【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換素子として熱電変換材料部と電極層とを組み合わせたものは知られており、特に複数の熱電変換材料部を電気的に配列したものが熱電変換モジュールとして使用されている。
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。現実に熱電変換する場合は、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とを用いてこれらを交互に電気的に直列に接続する構造とする。熱電変換モジュールを利用すると、産業・民生用プロセスや移動体から排出される排熱を電力に変換することができるため、熱電変換は、環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
【0003】
そこで、廃熱発電のような200〜800℃程度では、熱電性能が良好で環境負荷が少なく、さらに低コストで軽量な新しい熱電変換材料が求められている。
そのような新しい熱電変換材料の1つとしてクラスレート化合物が注目されている。有望なクラスレート化合物にはいくつかの種類が報告されている。例えば、コスト面などからBa、Ga、Al、Si系やBa、Ga、Al、Ge系のクラスレート化合物が注目されている。
特許文献1には、単位格子あたりx個(10.8≦x≦12.2)のSi原子が、Al原子とGa原子のいずれかで置換されているBa
8(Al,Ga)
xSi
46−xの単結晶とその製造方法が開示されている。Si系またはGe系クラスレート化合物は有害元素を含まない組成であり、作動温域が広いなどの利点がある。
【0004】
熱電変換モジュールは、異種導電体を接合した一端と他端との温度差により起電力を生ずるゼーベック効果を利用している。かかる熱電変換モジュールにおいては、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とを接続した一端を高温部、他端を低温部にして両端に温度差を付けるようにしている。クラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールの作製でも、熱電変換材料部と電極との高温部および低温部での接合が必要となる。
Bi−Te系クラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールは室温〜250℃の温度範囲において用いられ、これらの接合は、熱の影響をほとんど考慮することなく、ハンダ、ロウ材などを使用した比較的容易な方法によって実現される。
しかしながら、800℃程度の高温環境での使用も視野に入れた熱電変換モジュールでは、ハンダ、ロウ材以外の方法による熱電変換材料部と電極との接合性が必要となる。
【0005】
そのため、特許文献2の技術では、Ba、Ga、Ge系クラスレート化合物から構成される熱電変換材料部とTi
3Cu
4の組成を有する電極(線膨張係数=12.8×10
−6[/K])との間にTi層を設けている。
特許文献3の技術では、クラスレート化合物をはじめとする熱電変換素子と電極とを、Agペーストを加熱処理して金属化したAg接着層を介して、接続している。
【0006】
他方、熱電変換モジュールの実装には、熱サイクルによる経時劣化を考慮する必要がある。かかる状況では、熱電変換材料部と電極との元素の相互拡散により、熱電変換材料部の成分が変化し熱電特性が低下することや、熱電変換材料部と電極との界面で抵抗が比較的高くなることが想定される。
【0007】
これを解決するため、特許文献4の技術では、鉄族元素であるNi、Co、Feを主成分としたSiとの合金層を、熱電変換材料部と電極との間に設け、拡散を防止している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0016】
(1)熱電変換素子
図1に示す様に、熱電変換素子1は基本的に、熱電変換材料部10および電極層21を備えている。
熱電変換材料部10はSi系またはGe系クラスレート化合物を主成分とする熱電変換材料から構成されている。
電極層21は熱電変換材料部10上に形成されている。
電極層21は2層以上の層構造を有しており、それら層にはそれぞれ所定の金属間化合物が含有されている。
図1では、電極層21が第1の電極層211、第2の電極層212および第3の電極層213の3層構造を有する例が記載されている。第1の電極層211、第2の電極層212および第3の電極層213にはそれぞれ所定の金属間化合物が含有されている。
電極層21は上記のとおり2層以上の層構造を有し、第1の電極層211および第2の電極層212の2層構造を有していてもよい。かかる場合、第1の電極層211および第2の電極層212にそれぞれ所定の金属間化合物が含有される。
