特許第6624542号(P6624542)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧 ▶ 旭化成メディカル株式会社の特許一覧

特許6624542ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置
<>
  • 特許6624542-ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置 図000005
  • 特許6624542-ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置 図000006
  • 特許6624542-ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置 図000007
  • 特許6624542-ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置 図000008
  • 特許6624542-ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置 図000009
  • 特許6624542-ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置 図000010
  • 特許6624542-ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置 図000011
  • 特許6624542-ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6624542
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】ヒトHMGB1結合剤およびヒトHMGB1除去装置
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/405 20060101AFI20191216BHJP
   C07K 17/08 20060101ALI20191216BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20191216BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20191216BHJP
【FI】
   C07K14/405
   C07K17/08
   C07K1/22
   !C12N15/11ZNA
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-21620(P2015-21620)
(22)【出願日】2015年2月5日
(65)【公開番号】特開2016-141678(P2016-141678A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】堀 貫治
(72)【発明者】
【氏名】平山 真
(72)【発明者】
【氏名】黒川 洋
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/093088(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133127(WO,A1)
【文献】 特表2008−504335(JP,A)
【文献】 平成24年度日本水産学会春季大会講演要旨集,2012年,p.88, Abstract721
【文献】 科学研究費補助金研究成果報告書,2010年 5月15日,課題番号19380122,検索日:2019年6月11日,URL,https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19380122/
【文献】 American Journal of Translational Research,2015年,Vol.7, No.10,p.1812-1825
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/405
C07K 17/08
C12N 15/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高マンノース型糖鎖に対する結合性を有するポリペプチド(A);および/または、
コア(α1‐6)フコースに対する結合性を有するポリペプチド(B)、を含有し、上記ポリペプチド(A)は、タイプIレクチン、タイプIIレクチンおよびタイプIIIレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のポリペプチドであることを特徴とする、ヒトHMGB1結合剤。
【請求項2】
上記ポリペプチド(A)が、BPL‐17、BCAおよびOAAからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンであることを特徴とする請求項1に記載のヒトHMGB1結合剤。
【請求項3】
上記ポリペプチド(B)がHypnin A、Hc‐hypnin‐A、AOL、AALおよびLCAからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンであることを特徴とする請求項1に記載のヒトHMGB1結合剤。
【請求項4】
上記ポリペプチド(B)がHypnin Aであることを特徴とする請求項3に記載のヒトHMGB1結合剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のヒトHMGB1結合剤が固定されてなるヒトHMGB1結合部を備えることを特徴とする、ヒトHMGB1除去装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトHMGB1結合剤、ヒトHMGB1除去装置および新規ポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインとは、種々の細胞間情報伝達分子となる微量生理活性タンパク質を言い、特に血液中のサイトカイン類は多様な生理活性を有していることが知られている。例えば、敗血症や全身性炎症反応症候群などの様々な疾患において、上記のサイトカインが患者の血液中に見出されることが知られている。
【0003】
HMGB1(High Mobility Group Box 1)は、マクロファージ、単球、好中球、内皮細胞、上皮細胞、樹状細胞、平滑筋細胞などの種々の細胞で発現しているサイトカインの一種であり、主として細胞の核内に蓄積されているが、一部は細胞質にも存在している。HMGB1は、炎症応答や感染に際して細胞外へ放出され、炎症応答を促進することが知られており、敗血症のメディエーターであることが証明されている(非特許文献1)。
【0004】
その他にも、HMGB1は近年種々の疾患との関連性が注目されている。例えば、HMGB1が局所で慢性的に作用することにより、動脈硬化、関節リウマチ、腎炎等の局所性炎症性疾患の原因となることも示唆されている。
【0005】
ところで、これまでに、海藻類または藍藻類から多くの種類のレクチンが単離され、その生化学的性質が明らかにされている。上記レクチンの一部は、高マンノース型糖鎖に特異的に結合することが知られている(非特許文献2〜12)。
【0006】
また、本発明者によって、トサカノリ(Meristotheca papulosa (Montagne) J. Agardh)由来のレクチン(MPL)が、高マンノース型糖鎖に特異的に結合することも明らかにされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012‐213382号公報(2012年11月8日公開)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wang H. et al.: Science 285, 248-251, 1999.
【非特許文献2】Boyd, M. R. et al., Antimicrob. Agents Chemother.41, 1521-1530,1997.
【非特許文献3】O’Keefe, B. R. et al., Antimicrob. Agents Chemother. 47, 2518-2525, 2003.
【非特許文献4】Helle, F. et al., J. Biol. Chem. 281, 25177-25183, 2006.
【非特許文献5】Barrientos, L. G. et al., Antiviral. Res. 58, 47-56, 2003.
【非特許文献6】Dey, B. et al., J. Virol. 74, 4562-4569, 2000.
【非特許文献7】O’Keefe, B. R. et al., J. Virol. 84, 2511-2521, 2010.
【非特許文献8】Hori, K. et al., Glycobiology, 17, 479-491, 2007.
【非特許文献9】Sato, Y. et al., J. Biol. Chem. 282, 11021-11029, 2007.
【非特許文献10】Sato, Y. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 405, 291-296, 2011.
【非特許文献11】佐藤雄一郎、平山 真、藤原佳史、森本金治郎、堀 貫治 (2010) 第13回マリンバイオテクノロジー学会大会講演要旨 (2010. 5.29発表)
【非特許文献12】Sato, Y. et al., J. Biol. Chem. 286, 19446-19458, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、HMGB1は種々の炎症性疾患に関与しているため、例えばヒト全血などの検体中に存在するHMGB1を簡便に除去することができれば、上述した炎症性疾患の治療に役立つことが期待される。
【0010】
これまでに、例えばELISA法を用いて検体中のHMGB1を定量する試薬等が既に開発されている。しかしながら、検体中のHMGB1を除去可能な薬剤については知見が存在していないのが実情である。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヒトHMGB1に対する結合性に優れ、検体中に存在するHMGB1を簡便に除去することが可能なヒトHMGB1結合剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ヒトHMGB1の糖鎖構造については十分な知見がなく、ヒトHMGB1がいかなる糖鎖をその表面に有しているかは不明であった。また、ポリペプチドとヒトHMGB1との結合性についてもこれまで知見が存在していなかった。
【0013】
