特許第6618354号(P6618354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特許6618354欠陥を検査する方法、および欠陥検査装置
<>
  • 特許6618354-欠陥を検査する方法、および欠陥検査装置 図000002
  • 特許6618354-欠陥を検査する方法、および欠陥検査装置 図000003
  • 特許6618354-欠陥を検査する方法、および欠陥検査装置 図000004
  • 特許6618354-欠陥を検査する方法、および欠陥検査装置 図000005
  • 特許6618354-欠陥を検査する方法、および欠陥検査装置 図000006
  • 特許6618354-欠陥を検査する方法、および欠陥検査装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618354
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】欠陥を検査する方法、および欠陥検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/958 20060101AFI20191202BHJP
【FI】
   G01N21/958
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-256279(P2015-256279)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-120202(P2017-120202A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】坂田 義太朗
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一文
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 正
(72)【発明者】
【氏名】野中 一洋
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−281846(JP,A)
【文献】 特開2007−139653(JP,A)
【文献】 特開平11−002611(JP,A)
【文献】 特開2007−327755(JP,A)
【文献】 特開2004−117193(JP,A)
【文献】 特開2006−112958(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/062279(WO,A1)
【文献】 特開2008−008740(JP,A)
【文献】 米国特許第04875170(US,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0032075(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 − G01N 21/958
G01N 25/00 − G01N 25/72
G01B 11/00 − G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体に応力を印加していない状態と応力を印加した状態とにおいて前記被検査体内に浸透し得る波長の光を前記被検査体の面に照射しその散乱光を検出することにより被検査体の欠陥を検査する方法であって、
前記被検査体に応力を印加していない状態で前記被検査体の面上の位置において光を前記面に対して斜め方向に照射しそれにより生じた散乱光の強度を求めることと、
前記被検査体に、前記被検査体の被検査部に非接触な応力印加手段により応力を印加した状態で前記応力を印加していない状態で光を照射したのと同じ前記被検査体の面上の位置において光を前記面に対して斜め方向に照射しそれにより生じた散乱光の強度を求めることと、
前記被検査体に応力を印加していない状態で求められた散乱光の強度と、前記被検査体に応力を印加した状態で求められた散乱光の強度を所定の閾値と対比することにより欠陥の検出を行うこととを有し、
前記応力印加手段が、被検査体の被検査部を加熱および/または冷却することで応力を印加する加熱手段および/または冷却手段であり、
被検査体の内部のミクロンサイズのクラックを検査することを特徴とする欠陥を検査する方法。
【請求項2】
