等の、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物が用いられている。
リチウムイオン二次電池の正極材料としては、正極活物質として、層状酸化物系のコバルト酸リチウム(LCO)やコバルトの一部をマンガンおよびニッケルで置換した三元系層状酸化物(NCM)、マンガン酸リチウム化合物であるスピネルマンガンリチウム(LMO)、リン酸鉄リチウム(LFP)等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物や、バインダー等を含む電極材料合剤が用いられている。そして、この電極材料合剤を集電体と称される金属箔の表面に塗布することにより、リチウムイオン二次電池の正極が形成されている。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池は、従来の鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等の二次電池と比べて、軽量かつ小型であるとともに、高エネルギーを有している。そのため、リチウムイオン二次電池は、携帯用電話機、ノート型パーソナルコンピューター等の携帯用電子機器に用いられる小型電源のみならず定置式の非常用大型電源としても用いられている。また、近年、リチウムイオン二次電池は、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電動工具等の高出力電源としても検討されている。これらの高出力電源として用いられるリチウムイオン二次電池には、高速の充放電特性が求められている。
【0006】
しかしながら、電極活物質、例えば、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するリチウムリン酸塩化合物を含む電極材料は、電子伝導性が低いという問題がある。そこで、電極材料の電子伝導性を高めるために、電極活物質の粒子表面を炭素源である有機分で覆い、その後に有機分を炭化して、電極活物質の粒子表面に炭素質被膜を形成し、この炭素質被膜の炭素を電子伝導性物質として介在させた電極材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、電極活物質の電子伝導性は高い程好ましい。電極活物質の表面に形成される炭素質被膜の厚さにムラが生じると、正電極中で局所的に電子伝導性の低い箇所が生じる。そのため、リチウムイオン二次電池が、定置式の非常用大型電源として用いられる場合、特に低温下で使用される場合、リチウムイオン二次電池には、放電末期の電圧降下に伴う容量低下の問題が生じる。そこで、従来、電極活物質の炭素質被膜の厚さのムラを低減する目的で、凝集粒子の凝集体密度を制御することによって、電極活物質の炭素質被膜の厚さのムラを軽減する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−15111号公報
【特許文献2】特開2012−13388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、リチウムイオン二次電池の大容量化および高エネルギー密度化に伴って、特に高速で充放電する際に、正極材料の酸化還元反応に伴う熱放出により、電極内部の温度が局所的に高くなることがある。これにより、正極材料から金属元素が溶解する等の電極材料の劣化が加速される。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を含む混合物からなる電極合剤層を備え、その電極合剤層の密度が2.0g/cm以上であるリチウムイオン二次電池用電極の局所的な温度上昇を速やかに解消することが可能なリチウムイオン二次電池用電極およびそれを備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、リチウムイオン二次電池用電極を製造する際に、第一の電極活物質と第二の電極活物質を含み、かつ電極合剤層の熱伝導率を0.9W/(m・K)以上とし、電極合剤層の密度を2.0g/cm以上、第一の電極活物質において、少なくとも一般式LiPOで表わされる化合物の表面を被覆する炭素質被膜を形成し、炭素質被膜の密度を0.3g/cm以上かつ1.5g/cm以下とし、前記第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)に対して、前記第一の電極活物質の二次粒子の平均粒子径を0.01M以上かつ0.30M以下とし、前記第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)を10μm以上かつ200μm以下とすることによって、リチウムイオン二次電池用電極の放熱特性を改善することが可能であって、大容量化および高エネルギー密度化されたリチウムイオン二次電池において、特に高速で充放電する際に、正極材料の酸化還元反応に伴う熱放出によるリチウムイオン二次電池用電極の局所的な温度上昇の速やかな解消が実現可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、一般式LiPOで表わされる化合物(但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦a≦1.0、0<b≦1.0)を含む第一の電極活物質と、一般式Liで表される化合物(但し、Bは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦c≦1.0、0<d≦1.0)、コバルト酸リチウム系化合物、マンガン酸リチウム系化合物およびニッケル酸リチウム系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む第二の電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を含む混合物からなる電極合剤層を備えるリチウムイオン二次電池用電極であって、前記電極合剤層の熱拡散率、定圧比熱および密度を用いて下記式(1)により導出された、前記電極合剤層の熱伝導率が0.9W/(m・K)以上であり、前記電極合剤層の密度が2.0g/cm以上であり、前記第一の電極活物質は、少なくとも前記一般式LiPOで表わされる化合物の表面を被覆する炭素質被膜を有し、前記炭素質被膜の密度が0.3g/cm以上かつ1.5g/cm以下であり、前記第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)に対して、前記第一の電極活物質の二次粒子の平均粒子径が0.01M以上かつ0.30M以下であり、前記第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)が10μm以上かつ200μm以下であることを特徴とする。
λ=α×Cp×ρ×100・・・(1)
λ:熱伝導率[W/(m・K)]
α:熱拡散率[cm/sec]
Cp:定圧比熱[J/(g・K)]
ρ:密度[g/cm
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極によれば、リチウムイオン二次電池を高速で充放電した際に、正極材料の酸化還元反応に伴う熱放出による第一の電極活物質もしくは第二の電極活物質の局所的な温度上昇が、放電電位が異なるために酸化還元反応に関わらない隣接する電極活物質に、酸化還元反応に伴って生じた熱を供与し、その結果としてリチウムイオン二次電池用電極の局所的な温度上昇の速やかな解消が可能となる。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えているため、高速の充放電が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極およびそれを備えたリチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
[リチウムイオン二次電池用電極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極は、第一の電極活物質と、第二の電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を含む混合物(電極材料合剤)からなる電極合剤層を備える。すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極は、電極集電体と、その電極集電体上に形成された電極合剤層と、を備え、電極合剤層が、第一の電極活物質と、第二の電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を含む混合物からなる。本実施形態において、第一の電極活物質と第二の電極活物質を含む材料は、リチウムイオン二次電池用電極材料である。
