【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バンドル工程において、互いに隣り合う前記コアロッドの中心間を結ぶ線よりも前記複数のコア被覆ロッドの束の外側に、互いに隣り合う前記コア被覆ロッドのそれぞれの外周面に接するように調整用ガラスロッドを配置する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチコアファイバ用母材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マルチコアファイバによって伝送される情報量をより増大させる等の観点からは、マルチコアファイバ内のコア密度ができる限り高められることが好ましい。マルチコアファイバ内のコア密度を高めるためにはコア間距離を小さくする必要があり、コア間距離が小さくされるとコア間のクロストークが生じ易くなる。このため、コア間のクロストークが抑制され得るマルチコアファイバが望まれる。
【0007】
上記特許文献1に記載のマルチコアファイバ用母材では、上記のように複数のガラスロッドで囲まれる空間の少なくとも一つから空孔が形成される。このようなマルチコアファイバ用母材から得られるマルチコアファイバでは、コアの近傍に空孔を形成することができ、この空孔によってコア間のクロストークを抑制し得る。しかし、上記特許文献1に記載のマルチコアファイバ用母材から得られるマルチコアファイバでは、空孔がコアの中心間に形成されておらず、コア間のクロストークを抑制する観点から、より適切な位置に空孔を形成したいという要請がある。
【0008】
そこで、本発明は、コア間のクロストークをより抑制し得るマルチコアファイバ用母材の製造方法及びマルチコアファイバの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のマルチコアファイバ用母材の製造方法は、コアとなるコアロッドの外周面がクラッドの一部となるクラッドガラス層で被覆された複数のコア被覆ロッドを互いに離間するよう束ねるバンドル工程と、互いに隣り合う前記コア被覆ロッドの前記コアロッド間に空隙が残るように、前記複数のコア被覆ロッドの外周面に前記クラッドの他の一部となるスートを堆積する外付工程と、前記空隙が空孔となるように前記スートを焼結させる焼結工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記マルチコアファイバ用母材の製造方法では、互いに隣り合うコア被覆ロッドのコアロッド間に空隙が残されるようにスートを堆積させ、この空隙が空孔となるように焼結する。従って、焼結後に得られるマルチコアファイバ用母材において、互いに隣り合うコアとなる部位同士の間に上記空隙に起因する空孔が形成される。よって、上記マルチコアファイバ用母材の製造方法によって得られるマルチコアファイバ用母材を線引きしてマルチコアファイバを製造すると、互いに隣り合うコアとコアとの間に空孔を形成することができる。このように互いに隣り合うコア間に空孔が形成されることによって、単にコアの周りに空孔が形成される場合に比べて、コア間のクロストークがより抑制され易くなる。
【0011】
また、前記バンドル工程において、互いに隣り合う前記コアロッドの中心間を結ぶ線よりも前記複数のコア被覆ロッドの束の外側に、互いに隣り合う前記コア被覆ロッドのそれぞれの外周面に接するように調整用ガラスロッドを配置することが好ましい。
【0012】
このように調整用ガラスロッドが配置されることにより、互いに隣り合うコアロッド間に形成される空隙は、互いに隣り合うコア被覆ロッドと調整用ガラスロッドとによって、複数のコア被覆ロッドの束の外周側が囲われる。このため、外付工程において、束ねられた複数のコア被覆ロッドの外周側からスートが吹き付けられる際に、隣り合うコアロッド間に形成される空隙に不要なスートが侵入することを抑制することができる。したがって、互いに隣り合うコアロッド間に形成される空隙の大きさや形状を調整することが容易になる。このため、上記マルチコアファイバ用母材の製造方法によって得られるマルチコアファイバ用母材がマルチコアファイバとされる際に、互いに隣り合うコア間に形成される空孔の大きさや形状を調整することが容易になる。
【0013】
また、前記バンドル工程において、前記複数のコア被覆ロッドに囲われる位置に、前記クラッドより屈折率が低いガラスからなる低屈折率ガラスロッドを配置することが好ましい。
【0014】
