【文献】
SOUZA, G.R., et al.,Three-dimensional Tissue Culture Based on Magnetic Cell Levitation,Nature Nanotechnology,2010年,Vol.5, No.4,p.291-296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<装置の全体構成>
以下、本実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、全体を通して、本実施の形態を説明するための各図において同一の機能を有する各構成部分については重複した説明を省略することがある。
【0015】
図1は、本実施の形態に係る細胞の立体構造体を作製する装置の基本構成を示す図である。
【0016】
本装置は、主として、インキュベータ101内に、培養容器103、アーム102、磁場発生装置104、カメラ105を備えることで構成される。インキュベータ101の外には磁場処理エンジン106、アーム処理エンジン107、画像処理エンジン108、データバス109、制御部110、表示部111、入力部112から構成される。インキュベータ101は、内部の温度、酸素濃度、二酸化炭素濃度を調節できるものである。カメラ105は、鮮明な像を撮像するためには、インキュベータ101内に設置することが望ましいが、内部の温度、酸素濃度、二酸化炭素濃度が撮影に不適切な場合や、コンタミネーションのリスク低減のために、インキュベータ101外に設置しても良い。
【0017】
また全体を通して、制御部110は、インキュベータ101内の環境条件の調整やアーム102の動作、磁場発生装置104による磁場発生条件の調整、カメラ105による撮像動作や撮像条件の調整等といった、本装置を構成する種々の各種機構の動作や条件設定・調整等の制御を実施する。制御部110はデータバス109を介して磁場処理エンジン106、アーム処理エンジン107、画像処理エンジン108との間で情報のやりとりを行い、各種機構への指令の送信や各種機構から得られる信号や画像等のデータを取得することができる。また、細胞培養条件に関する各種データ、キーボードやマウス等の入力部112を介してオペレータから入力された指示等の情報を取得・記憶し、後述する細胞の立体構造体の作製条件を求める演算処理を実行し、これらの情報をグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等を表示する表示部111に表示することができる。なお
、本図において制御部110は各々の構成部に接続され、本装置の全体を制御するものとしたが、構成部毎に各々独立した制御部を備えるように構成することもできる。
【0018】
次に、
図2を用いて上述した磁場発生装置104の構成についてより詳細に説明する。
【0019】
図2は、本実施の形態に係る磁場発生装置の基本構成を示す図である。磁場の印加の方式は、特定の位置にスポットで磁場を印加する(2a)に示す方式と、所定の領域に亘って面状の磁場を印加する(2b)に示す方式がある。(2a)に示す方式では、電磁石2
01に、X軸可動調節機構202と、Y軸可動調節機構203を備えたことを特徴とする
。X軸可動調節機構202と、Y軸可動調節機構203を用いて、XY面内の電磁石201の位置を自在に変化させることができる。(2b)方式では、XY面内に複数の電磁石
201を備えることで、所望の領域に配置される電磁石201に磁力を印加させることができる。ここで、電磁石201のサイズについては限定されるものではないが、(2a)
に示す方式と、(2b)に示す方式のいずれにおいても、磁性体を取り込んで磁性化した
細胞(以下、単に磁性化細胞ということがある)を電磁石201によって操作するので、細胞操作の際の位置正確性を向上するためには、電磁石201のサイズは小さいものを選択することが望ましい。また、少なくとも、電磁石201の直径が磁性体細胞の直径よりも小さい方が細胞操作の際の位置正確性が高く、細胞の立体構造体の再現度を高めることができる。
【0020】
ここで、
図18は本実施の形態に係る細胞の立体構造体の作製条件の決定処理を実施する機能ブロック図である。オペレータは
