【文献】
マウスの血清においてアディポネクチンのー部はエキソソームに存在する [論文内容及び審査の要旨],2014年 9月25日,URL,https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/57175/1/Worrawalan_Phoonsawat_abstract.pdf
【文献】
糖尿病,2015年 4月25日,Vol. 58 Supplement 1,p. S-425, III-P-123
【文献】
糖尿病,2015年 4月25日,Vol. 58 Supplement 1,p. S-425, III-P-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アディポネクチン、アディポネクチン発現促進剤、T-カドヘリン発現促進剤、ADAM12発現抑制剤、及びADAM12活性抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、細胞からのエクソソーム産生促進剤。
前記ADAM12発現抑制剤が、ADAM12特異的siRNA、ADAM12特異的miRNA、ADAM12特異的アンチセンス核酸、及びこれらの発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
前記ADAM12活性抑制剤が、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、及びADAM12ドミナントネガティブ変異体の発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載のエクソソーム産生促進剤。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.定義
本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
本明細書において、アミノ酸配列の『同一性』とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対する同一のアミノ酸配列の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の同一性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS, Altschul SF.“Methods for assessing the statisticalsignificance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc.Natl Acad Sci USA.87:2264−2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statisticsfor multipl
e high−scoringsegments in molecular sequences.”NatlAcad Sci USA.90:5873−7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、NationalCenter of BiotechnologyInformation(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。
【0014】
本明細書において、保存的置換とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換技術にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ−分枝側鎖を有するアミノ酸残基、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0015】
本明細書において、「細胞からのエクソソーム産生促進剤」とは、細胞から産生されるエクソソーム量を、増加させるための剤を意味する。
【0016】
2.エクソソーム産生促進剤
本発明は、アディポネクチン、アディポネクチン発現促進剤、T-カドヘリン発現促進剤、ADAM12発現抑制剤、及びADAM12活性抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、細胞からのエクソソーム産生促進剤(本明細書において、「本発明のエクソソーム産生促進剤」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0017】
アディポネクチンとしては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類由来のアディポネクチンを採用することができる。中でも、エクソソーム産生促進対象細胞が由来する生物種のアディポネクチンが好ましい。
【0018】
種々の生物種由来アディポネクチンのアミノ酸配列は公知である。具体的には、例えば、ヒトアディポネクチンとしては配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001171271.1又はNP_004788.1)が挙げられ、マウスアディポネクチンとしては配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_033735.3)等が挙げられる。また、アディポネクチンは、N末シグナルペプチドが欠失したものであってもよい。
【0019】
アディポネクチンは、T-カドヘリン結合能を有する限りにおいて、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異を有していてもよい。変異としては、T-カドヘリン結合能がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0020】
アディポネクチンの好ましい具体例としては、下記(a)に記載するタンパク質及び下記(b)に記載するタンパク質:
(a)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(b)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つT-カドヘリン結合能を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
上記(b)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0022】
T-カドヘリン結合能の有無は、公知の方法に従って又は準じて判定することができる。例えば、T-カドヘリンを過剰発現する細胞、及びT-カドヘリンをノックダウンした細胞に、判定対象タンパク質(アディポネクチン変異体)を接触させた後、細胞を洗浄してから溶解し、溶解液に含まれる判定対象タンパク質の量を測定した結果、該量が細胞のT-カドヘリンの量に依存していれば、判定対象タンパク質はT-カドヘリン結合能を有すると判定することができる。
【0023】
上記(b)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(b’)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つT-カドヘリン結合能を有するタンパク質が挙げられる。
【0024】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2〜30個であり、好ましくは2〜20個であり、より好ましくは2〜15個であり、よりさらに好ましくは2〜10個であり、よりさらに好ましくは2〜5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0025】
血中において、アディポネクチンは、通常、3量体、6量体、18量体の3種類の分子種として存在していることが知られている。本発明において、アディポネクチンには、これらのマルチマーも包含される。なお、限定的な解釈を望むものではないが、アディポネクチンによるエクソソーム産生促進は、細胞膜上のT-カドヘリンへのアディポネクチンの結合により該結合部を中心とした凝集が起こることに起因すると考えられる。この観点から、アディポネクチンは、より凝集を起こし易いと考えられる比較的大きな分子集合体であることが好ましく、例えば6量体、18量体、より好ましくは18量体である。
【0026】
アディポネクチンは、T-カドヘリン結合能を有する限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0027】
