(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することにより、前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成するレーザー加工装置であって、
前記レーザー光を出力するレーザー光源と、
前記レーザー光源から出力された前記レーザー光の光路上に配設され、前記レーザー光を変調する空間光変調器と、
前記空間光変調器で変調された前記レーザー光を前記ウェーハの内部に集光する集光レンズと、
前記集光レンズで集光された前記レーザー光の集光点が所望の位置に形成されるように、前記空間光変調器の変調パターンを制御する制御手段と、
前記ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記空間光変調器と前記集光レンズとの間に配設され、前記集光レンズで集光された前記レーザー光の集光点からの反射光の一部を前記レーザー光の光路から分岐させる光路分岐手段と、
前記光路分岐手段により分岐された前記反射光の光路上に配設され、前記反射光を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で撮像した撮像画像に基づき、前記空間光変調器の動作状態を判断する判断手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記ウェーハの内部においてレーザー光照射面からの深さが互いに異なり、かつ前記ウェーハの移動方向に互いに離れた複数の位置に前記レーザー光が前記集光レンズで同時に集光されるように前記空間光変調器の前記変調パターンを制御する手段であり、
前記空間光変調器とは別に構成され、前記ウェーハの内部において前記レーザー光の集光点を合わせる前記複数の位置で前記レーザー光の収差が所定の収差以下となるように補正する収差補正手段であって、前記複数の位置の前記深さに合わせて前記補正する収差の補正量を変更できるように構成された収差補正手段を備える、
レーザー加工装置。
前記制御手段は、前記ウェーハの深さ方向における第1の位置に前記レーザー光が集光されるとともに、前記第1の位置とは前記ウェーハの深さ方向に異なる第2の位置に前記レーザー光が集光されるように前記空間光変調器の前記変調パターンを制御する、
請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。
ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することにより、前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成するレーザー加工方法であって、
レーザー光源から出力されたレーザー光を空間光変調器で変調する変調工程と、
前記空間光変調器で変調された前記レーザー光を集光レンズで前記ウェーハの内部に集光する集光工程と、
前記集光レンズで集光された前記レーザー光の集光点が所望の位置に形成されるように、前記空間光変調器の変調パターンを制御する制御工程と、
前記ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動工程と、
前記集光レンズで集光された前記レーザー光の集光点からの反射光を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像した撮像画像に基づき、前記空間光変調器の動作状態を判断する判断工程と、
を含み、
前記制御工程は、前記ウェーハの内部においてレーザー光照射面からの深さが互いに異なり、かつ前記ウェーハの移動方向に互いに離れた複数の位置に前記レーザー光が集光レンズで同時に集光されるように前記空間光変調器の前記変調パターンを制御する工程であり、
前記変調工程とは別に行われ、前記ウェーハの内部において前記レーザー光の集光点を合わせる前記複数の位置で前記レーザー光の収差が所定の収差以下となるように補正する収差補正工程であって、前記複数の位置の前記深さに合わせて前記補正する収差の補正量を変更する収差補正工程を含む、
レーザー加工方法。
前記制御工程は、前記ウェーハの深さ方向における第1の位置に前記レーザー光が集光されるとともに、前記第1の位置とは前記ウェーハの深さ方向に異なる第2の位置に前記レーザー光が集光されるように前記空間光変調器の前記変調パターンを制御する、
