【実施例1】
【0020】
図1は、本実施例に関わるフロー型電解質濃度測定装置100の一例を示す概略図である。
本フロー型電解質濃度測定装置100は、測定部170、記録演算部172、濃度値補正・判断部173、出力部174、制御部175、入力部176を備えている。
【0021】
測定部170は、イオン選択性電極部110を構成する塩素イオン電極101、カリウムイオン電極102とナトリウムイオン電極103の3種類の電極と、比較電極104を備える。シッパーシリンジポンプ133を用いて、比較電極104の流路1041に比較電極液ボトル161もしくは162から比較電極液が導入される。
【0022】
一方、イオン選択性電極部110の流路1011,1021,1031には希釈槽120に内部標準液ボトルA:141又はB:142から分注された内部標準液や希釈された検体などが導入される。比較電極104と各イオン選択性電極101,102,103との電位差(起電力)は、各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に導入された液中の分析対象イオン濃度によって変化するため、その起電力を電位測定部171で測定し、イオン濃度を記録演算部172にて算出する。算出方法の詳細は後述する。
【0023】
本実施例によるフロー型電解質濃度測定装置100内では、定常的に比較電極液、内部標準液と希釈液を使用するため、連続分析時にいずれかの試薬が不足すると分析ができなくなる。
【0024】
本実施例に係るフロー型電解質濃度測定装置100には、内部標準液ボトル切替え手段140と希釈液ボトル切替え手段150と比較電極液ボトル切替え手段160を備えており、これらはそれぞれ同種試薬の各ボトル141と142,151と152,161と162をそれぞれ2本同時に設置するポートと電磁弁126、127、128を備えた切替弁を有している。この機構により、片方のボトル内の試薬が不足した場合、もう片方のボトルに切替えることができる。また、片方のボトルを装置が使用している間に、装置オペレーターが好きなタイミングで、空になったボトルを試薬が充填された新たなボトルに取り替えることが可能である。
【0025】
本実施例に係るフロー型電解質濃度測定装置100には、各試薬ボトル141、142,151、152,161及び162内の試薬量をモニターする試薬量モニター機構(
図1に示した例では、試薬ボトルの重量を計測する重量センサ:143,144、153,154,163,164)を有しており、試薬ボトルの重量を予め設定した値と比較し、試薬ボトルの重量が予め設定した重さよりも軽くなった場合には、試薬が十分に収容されているボトルと切替えることで試薬ボトル切替えのタイミングを管理している。試薬量モニター機構としてはこの重量センサを用いた方式に限らず、試薬ボトル内部の試薬液の液面の高さをモニターする液面計などを用いても良い。また、試薬量モニター機構を備えずとも分析回数やシリンジの動作履歴などから試薬の消費量を制御部175で管理しても良い。
【0026】
なお、電磁弁122、123、124、125、126、127、128は流路の切替えや開閉を行うことができ、液を導入する方向やタイミングに従って適宜動作する。また、本実施例に係るフロー型電解質濃度測定装置100では同種の試薬ボトルは2本設置しているが、2本でなくとも複数本であれば本発明の効果を発揮する。装置内で使う全種類の試薬でなく、一部の試薬のみに本発明を適用することもできる。
【0027】
次に、
図2A乃至
図2Cを用いて、本実施例に係るフロー型電解質濃度測定装置100における電解質濃度測定のフローを説明する。
【0028】
まず、装置立上げ時の手順について
図2Aを用いて説明する。最初に図示していない電源を投入して装置を立上げ(S201)、試薬用のボトル141(内部標準液ボトルA141)、ボトル142(内部標準液ボトルB142),ボトル151(希釈液ボトルA151)、ボトル152(希釈液ボトルB152),ボトル161(比較電極液ボトルA161)及びボトル162(比較電極液ボトルB162)をそれぞれボトル切り替え手段140,150,160に設置する(S202)。温調後、イオン選択性電極101,102,103の検量線を求めるために、2種類の既知濃度の標準液を測定し、スロープを算出する(S203)。続いて、内部標準液濃度を算出する(S204)。
【0029】
ここで、S203とS204の具体的な操作について、
図3のフロー図を用いて説明する。
【0030】
先ず、既知低濃度標準液を分注ノズル(図示せず)で希釈槽120に分注後、希釈液用シリンジポンプ132を作動させて希釈液ボトル151(ボトル151)内の希釈液を希釈槽120の内部に分注し、設定した割合Dで既知低濃度標準液を希釈する(S301)。その間に、比較電極液ボトル161内から比較電極104の流路1041に比較電極液を導入する(S302)。次に、希釈槽中の希釈した既知低濃度標準液をシッパーノズル107から吸引し、各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に導入する(S303)。
【0031】
