特許第6620090号(P6620090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6620090和風味強化剤及びレトルト臭マスキング剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6620090
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】和風味強化剤及びレトルト臭マスキング剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20191202BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20191202BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20191202BHJP
【FI】
   A23L27/10 C
   A23D9/00 504
   A23L27/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-523158(P2016-523158)
(86)(22)【出願日】2015年5月28日
(86)【国際出願番号】JP2015002700
(87)【国際公開番号】WO2015182144
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2018年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-113588(P2014-113588)
(32)【優先日】2014年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久嶋 智子
(72)【発明者】
【氏名】外山 義雄
(72)【発明者】
【氏名】伏木 亨
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拓児
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−229524(JP,A)
【文献】 特開2005−006511(JP,A)
【文献】 特開平04−261109(JP,A)
【文献】 特開昭61−043964(JP,A)
【文献】 特開2001−078700(JP,A)
【文献】 特開2007−282516(JP,A)
【文献】 特開2001−078705(JP,A)
【文献】 特開昭62−006661(JP,A)
【文献】 特開平02−249445(JP,A)
【文献】 特開2008−254765(JP,A)
【文献】 特開2014−061682(JP,A)
【文献】 ミチル,昆布のフコキサンチンで肌の老化を防ぐ!ダイエットにも!料理レシピ(昆布水の作り方使い方) NHK あさイチ7/23,だだもれアンチエイジング[online],2012年 7月23日,「残った刻み昆布の使い方」参照,[検索日:2019.02.20], インターネット<URL:http://marutto50.blog.fc2.com/blog-entry-347.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L27
CAplus/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻オイルを有効成分として含む和風味強化剤であって、
前記海藻オイルが、水、エタノール、及びこめ油の混合液にコンブを浸し、加熱して蒸留して得た香気成分をこめ油に分散及び/又は溶解させたものであり、
前記和風味強化剤が、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンを含み、
食品中のヨウ素濃度を150μg未満/100gに調整しながら、食品の和風味を強化することができる前記和風味強化剤
【請求項2】
請求項に記載の和風味強化剤を食品に添加することを含む、食品の和風味強化方法。
【請求項3】
海藻オイルを有効成分として含む、レトルト食品のレトルト臭をマスキングするためのマスキング剤であって、
前記海藻オイルが、水、エタノール、及びこめ油の混合液にコンブを浸し、加熱して蒸留して得た香気成分をこめ油に分散及び/又は溶解させたものであり、
前記マスキング剤が、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンを含み、
レトルト食品中のヨウ素濃度を150μg未満/100gに調整しながら、レトルト食品のレトルト臭をマスキングすることができる前記マスキング剤
【請求項4】
請求項に記載のマスキング剤をレトルト処理すべき食品に添加することを含む、レトルト食品のレトルト臭をマスキングする方法。
【請求項5】
請求項に記載の和風味強化剤及び請求項に記載のマスキング剤のうち少なくとも一つを含む食品。
【請求項6】
レトルト食品である請求項に記載の食品。
【請求項7】
ベビーフード、介護食、又は病院食である、請求項又はに記載の食品。
【請求項8】
請求項に記載の和風味強化剤及び請求項に記載のマスキング剤のうち少なくとも一つを使用することを含む食品の製造方法。
【請求項9】
前記食品がレトルト食品である、請求項に記載の食品の製造方法。
【請求項10】
前記食品が、ベビーフード、介護食、又は病院食である、請求項又はに記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の和風味を強化できる和風味強化剤に関する。また、本発明は、食品のレトルト臭を抑制するマスキング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の和風味を強化するためには、一般的に、コンブだしの旨味や塩味等が用いられる。このとき、コンブだしに含まれる遊離のグルタミン酸が、旨味を引き出す中心的な役割を果たし、和食の美味しさに影響する大きな要素となっている。
