特許第6624755号(P6624755)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立研究開発法人産業技術総合研究所の特許一覧
特許6624755プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法
<>
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000011
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000012
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000013
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000014
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000015
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000016
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000017
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000018
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000019
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000020
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000021
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000022
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000023
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000024
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000025
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000026
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000027
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000028
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000029
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000030
  • 特許6624755-プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法 図000031
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6624755
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/13 20060101AFI20191216BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20191216BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20191216BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20191216BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20191216BHJP
【FI】
   C07K1/13
   C07K19/00ZNA
   G01N27/62 V
   !C12N15/12
   !C12P21/02 C
【請求項の数】1
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-242392(P2018-242392)
(22)【出願日】2018年12月26日
(62)【分割の表示】特願2017-193444(P2017-193444)の分割
【原出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2019-89769(P2019-89769A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2019年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-87214(P2012-87214)
(32)【優先日】2012年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第34回日本分子生物学会年会 2011年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】五島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 枝里子
(72)【発明者】
【氏名】森 正敏
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−537812(JP,A)
【文献】 特表2004−531250(JP,A)
【文献】 特表2004−532633(JP,A)
【文献】 特開2004−123749(JP,A)
【文献】 日本分子生物学会年会プログラム要旨集[online],2011年11月21日,[2011年11月21日検索]インターネット<URL http://www.aeplan.co.jp/mbsj2011/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/13
C07K 19/00
G01N 27/62
C12N 15/12
C12P 21/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析の目的タンパク質と、MafGタンパク質由来の配列番号4に示すアミノ酸配列からなるプロテインタグと、の融合タンパク質をトリプシン処理して得られるタグ化ペプチドを含むペプチド混合物である、前記目的タンパク質の質量分析用標準ペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインタグ、タグ化タンパク質及びタンパク質精製方法等に関する。より詳しくは、組換えタンパク質を不溶化させることで簡便な回収を可能とするタンパク質タグ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、組換えタンパク質の精製は、目的とするタンパク質をアフィニティタグとの融合タンパク質として発現させ、アフィニティタグが他の分子との間で示す特異的親和性を利用して可溶画分から融合タンパク質を単離することによって行われている。アフィニティタグは、目的タンパク質の可溶性を高め、融合タンパク質を可溶化させて発現させるためにも機能する。
【0003】
アフィニティタグとしては、Hisタグ(ヒスチジンタグ)、GSTタグ(グルタチオン−S−トランスフェラーゼタグ)、MBPタグ(マルトース結合タンパク質タグ)及びFLAGタグなどが汎用されている。Hisタグは、ヒスチジン残基を6〜10個程度含むペプチドであり、ニッケルなどの金属イオンと特異的に結合する。GSTタグ及びMBPタグは、それぞれグルタチオン及びマルトースといった低分子化合物と特異的に結合する。
【0004】
例えば、ニッケルイオンを固定化したキレート樹脂にHisタグでタグ化されたタンパク質の溶液を通流させて吸着させる。続いて、樹脂にニッケルイオン、又はイミダゾールなどのニッケルイオンと結合する低分子化合物を通流させれば、吸着された融合タンパク質を溶出させて回収することができる。