液絡部121では、比較電極104の流路1041に供給された比較電極液と各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に供給された希釈した既知低濃度標準液が接触する。この状態で、各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部171で測定する(S304)。
【0032】
次に、真空ポンプ112を駆動させ、希釈槽120の内部の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する(S305)。その後、内部標準液用シリンジポンプ131を作動させて、内部標準液供給ノズル109から希釈槽120に、内部標準液ボトル141(ボトル141)内の内部標準液を分注する(S306)。その間に、ピンチ弁105を閉じて電磁弁122を開いた状態でシッパーシリンジポンプ133を作動させて、比較電極液ボトル161内から比較電極104の流路1041に比較電極液を導入する(S307)。
【0033】
次に、ピンチ弁105を開いて電磁弁128を閉じた状態でシッパーノズル107から希釈槽120内の内部標準液を吸引し、各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031を内部標準液で満たした状態で(S308),各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部171で測定する(S309)。
【0034】
その後、また真空ポンプ112を駆動させ、希釈槽120の内部の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する(S310)。その後、既知高濃度標準液を分注ノズル(図示せず)で希釈槽120に分注後、希釈液用シリンジポンプ132を作動させて希釈液ボトル151内の希釈液を希釈液供給ノズル108から希釈槽120に分注し、設定した割合Dで既知高濃度標準液を希釈する(S311)。その間に、ピンチ弁105を閉じて電磁弁122を開いた状態でシッパーシリンジポンプ133を作動させて、比較電極液ボトル161内から比較電極104の流路1041に比較電極液を導入する(S312)。
【0035】
次に、ピンチ弁105を開いて電磁弁128を閉じた状態で希釈槽120中の希釈した既知高濃度標準液をシッパーノズル107から吸引し、各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に導入する(S313)。液絡部121では、比較電極104の流路1041に供給された比較電極液と各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に供給された希釈した既知高濃度標準液が接触する。この状態で各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部171で測定する(S314)。
【0036】
次に、真空ポンプ112を駆動させ、希釈槽120の内部の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する(S315)。その後、内部標準液用シリンジポンプ131を作動させて、内部標準液供給ノズル109から希釈槽120に、内部標準液ボトル141内の内部標準液を分注する(S316)。その間に、ピンチ弁105を閉じて電磁弁122を開いた状態でシッパーシリンジポンプ133を作動させて、比較電極液ボトル161内から比較電極104の流路1041に比較電極液を導入する(S317)。
【0037】
次に、ピンチ弁105を開いて電磁弁128を閉じた状態でシッパーノズル107から希釈槽120内の内部標準液を吸引し、各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031を内部標準液で満たし(S318),この状態で各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部171で測定する(S319)。
【0038】
その後、また真空ポンプ112を駆動させ、希釈槽120の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する(S320)。
【0039】
以上の操作により電位測定部171で測定した起電力から、記録演算部172にて下記の計算式を用いて、検量線に相当するスロープ感度SLを算出する(S321)。
【0040】
(A)スロープ感度
SL=(EMFH−EMFL)/(LogCH−LogCL) ………(数1)
SL:スロープ感度
EMFH:既知高濃度標準液の測定起電力
EMFL:既知低濃度標準液の測定起電力
CH:高濃度標準液の既知濃度値
CL:低濃度標準液の既知濃度値
以上の操作をキャリブレーションと呼ぶ。なお、スロープ感度SLはネルンスト式
E = E0 + 2.303×( RT / zF )×log( f × C )
(E0:測定系により定まる一定電位、z:測定対象イオンの価数、F:ファラデー定数、R:気体定数、T:絶対温度、f:活量係数、C:イオン濃度)
