特許第6622106号(P6622106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6622106化合物半導体基板の製造方法及び化合物半導体基板、半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6622106
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】化合物半導体基板の製造方法及び化合物半導体基板、半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20191209BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20191209BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20191209BHJP
   H01L 43/06 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/18
   C23C16/52
   H01L43/06 S
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-24125(P2016-24125)
(22)【出願日】2016年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-143197(P2017-143197A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2019年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】吉川 陽
(72)【発明者】
【氏名】森下 朋浩
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/156123(WO,A1)
【文献】 特開2000−208830(JP,A)
【文献】 特開2002−009364(JP,A)
【文献】 特開平07−263774(JP,A)
【文献】 特開平07−249577(JP,A)
【文献】 特開昭59−114882(JP,A)
【文献】 米国特許第5668395(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02、21/18−21/20、21/205、
21/31、21/34−21/36、21/365、
21/469、21/84−21/86、27/22、
29/82、43/00−43/14、
C23C 16/00−16/56、
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気抵抗率が1×10Ωcm以上である基板の表面の温度を320℃以上360℃以下に保持した状態で、前記基板上に有機金属気相成長法を用いてIn原料とSb原料とZn原料とを供給して、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下であり、膜厚が10nm以上50nm以下である第1の化合物半導体層を成長させる工程と、
前記第1の化合物半導体層の表面の温度を460℃以上530℃以下に保持した状態で、前記第1の化合物半導体層上に有機金属気相成長法を用いてIn原料とSb原料とを供給して第2の化合物半導体層を成長させる工程と、を備える化合物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記In原料はトリメチルインジウム(TMIn)またはトリエチルインジウム(TEIn)であり、
前記Sb原料はトリメチルアンチモン(TMSb)、トリエチルアンチモン(TESb)またはトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)のいずれか一つであり、
前記Zn原料はジメチル亜鉛(DMZn)またはジエチル亜鉛(DEZn)である請求項1に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板はGaAs、Si、InAsまたはGaSbのいずれか一つで構成される基板である請求項1または請求項2に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
電気抵抗率が1x10Ωcm以上である基板と、
前記基板上に形成され、In及びSbを含み、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下である第1の化合物半導体層と、
前記第1の化合物半導体層上に形成され、In及びSbを含む第2の化合物半導体層と、を備え、
前記第2の化合物半導体層の表面の平均二乗粗さが0.5nm以上0.9nm以下である化合物半導体基板。
【請求項5】
前記第1の化合物半導体層及び前記第2の化合物半導体層からなる層の膜厚が10nm以上3000nm以下であり、
前記第1の化合物半導体層及び前記第2の化合物半導体層からなる層のX線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMが、下記式(1)で算出される範囲を満たす請求項4に記載の化合物半導体基板。
FWHM[arcsec]≦11600×t−0.506[arcsec]・・・(1)
(t=第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層の膜厚(nm))
【請求項6】
前記第1の化合物半導体層の膜厚が10nm以上50nm以下である請求項4または請求項5に記載の化合物半導体基板。