【0003】
しかしながら、コンブ風味が足りないまま、遊離のグルタミン酸(グルタミン酸ナトリウム等)だけで、旨味を引き出そうとすると、人工的な風味となり、このことが技術的な課題となっている。
【0004】
食品の和風味を強化するために、コンブだしとコンブエキスとコンブそのものの固形分を併用すると、コンブに由来するヨウ素を多く含むこととなりヨウ素の摂取量が耐容上限量を超えてしまうことがあった。そこで、例えば、ヨウ素の過剰摂取に配慮すべき患者(バセドウ病や橋本病等の患者)用の食品では、コンブの固形分量を多く含むものは使用しにくく、コンブの固形分の使用は制限されている。このとき、不足したコンブの風味を補強するために、コンブと相性の良い素材(食材)を併用したり、遊離のグルタミン酸を増量したりしても、和風味を効果的に強化できない。
【0005】
コンブの固形分を用いずに、食品等に香りを付ける方法も考案されている(特許文献1)。この方法では、アルコールが溶媒に用いられており、脆弱な対象者(乳幼児、要介護者、妊産婦・授乳婦等)に提供する食品(ベビーフード、介護食、妊産婦・授乳婦向け食品等)には適用しにくく、汎用性の観点で課題がある。
【0006】
一方、レトルト食品については、衛生的で長期保存性があるので販売されているが、食品を滅菌するための加熱処理に伴って生じる不快な臭い(いわゆるレトルト臭)が生ずるという問題がある。レトルト臭を抑制するためには、種々の物質を添加する方法等が提案されているが、食品本来の味や香り等の風味に悪影響を及ぼしてしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−142711号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、食品の和風味を強化するための新規な和風味強化剤を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、レトルト食品のレトルト臭を抑制できる新規なマスキング剤を提供することにある。
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑みて鋭意研究した結果、海藻を抽出処理して得た香気成分を食用油に分散及び/又は溶解した海藻オイルを食品に添加することにより、食品の和風味を強化でき、かつ、レトルト臭を抑制できることを知見し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば、以下の和風味強化剤等を提供できる。
1.海藻オイルを有効成分として含む和風味強化剤。
2.前記海藻オイルが、海藻を抽出処理して得た香気成分を食用油に分散及び/又は分散させたものである、1に記載の和風味強化剤。
3.前記海藻オイルが、コンブオイル、アオサオイル、又はこれらの混合物である、1又は2に記載の和風味強化剤。
4.こめ油を含む、1〜3のいずれかに記載の和風味強化剤。
5.ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンからなる群より選択される1種以上を含む、1〜4のいずれかに記載の和風味強化剤。
6.ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンを含む、1〜5のいずれかに記載の和風味強化剤。
7.1〜6のいずれかに記載の和風味強化剤を食品に添加することを含む、食品の和風味強化方法。
8.海藻オイルを有効成分として含むマスキング剤。
9.前記海藻オイルが、海藻を抽出処理して得た香気成分を食用油に分散させたものである、8に記載のマスキング剤。
10.前記海藻オイルが、コンブオイル、アオサオイル、又はこれらの混合物である、8又は9に記載のマスキング剤。
11.こめ油を含む、8〜10のいずれかに記載のマスキング剤。
12.ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンからなる群より選択される1種以上を含む、8〜11のいずれかに記載のマスキング剤。
13.ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンを含む、8〜12のいずれかに記載のマスキング剤。
14.レトルト臭のマスキング剤である8〜13のいずれかに記載のマスキング剤。
15.8〜14のいずれかに記載のマスキング剤をレトルト処理すべき食品に添加することを含む、レトルト食品のレトルト臭をマスキングする方法。
16.1〜6のいずれかに記載の和風味強化剤及び8〜14のいずれかに記載のマスキング剤のうち少なくとも一つを含む食品。
17.レトルト食品である16に記載の食品。
18.ベビーフード、介護食、又は病院食である、16又は17に記載の食品。
19.1〜6のいずれかに記載の和風味強化剤及び8〜14のいずれかに記載のマスキング剤のうち少なくとも一つを使用することを含む食品の製造方法。
20.前記食品がレトルト食品である、19に記載の食品の製造方法。
21.前記食品が、ベビーフード、介護食、又は病院食である、19又は20に記載の食品の製造方法。
【0011】
本発明によれば、食品の和風味を強化するための新規な和風味強化剤を提供できる。
また、本発明によれば、レトルト食品のレトルト臭を抑制できる新規なマスキング剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の和風味強化剤を含む食品の官能評価の結果を示す図である。
図2図2は、本発明の和風味強化剤を含む食品の官能評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[和風味強化剤]
本発明の和風味強化剤は、海藻オイルを有効成分として含むものである。
【0014】
本発明の和風味強化剤は、食品に添加することにより、海藻の固形分を用いることなく、食品の和風味を強化できる。