の2.303×(RT/zF)に相当する。温度と測定対象イオン価数から計算で求めることができるが、より分析精度を高めるため本実施例装置では上記のキャリブレーションによって電極固有のスロープ感度SLを求めている。
【0041】
S203の詳細について、具体的な測定シーケンスを上記したが、この手順にかかわらず、イオン濃度の異なる2種類の液を流路にそれぞれ導入し、起電力を測定できれば、異なる手順でも良い。
【0042】
続いて、S203で求めたスロープ感度と内部標準液の起電力から内部標準液濃度を算出する(S204)。
【0043】
(B)内部標準液濃度
CIS=CL×10
a ………………………………(数2)
a=(EMFIS−EMFL)/SL …………(数3)
CIS:内部標準液濃度
EMFIS:内部標準液の起電力
【0044】
次に、内部標準液のイオン濃度が設定濃度範囲か否かを濃度値補正・判断部173にて判断し(S205)、範囲内であれば
図2Bに示した連続分析のフローへ進み、範囲外であれば、アラームを出す(S206)。装置内で使用する試薬の濃度が設計値から大きく異なる場合、イレギュラーな装置状態にあると考えられ、分析精度に影響を与える可能性があるため、本装置には濃度値補正・判断部173を備えている。
【0045】
次に、連続分析時の操作について、
図2Bに示したフロー図を用いて説明する。キャリブレーション後、血清や尿などを検体として分析を行う。
図2Bに示した処理フローにおいても、
図2AのS203のステップを
図3に示したフロー図で説明したような詳細な動作があるが、説明を簡単にするために、細かい動作の記載を省略する。
【0046】
具体的には、検体を分注ノズル(図示せず)で希釈槽120に分注後、希釈液用シリンジポンプ132を用いて希釈液ボトル151内の希釈液を希釈槽120に分注し、設定した割合Dで検体を希釈する。その間に、比較電極液ボトル161内から比較電極104の流路に比較電極液を導入する。希釈槽120中の希釈した検体をシッパーノズル107から吸引し、各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に導入する。
【0047】
液絡部では比較電極液と希釈した検体が接触する。イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部171で測定する(S211)。真空ポンプ112を作動させて希釈槽120の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に排気した後、希釈槽120に内部標準液ボトル141内の内部標準液を分注する。その間に、ピンチ弁105を閉じて、電磁弁122を開いた状態でシッパーシリンジポンプ133を作動させて比較電極104の流路1041に残っていた液体を廃液タンク111に廃棄するとともに、比較電極液ボトル161内から比較電極104の流路1041に比較電極液を導入する。
【0048】
次に、シッパーノズル107から希釈槽120内の内部標準液を吸引し、各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031を内部標準液で満たした状態で各電極の起電力を電位測定部171で測定する(S212)。その後、希釈槽120の内部に残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する。
【0049】
S203で求めたスロープ感度とS204で算出した内部標準液濃度から、下記の計算式を用いて検体の濃度を算出する(S213)。
【0050】
(C)検体の濃度
CS=CIS×10
b …………………………………(数4)
b=(EMFIS−EMFS)/SL ……………(数5)
CS:検体濃度
EMFS:検体の測定起電力
【0051】
なお、以上の計算式は基本的なものであり、温度ドリフトやキャリーオーバーなど各種の補正を追加してもよい。また、分析の途中に希釈槽や流路にリフレッシュのための液を導入しても良い。
【0052】
分析の合間に、ユーザーが各イオン選択性電極101,102,103又は比較電極104の何れかを交換した場合は、電極交換検知機構(図示せず)が電極交換されたことを検知し(S214)、キャリブレーション操作を行う。電極交換されていない場合、次に切替える予定の試薬ボトルが設置されているかを試薬ボトル交換検知機構(図示せず)が検知し(S215)、設置されていなければアラームを出す(S216)。このアラームが出た場合、装置オペレーターが次の試薬ボトル切替えのタイミングまでに、空になったボトルを取り出し、新たな試薬ボトルを設置する。
【0053】
次に、試薬ボトルの切替えが必要かを判断する(S217)。不要であれば、引き続き検体の分析を行い、必要であれば、
図2Cのフロー図に示す試薬ボトル切替えを行う。
【0054】
ここで、試薬ボトル切替え時の操作について、
図2Cのフロー図に基づいて説明する。
図2Cに示した処理フローにおいても、
図2AのS203のステップを