一方、上述のように、海藻類または藍藻類由来のレクチン(藻類由来レクチン)の一部は、高マンノース型糖鎖に特異的に結合することが知られている。そこで、本発明者は、もし、ヒトHMGB1が高マンノース型糖鎖を表面に備えているならば、高マンノース型糖鎖に特異的に結合する藻類由来レクチンを用いて、例えばヒト血中のHMGB1を効率的に除去できるのではないかと着想するに至り、鋭意検討を行った。
【0014】
その結果、本発明者は、高マンノース型糖鎖に結合性を有するポリペプチドがヒトHMGB1に対し強い結合性を示すことを初めて見出した。のみならず、コア(α1‐6)フコースに特異的に結合性を示すポリペプチドもヒトHMGB1に対し強い結合性を示すことをも初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、高マンノース型糖鎖に対する結合性を有するポリペプチド(A);および/または、コア(α1‐6)フコースに対する結合性を有するポリペプチド(B)、を含有し、上記ポリペプチド(A)は、タイプIレクチン、タイプIIレクチンおよびタイプIIIレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のポリペプチドであることを特徴としている。
【0016】
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、上記ポリペプチド(A)が、BPL-17、BCAおよびOAAからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンであることがより好ましい。
【0017】
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、上記ポリペプチド(B)がHypnin A、Hc‐hypnin‐A、AOL、AALおよびLCAからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンであることが好ましい。
【0018】
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、上記ポリペプチド(B)がHypnin Aであることが好ましい。
【0019】
本発明に係るヒトHMGB1除去装置は、本発明に係るヒトHMGB1結合剤が固定されてなるヒトHMGB1結合部を備えることを特徴としている。
【0020】
本発明に係るポリペプチドは、高マンノース型糖鎖に対する結合性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴としている。
【0021】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とする:
(a)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号2に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、高マンノース型糖鎖に対する結合性を有するポリペプチド(A);および/またはコア(α1‐6)フコースに対する結合性を有するポリペプチド(B)、を含有し、上記ポリペプチド(A)は、タイプIレクチン、タイプIIレクチンおよびタイプIIIレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のポリペプチドである。
【0023】
それゆえ、例えばヒト全血等の検体中に含有されるHMGB1を効率的に除去することができるため、敗血症や全身性炎症反応症候群などの様々な疾患に対する治療効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】SPR法で得られた、ヒトHMGB1と、実施例1で供試した藻類由来レクチンとの相互作用(センサーグラム)を表す図である。
図2】SPR法で得られた、ヒトHMGB1と、実施例1で供試した植物または菌類に由来するレクチンとの相互作用(センサーグラム)を表す図である。
図3】HMGB1のアミノ酸配列を哺乳類間で比較した結果を示す図である。
図4】SPR法で得られた、サイトカインと、実施例2で供試したレクチンとの相互作用(センサーグラム)を表す図である。
図5】BCAと、実施例3で供試した3種のサイトカイン(hIL‐2、hIL‐6、hTNF‐α)との相互作用(センサーグラム)を表す図である。
図6】Hypnin A‐1と、hIL‐6との相互作用(センサーグラム)を表す図である。
図7】イーストマンナンによって、BCAとヒトHMGB1との相互作用が阻害されることを示す図である。
図8】高マンノース型糖鎖の構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。
【0026】
なお、本明細書において、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを表す。また、本明細書中に記載された特許文献および非特許文献は、本明細書中において参考として援用される。
【0027】
〔1.ヒトHMGB1結合剤〕
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、高マンノース型糖鎖に対する結合性を有するポリペプチド(A);および/または、コア(α1‐6)フコースに対する結合性を有するポリペプチド(B)、を含有し、上記ポリペプチド(A)は、タイプIレクチン、タイプIIレクチンおよびタイプIIIレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のポリペプチドである。
【0028】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。
【0029】
高マンノース型糖鎖とは、N型糖鎖に共通する「トリマンノシルコア」と呼ばれる〔Manα1-6(Manα1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc〕からなる共通母核構造に加え、分岐構造部分にα‐マンノース残基のみを含んでおり、〔Manα1-6(Manα1-3)Manα1-6(Manα1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc〕という七糖を共通の母核として含む糖鎖である。なお、上記トリマンノシルコアにおいて、アスパラギンと結合する糖鎖の末端、すなわちGlcNAc側の末端を還元末端、その反対側、すなわちMan側の末端を非還元末端という。
【0030】
ここで、高マンノース型糖鎖の「糖鎖」とは、直鎖または分岐したオリゴ糖または多糖を意味する。オリゴ糖とは、単糖または単糖の置換誘導体が2〜10個脱水結合して生じたものをいう。さらに多数の単糖が結合している糖質を多糖という。
【0031】
高マンノース型糖鎖に対する結合性を有するポリペプチド(A)としては、例えば、分岐オリゴマンノシドの認識部位と一次構造の違いとに基づいて下記の4つのタイプに分類されるレクチン(堀貫治、バイオサイエンスとインダストリー vol.71 No.2(2013)129-133)を挙げることができる。図8は、高マンノース型糖鎖の構造の一例を示す図である。図中、D1〜D3は、それぞれD1アーム〜D3アームを表す。
【0032】
下記(a)〜(d)のいずれかに属するレクチンとしては、海藻類または藍藻類から単離可能なレクチンである藻類由来レクチンを挙げることができる。なお、「レクチン」とは、分子内に糖結合ドメインをもつタンパク質で、抗体を除くものの総称である。
(a)タイプIレクチン:高マンノース型糖鎖のD2アームの非還元末端にα(1‐3)マンノース残基を有するものと強く結合し、当該残基にα(1‐2)マンノースが付加したものでは結合力が著しく低下する。
(b)タイプIIレクチン:D1アーム、D2アームまたはD3アームの非還元末端にα(1‐2)マンノース残基をもつものとのみ結合し、当該α(1‐2)マンノース残基数が多いものに対してより強く結合する。
(c)タイプIIIレクチン:分岐糖鎖部分の構造の違いを認識せず、全ての高マンノース型糖鎖に結合する。
(d)タイプIVレクチン:D3アームの非還元末端にα(1‐2)マンノース残基を持つものとのみ結合する。
【0033】
このうち、本発明では、上記ポリペプチド(A)として、タイプIレクチン、タイプIIレクチンおよびタイプIIIレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のポリペプチドを用いる。
【0034】
これは、後述する実施例に示すように、本発明によって、タイプIVのレクチンがヒトHMGB1に結合せず、ヒトHMGB1がD3アームの非還元末端にα(1‐2)マンノース残基を有していないことが強く示唆されたためであり、上記ポリペプチドがヒトHMGB1に対する優れた結合性を示すことが明らかとなったためである。
【0035】
タイプIレクチンとしては、例えば淡水産藍藻Oscillatoria agardhii由来のOAA(UniProtKB/Swiss-Prot Accession No.: P84330;アミノ酸配列を配列番号6に示す)、Kappaphycus alvarezii由来のKAA(KAA‐1(GenBank Accession No: LC007080;アミノ酸配列を配列番号7に示す)およびKAA‐2(GenBank Accession No: LC007081;アミノ酸配列を配列番号8に示す)、KAA‐3)、海藻Kappaphycus striatum由来のKSA(KSA‐1、KSA‐2)、海藻トゲキリンサイ(Eucheuma serra)由来のESA(ESA‐1、ESA‐2(GenBank Accession No.: P84331;アミノ酸配列を配列番号9に示す)、海藻アマクサキリンサイ(Eucheuma amakusaensis)由来のEAA(EAA‐1、EAA‐2、EAA‐3)、海藻Eucheuma denticulatum由来のEDA(EDA‐1、EDA‐2(GenBank Accession No.: LC007085;アミノ酸配列を配列番号10に示す)、EDA‐3)、海藻ミリン(Solieria pacifica)由来のSolnin(Solnin A、Solnin B、Solnin C)、海藻トサカノリ(Meristotheca papulosa)由来のMPA(MPA‐1(GenBank Accession No: LC008514;アミノ酸配列を配列番号11に示す)、MPA‐2(GenBank Accession No: LC008515;アミノ酸配列を配列番号12に示す))、海藻シラモ(Gracilaria bursa-pastoris)由来のGranin‐BP、海藻Agardhiella subulata由来のASL(ASL‐1(GenBank Accession No: LC007083;アミノ酸配列を配列番号13に示す)およびASL‐2(GenBank Accession No: LC007084;アミノ酸配列を配列番号14に示す)、細菌Pseudomonas fluorescens由来のPFL(GenBank Accession No: ABA72252;アミノ酸配列を配列番号29に示す)、細菌Myxococcus xanthus由来のMBHA(GenBank Accession No: M13831;アミノ酸配列を配列番号30に示す)、細菌Burkholderia oklahomensis由来のBOA(GenBank Accession No: AIO69853;アミノ酸配列を配列番号31に示す)等を用いることができる。