【請求項7】
前記基板はGaAs、Si、InAsまたはGaSbのいずれか一つで構成される基板である請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項8】
前記第1の化合物半導体層及び前記第2の化合物半導体層からなる層の膜厚が10nm以上1500nm以下であり、
前記第1の化合物半導体層及び前記第2の化合物半導体層からなる層の電子移動度EMが、下記式(2)で算出される範囲を満たす請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の化合物半導体基板。
4.8×10−6×t−0.035×t+84×t−2000[cm−1s]≦EM[cm−1s]・・・(2)
(t=第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層の膜厚(nm))
【請求項9】
前記第1の化合物半導体層及び前記第2の化合物半導体層からなる層のキャリア濃度が1.3×1016cm−3以上1.7×1016cm−3以下である請求項4から請求項8のいずれか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項10】
請求項4から請求項9のいずれか一項に記載の化合物半導体基板を備える半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体基板の製造方法及び化合物半導体基板、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
InSb薄膜は電子移動度が大きく、ホール素子や磁気センサの材料として適していることが知られている。磁気センサへの応用では高感度、低消費電力かつ低ノイズが必要とされる。言い換えれば、高電子移動度、膜厚が薄いこと、かつ結晶性が良いことが必須となる。これらの電子デバイスにおけるInSb薄膜は電流リークを防ぐために半絶縁基板であるGaAsやInP基板上に形成されていた。(非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Oh et.al.著、「Journal of Applied Physics」、Volume 66、1989年10月、p.3618−3621
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工性に優れたInSb薄膜を得るためには、InSb薄膜の表面の状態が重要となる。InSb薄膜の表面が荒れていると、その上にさらに膜を形成する場合や、配線を形成する場合に、膜の結晶性が悪化したり断線したりする可能性があり、加工性が低くなる。
【0005】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、加工性に優れた、In及びSbを含む層を備える化合物半導体基板の製造方法及び化合物半導体基板、半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、電気抵抗率が1×10Ωcm以上である基板の表面の温度を320℃以上360℃以下に保持した状態で、前記基板上に有機金属気相成長法を用いてIn原料とSb原料とZn原料とを供給して、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下であり、膜厚が10nm以上50nm以下である第1の化合物半導体層を成長させる工程と、前記第1の化合物半導体層の表面の温度を460℃以上530℃以下に保持した状態で、前記第1の化合物半導体層上に有機金属気相成長法を用いてIn原料とSb原料とを供給して第2の化合物半導体層を成長させる工程と、を備える化合物半導体基板の製造方法により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
また本発明の別の態様として、電気抵抗率が1x10Ωcm以上である基板と、前記基板上に形成され、In及びSbを含み、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下である第1の化合物半導体層と、前記第1の化合物半導体層上に形成され、In及びSbを含む第2の化合物半導体層と、を備え、前記第2の化合物半導体層の表面の平均二乗粗さが0.5nm以上0.9nm以下である化合物半導体基板により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、加工性に優れた、In及びSbを含む層を備える化合物半導体基板の製造方法及び化合物半導体基板、半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る化合物半導体基板の構成例を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る半導体装置の構成例を示す断面図である。
図3】第1のInSb層と第2のInSb層の合計の膜厚と、第1のInSb層及び第2のInSb層からなる層の電子移動度との関係をプロットしたグラフである。
図4】第1のInSb層と第2のInSb層の合計の膜厚と、第1のInSb層及び第2のInSb層からなる層の半値幅との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態と称する)について詳細に説明する。
<化合物半導体基板>