図3に示したフロー図で説明したような詳細な動作があるが、説明を簡単にするために、細かい動作の記載を省略する。
【0055】
まず、試薬ボトル切替え前に、希釈槽120に現在使用している試薬ボトル、例えば内部標準液ボトルA141(ボトル141)内の内部標準液を分注する。その間に、比較電極液ボトルA161内から比較電極104の流路1041に比較電極液を導入する。シッパーノズル107から希釈槽120内の内部標準液を吸引し、各イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031を内部標準液で満たした状態で、各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の電位差(起電力)を電位測定部171で測定する(S231)。
【0056】
次に、真空ポンプ112を作動させて希釈槽の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する。次に、電磁弁を切替え新たなボトルから試薬が供給されるようにし(S232)、供給流路内の液を置換する(S233)。その後、希釈槽に内部標準液ボトルB142内の内部標準液を分注する。その間に、比較電極液ボトルB162内から比較電極104の流路に比較電極液を導入する。
【0057】
次に、シッパーノズル107から希釈槽内の内部標準液を吸引し、イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031を内部標準液で満たした状態で各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の電位差(起電力)を電位測定部171で測定する(S234)。希釈槽120の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げ廃液タンク111に廃棄する。
【0058】
次に、濃度値補正・判断部173にて、次の式を用いて内部標準液の濃度値を算出し、濃度に異常が無いか判断し、内部標準液の濃度値を補正する(S235)。スロープ感度SLは式(数1)で算出した値を用いる。
【0059】
(D)内部標準液濃度補正
CIS’=CIS×10
c ……………………………(数6)
c =(EMFIS’−EMFIS)/SL …………(数7)
CIS:現ボトルの内部標準液濃度
CIS’:新ボトルの内部標準液濃度
EMFIS:現ボトルの内部標準液の起電力
EMFIS’:新ボトルの内部標準液の起電力
そして、また自動的に連続分析を再開する。
【0060】
本濃度補正は、検体の分析に使用するイオン選択電極そのもので切替え後の試薬を測定しているため、正確な補正を可能としている。
【0061】
上記の濃度補正に関しては、キャリブレーション時のスロープ感度と濃度既知の標準液を測定したときの起電力の値からも算出できる。また、試薬は3種同時ではなく1種類ずつ切替えても良い。
【0062】
本実施例に拠れば、試薬容器切替えのタイミングで適切に試薬濃度測定と補正を行っているため、切替え時に多少濃度調整誤差があっても分析値がずれない。これにより、本実施例によるフロー型電解質濃度測定装置では、試薬ボトル間で生じる多少の濃度誤差を吸収できるため、試薬ボトルの自動切換えが可能となり、オペレーターの負荷と装置のダウンタイムを低減することができる。
【実施例2】
【0063】
本発明の第2の実施例におけるフロー型電解質濃度測定装置400について
図4を用いて説明する。本実施例におけるフロー型電解質濃度測定装置400は、実施例1で記載した試薬ボトル切替え手段140,150,160の代わりに、内部標準液調合手段440、希釈液調合手段450と比較電極液調合手段460を備えている。実施例1と同じ構成の部品については、同じ番号を付してある。
【0064】
内部標準液調合手段440には、内部標準液調合容器A441と内部標準液調合容器B442が設けられており、原薬447を供給する原薬供給手段448を備えている。また、純水を各調合容器に導入する純水供給ポンプ481と、原薬447と純水を攪拌混合する攪拌機構443,444と、調合容器Aと調合容器Bの切替弁(電磁弁421,422,423)を有している。希釈液調合手段450と比較電極液調合手段460も同様の機構、希釈原薬457を供給する希釈原薬供給手段458と、比較電極液薬467を供給する比較電極原薬供給手段468を備えている。
【0065】
本実施例におけるフロー型電解質濃度測定装置400は、装置内で定常的に使用する試薬である比較電極液、内部標準液と希釈液を連続分析中に自動的に調合できるため、例えば内部標準液調合容器A441内の試薬を使用して連続分析を行いながら、もう一方の内部標準液調合容器B442で新たな試薬を調合し、内部標準液調合容器A441の試薬が不足したら、内部標準液調合容器B442に自動的に切り替わり、自動的に濃度補正を行い、分析を継続することができる。希釈液調合手段450と比較電極液調合手段460についても同様である。これにより、試薬補給の間隔が従来装置に比べて格段に長くすることができる。そのため、装置オペレーターは例えば電極交換のタイミングで原薬を補給すれば良い。
