(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623296
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバ
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20191209BHJP
F28D 15/04 20060101ALI20191209BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20191209BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
F28D15/02 101H
F28D15/04 B
F28D15/04 E
F28D15/02 L
H05K7/20 R
H01L23/46 B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-525284(P2018-525284)
(86)(22)【出願日】2017年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2017024068
(87)【国際公開番号】WO2018003957
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2019年5月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-131801(P2016-131801)
(32)【優先日】2016年7月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 義勝
(72)【発明者】
【氏名】川畑 賢也
(72)【発明者】
【氏名】青木 博史
【審査官】
石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−315745(JP,A)
【文献】
特開2010−151354(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0240858(US,A1)
【文献】
国際公開第2008/146129(WO,A2)
【文献】
特開2012−184875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
F28D 15/04
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の板状体と対向する他方の板状体とにより空洞部が形成されたコンテナと、
前記空洞部に封入された作動流体と、
前記空洞部に備えられた第1のウィック構造体と、
発熱体と熱的に接続される前記一方の板状体の内面に、前記第1のウィック構造体よりも前記作動流体の流路抵抗の小さい、溝部を有する第2のウィック構造体と、を備えるベーパーチャンバであって、
前記他方の板状体の内側に、蒸気流路が設けられ、
前記他方の板状体と前記第2のウィック構造体との間に、前記第1のウィック構造体が設けられ、
前記第1のウィック構造体の目開き寸法が前記第2のウィック構造体の溝幅の75%以上、前記第1のウィック構造体の開孔率が35%以上であり、
前記第2のウィック構造体上に、該第2のウィック構造体の全面を覆った前記第1のウィック構造体が配置され、
前記他方の板状体の内面と前記第1のウィック構造体との間の空間部が、前記蒸気流路であり、前記第1のウィック構造体には、前記蒸気流路は設けられておらず、
前記第1のウィック構造体が、液相の前記作動流体を放熱部から受熱部へ還流させつつ、一定量の液相の前記作動流体を保持し、
前記他方の板状体の内面に、支柱部材が凸設され、
前記一方の板状体の内面の少なくとも一部が、前記第2のウィック構造体であり、前記支柱部材が、前記一方の板状体の前記第2のウィック構造体を覆う前記第1のウィック構造体と接して前記第1のウィック構造体を押さえているベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記第2のウィック構造体が、格子状の溝構造であり、前記空洞部の内面全体、または前記空洞部の受熱部に対応する部位及び/若しくは前記空洞部の放熱部に対応する部位に設けられている請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
前記支柱部材が、該支柱部材の頂部から底部の方向に延在した溝を有する請求項1または2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項4】