複数のコア被覆ロッドに囲われる領域は、互いに隣り合うコアロッド間に形成される空隙によっても囲われる。したがって、上記マルチコアファイバ用母材の製造方法によって得られるマルチコアファイバ用母材から得られるマルチコアファイバにおいて、複数の空孔に囲われる領域が形成される。このように複数の空孔で囲われる領域では、光が閉じ込められ易くなり、不要な伝搬モードで光が伝搬する場合がある。そこで、上記のように複数のコア被覆ロッドに囲われる位置に低屈折率ガラスロッドが配置されることによって、上記マルチコアファイバにおいて複数の空孔で囲われる領域にはクラッドよりも屈折率が低い低屈折率部が形成される。このように空孔に囲われる領域の屈折率が低くされることによって、当該領域に不要な伝搬モードで光が伝搬することを抑制することができる。
【0015】
また、前記低屈折率ガラスロッドは、前記低屈折率ガラスロッドを構成するガラスより軟化温度が高いガラスから成る高軟化点層に被覆されることが好ましい。
【0016】
低屈折率ガラスは、例えばフッ素等のドーパントが添加されており、軟化温度が低くなる傾向にある。そこで、上記のように低屈折率ガラスロッドが高軟化点層に覆われることによって、焼結工程等において低屈折率ガラスロッドが加熱される際に、低屈折率ガラスロッドを構成するガラスが溶融して互いに隣り合うコアロッド間の空隙に流れ込むことを抑制することができる。このため、上記マルチコアファイバ用母材の製造方法によって得られるマルチコアファイバ用母材が光ファイバとされる際に、互いに隣り合うコア間に形成される空孔の大きさや形状を調整することが容易になる。
【0017】
前記高軟化点層は、前記クラッドと同じガラスからなることが好ましい。
【0018】
高軟化点層がクラッドと同じガラスからなることにより、焼結工程等において高軟化点層がクラッドよりも先に溶融することを抑制することができる。また、高軟化点層をクラッドの一部とすることができる。
【0019】
また、前記バンドル工程において、前記複数のコア被覆ロッドが嵌まる複数の溝を内周面に有する治具で前記複数のコア被覆ロッドの束を囲うことが好ましい。
【0020】
上記治具が用いられることによって、複数のコア被覆ロッドを互いに離間させた状態で束ねることが容易になる。
【0021】
また、前記治具が半割れ管であることが好ましい。
【0022】
治具が半割れ管であることによって、治具を着脱することが容易になる。
【0023】
また、前記バンドル工程において、前記複数のコア被覆ロッドの少なくとも一方の端部にダミーガラスロッドが固定されることが好ましい。
【0024】
複数のコア被覆ロッドの少なくとも一方の端部にダミーガラスロッドが固定されることによって、複数のコア被覆ロッドが互いに離間した状態を維持することが容易になる。また、このようにダミーガラスロッドが固定されることによって、旋盤のチャックにダミーガラスロッドを固定することができる。したがって、束ねられた複数のコア被覆ロッドを当該コア被覆ロッドの長手方向に平行な軸中心に回転させることが容易になり、外付工程を行うことが容易になる。
【0025】
また、本発明のマルチコアファイバの製造方法は、上記のいずれかに記載のマルチコアファイバ用母材の製造方法により製造されるマルチコアファイバ用母材を線引きする線引工程を備えるものである。
【0026】
このようなマルチコアファイバの製造方法によれば、互いに隣り合うコア間に空孔を形成することができるため、コア間のクロストークを抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、コア間のクロストークを抑制し得るマルチコアファイバ用母材の製造方法及びマルチコアファイバの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るマルチコアファイバ用母材の製造方法、及び、これを用いたマルチコアファイバの製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係るマルチコアファイバを示す断面図である。
図1に示すように本実施形態のマルチコアファイバ1は、複数のコア10と、複数のコア10の外周面を隙間なく囲むクラッド20と、クラッド20内において互いに隣り合うコア10の間に形成される空孔11と、クラッド20内において複数のコア10に囲われる位置に形成される低屈折率部12と、クラッド20の外周面を被覆する内側保護層31と、内側保護層31の外周面を被覆する外側保護層32と、を備える。なお、本実施形態では、コア10の数が4つの場合について説明する。
【0031】