【0066】
本実施例におけるフロー型電解質濃度測定装置400には、各試薬容器内の試薬量をモニターする試薬量モニター機構(
図4に示した例では、各試薬ボトルの重量を計測する重量センサ:445,446、455,456,465,466)を有しており、計測した各試薬ボトルの重量を予め設定した値と比較することにより試薬容器切替えのタイミングを管理している。試薬量モニター機構としてはこの重量センサを用いた方式に限らず、試薬ボトル内部の試薬液の液面の高さをモニターする液面計などを用いても良い。また、試薬量モニター機構を備えずとも分析回数やシリンジの動作履歴などから試薬の消費量を制御部475で管理しても良い。また、本実施例におけるフロー型電解質濃度測定装置400では同種の試薬調合容器を2個設置しているが、2個で無くとも複数個であれば本発明の効果を発揮する。装置内で使う全種類の試薬でなく、一部の試薬のみに本発明を適用することもできる。
【0067】
図5A乃至
図5Cを用いて、本実施例におけるフロー型電解質濃度測定装置400における電解質濃度測定のフローを説明する。
【0068】
まず、装置立上げ時の手順について
図5Aのフローに基づいて説明する。
先ず装置を立上げ(S501)、試薬調合を開始する(S502)。このとき、内部標準液、希釈液と比較電極液をそれぞれ調合容器Aを優先して調合し、終わり次第、調合容器Bでの調合を開始する。内部標準液の場合、原薬447を原薬供給手段448を用いて調合容器A441に投入する。攪拌手段443で攪拌しながら純水供給ポンプ481を用いて調合容器A441に純水を定量供給することで内部標準液が調合される。このとき容器内の濃度が原薬の溶け残りなどなく均一になることが重要である。
【0069】
温調後、イオン選択性電極101,102,103の検量線を求めるために、2種類の既知濃度の標準液を測定し、スロープを算出する(S503)。続いて、調合した内部標準液濃度を算出する(S504)。
【0070】
ここで、S503とS504の具体的な操作について説明する。既知低濃度標準液を分注ノズル(図示せず)で希釈槽120に分注後、希釈液用シリンジポンプ132を用いて希釈液調合容器A451内の希釈液を希釈槽に分注し、設定した割合Dで既知低濃度標準液を希釈する(実施例1において、
図3のフロー図で説明したS301に対応。以下、
図3のフロー図の各ステップとの対応関係を示す。)。その間に、比較電極液容器A461内から比較電極104の流路に比較電極液を導入する(S302に対応)。
【0071】
希釈槽中の希釈した既知低濃度標準液をシッパーノズルから吸引し、イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に導入する(S303に対応)。液絡部121では比較電極液と希釈した既知低濃度標準液が接触する。イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部471で測定する(S304に対応)。
【0072】
各電位差を測定後、希釈槽120の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄(S305に対応)した後、希釈槽120に内部標準液調合容器A441内の内部標準液を分注する(S306に対応)。その間に、比較電極液調合容器A461内から比較電極104の流路1041に比較電極液を導入する(S307に対応)。
【0073】
次に、シッパーノズル107から希釈槽120内の内部標準液を吸引し、各イオン選択性電極101,102,103の流路を内部標準液で満たす(S308に対応)。この状態で各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部471で測定する(S309に対応)。
【0074】
各電位差を測定後、希釈槽120の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄(S310に対応)した後、既知高濃度標準液を分注ノズル(図示せず)で希釈槽120に分注後、希釈液用シリンジポンプ132を用いて希釈液調合容器A451内の希釈液を希釈槽120に分注し、設定した割合Dで既知高濃度標準液を希釈する(S311に対応)。その間に、比較電極液調合容器A461内から比較電極104の流路に比較電極液を導入する(S312に対応)。
【0075】
希釈槽120への希釈液の分注が終了したら、希釈槽120中の希釈した既知高濃度標準液をシッパーノズルから吸引し、イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に導入する(S313に対応)。液絡部121では比較電極液と希釈した既知高濃度標準液が接触する。各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部471で測定する(S314に対応)。
【0076】