また、本発明の和風味強化剤は、海藻類に多く含まれるヨウ素を含有しないか、含有しても極微量であるため、食品の和風味を強化するにあたり食品中に含有されるヨウ素の量を、耐容上限量未満あるいは耐容上限量に近づかないように調整できる。
【0015】
本発明において、「和風味」とは、和風の食品(和食)の、旨味、コク味、味の厚み、味の深み、和風の出汁の風味、素材(食材)そのものの風味等をいい、「和風味を強化する」とは、和風の食品(和食)の、旨味、コク味、味の厚み、味の深み、和風の出汁の風味、素材(食材)そのものの風味や、それらの持続性を向上することをいう。また、「コク味」とは、基本味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)では表せない、基本味及びその周辺の味の持続性、まとまりのことをいう。
【0016】
コンブをはじめとする海藻類は、他の食材と比較してヨウ素を数十倍から数万倍も多く含む。「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要」(厚生労働省、平成26年3月)によれば、ヨウ素の耐容上限量(ある母集団に属するほとんどすべての人々が、健康障害をもたらす危険がないとみなされる習慣的な摂取量の上限を与える量)は、成人が3000μg/日、妊婦が2000μg/日、15〜17歳が2000μg/日、12〜14歳が1200μg/日、6〜11歳が500μg/日、3〜5歳が350μg/日、1〜2歳が250μg/日、乳児が250μg/日である。
【0017】
また、ヨウ素の過剰摂取に配慮すべき患者(バセドウ病や橋本病等の患者)も存在する。
【0018】
本発明の和風味強化剤によれば、食品中におけるヨウ素の含有量を上限量の低い乳幼児の耐容上限量未満に調整しながら、食品の和風味を強化できる。また、本発明の和風味強化剤によれば、特定の患者向けに食品中におけるヨウ素の含有量を低く調整しながら、食品の和風味を強化できる。
【0019】
本発明において使用する海藻オイルは、海藻を抽出処理して得た香気成分を食用油中に含んだものをいう。香気成分は、食用油中に溶解していてもよく、又は、分散していてもよい。
本発明において使用する海藻オイルは、海藻を抽出処理して得た香気成分を食用油中に含んだものであるため、海藻類に多く含まれるヨウ素を含有しないか、含有しても極微量である。そのため、本発明の和風味強化剤を用いれば、食品の和風味を強化するにあたり食品中に含有されるヨウ素を耐容上限量未満に調整できる。
【0020】
海藻は、和風味を強化する効果が発揮されれば特に限定されないが、例えば、コンブ、アオサ、アオノリ、クビレヅタ、ヒトエグサ、モズク、ワカメ等が挙げられる。他の食材との相性の汎用性の観点から、コンブやアオサを使用することが好ましい。即ち、海藻オイルとしては、これらの海藻のうち、一種類の単独のコンブオイル、アオサオイルなどであってもよいし、二種類以上の混合物を使用してもよい。
【0021】
コンブの種類は特に限定されず、一般に入手可能なものを使用できる。例えば、真コンブ、利尻コンブ、羅臼コンブ、日高コンブ、長コンブ、細目コンブ、がごめコンブ、厚葉コンブ、ねこあしコンブ、ややんコンブ、くきながコンブ等が挙げられる。コンブは、一種類を単独で使用してもよく、又は、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
アオサの種類は特に限定されず、一般に入手可能なものを使用できる。例えば、アナアオサ、アミアオサ、リボンアオサ、ナガアオサ、ヤブレアオサ、ウシュクアオサ、ボタンアオサ、コツブアオサ、オオアオサ、オオバアオサ、チシマアオサ、ミナミアオサ等が挙げられる。アオサは、一種類を単独で使用してもよく、又は、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
食用油は、特に限定されず、既知のものを使用できる。食用油としては、例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油、こめ油、コーン油、しそ油、椿油、ごま油、大豆油、菜種油、綿実油、紅花油、落花生油、等が挙げられる。
本発明において使用する海藻オイルは、さらに任意の乳化剤を含んでもよい。乳化剤は、食品添加物として使用が認められている乳化剤であれば、任意のものを使用できる。乳化剤の含有量は、求められる海藻オイルの性状(乳化状態)に依存して、適宜決定することができる。
【0024】
本発明の一態様において、和風味強化剤は、他の食品との相性の観点からこめ油、大豆油を含むことが好ましい。また、和風味強化剤は、酸化しづらく、加熱しても良好な品質が長く保てる観点からこめ油を含むことがより好ましい。
こめ油は、こめぬかから採取した油であって、食用に適するよう精製処理したものをいう。具体的には、「食用植物油脂の日本農林規格」(平成24年7月17日農林水産省告示第1683号)第11条の食用こめ油の規格にしたがうものであり、精製こめ油とこめサラダ油を含む。こめ油は、市販のものを使用できる。
【0025】
香気成分は、海藻を抽出処理することにより得ることができる。
抽出処理は、特に限定されず、既知の方法で行えばよい。例えば、海藻を溶媒に浸漬して、抽出液を得た後、固形分をろ過して除去し、溶媒を留去し、乾燥して、香気成分(揮発性成分)を得ることができる。抽出処理は、加熱下で行うことが好ましい。加熱により発生した蒸気は、香気成分を含み得るため、冷却して液体として抽出液と混合する。海藻を抽出処理する際、溶媒には、所望の食品添加剤を添加してもよい。
【0026】
抽出処理に用いる海藻は、生であっても、乾燥したもの、塩蔵したものであってもよい。海藻は、そのままの形態で用いてもよく、あるいは、細かく切断又は粉砕して用いてもよい。
抽出処理に用いる溶媒は、水、親水性有機溶媒、又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール等が挙げられる。抽出処理に親水性有機溶媒を用いる場合は、香気成分に溶媒が残留しないように充分に水洗する。
抽出処理の時間、温度等の条件は、特に限定されず、適宜設定できる。