請求項4又は5に記載のレーザー加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳説する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザー加工装置の概略を示した構成図である。
図1に示すように、本実施形態のレーザー加工装置1は、主として、ウェーハ移動部11、レーザーヘッド20、制御部60等から構成されている。
【0021】
ウェーハ移動部11は、ウェーハWを吸着保持する吸着ステージ13と、レーザー加工装置1の本体ベース16に設けられ、吸着ステージ13をXYZθ方向に精密に移動させるXYZθテーブル12等からなる。このウェーハ移動部11によって、ウェーハWが図のXYZθ方向に精密に移動される。なお、ウェーハ移動部11は、移動手段の一例である。
【0022】
ウェーハWは、デバイスが形成された表面に粘着材を有するバックグラインドテープ(以下、BGテープ)が貼付され、裏面が上向きとなるように吸着ステージ13に載置される。ウェーハWの厚さは、特に制限はないが、典型的には700μm以上、より典型的には700〜800μmである。
【0023】
なお、ウェーハWは、一方の面に粘着材を有するダイシングシートが貼付され、このダイシングシートを介してフレームと一体化された状態で吸着ステージ13に載置されるようにしてもよい。
【0024】
レーザーヘッド20は、主として、レーザー光源22、空間光変調器28、集光レンズ38、ハーフミラー40、赤外線カメラ42等を備えている。
【0025】
レーザー光源22は、制御部60の制御に従って、ウェーハWの内部に改質領域を形成するための加工用のレーザー光Lを出力する。レーザー光Lの条件としては、例えば、光源が半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー、波長が波長:1.1μm、レーザー光スポット断面積が3.14×10
−8cm
2、発振形態がQスイッチパルス、繰り返し周波数が80〜120kHz、パルス幅が180〜380ns、出力が10Wである。
【0026】
空間光変調器28は、レーザー光源22から出力されたレーザー光Lの光路上に配設される。空間光変調器28は、位相変調型のものであり、レーザー光源22から出力されたレーザー光Lを入力し、2次元配列された複数の画素それぞれにおいてレーザー光Lの位相を変調する所定のホログラムパターン(変調パターン)を呈示して、その位相変調後のレーザー光Lを出力する。このホログラムパターンは、集光位置の異なる複数のフレネルレンズパターンを重ね合せたものである。これにより、詳細を後述するように、ウェーハWの内部においてレーザー光照射面(ウェーハWの裏面)からの深さが互いに異なり、かつ
図1のX方向に平行なウェーハ移動方向(加工送り方向)Mに互いに離れた2つの位置にレーザー光Lが集光レンズ38により同時に集光される。
【0027】
空間光変調器28としては、例えば、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)が用いられる。空間光変調器28の動作、及び空間光変調器28で呈示されるホログラムパターンは、制御部60によって制御される。なお、空間光変調器28の具体的な構成や空間光変調器28で呈示されるホログラムパターンについては既に公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0028】
集光レンズ38は、レーザー光LをウェーハWの内部に集光させる対物レンズ(赤外対物レンズ)である。集光レンズ38の開口数(NA)は0.6〜0.8(例えば0.65)のものが用いられる。
【0029】
集光レンズ38は、ウェーハWの内部において生じるレーザー光Lの収差を補正するために補正環付き対物レンズで構成される。この集光レンズ38に設けられる補正環(不図示)は手動で回転自在に構成されており、補正環を所定方向に回転させると、集光レンズ38を構成しているレンズ群の間隔が変更され、ウェーハWのレーザー光照射面(裏面)から所定の深さの位置でレーザー光Lの収差が所定の収差以下となるように収差を補正することができる。なお、集光レンズ38の補正環は、収差補正手段の一例である。
【0030】
