【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年10月29日 日本内視鏡外科学会発行の「日本内視鏡外科学会雑誌 Vol.18 No.6 2013 第26回日本内視鏡外科学会総会プログラム・抄録集
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、経済産業省 課題解決型医療機器等開発事業(総合特区推進調整費)「我が国の内視鏡治療の世界標準化へ向けた総合型次世代医療機器の開発・改良」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の開腹手術では、手術の妨げとなる臓器を手で開排することができるが、このような内視鏡下手術では、臓器の開排は容易ではなく、手術に最適な視野を確保するのが難しいことが知られている。例えば、視野と操作空間とを確保するため、体腔内に気体を注入する方法があるが、この方法は全身麻酔を必要とし、低侵襲性とはいえない。
【0003】
視野の問題などを緩和し、内視鏡治療を容易にするために、治療対象臓器や治療中の視野の妨げとなる臓器などを圧排あるいは牽引するリトラクタと呼ばれる器具が開発されている。リトラクタには、基本的な機能として、これを体内へ挿入する際、挿入通路となるトロッカー(外套管)または小切開創のような小さな開口通路より器具が挿通できることが求められている。したがって、少なくとも挿入時は細径であり(例えば、トロッカーの場合10mm以下、小切開創の場合20mm以下が望ましい)かつ棒状の形態であることが必要であり、一方、体腔内挿入後は、対象物を幅広く安全に圧排するために、圧排部がある程度大きな面積を有する形状に変形可能であることが要求される。
【0004】
上述の相反する要求に応じて、種々に工夫されたリトラクタが提案あるいは市販されている。例えば、圧排部が扇状に拡開するものがある(例えば、特許文献1)。これは、トロッカーの腹腔への挿入時には、扇状圧排部が畳まれて棒状管の内部に収容されており、体腔内で棒状管より押し出されて扇状に広がるものである。扇状圧排部を任意の大きさまで手元操作により拡げる構造のものや、圧排部と基部との角度が可変するものなどがあり、比較的幅広く臓器を圧排できる利点があることから肝臓や腸を圧排するのに好適となっている。なお、形状は扇型に限らず、菱形などの種々の形状のものが多数提案されている。
【0005】
特に、臓器内をより効果的に圧排するとともに操作性に優れたリトラクタの開発が所望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、切開創を通じてまたは直接穿孔することにより挿入して管腔臓器の内壁または体腔内の臓器を圧排することができるリトラクタであって、手術の際の取り扱いが容易であり、かつ圧排の規模を自由に調整することができるリトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、管腔臓器の内壁または体腔内の臓器を圧排するためのリトラクタであって、
剛直な穿孔管と、
該穿孔管に対し、収容かつ延出可能な展開体と、
該穿孔管および該展開体のそれぞれ近位端と接続されたグリップと
を備え、
ここで、
該展開体が、
可動ワイヤおよび該可動ワイヤの周囲に配置された複数本の固定ワイヤから構成される圧排部;および
該圧排部に延設されており、かつ該可動ワイヤが貫通する、導入管;
を備え、そして
該圧排部において該可動ワイヤの遠位端と該固定ワイヤの遠位端とが接合されている、リトラクタである。
【0009】
1つの実施形態では、上記グリップは、遠位側から第1グリップ部、第2グリップ部および第3グリップ部を備え、
ここで、
上記穿孔管の近位端が該第1グリップ部に接続されており、
上記圧排部の上記導入管の近位端が該第2グリップ部に接続されており、そして
該圧排部の上記可動ワイヤの近位端が該第3グリップ部に接続されている。
【0010】
1つの実施形態では、上記穿孔管はストレート管である。
【0011】
1つの実施形態では、上記可動ワイヤの断面は略円形を有する。
【0012】
さらなる実施形態では、上記固定ワイヤの断面は、該断面の一部が上記可動ワイヤの断面外周の一部にほぼ一致する部分円環形を有する。
【0013】