本実施形態のマルチコアファイバ1では、それぞれのコア10は、互いに所定距離離れて等間隔で配置されており、断面視において正方形の各頂点に重なる位置に配置されている。それぞれのコア10の直径は、例えば、6μm〜10μm程度とされる。また、クラッド20の直径は、例えば、125〜230μm程度とされる。それぞれのコア10の屈折率はクラッド20の屈折率よりも高く、それぞれのコア10のクラッド20に対する比屈折率差は、例えば、0.3%〜0.5%とされる。
【0032】
本実施形態では、コア10はゲルマニウム等の屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成り、クラッド20は何らドーパントが添加されない純粋なシリカガラスやフッ素等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成る。或いは、コア10が何らドーパントが添加されない純粋なシリカガラスから成り、クラッド20がフッ素等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成るものとされても良い。
【0033】
空孔11は互いに隣り合うコア10の中心を結ぶ線上に形成される。空孔11は互いに隣り合うコア10の中心間のほぼ中心に形成され、空孔11の断面形状は概ね円形や楕円形とされる。
【0034】
低屈折率部12は、クラッド20を構成するガラスより低い屈折率のガラスで構成される。本実施形態では、クラッド20が上記のように何らドーパントが添加されない純粋なシリカガラスから成る場合、低屈折率部12はフッ素等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成る。或いは、クラッド20が上記のようにフッ素等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成る場合、低屈折率部12はフッ素等の屈折率が低くなるドーパントがクラッド20を構成するシリカガラスよりも多く添加されたシリカガラスから成るものとされても良い。
【0035】
また、内側保護層31及び外側保護層32は、例えば、互いに種類の異なる紫外線硬化樹脂で形成されている。
【0036】
次に、マルチコアファイバ1の製造方法について説明する。
【0037】
図2は、マルチコアファイバ1の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、マルチコアファイバ1の製造方法は、バンドル工程P1、外付工程P2、焼結工程P3、線引工程P4を主な工程として備える。
【0038】
<バンドル工程P1>
バンドル工程P1は、コア10となるコアロッドの外周面がクラッド20の一部となるクラッドガラス層で被覆された複数のコア被覆ロッドを互いに離間するよう束ねる工程である。
図3は、バンドル工程P1において複数のコア被覆ロッド2が治具50を用いて束ねられた様子を示す斜視図である。
図4は、
図3に示すIV−IV線に沿った断面を示す図である。
図5は、
図4と同じ視点で示す治具50の断面図である。
【0039】
本工程では、まず、
図1のマルチコアファイバ1におけるコア10となるコアロッド10Rの外周面がクラッド20の一部となるクラッドガラス層20Rで被覆されたコア被覆ロッド2を複数準備する。
図1に示すように本実施形態では、コア10の数が4つであるため、4つのコア被覆ロッド2を準備する。それぞれのコア被覆ロッド2は、互いに同じ大きさで同じ構成とされる。上記のようにコアロッド10Rはコア10となるためコア10と同じ材料から構成され、クラッドガラス層20Rはクラッド20と同じ材料から構成される。後述のように、それぞれのコア被覆ロッド2は互いに離間するように配置される。
【0040】
また、本実施形態では、クラッド20より屈折率が低いガラスからなる低屈折率ガラスロッド12Rを含むガラスロッドを準備する。低屈折率ガラスロッド12Rは、
図1のマルチコアファイバ1における低屈折率部12となる。したがって、低屈折率ガラスロッド12Rは低屈折率部12と同じ材料から構成される。また、本実施形態では、低屈折率ガラスロッド12Rは、低屈折率ガラスロッド12Rを構成するガラスより軟化温度が高いガラスから成る高軟化点層13Rに被覆されている。本実施形態では、高軟化点層13Rはクラッド20と同じ材料から構成される。上記のように低屈折率ガラスロッド12Rがマルチコアファイバ1の低屈折率部12となるため、以下では、低屈折率ガラスロッド12Rが高軟化点層13Rに被覆されたガラスロッドを低屈折率部形成用ロッド3という。
【0041】
