【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用技術研究開発事業/燃料電池自動車及び水素ステーション用低コスト機器・システム等に関する研究開発/水素ステーションの高圧水素用ホースとシールシステムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フッ素系樹脂(A)における水酸基と相互作用又は反応しうる官能基の含有率が、0.01〜10モル%であることを特徴とする請求項1に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂組成物。
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(C)のメルトフローレート(210℃、荷重2160g)が、0.5〜100g/10分であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂組成物。
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂組成物におけるフッ素系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有比率〔(A)/(B)〕が、1/5〜5/1(重量比)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
本発明のEVOH樹脂組成物は、水酸基と相互作用又は反応しうる官能基を有するフッ素系樹脂(A)、カルボキシル基又は酸無水物基を有する熱可塑性樹脂(B)(但し、フッ素系樹脂(A)及びカルボキシル基又は酸無水物基を有するEVOHを除く)、及びEVOH(C)を含有する。まず、EVOH(C)について説明する。
【0016】
<エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(C)>
本発明のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(EVOH)(C)は、ガスバリア性、水不溶性を有する公知の熱可塑性樹脂であり、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体(エチレン−ビニルエステル共重合体)をケン化させることにより得られる樹脂である。重合は公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
このようにして製造されるEVOH(C)は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、場合により、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含む。
EVOH(C)は、エチレン由来の構造単位を有するので、エチレン由来の構造単位を有さないポリビニルアルコール樹脂よりも融点と分解温度の差が大きく、溶融成形が可能である。また、エチレン由来の構造単位を有することによりポリビニルアルコール樹脂と比較して耐水性が付与される。
【0017】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、経済的な観点から、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0018】
EVOH(C)におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値にて、好ましくは15〜60モル%、特に好ましくは18〜38モル%、更に好ましくは18〜34モル%である。エチレン構造単位の含有量が少なすぎると耐水性が低下する傾向があり、エチレン構造単位の含有量が多すぎると、超高圧下での耐水素性や水素ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0019】
EVOH(C)のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH(C)は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定した値にて、好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95〜100モル%、更に好ましくは99.5〜100モル%である。ケン化度が低すぎると、ガスバリア性等が低下する傾向にある。
【0020】
また、EVOH(C)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、好ましくは0.5〜100g/10分であり、特に好ましくは0.5〜50g/10分、更に好ましくは1〜30g/10分である。該メルトフローレートが小さすぎると、成形時に押出機内が高トルク状態となって押出加工が困難となる傾向にあり、大きすぎると、ガスバリア性等が低下する傾向にある。
【0021】
また、本発明に用いられるEVOH(C)は、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位(場合により、未ケン化のビニルエステル構造単位を含む)の他、本発明の効果を阻害しない範囲(通常3モル%以下、好ましくは2モル%以下)で、以下に示す単量体に由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。
かかる単量体としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類;ビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0022】
さらに、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体等も挙げられる。
【0023】
さらにビニルシラン類としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン等を挙げることができる。なお、EVOH(C)においてカルボン酸変性EVOHは成形性の観点で好ましくないため、カルボン酸変性EVOHを形成する単量体を除くことが好ましい。
これらは単独でも複数種を同時に用いてもよい。
これらの単量体由来の構造単位は、通常、公知の手法にてエチレンおよびビニルエステル系モノマーと上記単量体を共重合することによりEVOH(C)に導入することができる。
【0024】
また、EVOH(C)として、公知の手法でウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を用いることも可能である。
【0025】
さらに、EVOH(C)は、側鎖に一級水酸基を有する構造単位(a)を有することも可能である。特に側鎖に一級水酸基を有する構造単位(a)を有するEVOH系樹脂を用いる場合は、非晶部の水素結合を損なうことなく、結晶サイズを小さくできるので、低エチレン変性であっても水素バリア性等を損なうことなく融点を低くできる点で好ましい。かかる側鎖に一級水酸基を有する構造単位(a)としては、下記のとおり、側鎖に一級水酸基を有するモノマー由来の構造単位が挙げられる。
例えば、アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール等のモノヒドロキシアルキル基含有モノマー;2−メチレン−1,3−プロパンジオール等の2置換ジオールモノマー;3,4−ジオール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン等の1,2−ジオール基含有モノマー;グリセリンモノアリルエーテルやヒドロキシメチルビニリデンジアセテート、その他エチレン性不飽和単量体が挙げられる。その他エチレン性不飽和単量体としては、例えば、ヒドロキシメチルビニリデンジアセテートが挙げられ、具体的には、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチロニルオキシ−2−メチレンプロパンなどが挙げられる。中でも、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパンが製造容易性の点で好ましく用いられる。これらモノマーのうち1種又は2種以上を含んでいてもよい。
これらモノマーのうち側鎖1,2−ジオール構造が得られる1,2−ジオール基含有モノマーが特に好ましい。