【0036】
また、本発明者は、タイプIのレクチンのアミノ酸配列と共通する配列を有するtheoretical proteinsが、他生物種(細菌、藍藻)にも存在することをデータベース(GenBank)検索から見出しているが、上記theoretical proteinsを用いることもできる。上記theoretical proteinsとしては、例えば、Lyngbya sp. PCC 8106 (Accession No. ZP_01622218)の配列番号39に示す演繹アミノ酸配列を有するタンパク質、Herpetosiphon aurantiacus ATCC 23779(Accession No. YP_001544456) の配列番号40に示す演繹アミノ酸配列を有するタンパク質、Stigmatella aurantiaca DW4/3-1(Accession No. ZP_01464390) の配列番号41に示す演繹アミノ酸配列を有するタンパク質、等を挙げることができる。
【0037】
タイプIIレクチンとしては、例えば海藻アオモグサ(Boodlea coacta)由来のBCA(GenBank Accession No: BAK23238;アミノ酸配列を配列番号15に示す)等を用いることができる。
【0038】
タイプIIIレクチンとしては、例えば海藻ハネモ(Bryopsis plumosa)由来のBPL‐17(GenBank Accession No: BAI43482;アミノ酸配列を配列番号16に示す)、ネザシハネモ(Bryopsis corticulans)由来のBCL‐17(GenBank Accession No: LC008516;アミノ酸配列を配列番号1に示す)、海藻オオハネモ(Bryopsis maxima)由来のBML‐17(GenBank Accession No: BAI94585;アミノ酸配列を配列番号17に示す)等を用いることができる。
【0039】
上記ポリペプチド(A)は、タイプIレクチン、タイプIIレクチンおよびタイプIIIレクチンからなる群より選ばれる1種または2種以上のポリペプチドである。2種以上用いる場合の混合比は任意であってよい。また、2種以上用いる場合、同じタイプのレクチンを2種以上用いてもよいし、異種のレクチンを2種以上用いてもよい。
【0040】
本発明によって、ヒトHMGB1が高マンノース型糖鎖を分子中に含有していることが明らかとなったため、高マンノース型糖鎖に特異的に結合する上記ポリペプチド(A)を利用することによって、ヒトHMGB1結合剤のヒトHMGB1への結合性を高めることができる。その結果、検体中のHMGB1を効率よく除去することが可能となる。
【0041】
上記ポリペプチド(A)は、BPL‐17、BCAおよびOAAからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンであることがより好ましい。当該レクチンは、ヒトHMGB1と強く結合することが後述する実施例に示されている。2種以上用いる場合の混合比は任意であってよい。
【0042】
一方、タイプIレクチン、タイプIIレクチンおよびタイプIIIレクチンの高マンノース型糖鎖への結合様式は上記(a)〜(c)に示したとおりであり、それぞれのタイプに属するポリペプチドは共通した結合様式を持つため、タイプIレクチンはOAAに、タイプIIレクチンはBCAに、タイプIIIレクチンはBPL‐17に、それぞれ限られるものではない。
【0043】
コア(α1‐6)フコースに対する結合性を有するポリペプチド(B)としては、例えばカギイバラノリ(Hypnea japonica)由来のHypninA(HypninA‐1(Accession No: JC5773;アミノ酸配列を配列番号18に示す)、HypninA‐2(Accession No: JC5774;アミノ酸配列を配列番号19に示す)、HypninA‐3(Accession No: P85888;アミノ酸配列を配列番号20に示す))、海藻Hypnea cervicornis由来のHc‐hypnin‐A(Hc‐hypninA‐1(GenBank Accession No: LC013892;アミノ酸配列を配列番号32に示す)、Hc‐hypninA‐2、Hc‐hypninA‐3)、レンズマメ(Lens culinaris)由来のLCA(GenBank Accession No: P02870;アミノ酸配列を配列番号21に示す)、ヒイロチャワンダケ(Aleuria aurantia)由来のAAL(GenBank Accession No:P18891;アミノ酸配列を配列番号22に示す)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)由来のAOL(GenBank Accession No: BAB88318;アミノ酸配列を配列番号23に示す)、等を用いることができる。
【0044】
本発明によって、ヒトHMGB1がコア(α1‐6)フコースを分子中に含有していることが明らかとなったため、コア(α1‐6)フコースに対する結合性を有するポリペプチド(B)を利用することによって、ヒトHMGB1結合剤のヒトHMGB1への結合性を高めることができる。その結果、検体中のHMGB1を効率よく除去することが可能となる。
【0045】
上記ポリペプチド(B)は、コア(α1‐6)フコースに対する結合性を有していればよいため、上記例示したレクチンに限られるものではないが、Hypnin A、Hc‐hypnin‐A、AOL、AALおよびLCAからなる群より選ばれる1種または2種以上のレクチンであることが好ましい。上記レクチンは、ヒトHMGB1と強く結合することが後述する実施例に示されている。2種以上用いる場合の混合比は任意であってよい。
【0046】
また、上記ポリペプチド(B)はHypnin Aであることが特に好ましい。Hypnin Aは、コア(α1‐6)フコースに対する結合性を有するポリペプチドの中でもコア(α1‐6)フコースに対する結合特異性が厳密である。それゆえ、ヒトHMGB1結合剤にHypnin Aを含有させることによって、ヒトHMGB1への結合特異性をより一層高めることができる。その結果、検体中のHMGB1をより効率的に除去することが可能となる。
【0047】
Hypnin Aとしては、上述したHypnin A‐1、Hypnin A‐2、Hypnin A‐3の何れを用いてもよく、Hypnin A‐1、Hypnin A‐2およびHypnin A‐3からなる群より選ばれる2種以上のHypnin Aを用いてもよい。2種以上用いる場合の混合比は任意であってよい。
【0048】
AOL、AALおよびLCAは、コア(α1‐6)フコースに対する結合性を有するが、コア(α1‐6)フコースに対する結合特異性はHypnin Aほど厳密ではない。すなわち、AOLおよびAALは、コア(α1‐6)フコースを強く認識するが、α1‐2、α1‐3、もしくはα1‐4結合したフコースも認識する(Matsumura,K.et al., J. Biol. Chem., 282,15700-15708,2000 、特開2008‐209261号公報)。また、LCAは単糖類のマンノースおよびグルコースにも結合する。
【0049】
このように、AOL、AALおよびLCAのコア(α1‐6)フコースに対する結合特異性は、Hypnin Aよりも低いが、コア(α1‐6)フコースへの結合性は十分有しているため、本発明に係るヒトHMGB1結合剤の有効成分として用いることが可能である。
【0050】
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、上述のように、上記ポリペプチド(A)および/または、ポリペプチド(B)を含有する。つまり、上記ヒトHMGB1結合剤は、有効成分として上記ポリペプチド(A)または上記ポリペプチド(B)の一方のみを含有していてもよいし、上記ポリペプチド(A)および上記ポリペプチド(B)の双方を含有していてもよい。双方を含有する場合の、上記ポリペプチド(A)と上記ポリペプチド(B)との混合比は任意であってよい。
【0051】
以上述べたように、本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、上記ポリペプチド(A)と、ヒトHMGB1が有する高マンノース型糖鎖との結合、および/または、上記ポリペプチド(B)とヒトHMGB1が有するコア(α1‐6)フコースとの結合を利用して、検体中に含有されるヒトHMGB1を結合するものである。
【0052】
ここで、ポリペプチドが糖鎖に対する結合性を有するか否か、つまり、ポリペプチドが糖鎖と結合するか否かは、例えば標的となる糖鎖、または糖鎖が結合した抗体あるいは糖タンパク質等を固定化したカラムに、試験対象であるポリペプチドを通し、当該カラムにポリペプチドが結合したか否かをその通過液に含まれるポリペプチドの量、または特異的溶出剤でカラムから溶出したポリペプチドの量により評価することができる。
【0053】
また、標的となる糖鎖が結合した抗体をメンブレン等に固定化し、ビオチン、フルオレセインイソチオシアネート、ペルオキシダーゼ等で標識したポリペプチドを用いて検出するウエスタンブロット法(法医学の実際と研究、37, 155, 1994 参照)、ドットブロット法(Analytical Biochemistry, 204(1), 198, 1992 参照)を用いて評価することができる。
【0054】
また、標的となる糖鎖、または糖鎖が結合した抗体あるいは糖タンパク質等を固定化したチップと、試験対象であるポリペプチドとの親和性を、表面プラズモン共鳴法(SPR法)を用いて測定すればよい。上記方法によれば、その親和性の有無のみならず、その強度まで測定できるために好ましい方法であるといえる。このとき得られる親和定数(KA)が、10(M-1)以上、より好ましくは10(M-1)以上、最も好ましくは10(M-1)以上であればポリペプチドと糖鎖とが結合していると判断できる。
【0055】
上記ポリペプチド(A)および上記ポリペプチド(B)は、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。上記例示した藻類由来レクチンは、従来公知の方法によって海藻類または藍藻類から単離することができる。また、これらのレクチンは、市販品を用いてもよい。
【0056】