【0017】
熱電変換素子1はn型熱電変換素子もしくはp型熱電変換素子として使用され、またはn型熱電変換素子とp型熱電変換素子との両方の熱電変換素子として使用され、これらがさらに配線と接合され、モジュールとして組み込まれうる。配線はAg、Cu、Al、Niなどの導電性金属で構成される(熱電変換モジュールについては後述する。)。
【0018】
(1.1)熱電変換材料部
熱電変換材料部10はSi系またはGe系クラスレート化合物を主成分とすることが好ましい。
Si系クラスレート化合物の一例としてBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物が挙げられる。Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物は、主に、基本的な格子がSiのクラスレート格子から構成され、Ba元素がその内部に内包され、クラスレート格子を構成する原子の一部がGa、Alで置換された構造を有している。このクラスレート化合物は、Ba、Ga、Si、Alが同時に含まれた化合物である。
【0019】
本実施形態にかかるクラスレート化合物の化学式は、クラスレート化合物の化学式Ba
aGa
bAl
cSi
dの組成比のうち、Ba、Ga、Al、Siの各組成比a、b、c、dは概ね、次のような関係[1]を有する。また、Ga、Al、Siの各組成比b、c、dは概ね、次のような関係[2]を有する。これらのような関係を満たせば、当該クラスレート化合物はSiクラスレート相を主体とするものとして実現され、理想的な結晶構造をとりうる。
a+b+c+d=54 … [1]
b+c+d=46 … [2]
【0020】
なお、熱電変換材料部10には、Si系クラスレート化合物を主成分として、少量の他の不純物が含まれてもよい。
【0021】
また、Si系クラスレート化合物として、Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物に、少量の他の添加物が含まれたクラスレート化合物が使用されてもよい。すなわち、Si系クラスレート化合物はBa−Ga−Al−Si−X(X=Sr、Pd)系クラスレート化合物であってもよい。SrやPdは、ゼーベック係数を上昇させるのに有用な場合がある。
Ba−Ga−Al−Si−X系クラスレート化合物では、化学式Ba
aGa
bAl
cSi
dX
xの組成比のうち、Ba、Ga、Al、Si、Xの各組成比a、b、c、d、xが概ね、次のような関係[3]を有する。
a+b+c+d+x=54 … [3]
かかる場合、b+c+d+x=46であるのがよい。
なお、Ba−Ga−Al−Si−X系のクラスレート化合物にも、少量の他の不純物が含まれてもよい。
【0022】
熱電変換材料部10はGe系のクラスレート化合物を主成分としてもよい。Ge系クラスレート化合物の一例として、Ba−Ga−Al−Ge系クラスレート化合物が挙げられる。
Ba−Ga−Al−Ge系のクラスレート化合物も、上記のBa−Ga−Al−Si系のクラスレート化合物と同様の構造および組成を有している。すなわち、Ba−Ga−Al−Ge系のクラスレート化合物でも、化学式Ba
aGa
bAl
cGe
eの組成比のうち、Ba、Ga、Al、Geの各組成比a、b、c、eは上記の関係[1]および関係[2]を満たす。少量の他の添加物を含まれたBa−Ga−Al−Ge−X(X=Sr、Pd)系のクラスレート化合物でも、化学式Ba
aGa
bAl
cGe
eX
xにおける各組成比a、b、c、e、xは上記の関係[3]を満たす。
なお、Ba−Ga−Al−Ge系のクラスレート化合物における関係[1]〜[3]では、Geの組成比eがSiの組成比dと置き換えられる。
【0023】
(1.2)電極層
熱電変換素子1では、熱電変換材料部10と電極層21との接合性(密着性)が求められる。
本実施形態にかかる熱電変換素子1では、熱電変換材料部10と、少なくとも第1の電極層211および第2の電極層212を有する電極層21とを、備えている。
第1の電極層211には、熱電変換材料部10を構成する1種以上の元素と、Co、Ni、Cuのうち少なくとも1種の金属元素とからなる金属間化合物が含有されている。
第2の電極層212にも、熱電変換材料部10を構成する1種以上の元素と、Co、Ni、Cuのうち少なくとも1種の金属元素とからなる金属間化合物が含有されている。
熱電変換材料部10の電極層21側(第1の電極層211側)には、Co、Ni、Cuのうち少なくとも1種の金属元素であって、電極層21に含まれる金属元素と同じ金属元素が含有されている。
かかる構成によれば、熱電変換材料部10と電極層21との接合性を維持したまま、熱電変換材料部10と電極層21を構成する成分の著しい相互拡散を抑制し、接合性を維持したまま熱サイクルによる致命的な熱電特性の低下を防止することができる。