【0005】
FLAGタグは、抗原抗体反応を利用したタグ(エピトープタグ)であり、FLAGタグでタグ化されたタンパク質は、抗FLAG抗体と結合させることによって可溶画分から単離できる。エピトープタグとしては、他にmycタグ及びHAタグなどがあり、上述のHisタグやGSTタグもエピトープタグとしての使用が可能である。
【0006】
また、これらのアフィニティタグにおいては、プロテアーゼ処理によって融合タンパク質を目的タンパク質とタグとに切断し、目的タンパク質からタグを切り離すことができるように設計することも行われている。例えば、タグを介して樹脂に吸着された融合タンパク質をプロテアーゼ処理し、目的タンパク質とタグとの間を切断すれば、目的タンパク質のみを樹脂から遊離させて回収することができる。
【0007】
特許文献1には、HisタグとFLAGタグとから成る複合タグで標識したタンパク質をニッケル結合担体及び抗FLAG抗体結合担体と特異的に反応させてタンパク質を分離精製する技術が開示されている。また、特許文献2には、セルロース分解酵素のセルロース結合領域を含むペプチド鎖をアフィニティタグとして用い、プロテアーゼ処理により融合タンパク質からタグを分離して目的タンパク質を回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−292500号公報
【特許文献2】特開平6−277088号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】"Human protein factory for converting the transcriptome intoan in vitro-expressed proteome." Goshima,N., et al., Nature Methods. 2008, Vol.5, No.12, p.1011-1017
【非特許文献2】"Molecular Cloning,SECOND EDITION", 1989, 17.37-17.41, Cold Spring Harbor Laboratory Press
【非特許文献3】"CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY", 1990, Vol.2 UNIT 16.5-16.5.4 CURRENT PROTOCOLS
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のアフィニティタグを用いたタンパク質精製は、アフィニティタグの特異的親和性を利用して可溶画分から融合タンパク質を単離するため、融合タンパク質を可溶性を有する状態で発現させ、可溶画分中に分画する必要がある。また、融合タンパク質中のアフィニティタグが他の分子との特異的親和性を維持している必要がある。
【0011】
しかし、目的とするタンパク質によっては可溶化させ難いものがあり、タンパク質間で可溶化率にも大きな差がある。また、融合タンパク質中のアフィニティタグが、目的タンパク質の影響を受けて他の分子と十分な親和性を発揮できない場合もある。
【0012】
そのため、従来のアフィニティタグを用いたタンパク質精製では、融合タンパク質の可溶性の程度(可溶化率)やアフィニティタグの親和性の程度(親和性維持率)にタンパク質の回収率が依存し、回収率が非常に低くなってしまう場合があった。また、従来の精製方法では、多数のタンパク質をその可溶化率及び親和性維持率によらずに網羅的に合成して精製することは困難であった。
【0013】
そこで、本発明は、タンパク質を高収率かつ簡便に回収することを可能とし、網羅的なタンパク質精製を可能とする技術を提供することを主な目的とする。
また、当該技術を応用した、質量分析の対象とするタンパク質についての質量分析用標準ペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
組換えタンパク質を発現させる場合、その発現させるタンパク質の種類によって可溶となるタンパク質と不溶となるタンパク質が存在する。また、1種類のタンパク質でも可溶と不溶の2つの画分に分離する場合もある。
【0015】
本発明者らは、鋭意検討した結果、タンパク質の種類にかかわらず、発現させたタンパク質を不溶化させ、不溶画分から発現タンパク質を画一的に精製・回収することを可能にする不溶化タグを見出した。また、本発明に係る不溶化タグは、インクルージョンボディーのタンパク質を可溶化するための溶媒に含まれる界面活性剤の一般的な濃度よりも低濃度で再可溶化することが可能であることを見出した。
【0016】
本発明は、上記課題解決のため、MafGタンパク質の全長又は一部のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、を含んでなるプロテインタグを提供する。
このプロテインタグによれば、MafGタンパク質に由来する高い不溶性をタグ化されるタンパク質に付与できる。
このプロテインタグにおいて、プロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸は、トリプシンの切断部位であるアルギニンとできる。
このプロテインタグは、具体的には配列番号1〜4に記載のアミノ酸配列を含んでなるものとできる。
また、本発明は、MafGタンパク質の全長又は一部のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、を含んでなるプロテインタグによりタグ化されたタンパク質を提供する。
このタグ化タンパク質は、例えばタンパク質を支持体に固定したプロテインアレイとして応用が可能である。
さらに、本発明は、MafGタンパク質の全長又は一部のアミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を含んでなるプロテインタグによりタグ化されたタンパク質をプロテアーゼ処理して得られるペプチドをも提供する。
プロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を含んでなるプロテインタグによりタグ化されたタンパク質をプロテアーゼ処理して得られるペプチドは、タグ由来のペプチドが非常に短くなるように設計できるため、質量分析の対象とするタンパク質についての質量分析用標準ペプチドとして好適である。
【0017】
また、本発明は、上記のプロテインタグを発現するベクターを提供する。このベクターは、タグ化する目的タンパク質とプロテインタグとの融合タンパク質を発現するものとされる。
【0018】
さらに、本発明は、MafGタンパク質の全長又は一部のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、を含んでなるプロテインタグにより、目的タンパク質をタグ化する融合タンパク質調製手順と、タグ化された前記目的タンパク質を不溶画分に回収する精製手順と、を含むタンパク質精製方法を提供する。
上記プロテインタグによれば、MafGタンパク質に由来する高い不溶性を目的タンパク質に付与し、融合タンパク質を不溶化させることができるため、融合タンパク質を不溶画分に高い収率で回収できる。
このタンパク質精製方法において、前記融合タンパク質調製手順は、無細胞タンパク質合成系(例えばコムギ無細胞タンパク質合成系)又は細胞タンパク質合成系において、前記目的タンパク質と前記プロテインタグとの融合タンパク質を発現するベクターを用いて、該融合タンパク質を合成する手順とされる。また、前記精製手順は、タグ化された前記目的タンパク質を遠心分離する手順とされる。
【0019】
併せて、本発明は、タンパク質に対する抗体を精製する方法であって、前記タンパク質と、MafGタンパク質の全長又は一部のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、を含んでなるプロテインタグと、の融合タンパク質を用いることを特徴とする抗体精製方法をも提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、タンパク質を高収率かつ簡便に回収することを可能とし、網羅的なタンパク質精製を可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るプロテインタグ(不溶化タグ)及びタグ化タンパク質を説明する図である。