例えば、OAAは文献(Sato, Y. et al., Comp. Biochem. Physiol. B Biochem. Mol. Biol., 125, 169-177,2000)に開示の方法;ESA‐1およびESA‐2は文献(Kawakubo, A. et al., J. Appl. Phycol. 9, 331-338,1997)に開示の方法;EAA‐1、EAA‐2およびEAA‐3は文献(Kawakubo, A. et al., J. Appl. Phycol. 11, 149-156,1999)に開示の方法;EDA‐1、EDA‐2およびEDA‐3は文献(Hung,L.D. et al., J. Appl. Phycol. in press(DOI 10.1007/s10811-014-0441-0))に開示の方法;KAA‐1、KAA‐2およびKAA‐3は文献(Hung, L.D. et al., Fish. Sci. 75, 723-730,2009)に開示の方法;KSA‐1およびKSA‐2は文献(Hung, L.D. et al., Phytochemistry 72, 855-861,2011)に開示の方法;Solnin A、Solnin BおよびSolnin Cは文献(Hori, K. et al., Phytochemistry 27, 2063-2067,1988)に開示の方法;Granin‐BPは文献(Okamoto, T. et al., Experientia. 46, 975-977,1990)に開示の方法;MBHAは文献(Cumsky, M. G., Zusman, D. R., J. Biol. Chem. 256, 12581-12588, 1981)に開示の方法、によってそれぞれ単離することができる。
【0057】
また、BOAは文献(Whitley, M. J. et al., FEBS J. 280, 2056-2067, 2013)に開示の方法、PFLは文献(Sato, Y. et al., PLoS One 7, e45922, 2012)に開示の方法によって大腸菌発現系を用いてそれぞれ単離することができる。
【0058】
MPA‐1およびMPA‐2は、海藻Meristotheca papulosa生藻体を液体窒素下で粉末とした後、0.85% NaClを含む20mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)で抽出操作し、その後、硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィーに順次供することで単離することができる。
【0059】
ASL‐1およびASL‐2は、海藻Agardhiella subulata生藻体を液体窒素下で粉末とした後、0.85% NaClを含む20mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)で抽出操作し、その後、硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過に順次供することによって単離することができる。
【0060】
BCAは文献(Sato, Y. et al., J. Biol. Chem. 286, 19446-19458,2011)に開示の方法で単離することができる。BML‐17は特許第4876258号公報に開示の方法、BPL‐17およびBCL‐17は、それぞれ海藻Bryopsis plumosaおよびBryopsis corticulans生藻体から、上記公報に開示されるBML‐17の単離方法と同様の手法によって単離することができる。
【0061】
また、HypninA‐1、HypninA‐2およびHypninA‐3は文献(Hori,K. et al., Biochim. Biophys.Acta 1474, 226-236,2000)に開示の方法によって単離することができ、LCA、AAL、AOLは、それぞれ文献(Toyoshima, S. et al., Biochim. Biophys. Acta 221, 514-521,1970)、文献(Kochibe, N. and Furukawa, K. Biochemistry 19, 2841-2846,1980)、文献(Ishida, H. et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 66, 1002-1008,2002)に開示の方法によって単離することができる。
【0062】
Hc‐hypninA‐1は、Hypnea cervicornisからcDNAをクローニングしたものである。以下に実際に行ったクローニングの方法を説明する。まず、RNA later中で−20℃保存したHypnea cervicornis藻体よりPlant RNA Reagent(Life Technologies)を用いて全RNAを抽出後、NucleoTrap mRNA(タカラバイオ)によりmRNAを精製し、さらにGeneRacer Kit(Life Technologies)により完全長cDNAを調製した。
【0063】
次に、配列既知で相同性を有するレクチン5種(カギイバラノリHypnea japonica由来HypninA‐1、HypninA‐2およびHypninA‐3、Bryothamnion triquetrum由来BTL、およびBryothamnion seaforthii由来BSL)の相同アミノ酸領域を参考にプライマーHypnin_like_d_R1(配列番号33)およびHypnin_like_d_R2(配列番号34)を設計し、上記Hypnea cervicornis由来完全長cDNA溶液を鋳型にRACE(Rapid amplification of cDNA ends)法に供した。
【0064】
PCR反応溶液は、10×PCR bufferを8.0μl、dNTP mix(2.5mM each)を8μl、GeneRacer 5’ Primer(10μM、配列番号36)を4.8μl、Hypnin_like_d_R1(100μM)を4μl、Hypnea cervicornis由来cDNA溶液を1.6μl、Blend Taq(2.5U/μl)を0.8μlおよび滅菌水を加えて反応液を80μlとし十分に混合した後、10μlずつ8本のチューブに分注してPCRに供した。PCR反応はT Gradient 96 Thermocycler(Biometra)を用いて、94℃で3分間の熱変性の後、熱変性を94℃で30秒間、アニーリングを50、52、54、56、58、60、62または64℃(各チューブにつき異なる温度を設定)で30秒間および伸長反応を72℃で1分間のサイクルを35回行った。最後に72℃で5分間保持し、反応を終了した。
【0065】
続いて、アニーリング温度50〜64℃で行ったPCR産物をプールし、その一部を滅菌水で100倍希釈して鋳型とし、プライマー対としてHypnin_like_d_R2(100μM)4μlおよびGeneRacer 5’Nested_Primer(10μM、配列番号37)を1.6μl用いてnested PCRを行った。なお、PCR反応はアニーリングを50℃または52℃とし、上記と同様に行う。得られたPCR産物はプールし、pGEM-T Easyベクターにサブクローニング後、塩基配列の決定に供した。
【0066】
その結果、HypninAと配列相同性を示すDNA断片が得られ、Hc‐hypninA‐1と名付けた。さらに同遺伝子の3’末端側配列を確認するため、決定した塩基配列を参考にプライマーHcHypninA_F(配列番号35)を設計し、これを用いて3’RACEに供した。すなわち、10倍希釈Hypnea cervicornis由来cDNA溶液を鋳型として、HcHypninA_F及びGeneRacer 3’Primer(配列番号38)のプライマーペアにBlend Taq DNAポリメラーゼを用いるPCRに供した。なお、PCA反応溶液組成及び反応条件は同DNAポリメラーゼの添付説明書に従って行った。得られた増幅産物につき塩基配列の決定に供し、Hc‐hypninA‐1の3’末端塩基配列を決定した。5’RACEにより得られた配列を合わせて、Hc‐hypninA‐1の全長塩基配列を明らかにした。
【0067】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質としては、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0068】
合成ペプチドは、化学合成の公知の方法を使用して合成され得る。例えば、Houghtenは、4週間未満で調製されそして特徴付けられたHA1ポリペプチドセグメントの単一アミノ酸改変体を示す10〜20mgの248の異なる13残基ペプチドのような多数のペプチドの合成のための簡単な方法を記載している(Houghten,R.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131‐5135,1985)。この「Simultaneous Multiple Peptide Synthesis(SMPS)」プロセスは、さらにHoughtenら(1986)の米国特許第4,631,211号に記載される。この手順において、種々のペプチドの固相合成のための個々の樹脂は、別々の溶媒透過性パケットに含まれ、固相法に関連する多くの同一の反復工程の最適な使用を可能にする。完全なマニュアル手順は、500〜1000以上の合成が同時に行われるのを可能にする(Houghtenら、前出、5134)。これらの文献は、本明細書中に参考として援用される。
【0069】
上記ポリペプチド(A)、上記ポリペプチド(B)は、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、上記ポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、上記ポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0070】
上記ポリペプチド(A)、上記ポリペプチド(B)としては、例えば上述した配列番号に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを用いることができるが、上記アミノ酸配列と特定の機能(例えば、タグ)を有する任意のアミノ酸配列とからなるポリペプチドを用いてもよい。また、上記アミノ酸配列および上記任意のアミノ酸配列は、それぞれの機能を阻害しないように適切なリンカーペプチドで連結されていてもよい。
【0071】
また、上述した配列番号に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体を用いることも可能である。変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換、しかし通常は強い親水性の残基を強い疎水性の残基には置換しない)を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
【0072】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0073】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。
【0074】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または挿入を有する。好ましくは、サイレント置換、挿入、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明にかかるポリペプチド活性を変化させない。