前記支柱部材が、該支柱部材の頂部から底部の方向に螺旋状に延在した溝を有する請求項1または2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項5】
前記支柱部材が、側面部に格子状の溝を有する請求項1または2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のベーパーチャンバが、発熱体と熱的に接続された携帯用の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トップヒート等の設置姿勢や設置姿勢の変化に関わらず、非常に薄型でありながら、作動流体が円滑に還流し、ドライアウトを防止でき、優れた熱輸送特性を発揮するベーパーチャンバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器に搭載されている半導体素子等の電子部品は、高機能化に伴う高密度搭載等により、発熱量が増大し、近年、その冷却がより重要となっている。電子部品の冷却方法として、ベーパーチャンバや平面型ヒートパイプが使用されることがある。
【0003】
平面型ヒートパイプは、厚さ方向の寸法が小さいので、液相の作動流体を円滑に受熱部へ還流させるウィックと、気相の作動流体を面方向に円滑に拡散させることができる蒸気流路とを設けることが要求される。そこで、平面型ヒートパイプとしては、例えば、上部板と下部板の間に積層されると共に内部貫通孔を有する平板状の複数の中間板を備え、内部貫通孔同士が、それぞれの一部のみが重なって、内部貫通孔の平面方向の断面積よりも小さい断面積を有する毛細管流路が形成されたヒートパイプが提案されている(特許文献1)。このように、特許文献1では、上部板と下部板の間には積層された中間板が充填されているので、上部板または下部板と積層された中間板との間の内部空間には、蒸気流路が形成されていない。
【0004】
また、特許文献1では、上記複数の中間板の各々に設けられた切り欠き部同士が重なることで、蒸気流路が形成されている。つまり、積層された中間板に設けられた切り欠き部にて、蒸気流路が形成されている。従って、特許文献1では、毛細管流路だけではなく、蒸気流路も、中間板の積層方向に延在している。
【0005】
上記から、特許文献1の平面型ヒートパイプでは、蒸気流路は、面方向には形成されておらず、中間板の積層方向に形成されているので、気相の作動流体は、面方向に円滑に拡散することができず、結果、良好な熱輸送特性が得られないという問題があった。また、毛細管流路も蒸気流路も中間板の積層方向に延在している特許文献1では、トップヒート等の設置姿勢や設置姿勢の変化によって、作動流体が還流しにくくなり、ドライアウトが発生する場合があるという問題があった。
【0006】
また、熱輸送特性を向上させるために、ベースチャンバーとフィンチャンバーを備え、ベースチャンバーとフィンチャンバーのそれぞれに多層のウィック構造を設ける冷却装置が提案されている(特許文献2)。しかし、特許文献2は、そもそも、平面型ではなく、狭小空間に設置できないという問題や、気相の作動流体はチャンバーの蒸気腔を通って流れるので、やはり、気相の作動流体はチャンバーの面方向に円滑に拡散することができないという問題があった。
【0007】
さらに、表面に、エッチング加工により、蒸気通路と作動液の通路となるウィックとなる溝が形成された金属シートを、2枚以上積み重ねて形成したシート型ヒートパイプが提案されている(特許文献3)。しかし、特許文献3では、平面上において、蒸気通路となる領域と、作動液の通路となる領域とに区分されるので、やはり、気相の作動流体は、面方向に円滑に拡散することができず、結果、良好な熱輸送特性が得られないという問題があった。
【0008】
また、コンテナの蒸発部と凝縮部に繋がる溝部がコンテナの内面に形成されて、溝部の内部空間を埋めない状態で毛細管力を生じる多孔質層が取り付けられたトップヒートモードでも熱輸送能力に優れるベーパーチャンバが提案されている(特許文献4)。しかし、特許文献4では、多孔質層が、溶射皮膜であるため、流路抵抗が大きく、作動流体の還流が円滑に起こらないために、良好な熱輸送特性が得られないという問題があった。また、特許文献4では、溝部の開口部分を覆うようにして多孔質層が設けられているので、気相の作動流体の多孔質層からの離脱性が十分ではなく、気相の作動流体が蒸気流路へ円滑に流動できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/119289号
