(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した電子源において、電子をカーボンナノ構造体から放出させるために、カーボンナノ構造体に強い電場を印加する必要がある。例えば、10
6V/mオーダーの強い電場を、カーボンナノ構造体の表面に印加する必要がある。そのため、カーボンナノ構造体と金属メッシュとの間に大きな電位差を発生させる必要がある。例えば、カーボンナノ構造体の表面と金属メッシュとの距離が、数センチメートルであるので、10kVの電圧を、金属メッシュに印加する必要がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、より低い印加電圧で電子を放出できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明によると、
カーボンナノ構造体が表面に形成されたカーボン支持体と、
前記カーボンナノ構造体に電場を印加するための箔状体と、を備え、
前記箔状体には、多数の貫通孔が形成されており、
前記箔状体は、前記カーボン支持体の前記表面に取り付けられた第1表面と、前記箔状体の厚み方向に関して前記第1表面と反対側に位置する第2表面とを有し、
前記第2表面と、前記カーボンナノ構造体とは、互いに対して絶縁されており、
前記カーボンナノ構造体と前記第2表面とがそれぞれ負電位と正電位になるように前記カーボンナノ構造体と前記第2表面との間に電圧が印加されることにより、前記カーボンナノ構造体から前記多数の貫通孔を通して電子を放出する電子源が提供される。
【0008】
上述の電子源は、例えば以下のように構成できる。
【0009】
前記カーボンナノ構造体は、多数の針状部を有し、
各針状部は、前記カーボン支持体の前記表面と反対側の先端を有し、該先端に近づくにつれて細くなっている。
【0010】
前記カーボン支持体の前記表面と、前記箔状体の前記第2表面とは、互いに平行な平面である。
【0011】
前記カーボンナノ構造体が形成された前記表面を有する前記カーボン支持体と、前記箔状体とは、それぞれ別個に作製されており、
前記カーボン支持体の前記表面に前記箔状体の前記第1表面を接触させた状態で、前記カーボン支持体と前記箔状体とを互いに対して固定する固定具を備える。
【0012】
前記電子源は、宇宙空間において移動する宇宙機にイオンエンジンと共に設けられたものであり、
前記イオンエンジンは、前記宇宙機の外部へ陽イオンを放出することにより、前記宇宙機に推力を与え、
前記宇宙機の外部へ前記陽イオンが放出されたことにより前記宇宙機が帯電しないように、前記電子源は、前記宇宙機の外部へ電子を放出する。
【0013】
また、本発明によると、上述の電子源の作製方法であって、
前記カーボンナノ構造体が形成された前記表面を有する前記カーボン支持体を用意するとともに、前記箔状体を用意し、
次いで、前記カーボン支持体の前記表面に、前記箔状体の前記第1表面に接触させた状態で、固定具により、前記カーボン支持体と前記箔状体とを互いに対して固定する、電子源の作製方法が提供される。
【0014】
本発明によると、上述の電子源と、
該電子源から放出された電子が入射させられることによりX線を発生させるターゲットとを備えるX線発生装置が提供される。
【0015】
上述のX線発生装置は、例えば以下のように構成できる。
【0016】
前記ターゲットは、前記箔状体と平行に配置された平板状の透過型ターゲットであり、
前記ターゲットに関して前記電子源と反対側に配置されたコリメータを備え、
前記コリメータは、前記ターゲットからのX線のうち、前記ターゲットと垂直な方向に進むX線を選択的に通過させる。
【0017】
本発明によると、上述のX線発生装置を備えた検査対象体の断面像取得装置であって、
前記検査対象体から見て互いに異なる方向から前記検査対象体にX線を照射する複数の前記X線発生装置と、
複数の前記X線発生装置にそれぞれ対応する複数のX線検出器と、
複数の前記X線発生装置からX線を発生させるタイミングを制御する制御装置と、を備え、
各前記X線発生装置と、該X線発生装置に対応する前記X線検出器とは、互いに対向して配置され、互いに対向する該X線発生装置と該X線検出器との間に、前記検査対象体が配置され、
前記制御装置は、互いに異なるタイミングで、複数の前記X線発生装置からX線を発生させ、