【0018】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極において、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極の熱拡散率、比熱および密度を用いて下記式(1)により導出された、リチウムイオン二次電池用電極の熱伝導率が0.9W/(m・K)以上である。
λ=α×Cp×ρ×100・・・(1)
λ:熱伝導率[W/(m・K)]
α:熱拡散率[cm/sec]
Cp:定圧比熱[J/(g・K)]
ρ:電極密度[g/cm
リチウムイオン二次電池用電極の熱伝導率が0.9W/(m・K)未満では、リチウムイオン二次電池用電極において局所的な温度上昇が生じる。その結果、そのリチウムイオン二次電池用電極を備えたリチウムイオン二次電池は、高速の充放電が不可能となる。
【0019】
「リチウムイオン二次電池用電極材料」
本実施形態における第一の電極活物質は、一般式LiPOで表わされる化合物(但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦a≦1.0、0<b≦1.0)を含む。
【0020】
また、第一の電極活物質は、一般式LiPOで表わされる化合物(但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦a≦1.0、0<b≦1.0)と、一般式LiPOで表わされる化合物の表面に存在する一般式LiPOで表わされる化合物(但し、Cは、FeおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種、0≦e<2、0<f<1.5)と、を含むことが好ましい。
【0021】
上記の一般式LiPOで表わされる化合物(以下、「化合物A」と言うこともある。)としては、例えば、LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO、LiFe0.5Mn0.5PO、LiFe0.4Mn0.6PO、LiFe0.3Mn0.7PO、LiFe0.2Mn0.8PO、LiFe0.1Mn0.9PO等が挙げられる。
上記の一般式LiPOで表わされる化合物(以下、「化合物B」と言うこともある。)としては、例えば、LiFePO、LiFePO、LiMnPO、LiMnPO、LiFe0.5Mn0.5PO、LiFe0.4Mn0.6PO、LiFe0.3Mn0.7PO、LiFe0.2Mn0.8PO、LiFe0.1Mn0.9PO、LiFe0.5Mn0.5PO、LiFe0.4Mn0.6PO、LiFe0.3Mn0.7PO、LiFe0.2Mn0.8PO、LiFe0.1Mn0.9PO等が挙げられる。
【0022】
第一の電極活物質が、化合物Aと、その表面に存在する化合物Bとを含むことにより、例えば、化合物AがLiMnPO、LiCoPO、LiNiPOのような電極活物質表面に炭素質被膜を形成し難い材料においても化合物Bが介在することによって、電極活物質表面に炭素質被膜を形成することが可能となる。
【0023】
第一の電極活物質が、化合物Aと、その表面に存在する化合物Bとを含む場合、化合物Aと化合物Bの比は、モル比で、99.9:0.1〜90.0:10.0であることが好ましく、99.5:0.5〜95.0:5.0であることがより好ましい。
【0024】
また、第一の電極活物質は、表面に炭素質被膜が形成された第一の電極活物質を凝集してなる凝集体を形成する。凝集体の体積密度は、凝集体を中実と仮定した場合の体積密度の50体積%以上かつ80体積%以下である。
【0025】
ここで、中実な凝集体とは、空隙が全く存在しない凝集体のことであり、この中実な凝集体の密度は第一の電極活物質の理論密度に等しいものとする。
また、表面に炭素質被膜が形成された第一の電極活物質を凝集してなる凝集体とは、表面に炭素質被膜が形成された第一の電極活物質同士が、点接触の状態で凝集し、第一の電極活物質同士の接触部分が断面積の小さい頸部状となって強固に接続された状態の凝集体のことである。このように、第一の電極活物質同士の接触部分が断面積の小さい頸部状となることで、凝集体内部にチャネル状(網目状)の空隙が三次元に広がった構造となる。
【0026】
なお、この凝集体の体積密度が、凝集体を中実と仮定した場合の体積密度の50体積%以上であると、凝集体が緻密化することにより凝集体の強度が増し、例えば、第一の電極活物質をバインダー、導電助剤および溶媒と混合して電極スラリーを調製する際に凝集体が崩れ難くなる。その結果、電極スラリーの粘度の上昇が抑制され、かつ流動性が保たれる。これにより、電極スラリーの塗工性が向上するとともに、電極スラリーからなる塗膜における第一の電極活物質の充填性の向上をも図ることができる。電極スラリーを調製する際に凝集体が崩れる場合には、第一の電極活物質同士を結着するバインダーの必要量が増えるため、電極スラリーの粘度上昇、電極スラリーの固形分濃度低下、および正極膜質量に占める第一の電極活物質比率の低下を招き、好ましくない。
【0027】
第一の電極活物質の一次粒子の粒子径は特に限定されないが、平均粒子径は0.01μm以上かつ20μm以下であることが好ましく、0.02μm以上かつ5μm以下であることがより好ましい。
ここで、第一の電極活物質の一次粒子の平均粒子径を上記の範囲に限定した理由は、一次粒子の平均粒子径が0.01μm以上であれば、一次粒子の表面を薄膜状の炭素で充分に被覆することができるため、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、一次粒子の平均粒子径が20μm以下であれば、一次粒子の内部抵抗が大きくならないため、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が向上する。
【0028】
第一の電極活物質は、リチウムイオン二次電池の電極材料として用いる場合にリチウムイオンの脱挿入に関わる反応を第一の電極活物質の表面全体で均一に行うために、少なくとも第一の電極活物質を構成する化合物Aの表面の80%以上が炭素質被膜で被覆されていることが好ましく、少なくとも第一の電極活物質を構成する化合物Aの表面の90%以上が炭素質被膜で被覆されていることがより好ましい。第一の電極活物質が、化合物Aと、その表面に存在する化合物Bとを含む場合、化合物Aの表面と化合物Bの表面が炭素質被膜で被覆されていることがある。
【0029】
この場合、第一の電極活物質と、第二の電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を含む混合物からなる電極合剤層の密度が2.0g/cm以上であることが好ましく、2.1g/cm以上であることがより好ましい。電極合剤層の密度が2.0g/cm以上であれば、電力貯蔵用蓄電池、自動二輪車、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、アイドリングストップシステム等の高エネルギー密度が必要とされる用途に対しても、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極の適用が可能となる。
【0030】
第一の電極活物質の表面における炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分光器(EDX)等を用いて測定することができる。第一の電極活物質の表面における炭素質被膜の被覆率は60%以上であり、好ましくは80%以上である。ここで、第一の電極活物質の表面における炭素質被膜の被覆率が60%未満では、炭素質被膜の被覆効果が不十分となる。その結果、リチウムイオンの脱挿入反応が第一の電極活物質の表面にて行なわれる際に、炭素質被膜が形成されていない箇所においてリチウムイオンの脱挿入に関わる反応抵抗が高くなる。
【0031】
炭素質被膜中の炭素量は、第一の電極活物質の質量百分率(炭素質被膜の全量を100質量%とした場合)に対して0.6質量%以上かつ2.0質量%以下であることが好ましく、1.1質量%以上かつ1.7質量%以下であることがより好ましい。
ここで、炭素質被膜中の炭素量を上記の範囲に限定した理由は、炭素量が0.6質量%以上であれば、第一の電極活物質における炭素質被膜の被覆率が60%以上となるため、リチウムイオン二次電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が高くなる。その結果、リチウムイオン二次電池は充分な充放電レート性能を実現することが可能となる。一方、炭素量が2.0質量%未満であれば、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に、立体障害によるリチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0032】