アディポネクチンは、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO
−)、アミド(−CONH
2)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。
【0028】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなどのC
1−6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC
3−8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC
6−12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C
1−2アルキル基;α−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C
1−2アルキル基などのC
7−14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0029】
アディポネクチンは、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0030】
さらに、アディポネクチンには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC
1−6アルカノイルなどのC
1−6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC
1−6アルカノイル基などのC
1−6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども包含される。
【0031】
アディポネクチンは、T-カドヘリン結合能を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばヒスチジンタグ、FLAGタグ、GSTタグ等が挙げられる。
【0032】
アディポネクチンは、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0033】
アディポネクチンは、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0034】
アディポネクチンは、公知の方法に従って、例えば化学合成、哺乳動物の細胞又は組織(例えば血清等)からの精製、アディポネクチンをコードするポリヌクレオチドを含有する形質転換体からの精製等によって得ることができる。形質転換体からの精製により得る場合、形質転換体としては、アディポネクチンをコードするポリヌクレオチドからアディポネクチンを発現させることができる細胞である限り特に限定されず、大腸菌などの細菌、昆虫細胞、哺乳類細胞等の種々の細胞を利用することができる。
【0035】
昆虫細胞としては、例えば、Sf細胞、MG1細胞、High Five
TM細胞、BmN細胞などが用いられる。Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞などが用いられる。
【0036】
動物細胞としては、例えば、サルCOS−7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター細胞CHO、マウスL細胞、マウスAtT−20細胞、マウスミエローマ細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞などが用いられる。
【0037】
アディポネクチン発現促進剤は、細胞から分泌されるアディポネクチン量を増加させることができる限りにおいて特に制限されない。
【0038】
アディポネクチン発現促進剤としては、例えばアディポネクチンの発現ベクターが挙げられる。アディポネクチンの発現ベクターは、アディポネクチンが発現可能な状態で組み込まれている限りにおいて特に限定されない。典型的には、アディポネクチンの発現ベクターは、プロモーター配列、及びアディポネクチンコード配列(必要に応じて、さらに転写終結シグナル配列)を含むポリヌクレオチドを含む。
【0039】
発現ベクターは、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター等が挙げられる。
【0040】
プロモーターは、特に制限されず、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。
【0041】
発現ベクターは、上記以外にも、発現ベクターが含み得る他のエレメントを含んでいてもよい。他のエレメントとしては、例えば複製基点や薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。薬剤耐性遺伝子は、特に制限されないが、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0042】
アディポネクチンの発現ベクターは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に得ることができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。
【0043】
アディポネクチン発現促進剤の別の例としては、アディポネクチンの転写活性化因子(例えばPPARγ)及びその発現ベクター、アディポネクチンの転写を活性化できる低分子化合物(例えば、PPARγ転写活性化能を有するチアゾリジン誘導体等)等が挙げられる。発現ベクターの態様については、上記アディポネクチンの発現ベクターと同様である。
【0044】
T-カドヘリン発現促進剤は、エクソソーム産生促進対象細胞が発現するT-カドヘリン量を増加させることができる限りにおいて特に制限されない。
【0045】
T-カドヘリンとしては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類由来のT-カドヘリンを採用することができる。中でも、エクソソーム産生促進対象細胞が由来する生物種のT-カドヘリンが好ましい。
【0046】
種々の生物種由来T-カドヘリンのアミノ酸配列は公知である。具体的には、例えば、ヒトT-カドヘリンとしては配列番号3〜8のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001207417.1、NP_001207418.1、NP_001207419.1、NP_001207420.1、NP_001207421.1、又はNP_001248.1)が挙げられ、マウスT-カドヘリンとしては配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_062681.2)等が挙げられる。また、T-カドヘリンは、N末シグナルペプチドが欠失したものであってもよい。
【0047】
T-カドヘリンは、アディポネクチン結合能を有する限りにおいて、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異を有していてもよい。変異としては、アディポネクチン結合能がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0048】
T-カドヘリンの好ましい具体例としては、下記(c)に記載するタンパク質及び下記(d)に記載するタンパク質:
(c)配列番号3〜9のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(d)配列番号3〜9のいずれかに示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアディポネクチン結合能を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0049】
上記(d)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0050】
アディポネクチン結合能の有無は、公知の方法に従って又は準じて判定することができる。例えば、T-カドヘリンノックアウト細胞、及び該細胞に判定対象タンパク質(T-カドヘリン変異体)を過剰発現させた細胞に、アディポネクチンを接触させた後、細胞を洗浄してから溶解し、溶解液に含まれるアディポネクチンの量を測定した結果、該量が細胞の判定対象タンパク質(T-カドヘリン変異体)の量に依存していれば、判定対象タンパク質はアディポネクチン結合能を有すると判定することができる。
【0051】