【0027】
海藻から得られる香気成分としては、例えば、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール、1−オクテン−3−オン等が挙げられるが、これらに限定されない。
得られた香気成分を食用油と混合して溶解又は分散させることにより、海藻オイルを得ることができる。
【0028】
本発明の一態様において、和風味強化剤は、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
本発明の別の態様において、和風味強化剤は、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール及び1−オクテン−3−オンを含むことが好ましい。
本発明の別の態様において、和風味強化剤は、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール及び1−オクテン−3−オンをガスクロマトグラフ質量分析器(GC−MS)で分析した場合の面積比がヘキサナール:1−オクテン−3−オール:1−オクテン−3−オン=3〜30:1〜15:1の割合で含むことが好ましい。
本発明の別の態様において、和風味強化剤は、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンを含むことが好ましい。
【0029】
海藻オイル中の香気成分の濃度は、10-2ppm以上あれば和風味を強化する効果を発揮できるが、例えば、10-2ppm〜10ppmが好ましい範囲である。
【0030】
海藻オイル中のヨウ素の濃度は、ヨウ素の濃度が100g当たり1000μg未満であれば、通常の食事に海藻オイルを含む食品を摂取しても、ヨウ素の耐容上限量に達しないように調整できる。海藻オイル100g当たりのヨウ素の濃度は、例えば0μg〜800μgが好ましく、和風味をより強化する観点で海藻オイル100g当たり10μg〜600μgがさらに好ましい。
ヨウ素の濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法により測定することができる。具体的には、ヨウ素の濃度が既知のヨウ化カリウム標準溶液について、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて、内部標準とのイオンカウント比を求め、ヨウ素の濃度により検量線を作成してから、試料溶液を測定し、検量線から試料溶液中のヨウ素濃度を求める。ヨウ素は酸性では不安定であるため、標準溶液及び試料溶液は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を添加してアルカリ性にしておく。内部標準としては、テルルを添加する。濃度測定のその他の条件については適宜決定することができる。
【0031】
本発明の和風味強化剤は、有効成分である海藻オイルをそのまま単独で使用してもよい。あるいは、本発明の和風味強化剤は、有効成分である海藻オイルの他に、食用として通常に使用される各種の添加剤を混合してもよい。また、本発明の和風味強化剤は、常法により液状、ペースト状、又は粉末の形態に製剤化して使用してもよい。製剤化した和風味強化剤中における海藻オイルの含有量は、5重量%以上あれば通常の食品の和風味強化剤として十分な効果を有するが、例えば5重量%〜100重量%であり、好ましくは20重量%〜100重量%であり、より好ましくは50重量%〜100重量%である。
【0032】
製剤化するための添加剤は、特に限定されず、既知の食品添加剤を使用できる。食品添加剤としては、例えば、乳化剤、安定剤、酸化防止剤、賦形剤等が挙げられる。
本発明の和風味強化剤は、和食において好適に使用できる。
【0033】
本発明の和風味強化剤は、食品を摂取する対象者のヨウ素の耐容上限量や1日当たりのヨウ素の摂取量に配慮しながら、コンブエキスと併用してもよい。コンブエキスは、一般に、水溶性溶媒を用いてコンブから抽出したエキスであり、市販されている液体又は粉末のものを使用できる。コンブエキスには、通常、ヨウ素が含まれているため、本発明の和風味強化剤と併用する場合には、食品を摂取する対象者のヨウ素の耐容上限量や1日当たりのヨウ素の摂取量に配慮する必要がある。本発明の和風味強化剤は、海藻類に多く含まれるヨウ素を含有しないか、含有しても極微量であるため、併用するコンブエキス中のヨウ素の含有量を考慮しながら、食品の和風味を強化するにあたり食品に含有されるヨウ素の量を、耐容上限量未満あるいは耐容上限量に近づかないように調整できる。
例えば、本発明の和風味強化剤とコンブエキス(コンブ由来の固形分3%)を併用であれば、コンブエキス(コンブ由来の固形分3%)の食品への添加量は、食品の全重量中で0.5重量%〜5重量%が挙げられる。コンブエキス(コンブ由来の固形分3%)と本発明の和風味強化剤の食品中の重量比(コンブエキス:和風味強化剤)は、例えば、0.5:1〜20:1が挙げられる。
【0034】
本発明の和風味強化剤は、和風味を強化するための調味料であってもよい。本発明の和風味強化調味料は、海藻オイルを含む和風味調味料である。例えば、海藻オイルを含む醤油、海藻オイルを含む味噌、海藻オイルを含むつゆ、海藻オイルを含むドレッシング等が挙げられる。本発明の和風味強化調味料に含まれる海藻オイルとしては、本発明の和風味強化剤について既に述べたとおり、例えば、コンブオイル、アオサオイル等一種類の単独の海藻オイルであってもよいし、二種類以上の混合物であってもよい。
本発明の和風味強化調味料において、海藻オイルの含量は、0.01重量%以上であれば和風味強化の効果がある。ここで、和風味強化調味料の全重量に対して、好ましくは0.01〜5重量%であり、より好ましくは0.05〜3重量%であり、さらにより好ましくは0.1〜1重量%である。
本発明の和風味強化調味料において、さらなる和風味の強化のために、コンブエキスなどを用いることもできる。