また、第一の電極活物質における炭素質被膜の厚さの平均値は、1.0nm以上かつ7.0nm以下であることが好ましく、3.0nm以上かつ5.0nm以下であることがより好ましい。
ここで、炭素質被膜の厚さの平均値を上記の範囲に限定した理由は、炭素質被膜の厚さの平均値が1.0nm以上であれば、炭素質被膜中の電荷移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。一方、炭素質被膜の厚さの平均値が7.0nm以下であれば、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に、立体障害によるリチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0033】
第一の電極活物質の比表面積は、5m/g以上かつ20m/g以下であることが好ましく、9m/g以上かつ13m/g以下であることがより好ましい。
ここで、第一の電極活物質の比表面積を上記の範囲に限定した理由は、比表面積が5m/g以上であれば、炭素質被膜の炭素量が2.0質量%であった場合に炭素質被膜の厚さの平均値が7.0nmを超えないからである。一方、比表面積が20m/g以下であれば、炭素質被膜の炭素量が0.6質量%以上となり、炭素質被膜の厚さの平均値が1.0nm以上となるからである。
【0034】
炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度は0.3g/cm以上かつ1.5g/cm以下であることが好ましく、0.4g/cm以上かつ1.0g/cm以下であることがより好ましい。
ここで、炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度を上記の範囲に限定した理由は、炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度が0.3g/cm以上であれば、炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すからである。一方、炭素質被膜の密度が1.5g/cm以下であれば、炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0035】
炭素質被膜を構成する炭素分の質量は炭素質被膜の質量全体の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
炭素質被膜を構成する炭素分の炭素質被膜の質量全体に対する割合を上記の範囲に限定した理由は、炭素質被膜が炭素の前駆体である有機化合物の熱分解によって生成したものであって、炭素質被膜は炭素の他に水素、酸素等の元素を含んでおり、焼成温度が500℃以下であると炭素質被膜の質量に占める炭素分の質量が50質量%未満となって、炭素質被膜の電荷移動抵抗が高くなる。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇し、高速充放電レートにおける電圧低下が著しくなるためである。
【0036】
本実施形態における第二の電極活物質は、一般式Liで表される化合物(但しBは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦c≦1.0、0<d≦1.0)、コバルト酸リチウム系化合物、マンガン酸リチウム系化合物およびニッケル酸リチウム系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0037】
上記の一般式Liで表わされる化合物(以下、「化合物C」と言うこともある。)としては、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が挙げられる。
【0038】
第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)に対して、第一の電極活物質の二次粒子の平均粒子径が0.01M以上かつ0.30M以下であることが好ましく、0.05M以上かつ0.25M以下であることがより好ましい。
ここで、第一の電極活物質の二次粒子の平均粒子径を上記の範囲に限定とした理由は、第一の電極活物質の二次粒子が、第二の電極活物質の二次粒子によって形成される隙間に入り込むことによって、電極密度の向上を促すと共に、第二の電極活物質の二次粒子同士の隙間が、第一の電極活物質によって埋められることによって、リチウムイオン二次電池用電極の熱伝導率が、第二の電極活物質単体の場合に比べて改善するからである。
【0039】
第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)は、10μm以上かつ200μm以下であることが好ましく、15μm以上かつ150μm以下であることがより好ましく、20μm以上かつ100μm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
ここで、第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)を上記の範囲に限定した理由は、第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)が10μm以上であれば、第一の電極活物質の二次粒子の平均粒子径の下限値を0.1μm未満とする必要がない。なお、第一の電極活物質の二次粒子の平均粒子径の下限値を0.1μm未満とすることは困難である。一方、第二の電極活物質の二次粒子の平均粒子径(M)が200μm以下であれば、第一の電極活物質の二次粒子の平均粒径の上限値が44μm以下となるため、第一の電極活物質の二次粒子によって形成される隙間が大きくなり過ぎることがない。したがって、第一の電極活物質と第二の電極活物質を併用することによる電極密度の向上効果を充分に得ることができる。
【0041】
「リチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、後述する方法によって製造された第一の電極活物質と第二の電極活物質を混合する方法が挙げられる。
【0042】
本実施形態における第一の電極活物質の製造方法は、上記の化合物Aまたは上記の化合物Aと、有機化合物とを含み、かつ上記の化合物Aまたは上記の化合物Aの粒度分布において、この粒度分布のD90のD10に対する比(D90/D10)が5以上かつ30以下のスラリーを乾燥し、次いで、得られた乾燥物を500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて焼成する方法である。
【0043】
ここで、D90とは、粒度分布における累積体積%が90%のときの粒子径のことであり、D10とは、粒度分布における累積体積%が10%のときの粒子径のことである。
化合物Aとしては、上記の電極材料の説明において記載したものと同様に、一般式LiPOで表わされる化合物(但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦a≦1.0、0<b≦1.0)である。
【0044】
一般式LiPOで表される化合物A(LiPO粉体)としては、固相法、液相法、気相法等の従来の方法により製造されたものを用いることができる。
この化合物A(LiPO粉体)としては、例えば、酢酸リチウム(LiCHCOO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩、または水酸化リチウム(LiOH)から選択されるLi源と、塩化鉄(II)(FeCl)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、硫酸鉄(II)(FeSO)等の2価の鉄塩と、リン酸(HPO)、リン酸2水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物と、水とを混合して得られるスラリー状の混合物を、耐圧密閉容器を用いて水熱合成し、得られた沈殿物を水洗してケーキ状の電極活物質または電極活物質の前駆体物質を生成し、このケーキ状の電極活物質または電極活物質の前駆体物質を焼成して得られた化合物(LiPO粉体)を好適に用いることができる。
【0045】