【0075】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0076】
上記に詳細に示されるように、どのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントでありそうか(すなわち、機能に対して有意に有害な効果を有しそうにないか)に関するさらなるガイダンスは、Bowie, J.U.ら「Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions」,Science 247,1306‐1310, 1990(本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。
【0077】
上記ポリペプチド(A)または上記ポリペプチド(B)の変異体としては、上述した配列番号に示すアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、からなるポリペプチドであることが好ましい。
【0078】
上記「1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。このような変異ポリペプチドは、上述したように、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0079】
上記ポリペプチド(A)および上記ポリペプチド(B)は、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0080】
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、上記ポリペプチド(A)の高マンノース型糖鎖への結合、および/または上記ポリペプチド(B)のコア(α1‐6)フコースへの結合を妨げない限り、上記ポリペプチド(A)および/または上記ポリペプチド(B)以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0081】
例えば上記ポリペプチド(A)および/または上記ポリペプチド(B)と他の成分とを製剤化する場合の、当該他の成分としては、水、生理食塩液、デキストロースおよびグリセロールの水溶液などの担体;デンプン、グルコース、ラクトースなどの賦形剤、等を用いることができる。製剤化は従来公知の方法によって適宜行うことができる。
【0082】
上記ヒトHMGB1結合剤は、例えばヒト全血等の検体とバッチ式で混合することによっても、検体中に含有されるヒトHMGB1を結合し、検体中から除去することが可能であるが、担体に固定化して用いる方が、より効率的にヒトHMGB1を結合することができる。そこで次に、本発明に係るヒトHMGB1結合剤を固定化したヒトHMGB1除去装置について説明する。
【0083】
〔2.ヒトHMGB1除去装置〕
本発明に係るヒトHMGB1除去装置は、本発明に係るヒトHMGB1結合剤が固定されてなるヒトHMGB1結合部を備える。
【0084】
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、上記ポリペプチド(A)および/または上記ポリペプチド(B)を含有するため、上記検体中にヒトHMGB1が含有されている場合、当該検体と接触させることによって、上記ヒトHMGB1を結合し、検体から除去することができる。そのため、上記ヒトHMGB1除去装置を用いることによって、検体中に含まれるヒトHMGB1を効率的に除去することができる。その結果、HMGB1が関与する疾患、例えば敗血症、全身性炎症反応症候群などの治療に役立てることができると考えられる。
【0085】
ヒトHMGB1結合剤としては、既に説明したものを使用することができる。検体としては、上記ポリペプチドが凝集させるものではなく、かつ、上記ポリペプチドに接触させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、ヒトの全血、血漿、血清、唾液、鼻粘膜、尿、その他の体液等を挙げることができる。これらはそれ自体を検体として用いてもよいし、例えばMEM培地や生理食塩水等に添加して調製した液体として用いることもできる。
【0086】
ヒトHMGB1結合部は、ヒトHMGB1結合剤を固定する担体を備える。当該担体としては、例えば、各種のビーズ、織布、不織布、中空糸のフィルター、モノリスゲル等を用いることができる。
【0087】
上記ヒトHMGB1結合剤を上記フィルターに固定化する方法としては、例えば、基材表面を改質して官能基を導入し、当該官能基に固定化する方法、疎水結合により結合させる方法、基材表面に荷電を持たせて、静電的に固定化する方法を用いることができる。また、上記フィルターに固定化された上記ポリペプチド(A)および/または上記ポリペプチド(B)の量は、例えば、固定化を行う前の、上記ポリペプチド(A)および/または上記ポリペプチド(B)(リガンド)溶液のリガンド濃度と、固定化後の上記溶液のリガンド濃度とを測定し比較することによって求めることができる。
【0088】
モノリスゲルとは、モノリス材料(モノリス型ポリマー)でできたゲルをいう。モノリス材料は、単一の連続的な構造体から構成され、その構造を貫通する連続的な流路となる孔を有する。モノリスゲルは、水溶液ゾルを作製するゾル化ステップ、得られたゾルを加温してゲルにするゲル化ステップ、得られたゲルを焼成する焼成ステップにより製造することができる(例えば特公平08‐029952号公報、特開平07‐041374号公報)。モノリスゲルとしては、例えば、アクリルアミド系、メタクリル酸エステル系、スチレン-ジビニルベンゼン系などの有機系モノリス、シリカモノリス等を用いることができる。
【0089】
ヒトHMGB1結合剤をモノリスゲルに固定化する方法としては、例えば、特開2000‐119300号公報に開示の方法を用いることができる。ヒトHMGB1結合剤が含有する上記ポリペプチド(A)および/または上記ポリペプチド(B)の固定化量は、上記方法によりモノリスゲルへの固定化反応を行った場合に、反応前後の反応溶液中の上記ポリペプチドの濃度を280nmの吸光度を測定し、測定結果に基づき、反応で消費された上記ポリペプチドの量を求め、この量を固定化量とすることによって確認することができる。
【0090】
ヒトHMGB1結合剤を固定化したモノリスゲルは、例えばスピンカラム、液体クロマトグラフィー用のステンレスカラム等に充填して用いることが好ましい。
【0091】
ヒトHMGB1結合部に固定化されたヒトHMGB1結合剤は、上記フィルターやカラムに検体を通過させることによって、検体と接触し、検体中にヒトHMGB1が含有されていればこれを選択的に結合し、除去することができる。
【0092】
例えば、患者の全血を採取して、ペリスタポンプ等を用いて上記ヒトHMGB1結合部に導入する。そして、上記全血を固定化されたヒトHMGB1結合剤に接触させることによって、全血中のヒトHMGB1を除去し、除去後の全血を再び患者の体内に戻すという体外循環の工程によって、患者の全血中に含まれているヒトHMGB1を除去することができる。
【0093】
検体中のヒトHMGB1の、本発明に係るヒトHMGB1結合剤への結合は、ヒトHMGB1結合剤と接触させる前後の検体中のヒトHMGB1を、例えばELISA等の方法によって定量することにより、確認することができる。
【0094】
上記ヒトHMGB1除去装置は、上記ヒトHMGB1結合部以外に、例えば上記ペリスタポンプのような検体を送液することが可能な装置、上記ELISAを行うためのマイクロプレートリーダーなどをさらに備えることができる。
【0095】
〔3.本発明に係るポリペプチド〕
(1)ポリペプチド
本発明に係るポリペプチドは、高マンノース型糖鎖に対する結合性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなる。
【0096】
上記ポリペプチドは、上述したポリペプチド(A)に該当し、タイプIIIレクチンであるBCL‐17に該当する。BCL‐17の配列情報はこれまで明らかにされておらず、本発明によって初めて明らかにされるものである。本発明に係る上記ポリペプチドは、上記ポリペプチド(A)として、本発明に係るヒトHMGB1結合剤の有効成分として用いることができる。
【0097】
配列番号1は、BCL‐17の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。配列番号2は、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの配列である。配列番号3は、BCL‐17のcDNAの塩基配列を示し、配列番号4は、当該塩基配列中に含まれるオープンリーディングフレームの配列である。配列番号5は、配列番号4に示すポリヌクレオチドによってコードされる、BCL‐17の未成熟なポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
【0098】
上述したように、上記「1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。
【0099】
また、本発明にかかるポリペプチドは、後述する本発明にかかるポリヌクレオチド(本発明にかかるポリペプチドをコードする遺伝子)を宿主細胞に導入して、そのポリペプチドを細胞内発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製された場合であってもよい。単離の方法は、上述したように、特許第4876258号公報に開示のBML‐17の単離方法と同様の方法を用いることができる。また、本発明にかかるポリペプチドは、化学合成されたものであってもよい。
【0100】
他の実施形態において、本発明にかかるポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明にかかるポリペプチドの付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間または引き続く操作および保存の間の安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端に付加され得る。
【0101】
本実施形態にかかるポリペプチドは、例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)がN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ‐ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,821‐824,(1989)(本明細書中に参考として援用される)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。
【0102】
(2)ポリヌクレオチド
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記(1)で述べた本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とする:
(a)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号2に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0103】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0104】
上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0105】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行なうことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0106】
本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明にかかるポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。
【0107】
あるいは、本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行ない、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0108】
本発明にかかるポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、所望のポリヌクレオチドを含む生物材料であることが好ましい。特に、本発明にかかるポリペプチドの起源であるBryopsis corticulansが好ましい。ただし、これに限定されるものではない。
【0109】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例に従って本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0111】
〔実施例1:ポリペプチドとヒトHMGB1との相互作用の解析〕
(1)供試リガンドおよびアナライト
本実施例では、アナライトとして、高マンノース型糖鎖特異的タイプIレクチンであるrOAAのアミノ酸配列(配列番号24)の3’末端にヒスチジンタグを付加したHis‐rOAA(His-tagged recombinant Oscillatoria agardhii、配列番号25);高マンノース型糖鎖特異的タイプIIレクチンであるBCA(Boodlea coacta agglutinin、配列番号15);高マンノース型糖鎖特異的タイプIIIレクチンであるrBPL‐17のアミノ酸配列(配列番号26)の3’末端にヒスチジンタグを付加したHis‐rBPL‐17(His-tagged recombinant Bryopsis plumosa 17 kDa lectin、配列番号27);高マンノース型糖鎖特異的タイプIVレクチンであるMPL‐1(Meristotheca papulosa lectin 1、配列番号28);コア(α1‐6)フコース特異的レクチンであるHypnin A‐1(Hypnea japonica lectin A-1、配列番号18)を用いた。なお、上記ヒスチジンタグとしては、ヒスチジン6残基からなるタグを用いた。
【0112】
上記His‐rOAAは、以下の方法によって調製した。まず、His‐rOAA発現株pET28a‐OAA/BL21(DE3)を200mlのLB/Kan液体培地に加え、37℃で対数増殖中期まで振とう培養した。
【0113】
培養液のOD600が0.5に達したところで、終濃度が0.5mMとなるようにisopropyl-D-1-thiogalactopyranoside(IPTG)を添加し、37℃で4時間振とう培養した。これを遠心分離(10,000×g、5分、4℃)して集菌し、10mlの超音波破砕用緩衝液(150mM NaCl‐50mM Tris‐HCl(pH8.0))に懸濁して超音波破砕した。これを再び遠心分離(10,000×g、30分、4℃)し、上清を可溶性画分として回収した。
【0114】
上記可溶性画分をニッケルキレートカラム(Vt=1ml, His GraviTrap, GEヘルスケア)を用いるアフィニティーカラムに供し、His‐rOAAを精製した。すなわち、上記可溶性画分15mlを10mlの5mMイミダゾール-500mM NaCl‐20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で平衡化後したニッケルキレートカラム(1ml容)に添加した。このカラムを10mlの同緩衝液で十分に洗浄後、3mlの150mMイミダゾール‐500mM NaCl‐20mM リン酸緩衝液で溶出した。溶出は自然落下により行い、溶出液は0.5mlずつ分取し、280nmにおける吸光度を測定した。150mMイミダゾール含有緩衝液で溶出した画分を合一し、100mM NaCl‐50mM トリス‐塩酸緩衝液(pH8.0)に対し十分に透析し、内液を得てHis‐rOAA精製標品とした。
【0115】
また、上記His‐rBPL‐17は、以下の方法によって調製した。まず、His‐rBPL‐17発現株pET28a‐BPL17/BL21(DE3)を250mlのLB/Kan液体培地に1/20容加え、37℃で対数増殖期中期まで振とう培養した。
【0116】
OD600が0.5に達したところで、終濃度が1.0mMとなるようにIPTGを加え、37℃で4時間振とう培養した。培養後、遠心分離(6,000×g、4℃、10分)により集菌し、培養液に対して1/20容の超音波破砕用緩衝液(50mM リン酸緩衝液(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA 、1mM DTT)に懸濁し、超音波処理を行った。
【0117】
その後、トリトンX‐100を最終濃度4%となるように加え、これを遠心分離(11,000×g、4℃、10分)し、残渣を不溶性画分として回収した。不溶性画分につき封入体洗浄液(4%トリトンX‐100、1mM EDTA)を8ml加えて懸濁し、遠心分離(11,000×g、4℃、10分)して洗浄した。この洗浄操作を繰り返した後、得られた沈殿に封入体可溶化緩衝液(6M グアニジン塩酸塩、20mM リン酸緩衝液(pH7.4)、500mM NaCl、10mM イミダゾール、10mM DTT)を加えて、4℃で攪拌しながら一晩可溶化して封入体を可溶化させた。これを遠心分離(11,000×g、4℃、30分)し、上清を回収して封入体可溶化画分とした。
【0118】
次に、調製した封入体可溶化画分を用いて、ニッケルキレートカラムHis GraviTrap(GEヘルスケア)を使用して精製した。すなわち、カラムを10mlの平衡化緩衝液(6M グアニジン塩酸塩、20mM リン酸緩衝液(pH7.4)、500mM NaCl、5mM イミダゾール)で十分平衡化した後、封入体可溶化画分を添加した。非吸着画分につき繰り返し添加し、カラム担体と可溶化画分中のHis‐rBPL‐17を結合させた。
【0119】
カラムを10mlの平衡化緩衝液で十分に洗浄後、6mlの溶出用緩衝液(6M グアニジン塩酸塩、20mM リン酸緩衝液(pH7.4)、500mM NaCl、150mM イミダゾール)を添加して自然落下により組換え体を溶出した。溶出時は0.5mlずつ分取し、A280nmの吸光度を測定した。A280nmのピーク画分を回収し、これを4Mおよび2Mのグアニジン塩酸塩を含む透析用緩衝液(20mM リン酸緩衝液(pH7.4)、150mM NaCl、250mM アルギニン塩酸塩)に対して段階的にそれぞれ十分透析した。
【0120】
ニッケルキレートカラムを用いて調製したHis‐rBPL‐17画分を、終濃度100‐200μg/mlとなるようにリフォールディング液(500mM L‐アルギニン塩酸塩、50mM トリス(pH8.5)、0.5mM 還元型グルタチオン、0.1mM 酸化型グルタチオン、500mM グアニジン塩酸塩、250mM NaCl、10mM KCl、2mM MgCl、2mM CaCl、0.05% ポリエチレングリコール MW3350、20 mM Man)に加え、4℃下で静置した。
【0121】
経日的に赤血球凝集活性を確認し、3日目に50%飽和となるように固形硫安を加え、His‐rBPL‐17を沈殿画分に回収した。この沈殿を緩衝液(300mM アルギニン塩酸塩、50mM トリス(pH 8.0)、100mM NaCl)に懸濁し、上記緩衝液に対して十分に透析した。この透析内液を遠心分離(11,000×g、4℃、30分)後、得られた上清を回収し、His‐rBPL‐17精製標品として得た。
【0122】
上記OAAは藍藻Oschllatoria agardhii由来、BCAはアオモグサ由来、BPL‐17はハネモ由来、MPL‐1はトサカノリ由来、Hypnin A-1はカギイバラノリ由来である。
【0123】
上述したアナライトは藻類レクチンであるが、植物または菌類に由来するレクチンとして、フコース含有糖鎖結合性レクチンである、レンズマメ由来レクチン(Lens culinaris agglutinin (LCA)(Jオイルミルズ社, Cat. J107))、ヒイロチャワンダケ由来レクチン(Aleuria aurantia lectin(AAL)(Jオイルミルズ社, Cat. L0169))、コウジカビ由来レクチン(Aspergillus oryzae lectin(AOL)(東京化成工業, Cat. J107))を用いた。
【0124】
また、O結合型糖鎖/糖脂質糖鎖結合性レクチンである、ピーナッツ由来レクチン(Arachis hypogaea (peanut) agglutinin(PNA)(Jオイルミルズ社, Cat. J114))をネガティブコントロールとして用いた。そして、ポジティブコントロールとして、高マンノース型糖鎖結合性レクチンである、タチナタマメ由来のCanavalia ensiformis lectin (ConA)(Jオイルミルズ社, Cat. J103)を用いた。
【0125】
(2)ポリペプチドとヒトHMGB1との相互作用の解析
ヒトHMGB1と上記レクチン(ポリペプチド)との相互作用をBIAcore2000(GE Healthcare社製)を用いる表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)法により定量解析した。
【0126】
リガンドとしてヒトHMGB1をCM5センサーチップ(GE Healthcare社製)上に固定化し、アナライトとして種々の濃度(3.91nM〜16μM)のレクチン溶液を用い、マニュアルに従って測定・解析した。リガンドの固定化はアミンカップリング法を用い、マニュアルに従って行った。
【0127】
なお、ヒトHMGB1の固定化量は、おおよそ1000 resonance unit(RU)になるよう、マニュアルインジェクション法によって調整した。なお、リガンドのポジティブコントロールとして、PNA以外の供試レクチンすべてが結合することが判明しているウシチログロブリン(BTG)を用い、リガンドと同様にCM5センサーチップ上に固定化した。
【0128】
