(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第3元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択された1種以上を合計0.5質量%以下で更に含有する請求項1〜4の何れか一項に記載の時効処理前のチタン銅板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレス加工でコネクタ等の電子部品を製造する場合、強度が高い材料では曲げ加工後のスプリングバックが大きくプレス後の寸法が目標寸法に収まらない問題があった。また、プレスによる歪の導入でばね限界値が低下する問題があった。そのため、溶体化後に仕上冷間圧延を行った比較的強度が低い材料にプレス加工を行い所望の寸法を得たのち、熱処理を行い強度およびばね限界値を向上させるタイプの材料(以下、ノンミルハードン)を用いることも考えられる。プレス後に熱処理を行うことで高い強度と導電率を有する合金としてCuにBeを添加した材料が知られており、例えばC17200(1.8〜2.0質量%Be−0.2質量%以上のNi+Co、残部Cu)が、CDA(Copper Development Association)に登録されている。また、チタン銅においてもプレス加工後に熱処理を行うノンミルハードン材がある。
【0007】
ノンミルハードンのチタン銅をプレス加工後に熱処理を行う場合、窒素またはアルゴンガス雰囲気で所定の温度に設定した炉にプレス加工後の製品を投入し、数時間保持後に取りだす。この時、プレス品を設置した炉内の位置や、リール状に巻かれた場合はリールの外周側か内側かで、材料温度にばらつきが生じ、結果的にロット間およびロット内で強度がばらつく問題があった。特に特許文献5では、プレス加工後に熱処理が行われ、熱処理後の硬さが345Hv以上となるチタン銅が挙げられているが、推奨される熱処理温度から材料温度が変動すると急激に強度が変化した。
【0008】
また、雰囲気ガス中の微量の水蒸気、酸素あるいは窒素とチタン銅中のチタンが反応し、熱処理によって表面に変色が生じる問題があった。変色の原因となるチタン酸化物およびチタン窒化物はめっきの密着性の悪化およびめっきを行なわない場合でも外観上の問題で化学研磨が必要となる。
【0009】
なお、プレス加工前に熱処理済のチタン銅(ミルハードン材)は、条材をコイル状に巻いた状態で熱処理炉に投入され、加熱・均熱・冷却を行なうため、常温からの加熱中、目標温度での均熱、常温への冷却(徐冷)と、いずれの状態でも時効析出が促進される。その結果、420℃以下の温度に最大の引張強さが得られるピーク時効温度が認められる。一方、ノンミルハードンのチタン銅は所定の温度に調整された炉内に投入(急加熱)、保持、取り出し(空冷)のため、保持中にのみ析出が生じる。そのため、ミルハードン材に比べて析出が不足しやすくなる。上記の理由でノンミルハードン材のピーク時効温度は420℃を超えやすく、また、その温度域は容易に変色する温度であった。
【0010】
そこで、本発明はプレス加工後に熱処理を行うチタン銅のノンミルハードン材であり、ロット間の熱処理後の強度のばらつきが小さく(強度安定性が良好)、且つ熱処理後の変色が少ないチタン銅板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、チタン銅板をピーク時効温度で熱処理した後の、圧延面に平行な方向であって圧延方向に対して直角方向(以下、「圧延直角方向」ともいう。)の強度のロット間のばらつきと、当該熱処理後の変色性について鋭意検討した。その結果、ピーク時効温度から20℃異なる温度で熱処理後の引張強さが、ピーク時効温度で熱処理後の圧延直角方向の引張強さに匹敵することでロット間の強度安定性の向上に有利であり、さらに、ピーク時効温度を420℃以下に低減することで変色が抑制されることを見出した。さらに、そのチタン銅板が、後述する溶体化処理条件、温間圧延を開始時の材料温度および圧延加工度によって得られることを見い出して、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は一側面において、Tiを2.0〜4.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるチタン銅板であって、圧延面に平行な方向であって圧延方向に対して直角方向の引張強さの最大値(TS
max)が得られるピーク時効温度が420℃以下であり、前記TS
maxが800〜1200MPaであり、さらに、前記ピーク時効温度より20℃高い温度で2時間の熱処理後の前記直角方向の引張強さTS
1の、TS
maxに対する比(TS
1/TS