なお、集光レンズ38の補正環は、図示しない補正環駆動部によって電動で回転されるように構成されていてもよい。この場合、制御部60は、補正環駆動部の動作を制御して、補正環を回転させることによってレーザー光Lの収差が所望の状態となるように補正を行う。
【0031】
ハーフミラー40は、空間光変調器28と集光レンズ38との間に配設される。ハーフミラー40は、集光レンズ38で集光されたレーザー光Lの集光点からの反射光の一部をレーザー光Lの光路から分岐させる。ハーフミラー40は、光路分岐手段の一例である。
【0032】
ハーフミラー40で分岐された反射光(すなわち、集光レンズ38によるレーザー光Lの集光点からの反射光)は、赤外線カメラ42に入射する。
【0033】
赤外線カメラ42は、撮像手段の一例であり、ウェーハWのレーザー光照射面(裏面)側からウェーハWを撮像するものである。赤外線カメラ42は、赤外光の波長域に対して感度を有する撮像素子(不図示)を備えている。したがって、レーザーヘッド20に対するウェーハWの相対的な高さ(Z方向位置)を調整して、ウェーハWのレーザー光照射面(裏面)又はデバイス面(表面)にレーザー光Lの集光点を合わせて、レーザー光Lの集光点からの反射光を赤外線カメラ42でウェーハWを撮像することにより、撮像した撮像画像から空間光変調器28の動作状態を判断することが可能となる。赤外線カメラ42で撮像された撮像画像は、レーザー加工装置1の記憶部(不図示)に記憶される。なお、空間光変調器28の動作状態は、後述する制御部60によって記憶部に記憶された撮像画像(すなわち、赤外線カメラ42で撮像された撮像画像)に基づいて判断される。
【0034】
赤外線カメラ42としては、例えばInGaAs(インジウムガリウムヒ素)カメラに代表される近赤外領域(1μm以上の波長領域)で高い感度を有するカメラ(近赤外線カメラ)が好ましく用いられる。
【0035】
レーザーヘッド20は、上記構成の他、ビームエキスパンダ24、λ/2波長板26、縮小光学系36等を備えている。
【0036】
ビームエキスパンダ24は、レーザー光源22から出力されたレーザー光Lを空間光変調器28のために適切なビーム径に拡大する。λ/2波長板26は、空間光変調器28へのレーザー光入射偏光面を調整する。縮小光学系36は、第1のレンズ36a及び第2のレンズ36bからなるアフォーカル光学系(両側テレセントリックな光学系)であり、空間光変調器28で変調されたレーザー光Lを集光レンズ38に縮小投影する。
【0037】
また、図示を省略したが、レーザーヘッド20には、ウェーハWとのアライメントを行うためのアライメント光学系、ウェーハWと集光レンズ38との間の距離(ワーキングディスタンス)を一定に保つためのオートフォーカスユニット等が備えられている。
【0038】
制御部60は、CPU、メモリ、入出力回路部等からなり、レーザー加工装置1の各部の動作を制御する。具体的には、ウェーハWの厚み、ウェーハWの送り速度を制御し、最適な条件で各部(ウェーハ移動部11やレーザーヘッド20等)の動作を制御し、改質領域の形成を行う。
【0039】
また、制御部60は、空間光変調器28の動作を制御し、所定のホログラムパターンを空間光変調器28に呈示させる。具体的には、ウェーハWの内部において互いに異なる2つの位置(すなわち、レーザー光照射面からの深さが互いに異なり、かつ
図1のX方向に平行なウェーハ移動方向Mに互いに離れた2つの位置)にレーザー光Lが集光レンズ38により同時に集光されるように、レーザー光Lを変調するためのホログラムパターンを空間光変調器28に呈示させる。なお、ホログラムパターンは、改質領域の形成位置、照射するレーザー光Lの波長、及び集光レンズ38やウェーハWの屈折率等に基づいて予め導出され、制御部60に記憶されている。
【0040】
また、制御部60は、赤外線カメラ42で取得された撮像画像に基づき、空間光変調器28の動作状態を判断する。なお、制御部60は、制御手段及び判断手段の一例であり、これらの手段は別々に構成されていてもよい。
【0041】
レーザー加工装置1はこの他に、図示しないウェーハ搬送手段、操作板、テレビモニタ、及び表示灯等から構成されている。
【0042】
操作板には、レーザー加工装置1の各部の動作を操作するスイッチ類や表示装置が取り付けられている。テレビモニタは、図示しないCCDカメラで撮像したウェーハ画像の表示、又はプログラム内容や各種メッセージ等を表示する。表示灯は、レーザー加工装置1の加工中、加工終了、非常停止等の稼働状況を表示する。