上記(d)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(d’)配列番号3〜9のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つアディポネクチン結合能を有するタンパク質が挙げられる。
【0052】
上記(d’)において、複数個とは、例えば2〜100個であり、好ましくは2〜50個であり、より好ましくは2〜15個であり、よりさらに好ましくは2〜10個であり、よりさらに好ましくは2〜5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0053】
T-カドヘリン発現促進剤としては、例えばT-カドヘリンの発現ベクターが挙げられる。
【0054】
T-カドヘリン発現促進剤の別の例としては、T-カドヘリンの転写活性化因子、その発現ベクター、T-カドヘリンの転写を活性化できる低分子化合物等が挙げられる。発現ベクターの態様については、上記アディポネクチンの発現ベクターと同様である。
【0055】
ADAM12発現抑制剤は、エクソソーム産生促進対象細胞が発現するADAM12量を減少させることができる限りにおいて特に制限されない。
【0056】
ADAM12は、エクソソーム産生促進対象細胞が発現しているADAM12である。よって、該細胞が由来する生物種に応じて、ADAM12が由来する生物種も変わる。該生物種としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類が挙げられる。
【0057】
種々の生物種由来ADAM12のアミノ酸配列は公知である。具体的には、例えば、ヒトADAM12としては配列番号10〜14のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_001275902.1、NP_001275903.1、NP_001275904.1、NP_003465.3、又はNP_067673.2)が挙げられ、マウスADAM12としては配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_031426.2)等が挙げられる。また、ADAM12は、N末シグナルペプチドが欠失したものであってもよい。
【0058】
ADAM12は、マトリックスメタロプロテアーゼ活性を有する限りにおいて、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異を有していてもよい。変異としては、マトリックスメタロプロテアーゼ活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0059】
ADAM12の好ましい具体例としては、下記(e)に記載するタンパク質及び下記(f)に記載するタンパク質:
(e)配列番号10〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(f)配列番号10〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つマトリックスメタロプロテアーゼ活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0060】
上記(f)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0061】
メタロプロテアーゼ活性の有無は、公知の方法に従って又は準じて判定することができる。
【0062】
上記(f)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(f’)配列番号10〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つマトリックスメタロプロテアーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0063】
上記(f’)において、複数個とは、例えば2〜130個であり、好ましくは2〜70個であり、より好ましくは2〜30個であり、よりさらに好ましくは2〜10個であり、よりさらに好ましくは2〜5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0064】
ADAM12発現抑制剤としては、例えばADAM12特異的siRNA、ADAM12特異的miRNA、ADAM12特異的アンチセンス核酸、これらの発現ベクター等が挙げられる。
【0065】
ADAM12特異的siRNAは、ADAM12をコードする遺伝子の発現を特異的に抑制する二本鎖RNA分子である限り特に制限されない。一実施形態において、siRNAは、例えば、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、又は21塩基以上の長さであることが好ましい。siRNAは、例えば、25塩基以下、24塩基以下、23塩基以下、又は22塩基以下の長さであることが好ましい。ここに記載するsiRNAの長さの上限値及び下限値は任意に組み合わせることが想定される。例えば、下限が18塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ、下限が19塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ、下限が20塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さ、下限が21塩基であり、上限が25塩基、24塩基、23塩基、又は22塩基である長さが想定される。
【0066】
siRNAは、shRNA(small hairpin RNA)であっても良い。shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、shRNAは、ある領域の配列を配列aとし、配列aに対する相補鎖を配列bとすると、配列a、スペーサー、配列bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計することができる。配列aは、標的となるADAM12をコードする塩基配列の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されず、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列aの長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。
【0067】
ADAM12特異的siRNAは、5’又は3’末端に、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、通常2〜4塩基程度である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いると核酸の安定性を向上させることができる場合がある。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
siRNAは、3'末端に突出部配列(オーバーハング)を有していてもよく、具体的には、dTdT(dTはデオキシリボ核酸を表わす)を付加したものが挙げられる。また、末端付加がない平滑末端(ブラントエンド)であってもよい。siRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖が異なる塩基数であってもよく、例えば、アンチセンス鎖が3'末端及び5'末端に突出部配列(オーバーハング)を有している「aiRNA」を挙げることができる。典型的なaiRNAは、アンチセンス鎖が21塩基からなり、センス鎖が15塩基からなり、アンチセンス鎖の両端で各々3塩基のオーバーハング構造をとる。
【0069】
ADAM12特異的siRNAの標的配列の位置は特に制限されるわけではないが、一実施形態において、5’-UTR及び開始コドンから約50塩基まで、並びに3’-UTR以外の領域から標的配列を選択することが望ましい。選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16-17塩基の連続した配列に相同性がないかどうかを、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認することが好ましい。特異性が確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19-21塩基にTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19−21塩基に相補的な配列及びTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計してもよい。また、siRNAの前駆体であるショートヘアピンRNA(shRNA)は、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、5-25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
