(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ADCチャンネルの個数が増加すると、全体的なコストと、システムの複雑さも増加する。例えば、フロント・エンド・チップは、望ましい値に達する正味の総合サンプル・レートを得るためには、今では、付加的なADC回路、クロック回路などを含んだより多数のADCチャンネルを駆動しなければならない。チップのサイズ及び複雑さは、通信パスがより長くなるという結果を生じ、それ故、寄生容量、電磁気的ノイズ、設計の困難さなどが増加する結果となる。
【0007】
他の技術では、入力信号の複数のサブ帯域(sub-bands)を、より低いサンプル・レートのADCを通過できる周波数範囲へとダウンコンバートさせるというものもある。言い換えると、広い入力帯域幅を、複数の低い帯域幅のADCチャンネルに分割させるというものである。デジタル化した後、これらサブ帯域は、それぞれの元の周波数範囲にデジタル的にアップコンバートされ、そして、入力信号を表すものに結合される。この技術の重大な欠点は、任意の入力信号の周波数の内容を1つだけのADCチャンネルに送って、その入力信号をデジタル化するときに、先天的にノイズというペナルティがあることである。再結合された出力は、信号エネルギーは1つのADCからだけのものを含むが、ノイズ・エネルギーの方は複数全てのADCからのものを含み、このために、信号対ノイズ比(SNR)が悪化する。
【0008】
そこで、本願出願人は、特許文献1において、非同期時間インタリーブ(ATI:asynchronous time-interleaved)アキテクチャを用いた複数のADCチャンネルの全てによって、任意の周波数の入力信号をデジタル化し、それによってノイズのペナルティを回避するための装置及び方法を開示した。しかし、特許文献1記載の発明では、回路自身に位相や振幅のエラーが発生することがあった。そこで、これらエラーを補正し、補償可能にすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明をいくつかの観点から見ていくと、本発明の概念1は、試験測定装置であって、
非同期時間インターリーブ(ATI:asynchronous time-interleaved)デジタイザと、
上記ATIデジタイザに補償信号を供給する補償発振器と、
上記ATIデジタイザに入力信号又は上記補償信号のどちらかを送るよう構成されるスイッチと、
上記ATIデジタイザに送られた上記補償信号に基いて、少なくとも1つの補償値を求めるプロセッサと
を具えている。
【0010】
本発明の概念2は、上記概念1の試験測定装置であって、
上記ATIデジタイザが複数のアナログ・ミキサを有し、
上記補償発振器、上記スイッチ及び少なくとも2つの上記アナログ・ミキサが集積回路内に組み込まれていることを特徴としている。
【0011】
本発明の概念3は、上記概念1の試験測定装置であって、上記補償発振器が同調(周波数調整可能な)補償発振器であることを特徴としている。
【0012】
本発明の概念4は、上記概念3の試験測定装置であって、上記同調補償発振器は、主に、少なくとも1つのバイポーラ接合トランジスタの入力容量を変化させることによって同調される(出力周波数を変化させる)ことを特徴としている。
【0013】
本発明の概念5は、上記概念1の試験測定装置であって、少なくとも1つの上記補償値が位相エラー値であることを特徴としている。
【0014】
本発明の概念6は、上記概念5の試験測定装置であって、
上記プロセッサが、
上記ATIデジタイザを通過した上記補償信号のオリジナル周波数成分と、上記ATIデジタイザを通過した上記補償信号の2コンバート(2回変換された)周波数成分との間の位相差に基づいて、上記位相エラー値を求めるよう更に構成されている。
【0015】
本発明の概念7は、上記概念5の試験測定装置であって、上記ATIデジタイザは、複数のアナログ・ミキサと複数のデジタル・ミキサを有し、少なくとも1つの上記デジタル・ミキサの混合関数は上記位相エラー値に基づいて変更される。
【0016】
本発明の概念8は、上記概念5の試験測定装置であって、上記ATIデジタイザは、上記位相エラー値に応じて、上記デジタル化信号をフィルタ処理するよう構成されたフィルタを有している。
【0017】
本発明の概念9は、上記概念1の試験測定装置であって、上記スイッチは、入力信号を取込み処理した後に、上記入力信号から上記補償信号へと自動的に切り換えることを特徴としている。
【0018】
本発明の概念10は、上記概念1の試験測定装置であって、このとき、上記補償値が振幅エラー値であることを特徴としている。
【0019】
本発明の概念11は、上記概念1の試験測定装置であって、上記補償値が、入力信号取込み処理の前に求められることを特徴としている。
【0020】
本発明の概念12は、上記概念1の試験測定装置であって、
上記アナログ・ミキサの1つと、上記デジタル・ミキサの1つの間にメモリを更に具え、
上記アナログ・ミキサの上記1つを通して処理した後、入力信号取込みデータを上記メモリに蓄積し、蓄積された上記入力信号取込みデータを上記デジタル・ミキサの上記1つによって処理する前に、補償エラーを求めることを特徴としている。
【0021】