なお、金属間化合物を構成するCo、Ni、Cuの第1の電極層211(または第2の電極層212)に占める金属元素の組成割合は、10%以上90%以下が好ましい。
【0024】
Co、Ni、Cuのうち少なくとも1種の金属元素が含有されている金属間化合物は一般に高融点で、かかる金属間化合物層は相互拡散を抑制する拡散防止層としての効果を持つ。さらに、金属間化合物層を2層以上設けることにより、割れ、剥離など、接合性の悪化を招く原因の異材接合による熱応力差を傾斜的に緩和できると考えられる。
【0025】
電極層21では、それを構成する各電極層のうち、表層側の電極層でCo、Ni、Cuの金属元素の組成割合が最も高い(多い)。
すなわち、表層側の電極層と熱電変換材料部10側の電極層とでは、表層側の電極層のCo、Ni、Cuの金属元素の組成割合が、熱電変換材料部10側の電極層のCo、Ni、Cuの金属元素の組成割合より多い。
例えば、
図1のような熱電変換素子1では、
図2に示すとおり、第1の電極層211、第2の電極層212および第3の電極層213のうち、第3の電極層213で金属元素の組成割合が最も多い。
詳しくは、第3の電極層213の金属元素の組成割合は第2の電極層212の金属元素の組成割合より多く、第2の電極層212の金属元素の組成割合は第1の電極層211の金属元素の組成割合より多い。金属元素の組成割合は第1の電極層211から第3の電極層213にかけて段階的に漸増している。
ここで、「金属元素の組成割合」とは、電極層21のそれぞれの層において、金属間化合物を構成する全元素に対する金属元素のモル割合である。
【0026】
なお、本実施形態にかかる「電極層」は、金属間化合物を主体とするものであれば良く、金属間化合物には該当しない他の相・不純物が少量含まれてもよい。
さらに、本実施形態にかかる「電極層」は金属間化合物層が複数あればよく、金属間化合物層に該当しない他の層が含まれていても良い。
【0027】
本実施形態にかかる「金属間化合物」とは、電子線マイクロアナライザーを用いた線分析を0.2μm間隔以下で行った場合に、熱電変換材料部10を構成する1種以上の元素と、Co、Ni、Cuのうち少なくとも1種の金属元素との少なくとも2種以上の元素が一定の組成割合で存在しているものを指す。
金属間化合物層には若干の固溶領域が形成されてもよい。
金属間化合物層に固溶領域が存在する場合や、ボイドや少量の不純物が存在する場合は、ボイドや少量の不純物の分析結果ではなく、ミクロ観察の結果から総合的に判断する。
具体的には、熱電変換材料部10を構成する1種以上の元素と、Co、Ni、Cuのうち少なくとも1種の金属元素との少なくとも2種以上の元素が厚さとして1μm以上存在している領域であって、当該少なくとも2種以上の元素の、その領域の全元素に対する組成割合が5%未満の変動で収まる(5%以上増減しない)領域を、金属間化合物の電極層と判断する。
【0028】
図2は本実施形態にかかる熱電変換素子におけるCo、Ni、Cuのうちの1種の金属元素の組成割合と電極層21の各層を含む位置との関係の一例を示す。
図2では、Co、Ni、Cuのうちの1種の金属元素の組成割合と、金属層31/第3の電極層213/第2の電極層212/第1の電極層211/熱電変換材料部10における位置の関係を模式的に表している。
Co、Ni、Cuのうちの1種の金属元素は、第3の電極層213/第2の電極層212/第1の電極層211内および熱電変換材料部10では一定の組成割合で存在する。このとき、同様に熱電変換材料部10を構成する元素も第3の電極層213/第2の電極層212/第1の電極層211に存在し、これらを3層の金属間化合物層と判断する。
【0029】
(1.3)金属層
図3に示すとおり、電極層21上には、金属層31が形成されてもよい。
かかる構成によれば、熱電変換モジュールにおける熱電変換素子と配線との接合が容易になる。
金属層31は、導電性金属であればよい。好ましくは電極層21に含有されている金属元素を主成分とする。「金属元素を主成分とする」とは、金属層31を構成する元素のうち、電極層21に含有されている最も多い元素の、金属層における含有割合が最も高いという意味である。
【0030】
金属層31および/または電極層21は、金属層32および/または電極層22として、熱電変換材料部10の高温側と低温側との両方に設けてもよいし、いずれか一方にのみ設けてもよい。高温側と低温側との両方に設ける場合には、金属層31、32および/または電極層21、22の組成および構成は、高温側と低温側とで同じであってもよいし異なっていてもよい。高温側と低温側とでは、熱電変換材料部10における熱応力などの状態が異なるためである。
【0031】
(2)製造方法