【特許文献2】特表2005−525529号公報
【特許文献3】特開2015−59693号公報
【特許文献4】特開平11−23167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、薄型でありながらトップヒート等の設置姿勢や設置姿勢の変化に関わらず、作動流体が円滑に還流し、ドライアウトを防止でき、さらには優れた熱輸送特性を発揮するベーパーチャンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、一方の板状体と対向する他方の板状体とにより空洞部が形成されたコンテナと、前記空洞部に封入された作動流体と、前記空洞部に備えられた第1のウィック構造体と、発熱体と熱的に接続される前記一方の板状体の内面に、前記第1のウィック構造体よりも前記作動流体の流路抵抗の小さい、溝部を有する第2のウィック構造体と、を備えるベーパーチャンバであって、前記他方の板状体の内側に、蒸気流路が設けられ前記他方の板状体と前記第2のウィック構造体との間に、前記第1のウィック構造体が設けられ、前記第1のウィック構造体の目開き寸法が前記第2のウィック構造体の溝幅の75%以上、前記第1のウィック構造体の開孔率が35%以上であるベーパーチャンバである。
【0012】
上記態様では、空洞部に挿入された第1のウィック構造体は、一方の板状体の内面(すなわち、空洞部における一方の板状体の内面)に形成された第2のウィック構造体よりも、液相の作動流体に対する流路抵抗が大きい。従って、液相の作動流体は、相対的に、空洞部に挿入された第1のウィック構造体を介するよりも、一方の板状体の内面に形成された第2のウィック構造体を介して、放熱部から受熱部へ還流される。従って、空洞部に挿入された第1のウィック構造体は、放熱部から受熱部へ液相の作動流体を還流させる機能を有しつつも、一方の板状体の内面に形成された第2のウィック構造体よりも、液相の作動流体を保持しやすい。また、上記態様では、第1のウィック構造体は、受熱部に、気相の作動流体のみを流通させる経路を有さないので、第1のウィック構造体には、受熱部に対応する部位に、蒸気流路となる切り欠き部等は設けられていない。
【0013】
また、上記態様では、第1のウィック構造体の目開き寸法が第2のウィック構造体の溝幅の75%以上、第1のウィック構造体の開孔率が35%以上であることから、ベーパーチャンバが発熱体から受熱して液相の作動流体が気相へ相変化する際に形成される気泡が、第1のウィック構造体の目開き部から円滑に離脱して蒸気流路へ流動する。
【0014】
本発明の態様は、前記第2のウィック構造体上に、前記第1のウィック構造体が配置されているベーパーチャンバである。
【0015】
本発明の態様は、前記第2のウィック構造体が、格子状の溝構造であり、前記空洞部の内面全体、または前記空洞部の受熱部に対応する部位及び/若しくは前記空洞部の放熱部に対応する部位に設けられているベーパーチャンバである。
【0016】
本発明の態様は、前記他方の板状体の内面に、支柱部材が凸設されているベーパーチャンバである。
【0017】
この態様では、支柱部材は、減圧されている空洞部の内部空間を維持するための部材として機能する。
【0018】
本発明の態様は、前記支柱部材が、該支柱部材の頂部から底部の方向に延在した溝を有するベーパーチャンバである。
【0019】
本発明の態様は、前記支柱部材が、該支柱部材の頂部から底部の方向に螺旋状に延在した溝を有するベーパーチャンバである。
【0020】
本発明の態様は、前記支柱部材が、側面部に格子状の溝を有するベーパーチャンバである。
【0021】
本発明の態様は、前記ベーパーチャンバが、発熱体と熱的に接続された携帯用の電子機器である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の態様によれば、液相の作動流体は、空洞部に挿入された第1のウィック構造体に保持されやすいことから、トップヒート等の設置姿勢や、使用状況に応じて設置姿勢が変化しても、ベーパーチャンバの受熱部に位置する第1のウィック構造体が液相の作動流体を保持できるので、ドライアウトを防止できる。
【0023】
また、本発明の態様によれば、第1のウィック構造体の目開き寸法が第2のウィック構造体の溝幅の75%以上、第1のウィック構造体の開孔率が35%以上であることから、気相の作動流体から液相の作動流体への凝縮特性を損なうことなく、気相の作動流体が、第1のウィック構造体の目開き部から円滑に離脱して蒸気流路へ流動できる。よって、優れた気相の作動流体の流動性が得られるので、結果、優れた熱輸送特性が得られる。
