【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、独立行政法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション 創造プログラム)「コンクリート内部の鉄筋腐食検査装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
音波発生部から、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材に、前記マトリクスと前記音波発生部との間に挟まれる位置に音波媒体を設けた状態で、音波パルスを照射する音波発生工程と、
前記音波媒体と前記マトリクスとの界面において前記音波パルスが反射することによって形成される界面エコーが、前記音波発生部に戻らないように、前記音波発生部と前記音波媒体との接触面が、前記界面に対して傾斜している状態において、前記音波パルスによって前記鋼材から発生する電磁信号を受信する電磁信号受信工程と、を含み、かつ
前記音波発生部と前記鋼材との間の距離を、前記音波パルスが伝搬する時間が前記音波発生部から生じる電磁ノイズの持続時間よりも長くすることによって前記電磁信号を前記電磁ノイズから時間的に分離した、
鋼材の非破壊検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
言うまでもなく、社会インフラの保全と整備には、極めて膨大な予算と時間を必要とする。従って、限られた予算と時間の中で各種インフラの維持及び補修を行っていくためには、クラック又は剥離などが確認された後に補修措置を講じる事後的な保全では間に合わないため、予防的な保全及び補修を行うことが望ましい。
【0008】
しかしながら、上述のとおり、クラック及び剥離などが無い状態で、鉄に代表される鋼材の腐食又は損傷を、非破壊であって、且ついわば直接的に、測定ないし評価する手段の存在は皆無であった。
【0009】
本願発明者の一部は、特許文献1並びに非特許文献1及び2に示すように、既に音響誘起電磁信号(「音響誘起電磁波」ともいう)を利用した非破壊の測定方法を創出した。しかしながら、その音響誘起電磁信号を利用した測定装置又はその方法を、そのままRC構造の鋼材に採用したとしても、確度の高い測定を実現することが困難であることが分かった。
【0010】
例えば、コンクリートなどのマトリクス内部に配置された鋼材という特殊な被測定対象に対しては、その特殊な被測定対象の置かれた状況、材質等の違いを考慮する必要がある。そこで、本願発明者が鋭意研究と分析を行い、試行錯誤を重ねた結果、被測定対象が異質の固形材料の中に埋め込まれている状況を考慮したある特徴的な工夫及び方法を見出した。その結果、マトリクスの存在によって生じ得る種々のノイズの発生を回避し、もしくは測定対象信号の受信に影響しない、非破壊であって確度の高い検査装置又は検査方法を実現し得ることが分かった。本願発明者らが得た前述の知見は、例えば、RC構造の劣化過程において、外観には現れないが、マトリクス内部の鋼材の腐食が進行しつつある「進展期」と呼ばれる時期の鋼材の直接的な測定を、非破壊に実現し得ることにつながる。本発明は、上述の視点に基づいて創出された。
【0011】
本発明の1つの鋼材の非破壊検査装置は、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材に、音波パルスを照射する音波発生部と、その音波パルスの照射時に、前述のマトリクスとその音波発生部との間に挟まれる位置に設けられる音波媒体と、その音波パルスによって前述の鋼材から発生する電磁信号を受信する電磁信号受信部と、を備える。加えて、この非破壊検査装置は、前述の音波発生部と前述の鋼材との間の距離を前述の音波パルスが伝搬する時間が、前述の音波発生部から生じる電磁ノイズの持続時間よりも長くなるように、前述のマトリクス及び前述の音波媒体を介してその鋼材から離れて前述の音波発生部が配置されることにより、前述の電磁信号受信部は、その電磁ノイズから時間的に分離した該電磁信号を受信し、かつ、その音波媒体とそのマトリクスとの界面において前述の音波パルスが反射することによって形成される界面エコーが、前述の音波発生部に戻らないように、その音波発生部とその音波媒体との接触面が、前述の界面に対して傾斜している。
【0012】
