特許第6619544号(P6619544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619544
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20191202BHJP
   C12M 1/38 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   C12M1/34 A
   C12M1/38 A
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-57138(P2014-57138)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-177768(P2015-177768A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年8月9日
【審判番号】不服-12168(P-12168/J1)
【審判請求日】2018年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植松 千宗
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 宗郎
(72)【発明者】
【氏名】桝屋 豪
【合議体】
【審判長】 田村 聖子
【審判官】 中島 庸子
【審判官】 高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−86279号公報
【文献】 特開2013−255445号公報
【文献】 特開2005−261260号公報
【文献】 日本化学療法学会雑誌,2003年,Vol.51,NO.8,pp.470−476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12M1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS/(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌または真菌の同定検査や薬剤感受性検査を行う検査装置であって、
複数のウェルを有し、各ウェルに前記細菌または真菌を含む培養液を保持する培養プレートを温調する温調部と、
前記培養プレートの中の各々のウェルに含まれる培養液中の前記細菌または真菌を顕微鏡観察するための顕微鏡観察光学系と、
前記培養プレートの各ウェルに保持される培養液の濁度を測定するための濁度測定光学系と、
前記培養プレートを、前記温調部と前記顕微鏡観察光学系および前記濁度測定光学系との間で搬送する搬送機構と、
プログラムに従って、前記細菌または真菌の同定検査または薬剤感受性検査の判定を行うプロセッサと、を有し、
前記顕微鏡観察光学系は、光源と、光源からの光のうち前記培養プレートを透過した光を撮像する撮像素子と、前記培養プレートと前記撮像素子との間に配置された、前記細菌または真菌の1つ1つの分裂を認識可能にする程度の倍率を有する対物レンズと、を備え、
前記顕微鏡観察光学系を用いて、前記培養プレートの各々のウェルの透過像であって、前記培養プレート中の各々のウェルに含まれる培養液中の前記細菌または真菌の顕微鏡観察画像を繰り返し取得し、
前記濁度測定光学系は、前記培養プレートの各ウェルに保持された培養液中に含まれる細菌懸濁液の濁度測定し、
前記プロセッサは、
前記繰り返し取得した前記細菌または真菌の顕微鏡観察画像から、前記細菌または真菌の同定検査または薬剤感受性検査の判定を行うことにより、第1の同定検査または薬剤感受性検査の結果を取得し、
濁度測定から前記細菌または真菌の薬剤感受性検査の判定を行うことにより、第2の同定検査または薬剤感受性検査結果を取得し、
前記第1および第2の同定検査または薬剤感受性検査の結果と、予めデータベースに格納されているデータとに基づいて、最終的な同定検査または薬剤感受性検査の判定を行うことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記温調部は、前記培養プレートの各ウェルに保持された培養液中で前記細菌または真菌の培養を行い、
前記顕微鏡観察光学系は、前記培養プレートの各ウェルに保持された培養液中に含まれる細菌懸濁液を顕微鏡観察し、前記細菌または真菌の同定検査または薬剤感受性検査を可能とすることを特徴とする検査装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記プロセッサは、前記第1および第2の同定検査または薬剤感受性検査の結果と、予めデータベースに格納されているデータとを比較することにより、最終的な同定検査または薬剤感受性検査の判定を行うことを特徴とする検査装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記温調部は、前記培養プレートの各ウェルに保持された培養液中で前記細菌または真菌の培養を行い、
前記顕微鏡観察光学系は、前記培養プレートの各ウェルに保持された培養液中に含まれる細菌懸濁液を顕微鏡観察し、第1の同定検査または薬剤感受性検査を可能とし、
前記濁度測定光学系は、前記培養プレートの各ウェルに保持された培養液中に含まれる細菌懸濁液の濁度測定し、第2の同定検査または薬剤感受性検査を可能とすることを特徴とする検査装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記プロセッサは、前記細菌または真菌の分裂の様子を前記顕微鏡光学系によって観察して得られた画像と、前記データベースに格納されている画像とを比較してマッチングを取り、前記細菌または真菌の同定検査または薬剤感受性検査の判定を行うことを特徴とする検査装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記プロセッサは、前記細菌または真菌の各個体に由来する特徴量を前記データベースの画像から抽出した前記細菌または真菌の各個体に由来する特徴量と比較することにより、前記細菌または真菌の同定検査または薬剤感受性検査の判定を行うことを特徴とする検査装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記濁度測定光学系を前記顕微鏡観察光学系とは独立した構成として有し、
