(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6619701
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】受光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/02 20060101AFI20191202BHJP
【FI】
H01L31/02 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-121788(P2016-121788)
(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公開番号】特開2017-228573(P2017-228573A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2018年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 圭穂
(72)【発明者】
【氏名】中島 史人
(72)【発明者】
【氏名】村本 好史
(72)【発明者】
【氏名】三条 広明
【審査官】
小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−165804(JP,A)
【文献】
特開2011−198966(JP,A)
【文献】
特開2008−270768(JP,A)
【文献】
特開2016−062996(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0187557(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L31/00−31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトダイオード構造ならびに前記フォトダイオード構造に接続された配線および電極が作製された第1の基板であって、前記電極と電気的に接続した貫通ビアが形成されている前記第1の基板と、
前記第1の基板の、前記フォトダイオード構造ならびに前記フォトダイオード構造に接続された配線および電極が作製された面と、接着剤により接合された第2の基板とを備え、
前記第2の基板は、少なくとも前記電極および前記配線の周辺に凹部が形成され、前記凹部に前記接着剤が充填されていることを特徴とする受光素子。
【請求項2】
第1の基板の第1の面上にフォトダイオード構造ならびに前記フォトダイオード構造に接続された配線および電極を作製するステップと、
前記第1の面に第1のマーカを形成するステップと、
前記第1の面と第2の基板とを接着剤により接合するステップと、
前記第1の面と対向する前記第1の基板の第2の面にレジストを塗布するステップと、
前記レジストに第2のマーカを形成するステップと、
赤外線顕微鏡で前記第1のマーカおよび前記第2のマーカを観測することにより、前記電極と電気的に接続可能な位置に貫通ビアを形成するためのマスクを前記レジスト上に形成するステップと、
前記マスクを用いて前記第1の基板をエッチングし、前記電極と電気的に接続した貫通ビアを形成するステップと、
接合された前記第1の基板および前記第2の基板を、前記フォトダイオード構造毎に切り出してチップ化するステップと、を有し、
前記接合するステップの前に、前記第2の基板に凹部を形成するステップであって、前記第1の基板と接合されたときに少なくとも前記電極および前記配線の周辺となる位置に前記凹部を形成する、ステップをさらに有し、
前記接合するステップでは、前記凹部に前記接着剤を充填することを特徴とする受光素子の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用の受光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基幹系ネットワークを支える光通信の分野において、伝送距離の長延化のニーズは今なお高い。伝送距離の長延化に伴ってファイバロスが大きくなるため、伝送されてきた光信号を電気信号に変換する受光素子であるフォトダイオード(PD)の高感度化が重要視されている。
【0003】
PDの受光感度は主として吸収層の厚さから決まる。しかし、吸収層を厚くすると半導体内部を走るキャリアの走行時間が長くなり動作帯域が低下するという、感度と動作帯域のトレードオフがあるため、吸収層の厚さには必要とする動作帯域に対して上限が存在する。例えば、25Gbps動作のInP−APD(Avalanche Photo Diode)では、吸収層の厚さは1μm程度であり、入射光のうち約70%しか吸収することができない(非特許文献1参照)。
【0004】