図2】不溶化タグ及びタグ化タンパク質のプロテアーゼ切断部位を説明する図である。
図3】不溶化タグにおけるプロテアーゼ切断部位の設計を説明する図である。
図4】本発明に係るベクターの基本配列を説明する図である。
図5】本発明に係るタンパク質精製方法の手順の一例を説明する図である。
図6】多重反応モニタリング(MRM:multiple reaction monitoring)の測定原理を説明する図である。
図7】本発明に係る抗体精製方法の手順の一例を説明する図である。
図8】不溶化タグを用いてシグナル伝達タンパク質を精製した結果を示す図面代用写真である(実施例1)。
図9】不溶化タグと蛍光タンパク質との融合タンパク質の蛍光性を評価した結果を示す図面代用グラフである(実施例2)。
図10】不溶化タグと脱リン酸化酵素との融合タンパク質の酵素活性を評価した結果を示す図面代用グラフである(実施例2)。
図11】不溶化タグとリン酸化酵素との融合タンパク質の酵素活性を評価した結果を示す図面代用グラフである(実施例2)。
図12】不溶化タグを用いて網羅的なタンパク質精製を行った結果を示す図面代用グラフである(実施例3)。
図13】実施例4において作製されたプロテインアレイによる自己抗体の検出結果を示す図面代用写真である(実施例5)。
図14】実施例4において作製されたプロテインアレイによる自己抗体の検出結果を示す図面代用写真である(実施例5)。
図15】実施例4において作製されたプロテインアレイによる自己抗体の検出結果を示す図面代用グラフである(実施例5)。
図16】実施例4において作製されたプロテインアレイによる自己抗体の検出結果を示す図面代用グラフである(実施例5)。
図17】大腸菌細胞発現系で用いるベクターを説明する図である(実施例6)。
図18】不溶化タグを用いてタンパク質を精製した結果を示す図面代用写真である(実施例6)。
図19】不溶化タグのドメインを説明する図である(試験例1)。
図20】不溶化タグのドメイン化を行った結果を示す図面代用写真である(試験例1)。
図21】プロテアーゼの切断部位を挿入した不溶化タグを用いたタンパク質精製結果を説明する図面代用写真である(試験例2)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.プロテインタグ
(1−1)不溶化タグ
(1−2)プロテアーゼによる切断部位の設計
2.タンパク質精製方法
(2−1)融合タンパク質調製手順
(2−1−1)ベクター
(2−1−2)発現系
(2−2)精製手順
3.タグ化タンパク質とその応用
(3−1)タグ化タンパク質
(3−2)質量分析用標準ペプチド
(3−3)抗体精製
【0023】
1.プロテインタグ
(1−1)不溶化タグ
本発明者らは、無細胞発現系(コムギ無細胞系)を用いて高い不溶性を示すタンパク質を網羅的に検索した。その結果、MafGタンパク質を見出した。MafGタンパク質は、HisタグやGSTタグ等の従来用いられている可溶化タグとの融合タンパク質として発現させた場合にも全く可溶性を示さないことが明らかになった。MafGタンパク質は、転写因子の一つであり、162残基のアミノ酸配列(配列番号1)からなる。MafG遺伝子のコーディング領域の塩基配列を配列番号5に示す。
【0024】
本発明に係るプロテインタグは、上記のMafGタンパク質のアミノ酸配列の全長又は一部のアミノ酸配列を含んでなるものである。この、MafGタンパク質のアミノ酸配列の全長又は一部のアミノ酸配列を含んで構成されるプロテインタグは、MafGタンパク質に由来する高い不溶性をタグ化されるタンパク質に付与するものである。すなわち、本発明に係るプロテインタグは、可溶性を有するタンパク質にタグ化されて、タグ化タンパク質全体として不溶化させる「不溶化タグ」として機能する(図1参照)。本発明者らは、キナーゼやフォスファターゼなどの各種酵素及び蛍光タンパク質などに関して、これらのタンパク質をこの不溶化タグとの融合タンパク質として発現させた場合にも、融合タンパク質が酵素活性又は蛍光性を維持することを確認している(実施例2参照)。
【0025】
不溶化タグに含まれるMafGタンパク質のアミノ酸配列は、MafGタンパク質が示す高い不溶性を維持し得る限り、MafGタンパク質のアミノ酸配列の全配列であっても部分配列であってもよい。また、部分配列とする場合、当該部分配列は、MafGタンパク質のアミノ酸配列全長の任意の部分であってよく、当該部分配列のアミノ酸残基数も特に限定されない。さらに、不溶化タグは、MafGタンパク質が示す高い不溶性を維持し得る限り、MafGタンパク質のアミノ酸配列の全長又は一部のアミノ酸配列に加えて、そのN末端あるいはC末端に任意残基数のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0026】
また、不溶化タグに含まれるMafGタンパク質のアミノ酸配列は、ヒトMafGタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)に限定されず、マウスやラットを含む他種ホモログのアミノ酸配列であってもよい。
【0027】
不溶化タグの具体的なアミノ酸配列としては、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列を挙げることができる。このアミノ酸配列は、ヒトMafGタンパク質のアミノ酸配列全長と同一である。また、不溶化タグのアミノ酸配列は、配列番号1に示すアミノ酸配列のN末端又はC末端に1あるいは2以上のアミノ酸を付加したアミノ酸配列であってもよい。
【0028】
さらに、不溶化タグの具体的なアミノ酸配列は、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列としてもよい。このアミノ酸配列は、ヒトMafGタンパク質の部分配列であって、全長のN末端から56〜162残基に対応する。本発明者らは、ヒトMafGタンパク質のうちN末端から56〜162残基の部分が不溶性に寄与していることを見出している(試験例1参照)。また、不溶化タグのアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列のN末端又はC末端に1あるいは2以上のアミノ酸を付加したアミノ酸配列であってもよい。
【0029】
(1−2)プロテアーゼによる切断部位の設計
本発明に係る不溶化タグは、タグ化されたタンパク質を後述する質量分析用標準ペプチドの作成に適用するため、MafGタンパク質のアミノ酸配列の全長又は一部のアミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を含んでなることが好ましい。図2は、不溶化タグ及びタグ化タンパク質のプロテアーゼ切断部位を示す模式図である。不溶化タグのアミノ酸配列中に設計された切断部位を点線で、目的タンパク質のアミノ酸配列に内在する切断部位を一点破線でそれぞれ示す。点線で示す不溶化タグの切断部位には、MafGタンパク質に内在する切断部位と、新たに設けられた切断部位との両方が含まれる。
【0030】
挿入するアミノ酸は、プロテアーゼの種類に応じて適宜選択できる。例えば、リシン及びアルギニンのカルボキシル基側に開裂特異性を有するトリプシンの場合、リシン又はアルギニンを挿入する。プロテアーゼとしては、トリプシンの他に、LysC、GluC、AspN、キモトリプシン、V8などが用いられ得る。
【0031】
MafGタンパク質のアミノ酸配列の全長又は一部のアミノ酸配列に挿入されるプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸の挿入位置は、特に限定されないが、プロテアーゼ処理後に得られるタグ由来ペプチドの長さが6残基以下となるような位置に挿入されることが好ましい。また、切断部位となるアミノ酸の挿入数も特に限定されないものとする。
【0032】