また、本実施形態では、複数の調整用ガラスロッド4を準備する。調整用ガラスロッド4はクラッド20の一部となるため、クラッド20と同じ材料から構成される。また、本実施形態では、上記のように4つのコア被覆ロッド2が準備され、複数の調整用ガラスロッド4は後述のように互いに隣り合うコア被覆ロッド2に接するように配置されるため、調整用ガラスロッド4も4つ準備される。
【0042】
次に、上記のように準備された複数のコア被覆ロッド2、低屈折率部形成用ロッド3及び複数の調整用ガラスロッド4を治具50を用いて束ねる。
図5に示すように、治具50は、複数のコア被覆ロッド2が嵌まる複数の溝52及び複数の調整用ガラスロッド4が嵌まる複数の溝51を内周面に有する筒状体である。治具50は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンからなる。また、本実施形態の治具50は半割れ管である。この様な治具50を用いて、複数のコア被覆ロッド2が互いに離間するようにして、低屈折率部形成用ロッド3の外周面にそれぞれのコア被覆ロッド2の外周面が接するように、低屈折率部形成用ロッド3及びコア被覆ロッド2を配置する。また、互いに隣り合うコアロッド10Rの中心間を結ぶ線CLよりも複数のコア被覆ロッド2の束の外側に、互いに隣り合うコア被覆ロッド2のそれぞれの外周面に接するように調整用ガラスロッド4を配置する。なお、それぞれのガラスロッドが結果として
図4に示す配置となれば、どのガラスロッドを先に配置しても良い。
【0043】
このように治具50を用いてそれぞれのガラスロッドの束を囲うことによって、複数のコア被覆ロッド2を互いに離間させた状態で束ねることが容易になる。また、治具50が上記のように半割れ管であることによって、それぞれのガラスロッドの束を治具50へ着脱することが容易になる。
【0044】
次に、複数のコア被覆ロッド2の端部にダミーガラスロッド5を固定する。
図6は、バンドル工程P1において複数のコア被覆ロッド2の端部にダミーガラスロッド5が固定された様子を示す斜視図である。ダミーガラスロッド5は、具体的には、複数のコア被覆ロッド2、複数の調整用ガラスロッド4、及び低屈折率部形成用ロッド3のそれぞれの両端面に溶着して固定する。ダミーガラスロッド5が複数のコア被覆ロッド2の端部に固定されることによって、複数のコア被覆ロッド2が互いに離間した状態を維持することが容易になる。このようにダミーガラスロッド5を固定した後、治具50を取り外す。
【0045】
こうして、互いに隣り合うコアロッド10R間に空隙15が形成された複数のコア被覆ロッド2を含む複数のガラスロッドの束を作製することができる。本実施形態の空隙15は、互いに隣り合うコア被覆ロッド2の外周面、調整用ガラスロッド4の外周面、及び低屈折率部形成用ロッド3の外周面で囲われる領域に形成される。
【0046】
<外付工程P2>
図7は、外付工程P2の様子を示す図である。外付工程P2は、互いに隣り合うコアロッド10R間に空隙15が残るように、複数のコア被覆ロッド2の外周面にクラッド20の一部となるスートを堆積する工程である。外付工程P2は、例えば、OVD(Outside vapor deposition method)法により行われる。
【0047】
まず、それぞれのダミーガラスロッド5を不図示の旋盤のチャックに固定し、互いに離間する状態で束ねられた複数のコア被覆ロッド2をコア被覆ロッド2の長手方向に平行な方向の軸中心に回転させる。複数のコア被覆ロッド2の端部にダミーガラスロッド5が固定されることによって、上記のように旋盤のチャックにダミーガラスロッド5を固定することができる。このため、束ねられた複数のコア被覆ロッド2を上記のように回転させることが容易になり、外付工程P2を行うことが容易になる。そして、
図7に示すように複数のコア被覆ロッド2を回転させながら、クラッド20となるスートを堆積する。
図8は外付工程P2後の様子を示す斜視図であり、
図9は
図8に示すIX−IX線に沿った断面図である。
図8及び
図9には、複数のコア被覆ロッド2の外周面にクラッド20の一部となるスート6が堆積された様子が示されている。
【0048】
外付工程P2において堆積するスート6は、流量が制御されたキャリアガスによって気化されたSiCl
4が酸水素バーナ53の火炎中に導入されることにより、SiCl
4が反応して得られるSiO
2(シリカガラス)である。外付工程P2では、酸水素バーナ53をコア被覆ロッド2の長手方向に沿って移動させながら、SiO