前記搬送機構は、前記培養プレートを、前記温調部と前記顕微鏡観察光学系との間、および前記温調部と前記濁度測定光学系との間で搬送し、
1つの光源から発せられた光から前記培養プレートの異なるウェルに対して顕微鏡観察と濁度測定を同時に行うことを特徴とする検査装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記濁度測定光学系と前記顕微鏡観察光学系において、光源から前記培養プレートまでの光路が共通化され、前記培養プレートを透過した光を分光する光学素子が設けられ、
1つの光源から発せられた光から前記培養プレートの異なるウェルに対して顕微鏡観察と濁度測定を同時に行うことを特徴とする検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置に関し、例えば、細菌または真菌の同定検査および薬剤感受性の検査に用いる検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症患者に対する抗生物質の濫用により薬剤耐性菌の割合が増加し、それに伴い院内感染の発生件数も増加傾向にある。しかし、利益率の低下のため新規抗生物質の開発は減少傾向にあり、米FDAで認可された抗生物質の種類は年々減少している。そのため、感染症発生時にその起因菌の菌種同定検査及び薬剤感受性検査を実施し、抗生物質を適切に使用することによって、患者の早期回復、院内感染の拡大防止、さらに薬剤耐性菌の出現を抑制することは、極めて重要となっている。
【0003】
病院の細菌検査室で通常実施されている検査方法では、感染症起因菌を培養し、その増殖の有無から菌種の同定と薬剤感受性を判定する。まず、患者から血液、咽頭ぬぐい液、喀痰などの検体を採取し、感染起因菌を単独コロニーで得るための分離培養を1昼夜行う。単独コロニーから細菌懸濁液を調製し、同定培養や薬剤感受性検査のための培養を1昼夜行う。薬剤感受性検査の判定結果が得られ、適切な投薬が行われるには、患者からの検体採取後例えば3日目以降となる。増殖速度が遅く、長時間の培養が必要な感染起因菌においては、さらに日数を要する。
【0004】
例えば、分離培養の自動化・省力化を図るための検査装置として、培養シャーレ中の細菌コロニーの画像を取得して微生物や細胞を計測する検査装置などが開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−261260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の装置を用いる場合、判定可能になるまで細菌が増殖する必要があるため、判定に時間が掛かるという課題がある。例えば、緑膿菌のような増殖の遅い菌の場合、単独コロニーが得られてから最短でも8時間以上の培養が必要となる。また、細菌同定検査や薬剤感受性検査を行うには、分離培養後に得られる単独コロニーから細菌懸濁液を調製し、同定培養や薬剤感受性検査のための培養を1昼夜行う必要がある。培養を行った結果、細菌が増殖する条件では細菌が分裂し、培養液の濁度が増加する。濁度が増加したかどうかで細菌が増殖したかどうかを判定するため、細菌一つ一つの形状を判定に利用することはできない。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、細菌同定や薬剤感受性の判定の迅速化を可能とするための技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、細菌同定培養や薬剤感受性検査のための培養液を顕微鏡観察することによって細菌が増殖したかどうかを判定する構成を提供する。
【0009】
より具体的には、本発明による検査装置は、細菌または真菌の同定検査や薬剤感受性検査を行う検査装置であって、複数のウェルを有し、各ウェルに細菌または真菌を含む培養液を保持する培養プレートを温調する温調部と、顕微鏡観察光学系と、培養プレートを、温調部と前記顕微鏡観察光学系との間で搬送する搬送機構と、を有する。そして、顕微鏡観察光学系を用いて、培養プレート中の各々のウェルに含まれる培養液中の細菌または真菌を顕微鏡観察する。
【0010】
本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本発明の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
【0011】
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本発明の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではないことを理解する必要がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細菌同定や薬剤感受性の判定を迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態による細菌検査装置の構成例を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態による細菌検査装置の光学系の構成例を示す概略図である。
図3】本発明の実施形態による細菌検査装置の光学系の別の構成例を示す概略図である。
図4】本発明の実施形態による細菌検査装置の光学系のさらに別の構成例を示す概略図である。
図5】本発明の実施形態による細菌検査装置の別の構成例を示す概略図である。
図6】本発明の実施形態による細菌検査装置の別の構成例に用いられる顕微鏡観察光学系の構成例を示す概略図である。
図7】本発明の実施形態による細菌検査装置の別の構成例に用いられる顕微鏡観察光学系の構成例を示す概略図である。
図8】本発明の実施形態による細菌検査装置が実施するMIC判定処理を説明するためのフローチャートである。