【0026】
上記構造単位(a)を導入するためには、上記モノマーの水酸基をエステル化等の常法により保護した状態で共重合を行うことが好ましい。この場合、モノマーとしては、例えば2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテート、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジプロピオネート、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジブチレート等の2置換ジオールモノマーのエステル化物;4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等の1,2−ジオール含有モノマーのアシル化物;ビニルエチレンカーボネート等のビニルカーボネートモノマー、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン等が挙げられる。
【0027】
側鎖に一級水酸基を有する構造単位(a)を有するEVOHにおける該構造単位(a)の含有量は、好ましくは0.5〜15モル%であり、特に好ましくは0.5〜12モル%、更に好ましくは1〜8モル%、殊に好ましくは2〜4モル%である。該構造単位(a)の含有量が少なすぎると、融点降下の効果が表れにくく、溶融成形性が損なわれる傾向があり、該構造単位(a)の含有量が多すぎると、樹脂の結晶性が低下しすぎるためか、耐水性が低下する傾向がある。
該構造単位(a)の含有量を調整するに際しては、構造単位(a)の導入量が異なる少なくとも2種のEVOHをブレンドして調整することも可能である。その際のEVOHのエチレン含有量の差は2モル%未満であることが好ましい。また、構造単位(a)を有するEVOHと、構造単位(a)を有しないEVOHとをブレンドして調整することも可能である。
【0028】
従来、EVOHは、エチレン含有量が減少するに従って融点が上昇するため、樹脂の熱分解温度と融点との差が小さくなる傾向があり、成形加工性が悪化するという問題がある。「POLYVINYL ALCOHOL-DEVELOPMENTS」C.A.FINCH 著の第205頁のFigure8.4によると、エチレン含有量が20モル%未満の場合、融点が200℃以上になることが図示され、その領域では樹脂の熱分解温度との差が小さいことがわかる。本発明では、EVOHに該構造単位(a)を含有させることで、樹脂の結晶サイズが小さくなり、融点が低下し、樹脂の熱分解温度との差が大きくなる傾向があり、成形加工性が向上する。
【0029】
側鎖に一級水酸基を有する構造単位(a)としては、例えば、下記一般式(1)の構造単位、すなわち側鎖に1,2−グリコール結合を有する構造単位であることが好ましい。
【化1】
〔式中、R
1〜R
3はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R
4〜R
6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を示す〕
【0030】
R
1〜R
6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。該有機基としては特に限定しないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。R
1〜R
3としては、好ましくは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、特に好ましくは水素原子である。R
4〜R
6としては、好ましくは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、特に好ましくは水素原子である。
【0031】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合鎖であり、結晶性の向上や非晶部におけるフリーボリューム(自由体積空孔サイズ)低減による点から単結合であることが好ましい。上記結合鎖としては、特に限定しないが、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CH
2O)m−、−(OCH
2)m−、−(CH
2O)mCH
2−等のエーテル結合部位を含む構造単位;−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)mCO−、−CO(C
6H
4)CO−等のカルボニル基を含む構造単位;−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−等の硫黄原子を含む構造単位;−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造単位;−HPO
4−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造単位;−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−等の珪素原子を含む構造単位;−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−等のチタン原子を含む構造単位;−Al(OR) −、−OAl(OR) −、−OAl(OR) O−等のアルミニウム原子等の金属原子を含む構造単位などが挙げられる。これらの構造単位中、Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基であることが好ましい。またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、特に好ましくは1〜10である。これら結合鎖のうち、製造時あるいは使用時の安定性の点から、炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、さらには炭素数1〜6の炭化水素鎖、特に炭素数1の炭化水素鎖が好ましい。
【0032】
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における特に好ましい構造単位は、R
1〜R
3及びR
4〜R
6がすべて水素原子であり、Xが単結合である、下記構造式(1a)で示される構造単位である。
【0034】
また、本発明で使用されるEVOH(C)は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、例えば、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、他の共重合成分が異なるものなどを挙げることができる。
【0035】
<フッ素系樹脂(A)>
本発明に用いられるフッ素系樹脂(A)は、水酸基と相互作用又は反応しうる官能基が導入されたフッ素系樹脂である。水酸基と相互作用又は反応しうる官能基(以下、「極性官能基」とも称する。)としては、好ましくはカルボニル含有基又は水酸基であり、より好ましくはカルボニル含有基である。
【0036】
前記カルボニル含有基としては、例えば、カーボネート基、ハロホルミル基、アルデヒド基(ホルミル基を含む)、ケトン基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸無水物基、及びイソシアナト基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に好ましくは、カーボネート基、フルオロホルミル基、クロロホルミル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、カルボン酸無水物基であり、更に好ましくはカルボン酸無水物基である。
【0037】
このようなフッ素系樹脂(A)は、上記極性官能基がEVOH(C)の水酸基と相互作用又は反応することができるので、両者の界面で化学的結合が形成されたり、EVOH(C)の一部とフッ素系樹脂(A)とがブロックポリマーを生成し、生成したブロックコポリマーが相溶化剤として働くことにより、EVOH(C)の一部とフッ素系樹脂(A)との界面を強固なものとすることができる。
【0038】
さらに、フッ素系樹脂(A)は、極性官能基を有しないフッ素樹脂と同様に、水素ガス70MPa環境下での水素溶解度が低いという特徴を有している。これにより、EVOH(C)とフッ素系樹脂(A)の混合系において、EVOH(C)の低水素溶解性を損なわずに済むことを期待できる。