【0043】
以上のように構成された本実施形態のレーザー加工装置1の作用について説明する。ここでは、ウェーハWとして、厚さが775μmのシリコン基板を加工する場合を一例に説明する。
【0044】
まず、集光レンズ38に備えられた補正環を手動(または電動)で回転させることにより、ウェーハWの内部においてレーザー光Lを集光させる位置(改質領域の加工深さ)でレーザー光Lの収差が所定の収差以下となるように収差補正量を調整する。なお、本明細書において、「収差補正量」とは、ウェーハWのレーザー光照射面からの深さに換算した値である。すなわち、例えば収差補正量が500μmである場合には、ウェーハWのレーザー光照射面からの深さが500μmの付近位置でレーザー光の収差が最小となることを意味する。本例では、詳細を後述するように、ウェーハWの厚さが775μmである場合には、補正環による収差補正量は500μmに設定されることが好ましい。
【0045】
次に、加工対象となるウェーハWを吸着ステージ13に載置した後、図示しないアライメント光学系を用いてウェーハWのアライメントが行われる。
【0046】
次に、XYZθテーブル12をウェーハ移動方向Mに加工送りしながら(すなわち、ウェーハWをレーザー光Lに対してウェーハ移動方向Mに相対的に移動しながら)、レーザーヘッド20からウェーハWに対してレーザー光Lを照射する。
【0047】
このとき、レーザー光源22から出力されたレーザー光Lは、ビームエキスパンダ24によってビーム径が拡大され、第1ミラー30によって反射され、λ/2波長板26によって偏光方向が変更されて空間光変調器28に入射される。
【0048】
空間光変調器28に入射されたレーザー光Lは、空間光変調器28に呈示された所定のホログラムパターンに従って変調される。その際、制御部60は、ウェーハWの内部において互いに異なる2つの位置にレーザー光Lが集光レンズ38により同時に集光されるように、レーザー光Lを変調するためのホログラムパターンを空間光変調器28に呈示させる制御を行う。
【0049】
空間光変調器28から出射されたレーザー光Lは、第2ミラー31、第3ミラー32によって順次反射された後、第1のレンズ36aを通過し、さらに第4ミラー33、第5ミラー34によって反射され、第2のレンズ36bを通過し、集光レンズ38に入射される。これにより、空間光変調器28から出射されたレーザー光Lは、第1のレンズ36a、第2のレンズ36bからなる縮小光学系36によってハーフミラー40を介して集光レンズ38に縮小投影される。そして、集光レンズ38に入射されたレーザー光Lは、集光レンズ38によりウェーハWの内部において互いに異なる2つの位置に集光される。
【0050】
図2は、ウェーハWの内部に改質領域が形成される様子を示した概念図である。
図2に示すように、空間光変調器28によって変調されたレーザー光Lは、集光レンズ38によってウェーハWの内部においてレーザー光照射面(ウェーハWの裏面)からの深さが互いに異なり、かつウェーハ移動方向Mに互いに離れた2つの位置に同時に集光される。これにより、それぞれの集光位置の近傍には多光子吸収による改質領域P1、P2が形成される。また、改質領域P1、P2が形成されると、それぞれの改質領域P1、P2からウェーハ深さ方向(ウェーハ厚さ方向)に延びる亀裂(クラック)K1、K2が形成される。
【0051】
ここで、レーザー光Lが集光される2つの位置(集光位置)について詳細に説明すると、本実施形態では、ウェーハWの内部においてウェーハ深さ方向における第1の位置Q1(
図2において右側の集光点)にレーザー光Lが集光されるとともに、第1の位置Q1とはウェーハ深さ方向に異なる第2位置Q2(
図2において左側の集光点)にレーザー光が集光される。
【0052】
さらに本実施形態においては、第2の位置Q2は、第1の位置Q1よりもウェーハ移動方向Mの上流側(
図2の左側)に配置され、かつウェーハWのレーザー光照射面から第1の位置Q1よりも深い位置に配置される。なお、第1の位置Q1と第2の位置Q2との距離(間隔)の一例を示すと、ウェーハ深さ方向の距離は50μmである。また、ウェーハ移動方向Mの距離は30μmである。
【0053】
この状態でウェーハWがレーザー光Lに対して相対的に移動することにより、