【0070】
siRNA及び/又はshRNAの配列は、種々のwebサイト上に無料で提供される検索ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、以下を挙げることができる。
Ambionが提供するsiRNA Target Finder
(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/siRNA_finder.html)pSilencer(登録商標)Expression Vector用インサートデザインツール(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/psilencer_converter.html)RNAi Codexが提供するGeneSeer
(http://codex.cshl.edu/scripts/newsearchhairpin.cgi)。
【0071】
siRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、siRNAの前駆体となるショートヘアピンRNA(shRNA)を合成し、これを、ダイサー(dicer)を用いて切断することにより調製することもできる。
【0072】
ADAM12特異的miRNAは、ADAM12をコードする遺伝子の翻訳を阻害する限り任意である。例えば、miRNA(マイクロRNA)は、siRNAのように標的mRNAを切断するのではなく、標的の3’非翻訳領域(UTR)に対合してその翻訳を阻害してもよい。miRNAは、pri-miRNA(primary miRNA)、pre-miRNA、及び成熟miRNAのいずれでもよい。miRNAの長さは特に制限されず、pri-miRNAの長さは通常数百〜数千塩基であり、pre-miRNAの長さは通常50〜80塩基であり、成熟miRNAの長さは通常18〜30塩基である。一実施形態において、ADAM12特異的miRNAは、好ましくはpre-miRNA又は成熟miRNAであり、より好ましくは成熟miRNAである。このようなADAM12特異的miRNAは、公知の手法で合成してもよく、合成RNAを提供する会社から購入してもよい。
【0073】
ADAM12特異的アンチセンス核酸とは、ADAM12をコードする遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸であって、該mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、ADAM12タンパク質合成を抑制する機能を有する核酸である。アンチセンス核酸はDNA、RNA、DNA/RNAキメラのいずれでもよい。アンチセンス核酸がDNAの場合、標的RNAとアンチセンスDNAとによって形成されるRNA:DNAハイブリッドは、内在性RNase Hに認識されて標的RNAの選択的な分解を引き起こす。したがって、RNase Hによる分解を指向するアンチセンスDNAの場合、標的配列は、mRNA中の配列だけでなく、ADAM12遺伝子の初期翻訳産物におけるイントロン領域の配列であってもよい。イントロン配列は、ゲノム配列と、ADAM12遺伝子のcDNA塩基配列とをBLAST、FASTA等のホモロジー検索プログラムを用いて比較することにより、決定することができる。
【0074】
ADAM12特異的アンチセンス核酸の標的領域は、該アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてADAM12タンパク質への翻訳が阻害されるものであればその長さは制限されない。ADAM12特異的アンチセンス核酸は、ADAM12をコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよい。合成の容易さや抗原性、細胞内移行性の問題等を考慮すれば、約10〜約40塩基、特に約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいが、これらに限定されない。具体的には、ADAM12遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域または3’端ヘアピンループなどをアンチセンス核酸の好ましい標的領域として選択しうるが、それらに限定されない。
【0075】
ADAM12特異的アンチセンス核酸は、ADAM12遺伝子のmRNAや初期転写産物とハイブリダイズしてタンパク質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるこれらの遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAへの転写を阻害し得るもの(アンチジーン)であってもよい。
【0076】
上記したADAM12特異的siRNA、ADAM12特異的miRNA、及びADAM12特異的アンチセンス核酸を構成するヌクレオチド分子は、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含んでもよい。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンス核酸を構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(R=CH3(2’-O-Me)、CH2CH2OCH3(2’-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、又はCH2CH2CN等)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換等を施してもよい。また、siRNAやmiRNAを構成するヌクレオチド分子の一部は、天然型のDNAに置換されていてもよい。
【0077】
ADAM12特異的siRNA、ADAM12特異的miRNA、及びADAM12特異的アンチセンス核酸等は、ADAM12遺伝子のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。また、上記した各種修飾を含むアンチセンス核酸も、いずれも自体公知の手法により、化学的に合成することができる。
【0078】
ADAM12特異的siRNA、ADAM12特異的miRNA、又はADAM12特異的アンチセンス核酸の発現ベクターについては、上記アディポネクチンの発現ベクターと同様である。なお、発現ベクターのプロモーターとしては、アディポネクチンの発現ベクターのようにpolII系プロモーターを使用することもできるが、短いRNAの転写を正確に行わせるために、polIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えばマウスおよびヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター等が挙げられる。
【0079】
ADAM12発現抑制剤の別の例としては、ADAM12特異的リボザイム等が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAを意味するが、本書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものは、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないという利点を有する。ADAM12遺伝子のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0080】
ADAM12活性抑制剤は、エクソソーム産生促進対象細胞が発現するADAM12のマトリックスメタロプロテアーゼ活性を低下させることができる限りにおいて特に制限されない。
【0081】
ADAM12活性抑制剤としては、例えばマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、ADAM12ドミナントネガティブ変異体の発現ベクター、ADAM12中和抗体、ADAM12プロドメインからなるタンパク質及びその発現ベクター等が挙げられる。
【0082】
マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤は、特に制限されない。該阻害剤としては、例えば、マリマスタット(Marimastat(BB-2516))、AG3340、CGS27023A、Bay 12-9566、Neovastat、BMS 275-291、テトラサイクリン類、Matristatin(三共)、カテキン等が挙げられる。これらの物質は、公知文献に記載された合成方法を参照し、あるいは通常の合成法を用いることにより製造することができ、また、これらの物質の製造、販売、開発会社等から入手することもできる。
【0083】
ADAM12ドミナントネガティブ変異体は、特に制限されない。該変異体となる変異としては、例えばマウスの場合であれば、配列番号15において349番目のグルタミン酸のグルタミンへの置換が挙げられ、例えばヒトの場合であれば、配列番号10において348番目のグルタミン酸のグルタミンへの置換が挙げられる。ADAM12ドミナントネガティブ変異体は、N末シグナルペプチドが欠失したものであってもよい。
【0084】
ADAM12ドミナントネガティブ変異体は、上記以外にも、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異(好ましくは保存的置換)を有していてもよい。
【0085】
ADAM12ドミナントネガティブ変異体の好ましい具体例としては、下記(g)に記載するタンパク質及び下記(h)に記載するタンパク質:
(g)配列番号10において348番目のグルタミン酸がグルタミンへ置換したアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号15において349番目のグルタミン酸がグルタミンへ置換したアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(h)上記(g)のタンパク質と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0086】
上記(h)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0087】
上記(h)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(h’) 上記(g)のタンパク質のアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つマトリックスメタロプロテアーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0088】
上記(h’)において、複数個とは、例えば2〜130個であり、好ましくは2〜70個であり、より好ましくは2〜30個であり、よりさらに好ましくは2〜10個であり、よりさらに好ましくは2〜5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0089】
ADAM12ドミナントネガティブ変異体の発現ベクターの態様については、上記アディポネクチンの発現ベクターと同様である。
【0090】
ADAM12中和抗体は、ADAM12に結合することにより、その抗原が本来有していた機能又は活性を阻害する性質を有する抗体を意味する。ADAM12に対する中和抗体とは、ADAM12に結合することによりADAM12が有するマトリックスメタロプロテアーゼ活性を阻害する性質を有する抗体を言う。
【0091】
ADAM12プロドメインからなるタンパク質は、ADAM12の活性を抑制できる限りにおいて特に限定されない。このようなタンパク質は公知であり、例えばScientific Reports | 5:15150 | DOI: 10.1038/srep15150に記載されている。ADAM12プロドメインからなるタンパク質の一例としては、例えばヒトの場合であれば、配列番号13における29〜206番目のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
【0092】
ADAM12プロドメインからなるタンパク質は、その機能を保持する限りにおいて、上記以外にも、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異(好ましくは保存的置換)を有していてもよい。
【0093】
ADAM12プロドメインからなるタンパク質の好ましい具体例としては、下記(i)に記載するタンパク質及び下記(j)に記載するタンパク質:
(i)配列番号13における29〜206番目のアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(j)上記(i)のタンパク質と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0094】
上記(j)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0095】
上記(j)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(j’)上記(i)のタンパク質のアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つマトリックスメタロプロテアーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0096】
上記(j’)において、複数個とは、例えば2〜20個であり、好ましくは2〜10個であり、より好ましくは2〜5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0097】
本発明のエクソソーム産生促進剤の対象細胞は、in vitroにおける細胞(すなわち、生体外で培養されている細胞)であってもよいし、in vivoにおける細胞(すなわち、生体内に存在している細胞)であってもよい。
【0098】
本発明のエクソソーム産生促進剤の対象生物は、特に限定されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類が挙げられる。
【0099】
本発明のエクソソーム産生促進剤の対象細胞の細胞種は、エクソソームを産生し得る細胞種である限り特に限定されず、例えば血管内皮細胞、内皮前駆細胞、幹細胞(例えば、骨髄由来幹細胞、脂肪組織由来幹細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞(iPS細胞、ES細胞等)等)、筋細胞(骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞)、筋前駆細胞(例えば、心筋前駆細胞、筋芽細胞等)、神経細胞等が挙げられる。
【0100】
本発明のエクソソーム産生促進剤は、上記成分に加え、任意の担体や添加剤、例えば医薬上許容される担体および添加剤を含むことができる。
【0101】
医薬上許容される担体および添加剤としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑沢剤;クエン酸、メントール等の芳香剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、生理食塩水等の希釈剤;ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0102】
本発明のエクソソーム産生促進剤は、使用用途(in vitro又はin vivo)や投与形態において、適切な剤形、例えば錠剤、丸剤、散剤、液剤、注射剤、懸濁剤、乳剤
、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤等の剤形を採ることができる。
【0103】
本発明のエクソソーム産生促進剤をin vivoにおける細胞に使用する場合、その投与量は、投与対象となる被験者の体重や年齢、並びに病気の重篤度等によって異なり、一概に設定することはできないが、例えば、成人1日あたり有効成分量として数mg〜数十mg/kg体重を挙げることができ、これを1日1回〜数回に分けて投与することができる。
【0104】
本発明のエクソソーム産生促進剤を後述の本発明のエクソソーム産生促進方法のように用いることにより、細胞からのエクソソーム産生を促進することができる。また、本発明のエクソソーム産生促進剤を後述の本発明のエクソソームの製造方法のように用いることにより、エクソソームを従来よりも効率的に製造することができる。
【0105】
3.エクソソーム産生促進方法
本発明は、本発明のエクソソーム産生促進剤を細胞に接触させる工程を含む、細胞からのエクソソーム産生を促進する方法(本明細書において、「本発明のエクソソーム産生促進方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0106】