max)が0.98以上であり、かつピーク時効温度より20℃低い温度で2時間の熱処理後の前記直角方向の引張強さTS
2の、TS
maxに対する比(TS
2/TS
max)が0.98以上であるチタン銅板である。
【0013】
本発明に係るチタン銅板の一実施形態においては、前記TS
1/TS
maxが0.99以上であり、かつ前記TS
2/TS
maxが0.99以上である。
【0014】
本発明に係るチタン銅板の一実施形態においては、前記TS
maxが800〜1100MPaである。
【0015】
本発明に係るチタン銅板の一実施形態においては、前記ピーク時効温度で2時間の熱処理後の導電率が8〜20%IACSである。
【0016】
本発明に係るチタン銅板の一実施形態においては、第3元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択された1種以上を合計0.5質量%以下で更に含有する。
【0017】
また、本発明は別の一側面において、チタン銅板を備えたプレス加工品である。
【0018】
また、本発明は別の一側面において、上記何れかのチタン銅板を、プレス加工及び
時効処理をこの順に行うことを含むプレス加工品の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱処理後の強度安定性および耐変色性に優れたチタン銅板を得ることができる。本発明に係るチタン銅板は、熱処理後の強度安定性に優れているため、プレス後に熱処理を行って製造される電子部品で、ロット間の強度のばらつきが小さく小型電子部品の製造に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、好適な実施の態様をあげて、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
[1.チタン銅板]
本発明に係るチタン銅板の一実施形態は、Tiを2.0〜4.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるものであって、300〜500℃で2時間の熱処理を行ったときに、圧延面に平行な方向であって圧延方向に対して直角方向の引張強さの最大値(TS
max)が得られるピーク時効温度が420℃以下であり、TS
maxが800〜1200MPaであり、さらに、ピーク時効温度より20℃高い温度で2時間の熱処理後の圧延直角方向の引張強さTS
1の、TS
maxに対する比(TS
1/TS
max)が0.98以上であり、かつピーク時効温度より20℃低い温度で2時間の熱処理後の圧延直角方向の引張強さTS
2の、TS
maxに対する比(TS
2/TS
max)が0.98以上である。以下、各構成について好適な態様を説明する。
【0022】
(Ti含有量)
本発明に係るチタン銅板において、Ti含有量は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度を上昇させるため、2.0〜4.5質量%である。上記Ti含有量は、熱処理後に十分な強度を得るという観点から、下限値として2.0質量%以上であり、好ましくは2.5質量%以上であり、より好ましくは2.7質量%以上である。また、上記Ti含有量は、熱間圧延において材料の破断を抑制し、曲げ加工性に優れているという観点から、上限値として4.5質量%以下であり、好ましくは4.0質量%以下であり、より好ましくは3.5質量%以下である。
【0023】
(第3元素)
本発明に係るチタン銅板は、所望によって、銅及びチタン以外に、所定の第3元素を含有させて、使用することができる。好適な実施の態様において、第3元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択された1種以上を、合計0.5質量%以下含有させてもよい。ただし、これらの元素の合計含有量は0、つまり、これら元素を含まなくもよい。例えば、0.01〜0.5質量%、好ましくは0.01〜0.3質量%、さらに好ましくは0.05〜0.3質量%の範囲で含有させて、使用することができる。このような第3元素の添加によって、チタン銅の時効硬化を改善することができるが、第3元素を添加しないチタン銅もまた、本発明の優れた効果を奏するものとなっている。
【0024】
