(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
[実施例1]
図1は、焼結装置10の構造を示す模式的断面図である。焼結装置10は、ヒータ11、炉心管12および回転チャック15を備える。また、炉心管12の図中上端には、蓋部材18、シール室24、封止部材25、および上蓋部材13が配される。
【0010】
炉心管12は、縦長の円筒形形状を有し、多孔質ガラス母材16を収容できる内径と長さとを有する。ヒータ11は、炉心管12を側方から取り巻いて配される。炉心管12の底部には、炉心管12の内部に、多孔質ガラス母材16を焼結する場合の雰囲気となる管内ガスを供給するガス導入ポート17が設けられる。焼結装置10において多孔質ガラス母材16を焼結する場合、炉心管12の内部には、He等をベースとした管内ガスが充填される。
【0011】
回転チャック15は、炉心管12の図中上方に配され、炉心管12に収容された多孔質ガラス母材16に結合された保持棒14の上部を把持する。また、回転チャック15は、把持した保持棒14を昇降させ、且つ、保持棒14を回転軸として多孔質ガラス母材16を回転させる。これにより、多孔質ガラス母材16全体を効率よく均一に加熱できる。
【0012】
炉心管12の上端には、多孔質ガラス母材16を収容した炉心管12を閉鎖するシール構造が形成される。図示の焼結装置10においては、炉心管12の上端に蓋部材18が置かれる。蓋部材18は、保持棒14が挿通される挿通穴を略中央に有する。また、蓋部材18には、炉心管12の内外を連通させるガス排出ポート21が配される。
【0013】
シール構造を形成する封止部材25およびシール室24は、蓋部材18の図中上面に配される。封止部材25は、その略中央に保持棒14を挿通される。
【0014】
シール室24は、蓋部材18の図中上面に、封止部材25を覆って配される。更に、シール室24の上端は、上蓋部材13により閉鎖される。保持棒14は、上蓋部材13も貫通する。シール室24および上蓋部材13は、炉心管12の上部にシール室を形成する。
【0015】
図2は、焼結装置10において炉心管12上部に形成されたシール構造を拡大して示す図である。
図1と共通の要素には
図1と同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0016】
蓋部材18に設けられたガス排出ポート21は、炉心管12の内部を外部に連通させて、炉心管12の内部から管内ガスを外部に直截に排出する。これにより、例えば、炉心管12内部の管内ガス圧が急激に上昇した場合に、炉心管12にかかる衝撃を緩和できる。ガス排出ポート21から排出された管内ガスは、図示を省略した排気手段および排気処理装置へ導かれる。
【0017】
シール室24は、シールガスが供給される供給ポート22と、供給されたシールガスを排出する排気ポート23とをそれぞれ側面に有する。シールガスは、例えば大気であってもよい。排気ポート23から排気されたガスは、シールガスと共に、炉心管12からシール室24に漏洩した管内ガスも含む。よって、排気ポート23から排出されたシールガスは、図示を省略した排気手段および排気処理装置へ導かれる。
【0018】
封止部材25は、縦長の筒状の形状を有し、その内側に保持棒14を挿通される貫通穴26を有する。ここで、シール室24の内径および高さは、封止部材25の外径および高さよりも大きい。よって、封止部材25は、シール室24の内部で保持棒14に沿って、図中の上下方向に円滑に移動できる。
【0019】
また、シール室24の内部において、封止部材25の上には、やはり筒状または環状の錘27が配される。これにより、これにより、封止部材25の見かけ上の重量が増し、封止部材25は、蓋部材18の上面に押しつけられる。
【0020】
封止部材25の貫通穴26の内径は、蓋部材18の挿通穴19の内径よりも小さい。よって、保持棒14を挿通された封止部材25の図中下面が蓋部材18の図中上面に接した場合は、保持棒14と蓋部材18との間の間隙の一部が封止部材25封止部材25により塞がれて狭くなり、この間隙を通じた炉心管12内外の気体の流通が抑制される。よって、封止部材25は、焼結装置10により多孔質ガラス母材16を焼結する場合に、炉心管12の内外の圧力差を生じやすくする。
【0021】