【0039】
フッ素系樹脂(A)は、構成モノマーとして少なくともテトラフルオロエチレンを含むフッ素系共重合体であることが好ましい。フッ素系共重合体には、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、CH
2=CX(CF
2)n Y(X、Yはそれぞれ独立にフッ素原子又は水素原子であり、nは2〜10である)で表わされるモノマー(以下、当該モノマーを「FAE」と称する)等の他のフッ素含有ビニルモノマーの他、エチレン、プロピレンなどのオレフィン系ビニルモノマー、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、他のハロゲン含有ビニルモノマーが共重合されていてもよい。
【0040】
前記FAEにおいて、式中のnは2〜8が好ましく、2〜6が特に好ましく、2,4,6が更に好ましい。nが小さすぎると、樹脂組成物の成形体の耐熱性や耐ストレスクラックが低下する傾向にある。nが大きすぎると、重合反応性が不十分になる傾向にある。なかでも、nが2〜8の範囲にあると、FAEの重合反応性が良好である。さらには、耐熱性及び耐ストレスクラック性に優れた成形体が得られやすくなる。FAEは1種又は2種以上を用いることができる。このようなFAEの好ましい具体例としては、CH
2=CH(CF
2)
2F、CH
2=CH(CF
2)
4F、CH
2=CH(CF
2)
6F、CH
2=CF(CF
2)
3H等が挙げられる。FAEとしては、CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)が更に好ましい。
【0041】
上記フッ素樹脂の具体例としては、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体などが挙げられる。
【0042】
これらのうち、エチレンを構成モノマーとして含有するフッ素系共重合体が好ましく、例えば、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体、及びエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体からなる群より選択される一種であることが好ましい。特に好ましくはエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体である。以下、エチレンを「E」、テトラフルオロエチレンを「TFE」、ヘキサフルオロプロピレンを「HFP」と表し、エチレン/テトラフルオロエチレンを「E/TFE系共重合体」、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体を「E/TFE/HFP系共重合体」と表わすことがある。
【0043】
また、耐ストレスクラック性を改善したり、もしくはフッ素樹脂の生産性を良好に保つために、E/TFE系共重合体やE/TFE/HFP系共重合体に、CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)なるコモノマーを共重合することも好ましい。なお、当該CH
2=CH−RfにおけるRfの炭素数は4が特に好ましい。
【0044】
上記のようなフッ素樹脂に官能基を導入する方法としては、TFEやHFP等のフッ素含有ビニルモノマーを重合してフッ素樹脂を製造する際に、フッ素含有ビニルモノマーと極性官能基を有するビニルモノマーとを共重合させる方法;極性官能基を有する重合開始剤又は連鎖移動剤の存在下でフッ素含有ビニルモノマーを重合することにより、重合体末端に極性官能基を導入する方法;極性官能基を有するビニルモノマーとフッ素樹脂とを混錬した後、放射線照射する方法;極性官能基を有するビニルモノマー、フッ素樹脂及びラジカル開始剤を混錬した後、溶融押出しすることにより当該極性官能基を有するコモノマーをフッ素樹脂にグラフト重合する方法等が挙げられる。このうち好ましくは、特開2004−238405号公報に記載のように、フッ素含有ビニルモノマーと、極性官能基を有するコモノマー、例えば無水イタコン酸や無水シトラコン酸とを共重合させる方法である。
【0045】
前記極性官能基を有するビニルモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネンー2,3−ジカルボン酸無水物(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物ともいう。)等のカルボン酸無水物基を与えるモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2COOH、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2COOH、CH
2=CHCF
2CF
2CF
2COOH等のカルボキシル基を与えるモノマー、及びそれらのメチルエステル、エチルエステル等のアルキルエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0046】
また、前記極性官能基を有する重合開始剤としては、例えば、パーオキシカーボネート基を有するパーオキシド、パーオキシエステルを有するパーオキシドを用いることができ、中でも、パーオキシカーボネート基を有するパーオキシドがより好ましく用いられる。パーオキシカーボネート基を有するパーオキシドとしては、例えば、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が好ましく用いられる。
また、極性官能基を有する連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、無水酢酸等のカルボン酸、チオグリコール酸、チオグリコール等が挙げられる。
【0047】
フッ素系樹脂(A)における極性官能基の含有率((極性官能基のモル数/フッ素樹脂構成モノマーのモル数)×100)は、好ましくは0.01〜10モル%、特に好ましくは0.05〜5モル%、更に好ましくは0.1〜3モル%である。極性官能基の含有率が低すぎると、EVOH(C)との親和性が低下しすぎて、フッ素系樹脂(A)の微分散が達成されにくくなり、結果として、均質な樹脂組成物が得られにくくなる傾向がある。すなわち、フッ素系樹脂(A)が微小な島となる海島構造が形成されにくくなり、その結果、耐屈曲疲労性の改善が不十分となるだけでなく、ボイドや凝集物が発生し、EVOH(C)本来の利点であるガスバリア性や溶融成形性が低下する原因ともなる傾向がある。
【0048】
本発明で使用するフッ素系樹脂(A)は、融点が120〜240℃であることが好ましく、特に好ましくは150〜210℃、更に好ましくは170〜190℃である。樹脂組成物の主成分であるEVOH(C)の融点よりも高くなりすぎると、組成物を製造する際に溶融温度を250〜290℃の高温まで上げる必要があり、その結果、EVOH(C)の劣化や色調悪化を引き起こす傾向がある。通常、極性官能基の含有率が上記範囲内にあるフッ素系樹脂(A)では、融点が上記範囲となる。なお融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、昇温速度10℃/minで測定される融解ピーク温度(℃)を表す。
【0049】
フッ素系樹脂(A)の容量流速(以下「Q値」という。)は、好ましくは0.1〜1000mm
3/秒で、特に好ましくは、1〜500mm
3/秒、更に好ましくは、2〜200mm
3/秒である。Q値は、フッ素樹脂を溶融成形する場合に問題となる樹脂の溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。すなわち、Q値が大きいと分子量が低く、小さいと分子量が高いことを示す。ここで、Q値は、島津製作所社製フローテスタを用いて、当該フッ素樹脂の融点より50℃高い温度において、荷重7kg下に直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に押出すときの樹脂の押出し速度である。Q値が小さすぎると当該フッ素樹脂の押出し成形が困難となる傾向があり、大きすぎると樹脂の機械的強度が低下する傾向がある。
【0050】