図3に示すように、レーザー光Lの2つの集光点(集光位置Q1、Q2)の移動軌跡に沿って、ウェーハWの内部には改質領域P1、P2が形成される。これにより、ウェーハWの切断予定ラインに沿って、ウェーハW内部に改質領域P1と改質領域P2とが所定の間隔で重ねられた状態で1ラインずつ形成される。
【0054】
このように改質領域P1と改質領域P2とが所定の間隔で重ねられた状態で形成されると、ウェーハ深さ方向に重なる2つの改質領域P1、P2のうち、時間的に遅れて形成される改質領域P1の形成時の衝撃により、
図3に示すように、改質領域P1の亀裂K1と改質領域P2の亀裂K2がつながり、さらに改質領域P2から延びる亀裂K2がウェーハWのレーザー光照射面とは反対側の面(ウェーハWの表面)側に向かって伸展する。
【0055】
すなわち、空間光変調器28によってレーザー光Lを変調することで、ウェーハWの内部において互いに異なる位置にレーザー光Lを同時に集光させることで、スループットを低下させることなく、ウェーハWの表面からのウェーハWの最終厚みT2の位置を示す目標面とウェーハWの表面との間の所望の位置まで亀裂を伸展させることができる。なお、
図2及び
図3において、T1は、ウェーハWの初期厚み(本例では775μm)を示す。
【0056】
切断予定ラインに沿って改質領域P1、P2が1ラインずつ形成されると、XYZθテーブル12がY方向に1ピッチ割り出し送りされ、次のラインも同様に改質領域P1、P2が形成される。
【0057】
全てのX方向と平行な切断予定ラインに沿って改質領域P1、P2が形成されると、XYZθテーブル12が90°回転され、先程のラインと直交するラインも同様にして全て改質領域P1、P2が形成される。
【0058】
これにより、全ての切断予定ラインに沿って改質領域P1、P2が形成される。なお、改質領域P1、P2は、平面上の位置(ウェーハWの裏面又は表面から見た位置)は同じであり共に切断予定ラインに沿って形成されるが、ウェーハWの厚さ方向(ウェーハ深さ方向)の位置のみが異なる。
【0059】
以上のようにして切断予定ラインに沿って改質領域P1、P2が形成された後、図示しない研削装置を用いて、ウェーハWの裏面を研削して、ウェーハWの厚さ(初期厚み)T1を所定の厚さ(最終厚み)T2(例えば、30〜50μm)に加工する裏面研削工程が行われる。
【0060】
裏面研削工程の後、ウェーハWの裏面にエキスパンドテープ(ダイシングテープ)が貼付され、ウェーハWの表面に貼付されているBGテープが剥離された後、ウェーハWの裏面に貼付されたエキスパンドテープに張力を加えて引き伸ばすエキスパンド工程が行われる。
【0061】
これにより、ウェーハWの表面側まで伸展した亀裂(クラック)を起点にしてウェーハWが切断される。すなわち、ウェーハWが切断予定ラインに沿って切断され、複数のチップに分割される。
【0062】
ここで、本実施形態におけるレーザー加工装置1では、上述したレーザー加工が実施される前に空間光変調器28の動作状態を確認する動作確認処理が行われる。
【0063】
この動作確認処理では、制御部60は、ウェーハ移動部11を制御してレーザーヘッド20に対するウェーハWの相対的な高さ(Z方向位置)を調整し、ウェーハWのレーザー光照射面(裏面)又はデバイス面(表面)にレーザー光Lの集光点を合わせた状態で、レーザー光Lの集光点からの反射光を赤外線カメラ42で撮像する。
【0064】
図4は、赤外線カメラ42で撮像した撮像画像の一例を示した図である。空間光変調器28の動作状態が正常である場合、赤外線カメラ42で撮像した撮像画像には、
図4に示すように、空間光変調器28で呈示されるホログラムパターン(変調パターン)に対応したレーザー光Lのスポット形状が所望の位置、大ききとなる。これに対し、空間光変調器28の動作状態が異常である場合には、
図4に示すようなレーザー光Lのスポット形状が形成されなかったり、レーザー光Lのスポット形状が所望の位置、大きさで形成されなかったりする。したがって、赤外線カメラ42で撮像した撮像画像から空間光変調器28の動作状態を判断することが可能である。
【0065】
