特許第6624455号(P6624455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6624455
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20191216BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20191216BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20191216BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20191216BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20191216BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20191216BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/057 170
   C22C38/00 303D
   C22C38/00 304
   C22C28/00 A
   B22F3/00 F
   C22C33/02 J
   C22C33/02 K
   B22F3/24 K
   B22F3/24 B
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-159879(P2016-159879)
(22)【出願日】2016年8月17日
(65)【公開番号】特開2018-29108(P2018-29108A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野澤 宣介
(72)【発明者】
【氏名】重本 恭孝
(72)【発明者】
【氏名】西内 武司
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−287875(JP,A)
【文献】 特開2013−207134(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/099186(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/020181(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/020183(WO,A1)
【文献】 特許第6361813(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00−1/117、41/02
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05、28/00、33/02、38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件(1)〜(6)を満たすR−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程と、
(1)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−T−B−Cu−M系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下である。
(2)TはFe又はFeとXであり、XはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Moから選択される一種以上である。
(3)[T]/[B]のmol比が13.0以上14.0以下である。
(4)CuはR−T−B−Cu−M系焼結体全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。
(5)MはGa及びAgの少なくとも一方であり、R−T−B−Cu−M系焼結体全体の0mass%以上1mass%以下である。
(6)不可避的不純物を含んでも良い。
以下の要件(7)〜(11)を満たすR−Ga−Fe−A系合金を準備する工程と、
(7)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−Ga−Fe−A系合金全体の35mass%以上91mass%以下である。

(8)GaはR−Ga−Fe−A系合金全体の2.5mass%以上40mass%以下である。
(9)FeはR−Ga−Fe−A系合金全体の4mass%以上40mass%以下である。
(10)AはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であり、R−Ga−Fe−A系合金全体の0mass%以上1mass%以下である。
(11)不可避的不純物を含んでも良い。
前記R−T−B−Cu−M系焼結体の表面の少なくとも一部に、前記R−Ga−Fe−A系合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で第一の熱処理を実施する工程と、
前記第一の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結体に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上600℃以下の温度で第二の熱処理を実施する工程と、
を含む、以下の要件(12)〜(17)を満たすR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法。
(12)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の27mass%以上35mass%以下である。
(13)TはFe又はFeとXであり、XはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Moから選択される一種以上である。
(14)[T]/[B]のmol比が14.0超である。
(15)CuはR−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。
(16)MはGa及びAgの少なくとも一方であり、R−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の0.1mass%以上3mass%以下である。
(17)不可避的不純物を含んでいても良い。
【請求項2】
前記R−Ga−Fe−A系合金は重希土類元素を含有していない請求項1に記載のR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記R−Ga−Fe−A系合金中のRの50mass%以上がPrである請求項1又は2に記載のR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記R−T−B−Cu−M系焼結磁石中の重希土類元素は1mass%以下である請求項1から3のいずれかに記載のR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程は、原料合金を3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、焼結を行うことを含む、請求項1から4のいずれかに記載のR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素のうちの少なくとも一種である。Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む。Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は主としてR14B化合物からなる主相とこの主相の粒界部分に位置する粒界相(以下、単に「粒界」という場合がある)とから構成されている。R14B化合物は高い磁化を持つ強磁性相でありR−T−B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「保磁力」又は「HcJ」という場合がある)が低下するため不可逆熱減磁が起こるという問題がある。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR−T−B系焼結磁石では、高温下でも高いHcJを有する、すなわち室温においてより高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R−T−B系焼結磁石において、R14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素(主としてNd及び/又はPr)の一部を重希土類元素(主としてDy及び/又はTb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。重希土類元素の置換量の増加に伴いHcJは向上する。