2のスート6をそれぞれのコア被覆ロッド2の外周面を被覆するように堆積する。このスート6の堆積により、クラッド20の一部となるガラス多孔体が形成される。このとき、クラッド20が上記のように何らドーパントが添加されないシリカガラスにより構成される場合には、特にドーパントを加えずにスート6を堆積する。また、クラッド20にドーパントが添加される場合には、気化されたSiCl
4と共に添加量がコントロールされたドーパントを含有するガスを酸水素バーナ53の火炎内に導入する。例えば、スート6がクラッドガラス層20Rよりも低濃度のフッ素が添加されたシリカガラスにより構成される場合、気化されたSiCl
4と共に添加量を適宜調整しつつ気化されたSiF
4を酸水素バーナ53の火炎内に導入する。
【0049】
こうして、スート6は、束ねられたそれぞれのコア被覆ロッド2における外側をむく外周面上に堆積される。このとき、上記のように調整用ガラスロッド4が配置されることによって、互いに離間するコア被覆ロッド2間に形成される空隙15にスート6が侵入することを抑制することができる。
【0050】
なお、堆積したスート6の軟化温度は、コア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも高くなることがより好ましい。例えば、上記のように、クラッドガラス層20Rがフッ素の添加されたシリカガラスから成る場合、スート6が純粋なシリカガラスやクラッドガラス層20Rよりも低濃度のフッ素が添加されたシリカガラスから構成されれば、クラッドガラス層20Rの軟化温度が堆積したスート6の軟化温度よりも低くなる。
【0051】
こうして必要な回数だけ酸水素バーナ53を移動させて、
図8及び
図9に示すようにスート6が必要な量堆積された状態となる。
【0052】
<焼結工程P3>
外付工程P2により
図8及び
図9に示すようにスート6が堆積した後、必要に応じて脱水を行う。当該脱水は、ヒータが設けられ、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等のガスが充填された炉内で所定時間エージングされることにより行われる。
【0053】
次に焼結工程P3を行う。焼結工程P3は、互いに隣り合うコアロッド10R間に空隙15に起因する空孔が残るように、スート6を焼結させる工程である。より具体的には、上記のようにしてスート6が堆積した複数のコア被覆ロッド2を含むガラスロッドの束を炉内に入れ、当該炉内を減圧して炉温を更に上げ、スート6が透明なガラス体となるまで加熱する。このとき用いる炉は上記の脱水に用いる炉であっても良く、上記脱水に用いる炉と異なる炉であっても良い。
【0054】
このとき、上記のように、堆積したスート6の軟化温度がコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも高い場合、クラッドガラス層20Rに接触しているスート6は粘性流動を起こしたクラッドガラス層20Rに取り込まれる。次に、取り込まれたスート6よりも外周側に位置するスート6がクラッドガラス層20Rに取り込まれる。そして時間と共に炉内の温度が更に上昇するため、スート6が次々にクラッドガラス層20Rに取り込まれながらスート6が粘性流動を起こす。このため、スート6とクラッドガラス層20Rとの間に隙間ができることが抑制されて、スート6とクラッドガラス層20Rとが一体のガラス体となる。なお、堆積したスート6の軟化温度がコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも高くない場合、クラッドガラス層20Rとスート6の軟化する順番が上記と異なるが、スート6とクラッドガラス層20Rとが一体のガラス体となる。本実施形態では、高軟化点層13R及び調整用ガラスロッド4もクラッドガラス層20Rと同じ材料で構成されるため、高軟化点層13R及び調整用ガラスロッド4もスート6及びクラッドガラス層20Rと一体のガラス体となる。
【0055】
上記のようにして、
図10に示すマルチコアファイバ用母材1Pが得られる。
図10は、マルチコアファイバ用母材1Pを示す断面図である。本工程においては、コア被覆ロッド2のコアロッド10Rは殆ど変化することなく
図10に示すマルチコアファイバ用母材1Pの母材コア部10Pとなる。また、コア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rがマルチコアファイバ用母材1Pの母材クラッド部20Pの一部となり、スート6が母材クラッド部20Pの他の一部となる。高軟化点層13R及び調整用ガラスロッド4も母材クラッド部20Pの一部となり、低屈折率ガラスロッド12Rは母材低屈折率部12Pとなる。また、互いに隣り合う母材コア部10Pの中心間を結ぶ線上には、空隙15に起因する母材空孔部11Pが形成される。
