【文献】
SHIROTA, Yasuhiko et al.,Electrochromic and Photoelectrical Properties of Electrochemically Doped Vinyl Polymers Containing Pendant π-Electron Systems,Advanced Materials '93,1994年,Part A,pp.309-314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(エレクトロクロミック素子)
本発明のエレクトロクロミック素子は、第1の支持体と、第1の電極と、第1のエレクトロクロミック層と、前記第1の支持体と対向するように設けられた第2の支持体と、第2の電極と、第2のエレクトロクロミック層と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電解質とを有してなり、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
【0010】
本発明においては、前記第1のエレクトロクロミック層が、酸化反応によって着色を呈する材料からなり、前記酸化反応によって着色を呈する材料が、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物、プルシアンブルー型錯体、及び酸化ニッケルから選択される少なくとも1種であり、
前記第2のエレクトロクロミック層が、還元反応によって着色を呈する材料からなる。
前記第1の電極と前記第2の電極との両方の電極において、前記第1のエレクトロクロミック層の材料及び前記第2のエレクトロクロミック層の材料を、上述した組み合わせで用いることにより、定電圧で動作可能であり、繰返し耐久性に優れ、高コントラストなエレクトロクロミック素子が得られることを知見した。
【0011】
前記エレクトロクロミック素子は電気化学素子であるため、第1の電極及び第2の電極の両方で電気化学反応を起こすことにより、安定したデバイス動作が得られると考えられる。また、発色濃度及びコントラストを向上させるためには、両極で発色反応を行うことが好ましい。
前記第1の電極で用いるトリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物、プルシアンブルー型錯体、及び酸化ニッケルから選択される少なくとも1種は、酸化反応によって透明状態から着色を呈するため、対極である第2の電極には可逆的に還元反応を行うことによって透明状態から着色を呈する材料を用いることが好ましい。
【0012】
前記中性状態が透明状態であり、還元状態で発色するエレクトロクロミック現象を示す材料としては、ビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物、酸化タングステンなどが挙げられる。これらの材料の詳細については、後述する。
【0013】
これらの材料の組み合わせの中でも、定電圧で動作可能であり、繰返し耐久性に優れ、高コントラストである点から、前記第1のエレクトロクロミック層における酸化反応によって着色を呈する材料としてトリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物を用い、前記第2のエレクトロクロミック層における還元反応によって着色を呈する材料として、ビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物を用いることが好ましい。
【0014】
<第1の支持体、第2の支持体>
前記第1の支持体は、第1の電極、第1のエレクトロクロミック層、及び絶縁性多孔質層を支持する機能を有する。
前記第2の支持体は、第2の電極、第2のエレクトロクロミック層、及び絶縁性多孔質層を支持する機能を有する。
【0015】
前記支持体としては、各層を支持できる透明材料であれば、公知の有機材料や無機材料をそのまま用いることができる。
前記支持体としては、例えば、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、フロートガラス、ソーダ石灰ガラス等のガラス基板を用いることができる。
前記支持体としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂基板を用いてもよい。
なお、前記支持体の表面に、水蒸気バリア性、ガスバリア性、紫外線耐性、及び視認性を高めるために透明絶縁層、UVカット層、反射防止層等がコーティングされていてもよい。
【0016】
前記支持体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、長方形であっても丸型であってもよい。
前記支持体は複数の重ね合わせでもよく、例えば、2枚のガラス基板でエレクトロクロミック素子を挟持する構造にすることで、水蒸気バリア性及びガスバリア性を高めることが可能である。
【0017】
前記支持体としては、球面形状を有するレンズであることが好ましい。これにより、エレクトロクロミック素子越しに見た像の乱れが少なく、高視野角、及びデザイン性の向上が期待できる。例えば、メガネ用途の調光レンズや、自動車のウィンドウなどに用いる場合は、球面構造上にエレクトロクロミック調光素子を形成することが好ましく、特に、メガネ用途においては軽量性、及び加工性の観点から、球面表面にエレクトロクロミック調光素子のすべての要素を形成する形態が好ましい。
前記レンズの材料としては、眼鏡用レンズとして機能するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、透明性が高く、厚みが薄くて軽量なものが好ましい。また、熱履歴による膨張がなるべく小さい方が好ましく、ガラス転移温度(Tg)が高い材料、線膨張係数が小さい材料が好ましい。
具体的には、ガラスの他に、特許庁の高屈折率メガネレンズに関する技術概要資料に記載されているようなものはいずれも使用でき、例えば、エピスルフィド系樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、又はこれらの混合物などが挙げられる。更に必要に応じて、ハードコートや密着性を改善するためのプライマーを形成していてもよい。
なお、本発明において、前記レンズとは、度数(屈折率)の調整がされていないもの(単なるガラス板等)も含むものとする。
【0018】
<第1の電極、第2の電極>
前記第1の電極及び第2の電極の材料としては、導電性を有する透明材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スズをドープした酸化インジウム(以下、「ITO」と称する)、フッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と称する)、アンチモンをドープした酸化スズ(以下、「ATO」と称する)、酸化亜鉛等の無機材料などが挙げられる。これらの中でも、InSnO、GaZnO、SnO、In
2O
3、ZnOが好ましい。
更に、透明性を有するカーボンナノチューブや、他のAu、Ag、Pt、Cuなど高導電性の非透過性材料等を微細なネットワーク状に形成して、透明度を保持したまま、導電性を改善した電極を用いてもよい。
前記第1の電極及び第2の電極の各々の厚みは、エレクトロクロミック層の酸化還元反応に必要な電気抵抗値が得られるように調整される。
前記第1の電極及び前記第2の電極の材料としてITOを用いた場合、第1の電極及び第2の電極の各々の平均厚みは、例えば、50nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0019】
前記第1の電極及び第2の電極の各々の作製方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等を用いることができる。
前記第1の電極及び第2の電極の各々の材料が塗布形成できるものであれば特に制限はなく、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。
【0020】
<第1のエレクトロクロミック層>
前記第1のエレクトロクロミック層は、酸化反応によって着色を呈する材料からなる。
前記酸化反応によって着色を呈する材料としては、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物、プルシアンブルー型錯体、及び酸化ニッケルから選択される少なくとも1種が用いられる。
【0021】
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物の詳細については、後述する。
前記プルシアンブルー型錯体としては、例えば、Fe(III)
4[Fe(II)(CN)
6]
3からなる材料が挙げられ、これら顔料の微粒子を分散した溶液を用いることができる。