このLiPO粉体は、結晶性粒子であっても非晶質粒子であってもよく、結晶質粒子と非晶質粒子が共存した混晶粒子であってもよい。ここで、LiPO粉体が非晶質粒子でもよいとする理由は、この非晶質のLiPO粉体は、500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて熱処理すると、結晶化するからである。
【0046】
また、第一の電極活物質が、上記の化合物Aと、その表面に存在する上記の化合物Bと、を含む場合、本実施形態における第一の電極活物質の製造方法は、上記の化合物Aまたは上記の化合物Aの前駆体と、上記の化合物Bまたは上記の化合物Bの前駆体と、有機化合物とを含み、かつ上記の化合物Aまたは上記の化合物Aの前駆体の粒度分布において、この粒度分布のD90のD10に対する比(D90/D10)が5以上かつ30以下、かつ上記の化合物Bまたは上記の化合物Bの前駆体の粒度分布において、この粒度分布のD90のD10に対する比(D90/D10)が7以上かつ25以下のスラリーを乾燥し、次いで、得られた乾燥物を500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて焼成する方法である。
【0047】
化合物Bとしては、上記の電極材料の説明において記載したものと同様に、一般式LiPOで表わされる化合物(但し、Cは、FeおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種、0≦e<2、0<f<1.5)である。
【0048】
一般式LiPOで表される化合物B(LiPO粉体)としては、固相法、液相法、気相法等の従来の方法により製造されたものを用いることができる。
この化合物B(LiPO粉体)としては、例えば、酢酸リチウム(LiCHCOO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩、または水酸化リチウム(LiOH)から選択されるLi源と、塩化鉄(II)(FeCl)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、硫酸鉄(II)(FeSO)等の2価の鉄塩と、リン酸(HPO)、リン酸2水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物と、水とを混合して得られるスラリー状の混合物を、pH調整によって溶解し、得られた水溶液を前記化合物Aのケーキ状の前駆体物質と混合、乾燥して得られた複合粉末を焼成した際に化合物Aの表面に形成される化合物(LiPO粉体)を好適に用いることができる。
【0049】
このLiPO粉体は、結晶性粒子であっても非晶質粒子であってもよく、結晶質粒子と非晶質粒子が共存した混晶粒子であってもよい。ここで、LiPO粉体が非晶質粒子でも良いとする理由は、この非晶質のLiPO粉体は、500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて熱処理すると、結晶化するからである。
【0050】
本実施形態における第二の電極活物質の製造方法は、上記の化合物Cまたは上記の化合物Cの前駆体を含み、かつ上記の化合物Cまたは上記の化合物Cの前駆体の粒度分布において、この粒度分布のD90のD10に対する比(D90/D10)が5以上かつ30以下のスラリーを乾燥し、次いで、得られた乾燥物を500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて焼成する方法である。
【0051】
化合物Cとしては、上記の電極材料の説明において記載したものと同様に、一般式Liで表わされる化合物(但し、Bは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、0≦c≦1.0、0<d≦1.0)である。
【0052】
一般式Liで表される化合物(Li粉体)としては、固相法、液相法、気相法等の従来の方法により製造されたものを用いることができる。
この化合物C(Li粉体)としては、例えば、酢酸リチウム(LiCHCOO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩、または水酸化リチウム(LiOH)から選択されるLi源と、塩化ニッケル(II)(NiCl)、酸化ニッケル(II)(NiO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))、硫酸ニッケル(II)(NiSO)等の2価のニッケル塩と、塩化コバルト(II)(CoCl)、酸化コバルト(II)(CoO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、硫酸コバルト(II)(CoSO)等の2価のコバルト塩と塩化マンガン(II)(MnCl)、酸化マンガン(II)(MnO)、酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO))、硫酸マンガン(II)(MnSO)等の2価のマンガン塩と、水とを混合して得られるスラリー状の混合物を乾燥し、大気中における焼成によって固相合成して得られた沈殿物を水洗してケーキ状の前駆体物質を生成し、このケーキ状の前駆体物質を焼成して得られた化合物(Li粉体)を好適に用いることができる。
【0053】
このLi粉体は、結晶性粒子であっても非晶質粒子であってもよく、結晶質粒子と非晶質粒子が共存した混晶粒子であってもよい。ここで、Li粉体が非晶質粒子でも良いとする理由は、この非晶質のLi粉体は、500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて熱処理すると、結晶化するからである。
【0054】
上述のようにして製造された第一の電極活物質および第二の電極活物質の形状は、特に限定されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。第一の電極活物質および第二の電極活物質の形状が真球状であれば、第一の電極活物質および第二の電極活物質が二次粒子からなる電極材料が形成し易い。
【0055】
ここで、第一の電極活物質および第二の電極活物質の形状が球状であることが好ましい理由は、第一の電極活物質および第二の電極活物質と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して電極材料合剤を調製する際の溶媒量を低減することができるとともに、この電極材料合剤の電極集電体への塗工も容易となるからである。
また、第一の電極活物質および第二の電極活物質の形状が球状であれば、第一の電極活物質および第二の電極活物質の表面積が最小となり、電極材料合剤に添加するバインダー樹脂(結着剤)の配合量を最小限にすることができる。その結果、得られる電極の内部抵抗を小さくすることができる。
【0056】
さらに、第一の電極活物質および第二の電極活物質が球状であると、電極材料合剤を電極集電体へ塗工した際に第一の電極活物質および第二の電極活物質が最密充填し易くなるため、単位体積あたりの電極材料の充填量が多くなる。したがって、電極密度を高くすることができ、その結果、リチウムイオン二次電池の高容量化を図ることができる。
【0057】
第一の電極活物質の製造に用いられる有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール類等が挙げられる。
【0058】
第一の電極活物質が炭素質被膜以外に化合物Aのみを含む場合、化合物Aと有機化合物との配合比は、有機化合物の全量を炭素量に換算したとき、化合物A100質量部に対して0.6質量部以上かつ2.0質量部以下であることが好ましく、1.1質量部以上かつ1.7質量部以下であることが好ましい。また、第一の電極活物質が炭素質被膜以外に化合物Aおよび化合物Bを含む場合、化合物Aおよび化合物Bと、有機化合物との配合比は、有機化合物の全量を炭素量に換算したとき、化合物Aおよび化合物Bの総量100質量部に対して0.6質量部以上かつ2.0質量部以下であることが好ましく、1.1質量部以上かつ1.7質量部以下であることが好ましい。
有機化合物の炭素量に換算した配合比が0.6質量部以上であれば、第一の電極活物質における炭素質被膜の被覆率が60%を上回るため、リチウムイオン二次電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量が高くなる。その結果、リチウムイオン二次電池の充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、有機化合物の炭素量に換算した配合比が2.0質量部以下であれば、第一の電極活物質における炭素質被膜の厚さの平均値が7nm未満となり、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に立体障害によるリチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0059】