この非破壊検査装置によれば、上述のマトリクスの内部に配置された鋼材のように、被測定対象(鋼材)が、それとは異質な固形材料(マトリクス)の中に埋め込まれている状況であってもその鋼材から発生する電磁信号(測定対象信号)を確度高く測定することができる。特に、上述の音波発生部と上述の音波媒体との接触面が、該音波媒体とそのマトリクスとの界面に対して傾斜していることから、上述の界面エコーが音波発生部に戻ったときに生じる電磁ノイズの発生を回避できる。従って、音波発生部からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズを時間的に分離するだけの該音波媒体の厚さ(距離)又は該音波発生部から被測定対象である鋼材までの距離があれば、確度高く測定対象信号を取得し得ることになる。これは、この非破壊検査装置における該検査環境の自由度を格段に高めることになる。加えて、前述の音波発生部と被測定対象である鋼材との間の距離を音波パルスが伝搬する時間が、該音波発生部から生じる電磁ノイズの持続時間よりも長くなるように、該マトリクス及び該音波媒体を介して該鋼材から離れて音波発生部が配置されるため、該鋼材からの電磁信号をさらに確度高く取得し得ることになる。
【0013】
なお、本願における「電磁ノイズ」という用語は、本願発明者の一部が既に特許権を取得している、特許第4919967号において開示されている「電磁波ノイズ」を測定対象信号(本願における「電磁信号」)とより明確に区別するために採用した、技術用語である。
【0014】
また、本発明の1つの鋼材の非破壊検査方法は、音波発生部から、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材に、そのマトリクスとその音波発生部との間に挟まれる位置に音波媒体を設けた状態で、音波パルスを照射する音波発生工程と、その音波媒体とそのマトリクスとの界面においてその音波パルスが反射することによって形成される界面エコーが、前述の音波発生部に戻らないように、前述の音波発生部と前述の音波媒体との接触面が、前述の界面に対して傾斜している状態において、その音波パルスによってその鋼材から発生する電磁信号を受信する電磁信号受信工程と、を含む。加えて、この非破壊検査方法は、前述の音波発生部と前述の鋼材との間の距離を、前述の音波パルスが伝搬する時間がその音波発生部から生じる電磁ノイズの持続時間よりも長くすることによって前述の電磁信号を前述の電磁ノイズから時間的に分離している。
【0015】
この非破壊検査方法によれば、上述のマトリクスの内部に配置された鋼材のように、被測定対象(鋼材)が、それとは異質な固形材料(マトリクス)の中に埋め込まれている状況であってもその鋼材から発生する電磁信号(測定対象信号)を確度高く測定することができる。特に、上述の音波発生部と上述の音波媒体との接触面が、該音波媒体とそのマトリクスとの界面に対して傾斜していることから、上述の界面エコーが音波発生部に戻ったときに生じる電磁ノイズの発生を回避できる。従って、音波発生部からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズを時間的に分離するだけの該音波媒体の厚さ(距離)又は該音波発生部から被測定対象である鋼材までの距離があれば、確度高く測定対象信号を取得し得ることになる。これは、この非破壊検査方法における該検査環境の自由度を格段に高めることになる。加えて、前述の音波発生部と被測定対象である鋼材との間の距離を音波パルスが伝搬する時間が、該音波発生部から生じる電磁ノイズの持続時間よりも長くすることにより、該鋼材からの電磁信号をさらに確度高く取得し得ることになる。
【0016】
ところで、本願においては、「マトリクス」とは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも一種類を意味する。また、本願における「鋼材」とは、鉄、鋼、及び鋳鉄の群から選択される少なくとも一種類を意味する。加えて、本願における「鋼」には、ステンレス鋼が含まれる。また、本願における「検査」は、「測定」の意味を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1つの非破壊検査装置又は1つの非破壊検査方法によれば、マトリクスの内部に配置された鋼材のように、被測定対象(鋼材)が、それとは異質な固形材料(マトリクス)の中に埋め込まれている状況であっても、電磁ノイズからの影響を避けた状態で、その鋼材から発生する電磁信号(測定対象信号)を確度高く測定することができる。加えて、該非破壊検査装置又は該非破壊検査方法によれば、検査環境の自由度を格段に高めることになる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態として、非破壊検査装置及び非破壊検査方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0020】
<第1の実施形態>
1.非破壊検査装置100の構成及び非破壊検査方法の例
本実施形態の非破壊検査装置100及び非破壊検査方法について説明する。
図1Aは、本実施形態の鋼材の非破壊検査装置100の構成例を示す概要側面図である。また、
図1Bは、
図1Aの一部拡大図である。なお、本実施形態においては、被測定対象である、断面が略円形であって柱状の鋼材90が、