【0024】
また、本発明の態様によれば、一方の板状体内面に形成された第2のウィック構造体は流路抵抗が小さいので、トップヒート等の設置姿勢や、使用状況に応じて設置姿勢が変化しても、第1のウィック構造体に保持された液相の作動流体やベーパーチャンバの放熱部で凝縮した液相の作動流体は、第2のウィック構造体によって、放熱部から受熱部の方向へ円滑に輸送される。さらに、本発明の態様によれば、第1のウィック構造体の少なくとも受熱部に対応する部位は、蒸気流路が設けられておらず、他方の板状体の内面と第1のウィック構造体との間に、蒸気流路が設けられているので、気相の作動流体は蒸気流路を介して面方向全体に円滑に流通できる。上記から、液相の作動流体は第2のウィック構造体によって円滑に放熱部から受熱部の方向へ流れ、気相の作動流体は受熱部から面方向全体へ円滑に流通できるので、設置姿勢や使用状況に応じた設置姿勢の変化に関わらず、熱輸送特性が向上する。
【0025】
本発明の態様によれば、第2のウィック構造体上に第1のウィック構造体が配置されていることにより、薄型化しつつ、ドライアウトを防止できる。
【0026】
本発明の態様によれば、ウィック構造が格子状の溝構造であり、空洞部の内面全体、または空洞部の受熱部に対応する部位及び/若しくは空洞部の放熱部に対応する部位に、格子状の溝構造が設けられていることにより、液相の作動流体を円滑に放熱部から受熱部へ還流させることができる。
【0027】
本発明の態様によれば、他方の板状体の内面に支柱部材が凸設されていることにより、蒸気流路を面方向全体に形成しつつ、減圧されている空洞部の内部空間を維持することができる。
【0028】
本発明の態様によれば、支柱部材に溝が形成されているので、上記溝の毛細管力によって、液相の作動流体はウィック構造体から他方の板状体の方向へ輸送され、蒸気流路を流通する気相の作動流体も他方の板状体の方向へ流される。従って、発熱体から受熱部へ伝達された熱は、他方の板状体から外部環境へ放熱することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバの側面断面図である。
【
図2】本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバの空洞部内部の説明図である。
【
図3】実施例におけるベーパーチャンバの評価方法の説明図である。
【
図4】実施例におけるNo.1のベーパーチャンバの内部構造の説明図である。
【
図5】実施例におけるNo.2のベーパーチャンバの内部構造の説明図である。
【
図6】実施例におけるNo.3、4のベーパーチャンバの内部構造の説明図である。
【
図7】実施例におけるNo.5、6、7のベーパーチャンバの内部構造の説明図である。
【
図8】実施例におけるベーパーチャンバの内部構造と評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバについて、図面を用いながら説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバ1は、対向する2枚の板状体、すなわち、一方の板状体11と一方の板状体11と対向する他方の板状体12とを重ねることにより空洞部13が形成された平面視(ベーパーチャンバ1の平面に対して鉛直方向からの視認)矩形状のコンテナ10と、空洞部13内に封入された作動流体(図示せず)とを有している。また、空洞部13の内部空間には、毛細管構造を有する第1のウィック構造体15が収納されている。また、他方の板状体12の内面と第1のウィック構造体15との間の空間部が、気相の作動流体が流通する蒸気流路18となっている。
【0031】
一方の板状体11は平板状である。他方の板状体12も平板状であるが、中央部が凸状に塑性変形されている。他方の板状体12の、外側に向かって突出し、凸状に塑性変形された部位が、コンテナ10の凸部14であり、凸部14の内部が空洞部13となっている。空洞部13は、脱気処理により減圧されている。
【0032】
空洞部13に対応する一方の板状体11の内面には、第2のウィック構造体16が形成されている。第2のウィック構造体16としては、例えば、格子状に細溝が形成された構造、すなわち、格子状の溝部であるグルーブを挙げることができる。ベーパーチャンバ1では、第2のウィック構造体16(格子状の溝部)は、空洞部13に対応する一方の板状体11の内面の略全域に形成されている。格子状の溝部である第2のウィック構造体16は、液相の作動流体に関し、空洞部13に収納された第1のウィック構造体15よりも流路抵抗が小さくなるように、細溝の幅及び深さと、細溝間の間隔(すなわち、細溝間に形成された矩形状の凸部の幅)が、調整されている。格子状の溝部の態様は、液相の作動流体に対して、第1のウィック構造体15よりも流路抵抗が小さければ、特に限定されないが、例えば、細溝の幅は10〜100μm、深さは一方の板状体11の厚さの10〜65%、凸部の幅は10〜200μm×10〜200μmが好ましい。