本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換素子の製造方法は、
(2.1)原料を混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
(2.2)前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
(2.3)(i)前記微粒子を焼結するか、または(ii)前記微粒子と電極層を構成するCo、Ni、Cuのうち1種の金属粉末とを焼結する焼結工程と、
(2.4)(i)前記微粒子のみを焼結する焼結行程を選択した場合は、焼結体の電極接合部に電極層を構成するCo、Ni、Cuのうち1種の金属を接触させ通電加熱を施す金属層および/または電極層の形成工程と、
を有する。
以下、工程を詳細に説明する。
【0032】
(2.1)調製工程
調製工程では、所定の組成を有しかつ均一な組成のクラスレート化合物のインゴットを製造する。まず、所望のクラスレート化合物の組成となるように、所定量の原料(Ba、Ga、Al、Si、Ge、X)を秤量し混合させる。原料は、単体であってもよいし、合金や化合物であってもよく、その形状は、粉末でも片状でも塊状であってもよい。また、Siの原料として単体のSiではなくAl−Siの母合金を用いると、融点が低下するのでより好ましい。
【0033】
溶融時間としては、すべての原料が液体状態で均質に混ざり合う時間が必要とされるが、製造に要するエネルギーを考慮すると、溶融時間はできるだけ短時間であることが望まれる。そのため、溶融時間は、好ましくは1〜100分であり、さらに好ましくは1〜10分であり、特に好ましくは1〜5分である。
【0034】
原料混合物からなる粉末を溶融する方法は、特に限定されず、種々の方法を用いることができる。溶融方法としては、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導溶解、アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に応じて用いられる。溶融の際は、材料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下でおこなわれるのが好ましい。
【0035】
短時間で均質に混ざり合った状態とするためには、好ましくは微細な粉末状の原料が混合される。ただし、Baは、酸化を防ぐために、塊状を呈するものが好ましい。また、溶融時に機械的または電磁的な攪拌を加えるのも好ましい。
【0036】
溶融後、インゴットにするためには、鋳型を用いて鋳造しても、ルツボ中で凝固させてもよい。できあがったインゴットの均質化のために、溶融後にアニール処理をおこなってもよい。
【0037】
アニール処理の処理時間は、製造時の省エネルギー化のためには、短い方が好ましく、アニール効果の面からは、長い時間が好ましい。アニール処理の処理時間は、好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは1〜10時間がさらに好ましい。
【0038】
アニール処理の処理温度は、好ましくは700〜950℃であり、さらに好ましくは850〜930℃である。処理温度が700℃未満であると、均質化が不十分になりやすく、処理温度が950℃を超えると、再溶融による濃度偏析が生じやすい。
【0039】
(2.2)粉砕工程
調製工程によって得られたインゴットを、ボールミルなどを用いて粉砕し、微粒子状のクラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子は、焼結性を向上するために細かい粒度が望まれる。微粒子の粒径は、好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上75μm以下である。
【0040】
所望の粒径の微粒子とするためには、ボールミルなどでインゴットを粉砕した後、粒度を調製する。粒度の調製方法は、ISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いたふるい分けなどがあげられる。ふるい分けをガスアトマイズ法などの各種アトマイズ法やフローイングガスエバポレーション法などに変えて微粉末を製造してもよい。
【0041】
(2.3)焼結工程
(i)焼結工程では、前記粉砕工程で得られた微粉末状のクラスレート化合物を焼結型に充填し、焼結することで、均質で空隙の少ない、所定の形状の固体(熱電変換材料部の前駆体)を得ることができる。
【0042】
他方、焼結工程では、熱電変換材料部と同時に、電極層を形成することもできる。