SPR法では、生体分子を標識することなく、生体分子間の特異的な相互作用を微量かつ短時間で定量的に測定することができる。SPR法では、リガンドをセンサーチップ表面上に固定化し、これに作用する物質(アナライト)を含む溶液を添加すると、分子の結合・解離によって生ずる微量の質量変化がSPRシグナルの変化として検出される。
【0129】
質量変化はresonance unit(RU)で表され、1000RUは共鳴による反射角度0.1°の変化に相当し、アナライトがセンサーチップ上のリガンドに1ng/mm結合したことを意味する。センサーチップ表面の金薄膜上にはデキストランがコーティングされており、主としてこのデキストラン内に導入されたカルボキシル基を介してリガンドを固定化する。
【0130】
分析プログラムの作成には、マニュアルに従って“Customized Application”を用い、CM5センサーチップ内の4つのフローセルのうち、何も固定化していないフローセルをコントロールとして、リガンドを固定化したフローセルからの差し引き機能を使用した。
【0131】
本分析プログラム下で、アナライト(レクチン)溶液をそれぞれCM5センサーチップ上に流速30μL/minで3分間流した後、バッファーを3分間流し、レクチンの結合・解離量を測定した。すなわち、アナライト添加開始から添加終了(3分間)までのRUの増加量を結合量、アナライト添加終了後のバッファー添加開始から3分間のRU減少量を解離量とした。
【0132】
各種濃度下で得られたセンサーグラムを基に, BIAevaluation version 4.1を用いて解析を行い、得られたセンサーグラムについて、結合相と解離相を同時にカーブフィッティングさせ、各定数(結合速度定数k、解離速度定数k、親和定数K、解離定数K)を算出した。
【0133】
(3)実験結果
図1は、SPR法で得られた、ヒトHMGB1と上記藻類由来レクチンとの相互作用(センサーグラム)を表す図であり、図2は、SPR法で得られた、ヒトHMGB1と、上記植物または菌類に由来するレクチンとの相互作用(センサーグラム)を表す図である。横軸はアナライト添加開始からの時間(秒)を表し、縦軸はアナライトの結合量(上記RUの増加量)を表す。
【0134】
また、これらから得られるカイネティクス解析結果を表1にまとめた。なお、供試レクチンについては、BIAcore2000に供する前に、赤血球凝集能(レクチン活性)があることを確認した。表中、「−」は"not determined" を意味する。
【0135】
【表1】
【0136】
図1に示すように、ヒトHMGB1と藻類レクチン5種との相互作用を調べたところ、MPL‐1(図1の(d))を除き、藻類レクチンの供試濃度に依存してヒトHMGB1への結合量が増大したことから、MPL‐1以外の上記レクチンとヒトHMGB1とが結合性を有することが示された。
【0137】
高マンノース型糖鎖特異的レクチンであるHis‐rOAA、BCAおよびHis‐rBPL‐17がヒトHMGB1と結合し、他方、コア(α1‐6)フコースに厳密な結合特異性をもつHypnin A-1も比較的強くヒトHMGB1と結合することを考え合わせると、ヒトHMGB1は高マンノース型糖鎖とコア(α1‐6)フコース含有複合型糖鎖との両タイプを有することが強く示唆される。このことは、従来知られていなかった知見である。
【0138】
これについては、図2に示すように、フコース含有糖鎖結合性のAAL及びAOL、ならびにフコース含有糖鎖のうちコア(α1‐6)フコース含有糖鎖と強く結合するLCA、対照として用いた高マンノース型糖鎖結合性のConAがいずれもヒトHMGB1と結合することからも支持される。
【0139】
図3は、HMGB1のアミノ酸配列を哺乳類間で比較した結果を示す図である。図3において、枠で囲み、アスタリスクを付したNFSはN結合型糖鎖付加サイトである。また、太字で示したアミノ酸残基は、ヒトHMGB1のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸残基を示す。図3に示すヒト、ウシ、ブタ、チンパンジーのHMGB1のアミノ酸配列を配列番号42〜45にそれぞれ示す。
【0140】
図3に示すように、ヒトHMGB1は分子内に1カ所のN結合型糖鎖付加サイトを含むことから、使用したヒトHMGB1は高マンノース型糖鎖を有する分子種とコア(α1‐6)フコース含有複合型糖鎖を有する分子種との混合物である可能性が高い。なお、コア(α1‐6)フコースは複合型糖鎖のみに付加することが知られており、高マンノース型糖鎖に付加したものの報告例はない。
【0141】
ヒトHMGB1のSDS‐PAGE像(図示せず)には、複数(主に2本)のタンパク質性バンドが認められる。本実施例の結果から、この2つの成分は糖構造の違いに由来している可能性が強く示唆される。
【0142】
また、ヒトHMGB1に付加されている高マンノース型糖鎖構造について、D3アームの非還元末端にα1‐2マンノース残基を含む糖鎖構造を極めて厳密に認識するMPL‐1がヒトHMGB1に結合しなかった(図1の(d))。この結果から、ヒトHMGB1は、上記糖鎖構造を有していないことが強く示唆される。
【0143】
一方、D2アームの非還元末端にα1‐3マンノース残基が露出した糖鎖構造と強く結合するOAA(His‐rOAA)がヒトHMGB1と結合性を示すことから(図1の(a))、D2アームのα1‐2マンノース残基も付加されていない可能性が考えられる。
【0144】
他方、非還元末端にα1‐2マンノース残基を有する糖鎖構造のみを認識するBCAがヒトHMGB1と結合することから(図1の(b))、D1アームの非還元末端にα1‐2マンノース残基を含むと予想される。
【0145】
ヒトHMGB1に付加する高マンノース型糖鎖種は、α1‐2マンノース残基の付加位置の異なる混合物から成る可能性も考えられるが、少なくとも、すべての高マンノース型糖鎖種においてD3アームにはα1‐2マンノース残基が付加されていないものと考えられる。
【0146】
一方、O結合型糖鎖結合性のPNAはヒトHMGB1とほとんど結合しなかったことから(図2に示すPNAのヒトHMGB1に対するRUの増加は、O結合型糖鎖を持たないBTGに対するものと同等であった)、ヒトHMGB1はN結合型糖鎖のみを有するものと示唆された。
【0147】
カイネティクス解析により算出されたヒトHMGB1と各レクチン間との結合定数について、藻類レクチンと、植物または菌類由来レクチンとを比較してみると、強い結合が見られるものから順に、AOL(3.77×10)、His‐rBPL‐17(1.04×10)、ConA(6.94×10)、Hypnin A‐1(4.38×10)、BCA(1.08×10)、His‐rOAA(7.58×10)、LCA(6.15×10)、AAL(1.31×10)であった。括弧内の数字は親和定数である。
【0148】
このように、藻類レクチンは厳密な糖鎖結合特異性を示すものの、これらに比べて特異性が低い植物または菌類由来レクチンに劣らず比較的強い結合定数を示したことから、藻類レクチンは、ヒトHMGB1結合剤として、ヒトHMGB1を特異的に捕捉するために用いうることが明らかとなった。なお、AOL、AAL、LCAについても、上記結果に示されているようにヒトHMGB1との結合性を有するため、本発明の範囲に含まれる。
【0149】
〔実施例2:本発明に係るヒトHMGB1結合剤のサイトカインへの結合〕
以上説明したように、上記ポリペプチド(A)および上記ポリペプチド(B)がヒトHMGB1に結合することが本発明によって初めて明らかとなった。一方、各種のサイトカインは糖鎖を有することが明らかにされているが、その糖鎖構造は明らかでないものが多い。
【0150】
そこで、本実施例では、本発明に係るヒトHMGB1結合剤の、ヒトHMGB1以外のサイトカインへの結合性について検討した。
【0151】
(1)供試リガンドおよびアナライト
サイトカイン(リガンド)としては、tumor necrosis factor-α(TNF‐α、HumanZyme, Chicago, USA)、インターロイキン(以下「IL」と略記)‐2(recombinant human IL-2, HumanZyme, Chicago, USA)およびIL‐6(recombinant human IL-6, HumanZyme, Chicago, USA)を購入し、供試するまで凍結保存した。
【0152】
アナライトとしては、実施例1で用いたHis-rOAA(配列番号25)、BCA(配列番号15)、MPL‐1(GenBank Accession No: LC007082、配列番号28、配列番号28に示すアミノ酸配列において、N末端はピログルタミン酸である)およびHypnin A‐1(配列番号18)の他に、rOAA(recombinant Oscillatoria agardhii、配列番号24)、KAA‐1(配列番号7)、BCL‐17(配列番号1)、高マンノース型糖鎖および複合型糖鎖に結合するレクチンであるCarpopeltis prolifera 由来のCarnin(Hori, K. et al., Phytochemistry 26,1335-1338, 1987)を用い、対照として実施例1で用いたConAを供試した。なお、Carninの調製は上記文献に記載の方法で行った。
【0153】
(2)ポリペプチドとサイトカインとの相互作用の定性的解析
上記サイトカインと上記レクチン(ポリペプチド)との相互作用をBIAcore2000(GE Healthcare社製)を用いる表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)法により定量解析した。
【0154】
リガンドとして上記サイトカインをCM5センサーチップ(GE Healthcare社製)上に固定化し、250nMのレクチン溶液をアナライトとして用い、マニュアルに従って測定・解析した。リガンドの固定化はアミンカップリング法を用い、マニュアルに従って行った。
【0155】
なお、サイトカインの固定化量は、1000〜3500 resonance unit(RU)の範囲になるよう、マニュアルインジェクション法によって調整した。すなわち、TNF‐αは3500RU、IL‐2は2000RU、IL‐6は1000RUに調整した。リガンドのポジティブコントロールとして、実施例1と同様にブタチログロブリン(PTG)を用い、リガンドと同様にCM5センサーチップ上に固定化した。
【0156】
分析プログラムの作成には、マニュアルに従って“Customized Application”を用い、CM5センサーチップ内の4つのフローセルのうち、何も固定化していないフローセルをコントロールとして、リガンドを固定化したフローセルからの差し引き機能を使用した。
【0157】
上記分析プログラム下で、アナライト(レクチン)溶液をそれぞれCM5センサーチップ上に流速30μL/minで3分間流した後、バッファーを3分間流し、レクチンの結合・解離量を測定した。なお、アナライト添加開始5秒から添加終了5秒前までのRUの増加量を結合量、アナライト添加終了後のバッファー添加開始後10秒から添加終了10秒前までのRU減少量を解離量とした。
【0158】
(3)実験結果