【0006】
しかし、R14B化合物中の軽希土類元素を重希土類元素で置換するとR−T−B系焼結磁石のHcJが向上する一方、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という場合がある)が低下する。また、重希土類元素、特にDyなどは資源存在量が少ないうえ産出地が限定されているなどの理由から供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、ユーザーから重希土類元素をできるだけ使用することなくHcJを向上させることが求められている。
【0007】
特許文献1には、Dyの含有量を低減しつつ保磁力を高めたR−T−B系希土類焼結磁石が開示されている。この焼結磁石の組成は、一般に用いられてきたR−T−B系合金に比べてB量が相対的に少ない特定の範囲に限定され、かつ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有している。その結果、粒界にR17相が生成され、このR17相から粒界に形成される遷移金属リッチ相(R13M)の体積比率が増加することにより、HcJが向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/008756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されている方法は、重希土類元素の含有量を低減しつつR−T−B系焼結磁石を高保磁力化できる点で注目に値する。しかし、近年、電気自動車用モータ等の用途において更に高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石が求められている。
【0010】
本開示の実施形態は、重希土類元素の含有量を低減しつつ、高いB及び高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の限定的ではない例示的なR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法は、
以下の要件(1)〜(6)を満たすR−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程と、
(1)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−T−B−Cu−M系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下である。
(2)TはFe又はFeとXであり、XはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Moから選択される一種以上である。
(3)[T]/[B]のmol比が13.0以上14.0以下である。
(4)CuはR−T−B−Cu−M系焼結体全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。
(5)MはGa及びAgの少なくとも一方であり、R−T−B−Cu−M系焼結体全体の0mass%以上1mass%以下である。
(6)不可避的不純物を含んでも良い。
以下の要件(7)〜(11)を満たすR−Ga−Fe−A系合金を準備する工程と、
(7)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−Ga−Fe−A系合金全体の35mass%以上91mass%以下である。
(8)GaはR−Ga−Fe−A系合金全体の2.5mass%以上40mass%以下である。
(9)FeはR−Ga−Fe−A系合金全体の4mass%以上40mass%以下である。
(10)AはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であり、R−Ga−Fe−A系合金全体の0mass%以上1mass%以下である。
(11)不可避的不純物を含んでも良い。
前記R−T−B−Cu−M系焼結体の表面の少なくとも一部に、前記R−Ga−Fe−A系合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で第一の熱処理を実施する工程と、
前記第一の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結体に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上600℃以下の温度で第二の熱処理を実施する工程と、
を含む、以下の要件(12)〜(17)を満たすR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法。
(12)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の27mass%以上35mass%以下である。
(13)TはFe又はFeとXであり、XはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Moから選択される一種以上である。
(14)[T]/[B]のmol比が14.0超である。
(15)CuはR−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。
(16)MはGa及びAgの少なくとも一方であり、R−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の0.1mass%以上3mass%以下である。
(17)不可避的不純物を含んでいても良い。
【0012】
ある実施形態において、前記R−Ga−Fe−A系合金は重希土類元素を含有していない。
【0013】
ある実施形態において、前記R−Ga−Fe−A系合金中のRの50mass%以上がPrである。
【0014】
ある実施形態において、前記R−T−B−Cu−M系焼結体の重希土類元素は1mass%以下である。
【0015】
ある実施形態において、前記R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程は、原料合金を3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、焼結を行うことを含む。
【発明の効果】
【0016】
本開示の実施形態によると、重希土類元素の含有量を低減しつつ、高いB及び高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石(本開示のR−T−B−Cu−M系焼結磁石に相当)の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示によるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法における工程の例を示すフローチャートである。
図2A】R−T−B−Cu−M系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図である。
図2B図2Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。