本発明の概念13は、上記概念1の試験測定装置であって、各入力信号取込み処理の後に上記補償値を自動的に求めることを特徴としている。
【0022】
本発明の概念14は、上記概念9の試験測定装置であって、各入力信号取込み処理の後に上記補償値を自動的に求めることを特徴としている。
【0023】
本発明の概念15は、試験測定装置中の非同期時間インターリーブ(ATI:asynchronous time-interleaved)デジタイザ内の補償値を決定する方法であって、
上記ATIデジタイザにおいて、入力信号と、補償発振器からの補償信号とを切り換えるスイッチング処理と、
上記スイッチング処理で上記ATIデジタイザが上記補償信号を受けたときに、プロセッサにより、上記ATIデジタイザを通過した上記補償信号のオリジナル周波数成分と、上記ATIデジタイザを通過した上記補償信号の2コンバート(2回変換された)周波数成分との間の位相差に基づいて、補償値を決定する処理と
を具えている。
【0024】
本発明の概念16は、上記概念15の方法であって、上記補償値が位相エラー値であることを特徴としている。
【0025】
本発明の概念17は、上記概念15の方法であって、求めた上記補償値に基いて、デジタル・ミキサのデジタル混合(ミキシング)関数を変更する処理を更に具えている。
【0026】
本発明の概念18は、上記概念15の方法であって、上記スイッチング処理が、入力信号取込み処理の後に、上記補償信号に自動的に切り換える処理を含むことを特徴としている。
【0027】
本発明の概念19は、上記概念15の方法であって、上記補償値を入力信号取込み処理の前に求めることを特徴としている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、高調波混合処理(ミキシング)を用いた試験測定装置用のアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)システムに関する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態による高調波混合処理を用いた試験測定装置用のADCシステムのブロック図である。この実施形態では、装置には、スプリッタ10があり、これは、特定の周波数を有する入力信号12を複数の分配(スプリット)信号14及び16に分配するよう構成され、分配信号の夫々は、入力信号12のほぼ全スペクトラムを含んでいる。スプリッタ10としては、入力信号12を複数の信号に分配できるのであれば、種々の回路があり得る。例えば、スプリッタ10は、抵抗分割回路としても良い。このように、入力信号12のほぼ全周波数成分が、分配信号14及び16の夫々に存在することができる。しかし、パスの個数、使用される高調波信号などによって、スプリッタ10の種々の分配信号の周波数応答は、異なることがある。
【0031】
分配信号14及び16は、高調波ミキサ18及び24に夫々入力される。高調波ミキサ18は、分配信号14を高調波信号20と混合(ミックス)し、混合信号22を生成するよう構成される。同様に、高調波ミキサ24は、分配信号16を高調波信号26と混合し、混合信号28を生成するよう構成される。
【0032】
本願では、高調波ミキサは、信号を複数の高調波と混合するように構成されるデバイスである。詳しくは後述するように、乗算又は混合処理は、高調波混合処理と関連して説明されるが、信号を複数の高調波と乗算する効果を持つデバイスは、高調波ミキサとして利用可能である。
【0033】
いくつかの実施形態では、複数の高調波は、0次の高調波、つまり、DC(直流)成分を含んでも良い。例えば、いくつかの実施形態では、高調波信号20は、数式1で表される信号としても良い。
【0035】
ここで、F
1は、1次高調波を表し、tは時間を表す。このように、数式1の形式を有する信号は、DCと周波数F
1において高調波を有する。
【0036】
高調波信号26は、数式2で表される信号としても良い。
【0038】
高調波信号20と同様に、高調波信号26は、DCと周波数F
1において高調波を有する。しかし、周波数F
1における1次高調波は、高調波信号20中の同様の1次高調波に比較して、180度位相がずれている。
【0039】
デジタイザ30は、混合信号22をデジタル化するよう構成される。同様に、デジタイザ32は、混合信号28をデジタル化するよう構成される。デジタイザ30及び32としては、種々のデジタイザがあり得る。図示せずも、デジタイザ30及び32の夫々は、必要に応じて、増幅回路、フィルタ、減衰回路などのアナログ回路を設けても良い。そのため、デジタイザ30に入力された混合信号22は、デジタル化される前に、増幅や減衰されたり、また、フィルタ処理されることがある。
【0040】
デジタイザ30及び32は、有効サンプル・レートで動作するよう構成される。いくつかの実施形態では、デジタイザ30は、1つのアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)を含むとしても良い。しかし、別の実施形態では、デジタイザ30は、より低いサンプル・レートで動作するインタリーブされた複数のADCを含むとし、より高い有効サンプル・レートを実現するようにしても良い。
【0041】
高調波信号20及び26の少なくとも一方の1次高調波は、デジタイザ30及び32の少なくとも一方の有効サンプル・レートとは異なっている。例えば、高調波信号20の1次高調波F