本発明の和風味強化調味料において、ヨウ素の含量は、100g当たり1000μg未満であれば、3回の通常の食事に海藻オイル入りの調味料を用いても耐要上限量を超えないように、あるいは耐容上限量に近づかないように、ヨウ素の摂取量を調整しやすいが、例えば、ヨウ素の和風味強化調味料100gあたり、好ましくは0〜1000μgであり、より好ましくは0〜800μgであり、さらにより好ましくは0〜500μgである。
【0035】
[和風味強化方法]
本発明の和風味強化方法は、既に説明した本発明の和風味強化剤を食品に添加することを含むものである。これにより、食品の和風味を強化できる。本発明の和風味強化剤は、海藻類に多く含まれるヨウ素を含有しないか、含有しても極微量であるため、本発明の和風味強化方法によれば、食品中に含有されるヨウ素が、耐容上限量を超えたり、あるいは耐容上限量に近づいたりすることなく、食品の和風味を強化できる。
【0036】
和風味強化剤を食品に添加する方法は、特に限定されず、食品の原材料に混合すればよい。レトルト食品において和の風味をより残すためには、レトルト処理の直前に混合することが望ましい。
【0037】
和風味強化剤の食品への添加量は、特に限定されず、製造する食品や所望の和風味の強さに依存して適宜決定できる。本発明の和風味強化剤は、製造する食品中における海藻オイルの含有量が0.005重量%以上であれば、和風味の強化の効果を発揮する。ここで、製造する食品中における海藻オイルの含有量が、0.005重量%〜5重量%、好ましくは0.01重量%〜5重量%、より好ましくは0.1重量%〜3重量%となるような量で、食品中に添加できる。
【0038】
本発明の食品の和風味強化方法を適用する食品は、好ましくは、和食である。
【0039】
[マスキング剤]
本発明の和風味強化剤は、マスキング剤としても使用できる。したがって、本発明のマスキング剤は、海藻オイルを有効成分として含むものである。
【0040】
本発明のマスキング剤は、食品本来の味や香り等の風味を損なうことなく、和風味を強化することにより、レトルト臭をマスキングできる。特に、レトルト食品のレトルト臭を抑制又は防止するのに好適である。したがって、本発明のマスキング剤は、好ましくは、レトルト臭のマスキング剤である。本発明のマスキング剤によれば、食品の和風味を強化することにより、レトルト臭を抑制又は防止できる。
【0041】
レトルト食品とは、一般に、プラスチックフィルム若しくは金属はく又はこれらを多層に合わせたものを、袋状その他の形に成形した容器(気密性及び遮光性を有するものに限る。)に調製した食品を詰め、熱溶融により密封し、加圧加熱殺菌したものである。
本発明において「レトルト食品」とは、上記のもののほか、気密性のある容器に食品を入れ、密封した後、加圧加熱殺菌したものを含み、例えば缶詰やびん詰等、容器包装食品全体を含む。
【0042】
本発明において「レトルト臭」とは、食品のレトルト処理(加熱処理)により発生する不快臭であり、例えば、袋や容器からの移り臭、アミノカルボニル反応により生ずる臭い、タンパク質や脂質が劣化又は変性して生ずる臭い等をいう。
レトルト臭は、一般に、レトルト食品を喫食している最中や、喫食した後に感じやすい。本発明のマスキング剤は、海藻オイルを有効成分として含み、海藻オイルの香気成分は、それを含む食品を喫食している最中から喫食した後に感じられるため、香気の後引きがレトルト臭のマスキングに効果を発揮すると考えられる。
【0043】
本発明のマスキング剤のその他の特徴は、本発明の和風味強化剤について説明したとおりである。
【0044】
[レトルト臭のマスキング方法]
本発明のレトルト臭のマスキング方法は、既に説明した本発明のマスキング剤をレトルト処理すべき食品に添加することを含むものである。これにより、食品本来の味や香り等の風味を損なうことなく、和風味を強化することにより、レトルト臭をマスキングできる。
【0045】
マスキング剤は、レトルト処理の前に食品に添加すればよい。
【0046】
マスキング剤を食品に添加する方法は、特に限定されず、食品の原材料に混合すればよい。
【0047】
マスキング剤の食品への添加量は、特に限定されず、製造する食品、所望の和風味の強さ、所望のレトルト臭抑制の程度等に依存して適宜決定できる。製造する食品における海藻オイルの含有量が0.005重量%以上であればマスキング効果を発揮するが、例えば、0.005重量%〜5重量%、好ましくは0.01重量%〜5重量%、より好ましくは0.1重量%〜3重量%となるような量で、食品中に添加できる。
【0048】
[食品]
本発明の食品は、既に説明した本発明の和風味強化剤及び既に説明した本発明のマスキング剤のうち少なくとも一つを含むものである。本発明の和風味強化剤又はマスキング剤を含むことにより、食品は、和風味が強化される。また、和風味が強化されることにより、レトルト臭が抑制される。
本発明の食品は、本発明の和風味強化剤及び本発明のマスキング剤の両方を含んでいてもよい。このとき、和風味強化剤とマスキング剤とは互いに異なるものであってもよく、一つの剤が和風味強化剤とマスキング剤の両方の機能や効果を発揮するものであってもよい。
本発明の食品は、本発明の和風味強化剤及び本発明のマスキング剤のうち、少なくとも一つを使用することにより製造できる。使用の方法は特に限定されず、食品の原材料に、本発明の和風味強化剤及び本発明のマスキング剤のうち少なくとも一つを混合すればよい。
【0049】
本発明の食品は、好ましくは、和食であり、特に限定されないが、例えば、豆腐と挽肉の餡かけ、肉じゃが、酢豚、かき揚げ、つくね野菜餡かけ、白身魚又は肉と野菜のうま煮、筑前煮、肉団子の甘酢煮、大根と肉の角煮、魚と根菜の煮物、かき玉うどん、五目釜飯、わかめとしらすごはん、おかゆ、雑炊、おじや、親子丼、すき焼き丼、鶏ごぼうごはん、大豆とひじきのごはん、かぶと豆腐の煮物、五目めん、煮込みうどん、カレー丼、茶わん蒸し、和風パスタソース、和風だし、おすまし、けんちん汁、味噌汁、五目豆等が挙げられる。
【0050】
本発明の一態様において、食品は、レトルト食品である。