図1に示した入力部112において、細胞立体構造情報入力部1801から作製したい所望の立体構造体の情報(形状イメージ、大きさ、厚み等)を入力すると、作製条件取得部1802は、入力された情報、及びデータベース1807に記憶された情報(細胞の種類に応じた接着条件等の特性や作製までの時間的制限、磁気ビーズの種類やその特性等の種々の情報)とに基づいて、最適な立体構造体の作製条件を求める。その後、求めた条件に基づいて作製動作を開始するために、機構制御部1803は画像処理エンジン1804、アーム処理エンジン1805、磁場処理エンジン1806に指示信号を送信する。
【0021】
ここで、
図19は本実施の形態に係る細胞の立体構造体の作製イメージを示す図である。本図に示すように、オペレータは表示部111のGUIに表示されるX−Z平面1901、Y−Z平面1902、X−Y平面1903、及びXYZ空間1904における細胞の立体構造体のイメージを視覚的に確認することができ、また、1901〜1903の各平面における横軸、縦軸の長さを調節することにより所望の大きさ、厚みの立体構造体のイメージを設計することができる。ここで、本実施の形態ではX−Z平面1901、Y−Z平面1902、X−Y平面1903の全ての平面、及びXYZ空間1904において立体構造体の作製イメージを表示する場合について説明したが、これらのうちのいずれかを選択的に表示することも可能である。
【実施例1】
【0022】
次に、上述した装置を用いた細胞の立体構造体の作製について
図3〜
図7、及び
図20を用いて説明する。
【0023】
図3は本実施の形態に係る細胞の立体構造体を作製する基本動作を示すフローチャートであり、
図4は本実施の形態に係る磁場形成パターンの例を示す図である。
【0024】
まず、磁場発生装置104にて、
図4における細胞塊の目標形状(形状パターン)402に基づいて、この形状に近似するように設定された、磁場印加パターン403を印加する(ステップS301)。本実施の形態では磁場発生装置104は、所定の領域に亘って
面状の磁場を印加する(2b)に示す方式を採用する。
【0025】
磁場印加の際に、細胞塊の目標形状(形状パターン)402に近似して設定された磁場印加パターン403の領域に含まれる部分の電磁石201のみを、磁場処理エンジン106を介して、印加させる。この場合の電磁石201は、電流値によって面に対して垂直な磁束を制御することが出来る、ソレノイドコイルが望ましい。
【0026】
次に、培養容器103内に、磁性ビーズなどの磁性体を取り込ませた磁性化細胞を、単層細胞シートの構成細胞数だけ投入する(ステップS302)。ここで、
図5に、培養容
器への細胞の投入動作の例を示す。ここでは、
図5(a)に示すように、ウェルプレート502内で培養した、個々のスフェロイド細胞507を、アーム501を介して、培養容器503内に投入する方法を示す。ウェルプレート502内で培養した、個々のスフェロイド細胞507は、単層細胞シートの再現性を向上するためには、出来る限り細胞径が一様であることが望ましい。この場合、ウェルプレート502内で培養した、個々のスフェロイド細胞507は、細胞へのダメージ低減を図るために、1個ずつ確実に培養容器503に移すこともできる。また、投入の効率を高めるために、ノズル508の一度の吸引動作中に、複数のスフェロイド細胞507を培養容器503内に投入しても良い。ステップS302にて、スフェロイド細胞507に磁性体が取り込ませてあった場合、ノズル508先端に電磁石201を設置し、磁場でスフェロイド細胞507を操作し、培養容器503内に投入してもすることもできる。あるいは
図5(b)に示すように、培養したスフェロイド細胞507を、遠沈管504のような容器に、単層細胞シートの構成細胞数集め、遠沈管504に備え付けられているチューブ505とバルブ506を用いて、細胞塊の目標形状402を形成するのに最適な細胞数を、培養容器503内に投入しても良い。この場合、短時間で投入が完了するように、多量のスフェロイド細胞507を含む遠沈管504を、遠心分離、もしくはスフェロイド細胞507に磁性体が取り込まれている場合は外部磁場により、スフェロイド細胞507を遠沈管504の底部に凝集させてから投入処理を行うようにすることもできる。
【0027】
次に、培養容器103内に投入した細胞を培養し、定着させる(ステップS303)。
ここで、
図6に、本実施の形態に係る単層の細胞の培養開始(定着前)時の状態(a)と培養後(定着)の状態(b)の様子を示す。ステップS301にて印加した磁場パターン403に従い、磁性体を取り込んだ細胞は単層状に配置される。
図6(a)に示すように単層状に配置された細胞601は、インキュベータ101内で最適な温度、酸素濃度、二酸化炭素濃度を与えると、