そのため、同じ吸収層の厚さでより高い受光感度を実現するため、入射光のうちPDの光吸収層で吸収しきれなかった光をミラー等で反射させ、再吸収させる方法をとることが多い。
図7に、従来の反射ミラーを有する受光素子の構造を示す。この受光素子は、チップオンキャリア(Chip−on−Carrier:CoC)基板301に対してPDチップ303をフリップチップ実装し、InP基板305側から入射した光を電極部の反射ミラー304で反射させる構造をとっている(非特許文献1参照)。
【0005】
上記構造は、
図8に示すように以下のプロセスで作製される。まず、公知のエピタキシャル結晶成長技術、フォトリソグラフィおよびエッチング技術、真空蒸着技術を用いてPD構造303をInP基板305上に作製し、ダイシング等によってチップ化する(
図8(a)、(b))。
【0006】
次にフリップチップボンダーを用いて、CoC基板301に対してPDチップを個々にフリップチップ実装する。CoC基板301には、PDチップの電極パッド306に対応するようにメタル配線がパタニングされており、接合部となるパッド部にAuSn半田バンプ302が形成されている。ここでは、CoC基板301のAuSn半田バンプ302とPDチップの電極パッド306を共晶化することで接合している(
図8(c)、(d))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F. Nakajima, M. Nada, T. Yoshimatsu, “High-Speed Avalanche Photodiode and High-Sensitivity Receiver Optical Subassembly for 100-Gb/s Ethernet”, J. Lightwave Technol., Vol. 34, No. 2, (2016) p. 243-248
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術の構造(
図7)および作製方法(
図8(a)〜(c))では、PDチップを個々にCoC基板301にフリップチップ実装する必要があり、ウェハプロセスよりも効率が悪いため、製造スループットが低く、高コストであるという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ウェハ接合技術を利用して作製可能な、PDの電極を基板で挟み込む構造を備えた受光素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、受光素子であって、フォトダイオード構造ならびに前記フォトダイオード構造に接続された配線および電極が作製された第1の基板であって、前記電極と電気的に接続した貫通ビアが形成されている前記第1の基板と、前記第1の基板の、前記フォトダイオード構造ならびに前記フォトダイオード構造に接続された配線および電極が作製された面と、接着剤により接合された第2の基板
とを備え、前記第2の基板は、少なくとも前記電極および前記配線の周辺に凹部が形成され、前記凹部に前記接着剤が充填されていることを特徴とする。
【0012】
請求項
2に記載の発明は、受光素子の作製方法であって、第1の基板の第1の面上にフォトダイオード構造ならびに前記フォトダイオード構造に接続された配線および電極を作製するステップと、前記第1の面に第1のマーカを形成するステップと、前記第1の面と第2の基板とを接着剤により接合するステップと、前記第1の面と対向する前記第1の基板の第2の面にレジストを塗布するステップと、前記レジストに第2のマーカを形成するステップと、赤外線顕微鏡で前記第1のマーカおよび前記第2のマーカを観測することにより、前記電極と電気的に接続可能な位置に貫通ビアを形成するためのマスクを前記レジスト上に形成するステップと、前記マスクを用いて前記第1の基板をエッチングし、前記電極と電気的に接続した貫通ビアを形成するステップと、接合された前記第1の基板および前記第2の基板を、前記フォトダイオード構造毎に切り出してチップ化するステップと、を有
し、前記接合するステップの前に、前記第2の基板に凹部を形成するステップであって、前記第1の基板と接合されたときに少なくとも前記電極および前記配線の周辺となる位置に前記凹部を形成する、ステップをさらに有し、
前記接合するステップでは、前記凹部に前記接着剤を充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、ウェハ接合技術を利用して、反射光を利用した高感度PD構造をウェハプロセスで作製できるため、高効率化によるスループット向上、低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は、本発明の実施形態に係る受光素子の断面図であり、(b)は、InP基板上に形成されたPD構造と引出配線、電極パッドの構成を示す図である。