(ii)具体的には、熱電変換材料としてのクラスレート化合物の微粒子と、電極層の形成用材料としてのCo、Ni、Cuのうち1種の金属微粒子とを、それぞれ所定量用意し、これらを焼結型に充填して焼結する。かかる場合、焼結時の通電加熱によって金属間化合物を含有した電極層が2層以上形成される。ただし、金属元素や温度によっては、相互拡散反応による金属間化合物の電極層の形成ができない場合や、2層以上の電極層が形成できない場合がある
【0043】
焼結方法としては、放電プラズマ焼結(SPS)法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法などを用いることができる。放電プラズマ焼結法を用いる場合、その焼結の1条件となる焼結温度は、好ましくは600〜980℃であり、より好ましくは800〜980℃である。焼結時間は好ましくは1〜10分であり、より好ましくは3〜7分である。圧力は好ましくは40〜80MPaであり、より好ましくは50〜70MPaである。
【0044】
焼結温度が600℃以下では微粉末状のクラスレート化合物が焼結せず、焼結温度が1100℃以上では溶解する。焼結時間が1分未満では密度が低く、焼結時間が10分を超えると焼結が完了・飽和すると考えられる。
【0045】
(2.4)電極層および/または金属層の形成工程
得られた熱電変換材料の焼結体とCo、Ni、Cuのうち1種の金属板とを通電接合法により、電極層を形成することができる。通電接合法は、焼結体と金属板とが密着した状態で通電加熱を行うことにより、焼結体と金属板の成分が相互拡散されて接合される方法である。このとき、焼結体の構成元素と金属板の構成元素との相互拡散反応により、金属層および熱電変換材料部の成分を含有する金属間化合物の電極層21を複数形成することができる。
【0046】
かかる金属層および/または電極層の形成工程では、蒸着法、溶射法、メッキ法、スパッタ法などの薄膜形成法を使用してもよく、熱電変換材料に対し金属のペーストを塗布してもよい。上記と同等の金属層および/または電極層を形成することができればよい。
【0047】
(3)クラスレート化合物の生成の確認
Si系クラスレート化合物の確認は、粉末X線回折(XRD)で行うことができる。具体的には、焼結後のサンプルを再度粉砕して粉末X線回折測定し、得られるピークがタイプ1クラスレート相(Pm−3n、No.223)を示すものであればよい。
【0048】
タイプ1クラスレート相(Si系クラスレート相)に不純物相を含むことがあるため、不純物のピークも観察される場合がある。
Si系クラスレート化合物におけるSi系クラスレート相の最強ピーク比は85%以上であればよい。Si系クラスレート相の最強ピーク比は、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。「Si系クラスレート化合物を主成分とする」とは、粉末X線回折測定結果から、Si系クラスレート相の最強ピーク比が85%以上である状態を意味する。
【0049】
最強ピーク比とは、たとえばBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物であれば、粉末X線回折測定において測定されたSi系クラスレート相の最強ピーク(IHS)、不純物相A(BaGa
4―Y(Al,Si)
Y(0≦Y≦4))の最強ピーク強度(IA)、不純物相B(BaAl)
2(Si)
2など)の最強ピーク強度(IB)より、下記の式[4]で定義される。
「最強ピーク比」=IHS/(IHS+IA+IB)×100(%) … [4]
【0050】
なお、クラスレート化合物相の確認は、Ba−Ga−Al−Ge系クラスレート化合物も、Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物と同様にの手法により判断できる。
【0051】
(4)電極層の生成の確認
電極層の確認は、組織観察(ミクロ観察)や電子線マイクロアナライザーを用いた線分析で行う。
【0052】
(5)熱電変換モジュール
熱電変換モジュールは、熱電変換素子に加わる熱エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を持つモジュールである。
図4(a)に示す様に、熱電変換モジュール60は主に、n型熱電変換素子11、p型熱電変換素子12、高温側配線41、低温側配線42、高温側絶縁基板51および低温側絶縁基板52によって構成されている。
図4(b)に示すとおり、熱電変換モジュール60では、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12と高温側配線41および低温側配線42とが交互に接合され、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12が高温側配線41および低温側配線42を介して電気的に直列に配列された構成を有している。
【0053】