1は、34GHzということがあり得る。デジタイザ30のサンプル・レートは、50GS/sということがあり得る。このように、1次高調波F
1は、有効サンプル・レートとは異なる。
【0042】
いくつかの実施形態では、高調波信号の1次高調波は、複数のデジタイザの少なくとも1つの有効サンプル・レートの整数倍又は約数である必要はない。言い換えると、いくつかの実施形態では、高調波ミキサに関連する高調波信号の1次高調波は、複数のデジタイザの少なくとも1つの有効サンプル・レートの整数倍又は約数ではない。
【0043】
いくつかの実施形態では、高調波信号の1次高調波は、複数のデジタイザの少なくとも1つの有効サンプル・レートと、複数のデジタイザの少なくとも1つの有効サンプル・レートの半分の間としても良い。具体的には、詳しくは後述するように、こうした周波数であれば、1次高調波の前後の高い周波数成分を、デジタイザ30のサンプル・レートの半分より低い周波数に混合処理により低下させることができる。そのため、こうした周波数成分であれば、デジタイザ30によって効果的にデジタル化できる。
【0044】
当然のことながら、入力信号12の全ての帯域が全てのパスを通過する。言い換えると、1つの入力信号12を処理するのに、2つ以上のチャンネルが組み合わせられた場合、各チャンネル又はパスは、入力信号12の全帯域幅を受ける。入力信号12は、全てのデジタイザを通って伝送されるので、信号対ノイズ比は、大幅に改善される。
【0045】
フィルタ36は、デジタイザ30からのデジタル化混合信号34をフィルタ処理するように構成しても良い。同様に、フィルタ42は、デジタイザ32からのデジタル化混合信号40をフィルタ処理するように構成しても良い。高調波ミキサ46及び52は、フィルタ処理混合信号38及び44を高調波信号48及び54と夫々混合(ミックス)するように構成される。いくつかの実施形態では、高調波信号48及び54は、対応する高調波信号20及び26と、周波数及び位相に関して、実質的に同様としても良い。高調波信号20及び26がアナログ信号である一方、高調波信号48及び54はデジタル信号であるが、これら高調波信号についての拡大縮小率(scaling factor)は、互いに同じか又は同様としても良い。出力信号50及び56は、再混合信号50及び56と呼ばれる。結合器(combiner)58は、再混合信号50及び56を結合し、再構成入力信号60にする。いくつかの実施形態では、結合器58は、単なる信号の加算以上のことを実施しても良い。例えば、平均化処理、フィルタ処理、拡大縮小処理などを、結合器58で実施しても良い。
【0046】
フィルタ36及び42、高調波ミキサ46及び52、高調波信号48及び54、結合器58、その他の関連する要素は、デジタル的に実現しても良い。例えば、好ましい適切な周辺デバイスと共に、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)、マイクロプロセッサ、プログラマブル・ロジック・デバイス、汎用プロセッサその他の処理システムを、デジタル化信号の処理機能を実現するために利用しても良い。こうした機能を実現するのに、完全に集積されたものから、完全なディスクリート部品までの間の種々なものが利用できる。
【0047】
何らかの形で、高調波信号20、26、48及び54の同期処理が用いられる。例えば、高調波信号20及び26の高調波は、デジタイザ30及び32に関するクロックにロックしてもよい。他の例では、高調波信号をデジタル化しても良い。そして、1次高調波を高調波信号48及び54を同期するのに利用できる。他の例では、混合信号22及び28の1つ以上に帯域外のトーン(tones)を加えても良い。34GHzの1次高調波を用いて、19.125GHz及び21.25GHzのトーン、つまり、34GHzの9/16及び10/16を混合信号22に加えても良い。これらトーンは、フィルタ36で結果的にもたらされるフィルタ処理の帯域幅、つまり、遷移帯域によって決まる約18GHzの外であるから、これらトーンは、再構築信号60に対する影響は無視できる。しかし、これらトーンは、ナイキスト周波数よりも小さい、つまり、50GS/sのサンプル・レートについての25GHzよりも小さいので、これらトーンは、フィルタ処理される前のデジタル化混合信号34を用いて取込むことができる。この技術を用いるかに関係なく、高調波信号20及び26並びにデジタル高調波信号48及び54間の位相及び周波数の関係は維持できる。
【0048】
図2〜
図8は、
図1の試験測定装置用のADCシステム中の種々の信号のスペクトラム成分の例を示している。
図1及び
図2を参照すると、スペクトラム100は、入力信号12の、よって、分配信号14のスペクトラムとしてあり得るものである。上述の数式1で定義される高調波信号の例を用いると、分配信号14のDC成分は、スペクトラム100で表されるように通過する。しかし、入力信号12中のスペクトラム100は、周波数F
1で1次高調波とも混合される。結果として得られるスペクトラム102は、こうした混合処理の生成物である。こうして、混合信号22は、スペクトラム100及びスペクトラム102の成分を含む。ここにおいて、そして他の図において、スペクトラム成分は、分離し、重複するよう描かれているが、実際のスペクトラムは、スペクトラム100及び102を組み合わせたものである。