【0033】
格子状の溝部の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、一方の板状体11の内面をマイクロエッジング処理、ブラスト処理、粗化メッキ処理等により形成することができる。
【0034】
空洞部13に収納された第1のウィック構造体15は、液相の作動流体に関し、一方の板状体11の内面に形成された第2のウィック構造体16(ベーパーチャンバ1では、格子状の溝部)よりも、大きな流路抵抗を有する部材である。第1のウィック構造体15の態様は、液相の作動流体に対して、第2のウィック構造体16(格子状の溝部)よりも流路抵抗が大きければ、特に限定されないが、第1のウィック構造体15としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等の金属線からなる金属メッシュ、グラファイトファイバー、銅粉等の金属粉を固めた焼結体シート、不織布、グラファイトシート等を挙げることができる。また、第1のウィック構造体15の厚さとしては、例えば、0.1mmを挙げることができる。ベーパーチャンバ1では、第1のウィック構造体15は、格子状の溝部16の表面に接した状態で設けられている。従って、ベーパーチャンバ1を薄型化しつつドライアウトも防止できる。
【0035】
また、第1のウィック構造体15の目開き寸法について、その下限値は、気相の作動流体の離脱性の点から、第2のウィック構造体16の格子状の溝部の溝幅の75%が好ましく、90%が特に好ましい。一方で、第1のウィック構造体15の目開き寸法の上限値は、毛細管力を得る点から150%が好ましい。第1のウィック構造体15の開孔率について、その下限値は、気相の作動流体の離脱性の点から35%が好ましく、45%が特に好ましい。一方で、第1のウィック構造体15の開孔率の上限値は、毛細管力を得る点から70%が好ましい。
【0036】
なお、上記「目開き寸法」は、目開き寸法(A)(mm)=(25.4/メッシュの値(M))−線径(d)(mm)にて算出される値である。また、上記「開孔率」は、開孔率(%)=(A/(A+d))
2×100にて算出される値である。
【0037】
また、ベーパーチャンバ1では、他方の板状体12の内面と第1のウィック構造体15との間の空間部が気相の作動流体が流通する蒸気流路18となっているので、第1のウィック構造体15には、蒸気流路は設けられておらず、従って、蒸気流路となる切り欠き部等は形成されていない。
【0038】
また、金属メッシュの流路抵抗は、金属メッシュの目開きと金属線の線径を適宜選択することで調整できる。格子状の溝部よりも大きな流路抵抗を有する金属メッシュの構造としては、例えば、線径50〜100μm、50〜200メッシュを挙げることができる。
【0039】
図1に示すように、空洞部13に対応する他方の板状体12の内面には、支柱部材17が凸設されている。支柱部材17は、一方の板状体11方向へ延在し、第1のウィック構造体15と接している。支柱部材17は、減圧されている空洞部13の内部空間を維持する機能を有する。支柱部材17としては、例えば、金属製の支柱、パンチングプレート、開口率の大きい金属製の網等を挙げることができる。
【0040】
支柱部材17の平面視の形状(ベーパーチャンバ1の平面に対して鉛直方向から視認した形状)は、丸形、矩形等、特に限定されないが、
図2に示すように、ベーパーチャンバ1では、矩形状となっている。複数の平面視矩形状の支柱部材17が、他方の板状体12の内面の縦方向と横方向に、それぞれ、並列に所定間隔で配置されている。支柱部材17と支柱部材17の間の空間部が蒸気流路18となるので、ベーパーチャンバ1では、蒸気流路18がベーパーチャンバ1の面方向全体にわたって形成されていることになる。支柱部材17の高さは、ベーパーチャンバ1の厚さ、一方の板状体11と他方の板状体12の厚さ、第1のウィック構造体15の厚さに応じて適宜選択され、例えば、0.1〜0.8mmを挙げることができる。
【0041】
コンテナ10の材料としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス、チタン等を挙げることができる。ベーパーチャンバ1の厚さとしては、例えば、0.3〜1.0mmを挙げることができ、一方の板状体11と他方の板状体12の厚さは、例えば、それぞれ、0.1mmを挙げることができる。
