【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記したような透明体や、薄い素材のように、機械的応力が適さない素材を検査するためには、被検査体に非接触で応力を印加する応力印加手段を用いることが適していることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明は、被検査体に応力を印加していない状態と応力を印加した状態とにおいて前記被検査体に浸透し得る波長の光を前記被検査体の面に照射しその散乱光を検出することにより被検査体の欠陥を検査する方法であって、前記被検査体に応力を印加していない状態で前記被検査体の面上の位置において光を前記面に対して斜め方向に照射しそれにより生じた散乱光の強度を求めることと、前記被検査体に被検査体の被検査部に非接触な応力印加手段により応力を印加した状態で前記応力を印加していない状態で光を照射したのと同じ前記被検査体の面上の位置において光を前記面に対して斜め方向に照射しそれにより生じた散乱光の強度を求めることと、前記被検査体に応力を印加していない状態で求められた散乱光の強度と、前記被検査体に応力を印加した状態で求められた散乱光の強度を所定の閾値と対比することにより欠陥の検出を行うこととを有することを特徴とする欠陥を検査する方法に関するものである。
【0012】
また、本発明は、被検査体の支持部と、前記支持部に載置された被検査体に応力を印加する応力印加手段であって、被検査体の被検査部に非接触で応力を印加する前記応力印加手段と、前記支持部に支持された前記被検査体の面に前記被検査体内に浸透し得る波長の光を前記面に対して斜め方向に照射する光源装置と、前記被検査体の面に対して斜め方向に照射された光の散乱光を検出する受光手段と、前記被検査体に応力を印加した状態と印加しない状態とにおいてそれぞれ前記受光手段により検出された光の強度を所定の閾値と対比することにより前記被検査体における欠陥の検出を行う演算処理部と、を備えてなることを特徴とする欠陥検査装置に関するものである。
【0013】
本発明によれば、応力印加前後で測定した散乱光強度に差があるとき、その散乱光強度の差に基づきミクロンサイズのクラック等の欠陥を検出することができる。また、本発明の応力印加手段は、被検査体に非接触の応力印加手段であるため、非検査対を停止しているとき応力印加前後の被検査体の位置の変動が極めて少ない。
【0014】
本発明の対象となる欠陥の検査において、当該欠陥を詳細に確認するために、顕微鏡下のような装置構成が制限された場所での応力印加を検討した。このような狭い範囲で、顕微鏡観察などを行いながら検査するとき、機械的に被検査体に直接接触するような方法で応力を印加すると、被検査体の高さなどの位置が変動する場合が多い。そして、位置の変動が生じると、顕微鏡の焦点がずれてしまい、欠陥を観察しながら検査することができない。
【0015】
本発明は、被検査体に応力を印加していない状態と応力を印加した状態とにおいて、前記被検査体中に浸透し得る波長の光を前記被検査体の面に照射しその散乱光を検出することにより被検査体の欠陥を検査する方法である。本発明により検出される欠陥は、応力印加前後で散乱光強度が変化する欠陥であるミクロンサイズのクラック等の小さい欠陥である。ミクロンサイズのクラックは、数百nm〜数十μm程度の大きさの欠陥で、割れとして存在しているような被検査体の表面からは確認しにくい形状の欠陥である。光を被検査体に照射し、その散乱光を測定することで欠陥を検査する技術は様々開発されているが、このミクロンサイズのクラックのような欠陥は、応力等印加せずに光を照射したときの散乱光強度が検出されなかったりノイズ程度の強度だったりするため、欠陥として認識されないことが多い欠陥である。
【0016】