前記加熱手段および/または冷却手段により被検査体内に生じる温度勾配が、被検査体内で5℃以上の温度差の温度勾配であることを特徴とする請求1記載の検査する方法。
【請求項3】
前記加熱手段および/または冷却手段が、加熱および/または冷却された気体を被検査体にあてることで加熱および/または冷却するものであることを特徴とする請求項1または2記載の検査する方法。
【請求項4】
前記加熱手段が、赤外線を被検査体に照射することで加熱するものであることを特徴とする請求項1または2記載の検査する方法。
【請求項5】
前記加熱手段および/または冷却手段が、被検査体の被検査部を部分的に加熱および/または冷却するものであることを特徴とする請求項〜4のいずれかに記載の検査する方法。
【請求項6】
前記被検査体の被検査部が照射する光に対して、透明であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の検査する方法。
【請求項7】
前記被検査体内に浸透し得る波長の光が、レーザー光であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の検査する方法。
【請求項8】
前記被検査体の被検査部を、拡大して観察する拡大観察工程を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の検査する方法。
【請求項9】
前記被検査体が搬送されている状態で検査する請求項1〜8のいずれかに記載の検査する方法。
【請求項10】
前記被検査体が、ガラスである請求項1〜9のいずれかに記載の検査する方法。
【請求項11】
被検査体の支持部と、
前記支持部に載置された被検査体に応力を印加する応力印加手段であって、被検査体の被検査部に非接触で応力を印加する前記応力印加手段と、
前記支持部に支持された前記被検査体の面に前記被検査体内に浸透し得る波長の光を前記面に対して斜め方向に照射する光源装置と、
前記被検査体の面に対して斜め方向に照射された光の散乱光を検出する受光手段と、
前記被検査体に応力を印加した状態と印加しない状態とにおいてそれぞれ前記受光手段により検出された光の強度を所定の閾値と対比することにより前記被検査体における欠陥の検出を行う演算処理部と、
を備えてなり、
前記応力印加手段が、被検査体の被検査部を加熱および/または冷却することで応力を印加する加熱手段および/または冷却手段であり、
被検査体の内部のミクロンサイズのクラックを検査するためのものであることを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項12】
さらに、前記被検査体の被検査部を観察する顕微鏡、を備えてなることを特徴とする請求項11記載の欠陥検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査体の欠陥を検査する方法および欠陥検査装置に関する。特に、被検査体に応力印加手段が直接接触して機械的応力を加えることなく被検査体の欠陥を検査する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウエハの欠陥のように、極めて小さい欠陥を検査する方法として、破壊的な検査方法と非破壊的な検査方法がある。しかし、エッチングに代表されるような破壊的な検査方法は、検査後は、その被検査体を使用できなくなるといった問題があるため非破壊的な検査方法の方が好ましく用いられる。一方、このような破壊的な処理を行わない、非破壊的な検査方法としては、例えば電気的方法や、光、超音波を用いた方法がある(特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1〜3等に開示されているような非破壊的な検査方法でも十分な検査ができていなかったウェハ等の欠陥検査のために、本発明者等は、被検査体に応力を付与する前後の、被検査体に照射した偏光の散乱光の強度比等を求めることで微細な欠陥や、種々の欠陥を検査する方法を提案している(特許文献4〜6)。これらの特許文献に開示されている技術は、特に前述したウエハを中心として、光学機能素子のための基板、超格子構造体、MEMS構造体、ガラス、レチクル等に適した技術として提案されている。
【0004】
特許文献4は、ポラライザーにより偏光を与えた光を被検査体に入射させ、その散乱光について被検査体への超音波の印加前後の散乱光強度の差等から欠陥の有無を判別して検出する方法等を開示するものである。
【0005】