プロテアーゼがトリプシンである場合、不溶化タグの好適なアミノ酸配列として配列番号3に示すアミノ酸配列が挙げられる(図3参照)。配列番号3に示すアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列に10残基のアルギニンが挿入された配列であり、配列番号2に示すアミノ酸配列をアルギニンとアルギニンとの間のアミノ酸数が6残基以下となるように改変した配列である。図3に示すアミノ酸配列において、下線を付した「R」は野生型(Wild-type)のMafGタンパク質に内在するアルギニンを示し、矢印を付した「R」は挿入付加されたアルギニン(10個)を示す。
【0033】
また、配列番号4に示すアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列に17残基のアルギニンが挿入された配列であり、配列番号3に示すアミノ酸配列に比べてアルギニンとアルギニンとの間のアミノ酸数がさらに少なくなるように改変した配列である。図3に示すアミノ酸配列において、矢印を付した「R」は、配列番号3に示すアミノ酸配列にさらに挿入付加されたアルギニン(7個)を示す。
【0034】
2.タンパク質精製方法
(2−1)融合タンパク質調製手順
上述の不溶化タグを用いたタンパク質精製方法について説明する。タンパク質精製方法は、融合タンパク質調製手順と精製手順とを含む。
【0035】
融合タンパク質調製手順では、精製対象とする目的タンパク質を不溶化タグとの融合タンパク質として調製する。融合タンパク質は、目的タンパク質をコードするDNA配列に不溶化タグをコードするDNA配列をつないで、目的タンパク質を不溶化タグとのフュージョンタンパク質として発現可能に構成されたベクターを発現系に導入することによって得られる。
【0036】
(2−1−1)ベクター
図4に、ベクターの基本配列の一例を示す。図に示すベクターは、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするcDNAが挿入される位置(オープンリーディングフレーム(ORFs))の上流(5´側)に、不溶化タグのアミノ酸配列をコードするDNA配列(タグ配列)が配置された構成を有している。タグ配列のさらに上流には、転写プロモーター配列と翻訳エンハンサー配列が位置している。転写プロモーター配列及び翻訳エンハンサー配列は、ここではそれぞれSP6プロモーター配列及びコムギ無細胞タンパク質合成系でよく用いられるオメガ配列を例示するが、これらに限定されない。また、タグ配列は、ORFsの下流(3´側)に繋ぐこともできる。すなわち、不溶化タグは、N末端タグとしてもC末端タグとしても使用できる。
【0037】
タグ配列及びORFsの前後には、遺伝子組換えのための配列を設けても良い。ここでは、タグ配列の上流に制限酵素XhoIサイト、下流にKpnIサイトを設け、ORFsの上流にattB1サイト、下流にattB2を設ける例を図示した。
【0038】
(2−1−2)発現系
発現系には、無細胞系あるいは細胞系を用いることができ、特にコムギ無細胞発現系を用いることができる。無細胞系のタンパク質合成系としては、他に、大腸菌、昆虫、ウサギ網状赤血球などが挙げられる。細胞系のタンパク質合成系としては、例えば、大腸菌、哺乳類細胞、昆虫細胞、酵母等が挙げられる。
【0039】
無細胞系による融合タンパク質の発現では、まず、上記のベクターからPCR等の核酸増幅法によって目的タンパク質とプロテインタグとをコードするDNA配列(タグ付きcDNA)を増幅する。次に、タグ付きcDNAからインビトロトランスクリプションによってRNA(タグ付きRNA)を転写する。そして、タグ付きRNAをコムギ細胞抽出物との混合液としてインビトロトランスレーションを行う(図5参照)。
【0040】
また、細胞系のタンパク質合成系としては、大腸菌、昆虫細胞及び哺乳類細胞を用いた従来公知の系を用いることができる。細胞内への遺伝子導入は、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法及びマイクロインジェクション法などの公知のトランスフェクション法に従って行うことができる。
【0041】
(2−2)精製手順
次に、精製手順において、不溶化タグとのフュージョンタンパク質として発現された目的タンパク質を不溶画分に回収する。不溶化タグによりタグ化された目的タンパク質は、タグ化タンパク質全体として不溶化する。従って、無細胞発現系におけるインビトロトランスレーション後の混合液又は細胞発現系における細胞溶解液などを遠心分離すれば、目的タンパク質を不溶画分にペレットダウンして簡単に回収することができる(図5参照)。
【0042】
遠心分離は定法に従って行うことができるが、一例として15,000xg、20分、4℃の条件が挙げられる。可溶性タンパク質が夾雑タンパク質として不溶画分へ混入するのを防止するため、遠心分離を行う溶液にはTween20等の界面活性剤を添加することが好ましい。
【0043】
また、不溶化タグによりタグ化された目的タンパク質は、フィルターを用いて、フィルター不透過画分に回収することもできる。無細胞発現系におけるインビトロトランスレーション後の混合液又は細胞発現系における細胞溶解液などを、ポアサイズ0.22μm程度のフィルターに通液させる。これにより、フィルターを透過する可溶性タンパク質と、フィルターに捕捉される目的タンパク質とを分離できる。
【0044】
本発明に係る不溶化タグは、MafGタンパク質に由来する高い不溶性をタグ化される目的タンパク質に付与することができ、可溶性の高い目的タンパク質であってもタグ化タンパク質全体として不溶化させることが可能である。従って、この不溶化タグを用いたタンパク質精製方法によれば、アフィニティタグを用いた従来方法と異なり、目的タンパク質をその可溶性の程度(可溶化率)に依存することなく、高い回収率で精製できる。
【0045】
また、本発明に係るタンパク質精製方法では、遠心分離という簡便な手法によってタグ化された目的タンパク質を回収できる。従って、この方法では、従来のアフィニティタグを用いた方法と異なり、融合タンパク質中のタグの親和性の程度(親和性維持率)を問題とせず、常に高い回収率で目的タンパク質を精製できる。
【0046】
さらに、本発明に係るタンパク質精製方法によれば、従来方法では可溶化率又は親和性維持率が低いために精製が困難であったタンパク質であっても精製し得るため、多数のタンパク質をその可溶化率及び親和性維持率によらずに網羅的に合成して精製することが可能である。
【0047】
回収された不溶化タグタンパク質は、界面活性剤による処理や、タンパク質変性剤である7M塩酸グアニジン又は7M尿素等による処理、酸又はアルカリ性溶液で可溶化することができる。さらに、本発明に係るタグ化タンパク質は、0.04〜1%(w/v)の濃度におけるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下で可溶化が可能である(試験例3及び4参照)。
【0048】
一般に、不溶化したタンパク質の再可溶化には、グアニジン塩酸塩などの変性力の高いカオトロピック塩を用いる場合や(非特許文献2、非特許文献3)、SDS−PAGEのために2%程度のSDSや還元剤が加えられたいわゆるSDSバッファーを用いる場合も多い。しかし、カオトロピック塩や界面活性剤が高い濃度で含まれる溶媒中では、目的タンパク質が変性して、例えば目的タンパク質が酵素であれば、その酵素活性を保てないことがある。また、カオトロピック塩や界面活性剤が高い濃度で含まれる溶媒で可溶化されたタンパク質を、プロテアーゼなどの酵素を添加して、生化学的なアッセイ等に用いるためには、希釈や透析、限外膜ろ過などを行って溶媒中のカオトロピック塩や界面活性剤の濃度を下げる必要がある。
【0049】
一方、本発明に係るタグ化タンパク質は、例えば、0.04〜1%(w/v)のSDSの濃度において可溶化され得る。このため、希釈や透析、限外膜ろ過などの煩雑な作業を行うことなく、不溶化画分に回収されたタグ化タンパク質を次の手順に用いることができる。次の手順とは、例えば、後述するタグ化タンパク質の質量分析用標準ペプチドとしての利用におけるプロテアーゼ処理手順や、タグ化タンパク質のプロテインアレイ基板への結合手順である。
【0050】
3.タグ化タンパク質とその応用