【
図2】(a)〜(i)は、本発明の反射ミラーを有する受光素子の作製方法を示す図である。
【
図3】本発明のPD構造が形成されたInP基板表面と貫通ビアを形成する位置を示したInP基板裏面を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る受光素子における反射光利用の概念図である。
【
図5】(a)は、本発明の実施形態2に係る受光素子の断面図であり、(b)は、InP基板上に形成されたPD構造と引出配線、電極パッドの構成を示す図であり、(c)は、Si支持基板の接着面を示す図であり、(d)は、その裏面を示す図である。
【
図6】(a)は、Si支持基板の凹部形成前の断面図であり、(b)は、その上面図であり、(c)は、Si支持基板の凹部形成後の断面図であり、(d)は、その上面図である。
【
図7】従来の反射ミラーを有する受光素子の構造を示す断面図である
【
図8】(a)〜(d)は、従来の受光素子の作製方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0018】
(実施形態1)
図1(a)に本発明の実施形態に係る受光素子の断面図を示し、
図1(b)にInP基板106上に形成されたPD構造103と引出配線109、電極パッド110の構成を示す。本実施形態に係る受光素子は、Si支持基板101、熱硬化性接着剤層102、PD構造103、PD構造103の電極部からなる反射ミラー104、パッシベーション膜105、InP基板106、無反射膜107および貫通ビア108等から成る。PD構造103の電極部は反射ミラー104を兼ねており、反射ミラー104が、InP基板106側から入射してPD構造103を透過した光を反射し、その反射光の一部をPD構造103に入射させる構造となっている。
【0019】
まず、上記構造の作製方法について
図2、3を参照しながら説明する。
【0020】
最初に半絶縁性の厚さ600μm程度のInP基板106に、公知のエピタキシャル結晶成長技術、フォトリソグラフィおよびエッチング技術、真空蒸着技術を用いて、PD構造103および引出配線109を作製する(
図2(a)、(b))。
【0021】
次に、PD構造103を形成した側のウェハ表面を熱硬化性接着剤であるベンゾシクロブテン(BCB)でスピンコートする。その後、BCBを150℃程度でプリベークし、部分的に硬化させると共に脱泡を行い、パッシベーション膜105および熱硬化性接着剤層102を形成する。熱硬化性接着剤として、BCBのほかに、ポリイミド等を用いてもよい。さらに用途に応じて、熱硬化性接着剤の代わりにUV硬化接着剤や、市販されているボンディングシート等を使用しても良い。
【0022】
続いてウェハ接合装置を用いて、真空中で加熱・加圧を行うことでInP基板106のPD構造103が作製された面とSi支持基板101を熱硬化性接着剤層102により貼り合わせる(
図2(c)、(d))。このSi支持基板101は、
図1に示すように、最終的なPDチップのサブキャリアになると共に、次に続くグラインディング工程時のハンドリング改善およびウェハの割れや反りを防止する役割を果たしている。
【0023】
続いて貫通ビア108を形成するために、公知のグラインディング技術を用いてInP基板106を薄層化する。貫通ビア108形成のためのInP基板106の厚さは50μm程度であれば良い。ここで、光の入射面となるInP基板106裏面にはグラインディング後の研削痕が残るため、光が散乱されてしまう。従って、ウェットエッチング技術や化学機械研磨(Chemical mhechanical polishing:CMP)技術を用いて鏡面化を行う。さらに、この鏡面化したInP基板106の裏面に、スパッタリング技術を用いて無反射膜107を形成する(
図2(e)、(f))。
【0024】
次に、InP基板106の裏面側から、公知のフォトリソグラフィおよびドライエッチング技術を用いて貫通穴を形成し、InP基板106の表面にSiO
2からなる絶縁膜をスパッタリングによって形成する。さらに、真空蒸着技術を用いて、貫通ビア108の下地となるNiあるいはPd層を蒸着し、その上にAuをめっきすることで、貫通ビア108を形成する(
図2(g)、(h))。
【0025】
ここで、貫通ビア108はPD構造103の配線パッド110と位置合わせを行う必要がある。そこで、本発明では、以下のようなアライメント方法により位置合わせを行う。
図3に、本発明のPD構造が作製されたInP基板表面と貫通ビアを形成する位置を示したInP基板裏面を示す。