特許文献5は、ポラライザーにより偏光を与えた光を入射させ、その散乱光について被検査体に応力を印加する前後の散乱光強度の差等から欠陥の有無を判別して検出する方法等を開示するものである。また、特許文献6は、この応力についてさらにより好ましい方法として引張静荷重等の機械的な静荷重による応力を開示し、さらにウエハまたは半導体素子の品質管理方法等を開示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−177447号公報
【特許文献2】特開2002−188999号公報
【特許文献3】特許第3664134号公報
【特許文献4】特許第4631002号公報
【特許文献5】特許第5007979号公報
【特許文献6】特許第5713264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、特許文献4〜6に開示されている機械的な静荷重や超音波といった応力により、ウエハを中心とした被検査体について検討されてきた検査技術について、さらに検討を行った。その結果、複雑な形状や、薄型の形状の被検査体については、特許文献4〜6に開示されているような技術のみでは検査方法の調整が非常に繊細な制御が必要となるなどの理由で、十分には対応できない場合があるという課題を見出した。
【0008】
より具体的には、被検査体が透明体の場合、被検査体を押す押圧部材などの機械的応力を付加するための手段からの散乱光などが発生し、これが散乱光分析時の大きなノイズとなり、欠陥の検査時の閾値の設定等が難しくなったりする場合がある。また、被検査体が非常に薄い素材のように機械的応力に脆弱な素材の場合、機械的応力を印加すると破壊されてしまうおそれがあり、検査に適した応力制御が難しい場合がある。また、超音波により応力を印加する場合、被検査体に対して適した設定を見出すことが困難な場合があり、十分な応力をかけにくかったり、被検査体の形状によっては誤検出が生じる場合もあった。さらには、被検査体が連続的に搬送されているものを検査することが求められる場合もあり、接触して機械的に応力を印加する手法や、被検査体に合わせて超音波を設定する手法は採用できない場合もある。
【0009】
係る状況下、本発明は、従来公知の機械的な静荷重や超音波といった応力では検査が困難な被検査体の欠陥の検査にも適した検査する方法および検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記したような透明体や、薄い素材のように、機械的応力が適さない素材を検査するためには、被検査体に非接触で応力を印加する応力印加手段を用いることが適していることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明は、被検査体に応力を印加していない状態と応力を印加した状態とにおいて前記被検査体に浸透し得る波長の光を前記被検査体の面に照射しその散乱光を検出することにより被検査体の欠陥を検査する方法であって、前記被検査体に応力を印加していない状態で前記被検査体の面上の位置において光を前記面に対して斜め方向に照射しそれにより生じた散乱光の強度を求めることと、前記被検査体に被検査体の被検査部に非接触な応力印加手段により応力を印加した状態で前記応力を印加していない状態で光を照射したのと同じ前記被検査体の面上の位置において光を前記面に対して斜め方向に照射しそれにより生じた散乱光の強度を求めることと、前記被検査体に応力を印加していない状態で求められた散乱光の強度と、前記被検査体に応力を印加した状態で求められた散乱光の強度を所定の閾値と対比することにより欠陥の検出を行うこととを有することを特徴とする欠陥を検査する方法に関するものである。
【0012】
また、本発明は、被検査体の支持部と、前記支持部に載置された被検査体に応力を印加する応力印加手段であって、被検査体の被検査部に非接触で応力を印加する前記応力印加手段と、前記支持部に支持された前記被検査体の面に前記被検査体内に浸透し得る波長の光を前記面に対して斜め方向に照射する光源装置と、前記被検査体の面に対して斜め方向に照射された光の散乱光を検出する受光手段と、前記被検査体に応力を印加した状態と印加しない状態とにおいてそれぞれ前記受光手段により検出された光の強度を所定の閾値と対比することにより前記被検査体における欠陥の検出を行う演算処理部と、を備えてなることを特徴とする欠陥検査装置に関するものである。
【0013】