前記酸化ニッケルは、無機材料であるため、耐候性に優れるという利点がある。
【0022】
これらの中でも、定電圧で動作可能であり、繰返し耐久性に優れ、高コントラストなエレクトロクロミック素子が得られる点から、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む第1のエレクトロクロミック組成物を重合した重合物が特に好ましい。
【0023】
更に、前記酸化反応によって着色を呈する材料としては、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物と、該トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物を含む第1のエレクトロクロミック組成物を架橋した架橋物であることが、重合物の溶解性及び耐久性の点からより好ましい。
【0024】
ここで、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む第1のエレクトロクロミック組成物を重合した重合物からなる第1のエレクトロクロミック層を前記第1の電極上に積層した態様、前記第1のエレクトロクロミック層を前記第1の電極上に2層以上積層した態様、前記第1のエレクトロクロミック層を前記第1の電極上の一部に積層した態様、などが挙げられる。
また、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物と、該トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物を含む第1のエレクトロクロミック組成物を架橋した架橋物からなる第1のエレクトロクロミック層を前記第1の電極上に積層した態様、前記第1のエレクトロクロミック層を前記第1の電極上に2層以上積層した態様、前記第1のエレクトロクロミック層を前記第1の電極上の一部に積層した態様、などが挙げられる。
【0025】
<<第1のエレクトロクロミック組成物>>
前記第1のエレクトロクロミック組成物は、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含有し、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物以外の他のラジカル重合性化合物を含有することが好ましく、重合開始剤を含有することがより好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0026】
−トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物−
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物は、第1の電極の表面において酸化還元反応を有するエレクトロクロミック機能を付与するために重要である。
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物としては、下記一般式1で表される化合物が挙げられる。
[一般式1]
A
n−B
m
ただし、n=2のときにはmは0であり、n=1のときmは0又は1である。A及びBの少なくとも1つはラジカル重合性官能基を有する。前記Aは下記一般式2で示される構造であり、R
1からR
15のいずれかの位置で前記Bと結合している。前記Bは下記一般式3で示される構造であり、R
16からR
21のいずれかの位置で前記Aと結合している。
[一般式2]
【化1】
[一般式3]
【化2】
ただし、R
1からR
21は、いずれも一価の有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、前記一価の有機基のうち少なくとも1つはラジカル重合性官能基である。
【0027】
−一価の有機基−
前記一般式2及び前記一般式3における前記一価の有機基としては、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、アミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノカルボニル基、スルホン酸基、置換基を有していてもよいアルコキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、スルホンアミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノスルホニル基、アミノ基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよい複素環基などが挙げられる。
これらの中でも、安定動作の点から、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、アリール基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アルケニル基、アルキニル基が特に好ましい。
【0028】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
前記アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基などが挙げられる。
前記複素環基としては、例えば、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾール、チアジアゾールなどが挙げられる。
【0029】
前記置換基に更に置換される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0030】
−ラジカル重合性官能基−
前記ラジカル重合性官能基とは、炭素−炭素2重結合を有し、ラジカル重合可能な基であればいずれでもよい。
前記ラジカル重合性官能基としては、例えば、下記に示す1−置換エチレン官能基、1,1−置換エチレン官能基等が挙げられる。
【0031】
(1)1−置換エチレン官能基としては、例えば、下記一般式(i)で表される官能基が挙げられる。
【化3】
ただし、前記一般式(i)中、X
1は、置換基を有してもよいアリーレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基、−CO−基、−COO−基、−CON(R
100)−基〔R
100は、水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基を表す。〕、又は−S−基を表す。
【0032】
前記一般式(i)のアリーレン基としては、例えば、置換基を有してもよいフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
前記アルケニレン基としては、例えば、エテニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基などが挙げられる。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0033】
前記一般式(i)で表されるラジカル重合性官能基の具体例としては、ビニル基、スチリル基、2−メチル−1,3−ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基などが挙げられる。
【0034】
(2)1,1−置換エチレン官能基としては、例えば、下記一般式(ii)で表される官能基が挙げられる。
【化4】
ただし、前記一般式(ii)中、Yは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、−COOR
101基〔R
101は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はCONR
102R
103(R
102及びR
103は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を表し、互いに同一又は異なっていてもよい。)〕を表す。また、X
2は、前記一般式(i)のX
1と同一の置換基及び単結合、アルキレン基を表す。ただし、Y及びX
2の少なくともいずれか一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、芳香族環である。
【0035】
前記一般式(ii)のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0036】
前記一般式(ii)で表されるラジカル重合性官能基の具体例としては、α−塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、α−シアノエチレン基、α−シアノアクリロイルオキシ基、α−シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基などが挙げられる。
【0037】
なお、これらX