図9】本発明の実施形態による細菌検査装置による画像比較の概念を示す図である。
図10】細菌検査装置による感受性検査(実施例1)を行って得られた画像の例1である。
図11】細菌検査装置による感受性検査(実施例1)を行って得られた画像の例2である。
図12】細菌検査装置による感受性検査(実施例1)を行って得られた画像の例3である。
図13】細菌検査装置による感受性検査(実施例1)を行って得られた画像の例4である。
図14】細菌検査装置による感受性検査(実施例1)を行って得られた細菌の増殖の様子を示すグラフである。
図15】細菌検査装置による感受性検査(実施例1)を行って得られた細菌の増殖の様子を示すグラフである。
図16】細菌検査装置による感受性検査(実施例2)を行って得られた画像の例1である。
図17】細菌検査装置による感受性検査(実施例2)を行って得られた画像の例2である。
図18】細菌検査装置による感受性検査(実施例2)を行って得られた画像の例3である。
図19】細菌検査装置による感受性検査(実施例2)を行って得られた細菌の増殖の様子を示すグラフである。
図20】細菌検査装置による感受性検査(実施例3)を行って得られた画像の例1である。
図21】細菌検査装置による感受性検査(実施例3)を行って得られた画像の例2である。
図22】細菌検査装置による感受性検査(実施例3)を行って得られた細菌の顕微鏡観察画像から細菌の特徴量を抽出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0015】
本実施形態では、当業者が本発明を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本発明の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0016】
なお、以下では細菌を検査対象として実施形態及び実施例を説明しているが、これに限られず、真菌を検査対象としても良い。
【0017】
<検査装置の構成>
図1は、本発明の実施形態による細菌検査装置(以下、「菌検査装置」或いは「検査装置」と呼ぶ場合もある)10の概略構成を示す図である。細菌検査装置10は、カバー11と、載置台12と、顕微鏡観察光学系及び濁度測定光学系13と、温調16と、培養プレート(マイクロプレート)18を搬送するためのグリッパ17と、グリッパ17の移動及び位置決めを制御する駆動制御装置19と、を備えている。また、細菌検査装置10は、処理条件や生物学的試料に関する情報、抗菌剤の種類や濃度に関する情報、患者検体に関する情報、その他の各種情報を入力するためのコンピュータ(プロセッサ)20を備えている。
【0018】
細菌検査装置10を用いて行う検査は細菌または真菌の同定検査あるいは薬剤感受性検査である。ここで同定検査とは、細菌または真菌を溶液組成の異なる培養液で培養し、どの条件で増殖したかによって細菌または真菌を同定する検査を意味する。また、薬剤感受性検査とは、様々な抗菌薬を所定の濃度で含む培養液で培養し、どの条件で増殖したかによって細菌または真菌が薬剤耐性を持つかを検査すること、あるいは、細菌や真菌の最小発育阻止濃度MIC(Minimum Inhibitory Concentration)を判定する検査(MIC判定)を意味する。
【0019】
本発明の検査装置を用いて検査を行う細菌の対象は、特に制限されないが、例えば、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎球菌、大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌などが挙げられる。
【0020】
本発明の検査装置を用いて検査を行う際には、臨床検体から分離培養によって得られた単独コロニーを用いて細菌懸濁液を調製することが多いが、臨床検体にコンタミネーションの可能性が低く単独の細菌を含む場合には細菌懸濁液を調整せず、検体をそのままあるいは適宜希釈して使用しても良い。
【0021】
本発明の検査装置を用いて検査を行う際には、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute, Wayne, P.A)で推奨されている方法に従って検体を採取、運搬し、分離培養を行うことが望ましい。抗菌薬の調製や培地の調製も同様であるが、これに限るものではない。また、培養温度や使用する培養液についても同様にCLSIで推奨されている方法に基づくことが望ましいが、これに限るものではない。
【0022】
本発明の実施形態による検査装置を用いて検査を行う際には、培養プレート18に検体から調製した細菌懸濁液と培養液を混ぜ合わせて培養を行う。同定検査を行う場合には、培養プレート18中の各々のウェルの培養液は異なる組成になっている。また、薬剤感受性検査を行う場合には、各々のウェルの培養液にはそれぞれ異なる抗菌剤が特定の濃度で含まれるように設定されている。なお、培養プレート18の一部のウェルには同定検査用として異なる組成の培養液を入れ、別の一部のウェルには薬剤感受性検査用として異なる抗菌剤が特定の濃度で含まれるように設定した培養プレートを用いて同定検査と薬剤感受性検査を同時に実行しても良い。
【0023】
培養プレート18に細菌懸濁液を導入した後、各々のウェルに含まれる培養液と混ぜ合わせた状態で温調16を35℃程度に設定し、培養プレート18の各々のウェルが設定した温度付近になるようにインキュベーションして培養を行う。そして、インキュベーションしながら各々のウェルに含まれる細菌を顕微鏡観察光学系によりモニタする。顕微鏡観察(モニタ)は、インキュベーション開始から終了までの間、設定した時間で行い、細菌増殖の様子を連続的にモニタしても良いし、適切な時間を設定してその設定時間ごとにモニタを行い、インキュベーション開始時のモニタ結果と比較できるようにしても良い。また、従来の細菌検査装置と同様に培養プレート18をインキュベーションしながら各々のウェルの濁度を濁度測定光学系により計測して、顕微鏡観察光学系のモニタ結果と比較しても良い。
【0024】