(3−1)タグ化タンパク質
本発明に係るタグ化タンパク質は、上述のタンパク質精製方法によって得られ、不溶化タグによりタグ化されていることを特徴とする。タグ化タンパク質は、使用するベクターの構造によって、目的タンパク質のN末端及びC末端の少なくとも一方に不溶化タグが繋がれたものとされる。
【0051】
また、本発明に係るタグ化タンパク質は、上述したように、不溶性を示す状態から可溶化することが可能である。このため、本発明は、MafGタンパク質の全長又は一部のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、を含んでなるプロテインタグにより、目的タンパク質をタグ化する融合タンパク質調製手順と、タグ化された目的タンパク質を不溶画分に回収する精製手順と、不溶画分に回収されたタグ化された目的タンパク質を溶媒に再可溶化させる可溶化手順を含む、タンパク質製造方法とすることもできる。溶媒としては、0.04〜1%(w/v)の濃度でSDSを含むものが好ましい。
【0052】
本発明に係る不溶化タグによれば、多数のタンパク質をその可溶化率及び親和性維持率によらずに合成して精製できる。従って、一般に入手可能なcDNAライブラリーをベクターのORFsに挿入して発現クローンライブラリーを作成し、タンパク質の発現及び精製を行うことで、網羅的なタンパク質ライブラリー(インビトロプロテオーム)を調製できる。
【0053】
インビトロプロテオームとして調製したタンパク質ライブラリーは、例えば、プロテインアレイなどへの応用が可能である。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤、塩酸グアニジンや尿素などの変性剤、又は酸またはアルカリ性溶液などを用いてタンパク質を可溶化し、ニトロセルロース膜、各種アレイ基板などの支持体に固定化し、プロテインアレイを作成する。プロテインアレイは、例えば、血清中の自己抗体のスクリーニングなどの用途に利用できる。
【0054】
(3−2)質量分析用標準ペプチド
本発明に係るタグ化タンパク質は、質量分析用標準ペプチド(内部標準用ペプチド)の作成に応用できる。LC/MS/MS(Liquid chromatography/mass spectrometry/mass spectrometry)、CE/MS/MS(capillary electrophoresis/mass spectrometry/mass spectrometry)及びGC/MS/MS(gas chromatography/mass spectrometry/mass spectrometry)において、選択反応モニタリング(SRM:selected reaction monitoring)及び多重反応モニタリング(MRM:multiple reaction monitoring)と称される分析が行われている。SRM及びMRMは、極めて特異性が高いため、超微量成分の定量性に優れている。
【0055】
図6に、一般的なMRMの測定原理を示す。MRMでは、まず、イオン化プローブでイオン化したさまざまなイオンに対し、Q1(第一の質量分析装置)において特定のイオン(プリカーサーイオン)を選択する。次に、コリジョンセル(Q2,衝突室)でプリカーサーイオンを壊し(衝突誘起解離)、Q3(第二の質量分析計)において壊したイオン(プロダクトイオン)の中から特定のイオンを検出する。
【0056】
MRMでは、一度の測定で複数のチャンネルを設定することができ、クルードなタンパク質(タンパク質粗精製物)中から特定の数種のタンパク質のみを検出して定量することが可能である。MRMによるタンパク質定量は、定量対象ペプチドと内部標準である安定同位体標識ペプチドとのピークエリア比と検量線から、定量対象ペプチドの絶対量を決定することにより行われる。
【0057】
高精度な定量のためには、定量対象とするタンパク質から生成するペプチドの中からイオン化効率が高いペプチドを内部標準用ペプチドとして予め選定しておく必要がある。内部標準用ペプチドの選定は、定量対象とするタンパク質を実測し、MS/MSスペクトルを確認しながら行われるため、実測用のために精製された定量対象タンパク質を用意する必要がある。
【0058】
また、内部標準用ペプチドは、タンパク質粗精製物(サンプル)中の定量対象タンパク質に由来するペプチドと区別可能なように安定同位体により標識され、サンプルと混合されて測定に供される。このため、MRMでは、測定の都度に内部標準用ペプチドを用意する必要がある。
【0059】
本発明に係るタグ化タンパク質は、タンパク質の可溶化率及び融合タンパク質の親和性維持率によらずに全てのタンパク質について合成及び精製が可能であるため、上記の内部標準用ペプチドの選定のためのタンパク質、及び内部標準用ペプチドの調製のためのタンパク質として好適に利用できる。すなわち、精製されたタグ化タンパク質を、プロテアーゼ処理しLC/MS/MSにより解析することで、MRMに最適な内部標準用ペプチドを選定できる。しかも、予めタグ化タンパク質からタグを取り除くことなく、タグが付加された状態でプロテアーゼ処理を行うことができる。このため、精製のために付加されたタグを精製後のタグ化タンパク質から取り除く作業が不要である。さらに、安定同位体により標識されたタグ化タンパク質をプロテアーゼ処理して得られるペプチド混合物は、MRMの内部標準用ペプチドとしてそのまま利用が可能である。
【0060】
本発明に係るタグ化タンパク質をMRM等の内部標準用ペプチドに用いる場合には、プロテインタグを構成するアミノ酸残基の数は、少ない方が好ましい。プロテインタグを構成するアミノ酸残基の数が増加するほど、プロテアーゼ消化産物に含まれるペプチドが長くなりやすく、質量分析において検出されるペプチドが目的タンパク質の測定を妨害しやすくなるためである。従って、MafGタンパク質のアミノ酸配列において、不溶性に関与する配列番号2を含む部分をプロテインタグとして用いることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列をタグとして用いることで、プロテインタグのアミノ酸残基の数を減らし、かつプロテインタグの不溶性を保持することができる。
【0061】
さらに、不溶化タグとして、MafGタンパク質のアミノ酸配列の全長又は一部のアミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列(配列番号3、4参照)を含んでなるものを用いて合成及び精製されたタグ化タンパク質は、好適な利用が可能である。
【0062】
プロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸は、不溶化タグに由来してプロテアーゼ処理後に得られるペプチド(タグ由来ペプチド)の長さが6残基以下となるような位置に挿入されている(図2参照)。プロテアーゼ処理後に得られる不溶化タグ由来ペプチドの長さが6残基以下となるようにしておくことで、タグ化タンパク質をプロテアーゼ処理した内部標準用ペプチドにおいて、タグ由来のペプチドとタンパク質由来のペプチドとを明確に区別できる。そして、その結果、タグ由来のペプチドを内部標準用ペプチドとして誤って選定したり、MRM測定時にタグ由来のペプチドがノイズとなったりすることを防止できる。
【0063】
例えば、プロテアーゼとしてトリプシンを用いる場合には、本発明に係るプロテインタグのアミノ酸配列に挿入されるアミノ酸には、アルギニン又はリジンが好ましい。プロテインタグのアミノ酸配列中に、トリプシンの切断部位であるアルギニン又はリジンが増加することによって、プロテインタグに由来するペプチドの長さをより短くすることができる。一方、親水性を有するアミノ酸であるアルギニンやリジンを、不溶性を示すプロテインタグに挿入すると、プロテインタグの性質が変化するおそれがある。
【0064】
配列番号2に示す107アミノ酸残基からなるタグプロテインに挿入されるアルギニン残基が、特に17個未満の場合、タグプロテインの不溶性が保持されつつ、タグプロテイン由来のペプチドの長さをより短くすることができる。このため、17個未満のアルギニン残基が配列番号2に示すアミノ酸配列に挿入されたプロテインタグは、質量分析における内部標準用ペプチドを精製するために用いるタグとして好適である。特に、配列番号2に示すアミノ酸配列に挿入されるアルギニン残基の数は、1以上16以下が好ましく、特に6以上10以下が好ましい。
