(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二の重合体の存在下で前記反応性モノマーが重合して第一の重合体を形成したときに、当該複合体形成用組成物が25℃で0.5MPa以上の貯蔵弾性率を有する樹脂を形成する、請求項7に記載の複合体形成用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
一実施形態に係る複合体は、基材と、当該基材に付着した樹脂と、を備えるものである。
【0018】
【化2】
で表されるラジカル重合性化合物、及び単官能ラジカル重合性モノマーを含む反応性モノマーと、第二の重合体とを含有する複合体形成用組成物から形成される。式(I)中、X、R
1及びR
2がそれぞれ独立に2価の有機基で、R
3及びR
4がそれぞれ独立に水素原子又はメチル基である。複合体形成用組成物中で反応性モノマーが重合することで、それら反応性モノマーに由来するモノマー単位から構成される第一の重合体が生成する。これにより、複合体形成用組成物が硬化して、上記樹脂(硬化体)を形成する。第一の重合体は、通常、第二の重合体と共有結合によって結合することなく、第二の重合体とは別の重合体として樹脂中に形成される。係る樹脂は、加熱による形状回復性に優れていることから、上記樹脂を含有する本実施形態の複合体は、加熱による形状回復性に優れている。
【0019】
上記複合体は、例えば、基材と、当該基材に含浸された上記樹脂と、を備える形態であってもよい。上記複合体は、例えば、基材と、上記樹脂からなる樹脂層(例えば、コーティング層)と、を備え、樹脂層が基材上に形成された形態であってもよい。
【0020】
基材の材質に特に制限は無く、任意の基材を用いることができる。基材表面のみならず、基材全体に樹脂を付着させ、形状回復性を向上させる観点から、基材は、充分な隙間(空隙)を有する部材であってもよい。当該隙間に樹脂を保持させることにより、複合体の形状回復性を向上させることができる。
【0021】
基材としては、例えば、不織布、繊維、紙、織布、プラスチック、ガラス、金属、セラミック、木、海綿、スポンジが挙げられる。基材が、例えば、不織布、繊維、紙、織布、ガラスクロス、ガラスウール、金属メッシュ、スチールウール、海綿、スポンジのように、液体を吸収し易い部材である場合には、上記樹脂は、形状回復性を向上する観点から、基材に含浸された状態で上記基材に付着していてもよい。
【0022】
基材の形状に特に制限は無く、例えば、平面状であっても、立体形状であってもよい。基材は、例えば、靴のかかと部のようなカーブした構造、衣服のプリーツ加工のような折れ曲がった構造又は紙幣のような表面に凹凸形状を有する構造のものであってもよい。
【0023】
基材の形状が平面状である場合、基材の厚みは、例えば、10nm以上、100nm以上、又は1μm以上であってもよく、10mm以下、1mm以下、又は500μm以下であってもよい。
【0024】
基材に対する樹脂の付着量は、形状回復性を向上する観点から、基材の質量に対して、例えば、1質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上であってもよく、1000質量%以下、500質量%以下、又は100質量%以下であってもよい。
【0025】
第一の重合体は、式(I)の化合物に由来する、下記式(II)で表される環状のモノマー単位を含み得る。式(II)の環状のモノマー単位が、樹脂の形状記憶性等の特異な特性の発現に寄与すると考えられる。ただし、第一の重合体は、必ずしも式(II)のモノマー単位を含んでいなくてもよい。
【0027】
式(I)及び(II)中のXは、例えば、下記式(10):
【化4】
で表される基であってもよい。式(10)中、Yは置換基を有していてもよい環状基で、Z
1及びZ
2はそれぞれ独立に炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選ばれる原子を含む官能基で、i及びjはそれぞれ独立に0〜2の整数である。*は結合手を表す(これは他の式でも同様である)。Xが式(10)の基であると、式(II)の環状のモノマー単位が特に形成され易いと考えられる。環状基Yに対するZ
1及びZ
2の配置が、シス位であってもよいし、トランス位であってもよい。Z
1及びZ
2は、−O−、−OC(=O)−、−S−、−SC(=O)−、−OC(=S)−、−NR
10−(R
10は水素原子又はアルキル基)、又は−ONH−で表される基であってもよい。
【0028】
Yは、炭素数2〜10の環状基であってもよいし、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を含んでいてもよい。この環状基Yは、例えば、脂環基、環状エーテル基、環状アミン基、環状チオエーテル基、環状エステル基、環状アミド基、環状チオエステル基、芳香族炭化水素基、複素芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせであり得る。環状エーテル基は、単糖又は多糖が有する環状基であってもよい。Yの具体例としては、特に限定されないが、下記式(11)、(12)、(13)、(14)又は(15)で表される環状基が挙げられる。樹脂の応力緩和性の観点から、Yは、式(11)の基(特に、1,2−シクロヘキサンジイル基)であってもよい。