図1Aの紙面に直交する方向に設けられている。また、本実施形態のパルス発生部(例えば、市販のパルス発生器)12によって所望のパルスが与えられるように構成されている。また、電磁信号受信部20によって受信された電磁信号を増幅する増幅回路22が設けられている。加えて、例えば、パルス発生部12と市販のオシロスコープ50とを同期させるために、パルス発生部12とオシロスコープ50とは接続されている。また、本実施形態においては、市販のコンピュータ60を非破壊検査装置100に接続することによって、音波(照射時間、波形、照射強度、パルスの幅など)の制御、及び電磁信号受信部20によって受信される電磁信号の分析と表示が行われる。
【0021】
なお、
図1Aにおいて、A(A
1及びA
2)は、音波発生部10から照射された音波パルスを示している。また、A
1は、音波媒体30内を伝搬する音波パルスを示し、A
2は、マトリクス80内を伝搬する音波パルスを示している。加えて、E
1は、音波発生部10から照射された音波パルスが、音波媒体30とマトリクス80との界面に反射した反射波(界面エコー)を示している。
【0022】
また、
図1AにおけるSは、音波発生部10から照射された音波パルスによって鋼材90から発生する電磁信号(測定対象信号)を示している。なお、音波媒体30内を伝搬する音波(A
1)の音速はV
1で表され、マトリクス80内を伝搬する音波(A
2)の音速はV
2で表される。
【0023】
本実施形態の非破壊検査装置100は、以下の(1−1)〜(1−4)に示す構成を少なくとも備えている。
(1−1)被測定対象である鋼材90に向けて、音波パルスを照射する音波発生部10
(1−2)少なくとも音波パルスの照射時に、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクス80と音波発生部10との間に挟まれる位置に設けられる音波媒体30
(1−3)音波発生部10と音波媒体30との接触面が、音波媒体30とマトリクス80との界面に対して傾斜している構成
(1−4)音波パルスの照射によって鋼材90から発生する電磁信号を受信する電磁信号受信部20
【0024】
また、本実施形態の非破壊検査方法は、以下の(2−1)〜(2−2)に示す工程を少なくとも含む。
(2−1)マトリクス80の内部に設けられた、被測定対象である鋼材90に向けて、マトリクス80と音波発生部10との間に挟まれる位置に音波媒体30を設けた状態で、音波パルスを照射する音波発生工程
(2−2)音波発生工程において照射された音波パルスが音波媒体30とマトリクス80との界面において反射することによって形成される界面エコーが、音波発生部10に戻らないように、音波発生部10と音波媒体30との接触面が、その界面に対して傾斜している状態において、該音波パルスによって鋼材90から発生する電磁信号を受信する電磁信号受信工程
【0025】
上述の非破壊検査方法における音波発生部10は、音波発生源と言い換えることができる。
【0026】
また、本実施形態の非破壊検査装置100及び非破壊検査方法については、上述の各構成又は各工程に加えて、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t
1)と、音波発生部10から鋼材90までの距離をその音波パルス(
図1AのA
1及びA
2)が伝搬する時間(t
2)との関係が、次の式(1)を満たす。
【0028】
鋼材90からの電磁信号を確度高く電磁信号受信部20によって取得する観点から言えば、上記の式(1)を満たすための音波発生部10から鋼材90までの距離を得ることが必要である。従って、本実施形態においては、式(1)を満たすための、音波パルスが伝播する距離を備えた音波媒体30が設けられる。
【0029】
音波発生部10から発せられた音波は、界面で反射し、界面エコーとなって音波発生部10に戻り得る。音波が振動面の直径(
図1Bの「D」)に対応する有限の太さを有し、平行に伝搬するとき、界面エコーが直接、音波発生部10に達しないようにするためには、次の式(2)を満たすことが好ましい。なお、式(2)においては、音波発生部10と音波媒体30との接触面と、音波媒体30とマトリクス80との界面とがなす角度をθ(
図1Bの「θ」)とし、該界面から音波発生部10の振動面の上端(
図1Bにおける界面から最も離れた振動面の部分)までの距離をLとしている。
【0031】
本実施形態の非破壊検査装置100によれば、音波発生部10と音波媒体30との接触面が、音波媒体30とマトリクス80との界面に対して傾斜しているため、界面エコーE
1が、直接には音波発生部10に戻らないことになる。この作用を生じさせるとともに、上述の式(1)を満たす音波媒体30の存在により、後述する「尾を引く」電磁ノイズとは時間的に分離されるとともに、界面エコーE