図4は、SPR法で得られた、サイトカインと、上記供試レクチンとの相互作用(センサーグラム)を表す図である。横軸はアナライト添加開始からの時間(秒)を表し、縦軸はアナライトの結合量(上記RUの増加量)を表す。いくつかのセンサーグラムに認められるピークは夾雑ピークである。図4の(a)はTNF‐α、図4の(b)はhIL‐2、図4の(c)はhIL‐6、図4の(d)はPTGを供試した場合の結果である。
【0159】
また、図4に示される結果を表2にまとめた。表2では、結合が認められたもの(アナライト添加後に10RU以上の増大が見られ、アナライト添加終了後にRUの減少(解離)が見られたもの)を「+」、結合する傾向が認められたもの(アナライト添加後に10RU以下であるが増大が見られ、アナライト添加終了後に解離が見られたもの)を「+/−」で示した。また、それ以外のもの(RUの増大が見られなかったもの、および、アナライト添加後にRUの増大が見られたものの、アナライト添加終了後に解離が見られず、非特異的なRUの増大と判断されたもの)は、結合が認められなかったものとして「−」で示した。表中、HMは高マンノース型糖鎖を表し、Complexは複合型糖鎖を表す。
【0160】
【表2】
【0161】
ポジティブコントロールとして用いたPTGは、N結合型糖鎖のうち、高マンノース型糖鎖と複合型糖鎖との両方を含む。本実施例で供試した上記レクチンは、上記糖鎖のいずれかに結合することが知られており、図4の(d)に示すように、PTGは、供試した上記レクチンすべてに結合すること、または、結合する傾向が認められた。
【0162】
一方、各サイトカインにおいてレクチンの結合プロファイルが異なっていたことから、各サイトカインの表面糖鎖構造が異なる可能性が示唆された。
【0163】
高マンノース型糖鎖特異的なタイプIIレクチンであるBCAは、全てのサイトカインと比較的強い結合を示した。BCAは、高マンノース型糖鎖のうち、非還元末端にα1‐2マンノース残基を有する糖鎖構造を持つものとのみ結合することが明らかになっているため、供試したサイトカインは、上記糖鎖構造を共通して有する可能性があることが分かった。
【0164】
さらに、コア(α1‐6)フコースに特異的なHypnin A‐1との結合性に、サイトカイン間で差異が認められたため、コア(α1‐6)フコースをターゲットとしたサイトカインの分別も可能であると考えられる。
【0165】
以上のように、本実施例では定性的な解析を行った結果、特にBCAとHypnin A‐1とが供試したサイトカインと強く結合することが明らかとなった。つまり、本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、ヒトHMGB1のみならず、IL‐2、IL‐6,TNF‐αを結合させるために用いることも可能であることが分かった。
【0166】
〔実施例3:ポリペプチドとサイトカインとの相互作用の定量的解析〕
本実施例では、実施例2においてサイトカインとの親和性を示すことが分かったBCAおよびHypnin A‐1について、サイトカインとの相互作用の定量的解析を行った。
【0167】
(1)供試リガンドおよびアナライト
サイトカイン(リガンド)としては、ヒト型IL‐2(hIL-2、human expressed, HumanZyme, Chicago, USA)、ヒト型IL‐6(hIL-6、human expressed, HumanZyme, Chicago, USA)、およびヒト型TNF‐α(hTNF-α、human expressed, HumanZyme, Chicago, USA)を使用した。
【0168】
アナライトとしては実施例2で用いたレクチン(ポリペプチド)であるBCAおよびHypnin A‐1を使用した。
【0169】
(2)ポリペプチドとサイトカインとの相互作用の定量的解析
上記サイトカインと上記レクチン(ポリペプチド)との相互作用をBIAcore2000(GE Healthcare社製)を用いる表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)法により定量解析した。
【0170】
リガンドとして上記サイトカインをCM5センサーチップ(GE Healthcare社製)上に固定化し、種々の濃度(31.25nM〜16μM)のレクチン溶液をアナライトとして用い、マニュアルに従って測定・解析した。リガンドの固定化はアミンカップリング法を用い、マニュアルに従って行った。
【0171】
なお、サイトカインの固定化量は、約1500〜3000 resonance unit(RU)の範囲になるよう、マニュアルインジェクション法によって調整した。すなわち、hIL‐2は2300RU、hIL‐6は1500RU、hTNF‐αは3200RUに調整した。なお、リガンドのポジティブコントロールとして、実施例1と同様にBTGを用い、リガンドと同様にCM5センサーチップ上に固定化した。
【0172】
用いた分析プログラムは実施例1および2と同じである。上記分析プログラム下で、アナライト(レクチン)溶液をそれぞれCM5センサーチップ上に流速30μL/minで3分間流した後、バッファーを3分間流し、レクチンの結合・解離量を測定した。
【0173】
BCAおよびHypnin A‐1につき、上記種々の濃度で得られたセンサーグラムを基に、BIAevaluation version 4.1を用いて解析を行い、得られたセンサーグラムについて、結合相と解離相を同時にカーブフィッティングさせ、各定数(結合速度定数k、解離速度定数k、親和定数K、解離定数K)を算出した。
【0174】
なお、アナライト添加開始10秒後から添加終了10秒前までのRU増加量を結合量、アナライト添加終了後のバッファー添加開始10秒後から添加終了10秒前までのRU減少量を解離量とした。
【0175】
(3)実験結果
図5は、BCAと、供試した3種のサイトカイン(hIL‐2、hIL‐6、hTNF‐α)との相互作用(センサーグラム)を表す図である。図5の(a)はhIL‐2との相互作用を、図5の(b)はhIL‐6との相互作用を、図5の(c)はhTNF‐αとの相互作用をそれぞれ表している。また、これらから得られたカイネティクス解析結果を表3にまとめた。
【0176】
【表3】
【0177】
図5に示すように、BCAの結合量は、何れの固定化サイトカインに対しても、BCAの濃度に依存して増大した。カイネティクス解析結果から、BCAの供試サイトカイン類との親和性は、hIL‐2(解離定数K:3.08×10−7)、hTNF‐α(K:4.37×10−7)、hIL‐6(K:2.48×10−6)の順で強いことが分かった。なお、実施例1に示したように、BCAとヒトHMGB1との親和性は、K=9.29×10−8であった。
【0178】
hIL‐2およびhTNF‐αはN‐グリコシド型糖鎖(複合型、混成型、高マンノース型の3タイプに細分類される)を持たないこと(Conradt, H.S. et al., Eur. J. Biochem. 153, 255-261,1985)、hIL‐6は複合型糖鎖を持つことが報告(Parekh, R. B. et al., Eur. J. Biochem., 203, 135-141,1992)されており、これらのサイトカインとBCAとの親和性は、タンパク質‐タンパク質間相互作用に由来することが示唆された。BCAが糖鎖結合性の他に多様なタンパク質と相互作用することが示唆されたのは今回が初めてである。
【0179】
次に、実施例2で相互作用が認められたHypnin A‐1とhIL‐6とについて、SPR法により、種々の濃度のHypnin A‐1をアナライトとして固定化hIL‐6(固定化量:1480RU)との相互作用を定量的に測定した。
【0180】
図6はHypnin A‐1と、hIL‐6との相互作用(センサーグラム)を表す図である。表3に示すカイネティクス解析の結果から、Hypnin A‐1のhIL‐6に対する親和性(解離定数K:1.58×10−7)は比較的高いことが分かった。
【0181】
Hypnin A‐1は、既に述べたように、コア(α1‐6)フコースを含有する複合型糖鎖のみと結合する、極めて厳密な糖鎖結合特異性を有するレクチンである。一方、hIL‐6は分子内にコア(α1‐6)フコースを含有する複合型糖鎖を有していることが報告(Parekh, R. B. et al., Eur. J. Biochem., 203, 135-141,1992)されており、上記複合型糖鎖との結合を介した相互作用が存在することが示唆された。
【0182】
以上の結果から、本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、本実施例で用いたサイトカインを結合するために利用することもできると言える。
【0183】
〔実施例4:糖化合物によるBCAとヒトHMGB1間の相互作用阻害〕
BCAとヒトHMGB1との間の相互作用が、レクチン‐糖鎖間相互作用に由来するものであることを確認するために、BCAと結合することが知られているイーストマンナンの添加による影響を調べた。
【0184】
イーストマンナン(ナカライテスク製)の終濃度が0.1、0.2、0.4、0.6,0.8および1.0mg/mlとなるように、1μMのBCA溶液(in HBS EP buffer(GE Healthcare))にそれぞれ添加し、4℃で1時間静置した。この種々の濃度のイーストマンナン含有BCA溶液を用いて、BCA(アナライト)と、センサーチップに固定したヒトHMGB1との結合・解離量を、実施例1〜3と同様にSPR法によって測定した。
【0185】
まず、BCAとヒトHMGB1との相互作用が糖鎖を介したものであることを確認するために、イーストマンナン存在下での上記相互作用につき検討した。なお、イーストマンナンとヒトHMGB1との相互作用は認められなかった(データ示さず)。
【0186】
上述した種々の濃度のイーストマンナンとBCAとの混合液をアナライトとして、ヒトHMGB1に対する相互作用を測定したところ、BCAのヒトHMGB1への結合性はイーストマンナンの存在下で低下し、上記相互作用の阻害活性は、添加したイーストマンナンの濃度に依存して増加した。図7は、イーストマンナンによって、BCAとヒトHMGB1との相互作用が阻害されることを示す図である。
【0187】
図7に示す結果から、BCAとヒトHMGB1との相互作用は、ヒトHMGB1上の高マンノース型糖鎖を介したものであることが強く示唆された。なお、上記相互作用は、イーストマンナンの濃度が十分に高い条件(1mg/ml)においても完全には阻害されなかったことから、BCAとヒトHMGB1との間には、レクチン‐糖鎖間の相互作用だけでなく、タンパク質‐タンパク質間相互作用も一部存在することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明に係るヒトHMGB1結合剤は、検体に含有されるヒトHMGB1と強い結合性を示すことができる。それゆえ、ヒトHMGB1が関与する疾患である敗血症、全身性炎症反応症候群などの治療に利用することができ、医療機器産業、製薬業等に広く利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]