各前記X線検出器は、対応する前記X線発生装置から出され前記検査対象体を通過したX線を検出することによりX線検出データを生成し、
複数の前記X線検出器が生成した前記X線検出データに基づいて、前記検査対象体の断面画像を生成するデータ処理装置を備える、検査対象体の断面像取得装置が提供される。
【0018】
本発明によると、上述のX線発生装置と、
時間間隔をおいて前記X線発生装置からX線を発生させる制御装置と、
前記X線発生装置から発生したX線を、前記時間間隔をおいて受信するX線検出器と、
前記X線検出器によるX線の受信に基づいて信号データを生成する信号生成装置と、を備え、
前記信号生成装置は、前記X線検出器がX線を受信した前記時間間隔に対応する第1信号データを生成し、
(A)前記制御装置は前記時間間隔を変え、
(B)これにより、前記X線検出器がX線を受信した前記時間間隔が変わると、
(C)前記X線検出器は、変わった前記時間間隔に対応する第2信号データを生成する、X線通信装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子源では、箔状体の第1表面を、カーボンナノ構造体に取り付けている。この場合に、箔状体の厚みは小さいので、正電位となる第2表面と負電位となるカーボンナノ構造体との距離が小さくなる。したがって、箔状体の第2表面に、低い正電圧を印加しても、箔状体の各貫通孔内に強い電場が発生する。この強い電場が、カーボンナノ構造体に印加されることにより、カーボンナノ構造体から電子が放出される。よって、箔状体の第2表面に、低い正電圧を印加し、電子を放出させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0022】
[電子源]
図1は、本発明の実施形態による電子源10の構成を示す。
図1において、(A)は断面図であり、(B)は(A)のB−B線矢視図である。
【0023】
電子源10は、カーボン支持体3とカーボンナノ構造体5と箔状体7とを備える。
【0024】
カーボン支持体3の表面3aには、カーボンナノ構造体5が形成されている。なお、後述するように、表面3aには、箔状体7が取り付けられるので、箔状体7の貫通孔7a以外の領域において、カーボンナノ構造体5は、箔状体7に押しつぶされていてよい。
【0025】
カーボン支持体3は、導電性材料で形成されている。したがって、カーボン支持体3とカーボンナノ構造体5は、同電位となる。
図1(A)の例では、カーボン支持体3は接地されている。
【0026】
カーボンナノ構造体5は、所定値以上の大きさの電場が印加されることにより電子を放出する。カーボンナノ構造体5は、カーボン支持体3の表面3aに形成された膜である。この膜は、炭素で形成されている。この膜の厚みは、1μmから10μmのオーダーであり、例えば、1μm〜50μmの範囲内の値を有する。
【0027】
箔状体7には、多数の貫通孔7aがその厚み方向に形成されている。多数の貫通孔7a同士の間隔(ピッチ)は、例えば10μm〜100μmのオーダーであり、一例では、50μm〜300μmの範囲内の値であり、別の例では、100μm〜200μmの範囲内の値である。各貫通孔7aの断面の直径(
図1(A)の左右方向寸法)は、例えば、10μm〜100μmのオーダーであり、一例では、20μm〜200μmの範囲内の値であり、別の例では、50μm〜100μmの範囲内の値である。箔状体7の厚みは、例えば10μm〜100μmのオーダーであり、一例では10μm〜500μmの範囲内の値であり、別の例では10μm〜300μmの範囲内の値であり、さらに別の例では25μm〜100μmの範囲内の値である。箔状体7は、カーボンナノ構造体5の表面3aに取り付けられた第1表面7bと、箔状体7の厚み方向に関して第1表面7bと反対側に位置する第2表面7cとを有する。第2表面7cと、カーボン支持体3の表面3a(すなわち、カーボンナノ構造体5)とは、互いに対して絶縁されている。
【0028】
図1(A)の例では、箔状体7は、絶縁層9と導電層11を有する。絶縁層9は、絶縁体で形成されている。この絶縁体は、例えば、ポリイミドまたは液晶ポリマーなどの高分子ポリマーであるが、これに限定されない。導電層11は、絶縁層9上に形成される。導電層11は、導電性材料で形成されている。この導電性材料は、例えば、銅、アルミニウム、金、またはボロンであってよいが、これらに限定されない。