以上のようなフッ素系樹脂(A)の製造方法については特に制限はなく、通常、フッ素含有ビニルモノマー、その他のコモノマーを反応器に装入し、一般に用いられているラジカル重合開始剤、連鎖移動剤を用いて共重合させる方法が採用できる。重合方法の例としては、公知の方法である塊状重合;重合媒体としてフッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合;重合媒体として水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合;重合媒体として水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合が挙げられるが、溶液重合が特に好ましい。重合は、一槽ないし多槽式の撹拌型重合装置、管型重合装置等を使用し、回分式又は連続式操作として実施することができる。
【0051】
ラジカル重合開始剤としては、半減期が10時間となる温度が0〜100℃である開始剤が好ましく、20〜90℃である開始剤がより好ましい。例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート;tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル;イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド;(Z(CF
2)p COO)
2(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、pは1〜10の整数である。)等の含フッ素ジアシルペルオキシド;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0052】
重合媒体としては、上記したようにフッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒、水性媒体等が挙げられる。
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール;1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボン;1−ヒドロトリデカフルオロヘキサン等の含フッ素ハイドロカーボンなどが挙げられる。
重合条件は特に限定しないが、例えば重合温度は0〜100℃が好ましく、20〜90℃が特に好ましい。また重合圧力は0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaが特に好ましい。重合時間は重合温度及び重合圧力等により変わりうるが、1〜30時間が好ましく、2〜10時間が特に好ましい。
【0053】
<熱可塑性樹脂(B)>
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(B)は、カルボキシル基又は酸無水物基を有する熱可塑性樹脂(B)(但し、フッ素系樹脂(A)及びカルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を除く)である。
【0054】
かかる熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸又はその無水物等の酸で変性したものが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、エチレン−プロピレン(ブロックまたはランダム)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体等が挙げられる。
かかる熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、不飽和カルボン酸又はその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系樹脂を挙げることができる。特に、酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂が好ましく、より具体的には、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックまたはランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等から選ばれた1種または2種以上の混合物が好適なものとして挙げられる。
【0055】
〔酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム及び酸変性TPEについて〕
熱可塑性樹脂(B)として、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム又は酸変性TPE(熱可塑性エラストマー)を用いることができるが、樹脂組成物の耐衝撃性が向上する点で酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが好まし
く、本発明においては酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが用いられる。
本発明に用いられる酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムは、特に限定されないが、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン−ブテン共重合体ゴム(EBR)、エチレン−オクテン共重合体ゴム(EOR)等を不飽和カルボン酸またはその無水物等の酸で変性したものであり、具体的には不飽和カルボン酸またはその無水物をエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムに付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムを挙げることができ、特に酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが好ましく、より具体的には無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが挙げられる。特に耐衝撃性が向上する点で脆化温度が−40℃以下であるものが好適である。特に−60℃以下、更に−70℃以下が好ましい。脆化温度の下限については通常−150℃以上である。
【0056】
本発明に用いられる酸変性TPEは、特に限定されないが、オレフィン系(TPO)、スチレン系(TPS)、エステル系(TPEE)、アミド系(TPAE)等の各TPEを例示でき、TPO又はTPSが好ましい。TPOのハードセグメントはオレフィン系樹脂からなり、ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)を例示できる。TPOのソフトセグメントとしては、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム(EPR)又はエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)等を例示できる。TPSとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、それらを水素添加したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0057】
熱可塑性樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2160g)は、好ましくは0.1〜100g/10分であり、特に好ましくは0.3〜50g/10分、更に好ましくは1〜30g/10分である。メルトフローレートが小さすぎると、成形時に押出機内が高トルク状態となって押出加工が困難となる傾向にあり、大きすぎると、EVOH(C)との溶融粘度差が大きくなり、ポリマーアロイ化時のドメインサイズが大きくなる傾向がある。
【0058】
熱可塑性樹脂(B)の融点は、好ましくは50〜240℃、特に好ましくは60〜230℃である。融点が高すぎると、成形加工機の設定温度を高めに設定する必要があり、EVOH(C)の熱劣化により成形加工性が低下する傾向があり、融点が低すぎると、成形物を高温で使用した際に機械特性が低下する傾向がある。
なお融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、昇温速度10℃/minで測定される融解ピーク温度(℃)を表す。
【0059】
<エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂組成物>