顕微鏡観察の結果得られる画像や濁度測定の結果得られるデータは、制御用PCに格納、保存され、細菌同定やMIC判定等に利用される。検査で得られた画像は、これまでの検査で得られた画像や濁度データのデータベース(DB)と比較され、MIC判定が行われる。また、新たに得られた画像は、細菌種や抗菌剤濃度などの情報とともに制御用PCのDBに追加するようにしても良い。さらに、顕微鏡観察で得られた画像から判定したMICと、濁度測定のデータから判定したMICを総合的に判断して最終的なMICを算出することも可能である。つまり、顕微鏡観察によってMIC判定が一旦なされた場合(通常の濁度測定が可能となる時間よりも短い所定時間が経過した後に細菌増殖が抑えられた、或いは細菌を死滅させることに成功した場合)、最終的なMICが得られるか確認するために、濁度測定を行うようにしても良い。また、この場合、顕微鏡観察によって細菌増殖が抑えられないと判明した場合には、濁度測定によるMIC判定は行わないようにしても良い。これにより、発育阻止が不可であることが迅速に判るようになり(濁度測定の対象から外すことが迅速に判断可能となる)、MIC判定の効率化を図ることができる。
【0025】
インキュベーションの際、培養プレート18は温調16の付近に配置され、培養プレート18の各々のウェル内の培養液の温度が35℃程度になるように温調されている。顕微鏡観察を行う際や濁度測定を行う際には、グリッパ17が培養プレート18を温調16から顕微鏡観察光学系及び濁度測定光学系13に移動させて、観察及び測定を行うことができるようになっている。
【0026】
また、図示しないが、培養プレート18として一般的なマイクロプレートでなく、流路中に培養液を封入するようなデバイスを用いても良い。例えば、マイクロプレートのウェルに相当する培養液保持部を有する樹脂製のデバイスに培養液と細菌懸濁液を導入して細菌同定検査や薬剤感受性検査を実施するようなこともある。本発明の実施形態においても同様に、デバイス中に抗菌剤を含む培養液と細菌懸濁液を導入し、両側を透明な樹脂やガラスで覆うことで顕微鏡観察や実施できる。このため、流路中に培養液を封入するようなデバイスを本発明の実施形態による検査装置で使用することもできる。
【0027】
なお、上述のデータベースは、コンピュータ20内に設けられても良いし、検査装置10の外部のストレージデバイスに設けても良い。また、データベースは検査装置10と物理的に同一の場所になくても良く、検査装置10とネットワークを介して接続されるような構成であっても良い。
【0028】
<光学系の構成例>
(1)光学系の構成例
図2は、細菌検査装置10で用いられる顕微鏡観察光学系および濁度測定光学系の一構成例を示す模式図である。図2において、培養プレート18は、光源22からの光によって照射される。光源22は白色光源でも、ある波長領域にスペクトルをもつLEDなどの光源でも良く、フィルタ23によって適切な波長領域に調節される。顕微鏡観察を行う際には波長は特に限定する必要はないが、濁度測定を行う際には波長は600nm近傍の波長で培養プレート18を照射するように不要な波長領域はフィルタ23でカットされる。
【0029】
顕微鏡観察の場合、光源22からの光はダイクロイックミラー24と対物レンズ25を経て培養プレート18を照射する。培養プレート18からの散乱光は、対物レンズ25を通してCCD素子27で測定され、顕微鏡観察画像が取得される。
【0030】
濁度測定の場合、光源22からの光は、ダイクロイックミラー24によって濁度測定用の光は対物レンズ25を通り培養プレート18を照射する。照射された光の一部が培養プレート18を透過し、当該プレート18の上方に設置されたフォトダイオード26によって透過光が測定される。一方、ダイクロイックミラー24を通過した光は、光源22と反対側に設置されたフォトダイオード26’によって測定される。定法に従い、2つのフォトダイオード26及び26’で測定された光量から濁度を算出することができる。
【0031】
(2)光学系の別の構成例
図3は、細菌検査装置10で得られる顕微鏡観察光学系および濁度測定光学系の別の構成例を示す模式図である。図2では培養プレート18に対して光源22が下に位置していた例が示されたが、図3では培養プレート18に対して光源32が上に位置する例が示されている。
【0032】
顕微鏡観察の場合、光源32からの光はフィルタ33とダイクロイックミラー34を経て培養プレート18を照射する。培養プレート18を透過した光は、対物レンズ35を通過し、CCD素子37で測定され、顕微鏡画像が取得される。
【0033】
濁度測定の場合、光源32からの光は、フィルタ33を経て、ダイクロイックミラー34で一部が反射され、培養プレート18を照射する。培養プレート18を透過した光の一部が、ダイクロイックミラー34’及びミラー38で反射され、培養プレート18の下方に設置されたフォトダイオード36’によって測定される。
【0034】
図3では培養プレート18の下方にダイクロイックミラー34’とミラー38を配置してフォトダイオード36’で測定しているが、対物レンズ35及びCCD素子37の位置と、フォトダイオード36’の位置をXYZステージによって動かして測定しても良い。
【0035】
なお、ダイクロイックミラー34を通過する光と、さらにダイクロイックミラー34’を反射する光の強度は後者の方が弱い。このため、濁度測定開始前(プレート18に細菌を導入する前)に、培養プレート18に水を入れ、光源32からの光をフォトダイオード36及び36’で測定し、それら2つの測定値(濁度)が一致するように予め補正しておく必要がある。
【0036】
(3)光学系のさらに別の構成例
図4に示すように、培養プレート18の異なるウェルに対して顕微鏡観察と濁度測定を行ってもよい。図4では、培養プレート18の上に複数の光源42及び42’を設置し、片方の光源42で顕微鏡観察を行い、もう片方の光源42’で濁度測定を行う構成例が示されている。
【0037】
片方の光源42’からの光は培養プレート18を照射し、透過光が対物レンズ45を通り、CCD素子47で測定され、顕微鏡画像が取得される。もう片方の光源42’からの光は培養プレート18を照射し、透過光が培養プレート18の下方に設置されたフォトダイオード46によって測定される。