【0065】
(3−3)抗体精製
また、本発明に係るタグ化タンパク質は、抗体の精製に応用できる。
【0066】
図7を参照して、抗体精製の手順を説明する。まず、精製対象とする抗体(抗タンパク質T抗体)を含む抗体液とタグ化されたタンパク質Tを混合し、遠心分離(例えば15,000xg、20分、4℃)する。遠心分離後、抗タンパク質T抗体はタグ化タンパク質Tに結合した複合体として沈渣中に分離される。次に、抗体解離バッファーを用いて複合体から抗タンパク質T抗体を解離させ、再度遠心分離を行う。この遠心分離によって、タグ化タンパク質Tは沈渣となり不溶画分に移動するため、上清中に抗タンパク質T抗体を回収することができる。
【0067】
本発明に係るタグ化タンパク質は、タンパク質の可溶化率及び融合タンパク質の親和性維持率によらずに全てのタンパク質について合成及び精製が可能であるため、全ての抗タンパク質抗体の精製を実現できる。なお、ここでは、遠心分離によってタンパク質‐抗体複合体を分離する例を示したが、フィルター等によるトラップによって複合体を分離することもできる。フィルターによりトラップされた複合体を抗体解離バッファーで処理することにより、複合体から解離した抗タンパク質抗体を溶出させて回収できる。
【実施例】
【0068】
<実施例1>
1.不溶化タグを用いたシグナル伝達タンパク質の精製(コムギ無細胞発現系)
本実施例では、コムギ無細胞発現系を用いて、本発明に係る不溶化タグとシグナル伝達タンパク質との融合タンパク質の合成及び精製を行った。
【0069】
シグナル伝達タンパク質のオープンリーディングフレーム(ORF)配列がクローン化されたエントリークローンと、図4に示したコムギ無細胞発現系用の不溶化タグ融合用デスティネーションベクターとを用い、非特許文献1記載の方法に従って、コムギ胚芽抽出液(WEPRO7240、セルフリーサイエンス社)を用いたタンパク質合成を行った。シグナル伝達タンパク質の遺伝子記号(Gene symbol)、パブリックデータベース(GenBank:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)のアクセションナンバー及びエントリークローンの番号(ID)を「表1」〜「表3」に示す。
合成後の溶液(クルードタンパク質溶液)を、精製時に混入する共雑タンパク質を少なくするためにPBSで4倍に希釈し、15,000xg、20分間、4℃で遠心分離した。上清画分を除き、得られた沈渣(不溶画分)を精製タンパク質画分とした。
比較のため、GSTタグ融合用デスティネーションベクターを用いて同様にタンパク質合成を行った。合成後の溶液をPBSで4倍希釈し、グルタチオンレジン(GEファルマシア)に吸着させ、0.8Mグルタチオンで溶出し、精製タンパク質を回収した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
結果を図8に示す。図8Aは、GSTタグを用いて精製したタンパク質についてSDS−PAGEを行った結果を示す。図8Bは、不溶化タグを用いて精製したタンパク質についてSDS−PAGEを行った結果を示す。図8Bでは、図8Aと異なり全てのタンパク質でバンドが確認でき、かつ各タンパク質のバンドが図8Aに比して濃く観察されている。この結果から、不溶化タグを用いることにより、GSTタグを用いた従来の精製方法に比して、タンパク質を高率かつ高収量で精製できることが示された。
【0074】
<実施例2>
2.不溶化タグを用いた蛍光タンパク質又は酵素の精製
本実施例では、本発明に係る不溶化タグと蛍光タンパク質又は酵素との融合タンパク質を精製し、精製後の融合タンパク質が蛍光性又は酵素活性を維持していることを確認した。
【0075】
実施例1と同様にして、蛍光タンパク質と不溶化タグとの融合タンパク質を合成した。蛍光タンパク質には、mVenus(VenusA206K, GenBank accession No. DQ092360.1)を用いた。クルードタンパク質溶液の蛍光(励起波長515nm, 蛍光波長528nm)を測定した結果を図9に示す。
【0076】
不溶化タグを融合した蛍光タンパク質(N末端タグ)でも、タグ化していない蛍光タンパク質の半分程度の強度の蛍光が確認された。また、C末端に不溶化タグを融合した蛍光タンパク質でも、蛍光が確認された。
【0077】
また、実施例1と同様にして、脱リン酸化酵素及びリン酸化酵素と不溶化タグとの融合タンパク質を合成した。脱リン酸化酵素には、DUSP3、PTPN1、PTPN6を用いた。また、リン酸化酵素にはチロシンキナーゼWEE1、Hck1を用いた。各酵素のパブリックデータベースのアクセションナンバーを「表4」に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
以下の方法で、フォスファターゼ活性を測定した。実施例1と同様にしてクルードタンパク質溶液を遠心分離して精製タンパク質画分を得た。精製タンパク質画分については、精製度を高めるために、緩衝液(50mM Tris‐HCl,pH7.5)による再懸濁と遠心分離を各々2回繰り返して夾雑タンパク質を除去した。遠心分離後のペレットに緩衝液(50mMTris‐HCl, pH7.5)を3.0μl添加し、超音波処理を行って懸濁した。懸濁液とpNpp発色基質を用いて定法に従って、吸光度測定によりフォスファターゼ活性を測定した。
【0080】
結果を図10に示す。DUSP3、PTPN1、PTPN6のそれぞれについて、クルードタンパク質溶液を遠心分離して得た上清画分の酵素活性をグラフ左に、不溶画分(精製タンパク質画分)の酵素活性をグラフ右に示す。いずれの酵素においても、不溶化タグとの融合タンパク質が活性を維持していることが確認された。
【0081】
以下の方法で、チロシンキナーゼ活性を測定した。実施例1と同様にしてクルードタンパク質溶液を遠心分離して得た精製タンパク質画分をLDSサンプルバッファー(ライフテクノロジーズ)に溶解後、NuPAGE電気泳動システム(ライフテクノロジーズ)による電気泳動とウェスタンブロッティングを行い、チロシンキナーゼの自己リン酸化能を評価した。1次抗体にはP−Tyr−100抗体(マウスIgG、セルシグナリング社)、2次抗体には抗マウスIgG抗体(ヒツジIgG、HRPラベル、GEヘルスケア)を用い、ECL−PLUS化学発光検出キット(GEヘルスケア)を用いて検出を行った。
【0082】
結果を図11に示す。レーン1はタグ化していないWEE1のクルードタンパク質画分、レーン2は不溶化タグ融合WEE1のクルードタンパク質溶液、レーン3は不溶化タグ融合WEE1の遠心分離した上清画分、レーン4は不溶化タグ融合WEE1の遠心分離した沈査の精製タンパク質画分である。また、レーン5はタグ化していないHck1のクルードタンパク質画分、レーン6は不溶化タグ融合Hck1のクルードタンパク質溶液、レーン7は不溶化タグ融合Hck1の遠心分離した上清画分、レーン8は不溶化タグ融合Hck1の遠心分離した沈査の精製タンパク質画分である。レーン4、8で抗リン酸化チロンシン抗体(P−Tyr−100抗体)と結合するバンド(図中丸印参照)が検出されており、いずれの酵素においても不溶化タグとの融合タンパク質が自己リン酸化能を維持していることが確認された。
【0083】
本実施例の結果から、不溶化タグによるタンパク質のタグ化は当該タンパク質の蛍光性及び酵素活性に影響を与えないことが確認された。
【0084】
<実施例3>
3.不溶化タグを用いた網羅的なタンパク質精製
本実施例では、本発明に係る不溶化タグを用いて、網羅的なタンパク質精製を行った。
【0085】
実施例1と同様にして、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes, http://www.genome.jp/kegg/kegg_ja.html)に登録されている代謝系タンパク質の1026種類について、不溶化タグとの融合タンパク質を合成し、遠心分画法によって沈査画分に回収して精製を行った。
【0086】