1、X
2、Yについての置換基に更に置換される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0038】
前記ラジカル重合性官能基の中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0039】
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物としては、以下の一般式(1−1)から(1−3)で表される化合物が好適に挙げられる。
【0043】
前記一般式(1−1)から(1−3)中、R
27からR
88は、いずれも一価の有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、前記一価の有機基のうち少なくとも1つはラジカル重合性官能基である。
前記一価の有機基及び前記ラジカル重合性官能基としては、前記一般式(1)と同じものが挙げられる。
【0044】
前記一般式(1)、及び前記一般式(1−1)から(1−3)で表される例示化合物としては、以下に示すものが挙げられる。前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物はこれらに限定されるものではない。
【0085】
−他のラジカル重合性化合物−
前記他のラジカル重合性化合物は、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なり、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有する化合物である。
前記他のラジカル重合性化合物としては、例えば、1官能のラジカル重合性化合物、2官能のラジカル重合性化合物、3官能以上のラジカル重合性化合物、機能性モノマー、ラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が特に好ましい。
前記他のラジカル重合性化合物におけるラジカル重合性官能基としては、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物におけるラジカル重合性官能基と同様であり、これらの中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0086】
前記1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2−アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0087】
前記2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
前記3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5−テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、上記において、EO変性はエチレンオキシ変性を指し、PO変性はプロピレンオキシ変性を指す。
【0089】
前記機能性モノマーとしては、例えば、オクタフルオロペンチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、2−パーフルオロイソノニルエチルアクリレートなどのフッ素原子を置換したもの、特公平5−60503号公報、特公平6−45770号公報に記載のシロキサン繰り返し単位が20〜70のアクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、メタクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、アクリロイルポリジメチルシロキサンプロピル、アクリロイルポリジメチルシロキサンブチル、ジアクリロイルポリジメチルシロキサンジエチルなどのポリシロキサン基を有するビニルモノマー、アクリレート及びメタクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
前記ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエステルアクリレート系オリゴマーなどが挙げられる。
【0091】
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物及び前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物の少なくともいずれか一方がラジカル重合性官能基を2つ以上有していることが、架橋物を形成する点から好ましい。
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物の含有量は、第1のエレクトロクロミック組成物全量に対して、10質量%以上100質量%以下が好ましく、30質量%以上90質量%以下がより好ましい。
前記含有量が、10質量%以上であると、第1のエレクトロクロミック層のエレクトロクロミック機能が充分に発現でき、加電圧による繰り返しの使用で耐久性が良好であり、発色感度が良好である。
前記含有量が、100質量%でもエレクトロクロミック機能が可能であり、この場合、最も厚みに対する発色感度が高い。それに相反して電荷の授受に必要であるイオン液体との相溶性が低くなる場合があるため、加電圧による繰り返しの使用で耐久性の低下などによる電気特性の劣化が現れる。使用されるプロセスによって要求される電気特性が異なるため一概には言えないが、発色感度と繰り返し耐久性の両特性のバランスを考慮すると30質量%以上90質量%以下が特に好ましい。
【0092】
<<重合開始剤>>
前記第1のエレクトロクロミック組成物は、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物と、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物との架橋反応を効率よく進行させるため、必要に応じて重合開始剤を含有することが好ましい。
前記重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられるが、重合効率の観点から光重合開始剤が好ましい。
【0093】
前記熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(パーオキシベンゾイル)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルベルオキサイド、t−ブチルヒドロベルオキサイド、クメンヒドロベルオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物系開始剤;アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸等のアゾ系開始剤、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0094】
前記光重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルフォリノ(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等のアセトフェノン系又はケタール系光重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4−ベンゾイルベンゼン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤;などが挙げられる。
【0095】
その他の光重合開始剤としては、例えば、エチルアントラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10−フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、光重合促進効果を有するものを単独又は前記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、などが挙げられる。
【0096】
前記重合開始剤の含有量は、前記ラジカル重合性化合物の全量100質量部に対して、0.5質量部以上40質量部以下が好ましく、1質量部以上20質量部以下がより好ましい。
【0097】
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶媒、可塑剤、レベリング剤、増感剤、分散剤、界面活性剤、酸化防止剤、フィラーなどが挙げられる。
【0098】
<第1のエレクトロクロミック層の形成方法>
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を重合した重合物を含む第1のエレクトロクロミック層は、以下に示す第1のエレクトロクロミック層の形成方法により形成することができる。