1による影響も回避することができるため、鋼材90からの測定対象信号(電磁信号)を確度高く測定することが可能となる。
【0032】
ここで、本実施形態における、音波発生部10の例は、振動子(代表的には、超音波振動子)である。また、
図1Aにおけるパルス発生部12の代わりに、ファンクションジェネレータが採用され得る。また、
図1Aにおける電磁信号受信部20の例はコイルであるが、電磁信号受信部20は、コイルに限定されない。例えば、コイルの代わりに、電磁波を捕捉するアンテナ又は電磁波に感応するセンサー(例えば、磁気センサー)を採用し得る。また、音波媒体30は、上記の式(1)を満たす部材であれば限定されない。音波媒体30の材質が、音波減衰が少なく、かつマトリクス80の音響インピーダンスと同程度である材質が、好適な一態様である。音響インピーダンスと同程度である材質を採用されていることは、音波(音波パルス)の反射を抑制し得るためである。なお、前述の観点から言えば、音波媒体30の材質を、マトリクス80の材質と同種の材質にすることが、好適な一態様である。その他の材質の例は、ガラス、アクリル、その他の樹脂又はプラスチックである。また、マトリクス80内の音波(音波パルス)の伝搬を容易にするために、比較的低い周波数(例えば、50Hz以上1MHz以下、より好適には、50kHz以上500kHz以下)の音波パルスが採用されることが好ましい。
【0033】
なお、被測定対象である鋼材90が、上述のマトリクス80内に存在している状態であって、仮にクラック、剥離、すり減り、又は侵食等がないためにマトリクス80によって外部から視認されない状態であっても、鋼材90の状態を非破壊に測定することができることは、非破壊検査装置100の長所の一つである。
【0034】
また、本実施形態の被測定対象は、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材90である。なお、本実施形態においては、セメントペースト、モルタル、又はコンクリートがそれぞれ含有し得る成分(例えば、水、セメント、骨材、砂(砂利)など)の比率が変動した場合であっても、本実施形態と効果は実質的に損なわれないことも、非破壊検査装置100の長所の一つである。
【0035】
2.非破壊検査装置100による検査結果の例
次に、非破壊検査装置100による検査結果について説明する。
図2に、本実施形態の非破壊検査装置100を用いた鋼材90の検査結果の一例を示す。
図2の上段は、音波発生部10で観察された波形であって、音波発生時の振動子の振動の持続と、複数回の反射を経て音波発生部に戻った界面エコーを表す。また、
図2の下段は、電磁信号受信部20によって観察される、測定対象信号(電磁信号)を含む波形である。
【0036】
また、本実施形態の非破壊検査装置100と対比するために、比較例としての非破壊検査装置900を用いた鋼材90の検査結果の例を示す。
図3は、非破壊検査装置900の構成例を示す概要図である。また、
図4は、比較例としての、非破壊検査装置900を用いた鋼材90の検査結果の一例を示すグラフである。
【0037】
比較例としての非破壊検査900と本実施形態の非破壊検査装置100との違いは、音波媒体のみである。本実施形態においては、音波発生部10と音波媒体30との接触面が傾斜しており、マトリクス80との界面に対して、30°をなしている(
図1Bの角度θ)。比較例としての音波媒体930は円柱状であり、音波媒体930とマトリクス80との界面に対して、音波発生部10と音波媒体930との接触面が傾斜していない。なお、本実施形態の音波媒体30の最大高さ又は最大厚さ(
図1AのL
0)は約55mmであり、比較例の音波媒体930の最大高さ(
図3のL
1)は約40mmである。
【0038】
本実施形態及び比較例のいずれにおいても、音波媒体30,930およびマトリクス80の材質はモルタルである。マトリクス80の表面から鋼材90までの距離(
図1A及び
図3のd)は42mmである。なお、本実施形態においては、音波発生部10から鋼材90までの距離は約96mmである。一方、比較例においては、音波発生部10から鋼材90までの距離は約82mmである。また、本実施形態及び比較例のいずれにおいても、鋼材90の材質は、円柱状の鉄(いわゆる、鉄筋)であり、その径は16mmである。マトリクス80であるモルタル内の音速V
2は、約4000m/秒であると考えられる。
【0039】
また、
図2及び
図4の例においては、マトリクス80内の音波(音波パルス)の伝搬を容易にするために、比較的低い周波数(500kHz)の音波が採用された。
【0040】
まず、本実施形態の検査結果の例(