本実施形態の化合物半導体基板は、電気抵抗率が1x10Ωcm以上である基板と、基板上に形成され、In及びSbを含み、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下である第1の化合物半導体層と、第1の化合物半導体層上に形成され、In及びSbを含む第2の化合物半導体層と、を備え、第2の化合物半導体層の表面の平均二乗粗さが0.5nm以上0.9nm以下である。これにより、加工性に優れた化合物半導体基板が実現される。
【0011】
[基板]
本実施形態の化合物半導体基板において、基板としては、電気抵抗率が1x10Ωcm以上であって、その上に第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層を形成可能なものであれば特に制限されない。基板は、結晶性が良好な第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層を形成する観点から、InSbと同じ結晶対称性を有する基板であることが好ましく、さらに安価かつ大型の基板が入手しやすいことからGaAs、Si、InAsまたはGaSbのいずれか一つで構成される基板であることが好ましい。
【0012】
[第1の化合物半導体層]
本実施形態の化合物半導体基板において、第1の化合物半導体層は、基板上に形成され、In及びSbを含み、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下の層である。第1の化合物半導体層は、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下であり、In及びSbを含む層であれば特に限定はされず、その他の原子を含む混晶であってもよい。
【0013】
(亜鉛のドーピングの確認方法)
亜鉛のドーピングの有無は、二次イオン質量測定(SIMS)を用いた不純物元素量の測定を行うことによって確認することができる。また後述の第1の化合物半導体層に含まれる亜鉛の濃度についても、SIMSを用いた不純物元素量の測定から求めることができる。
【0014】
(In及びSbを含むことの確認方法)
In及びSbを含むことの有無は、蛍光X線分析(XRF)、ラザフォード後方散乱分光(RBS)、二次イオン質量測定SIMSおよびX線光電子分光(XPS)により確認することが可能である。
また本実施形態の化合物半導体基板において、第1の化合物半導体層の膜厚が10nm以上50nm以下であってもよい。これにより第2の化合物半導体層の結晶性が向上するという効果を奏する。これは、第1の化合物半導体層の膜厚が10nm以上50nm以下であることで、成長核の分散が2次元的な広がりをもつというメカニズムにより、第2の化合物半導体層の結晶性が向上するためである。
【0015】
(膜厚の測定方法)
第1の化合物半導体層の膜厚は、蛍光X線分析(XRF)、二次イオン質量測定(SIMS)、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)による劈開断面測定により測定することが可能である。
【0016】
[第2の化合物半導体層]
本実施形態の化合物半導体基板において、第2の化合物半導体層は、第1の化合物半導体層上に形成され、In及びSbを含む層である。第2の化合物半導体層はIn及びSbを含む層であれば特に限定はされず、その他の原子を含む混晶であってもよい。また本実施形態の化合物半導体基板における第2の化合物半導体層は、第2の化合物半導体層の表面の平均二乗粗さが0.5nm以上0.9nm以下である。
(平均二乗粗さの定義)
ここでいう表面二乗粗さとは、原子間力顕微鏡(AFM)測定における表面観察から算出される値である。
【0017】
[第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層]
本実施形態の化合物半導体基板において、第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層は、膜厚が10nm以上3000nm以下であり、X線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMが、下記式(1)で算出される範囲を満たしてもよい。
FWHM[arcsec]≦11600×t−0.506[arcsec]・・・(1)
(t=第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層の膜厚(nm))
これにより、加工性に優れるだけでなく、さらに結晶性が良好な化合物半導体基板が実現される。
【0018】
(膜厚の測定方法)
第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層の膜厚は、蛍光X線分析(XRF)、二次イオン質量測定(SIMS)、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)による劈開断面測定により測定することが可能である。
本実施形態の化合物半導体基板において、第1の化合物半導体層と第2の化合物半導体層とを区別する方法としては、亜鉛のドーピングの有無によって区別する方法が挙げられる。上述のSIMSを用いた不純物元素量の測定を行い、亜鉛の存在が確認される層が第1の化合物半導体層に該当し、亜鉛の存在が確認されない(測定限界以下の量しか検出されない)層が第2の化合物半導体層に該当する。
【0019】
(半値幅FWHMの定義)
ここでいう半値幅FWHMとは、第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層の主面に対し、X線回折によるωスキャンロッキングカーブを測定したとき、ピークトップ(すなわち、測定された回折強度のピーク値)から回折強度が半分になる角度幅のことである。
【0020】