【0049】
図1及び
図3を参照すると、スペクトラム112は、同様にして、入力信号12を高調波信号26のDC高調波と混合処理したことによる混合信号28の成分を表す。しかし、
図2と対比して、スペクトラム112は、
図2のスペクトラム102に比較して180度の位相差がある。上述のように、高調波信号26の1次高調波は、高調波信号20の1次高調波から180度位相がシフトしている。高調波信号26中の180度の位相シフトは、スペクトラム112における180度の位相シフトを誘発する。180度の位相差は、点線として示されている。
【0050】
図4及び
図5は、フィルタ処理混合信号38及び44のスペクトラムを表す。いくつかの実施形態では、フィルタ処理は、対応するデジタイザ30及び32が固有に備えるフィルタ処理機能としても良く、フィルタ36及び42、その他の機能としても良い。
図1では、フィルタ処理は、デジタイザ36及び42の後で行われるとして描かれているが、フィルタ処理は、他の位置で実行されても良い。例えば、フィルタ処理は、デジタル化する前に行っても良い。混合信号22及び28は、デジタイザ30及び32の有効サンプル・レートの半分に近いカットオフ周波数を有するローパス・フィルタで、フィルタ処理されるとしても良い。フィルタ36及び42のフィルタ処理を、こうした固有又は誘発されるフィルタ処理に加えても良い。
【0051】
いくつかの実施形態では、混合信号22及び28の正味のフィルタ処理は、高調波信号20及び26の1次高調波の周波数の約半分に関して、ほぼ相補的な周波数応答という結果が得られるようにしても良い。つまり、周波数F
1/2よりあるオフセットだけ高い位置での周波数応答と、周波数F
1/2よりあるオフセットだけ低い位置での周波数応答が加えられる。1つを例として用いたが、信号の拡大縮小処理などの要求に応じて、他の値を用いても良い。更には、上述の例は、理想的な場合として記述されている。つまり、実現されるフィルタ処理は、理想的でない成分、校正処理などを考慮して、異なる応答を持つようにしても良い。
【0052】
上述した34GHzのF
1を用いた周波数応答の具体例では、周波数F
1/2は17GHzとなる。DCから16GHzまでは、周波数応答は1となる。16から18GHzまでは、周波数応答は1からゼロまで線形に変化し、17GHzで1/2を通過する。
【0053】
図4に示す結果として得られるスペクトラム成分は、フィルタ処理混合信号38を表し、スペクトラム120で表されるスペクトラム100の低周波数部分と、スペクトラム122で表されるスペクトラム102の低周波数部分とを含む。混合処理によって、スペクトラム122は、周波数に関して反転しているが、スペクトラム100の高い方のサブ帯域の周波数成分を含むことに注意されたい。同様に、
図5のスペクトラム成分130及び132は、
図3のスペクトラム110及び112の低周波数成分に対応する。スペクトラム112の180度の位相関係は、スペクトラム132でも保持されている。
【0054】
従って、高調波混合処理を通して、入力信号の2つのサブ帯域は、サブ帯域のスパンがデジタイザ30及び32に関するナイキスト帯域を超えていたとしても、デジタル化される。この実施形態では、混合信号の夫々は、アナログ、デジタル、フィルタ処理されているのいずれであっても、入力信号12のサブ帯域夫々の成分を含んでいる。つまり、この例では、混合信号22及び28からフィルタ処理デジタル化混合信号38及び44までの信号の夫々が、スペクトラム100の低周波数サブ帯域及び高周波数サブ帯域の両方を含んでいる。
【0055】
具体的には、入力信号12の複数のサブ帯域は、ベ―スバンド・サブ帯域の帯域幅内に周波数シフトされている。いくつかの実施形態では、入力信号12のサブ帯域の夫々は、1つのサブ帯域の帯域幅内に周波数シフトされても良い。しかし、サブ帯域及び高調波信号の数によっては、各サブ帯域が各混合信号中に存在しないかもしれない。
【0056】
図6及び
図7は、再混合信号50及び56のスペクトラムを表す。
図1及び
図6を参照すると、スペクトラムは、再混合信号50を表す。上述のように、フィルタ処理デジタル化混合信号38は、高調波ミキサ46において、高調波信号20と周波数及び位相に関して実質的に同様な高調波信号48と混合される。従って、
図4のスペクトラムは、DC成分及び1次高調波と混合される。
【0057】
スペクトラム140及び142は、
図4のスペクトラム120及び122をDC成分と混合することから生じるスペクトラムを表す。スペクトラム144は、スペクトラム120を1次高調波と混合した結果を表す。スペクトラム146及び148は、
図4のスペクトラム122と1次高調波の混合処理を表す。
【0058】
同様に、
図7は、再混合信号56のスペクトラムを表す。スペクトラム150及び152は、DC成分と
図5のスペクトラムの混合処理を表す。スペクトラム154は、高調波信号54の1次高調波と
図5のスペクトラム130の混合処理を表す。具体的には、高調波信号54の1次高調波は、相対的な180度位相シフトがあるので、得られるスペクトラム154も、点線で表される180度位相シフトがある。
【0059】