1つの実施形態では、上記第1グリップ部に対して、上記第2グリップ部および上記第3グリップ部の少なくとも1つを押し引きすることにより、上記圧排部における上記固定ワイヤの湾曲を制御可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自在に臓器を圧排することが可能なリトラクタを提供することができる。本発明のリトラクタは、3つに分離されたグリップの押し引きによって、圧排部において任意の大きさで構成されるコクーン形状の構造物を形成することができる。このコクーン形状の構造物によって臓器を自在に圧排することができる。
【0015】
本発明によれば、体腔内に気体を注入しなくとも所定範囲の臓器の圧排が可能となるため、いわゆるガスレス手術が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明のリトラクタの一例を模式的に表す図であって、展開体が開いた状態を示す当該リトラクタの斜視図である。
【0019】
本発明のリトラクタ100は、剛直あるいは硬質な穿孔管110と、穿孔管110に対し、収容かつ延出可能な展開体120と、穿孔管110および展開体120のそれぞれ近位端と接続されたグリップ160とを備える。
【0020】
図2は、
図1に示す本発明のリトラクタ100の側面図である。
図2の(a)に示すように、本発明のリトラクタ100は、例えば、使用直前においては、穿孔管110内に展開体が完全に収容されている。また、穿孔管110の近位端はグリップ160の第1グリップ部162と接続されている。
【0021】
ここで、本明細書中に用いられる用語「リトラクタ」とは、医療分野における対象物(例えば、臓器)あるいは視野を妨げるものを圧排、開排、牽引、または挙上するための医療器具をいい、例えば、トロッカーおよび外套管を包含し、圧排、開排、牽引、または挙上の操作をまとめて「リトラクション」または「リトラクト」という場合がある。なお、単に本明細書中において「圧排」という場合は、圧排の操作のみでなく、開排、牽引、または挙上する操作を包含する(すなわち、リトラクションを意味する)場合がある。リトラクタは、例えば、後述するように圧排部を有し、体内へ挿入後、圧排部がある程度の大きさに変形可能であることが要求される。
【0022】
さらに、本明細書に用いられる用語「遠位」とは、リトラクタを操作する者から遠い位置をいい、そして用語「近位」とは、「遠位」と比較してリトラクタを操作する者から近い位置をいう。このため、用語「遠位端」とは、本発明のリトラクタを操作する際に、操作する者から最も遠い(すなわち、遠位にある)端部を表し、用語「近位端」とは、当該操作する者から最も近い(すなわち、近位にある)端部を表す。
【0023】
再び
図2の(a)を参照すると、1つの実施形態では、穿孔管110は、例えば、遠位端側が鋭い尖った形状となるように切断されたストレートな管から構成されている。穿孔管110の遠位端先端部の角度は特に限定されないが、体内への穿孔が容易となる角度(例えば、20°〜50°)に加工されている。穿孔管110の外径は、好ましくは1.7mm〜3.5mmであり、より好ましくは2.2mm〜3mmである。さらに、穿孔管
110の内径は、上記外径に対し、好ましくは1.5mm〜3mm、より好ましくは1.6mm〜2.2mmの範囲から選択され得る。なお、本発明において穿孔管110の遠位端先端部の形状は、必ずしも上記に限定されず、例えば、医療分野における外套管またはトロッカーに採用され得る任意の形状を有していてもよい。
【0024】
このような穿孔管110は、剛直な材料、例えば、ステンレス、タンタル、コバルト合金、ナイチノール(ニッケル−チタン合金)などの金属から構成されていることが好ましい。ステンレスとしては、例えば、SUS304、SUS316、SUS316Lが挙げられる。本発明のリトラクタ100はまた、このような剛直な材料で構成される穿孔管110を用いることにより、当該穿孔管の撓み、曲がり、折れなどを懸念することなく、所望の位置(例えば、腹腔)に確実に穿孔することができる。さらに、当該穿孔管110が剛直であることにより、後述する圧排部でのコクーン形状の展開やリトラクトの際にも充分な強度を保持することができる。
【0025】
グリップ160は、遠位端側から順に上記第1グリップ162部、第2グリップ部164および第3グリップ部166の3つに分割されている。グリップ160を構成する材料の種類は特に限定されない。グリップ160は、例えば、ABS樹脂、ポリカードネート樹脂、アクリル樹脂などの樹脂や、ステンレス鋼、アルミニウムなどの金属およびこれらの組合せから構成されている。
【0026】
図2の(b)は、本発明のリトラクタ100の一例を模式的に表した図であって、展開体の圧排部においてコクーン形状の展開を行うために、穿孔管110から当該展開体120を延出した状態を示す当該リトラクタ100の模式図である。
【0027】