また、Feの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.25質量%以下である。Coの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。Mgの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Siの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Niの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。Crの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Zrの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Moの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.3質量%以下である。Vの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Nbの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Mnの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Bの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Pの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。ただし、上記の添加量に限定されない。
【0025】
(厚み)
製品の厚み、つまり板厚(t)は0.02〜1.5mmであることが好ましい。特に板厚に制限はないが、板厚が大きすぎると、曲げ加工が困難になる。
【0026】
(ピーク時効温度)
本発明では、300〜500℃で2時間の熱処理を行ったときに、圧延直角方向の引張強さの最大値(TS
max)を求めることにより、ピーク時効温度を確認することができる。例えば、試験試料としてチタン銅板を11個用意し、300〜500℃で20℃刻みとなる温度に調整し、各温度条件に対応する試験試料をアルゴン雰囲気下で2時間熱処理する。次に、各試験試料について圧延直角方向の引張強さをそれぞれ計測する。そして、各試験試料における引張強さの最大値TS
maxを求め、このTS
max時のピーク時効温度を確認する。その際、強度安定性および耐変色性を有するという観点から、上記TS
maxが得られたピーク時効温度は420℃以下であることが好ましい。
なお、引張強さは、引張試験機を用いてJIS Z2241(2011)に準拠して測定する。
【0027】
(引張強さ)
圧延直角方向の引張強さのTS
maxは、800〜1200MPaであることが好ましい。上記TS
maxは、ばね材として用いることを考慮し、下限値として800MPa以上であることが好ましく、850MPa以上がより好ましく、900MPa以上が更に好ましい。一方、上記TS
maxは、熱処理時の強度安定性が良好であるという観点から、上限値として1200MPa以下が好ましく、1150MPa以下がより好ましく、1100MPa以下が更に好ましい。圧延直角方向に着目した理由としては、一般的なコネクタのばね性に影響を及ぼす特性は圧延直角方向の強度であることが挙げられる。
また、上記ピーク時効温度より20℃高い温度で2時間熱処理したときに、圧延直角方向の引張強さTS
1を測定し、さらに上記ピーク時効温度より20℃低い温度で2時間熱処理したときに、圧延直角方向の引張強さTS
2を測定する。熱処理後の強度安定性を良好にするという観点から、TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxがそれぞれ0.98以上であることが好ましく、それぞれ0.985以上であることがより好ましく、それぞれ0.99以上であることがより好ましい。なお、上記TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxは、最大で1.00である。
【0028】
(導電率)
ピーク時効温度で2時間の熱処理後のチタン銅板の導電率は、8〜20%IACSであることが好ましい。上記導電率は、当該チタン銅板が電子部品用途として良好に使用されるという観点から、下限値として好ましくは8%IACS以上であり、より好ましくは9%IACS以上であり、さらに好ましくは10%IACS以上である。また、上記導電率は、熱処理後の強度安定性を確保するという観点から、上限値として好ましくは20%IACS以下であり、より好ましくは18%IACS以下であり、さらに好ましくは16%IACS以下である。
なお、導電率は、JIS H0505に準拠して測定する。
【0029】
(強度安定性)