【0030】
式(I)及び(II)中のR
1及びR
2は、互いに同一でも異なっていてもよく、下記式(20)で表される基であってもよい。
【0032】
式(20)中、R
6は炭素数1〜8の炭化水素基(アルキレン基等)であり、式(I)又は(II)中の窒素原子に結合する。Z
3は−O−、又は−NR
10−(R
10は水素原子又はアルキル基)で表される基である。R
1及びR
2が式(20)の基であると、式(II)の環状のモノマー単位が特に形成され易いと考えられる。R
6の炭素数は、2以上であってもよいし、6以下、又は4以下であってもよい。
【0033】
式(I)のラジカル重合性化合物の一つの具体例は、下記式(Ia)で表される化合物である。ここでのY、Z
1、Z
2、i及びjは式(10)と同様に定義される。
【0035】
式(Ia)の化合物としては、例えば、下記式(I−1)、(I−2)、(I−3)、(I−4)、(I−5)、(I−6)、(I−7)、又は(I−8)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
以上例示した化合物を、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
複合体形成用組成物における式(I)のラジカル重合性化合物の割合は、反応性モノマーの全体量を基準として、0.01モル%以上、0.1モル%以上、又は0.5モル%以上であってもよく、10モル%以下、5モル%以下、又は1モル%以下であってもよい。複合体形成用組成物における式(I)のラジカル重合性化合物の割合は、反応性モノマーの全質量を基準として、0.01質量%以上、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上であってもよく、25質量%以下、15質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。式(I)のラジカル重合性化合物の割合がこれら範囲内にあると、伸び、強度などの機械特性に優れた硬化体を得られるという点で更に有利な効果が得られる。
【0041】
式(I)の化合物は、当業者には理解されるように、通常入手可能な原料を出発物質として用いて、通常の合成方法によって合成することができる。例えば、環状ジオール化合物又は環状ジアミン化合物と、(メタ)アクリロイル基及びイソシアネート基を有する化合物との反応により、式(I)の化合物を合成することができる。
【0042】
複合体形成用組成物中の反応性モノマーは、単官能ラジカル重合性モノマーとして、アルキル(メタ)アクリレート、及び/又はアクリロニトリルを含んでいてもよい。
【0043】
アルキル(メタ)アクリレートは、置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸と置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキルアルコールとのエステル)であってもよい。炭素数1〜16のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが有し得る置換基は、酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい。
【0044】
反応性モノマーが炭素数1〜16のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含んでいることにより、硬化体の弾性率及びガラス転移温度(Tg)を制御できるという効果が得られる。
【0045】
複合体形成用組成物における、置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル(メタ)アクリレートの割合は、反応性モノマーの全体量を基準として、10モル%以上、15モル%以上、又は20モル%以上であってもよく、95モル%以下、90モル%以下、又は85モル%以下であってもよい。複合体形成用組成物における、置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル(メタ)アクリレートの割合は、反応性モノマーの全質量を基準として、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってもよく、95質量%以下、90質量%以下、又は85質量%以下であってもよい。置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル(メタ)アクリレートの割合がこれら範囲内にあると、伸び、強度などの機械特性に優れた硬化体を得られるという点で更に有利な効果が得られる。
【0046】