なお、本明細書において、用語「コクーン形状」とは、展開体の圧排部において、後述する複数の固定ワイヤの湾曲によって生じた形状であって、例えば、繭状または楕円球体(ラグビーボール等)状の形状を包含して言う。
【0028】
本発明のリトラクタ100は、グリップ160における第2グリップ部164および第3グリップ部166の少なくとも1つを第1グリップ部162に対して押し引きすることにより、穿孔管110内に収容されている展開体120を出し入れすることができる。展開体120は、穿孔管110内に収容されている際(後述するような展開がなされていない状態)において、好ましくは、1.5mm〜3mm、より好ましくは1.6mm〜2mmの外径を有し、かつ穿孔管110内を自由にスライドし得る大きさに設計されている。本発明のリトラクタの全長は、必ずしも限定されないが、例えば、穿孔管110の遠位端から近位端までの距離(すなわち、穿孔管110の遠位端から第1グリップ部162の遠位端までの距離)は、好ましくは100mm〜300mmである。
【0029】
図2の(c)は、本発明のリトラクタ100の一例を模式的に表した図であって、穿孔管110から延出した展開体120の圧排部122においてコクーン形状の構造物を展開した状態を示す当該リトラクタ100の模式図である。
【0030】
本発明のリトラクタ100は、グリップ160における第2グリップ部164および第3グリップ部166の少なくとも1つを第1グリップ
部162に対してさらに押し引きすることにより、展開体120を展開することができる。展開体120は、圧排部122と当該圧排部122に延設された導入管130を備え、そして圧排部122は、可動ワイヤ124および該可動ワイヤ124の周囲に配置された複数本の固定ワイヤ126から構成されている。さらに、導入管130は管状であり、その内部には可動ワイヤ124がスライド可能に貫通している。可動ワイヤ124の周囲に配置される固定ワイヤ126の数は、特に限定されないが、例えば、3本〜12本、好ましくは6本〜8本である。
【0031】
導入管130、可動ワイヤ124および固定ワイヤ126を構成する材料の例としては
、それぞれ独立して、SUS304などのステンレス、ポリアミド、PTFEなどの樹脂、樹脂をコーティングしたステンレスなどが挙げられる。特に可動ワイヤ124は、圧排時に荷重に耐え得る充分な線強度、例えば、1850MPa以上、好ましくは2100MPa以上の線強度を有していることが好ましい。
【0032】
圧排部122を構成する可動ワイヤ124および固定ワイヤ126、ならびに導入管130は、臓器の損傷を防ぐために平滑な表面を有していることが好ましい。さらに、手術中の他の器具との間のスパークの発生を防止するために、これらの表面に電気絶縁性を有するコーティング材料が付与されていてもよい。このようなコーティング材料には、医療器具のコーティングに通常用いられる素材が用いられ得る。例えば、多孔質ポリ四フッ化エチレン(ePTFE)膜、シリコーン膜、ポリウレタン膜、ポリエチレンテレフタラート(ダクロン(登録商標))膜などが挙げられる。コーティング材料により構成されるコーティング層の厚みは、特に限定されないが、例えば、4μm〜16μm、好ましくは8μm〜12μmである。
【0033】
穿孔管110内に収容された(展開されていない)圧排部122の長さは、設計するリトラクタの大きさ等によって変動するため、必ずしも限定されない。1つの実施形態においては、当該穿孔管110内に収容された圧排部の長さは、例えば、40mm〜120mm、好ましくは50mm〜80mmである。さらに、1つの実施形態においては、当該穿孔管110内に収容された圧排部122の外径の大きさは、例えば、1.5mm〜3mm、好ましくは1.6mm〜2mmである。
【0034】
さらに、圧排部122の最も展開した際の長さおよび圧排部122の
固定ワイヤ126を展開して形成されるコクーン形状の最大直径等は、設計するリトラクタの大きさ等によって変動するため、必ずしも限定されない。1つの実施形態においては、当該圧排部の長さは、例えば、35mm〜80mm、好ましくは45mm〜65mmである。さらに、1つの実施形態では、当該コクーン形状の第大直径最大直径は、例えば、20mm〜80mm、好ましくは35mm〜60mmである。
【0035】
図3は、本発明のリトラクタを構成する展開体120の一例を模式的に表す図である。
【0036】