【0029】
このような箔状体7は、例えば、特許文献4に記載されたガス電子増幅フォイルにおいて、次のように一方の金属層を省略したものであってよい。特許文献4のガス電子増幅フォイルは、絶縁層と、この絶縁層の両面に形成された金属層とを有している。このガス電子増幅フォイルにおいて一方の金属層を省略した構成が、
図1(A)の箔状体7であってもよい。この場合に、このフォイルにおいて、上記絶縁層は、
図1(A)の絶縁層9として機能し、他方の上記金属層は、
図1の導電層11として機能する。
【0030】
絶縁層9においてカーボン支持体3側の面が、上述の第1表面7bである。導電層11においてカーボン支持体3と反対側の面が、上述の第2表面7cである。
【0031】
なお、箔状体7は、導電層11と反対側の絶縁層9の表面に、別の導電層が形成されていてもよい。この場合、上記別の導電層における2つの表面のうち、絶縁層9と反対側の表面が、第1表面7bとなり、この第1表面7bが、カーボン支持体3の表面3aに取り付けられる。
【0032】
好ましくは、
図1(A)のように、カーボン支持体3の表面3aと、箔状体7の第2表面7cとは、互いに対して平行な平面である。この場合に、好ましくは、第1表面7bは、第2表面7cに平行な平面である。
【0033】
図2は、
図1(A)の部分拡大図である。
図2は、
図1(A)において、箔状体7の貫通孔7a内に位置するカーボンナノ構造体5を示している。
【0034】
カーボンナノ構造体5は、多数の針状部6を有する。各針状部6は、カーボン支持体3の表面3aと反対側の先端を有し、この先端に近づくにつれて細くなっている。
図2の例では、カーボンナノ構造体5は、多数の針葉樹形部5aを有する。各針葉樹形部5aは、隆起部8と針状部6を有する。隆起部8は、カーボン支持体3の表面3aから隆起した部分であり、針状部6は、隆起部8の先端からカーボン支持体3の表面3aと反対側へ延びている部分である。
このようなカーボンナノ構造体5は、例えば、特許文献2,3に記載されている「炭素膜」であってよい。
【0035】
電子源10は、
図1(A)のように、電圧印加装置13を有する。電圧印加装置13は、カーボンナノ構造体5が負電位となり第2表面7cが正電位となるように、カーボンナノ構造体5と第2表面7cとの間に電圧を印加する。すなわち、電圧印加装置13は、第2表面7cに正電圧を印加する。これにより生じる、カーボンナノ構造体5と第2表面7cとの間の電位差(すなわち、後述の第2電圧)は、好ましくは、100Vのオーダーであり、一例では、100V〜500Vの範囲内の値であり、別の例では、100V〜300Vの範囲内の値である。
図1(A)の例では、カーボン支持体3が接地されていることにより、カーボンナノ構造体5も接地された状態となっている。
【0036】
上述のように、電圧印加装置13は、箔状体7の第2表面7cに正電圧を印加する。すなわち、電圧印加装置13は、カーボンナノ構造体5と箔状体7の第2表面7cとがそれぞれ負電位と正電位になるようにカーボンナノ構造体5と第2表面7cとの間に電圧を印加する。これにより、各貫通孔7a内のカーボンナノ構造体5から電子が放出される。放出された電子は、例えば、第2表面7cよりも高い電位の高電位部14に向かって移動する。高電位部14は、例えばX線を発生するターゲットである。
【0037】
好ましくは、電子源10は、さらに、電圧切り替え部19と制御部21を備える。
【0038】
電圧切り替え部19は、一例では、電圧印加装置13と第2表面7cとを電気的に切り離す第1状態(オフ状態)と、電源である電圧印加装置13と第2表面7cとを導通させる第2状態(オン状態)と、との間で切り換えられるスイッチである。
【0039】
電圧切り替え部19は、別の例では、電圧印加装置13が箔状体7の第2表面7cに印加する電圧を第1電圧(電子放出停止電圧)にする第1状態と、電圧印加装置13が箔状体7の第2表面7cに印加する電圧を第2電圧(電子放出電圧)にする第2状態との間で切り換えられる。第1電圧は、カーボンナノ構造体5から電子が放出されなくなる程度に低い電圧である。第1電圧は、接地電位を0Vとして、0Vと第2電圧との中間の値である。第1電圧は、例えば50V程度であってよいが、これに限定されず、50V以下であって0Vより大きい電圧であってもよいし、他の値であってもよい。第2電圧は、第1電圧より高く、カーボンナノ構造体5から電子が放出される程度に高い電圧である。