図3に示すように、PD構造103作製時に十字のメタルアライメントマーク111をInP基板106表面、すなわちPD構造103が作製された面に形成しておく。このアライメントマーク111と対になるように、貫通穴作成時のフォトリソグラフィによってInP基板106裏面に十字のレジストパタン112を形成する。赤外線を用いればInP基板106裏面からInP基板106表面に作製したメタルアライメントマーク111は観測可能であるので、メタルアライメントマーク111とレジストパタン112との位置ずれ量を赤外顕微鏡によって測定し、フォトリソグラフィ用マスクの位置オフセット量を補正することで位置合わせを行う。
【0026】
最後に、張り合わせたSi支持基板101およびInP基板106をPD構造103毎にダイシング等によって切り出してチップ化する(
図2(i))。
【0027】
以上に示したプロセスで、
図1に示す受光素子を作製することができる。
【0028】
図4に、本発明の実施形態1に係る受光素子における反射光利用の概念図を示す。
図4に示すように、入射光のうちPD構造103の光吸収層で吸収しきれなかった光を電極部の反射ミラー104で反射させ、再吸収させることで高感度な受光素子を実現できる。
【0029】
また本実施形態において、PDウェハをチップ化し、個別にフリップチップ実装することで実現していた反射光を利用する構造を、ウェハ接合技術を利用してウェハプロセスで実現できるため、製造スループットの向上と低コスト化が可能となる。これらの効果は、ウェハの大面積化や製造チップ数が多くなるにつれてより大きくなる。
【0030】
(実施形態2)
図5(a)に、本発明の実施形態2に係る受光素子の断面図を示し、
図5(b)に、InP基板206上に形成されたPD構造203と引出配線209、電極パッド210の構成を示し、
図5(c)、(d)に、Si支持基板の接着面とその裏面を示す。通信用のPDの引出配線および電極パッドは高周波線路となっており、その付近に高誘電率を有する材料が存在すると、特性インピーダンスが変化し、高周波特性に影響を与えてしまう可能性がある。
【0031】
図1に示す実施形態1に係る受光素子の構造では、熱硬化性接着剤102を隔てて、PD構造103の引出配線109および電極パッド110の付近に高誘電率材料(比誘電率εr〜12)であるSi支持基板101が存在する。例えばBCBの場合、厚さはわずか5μm程度であるため、Si支持基板101と引出配線109および電極パッド110の距離が近く、特性インピーダンスへの影響が懸念される。
【0032】
そこで実施形態2では、
図5(a)〜(c)に示すように引出配線209および電極パッド210部直下のSi支持基板201に凹部を作製し、そこに低誘電率材料である熱硬化性接着剤202を充填している。
【0033】
図6(a)に、Si支持基板201の凹部形成前の断面図を示し、
図6(b)にその上面図を示し、
図6(c)に、Si支持基板201の凹部形成後の断面図を示し、
図6(d)にその上面図を示す。このSi支持基板201の凹部は、
図6に示すように公知のフォトリソグラフィおよびエッチング技術を用いて形成することができる。
図5(a)に示すSi支持基板201に凹部を有する受光素子は、Si支持基板201に凹部を加工した後に、実施形態1と同様のプロセスによって作製することができる。なお、ウェハ接合時のSi支持基板201とInP基板206のアライメントについては、
図3に示すアライメント方法と同様に、InP基板206表面の十字のメタルアライメントマーカに対応するマーカをSi支持基板201表面に作製し、これらマーカに基づき加熱・加圧して貼り合わせる前に位置合わせを行うことで実現できる。
【0034】
この凹部では、Si支持基板201と引出配線209、電極パッド210の間の距離を広げ、凹部を低誘電率材料であるBCBで埋めることで、引出配線209および電極パッド210の高周波特性への影響を緩和することが可能となる。
【0035】
実施形態1、2に示したように、ウェハ接合技術を用いて、フリップチップ実装と同等の反射光を利用する構造を備えた受光素子をウェハプロセスで作製できるため、製造スループット向上および低コスト化が可能になる。
【0036】
また、実施形態2に示したように、凹部を加工したSi支持基板を用いることで、引出配線および電極パッドの高周波特性への影響を緩和することが可能となる。
【0037】
なお、本発明の受光素子は、PD構造をAPD等の構造に置き換えてもよく、同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0038】
101、201 Si支持基板
102、202 熱硬化性接着剤
103、203 PD構造
104、204 反射ミラー
105、205 パッシベーション膜
106、206 InP基板
107、207 無反射膜
108、208 貫通ビア
109、209 引出配線
110、210 電極パッド
301 CoC基板
302 AuSn半田バンプ
303 PDチップ
304 反射ミラー
305 InP基板
306 電極パッド