図3】熱処理工程におけるR−T−B−Cu−M系合金焼結体とR−Ga−Fe−A系合金との配置形態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示によるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法は、図1に示す様に、R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程S10と、R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程S20とを含む。R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程S10と、R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程S20との順序は任意であり、それぞれ、異なる場所で製造されたR−T−B−Cu−M系焼結体及びR−Ga−Fe−A系合金を用いてもよい。
【0019】
本開示において、第二の熱処理前及び第二の熱処理中のR−T−B−Cu−M系焼結磁石をR−T−B−Cu−M系焼結体と称し、第二の熱処理後のR−T−B−Cu−M系焼結磁石を単にR−T−B−Cu−M系焼結磁石と称する。
【0020】
R−T−B−Cu−M系焼結体は、以下の要件(1)〜(6)を満たす。
(1)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−T−B−Cu−M系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下である。
(2)TはFe又はFeとXであり、XはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Moから選択される一種以上である。
(3)[T]/[B]のmol比が13.0以上14.0以下である。
(4)CuはR−T−B−Cu−M系焼結体全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。
(5)MはGa及びAgの少なくとも一方であり、R−T−B−Cu−M系焼結体全体の0mass%以上1mass%以下である。
(6)不可避的不純物を含んでも良い。
なお、本開示においては、Mが0mass%の場合であってもR−T−B−Cu−M系焼結体と称することとする。
前記(3)[T]/[B]のmol比が14.0以下であるということは、Bの含有量がR14B化合物の化学量論組成比よりも多い(又は同じ)、すなわち、主相(R14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が多い(又は同じ)ことを意味している。
【0021】
R−Ga−Fe−A系合金は、以下の要件(7)〜(11)を満たす。
(7)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−Ga−Fe−A系合金全体の35mass%以上91mass%以下である。

(8)GaはR−Ga−Fe−A系合金全体の2.5mass%以上40mass%以下である。
(9)FeはR−Ga−Fe−A系合金全体の4mass%以上40mass%以下である。
(10)AはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であり、R−Ga−Fe−A系合金全体の0mass%以上1mass%以下である。
(11)不可避的不純物を含んでも良い。
なお、本開示においては、Aが0mass%の場合であってもR−Ga−Fe−A系合金と称することとする。
【0022】
R−T−B−Cu−M系焼結磁石(第二の熱処理後のR−T−B−Cu−M系焼結磁石)は、以下の要件(12)〜(17)を満たす。
(12)Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の27mass%以上35mass%以下である。
(13)TはFe又はFeとXであり、XはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Moから選択される一種以上である。
(14)[T]/[B]のmol比が14.0超である。
(15)CuはR−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。
(16)MはGa及びAgの少なくとも一方であり、R−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の0.1mass%以上3mass%以下である。
(17)不可避的不純物を含んでいても良い。
前記(14)[T]/[B]のmol比が14.0超であるということは、Bの含有量がR14B化合物の化学量論組成比よりも少ない、すなわち、主相(R14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを意味している。
【0023】
本開示によるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法は、主相(R14B化合物)形成に使われるT量に対して化学量論比で相対的にB量が多い(又は同じ、すなわち、[T]/[B]のmol比が14.0以下である)R−T−B−Cu−M系焼結体の表面の少なくとも一部にR−Ga−Fe−A系合金を接触させ、図1に示す様に、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で第一の熱処理を実施する工程S30と、この第一の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結体に対して真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上600℃以下の温度で第二の熱処理を実施する工程S40を行うことで、主相形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないR−T−B−Cu−M系焼結磁石を作製する。第一の熱処理を実施する工程S30と、第二の熱処理を実施する工程S40との間に他の工程、例えば冷却工程などが実行され得る。
【0024】
まず、R−T−B−Cu−M系焼結磁石の基本構造を説明する。
R−T−B−Cu−M系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
図2Aは、R−T−B−Cu−M系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図であり、図2B図1Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。図2Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。図2A及び図2Bに示されるように、R−T−B−Cu−M系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、図2Bに示されるように、2つのR14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つ以上のR14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。
主相12であるRB化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R−T−B−Cu−M系焼結磁石では、主相12であるR14B化合物の存在比率を高めることによってBを向上させることができる。R14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。R14B化合物を形成するためのB量又はR量が化学量論比を下回ると、一般的には、粒界相14にFe相又はR17相等の磁性体が生成し、HcJが急激に低下する。
【0025】