少ない炭素数のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを用いることで、硬化後の樹脂の弾性率が高くなり、形状記憶性が発現し易い傾向がある。係る観点から、反応性モノマーが、単官能ラジカル重合性モノマーとして、置換基を有していてもよい炭素数10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。複合体形成用組成物における、置換基を有していてもよい炭素数10以下のアルキル(メタ)アクリレートの割合は、反応性モノマーの全体量を基準として、8モル%以上、10モル%以上、又は15モル%以上であってもよく、55モル%以下、45モル%以下、又は25モル%以下であってもよい。複合体形成用組成物における、置換基を有していてもよい炭素数10以下のアルキル(メタ)アクリレートの割合は、反応性モノマーの全質量を基準として、3質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上であってもよく、55質量%以下、45質量%以下、又は25質量%以下であってもよい。置換基を有していてもよい炭素数10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの割合がこれら範囲内にあると、ある程度高い弾性率を有し、形状記憶性を有する樹脂が形成され易いという点で更に有利な効果が得られる。同様の観点から、反応性モノマーは、置換基を有していてもよい炭素数8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを含んでいてもよく、その割合は上記数値範囲であってもよい。
【0047】
置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル(メタ)アクリレートの例としては、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−1−メチルエチルメタクリレート、2−メトキシエチルアクリレート(MEA)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、及びグリシジルメタクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
反応性モノマーがアクリロニトリルを含んでいることにより、ある程度高い弾性率を有し、形状記憶性を有する樹脂が形成され易い傾向がある。アクリロニトリルと、炭素数1〜16(又は1〜10)のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとの組み合わせは、高い弾性率の樹脂を得るために特に有利である。複合体形成用組成物における、アクリロニトリルの割合は、反応性モノマーの全体量を基準として、40モル%以上、50モル%以上、又は70モル%以上であってもよく、90モル%以下、85モル%以下、又は80モル%以下であってもよい。複合体形成用組成物における、アクリロニトリルの割合は、反応性モノマーの全質量を基準として、10質量%以上、15質量%以上、又は30質量%以上であってもよく、80質量%以下、70質量%以下、又は60質量%以下であってもよい。アクリロニトリルの割合がこれら範囲内にあると、形状回復が速いという点で更に有利な効果が得られる。
【0049】
反応性モノマーは、単官能ラジカル重合性モノマーとして、ビニルエーテル、スチレン及びスチレン誘導体から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含んでいてもよい。ビニルエーテルの例としては、ビニルブチルエーテル、ビニルオクチルエーテル、ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルドデシルエーテル、ビニルクタデシルエーテル、ビニルフェニルエーテル、及びビニルクレシルエーテルが挙げられる。スチレン誘導体の例としては、アルキルスチレン、アルコキシスチレン(α−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン等)、及びm−クロロスチレンが挙げられる。
【0050】
反応性モノマーは、その他の単官能ラジカル重合性モノマー及び/又は多官能ラジカル重合性モノマーを含んでいてもよい。その他の単官能ラジカル重合性モノマーの例としては、ビニルフェノール、N−ビニルカルバゾール、2−ビニル−5−エチルピリジン、酢酸イソプロペニル、ビニルイソシアネート、ビニルイソブチルスルフィド、2−クロロ−3−ヒドロキシプロペン、ビニルステアレート、p−ビニルベンジルエチルカルビノール、ビニルフェニルスルフィド、アリルアクリレート、α−クロロエチルアクリレート、酢酸アリル、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジニルメタクリレート、N,N−ジエチルビニルカルバメート、ビニルイソプロペニルケトン、N−ビニルカプロラクトン、ビニルホルメート、p−ビニルベンジルメチルカルビノール、ビニルエチルスルフィド、ビニルフェロセン、ビニルジクロロアセテート、N−ビニルスクシンイミド、アリルアルコール、ノルボルナジエン、ジアリルメラミン、ビニルクロロアセテート、N−ビニルピロリドン、ビニルメチルスルフィド、N−ビニルオキサゾリドン、ビニルメチルスルホキシド、N−ビニル−N’−エチル尿素、及びアセナフタレンが挙げられる。
【0051】