レトルト食品の製造方法は、特に限定されず、既知の方法で製造すればよい。レトルト処理は、例えば、市販のレトルト処理装置を用いて行うことができる。加熱条件は適宜設定でき、例えば、120℃で4分以上(F値4以上)加熱すればよい。
【0051】
本発明の別の態様において、食品は、ベビーフード、介護食、又は病院食である。乳幼児用、要介護者用、ヨウ素の過剰摂取に配慮すべき患者(バセドウ病や橋本病等の患者)用の食品において、和風味を強化したり、レトルト臭をマスキングしたりできる。
【0052】
本発明の一態様であるレトルト食品は、包装容器内の食品の全重量を基準として、海藻オイルを0.1〜1.0重量%を含み、さらに食塩及び醤油の少なくとも一方を含んでもよく、又はその両方を含んでもよい。
海藻オイルを含むことにより、和風味を強化したり、レトルト臭を抑制したりすることができる。また、海藻オイル、食塩、醤油を特定の量の範囲で含むことにより、レトルト食品をより好ましい風味、呈味とすることができる。
食塩の含有量は、和風味を効果的に強化するために、包装容器内の食品の全重量を基準として、好ましくは0〜1.5重量%、より好ましくは0より多く1.0重量%まで、さらに好ましくは0.02〜0.8重量%である。なお、食塩の含有量は、文部科学省が公表する日本食品標準成分表2010(Standard Tables of Food Composition in Japan−2010−)に記載された「食塩相当量」の算出法に準じて、食品試料から希酸抽出方法又は乾式灰化法で測定試料を調製し、原子吸光法にてナトリウム量を測定し、このナトリウム量に2.54を乗じて算出した値とする。食塩は、その主成分である塩化ナトリウムが食品中で溶解して、塩素イオンと、ナトリウムイオンの形態で存在する。食品中には食塩以外の他の成分由来のナトリウムイオンが存在する場合があるが、本発明においては、食品中に含まれるすべてのナトリウムイオンが食塩由来であるものとして、食塩の含有量を規定する。
醤油の含有量は、和風味を効果的に強化するために、包装容器内の食品の全重量を基準として、好ましくは0〜5.0重量%、より好ましくは0より多く3.0重量%まで、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0053】
本発明の一態様であるレトルト食品は、さらに、包装容器内の食品100重量部に対して、0.1重量部以上であればレトルト臭の抑制効果を発揮するが、例えば、コンブエキスを0.1〜6.0重量部含んでもよい。より好ましくは、0.5〜5.0重量部、さらに好ましくは、1.0〜4.0重部である。コンブエキスを含むことにより、さらに和風味を好ましいものとすることができる。
【0054】
本発明の一態様であるレトルト食品は、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンからなる群より選択される1種以上を含んでもよい。また、本発明の別の態様であるレトルト食品は、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンを含んでもよい。
【0055】
本発明の一態様であるレトルト食品は、和風味が強化されたものである。
また、本発明の一態様であるレトルト食品は、レトルト臭が抑制されたものである。
【0056】
本発明の一態様であるレトルト食品は、ベビーフード、介護食、病院食、又は妊産婦・授乳婦向け食品であることができる。
また、本発明の一態様であるレトルト食品は、豆腐と挽肉の餡かけ、肉じゃが、又はかき玉うどんであることができる。
【0057】
以上、説明した本発明の一態様であるレトルト食品は、包装容器内の食品の全重量を基準として、海藻オイルを0.1〜1.0重量%添加し、さらに食塩及び醤油の少なくとも一方を添加することを含むレトルト食品を通常方法や工程で製造できる。
本発明の一態様であるレトルト食品の製造方法では、さらに、包装容器内の食品100重量部に対して、さらなる和風味を強化するためにコンブエキスを0.1〜6.0重量部(より好ましくは、0.5〜5.0重量部、さらに好ましくは、1.0〜4.0重量部)添加することを含んでもよい。
【0058】
[レトルト食品中の香気成分の増強方法]
本発明は、レトルト食品中の香気成分の増強方法を提供する。本発明のレトルト食品中の香気成分の増強方法は、包装容器内の食品の全重量を基準として、海藻オイルを0.1〜1.0重量%添加し、さらに食塩及び醤油の少なくとも一方を添加し、レトルト処理することを含み、前記香気成分は、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンからなる群より選択される1種以上を含む。
レトルト食品中の特定の香気成分を増強することにより、和風味を強化したり、レトルト臭を抑制したりすることができる。また、海藻オイル、食塩、醤油を特定の量範囲で含むことにより、レトルト食品をより好ましい風味、呈味とすることができる。
【0059】
食塩の添加量は、包装容器内の食品の全重量を基準として、好ましくは0〜0.8重量%、より好ましくは0より多く0.5重量%まで、さらに好ましくは0.01〜0.3重量%である。
醤油の添加量は、包装容器内の食品の全重量を基準として、好ましくは0〜5.0重量%、より好ましくは0より多く3.0重量%まで、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%である。
香気成分は、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール及び1−オクテン−3−オンを含むことが好ましい。
【0060】
本発明のレトルト食品中の香気成分の増強方法の一態様は、さらに、包装容器内の食品100重量部に対して、コンブエキスを0.1〜6.0重量部で添加することを含んでもよい。好ましくは、0.5〜5.0重量部、さらに好ましくは、1.0〜4.0重量部である。コンブエキスを含むことにより、さらに和風味を好ましいものとすることができる。
【0061】
本発明の一態様において、レトルト食品は、ベビーフード、介護食、病院食、又は妊産婦・授乳婦向け食品であることができる。
