【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、及び、平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト「パーキンソン病モデルにおける障害脳神経回路の同定及び機能的ネットワーク障害の神経生理学的バイオマーカーの開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、
図1〜6に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るてんかん発作検知装置1の構成を示す図である。
【0013】
図1に示すように、てんかん発作検知装置1は、脳波計10と、てんかん発作判定部20(てんかん発作判定装置)と、を備えている。
【0014】
脳波計10は、てんかん患者の頭部に取り付けられ、患者の脳波信号を取得する。てんかん発作判定部20は、脳波計10により取得された脳波信号を解析し、解析結果に基づいて、てんかんの発作を検知する。
【0015】
<脳波計>
脳波計10は、電極11を備えており、電極11を介して患者の脳波(Electroencephalogram, EEG)を脳波信号として取得する。
【0016】
脳波計10は、複数の電極11を備えており、脳の複数の位置における脳波信号を取得するものであることが好ましい。また、脳波計10は、患者の体内に埋め込むことができる体内埋め込み型の脳波計であることが好ましい。体内埋め込み型の脳波計を用いることにより、高い空間分解能で脳波信号を取得することができ、その結果、より高い精度でてんかんの発作を検知することができる。
【0017】
<てんかん発作判定部>
てんかん発作判定部20は、抽出部21と、解析部22と、報知部23とを備えている。
【0018】
抽出部21は、脳波計10を介して取得された脳波信号から、低周波帯(第1周波数帯)の信号と高周波帯(第2周波数帯)の信号とを抽出する。
【0019】
解析部22は、抽出部21によって抽出された低周波帯の信号および高周波帯の信号に基づいて、てんかんの発作を検知する。
【0020】
報知部23は、てんかんの発作が検知された場合に、患者が発作状態である旨を外部に報知する。報知部23は、音により外部に報知するアラームであってもよいし、光または振動によって外部に報知するものであってもよい。
【0021】
(信号処理)
図2を参照して、抽出部21および解析部22による信号処理について説明する。以下では、抽出部21が、脳波信号から、低周波帯の信号としてα波(8〜13Hz)を抽出し、高周波帯の信号としてγ波(30〜150Hz)を抽出する場合を例に挙げて説明する。
【0022】
図2は、てんかん発作判定部における信号処理を説明するための図であり、(a)は脳波計により得られた脳波信号であり、(b)は脳波信号から抽出されたα波の信号であり、(c)は脳波信号から抽出されたγ波の信号であり、(d)は(c)に示すγ波の信号の包絡線であり、(e)は(d)に示す包絡線から抽出されたα波帯域の波形であり、(f)は(b)に示す信号の位相および(d)に示す波形の位相である。
【0023】
脳波計10によって
図2の(a)に示す脳波信号が取得された場合、抽出部21は、
図2の(a)に示す脳波信号に対して、α波帯域の周波数を通すバンドパスフィルターを適用することによって、
図2の(b)に示すα波の信号を抽出する。また、抽出部21は、
図2の(a)に示す脳波信号に対して、γ波帯域の周波数を通すバンドパスフィルターを適用することによって、
図2の(c)に示すγ波の信号を抽出する。
【0024】
解析部22は、
図2の(d)に示すように、
図2の(c)に示すγ波の信号の包絡線を取得する。また、解析部22は、
図2の(d)に示す包絡線にα波帯域の周波数を通すバンドパスフィルターを適用することによって、
図2の(d)に示す包絡線から
図2の(e)に示すα波帯域の波形を抽出する。
【0025】
次に、解析部22は、
図2の(b)に示すα波の信号にヒルベルト変換を適用することによってα波の信号の位相を取得するとともに、
図2の(e)に示すα波帯域の波形にヒルベルト変換を適用することによってα波帯域の波形の位相を取得する。このようにして取得されたα波の信号の位相とα波帯域の波形の位相とを
図2の(f)に示す。ここで、時刻nにおけるα波の信号の位相をφ
ω(n)とし、時刻nにおけるα波帯域の波形の位相をφ
γω(n)とする。
【0026】
さらに、解析部22は、α波の信号の位相と、γ波の信号の振幅とのカップリング(Phase-Amplitude Coupling, PAC)を、一致率(SI)を算出することで評価する。すなわち、解析部22は、
図2の(b)に示すα波の信号の位相と、
図2の(e)に示すα波帯域の波形の位相との間の統計的な一致率(SI)を算出する。具体的には、解析部22は、下記式(1)に基づいて、一致率(SI)を算出する。
【0028】