図6(b)に示すように個々のスフェロイド細胞が融合・定着し、単層細胞シート602が形成される。
【0028】
次に、ステップS304にて、単層に変換した細胞シート605について、目標の3次元状の細胞塊を作製するために必要な枚数の全てが形成されているかどうかを判断する(ステップS304)。ここで、必要な全ての枚数が形成されていない場合は、再度ステ
ップS301、S302を繰り返し、必要な分だけ単層細胞シートを形成させる。
【0029】
単層細胞シートが必要な分だけすべて形成された場合は、次に多層化処理に進む(ステップS305)。ここで、
図7に本実施の形態に係る細胞の多層化の処理の様子を示す。
図7(a)に示すように、上記ステップS304で形成した全ての単層細胞シートを多層化配置709し(ステップS701)、インキュベータ101内で最適な温度、酸素濃度、二酸化炭素濃度を与えて培養すると(ステップS702)、個々の単層細胞シートが融
合・定着し、目的の細胞塊710を形成する(ステップS703)。ここで、多層化操作
の方法は、アーム501を用いて各単層細胞シートを積み重ねていく方法がある。また、上記ステップS304では形成した全ての単層細胞シートを、単層細胞シートの数だけ用意した個別の培養容器103、もしくは一つの培養容器103内の他所スペースに配置することになる。このため、
図7(a)の方法は、大きな面積、もしくは体積を持った培養容器103が必要となり、必然的に作製装置のサイズが大きくなる恐れがある。そこで、最低限として単層細胞シート1枚分の面積の培養容器103があれば、多層化することができる
図7(b)の方法がある。
図7(b)の様に、培養容器103内に、ステップS303で形成した単層細胞シート712の上に、磁場発生装置104にて新たな層の磁場パターンを印加し、
図5のようにして細胞を投入させ、単層細胞シート状に新たな細胞層を磁場配置させる(ステップS704)。次に、インキュベータ101内で最適な温度、酸
素濃度、二酸化炭素濃度を与えて培養すると(ステップS705)、2層目の細胞シート
が融合・定着し、2層分の細胞塊713を形成する(ステップS706)。上記ステップ
S704、S705、S706を繰り返すことで、
図7(a)の方法で形成した細胞塊と同じ形状で形成が可能となる。また、
図7(b)の方法は、最低限として単層細胞シート1枚分の面積の培養容器103があれば、多層化できるため作製装置をより小型化することが可能となる。
【0030】
ここで、
図20は本実施の形態に係る細胞の立体構造体の情報を表示するGUI画面を示す図である。形状イメージ表示部2001は、
図19にて上述した方法により設計した細胞の立体構造体の形状のイメージを表示する。また、オペレータは、成形条件入力部2002から、作製したい立体構造体の目的や適用する組織に応じて決定される使用細胞名や、成形方式(単層定着方式、単細胞定着方式等)、成形モード(短時間モード、形状高
再現モード等)等の条件を入力することができる。そして、最適化成形条件表示部2003では、
図18にて上述した作製条件取得部1802により求められた最適な条件が表示され、この条件により成形の処理を開始する場合にはオペレータは「上記条件で成形」と示された入力ボタンを介して処理の開始を指示することができる。
【0031】
なお、本GUI画面による立体構造体の作製条件の入力と確認は、後述する実施例2及び実施例3にも適用することができる。
【実施例2】
【0032】
上述した実施例1では、細胞投入は単層細胞シートの構成細胞数を一度に培養容器103に投入することについて説明した(ステップS302)。次に、本実施の形態では、より単層細胞シートの再現性を向上させるために、細胞を1個ずつ培養容器103に投入する技術を利用した細胞の立体構造体の作製について
図8〜
図12を用いて説明する。
【0033】
図8は、本実施の形態に係る細胞の立体構造体を作製する基本動作を示すフローチャートである。まず、培養容器103に細胞を1個ずつ投入する(ステップS801)。この
とき、上述の通りオペレータから入力された情報に基づいて、制御部は、所望の立体構造体を作製するために、培養容器103内において細胞が配置されるべき目標位置を設定し、この目標位置に細胞を移動させる。本実施の形態では磁場発生装置104は、X軸可動調節機構202、Y軸可動調節機構203を用いて目標位置に向かって電磁石201を移動させ、特定の位置にスポットで磁場を印加する(2a)に示す方式を採用する。