本発明のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(EVOH)樹脂組成物は、水酸基と相互作用又は反応しうる官能基を有するフッ素系樹脂(A)、カルボキシル基又は酸無水物基を有する熱可塑性樹脂(B)(但し、フッ素系樹脂(A)及びカルボキシル基又は酸無水物基を有するEVOHを除く)、及びEVOH(C)を含有し、これらを所定比率で配合し、溶融混練することにより調製することができる。
【0060】
溶融混練は、押出機、バンバリーミキサー、ニーダールーダー、ミキシングロール、ブラストミル等の公知の混練機を用いることができる。例えば、押出機の場合、単軸又は二軸の押出機等が挙げられる。溶融混練後、樹脂組成物をストランド状に押出し、カットしてペレット化する方法が採用され得る。
かかる溶融混練は、フッ素系樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)及びEVOH(C)を一括投入して行ってもよいし、EVOH(C)を二軸押出機で溶融混練しながら、フッ素系樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)を溶融状態、あるいは固体状態でサイドフィードして行ってもよい。
【0061】
溶融混練温度は、フッ素系樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)及びEVOH(C)の種類に応じて適宜選択され、好ましくは210〜250℃、特に好ましくは210〜240℃、更に好ましくは215〜235℃、殊に好ましくは215〜225℃である。
【0062】
本発明のEVOH樹脂組成物は、フッ素系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との総含有量が、EVOH樹脂組成物中、好ましくは1〜40重量%であり、特に好ましくは5〜35重量%、更に好ましくは10〜35重量%である。総含有量が少なすぎると、低温特性と耐水素脆性に劣る傾向があり、総含有量が多すぎると、ガスバリア性に劣る傾向がある。
【0063】
フッ素系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有比率〔(A)/(B)〕は、好ましくは1/5〜5/1(重量比)であり、特に好ましくは1/3〜3/1(重量比)、更に好ましくは1.1/1〜2.5/1(重量比)である。含有比率が小さすぎると、EVOH(C)の水酸基との反応が増加するためか、溶融混練過程において、ゲル化等により成形性等が低下する傾向がある。含有比率が大きすぎると、耐衝撃性や柔軟性が低くなる傾向があるが、含有比率は1/1(重量比)より大きいことが好ましい。
【0064】
以上のような組成を有するEVOH樹脂組成物は、主たる成分であるEVOH(C)をマトリックスとし、フッ素系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)を島とする海島構造を有するポリマーアロイを形成することができる。フッ素系樹脂(A)の極性官能基がEVOH(C)の水酸基と相互作用又は反応することができるので、海島構造の界面は強固な界面となることができる。さらに、前記EVOH樹脂組成物の海島構造は、島部の平均径が、好ましくは0.1〜3μm、特に好ましくは0.1〜1.5μm、更に好ましくは0.1〜1.3μm、殊に好ましくは0.1〜1μmである。平均径が大き過ぎると耐水素性が低下する傾向があり、小さ過ぎると溶融粘度が高くなる傾向がある。
【0065】
本発明のEVOH樹脂組成物は溶融成形される為、加工性が低下しないように溶融粘度は、220℃、荷重2160gでのMFRが0.3以上であることが好ましく、更には0.5以上、特には0.7以上であることが好ましい。上限については通常10以下である。MFRを特定範囲とする方法としては、各樹脂成分の溶融粘度、フッ素系樹脂(A)の官能基の量、熱可塑性樹脂(B)のカルボキシル基又は酸無水物基の量により一概には言えないが、フッ素系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の配合比を調整したり、EVOH(C)と、フッ素系樹脂(A)熱可塑性樹脂(B)の合計量との配合比を調整したり、樹脂組成物を製造する際の加工温度を調整したり、加工機のスクリューパターンを調整したりすることで、MFRを特定範囲にすることができる。
【0066】
本発明のEVOH樹脂組成物は、酢酸、ホウ酸、リン酸等の酸類やそのアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属塩を含有することが、樹脂組成物の熱安定性、ロングラン成形性、積層体としたときの接着性樹脂との層間接着性、加熱延伸成形性等が向上する点で好ましく、特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩がその効果に優れる点で好ましく用いられる。
【0067】
かかる金属塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属;酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸;硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸の各金属塩が挙げられ、好適には酢酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩である。また、該金属塩の含有量としては、樹脂組成物に対して金属換算で好ましくは5〜1000ppm、特に好ましくは10〜500ppm、更に好ましくは20〜300ppmである。かかる含有量が少なすぎると、その含有効果が充分得られない傾向があり、逆に含有量が多すぎると、得られる成形物の外観が悪化する傾向がある。
なお、樹脂組成物中に2種以上のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩が含有される場合は、その総計が上記の含有量の範囲にあることが好ましい。また、ホウ酸を含有させるときは、ホウ素換算での含有量が好ましくは10〜10000ppm、特に好ましくは20〜2000ppm、更に好ましくは50〜1000ppmである。
【0068】
さらに、本発明のEVOH樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲において、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等) 、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等) 、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等) 、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10, 000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等) などの滑剤、無機塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなど)、酸素吸収剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤(例えばタルク微粒子等)、スリップ剤(例えば無定形シリカ等)、充填材(例えば無機フィラー等)、他樹脂(例えば熱可塑性樹脂(B)以外のポリオレフィン、ポリエステル等)などを含有していても良い。