【0040】
制御部21は、電圧切り替え部19を第1状態と第2状態との間で切り替える。例えば、制御部21は、経過時間に対して予め定められた各時点で、電圧切り替え部19を第1状態と第2状態との間で切り替えるように構成されていてよい。
【0041】
なお、制御部21を省略してもよい。この場合には、電圧切り替え部19は、手動で、第1状態と第2状態との間で切り替えられる。
【0042】
図3は、上述した電子源10の作製方法を示すフローチャートである。
【0043】
ステップS1において、カーボンナノ構造体5が形成された表面3aを有するカーボン支持体3を用意する。すなわち、表面3a全体にカーボンナノ構造体5が形成されたカーボン支持体3を用意する。カーボンナノ構造体5の形成方法は、例えば特許文献2、3に記載された炭素膜の形成方法と同じであってよい。
【0044】
ステップS2において、箔状体7を用意する。すなわち、次のように作製された箔状体7を用意する。例えば、ラミネート、スパッタ蒸着、またはメッキなどの手法により、絶縁層9上に導電層11を形成する。これにより、絶縁層9に導電層11が形成された積層体を得る。次に、例えば、ケミカルエッチング、プラズマエッチング、レーザ加工などの手法により、積層体に、多数の貫通孔7aを形成する。このように多数の貫通孔7aが形成された積層体が、箔状体7になる。
【0045】
次いで、ステップS3において、ステップS1とステップS2でそれぞれ別個に作製されて用意されたカーボン支持体3と箔状体7とを、
図4のように互いに対して取り付ける。すなわち、カーボンナノ構造体5が形成されたカーボン支持体3の表面3aに、箔状体7の第1表面7bを接触させた状態で、カーボン支持体3と箔状体7とを互いに対して固定する。この固定は、1つまたは複数の固定具15(例えば、ボルトまたはネジ)により行われてよい。カーボン支持体3と箔状体7とを互いに対して取り付ける作業は、例えば、人の手で行われてよい。
【0046】
図4の例では、固定具15はボルトであり、カーボン支持体3には、ボルト15が挿入される取付け用穴17が形成されている。取付け用穴17の内周面には、雌ネジ17aが形成されている。ボルト15の雄ネジ部15aは、箔状体7を貫通して、取付け用穴17の内周面の雌ネジ17aに螺合している。これにより、ボルト15の頭15bと雄ネジ部15aとで箔状体7を挟み込んで、カーボン支持体3と箔状体7とを互いに対して固定する。なお、
図4において、箔状体7の第2表面の面積は、例えば、1mm
2〜1m
2のオーダーであり、あるいは、1cm
2〜1m
2のオーダーであり、例えば、1mm
2〜1m
2の範囲内の値であってよい。
【0047】
したがって、電子源10は、カーボン支持体3の表面3aに箔状体7の第1表面7bを接触させた状態で、カーボン支持体3と箔状体7とを互いに対して固定する固定具15を備える。
【0048】
ステップS3の後、ステップS4において、電子源10の用途に応じた配線を行う。すなわち、箔状体7の第2表面7cと電圧印加装置13とを、例えば導線により電気的に接続し、カーボン支持体3を接地する。また、電圧切り替え部19と制御部21を設ける。
これにより、電圧印加装置13は、上述のように、第2表面7cに正電圧を印加して、貫通孔7a内のカーボンナノ構造体5から電子を放出させることが可能となる。
【0049】
上述した本発明の実施形態の電子源10によると、次の効果が得られる。
【0050】
電子源では、箔状体7の第1表面7bを、カーボンナノ構造体5に取り付けている。この場合に、箔状体7の厚みは小さいので、正電位となる第2表面7cと負電位となるカーボンナノ構造体5との距離が小さくなる。この距離は、例えば10μm〜100μmのオーダーであり、一例では10μm〜500μmの範囲内の値であり、別の例では10μm〜300μmの範囲内の値であり、さらに別の例では25μm〜100μmの範囲内の値である。したがって、箔状体7の第2表面7cに、低い正電圧を印加しても、箔状体7の各貫通孔7a内に強い電場が発生する。この強い電場が、カーボンナノ構造体5に印加されることにより、カーボンナノ構造体5から電子が放出される。よって、箔状体7の第2表面7cに、低い正電圧を印加し、電子を放出させることができる。