本発明によれば、応力印加前後で測定した散乱光強度に差があるとき、その散乱光強度の差に基づきミクロンサイズのクラック等の欠陥を検出することができる。また、本発明の応力印加手段は、被検査体に非接触の応力印加手段であるため、非検査対を停止しているとき応力印加前後の被検査体の位置の変動が極めて少ない。
【0014】
本発明の対象となる欠陥の検査において、当該欠陥を詳細に確認するために、顕微鏡下のような装置構成が制限された場所での応力印加を検討した。このような狭い範囲で、顕微鏡観察などを行いながら検査するとき、機械的に被検査体に直接接触するような方法で応力を印加すると、被検査体の高さなどの位置が変動する場合が多い。そして、位置の変動が生じると、顕微鏡の焦点がずれてしまい、欠陥を観察しながら検査することができない。
【0015】
本発明は、被検査体に応力を印加していない状態と応力を印加した状態とにおいて、前記被検査体中に浸透し得る波長の光を前記被検査体の面に照射しその散乱光を検出することにより被検査体の欠陥を検査する方法である。本発明により検出される欠陥は、応力印加前後で散乱光強度が変化する欠陥であるミクロンサイズのクラック等の小さい欠陥である。ミクロンサイズのクラックは、数百nm〜数十μm程度の大きさの欠陥で、割れとして存在しているような被検査体の表面からは確認しにくい形状の欠陥である。光を被検査体に照射し、その散乱光を測定することで欠陥を検査する技術は様々開発されているが、このミクロンサイズのクラックのような欠陥は、応力等印加せずに光を照射したときの散乱光強度が検出されなかったりノイズ程度の強度だったりするため、欠陥として認識されないことが多い欠陥である。
【0016】
本発明で被検査体に照射する光は、被検査体中に浸透し得る波長の光である。この光は、被検査体に浸透し得る波長の光の被検査体の被検査部となる面に照射することができる光源装置を用いて照射される。被検査体に吸収される光は散乱光が得られないため、欠陥の検査が困難である。また、被検査体の表面で反射する場合、被検査体の内部に割れとして発生するミクロンサイズのクラックまで光が通過せず散乱しないため、欠陥を検査することが困難である。本発明で照射する光は、紫外線領域の波長から、近赤外線領域の波長まで含むものである。照射する光は、この範囲の波長から、各被検査体や測定環境、検出しやすさ等を考慮して、適宜選択される。
【0017】
この照射する光は、被検査体の散乱光強度を求めることができる光を種々選択して用いることができる。
【0018】
例えば、照射する光は、分光された特定の波長の光を用いても良い。分光された光であれば、その波長の光が被検査体に対して浸透および散乱強度が検出しやすいか、他方、吸収・反射等の影響等のその被検査体の特性を検討して、最適な波長で測定を実施しやすくなるという利点がある。
【0019】
また、照射する光は、レーザー光を用いることが好ましい。照射する光の強度が大きいほど、散乱光の強度も大きくなりより検出しやすい光強度となり、レーザー光はこのような検出に適した光強度を達成しやすい。レーザー光を照射する場合、適宜、コリメータレンズ等の公知の光学素子を組み合わせて、疑似平行照射光のライン照射を行ったり、疑似面照射光のエリア照射を行ったりすることができる。
【0020】
また、照射する光には、LEDを用いても良く、単色発光のLEDを用いても良い。さらに、高輝度なものを用いるとなお良い。このLEDについても、照射する光の強度が大きいほど、散乱光の強度も大きくなり、検出しやすくなるため、照射する光の強度が高い設定とすることが好ましい。
【0021】
また、照射する光は、直線偏光や楕円偏光を用いても良い。偏光を用いれば、照射光の偏光状態、散乱光の偏光状態を組み合わせた分析を行うことで欠陥の種類を分類しやすい場合がある。一方で、一般的に偏光にした方が照射光強度が低下するため、散乱光も低下する傾向にあり、検出感度が低下する場合がある。
【0022】
散乱光は、その光に対応する検出が可能な構成により検出される。この散乱光の強度は、受光手段により検出し、別途求める応力印加時の散乱光強度と比較するために記憶部等に記憶される。この散乱光の検出は、被検査体のどの位置の散乱光かを特定することができるように、1次元の線状の情報としてラインセンサで検出したり、2次元の面状の情報としてエリアセンサで検出してもよい。例えば、散乱光が可視光等の範囲の場合、CCDカメラなどで検出することができる。なお、散乱光強度の検出感度のバラつきを低減するために、散乱光強度を複数回検出してその積分値として散乱光強度は求めたほうがよい。