本実施形態の化合物半導体基板における第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層は、膜厚が10nm以上1500nm以下であり、電子移動度EMが下記式(2)で算出される範囲を満たしてもよい。
4.8×10−6×t−0.035×t+84×t−2000[cm−1s]≦EM[cm−1s]・・・(2)
(t=第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層の膜厚(nm))
これにより、加工性に優れるだけでなく、さらに高移動度な化合物半導体基板が実現される。これにより、化合物半導体基板を例えば磁気センサなどのデバイスに応用した際に、高感度なデバイスが実現される。
【0021】
(電子移動度EMの測定方法)
電子移動度EMは、Van der Pauw法によるホール測定を行うことによって測定することができる。ここで、基板は絶縁体とみなすことができるため、Van der Pauw法によるホール測定を行うことで、第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層の電子移動度EMを測定することが可能である。
本実施形態の化合物半導体基板における第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層のキャリア濃度は1.3x1016cm−3以上1.7x1016cm−3以下であってもよい。これにより、高抵抗な化合物半導体基板が実現され、デバイス化した際に省消費電力なデバイスが実現される。
【0022】
(キャリア濃度の定義と測定方法)
ここでいうキャリア濃度とは、第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層中に含まれる電子の濃度を意味する。またキャリア濃度は、Van der Pauw法によるホール測定を行うことによって測定することができる。ここで、基板は絶縁体とみなすことができるため、Van der Pauw法によるホール測定を行うことで、第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層のキャリア濃度を測定することが可能である。
【0023】
<半導体装置>
また、本実施形態の化合物半導体基板を用いて半導体装置を作製してもよい。具体的には、化合物半導体基板の第2の化合物半導体層を活性層とすればよい。または、化合物半導体基板の、第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層を活性層としてもよい。第2の化合物半導体層、または、第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層を活性層として用いる半導体装置の具体例としては、磁気センサやホール素子や赤外線センサ素子等が挙げられる。いずれも公知の方法を用いて作製することが可能である。この半導体装置は、加工性に優れた、In及びSbを含む層を備える化合物半導体基板を備えるため、高特性の半導体装置を得ることが可能である。
【0024】
<化合物半導体基板の製造方法>
次に、本実施形態の化合物半導体層の製造方法について説明する。
本実施形態の化合物半導体基板の製造方法は、電気抵抗率が1×10Ωcm以上である基板の表面の温度を320℃以上360℃以下に保持した状態で、基板上に有機金属気相成長法を用いてIn原料とSb原料とZn原料とを供給し、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下であり、膜厚が10nm以上50nm以下である第1の化合物半導体層を成長させる工程と、第1の化合物半導体層の表面の温度を460℃以上530℃以下に保持した状態で、第1の化合物半導体層上に有機金属気相成長法を用いてIn原料とSb原料とを供給して第2の化合物半導体層を成長させる工程と、を備える。
【0025】
これらの各工程(第1の化合物半導体層成長工程、第2の化合物半導体層成長工程)を備えることにより、所定の膜厚範囲において、加工性に優れた、In及びSbを含む層を備える化合物半導体基板を得ることが可能となる。
第1の化合物半導体層成長工程と第2の化合物半導体層成長工程とを同一の温度条件で行う(つまり、第1の化合物半導体層と第2の化合物半導体層とを同一の温度条件で成長させる)方法では、第2の化合物半導体層が3次元的に成長を起こし、第2の化合物半導体層の表面の平坦性が大きく損なわれるという問題が起きてしまう。
【0026】
これに対し、本実施形態のように、基板の温度を320℃以上360℃以下に保持した状態で、第1の化合物半導体層を成長させ、その後、第1の化合物半導体層の表面の温度を460℃以上530℃以下に保持した状態で、第2の化合物半導体層を成長させることで、表面平坦性が良好で、加工性に優れた、In及びSbを含む層を備える化合物半導体基板を得ることが可能となる。
【0027】
このメカニズムの詳細については定かではないものの、マイグレーションの度合が低い層を成膜工程の初期に持ってくることにより、基板界面からの3次元成長を抑制できることによるものと推察される。
また第1の化合物半導体層を成長させる工程でZn原料を供給せず、In原料とSb原料のみを供給して成長させた場合、基板から発生するボイドを起点としたドロップが第2の化合物半導体層表面に析出するという問題が起きてしまう。
【0028】
これに対し、本実施形態のように、第1の化合物半導体層を成長させる工程でZn原料を供給して第1の化合物半導体層を成長させることで、表面平坦性が良好で、加工性に優れた、In及びSbを含む層を備える化合物半導体基板を得ることが可能となる。