一致率(SI)は0以上1以下の値であり、発作状態における一致率(SI)は、非発作状態(発作間欠期)における一致率(SI)よりも大きな値となる。そのため、一致率(SI)の値をてんかんの発作のバイオマーカー(指標)とし、一致率(SI)の値が所定の閾値を超えた場合に発作状態であると判定することによって、患者の脳波に基づいて発作を検出することができる。
【0029】
一致率(SI)の閾値は、トレーニングデータを用いて決定してもよい。具体的には、トレーニングデータとして、各患者について非発作時と発作時の脳波を取得し、算出した一致率(SI)に基づいて描いたROC曲線から、感度及び特異度が共に最大に近い値となるような閾値を決定する。なお、上述のようにトレーニングデータを用いて決定した閾値は、患者によって若干異なるが、概ね、非発作時の標準偏差の3倍程度の値となる。このようにして決定した閾値を、発作状態と判定する際の基準とすることによって、高い感度および特異度で発作を検出することができる。
【0030】
十分なトレーニングデータが得られない場合は、非発作時の一致率(SI)の分布から、標準偏差の10倍となる値を求め、これを閾値として決定してもよい。
【0031】
なお、上記の例では、抽出部21が脳波信号からα波およびγ波を抽出するとともに、解析部22がα波信号の位相とγ波信号の振幅とをカップリングして一致率(SI)を算出する場合について説明したが、本発明はこれに限られない。
【0032】
抽出部21が脳波信号から抽出するとともに解析部22がカップリングにより一致率(SI)を算出する際に用いる2つの周波数帯域は、4〜30Hzの範囲内の任意の周波数帯域および50〜150Hzの範囲内の任意の周波数帯域であればよい。
【0033】
<実施例>
以下、本実施形態のてんかん発作検知装置1を用いて、てんかん患者の発作の検出を行う実施例について説明する。
【0034】
本実施例では、脳波信号から抽出された低周波帯の信号を複数の時間区分に分割するとともに各区分の順序をランダムに入れ替えて得られる波形の位相と、高周波帯の信号の振幅と、をカップリングすることによって位相シャッフル一致率(SI’)を算出し、式(1)で求めた一致率(SI)から位相シャッフル一致率(SI’)を差し引いて得られる実質一致率(SI’’)をバイオマーカーとして用いて発作を検知する手法について説明する。具体的には、所定のサンプルレート(例えば1000Hz)で標本化した脳波信号から抽出した低周波帯の信号を、1秒間のデータ区分に分割するとともに、この1秒間分の脳波信号のデータについて、この中からランダムに選択した時刻を境にして時間的に前後のデータを入れ替えた信号を得る。そして、データを入れ替えて得た信号の位相と、高周波帯の信号の振幅とをカップリングすることによって位相シャッフル一致率(SI’)を算出する。さらに、式(1)で求めた一致率(SI)から位相シャッフル一致率(SI’)を差し引くことによって、実質一致率(SI’’)を得る。
【0035】
ただし、式(1)で求めた一致率(SI)をそのままバイオマーカーとして用いて発作を検知してもよい。
【0036】
図3は本実施形態のてんかん発作検知装置を用いて、各電極を介して取得されたてんかん患者の脳波信号を示す図である。
【0037】
図3中の縦軸は電極の番号である。
図3中の時刻0は、てんかんの発作が開始した時刻である。なお、本実施例では、二人のてんかん専門医がてんかん患者を診断した結果、各専門医が、発作が開始したと判断したタイミングのうち早い方のタイミングを、てんかんの発作が開始した時刻と定義した。
【0038】
図3に示すように、てんかんの発作が開始した後、各電極を介して取得された脳波信号の振幅が増大し、特に図中矢印で示す脳波信号の振幅が増大した。
【0039】
図4は、β波−ハイγ波のカップリングによる実質一致率の時間変化を示す図である。
【0040】
図4に示すように、発作状態における実質一致率(SI’’)は、発作間欠期における実質一致率(SI’’)よりも大きい。
【0041】
なお、発作間欠期においても、患者の生理的状態に応じて実質一致率(SI’’)が変動する(生理的変動)が、発作時の実質一致率(SI’’)の変動幅は、生理的変動範囲の標準偏差の20倍以上となる。そのため、実質一致率(SI’’)をバイオマーカーとすることによって、高い感度および特異度で発作を検知することができる。
【0042】
図5は、(a)は発作状態における低周波帯の周波数と高周波帯の周波数との組み合わせごとの実質一致率の分布を示し、(b)はてんかん患者の脳における脳波信号の取得位置ごとに、脳波信号からβ波とハイγ波の組み合わせに基づき算出した実質一致率の分布を示す。
【0043】
図5の(a)中、横軸は低周波側の周波数帯域を示し、縦軸は高周波側の周波数帯域を示す。
【0044】
図5の(a)に示すように、低周波側の周波数帯域を4〜30Hzとし、高周波側の周波数帯域を50〜150Hzとして実質一致率(SI’’)を算出した場合に、発作状態における実質一致率(SI’’)が高い値となった。
【0045】