【0023】
この照射する光は、散乱光強度から欠陥を検出するために被検多彩に照射する光は被検査体の被検査部となる面に対して斜め方向から照射する。光を照射する角度や、散乱光を検出する角度は適宜設定されるが、例えば光を照射する角度として、面に対して垂直を0°としたとき10〜70°、好ましくは30〜60°程度から散乱光を検出しやすい角度で照射する。一方、散乱光は、反射光も検出すると、欠陥レベルの光強度を見落とすおそれがあるため入射角度に対応した反射角度から反れた角度で検出する。例えば、入射角度を確認しながら、面に対して垂直(0°)や、いずれかの方向に30°以内程度の範囲で傾けて検出してもよい。
【0024】
本発明においては、同じ被検査体の被検査部について、前記被検査体に応力を印加した状態と、前記応力を印加していない状態とで、それぞれ被検査部に対して照射光を斜め方向から照射し、その散乱光強度を測定する。これにより、前記被検査体に応力を印加していない状態で求められた散乱光の強度と、前記被検査体に応力を印加した状態で求められた散乱光の強度を得ることができるため、これらの比に基づいて、所定の閾値と対比することで欠陥の検出を行う。この所定の閾値との対比は演算処理部で行われる。
【0025】
この欠陥の判断に用いられる所定の閾値は、検出する欠陥の大きさや被検査体の材質、照射/散乱する光の強度等により設定される。本発明の主な対象となる被検査体は、均質性が高いものである。このような被検査体に応力を印加しない状態で光を照射しても散乱は発生しにくく、異物などが存在するときのみ散乱が発生する。また、ミクロンサイズのクラックのような欠陥は、応力を印加しないとき散乱がほとんどない場合が多い。しかし、ミクロンサイズのクラックが存在するとき応力を印加すると大きな散乱が生じる。よって、散乱光を検出したときノイズとして想定される散乱光強度の範囲内や、明らかに異物等があるとき、応力印加前後で散乱光強度比をとった場合、その比はほぼ1を中心とした範囲となる。一方、ミクロンサイズのクラックが存在すると、前述したように応力印加時に大きな散乱が発生するため、応力印加前後で散乱光強度比を、「応力印加後の散乱光強度/応力印加前の散乱光強度」とすると、1を超え大きな値となる。よって、この比がノイズレベルで想定される範囲を閾値として設定すればよい。
【0026】
本発明においては、前記応力を印加した状態において印加される応力の応力印加手段が、被検査体に非接触な応力印加手段であることが特徴である。被検査体の被検査部に非接触とは、応力を印加するための手段が、その被検査部およびその周辺へ機械的に直接接触するかで判断され、接触しない応力印加手段が適用される。ここで被検査体に印加する応力は、検出する欠陥の大きさや被検査体の材質、照射/散乱する光の強度等により設定され、具体的には数MPa程度の応力である。
【0027】
本発明を実施するにあたっては被検査体全体としては、例えば、非検査体の両端を留め具で把持するなどして何らかの支持部に支持される。このとき、応力を印加するために被検査部にも直接接触する手法の方が、より端的な構造としやすく応力を印加しやすいことからそのような応力印加手段が採用されやすかったが、このような手法は外乱要因になるおそれもあった。具体的な被検査体に非接触な応力印加手段としては、熱応力による応力印加手段や、音波による手段などが挙げられる。
【0028】
本発明の前記応力印加手段は、被検査体の被検査部に非接触な加熱手段および/または冷却手段であることが好ましい。このような加熱手段および/または冷却手段は、加熱・冷却共に被検査体内の温度勾配による応力に関するもののため、単に熱応力による応力印加手段と記載する場合がある。このような熱応力による応力印加手段は、非接触で応力を印加する手法の一つとして採用しやすい技術である。なお、本発明においては、応力印加手段は被検査部に非接触な手段のため、直接接触する加熱ステージ等は適さない。
【0029】
本発明の前記加熱手段および/または冷却手段は、加熱および/または冷却された気体を被検査体にあてることで加熱および/または冷却するものであることが好ましい。すなわち、被検査体よりも熱い温度の気体や、冷たい温度の気体を被検査体にあてて応力を印加することが好ましい。被検査体にあてる気体は、その気体を被検査体にあてることにより被検査体の位置や形状の変動が少ないように調整しやすく、本発明の熱応力による応力印加手段として適している。
【0030】