以上例示した各種の反応性モノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
複合体形成用組成物は、以上説明した反応性モノマーと、直鎖状又は分岐状の第二の重合体とを含有する。第二の重合体は、2以上の線状鎖と、それらの末端同士を連結する連結基と、を含む重合体であってもよい。この重合体は、例えば下記式(B)で表される分子鎖を含む。式(B)中、R
20は線状鎖を構成するモノマー単位であり、n
1、n
2及びn
3はそれぞれ独立に1以上の整数であり、Lは連結基である。同一分子中の複数のR
20及びLは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0054】
モノマー単位R
20から構成される線状鎖は、ポリエーテル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリオルガノシロキサン、又はこれらの組み合わせから誘導される分子鎖であってもよい。それぞれの線状鎖は、ポリマーであってもよいし、オリゴマーであってもよい。
【0055】
ポリエーテルから誘導される線状鎖の例としては、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシブチレン鎖及びこれらの組み合わせのようなポリオキシアルキレン鎖が挙げられる。ポリアルキレングリコールのようなポリエーテルからポリオキシエチレン鎖が誘導される。ポリオレフィンから誘導される線状鎖の例としては、ポリエチレン鎖、ポリプロピレン鎖、ポリイソブチレン鎖及びこれらの組み合わせが挙げられる。ポリエステルから誘導される線状鎖としては、ポリεカプロラクトン鎖が挙げられる。ポリオルガノシロキサンから誘導される線状鎖としては、ポリジメチルシロキサン鎖が挙げられる。第二の重合体は、これらを単独で、又はこれらから選ばれる2種以上の組み合わせを含むことができる。
【0056】
第二の重合体を構成する線状の分子鎖のそれぞれの数平均分子量は、特に制限されないが、例えば1000以上、3000以上、又は5000以上であってもよく、80000以下、50000以下、又は20000以下であってもよい。本明細書において、数平均分子量は、特に別に定義されない限り、ゲル浸透クロマトグラフィーによって求められる、標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0057】
連結基Lは、環状基を含む有機基、又は分岐状の有機基である。連結基Lは、例えば、下記式(30)で表される2価の基であってもよい。
【0059】
R
30は、環状基、2以上の環状基を含みそれらが直接若しくはアルキレン基を介して結合している基、又は、炭素原子を含み、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びケイ素原子から選ばれるヘテロ原子を含んでいてもよい分岐状の有機基を示す。Z
5及びZ
6は、R
30と線状鎖とを結合する2価の基であり、例えば、−NHC(=O)−、−NHC(=O)O−、−O−、−OC(=O)−、−S−、−SC(=O)−、−OC(=S)−、又は−NR
10−(R
10は水素原子又はアルキル基)で表される基である。本明細書において、線状鎖の末端の原子(線状鎖を構成するモノマーに由来する原子)は、通常、Z
5又はZ
6構成する原子とは解釈しない。線状鎖の末端の原子が、モノマーに由来する原子であるか否かが明確でない場合、その原子は、線状鎖、又は連結基のうちいずれに含まれると解釈してもよい。
【0060】
連結基Lが含む環状基は、窒素原子及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を含んでいてもよい。連結基Lが含む環状基は、例えば、脂環基、環状エーテル基、環状アミン基、環状チオエーテル基、環状エステル基、環状アミド基、環状チオエステル基、芳香族炭化水素基、複素芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせであり得る。連結基Lが含む環状基の具体例とては、1,4−シクロヘキサンジイル基、1,2−シクロヘキサンジイル基、1,3−シクロヘキサンジイル基、1,4−ベンゼンジイル基、1,3−ベンゼンジイル基、1,2−ベンゼンジイル基、及び3,4−フランジイル基が挙げられる。
【0061】
連結基Lが含む分岐状の有機基(例えば式(30)中のR
30)の例としては、リジントリイル基、メチルシラントリイル基、及び1,3,5−シクロヘキサントリイル基が挙げられる。
【0062】
式(30)で表される連結基Lは、下記式(31)で表される基であってもよい。式(31)中のR
31は、単結合、又はアルキレン基を示す。R
31は炭素数1〜3のアルキレン基であってもよい。Z
5及びZ
6の定義は式(30)と同様である。
【0064】