各電位差の測定が終わったら、希釈槽の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄(S315に対応)した後、希釈槽120に内部標準液調合容器A441内の内部標準液を分注する(S316に対応)。その間に、比較電極液調合容器A461内から比較電極104の流路に比較電極液を導入する(S317に対応)。
【0077】
シッパーノズル107から希釈槽120内の内部標準液を吸引し、イオン選択性電極101,102,103の流路を内部標準液で満たし(S318に対応)、その状態で各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部471で測定する(S319)。また、希釈槽120の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する(S320に対応)。
【0078】
以上の電位測定部471で測定した起電力から、記録演算部472にて下記の計算式を用いて、検量線に当たるスロープ感度SLを算出する(S321に対応)。
(A)スロープ感度
SL=(EMFH−EMFL)/(LogCH−LogCL) ……(数8)
SL:スロープ感度
EMFH:既知高濃度標準液の測定起電力
EMFL:既知低濃度標準液の測定起電力
CH:高濃度標準液の既知濃度値
CL:低濃度標準液の既知濃度値
以上の操作をキャリブレーションと呼ぶ。なお、スロープ感度SLはネルンスト式
E = E0 + 2.303×( RT / zF )×log( f × C )
(E0:測定系により定まる一定電位、z:測定対象イオンの価数、F:ファラデー定数、R:気体定数、T:絶対温度、f:活量係数、C:イオン濃度)
の2.303×(RT/zF)に相当する。温度と測定対象イオン価数から計算で求めることができるが、より分析精度を高めるため本実施例装置では上記のキャリブレーションによって電極固有のスロープ感度SLを求めている。
【0079】
以上、S503の詳細について具体的な測定シーケンスを上記したが、この手順にかかわらず、イオン濃度の異なる2種類の液を流路にそれぞれ導入し、起電力を測定できれば、異なる手順でも良い。
【0080】
続いて、S503で求めたスロープ感度と内部標準液の起電力から内部標準液濃度を算出する(S504)。
(B)内部標準液濃度
CIS=CL×10
a ……………………………(数9)
a=(EMFIS−EMFL)/SL …………(数10)
CIS:内部標準液濃度
EMFIS:内部標準液の起電力
【0081】
次に、内部標準液のイオン濃度が設定濃度範囲か否かを濃度値補正・判断部473にて判断し(S505)、範囲内であれば
図5Bに示した連続分析のフローへ進み、範囲外であれば、アラームを出し(S506)、もう一方の調合容器で調合した試薬に切替えS503に戻ってキャリブレーションをやり直す。試薬の濃度が設計値から大きく異なる場合、試薬調合機構の不具合などのイレギュラーな装置状態にあると考えられ、分析精度に影響を与える可能性があるため、本装置には濃度値補正・判断部473を備えている。
【0082】
次に、連続分析時の操作について、
図5Bに示したフロー図を用いて説明する。キャリブレーション後、血清や尿などを検体として分析を行う。
図5Bに示した処理フローにおいても、実施例1で
図2AのS203のステップを
図3に示したフロー図で説明したような詳細な動作があるが、説明を簡単にするために、細かい動作の記載を省略する。
【0083】
具体的には、検体を分注ノズル(図示せず)で希釈槽120に分注後、希釈液用シリンジポンプ132を用いて希釈液調合容器A451内の希釈液を希釈槽120に分注し、設定した割合Dで検体を希釈する。その間に、比較電極液調合容器A461内から比較電極104の流路に比較電極液を導入する。
【0084】
希釈槽120中の希釈した検体をシッパーノズル107から吸引し、イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031に導入する。液絡部121では比較電極液と希釈した検体が接触する。イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の各電位差(起電力)を電位測定部471で測定する(S511)。
【0085】
希釈槽120の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄した後、希釈槽120に内部標準液調合容器A441内の内部標準液を分注する。その間に、比較電極液調合容器A461内から比較電極104の流路1041に比較電極液を導入する。シッパーノズル107から希釈槽120内の内部標準液を吸引し、イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031を内部標準液で満たした状態で各電極の起電力を電位測定部471で測定する(S512)。また、希釈槽120の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する。
【0086】
S503で求めたスロープ感度とS504de算出した内部標準液濃度から、下記の計算式を用いて検体の濃度を算出する(S513)。