【0051】
しかも、カーボンナノ構造体5は針状部6を有するので、針状部6の先端に電場が集中しやすい。したがって、針状部6の先端から電子が放出されやすくなる。
よって、接地されたカーボンナノ構造体5に対して箔状体7の第2表面7cに低い正電圧(例えば、接地電位を0Vとして、+100Vのオーダーの正電圧(第2電圧))を印加して、カーボンナノ構造体5から電子を放出させることができる。
【0052】
電子を放出させるために、箔状体7の第2表面7cに与える電圧の値を、+100Vのオーダーにすることができるので、電圧印加装置13を小型化でき、消費電力を抑えることができる。
【0053】
電子の放出タイミングを、次のように、1ナノ秒のオーダーで制御することができる。第2表面7cの電位は、電圧切り替え部19を第1状態と第2状態との間で切り替えることにより、第1電圧(例えば、50V程度)と、+100Vのオーダーの低い第2電圧との間で切り替わるので、第2表面7cの最大電位は低い。したがって、第2表面7cの電位を、第1電圧と第2電圧との間で変化させるのに要する時間を、1ナノ秒のオーダー(例えば、1ナノ秒〜10ナノ秒の範囲内の時間)にすることができる。すなわち、1ナノ秒オーダーの微小時間で、電子源10から電子を放出させる状態と、電子源10から電子を放出させない状態との間で切り替えることができる。
【0054】
カーボン支持体3の表面3aと、箔状体7の第2表面7cとは、互いに対して平行な平面であるので、カーボン支持体3の表面3aのカーボンナノ構造体5に均一な電場を印加できる。したがって、カーボンナノ構造体5から各貫通孔7aを通して放出される電子の数を均一にすることができる。
【0055】
さらに、本実施形態による電子源10は、それぞれ別々に作製されたカーボン支持体3と箔状体7とを互いに対して取り付けることにより作製できる。したがって、簡単に電子源10を作製できる。
【0056】
また、後述の
図7に関連して説明するように、電子源10は、長時間にわたって、安定して電子を放出できる。この点で、消費電力を抑え、長時間にわたって、安定して電子を放出することが要求される用途に、電子源10を使用できる。例えば、電子源10を、人工衛星や宇宙探査機などの宇宙機に搭載したイオンエンジンに適用できる。
【0057】
図5は、電子源10を、イオンエンジン16と共に宇宙機12に設けた場合を示す。宇宙機12は、宇宙空間において移動するものであり、例えば、人工衛星または宇宙探査機である。イオンエンジン16は、宇宙機12の外部へ陽イオンを放出することにより、宇宙機12に推力を与える。電子源10は、宇宙機12の外部へ陽イオンが放出されたことにより宇宙機12が帯電しないように、宇宙機12の外部へ電子を放出する。好ましくは、電子源10は、イオンエンジン16から宇宙機12の外部へ放出された陽イオンへ向けて電子を放出する。
この場合、
図5に示すように、上述した高電位部14は、電子源10からの電子が通過可能な多数の開口を有する金属メッシュであってよい。
【0058】
[X線発生装置]
図6は、本発明の実施形態によるX線発生装置20を示す。なお、このX線発生装置20において、以下で説明しない電子源10の内容は、上述と同じである。
【0059】
X線発生装置20は、上述した電子源10、ターゲット14、コリメータ23、高電圧印加装置25、真空容器26、および真空装置27を備える。
【0060】
ターゲット14は、
図1(A)の高電位部14に相当する。ターゲット14は、本実施形態では、箔状体7と平行に配置された平板状の透過型ターゲットである。透過型ターゲット14は、例えば、タングステン、タンタルまたはモリブデンで形成される。透過型ターゲット14の厚みは、例えば、1μmから10μmのオーダーである。ターゲット14に電子源10からの電子が衝突することにより、ターゲット14はX線を発生する。このX線の一部は、ターゲット14に関して電子源10と反対側へ伝播していく。
【0061】
コリメータ23は、
図6の例では、ターゲット14に関して電子源10と反対側に配置されている。コリメータ23には、ターゲット14で発生したX線の一部が入射する。ターゲット14で発生したX線のうち、コリメータ23へ入射しないX線は、図示しないX線遮蔽部材に吸収されてよい。
【0062】
コリメータ23は、