【0042】
また、一方の板状体11と他方の板状体12の周縁部を接合することでコンテナ10が形成される。接合方法としては、特に限定されず、例えば、拡散接合、ろう付け、レーザー溶接、超音波溶接、摩擦接合、圧接接合等を挙げることができる。また、接合幅としては、例えば、0.3超〜2.5mmを挙げることができる。
【0043】
また、空洞部13に封入する作動流体としては、コンテナ10の材料との適合性に応じて、適宜選択可能であり、例えば、水を挙げることができ、その他に、代替フロン、フロリナート等のフルオロカーボン類、シクロペンタン、エチレングリコール、これらと水との混合物等を挙げることができる。
【0044】
次に、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバ1の動作について、
図1を用いながら説明する。ベーパーチャンバ1のうち、発熱体100と熱的に接続された部位が受熱部として機能する。ベーパーチャンバ1が発熱体100から受熱すると、空洞部13に封入された液相の作動流体が、受熱部にて液相から気相へ相変化し、第2のウィック構造体16から離脱し、第1のウィック構造体15の開孔部を通って、蒸気流路18を流通してベーパーチャンバ1の放熱部へ移動する。このとき、第2のウィック構造体16の溝幅に対する第1のウィック構造体15の目開き寸法が75%以上であることから、気相の作動流体への相変化と気泡の離脱が効率的に行われて、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性が飛躍的に向上する。放熱部へ移動した気相の作動流体は、放熱部にて潜熱を放熱して、気相から液相に相変化する。放熱部にて放出された潜熱は、さらに外部環境へ放出される。放熱部にて気相から液相に相変化した作動流体は、主に、第1のウィック構造体15よりも流路抵抗の小さい第2のウィック構造体16にて、受熱部へ還流される。従って、第2のウィック構造体16は、液相の作動流体を放熱部から受熱部へ還流させる機能を有する。一方で、第2のウィック構造体16よりも流路抵抗の大きい第1のウィック構造体15は、液相の作動流体を放熱部から受熱部へ還流させる機能を有しつつ、一定量の液相の作動流体を保持する機能も有する。
【0045】
ベーパーチャンバ1は、上記の通り、第1のウィック構造体15が一定量の液相の作動流体を保持する機能を有することから、ベーパーチャンバ1をトップヒート等の姿勢で設置したり、使用状況に応じてベーパーチャンバ1の設置姿勢が変化しても、ベーパーチャンバ1の受熱部に位置する第1のウィック構造体15が液相の作動流体を保持できるので、ドライアウトを防止できる。
【0046】
また、ベーパーチャンバ1では、一方の板状体11内面に形成された第2のウィック構造体16は流路抵抗が小さいので、第1のウィック構造体15に保持された液相の作動流体やベーパーチャンバ1の放熱部で凝縮した液相の作動流体は、第2のウィック構造体16によって、放熱部から受熱部の方向へ円滑に輸送される。さらに、ベーパーチャンバ1では、支柱部材17が設けられている他方の板状体12の内面と第1のウィック構造体15との間に、ベーパーチャンバ1の平面方向全体にわたって蒸気流路18が設けられているので、気相の作動流体は、蒸気流路18を介してベーパーチャンバ1の平面方向全体にわたって円滑に流通できる。上記から、液相の作動流体は、第2のウィック構造体16によって円滑に放熱部から受熱部の方向へ流れ、気相の作動流体は、蒸気流路18によって受熱部から面方向全体へ円滑に流通できるので、ベーパーチャンバ1の設置姿勢や使用状況に応じた設置姿勢の変化に関わらず、優れた熱輸送特性を発揮する。
【0047】
次に、本発明の他の実施形態例について説明する。上記実施形態例では、他方の板状体の内面に支柱部材が設けられていたが、支柱部材が金属製の支柱の場合、必要に応じて、支柱部材の側面に毛細管構造を設けてもよい。毛細管構造としては、例えば、支柱部材の頂部から底部の方向に直線状に延在した凹溝(グルーブ)、支柱部材の頂部から底部の方向に螺旋状に延在した凹溝、支柱部材の側面部に形成された格子状の凹溝等を挙げることができる。この凹溝は、例えば、エッチング処理にて形成することができる。
【0048】
支柱部材の高さ方向に沿って形成された凹溝の毛細管力によって、液相の作動流体はウィック構造体から他方の板状体の方向へも輸送され、蒸気流路を流通する気相の作動流体は他方の板状体の方向へも流される。従って、発熱体から受熱部へ伝達された熱は、他方の板状体から外部環境へ放熱することもできる。