n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12として、熱電変換素子1が使用される。熱電変換素子1は、n型熱電変換素子11とp型熱電変換素子12との少なくとも一方に使用されればよく、n型熱電変換素子11とp型熱電変換素子12との両方に使用されてもよい。
好ましくは、n型熱電変換素子11として、熱電変換材料部10がSi系クラスレート化合物を主成分とする熱電変換素子1が使用され、p型熱電変換素子12として、熱電変換材料部10がGe系クラスレート化合物を主成分とする熱電変換素子1が使用されるのがよい。
【0054】
高温側配線41および低温側配線42は、n型熱電変換素子11とp型熱電変換素子12とを電気的に直列に接続する機能を備える。
高温側配線41の材料としては、使用する上限温度(例えば800℃)以上の融点を持つ導電性金属であればよく、好ましくはCuまたはAgなどの比較的低電気抵抗の金属が望ましい。低温側配線42の材料としては、導電性金属であればよく、Cu、AgまたはAlなどが望ましい。
【0055】
高温側絶縁基板51および低温側絶縁基板52は、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12と、高温側配線41および低温側配線42とを、固定する機能を備え、さらに熱電変換モジュール60が均一に受熱する機能を備える。
高温側絶縁基板51の材料は、使用する上限温度(例えば800℃)以上の融点を持ち、高温側配線41との間で絶縁される材料であればよく、たとえばアルミナである。また、低温側絶縁基板52の材料は、高温側絶縁基板51と同一であってもよく、異なっていてもよいが、低温側配線42との間で絶縁される材料である必要がある。
【0056】
なお、熱電変換モジュール60では、高温側絶縁基板51がなくてもよい。
この場合、高温側配線41と高温側絶縁基板51との接続がなくなり、高温側配線41やn型熱電変換素子11、p型熱電変換素子12などにかかる熱応力が緩和され、高温における熱電変換モジュール60の信頼性が向上する。
【実施例1】
【0057】
(1)熱電変換素子サンプルの作製
(1.1)実施例1
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のAl、Ga、Si、Geを表1に記載の配合比率(配合量(g))で秤量し、原料混合物を調製した。
サンプルA、Bはともに熱電変換材料であり、特にサンプルAはSi系クラスレート化合物を、サンプルBはGe系クラスレート化合物を生成するための原料である。
【0058】
【表1】
【0059】
この原料混合物を、Ar(アルゴン)雰囲気中において、水冷銅ハース上で300Aの電流で1分間アーク溶解した後、原料の不均一を解消するためにインゴットを反転して、再度アーク溶解を行う工程を5回繰り返し、そのまま水冷銅ハース上で常温まで冷却することによりクラスレート化合物を有するインゴットを得た。その後、インゴットの均一性を高めるために、アルゴン雰囲気で、900℃で6時間のアニール処理を行った。
【0060】
得られたインゴットを、メノウ製遊星ボールミルを用いて粉砕し、微粒子を得た。このとき、得られた粒子の粒径が75μm以下となるようにISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いて粒度を調製した。
【0061】
得られた焼結用粒子を、焼結型に設置し焼結を行った。焼結は、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて、圧力50MPaまで加圧した後に加熱した。
サンプルAでは、980℃まで加熱を行い、その後980℃で5分間焼結してから、加圧状態を解除し、980℃から室温まで冷却を行った。
サンプルBでは、900℃まで加熱を行い、その後900℃で5分間焼結してから、加圧状態を解除し、900℃から室温まで冷却を行った。
冷却温度が500℃以上では真空雰囲気で保持することが好ましいが、500℃未満では大気雰囲気で保持してもかまわない。
【0062】
このようにして熱電変換材料の厚み約10mmの焼結体を得た。
サンプルAの焼結体の金属接合部に対し、約100μmのNi板を通電接合法により接合した。焼結工程と同様の放電プラズマ焼結装置を用いて、圧力17MPaまで加圧した後、熱電変換材料の焼結体の一部が溶融し始めるまで加熱した。このときの接合部の温度は、正確には測定できないが、熱電変換モジュールの使用温度範囲の上限温度であり、十分な元素拡散を促進させたと考えられる。
【0063】
このように得られた熱電変換材料部とNi板とが一体となった熱電変換素子において、Niと熱電変換材料を構成する元素の相互拡散が促進され、複数の電極層を同時に形成することができた。