【0038】
図4に示す光学系を用いた場合、マイクロプレート(培養プレート18)のある各ウェルに対して顕微鏡観察を行う間に、別のウェルに対して濁度測定を行うことが可能となる。よって、マイクロプレート中のウェルを測定するための光学系のスキャン回数を減らすことができる。また、顕微鏡観察の光学系と濁度測定の光学系をスキャンする場合は、2つの光学系を1つの機構で保持することで装置の簡略化が可能となる。逆にマイクロプレートの位置をずらして測定を行う場合には、顕微鏡観察の光学系と濁度測定の光学系をマイクロプレートのウェルの間隔にうまく合致するように配置することで、複数のウェルの同時測定が可能となる。
【0039】
<別の形態による検査装置の構成>
図5は、本発明の実施形態による細菌検査装置10’の概略構成を示す模式図である。具体的には、細菌検査装置10’は、カバー11と、載置台12と、顕微鏡観察光学系14と、濁度測定光学系15と、温調16と、培養プレート18を搬送するためのグリッパ17と、グリッパ17の移動および位置決めを制御する駆動制御装置19と、を備えている。さらに、細菌検査装置10’は、処理条件や生物学的試料に関する情報、抗菌等の種類や濃度に関する情報、患者検体に関する情報やその他各種情報を入力するためのコンピュータ20を備えている。
【0040】
図5による検査装置10’を用いて検査を行う際には、培養プレート18に細菌懸濁液を導入し、各々のウェルに含まれる培養液と混ぜ合わせる。そして、温調16を適切な温度に設定し、培養プレート18の各々のウェルに含まれる培養液中の細菌が増殖する状態にする。培養しながらグリッパ17で培養プレート18を顕微鏡観察光学系14に移動させて各々のウェルに含まれる細菌を顕微鏡観察光学系14で観察して、細菌が増殖しているかどうかを検出する。また、グリッパ17で培養プレート18を濁度測定光学系15に移動させて各々のウェルの培養液の濁度を測定する。顕微鏡観察と濁度測定はPC20に入力した適切な時間に行い、駆動制御装置19によってグリッパ17は培養プレート18を適切な位置に移動させる。顕微鏡観察の結果得られるデータや濁度測定の結果得られるデータは、制御用PCに格納、保存され、細菌同定やMIC判定に利用される。
【0041】
<光学系の構成>
図6及び7は、それぞれ本発明の別の実施形態による細菌検査装置10’で用いられる顕微鏡観察光学系及び濁度測定光学系の構成例を示す模式図である。
【0042】
図6において、培養プレート18は、光源62からの光によって照射される。光源からの光は、フィルタ63で適切な強度や波長の光に調節され、ダイクロイックミラー(或いは、単なるミラー)64によって反射され、培養プレート18を照射する。そして、培養プレート18を透過した光は、培養プレート18の下方に設置した対物レンズ65を通してCCD素子67で測定され、画像が取得される。
【0043】
図7において、培養プレート18は、光源72からの光によって照射される。光源72からの光は、フィルタ73で適切な強度や波長に調節される。ダイクロイックミラー74によって反射された濁度測定用の光は、培養プレート18を照射し、培養プレート18の下方に設置した対物レンズ75を経てフォトダイオード76’によって測定される。一方、ダイクロイックミラー74を通過した光は、光源72と反対側に設置されたフォトダイオード76によって測定される。2つのフォトダイオード76及び76’で測定された光量から濁度が算出される。
【0044】
<MIC判定処理>
図8は、本発明の実施形態による細菌検査装置10或いは細菌検査装置10’によって実行されるMIC判定処理を説明するためのフローチャートである。実際、ステップ801乃至804まではオペレータによって行われる作業であり、S805乃至S813が細菌検査装置10のコンピュータ(プロセッサ)20によって実行されるステップとなっている。
【0045】
(i)ステップ801乃至803:オペレータは、検査装置10に導入する検体となる細菌懸濁液を調製し(S801)、培養プレートに導入(S802)してから細菌検査装置に導入する(S803)。
【0046】
(ii)ステップ804:オペレータは、検査装置10に対して検体情報や抗菌剤の情報等、必要な情報を入力して検査の開始を指示する。すると、検査装置10は、装置内に導入された培養プレート18を35℃程度にインキュベートして培養を行う。
【0047】
(iii)ステップ805:コンピュータ20は、光学系13に含まれる顕微鏡光学系(図1)或いは顕微鏡光学系14(図15)を用いて、予め設定した時間(例えば、所定時間おきなど)に培養プレートのウェルを顕微鏡観察して画像を取得する。
【0048】
(iv)ステップ806及び807:コンピュータ20は、ステップ805で取得した画像に必要な処理を実施し(S806)、顕微鏡によって取得した画像データからMICの判定を試みる(S807)。
【0049】
(v)ステップ808及び809:コンピュータ20は、光学系13に含まれる濁度測定光学系或いは濁度測定光学系15を用いて、培養プレート18の各ウェルの濁度測定を行い(S808)、濁度データが所定の閾値を超えているか否かを判断し、MICの判定を試みる(S809)。
【0050】
(vi)ステップ810:コンピュータ20は、データベース(図9参照)中の画像情報や濁度の情報と、取得した画像情報や測定した濁度情報とを比較してマッチング処理を行い、MICの判定を試みる。
【0051】
(vii)ステップ811:コンピュータ20は、MIC判定ができるまで最近の増殖が進んでいるか、つまりインキュベートを継続するか判定する。MICが判定できるまで細菌の増殖が進んでいない場合(S811でYesの場合)、処理はステップ812に移行する。インキュベートを継続する必要がない場合(S811でNoの場合)、処理はステップ813に移行する。
【0052】
(viii)ステップ812:コンピュータ20は、検査開始から所定時間(例えば6時間)経過したか判断する。所定時間経過した場合(S812でYesの場合)、処理はステップ808に移行し、濁度測定が再度行われる。所定時間経過していない場合(S812でNoの場合)、処理はステップ805に移行し、インキュベーションが継続され、画像取得からの処理が繰り返される。