また、本発明の一態様において、レトルト食品は、豆腐と挽肉の餡かけ、肉じゃが、かき玉うどん、酢豚、つくね野菜餡かけ、肉と野菜のうま煮、大根と肉の角煮、鶏ごぼうごはん、雑炊、かぶと豆腐の煮物、五目あんかけうどん、親子丼、すき焼き丼であることができる。
【0062】
尚、本発明において数値範囲を「X〜Y」と表記する場合、範囲の両端の値であるX及びYを含むものとする。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0064】
製造例1
海藻としてコンブ、食用油としてこめ油を用いて、海藻オイルを製造した。具体的には、水、エタノール、こめ油の混合液に、刻んだコンブを浸した後、加熱して蒸留し、香気成分を含む留出液を得た。この留出液を再びコンブの入った浸出液に戻した。その後、ろ過して脱水し、コンブオイル(海藻オイル)を得た。
製造したコンブオイルをガスクロマトグラフ質量分析器(GC−MS)により分析したところ、香気成分として、主として、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール、1−オクテン−3−オンを含んでいた。このうち主成分であるヘキサナール、1−オクテン−3−オール、1−オクテン−3−オンの含有割合は、GC−MSで分析した場合の面積比が、ヘキサナール:1−オクテン−3−オール:1−オクテン−3−オン=6:2:1であった。
【0065】
製造例2
海藻としてコンブ、食用油としてこめ油を用いて、海藻オイルを製造した。具体的には、水、エタノール、こめ油の混合液に、刻んだコンブを浸した後、加熱して蒸留し、香気成分を含む留出液を得た。この留出液を再びコンブの入った浸出液に戻した。その後、ろ過して脱水してさらに、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、1−オクテン−3−オンの濃度が高まるように調合し、精製したこめ油と混合して、コンブオイル(海藻オイル)を得た。
製造したコンブオイルをガスクロマトグラフ質量分析器(GC−MS)により分析したところ、香気分として、主として、ヘキサナール、1−オクテン−3−オール、ノナナール、1−オクテン−3−オンを含んでいた。このうち主成分であるヘキサナール、1−オクテン−3−オール、1−オクテン−3−オンの含有割合は、GC−MSで分析した場合の面積比が、ヘキサナール:1−オクテン−3−オール:1−オクテン−3−オン=11:9:1であった。
製造例2のコンブオイルは、製造例1のコンブオイルと比較して、香気成分を多く含んでいた。
【0066】
試験例1
和風の食品として、豆腐と挽肉の餡かけ、肉じゃが、かき玉うどんの三種の食品について、製造例1のコンブオイルを添加したものと添加しないものを製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した後、官能評価を行った。各食品の原材料と配合を表1〜表3に示す。コンブオイルを添加する場合は、コンブオイルを添加しない場合と比較して、コンブオイルの配合量に相当する量の水を減らした。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
官能評価は専門パネル(5名)により行い、各々の食品を常温(25〜30℃)で喫食し、風味を4段階(A:大変に美味しい、B:美味しい、C:普通、D:不味い)で評価した。また、レトルト臭を4段階(I:強い、H:やや強い、G:弱い、F:とても弱い)で評価した。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
各食品について、コンブオイルを添加したものは、「大変に美味しい(A)」と評価された。一方、コンブオイルを添加しないものは、「普通(C)」と評価された。
【0073】
和風の食品(和食)にコンブオイルを添加することで、和風味が強化され、素材(食材)本来の風味が引き出されることが確認された。また、不快な臭み(レトルト臭)がマスキングされて、美味しくなることが確認された。
【0074】
試験例2
和風の食品として、肉じゃがを、表5に示すように製造例1のコンブオイルの配合量を変更して製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した後に、官能評価を行った。各食品においてコンブオイルの配合量を変更したことに伴い、水の配合量を変更し、他の原材料の配合量は同一とした。
【0075】
【表5】
【0076】
官能評価は、専門パネル(20名)により行い、各々の食品を常温(25〜30℃)で喫食し、各評価項目(和風の出汁の風味、旨味、コク味、塩味、和風の出汁の風味の持続性、味の厚み、素材そのものの味、レトルト臭)を、コンブオイルを添加していない対照品を0としたときに、コンブオイルを添加した試験品を次の7段階(3:とても強い、2:強い、1:やや強い、0:どちらでもない、−1:やや弱い、−2:弱い、−3:とても弱い)で評価した。結果を図1に示す。
【0077】
図1に示すように、和食(肉じゃが)において、コンブオイルを添加することで、和風の出汁の風味、旨味、コク味、和風の出汁の風味の持続性、味の厚み、素材そのものの風味が強化され、レトルト臭が抑制された。
また、和食(肉じゃが)において、コンブオイルを増量して添加することで、和風の出汁の風味、旨味、コク味、和風の出汁の風味の持続性、味の厚み、素材そのものの風味がさらに強化され、レトルト臭がさらに抑制された。尚、コンブオイルを増量しても塩味は特に変化しなかった。
【0078】
和食において、コンブオイルを増量して添加することで、和風味(和風の出汁の風味、旨味、コク味、 和風の出汁の風味の持続性、味の厚み)が強化されて、素材(食材)本来の風味(素材そのものの風味)が引き出され、不快な臭み(レトルト臭)がマスキングされて、美味しくなることが確認された。
【0079】