化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物Bと、有機化合物とを、水に溶解あるいは分散させて、均一なスラリーを調製する。化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物Bと、有機化合物とを、水に溶解あるいは分散させる際には、分散剤を加えることが好ましい。
化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物Bと、有機化合物とを、水に溶解あるいは分散させる方法としては、化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物Bが分散し、有機化合物が溶解または分散する方法であれば、特に限定しないが、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置を用いる方法が好ましい。
【0060】
この溶解あるいは分散の際には、化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物Bを一次粒子として水に分散し、その後、化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物Bを含む水に有機化合物を溶解するように攪拌することが好ましい。このようにすれば、化合物Aの一次粒子、あるいは化合物Aおよび化合物Bの一次粒子の表面が有機化合物で被覆され、その結果として、化合物Aの一次粒子、あるいは化合物Aおよび化合物Bの一次粒子の間に有機化合物由来の炭素が均一に介在するようになる。
また、スラリー中の化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物Bの前駆体の粒度分布において、この粒度分布のD90のD10に対する比(D90/D10)が5以上かつ30以下となるように、スラリーの分散条件、例えば、スラリー中の化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物B並びに有機化合物の濃度、撹拌時間、撹拌時間等を適宜調整することが好ましい。
【0061】
次いで、このスラリーを高温雰囲気中、例えば、70℃以上かつ250℃以下の大気中に噴霧し、乾燥させる。
次いで、この乾燥物を、非酸化性雰囲気下、500℃以上かつ1000℃以下で焼成することが好ましく、600℃以上かつ900℃以下で焼成することがより好まし。また、この温度範囲にて、0.1時間以上かつ40時間以下焼成することが好ましい。
【0062】
ここで、焼成温度を500℃以上かつ1000℃以下と限定した理由は、焼成温度が500℃以上であれば、乾燥物に含まれる有機化合物の分解・反応が充分に進行し、有機化合物の炭化が充分なものとなり、その結果、得られた凝集体中に高抵抗の有機物分解物が生成しないからである。一方、焼成温度が1000℃以下であれば、化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物B中のLiが蒸発することがないため、第一の電極活物質に組成のズレが生じないばかりでなく、第一の電極活物質の粒成長が促進されず、その結果、高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、リチウムイオン二次電池の充分な充放電レート性能を実現することができるからである。
【0063】
非酸化性雰囲気としては、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気や、水素(H)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には還元性雰囲気が好ましい。また、焼成時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去する目的で、不活性雰囲気中に酸素(O)等の支燃性および可燃性ガスを導入してもよい。
【0064】
ここで、スラリーを乾燥する際の条件、例えば、スラリー濃度、気液量、ノズル形状、乾燥温度等を適宜調整することにより、得られる凝集体中の粒度分布を制御することが可能である。
ここで、乾燥物を焼成する際の条件、例えば、昇温速度、最高保持温度、保持時間等を適宜調整することにより、得られる凝集体中の一次粒子の粒度分布を制御することが可能である。
【0065】
以上により、乾燥物中の有機化合物が熱分解して生成した炭素により化合物A、あるいは化合物Aおよび化合物Bの一次粒子の表面が被覆され、よって、この電極活物質の一次粒子の間に炭素が介在した2次粒子からなる第一の電極活物質が得られる。
【0066】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等の粒子状炭素や、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0067】
電極材料合剤における導電助剤の含有率は、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池用電極材料とバインダーと導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、2質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、4質量%以上かつ8質量%以下であることがより好ましい。
ここで、導電助剤の含有率を上記の範囲とした理由は、導電助剤の含有率が2質量%以上であれば、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池用電極材料を含む電極材料合剤を用いて電極合剤層を形成した場合に、電子伝導性が充分となり、電池容量や充放電レートが向上するからである。一方、導電助剤の含有量が10質量%以下であれば、電極合剤層中に占める電極材料が相対的に増加し、単位体積当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が向上するからである。
【0068】
「バインダー」
バインダーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸ビニル共重合体や、スチレン・ブタジエン系ラテックス、アクリル系ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス、フッ素系ラテックス、シリコン系ラテックス等の群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0069】
電極材料合剤におけるバインダーの含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料とバインダーと導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、2質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、4質量%以上かつ8質量%以下であることがより好ましい。
ここで、バインダーの含有率を上記の範囲とした理由は、バインダーの含有率が2質量%以上であれば、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池用電極材料を含む電極材料合剤を用いて電極合剤層を形成した場合に、電極合剤層と電極集電体の結着性が充分となり、電極合剤層の圧延形成時等において電極合剤層の割れや脱落が生じることがないからである。また、電池の充放電過程において電極合剤層が電極集電体から剥離することがなく、電池容量や充放電レートが低下することがないからである。一方、結着剤の含有量が10質量%以下であれば、リチウムイオン二次電池用電極材料の内部抵抗が増大することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電池容量が低下することがないからである。
【0070】
「リチウムイオン二次電池用電極の製造方法」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を製造するには、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池用電極材料と、バインダーと、導電助剤と、溶媒とを混合して、電極材料合剤を調製し、その電極材料合剤を電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着する。これにより、電極集電体の一主面に電極合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。