上記のような封止構造を有する焼結装置10においては、多孔質ガラス母材16を焼結する場合に、炉心管12内の圧力を大気圧よりも高く維持する。これにより、炉心管12の外部から内部に大気等が侵入することを防止できる。また、焼結装置10においては、蓋部材18の挿通穴19と保持棒14との間、および、封止部材25の貫通穴26の内面と保持棒14との間隙を経て、炉心管12からシール室24内に、炉心管12内の管内ガスの一部を流しながら多孔質ガラス母材16を焼結する。
【0022】
例えば、炉心管12の内部で多孔質ガラス母材16が昇降した場合等に、炉心管12内部の圧力が短時間で著しく上昇する場合がある。このような場合は、保持棒14と挿通穴19との間隙から封止部材25に作用する気体の圧力も上昇する。封止部材25に作用する気体の圧力が、封止部材25および錘27を合わせた重量を上回った場合、封止部材25は、錘27と共に、保持棒14に沿って上昇する。
【0023】
図3は、上記のように、封止部材25が、炉心管12内の気体から受けた圧力により、シール室24の内部で保持棒14に沿って上昇した様子を示す模式図である。封止部材25が上昇して、蓋部材18の上面から離れた場合は、封止部材25の内径よりも大きな内径を有する蓋部材18の挿通穴19が露出し、保持棒14と挿通穴19との間隙が広くなるので、炉心管12内の気体Gが、炉心管12の内部からシール室24の内部に、より円滑に流れる。これにより、上昇した炉心管12内の圧力が緩和される。
【0024】
換言すれば、例えば炉心管12の耐圧強度等に基づいて、炉心管12内部の圧力の上限を閾値として予め定め、炉心管12内の圧力が当該閾値を超える前に封止部材25が上昇するように、封止部材25および錘27の重さを調整する。これにより、炉心管12内の圧力が、予め定めた閾値を超えることが防止され、焼結される光ファイバ母材の品質の変化や過大な圧力による部材の損傷等を未然に防止できる。
【0025】
なお、錘27の重さの調節は、互いに重さが異なる複数の錘27を用意して交換してもよい。また、ひとつひとつが単位重さを有する複数の錘27を用意して、封止部材25封止部材25に取り付ける錘27の数により重量を調節してもよい。
【0026】
こうして気体を外部に排出することにより炉心管12の内部の気圧が低下すると、封止部材25封止部材25に作用する圧力も減少する。よって、封止部材25封止部材25は、保持棒14に沿って蓋部材18の上面に着地して、炉心管12内の気圧が維持される。
【0027】
図4は、上記測定の測定結果を示すグラフである。図示のように、炉心管12の内圧とガス流量との間には強い相関があり、ガス流量を制御することにより、炉心管12内の圧力を管理できる。
【0028】
今、炉心管12内部の気圧とシール室24内の気圧との気圧差をΔp、封止部材25の重量をM、重力加速度をgとし、
図5に示すように、蓋部材18の挿通穴19の内径をD、封止部材25の内径をdとすると、気圧差Δpが、下記の式(1)で表される圧力よりも大きくなった場合に、封止部材25の上昇により蓋部材18から離れ、炉心管12内の気体がシール室24内に流れ出す。
【数1】
【0029】
また、封止部材25に錘27を載せている場合は、重りの重量をmとすると、炉心管12内の気体がシール室24に流れ出す気圧差Δpは、下記の式(2)で表される。
【数2】
【0030】
ここで、封止部材25の重量をlkg、蓋部材18における挿通穴19の内径を45mm、封止部材25の内径を40.2mmとすると、炉心管12内の気圧とシール室24内の気圧との気圧差が2850Paより大きくなると、封止部材25が蓋部材18から離れ、封止部材25と蓋部材18との隙間から炉心管12内の気体が排出されて、炉心管12内の気圧が上昇しなくなくり、やでて低下することが確認できた。
【0031】
上記のような機能に鑑みて、まず、蓋部材18の挿通穴19の内径は、保持棒14の外径に対して十分に大きいことが好ましい。これにより、上昇した炉心管12内の気体を迅速に排出できる。また、上記の構造によれば、保持棒14と挿通穴19との間隙が広くても、封止部材25が蓋部材18の上面に着地している場合は、間隙が封止され、間隙からの漏洩による炉心管12内の圧力低下を防止できる。
【0032】
一方、シール室24と炉心管12との間のガス流を遮断するという観点から、封止部材25の内径と、保持棒14の外径との差は小さいことが好ましい。また、シール室24と炉心管12との間のガス流を遮断するという観点から、蓋部材18の上面と、封止部材25の下面とが密着することが望ましい。よって、蓋部材18および封止部材25において互いに接触する面の表面粗さを、Ra2.0以下とすることが好ましい。