本発明で被検査体に照射する光は、被検査体中に浸透し得る波長の光である。この光は、被検査体に浸透し得る波長の光の被検査体の被検査部となる面に照射することができる光源装置を用いて照射される。被検査体に吸収される光は散乱光が得られないため、欠陥の検査が困難である。また、被検査体の表面で反射する場合、被検査体の内部に割れとして発生するミクロンサイズのクラックまで光が通過せず散乱しないため、欠陥を検査することが困難である。本発明で照射する光は、紫外線領域の波長から、近赤外線領域の波長まで含むものである。照射する光は、この範囲の波長から、各被検査体や測定環境、検出しやすさ等を考慮して、適宜選択される。
【0017】
この照射する光は、被検査体の散乱光強度を求めることができる光を種々選択して用いることができる。
【0018】
例えば、照射する光は、分光された特定の波長の光を用いても良い。分光された光であれば、その波長の光が被検査体に対して浸透および散乱強度が検出しやすいか、他方、吸収・反射等の影響等のその被検査体の特性を検討して、最適な波長で測定を実施しやすくなるという利点がある。
【0019】
また、照射する光は、レーザー光を用いることが好ましい。照射する光の強度が大きいほど、散乱光の強度も大きくなりより検出しやすい光強度となり、レーザー光はこのような検出に適した光強度を達成しやすい。レーザー光を照射する場合、適宜、コリメータレンズ等の公知の光学素子を組み合わせて、疑似平行照射光のライン照射を行ったり、疑似面照射光のエリア照射を行ったりすることができる。
【0020】
また、照射する光には、LEDを用いても良く、単色発光のLEDを用いても良い。さらに、高輝度なものを用いるとなお良い。このLEDについても、照射する光の強度が大きいほど、散乱光の強度も大きくなり、検出しやすくなるため、照射する光の強度が高い設定とすることが好ましい。
【0021】
また、照射する光は、直線偏光や楕円偏光を用いても良い。偏光を用いれば、照射光の偏光状態、散乱光の偏光状態を組み合わせた分析を行うことで欠陥の種類を分類しやすい場合がある。一方で、一般的に偏光にした方が照射光強度が低下するため、散乱光も低下する傾向にあり、検出感度が低下する場合がある。
【0022】
散乱光は、その光に対応する検出が可能な構成により検出される。この散乱光の強度は、受光手段により検出し、別途求める応力印加時の散乱光強度と比較するために記憶部等に記憶される。この散乱光の検出は、被検査体のどの位置の散乱光かを特定することができるように、1次元の線状の情報としてラインセンサで検出したり、2次元の面状の情報としてエリアセンサで検出してもよい。例えば、散乱光が可視光等の範囲の場合、CCDカメラなどで検出することができる。なお、散乱光強度の検出感度のバラつきを低減するために、散乱光強度を複数回検出してその積分値として散乱光強度は求めたほうがよい。
【0023】
この照射する光は、散乱光強度から欠陥を検出するために被検多彩に照射する光は被検査体の被検査部となる面に対して斜め方向から照射する。光を照射する角度や、散乱光を検出する角度は適宜設定されるが、例えば光を照射する角度として、面に対して垂直を0°としたとき10〜70°、好ましくは30〜60°程度から散乱光を検出しやすい角度で照射する。一方、散乱光は、反射光も検出すると、欠陥レベルの光強度を見落とすおそれがあるため入射角度に対応した反射角度から反れた角度で検出する。例えば、入射角度を確認しながら、面に対して垂直(0°)や、いずれかの方向に30°以内程度の範囲で傾けて検出してもよい。
【0024】
本発明においては、同じ被検査体の被検査部について、前記被検査体に応力を印加した状態と、前記応力を印加していない状態とで、それぞれ被検査部に対して照射光を斜め方向から照射し、その散乱光強度を測定する。これにより、前記被検査体に応力を印加していない状態で求められた散乱光の強度と、前記被検査体に応力を印加した状態で求められた散乱光の強度を得ることができるため、これらの比に基づいて、所定の閾値と対比することで欠陥の検出を行う。この所定の閾値との対比は演算処理部で行われる。
【0025】