【0056】
なお、本工程はフッ素系ガスを含む雰囲気で行われても良い。具体的には、本工程を行う炉内にSiF
4,CF
4,C
2F
6等のフッ素系ガスを導入する。このような工程とすることで、スート6が粘性流動を起こす際にスート6内にフッ素が添加される傾向にあり、スート6の屈折率を小さくすることができる。この場合であっても、スート6の軟化温度がクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも高い場合には、スート6が粘性流動を起こすまでスート6内にフッ素が取り込まれづらく、スート6が粘性流動を起こすよりもクラッドガラス層20Rが粘性流動を起こす方が早いため、上記のようにクラッドガラス層20Rにスート6を取り込み易くすることができる。
【0057】
<線引工程P4>
図11は、線引工程P4の様子を示す図である。まず、本工程を行う準備段階として、焼結工程P3を経て得られるマルチコアファイバ用母材1Pを紡糸炉110に設置する。
【0058】
次に、紡糸炉110の加熱部111を発熱させ、マルチコアファイバ用母材1Pを加熱する。このときマルチコアファイバ用母材1Pの下端は、例えば2000℃に加熱され溶融状態となる。そして、マルチコアファイバ用母材1Pからガラスが溶融して、ガラスが線引きされる。本工程は、母材空孔部11P内を加圧しながら行われる。具体的には、マルチコアファイバ用母材1Pの線引きされる側とは反対側の面にガラス管を接続し、当該ガラスを介して母材空孔部11P内にアルゴン(Ar)等の不活性ガスを吹き込みながら線引きを行う。このように加圧されながら線引きされた溶融状態のガラスは、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、母材コア部10Pがコア10となり、母材クラッド部20Pがクラッド20となり、母材低屈折率部12Pが低屈折率部12となり、母材空孔部11Pが空孔11となることで、複数のコア10、クラッド20、クラッド20内に形成される低屈折率部12及び空孔11を有するマルチコアファイバ素線となる。その後、このマルチコアファイバ素線は、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。冷却装置120に入る際、マルチコアファイバ素線の温度は、例えば1800℃程度であるが、冷却装置120を出る際には、マルチコアファイバ素線の温度は、例えば40℃〜50℃となる。
【0059】
冷却装置120から出たマルチコアファイバ素線は、内側保護層31となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置131を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置132を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して内側保護層31が形成される。次に内側保護層31で被覆されたマルチコアファイバは、外側保護層32となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置133を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置134を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して外側保護層32が形成され、
図1に示すマルチコアファイバ1となる。
【0060】
そして、マルチコアファイバ1は、ターンプーリー141により方向が変換され、リール142により巻取られる。
【0061】
こうして
図1に示すマルチコアファイバ1が製造される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法では、互いに隣り合うコアロッド10R間に空隙15が残されるようにスート6を堆積させ、互いに隣り合うコア10となる母材コア部10P同士の間に空隙15に起因する母材空孔部11Pが形成されるように焼結する。よって、このマルチコアファイバ用母材1Pを線引きしてマルチコアファイバ1を製造すると、互いに隣り合うコア10とコア10とを結ぶ線上に空孔11を形成することができる。このように互いに隣り合うコア10間に空孔11が形成されることによって、単にコア10の周りに空孔が形成される場合に比べて、コア間のクロストークがより抑制され易くなる。
【0063】