図3の(a)に示されるように、展開体120は、圧排部122における遠位端の先端部に配置されたキャップ132で可動ワイヤ124の遠位端と固定ワイヤ126のそれぞれの遠位端とが接合されている。一方、固定ワイヤ126のそれぞれの近位端は導入管130とも固定されており、導入管130内を可動ワイヤ124が貫通する。展開体120が穿孔管110内に収容されている場合は、例えば、SUS304で構成されている玉状のキャップ132に対し、導入管130の遠位端が最も離れた位置(すなわち、リトラクタ100においてより近位側)にあり、固定ワイヤ126は真っ直ぐに延びた状態を保持する。これにより、展開体120は、穿孔管110の軸方向において最も萎んだ形状となり、穿孔管110内を自由にスライドさせることができる。
【0037】
一方、
図3の(b)に示されるように、展開体120を穿孔管110から延出することによりコクーン形状の構造物を複数本の固定ワイヤ126によって展開することができる。この状態において、可動ワイヤ124および固定ワイヤ126の各遠位端はキャップ132に固定されたままであるのに対し、当該キャップ132と導入管130の遠位端とがより接近することにより、固定ワイヤ126のそれぞれは可動ワイヤ124の軸周りから離れた方向(半径方向)に撓みを生じ、圧排部122として複数本の固定ワイヤ126の全体によるコクーン形状の構造物を構築することができる。そして、当該コクーン形状の構造物が、管腔臓器の内壁または体腔内の臓器を圧排し、管腔または体腔内に所定の空間を形成することができる。
【0038】
図4は、本発明のリトラクタ100を構成する展開体120の長軸に直交する方向における断面図(可動ワイヤおよび固定ワイヤの断面図)の一例を示す模式図であって、収納された(展開されていない)当該展開体120の圧排部122の断面図である。
【0039】
ここで、
図4における可動ワイヤ124の直径Aおよび固定ワイヤ126の厚みBについては、固定ワイヤ126の展開のし易さと、各ワイヤ124、126に充分な強度を提供する目的の点から、長さの比(A/B)が、例えば、2〜10、好ましくは3〜7を満たしていることが好ましい。1つの実施形態では、上記Aが1.2mmであり、上記Bが0.25mmである(A/Bは4.8)。
【0040】
図4において、圧排部122を構成する可動ワイヤ124は略円形の断面を有しているが、必ずしもこのような断面形状に限定されない。なお、固定ワイヤ126を展開する際に付加される力が均一に分散するとの理由から、円形、正多角形(正方形、正六角形、正八角形など)などの形状を有することが好ましい。可動ワイヤ124の周囲には、略同一の断面形状を有する複数の固定ワイヤ126が配置されている。各固定ワイヤ126が可動ワイヤ124と接する面は、当該可動ワイヤ124の外径に一致するような形状を有していることが好ましい。固定ワイヤ126と可動ワイヤ124との間に無用な空間が形成されることを避けて、収容時における圧排部122の全体容積を可能な限り小さくすることができるからである。
【0041】
より具体的には、固定ワイヤ126の断面は、例えば、
図5の(a)〜(c)に示すような該断面の一部が上記可動ワイヤ124の断面外周の一部にほぼ一致する部分円環形を有している。すなわち、固定ワイヤ126の断面は、
図5の(a)に示すような円環から、円弧の一部をそのまま切り出したような形状を有していてもよく、
図5の(b)に示すような、例えば、圧排の差異に周囲の組織の損傷を低減するために、上記(a)に示す部分円環形状のうち四隅に丸みを帯びさせた鈍い形状を有していてもよく、そして
図5の(c)に示すように、固定ワイヤ126のうち、圧排部の外縁側に相当する部分をさらに丸みを帯びさせた鈍い形状とすることにより、それぞれの断面が三日月状(crescent)である形状を有していてもよい。複数の固定ワイヤ126の断面は、均一な展開を行うために互いに同一のものを用いることが好ましい。
【0042】
図6は、本発明のリトラクタ100において、穿孔管110から展開体120を延出し、かつ展開した際の、当該リトラクタの遠位端側から見た模式図である。
【0043】
図6に示すように、展開体120を展開した場合、可動ワイヤ124を中心にして各固定ワイヤ126が互いに略等しい展開角度(θ)を有していることが好ましい。すなわち、この展開角度(θ)は、圧排部122を構成する固定ワイヤ126の数によって設定され得る。
図6に示すように各
固定ワイヤ126が互いに略等しい展開角度(θ)で展開することにより、可動ワイヤ124は反りが生じることなく軸方向においてストレートな形状を保持し得る。
【0044】
本発明のリトラクタ100において、穿孔管110からの展開体120の延出、当該展開体120の穿孔管110への収容、および展開体120における圧排部122の展開または収納は、リトラクタ100の近位端側に設けられたグリップ160によって制御される。