(C)検体の濃度
CS=CIS×10
b ……………………………………(数11)
b=(EMFIS−EMFS)/SL ………………(数12)
CS:検体濃度
EMFS:検体の測定起電力
【0087】
なお、以上の計算式は基本的なものであり、温度ドリフトやキャリーオーバーなど各種の補正を追加してもよい。また、分析の途中に希釈槽や流路をリフレッシュさせるための操作を行っても良い。
【0088】
分析の合間に、ユーザーが各イオン選択性電極101,102,103又は比較電極104の何れかを交換した場合は、電極交換検知機構(図示せず)が電極交換されたことを検知し(S514)、キャリブレーション操作を行う。電極交換されていない場合、試薬調合容器内の残量を試薬量モニター機構(図示せず)で確認する(S515)。試薬残量が十分であれば、引き続き検体の分析を行い、不十分であれば、試薬調合容器の切替えを行う。ここで、試薬調合容器の切替え時の操作について説明する。
【0089】
まず、試薬調合容器の切替え前に、希釈槽に現在使用している試薬容器、例えば内部標準液調合容器A441内の内部標準液を分注する。その間に、比較電極液調合容器A461内から比較電極104の流路に比較電極液を導入する。シッパーノズル107から希釈槽120内の内部標準液を吸引し、イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031を内部標準液で満たした状態で各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の電位差(起電力)を電位測定部471で測定する(S531)。
【0090】
次に、希釈槽の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する。次に、電磁弁を切替えもう一方の試薬調合容器から試薬が供給されるようにし(S532)、供給流路内の液を置換する(S533)。このとき、元の試薬調合容器では、残った試薬を排液機構(図示せず)で排液し、新たに試薬の調合を開始する。希釈槽に内部標準液調合容器B442内の内部標準液を分注する。その間に、比較電極液調合容器B462内から比較電極104の流路に比較電極液を導入する。
【0091】
次に、シッパーノズル107から希釈槽内の内部標準液を吸引し、イオン選択性電極101,102,103の流路1011,1021,1031を内部標準液で満たした状態で各イオン選択性電極101,102,103と比較電極104との間の電位差(起電力)を電位測定部471で測定する(S534)。希釈槽の残った液を真空吸引ノズル106で吸い上げて廃液タンク111に廃棄する。
【0092】
次に、濃度値補正・判断部473にて、次の式を用いて内部標準液の濃度値を算出し、濃度に異常が無いか判断を行い、内部標準液の濃度値を補正する(S535)。スロープ感度SLは式(数8)で算出した値を用いる。
(D)内部標準液濃度補正
CIS’=CIS×10
c …………………………………(数13)
c =(EMFIS’−EMFIS)/SL ………………(数14)
CIS:現在使用している調合容器の内部標準液濃度
CIS’:切替え後の調合容器の内部標準液濃度
EMFIS:現在使用している調合容器の内部標準液の起電力
EMFIS’:切替え後の調合容器の内部標準液の起電力
そして、また自動的に連続分析を再開する。
【0093】
本濃度補正は、検体の分析に使用するイオン選択電極そのもので調合した試薬を測定しているため、正確な補正を可能としている。また、調合後の試薬を複数回分析し、均一な濃度に調合できているかを確認しても良い。
【0094】
上記の濃度補正に関しては、キャリブレーション時のスロープの値と濃度既知の標準液を測定したときの起電力の値からも算出できる。また、試薬調合容器は3種同時ではなく1種類ずつ切替えても良い。
【0095】
本実施例によるフロー型電解質濃度測定装置400では、試薬の濃度誤差10%以内で調合が可能であり、試薬容器切替えのタイミングで適切に試薬濃度測定と補正を行っているため、切替え時に多少濃度調整誤差があっても分析値がずれない。これにとり、従来装置では、内部標準液の厳密な濃度調整が必要であったが、本実施例によるフロー型電解質濃度測定装置では、多少の濃度調整誤差を吸収できるため、簡便な機構での試薬調合を可能にして、オペレーターの負荷と装置のダウンタイムを低減することができる。なお、本実施例では、原薬として固形を用いたが、濃縮した液体の原薬でも良く、その場合、原薬供給機構を液体用に交換する必要がある。
【0096】
[比較例]
ここで、実施例1及び実施例2に対する比較例として、従来のフロー型電解質濃度測定装置600の全体構成のブロック図を
図6に示す。
図7A及び
図7Bに従来装置における電解質濃度測定のフローを示す。
図7Aの従来装置における装置立ち上げ時の処理のフローは、実施例1で説明した
図2Aの装置立ち上げ時の処理フローと同じであるので、同じステップ番号で示し、説明を省略する。
【0097】