図5のスペクトラム132も高調波信号54の1次高調波と混合されるが、スペクトラム132には、180度の誘発された位相シフトが既にある。そのため、追加の180度位相シフトは、スペクトラム156及び158の実線で表される、事実上の0度の位相シフトという結果になる。
【0060】
図8は、
図8の再構成入力信号60のスペクトラム160を示す。スペクトラム162及び164は、スペクトラム160を形成するサブ帯域の成分を表す。スペクトラム166は、
図6及び
図7に関して記述された混合処理から生じる付随の側波帯(サイドバンド)を表す。この実施形態では、スペクトラム166をフィルタ処理で除いても良いが、他の実施形態では、サブ帯域が1次高調波周波数F
1を超えて広がっていることがある。そうした実施形態では、低周波数サブ帯域から生成されるスペクトラム166を、相殺する組合せを用いて除去するようにしても良い。
【0061】
再混合信号50及び56の成分の相対的な位相合わせによって、元々の周波数範囲にあるサブ帯域は、建設的に結合する一方、元々の周波数範囲にないサブ帯域は、相殺的に結合するように位相が合わせられる。
図6〜
図8を参照すると、結合した場合に、スペクトラム140及び150は建設的に結合し、スペクトラム162が得られる。スペクトラム142及び152は、スペクトラムが180度位相がずれているので、相殺的に結合する。こうして、ベースバンド・サブ帯域内のスペクトラムから残るサブ帯域は、元々のサブ帯域である。
【0062】
同様に、約F
1/2からF
1までのサブ帯域については、スペクトラム146及び156は建設的に結合してスペクトラム164となる一方、スペクトラム144及び154は相殺的に結合する。スペクトラム148及び158は建設的に結合してスペクトラム166となるが、これは、この場合では、おおよそ周波数F
1より下の期待される入力信号周波数範囲を超えているので、フィルタ処理で除いても良い。
【0063】
スペクトラム162及び164で示されるように、周波数F
1/2のあたりで遷移が生じる。この遷移は、
図4及び
図5を参照して上述したフィルタ処理の結果である。具体的には、スペクトラム162及びスペクトラム164の傾斜は、相補的である。そのため、スペクトラム162及び164の周波数成分が結合されると、スペクトラム160の中の得られる部分は、元の周波数スペクトラムとほぼ一致する。
【0064】
従って、入力信号12を種々の高調波信号と混合処理することによって、入力信号12のサブ帯域は、デジタイザのより低い帯域幅を通過できる。混合信号は、重複するサブ帯域を含んでいたとしても、複数の高調波信号の位相合わせ処理のために、これらサブ帯域は建設的及び相殺的に結合し、結合されたときに、上述のように、入力信号12をほぼ正確に表すものを生成する。
【0065】
図9〜
図12は、
図1の高調波ミキサの例のブロック図である。いくつかの実施形態では、ミキサは、分配信号14及び16を、夫々と対応する高調波信号20及び26と混合するために利用できる。全てポートにおいてDC及びベースバンド信号が通過できるミキサが、高調波ミキサとして利用できる。
【0066】
図9A及び
図9Bは、高調波ミキサの例を示し、これらは、上述した高調波ミキサ18、24、46及び52の任意の1つ以上のものを表すとして良い。
図9Aは、2出力時間インタリーブ・スイッチを示す。
図9Bは、N出力時間インタリーブ・スイッチを示す。
【0067】
これら実施形態では、スイッチ180及び181は、入力信号182を受けるように構成される。2出力スイッチ180を使う場合、入力信号182は、制御信号188に応答して出力端子184及び186へとスイッチされる。N出力スイッチ181を使う場合では、入力信号182は、制御信号188に応答して、出力184、186から第N番出力187までへとスイッチされる。例えば、スイッチ181は、N投(N-throw)スイッチまでの3投スイッチ、4投スイッチなどでも良く、これは、入力信号182がその時間のN分の1を各ポイント、つまり、出力端子において過ごす。更なるパス及びサブ帯域が追加されたら、高調波信号の高調波が適切に位相整合されるようにしても良い。いくつかの実施形態では、高調波信号の相対的な位相シフトは、1周期をサブ帯域の数で割った時間シフトだけ位相に関して間隔を空けるようにしても良い。
【0068】
クロック・サイクル全体に比較してパルスが短くなれば、高調波の含有がもっと豊富になる。例えば、2出力又は3出力スイッチについては、0次高調波(DC)及び1次高調波が使用される。4出力又は5出力スイッチについては、0次高調波、1次高調波及び2次高調波を使用できる。6出力又は7出力スイッチについては、0次高調波、1次高調波、2次高調波及び3次高調波を使用できる。Nが増加するほどパルスが狭くなり、それによって、高調波の含有がもっと豊富なものを生成する。制御信号188は、1次高調波の基本周波数か、上述した他の適切な高調波周波数を有する信号としても良い。
【0069】
入力信号182の全帯域は、全パスを通過する、つまり、出力パスの夫々に行く(例えば、184、186から第N番出力187まで)
【0070】
例えば、スイッチ180を参照すると、制御信号188は、34GHzの基本周波数を有する矩形波としても良い。スイッチングの結果として、出力184は、制御信号の周期の半分の間は入力信号182を受け、周期の反対の半分の間は約ゼロである。事実上、出力184は、入力信号184に矩形波を乗算したものであり、34GHzでゼロと1の間を変動する。こうした矩形波は、数式3で表すことができる。