この欠陥の判断に用いられる所定の閾値は、検出する欠陥の大きさや被検査体の材質、照射/散乱する光の強度等により設定される。本発明の主な対象となる被検査体は、均質性が高いものである。このような被検査体に応力を印加しない状態で光を照射しても散乱は発生しにくく、異物などが存在するときのみ散乱が発生する。また、ミクロンサイズのクラックのような欠陥は、応力を印加しないとき散乱がほとんどない場合が多い。しかし、ミクロンサイズのクラックが存在するとき応力を印加すると大きな散乱が生じる。よって、散乱光を検出したときノイズとして想定される散乱光強度の範囲内や、明らかに異物等があるとき、応力印加前後で散乱光強度比をとった場合、その比はほぼ1を中心とした範囲となる。一方、ミクロンサイズのクラックが存在すると、前述したように応力印加時に大きな散乱が発生するため、応力印加前後で散乱光強度比を、「応力印加後の散乱光強度/応力印加前の散乱光強度」とすると、1を超え大きな値となる。よって、この比がノイズレベルで想定される範囲を閾値として設定すればよい。
【0026】
本発明においては、前記応力を印加した状態において印加される応力の応力印加手段が、被検査体に非接触な応力印加手段であることが特徴である。被検査体の被検査部に非接触とは、応力を印加するための手段が、その被検査部およびその周辺へ機械的に直接接触するかで判断され、接触しない応力印加手段が適用される。ここで被検査体に印加する応力は、検出する欠陥の大きさや被検査体の材質、照射/散乱する光の強度等により設定され、具体的には数MPa程度の応力である。
【0027】
本発明を実施するにあたっては被検査体全体としては、例えば、非検査体の両端を留め具で把持するなどして何らかの支持部に支持される。このとき、応力を印加するために被検査部にも直接接触する手法の方が、より端的な構造としやすく応力を印加しやすいことからそのような応力印加手段が採用されやすかったが、このような手法は外乱要因になるおそれもあった。具体的な被検査体に非接触な応力印加手段としては、熱応力による応力印加手段や、音波による手段などが挙げられる。
【0028】
本発明の前記応力印加手段は、被検査体の被検査部に非接触な加熱手段および/または冷却手段であることが好ましい。このような加熱手段および/または冷却手段は、加熱・冷却共に被検査体内の温度勾配による応力に関するもののため、単に熱応力による応力印加手段と記載する場合がある。このような熱応力による応力印加手段は、非接触で応力を印加する手法の一つとして採用しやすい技術である。なお、本発明においては、応力印加手段は被検査部に非接触な手段のため、直接接触する加熱ステージ等は適さない。
【0029】
本発明の前記加熱手段および/または冷却手段は、加熱および/または冷却された気体を被検査体にあてることで加熱および/または冷却するものであることが好ましい。すなわち、被検査体よりも熱い温度の気体や、冷たい温度の気体を被検査体にあてて応力を印加することが好ましい。被検査体にあてる気体は、その気体を被検査体にあてることにより被検査体の位置や形状の変動が少ないように調整しやすく、本発明の熱応力による応力印加手段として適している。
【0030】
本発明の前記加熱手段は、赤外線を被検査体に照射することで加熱するものであることが好ましい。それぞれの被検査体に適した赤外線を被検査体に照射することで、被検査体を加熱することができるが、赤外線も被検査体の位置や形状の変動が少ないように調整しやすく、本発明の加熱による応力印加手段として適している。
【0031】
前記加熱手段および/または冷却手段は、被検査体の被検査部を部分的に加熱および/または冷却するものであることが好ましい。被検査体の部分的な加熱/冷却であれば、その被検査体全体、特に被検査部に検査に適した応力が発生しやすい。前述したような、気体による加熱/冷却や、赤外線による応力印加は、気体が狭い範囲にあたるように送風口の構造を調整することでこのような部分的な加熱/冷却を行いやすい。また、赤外線による加熱も、その赤外線があたる位置が部分的なものとなるように、いわゆるヒートビームを照射することで部分的な加熱を行いやすい。