【0064】
(1.2)実施例2〜4
実施例1と同様の作製方法において原料混合物のサンプルA、Bや金属板の種類を変更し、そこで得られた熱電変換素子を、表3に記載の種類に応じて「実施例2〜4」とした。
【0065】
(1.3)比較例1〜3
実施例1と同様の作製方法において原料混合物のサンプルA、Bや金属板の種類を変更し、そこで得られた熱電変換素子を、表3に記載の種類に応じて「比較例1〜3」とした。
特に比較例1〜3では電極層の層数を1層または0層とした。ただし、比較例3では、熱電変換材料の焼結体よりもAg金属板が先に溶融し始めたので、その時点で加熱を終了した。
【0066】
(2)熱電変換素子サンプルの分析と評価
実施例1〜4および比較例1〜3を、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)で組成分析するとともに、前記の「(3)クラスレート化合物の生成の確認」のX線回折とに供した。
【0067】
(2.1)熱電変換材料部の組成分析
実施例1〜4および比較例1〜3における熱電変換材料部の組成分析の結果、表1のサンプルA、Bにおいて、所望の組成Ba
aGa
bAl
cSi
d(a+b+c+d=54、b+c+d=46)の化合物と、Ba
aGa
bAl
cGe
e(a+b+c+e=54、b+c+e=46)の化合物とが得られた。
【0068】
【表2】
【0069】
(2.2)X線回折分析
実施例1〜4および比較例1〜3の熱電変換材料部がクラスレート化合物であることを確認するために、X線回折装置(リガク社製Geigerflex)を使用して、サンプルの中心部分を切り出して粉末X線回折で分析した。その結果、すべてのサンプルにおいて、タイプ1クラスレート相が生成していることが確認された。得られた結果から、式[4]に基づき最強ピーク比を算出したところ、最強ピーク比が95%以上であることを確認した。
【0070】
(2.3)接合性の評価
実施例1〜4および比較例1〜3における熱電変換材料部と電極との間の接合性を確認した。
実施例1〜4および比較例1〜3を、縦2×横2×高さ5mmのサイズに精密成形した。
その後、サンプル1〜4および比較例1〜3における熱電変換材料部と電極層との間の接合性を、まず、光学顕微鏡を用いた目視により界面近傍を観察し、界面の剥離、割れ、クラックが確認されなければ、デジタルマルチメーター(カイセ社製KU-2608)を使用して、熱電変換素子の高温側と低温側との通電を評価した。
このとき、高温側と低温側との両端の抵抗が100Ωを越える場合は界面に剥離、割れ、クラックを生じたと考えられ、通電可能でないと判断した。
界面に剥離、割れ、クラックが無くかつ通電可能であれば「○(良好)」と、界面に剥離、割れ、クラックがあるか、または通電可能でない場合には「×(不良)」として、評価した。
【0071】
(2.4)拡散状態の評価
実施例1〜4および比較例1〜3における熱電変換材料部と電極との間の拡散状態を確認した。
クラスレート化合物が溶融開始する温度(少なくとも900℃以上)まで熱電変換材料部もしくは金属板を加熱させて接合した。このとき、十分な元素拡散を施していると考えられる。
ミクロ観察、電子線マイクロアナライザーによる線分析の結果、Co、Ni、Cuのうち1種の成分が熱電変換材料部に対して拡散領域10%を超えれば顕著な特性劣化が生じると判断し、10%以内であれば「○(良好)」、10%より大きければ「×(不良)」と評価した(例えば熱電変換材料部の厚さが10mmの場合、拡散領域の深さが1mm以内であれば「○(良好)」と評価した。)。
なお、接合性の評価が「×(不良)」の場合には、拡散状態の評価を行っていない。
以上の結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
(2.5)実施例サンプルの評価
実施例1において、熱電変換材料部と電極層との界面近傍、および電極層と金属層との界面近傍のミクロ観察結果を
図5に示す。電子線マイクロアナライザーによる線分析の結果、構成元素全体に対するNi、Si、Ba、Ga、Alの組成割合のうち、Ni、Si、Gaの組成割合を
図6にそれぞれ示す。
実施例1では、
図5のミクロ観察結果により、熱電変換材料部と複数の電極層と金属層とが確認できた。さらに、
図6の構成元素全体に対するNi、Si、Gaの組成割合から、熱電変換材料部と金属層との間の狭い固溶域内に、一定の組成割合を持つ金属間化合物である電極層が3層確認された。各層における界面はそれぞれ破壊が無く、接合性は「○(良好)」であった。複数の金属間化合物が存在することで、熱電変換材料部と合金層との線膨張係数などの物性値による差を傾斜的にし、熱応力を緩和していると考えられる。