強度安定性試験によれば、熱処理後の強度のロット間のばらつきを確認することができる。例えば、試験試料となるチタン銅板を所定の大きさに複数枚を採取し、得られたサンプルを重ねて銅製の番線で固定し、ピーク時効温度で2時間の熱処理を行う。それらのサンプルについて、圧延直角方向の引張強さを調査し、得られた引張強さの最大値、最小値、および平均値を得る。そして、A(%)={(最大値−平均値)/平均値}×100とB(%)={(平均値−最小値)/平均値}×100とをそれぞれ算出する。このとき、ピーク時効温度における強度変化を小さくするという観点から、AとBがそれぞれ10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
なお、引張強さは、引張試験機を用いてJIS Z2241(2011)に準拠して測定する。
【0030】
(耐変色性)
本発明においては耐変色性によれば、チタン銅板が熱処理後の変色が少ないことを確認することができる。例えば、純度99.9vol%以上のアルゴンガスの雰囲気下、ピーク時効温度で2時間の熱処理を行なった後、希硫酸による酸洗後の半田濡れ性を評価する。半田濡れ性測定装置を使用し、フラックスとしてロジン25vol%とエタノール75vol%の混合溶液を用いる。チタン銅板の圧延直角方向が長手方向となるように10mm幅で30mm長さに切りだして試料を得た後、前処理として10vol%の希硫酸に10秒間浸漬し、水洗および乾燥を行う。また、半田浴としては、Sn−3質量%Ag−0.5質量%Cuを溶解して245℃に保持した溶融半田浴を用いる。なお、試料の長手方向の一端を半田浴に浸漬する際に、浸漬速度は5mm/s、浸漬深さは12mm、浸漬時間は10秒とし、半田濡れ試験後の濡れ上がり高さを測定する。その際、チタン銅板を熱処理した後における変色を防止するという観点から、濡れ上がり高さが6mm以上であることが好ましく、12mm以上であることがより好ましい。チタン銅板が熱処理後にほとんど変色しない場合には、熱処理後に酸洗研磨を行なわなくとも製品として使用可能であり、例えば、めっきを行なうときも化学研磨等の前処理を省略できる。
【0031】
[2.チタン銅板の製造方法]
チタン銅板の一般的な製造プロセスでは、まず溶解炉で電気銅、Ti等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。チタンの酸化損耗を防止するため、溶解及び鋳造は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。その後、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理の順で所望の厚みおよび特性を有する板に仕上げる。溶体化処理後には、熱処理時に生成した表面酸化膜を除去するために、表面の酸洗や研磨等を行ってもよい。また、高強度化のために、溶体化処理後に冷間圧延を行ってもよい。その後、プレスメーカーにてプレスおよび熱処理によって所望の特性および形状を得る。
【0032】
本発明に係るチタン銅板は、特に溶体化処理、その直後の仕上圧延の工程を適切な条件で実施することにより製造可能である。以下に、好適な製造例を工程毎に順次説明する。
【0033】
1)インゴット製造
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第3元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第3元素の溶解後に添加すればよい。従って、Cuに、第3元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計0.50質量%以下含有するように添加し、次いで第2元素としてTiを2.0〜4.5質量%含有するように添加してインゴットを製造することが望ましい。但し、第3元素の添加量は、0.05質量%以上が好ましい。なお、CuにTiと第3元素とを添加する順序は、特に限定されるものではない。
【0034】
2)均質化焼鈍及び熱間圧延
インゴット製造時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化焼鈍を行うことにより、できるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。具体的には、インゴット製造工程後には、材料温度を900〜970℃に加熱して3〜24時間均質化焼鈍を行った後に、熱間圧延を実施するのが好ましい。液体金属脆性を防止するために、熱間圧延前及び熱間圧延中は材料温度を960℃以下とするのが好ましい。
【0035】
3)溶体化処理
その後、冷間圧延と焼鈍を適宜繰り返してから、溶体化処理を行うのが好ましい。本発明においては、溶体化温度は750〜900℃であることが好ましい。上記溶体化温度は、再結晶が十分であり、熱処理後の上記TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxの比が高くなりピーク時効温度で熱処理後の強度安定性を向上させるという観点から、下限値として750℃以上が好ましく、775℃以上がより好ましく、790℃以上が更に好ましい。一方、上記溶体化温度は、熱処理後のTS
