【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
図1に示される単結晶引き上げ装置11において、超電導コイルの配置を
図3に示されるコイル配置(コイル軸間のX軸を挟む中心角度αが60度;2対のコイルを1対ずつ別々に配線)としたものを用いて、以下に示す引き上げ条件で、半導体単結晶の引き上げを行った。
【0057】
(引き上げ条件)
使用坩堝 :直径800mm
単結晶原料のチャージ量:400kg
育成する単結晶 :直径306mm
単結晶の直胴部の長さ :40cm
磁束密度 :コイル軸を含む水平面内の中心軸において3000Gとな
るように調整
単結晶回転速度 :6rpm
坩堝回転速度 :0.03rpm
【0058】
[実施例2]
図1に示される単結晶引き上げ装置11において、超電導コイルの配置を
図4に示されるコイル配置(中心角度αが70度;2対のコイルを1対ずつ別々に配線)としたものを用いる以外は実施例1と同様にして、半導体単結晶の引き上げを行った。
【0059】
[実施例3]
図1に示される単結晶引き上げ装置11において、超電導コイルの配置を
図5に示されるコイル配置(中心角度αが80度;2対のコイルを1対ずつ別々に配線)としたものを用いる以外は実施例1と同様にして、半導体単結晶の引き上げを行った。
【0060】
[比較例1]
図1に示される単結晶引き上げ装置11において、超電導コイルの配置を
図6に示されるコイル配置(中心角度αが90度;2対のコイルを1対ずつ別々に配線)としたものを用いる以外は実施例1と同様にして、半導体単結晶の引き上げを行った。
【0061】
[比較例2]
図1に示される単結晶引き上げ装置11において、超電導コイルの配置を
図7に示されるコイル配置(コイル軸間のX軸を挟む中心角度αが60度;2対のコイルをすべて直列に配線)としたものを用いる以外は実施例1と同様にして、半導体単結晶の引き上げを行った。
【0062】
実施例1〜3及び比較例1の単結晶引き上げ装置を用いた場合の、コイル軸を含む水平面内の磁束密度分布を測定した。その結果を
図8〜11に示す。ここで、
図8(a)〜11(a)は、磁力線方向がX軸方向の場合のコイル軸を含む水平面内の磁束密度分布であり、
図8(b)〜11(b)は、磁力線方向がY軸方向の場合のコイル軸を含む水平面内の磁束密度分布である。また、磁力線方向がX軸方向の場合と磁力線方向がY軸方向の場合の坩堝壁での磁束密度を表1に示す。また、磁力線方向の磁束密度分布を示すグラフを
図16に、磁力線と垂直方向の磁束密度分布を示すグラフを
図17に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
更に、解析ソフトとしてFEMAG−TMFを使用し、実施例1〜3及び比較例1の単結晶引き上げ装置を用いて上記に示す引き上げ条件で単結晶の引き上げを行った場合の単結晶の直胴部の長さが40cmとなった時点の融液の断面(磁力線と平行な断面と垂直な断面)における流速分布をシミュレーション解析した。その解析結果を
図12〜15に示す。なお、
図12(a)〜15(a)は、磁力線と平行な断面における流速分布であり、
図12(b)〜15(b)は、磁力線と垂直な断面における流速分布である。
【0065】
また、実施例1〜3及び比較例1、2で育成した半導体単結晶について、酸素濃度を調べた。その結果を
図18に示す。
【0066】
コイル軸間のX軸を挟む中心角度αを60度(α’を120度)とし、2対のコイルを1対ずつ別々に配線した実施例1では、電流方向の切り替えにより磁力線方向をX軸方向、Y軸方向と切り替えた場合に、
図8(a)及び
図8(b)に示されるように、それぞれ異なる磁場分布が発生していた。また、表1及び
図16、17に示されるように、磁力線方向がX軸方向の場合、X軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図16)であり、X軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値を超えた値となっており、Y軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図17)であり、Y軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の120%以下となっていた。また、表1及び
図16、17に示されるように、磁力線方向がY軸方向の場合、Y軸上の磁束密度分布は上に凸の分布(
図16)であり、Y軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の60%以下となっており、X軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図17)であり、X軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の170%以上となっていた。また、
図12(a)及び
図12(b)に示されるように、融液の断面における流速分布も、磁力線と平行な断面と磁力線と垂直な断面でそれぞれ異なっていた。また、
図18に示されるように、磁力線方向がX軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶の酸素濃度は10〜15ppma−JEIDA程度であり、磁場を切り替えて磁力線方向がY軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶の酸素濃度は3ppma−JEIDA程度であることから、磁場の切り替えによって酸素濃度が大きく異なる単結晶を製造できていることが分かる。また、育成した低酸素濃度の単結晶には、成長縞が見られなかった。
【0067】
コイル軸間のX軸を挟む中心角度αを70度(α’を110度)とし、2対のコイルを1対ずつ別々に配線した実施例2では、電流方向の切り替えにより磁力線方向をX軸方向、Y軸方向と切り替えた場合に、
図9(a)及び
図9(b)に示されるように、それぞれ異なる磁場分布が発生していた。また、表1及び
図16、17に示されるように、磁力線方向がX軸方向の場合、X軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図16)であり、X軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値を超えた値となっており、Y軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図17)であり、Y軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の120%以下となっていた。また、表1及び