本発明のエクソソーム産生促進剤、対象細胞等については、上記「2.エクソソーム産生促進剤」における説明と同様である。
【0107】
細胞に接触させる態様は、本発明のエクソソーム産生促進剤の有効成分(アディポネクチン、アディポネクチン発現促進剤、T-カドヘリン発現促進剤、ADAM12発現抑制剤、ADAM12活性抑制剤)が、細胞に作用してエクソソーム産生を促進できる態様である限りにおいて、特に限定されない。細胞に接触させる方法は、有効成分の種類に応じて、公知の方法に従って又は準じた方法を採用することができる。
【0108】
例えば、有効成分がアディポネクチンである場合は、細胞に接触させる態様は、アディポネクチンが対象細胞表面に接触できる態様である限り、特に限定されない。アディポネクチンが細胞表面上のT-カドヘリンに結合することによって、エクソソーム産生が促進される。In vitroの場合であれば、例えばアディポネクチンを培地に添加することによって、対象細胞表面にアディポネクチンを接触させることができる。
【0109】
例えば、有効成分が、プラスミドベクター、siRNA、miRNA、アンチセンス核酸等の核酸である場合は、細胞に接触させる態様は、これらの核酸が対象細胞内に導入されるような態様である限り、特に限定されない。対象細胞内に導入されることにより、その機能(T-カドヘリン発現、ADAM12抑制等)が発揮され、これによってエクソソーム産生が促進される。核酸の導入は、公知の方法に従って又は準じて行うことができ、例えばリポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、及びウイルスベクター法等により核酸を導入することができる。
【0110】
これらの核酸を細胞に接触させる際には、核酸導入試薬を併用することが望ましい。核酸導入試薬の具体例としては、ポリマー系核酸導入試薬;jetPRIME(PPU社)、jetPEI(PPU 社)、jetPEI-HUVEC(PPU 社):脂質系核酸導入試薬;Lipofectamine 3000(Invitrogen社)、Lipofectamine 2000(Invitrogen社)、Lipofectamine LTX(Invitrogen社)、Invivofectamine 2.0(Invitrogen社)、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen社)、ScreenFect (和光純薬社)、 INTERFERin(PPU 社)、INTERFERin HTS(PPU 社)、Lullaby(OZB 社)、GeneSilencer Reagent(GTS 社)、LipoMag Kit(OZB 社)、GenePORTER Gold Transfection Reagent(GTS 社);DreamFect Gold(OZB 社)、DreamFect(OZB 社)、EcoTransfect(OZB 社)、GenePORTER 3000(GTS 社)、GenePORTER 1/2(GTS 社)、GenePORTER H(GTS 社)、RmesFect(OZB 社):磁気粒子系核酸導入試薬;SilenceMag(OZB 社)、FluoMag-S(OZB 社)、PolyMag Neo(OZB 社)、PolyMag(OZB 社)、CombiMag(OZB 社)、FluoMag-P/FuloMag-C(OZB 社)、Magnetofectamine Kit(OZB 社)等が挙げられる。
【0111】
4.エクソソームの製造方法
本発明は、本発明のエクソソーム産生促進剤を細胞に接触させる工程、及び前記細胞から産生されるエクソソームを回収する工程を含む、エクソソームの製造方法(本明細書において、「本発明のエクソソームの製造方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0112】
本発明のエクソソーム産生促進剤、対象細胞等については、上記「2.エクソソーム産生促進剤」における説明と同様である。また、細胞に接触させる工程については、上記「3.エクソソーム産生促進方法」における説明と同様である。
【0113】
エクソソームは、培地中に分泌されるので、単に培地を回収することによってエクソソームを回収することができる。
【0114】
回収した培地は、必要に応じてエクソソーム精製工程に供してもよい。エクソソーム精製方法は、特に限定されず、公知の方法に従った又は準じた方法を採用することができる。例えば、培養液を、遠心力を段階的に上げながら(例えば600〜1000 g→10000〜15000 g→100000〜150000 g)、複数回、遠心して上清の回収する工程を繰り返し、最後に得られた沈殿を回収することによって、エクソソームを精製することができる。
【実施例】
【0115】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0116】
特に断りの無い限り、以下の実施例において、T-カドヘリン過剰発現内皮細胞株の作成、エクソソーム画分の精製、SDS電気泳動とウェスタンブロッティング、及びノックダウンは、以下のように行った。
【0117】
T-カドヘリン過剰発現内皮細胞株の作成
マウスT-カドヘリンをコードするDNAをレトロウイルスベクターpMXs-puroに組み込み、PLAT-E細胞にトランスフェクトした。トランフェクト後24〜48時間の間に産生された培養上清に含まれるレトロウイルスを回収し、これをマウス内皮細胞株UVF-2細胞、及びヒト内皮細胞株HMEC-1細胞に感染させた。感染後、それぞれピューロマイシン2μg/ml及び0.1μg/mlの濃度で薬剤選択することで、安定的にマウスT-カドヘリンを発現する細胞を得た。
【0118】
エクソソーム画分の精製
マウス血清を濃度20%となるようにDMEM培地に混合し、得られた混合液を100,000 g で14時間超遠心して上清を回収した。この上清を0.221μm PVDFフィルターに通した後、DMEM培地で1/4に希釈し、エクソソーム除去マウス血清(5%)培地を得た。これを細胞に作用させ、24時間及び48時間後の培養上清を800 gで10分間遠心して上清を得た。これを12,000 gで30分間遠心し、得られた上清をさらに110,000 gにて2時間超遠心して、沈殿物を得た。この沈殿物をエクソソーム画分として使用した。
【0119】
SDS電気泳動とウェスタンブロッティング
細胞試料をPBS(+)にて洗浄後、1%NP-40、1%Triton-X-100、及びタンパク分解酵素阻害剤(Compltete
TM、ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を含むTris緩衝液で溶解した。溶解液を200,000 g 15分間遠心して、得られた上清をサンプルとして用いた。サンプルのタンパク濃度をBCAタンパクアッセイ試薬を用いて定量し、定量値に基づいてサンプルのタンパク濃度を同一濃度に合わせた。このサンプルに6%SDSを含むSDS-sample bufferを1/2容混合し、98℃で5分間加熱変性した。加熱変性後のサンプルを4〜20%TGX SDS-pageゲル(BioRad)にて泳動分離し、ニトロセルロース膜に転写し、ウェスタンブロッティングを行った。
【0120】
エクソソーム試料は、6%SDSを含むSDS-sample bufferに溶解し、98℃で5分間加熱変性し、細胞試料と同様にウェスタンブロッティングを行った。
【0121】
用いた一次抗体は、Syntenin:ab19903 (Abcam)、MFG-E8:AF2805(R&D)、CD63:263-3(MBL)、T-cadherin:AF3264(R&D)、Adiponectin:AF1119(R&D)、及びalpha-Tubulin:#2144(Cell Signaling)である。
【0122】
ノックダウン
siRNAは、トランスフェクション試薬としてLipofectamine RNAiMAX reagentを用いて、終濃度5nMにて導入した。
【0123】
用いたsiRNAは、マウスT-cadherin:Gene Solution siRNA 2831661_10、Control:Gene Solution siRNA 1027281、マウスADAM9:Silencer(R) Select s232236、マウスADAM10:Silencer(R) Select s61946、ADAM12-1:Silencer(R) Select s61951、ADAM12-2:Silencer(R) Select s61953、ADAM12-3:Silencer(R) Select s61952、ADAM15:Silencer(R) Select s61955、ADAM17:Silencer(R) Select s61957、ADAM19:Silencer(R) Select s61961、Control siRNA1:Negative Control No. 1 siRNA AM4611、及びControl siRNA2:Negative Control No. 2 siRNA AM4613である。