図2)においては、音波発生部10から鋼材(鉄筋)90までの距離は、約96mmであることから、測定対象信号(電磁信号)は、音波パルスが発生してから約24μ秒後に発生すると考えられる。音波発生部10から照射された音波パルスの一部は、音波媒体30とマトリクス80との界面で反射するが、音波は30°傾斜しており、式(2)を満たすため、その反射波(界面エコー)E
1は、直接には音波発生部10へ達しないと考えられる。
【0041】
図2下図(電磁信号強度)のXの領域において観測される波形は、それと同時に
図2上図(エコー強度)において界面エコーが観察されていないことから、鋼材90からの測定対象信号であると考えられる。なお、Zの領域において観測される波形は、音波が、音波媒体30とマトリクス80との界面、及び音波媒体30自身の外表面において複数回反射した後に音波発生部10へ戻ったものと考えられる。しかしながら、この界面エコーはXとは時間的に分離しているため、測定対象信号の測定に全く影響していない。
【0042】
一方、比較例(
図4)の場合、音波発生部10から鋼材90(鉄筋)までの距離は約82mmであることから、測定対象信号(電磁信号)は、音波パルスが発生してから約21μ秒後に発生すると考えられる。一方、音波発生部10から照射された音波パルスの一部が、音波媒体30とマトリクス80との界面に反射して音波発生部10に戻るまでに、約20μ秒を要すると考えられる。
【0043】
従って、
図4下図(電磁信号強度)における、X’の領域において観測される波形は、音波発生部10に直接戻った界面エコー(Y’)によって生じる電磁ノイズと、鋼材90からの測定対象信号の両方が混在していると考えられる。
【0044】
上述のとおり、本実施形態の非破壊検査装置100は、界面エコーが直接音波発生部10に直接戻らないようにし、測定対象信号を妨害する電磁ノイズの発生を回避した。その結果、測定対象信号である鋼材90からの電磁信号を確度高く取得することが可能となった。一方、比較例としての非破壊検査装置900を採用した場合、音波発生部10は直接界面エコーを受けることを回避することができないため、そのエコーによって生じる音波発生部10からの電磁ノイズの影響により、鋼材90からの測定対象信号のみを区別して観測することが出来ないことになる。なお、電磁ノイズ又は電磁信号は、光速で伝わるため、それらが生じる時刻と受信部で観察される時刻とは、実質的に同時と考えてよい。
【0045】
ところで、
図2及び
図4のいずれの場合も、音波媒体30,930を設けていることで、測定対象信号(電磁信号)X,X’は、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズ、換言すれば、
図2及び
図4の冒頭において時間の経過とともに減衰する様子が観察される、いわば「尾を引く」電磁ノイズとは時間的に分離されている。すなわち、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t
1)の経過後に、測定対象信号(電磁信号)が観察されるように、音波発生部10と鋼材90との距離が設定されることが好ましい。
【0046】
上述の特筆すべき本実施形態の効果に付言すると、非破壊検査装置100を採用すれば、上述のとおり、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズを時間的に分離するだけの音波媒体30の厚さ(距離)又は音波発生部10から被測定対象である鋼材90までの距離があれば、確度高く測定対象信号である電磁信号を取得することができる。その結果、検査環境の自由度が格段に高められた。
【0047】
なお、非破壊検査装置100,900の構成のうち、仮に音波媒体30,930を省いた構成を採用した場合は、音波パルスの発生から11μ秒後に鋼材90からの電磁信号が発生することになるが、
図2及び
図4から明らかなように、当該時刻において音波発生部10からの電磁ノイズが持続しているため、測定対象信号(電磁信号)が、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの中に埋れてしまうことになる。従って、非破壊検査装置100,900が音波媒体30,930を備えることは、測定対象信号(電磁信号)を、その電磁ノイズ成分から、確度高く、時間的に分離することを実現し得ることに貢献する。
【0048】
ところで、現時点における本願発明者らの分析によれば、
図2に示された測定対象信号である電磁信号は、鋼材90の電磁気的及び/又は力学的特性を反映していると考えられる。これらの情報は、被測定対象である鋼材90が健全であるか、あるいは劣化又は損傷しているかを示す有力な指標であると考えられる。
【0049】
図2の結果から、本実施形態の非破壊検査装置100、及び本実施形態の非破壊検査方法によれば、仮に、鋼材90がマトリクス80内に埋まっている状態であって、かつ、外部から視認することが出来ない又は困難な状態であっても、いわば直接的に、かつ非破壊に、鋼材90の状態を検査することが可能であることが明らかとなった。