本実施形態では、空間光変調器28が正常に動作しているときに赤外線カメラ42で予め撮像した撮像画像(基準画像)が記憶部(不図示)に記憶される。そして、制御部60は、赤外線カメラ42で撮像した撮像画像と記憶部に記憶された基準画像とを比較することにより、空間光変調器28が正常に動作しているか否かを判断する。制御部60によって判断された空間光変調器28の動作状態はテレビモニタや表示灯等の通知手段にてユーザーに通知される。なお、空間光変調器28の動作状態が異常である場合のみユーザーに通知するようにしてもよい。
【0066】
また、制御部60は、赤外線カメラ42で撮像した撮像画像と記憶部に記憶された基準画像との比較から、集光レンズ38によるレーザー光Lの集光位置(スポット位置)が適切な位置に存在するか、レーザー光Lと空間光変調器28に呈示したホログラムパターン(変調パターン)の位置が適切であるか等の判断も可能である。
【0067】
すなわち、制御部60は、上述した比較を行うことにより、ウェーハWの切断加工予定ラインに対するレーザー光Lの集光点の水平方向(X方向及びY方向)やウェーハ深さ方向(Z方向)の基準位置からの位置ずれ量を確認することができる。換言すれば、各改質領域P1、P2のウェーハ深さ方向位置(Z方向位置)や加工送り方向位置(X方向位置)やインデックス送り方向位置(Y方向位置)が適正な位置に形成されているか否かを容易に判定することが可能となる。
【0068】
また、本実施形態では、制御部60は、上述した動作確認処理によってレーザー光Lのスポット形状の位置や大きさが所望の位置や大きさとなるように、上述した位置ずれ量が小さくなるように空間光変調器28が呈示するホログラムパターンを制御する構成を好ましく採用することができる。この構成によれば、空間光変調器28が正常に動作していないと判断された場合でも空間光変調器28の動作が正常となるように自動的にホログラムパターンを補正しながら、レーザー光Lのスポット形状を最適な位置、大きさにすることができ、ウェーハの分割に適した改質領域を形成することが可能となり、安定した品質のチップを得ることができる。
【0069】
以上のとおり、本実施形態によれば、集光レンズ38によるレーザー光Lの集光点からの反射光を赤外線カメラ42で撮像した撮像画像から空間光変調器28の動作状態を容易に確認することが可能となる。
【0070】
また、本実施形態では、空間光変調器28を用いて複数の位置にレーザー光Lを集光レンズ38で同時に集光させつつ、集光レンズ38の補正環を用いてレーザー光Lの集光点を合わせる位置の収差が所定の収差以下となるように補正するようにしたので、ウェーハWの厚さが厚い場合でも、ウェーハ深さ方向の深い位置にレーザー光Lを効率良く集光させることが可能となる。また、ウェーハ深さ方向に重なる改質領域P1、P2が形成されたときに生じる亀裂をウェーハWのレーザー光照射面とは反対側の面(ウェーハWの表面)側まで十分に伸展させることができる。したがって、効率よくウェーハWをチップに分割することが可能となり、安定した品質のチップを効率よく得ることができる。
【0071】
ここで、上記効果を検証するために本発明者等が行った実験について説明する。
【0072】
この実験では、実施例として、上述した実施形態のレーザー加工装置1を用いた。また、比較例として、上述した特許文献2と同様の構成を有する装置、すなわち、空間光変調器を用いて、ウェーハの内部において互いに異なる2つの位置にレーザー光を集光させつつ、それぞれの位置における収差補正を行う装置(第1の比較例)、及び空間光変調器を用いずに(すなわち、1つの集光位置にレーザー光を集光させ)、補正環を用いて収差補正を行う装置(第2の比較例)を用いた。
【0073】
実験条件としては、厚さが775μmのウェーハ(シリコン基板)に対し、それぞれの装置で収差補正量を変化させながら改質領域を形成したときのウェーハ深さ方向に生じる総亀裂長さ(亀裂の全体長さ)と亀裂下端長さ(改質領域の下端からウェーハ表面側に延びる亀裂の長さ)を測定した(
図3参照)。
【0074】
図5は、収差補正量と総亀裂長さの関係を示したグラフである。
図6は、収差補正量と亀裂下端長さの関係を示したグラフである。
図5及び
図6において、横軸は収差補正量を示し、縦軸はそれぞれ各装置により生じた総亀裂長さ、亀裂下端長さをそれぞれ示している。
【0075】
図5及び
図6から分かるように、実施例では、第1の比較例や第2の比較例に比べて、すべての収差補正量にわたって総亀裂長さが長くなり、しかも亀裂下端長さも長くなる結果が得られた。
【0076】