前記第1のエレクトロクロミック層の形成方法は、塗布工程を含み、架橋工程を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0099】
−塗布工程−
前記塗布工程は、前記第1の電極上に、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物と、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物とを含むエレクトロクロミック組成物を塗布する工程である。
【0100】
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物としては、前記エレクトロクロミック素子で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0101】
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物と、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物とを含有する塗布液を塗布する。塗布液は、必要に応じて溶媒により希釈して塗布する。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテル等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;メチ
ルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ系溶媒、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記溶媒による希釈率は、前記第1のエレクトロクロミック組成物の溶解性、塗工法、目的とするエレクトロクロミック層の厚みなどにより変わり、適宜選択することができる。
前記塗布は、例えば、浸漬塗工法、スプレーコート法、ビードコート法、リングコート法などにより行うことができる。
【0102】
−架橋工程−
前記架橋工程は、塗布した第1のエレクトロクロミック組成物に対し加熱又は光エネルギーを付与して架橋する工程である。
【0103】
前記第1の電極上に第1のエレクトロクロミック組成物を塗布後、外部からエネルギーを与え、硬化させて、第1のエレクトロクロミック層を形成する。
前記外部エネルギーとしては、例えば、熱、光、放射線などが挙げられる。
前記熱のエネルギーを加える方法としては、空気、窒素等の気体、蒸気、又は各種熱媒体、赤外線、電磁波を用い塗工表面側、あるいは支持体側から加熱することによって行われる。
前記加熱温度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60℃以上170℃以下が好ましい。
前記光のエネルギーとしては、主に紫外光(UV)に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプなどのUV照射光源が利用できるが、ラジカル重合性含有物や光重合開始剤の吸収波長に合わせ可視光光源の選択も可能である。
UVの照射光量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5mW/cm
2以上15,000mW/cm
2以下が好ましい。
【0104】
前記酸化反応によって着色を呈する材料としては、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物以外である、プルシアンブルー型錯体、及び酸化ニッケルから選択される少なくとも1種を用いた場合における前記第1のエレクトロクロミック層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等を用いることができる。また、前記第2のエレクトロクロミック層の材料が塗布形成できるものであれば、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。
【0105】
前記第1のエレクトロクロミック層の平均厚みは、0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.4μm以上10μm以下がより好ましい。
【0106】
<第2のエレクトロクロミック層>
前記第2のエレクトロクロミック層は、還元反応によって透明から着色を呈するエレクトロクロミック材料を用いることができる。
前記第2のエレクトロクロミック層は、前記第1のエレクトロクロミック層と同じ色調の材料を用いることで、最大発色濃度を向上でき、コントラストを改善できる。また、異なる色調の材料を用いることで、混色が可能となる。また、両極で反応させることで、駆動電圧を効果的に低減し、繰返し耐久性を向上できるという利点がある。
【0107】
前記第2のエレクトロクロミック層におけるエレクトロクロミック材料としては、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物、導電性ポリマーなどが挙げられる。
【0108】
前記無機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらの中でも、発消色電位が低く、良好な色値を示す点から、酸化タングステンが好ましい。
前記酸化タングステンは、ビオロゲン系化合物と比較して、カラーバリエーションや発色効率の点で課題はあるが、還元電位が低く、無機材料であるため耐久性に優れるという利点がある。
前記導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。
【0109】
前記有機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、発消色電位が低く、良好な色値を示す点から、ビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物が好ましい。
【0110】
前記ビオロゲン系化合物としては、例えば、特許第3955641号公報、特開2007−171781号公報に記載の化合物などが挙げられる。
前記ビオロゲン系化合物は、後述するように酸化チタン粒子と組み合わせて用いることが好ましい。このように酸化チタン粒子と組み合わせて用いることにより、高い光学的濃度及び高コントラスト比を維持できるという利点がある。
前記ジピリジン系化合物としては、例えば、特開2007−171781号公報、特開2008−116718号公報に記載の化合物などが挙げられる。
これらの中でも、良好な発色の色値を示す点から、下記一般式1で表されるジピリジン系化合物が好ましい。
【0112】
前記一般式1において、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、又はアリール基を表し、R1及びR2の少なくとも一方は、COOH、PO(OH)
2、及びSi(OC
kH
2k+1)
3(ただし、kは、1〜20を表す)から選択される置換基を有する。
前記一般式1において、Xは1価のアニオンを表す。前記一価のアニオンとしては、カチオン部と安定に対をなすものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Brイオン(Br
−)、Clイオン(Cl
−)、ClO
4イオン(ClO
4−)、PF
6イオン(PF
6−)、BF
4イオン(BF
4−)などが挙げられる。
前記一般式1において、n、m、及びlは、0、1又は2を表す。A、B、及びCは、それぞれ独立に置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又は複素環基を表す。
【0113】
また、金属錯体系及び金属酸化物系のエレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化イリジウム、酸化ニッケル、プルシアンブルー等の無機系エレクトロクロミック化合物などが挙げられる。
【0114】
前記第2のエレクトロクロミック層としては、導電性又は半導体性微粒子に有機エレクトロクロミック化合物を担持した構造としてもよい。具体的には、電極表面に粒径5nm〜50nm程度の微粒子を焼結し、その微粒子の表面にホスホン酸やカルボキシル基、シラノール基等の極性基を有する有機エレクトロクロミック化合物を吸着した構造である。
このような構造では、微粒子の大きな表面効果を利用して、効率よく有機エレクトロクロミック化合物に電子が注入されるため、従来のエレクトロクロミック表示素子と比較して高速応答が可能となる。更に、微粒子を用いることで表示層として透明な膜を形成することができるため、エレクトロクロミック色素の高い発色濃度を得ることができる。また、複数種類の有機エレクトロクロミック化合物を導電性又は半導体性微粒子に担持することもできる。