特許文献1に記載されている方法では、B量をR14B化合物の化学量論比よりも少なくし、且つ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有することで、R17相から粒界に遷移金属リッチ相(R13M)を生成させてHcJを向上させている。しかし、本発明者らは検討の結果、R−T−Ga相(R13M)は原料合金段階では生成し難くその後の熱処理時に生成され易いことがわかった。そして、特許文献1に記載されている方法の様に原料合金段階から低B組成(B量がR14B化合物の化学量論比よりも少ない組成)にすると、原料合金段階において粒界にR17相等が多く残存し、それにより最終的に得られる焼結磁石のHcJを低下させていることがわかった。そのため、高いHcJを得るためには、原料合金段階では高B組成(B量がR14B化合物の化学量論比よりも多い(又は同じ)組成)にしてR17相等の生成を抑制させる必要がある。
本発明者らは更に検討の結果、高B且つ特定の組成を有するR−T−B−Cu−M系焼結体の表面の少なくとも一部に、R−Ga−Fe−A系合金を接触させて特定の熱処理を実施することにより、R−Ga−Fe−A系合金中のFeをR−T−B−Cu−M系焼結体内部に導入し、熱処理後のR−T−B−Cu−M系焼結磁石を低B組成にする(FeをR−T−B−Cu−M系焼結体内部に導入することで相対的にB量をR14B化合物の化学量論比よりも少なくする)ことができることを見い出した。通常Feを含む合金(例えばDyFeやTbFe)を熱処理等により磁石表面から導入させても1mass%以下程度の少量しか磁石内部に導入されないため、[T]/[B]のmol比が14.0以下の磁石を14.0超にすることは困難である。本開示におけるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法は、特定組成のR−T−B−Cu−M系焼結体の表面に特定組成のR、Ga、Feを全て含む合金を接触させることで、[T]/[B]のmol比が14.0超となるために必要な量のFeを磁石表面から内部に導入させることを可能とする。これにより、特許文献1に記載されている方法の様な最初(原料合金段階)から低B組成の場合と比べて、原料合金段階におけるR217相等の生成を抑制することができるため、より高いHcJを得ることができると考えられる。更に、最初(原料合金段階)から低B組成且つGa等を含有する組成(例えば特許文献1に記載されている組成)の場合、R−T−Ga相は磁石内部にほぼ均一に生成される。これに対し、本開示によるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の製造方法は、磁石表面よりR、Ga、Feを導入させることで、最も耐熱性の要求される磁石表面付近で最も効率的にHcJを向上させることができ、その結果、Brの低下を抑えることができる。
【0026】
(R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程)
まず、R−T−B−Cu−M系焼結体(以下、単に「焼結体」という場合がある)を準備する工程における焼結体の組成を説明する。
Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。更に、R−T−B−Cu−M系焼結体のHcJを向上させるために一般的に用いられるDy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素を少量含有してもよい。但し、本開示は前記重希土類元素を多量に用いずとも十分に高いHcJを得ることができる。そのため、前記重希土類元素の含有量はR−T−B−Cu−M系焼結体の1mass%以下(R−T−B−Cu−M系焼結体中の重希土類元素が1mass%以下)であることが好ましく、0.5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。
【0027】
RはR−T−B−Cu−M系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下である。Rが27mass%未満では焼結過程で液相が十分に生成せず、R−T−B−Cu−M系焼結体を十分に緻密化することが困難になる。一方、Rが35mass%を超えても本開示の効果を得ることはできるが、R−T−B−Cu−M系焼結体の製造工程中における合金粉末が非常に活性になり、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じることがあるため、35mass%以下が好ましい。Rは28mass%以上33mass%以下であることがより好ましく、28.5mass%以上32mass%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
TはFe又はFeとXであり、XはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、から選択される一種以上である。すなわち、TはFeのみであってもよいし、FeとXからなってもよい。TがFeとXからなる場合、T全体に対するFe量は80mass%以上であることが好ましい。
【0029】
前記TとBとは、[T]/[B]のmol比が13.0以上14.0以下となるように設定する。[T]/[B]のmol比が13.0未満であると、最終的に得られるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の[T]/[B]のmol比を14.0超にすることができず、高いHcJを得ることができない恐れがある。一方、[T]/[B]のmol比が14.0を超えると、原料段階におけるR17相等の生成を抑制することができず、高いHcJを得ることができない。[T]/[B]のmol比が14.0以下という条件は、主相(R14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が多い(又は同じ)ことを示している。また、BはR−T−B−Cu−M系焼結体全体の0.9mass%以上1.1mass%未満が好ましい。
【0030】
CuはR−T−B−Cu−M系焼結体全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。Cuが0.1mass%未満であると、後述する第一の熱処理で拡散が十分に進行せず、[T]/[B]のmol比を14.0超にすることができず、高いHcJを得ることができない恐れがある。一方、Cuが1.5mass%を超えるとBが低下する恐れがある。
【0031】
MはGa及びAgの少なくとも一方であり、Mは0mass%以上1mass%以下である。Mを含有しなくても本開示の効果を奏することができるが、特にGaを少量(0.2mass%程度)含有させた方がより高いHcJを得ることができるため好ましい。
【0032】
さらに、R−T−B−Cu−M系焼結体は、Ndメタル、Prメタル、ジジム合金(Nd−Pr)、電解鉄、フェロボロンなどの合金中及び製造工程中に通常含有される不可避的不純物及び少量の上記以外の元素を含んでいても良い。例えば、La、Ce、Sm、Ca、Mg、O(酸素)、N(炭素)、C(窒素)、Hf、Ta、Wなどをそれぞれ含有してもよい。
【0033】
次にR−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程について説明する。R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程は、Nd−Fe−B系焼結磁石に代表される一般的な製造方法を用いて準備することができる。一例を挙げると、ストリップキャスト法などで作製された原料合金を、ジェットミル装置などを用いて3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼結することにより準備することができる。原料合金の粉砕粒径(気流分散式レーザー回折法による測定で得られる体積中心値=D50)が3μm未満では粉砕粉を作製するのが非常に困難であり、生産効率が大幅に低下するため好ましくない。一方、粉砕粒径が10μmを超えると最終的に得られるR−T−B−Cu−M系焼結体の結晶粒径が大きくなり過ぎ、高いHcJを得ることが困難となるため好ましくない。粉砕粒径は好ましくは、3μm以上5μm以下である。