図16、17に示されるように、磁力線方向がY軸方向の場合、Y軸上の磁束密度分布は上に凸の分布(
図16)であり、Y軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の60%以下となっており、X軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図17)であり、X軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の170%以上となっていた。また、
図13(a)及び
図13(b)に示されるように、融液の断面における流速分布も、磁力線と平行な断面と磁力線と垂直な断面でそれぞれ異なっていた。また、
図18に示されるように、磁力線方向がX軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶の酸素濃度は8〜11ppma−JEIDA程度であり、磁場を切り替えて磁力線方向がY軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶の酸素濃度は3.5ppma−JEIDA程度であることから、磁場の切り替えによって酸素濃度が大きく異なる単結晶を製造できていることが分かる。また、育成した低酸素濃度の単結晶には、成長縞が見られなかった。
【0068】
コイル軸間のX軸を挟む中心角度αを80度(α’を100度)とし、2対のコイルを1対ずつ別々に配線した実施例3では、電流方向の切り替えにより磁力線方向をX軸方向、Y軸方向と切り替えた場合に、
図10(a)及び
図10(b)に示されるように、それぞれ異なる磁場分布が発生していた。また、表1及び
図16、17に示されるように、磁力線方向がX軸方向の場合、X軸上の磁束密度分布は上に凸の分布(
図16)であり、X軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値未満となっており、Y軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図17)であり、Y軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の120%を超えた値となっていた。また、表1及び
図16、17に示されるように、磁力線方向がY軸方向の場合、Y軸上の磁束密度分布は上に凸の分布(
図16)であるものの、Y軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の60%を超える値となっており、X軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図17)であるものの、X軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の170%未満となっていた。また、
図14(a)及び
図14(b)に示されるように、融液の断面における流速分布も、磁力線と平行な断面と磁力線と垂直な断面でそれぞれ異なっていた。また、
図18に示されるように、磁力線方向がX軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶の酸素濃度は6〜8ppma−JEIDA程度であり、磁場を切り替えて磁力線方向がY軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶の酸素濃度は4ppma−JEIDA程度であることから、磁場の切り替えによって酸素濃度が異なる単結晶を製造できていることが分かる。また、育成した低酸素濃度の単結晶には、成長縞が見られなかった。
【0069】
一方、コイル軸間のX軸を挟む中心角度αを90度(α’も90度)とし、2対のコイルを1対ずつ別々に配線した比較例1では、
図11(a)及び
図11(b)に示されるように、電流方向の切り替えにより磁力線方向をX軸方向、Y軸方向と切り替えた場合にも、磁場分布はそのまま90度回転するだけであり、それぞれ異なる磁場分布は発生していなかった。また、表1及び
図16、17に示されるように、磁力線方向がX軸方向の場合、X軸上の磁束密度分布は上に凸の分布(
図16)であり、X軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値未満となっており、Y軸上の磁束密度分布は下に凸の分布(
図17)であり、Y軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の120%を超えた値となっていた。また、表1及び
図16、17に示されるように、磁力線方向がY軸方向の場合にも、磁力線方向がX軸方向の場合の磁束密度分布が90度回転した以外は同様の磁束密度分布となっていた。また、
図15(a)及び
図15(b)に示されるように、融液の断面における流速分布も、磁力線と平行な断面と磁力線と垂直な断面でそれぞれ同じであった。また、
図18に示されるように、磁力線方向がX軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶と磁力線方向がY軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶中の酸素濃度に違いは見られず、どちらも5〜6ppma−JEIDA程度であることから、磁場を切り替えても酸素濃度が異なる単結晶を製造できないことが分かる。また、育成した低酸素濃度の単結晶には、成長縞が見られなかった。
【0070】
また、コイル軸間のX軸を挟む中心角度αを60度とし、2対のコイルをすべて直列に配線した比較例2では、磁力線方向が互いに異なり、かつ磁場分布が互いに異なる、2種類の磁場を切り替えて発生させることができないため、
図18に示されるように、実施例1において磁力線方向がX軸方向である水平磁場を印加して引き上げた単結晶と同程度の酸素濃度の高い(10〜15ppma−JEIDA程度の)単結晶しか製造することができなかった。なお、育成した高酸素濃度の単結晶には、成長縞が見られた。
【0071】
以上のことから、本発明の単結晶引き上げ装置であれば、育成する単結晶中の酸素濃度を低減できるとともに、育成する単結晶中の成長縞を抑制することができ、同じ引き上げ装置において、簡便な方法で酸素濃度の高い単結晶も得ることができることが明らかとなった。また、コイル軸間のX軸を挟む中心角度αを60度以上70度以下とすることで、磁場を切り替えた場合の単結晶の酸素濃度の差が特に大きくなることが明らかとなった。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。