酸素吸収剤としては、無機化合物系酸素吸収剤、有機化合物系酸素吸収剤、高分子化合物系酸素吸収剤が挙げられる。無機化合物系酸素吸収剤として、例えば、還元鉄粉類、更にこれに吸水性物質や電解質等を加えたもの、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等が挙げられる。有機化合物系酸素吸収剤として、例えば、アスコルビン酸、更にその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス−サリチルアルデヒド−イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト−シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン−コバルト錯体等の含窒素化合物と遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物、トリフェニルメチル化合物等が挙げられる。高分子系酸素吸収剤として、例えば、窒素含有樹脂と遷移金属との配位結合体(例えばMXDナイロンとコバルトの組合せ)、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えばポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素−炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えばポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えばポリケトン等)、アントラキノン重合体(例えばポリビニルアントラキノン)等が挙げられる。更にこれらの配合物に光開始剤(例えばベンゾフェノン等)や過酸化物補足剤(例えば市販の酸化防止剤等)や消臭剤(例えば活性炭等)を配合したものなどが挙げられる。
【0069】
本発明のEVOH樹脂組成物は、任意の成形物に成形することが可能である。例えば単層のフィルム、シート、成形物とすることも可能であるし、他の樹脂層および任意の基材と積層した多層構造体とすることも可能である。
【0070】
本発明のEVOH樹脂組成物は、公知一般のEVOHに適用される成形方法が適用可能である。例えば、溶液流延法、溶液コート法等の溶液成形法や、押出成形法、共押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、回転成形法等の溶融成形法が挙げられる。
本発明のEVOH樹脂組成物からなるフィルムや多層構造体等は、さらに公知の手法にて加工することも可能である、例えば、ドライラミネート法や、一軸延伸法、二軸延伸法、真空成型法、圧空成形法等の延伸法が採用可能である。
【0071】
<高圧ガスホース又は複合容器>
本発明の高圧ガスホース又は複合容器(以下単に「ホース又は複合容器」と称することがある。)は、上記EVOH樹脂組成物からなる層(以下「ガスバリア層」と称することがある。)を少なくとも1層含むものである。本発明において「ホース」とは、高圧ガスを移送するための樹脂製の「樹脂チューブ」と「補強層」を有する管を意味する。本発明において「複合容器」とは、高圧ガスを収容するための樹脂製の「樹脂ライナー」と「補強層」を有する容器を意味する。
好ましくは多層構造からなる樹脂チューブ又は樹脂ライナーがガスバリア層を含むものである。かかるガスバリア層は単独層であってもよい。樹脂チューブ又は樹脂ライナーが多層構造である場合は、その内側層(すなわち高圧ガスと接する層)又は中間層、より好ましくは中間層として、ガスバリア層を含むものである。さらに、内側層及び/又は外側層(すなわち外気と接する層)に、耐水性、水分不透過性の熱可塑樹脂層を含むことが好ましい。なお、中間層とは、外側層と内側層の間にある層をいう。
【0072】
本発明の高圧ガスホース又は複合容器は、常用圧力が80MPa以上という高度の耐圧性が求められるため、上記樹脂チューブ又は樹脂ライナーの外側に、さらに補強層が設けられる。かかる補強層が外気と接する層(最外層)となる。さらにまた、これらの層間に、樹脂層表面をコロナ処理したり、更にエポキシ樹脂等の接着性樹脂からなる接着層が設けられていてもよい。
【0073】
従って、高圧ガスホース又は複合容器を構成する積層構造としては、内側から順に、ガスバリア層/補強層、ガスバリア層/水分不透過性熱可塑性樹脂層/補強層、水分不透過性熱可塑性樹脂層/ガスバリア層/補強層、水分不透過性熱可塑性樹脂層/ガスバリア層/水分不透過性熱可塑性樹脂層/補強層などが挙げられる。好ましくは水分不透過性熱可塑性樹脂層/ガスバリア層/水分不透過性熱可塑性樹脂層/補強層である。これらのホース又は複合容器を構成する多層構造の層間には、樹脂層表面をコロナ処理したり、更にエポキシ樹脂層を設けるなど接着層を設けてもよい。尚、多層構造体の層数は、補強層を含むのべ数にて通常2層〜15層、好ましくは3層〜5層である。
【0074】
ガスバリア層と水分不透過性熱可塑性樹脂層の厚み比は、積層体中の同種の層厚みを全て足し合わせた状態で、通常、水分不透過性熱可塑性樹脂層の方が厚く、ガスバリア層に対する水分不透過性熱可塑性樹脂層の厚み比(水分不透過性熱可塑性樹脂層/ガスバリア層)は、通常1〜100、好ましくは3〜20、特に好ましくは6〜15である。水分不透過性熱可塑性樹脂層の厚みは通常50〜5000μmである。
ガスバリア層が薄すぎる場合、得られるホース又は複合容器に高度なガスバリア性が得られ難かったり、コラプスが発生して座屈破壊を引き起こしたりする傾向がある。厚すぎる場合、柔軟性や経済性が低下する傾向がある。
また水分不透過性熱可塑性樹脂層が薄すぎる場合、得られるホース又は複合容器の強度が低下する傾向があり、厚すぎる場合は耐屈曲性や柔軟性が低下したり、内容積が減少する傾向がある。
【0075】
また、接着層を用いる場合、接着層に対するガスバリア層の厚み比(ガスバリア層/接着層)は通常1〜100、好ましくは1〜50、特に好ましくは1〜10である。接着層の厚みは10〜500μmであることが好ましい。接着層が薄すぎる場合、層間接着性が不足する傾向があり、厚すぎる場合は耐水素脆性(クラック、ブリスタ等の発生抑制)の低下や水素バリア性等が低下する傾向がある。
【0076】
水分不透過性熱可塑性樹脂層に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、疎水性熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。具体的には、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、そのアイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合体;ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体などのポリプロピレン系樹脂;ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、環状ポリオレフィン、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和力ルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの(カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂、エステル変性ポリオレフィン系樹脂)等の広義のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドやナイロン6/12、ナイロン6/66等の共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル等のビニルエステル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系重合体;塩素化ポリエチレン;塩素化ポリプロピレン;極性基を有するフッ素系樹脂、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0077】
なかでも、耐水性、強度、靱性や低温での耐久性の点で、ポリオレフィン系樹脂、特に極性基を有するポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、極性基を有するフッ素系樹脂から選ばれる少なくとも1種が好ましく、特に好ましくはカルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、極性基を有するフッ素系樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、水素耐性やクリープ特性が低い等の理由よりポリアミド系樹脂、特にナイロン6/66共重合体樹脂やナイロン6等が好ましい。尚、水分不透過性熱可塑性樹脂層の外側にエポキシ樹脂を塗工してもよい。
【0078】