第二の重合体の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば5000以上、7000以上、又は9000以上であってもよく、100000以下、80000以下、又は60000以下であってもよい。第二の重合体の重量平均分子量がこれらの数値範囲内にあることで、第二の重合体の他の成分との良好な相溶性、及び樹脂の良好な諸特性が得られ易い傾向がある。本明細書において、重量平均分子量は、特に別に定義されない限り、ゲル浸透クロマトグラフィーによって求められる、標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0065】
第二の重合体は、当業者には理解されるように、通常入手可能な原料を出発物質として用いて、通常の合成方法によって得ることができる。例えば、反応性の末端基(水酸基等)を有するポリアルキレングリコール、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリオルガノシロキサン、又はこれらの組み合わせを含む混合物と、反応性の官能基(イソシアネート基等)及び環状基若しくは分岐状の基を有する化合物との反応により、第二の重合体を合成することができる。合成される第二の重合体は、イソシアネート基の三量化等の副反応に基づく分岐構造を含んでいてもよい。
【0066】
複合体形成用組成物は、反応性モノマーの重合のための重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤は、熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、又はこれらの組み合わせであり得る。重合開始剤の含有量は、通常の範囲で適宜調整されるが、例えば、複合体形成用組成物の質量を基準として0.01〜5質量%であってもよい。
【0067】
熱ラジカル重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、ハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(ADVN)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリック酸等のアゾ化合物、ナトリウムエトキシド、tert−ブチルリチウム等のアルキル金属、1−メトキシ−1−(トリメチルシロキシ)−2−メチル−1−プロペン等のケイ素化合物等を挙げることができる。
【0068】
熱ラジカル重合開始剤と、触媒とを組み合わせてもよい。この触媒としては、金属塩、及び、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の第3級アミン化合物のような還元性を有する化合物が挙げられる。
【0069】
光ラジカル重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンが挙げられる。その市販品として、Irgacure 651(日本チバガイギー株式会社製)がある。
【0070】
複合体形成用組成物は、溶剤を含んでいてもよいし、実質的に無溶剤であってもよい。
【0071】
(複合体を製造する方法)
本実施形態に係る複合体(第一の重合体、及び直鎖状又は分岐状の第二の重合体を含有する樹脂と、基材と、を備え、当該基材に前記樹脂が付着した、複合体)は、例えば、上述の実施形態に係る複合体形成用組成物を基材に接触させる工程(接触工程)と、複合体形成用組成物中で、反応性モノマーの重合により第一の重合体を生成させる工程(硬化工程)と、を備える、方法により製造できる。
【0072】
接触工程においては、基材と複合体形成用組成物とを接触させ、基材上に複合体形成用組成物を付着させる。基材への複合体形成用組成物の接触方法に特に制限は無いが、例えば、基材に複合体形成用組成物を含浸させる方法及び基材上へ複合体形成用組成物を塗工する方法が挙げられる。含浸方法及び塗工方法に特に制限は無く、公知の方法を用いることができる。
【0073】
基材が、液体を吸収し易い部材である場合には、複合体形成用組成物を基材に充分に接触させる観点から、基材に複合体形成用組成物を含浸させる方法を用いてもよい。
【0074】
接触工程で用いる複合体形成用組成物は、例えば、接触工程の作業性の観点等から、一部の反応性モノマーを重合させて得た半硬化状態の複合体形成用組成物であってもよい。
【0075】
硬化工程においては、基材上に付着した複合体形成用組成物中で、反応性モノマーのラジカル重合により第一の重合体を生成させる工程を備える方法により、複合体形成用組成物を硬化させ、上記樹脂(硬化体)を形成する。反応性モノマーのラジカル重合は、加熱、又は紫外線等の活性光線の照射により開始させることができる。
【0076】
重合反応の温度は、特に制限されないが、複合体形成用組成物が溶剤を含む場合、その沸点以下であることが好ましい。重合反応は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で行なうことが好ましい。これにより、酸素による重合阻害が抑制され、良好な品質の樹脂を安定して得ることができる。
【0077】
式(I)のラジカル重合性化合物を含む反応性モノマーが重合すると、式(II)の環状のモノマー単位が形成されると考えられる。第一の重合体の存在下で反応性モノマーが重合すると、式(II)の環状のモノマー単位の少なくとも一部において、環状部分を第二の重合体が貫通している構造が形成され得る。下記式(III)は、第一の重合体(A)が有する式(II)のモノマー単位の環状部分を、第二の重合体(B)が貫通している構造を模式的に示す。式(III)中のR