本発明の前記加熱手段は、赤外線を被検査体に照射することで加熱するものであることが好ましい。それぞれの被検査体に適した赤外線を被検査体に照射することで、被検査体を加熱することができるが、赤外線も被検査体の位置や形状の変動が少ないように調整しやすく、本発明の加熱による応力印加手段として適している。
【0031】
前記加熱手段および/または冷却手段は、被検査体の被検査部を部分的に加熱および/または冷却するものであることが好ましい。被検査体の部分的な加熱/冷却であれば、その被検査体全体、特に被検査部に検査に適した応力が発生しやすい。前述したような、気体による加熱/冷却や、赤外線による応力印加は、気体が狭い範囲にあたるように送風口の構造を調整することでこのような部分的な加熱/冷却を行いやすい。また、赤外線による加熱も、その赤外線があたる位置が部分的なものとなるように、いわゆるヒートビームを照射することで部分的な加熱を行いやすい。
【0032】
本発明の前記加熱手段および/または冷却手段により被検査体内に生じる温度勾配が、被検査体内で5℃以上の温度差の温度勾配であることが好ましい。この温度差が生じる範囲は更に限定的な範囲としてもよく、例えば、被検査部を中心とした10mm〜30mm、好ましくは10mm〜20mm角範囲内での温度差としてもよい。または、被検査体の被検査部で表面と裏面との温度差としてもよい。被検査体にこのような温度差が発生するように加熱/冷却することで、本発明の検査に適した応力が発生する。このような温度差を生じさせるためには、被検査体を部分的に加熱/冷却することが好ましく、前述した気体や赤外線を部分的にあてる方法が適している。
【0033】
本発明の前記応力印加手段は、音波により被検査体を強制振動する応力印加手段とすることもできる。具体的には、被検体の厚さによる固有振動数、特に、1Hz〜1000Hz程度の範囲の周波数の音波を用いることが好ましく、一次モードに対応する周波数の音波を利用することが好ましい。このような範囲の、例えば一次モードに対応する音波による強制振動を被検体に照射することにより、それに伴った応力も同一周期で発生することから、本発明の検査に適した応力が発生する。特に、この範囲の周波数の音波は、超音波よりもより大きい応力を印加しやすい。
【0034】
この一次モードに対応する周波数等この音波による応力を印加する場合、周期的に変化する散乱光の強度を信号処理装置等を用いて検出することにより、より高感度な検出技術とすることもできる。音波により応力を印加する場合、指向性を有する音波を用いても良い。または、被検査部等を防音構造内に配置しておこなってもよい。
【0035】
本発明の前記被検査体の被検査部は照射する光に対して透明であることが好ましい。本発明においては光を用いて欠陥を検出するが、照射する光に対して透明なものを検査するとき、被検査部付近に機械的に接触するような応力印加手段の場合、その応力印加手段が被検査体に映り込む等の理由で外乱になりやすいが、本発明の構成によればこのような透明体の欠陥も検出しやすい。被検査体が透明のとき、本発明の非接触で検査する利点が前記被検査体を透過し得る波長の光を用いることが好ましい。
【0036】
本発明においては、搬送される被検査体を検査対象としてもよい。このために、本発明の検査する方法は、被検査体を搬送する工程を有するものとすることができる。また、本発明の検査する装置は、被検査体を搬送する搬送手段を有するものとすることができる。この搬送は、連続的に搬送されているものとしてもよい。このような搬送を行う場合であっても、本発明は非接触の応力印加のため、ミクロンサイズのクラックを搬送中にインラインでも検査することができる。
【0037】
この搬送中の被検査体を検査する場合、被検査体の面において搬送方向に直交する方向に照射する光をライン照射し、少なくともそのライン照射された光をラインセンサで検出することが好ましい。また、経時的に連続してこの情報を取得し処理することで、被検査体の面の検査結果を得ることができる。
【0038】
本発明においては、顕微鏡を用いる観察を行ってもよい。このために、被検査体の被検査部を、拡大して観察する拡大観察工程を有する検査する方法とすることができる。また、前記被検査体の被検査部を観察する顕微鏡を備えてなる検査装置とすることができる。ここで、顕微鏡とは、光学的もしくは電子的な技術を用いることによって、微小な物体を視覚的に拡大して観察することができる構成のことを顕微鏡と呼ぶ。たとえば、拡大レンズ等を介して散乱光の情報を肉眼で観察することができる構成としても良いし、CCDカメラ等で検出して画像としてもよい。本発明は、このような顕微鏡を備えることができる技術に関するものであり、顕微鏡を有することで欠陥と判断された部位を、適宜、速やかに観察することもでき、単に散乱光強度の情報としてのみではなく、その欠陥を拡大観察画像から判別することもできる。