【0072】
数式3は、このような矩形波のテイラー級数展開である。DCと最初の2つの高調波を載せている。ここで、F
1は、34GHzである。成分の振幅は異なるものの、数式1及び3は、類似する高調波を含んでいる。
【0073】
出力186は、出力184と同様であるが、入力信号182が出力186に送られる時間周期は、出力184に比較して反転している。その効果は、再度、入力信号182に、数式4で定義される矩形波を乗算したものと同様となる。
【0075】
数式3と同様に、数式4は、数式2に記載された高調波信号と類似する。このように、スイッチ180のスイッチングの乗算効果は、上述の分配信号を高調波信号に混合処理するのとほぼ同様である。加えて、この例では、スイッチは、スプリッタ10並びに高調波ミキサ18及び24の両方の役割もする。しかし、他の実施形態では、スイッチ180は、単極単投スイッチとして、1つの高調波ミキサとして作用するとしても良い。
【0076】
DC成分及び1次高調波の相対的な振幅は異なるが、こうしたバランスの悪さは、適切なパス中の補償フィルタを通すことで補正できる。例えば、上述した周波数F
1/2及び周波数F
1間のサブ帯域は、ベースバンド・サブ帯域に比べて、結合器58における再結合の間、異なる利得が適用されるようにしても良い。
【0077】
加えて、上記数式3及び4は、3次高調波も記載している。いくつかの実施形態では、3次高調波が望ましいことがある。しかし、もしなければ、こうした高調波の効果は、適切なフィルタ処理で補償できる。例えば、入力信号12は、周波数F
1より上の周波数成分を除去するためにフィルタ処理されても良い。このため、3*F
1の周波数で混合するような、こうした周波数成分は存在しないようになる。更には、デジタイザの前のフィルタ処理によって、エイリアシングによってデジタル化信号に影響を与えかねない任意の高次周波数成分を除去できる。
【0078】
アナログ不整合(ミスマッチ)が原因のインタリーブ・エラーの場合には、混合処理クロックの振幅及び位相についてハードウェアを調整しても良い。次に、その調整では、インタリーブ不整合(ミスマッチ)による疑似信号を最小化するよう校正しても良い。これに代えて、又は、上記やり方に加えて、ハードウェア不整合の特性を調べ、線形時間可変補正フィルタを用いて、インタリーブ疑似信号をキャンセルするようにしても良い。更に、場合によっては、スイッチが完璧には動作しないかもしれない。例えば、正常状態からずれたスイッチでは、1方向において他方向でよりも多くの時間を費やし、これによって、デューティー・サイクルにスキューを起こすことがある。デジタル高調波ミキサ46及び52は、アナログ高調波信号20又は26中に存在することがある位相及び振幅エラーを、デジタル高調波信号48又は54の振幅又は位相を微調整することによって、補償する構成しても良い。
【0079】
図10は、他の高調波ミキサの例である。スイッチング回路200は、2つの入力信号202及び204を、制御信号206に応答して、出力208及び210に交互にスイッチするように構成される。制御信号206は、スイッチング回路200の中のスイッチがスイッチ動作可能となるように、再度、矩形波又は他の同様な信号としても良い。制御信号206の半サイクルの間、入力信号202が出力208にスイッチされる一方、入力信号204は出力210にスイッチされる。残りの半サイクルの間は、入力信号202が出力210にスイッチされる一方、入力信号204は出力208にスイッチされる。
【0080】
いくつかの実施形態では、入力信号204は、入力信号202を反転及び拡大/縮小したものとしても良い。こうした上述の入力及びスイッチングの結果として、
図9Aのスイッチ180に関して上述したレベルから、DCと他の高調波がバランスを取り戻す。例えば、入力信号204は、入力信号202の分数で且つ反転したものとしても良い。
図9Aのスイッチ180を用いた1及び0の間のスイッチングに代えて、出力端子208及び210の有効出力は、例えば、1と(2-π)/(2+π)の間でスイッチングするとしても良い。このように、複数の高調波間で所望のバランスとなるように、振幅及びDCレベルを希望に応じて調整しても良い。
【0081】
図11は、高調波ミキサの別の例を示す。高調波ミキサ170は、スプリッタ172、ミキサ175及び結合器177を含む。スプリッタ172は、入力信号171を信号173及び174として分配するよう構成される。信号174は、結合器177に入力される。信号174は他の信号と混合されないので、信号174は、上述の高調波ミキサのDC成分としての役割を果たす。
【0082】
信号173は、ミキサ175に入力される。信号176が、信号173と混合される。いくつかの実施形態では、信号176は、上述の周波数F
1のような単一の高調波としても良い。もし追加の高調波を希望するなら追加のミキサを用意すれば良く、夫々の出力は結合器177で結合される。
【0083】