5は、式(I)のラジカル重合性化合物以外の反応性モノマーに由来するモノマー単位である。式(III)のような構造が形成されることで、第一の重合体と第二の重合体とで、三次元共重合体のような架橋ネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造においては、環状部分を貫通する第二の重合体の運動の自由度が比較的高く保たれると考えられる。このような構造は、当業者に環動構造と称されることがあり、これが、上記樹脂の形状記憶性等の特異な特性の発現に寄与していると本発明者らは推察している。環動構造が形成されていることを直接的に確認することは技術的に容易でないが、例えば、上記樹脂の引張試験によって得られる応力−歪み曲線が、いわゆるJ字型の曲線であることから、環動構造の形成が示唆される。ただし、上記樹脂は、このような環動構造を必ずしも含んでいなくてもよい。
【0079】
式(III)の例では、第二の重合体(B)は、複数のポリオキシエチレン鎖と、それらの末端同士を連結する連結基Lとを有している。連結基Lがポリオキシエチレン鎖と比較して嵩高いことから、ポリロタキサンのように、第二の重合体が式(II)のモノマー単位の環状部分を貫通している状態が維持され易い。第二の重合体を、環状のモノマー単位の大きさ、包接能力などのバランス、ポリロタキサンの特性に基づいて適宜選択することができる。
【0080】
第一の重合が生成し、硬化した樹脂は、形状記憶性を有していても有していなくてもよいが、反応性モノマーの種類等を適切に選択することで、形状記憶性を有する樹脂を得ることができる。本明細書において、「形状記憶性」は、室温(例えば25℃)において外力によって樹脂又は複合体を変形させたときに、樹脂又は複合体が、変形後の形状を室温においては保持し、無荷重下で高温に加熱されたときに元の形状に戻る性質を意味する。ただし、加熱により樹脂又は複合体が完全に元の形状と同一の形状を回復しなくてもよい。形状回復のための加熱の温度は、例えば70℃である。
【0081】
硬化した樹脂又は複合体が形状記憶性を有する場合、通常、第一の重合体が生成し、硬化した時点の樹脂又は複合体の形状が、基本の形状となる。外力によって変形した樹脂又は複合体は、加熱によりこの基本の形状に近づくように変形する。
【0082】
したがって、例えば、複合体形成用組成物を基材に接触させる工程の後、基材を所定の形状に変形させ、次いで、複合体形成用組成物を硬化させること、又は、所定の形状に変形させた基材を複合体形成用組成物に接触させ、次いで複合体形成用組成物を硬化させることにより、所望の形状を基本の形状として有する複合体を得ることができる。
【0083】
樹脂の25℃における貯蔵弾性率は、特に限定されないが、0.5MPa以上であってもよい。0.5MPa以上の貯蔵弾性率を有する樹脂は、通常、形状記憶性を有する。樹脂の弾性率は、1.0MPa以上、又は10MPa以上であってもよいし、10GPa以下、5GPa以下、又は500MPa以下であってもよい。貯蔵弾性率が高いことで、樹脂が変形後の形状を保持し易い傾向がある。適度な大きさの貯蔵弾性率を有していることで、樹脂が加熱時に元の形状を回復し易い傾向がある。樹脂の弾性率は、例えば、反応性モノマーの種類及びその配合比、第二の重合体の分子量、ラジカル重合開始剤の量に基づいて制御することができる。樹脂の弾性率は、基材の性質に合わせて適宜調整することもできる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
1.合成
合成例1:
trans−1,2−ビス(2−アクリロイルオキシエチルカルバモイルオキシ)シクロヘキサン(BACH)の合成
100mL二口ナスフラスコにtrans−1,2−シクロヘキサンジオール(2.32g、20.0mmol)を加え、フラスコ内を窒素置換した。そこに硫酸マグネシウムにより十分脱水したジクロロメタン(40mL)、及びジラウリン酸ジブチル錫(11.8μL、0.10mol%:0.020mmol)を入れた。フラスコ中の反応液に2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(5.93g、42.0mmol)のジクロロメタン(4mL)溶液を滴下ロートから滴下し、反応液を30℃で24時間撹拌して、反応を進行させた。反応終了後、反応液にジエチルエーテルを加えて飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去して得られた残渣をアセトニトリルに溶解させ、ヘキサンで3回洗浄した。溶媒を減圧留去して、得られた粗生成物を、ジエチルエーテルとヘキサンからの再結晶により精製してBACHの白色結晶を得た。収量は、5.1gであり、収率は、64質量%であった。
【0086】
【化15】
【0087】
合成例2:PEG−PPGオリゴマーの合成