【0053】
(ix)ステップ813:培養プレートに含まれる抗菌剤について、MIC判定が完了した場合、もしくはMICが判定可能な抗菌剤についての処理が完了し、残りの抗菌剤については判定が困難(発育阻止不可)であると判断された場合には、コンピュータ20は、画像から判定したMIC(発育阻止不可の判定結果は含まず)と、濁度から判定したMICと、データベースに蓄積されたデータと、を比較し、最終的なMICを決定し、検査を終了させる。また、画像から発育阻止不可であると判定された場合には、データベースとの比較は行われず、検査は終了する。
【0054】
(x)その他:MIC判定処理は、培養プレートごとに設定された条件に基づいて自動的に実行される。細菌検査装置10或いは10’には複数の培養プレートが同時に設置できるが、培養プレートごとに条件を変更してもよいし、同じ条件で実施してもよい。また、画像のみからMIC判定を行ったり、濁度のみからMIC判定を行ったりするなどの条件を設定しても良いし、データベースとの比較を必ず実施するなどの条件を設定しても良い。
【0055】
<画像比較について>
図9は、取得した画像とデータベースの画像との比較の概念を示す図である。薬剤感受性検査では、検査対象の細菌に対して、抗菌剤の種類と濃度を変更した条件で培養を行い、細菌が増殖可能かどうかを検査してMICを決定する。データベースには細菌の種類ごとに、特定の抗菌剤の種類と濃度で培養した場合の細菌の画像が格納されている。細菌の種類が同じであっても株が違うと薬剤に対する感受性が異なるため、抗菌剤の種類と濃度の条件でデータベースに格納されている複数の画像から、取得した検査対象の画像と類似している画像と比較を行いMICの決定を行う。また、ある抗菌剤に関し、様々な濃度について、データベースの画像と検査対象の画像とで比較を行うため正確なMICの決定ができる。例えば、図17(b)に示すように、細菌が伸張化している状態であれば抗菌剤の効果が現れていることは判るが、結局、細菌を死滅させるには至っていないということが判明する(図17(c)参照)。このため、MICはこの濃度よりも高くなることが推察される。
【0056】
また、画像同士を比較するのではなく、画像中に存在する細菌数、画像中に存在する細菌の面積(画像中のピクセル数から判明)、細菌の円形度、アスペクト比、周囲長など画像から抽出した特徴量を比較して細菌の同定や薬剤感受性を判定してもよい。データベースに格納している画像から、細菌の平均面積や円形度、アスペクト比、周囲長などの特徴量を抽出しておき、検査で取得した画像からこれらの特徴量を抽出して、特徴量同士を比較することでMIC判定を行う。制御PCに含まれるデータ量が膨大な場合には、画像データベースや様々な細菌の特徴量のデータをサーバに格納して、MIC判定の際にアクセスして比較を行う形態であっても良い。これら顕微鏡観察によって得られた情報を利用してMICを決定できるため、濁度測定の結果からだけでなく、画像からもMICを決定でき、より正確な決定が可能となる。
【0057】
<実施例1>
図10乃至13は、本発明を適用することによって得られた結果を示す図である。図10乃至13は、本発明の実施形態による細菌検査装置10を用いて、腸球菌(Enteroccoas faecalis, ATCC29212)のレボフロキサシンに対する感受性検査を行い、得られた画像を示したものである。図10は、レボフロキサシンを含まないミューラーヒントン培地での細菌の様子を培養開始から(a)0分、(b)90分、(c)150分、(d)210分に撮影した画像である。同様に図11は、0.5μg/mLのレボフロキサシンを含む培養液中、図12は、1.0μg/mLを含む培養液中、図13は、2.0μg/mLのレボフロキサシンを含む培養液中での腸球菌の画像である。図10乃至13において白っぽく見える対象物が腸球菌である。
【0058】
図10および11では、培養開始から時間が経過するにつれて腸球菌が増殖して連鎖状に分裂していく様子が観察できた。一方、図12及び13では、各図(c)(150分後)まではある程度腸球菌は分裂したが、それ以降はほとんど分裂しない様子が観察できた。
【0059】
図14は、腸球菌が増殖する様子をプロットしたグラフである。図14は、図10〜13の画像から腸球菌の面積を算出し、培養開始からの時間ごとに腸球菌の面積をプロットしたグラフである。グラフ(i)及び(ii)が示す、レボフロキサシン濃度が0および0.5μg/mLの場合は、時間が経過するとともに画像中の腸球菌の面積が増加していくことが確認された。一方、グラフ(iii)及び(iv)が示す、レボフロキサシン濃度が1および2μg/mLの場合、腸球菌は150分後程度まではわずかに増加したが、それ以降は増加しなかった。このグラフから使用した腸球菌の株のレボフロキサシンに対するMIC(最小発育阻止濃度)は、1μg/mLであることが判明した。
【0060】
図15は、図10、つまりレボフロキサシンを含まない腸球菌を入れたウェルの培養液の濁度を本発明の細菌検査装置10で測定した結果を示すグラフである。図15(a)は、培養開始から7時間程度までの濁度変化を示すグラフであり、図15(b)は、図15(a)の拡大図である。図15のグラフから培養開始から6時間程度で濁度が増加し始めていることが確認された。なお、従来の細菌検査装置では濁度がおよそ0.1(閾値)以上になると細菌が繁殖したと判定されるため、7時間ではまだ判定できないことがわかる。従来法では少なくとも12時間程度の培養が必要であるが、本発明では3時間程度の培養で判定可能であることが確認できた。
【0061】
<実施例2>
図16乃至18は、大腸菌(E coli, ATCC25922)のアンピシリンに対する感受性検査を本発明の細菌検査装置を用いて行った結果を示す図である。図16乃至18はそれぞれ、アンピシリンを0、2、16μg/mLの濃度で含むミューラーヒントン培地で培養し、培養開始から(a)0時間後、(b)3時間後、(c)24時間後に撮影した顕微鏡画像にソーベルフィルタなどの画像処理を行い二値化して得られた画像である。図16乃至18で黒く見える対象物が大腸菌であり、図16において(a)培養開始直後には少なかった大腸菌が(b)3時間後で増殖し、(c)24時間後には画像中ほぼ全ての領域に広がっていることが確認できた。