接着層としては、公知の接着性樹脂を用いることが可能であり、通常、ポリオレフィン系樹脂をマレイン酸等の不飽和力ルボン酸(または不飽和力ルボン酸無水物)で変性したカルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂や、極性基を有するフッ素樹脂が好ましく用いられる。前記ポリオレフィン系樹脂としては、上述の水分不透過性の熱可塑性樹脂層に用いられる熱可塑性樹脂として列挙したポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
経済性と性能のバランスの点から、カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましく、特に好ましくはカルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂若しくはカルボン酸変性ポリエチレン系樹脂又はこれらの混合物である。
なお、上記水分不透過性熱可塑性樹脂層、接着層には、成形加工性や諸物性の向上のために、公知一般の各種添加剤や改質剤、充填材、他の樹脂等を本発明の効果を阻害しない範囲で配合してもよい。
【0079】
本発明で用いるEVOH樹脂組成物は、PVA樹脂、他のEVOH樹脂に対して接着性を有するので、特殊な態様として、PVA樹脂や他のEVOH樹脂を上記水分不透過性熱可塑性樹脂層に用いることも可能である。例えば、ポリアミド樹脂層/他のEVOH樹脂層/ガスバリア層、ポリアミド樹脂層/他のEVOH樹脂層/ガスバリア層/他のEVOH樹脂層等の層構成が挙げられる。上記ポリアミド樹脂は、好ましくはナイロン6やナイロン6系の共重合ポリアミドであり、特に好ましくはナイロン6/66である。
【0080】
補強層としては、繊維を用いた補強繊維層や、ゴムを用いた補強ゴム層等が挙げられる。補強繊維層としては、例えば、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の高強度繊維、不織布、布などを用いることができる。好ましくは、補強繊維層であり、特に好ましくは高強度樹維を用いた補強繊維層であり、更に好ましくは高強度繊維を編み組したシート層又は当該シートをスパイラルに巻き付けてなる補強繊維層である。
尚、ホースの補強層の構造は、例えば、特開2010−31993号公報に記載の構造に準じて構成してもよい。ホースの補強層としては、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維を用いることが好ましい。複合容器の補強層としては、炭素繊維が好適に使用される。炭素繊維は、強度面からはPAN系が好ましく、熱伝導度の制御の面からは、熱伝導度が高いピッチ系が好ましい。
【0081】
本発明が、ガスバリア層を少なくとも1層含む多層構造からなる樹脂チューブ又は複合容器用樹脂ライナー、および、ホース又は複合容器である場合、多層構造を構成する樹脂層の各層を構成する材料の平均線膨張係数が互いに近いことが好ましい。また、ガスバリア層に対する多層構造を構成する層の平均線膨張係数の比(多層構造を構成する材料/EVOH組成物)は、通常2以下、好ましくは0.8〜1.8、特に好ましくは1〜1.8である。好ましくはガスバリア層に対する該ガスバリア層の隣接層の比(隣接層を構成する材料/EVOH組成物)が上記範囲内であり、特に好ましくはガスバリア層に対する最外層の比(最外層を構成する材料/EVOH組成物)が上記範囲内である。
【0082】
平均線膨張係数の比を1に近づけることにより、水素暴露の高圧時と脱圧時の環境変化に対して各層が類似挙動を示し、ガスバリア層が他の層の挙動に追随できるので、ガスバリア層の受ける屈曲等の負荷を軽減することができる。
かかる平均線膨張係数の比は、同一条件で測定した平均線膨張係数を適用することが可能である。さらには、高圧ガス設備における実用的な温度範囲である、−60〜40℃における平均線膨張係数を用いることが好ましい。
【0083】
特に、補強層として、上記高強度繊維を編み組したシート層又は当該シートをスパイラルに巻き付けてなる層(補強繊維層)を有するホース又は複合容器である場合、補強繊維層の線膨張係数を考慮して、多層構造の層材料の組み合わせを選定することが好ましい。なお、平均線膨張係数は、熱機械分析装置(TMA)によって測定することができる。
【0084】
樹脂チューブおよびホースの内径、外径、厚み、長さは、用途により選定すればよく、例えばホースの内径は通常1〜180mm、好ましくは3〜100mm、特に好ましくは4.5〜50mm、殊に好ましくは5〜12mmである。ホースの外径は、通常5〜200mm、好ましくは7〜100mm、特に好ましくは9〜50mm、殊に好ましくは10〜15mmである。ホースの厚さは、通常1〜50mm、好ましくは1〜20mm、特に好ましくは1〜10mmである。ホースの長さは、通常0.5〜300m、好ましくは1〜200m、特に好ましくは3〜100mである。
【0085】
複合容器用樹脂ライナーおよび複合容器の厚み、サイズは、用途により選定すればよく、例えば複合容器の厚みは通常1〜100mm、好ましくは3〜50mm、特に好ましくは3〜10mmである。複合容器の容量サイズとしては、車載用か蓄圧器等の用途により選定すればよく、特に限定しないが、容量が通常5〜500Lであり、好ましくは10〜400Lであり、特に好ましくは50〜300Lである。
【0086】
ガスバリア層の厚みは、樹脂チューブ又は複合容器用樹脂ライナー、ホース又は複合容器の厚みの通常2〜60%、特に好ましくは3〜20%の範囲で選択することができる。
【0087】
本発明の高圧ガス用樹脂チューブ又は複合容器用樹脂ライナー、ホース又は複合容器におけるガスバリア層は、水素、ヘリウム、酸素、窒素、空気等のガスに対して、好ましくは分子量が10未満であるガス成分に対して優れたガスバリア性を有する。分子量が10未満であるガス成分としては水素やヘリウム等が挙げられ、水素が好ましい。また、ガスバリア層は、水素バリア性が高いので、層構成にもよるが、ガスバリア層を積層することで、積層体が水素脆化しにくく、初期の機械的強度を長期間にわたって保持することができる。
また、ガスバリア層は、高圧の水素の曝露、脱圧が繰り返されてもブリスタの発生を抑制できるので、多層構造を有する樹脂チューブ又は複合容器用樹脂ライナー、ホース又は複合容器において、ガスバリア層と隣接する層(例えば、補強層、水分不透過性熱可塑性樹脂層)との界面での接着強度の低下やコラプスの生成も防止できる。
【0088】
よって、本発明の高圧ガス用樹脂チューブ又は複合容器用樹脂ライナー、ホース又は複合容器は、高圧の水素の曝露、脱圧が繰り返され、水素脆化に対する優れた耐久性が要求される、水素ステーションでの高圧水素供給用ホースあるいはTypeIV等の複合容器、燃料電池の水素ガス燃料複合容器やホースとして、好適に用いることができる。
高圧ガスホースの常用圧力は、通常35〜90MPa、好ましくは50〜90MPa、特に好ましくは80〜90MPa、更に好ましくは82〜87.5MPaである。
また、高圧ガス用複合容器の常用圧力は、通常35〜100MPaである。
また、高圧ガスホースの設計圧力の例としては、圧力の低いものから例示すると、86MPa超、95MPa超、97MPa超、98.4MPa超などがある。
【0089】
なお、以上の説明は、水素ガスを中心に説明したが、本発明にかかるガスバリア層が優れたガスバリア性を発揮できる対象のガスは、高圧水素ガスに限定されない。水素ガスのほか、ヘリウム、窒素、酸素、空気などの高圧ガス用樹脂チューブ又は複合容器用樹脂ライナー、ホース又は複合容器としても好ましく用いることができる。とりわけ、水素、ヘリウムといった分子量10未満のガスに対しては、ガスバリア性と耐水素性の双方を満足させることは、従来公知の材料では困難であったが、本発明にかかるガスバリア層は双方の要求を満足することができる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「%」および「部」とあるのは重量基準を意味する。
【0091】
〔実施例、比較例1〜4〕
実施例及び比較例1〜4のEVOH樹脂組成物として、以下の原料を用いた。
(原料)
<フッ素系樹脂(A)>
内容積が430リットルの撹拌機付き重合槽を脱気し、溶媒として、1−ヒドロトリデカフルオロヘキサン200.7kg及び1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、AK225cb、以下「AK225cb」という。)55.8kgを仕込み、さらに、重合モノマーとして、1.3kgのCH
2=CH(CF
2)