図7Bに示した連続分析時の従来のフロー型電解質濃度測定装置600における処理フローでは、フロー型電解質濃度測定装置600にボトル切替え手段が無いことが本発明各実施例に記載したフロー型電解質濃度測定装置100または400と大きく異なる。
【0098】
そのため、
図7Bに示した従来のフロー型電解質濃度測定装置600では、連続分析時に、検体を分析し(S711),内部標準液の分析を行った(S712)後、試薬ボトル交換の判定ステップ(S713)において試薬ボトル641,651または661の何れかの交換の必要が生じた際、分析を停止し(S714)、アラームを出す(S715)。
【0099】
アラームが出ると、装置オペレーターが試薬ボトル641,651または661の何れかの交換を実施し、キャリブレーションが完了するまで分析ができないため、その期間が装置のダウンタイムとなる。そのため、装置の稼働率が低下するとともにオペレーターが試薬ボトル交換のタイムスケジュールに縛られる。
【0100】
図8に本発明の実施例1におけるフロー型電解質濃度測定装置100の分析値の安定性を実証するために行った実験フローを示す。比較実験として、従来のフロー型電解質濃度測定装置600についても、同じ実験フローを実施して比較データを得た。
【0101】
まず、キャリブレーションを行い(S801)、3種類の濃度の標準血清を2回分析する(S802)。ここで、試薬ボトルの交換により極端な濃度変化が起こった場合を模擬するため、元の90%濃度の内部標準液が入った内部標準液ボトルに交換し、供給流路の液置換を行う(S803)。標準血清を2回分析し(S804)、キャリブレーションした(S805)後に再度、標準血清を2回分析する(S806)。ここで、また元の濃度の内部標準液の入ったボトルに交換し(S807)、液置換を行い、標準血清を2度分析する(S808)。再度、キャリブレーションした(S809)後に、再度、標準血清を2回分析する(S810)。
【0102】
従来装置で、上記の検証実験を行った結果を
図9に示す。
図9は標準血清のNaイオン濃度について、高濃度Naイオン:901、中濃度Naイオン:902、低濃度Naイオン:903について測定した結果を示している。内部標準液ボトルを交換したタイミング(
図9の横軸の2と3の間、及び6と7の間)で、高濃度Naイオン:901、中濃度Naイオン:902、低濃度Naイオン:903何れもが大きく濃度が変化した。一方で、キャリブレーション(
図9中の「キャリブ」)の後は、内部標準液の濃度に係わらず、一定の値を示した。従来装置では、分析値の正確さを保つために内部標準液ボトルの交換後に、キャリブレーションが必要であることが確認できた。
【0103】
本発明の実施例1におけるフロー型電解質濃度測定装置100で同様の実験を行った場合の標準血清のNaイオン濃度について、高濃度Naイオン:1001、中濃度Naイオン:1002、低濃度Naイオン:1003について測定した結果を
図10に示す。
【0104】
本発明の実施例1におけるフロー型電解質濃度測定装置100では、濃度の異なる内部標準液に切替えても(
図10の横軸の2と3の間、及び6と7の間)、分析値(Naイオン濃度)に影響を与えなかった。前記の通り、本発明の実施例1におけるフロー型電解質濃度測定装置100では、ボトル交換のタイミングで適切に試薬濃度測定と補正を行っているため、ボトル交換時に多少試薬濃度が変化しても分析値に影響せず、自動的に試薬ボトルを切替えることが可能であると確認できた。
【0105】
本発明の実施例2におけるよるフロー型電解質濃度測定装置400でも、実施例1のフロー型電解質濃度測定装置100で得られた
図10と同等の分析値の安定性を得ることができた。
【0106】
また、
図11の表1100に、に本発明の実施例1の装置1101および実施例2の装置1102の効果を従来装置1103と比較した。従来装置1103では、装置立上げ時、電極および試薬ボトルを設置し、温調後キャリブレーションを行う。この時間は約30分要する。その後、試薬が無くなる8時間毎に装置オペレーターが試薬ボトルを交換し、キャリブレーションする。このときの分析停止時間は約10分である。例えば、数千テスト後、電極を交換する際は、装置立上げと同様の操作を行う。このように、従来装置1103では、装置オペレーターは約8時間毎の試薬交換スケジュールに縛られる。
【0107】
一方、本発明の実施例1の装置1101では、装置立上げ時は従来と同等の時間がかかるが、その後8時間毎に自動的にボトルを切替え、試薬濃度補正する。各分析停止時間は約1分であり、従来に比べ大幅に短縮しており、かつ試薬容器切替え時は装置オペレーターの操作を必要としない。装置オペレーターは次の8時間が経つまでに、空になったボトルを好きなタイミングで交換できるため、負荷は大幅に低減される。
【0108】
さらに、実施例2の装置1102では、装置オペレーターは、装置立上げ時に電極と試薬の原薬を設置し、キャリブレーションを実施するだけでよく。連続分析時は、調合容器に新たな試薬を自動的に調合、切替え、補正する。装置オペレーターは電極交換のタイミングにだけに必要であり、約30時間装置から離れることができる。また、試薬を濃縮した原薬のみを使用するため、試薬の重さは100分の1程度となる。