図2に、パネルに各食品を「また食べたいか」を聞いた結果を示す。コンブオイルを添加していない対照品を0としたときに、コンブオイルを添加した試験品を次の7段階(3:とても思う、2:思う、1:やや思う、0:どちらでもない、−1:やや思わない、−2:思言わない、−3:とても思わない)で評価した。
和食(肉じゃが)において、コンブオイルを増量して添加することで、「また食べたい」の回答が多くなり、全体の美味しさを感じる意見が多くなった。
和食において、コンブオイルの添加量を増加することで、「また食べたい」の回答が増加した。
【0080】
試験例3
和風の食品として、表6に示す配合で肉じゃがを製造して、F値12の条件でレトルト処理に供した後、官能評価を行った。実施例6では香気成分の含有量が相対的に少ない製造例1のコンブオイルを使用し、実施例7では香気成分の含有量が相対的に多い製造例2のコンブオイルを使用した。
【0081】
【表6】
【0082】
官能評価は、専門パネル(5名)により行い、各々の和食を常温(25〜30℃)で喫食し、風味は4段階(A:大変に美味しい、B:美味しい、C:普通、D:不味い)で評価した。また、レトルト臭を4段階(I:強い、H:やや強い、G:弱い、F:とても弱い)で評価した。官能評価の結果を表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
和食(肉じゃが)において、香気成分の含有量が相対的に少ないコンブオイルを0.05重量%のような少量(低濃度)で添加した場合であっても、香気成分の含有量が相対的に多いコンブオイルを0.01重量%のような極少量(超低濃度)で添加した場合であっても、和食は「美味しい(B)」と評価された。このとき、香気成分の含有量が相対的に多いコンブオイルでは、コク味が強く感じられた。
和食において、コンブオイル中の香気成分の含有量を適宜選択することにより、コンブオイルの添加量を例えば0.01重量%程度に減量しても、和風味(コク味)が強化されて、美味しくなることが確認された。
【0085】
実施例8
和食の食品として、酢豚を表8の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味の豊かな酢豚であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0086】
【表8】
【0087】
実施例9
和食の食品として、つくね野菜餡かけを表9の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好なであった。レトルト臭が感じられなかった。
【0088】
【表9】
【0089】
実施例10
和食の食品として、肉と野菜のうま煮を表10の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0090】
【表10】
【0091】
実施例11
和食の食品として、大根と肉の角煮を表11の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0092】
【表11】
【0093】
実施例12
和食の食品として、鶏ごぼうごはんを表12の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0094】
【表12】
【0095】
実施例13
和食の食品として、雑炊を表13の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0096】
【表13】
【0097】
実施例14
和食の食品として、かぶと豆腐の煮物を表14の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0098】
【表14】
【0099】
実施例15
和食の食品として、五目あんかけうどんを表15の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0100】
【表15】
【0101】
実施例16
和食の食品として、親子丼を表16の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0102】
【表16】
【0103】
実施例17
和食の食品として、すき焼き丼を表17の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。風味が良好であった。レトルト臭が感じられなかった。
【0104】
【表17】
【0105】
実施例18
和食の食品として、味噌汁を表18の配合で製造し、F値12の条件でレトルト処理に供した。一般的な味噌汁よりも味噌やだし粉末を減らしているが、一般的な味噌汁と同等なだし風味があった。レトルト臭が感じられなかった。
【0106】
【表18】
【0107】
実施例19
風味の強化調味料として、コンブオイル入り醤油を表19の配合で製造した。
【0108】
【表19】
【0109】
実施例20
和風味の強化調味料として、コンブオイル入り味噌を表20の配合で製造した。
【0110】
【表20】
【0111】
実施例21
和風味の強化調味料として、コンブオイルを配合したつゆを製造した。
【0112】
【表21】
【0113】
実施例における食品のヨウ素濃度は、いずれも150μg未満/100gとなった。また、実施例における調味料のヨウ素濃度は、いずれも500μg未満/100gであった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の和風味強化剤は、食品の和風味を強化するために好適に使用できる。
本発明のマスキング剤は、食品のレトルト臭をマスキングできる。
本発明の和風味強化剤又はマスキング剤を用いることにより、和風味が強化され、レトルト臭がマスキングされた、ベビーフード、介護食、病院食等のレトルト食品を好適に提供できる。
【0115】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献及び本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。
図1
図2