4Fを仕込んだ。次いで、重合モノマーとして、122.2kgのヘキサフルオロプロピレン(HFP)、36.4kgのテトラフルオロエチレン(TFE)、1.2kgのエチレン(E)を圧入し、重合槽内を66℃に昇温し、重合開始剤としてtert−ブチルペルオキシピバレートの85.8gを仕込み、重合を開始させた。重合中の圧力が一定になるように組成TFE/E=54/46(モル比)のモノマー混合ガスを連続的に仕込み、TFE/Eのモノマー混合ガスに対して、1.0モル%となるようにCH
2=CH(CF
2)
4Fを、また0.35モル%となるように極性官能基含有化合物である無水イタコン酸を、それぞれ連続的に仕込んだ。重合開始3.6時間後、モノマー混合ガスの29kgを仕込んだ時点で、重合槽内の温度を室温まで降温するとともに常圧までパージした。
得られたスラリーから溶媒を留去して、極性官能基として酸無水物基を有するフッ素樹脂を得、これを130℃で4時間真空乾燥することにより、30kgの酸無水物基含有フッ素樹脂(A1)を得た。酸無水物基含有フッ素樹脂(A1)の融点は176℃、Q値は12mm
3/秒、共重合組成はTFE/E/HFP/CH
2=CH(CF
2)
4F/無水イタコン酸=47.83/42.85/7.97/1.00/0.35(モル%)であった。
【0092】
<熱可塑性樹脂(B)>
・酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(三井化学社製、タフマーMA8510、融点69℃、MFR:5.0g/10min〔230℃、荷重2160g、ASTM D1238〕、脆化温度:−70℃未満)
<EVOH(C)>
・EVOH(C1)(エチレン含有量:32モル%、けん化度99.7モル%、融点183℃、MFR:3.8g/10min〔210℃、荷重2160g、ASTM D1238〕 )
・EVOH(C2)(エチレン含有量:29モル%、けん化度99.7モル%、融点188℃、MFR:3.8g/10min〔210℃、荷重2160g、ASTM D1238〕)
【0093】
〔EVOH樹脂組成物の調製〕
上記原料を用いて、実施例及び比較例(比較例1を除く)のEVOH樹脂組成物を調製した。使用した樹脂組成物は、二軸押出機(テクノベル社製)を用いて、下記条件でペレット化した。なお、樹脂組成物の調製は、各樹脂をドライブレンドした後、二軸押出機で溶融混練押出を行った。
スクリュー径:15mm
L/D=60
回転方向:同方向
スクリューパターン:3か所練り
スクリーンメッシュ:90/90メッシュ
スクリュー回転数:200rpm
温度パターン:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=190/200/210/210/215/215/220/220/220℃
樹脂温度:220℃
【0094】
〔測定評価方法〕
実施例及び比較例の樹脂組成物について、下記の測定評価を行なった。
(1)耐水素脆性(耐ブリスタ性)
本発明のEVOH樹脂組成物を用いて下記のようなダンベル状試験片を作製し、高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験後のブリスタ発生の有無を評価した。
図1に示すように構成された水素高圧ガス設備を用いて、試験体(11)に、
図2に示すダンベル状試験片(ISO 527−3に準拠し、b
1=6、b
2=25、L
0=25、l
1=33、L=80、l
3=115、h=1、単位はいずれもmm)をセットして、0.5時間で水素ガスを98.4MPaまで昇圧し、かかる高圧水素環境下に20時間曝露し、30秒間で0.1MPaまで脱圧し、その後0.5時間静置するという圧力パターンを1サイクルとして、5サイクル繰り返した。
高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験後、試験片(11)を取り出し、試験片(11)の状態を目視で観察し、ブリスタの発生状況(通常、ダンベル部分に発生)を観察した。ダンベル部分に発生したブリスタの発生個数が0個の場合を「A(excellent)」、ブリスタ発生個数が1個以上20個未満の場合を「B(good)」、ブリスタ発生個数が20個以上50個未満の場合を「C(fair)」、50個以上の場合を「D(poor)」として評価した。
【0095】
(2)耐衝撃性
ISO180に準拠して、23℃及び−40℃にてノッチ付試験片を使用してアイゾット衝撃強度を行った。いずれの温度においても5kJ/m
2を超える場合は実用性があるといえる。
【0096】
(3)溶融粘度
対象となる樹脂組成物をISO1133に準拠して、東洋精機社製「メルトインデックサF−F01」を用いて220℃、荷重2160gでのMFRを測定した。測定値が0.7g/10min以上の場合は「A(good)」、0.3g/10min以上0.7g/10min未満の場合は「B(fair)」、0.3g/10min未満の場合は「C(poor)」とした。0.3g/10min未満の場合、220℃での加工が困難であり、さらに高温での加工が必要になるため、EVOHの分解や、ゲル化、ブツの発生の可能性が高くなる。
【0097】
(4)島部の平均径
得られた樹脂組成物のペレットを液体窒素下で切断し、その断面をSEMで観察し、島部の平均径を測定した。
【0098】
【表1】
【0099】
比較例1のようにEVOHのみを用いる場合、高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験後にブリスタが50個以上発生した。また、溶融粘度試験においては5.6g/10minと220℃での流動性に問題は無かったものの、耐衝撃性試験においては、23℃においても−40℃においても1kJ/m
2と非常に低く実用性に乏しいことがわかる。
他方、EVOHと酸変性ポリオレフィンを70/30(重量比)にて含有する樹脂組成物を用いた比較例2では、酸変性ポリオレフィンの含有量が多く、水酸基と酸変性基が多量に反応するためか、溶融粘度試験において0.3g/10min未満という結果であり実用性に乏しく溶融成形が困難となり、高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験および耐衝撃性試験は測定不可能であった。
【0100】
EVOHと酸変性フッ素樹脂を80/20(重量比)にて含有する樹脂組成物を用いた比較例3では、溶融粘度試験において2.8g/10minという結果であり220℃での流動性に問題は無かったが、高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験後のブリスタが50個以上発生した。耐衝撃性試験においては23℃において7kJ/m
2と実用に値する結果であったものの、−40℃においては4kJ/m
2と実用に及ばない結果となった。
【0101】
EVOHと酸変性ポリオレフィンを80/20(重量比)にて含有する樹脂組成物を用いた比較例4では、溶融粘度試験において0.8g/10minという結果であり、耐衝撃性試験においては23℃において74kJ/m
2、−40℃においては13kJ/m
2と非常に優れる結果となったものの、高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験においてはブリスタが50個以上発生した。また、ペレットの島部の平均径については0.44μmであった。
【0102】
これに対して水酸基と相互作用又は反応しうる官能基を有するフッ素系樹脂(A)、カルボキシル基又は酸無水物基を有する熱可塑性樹脂(B)、及びエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(C)を含有する本発明のEVOH樹脂組成物を用いた実施例1では、高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験後のブリスタは0個という非常に優れた結果となった。また、耐衝撃性試験においては、23℃において82kJ/m
2と著しく優れた値であり、−40℃においても6kJ/m
2と実用性に値するものであった。溶融粘度試験においては0.8g/10minであり、220℃での流動性に問題は無かった。また、島部の平均径は0.3μmであり、1μm以下となっており、分散性が良好であった。
【0103】
表1に示されるように、実施例のEVOH樹脂組成物から得られた試験体は、耐水素脆性、低温特性に優れ、また成形性が良好であるから、本発明のEVOH樹脂組成物を高圧ガス用樹脂チューブ又は複合容器用樹脂ライナーとして使用した際に、高圧ガスホース又は複合容器の耐久性向上に寄与することができる。