【0071】
本実施形態におけるリチウムイオン二次電池用電極材料と、バインダーと、導電助剤と、溶媒との混合方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されず、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0072】
溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤または水が用いられるが、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池用電極材料の特性を失わない範囲内で、水にアルコール類やグリコール類、エーテル類等の水系溶媒が含まれていてもよい。
【0073】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極によれば、リチウムイオン二次電池を高速で充放電した際に、正極材料の酸化還元反応に伴う熱放出による第一の電極活物質もしくは第二の電極活物質の局所的な温度上昇が、放電電位が異なるために酸化還元反応に関わらない隣接する電極活物質に、酸化還元反応に伴って生じた熱を供与し、その結果としてリチウムイオン二次電池用電極の局所的な温度上昇の速やかな解消が可能となる。
【0074】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を正極として備え、その正極と、負極と、セパレータと、電解液と、を備えてなる。
【0075】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、電解液、セパレータ等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いることができる。
また、電解液とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0076】
電解液は、例えば、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解することで作製することができる。
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0077】
本実施形態のリチウムイオン二次電池によれば、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を正極として備えているため、高速の充放電が可能となる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
例えば、本実施例では、電極材料自体の挙動をデータに反映させるため、負極に金属Liを用いたが、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いてもかまわない。また電解液とセパレータの代わりに固体電解質を用いても良い。
【0079】
[実施例1]
「電極材料の作製」
水2L(リットル)に、6molの水酸化リチウム(LiOH)、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)、2molのリン酸(HPO)を、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、150℃にて1時間、水熱合成を行った。
次いで、得られた沈殿物を水洗し、ケーキ状の電極活物質を得た。
次いで、この電極活物質150g(固形分換算)と、有機化合物としてラクトース6gとを水200gに溶解したラクトース水溶液と、媒体粒子として直径0.1mmのジルコニアボール500gとをボールミルに投入し、スラリー中の電極活物質粒子の粒度分布のD90/D10が20となるように、ボールミルの回転速度、撹拌時間を調整し、分散処理を行った。
次いで、得られたスラリーを180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が25μmの乾燥物を得た。
次いで、得られた乾燥物を790℃の窒素雰囲気下にて1時間、焼成し、平均二次粒子径が25μmのLiFePOの凝集体を得た。この凝集体を第一の電極活物質とした。
また、第二の電極活物質としては、平均二次粒子径100μmのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3 )を用いた。
この第一の電極活物質と第二の電極活物質とを、質量比で第一の電極活物質が10%、第二の電極活物質が90%となるように混合した混合体を電極材料とした。
【0080】
「電極の作製」
上記の電極材料と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)とを、質量比が90:5:5となるように混合し、さらに溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を加えて流動性を付与し、スラリーを調製した。
次いで、このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。
その後、600kgf/cmの圧力にて加圧し、実施例1のリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
【0081】
「電極の評価」
この電極の熱拡散率、定圧比熱および電極密度をそれぞれ周期加熱法、DSC法、アルキメデス法により測定し、下記式(1)により熱伝導率を算出した。熱拡散率、定圧比熱、電極密度および電極熱伝導率を表1に示す。λ=α×Cp×ρ×100・・・(1)
λ:熱伝導率[W/(m・K)]
α:熱拡散率[cm/sec]
Cp:定圧比熱[J/(g・K)]
ρ:電極密度[g/cm
【0082】
「リチウムイオン二次電池の作製」
このリチウムイオン二次電池用電極に対向するように、対極として天然黒鉛負極を配置し、これらリチウムイオン二次電池用電極と対極の間に多孔質ポリプロピレンからなるセパレータを配置し、電池用部材とした。
一方、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを1:1(質量比)にて混合し、さらに1mol/LのLiPFを加えて、リチウムイオン伝導性を有する電解質溶液を調製した。
次いで、上記の電池用部材を上記の電解質溶液に浸漬し、実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0083】
「リチウムイオン二次電池の評価」
このリチウムイオン二次電池のサイクル特性を評価した。
サイクル特性の評価方法は下記の通りである。
上記のリチウムイオン二次電池の充放電試験を、カットオフ電圧2V−4.5V、充放電レート1Cの定電流(1時間充電の後、1時間放電)を1サイクルとして、45℃にて、500サイクル実施した。また、500サイクル後の放電量を、初期放電量を100とした際の100分率で表した値を「45℃、500サイクル後容量維持率」と定めた。
なお、リチウムイオン二次電池の初回充電を定電流(1C)−定電圧(4.5V、電流値0.01C相当に到達した時点で充電終了)で行い、初回充電時に負極のSEI(Solid Electrolyte Interface)形成でリチウムイオンが消費された分を減じた、2回目の放電量を初期放電量と定めた。結果を表1に示す。
【0084】
[実施例2]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が20%、第二の電極活物質が80%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例3]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が30%、第二の電極活物質が70%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例4]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が40%、第二の電極活物質が60%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0087】