【0034】
ここで、
図9に本実施の形態に係る培養容器への細胞の投入動作を示す。
図9(a)に示すように、ウェルプレート902内で培養した、個々のスフェロイド細胞904を、アーム901を介して、培養容器903内に投入する方法がある。
【0035】
ウェルプレート902内で培養した、個々のスフェロイド細胞904は、細胞塊の再現性を向上するためには、できるだけ細胞径が一様であることが望ましい。ステップS801の時点で、スフェロイド細胞904に磁性体が取り込ませてあった場合、ノズル907先端に電磁石を設置し、磁場でスフェロイド細胞904を操作し、培養容器903内に投入しても良い。あるいは、
図9(b)に示すように、ウェルプレート902内で培養した、個々のスフェロイド細胞904を、ウェルプレート902に接続された、チューブ905とバルブ906によって、培養容器903に投入する手法がある。この方法では、投入された細胞が、立体構造体を作製するために配置されるべき目的の位置(目標位置)で定着されたことを、カメラ105で確認してから、次の細胞のバルブ906を開けることで、細胞投入を行うことが出来る。このようにすることで、細胞投入に際し、アーム901のような接触物がないため、コンタミネーションのリスクを最小限で細胞投入が出来る。
【0036】
次に、投入した細胞の位置を把握する(ステップS802)。ここで、
図10に本実施
の形態に係るカメラを用いた細胞の位置確認の例を示す。
図10(a)に示す方法では、カメラ1001と照明版1002を用い、照明版1002による反射光をカメラ1001で撮像することにより培養容器1003に対する相対的な細胞1009の位置を測定することができる。ここで、培養容器1003面とカメラ1001とのハレーションの影響を最小限にするため、
図10(a)に示すように2枚の照明板1002a、bを用いることが望ましい。
【0037】
また、
図10(b)に示す方法では、細胞位置を把握するために、細胞1009を蛍光色素で染色し、培養容器1003内に励起光としてレーザーなどの単色光源1007を用い、可動ミラー1004によって励起光源を培養容器1003内で走査することにより、蛍光を発する細胞1009の位置をカメラ1001で測定することができる。この方法では、可動ミラー1004によって光源の三次元走査を行うので、適当なピンホール1006とレンズ1005を用いることで励起光源を共焦点系にすることが細胞位置の把握に有効である。
【0038】
図10(a)、(b)に示した方法において、細胞位置は、培養容器1003内の三次
元空間で検出する必要があるため、カメラ1001はX,Y,Z方向などの3方向に設置することがより精度の高い細胞位置把握にとって有効となる。また、カメラ1001と培養容器1003との相対位置が変化した際は、相対位置のキャリブレーションを行うことで、細胞位置の変動を最小限にすることが可能となる。具体的には、例えば、培養容器1003内に細胞培養過程において不活性な物質で絶対位置を決めるキャリブレータを用い、そのキャリブレータのカメラ1001による測定値の真値との乖離量をもとに補正係数を決定し、カメラ1001の位置のキャリブレーションを行うことができる。
【0039】
次に、磁場の印加により細胞の操作を行い(ステップS803)、カメラ1001にて
細胞位置を測定する(ステップS804)、そして測定細胞の位置が目標位置に細胞があるかどうかについての判定を行う(ステップS805)。
【0040】
ここで、
図11に本実施の形態に係る磁場形成パターンの具体例を示す。
図11(a)は、培養容器1101内の細胞1103を、培養容器1101外の磁場発生装置1102で発生した磁場を用いて到着点1104まで移動するための操作の例を示す。一般的には、磁場発生装置1102は電流にて磁場を自在に制御できる電磁石201を用い、その中の代表的なソレノイドコイルの作り出す磁場Hは、(1)式:H=n・I(n:コイル巻
数、I:電流値)で表すことができる。続いて、磁界Hの中で、m[Wb]の磁極を置いた際に発生する力F[N]は(2式):F=m・Hと表すことができる。
【0041】
上記の2式を組み合わせると、(3式):F=m・n・Iと表すことができ、m[Wb
]の磁性体を取り込んだ細胞は、電流値で外力を与えることができる。続いて、質量M[