前記導電性又は半導体性微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属酸化物が好ましい。前記金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性の点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステンが特に好ましい。
前記導電性又は半導体性微粒子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エレクトロクロミック化合物を効率よく担持するために、単位体積当たりの表面積(以下比表面積)が大きい形状が用いられる。例えば、微粒子が、ナノ粒子の集合体であるときは、大きな比表面積を有するため、より効率的にエレクトロクロミック化合物が担持され、発消色の表示コントラスト比が優れる。
【0115】
前記第2のエレクトロクロミック層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等を用いることができる。また、前記第2のエレクトロクロミック層の材料が塗布形成できるものであれば、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。
【0116】
前記第2のエレクトロクロミック層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2μm以上5.0μm以下が好ましい。前記平均厚みが、0.2μm未満であると、発色濃度が得にくくなることがあり、5.0μmを超えると、製造コストが増大すると共に、着色によって視認性が低下しやすいことがある。
前記エレクトロクロミック層及び導電性又は半導体性微粒子層は真空製膜により形成することも可能であるが、生産性の点で粒子分散ペーストとして塗布形成することが好ましい。
【0117】
<電解質>
前記電解質は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に充填されている。
前記電解質としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができ、具体的には、LiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3COO、KCl、NaClO
3、NaCl、NaBF
4、NaSCN、KBF
4、Mg(ClO
4)
2、Mg(BF
4)
2などが挙げられる。
【0118】
前記電解質の材料としては、イオン性液体を用いることもできる。これらの中でも、有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造を有しているため、用いることが好ましい。
前記有機のイオン性液体の分子構造として、カチオン成分としては、例えば、N,N−ジメチルイミダゾール塩、N,N−メチルエチルイミダゾール塩、N,N−メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N−ジメチルピリジニウム塩、N,N−メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等の脂肪族4級アンモニウム系などが挙げられる。
また、アニオン成分としては、大気中での安定性を考慮して、フッ素を含んだ化合物を用いることが好ましく、例えば、BF
4−、CF
3SO
3−、PF
4−、(CF
3SO
2)
2N
−などが挙げられる。
前記電解質の材料としては、前記カチオン成分と前記アニオン成分とを任意に組み合わせたイオン性液体を用いることが好ましい。
前記イオン性液体は、光重合性モノマー、オリゴマー、及び液晶材料のいずれかに直接溶解させてもよい。なお、溶解性が悪い場合は、少量の溶媒に溶解させて、該溶液を光重合性モノマー、オリゴマー、及び液晶材料のいずれかと混合して用いればよい。
前記溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、又はこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0119】
前記電解質は低粘性の液体である必要はなく、ゲル状や高分子架橋型、液晶分散型などの様々な形態をとることが可能である。電解質はゲル状、固体状に形成することで、素子強度向上、信頼性向上などの利点が得られる。
固体化手法としては、電解質と溶媒をポリマー樹脂中に保持することが好ましい。これにより高いイオン伝導度と固体強度が得られるためである。
更に、前記ポリマー樹脂としては光硬化可能な樹脂が好ましい。熱重合や溶剤を蒸発させることにより薄膜化する方法に比べて、低温かつ短時間でエレクトロクロミック素子を製造できるためである。
前記電解質からなる電解質層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100nm以上10μm以下が好ましい。
【0120】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、絶縁性多孔質層、保護層、などが挙げられる。
【0121】
−絶縁性多孔質層−
前記絶縁性多孔質層、第1の電極と第2の電極とが電気的に絶縁されるように隔離すると共に、電解質を保持する機能を有する。
前記絶縁性多孔質層の材料としては、透明で多孔質であればよく特に限定されるものではないが、絶縁性及び耐久性が高く成膜性に優れた有機材料や無機材料、及びそれらの複合体を用いることが好ましい。
【0122】
前記絶縁性多孔質層の形成方法としては、焼結法(高分子微粒子や無機粒子をバインダ等を添加して部分的に融着させ粒子間に生じた孔を利用する)や、抽出法(溶剤に可溶な有機物又は無機物類と溶剤に溶解しないバインダ等で構成層を形成した後に、溶剤で有機物又は無機物類を溶解させ細孔を得る)等を用いることができる。
前記絶縁性多孔質層の形成方法として、高分子重合体等を加熱や脱気する等して発泡させる発泡法、良溶媒と貧溶媒を操作して高分子類の混合物を相分離させる相転換法、各種放射線を輻射して細孔を形成させる放射線照射法等の形成方法を用いてもよい。具体例としては、金属酸化物微粒子(SiO
2粒子やAl
2O
3粒子等)とポリマー結着剤を含むポリマー混合粒子膜、多孔性有機膜(ポリウレタン樹脂やポリエチレン樹脂等)、多孔質膜状に形成した無機絶縁材料膜等が挙げられる。中でもSiO
2粒子は絶縁性に優れている点、比較的低屈折率な点、安価な点から好適に用いることができる。
前記絶縁性多孔質層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等を用いることができる。また、前記絶縁性多孔質層の材料が塗布形成できるものであれば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。
前記絶縁性多孔質層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm以上3μm以下が好ましい。
【0123】
−保護層−
前記保護層の役割は、外的応力や洗浄工程の薬品から素子を守ることや、電解質の漏洩を防ぐこと、大気中の水分や酸素などエレクトロクロミック素子が安定的に動作するために不要なものの侵入を防ぐこと等である。
前記保護層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上200μm以下が好ましい。
前記保護層の材料としては、例えば、紫外線硬化型や熱硬化型の樹脂を用いることができ、具体的には、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系樹脂などが挙げられる。
【0124】
ここで、
図1は、本発明のエレクトロクロミック素子の一例を示す概略断面図である。
図1を参照するに、エレクトロクロミック装置は、第1の支持体11と、第1の支持体11上に順次形成された第1の電極12と、第1の電極12と接するように設けられた第1のエレクトロクロミック層13と、第2の支持体18と、第2の支持体18上に順次形成された第2の電極17と、第2の電極17と接するように設けられた第2のエレクトロクロミック層16と、前記第1の電極12と第2の電極17の間に設けられ、両電極が電気的に短絡するのを防ぐための絶縁性多孔質層14と、前記第1のエレクトロクロミック層13、及び第2のエレクトロクロミック層16と接するように形成され、電極間のイオン伝導を担う電解質層15からなる。
【0125】
エレクトロクロミック装置10の作製方法としては、第1の支持体11上に順次第1の電極12、第1エレクトロクロミック層13、絶縁性多孔質層14が形成されたものと、第2の支持体18上に順次第2の電極17、第2のエレクトロクロミック層16が形成されたものと、を用意し、電解質層15を介してこれらを貼り合せることによって作製する。電解質層15が光や熱によって硬化可能な場合、貼り合せ後に硬化させることができる。また、絶縁性多孔質層は第1のエレクトロクロミック層13上に形成してもよいし、第2のエレクトロクロミック層16上に形成してもよいし、電解質層15と混合して作製してもよい。