精製されたタンパク質についてタンパク質蛍光プレラベル法による電気泳動定量を行った結果を図12に示す。タンパク質蛍光プレラベル法は、アミンカップリングによってリジン残基に蛍光色素Cy5を導入することにより行った。
【0087】
<実施例4>
4.プロテインアレイの作製
本実施例では、本発明に係る不溶化タグを用いて精製されたタンパク質を基板に結合して、プロテインアレイを作製した。
【0088】
実施例1と同様にして、表5に示すタンパク質のORF配列がクローン化されたエントリークローンを用い、タンパク質(表5参照)と不溶化タグとの融合タンパク質を合成し、遠心分離によって沈渣(不溶画分)を精製タンパク質画分として得た。精製タンパク質画分については、溶解液(0.04%SDS(w/v)、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.8))に懸濁し、1分程度振とう混和させた後、1分間の超音波処理(高周波出力160W,40kHz)を3回行い、不溶化タグ付きの精製タンパク質の可溶化液を得た。
【0089】
【表5】
【0090】
本実施例のプロテインアレイの基板として、Arrayit社製のSuperNHSと、GEヘルスケア社製のFAST Slide 1−Padの2種類の基板を用意した。各融合タンパク質を含む可溶化液を微量分注器あるいはピンツールを用いて各基板上にスポット状に付着させ、各基板の提供元のプロトコールに従い、融合タンパク質と基板表面との結合反応を起こさせた。また、後述する実施例5においてネガティブコントロール又はポジティブコントロールとするために、蛍光タンパク質のVenusと精製ヒトIgGについても、上記の基板に付着させた。
【0091】
基板については、付着させたタンパク質を含む可溶化液を乾燥させた後、TBST(20mM Tris‐HCl(pH8.0),134mM NaCl,0.1%(v/v)Tween20)を用いて基板表面を洗浄して、基板表面に結合されなかったタンパク質を取り除き、プロテインアレイを完成させた。
【0092】
<実施例5>
5.プロテインアレイによる自己抗体の検出
実施例4において作製されたプロテインアレイを用いて、血清中の自己抗体の検出を行った。
【0093】
自己抗体として抗TRIM21抗体と抗CT45A5抗体とが含まれるヒト血清を用意した。このヒト血清を3%(w/v)スキムミルクを含むTBSTで1000倍に希釈し、1次抗体溶液とした。実施例4で作製されたプロテインアレイについては、予め、3%(w/v)スキムミルクを含むTBSTに室温で1時間浸し、基板表面のブロッキングを行った。ブロッキングの後、基板の表面を1次抗体溶液に浸し、1次抗体溶液を振とうさせながら、室温に1時間置いた。その後、TBSTを用いて基板表面を洗浄した。
【0094】
1次抗体溶液に含まれる自己抗体を検出するために、2次抗体として、蛍光色素Alexa647で標識された抗ヒトIgG抗体を用意し、この抗ヒトIgG抗体を3%(w/v)スキムミルクを含むTBSTで1000倍に希釈したものを2次抗体溶液とした。基板の表面を2次抗体溶液に浸し、2次抗体溶液を振とうさせながら、室温に1時間置いた。その後、TBSTを用いて基板表面を洗浄した。2次抗体による処理後、蛍光スキャナーを用いて、励起波長を635nmとし、SuperNHSのプロテインアレイについてはPMTを420Vで、FAST Slideの基板については、PMTを200Vで、各々基板表面から発せられる蛍光を測定した。
【0095】
本実施例の結果を図13図16に示す。図13及び図14は、基板上の各タンパク質が付着したスポットから発せられる蛍光の測定結果である。図13は、基板としてSuperNHSを用いた結果を示し、図14は、基板としてFAST Slide 1−Padを用いた結果を示す。また、図15は、図13に示す各スポットの蛍光強度を数値化したグラフであり、図16は、図14に示す各スポットの蛍光強度を数値化したグラフである。なお、図14中矢頭で示すスポットは、基板へのタンパク質の結合が不十分であった部分のため、蛍光の測定対象から除外した。
【0096】
図13図16に示すように、血清中に自己抗体が含まれるTRIM21及びCT45A5のスポットでは、2次抗体由来の蛍光が測定された。また、測定された蛍光強度は、基板に付着されたタンパク質の量に比例した。このことは、基板に結合したタンパク質に1次抗体が特異的に結合していることを示している。一方、血清に抗体が含まれていないタンパク質であるMGLLのスポットについては、測定された蛍光強度が、上記のTRIM21又はCT45A5のスポットで測定された蛍光強度に比べ低くかった。また、ポジティブコントロールである精製ヒトIgGのスポットでは、TRIM21と同程度の蛍光強度が測定された。一方、ネガティブコントロールであるVenusのスポットでは、測定された蛍光強度は、上記のMGLLのスポットと同程度であった。
【0097】
本実施例の結果から、本発明に係る不溶化タグを用いて精製されたタンパク質は、プロテインアレイを用いた解析において抗体による特異的な検出に適する程度に精製されていることが確認された。従って、本発明に係る不溶化タグを用いて精製されたタンパク質は、基板上に結合させることによって、プロテインアレイに用いることが可能である。
【0098】
<実施例6>
6.不溶化タグを用いたタンパク質の精製(大腸菌細胞内発現系)
本実施例では、大腸細胞内発現系を用いて、本発明に係る不溶化タグとGSTとの融合タンパク質の精製を行った。
【0099】
本実施例では、図17に示す大腸菌発現用ベクター(pDEST15)を用いた。図17Aは、不溶化タグが付加されたGSTを合成するためのベクターである。一方、図17Bは、GSTのみを合成するためのベクターのである。図17A及び図17Bに示すベクターを大腸菌に導入し、形質転換された大腸菌を得た。形質転換された大腸菌を一晩37℃で培養し、得られた大腸菌培養液をOD600が0.5となるように希釈した後、この希釈液において、濃度が0.1%となるようにL−arabinoseを加えて発現誘導を開始した。発現誘導直後(0時間)と発現誘導後3時間の時点で各々希釈液を回収し、遠心分離によって菌体を回収した。
【0100】
得られた菌体に100μlのPBSを加え、再懸濁し、1分間の超音波処理(高周波出力160W,40kHz)を20回行った。超音波処理の後、菌体を含む懸濁液については、一部をそのままSDS−PAGEに用いた。また、懸濁液を19000xg、20分、4℃で遠心分離し、上清と沈査を得た。これらの上清と沈査についてもSDS−PAGEに用いた。
【0101】
本実施例の結果を図18に示す。発現後3時間において、図17Aに示すベクターが導入された大腸菌から得られた懸濁液において、C末に不溶化タグが付加されたGSTと判断される分子量の位置にバンドが認められた(図18A、T参照)。一方、図17Bに示すベクターが導入された大腸菌から得られた懸濁液において、GSTと判断される分子量の位置にバンドが認められた(図18B、T参照)。
【0102】
また、懸濁液を遠心して得られた上清と沈査については、C末に不溶化タグが付加されたGSTは、ほぼ全て沈査(図18A、矢頭参照)に認められた。一方、GSTは、ほぼ全て上清(図18B、矢頭参照)に認められた。
【0103】
本実施例の結果から、本発明に係る不溶化タグは、大腸菌細胞発現系を用いてタンパク質を合成した場合であっても、不溶化タグが付加された融合タンパク質を不溶化させることが確認された。
【0104】
<試験例1>
7.不溶化タグのドメイン化
本試験例では、MafGタンパク質のアミノ酸全長のうち、特に不溶性に寄与している部分配列(ドメイン)を同定した。
【0105】
MafGタンパク質のアミノ酸全長を3つのドメインに分割し、ドメインAをN末端から1〜55番目のアミノ酸、ドメインBをN末端から56〜109番目のアミノ酸、ドメインCをN末端から110〜162番目のアミノ酸とした(図19参照)。全長、ドメインAのみ、ドメインA及びドメインB、ドメインBのみ、ドメインB及びドメインC、ドメインCのみのアミノ酸配列からなる5種類の不溶化タグを発現可能なベクターを構築した。各不溶化タグのN末端にはメチオニンが付加されている。ベクターのORFsには、蛍光タンパク質mVenusあるいは可溶性の高いタンパク質であるGSTのcDNAを挿入した。これらのベクターを用いてコムギ無細胞系で融合タンパク質を合成し、遠心分離後、SDS−PAGEを行った。