【0034】
R−T−B−Cu−M系焼結体は、前記の各条件を満たしていれば、一種類の原料合金(単一原料合金)から作製してもよいし、二種類以上の原料合金を用いてそれらを混合する方法(ブレンド法)によって作製してもよい。また、得られたR−T−B−Cu−M系焼結体は、切断や切削など公知の機械加工を行った後後述する第一の熱処理及び第二の熱処理を実施してもよい。
【0035】
(R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程)
まず、R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程におけるR−Ga−Fe−A系合金の組成を説明する。以下に説明する特定の範囲でR、Ga、Feを全て含有することにより、後述する第一の熱処理を実施する工程においてR−Ga−Fe−A系合金中のFeをR−T−B−Cu−M系焼結体内部に導入することができる。
Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。Rの50%以上がPrであることが好ましい。より高いHcJを得ることができるからである。ここで「Rの50%以上がPrである」とは、例えばRがR−Ga−Fe−A系合金中におけるRが50mass%である場合、25mass%以上がPrであることを言う。さらに好ましくは、RはPrのみ(不可避的不純物は含む)である。さらに高いHcJを得ることができる。また、Dy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素を少量含有してもよい。但し、本開示は前記重希土類元素を多量に用いずとも十分に高いHcJを得ることができる。そのため、前記重希土類元素の含有量はR−Ga−Fe−A系合金全体の10mass%以下(R−Ga−Fe−A系合金中の重希土類元素が10mass%以下)であることが好ましく、5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。R−Ga−Fe−A系合金のRに前記重希土類元素を含有する場合も、Rの50%以上がPrであることが好ましく、重希土類元素を除いたRがPrのみ(不可避的不純物は含む)であることがより好ましい。
【0036】
RはR−Ga−Fe−A系合金全体の35mass%以上91mass%以下である。Rが35mass%未満では後述する第一の熱処理で拡散が十分に進行せず、[T]/[B]のmol比を14.0超にすることができず、高いHcJを得ることができない恐れがある。一方、Rが91mass%を超えても本開示の効果を得ることはできるが、R−Ga−Fe−A系合金の製造工程中における合金粉末が非常に活性になり、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じることがあるため、91mass%以下が好ましい。Rは50mass%以上91mass%以下であることがより好ましく、60mass%以上85mass%以下であることがさらに好ましい。より高いHcJを得ることができるからである。
【0037】
Gaは、R−Ga−Fe−A系合金全体の2.5mass%以上40mass%以下である。Gaが2.5mass%未満では、後述する第1の熱処理を実施する工程においてR−Ga−Fe−A系合金中のFeがR−T−B−Cu−M系焼結体の内部に導入され難くなる。これにより、最終的に得られるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の[T]/[B]のmol比を14.0超とすることができず、高いHcJを得ることができない。一方、Gaが40mass%以上であると、Bが大幅に低下する恐れがある。Gaは4mass%以上30mass%以下であることがより好ましく、4mass%以上20mass%以下であることがさらに好ましい。より高いHcJを得ることができるからである。
【0038】
Feは、R−Ga−Fe−A系合金全体の4mass%以上40mass%以下である。Feが4mass%未満では、後述する第1の熱処理を実施する工程においてR−Ga−Fe−A系合金中のFeのR−T−B−Cu−M系焼結体への導入量が少なすぎるため、最終的に得られるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の[T]/[B]のmol比を14.0超とすることができず、高いHcJを得ることができない。一方、Feが40mass%以上であると、後述する第一の熱処理で拡散が十分に進行せず、[T]/[B]のmol比を14.0超にすることができず、高いHcJを得ることができない恐れがある。Feは4mass%以上30mass%以下であることがより好ましく、4mass%以上25mass%以下であることがさらに好ましい。より高いHcJを得ることができるからである。
【0039】
Aは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であり、R−Ga−Fe−A系合金全体の0mass%以上1mass%以下である。Aは1mass%以下含有しても構わないが、より高いHcJを得るためには、Aは含有しない(すなわち0mass%)の方が好ましい。
【0040】
さらに、R−Ga−Fe−A系合金は、Ndメタル、Prメタル、ジジム合金(Nd−Pr)、電解鉄などの合金中及び製造工程中に通常含有される不可避的不純物及び少量の上記以外の元素を含んでいても良い。例えば、La、Ce、Sm、Ca、Mg、O(酸素)、N(炭素)、C(窒素)、Hf、Ta、Wなどをそれぞれ含有してもよい。
【0041】
次にR−Ga−Fe−A系合金を準備する工程について説明する。R−Ga−Fe−A系合金は、Nd−Fe−B系焼結磁石に代表される一般的な製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法やストリップキャスト法や単ロール超急冷法(メルトスピニング法)やアトマイズ法などを用いて準備することができる。また、R−Ga−Fe−A系合金は、前記によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。
【0042】
(第一の熱処理を実施する工程)
前記によって準備したR−T−B−Cu−M系焼結体の表面の少なくとも一部に、前記R−Ga−Fe−A系合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で熱処理をする。本開示においてこの熱処理を第一の熱処理という。これにより、R−Ga−Fe−A系合金からGaやFeを含む液相が生成し、その液相がR−T−B−Cu−M系焼結体の粒界を経由して焼結体表面から内部に拡散導入される。第一の熱処理温度が700℃以下であると、GaやFeを含む液相量が少なすぎて後述する第二の熱処理を実施する工程により生成されるR−T−Ga相の生成量が少なくなったり、最終的に得られるR−T−B−Cu−M系焼結磁石の[T]/[B]のmol比を14.0超とすることができず、高いHcJを得ることが出来ない。一方、1100℃を超えるとHcJが低下する恐れがある。熱処理温度は、750℃以上900℃以下が好ましい。より高いHcJを得ることが出来るからである。なお、熱処理時間はR−T−B−Cu−M系焼結体やR−Ga−Fe−A系合金の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上20時間以下が好ましく、10分以上15時間以下がより好ましく、30分以上10時間以下がさらに好ましい。
【0043】