kg]の物質に、F[N]の力が作用すると、加速度a[m/s^2]は(4式)a=F/Mと表すことができる。そして、初速度0で加速度a[m/s^2]で移動する物体のt[s]後の変位xは(5式)x=(1/2)・a・(t)^2と表すことができるので
、(3式)、(4式)、(5式)により、(6式)x=(m・n/2M)・I・t^2で
表すことができる。ここで、(6式)により、磁性体を取り込んだ細胞は、電流値と印加
時間で変位を制御することが可能となるだけでなく、細胞の到着点までの最適電流値と、最適印加時間を算出することもできる。
【0042】
また、
図11(b)に示すように、電流をパルス的に印加することで、一定の距離ずつ細胞を外部磁場によって制御し(ステップS803)、カメラ1001で細胞位置を確認
し(ステップS804)、測定細胞位置に基づいて、再度の細胞操作をすることができる
(ステップS805)。また、ステップS804において、カメラ1001の撮像結果か
ら、到着点1004までの距離に対してこの時点までに用いている電流値での1パルスあたりの移動距離では大きすぎると判断した場合は、次回以降の細胞移動における電流値を低下させるように条件を調整することで、1パルスあたりの移動距離をより少なくして操作することができ、到着点1004まで確実に移動させることが可能となる。
【0043】
続いて、ステップS804で、
図11(c)に示すように、1パルスあたりの移動量が、到着点1004を超えてしまったと判断した場合は、次回の細胞操作でソレノイドコイルに流す電流値を逆転させることで、磁界の向きを反転させ、到着点1004まで移動させることが可能となる。本実施の形態のように、磁性体を取り込んだ細胞1103を培養容器1101内を三次元で操作する必要あるため、磁場発生装置1102をX,Y,Z方向などの3方向に設置することが、より精度の高い細胞操作にとって望ましい。
【0044】
次に、培養容器103内に投入した細胞を培養し、定着させる(ステップS806)。
ここで、
図12に、本実施の形態に係る単層または多層の細胞の培養開始(定着前)時の状態(a)と培養後(定着)の状態(b)の様子を示す。本実施の形態では、細胞を1個ずつ操作するが、その際に細胞塊の目標形状1208に対して、端から細胞を定着させていく
図12(a)に示す方式と、中央から細胞を定着させていく
図12(b)に示す方式がある。
【0045】
図12(a)に示す方式では、単純組織であるが形状を最も優先したいといった組織再生の場合等に有用である。また、
図12(b)に示す方式では、臓器などの内部機能を最も優先したいといった臓器再生の場合等に有用である。
図12(a)、(b)に示すいずれの方式においても、細胞の定着の順序は、実施例1にて上述したように1細胞ずつ単層細胞シートを形成し、次に上層の単層細胞シートを形成することもできるし、あるいは初めから3次元状の細胞塊を形成してこれを核とし、核を中心に形成させていくこともできる。従って、作製したい細胞の立体構造体の条件に合わせて最適な方法を採用することが望ましい。
【実施例3】
【0046】
上述した実施例1、2では使用細胞の細胞径が一様である場合についての細胞の立体構造体の作製の例を示した。しかしながら、細胞の立体構造体により形成される臓器の形状の再現性を高めるためには、径の異なる幾つかの細胞を使用することが必要になることがある。本実施の形態では、径の異なる複数の細胞から構成される立体構造体の作製について、
図13、
図14を用いて説明する。
【0047】
図13は、本実施の形態に係る径の異なる複数の細胞からなる立体構造体を作製する基本動作を示すフローチャートであり、
図14は、本実施の形態に係る細胞の培養開始〜定着の状態の様子を示す図である。
【0048】
はじめに、ステップS1401では、培養容器103内を撮像し(ステップS1301
)、撮像結果から、細胞塊の目標形状と、前ステップまでに定着した細胞塊像を抽出する。抽出された結果に基づいて、次ステップに必要となる細胞径を算出する(ステップS1302)。
【0049】
次に、ステップS1402では、ステップS1302にて決定した細胞径の細胞を培養容器103内に投入する。続いてステップS1403では、培養容器103内を撮像し(ステップS1304)、実施例2と同じく、カメラ1001での撮像と細胞の磁場操作を
繰り返し(ステップS1304、S1305、S1306)、目標の位置に細胞を操作し、定着することで細胞塊を形成する。
【0050】