【0126】
本発明のエレクトロクロミック素子は、定電圧で動作可能であり、繰返し耐久性に優れ、高コントラストであるので、例えば、エレクトロクロミックディスプレイ、株価の表示板等の大型表示板、防眩ミラー、調光ガラス等の調光素子、タッチパネル式キースイッチ等の低電圧駆動素子、光スイッチ、光メモリー、電子ペーパー、電子アルバムなどに好適に使用することができる。
【0127】
<エレクトクロミック調光素子>
また、
図2は、本発明のエレクトロクロミック素子をエレクトクロミック調光素子として適用した一例を示す断面図である。この
図2を参照すると、前記エレクトロクロミック調光素子110は、第1支持体としてのレンズ121と、第2の支持体としてのレンズ127との間に薄膜調光機能部130とを有する。前記エレクトロクロミック調光素子110の平面形状は、例えば、丸型とすることができる。
【0128】
前記薄膜調光機能部130は、第1の電極122、第1のエレクトロクロミック層123、電解質層124、第2のエレクトロクロミック層125、第2の電極126が順次積層された構造を有し、第1のエレクトロクロミック層123及び第2のエレクトロクロミック層125の発消色(調光)を行う部分である。
前記薄膜調光機能部130の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2μm以上200μm以下が好ましい。前記厚みが、2μm未満であると、充分な調光機能が得られないことがあり、200μmを超えると、丸型レンズの加工時に亀裂、剥離が生じたり、レンズの光学特性等に影響が出ることがある。
【0129】
<エレクトロクロミック調光眼鏡>
図3は、本実施の形態に係るエレクトロクロミック調光眼鏡を例示する斜視図である。
図3を参照するに、エレクトロクロミック調光眼鏡50は、エレクトロクロミック調光レンズ51と、眼鏡フレーム52と、スイッチ53と、電源54とを有する。エレクトロクロミック調光レンズ51は、前記エレクトロクロミック調光素子110を所望の形状に加工したものである。
2つのエレクトロクロミック調光レンズ51は、眼鏡フレーム52に組み込まれている。眼鏡フレーム52には、スイッチ53及び電源54が設けられている。電源54は、スイッチ53を介して、図示しない配線により、第1の電極122及び第2の電極126と電気的に接続されている。
前記スイッチ53を切り替えることにより、例えば、第1の電極122と第2の電極126との間にプラス電圧を印加する状態、マイナス電圧を印加する状態、電圧を印加しない状態の中から1つの状態を選択可能である。
前記スイッチ53としては、例えば、スライドスイッチやプッシュスイッチ等の任意のスイッチを用いることができる。ただし、少なくとも前述の3つの状態を切り替え可能なスイッチに限る。
前記電源54としては、例えば、ボタン電池、太陽電池等の任意の直流電源を用いることができる。前記電源54は、第1の電極122と第2の電極126との間にプラスマイナス数V程度の電圧を印加可能である。
例えば、第1の電極122と第2の電極126との間にプラス電圧を印加することにより、2つのエレクトロクロミック調光レンズ51が所定の色に発色する。また、第1の電極122と第2の電極126との間にマイナス電圧を印加することにより、2つのエレクトロクロミック調光レンズ51が消色し透明となる。
ただし、エレクトロクロミック層に使用する材料の特性により、第1の電極122と第2の電極126との間にマイナス電圧を印加することにより発色し、プラス電圧を印加することにより消色し透明となる場合もある。なお、一度発色した後は、第1の電極122と第2の電極126との間に電圧を印加しなくても発色は継続する。
【実施例】
【0130】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0131】
(実施例1)
<第1のエレクトロクロミック層の形成>
第1の電極上に第1のエレクトロクロミック層を形成するために、以下に示す組成の第1のエレクトロクロミック組成物を調製した。
[組成]
・1官能アクリレートを有するトリアリールアミン化合物1(前記例示化合物1):50質量部
・IRGACURE184(BASFジャパン株式会社製):5質量部
・2官能アクリレートを有するPEG400DA(日本化薬株式会社製):50質量部
・メチルエチルケトン:900質量部
【0132】
次に、得られた第1のエレクトロクロミック組成物を、ITOガラス基板(40mm×40mm、厚み0.7mm、ITO膜厚:約100nm)に対してスピンコート法により塗布した。
得られた塗膜をUV照射装置(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE)により10mWで60秒間照射し、60℃で10分間アニール処理を行うことにより、平均厚み0.4μmの架橋した第1のエレクトロクロミック層を形成した。
【0133】
<第2のエレクトロクロミック層の形成>
次に、第2の電極であるITOガラス基板(40mm×40mm、厚み0.7mm、ITO膜厚:約100nm)に、第2のエレクトロクロミック層として酸化チタンナノ粒子分散液(商品名:SP210、昭和タイタニウム株式会社製、平均粒子径:約20nm)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、約1.0μmの酸化チタン粒子膜からなるナノ構造半導体材料を形成した。
次いで、得られた酸化チタン粒子膜上に、下記構造式Aで表されるエレクトロクロミック化合物を1質量%含有する2,2,3,3−テトラフロロプロパノール(以下、「TFP」と略記する)溶液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間のアニール処理を行った。以上により、酸化チタン粒子膜とエレクトロクロミック化合物からなる第2のエレクトロクロミック層を形成した。
【0134】
[下記構造式Aで表されるエレクトロクロミック化合物]
【化47】
【0135】
<電解質液の充填>
以下に示す組成の電解質液を調製した。
[組成]
・IRGACURE184(BASFジャパン株式会社製):5質量部
・PEG400DA(日本化薬株式会社製):100質量部
・1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Sigma−Aldrich社製):50質量部
【0136】
得られた電解質液をマイクロピペットで30mg測り取り、前記第1の電極及び第1のエレクトロクロミック層を有するITOガラス基板に対して滴下した。前記第1のエレクトロクロミック層上に、電極の引き出し部分があるように、前記第2のエレクトロクロミック層を有するITOガラス基板を貼り合せた。
得られた貼り合せ素子をUV照射装置(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE)により10mWで60秒間照射した。以上により、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0137】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック素子の発消色を確認した。具体的には、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分に、第1のエレクトロクロミック層のトリアリールアミンのエレクトロクロミックに由来する発色、及び第2のエレクトロクロミック層の前記構造式Aで表されるエレクトロクロミック化合物の発色による青緑色の発色が確認された。その結果、λ=650nmの透過率は10%まで低下した。
次いで、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0138】
(実施例2)
実施例1において、第2のエレクトロクロミック層に下記構造式Bで表されるエレクトロクロミック化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0139】
[下記構造式Bで表されるエレクトロクロミック化合物]
【化48】
【0140】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック素子の発消色を確認した。具体的には、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分に、第1のエレクトロクロミック層のトリアリールアミンのエレクトロクロミックに由来する発色及び第2のエレクトロクロミック層の前記構造式Bで表されるエレクトロクロミック化合物の発色による、紫色の発色が確認された。その結果、λ=550nmの透過率は5%まで低下した。