図6の例では、ターゲット14からのX線のうち、平板状の透過型ターゲット14(言い換えると、箔状体7における平面である第2表面7c)と垂直な方向に進むX線を選択的に通過させる。一方、コリメータ23は、ターゲット14からのX線のうち、平板状の透過型ターゲット14と垂直な方向以外の方向に進むX線を吸収し、このX線の通過を阻止する。
【0063】
高電圧印加装置25は、箔状体7の第2表面7cの電位よりもターゲット14の電位が高くなるように、ターゲット14に高電圧を印加して、ターゲット14を高電位に維持する。これにより、電子源10からの電子がターゲット14に衝突し、ターゲット14においてX線が発生する。高電圧印加装置25がターゲット14に印加する高電圧の値は、カーボンナノ構造体5の接地電位を0Vとして、例えば1kV〜100kVのオーダーであり、例えば、1kV〜100kVの範囲内の値であり、あるいは、5kV〜20kVの範囲内の値である。
【0064】
真空容器26の内部には、電子源10およびターゲット14が配置される。真空容器26は、好ましくは、平板形状を有する。この場合、
図6のように、真空容器26の厚み方向(
図6の上下方向)と、箔状体7の厚み方向と、平板形状のカーボン支持体3の厚み方向と、平板形状のターゲット14の厚み方向が、互いに一致するように、真空容器26の内部には、電子源10およびターゲット14が配置される。
【0065】
真空装置27は、ターゲット14でX線を発生させる期間において、真空容器26の内部を真空に維持する。真空装置27は、例えば図示しない真空ポンプやバルブなどにより構成される。
【0066】
上述した本実施形態のX線発生装置20により以下の効果が得られる。
【0067】
真空容器26を平板形状にすることができるので、薄くて大面積のX線発生装置20を実現できる。すなわち、平板形状の透過型ターゲット14の最も広い面からX線を出すことができる。
しかも、このように透過型ターゲット14の最も広い面(
図6の紙面と垂直な面)から出たX線のうち、平板形状のターゲット14と垂直な方向に進むX線が、選択的にコリメータ23を通過する。これにより、断面積が大きく直進する平行X線ビームを得ることができる。
【0068】
上述のように、1ナノ秒のオーダーの微小時間で、電子源10は、電子を放出する状態と、電子を放出しない状態との間で切り替え可能であるので、X線発生装置20は、1ナノ秒のオーダーの微小時間で、X線を発生させる状態とX線を発生させない状態との間で切り替え可能である。
【0069】
必要な時だけ、電圧切り替え部19を第2状態にすることにより、電子衝突によるターゲット14の発熱が大幅に抑えられる。
【0070】
X線発生装置20は、安定してX線を継続して発生することができる。すなわち、下記の実験条件でX線を発生させて、下記の結果を得た。
【0071】
・実験条件
図6の構成において、ターゲット14を反射型のターゲットにして、電圧切り替え部19を第2状態にして箔状体7の第2表面7cを140Vの電位に維持し、ターゲット14を10kVの電位に維持した。ターゲット14で発生したX線をX線検出器でカウントした。
・結果
図7に示す結果を得た。
図7において、横軸は、経過時間を示し、縦軸は、X線検出器によるX線のカウント数を示す。
【0072】
図7から分かるように、少なくとも約5400秒(約1.5時間)の長時間にわたって、安定してX線を発生し続けることができた。
このことは、長時間にわたって、電子源10から電子が安定して放出されていることも示している。
【0073】
[X線発生装置の応用1]
上述のX線発生装置20を、検査対象体Tの断面画像の取得に応用できる。
図8は、上述のX線発生装置20を複数備えた検査対象体Tの断面像取得装置30を示す。
【0074】
断面像取得装置30は、複数のX線発生装置20と、複数のX線検出器29と、制御装置31と、データ処理装置33を備える。
【0075】
複数のX線発生装置20は、検査対象体Tから見て互いに異なる方向から検査対象体Tの同じ断面(平面による断面)にX線を照射する。
図8では、簡単のため、3つのX線発生装置20が配置されているが、検査対象体Tの断面画像の精度を向上させるために、複数のX線発生装置20は、多数のX線発生装置20であってよい。
【0076】