本実施の形態によれば、同種細胞で大きな体積を占める部位には、大きな径の細胞を用いることで細胞塊の形成に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。また、複雑な形状部位には、小さな径の細胞を使うことで、細胞塊の形状再現性を向上させることができる。
【実施例4】
【0051】
上述した実施の形態では、磁性化細胞に対して、磁性体の除去を行うことなく細胞の立体構造体を作製している。細胞の種類や、磁性体によっては、細胞自身の代謝で、取り込まれた磁性体を自然に排出することができるため、このような場合には、磁性体の除去処理を行なわなくても、磁性体による影響はないと考えられる。しかしながら、細胞の種類や、磁性体の種類、また細胞の大きさによっては、磁性体の自然排出が不十分である場合がある。また、細胞塊の用途によっては、臨床用などの体内移植用として使う場合は、確実に磁性体を除去しておく必要がある場合がある。このような場合、外部操作によって細胞内の磁性体を確実に除去すること必要となる。
【0052】
本実施の形態では、上述した実施例1、実施例2において、磁性体を取り入れた細胞を用いて立体構造体を形成した後、細胞内の磁性体を除去する工程を組み込んだ態様について
図15〜
図17、及び
図21を用いて説明する。
【0053】
図15、
図16はそれぞれ、実施例1、実施例2にて上述した細胞の立体構造体の作製において、本実施の形態に係る磁性ビーズの除去ステップを追加した態様の基本動作を示すフローチャートである。
図15のフローチャートにおいては、単層細胞シート形成後(ステップS1503)、磁性体除去操作(ステップS1504)を行う。また、
図16のフローチャートにおいては、1個の細胞の定着後(ステップS1608)、磁性体除去操
作(ステップS1609)を行う。
【0054】
図17は、本実施の形態に係る磁性ビーズの除去ステップの詳細を示すフローチャートである。
【0055】
まず、カメラ1001により細胞シートの厚みあるいは細胞の径を測定する。ここで、実施例1を適用する場合には細胞シートの厚みを測定し、実施例2を適用する場合には細胞径を測定する(ステップS1701)。磁性体除去の操作において、磁性体の排出を促
進するための代謝活性因子等を細胞に作用させる際に、細胞シートの厚みまたは細胞径が大きいと中心部の細胞までこれらの活性因子が届きにくくなる。そこで、本ステップでこれらの情報を取得することにより、中心部まで確実に活性因子を届かせるための種々の条件(温度、時間等)設定を最適化することができる。
【0056】
次に、ステップ1701で測定した細胞径または細胞シートの厚みの情報に基づいて、細胞種や磁性体の種類を考慮し、磁性体除去のための条件(温度、時間等)を求める(ステップS1702)。
【0057】
続いてステップS1702にて決定した磁性体除去条件を用いて、代謝活性因子等を細胞に作用させ、磁性体を除去する(ステップS1703)。
【0058】
その後、ステップ1704にて、ステップ1703の除去処理によって磁性体が確実に除去されているかどうかの判定を行う(ステップS1704)。ここで、具体的には、培
養容器103内に単細胞を幾つかコントロールとして配置しておき、そのコントロールに対して磁場発生装置104にて外部磁場を発生させた際の細胞位置をカメラ1001で測定することで、磁性粒子が除去できたかどうかを判定することができる。以上の除去操作を行うことで、磁性体を確実に除去し、より如何なる場合にも高い安全性が保証された立体構造体を作製することが可能となる。
【0059】
ここで、
図21は本実施の形態に係る細胞の立体構造体の情報を示すGUI画面を示す図である。
【0060】
本図において、形状イメージ表示部2101、成形条件入力部2102、最適化成形条件表示部2103はそれぞれ
図20にて上述した構成と同様であるが、本実施の形態では、磁性体を除去する工程が組み込まれているため、このときの除去の条件を設定するために必要な情報を入力する磁気ビーズ条件入力部2012−1、及び入力された情報に基づいて求められる除去の条件を表示する脱磁気ビーズ条件表示部2103−1をさらに備えている。
【0061】
このように、上述した本実施の形態によれば、細胞にコンタミネーションやダメージを与えることなく、かつ、精度の高い培養条件の調整によって、所望の大きさや形状、構造を有する再生組織・再生臓器の形成を実現するができる。
【0062】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。