次いで、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0141】
(実施例3)
実施例1において、第2のエレクトロクロミック層に下記構造式Cで表されるエレクトロクロミック化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0142】
[下記構造式Cで表されるエレクトロクロミック化合物]
【化49】
【0143】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック素子の発消色を確認した。具体的には、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分に、第1のエレクトロクロミック層のトリアリールアミンのエレクトロクロミックに由来する発色及び第2のエレクトロクロミック層の前記構造式Cで表されるエレクトロクロミック化合物の発色による、濃紺色の発色が確認された。その結果、λ=550nmの透過率は10%まで低下した。
次いで、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0144】
(比較例1)
実施例1において、前記第2のエレクトロクロミック層における酸化チタン粒子膜にエレクトロクロミック材料を塗布しない以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0145】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック素子の発消色を確認した。具体的には、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−2Vの電圧を5秒間印加させたところ、エレクトロクロミック動作は確認できなかった。駆動電圧を−3Vまで調整したところ、第1のエレクトロクロミック層のトリアリールアミン化合物に由来する発色が確認されたが、λ=650nmでの透過率は30%程度までしか低下しなかった。
次いで、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+3Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0146】
(実施例4〜42)
実施例1において、前記第1のエレクトロクロミック組成物におけるトリアリールアミン化合物1(前記例示化合物1)を下記表1に示した各々のトリアリールアミン化合物に変更した以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0147】
(比較例2〜40)
比較例1において、前記第1のエレクトロクロミック組成物におけるトリアリールアミン化合物1(前記例示化合物1)を下記表2に示した各々のトリアリールアミン化合物に変更した以外は、比較例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0148】
(実施例43)
実施例1において、前記第1のエレクトロクロミック層の条件が異なる以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。具体的には、下記構造式Dで表されるエレクトロクロミック化合物(プルシアンブルーの微粒子)をトルエンに分散した溶液をスピンコート法により塗布した。その後、120℃×5分間アニール処理を行うことにより、有機材料からなる第1のエレクトロクロミック層を形成した。
[下記構造式Dで表されるエレクトロクロミック化合物]
Fe(III)
4[Fe(II)(CN)
6]
3
【0149】
次に、電解質として以下組成の電解質液を調製した。
[組成]
・過塩素酸リチウム:1.4質量部
・ポリエチレングリコール(平均分子量200):6質量部
・炭酸プロピレン:8質量部
・UV硬化材(3301、ヘンケル社製):10質量部
【0150】
得られた電解質液をマイクロピペットで30mg測り取り、前記第1の電極及び第1のエレクトロクロミック層を有するITOガラス基板に対して滴下した。前記第1のエレクトロクロミック層上に、電極の引き出し部分があるように、前記第2のエレクトロクロミック層を有するITOガラス基板を貼り合せた。
得られた貼り合せ素子をUV照射装置(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE)により10mWで60秒間照射した。以上により、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0151】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック素子の発消色を確認した。具体的には、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−3Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分に、第1のエレクトロクロミック層のエレクトロクロミックに由来する発色及び第2のエレクトロクロミック層の発色による、濃紺色の発色が確認された。その結果、λ=650nmの透過率は20%まで低下した。
次いで、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0152】
(比較例41)
実施例43において、前記第2のエレクトロクロミック層における酸化チタン粒子膜にエレクトロクロミック材料を塗布しない以外は、実施例43と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0153】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック素子の発消色を確認した。具体的には、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−3Vの電圧を5秒間印加させたところ、エレクトロクロミック動作は確認できなかった。駆動電圧を−4Vまで調整したところ、第1のエレクトロクロミック層に由来する発色が確認されたが、λ=650nmでの透過率は40%程度までしか低下しなかった。
次いで、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+3.5Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0154】
(実施例44)
実施例1において、前記第2のエレクトロクロミック層の条件が異なる以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。具体的には、第2のエレクトロクロミック層として酸化タングステンをRFスパッタ法により500nmの平均厚みに製膜した。
【0155】
次に、電解質として以下組成の電解質液を調製した。
[組成]
・過塩素酸リチウム:1.4質量部
・ポリエチレングリコール(平均分子量200):6質量部
・炭酸プロピレン:8質量部
・UV硬化材(3301、ヘンケル社製):10質量部
【0156】
得られた電解質液をマイクロピペットで30mg測り取り、前記第1の電極及び第1のエレクトロクロミック層を有するITOガラス基板に対して滴下した。前記第1のエレクトロクロミック層上に、電極の引き出し部分があるように、前記第2のエレクトロクロミック層を有するITOガラス基板を貼り合せた。
得られた貼り合せ素子をUV照射装置(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE)により10mWで60秒間照射した。以上により、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0157】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック素子の発消色を確認した。具体的には、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−3Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分に、第1のエレクトロクロミック層のエレクトロクロミックに由来する発色及び第2のエレクトロクロミック層の発色による、濃紺色の発色が確認された。その結果、λ=650nmの透過率は20%まで低下した。
次いで、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0158】
(比較例42)