【0032】
本発明の前記加熱手段および/または冷却手段により被検査体内に生じる温度勾配が、被検査体内で5℃以上の温度差の温度勾配であることが好ましい。この温度差が生じる範囲は更に限定的な範囲としてもよく、例えば、被検査部を中心とした10mm〜30mm、好ましくは10mm〜20mm角範囲内での温度差としてもよい。または、被検査体の被検査部で表面と裏面との温度差としてもよい。被検査体にこのような温度差が発生するように加熱/冷却することで、本発明の検査に適した応力が発生する。このような温度差を生じさせるためには、被検査体を部分的に加熱/冷却することが好ましく、前述した気体や赤外線を部分的にあてる方法が適している。
【0033】
本発明の前記応力印加手段は、音波により被検査体を強制振動する応力印加手段とすることもできる。具体的には、被検体の厚さによる固有振動数、特に、1Hz〜1000Hz程度の範囲の周波数の音波を用いることが好ましく、一次モードに対応する周波数の音波を利用することが好ましい。このような範囲の、例えば一次モードに対応する音波による強制振動を被検体に照射することにより、それに伴った応力も同一周期で発生することから、本発明の検査に適した応力が発生する。特に、この範囲の周波数の音波は、超音波よりもより大きい応力を印加しやすい。
【0034】
この一次モードに対応する周波数等この音波による応力を印加する場合、周期的に変化する散乱光の強度を信号処理装置等を用いて検出することにより、より高感度な検出技術とすることもできる。音波により応力を印加する場合、指向性を有する音波を用いても良い。または、被検査部等を防音構造内に配置しておこなってもよい。
【0035】
本発明の前記被検査体の被検査部は照射する光に対して透明であることが好ましい。本発明においては光を用いて欠陥を検出するが、照射する光に対して透明なものを検査するとき、被検査部付近に機械的に接触するような応力印加手段の場合、その応力印加手段が被検査体に映り込む等の理由で外乱になりやすいが、本発明の構成によればこのような透明体の欠陥も検出しやすい。被検査体が透明のとき、本発明の非接触で検査する利点が前記被検査体を透過し得る波長の光を用いることが好ましい。
【0036】
本発明においては、搬送される被検査体を検査対象としてもよい。このために、本発明の検査する方法は、被検査体を搬送する工程を有するものとすることができる。また、本発明の検査する装置は、被検査体を搬送する搬送手段を有するものとすることができる。この搬送は、連続的に搬送されているものとしてもよい。このような搬送を行う場合であっても、本発明は非接触の応力印加のため、ミクロンサイズのクラックを搬送中にインラインでも検査することができる。
【0037】
この搬送中の被検査体を検査する場合、被検査体の面において搬送方向に直交する方向に照射する光をライン照射し、少なくともそのライン照射された光をラインセンサで検出することが好ましい。また、経時的に連続してこの情報を取得し処理することで、被検査体の面の検査結果を得ることができる。
【0038】
本発明においては、顕微鏡を用いる観察を行ってもよい。このために、被検査体の被検査部を、拡大して観察する拡大観察工程を有する検査する方法とすることができる。また、前記被検査体の被検査部を観察する顕微鏡を備えてなる検査装置とすることができる。ここで、顕微鏡とは、光学的もしくは電子的な技術を用いることによって、微小な物体を視覚的に拡大して観察することができる構成のことを顕微鏡と呼ぶ。たとえば、拡大レンズ等を介して散乱光の情報を肉眼で観察することができる構成としても良いし、CCDカメラ等で検出して画像としてもよい。本発明は、このような顕微鏡を備えることができる技術に関するものであり、顕微鏡を有することで欠陥と判断された部位を、適宜、速やかに観察することもでき、単に散乱光強度の情報としてのみではなく、その欠陥を拡大観察画像から判別することもできる。