【0124】
実施例1:ADAM12遺伝子ノックダウンによる細胞T-カドヘリン蛋白の増加とアディポネクチン集積の増加
<方法>マウスT-カドヘリン過剰発現UVF-2細胞に、ADAM9, 10, 15, 17, 19, 12及びネガティブコントロールのsiRNAをリポフェクション法によりトランスフェクトした。トランスフェクトから12時間後に、培地を、C57Bl6j野生型マウス或いはアディポネクチン欠損マウスの血清を5%含めたDMEM培地に交換し、2日間培養した。またMMP阻害薬Marimastatは10μMの濃度で2日間作用させた。細胞試料におけるT-cad、tubulin、及びAPNの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図1に示す。
【0125】
<結果>Marimastatを作用させた場合と同様に、ADAM12-1 siRNA又はADAM12-2 siRNAを作用させた場合において、T-cadherin蛋白の増加とアディポネクチン集積の増加が認められた。このことから、ADAM12発現量が、T-cadherin蛋白存在量、及びアディポネクチン集積量を調節していることが示唆された。
【0126】
実施例2:活性消失型変異ADAM12の過剰発現によるT-カドヘリン蛋白の増加
<方法>マウスADAM12遺伝子(NM_007400.2)のcDNA、又はそのアミノ酸349番目のグルタミン酸(E)がグルタミン(Q)に変異した変異ADAM12(EQ変異体)のcDNAを、レトロウイルスベクターpMXs-neoに組み、PLAT-E細胞にトランスフェクトした。トランフェクト後24〜48時間の間に産生された培養上清に含まれるレトロウイルスを回収しし、T-カドヘリン過剰発現UVF-2細胞に導入した。導入後、G418濃度1mg/mlで薬剤選択し、安定的にADAM12或いはEQ変異体を発現する細胞を作成した。これらの細胞をC57Bl6j野生型マウスあるいはアディポネクチン欠損マウスの血清を5%含めたDMEM培地で2日間培養した。細胞試料におけるT-cad、tubulin、及びAPNの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図2に示す。
【0127】
<結果>EQ変異体の過剰発現によって細胞のT-カドヘリン蛋白が増加し、アディポネクチンの集積も増加した。このことから、ADAM12のプロテアーゼ活性がT-カドヘリン蛋白存在量、及びアディポネクチン集積量を調節していることが示唆された。
【0128】
実施例3:ADAM12阻害による切断遊離T-カドヘリンの減少
<方法>T-カドヘリン過剰発現UVF-2細胞の細胞表面タンパクをSulfo-NHS-S-S-Biotin (Pierce)によってビオチン修飾した。得られた細胞を、血清(野生型マウス(WT)血清、アディポネクチン欠損マウス(AKO)血清、又はT-カドヘリン欠損マウス(TKO)血清)を5%含有するDMEM培地、或いは該培地にさらにMarimastat(終濃度10μM)、ネガティブコントロールsiRNA、又はADAM12 siRNAを含有する培地で24時間培養した。なお、siRNAは培養開始24時間前に添加した。培養上清を110,000 gで2時間超遠心して上清を得た。この上清をStreptavidin-agarose(sigma)と混合し、Streptavidinに結合するタンパクを回収した。回収物におけるT-cad及びAPNの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。結合するタンパクは細胞表面にあり、24時間の培養によって上清中に遊離したタンパクと考えられる。ウェスタンブロッティングの結果を
図3に示す。
【0129】
<結果>細胞膜蛋白であるT-カドヘリンは24時間の培養の間に上清中に遊離すること、及びMMP阻害剤やADAM12のノックダウンによってT-カドヘリンの遊離が顕著に抑制されることが示された。このことからADAM12のプロテアーゼ活性によりT-カドヘリンを切断遊離していることが示唆された。
【0130】
実施例4:ADAM12ノックダウンによるエクソソーム産生の促進作用
<方法>T-カドヘリン過剰発現UVF-2細胞にネガティブコントロールsiRNA(siCtrl)或いはADAM12のsiRNA(ADAM12-2:Silencer(R) Select s61953)を導入した。導入から12時間後に、培地を、野生型マウスの血清又はアディポネクチン欠損マウスの血清から調整したエクソソーム除去マウス血清(5%)培地に置換し、さらに24時間培養した。培養後の培養上清よりエクソソーム画分を精製した。エクソソーム画分におけるT-cad、APN、Syntenin、及びFlot2の存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図4に示す。
【0131】
<結果>ADAM12のノックダウンによって、エクソソームの構成因子として分泌されるT-カドヘリンが増加した。また、アディポネクチン欠損マウス血清を用いた場合、エクソソームの構成因子として分泌されるT-カドヘリンが減少した。さらに、エクソソームマーカーであるSynteninは、ADAM12のノックダウンによって増加し、アディポネクチン欠損マウス血清を用いた場合には減少した。これらのことから、ADAM12は細胞のT-カドヘリン蛋白量を負に調節しており、その阻害によるT-カドヘリン蛋白の増加と、アディポネクチンは、相加相乗的にエクソソーム産生を促進していることが示唆された。
【0132】
実施例5:T-カドヘリンとアディポネクチンの用量依存的エクソソーム産生制御
<方法>アディポネクチン欠損マウスに、タイターの等しいアデノウイルスを用いてマウスアディポネクチン或いはβガラクトシダーゼを発現させた。このマウスの血清を超遠心してエクソソーム除去血清を得た。この血清中のアディポネクチン濃度をELISAによって定量し、両者を(アディポネクチン発現マウスのエクソソーム除去血清、及びβガラクトシダーゼ発現マウスのエクソソーム除去血清を)混合することで、アディポネクチン濃度が0,1,3,10,30μg/mlのエクソソーム除去マウス血清(5%)培地を作成した。これらのエクソソーム除去マウス血清(5%)培地中で、UVF-2細胞とT-カドヘリン過剰発現UVF-2細胞を、48時間培養した。培養後の培地から、エクソソーム画分を精製した。エクソソーム画分におけるT-cadherin、MFG-E8、Syntenin、CD63、及びAPNの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図5に示す。
図5の結果をグラフ化したものを
図6に示す。
【0133】
<結果>アディポネクチンの血中濃度変動域である1〜30μg/mlにおいて、用量依存的なエクソソーム産生の増加が示された。また、T-カドヘリン過剰発現細胞UVF-2細胞、及びT-カドヘリン発現量が比較的低いUVF-2細胞の両方において、アディポネクチンによるエクソソーム産生増加が示された。さらに、T-カドヘリン過剰発現細胞UVF-2細胞の方が、UVF-2細胞よりも、エクソソーム産生量が高かった。
【0134】
実施例6:ブラウン運動軌跡解析による、アディポネクチンのエクソソーム産生促進作用の解析
<方法>アディポネクチン欠損マウスに、タイターの等しいアデノウイルスを用いてマウスアディポネクチン或いはβガラクトシダーゼを発現させた。このマウスの血清を超遠心してエクソソーム除去血清を得た。この血清中のアディポネクチン濃度をELISAによって定量し、両者を(アディポネクチン発現マウスのエクソソーム除去血清、及びβガラクトシダーゼ発現マウスのエクソソーム除去血清を)混合することで、アディポネクチン濃度が0, 10μg/mlのエクソソーム除去マウス血清(5%)培地を作成した。これらのエクソソーム除去マウス血清(5%)培地中で、UVF-2細胞とT-カドヘリン過剰発現UVF-2細胞を、48時間培養した。培養後の培地から、エクソソーム画分を精製した。ナノサイトLM-10(Malvern)を用いて、ブラウン運動軌跡解析から、エクソソーム画分中のエクソソーム粒子数を計測した。結果を