20mLナスフラスコにポリエチレングリコール(PEG1500、750mg、0.500mmol、数平均分子量1500)、及びポリプロピレングリコール(PPG4000、2000mg、0.500mmol、数平均分子量4000)を加えてからフラスコ内を窒素置換し、内容物を115℃で融解させた。融解液に4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(262mg、1.00mmol)を加えて、窒素雰囲気下、115℃で融解液を24時間撹拌して、PEG−PPGオリゴマー(ポリオキシエチレン鎖、及びポリオキシプロプレン鎖を含む第二の重合体)を得た。
得られたオリゴマーの重量平均分子量(Mw)は9300で、オリゴマーの重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)は1.65であった。
【0088】
2.分子量の測定
10mMの臭化リチウムを含むDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)を溶離液として用いて、流速1mL/分の条件でオリゴマーのGPCクロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムから、オリゴマーの数平均分子量及び重量平均分子量をポリスチレン換算値として求めた。
【0089】
3.複合体形成用組成物及び複合体
(実施例1)
合成例1のBACH、合成例2のPEG−PPGオリゴマー、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)、アクリロニトリル(AN)及び2,2’−アゾビス−イソブチロニトリルを、表1に示す質量比で混合し、配合液1(複合体形成用組成物)を調製した。
【0090】
得られた配合液1に不織布を浸漬し、配合液1を不織布に充分に含浸させた。配合液1が含浸された不織布を、ステンレス平板で挟み、余分な配合液1を除去した後、オーブンで70℃、1時間加熱して、配合液1を硬化させ、
図1に示す構造体100(ステンレス平板1で挟持された複合体2を備える構造体)を得た。得られた構造体100をオーブンから取り出した後、ステンレス平板1を外し、評価用サンプル1(複合体)を得た。
【0091】
(実施例2)
ステンレス平板に代えて円形に湾曲したステンレス板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、
図2に示す構造体200(湾曲したステンレス板4で挟持された複合体5を備える構造体)を得た。得られた構造体200をオーブンから取り出した後、ステンレス板4を外し、評価用サンプル2(複合体)を得た。
【0092】
(実施例3)
2,2’−アゾビス−イソブチロニトリルをイルガキュア651に変更したこと以外は、配合液1と同様にして配合液2(複合体形成用組成物)を調製した。
【0093】
コピー用紙に配合液2を塗布し、そこにポリエチレンテレフタラート(PET)製のフィルムを重ねた。PETフィルムの上から紫外線を2000mJ/cm2照射することで配合液を硬化した後、PETフィルムを剥がして評価用サンプル3(複合体)を得た。
【0094】
(比較例1)
合成例1のBACHを用いないこと以外は、配合液1と同様にして配合液X1を調製した。得られた配合液X1を用いて、実施例1と同様に、評価用サンプルX1を得た。
【0095】
(比較例2)
合成例2のPEG−PPGオリゴマーを用いないこと以外は、配合液1と同様にして配合液X2を調製した。得られた配合液X2を用いて、実施例1と同様に、評価用サンプルX2を得た。
【0096】
4.評価
(樹脂の弾性率)
得られた配合液を長さ×幅×深さが46mm×10mm×1mmのステンレス金型に流し込み、そこにポリエチレンテレフタレート製の透明シートを被せた。2,2’−アゾビス−イソブチロニトリルを含有する配合液に関しては、2,2’−アゾビス−イソブチロニトリルに代えてイルガキュア651を同量配合したものを用いた。透明シートの上から、室温(25℃、以下同様)でUV(紫外線)を30分照射することで配合液を光硬化して、フィルム状の成形体を得た。
【0097】
フィルム状の成形体から、5mm幅、長さ30mmの短冊状の試験片を切り出した。この試験片を用いて、TAインスツルメント株式会社社製動的粘弾性測定装置(RSA−G2)を用いて、25℃における貯蔵弾性率を測定した。測定条件は以下のとおりである。
・チャック間距離:20mm
・測定周波数:10Hz
・昇温速度5℃/分
【0098】
(形状回復性)
評価用サンプル1、3、X1及びX2を180°に折り曲げ、折り曲げられた形状が実質的に元に戻らないことを確認した。湾曲した評価用サンプル2を、湾曲方向と反対方向に180°変形させ、変形した形状が実質的に元に戻らないことを確認した。
【0099】
変形させたサンプルをドライヤーで加熱し、10秒以内に初期の形状に回復した場合を「良」、回復しなかった場合を「不良」と判定した。
【0100】
【表1】
【0101】
(外観)
実施例1〜3の複合体について、変形前の外観と、形状回復後の外観を目視で評価し、変化がないことを確認した。
【0102】
以上のとおり、各実施例の複合体は、良好な形状回復性を有していた。この結果から、本発明によれば、加熱による形状回復性に優れた形状記憶性を有する複合体が得られることが確認された。