【0062】
図17においては、アンピシリンの作用によって(a)培養開始直後には通常の形状であった細菌が(b)3時間後には伸張化していることが確認できた。また、(c)24時間後には画像中ほぼ全ての領域に大腸菌が広がっていることが確認できた。図17(b)は本発明の細菌検査装置によってアンピシリンによる細胞壁合成阻害作用による大腸菌の形状変化を観察できることを示しており、細胞壁合成のうちの隔壁合成が阻害されたために、大腸菌が分裂できずに伸張化したものである。しかし、図17(c)から分かるように、2μg/mLの濃度では殺菌には至らずに24時間後に大腸菌が増殖したことが確認できた。
【0063】
図18においては、アンピシリンの濃度が16μg/mLと高いために細胞壁合成のうち隔壁の合成だけでなく側壁の合成も阻害されて、伸張化することなく細菌が増殖しなかったことが確認できた。
【0064】
図19は、図16乃至18の画像中の大腸菌の面積を算出し、時間ごとにプロットしたグラフである。グラフ中(i)および(ii)が示す、アンピシリン濃度が0および2μg/mLの場合は、時間が経過するとともに画像中の大腸菌の面積が増加していくことが確認できた。一方、グラフ(iii)が示すアンピシリン濃度が16μg/mLでは、大腸菌はアンピシリンの作用によって分裂できず、面積もほとんど増加しなかった。このように画像中の細菌の面積の変化をモニタして作成したグラフから使用した大腸菌のアンピシリンに対するMICを求めることが可能であった。従来、1晩の培養が必要であった薬剤感受性装置が本発明の細菌検査装置により、短時間で実施できることが確認できた。
【0065】
<実施例3>
図20及び21は、大腸菌(E coli, ATCC35218)のセファゾリンに対する感受性検査を本発明の細菌検査装置を用いて行った結果を示す図である。図20(a)乃至(d)は、それぞれセファゾリンを0、0.5、1、2μg/mLの濃度で含むミューラーヒントン培地で培養し、培養開始から3時間後に撮影した顕微鏡画像である。画像中にうっすらと見える対象物が細菌である。図21(a)乃至(d)は、それぞれ図20(a)乃至(d)に画像処理を行ってエッジ検出を行い、その後二値化して得られた画像である。図21で黒く見える対象物が大腸菌であり、図21において(a)セファゾリンを含まない培地、あるいは(b)セファゾリン0.5μg/mLの濃度で含む培地では、大腸菌が3時間後に増殖していることが確認できた。一方、図21(c)及び(d)では、大腸菌が3時間後にあまり増殖せず、伸張化していることが確認できた。
【0066】
図22は、図20の画像から細菌の特徴量を抽出して得られたグラフである。図22(a)は、顕微鏡画像中での細菌の数を示すグラフである。抗菌剤なし、あるいはセファゾリン0.5μg/mLの濃度では細菌の数が増殖によって増加しているのに対し、セファゾリン1μg/mLもしくは2μg/mLの濃度ではあまり増殖していないことが確認できた。図22(b)は、顕微鏡画像中での細菌の面積を示すグラフである。図22(c)は、図22(a)と図22(b)から求めた細菌1つあたりの面積の平均値を示すグラフである。細菌1つあたりの面積の平均値は、抗菌剤なしの面積に比較してセファゾリン0.5μg/mLの濃度で面積が増加し、1、2μg/mLの濃度で細菌1つあたり面積がさらに増加していることが確認できた。これは、図21からも確認できるように、細菌がセファゾリンの作用によって伸張化していることを示している。図22(d)乃至(f)は、それぞれ細菌1つあたりの周囲長、円形度、Solidity(どれだけ円形に近い形状かを示す指標)を表すグラフである。細菌が伸張したことによって、図22(d)では周囲長が増加したこと、図22(e)では4π×面積/(周囲長)^2で定義される円形度が低下したこと、図22(f)では面積/凸面積で定義されるSolidityが低下したことが確認できた。
【0067】
従って、抗菌剤の作用によって、細菌数は増加しないものの、細菌が伸張化した場合には細菌の面積が増加するという現象を確認できた。これらの情報は従来の濁度測定では得られない情報であり、これらの情報を付加してMIC判定に利用することでより高精度にMIC判定を行うことが可能となる。
【0068】
<まとめ>
本発明の実施形態による検査装置は、(i)細菌同定培養や薬剤感受性検査のための培養プレートの各々のウェルの顕微鏡観察を行うための光源と、ミラーと、対物レンズと、画像を取得するためのCCDとを有する顕微鏡観察光学系と、(ii)培養プレートの各々のウェルの吸光度を測定するための光源と、ミラーと、フォトダイオードとを有する濁度測定光学系と、(iii)各々のウェルを観察あるいは測定するために培養プレートの位置を変更するためのXYZステージと、(iv)温度調節機能と、を有している。ここで、顕微鏡観察のための光源やミラーは、吸光度測定のための光源やミラーと同一であっても良いし、別々に設置しても良い。光源とミラーとの間に適切なバンドパスフィルタを設置することで濁度(波長600nm付近の吸光度)を測定することができ、バンドパスフィルタを別のフィルタに切替えることで白色光での顕微鏡観察が可能となる。また、顕微鏡観察画像を取得するCCD、あるいは吸光度測定用のフォトダイオードの前にミラーを設置し、それぞれの測定の際にミラーを切替えても良い。
【0069】
XYZステージ上に培養プレートを設置し、35℃程度で温調しながら培養を行い、設定した時間にXYZステージを動作させて、培養プレートの各々のウェルの様子を観察する。XYZステージの制御や、バンドパスフィルタの切替えや、ミラーを切替えや、温調の設定などは検査装置に設蔵した制御用PCで条件を設定して制御を行う。また、培養プレート中のウェル観察を行うタイミングや吸光度測定を行うタイミングの設定や、結果の記録も制御用PCで行う。