複数のX線検出器29は、それぞれ複数のX線発生装置20に対応している。各X線発生装置20と、このX線発生装置20に対応するX線検出器29とは、互いに対向して配置される。互いに対向するX線発生装置20とX線検出器29との間に、検査対象体Tが配置される。
【0077】
各X線検出器29は、対応するX線発生装置20から出され検査対象体Tを通過したX線を検出することによりX線検出データを生成する。すなわち、各X線検出器29は、自身へのX線の入射方向と交差(好ましくは直交)する方向に延びる検出線分L上における各位置のX線の強度を示すX線検出データを生成する。この検出線分Lは、
図8において太い線分で表わされており、X線が照射される上述の断面と同一平面内にある。したがって、各X線検出器29に対応するX線発生装置20の箔状体7およびカーボン支持体3の表面3aは、この検出線分Lと平行に(例えば細長く)延びている。
【0078】
制御装置31は、互いに異なるタイミングで、複数のX線発生装置20からX線を発生させる。制御装置31は、複数のX線発生装置20に共有される上述の制御部21を有する。制御部21は、複数のX線発生装置20にそれぞれ設けられた複数の電圧切り替え部19が互いに重ならない微小時間だけ第2状態になるように、複数の電圧切り替え部19を順に第2状態にする。これにより、互いに異なるタイミングで、複数のX線発生装置20からX線が発生し、このX線が、検査対象体Tを通過し、対応するX線検出器29で検出される。なお、各電圧切り替え部19が第2状態になる時に、X線発生装置20のターゲット14には、高電圧印加装置25により高電圧が印加されている。
【0079】
また、一例では、
図8の紙面と垂直な方向にずれた各位置の平面(以下、配置平面という)に、検査対象体Tを中心として周方向にずれた複数(例えば3つ)のX線発生装置20と複数のX線検出器29を配置する。ただし、異なる配置平面同士の間では、複数のX線発生装置20の上記周方向の位置が互いに異なる。この場合、
図8は、
図8の紙面と垂直な方向における複数の配置平面のうちの1つの配置平面に配置された複数(この図では、3つ)のX線発生装置20と複数のX線検出器29を示している。このような場合、検査対象体Tを、
図8の紙面と垂直な方向(以下、搬送方向ともいう)に断続的または連続的に送りながら、この方向の各配置平面の複数のX線発生装置20により検査対象体Tの同じ断面にX線を照射する。このようなX線照射が行われるように、制御装置31は、検査対象体Tを搬送方向に送る駆動装置を制御しながら、検査対象体Tの上記断面が搬送方向の各配置平面に来た時に、この配置平面の複数のX線発生装置20より検査対象体Tの同じ断面にX線を互いに異なるタイミングで照射するように各X線発生装置20を制御する。これにより、各配置平面のX線検出器29は、検査対象体Tの上記断面を通過したX線を検出することによりX線検出データを生成する。
【0080】
データ処理装置33は、複数のX線検出器29(例えば、上述の各配置平面の複数のX線検出器29)が生成したX線検出データに基づいて、検査対象体Tの断面画像を生成する。この断面画像の生成は、フーリエ変換を用いて行われてよい。
【0081】
[X線発生装置の応用2]
上述のX線発生装置20を、(例えば宇宙における)X線による無線通信に利用することもできる。
【0082】
図9(A)は、上述のX線発生装置20を備えたX線通信装置40を示す。
【0083】
X線通信装置40は、X線発生装置20と制御装置35とX線検出器37と信号生成装置39を備える。
【0084】
X線発生装置20は、上述のようにX線を発生し、発生したX線はX線検出器37へ伝播していく。一例では、X線発生装置20とX線検出器37のうち、一方は、地球を回る人工衛星に設けられ、他方は、地球から離れた(例えば木星の近くに位置する)宇宙探査機に設けられる。別の例では、X線発生装置20とX線検出器37は、互いに異なる人工衛星に設けられる。また、X線発生装置20を地上における無線通信に利用してもよい。地上においても、X線の透過性を利用して、光や電波や音などによる無線通信が不可能な場所での通信にX線発生装置20を利用することもできる。
【0085】
図9(B)は、X線の発生時点を示す。
図9(B)において、横軸は、経過時間を示し、縦軸は、X線発生装置20から発生したX線の強度を示す。
図9(B)において、X線の強度がゼロである時間期間では、X線発生装置20からX線が発生していない。