図7に示す。
【0135】
<結果>アディポネクチンはエクソソーム粒子数を増大させることが示された。
【0136】
実施例7:エクソソームのアセチルコリンエステラーゼ活性を指標とした、アディポネクチンのエクソソーム産生促進効果の解析
<方法>C57Bl6j野生型マウス或いはアディポネクチン欠損マウスの血清から、エクソソーム除去マウス血清(5%)培地を作成した。この培地中で、T-カドヘリン過剰発現UVF-2細胞を48時間培養した。培養後の培地から、エクソソーム画分を精製した。PBSに懸濁したエクソソーム画分のアセチルコリンエステラーゼ活性を、アセチルコリンエステラーゼ(C3389,Sigma)を標品として、アセチルチオコリン(A5626 Sigma)を基質としたElman’s反応によって測定した。結果を
図8に示す。
【0137】
<結果>アディポネクチン欠損マウスの血清(AKO)ではエクソソームのアセチルコリンエステラーゼ活性が低かった。このように、エクソソームに相互作用する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)の活性値の観点からも、アディポネクチンがエクソソーム産生を促進することが示された。
【0138】
実施例8:ヒト内皮細胞株HMEC-1細胞におけるアディポネクチンによるエクソソーム産生促進
<方法>T-カドヘリンをコードするDNAを組み込んだpMXs-puroレトロウイルスを導入したHMEC-1細胞(mT-cad)、又はpMXs-puroレトロウイルスを導入したHMEC-1細胞(null)を用いた。C57Bl6j野生型マウス或いはアディポネクチン欠損マウスの血清から、エクソソーム除去マウス血清(5%)培地を作成した。この培地中で、上記HMEC-1細胞を48時間培養した。培養後の培地から、エクソソーム画分を精製した。エクソソーム画分におけるT-cadherin、Syntenin、CD63及びAPNの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図9に示す。
【0139】
<結果>マウスT-カドヘリン過剰発現HMEC-1細胞では、アディポネクチンによって、エクソソーム産生マーカー(Syntenin、及びCD63)が増加していた。このことから、HMEC-1細胞においても、アディポネクチンによるエクソソーム産生促進作用が示された。
【0140】
実施例9:アディポネクチンによるエクソソーム産生促進効果のT-カドヘリン依存性
<方法>pMXs-puroレトロウイルスを導入したUVF-2細胞(F2 cells)、又はT-カドヘリンをコードするDNAを組み込んだpMXs-puroレトロウイルスを導入したUVF-2細胞(F2T cells)を用いた。F2 cellsにT-カドヘリン siRNA又はネガティブコントロールsiRNAをトランスフェクトし、24時間後に、培地を、C57Bl6j野生型マウス或いはアディポネクチン欠損マウスの血清から調製したエクソソーム除去マウス血清(5%)培地に置換し、さらに48時間培養した。F2T cellsは、siRNAをトランスフェクトしない以外は、F2 cellsと同様に処理した。培養後の培地から、エクソソーム画分を精製した。エクソソーム画分におけるT-cadherin、MFG-E8、Syntenin、CD63及びAPNの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図10に示す。
【0141】
<結果>アディポネクチンによるエクソソーム産生促進効果は、T-カドヘリンのノックダウンによって消失し、T-カドヘリンを過剰発現することで顕著になった。これらのことから、アディポネクチンによるエクソソーム産生促進はT-カドヘリンに依存することが示された。
【0142】
実施例10:血中エクソソーム画分の解析
<方法>C57Bl6j野生型マウスの血清より、段階的遠心と2段階超遠心により、エクソソーム画分を得た。得られたエクソソーム画分を、40,20,10,5% OptiPrep
TMで構成した段階密度勾配に重層し、100,000 gで18時間超遠心し、12の密度の異なる画分に分離した。各画分に含まれるエクソソームをさらに超遠心により回収した。各回収物におけるT-cadherin、MFG-E8、Syntenin、及びAPNの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図11に示す。
【0143】
<結果>エクソソームが分布するとされる比重1.07〜1.11の画分に、代表的エクソソームマーカーであるSynteninと一致して、T-カドヘリン及びアディポネクチンが検出された。このことから少なくとも一部のアディポネクチンはT-カドヘリンとともにエクソソームに存在することが明らかになった。
【0144】
実施例11:アディポネクチン欠損マウス、T-カドヘリン欠損マウスの血中エクソソーム画分の解析
<方法>アディポネクチン欠損マウス、T-カドヘリン欠損マウス、及びC57Bl6j野生型マウスの血清より、エクソソーム画分を調製した。得られたエクソソーム画分を、40,20,10,5% OptiPrep
TMで構成した段階密度勾配に重層し、100,000 gで18時間超遠心し、12の密度の異なる画分に分離した。画分(フラクション番号1〜12)をF1-3、F4-6、F7-10、F11-12に分け、それぞれに含まれるエクソソームを超遠心によって回収した。各回収物におけるT-cadherin、MFG-E8、Syntenin、及びAPNの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図12に示す。
【0145】
<結果>エクソソームマーカーであるMFG-E8やSynteninは、アディポネクチン欠損マウス及びT-カドヘリン欠損マウスでは減少していた。このことから、アディポネクチン−T-カドヘリン系は、血中のエクソソームレベルを制御していることが示唆された。
【0146】
実施例12:アディポネクチン欠損マウスの血清エクソソームレベル解析
<方法>アディポネクチン欠損マウス(13週齢の雄)、及びC57Bl6j野生型マウス(13週齢の雄)の血清中のエクソソームを、ポリマー系沈殿剤ExoQuick
TMによって沈殿させた。沈殿をPBSに溶解した後に、110,000 gで2時間超遠心した。沈殿を再度PBSに溶解して超遠心により粗エクソソーム画分を得た。粗エクソソーム画分におけるMFG-E8とSynteninの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図13に示す。なお、MFG-E8は2つのバンド(45kDaと55Kda)が検出されるが、55Kdaのバンドは共沈してくる夾雑蛋白の影響で十分に検出できていないと考えられるため、グラフ化に際しては45KDaのバンドについて定量処理した。
【0147】
<結果>アディポネクチン欠損マウス由来の血清サンプルのエクソソームにおけるMFG-E8とSynteninの存在量は、野生型マウス由来の血清の場合の存在量の約60%程度であった。このことより、アディポネクチンの欠損により、血清中のエクソソームレベルが低下していると考えられた。
【0148】
実施例13:生体におけるアディポネクチン過剰発現による血中エクソソームの増加作用
<方法>アディポネクチン欠損マウス(AKO)及びアディポネクチン・T-カドヘリンダブル欠損マウス(DKO)に、アディポネクチンをコードするアデノウイルス(mA)あるいはβガラクトシダーゼをコードするアデノウイルス(bGal)を、ウイルスタイターを揃えた上で、尾静脈より投与した。投与から4日後に全採血を行い、血清を得た。各6匹のマウス血清をプールし、血清中エクソソームをポリマー系沈殿剤ExoQuickTMによって沈殿させた。沈殿をPBSに溶解した後に、110,000 gで2時間超遠心した。沈殿を再度PBSに溶解して超遠心により粗エクソソーム画分を得た。粗エクソソーム画分におけるMFG-E8とSynteninの存在量を、SDS-page及びウェスタンブロッティングによって調べた。ウェスタンブロッティングの結果を
図14に示す。
【0149】
<結果>アディポネクチンをコードするアデノウイルス投与によって、血中アディポネクチンレベルはAKOマウスで755μg/ml、DKOマウスで840μg/mlにまで増加した。この時、AKOマウスではβガラクトシダーゼに比して、アディポネクチンによる血中エクソソームのマーカーであるMFG-E8とSynteninが顕著に増加した。T-カドヘリンが欠損しているDKOマウスに比しても2倍程度の増加を示した。以上から、アディポネクチンがT-カドヘリンを介してエクソソーム産生を増加する作用は、生体においても認められた。