図6から、熱電変換材料部に拡散している金属層の主成分は数十μmにとどまっており、拡散状態は「○(良好)」であった。金属間化合物の電極層が存在することで拡散が抑制できたと考えられる。
【0074】
実施例2では、ミクロ観察結果により、熱電変換材料部と2層の電極層と金属層とが確認できた。各層における界面はそれぞれ破壊が無く、接合性は「○(良好)」であった。また、構成元素全体に対するCo、Si、Ba、Ga、Alの組成割合から、熱電変換材料部と金属層との間の狭い固溶域内に、一定の組成割合を持つ金属間化合物である電極層が2層確認された。線分析の結果、熱電変換材料部に拡散している金属層の主成分は数十μmにとどまっており、拡散状態は「○(良好)」であった。
【0075】
実施例3では、ミクロ観察結果により、熱電変換材料部と2層の電極層と金属層とが確認できた。各層における界面はそれぞれ破壊が無く、接合性は「○(良好)」であった。また、構成元素全体に対するCu、Si、Ba、Ga、Alの組成割合から、熱電変換材料部と金属層との間の狭い固溶域内に、一定の組成割合を持つ金属間化合物である電極層が2層確認された。線分析の結果、熱電変換材料部に拡散している金属層の主成分は数十μmにとどまっており、拡散状態は「○(良好)」であった。
【0076】
実施例4では、ミクロ観察結果により、熱電変換材料部と3層の電極層と金属層とが確認できた。各層における界面はそれぞれ破壊が無く、接合性は「○(良好)」であった。また、構成元素全体に対するCu、Ge、Ba、Ga、Alの組成割合から、熱電変換材料部と金属層との間の狭い固溶域内に、一定の組成割合を持つ金属間化合物である電極層が3層確認された。線分析の結果、熱電変換材料部に拡散している金属層の主成分は数十μmにとどまっており、拡散状態は「○(良好)」であった。金属層の厚みは、1μm〜100μmの範囲であれば特に問題ないと考えられる。
【0077】
(2.6)比較例サンプルの評価
比較例1において、熱電変換材料部と電極層との界面近傍、および電極層と金属層との界面近傍のミクロ観察結果を
図7に示す。構成元素全体に対するFe、Si、Ba、Ga、Alの組成割合のうち、Fe、Si、Gaの組成割合を
図8にそれぞれ示す。
比較例1では、
図8から構成元素全体に対するFe、Si、Ba、Ga、Alの組成割合から、熱電変換材料部上の狭い固溶域内に、一定の組成割合を持つ金属間化合物である電極層が1層確認された。しかし、
図7のミクロ観察の結果から、金属層/電極層の界面、および電極層/熱電材料部の界面で破壊を生じており、接合性は「×(不良)」であった。
【0078】
比較例2では、熱電変換材料部上に電極層および金属層が形成されていることが確認された。構成元素全体に対するCo、Ge、Ba、Ga、Alの組成割合から、熱電変換材料部と金属層との間の狭い固溶域内に、一定の組成割合を持つ金属間化合物である電極層が1層確認された。しかし、金属層/電極層の界面、および電極層/熱電材料部の界面で破壊を生じ、接合性は「×(不良)」であった。
【0079】
比較例3では、熱電変換材料部上に合金層が形成されていることが確認できるが、電極層は無かった。構成元素全体に対するAg、Si、Ba、Ga、Alの組成割合からも、熱電変換材料部と金属層との間には電極層は確認されなかった。接合性は「○(良好)」であったが、Agが熱電変換材料部に対して、10%を超えて拡散していることから、拡散状態は「×(不良)」であった。
【0080】
(3)まとめ
以上のように、本実施例によれば、Si系またはGe系クラスレート化合物を用いた熱電変換素子であって、室温〜800℃という温度範囲においても、熱電変換材料部と電極との接合性を向上させ、熱電特性の低下の原因となる元素拡散を抑制しうる熱電変換素子を提供することができた。熱電変換材料部と電極の接合性を良好に保ち、さらに熱サイクルによる元素の相互拡散を抑制し、熱電特性を著しく劣化しない熱電変換素子を提供することができた。
【実施例2】
【0081】
次に、
図4と同様の構成を有する熱電変換モジュールを作製した。
n型熱電変換素子として実施例1の熱電変換素子を、p型熱電変換素子として実施例4の熱電変換素子を用いた。
【0082】
その後、各熱電変換素子に、縦2×横2×高さ5mmのサイズの精密整形を施した。
高温側配線および低温側配線として縦2×横5×厚さ0.1mmのサイズのAg板を使用し、さらに、高温側絶縁基板および低温側絶縁基板として厚さ1mmのアルミナ板を使用した。
【0083】
その後、各熱電変換素子、配線および絶縁基板にそれぞれAgペーストを塗布し、常温乾燥させ、n型・p型熱電変換素子を、それぞれ8個ずつ配線を介して直列に接続した。
【0084】
このように得られた熱電変換モジュールは、800℃で保持した後も使用可能であった。本実施例にかかる熱電変換素子を用いることで、高い信頼性を有した熱電変換モジュールの提供も可能となった。