特に、低周波側の周波数帯域をβ波の周波数帯域(14〜30Hz)とし、高周波側の周波数帯域をハイγ波の周波数帯域(80〜150Hz)として実質一致率(SI’’)を算出した場合に、発作状態における実質一致率(SI’’)が高い値となった。そのため、得られた脳波信号から、低周波帯の信号としてβ波を抽出し、高周波帯の信号としてハイγ波を抽出して、実質一致率(SI’’)(または一致率(SI))を算出することが好ましい。これにより、発作時に高い実質一致率(SI’’)(または一致率(SI))が算出されるため、発作をより高精度で検知することができる。
【0046】
また、本実施例では、
図5の(b)に示すように、発作時に側頭葉において得られた脳波信号から算出された実質一致率(SI’’)が、特に高い値となった。このように、脳波信号を取得する位置によって発作時の実質一致率(SI’’)が異なるため、発作時に実質一致率(SI’’)が特に高い値となる位置で脳波信号を取得し、実質一致率(SI’’)に基づいて発作を検知することが好ましい。
【0047】
図6は、低周波側の周波数帯域と高周波側の周波数帯域との組み合わせごとに本実施例で得られた発作診断結果のROC曲線を示す。
図6中、横軸は偽陽性率(False Positive)であり、縦軸は真陽性率(True Positive)である。
【0048】
図6中に曲線Dで示すように、従来技術のように脳波信号のハイγ波のみに基づいて発作の検知を試みた場合、十分に高い真陽性率で発作を検知することができない。
【0049】
これに対して、
図6中に曲線A〜Cで示すように、本実施形態のてんかん発作検知装置1を用いて、脳波信号から低周波帯の信号と高周波帯の信号とを抽出し、低周波帯の信号の位相と高周波帯の信号の振幅とをカップリングして算出される一致率(SI)を指標として発作の検知を試みた場合、高い真陽性率で発作を検知することができた。すなわち、本実施形態のてんかん発作検知装置1によれば、高い感度および特異度でてんかんの発作を検知することができる。
【0050】
特に、曲線Aで示すように、脳波信号からβ波とハイγ波とを抽出し、β波の位相とハイγ波の振幅とをカップリングして算出される一致率(SI)を指標として発作の検知を試みた場合、さらに高い真陽性率で発作を検知することができた。
【0051】
以上より、本発明のてんかん発作検知装置1を用いることによって、てんかん患者が発作を起こした場合に、高精度に発作を同定することができる。さらに、従来の手法で発作を検知する場合に比べて早期に発作を検知することができるため、発作の症状が現れる前に発作を予測することも可能となる。このように、てんかんの発作を高精度で予測・同定することによって、発作時の交通事故などを回避することができる。また、発作時に薬や電位刺激により発作を抑制することで、発作そのものの治療にもつながることが期待される。
【0052】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0053】
〔まとめ〕
本発明のてんかん発作判定装置は、てんかん患者の脳波信号に基づいて、てんかんの発作を検知するてんかん発作判定装置であって、上記脳波信号から、第1周波数帯の信号と、上記第1周波数帯よりも高い周波数帯である第2周波数帯の信号と、を抽出し、上記第1周波数帯の信号の位相と、上記第2周波数帯の信号の包絡線から抽出される上記第1周波数帯の信号の位相と、の一致率に基づいて発作を検知することを特徴とする。
【0054】
上記の構成によれば、高い感度および特異度でてんかんの発作を検知することができる。
【0055】
バンドパスフィルターを用いて、上記脳波信号から上記第1周波数帯の信号と上記第2周波数帯の信号とを抽出する抽出部と、時刻nにおける上記第1周波数帯の波形の位相をφ
ω(n)とし、時刻nにおける上記第2周波数帯の信号の包絡線から抽出される上記第1周波数帯の信号の位相をφ
γω(n)としたとき、上記一致率を以下の式(1)中のSIとして算出する解析部と、を備えていてもよい。
【0057】
上記解析部は、上記第1周波数帯の信号を、任意の時刻を境にしてその前後で時間的に入れ替えて得られる信号の位相と、上記第2周波数帯の信号の包絡線から抽出される上記第1周波数帯の信号の位相と、の一致率である位相シャッフル一致率を算出し、上記一致率から上記位相シャッフル一致率を差し引いて得られる実質一致率を指標として、発作を検知してもよい。
【0058】
上記第1周波数帯は、4〜30Hzであり、上記第2周波数帯は、50〜150Hzであってもよい。
【0059】
上記第1周波数帯は、14〜30Hzであってもよい。上記の構成によれば、より高い感度および特異度でてんかんの発作を検知することができる。
【0060】
上記第2周波数帯は、80〜150Hzであってもよい。上記の構成によれば、より高い感度および特異度でてんかんの発作を検知することができる。
【0061】
上記一致率が所定の閾値を超えた旨を、外部に報知する報知部を備えていてもよい。上記の構成によれば、発作が生じた旨を患者本人および他の者に知らせることができる。
【0062】
上記閾値は、てんかん患者の非発作状態における一致率の標準偏差に基づいて決定された値であってもよい。これにより、高い感度および特異度で発作を検出することができる。
【0063】
また、本発明のてんかん発作検知装置は、てんかん患者の体内に埋め込まれ、上記脳波信号を取得する脳波計と、上記てんかん発作判定装置と、を備えている。