第一の熱処理は、R−T−B−Cu−M系焼結体表面に、任意形状のR−Ga−Fe−A系合金を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、R−T−B−Cu−M系焼結体表面をR−Ga−Fe−A系合金の粉末層で覆い、第一の熱処理を行うことができる。例えば、R−Ga−Fe−A系合金を分散媒中に分散させたスラリーをR−T−B−Cu−M系焼結体表面に塗布した後、分散媒を蒸発させてR−Ga−Fe−A系合金とR−T−B−Cu−M系焼結体とを接触させてもよい。また、後述する実験例に示す様に、R−Ga−Fe−A系合金は、R−T−B−Cu−M系焼結体の配向方向に対して垂直な表面に接触させるように配置することが好ましい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒド及びケトンを例示できる。また、第一の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結体に対して切断や切削など公知の機械加工を行ってもよい。
【0044】
(第二の熱処理を実施する工程)
第一の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結体に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上600℃以下の温度で熱処理を行う。本開示においてこの熱処理を第二の熱処理という。第二の熱処理を行うことにより、焼結磁石内部の少なくとも一部にR−T−Ga相、典型的にはR13Z相(ZはCu及び/又はGaを必ず含む)を生成させる。これにより、GaやCuを含む厚い二粒子粒界が得られ、高いHcJを得ることができる。第二の熱処理の温度が450℃未満及び600℃超の場合は、R−T−Ga相の生成量が少なすぎて、高いHcJを得ることができない恐れがある。熱処理温度は、480℃以上560℃以下が好ましい。より高いHcJを得ることが出来る。なお、熱処理時間はR−T−B−Cu−M系焼結体の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上20時間以下が好ましく、10分以上15時間以下がより好ましく、30分以上10時間以下がさらに好ましい。
【0045】
なお、前記のR13Z相(R13Z化合物)において、Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありPr及びNdの少なくとも一方を必ず含み、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む。R13Z化合物は代表的にはNdFe13Ga化合物である。また、R13Z化合物はLaCo11Ga型結晶構造を有する。R13Z化合物はその状態によってはR13−δ1+δ化合物になっている場合がある。なお、R−T−B−Cu−M系焼結磁石中に比較的多くのCu、Al及びSiが含有される場合、R13−δ(Ga1−a−b−cCuaAlbSic1+δになっている場合がある。
【0046】
(R−T−B−Cu−M系焼結磁石)
前記第二の熱処理を実施する工程後のR−T−B−Cu−M系焼結磁石の組成について説明する。
尚、R−T−B−Cu−M系焼結磁石におけるR、T及びCuについては、上述したR−T−B−Cu−M系焼結体と同じ組成であるため、説明を省略する。
前記TとBとは、[T]/[B]のmol比が14.0超となるように設定する。[T]/[B]のmol比が14.0超にすることにより高いHcJを得ることができる。この条件は、主相(R14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを示している。また、BはR−T−B−Cu−M系焼結磁石全体の0.8mass%以上1.0mass%未満が好ましい。Bが0.8mass%未満であると、Brの大幅な低下を招く恐れがあるため好ましくない。一方、Bが1.0mass%以上であると[T]/[B]のmol比を14.0超にできず高いHcJを得ることができない。Bは0.81mass%以上0.95mass%以下であることがより好ましく、0.82mass%以上0.93mass%以下であることがさらに好ましい。MはGa及びAgの少なくとも一方であり、Mは0.1mass%以上3mass%以下である。Mが0.1mass%未満であると高いHcJが得られない恐れがあり、3mass%を超えるとBが低下する恐れがある。
【0047】
さらに、R−T−B−Cu−M系焼結磁石は、Ndメタル、Prメタル、ジジム合金(Nd−Pr)、電解鉄、フェロボロンなどの合金中及び製造工程中に通常含有される不可避的不純物及び少量の上記以外の元素を含んでいても良い。例えば、La、Ce、Sm、Ca、Mg、O(酸素)、N(炭素)、C(窒素)、Hf、Ta、Wなどをそれぞれ含有してもよい。
【0048】
前記の第二の熱処理を実施する工程によって得られたR−T−B−Cu−M系焼結磁石は、切断や切削など公知の機械加工を行ったり、耐食性を付与するためのめっきなど、公知の表面処理を行うことができる。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0050】
実験例1
[R−T−B−Cu−M系焼結体(焼結体)を準備する工程]
焼結体がおよそ表1の符号1−Aから1−Kに示す組成となるように、各元素を秤量しストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2〜0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100mass%に対して0.04mass%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粉砕粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粉砕粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。
【0051】
前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100mass%に対して0.05mass%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0052】
得られた成形体を、真空中、1000℃以上1040℃以下(サンプル毎に焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)で4時間焼結した後急冷し、焼結体を得た。得られた焼結体の密度は7.5Mg/m 以上であった。得られた焼結体の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。表1における「[T]/[B]」は、Tを構成する各元素(ここではFe、Al、Si、Mn)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(a)と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの(b)との比(a/b)である。以下の全ての表も同様である。なお、表1の各組成および酸素量、炭素量を合計しても100mass%にはならない。これは、前記の通り、各成分によって分析方法が異なるためである。その他表についても同様である。
【0053】
【表1】
【0054】
[R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R−Ga−Fe−A系合金がおよそ表2の符号1−aに示す組成となるように、各元素を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き425μmの篩を通過させ、R−Ga−Fe−A系合金を準備した。得られたR−Ga−Fe−A系合金の組成を表2に示す。尚、表2における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。
【0055】
【表2】
【0056】
[第一の熱処理を実施する工程]