【0106】
5種類の不溶化タグ間での回収量を比較した結果を図20に示す。Venusとの融合タンパク質及びGSTとの融合タンパク質のいずれにおいても、ドメインB及びドメインCのアミノ酸配列からなる不溶化タグ(B+C)は、全長アミノ酸配列からなる不溶化タグ(MG)と同程度の回収量であった。これに対して、ドメインAのみ(A)、ドメインA及びドメインB(A+B)、ドメインBのみ(B)、ドメインCのみ(C)のアミノ酸配列からなる不溶化タグでは、全長アミノ酸配列からなる不溶化タグ(MG)に比して回収量が減少した。この結果から、MafGタンパク質のアミノ酸全長のうち特にドメインB及びドメインCが不溶性に寄与しており、不溶化タグはドメインB及びドメインCの107残基まで縮小化しても機能できることが明らかとなった。
【0107】
<試験例2>
8.プロテアーゼ切断部位の挿入
本試験例では、試験例1で得られたドメインB及びドメインCのアミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸を挿入し、不溶化タグのアミノ酸配列の改変を行った。
【0108】
MafGタンパク質のアミノ酸全長(配列番号1)からなる不溶化タグをVersion1とし、ドメインB及びドメインCのアミノ酸配列に10個のアルギニンを挿入したVersion2(配列番号3)、Version2にさらに7個のアルギニンを挿入したVersion3(配列番号4)の不溶化タグを作成した。各不溶化タグの具体的なアミノ酸配列は、図3を参照できる。Version2の不溶化タグは、トリプシン処理後に得られるタグ由来ペプチドの長さが6残基以下となるようにアルギニンを挿入付加したものである。Version3の不溶化タグは、さらに多くのアルギニンを挿入付加したものである。
【0109】
これらの不溶化タグと12種のタンパク質(表6参照)との融合タンパク質を発現可能なベクターを用いてコムギ無細胞系でタンパク質合成を行い、遠心分離後、SDS−PAGEを行って融合タンパク質の回収量を比較した。
【0110】
【表6】

(表中のレーン番号は、図21中のレーン番号に対応する。パブリックデータベースEnsemblはhttp://asia.ensembl.org/index.htmlを参照できる)
【0111】
結果を図21に示す。図21AはVersion1、図21BはVersion2、図21CはVersion3の不溶化タグとの融合タンパク質のSDS−PAGEの結果を示す。Version2の不溶化タグでは、Version1の不溶化タグと同等のタンパク質回収率が得られた。一方、Version3の不溶化タグでは、Version1の不溶化タグに比してタンパク質回収率がやや低下した。この結果から、不溶化タグのアミノ酸配列として試験例1でドメイン化された最短のアミノ酸配列(107残基)を用いる場合、プロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸の好適な挿入数は17未満であることが示唆された。挿入するアミノ酸を多くするほどプロテアーゼ処理後に得られるタグ由来ペプチドの長さを短くできるが、多くし過ぎると不溶化タグの不溶性が低下し、融合タンパク質の可溶性が高まって遠心分離による回収効率が低下する場合があることが示唆された。
【0112】
<試験例3>
9.タグ化タンパク質の再可溶化条件の検討
不溶化画分として回収された不溶化タグが付加された融合タンパク質(タグ化タンパク質)の再可溶化について、適切な溶媒を検討した。
【0113】
実施例1と同様にして、蛍光タンパク質mVenus(VenusA206K, GenBank accession No. DQ092360.1)と不溶化タグとの融合タンパク質を、コムギ無細胞発現系を用いて合成した。また、immunoglobulin heavy chain gamma 3 constant region(IgHG3, GenBank accession No. AK097355)のORF配列がクローン化されたエントリークローン(エントリークローンID FLJ40036AAAF)を用い、IgHG3と不溶化タグとの融合タンパク質を、同じくコムギ無細胞発現系を用いて合成した。
【0114】
合成されたタグ化タンパク質を含む懸濁液については、19,000xg、20分、4℃の条件で遠心分離を行い、タグ化タンパク質を不溶化画分として回収した。得られた不溶化画分には、表7に示す溶媒のうち、何れか一種類の溶媒を加え、1分間振とう混和後、1分間の超音波処理(高周波出力160W、40kHz)を3回行った。タグ化タンパク質を含む懸濁液を再び19,000xg、20分、4℃で遠心分離し、上清をタグ化タンパク質の溶解液とした。
【表7】
【0115】
タグ化タンパク質の溶解液については、SDS−PAGEを行い、泳動後のゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)で染色し、融合タンパク質に由来するバンドの発色強度を測定した。また、所定の濃度でウシ血清アルブミン(BSA)を含むBSA溶解液を用いて、タンパク質の量に対するCBBの発色強度を示す検量線を得た。この検量線に基づき、タグ化タンパク質の溶解液に含まれるタグ化タンパク質の量を算出し、不溶化画分に回収された後に再度可溶化されたタグ化タンパク質の割合を調べた。
【0116】
本試験例の結果を表8に示す。なお、表中「−」は、未検討を示す。表8に示すように、mVenusと不溶化タグとの融合タンパク質は、溶媒2、11、12、15を用いた場合、ほぼ再可溶化することができなかった。また、IgHG3と不溶化タグとの融合タンパク質は、溶媒1、4〜8を用いた場合、ほぼ再可溶化することができなかった。一方、溶媒10、18、23を用いた場合には、両方の融合タンパク質について、不溶化画分に回収された融合タンパク質がほぼ全量再可溶化された。
【0117】
【表8】
【0118】
また、溶媒16〜20における可溶化率に示すように、SDSの濃度が0.04〜1%(w/v)の範囲で含まれる溶媒を用いた場合、不溶化画分に回収されたVenusと不溶化タグとの融合タンパク質は、ほぼ全て再可溶化された(表8)。さらに、溶媒21〜24における可溶化率に示すように、0.04%(w/v)の濃度でSDSを含む溶媒では、pH7.8〜pH9.2において、タグ化タンパク質の可溶化率が高く、不溶化画分に回収されたIgHG3と不溶化タグとの融合タンパク質は、ほぼ全量再可溶化された(表8)。
【0119】
<試験例4>
10.溶媒による不溶化タグとの融合タンパク質の再可溶化
試験例3において検討された溶媒23(表7参照)について、さらに複数の、不溶化タグとの融合タンパク質(タグ化タンパク質)の再可溶化に適しているか検証した。
【0120】
実施例1と同様にして、表9に示すタンパク質のORF配列がクローン化されたエントリークローンを用い、タンパク質(表9参照)と不溶化タグとの融合タンパク質を合成し、遠心分離によって沈渣(不溶画分)を精製タンパク質画分として得た。精製タンパク質画分へ、試験例3と同様に溶媒23を添加し、タグ化タンパク質の溶解液を得た。溶解液に含まれるタグ化タンパク質の定量は、試験例3と同様に行った。
【0121】
【表9】
【0122】
不溶化タグが付加された28種類のタンパク質(表9)は、不溶化画分に含まれる量に対しほぼ全量が溶媒23によって再可溶化された。本試験例の結果から、本発明に係るプロテインタグが付加されたタグ化タンパク質は、不溶化画分に回収された後に、SDSを0.04%(w/v)の濃度で含む溶媒を用いることによって再可溶化が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明に係るプロテインタグ等によれば、組換えタンパク質を高収率かつ簡便に回収でき、網羅的なタンパク質精製が可能となる。従って、本発明に係るプロテインタグ等は、医学、薬学及び生物学等の分野におけるタンパク質やペプチド、抗タンパク質抗体などを用いた基礎研究及び臨床研究に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]