上記のように、互いに隣り合うコア10間に空孔11は、互いに隣り合うコアロッド10Rの間に形成される空隙15に起因する。したがって、空隙15の大きさ及び形状は、空孔11の大きさ及び形状に影響を与える。空隙15の大きさ及び形状は、目的とするマルチコアファイバ1の空孔11の大きさ及び形状、焼結工程P3におけるスート6の収縮量、焼結工程P3及び線引工程P4におけるコア被覆ロッド2の変形量等を考慮して決定される。
【0064】
また、本実施形態では、上記のように調整用ガラスロッド4が配置されることによって、互いに隣り合うコアロッド10R間に形成される空隙15は、互いに隣り合うコア被覆ロッド2と調整用ガラスロッド4とによって、複数のコア被覆ロッド2の束の外周側が囲われる。このため、外付工程P2において、束ねられた複数のコア被覆ロッド2の外周側からスート6が吹き付けられる際に、空隙15がスート6で埋められることを抑制することができる。したがって、互いに隣り合うコアロッド10R間に形成される空隙15の大きさや形状を調整することが容易になる。このため、マルチコアファイバ用母材1Pがマルチコアファイバ1とされる際に、互いに隣り合うコア10間に形成される空孔11の大きさや形状を調整することが容易になる。
【0065】
また、複数のコア被覆ロッド2に囲われる領域は、空隙15によっても囲われる。したがって、マルチコアファイバ1において、複数の空孔11に囲われる領域が形成される。このように複数の空孔11で囲われる領域では、光が閉じ込められ易くなり、不要な伝搬モードで光が伝搬する場合がある。ここで、上記のように複数のコア被覆ロッド2に囲われる位置に低屈折率ガラスロッド12Rが配置されることによって、複数の空孔11で囲われる領域には、上記のようにクラッド20よりも屈折率が低い低屈折率部12が形成される。このように空孔11に囲われる領域の屈折率が低くされることによって、当該領域に不要な伝搬モードで光が伝搬することを抑制することができる。
【0066】
低屈折率ガラスロッド12Rを構成する低屈折率ガラスは、例えばフッ素等のドーパントが添加されており、軟化温度が低くなる傾向にある。そこで、上記のように低屈折率ガラスロッド12Rが高軟化点層13Rに覆われることによって、焼結工程P3等において低屈折率ガラスロッド12Rが加熱される際に、低屈折率ガラスロッド12Rを構成するガラスが溶融して空隙15に流れ込むことを抑制することができる。このため、マルチコアファイバ用母材1Pがマルチコアファイバ1とされる際に、互いに隣り合うコア10間に形成される空孔11の大きさや形状を調整することが容易になる。また、高軟化点層13Rがクラッド20と同じガラスからなることにより、焼結工程P3等において高軟化点層13Rがクラッド20よりも先に溶融することを抑制することができる。
【0067】
以上、本発明について、実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
例えば、クラッドガラス層20Rの軟化温度、調整用ガラスロッド4の軟化温度、スート6の軟化温度、及び、高軟化点層13Rの軟化温度の関係は、適宜調整することができる。
【0069】
また、上記実施形態では、それぞれのコア10がクラッド20で直接被覆されるマルチコアファイバ1を例に説明したが、マルチコアファイバはいわゆるトレンチ型のマルチコアファイバであっても良い。トレンチ型のマルチコアファイバは、それぞれのコアがコアよりも低屈折率の内側クラッドで個別に被覆され、それぞれの内側クラッドが更に低屈折率のトレンチ部で個別に被覆される。このコアと内側クラッドとトレンチ部とから成る要素はコア要素と呼ばれる場合がある。そして全てのコア要素がトレンチ部よりも高屈折率でコアよりも低屈折率のクラッドで被覆される構造とされる。このようなマルチコアファイバを製造する場合、コア被覆ロッドは、コアロッドが内側クラッドとなるガラス層で被覆され、内側クラッドとなるガラス層がトレンチ部となるガラス層で被覆され、トレンチ部となるガラス層がクラッドとなるガラス層で被覆された構造とされる。このような構造のコア被覆ロッドを用いる点を除いて、上記実施形態と同様にマルチコアファイバを製造することができる。
【0070】
また、上記実施形態では、複数のコア被覆ロッド2の両端部にダミーガラスロッド5を固定する場合を例示して説明したが、ダミーガラスロッド5は複数のコア被覆ロッド2の少なくとも一方の端部に固定されれば良い。また、ダミーガラスロッド5は必須の構成要素ではない。ダミーガラスロッド5が用いられない場合、例えば、バンドル工程P1において治具50を束ねられた複数のガラスロッドの両端に設けたままとして、外付工程P2において治具50の外周面をチャックで挟んで固定しても良い。この場合、治具50は耐熱性の材料から成ることが好ましい。なお、複数のコア被覆ロッド2の束のうち治具50で囲う位置は特に限定されず、治具50の数も特に限定されない。