表1の符号1−Aから1−Kの焼結体を切断、切削加工し、4.4mm×10.0mm×11.0mmの直方体(10.0mm×11.0mmの面が配向方向と垂直な面)とした。次に、図3に示すように、ニオブ箔により作製した処理容器3中に、主に焼結体の配向方向(図中の矢印方向)と垂直な面がR−Ga−Fe−A系合金と接触するように、表2に示す符号1−aのR−Ga−Fe−A系合金を、符号1−Aから1−FのR−T−B−Cu−M系焼結体のそれぞれの上下に配置した。次に、管状流気炉を用いて、200Paに制御した減圧アルゴン中で、表3の第一の熱処理に示す温度及び時間で前記R−Ga−Fe−A合金及び前記R−T−B−Cu−M系焼結体を加熱して第一の熱処理を実施した後、冷却した。
【0057】
[第二の熱処理を実施する工程]
第二の熱処理を、管状流気炉を用いて200Paに制御した減圧アルゴン中で、表3の第二の熱処理に示す温度及び時間で、第一の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結体に対して実施した後、冷却した。熱処理後の各サンプルに対し表面研削盤を用いて各サンプルを全面を切削加工し、4.0mm×4.0mm×4.0mmの立方体状のサンプル(R−T−B−Cu−M系焼結磁石)を得た。尚、第一の熱処理を実施する工程におけるR−Ga−Fe−A合金及びR−T−B−Cu−M系焼結体の加熱温度、並びに、第二の熱処理を実施する工程におけるR−T―B−Cu−M系焼結体の加熱温度は、それぞれ熱電対を取り付けることにより測定した。
【0058】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB及びHcJを測定した。測定結果を表3に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表4に示す。表3の通り、R−T−B−Cu−M系焼結体における[T]/[B]のmol比を13.0以上14.0以下とし、且つ、第二の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結磁石における[T]/[B]のmol比が14.0超である本発明例はいずれも高いB及び高いHcJが得られていることがわかる。これに対し、第二の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結磁石における[T]/[B]のmol比が14.0以下であるサンプルNo.1−1は高いHcJが得られなかった。さらに、第二の熱処理が実施されたR−T−B−Cu−M系焼結磁石における[T]/[B]のmol比が14超であっても、R−T−B−Cu−M系焼結体における[T]/[B]のmol比が本発明の範囲外であるサンプルNo.1−5([T]/[B]のmol比が14.2)はBが大幅に低下している。また、R−T−B−Cu−M系焼結体におけるCu量が0.1mass%以上1.5mass%以下でないサンプルNo.1−6、及びサンプルNo.1−11(Cu量がサンプルNo.1−6は0.05mass%、サンプルNo.1−11は1.95mass%)は、高いHcJがえられなかった。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
実験例2
[R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程]
焼結体がおよそ表5の符号2−Aに示すとなるように、各元素を秤量する以外は実験施例1と同じ方法で焼結体を作製した。得られた焼結体の密度は7.5Mg/m 以上であった。得られた焼結体の成分の結果を表5に示す。表5における各成分は実験例1と同じ方法で測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0062】
【表5】
【0063】
[R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R−Ga−Fe−A系合金がおよそ表2の符号2−aから2−gに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR−Ga−Fe−A系合金の組成を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
[第一の熱処理を実施する工程]
表7の第一の熱処理に示す温度及び時間でR−Ga−Fe−A系合金及びR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0066】
[第二の熱処理を実施する工程]
表7の第二の熱処理に示す温度及び時間でR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。熱処理後の各サンプルを実験例1と同じ方法で加工しR−T−B−Cu−M系焼結磁石を得た。
【0067】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB及びHcJを測定した。測定結果を表7に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表8に示す。表7の通り、R−Ga−Fe−A系合金のFe量が4mass%以上40mass%以下である本発明例は高いB及び高いHcJが得られていることがわかる。また、表8の通り、R−Ga−Fe−A系合金のFe量が本発明の範囲外であると、最終的に得られるR−T−B−Cu−M系焼結磁石における[T]/[B]のmol比を14.0超とすることができず(表8中の比較例)、高いHcJを得ることができなかった。
【0068】
【表7】
【0069】
【表8】
【0070】
実験例3
[R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程]
焼結体がおよそ表9の符号3−Aに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法で焼結体を作製した。
得られた焼結体の密度は7.5Mg/m 以上であった。得られた焼結体の成分の結果を表9に示す。表9における各成分は実験例1と同じ方法で測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0071】
【表9】
【0072】
[R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R−Ga−Fe−A系合金がおよそ表10の符号3−a〜3−jに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR−Ga−Fe−A系合金の組成を表10に示す。
【0073】
【表10】
【0074】
[第一の熱処理を実施する工程]
表11の第一の熱処理に示す温度及び時間でR−Ga−Fe−A合金及びR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0075】
[第二の熱処理を実施する工程]
表11の第二の熱処理に示す温度及び時間でR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。
【0076】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB及びHcJを測定した。測定結果を表11に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表12に示す。表11の通り、R−Ga−Fe−A系合金のR量が35mass%以上91mass%以下、Ga量が2.5mass%以上40mass%以下である本発明例は高いB及び高いHcJが得られていることがわかる。また、表12の通り、R−Ga−Fe−A合金におけるR、Gaのいずれかが本発明の範囲外であると、最終的に得られるR−T−B−Cu−M系焼結磁石における[T]/[B]のmol比を14.0超とすることができず(表12中の比較例)、高いHcJを得ることができない。このように、R、Ga(及び実験例2に示す様に)Feの含有量が本発明の範囲内にあることにより、[T]/[B]のmol比が14.0超となるFeの必要量を磁石表面から内部に導入させることが可能となる。
【0077】
【表11】
【0078】
【表12】
【0079】
実験例4
[R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程]