【0070】
この検査装置で培養を行いながらウェル中の細菌の形状や数を顕微鏡観察したり、ウェル中の培養液の濁度を測定する。顕微鏡観察の結果からどのウェルで細菌が増殖するかどうかを判定し、細菌が増殖したウェルの組み合わせから細菌の種類や属を同定したり、薬剤感受性を判定する。濁度測定の結果からも、どのウェルで細菌が増殖したかどうかを判定し、細菌が増殖したウェルの組み合わせから細菌の種類や属を同定したり、薬剤感受性を判定する。制御PCに格納されているデータベース(どのウェルの組み合わせで細菌が増殖するか、どの薬剤で細菌の増殖が阻止されるか、といった情報が格納されたデータベース)の画像情報や、画像中に存在する細菌数、画像中に存在する細菌の面積、細菌の円形度、アスペクト比、周囲長など画像情報から抽出した特徴量を比較して細菌の同定や薬剤感受性を判定することが可能となる。データベースに含まれるデータ量が膨大な場合にはサーバ化して、MIC判定の際にアクセスして比較を行う形態であっても良い。
【0071】
本発明の実施形態による検査装置を用いることにより、培養プレート中の各々のウェル中の細菌を顕微鏡観察し、なおかつ各々のウェルに入っている培養液の濁度を測定することが可能となる。従来の細菌検査装置は培養液の濁度を測定することで細菌の増殖をモニタしているが、細菌の増殖に伴って培養液の濁度が増加し始めるには培養開始から5〜6時間程度かかる。薬剤感受性検査では使用する培養液や細菌の量が定められており、吸光度測定によって検査時間を短縮することは容易ではない。一般的に、細菌が分裂して培養液の濁度が増加する濃度に達するまで時間は細菌の分裂速度によって決まり、その速度は通常の培養条件下では劇的に変化しないためである。
【0072】
しかし、20倍程度の倍率の対物レンズを用いて顕微鏡観察することによって細菌の分裂の様子をモニタでき、細菌1つ1つが分裂しているかどうかを判定することができる。従って、誘導期(lag phase)から対数期(log phase)になると、細菌が分裂しているかどうかを判定できるようになる。一般的に30分〜3時間以内に細菌の増殖曲線は誘導期から対数期になるため、濁度による判定よりも早く細菌が増殖するかどうかを判定可能となる。
【0073】
また、顕微鏡観察によって細菌の形状変化を画像として認識できるため、薬剤感受性判定では抗菌剤の作用によって細菌が伸張化したり球形化したりするといった細菌形状に関する情報が得ることが可能になる。βラクタム系の抗菌剤は一般的に桿菌に作用すると伸張化することが知られている。このような細菌形状の変化を利用して薬剤感受性の判定を高精度化することが可能となる。どの種類の細菌に対してどの抗菌剤を作用させると細菌の形状が変化するという情報を予めデータベースに格納しておき、検査で得られた画像と比較することで薬剤感受性の判定の確度を向上させることが可能となる。
【0074】
細菌の薬剤感受性検査では、種々の抗菌剤を様々な濃度で含む培養液を培養プレートの各々のウェルに入れ、そこで検査対象の細菌を培養する。どのウェルで細菌が増殖したかどうかを早く判定できるため、薬剤感受性検査を迅速化することが可能となる。細菌同定検査においても種々の培養液を培養プレートの各々のウェルに入れ、そこで検査対象の細菌を培養する。どのウェルで細菌が増殖したかによって細菌が同定されるが、細菌増殖の有無を早く判定できるため、細菌同定検査の迅速化も可能である。
【0075】
本発明は、実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0076】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0077】
さらに、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することにより、それをシステム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD−RW、CD−R等の記憶媒体に格納し、使用時にそのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしても良い。
【0078】
最後に、ここで述べたプロセス及び技術は本質的に如何なる特定の装置に関連することはなく、コンポーネントの如何なる相応しい組み合わせによってでも実装できることを理解する必要がある。更に、汎用目的の多様なタイプのデバイスがここで記述した教授に従って使用可能である。ここで述べた方法のステップを実行するのに、専用の装置を構築するのが有益であることが判るかもしれない。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。本発明は、具体例に関連して記述したが、これらは、すべての観点に於いて限定の為ではなく説明の為である。本分野にスキルのある者には、本発明を実施するのに相応しいハードウェア、ソフトウェア、及びファームウエアの多数の組み合わせがあることが解るであろう。例えば、記述したソフトウェアは、アセンブラ、C/C++、perl、Shell、PHP、Java(登録商標)等の広範囲のプログラム又はスクリプト言語で実装できる。
【0079】
さらに、上述の実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていても良い。
【符号の説明】
【0080】
10、10’…検査装置、11…カバー、12…裁置台、13…光学系(顕微鏡観察光学系および濁度測定光学系)、14…顕微鏡観察光学系、15…濁度測定光学系、16…温調、17…グリッパ、18…培養プレート、19…駆動制御装置、20…PC(コンピュータ)、22、32、42、42’、62、72…光源、23、33、63、73…フィルタ、24、34、34’、74…ダイクロイックミラー、38、64…ミラー、25、35、45、65、75…対物レンズ、26、26’、36、36’、46、76、76’…フォトダイオード、27、37、47、67…CCD素子、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22