【0071】
また、上記実施形態では治具50を用いて複数のガラスロッドを束ねたが、治具50は必須の構成要素ではなく、他の手段により複数のガラスロッドを束ねても良い。
【0072】
また、上記実施形態では、調整用ガラスロッド4及び低屈折率ガラスロッド12Rを用いる例を挙げて説明したが、調整用ガラスロッド4及び低屈折率ガラスロッド12Rは必須の構成要素ではない。例えば、調整用ガラスロッド4が無い場合であっても、空隙15が残るように複数のコア被覆ロッド2の外周面にスート6を堆積することができる。また、低屈折率ガラスロッド12Rを有さない場合には、低屈折率部形成用ロッド3の代わりにクラッド20と同じ材料から成るガラスロッドを配置しても良い。
【0073】
また、互いに隣り合うコアロッド10R間に空隙を形成する方法としては、互いに隣り合うコア被覆ロッド2の間にガラス管を配置し、当該ガラス管の中空部を互いに隣り合うコアロッド10R間に形成される空隙とすることもできる。
【0074】
また、上記実施形態では、4つのコア10を有するマルチコアファイバ1を製造する製造方法を説明したため、コア被覆ロッド2の数を4つとした。しかし、マルチコアファイバのコアの数は特に限定されない。例えば、コア数が3つのマルチコアファイバを製造する場合、
図12に示すようにコア被覆ロッド2の数が3つであるマルチコアファイバ用母材とすることができ、コア数が6つのマルチコアファイバを製造する場合、
図13に示すようにコア被覆ロッド2の数が6つであるマルチコアファイバ用母材とすることができる。
図12は変形例に係るバンドル工程において複数のコア被覆ロッド2が治具50を用いて束ねられた様子を
図4と同様に示す断面図であり、
図13は他の変形例に係るバンドル工程において複数のコア被覆ロッド2が治具50を用いて束ねられた様子を
図4と同様に示す断面図である。
図12及び
図13において、
図4に示す構成要素と同一又は同等の構成要素に
図4と同一の参照符号を付している。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは無い。
【0076】
(実施例1)
上記実施形態に係るマルチコアファイバの製造方法によって、4つのコアを有し、互いに隣り合うコア間の距離が40μm、互いに隣り合うコアの中心同士を結ぶ線上に形成される空孔の直径が6μm、ファイバ径(クラッドの直径)が125μmとなるようにマルチコアファイバを製造した。
【0077】
まず、直径が10mmのコア被覆ロッド2、直径が6.5mmの調整用ガラスロッド4、直径が9.5mmの低屈折率部形成用ロッド3をそれぞれ準備し、
図4に示すように束ねた。このとき、互いに隣り合うコア被覆ロッド2の外周面同士の距離dは4mmであった。次に、焼結工程P3後のマルチコアファイバ用母材1Pの直径が40mmとなるように、外付工程P2においてスート6を堆積させた。その後、焼結工程P3を経て得られたマルチコアファイバ用母材1Pに対して上記のように加圧しながら線引工程P4を行い、実施例1に係るマルチコアファイバを製造した。当該マルチコアファイバの寸法及び光学特性を表1に示した。表1において、ファイバ径は実際のクラッドの外径、コア間距離は実際のコア間距離、空孔径は互いに隣り合うコアの中心同士を結ぶ線上に形成された空孔の実際の直径、MFD at 1310nmは波長1310nm帯の光のモードフィールド径、22mカットオフ波長は22mケーブルカットオフ波長、クロストーク at 1550nmは波長1550nm帯の光のコア間クロストークをそれぞれ示す。
【0078】
(比較例1)
互いに隣り合うコア間に空孔が形成されない以外は上記実施例1と同様にして比較例1に係るマルチコアファイバを製造した。当該マルチコアファイバの寸法及び光学特性を実施例1に係るマルチコアファイバと同様に表1に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1からわかるように実施例1に係るマルチコアファイバでは、互いに隣り合うコア間に空孔が形成されることによって、空孔が形成されていない比較例1に対してクロストークが8.4[dB/10km]改善されていた。互いに隣り合うコア間の空孔径をより大きくすることによって、クロストークはより抑制されると考えられる。