別の実施形態では、信号176が複数の高調波を含んでも良い。ミキサ175のポートの帯域幅が所望の周波数範囲を収容できる限り、1つのミキサ175を利用できる。しかし、上述の高調波信号のDC成分は、異なるパスによって結合器177に渡されるので、信号173及び176を受けるミキサのポートは、DCに至るまで動作する必要はない。従って、広く多種のミキサを用いることができる。信号179及び174が結合器177で結合された時点で、出力信号178は上述の混合信号とほぼ同様となり得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、スプリッタ172は、入力信号171を対称に分配できるが、対称に分配する必要はない。スプリッタの信号174を出力する側は、上述のフィルタ処理カットオフ周波数以上の帯域幅を持つようにしても良い。スプリッタ172の信号173を出力する側は、信号176の高調波が中心に来る周波数範囲であって、上述のフィルタ処理カットオフ周波数の2倍以上の帯域幅を持つ周波数範囲を持つようにしても良い。言い換えると、スプリッタ172の周波数応答は、各パスについて等しい必要はなく、希望に応じて設定しても良い。
【0085】
図12は、
図9Aの一般的な形態の高調波ミキサの別の例である。この実施形態では、高調波信号224は、トランス225を通して、ミキサと同様なダイオード・リング220に入力できる。入力信号222は、トランス225のタップに入力できる。従って、高調波信号224に応じて、入力信号222は、出力端子226及び228の間でスイッチされる。例えば、高調波信号224は、トランスの下部がプラスで上部がマイナスのときに左ダイオード227をオンにし、トランスの極性が反対のときに右ダイオード229をオンにする。このようにして、入力信号222は、出力端子228及び出力端子226に交互に送られる。いくつかの実施形態では、追加のダイオード・リングを用いて出力端子を終端したり、入力信号222のサブ帯域の反転部分を入れて、より高い利得を実現したり、
図10の形態のように、複数の高調波のバランスの悪さを補償したりといったことなどを行うようにしても良い。
【0086】
いくつかの実施形態では、2つのパス及び重複する2つのサブ帯域が実現される。しかし、上述のように、任意の数のパス及びサブ帯域を用いても良い。このような実施形態では、使用する高調波の数は、1にサブ帯域の数の半分を加えて端数を切り捨てたものにでき、このとき、DCは、0次高調波として含まれる。例えば、3つのサブ帯域については、2つの高調波だけが利用できる。上記周波数範囲を例として用いると、1次高調波は、周波数F
1よりも高い周波数をベースバンド・サブ帯域まで周波数シフトできる。高調波信号の複数の1次高調波は、120度の複数の相対位相シフトに位相を合わせるようにしても良い。
【0087】
従って、結合器58における結合処理中に、サブ帯域が適切な周波数範囲にあるときは、サブ帯域のスペクトラムは、0度の相対位相シフトのような同じ位相シフトを持つことになる。対照的に、適切でない周波数範囲にある1つのサブ帯域の3つの成分は、位相に関して互いに120度だけずれる。結果として得られるスペクトラムは、適切でないサブ帯域を除去するように相殺的に結合する。更にパスとサブ帯域が追加されたら、複数の高調波信号の高調波の位相を適切に合わせるようにしても良い。いくつかの実施形態では、高調波信号の相対的な位相シフトは、1周期をサブ帯域の数で割った時間シフトだけ位相に関して間隔を空けるようにしても良い。
【0088】
上述してきた実施形態では、デジタル化信号は、ほぼ直ぐに処理されるものとしたが、こうしたデジタル化後の処理は、希望があれば、遅らせることができる。例えば、デジタイザ30及び32からのデジタル化データは、後で処理するために、メモリに蓄積することができる。
【0089】
更には、デジタル的なフィルタ処理、混合処理及び結合処理は、別々の動作として説明してきたが、こうした動作を組み合わせて、他の機能などに組み入れても良い。加えて、上述の説明は、理想的な成分を仮定していたので、こうした処理に追加の補償を適切に導入し、理想的でない成分を補正するようにしても良い。更には、デジタル化信号を処理するとき、周波数範囲の変更、混合処理などは、そうした変化を表すのに、より高いサンプル・レートが必要ということになる。このとき、デジタル化信号であれば、必要に応じて、アップサンプル、補間などができる。
【0090】
上述したデジタル高調波ミキサ46及び52は、アナログ高調波信号20又は26中に存在することがある位相エラーを、デジタル高調波信号48又は54の振幅又は位相を微妙に調整することによって補償するよう構成できる。種々の信号成分の時間又は温度に対する遅延によるシフトは、許容量を超える位相シフトの原因となることがある。アナログ高調波信号の生成回路、アナログ・ミキサ、チャンネルのアナログ回路からデジタル回路に到るまでなどにおける遅延シフトは、全て、アナログ・ミキサ18及び24とデジタル・ミキサ46及び52との間のそれぞれにおいて、位相エラーの原因となる。
【0091】
もし位相エラーが補正されず、位相エラーが混合処理されると、再構成波形の上位帯域内の周波数成分に等しい位相エラーをもたらし、システムのステップ応答における歪みにつながる。加えて、振幅エラーは、クロスオーバー(重複)帯域内の周波数成分に、後述の如く、その周波数成分を表す非コンバート・ベクトルと2回コンバート・ベクトルとして生じ、よって、振幅エラーは、再構成処理の最後近くにおいて一緒に加算されたときに、適切に整合しないことになろう。