実施例44において、前記第1のエレクトロクロミック組成物にトリアリールアミン化合物1を添加しない以外は、実施例44と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0159】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック素子の発消色を確認した。具体的には、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−3Vの電圧を5秒間印加させたところ、エレクトロクロミック動作は確認できなかった。駆動電圧を−4Vまで調整したところ、第2のエレクトロクロミック層に由来する発色が確認されたが、λ=650nmでの透過率は45%程度までしか低下しなかった。
次いで、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+4Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0160】
作製した各エレクトロクロミック素子について、以下のようにして、発色濃度試験(試験1)及び繰返し駆動試験(試験2)を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0161】
<試験1:発色濃度試験>
作製したエレクトロクロミック素子について、発色時のλmaxでの透過率をOcean Optics社製USB4000で測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:透過率が20%以下である場合
×:透過率が20%超である場合
【0162】
<試験2:繰返し駆動試験>
作製したエレクトロクロミック素子について、−2V5s、+2V5sの発消色駆動を1,000回繰り返した。そのときの可視領域(400nm〜800nm)の吸収極大をλmaxとした。その時の吸光度変化をOcean Optics社製、USB4000で測定し、下記基準で評価した。なお、λmaxは材料によって異なり、実施例1の場合には680nmである。
[評価基準]
◎:λmaxの吸光度が初期状態に比べて90%以上である場合
○:λmaxの吸光度が初期状態に比べて80%以上90%未満である場合
△:λmaxの吸光度が初期状態に比べて50%以上80%未満である場合
×:λmaxの吸光度が初期状態に比べて50%未満である場合
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
表1及び表2の結果から、実施例1〜44のエレクトロクロミック素子は、比較例1〜42のエレクトロクロミック素子に比べて良好な特性を示すことがわかった。
【0166】
(実施例45)
実施例1において、支持体として球面形状を有するチオウレタン樹脂製レンズを用いた以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック調光レンズを作製した。
なお、第1の電極及び第2の電極については、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚みに製膜して、各電極を形成した。
作製した前記エレクトロクロミック調光レンズを眼鏡フレームに組み込み、エレクトロクロミック調光眼鏡を作製した。なお、前記眼鏡フレームには、駆動用の電源、信号制御回路、スイッチ、及び配線を実装した。
【0167】
<発消色駆動>
作製したエレクトロクロミック調光眼鏡の発消色を確認した。具体的には、発色のスイッチを入力し、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、−2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分に、第1のエレクトロクロミック層のトリアリールアミンのエレクトロクロミックに由来する発色、及び第2のエレクトロクロミック層の発色による青緑色の発色が確認できた。
次いで、消色のスイッチを入力すると、第1の電極の引き出し部分と第2の電極の引き出し部分との間に、+2Vの電圧を5秒間印加させたところ、第1の電極と第2の電極の重なった部分が消色し、透明になることが確認できた。
【0168】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 第1の支持体と、前記第1の支持体上に第1の電極及び第1のエレクトロクロミック層をこの順に有し、
前記第1の支持体と対向するように設けられた第2の支持体と、前記第2の支持体上に第2の電極及び第2のエレクトロクロミック層をこの順に有し、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に充填された電解質を有してなり、
前記第1のエレクトロクロミック層が、酸化反応によって着色を呈する材料からなり、前記酸化反応によって着色を呈する材料が、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物、プルシアンブルー型錯体、及び酸化ニッケルから選択される少なくとも1種であり、
前記第2のエレクトロクロミック層が、還元反応によって着色を呈する材料からなることを特徴とするエレクトロクロミック素子である。
<2> 前記第1のエレクトロクロミック層が、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む第1のエレクトロクロミック組成物を重合した重合物を含有する前記<1>に記載のエレクトロクロミック素子である。
<3> 前記第1のエレクトロクロミック層が、トリアリールアミン構造を有するラジカル重合性化合物と、該トリアリールアミン構造を有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物とを含む第1のエレクトロクロミック組成物を架橋した架橋物を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<4> 前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物及び前記トリアリールアミン構造を有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物のいずれか一方が、ラジカル重合性官能基を2つ以上有している前記<3>に記載のエレクトロクロミック素子である。
<5> 前記他のラジカル重合性化合物のラジカル重合性官能基が、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の少なくともいずれかである前記<3>から<4>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<6> 前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物のラジカル重合性官能基が、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の少なくともいずれかである前記<3>から<5>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<7> 前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物が、下記一般式1で示される前記<1>から<6>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<一般式1>
A
n−B
m
ただし、n=2のときにはmは0であり、n=1のときmは0又は1である。A及びBの少なくとも1つはラジカル重合性官能基を有する。前記Aは下記一般式2で示される構造であり、R
1からR
15のいずれかの位置で前記Bと結合している。前記Bは下記一般式3で示される構造であり、R
16からR
21のいずれかの位置で前記Aと結合している。
<一般式2>
【化50】
<一般式3>
【化51】
ただし、R
1からR
21は、いずれも一価の有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、前記一価の有機基のうち少なくとも1つはラジカル重合性官能基である。
<8> 前記還元反応によって着色を呈する材料が、ビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物、及び酸化タングステンから選択される少なくとも1種を含有する前記<1>から<7>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<9> 前記第2のエレクトロクロミック層が、導電性乃至半導体性担持粒子を含む前記<1>から<8>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<10> 前記第1及び第2の支持体が、球面形状を有するレンズである前記<1>から<9>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。