このメカニズムの詳細については、第1の化合物半導体層にZnを取り込むことにより、基板のボイドから発生する転位をZnが抑制することによるものと推察される。
第1の化合物半導体層成長工程、第2の化合物半導体層成長工程に用いるIn原料、Sb原料及びZn原料としては、有機金属気相成長法に用いることができる原料であれば特に限定されない。
【0029】
(基板の温度及び第1の化合物半導体層の表面の温度の測定方法)
基板の温度の測定方法としては、パイロメーターを行うことによって測定することができる。
また本実施形態の化合物半導体基板の製造方法において、In原料がトリメチルインジウム(TMIn)またはトリエチルインジウム(TEIn)であり、Sb原料がトリメチルアンチモン(TMSb)、トリエチルアンチモン(TESb)またはトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)のいずれか一つであり、Zn原料がジメチル亜鉛(DMZn)またはジエチル亜鉛(DEZn)であってもよい。原料分解温度の観点から、上記の原料を用いることが好ましい場合がある。
【0030】
また本実施形態の化合物半導体基板の製造方法において、基板がGaAs、Si、InAsまたはGaSbのいずれか一つであってもよい。InSbと同じ結晶対称性を持っていることが好ましく、さらに安価かつ大型の基板が入手しやすいことから上記の基板の材料が好ましい材料として挙げられる。
【0031】
<断面構造の具体例>
次に、本実施形態に係る化合物半導体基板の断面構造の具体例を、図面を参照して説明する。ただし、以下に説明する全ての図面において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、図面は模式的なものであり、各図における各層の長さ、厚さの寸法は現実のものとは異なり、それらの比等も現実のものとは異なる場合がある。
【0032】
図1は、本実施形態に係る化合物半導体基板100の構成例を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る化合物半導体基板100は、電気抵抗率が1x10Ωcm以上である基板1と、基板1上に形成された第1の化合物半導体層11と、第1の化合物半導体層11上に形成された第2の化合物半導体層12と、を備える。第1の化合物半導体層11は、In及びSbを含み、亜鉛の濃度が3×1016cm−3以上4×1018cm−3以下である。第2の化合物半導体層12は、In及びSbを含み、その表面の平均二乗粗さが0.5nm以上0.9nm以下である。これにより、加工性に優れた化合物半導体基板が実現されている。
【0033】
なお、図1では示さないが、本実施形態に係る化合物半導体基板100では、第1の化合物半導体層11及び第2の化合物半導体層12からなる層10と、基板1との間にバッファ層が設けられていてもよい。バッファ層は、格子不整合を緩和する観点から、In及びSbを含む層であることが好ましい。また、バッファ層の膜厚に特に制限はないが、全体の膜厚を薄く保つという観点からは、5nm以上、30nm以下であることが好ましい。
【0034】
図2は、本実施形態に係る半導体装置200の構成例を示す断面図である。図2に示すように、この半導体装置200は、化合物半導体基板100と、この化合物半導体基板100に形成された素子150とを備える。素子150は、例えばホール素子であり、その上面側に複数の電極151を有する。化合物半導体基板100が備える、第1の化合物半導体層11及び第2の化合物半導体層12からなる層10は、この素子150の少なくとも一部として機能する活性層(例えば、感磁層)である。
なお、図2では、第1の化合物半導体層11及び第2の化合物半導体層12からなる層10と、基板1との間にバッファ層5が設けられている場合を示しているが、本実施形態においてバッファ層5は無くてもよい。
【実施例】
【0035】
<実施例>
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmであった。
この半絶縁GaAs基板上に、320℃、340℃、360℃の3温度でZnがドープされた第1のInSb層(第1の化合物半導体層)を形成した。In原料としてトリメチルインジウム(TMIn)またはトリエチルインジウム(TEIn)、Sb原料としてトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)またはトリメチルアンチモン(TMSb)を用いた。Znドーピングの原料としてジエチル亜鉛(DEZn)またはジメチル亜鉛(DMZn)を用いた。このZnがドーピングされた第1のInSb層(第1の化合物半導体層)の形成には、MOCVD装置を用いた。第1のInSb層は、SIMS測定からZnのドーピング量を測定し、XRF測定から膜厚を測定した。
【0036】
この第1のInSb層上に、460℃、500℃、530℃の3温度で第2のInSb層(第2の化合物半導体層)を形成した。In原料としてトリメチルインジウム(TMIn)またはトリエチルインジウム(TEIn)、Sb原料としてトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)またはトリメチルアンチモン(TMSb)を用いた。この第2のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。XRF測定から、InSb層全体の膜厚を測定した。
【0037】
このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行い、InSb層全体の電子移動度及びn型キャリア濃度を測定した。またX線回折測定を(004)面に対して実施し、得られたωロッキングカーブ測定から半値幅(FWHM)を測定した。さらに、原子間力顕微鏡測定を10×10μmの範囲で実施し、第2のInSb層表面の平均二乗粗さを測定した。
【0038】
<比較例>
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmであった。
この半絶縁GaAs基板上に、300℃、340℃、380℃の3温度でZnがドープされた第1のInSb層(第1の化合物半導体層)を形成した。In原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、Sb原料としてトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いた。Znドーピングの原料としてジエチル亜鉛(DEZn)を用いた。このZnがドーピングされた第1のInSb層(第1の化合物半導体層)の形成には、MOCVD装置を用いた。第1のInSb層は、SIMS測定からZnのドーピング量を測定し、XRF測定から膜厚を測定した。
【0039】
この第1のInSb層上に、440℃、500℃、550℃の3温度で第2のInSb層(第2の化合物半導体層)を形成した。In原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、Sb原料としてトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いた。この第2のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。XRF測定から、InSb層全体の膜厚を測定した。
【0040】
このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行い、InSb層全体の電子移動度及びn型キャリア濃度を測定した。またX線回折測定を(004)面に対して実施し、得られたωロッキングカーブ測定から半値幅(FWHM)を測定した。さらに、原子間力顕微鏡測定を10×10μmの範囲で実施し、第2のInSb層表面の平均二乗粗さを測定した。
【0041】
<結果>
実施例の結果をまとめたものを表1に示す。また、比較例の結果をまとめたものを表2に示す。なお、表1、表2において、「Seed温度」は、第1の化合物半導体層の成膜温度を意味し、「HT温度」は第2の化合物半導体層の成膜温度を意味する。また、「Seed膜厚」は第1の化合物半導体層の膜厚を意味し、「total膜厚」は第1の化合物半導体層と第2の化合物半導体層の合計の膜厚を意味する。また、表2において、「白濁」とは、試料が白濁しており、移動度、キャリア濃度、結晶性の各種測定の実施が困難であったことを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1及び表2から、実施例1〜20は比較例1〜8と比べて第2のInSb層の表面の平均二乗粗さが小さいことが分かる。
図3は、実施例1〜20と比較例1〜8について、第1のInSb層と第2のInSb層の合計の膜厚(単位:nm)と、第1のInSb層及び第2のInSb層からなる層の電子移動度(EM)(単位:cm/Vs)との関係をプロットしたものである。図3において、x軸は膜厚を示し、y軸は電子移動度を示す。またこの図3には、参考例としてMBE法で形成したInSb層についても、膜厚と電子移動度との関係をプロットしている。
【0045】
図3に示すように、実施例1〜20と、比較例1〜8・参考例との間に境界線を引くと、この境界線は、y=4.8×10−6×x−0.035×x+84×x−2000、で近似される。図3から分かるように、実施例1〜20のyは、y=4.8×10−6×x−0.035×x+84×x−2000以上である。本発明で得られたInSb層は、10≦x≦1500の範囲でy≦4.8×10−6×x−0.035×x+84×x−2000という条件を満たす、電子移動度の高いものであることが分かる。
【0046】
また図4は、実施例1〜20と比較例1〜8について、第1のInSb層と第2のInSb層の合計の膜厚(単位:nm)と、第1のInSb層及び第2のInSb層からなる層の半値幅(FWHM)(単位:arcsec)との関係をプロットしたものである。図4において、x軸は膜厚を示し、y軸は半値幅を示す。またこの図4においても、参考例としてMBE法で形成したInSb層について、膜厚と半値幅との関係をプロットしている。
【0047】
図4に示すように、実施例1〜20と、比較例1〜8・参考例との間に境界線を引くと、この境界線は、y=11600×x−0.506、で近似される。図4から分かるように、実施例1〜20のyは、y=11600×x−0.506以下である。本発明で得られたInSb層は、10≦x≦3000の範囲でy≦11600×x−0.506という条件を満たす、結晶性の優れたものであることが分かる。
【0048】
<その他>
本発明の技術的思想は、以上に記載した実施形態や実施例に特定されるものではない。当業者の知識に基づいて、本発明の実施形態や実施例に設計の変更等を加えてもよく、また、本発明の実施形態や実施例を任意に組み合わせてもよく、そのような変更が加えられた態様も、本発明の技術的思想に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 基板
5 バッファ層
10 第1の化合物半導体層及び第2の化合物半導体層からなる層
11 第1の化合物半導体層
12 第2の化合物半導体層
100 化合物半導体基板
150 素子
151 電極
200 半導体装置
図1
図2
図3
図4