[実施例5]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が50%、第二の電極活物質が50%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[実施例6]
第二の電極活物質として、平均二次粒子径157μmのマンガン酸リチウム(LiMn)を用い、第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が50%、第二の電極活物質が50%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例7]
第二の電極活物質として、平均二次粒子径56μmのニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(LiNi0.8Co0.15Al0.05)を用い、第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が50%、第二の電極活物質が50%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例8]
「電極材料の作製」
水2L(リットル)に、6molの水酸化リチウム(LiOH)、0.6molの硫酸鉄(II)(FeSO)、1.4molの硫酸マンガン(MnSO)、2molのリン酸(HPO)を、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、170℃にて1時間、水熱合成を行った。
次いで、得られた沈殿物を水洗し、ケーキ状の電極活物質を得た。
次いで、この電極活物質150g(固形分換算)と、有機化合物としてラクトース6gとを水200gに溶解したラクトース水溶液と、媒体粒子として直径0.1mmのジルコニアボール500gとをボールミルに投入し、スラリー中の電極活物質粒子の粒度分布のD90/D10が40となるように、ボールミルの回転速度、撹拌時間を調整し、分散処理を行った。
次いで、得られたスラリーを180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒径が5μmの乾燥物を得た。
次いで、得られた乾燥物を790℃の窒素雰囲気下にて1時間、焼成し、平均二次粒子径が5μmのLiFe0.3Mn0.7の凝集体を得た。この凝集体を第一の電極活物質とした。
また、第二の電極活物質としては、平均二次粒子径100μmのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3 )を用いた。
この第一の電極活物質と第二の電極活物質とを、質量比で第一の電極活物質が10%、第二の電極活物質が90%となるように混合した混合体を電極材料とした。
【0091】
「電極の作製」
上記の電極材料と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)とを、質量比が90:5:5となるように混合し、さらに溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を加えて流動性を付与し、スラリーを調製した。
次いで、このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。
その後、600kgf/cmの圧力にて加圧し、実施例8のリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
【0092】
「電極の評価」
実施例1と同様にして、この電極の電極熱伝導率を算出した。熱拡散率、定圧比熱、電極密度および電極熱伝導率を表1に示す。
【0093】
「リチウムイオン二次電池の作製」
このリチウムイオン二次電池用電極を用いて、実施例1と同様にして、実施例8のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
「リチウムイオン二次電池の評価」
このリチウムイオン二次電池のサイクル特性を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0095】
[実施例9]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が20%、第二の電極活物質が80%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例8と同様にして、実施例9の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例8と同様にして、実施例9のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0096】
[実施例10]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が30%、第二の電極活物質が70%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例8と同様にして、実施例10の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例8と同様にして、実施例10のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0097】
[実施例11]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が40%、第二の電極活物質が60%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例8と同様にして、実施例11の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例8と同様にして、実施例11のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0098】
[実施例12]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が50%、第二の電極活物質が50%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例8と同様にして、実施例12の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例8と同様にして、実施例12のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例13]
第二の電極活物質として、平均二次粒子径157μmのマンガン酸リチウム(LiMn)を用い、第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が50%、第二の電極活物質が50%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例8と同様にして、実施例13の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例8と同様にして、実施例13のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0100】
[実施例14]
第二の電極活物質として、平均二次粒子径56μmのニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(LiNi0.8Co0.15Al0.05 )を用い、第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が50%、第二の電極活物質が50%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例8と同様にして、実施例14の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例8と同様にして、実施例14のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例8と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例15]
「電極材料の作製」
水2L(リットル)に、6molの水酸化リチウム(LiOH)、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)、2molのリン酸(HPO)を、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、150℃にて1時間、水熱合成を行った。
次いで、得られた沈殿物を水洗し、ケーキ状の電極活物質を得た。