【発明の効果】
【0039】
非接触式の応力印加方法のため、様々な被検査体(特に透明なものや、薄いもの)に応力を印加させやすい。また、従来の方法では欠陥を検出しにくかった被検査体でも欠陥を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の欠陥検査装置の第一の実施形態を示す概要図である。
図2】本発明の検査する方法に係る欠陥検査方法S1の流れを示すフロー図である。
図3A】本発明により欠陥を検査する被検査体に応力印加する前の温度分布を示す図である。
図3B図3Aにかかる被検査体に加熱手段により応力を印加したときの前記被検査体の温度分布を示す図である。
図3C図3Bにかかる加熱手段による応力が印加された被検査体を本発明により欠陥検査したときの散乱光強度の比の結果を示す図である。
図3D図3Cにおいて散乱光強度比が高い部分を光学顕微鏡で拡大観察したとき観察された欠陥を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、本発明の欠陥検査装置の第一の実施形態を示す概要図である。この欠陥検査装置1は、支持部11により支持された被検査体10の欠陥を検査する装置であり、光源装置20と、対物レンズ31を備える散乱光検出手段30と、応力印加手段40と、演算処理部50と、表示部60と、拡大観察処理部70を備える欠陥を検査する装置である。
【0042】
光源装置20は、支持部11に支持された被検査体10の面に被検査体10内に浸透し得る波長の光を面に対して斜め方向に照射する。応力印加手段40は、支持部11に載置された被検査体10に応力を印加し、被検査体10の被検査部に非接触で応力を印加する。この被検査体10の被検査部に非接触で応力を印加する応力印加手段40は、加熱および/または冷却手段や、音波により被検査体10を強制振動する応力印加手段等を適宜用いることができる。
【0043】
散乱光検出手段30は、被検査体10の面に対して斜め方向に照射された光の散乱光を検出する。これは、応力を印加した状態で光源装置20の光を照射したのと同じ被検査体10の面上の位置と同じ位置で、応力を印加していない状態での光源装置20の光を前記面に対して斜め方向に照射し、それにより生じた散乱光も検出することができる構成とする。なお、このとき、散乱光検出手段30に入力される情報は、対物レンズ31により適宜拡大された画像である。この対物レンズ31は、その倍率を適宜変更することができるものとしている。
【0044】
演算処理部50は、被検査体10に応力を印加した状態と印加しない状態とにおいてそれぞれ散乱光検出手段30により検出された光の強度を所定の閾値と対比することにより被検査体10における欠陥の検出を行う。この欠陥を検査した結果は、適宜その結果を認識しやすいように出力することができ、この実施形態では表示部60であるモニターに表示する。この装置によれば、透明体のような被検査体に特に適しており、機械的に接触する応力印加手段を用いるよりも安定して欠陥を検出することができる。
【0045】
なお、拡大観察処理部70は、散乱光検出手段30により検出された散乱光強度に基づき、被検査部を拡大した観察画像を得るための処理を行うものである。この処理を行うことで、顕微鏡として像を得ることができる。この観察をより行いやすいように光源装置20の光を、欠陥を検査するための光とは異なる光等に適宜変更してもよい。また、対物レンズ31の倍率を変更して、前記演算処理部50により演算した結果検出した欠陥部分のみをより詳細に観察することができる。
【0046】
図2は、本発明の検査する方法の図1の欠陥検査装置1を用いた欠陥検査方法S1の流れを示す図である。欠陥検査方法S1は、応力印加なしで被検査体の被検査部の散乱光強度を求める工程S10と、応力印加あり(被検査体に応力を印加した状態)で被検査体の被検査部の散乱光強度を求める工程S11と、工程S10と工程S11の結果から欠陥の検出を行う工程S30とを有する検査する方法である。この欠陥を検査する方法S1は、第一の実施形態である欠陥検査装置1を用いて行うことができる。
【0047】