maxが800MPa以上にするという観点から、上限値として900℃以下が好ましく、875℃以下がより好ましく、850℃以下が更に好ましい。このときの昇温速度は、極力速くすることが好ましい。
【0036】
一方で、この溶体化処理時の冷却速度を調整し、溶体化後の冷却時に析出核を生成させることが重要である。冷却速度は50〜300℃/secであることが好ましい。上記冷却速度は、析出が抑制され核の生成が適度なものとなり、ピーク時効後の導電率が20%IACS以下となり、熱処理後の上記TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが所望とする範囲となりピーク時効温度で熱処理後の強度安定性を良好とするという観点から、下限値として50℃/sec以上が好ましく、75℃/sec以上がより好ましく、100℃/sec
以上が更に好ましい。また、上記冷却速度は、析出核の生成が過不足なく行われ、ピーク時効温度が420℃以下となり、熱処理後の変色を防ぐという観点から、上限値として300℃/sec以下が好ましく、275℃/sec以下がより好ましく、250℃/sec以下が更に好ましい。ここで、平均冷却速度とは、例えば冷却開始時の温度が750℃の場合、そこから100℃まで冷却するのに要した時間(冷却時間)を計測し、(750−100)(℃)/冷却時間(秒)によって算出した値(℃/sec)をいう。
【0037】
4)仕上圧延
溶体化処理後に温間による仕上圧延(以下、「温間圧延」ともいう。)を行う。好適な実施の態様において、温間圧延の加工度(圧下率)は、10〜70%であることが好ましい。上記加工度は、TS
maxが800MPa以上にするという観点から、下限値として10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、25%以上が更に好ましい。ただし、上記加工度は、TS
maxが1200MPa以下に調整し、熱処理後の上記TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが好適な範囲に維持されるので、熱処理時の強度安定性を良好にするという観点から、上限値として70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。加工度RはR(%)=((圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み)×100で定義される。
【0038】
また、温間による仕上圧延開始時の材料温度(以下、温間圧延温度)は360〜460℃の範囲に調整することが好ましい。上記範囲で温間圧延を行なうと、溶体化後の冷却過程で生成した析出物が温間圧延によって成長および新たな析出物が析出することでプレス加工後のピーク時効温度が低く、また、TS
min/TS
maxの比が所望の範囲内となり、熱処理時の強度安定性が良好となる。例えば、温間圧延温度は、360〜420℃が好ましい。上記温間圧延温度は、析出核の分散が十分であるため、ピーク時効温度が420℃以下となり、ピーク時効後の導電率も8%IACS以上にするという観点から、下限値として360℃以上が好ましく、380℃以上がより好ましく、390℃以上が更に好ましい。一方、上記温間圧延温度
は、析出物の粗大化をせずに、熱処理後の上記TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが所望の範囲内となり、熱処理時の強度安定性を向上させるという観点から、上限値として460℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましく、440℃以下が更に好ましい。ただし、温間圧延を実施せずに冷間圧延のみとした場合は、ピーク時効温度が420℃を超えると耐変色性が悪化し、また、熱処理後の上記TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが低くなり、熱処理時の強度安定性が悪化しやすくなる。なお、微細析出物の分散具合と粗大析出物の分散具合を温間圧延後の導電率から判断することは難しいため、上記温度の管理が重要である。
【0039】
なお、当業者であれば、上記各工程の合間および仕上圧延後に適宜、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト酸洗および脱脂等を行なうことができることは理解できるであろう。
【0040】
[3.プレス加工品の製造方法]