次いで、この電極活物質150g(固形分換算)と、有機化合物としてラクトース6gとを水200gに溶解したラクトース水溶液と、媒体粒子として直径0.1mmのジルコニアボール500gとをボールミルに投入し、スラリー中の電極活物質粒子の粒度分布のD90/D10が20となるように、ボールミルの回転速度、撹拌時間を調整し、分散処理を行った。
次いで、得られたスラリーを180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒径が44μmの乾燥物を得た。
次いで、得られた乾燥物を790℃の窒素雰囲気下にて1時間、焼成し、平均二次粒子径が44μmのLiFePO凝集体を得た。この凝集体を第一の電極活物質とした。
また、第二の電極活物質としては、平均二次粒子径200μmのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)を用いた。
この第一の電極活物質と第二の電極活物質とを、質量比で第一の電極活物質が50%、第二の電極活物質が50%となるように混合した混合体を電極材料とした。
【0102】
「電極の作製」
上記の電極材料と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)とを、質量比が90:5:5となるように混合し、さらに溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を加えて流動性を付与し、スラリーを調製した。
次いで、このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。
その後、600kgf/cmの圧力にて加圧し、実施例15のリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
【0103】
「電極の評価」
実施例1と同様にして、この電極の電極熱伝導率を算出した。熱拡散率、定圧比熱、電極密度および電極熱伝導率を表1に示す。
【0104】
「リチウムイオン二次電池の作製」
このリチウムイオン二次電池用電極を用いて、実施例1と同様にして、実施例15のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0105】
「リチウムイオン二次電池の評価」
このリチウムイオン二次電池のサイクル特性を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0106】
[実施例16]
第一の電極活物質の平均二次粒子径を35μmとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例16の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例15と同様にして、実施例16のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0107】
[実施例17]
第一の電極活物質の平均二次粒子径を20μmとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例17の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例15と同様にして、実施例17のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例18]
第一の電極活物質の平均二次粒子径を2.2μm、第二の電極活物質の平均二次粒子径を10μmとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例18の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例15と同様にして、実施例18のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0109】
[実施例19]
第一の電極活物質の平均二次粒子径を0.8μm、第二の電極活物質の平均二次粒子径を10μmとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例19の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例15と同様にして、実施例19のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0110】
[実施例20]
第一の電極活物質の平均二次粒子径を0.1μm、第二の電極活物質の平均二次粒子径を10μmとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例20の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例15と同様にして、実施例20のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0111】
[実施例21]
第一の電極活物質の平均二次粒子径を10μm、第二の電極活物質の平均二次粒子径を150μmとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例21の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例15と同様にして、実施例21のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0112】
[実施例22]
第一の電極活物質の平均二次粒子径を8μm、第二の電極活物質の平均二次粒子径を50μmとしたこと以外は実施例15と同様にして、実施例22の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例15と同様にして評価した。果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例15と同様にして、実施例22のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例15と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0113】
[比較例1]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が100%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0114】
[比較例2]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が0%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0115】
[比較例3]
第一の電極活物質と第二の電極活物質との質量比を、第一の電極活物質が90%、第二の電極活物質が10%となるように混合した混合体を電極材料としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の電極材料およびリチウムイオン二次電池用電極を作製した。
また、得られた電極を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
さらに、得られた電極を用いて、実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1の結果から、実施例1〜実施例22の電極は、電極熱伝導率が0.9W/(m・K)以上であり、電極密度が2.0g/cm以上であるリチウムイオン二次電池用電極の局所的な温度上昇を速やかに解消できる電極が得られることが分かった。
一方、比較例1〜比較例3の電極は、電極熱伝導率が0.85W/(m・K)以下であり、電極密度が2.0g/cm以上であるリチウムイオン二次電池用電極の局所的な温度上昇を速やかに解消できる電極が得られないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、リチウムイオン二次電池用電極の熱拡散率、定圧比熱および電極密度を用いて上記式(1)により導出された、リチウムイオン二次電池用電極の熱伝導率が0.9W/(m・K)以上であるため、このリチウムイオン二次電池用電極を備えたリチウムイオン二次電池は、電極密度が2.0g/cm以上であるリチウムイオン二次電池用電極の局所的な温度上昇を速やかに解消でき、高速の充放電が可能であり、次世代の二次電池の場合、その効果は非常に大きなものである。