特に収差補正量が500μmである場合、実施例では、総亀裂長さが約250μm、亀裂下端長さが約80μmとなり、第1の比較例や第2の比較例よりも非常に優れた結果が得られている。この結果より、本実施形態のレーザー加工装置1においては、厚さが775μmのウェーハWを加工する場合には、補正環による収差補正量を500μm(すなわち、ウェーハWのレーザー光照射面(ウェーハWの裏面)からの深さが500μmの位置で収差が最小となるように)に設定することが好ましい。そして、この深さ(500μm)の近傍でレーザー光Lが互いの深さが異なる2つの位置に集光レンズ38で同時に集光されるように空間光変調器28でレーザー光を変調することにより、ウェーハWの内部に形成される改質領域からウェーハ深さ方向に延びる亀裂を十分に伸展させることができる。これにより、効率よくウェーハをチップに分割することが可能となり、安定した品質のチップを効率よく得ることができる。
【0077】
なお、本実施形態では、収差補正手段が、集光レンズ38に備えられた補正環で構成される態様を示したが、これに限定されず、集光レンズ38と空間光変調器28との間のレーザー光Lの光路上(例えば、集光レンズ38と第2のレンズ36bとの間)に補正光学系を配置した構成としてもよい。この場合、図示しない駆動手段で補正光学系を構成する複数のレンズ群の間隔を変化させることにより、ウェーハWの内部において発生するレーザー光Lの収差を補正することができる。
【0078】
また、補正環付き対物レンズを使用する代わりに、集光レンズ38として、ウェーハWの内部においてウェーハ深さ方向の所定の位置でレーザー光Lの収差が最小となるように予め補正機能を組み込んだ対物レンズ(赤外対物レンズ)を用いてよい。この場合、ウェーハWの厚みやレーザー光の集光位置(改質領域の加工深さ)に応じて収差補正量は固定的なものとなるが、例えば収差補正量が500μmとなる位置で収差が最小となる対物レンズを用いることにより、改質領域からウェーハ深さ方向に亀裂を十分に伸展させることができる。
【0079】
また、本実施形態においては、ウェーハWの内部においてウェーハ深さ方向に互いに異なる2つの位置にレーザー光Lを同時に集光させて、それぞれの集光位置に改質領域P1、P2を同時に形成する2段加工を行った後、ウェーハWの裏面を研削する裏面研削工程を行い、ウェーハWを個々のチップに分割する方法を採用したが、これに限定されず、例えば、必要に応じてウェーハWの内部においてレーザー光Lを集光させる位置(改質領域の加工深さ)を変えながら複数回レーザー加工を行ってもよい。その際、改質領域の加工深さに応じて、空間光変調器28に呈示させるホログラムパターンに、ウェーハWの内部の収差を補正する補正パターン(この場合は、補正環による補正を打ち消す方向のパターン)を重畳させることにより、ウェーハWのレーザー光照射面から比較的深い部分に対しても、適切な収差補正が可能となる。
【0080】
また、本実施形態においては、
図2に示したように、レーザー光Lが集光される2つの位置(集光位置)Q1、Q2の配置関係として、第2の位置Q2は、第1の位置Q1よりもウェーハ移動方向Mの上流側(
図2の左側)に配置され、かつウェーハWのレーザー光照射面から第1の位置Q1よりも深い位置に配置される構成を採用したが、これに限定されず、
図7に示すように、
図2に示した構成とは逆の構成でもよい。すなわち、第2の位置Q2は、第1の位置Q1よりもウェーハ移動方向Mの上流側(
図7の左側)に配置され、かつウェーハWのレーザー光照射面から第1の位置Q1よりも浅い位置に配置される構成であってもよい。
【0081】
また、本実施形態では、ウェーハWの内部において互いに異なる2つの位置にレーザー光Lが集光レンズ38で同時に集光されるように空間光変調器28でレーザー光Lの変調を行っているが、レーザー光Lを集光させる位置は2つに限らず、3つ以上であってもよい。
【0082】
また、本実施形態では、空間光変調器28として、反射型の空間光変調器(LCOS−SLM)を用いたが、これに限定されず、MEMS−SLM又はDMD(デフォーマブルミラーデバイス)等であってもよい。また、空間光変調器28は、反射型に限定されず、透過型であってもよい。更に、空間光変調器28としては、液晶セルタイプ又はLCDタイプ等が挙げられる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。