【0045】
図7は、本発明のリトラクタ100の一例を示す当該リトラクタの模式断面図である。
【0046】
図7の(a)に示すように、本発明において、穿孔管110の近位端が第1グリップ部
162に接続されており、圧排部122の導入管130の近位端が第2グリップ部164に接続されており、そして圧排部122の可動ワイヤ124の近位端が第3グリップ部166に接続されている。ここで、本発明のリトラクタ100において、展開体120が穿孔管110内に収容されている場合は、
図7の(a)に示すように、グリップ160のうち、第1グリップ部162と第2グリップ部164および第3グリップ部166とは隔離されている。この状態で本発明のリトラクタ100は、穿孔管110の遠位端の先端部から切開創を通じてまたは直接穿孔することにより管腔臓器の内壁または体腔内の臓器に挿入される。
【0047】
次いで、第1グリップ
部162に対し、第2グリップ部164および第3グリップ部166がそれぞれ遠位端側、すなわち第1グリップ部162側に押し込まれる。これにより、第2グリップ部164および第3グリップ部166にそれぞれ接続された導入管130および可動ワイヤ124がそれぞれ遠位側に押し出され、穿孔管110から展開体120が延出される。
【0048】
その後、当該展開体120における圧排部122から固定ワイヤ126の展開が行われる。なお、この圧排部122からの固定ワイヤ126の展開は、例えば、穿孔管110の長さに対する導入管130および可動ワイヤ124のそれぞれの長さ、穿孔管110から展開体120が延出した際の第1グリップ部162に対する第2グリップ部164および第3グリップ部166の位置関係等によって、例えば、以下のようにして行われる。
【0049】
すなわち、
図7の(b)に示すように、展開体120が穿孔管110から延出した状態において、第1グリップ部162の近位端が第2グリップ部164の遠位端と接触しているか、または略接触しているような場合は、当該第1グリップ部162および第2グリップ部164に対して、第3グリップ部166のみを近位側(手元側)に引き出すことにより、穿孔管110に対して導入管130は固定したまま、可動ワイヤ124のみが近位側にスライドする。これにより、キャップ132の部分で可動ワイヤ124と接合された固定ワイヤ126の遠位端も近位側にスライドする。一方、固定ワイヤ126の近位端は導入管130の遠位端と接合されており、かつ固定された状態にあるため、固定ワイヤ126は外側に向けて湾曲する。結果として、圧排部122において複数の固定ワイヤ126が展開し、コクーン形状が発現する。そしてこのコクーン形状の発現によって、挿入された管腔臓器または体腔内の圧排が達成される。
【0050】
あるいは、
図7の(c)に示すように、展開体120が穿孔管
110から延出した状態において、第1グリップ部162と、第2グリップ部164とが離れているような場合は、当該第1グリップ部162および第3グリップ部166に対して、第2グリップ部164のみを遠位側に押し出すことにより、穿孔管110および可動ワイヤ124に対して導入管130のみが遠位側にスライドする。これにより、キャップ132部分における可動ワイヤ124および固定ワイヤ
126の位置関係は保持されたまま、導入管130の遠位端に接合された固定ワイヤ126の近位端のみが遠位側にスライドし、固定ワイヤ126は外側に向けて湾曲する。結果として、圧排部122において複数の固定ワイヤ126が展開し、コクーン形状の構造物が発現する。そしてこのコクーン形状の発現によって、挿入された管腔臓器または体腔内の圧排が達成される。
【0051】
なお、
図7の(b)および(c)において、第3グリップ部
166および/または第2グリップ部
164の引き出しまたは押し出しする長さを変動させることにより、圧排部122において発現されるコクーン形状の構造物の大きさを自由に変化させることができる。
【0052】
本発明のリトラクタは、胃、小腸、大腸、膣などの管腔臓器、ならびに肝臓、膵臓、腎
臓、胆嚢、脾臓、子宮、肺などの他の臓器における種々の手術における圧排を行うために用いられる。
【0053】
例えば、胃や食道の手術において、術野に干渉する肝左葉の下面に本発明のリトラクタを差し入れて腹側へ挙上させることにより、術野への干渉がなくなり当該手術をより安全かつ効率良く遂行することができる。同様に、骨盤底での操作において、本発明のリトラクタを用いて子宮を開排することにより直腸周囲の術操作を効率良く行うこともできる。