上述の製造方法で製造されたチタン銅板を、プレスメーカーにてプレス加工および時効処理によって所望の特性および形状を得る。例えばプレス加工および時効処理をこの順で実施する。プレス加工および時効処理は、典型的な条件で実施される。時効処理の温度は、当該処理後の材料の強度安定性および耐変色性が良好となるように、360〜420℃とするのが好ましい。また、時効処理の処理時間は、0.5〜4時間とするのが好ましい。なお、プレス加工品は、上述の製造方法で製造されたチタン銅板を備える。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0042】
[チタン銅の製造]
各実施例および各比較例のチタン銅板を製造するに際しては、活性金属であるTiが第2元素として添加されるから、溶製には真空溶解炉を用いた。また、本発明で規定した元素以外の不純物元素の混入による予想外の副作用が生じることを未然に防ぐため、原料は比較的純度の高いものを厳選して使用した。
【0043】
表1に記載の濃度のTiを添加し、場合により表1に記載の第3元素を更に添加して、残部銅及び不可避的不純物の組成を有するインゴットに対して950℃で3時間加熱する均質化焼鈍の後、900〜950℃で熱間圧延を行い、板厚10mmの熱延板を得た。面削による脱スケール後、冷間圧延を行った。その後、表1に記載の条件で溶体化および水冷を行った。具体的には、電気炉に試料を入れ、材料温度を熱電対で測定しつつ、表1に記載の材料温度に到達した時点で炉から取り出し水槽または所定の温度に保持した炉内に入れ冷却した。なお、電気炉に設置された熱電対で材料温度を測定した。また、水冷以外の冷却速度(℃/sec)は熱電対で測定した材料温度について溶体化温度から最終温度100℃となるまでの冷却時間から求めた。
その後、酸洗による脱スケール後、最終圧延として圧延を開始する際に表1に記載の材料温度になるように調整し、表1に記載の加工度になるように調整して、温間圧延(板厚0.15mm)を行った。
【0044】
上記のように作製した各試験片について、以下の条件で特性評価を行った。
【0045】
[成分]
各試験片について合金元素濃度をICP−質量分析法で分析した。その結果、添加した元素の組成比と実質的に同じであった。
【0046】
[ピーク時効温度試験と引張強さ]
試験番号毎に11個の試験片を用意した。これらの試験片に対して、300℃から500℃まで20℃刻みで熱処理し、熱処理温度と試験片の引張強さの関係を調査した。具体的には、一つ目の試験片を、純度99.9vol%のアルゴンガス雰囲気で炉温300℃に加熱した炉内に装入し、2時間加熱後に取り出して室温まで冷却した。熱処理後の試験片に対して、試験片の長手方向が圧延直角方向となるように、JIS Z2241(2011)に従い、引張試験機を用いて圧延直角方向の引張強さを測定した。二つ目の試験片を、炉温を320℃に変えた他は一つ目の試験片と同様の手順で加熱処理し、圧延直角方向の引張強さを測定した。同様に、熱処理温度を20℃ずつ変えることにより、全11個の試験片について圧延直角方向の引張強さをそれぞれ測定した。これにより、ピーク時効温度および当該温度における引張強さTS
maxを調査した。さらに、ピーク時効温度より20℃高い温度で時効処理した試験片の引張強さTS
1とピーク時効温度より20℃低い温度で時効処理した試験片の引張強さTS
2とをそれぞれ確認した。そして、TS
1/TS
maxとTS
2/TS
maxをそれぞれ算出した。なお、表2には、TS
1/TS
maxとTS
2/TS
maxのうち、いずれか低い数値を示した。
【0047】
[導電率]
純度99.9vol%のアルゴンガス雰囲気で表1に示すピーク時効温度で試験片をそれぞれ投入し2時間後に取り出した。次に、試験片の長手方向が、圧延面に平行な方向であって圧延方向に対して直角方向となるように試験片を採取し、JIS H0505に準拠し四端子法により20℃での導電率を測定した。
【0048】
[熱処理時の強度安定性]
上記試験片から50mm幅×150mm長さのサンプルを20枚採取し、それらを重ねて銅製の番線で固定し、純度99.9%以上のアルゴン雰囲気下で、ピーク時効温度(表1参照。)に設定した炉内に投入し、2時間後に取り出した。その後、再現性を確認するため、別のタイミングで同様の焼鈍を行った。それらのサンプルをJIS Z2241(2011)に従い、引張試験機を用いて、圧延面に平行な方向であって圧延方向に対して直角方向の引張強さを調査し、当該引張強さの最大値、最小値、平均値を得た。そして、A(%)={(最大値−平均値)/平均値}×100とB(%)={(平均値−最小値)/平均値}×100とをそれぞれ算出した。上記AおよびBがそれぞれ5%以下である場合に「◎」とし、上記AおよびBのいずれかが5%以内でないが、上記AおよびBがそれぞれ10%以下である場合に「○」とし、それ以外の場合に「×」とした。ここで、「◎」は熱処理時の強度安定性が優れ、「○」は熱処理時の強度安定性が良好であり、「×」は熱処理時の強度安定性が悪いと判断した。