焼結体がおよそ表13の符号4−Aに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法で焼結体を作製した。
得られた焼結体の密度は7.5Mg/m 以上であった。得られた焼結体の成分の結果を表13に示す。表13における各成分は実験例1と同じ方法で測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0080】
【表13】
【0081】
[R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R−Ga−Fe−A系合金がおよそ表14の符号4−aに示組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR−Ga−Fe−A系合金の組成を表14に示す。
【0082】
【表14】
【0083】
[第一の熱処理を実施する工程]
表15の第一の熱処理に示す温度及び時間でR−Ga−Fe−A合金及びR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0084】
[第二の熱処理を実施する工程]
表15の第二の熱処理に示す温度及び時間でR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。熱処理後の各サンプルを実験例1と同じ方法で加工しR−T−B−Cu−M系焼結磁石を得た。
【0085】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB及びHcJを測定した。測定結果を表15に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表16に示す。表15の通り、本発明の第一の熱処理温度(700℃以上1100℃以下)及び第二の熱処理温度(450℃以上600℃以下)である本発明例は、高いB及び高いHcJが得られていることがわかる。また、表16の通り、第一の熱処理温度又は第二の熱処理温度が本発明の範囲外である比較例は、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石における[T]/[B]のmol比を14.0超とすることができず(表16中の比較例)、高いHcJを得ることができない。
【0086】
【表15】
【0087】
【表16】
【0088】
実験例5
[R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程]
焼結体がおよそ表17の符号5−A〜5−Cに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法で焼結体を作製した。
得られた焼結体の密度は7.5Mg/m 以上であった。得られた焼結体の成分の結果を表17に示す。表17における各成分は実験例1と同じ方法で測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。表17における「[T]/[B]」は、Tを構成する各元素(ここではFeとXとして:Co、Al、Si、Mn、Ti、Zr)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(a)と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの(b)との比(a/b)である。
【0089】
【表17】
【0090】
[R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R−Ga−Fe−A系合金がおよそ表18の符号5−aに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR−Ga−Fe−A系合金の組成を表18に示す。
【0091】
【表18】
【0092】
[第一の熱処理を実施する工程]
表19の第一の熱処理に示す温度及び時間でR−Ga−Fe−A合金及びR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0093】
[第二の熱処理を実施する工程]
表19の第二の熱処理に示す温度及び時間でR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。熱処理後の各サンプルを実験例1と同じ方法で加工しR−T−B−Cu−M系焼結磁石を得た。
【0094】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB及びHcJを測定した。測定結果を表19に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表20に示す。表19の通り、R−T−B−Cu−M系焼結体にDy、Co、Ga、Ag、Cu、Zr、Tiが含まれていても高いHcJが得られていることがわかる。また、表20の通り、高いHcJが得られているサンプルは[T]/[B]のmol比が14.0超となっていることがわかる。
【0095】
【表19】
【0096】
【表20】
【0097】
実験例6
[R−T−B−Cu−M系焼結体を準備する工程]
焼結体がおよそ表21の符号6−Aに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法で焼結体を作製した。
得られた焼結体の密度は7.5Mg/m 以上であった。得られた焼結体の成分の結果を表21に示す。表21における各成分は実験例1と同じ方法で測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0098】
【表21】
【0099】
[R−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R−Ga−Fe−A系合金がおよそ表22の符号6−a〜6−eに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR−Ga−Fe−A系合金の組成を表22に示す。
【0100】
【表22】
【0101】
[第一の熱処理を実施する工程]
表23の第一の熱処理に示す温度及び時間でR−Ga−Fe−A合金及びR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0102】
[第二の熱処理を実施する工程]
表23の第二の熱処理に示す温度及び時間でR−T−B−Cu−M系焼結体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。熱処理後の各サンプルを実験例1と同じ方法加工しR−T−B−Cu−M系焼結磁石を得た。
【0103】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB及びHcJを測定した。測定結果を表23に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表24に示す。表23の通り、R−Ga−Fe−A系合金にAとして、Al、Si、Mn、Co、Znが含まれていても高いHcJが得られていることがわかる。また、表24の通り、高いHcJが得られているサンプルは[T]/[B]のmol比が14.0超となっていることがわかる。なお、表24における「[T]/[B]」は、Tを構成する各元素(ここではFeとXとして:Co、Al、Si、Mn、Zn)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(a)と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの(b)との比(a/b)である。
【0104】
【表23】
【0105】
【表24】
【産業上の利用可能性】
【0106】
本開示により得られたR−T−B−Cu−M系焼結磁石は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 R−T−B−Cu−M系焼結体
2 R−Ga−Fe−A系合金
3 処理容器
図1
図2A
図2B
図3