【0086】
X線発生装置20は、
図9(B)のように、X線を断続的に放出し、この放出の時間間隔を(例えば、
図9(B)のようにΔT1からΔT2へ)変化させることにより、各時間間隔(例えばΔT1とΔT2)を信号データとしてX線検出器37へ伝える。これらの時間間隔は、互いに異なる数値や意味を表わすデータとすることができる。各時間間隔ΔT1,ΔT2は、1ナノ秒〜10ナノ秒のオーダーであり、例えば、1ナノ秒〜50ナノ秒の範囲内の値である。
【0087】
制御装置35は、時間間隔をおいてX線発生装置20からX線を発生させる。例えば、制御装置35は、
図9(B)に示すように、時間間隔ΔT1,ΔT2をおいて各時点t1,t2,t3でX線発生装置20からX線を発生させる。
【0088】
制御装置35は、上述の制御部21を有する。この制御部21は、電圧印加切り替え部19を第1状態から第2状態に切り替える。これにより、X線発生装置20からX線が発生し、このX線が、X線検出器37まで伝播する。
【0089】
図9(B)の例の場合について説明する。制御部21は、時点t1で電圧印加切り替え部19を第1状態から第2状態に切り替えることにより、時点t1でX線発生装置20からX線を発生させ、直ぐに、電圧印加切り替え部19を第2状態から第1状態に切り替え時点t2まで電圧印加切り替え部19を第1状態に維持することにより、時点t2までX線発生装置20からX線が発生しないようにする。次に、制御部21は、時点t2で電圧印加切り替え部19を第1状態から第2状態に切り替えることにより、時点t2でX線発生装置20からX線を発生させ、直ぐに、電圧印加切り替え部19を第2状態から第1状態に切り替え時点t3まで電圧印加切り替え部19を第1状態に維持することにより、時点t3までX線発生装置20からX線が発生しないようにする。その後、制御部21は、時点t3で電圧印加切り替え部19を第1状態から第2状態に切り替えることにより、時点t3でX線発生装置20からX線を発生させ、直ぐに、電圧印加切り替え部19を第2状態から第1状態に切り替えることにより、次の時点までX線発生装置20からX線が発生しないようにする。
【0090】
なお、X線通信装置40によるX線通信を行う期間にわたって、X線発生装置20のターゲット14には、高電圧印加装置25により高電位が継続して印加されている。
【0091】
X線検出器37は、上述の時間間隔(例えば、
図9(B)の時間間隔ΔT1)をおいて、(
図9(B)の各時点t1,t2で)X線発生装置20から発生したX線を検出する。すなわち、X線検出器37は、これらのX線を受信する。
【0092】
信号生成装置39は、X線検出器37がX線を受信した時間間隔(例えば、時間間隔ΔT1)に対応する第1信号データを生成する。
【0093】
制御装置35は、上述の時間間隔を(例えば、
図9(B)のようにΔT1からΔT2へ)変え、これにより、X線検出器37がX線を受信した時間間隔が(例えばΔT1からΔT2へ)変わると、信号生成装置39は、変わった時間間隔(例えば、ΔT2)に対応する第2信号データを生成する。
第1信号データと第2信号データは、例えば互いに異なる値の電圧であってよいが、これに限定されない。
【0094】
このようなX線による無線通信では、以下の効果が得られる。
【0095】
上述したように、1ナノ秒のオーダーの微小時間で、X線発生装置20は、X線を発生させる状態と、X線を発生させない状態との間で切り替えられるので、上述の時間間隔の変更を、1ナノ秒〜10ナノ秒のオーダーの微小時間で行える。したがって、X線通信装置40により、X線による円滑な通信が可能となる。
【0096】
X線通信装置40が、
図6のX線発生装置20を有することにより、直進性が優れたX線を発生できる。したがって、小型のX線発生装置20とX線検出器37で、X線通信を実現でき、通信に要する消費電力も抑えることができる。
【0097】
また、X線は波長が短いので、ファラデーローテーションの影響の無い無線通信を実現できる。
【0098】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上述のターゲット14は、透過型ではなく反射型のターゲットであってもよい。また、コリメータ23は、上述した構成に限定されず、用途に合わせた構成を有していてよい。