【0049】
[熱処理時の耐変色性]
純度99.9vol%以上のアルゴンガスの雰囲気下、ピーク時効温度で2時間の熱処理を行なった後、希硫酸による酸洗後の半田濡れ性を評価することで変色の程度を評価した。株式会社レスカ製のソルダーチェッカ(SAT−5200)を使用し、フラックスとしてロジン25vol%とエタノール75vol%の混合溶液を用いた。各試験片の圧延直角方向が長手方向となるように10mm幅で30mm長さに切りだして試料を得た後、前処理として10vol%の希硫酸に10秒間浸漬し、水洗および乾燥を行った。また、半田浴としては、Sn−3質量%Ag−0.5質量%Cuを溶解して245℃に保持した溶融半田浴を用いた。なお、試料の長手方向の一端を半田浴に浸漬する際に、浸漬速度は5mm/s、浸漬深さは12mm、浸漬時間は10秒とし、半田濡れ試験後の濡れ上がり高さを測定した。濡れ上がり高さが12mm以上である場合を「◎」とし、6mm以上である場合を「○」とし、6mm未満である場合を「×」とした。ここで、「◎」は耐変色性が優れ、「〇」は耐変色性が良好であり、「×」は耐変色性が悪いと判断した。
なお、実施例および比較例を通じて、半田濡れ性が「◎」となった場合は熱処理後の目視による外観色調で変色が認められず(銅色)、「○」となった場合は例えば薄い青色への変色が認められ、「×」となった場合は銀白色又は黄金色への変色が認められた。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
[結果]
上述のように、試験片として、各発明例及び各比較例のチタン銅板を、表に示す各条件下で製造したところ、表2に示す特性を有することがわかった。このように、発明例1〜13で得られたチタン銅は、熱処理後のピーク時効温度が420℃以下であり、それぞれ熱処理後において、圧延直角方向のTS
maxが800〜1200MPaであり、さらに、TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxがそれぞれ0.98以上であったことにより、熱処理後の強度安定性および耐変色性に優れた。また、発明例1〜13で得られたチタン銅は、上記組成のチタン銅に対して、溶体化処理、温間による仕上圧延を上記各条件で行うことにより製造できることが分かった。
【0053】
比較例1はTi濃度が高いため熱間加工性が著しく悪く工程を進められなかった。
【0054】
比較例2はTi濃度が2質量%を下回ったため、熱処理後の引張強さが低かった。
【0055】
比較例3は溶体化温度が高いため、熱処理後の引張強さが低かった。
【0056】
比較例4は溶体化温度が低いため、TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが低く、熱処理後の強度安定性が劣った。
【0057】
比較例5および6は溶体化時の冷却速度が早いため、ピーク時効温度が高くなり、耐変色性が悪化した。
【0058】
比較例7は溶体化時の冷却速度が遅いため、TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが低く、熱処理後の強度安定性が劣った。
【0059】
比較例8は温間による温間圧延加工度が高いため、TS
maxが1200MPa以上となり、TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが低く、熱処理後の強度安定性が劣った。
【0060】
比較例9は温間による温間圧延加工度が低いため、TS
maxが800MPaを下回った。
【0061】
比較例10は温間圧延を開始する際の材料温度が低いため、ピーク時効温度が420℃以上となり、耐変色性が悪化し、また導電率が低かった。
【0062】
比較例11は温間圧延を開始する際の材料温度が高いため、TS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが低く、熱処理後の強度安定性が劣った。
【0063】
比較例12は温間圧延を行わなかったため、ピーク時効温度が高くなったことで耐変色性が劣り、さらにTS
1/TS
maxおよびTS
2/TS
maxが低くなったことで熱処理後の強度安定性が劣った。
【解決手段】Tiを2.0〜4.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるチタン銅板であって、圧延面に平行な方向であって圧延方向に対して直角方向の引張強さの最大値(TS