【0050】
なお、
図2の例においては、マトリクス80がモルタルであったが、マトリクス80の例は、モルタルに限定されない。マトリクス80が、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種であれば、
図2の結果と同様の結果を得ることが可能である。
【0051】
<第2の実施形態>
ところで、第1の実施形態においては、音波パルスが鋼材90に対して照射されることによって生じる電磁信号を受信する電磁信号受信部20を備える非破壊検査装置100及び非破壊検査方法を開示しているが、後述する鋼材エコーを別途受信し得るエコー信号受信部40をさらに備えた非破壊検査装置200及び非破壊検査方法も、採用し得る他の一態様である。
【0052】
具体的に、本実施形態の非破壊検査装置200及び非破壊検査方法について説明する。
図5は、本実施形態の鋼材の非破壊検査装置200の構成例を示す概要側面図であり、非破壊検査装置200を用いた非破壊検査方法の別の一例を示している。なお、本実施形態においては、被測定対象である鋼材90が、
図5の紙面に平行に設けられている。
【0053】
本実施形態の非破壊検査装置200においては、例えば、音波発生部10から照射された音波パルスが音波媒体30とマトリクス80との界面に反射した反射波(界面エコー)E
1と、音波発生部10から照射された音波パルスが被測定対象である鋼材90に反射した反射波(鋼材エコー)E
2を受信するエコー信号受信部40が設けられている。また、本実施形態においては、そのエコー信号受信部40によってエコー信号を受信するエコー信号受信工程により、鋼材90の位置を確度高く把握する等の、多面的な鋼材90の情報を取得することが可能となる。
【0054】
なお、界面エコーE
1を出来る限り避けた上で、鋼材エコーE
2を主として受信するように配置されたエコー信号受信部40は、界面エコーE
1による電磁ノイズを生じないため好ましい。
【0055】
また、エコー信号受信部40は、必ずしも、音波媒体30上に固定的に配置される必要はない。例えば、図示しない公知の機構を備えた移動機構により、音波媒体30に対して着脱可能にエコー信号受信部40が配置されることは、採用し得る本実施形態の好適な一態様である。より具体的には、エコー信号受信部40を音波媒体30から、ほんの数mm離間させる移動機構によって、着脱が実現され、エコー信号受信部40を実質的に機能させなくすることが可能となる。そのように着脱可能にエコー信号受信部40が配置されると、測定対象信号である鋼材90からの電磁信号を受信するときとは異なる時機において、上述の鋼材エコーを必要に応じて取得することが可能となる。
【0056】
加えて、本実施形態の好適な一態様として既に説明した、エコー信号受信部40が音波媒体30に対して着脱可能に配置される構成は、測定対象信号である鋼材90からの電磁信号を受信する工程の前又は後に、音波パルスが鋼材90に反射することによって形成される鋼材エコーを、必要に応じて受信することが可能となるため、好ましい。
【0057】
<その他の実施形態(1)>
図6は、第1の実施形態における非破壊検査装置100を用いた非破壊検査方法の別の一例を示している。
【0058】
この例においても、被測定対象である、断面が略円形であって柱状の鋼材90が、
図6の紙面に直交する方向に設けられている。また、音波照射面と同一側に電磁信号受信部20がある
図1Aの構成とは異なり、
図6においては、電磁信号受信部20がマトリクス80の端部側壁近くに配置されている。また、この例のマトリクス80はコンクリートである。
【0059】
図6に示す非破壊検査装置100の各構成の配置が採用された場合であっても、第1の実施形態の非破壊検査方法を採用することによって、上述の
図2の結果と同様の結果を得ることができる。従って、非破壊検査装置100においては、電磁信号受信部20が配置される位置は特に限定されない。
【0060】
<その他の実施形態(2)>
ところで、上述の各実施形態においては、音波媒体30とマトリクス80の界面と、音波発生部10と音波媒体30の接触面とのなす角度(
図1Bの角度θ)の一例として30°を示したが、該角度は30°に限定されない。該角度θは、0°<θ<90°の様々な角度を採用し得るが、音波伝搬中の減衰を抑制する観点および音波媒体の形状を小型化する観点から、該角度θは10°以上であることが好ましく、15°以上であることが更に好ましい。また、音波発生部10から照射される音波パルスを確度高く鋼材90に到達させる観点から言えば、該角度θは45°以下であることが好ましく、40°以下であることが更に好ましい。
【0061】
なお、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。