【0049】
上記実施形態例では、第2のウィック構造体(格子状の溝部)は、空洞部に対応する一方の板状体の内面の略全域に形成されていたが、これに代えて、前記内面の受熱部に対応する部位のみ、前記内面の放熱部に対応する部位のみ、前記内面の受熱部と放熱部に対応する部位のみに形成されてもよい。上記態様でも、液相の作動流体は、第2のウィック構造体によって、放熱部から受熱部の方向へ輸送され、また、前記内面における、受熱部及び/または放熱部の表面積を増大させることができるので、熱輸送特性を向上させることもできる。また、第2のウィック構造体(格子状の溝部)が、前記内面の受熱部と放熱部に対応する部位に形成される場合、受熱部と放熱部の間において、前記内面及び/または空洞部の側壁面に、放熱部の第2のウィック構造体(格子状の溝部)から受熱部の第2のウィック構造体(格子状の溝部)へ延在する条溝が設けられてもよい。前記条溝が設けられることにより、受熱部と放熱部の間に、第2のウィック構造体(格子状の溝部)が設けられなくても、液相の作動流体が、トップヒート等の設置姿勢や設置姿勢の変化に関わらず、放熱部から受熱部への還流が円滑化する。
【実施例】
【0050】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0051】
50mm×100mm×厚さ0.6mmのベーパーチャンバ(No.1〜No.7)を用い、
図3に示すように、一方の端部から10mmの部位に発熱体を接続した。また、一方の端部に対向する他方の端部から10mmの部位に放熱フィンを熱的に接続した。さらに、図示しないファンを用いて、放熱フィンに冷却風を供給した。
【0052】
発熱体から供給される熱量を5ワット(W)ずつ上げていき、ドライアウトする1つ前の値を最大熱輸送量として評価した。なお、ドライアウトの有無は、赤外線サーモグラフィーにてNo.1〜No.7の各ベーパーチャンバ表面の温度分布を計測することで判断した。つまり、ベーパーチャンバ表面のうち、発熱体を接続した部位とその近傍のみが高温となった状態をドライアウトと評価した。
【0053】
No.1のベーパーチャンバ(比較例)の内部構造を
図4、No.2のベーパーチャンバ(比較例)の内部構造を
図5、No.3及びNo.4のベーパーチャンバ(比較例)の内部構造を
図6、No.5、No.6及びNo.7のベーパーチャンバ(実施例)の内部構造を
図7に、それぞれ、示す。また、
図8に、No.1〜No.7の各ベーパーチャンバの内部構造について、第1のウィック構造体及び第2のウィック構造体の有無とその構成、支柱部材の有無とその構成について、まとめて記載した。なお、第2のウィック構造体の細溝は、幅50μm、深さ60μmとし、凸部の幅は100μm×100μmとした。
【0054】
No.1〜No.7のベーパーチャンバの最大熱輸送量の結果を、
図8に示す。
【0055】
図8から、第1のウィック構造体と第2のウィック構造体を有し、支柱部材にて内部空間を維持した実施例であるNo.5、No.6及びNo.7のベーパーチャンバは、45W以上または50W以上の最大熱輸送量を得ることができた。
【0056】
一方で、実施例の支柱部材に代えて、100メッシュとメッシュの目開きの狭い流路メッシュを用いたNo.1のベーパーチャンバの最大熱輸送量は10W、第1のウィック構造体も第2のウィック構造体も有さずに100メッシュの流路メッシュを用いたNo.2のベーパーチャンバの最大熱輸送量は15W、第2のウィック構造体は有するが、第1のウィック構造体は有さずに100メッシュの流路メッシュを用いたNo.3のベーパーチャンバの最大熱輸送量は20W、第2のウィック構造体は有するが、第1のウィック構造体は有さずに150メッシュの流路メッシュを用いたNo.4のベーパーチャンバの最大熱輸送量は10Wであり、いずれも、上記実施例の50%未満の最大熱輸送量しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のベーパーチャンバは、トップヒート等の設置姿勢や設置姿勢の変化に関わらず、ドライアウトを防止でき、優れた熱輸送特性を発揮するので、広汎な分野で利用可能であり、例えば、携帯用の情報端末や2in1タブレット等のパーソナルコンピュータなどの電子機器の分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0058】
1 ベーパーチャンバ
10 コンテナ
11 一方の板状体
12 他方の板状体
13 空洞部
15 第1のウィック構造体
16 第2のウィック構造体
18 蒸気流路