工程S10は、被検査体に応力を印加していない状態で前記被検査体の面上の位置において光を前記面に対して斜め方向に照射する工程S11を有し、それにより生じた散乱光の強度を求める工程S12を有する工程である。この光は被検査体内に浸透し得る波長の光であり、被検査体の面は、検査対象とする面(通常、被検査体の表面側)である。
工程S20は、被検査体に被検査体の被検査部に非接触な応力印加手段により応力を印加した状態で工程S11で光を照射したのと同じ被検査体の面上の位置において光をその面に対して斜め方向に照射する工程S21を有し、それにより生じた散乱光の強度を求める工程S22を有する工程である。
そして、工程S30は、工程S10により被検査体に応力を印加していない状態で求められた散乱光の強度と、工程S20により被検査体に応力を印加した状態で求められた散乱光の強度を対比する工程S31と、工程S31により得られる対比された値を所定の閾値と対比する工程S32とを有し、この工程S32の結果から欠陥の判断を行う工程S33を有する工程である。これにより、ミクロンサイズのクラックのように、応力印加なしでは検出が困難な欠陥等を、ノイズや異物等と区別して検出することができる。この欠陥検査方法S1は、工程S20における応力印加手段が、被検査体(の被検査部)に非接触な応力印加手段である。
【実施例】
【0048】
被検査体としてガラスを用いて、本発明によりミクロンサイズのクラックを検出した実施例の詳細を以下に示す。
図1に示す第一の実施形態の欠陥検査装置に相当する装置(ただし、拡大観察処理部70は省略した。)として、以下に示す構成と工程にて、実験を行った。
【0049】
光源装置:可視レーザー(波長532nm) エリア照射(コリメータレンズによる)
被検査体:ミクロンサイズのクラックを作製したカバーガラス(18mm角(厚さ0.12mm))
支持部:前記カバーガラスの片端部(約2mm)を把持するクランプ
応力印加手段:送風口をΦ3mmに調整して指向性の高い熱風が送風されるドライヤー
対物レンズ:CCTVレンズ(焦点距離50mm)
散乱光検出手段:CCDカメラ
演算処理部:散乱光強度の比(応力印加後の散乱光強度/応力印加前の散乱光強度)を面画像情報とした。なお、変化比1.2以上の点を欠陥の可能性がある部位として強調し、特に1.5を超える点を強調する処理を行った。
表示部:モニターに演算処理部の演算結果等を表示した。
【0050】
この構成により検査をとき、応力印加前の被検査体の温度分布を測定した結果を図3(A)に示す。また、この被検査体に熱応力を印加したときの、実際の温度の分布を測定した結果を図3(B)に示す。
なお、この被検査体は極めて異物等が少なく均質性が高い被検査体のため、応力印加前は欠陥と判断される部位はほとんどなかった。一方、応力印加時に散乱光強度が高くなる部位があれば、応力印加前後で対比したときに当然ながらその部位の対比値は大きくなるため、事実上応力印加後の結果からミクロンサイズのクラック等の欠陥の有無を判断することができる。ここでは、散乱光強度の比(応力印加後の散乱光強度/応力印加前の散乱光強度)1.2以上を閾値として、これと対比して欠陥判別をおこなった。
さらに、図3(B)のX軸10mm、Y軸10mmを中心とする1000μm角を拡大して応力印加後の散乱光強度を検出した結果を図3(C)に示す。図3(C)に示すように、X軸300μm、Y軸500μm付近に、応力印加時のみ散乱光強度が高い部位がみられ、ミクロンサイズのクラックが存在すると判断される。
【0051】
この欠陥が検出された部位の欠陥を確認するために、正立光学顕微鏡でこの部位を観察した結果、確認された欠陥の画像を図3(D)に示す。この顕微鏡観察像からも明らかなように、この部位の欠陥は、大きさ60μm程度であり、亀裂状のミクロンサイズのクラックが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の検査する方法および検査する装置は、従来の手法では検査が困難だったガラス基板等の透明体を中心とした被検査体の欠陥の検出に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 欠陥検査装置
10 被検査体
11 支持部
20 光源装置
30 散乱光検出手段
31 対物レンズ
40 応力印加手段
50 演算処理部
60 表示部
70 拡大観察処理部
S1 欠陥検査方法
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D