【0033】
一方、封止部材25は、保持棒14に対して円滑に移動することが望ましい。よって、少なくとも貫通穴26の内部において、保持棒14と封止部材25との摺動摩擦は、より低いことが好ましい。
【0034】
より具体的には、例えば、封止部材25の貫通穴26の内面の垂直度が、蓋部材18の上面に接触する面に対して0.01mm以下であることが好ましい。また、封止部材25は、少なくとも貫通穴26の内面において、保持棒14に対して潤滑性を有することが好ましい。更に、保持棒14は、多孔質ガラス母材16の焼結後に炉心管12から引き上げる場合には高温になっている。よって、封止部材25は、保持棒14の温度に対して耐熱性を有することが好ましい。そのような特性を兼ね備えた材料として、例えば、カーボンのバルク材が例示できる。
【0035】
なお、上記の例では、シール室24、封止部材25、および錘27として、それぞれ円柱状または円筒状の部材を用いた。しかしながら、これらの部材の形状が回転体形状に限られるわけではないことはもちろんである。
【0036】
[実施例2]
図6は、焼結装置20の炉心管12上部に形成されたシール構造を拡大して示す図である。焼結装置20における炉心管12の構造は、
図1に示した焼結装置10と等しい。よって、焼結装置10と共通の要素には
図1と同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0037】
また、
図6に示すシール構造は、次に説明する部分を除くと、
図2および
図3に示した焼結装置10のシール構造と等しい。よって、シール構造に関しても、焼結装置10と共通の要素には
図1と同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0038】
焼結装置20は、焼結装置10において封止部材25に取り付けられた錘27に換えて、上蓋部材13と封止部材25との間に挟まれた付勢部材28を備える点において、焼結装置10と異なる構造を有する。付勢部材28は、例えばコイルばねであり、自然状態よりも短縮された状態で焼結装置20に取り付けられている。これにより、付勢部材28の復元力が付勢力として封止部材25に作用し、封止部材25は蓋部材18に向かって押しつけられる。
【0039】
図7は、封止部材25が、炉心管12内の気体から受けた圧力により、シール室24の内部で保持棒14に沿って上昇した様子を示す模式図である。図示の状態は、封止部材25が付勢部材28の付勢力と封止部材25自体の重量とに抗して上昇し、蓋部材18の上面から離れている。これにより、封止部材25の内径よりも大きな内径を有する蓋部材18の挿通穴19が露出し、保持棒14と挿通穴19との間隙が広くなるので、炉心管12内の気体Gが、炉心管12の内部からシール室24の内部に、より円滑に流れる。従って、上昇した炉心管12内の圧力が緩和される。
【0040】
上記のような封止構造を有する焼結装置20においては、封止部材25の重量と、付勢部材28が伸張しようとする付勢力との両方が、炉心管12の内部から封止部材25が受ける圧力に対抗する。よって、付勢部材28の付勢力を調整することにより、予め定めた気圧差Δpで、封止部材25を上昇させることができる。
【0041】
なお、付勢部材28の付勢力を調整する方法としては、付勢部材28自体をばね定数の異なるものと取り替えてもよい。また、付勢部材28の一端を移動させたり、付勢部材28の端部と他の部材との間に厚さの異なるスペーサ等を挟むことによっても、付勢部材28の長さを変更して、付勢部材28の付勢力を調節できる。
【0042】
実施例1と同様に、炉心管12内部の気圧とシール室24内の気圧との気圧差をΔp、封止部材25の重量をM、重力加速度をgとし、蓋部材18の挿通穴19の内径をD、封止部材25の内径をdとする。更に、付勢部材28のばね定数をk、付勢部材28の収縮長さをxとすると、炉心管12内の気圧とシール室24内の気圧との気圧差Δpが、下記の式(3)で表される圧力よりも大きくなった場合に、封止部材25の上昇により蓋部材18から離れ、炉心管12内の気体がシール室24内に流れ出す。
【数3】
【0043】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0044】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。