【0092】
本発明による試験測定装置の実施形態の中には、
図13に示すように、補償発振器300及びスイッチ302を含むものがある。補償発振器300からの補償発振信号304は、非同期時間インターリーブ(ATI)デジタイザの入力へとスイッチ302を介して切り換えて供給できる。補償発振器300は、詳しくは後述のように、位相及び振幅エラーを求め、もって、これら位相及び振幅エラーを除去するのに利用できる。
【0093】
補償発振器300及びスイッチ302は、ATIデジタイザ用の集積回路内に含まれるので、システムに対するコスト及び消費電力の追加的な増加は、ほとんど無視できる程度である。更に、システムが、クロスオーバー帯域内の周波数に補償発振器300を設定するための適切な同調電圧を必ず見つけられるように、補償発振器300は、ATIデジタイザ用集積回路で処理するであろうと思われる中心周波数の近辺よりは、確実に広い周波数レンジに渡って同調可能なものとする。
【0094】
補償発振器300からの補償信号304の周波数は、クロスオーバー帯域内に同調されるので、補償信号304は、そのオリジナル(即ち、非コンバート)周波数と、ダウン・コンバートされてから更にデジタル的にアップ・コンバートされる(2回コンバート又は単に2コンバート)周波数成分との両方で、ATIデジタイザの1つのADCチャンネルを伝わる。補償信号304のオリジナル周波数成分の位相は、アナログ及びデジタル高調波信号間の位相エラーに影響されることはないが、2回コンバートされた成分の位相は影響される。
【0095】
位相エラー値は、位相エラーに影響されたなかった補償信号304のオリジナル周波数成分と、ATIデジタイザのADCチャンネルを通過して位相エラーに影響された2回コンバート成分とを比較することによって求めることができる。これら値の比較によって、そのADCチャンネル中のアナログ及びデジタル・ミキサ間の位相エラー値が得られる。次に、この位相エラーを用いて、上側のADCチャンネルの場合なら、アナログ・ミキサ18又はデジタル・ミキサ46のどちらかの混合処理機能を調整できる。ミキサ18又は46の一方の混合機能を調整したり、
図13の下側のADCチャンネルの場合なら、ミキサ24又は52の一方の混合機能を調整することによって、再構成波形から位相エラーを除去できる。これに代えて、デジタル・ミキサ46及び52への入力における位相シフトは、出力における位相シフトを生じさせるので、上側ADCチャンネルのデジタル・フィルタ36の遅延を変化させるか、又は、下側ADCチャンネルのデジタル・フィルタ42の遅延を変化させることによって、位相エラーを除去しても良い。
【0096】
好ましくは、補償発振器300の補償信号304は、前もってではなくて、被試験信号を取り込んだ直後にスイッチ306を切り換えて入力端子に供給することで、デジタル・ミキサ46及び52の混合機能を補正するか、又は、デジタル・フィルタ36及び42の遅延を補正するために、位相エラーの測定値を利用できるようにすると良い。この情報は、ATI信号再構成をポスト・アクイジション(信号データを取り込んだ後で必要な処理をすること)で行う場合に初めて必要となる。
【0097】
図14に示すように、上側ADCチャンネルのデジタイザ30及びフィルタ36の間にメモリ400を設け、下側ADCチャンネルのデジタイザ32及びフィルタ42の間にメモリ402を設けるようにしても良い。これによって、信号取込みを行ってから、デジタル化混合信号34及びデジタル化混合信号40を、それぞれのフィルタ36及び42に送る前に、メモリ400及び402にそれぞれ蓄積できる。
【0098】
デジタル化混合信号34及びデジタル化混合信号40をメモリ400及び402に蓄積した後、スイッチ302は、ユーザからの入力(指示)がなくても、補償発振器300からの補償信号304の供給を自動的に開始するようにしても良い。例えば、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)、プログラマブル・ロジック・デバイス、汎用プロセッサその他の処理システムを利用すれば、必要な適切な周辺デバイスと合わせて、補償発振器300からの補償信号304に自動的に切り換えることができる。上述のように位相エラーを求めることができ、デジタル・ミキサ46及び52の混合処理機能又はデジタル・フィルタ36及び42の遅延量を調整できる。混合機能又はフィルタの遅延量を位相エラーに基いて変更したら、
図1に関して上述したように、ADCチャンネルの残りの部分を用いてデジタル化混合信号34及び40を処理できる。
【0099】
信号を取り込んだ後に補償を実行することで、補償モードと信号取込みモードとの間における位相ドリフトの影響を最小限にできる。これは、トリガ・イベントを待ち続けて、信号取込み状態が長時間続いた場合では、その間に位相ドリフトが生じている場合もあり得るという点から考えて有益である。トリガ・イベントを待ち続けて、どのくらい長い間、信号取込み状態を続けることになるかを事前に知る方法はないので、信号取込み前の補償の実行は、信号取込み前の任意の時点とする。しかし、もしシステムの位相安定性が充分に良いなら、補償プロセスは信号取込みの前に実行しても充分であることも多い。更に、もしユーザが補償が必要だと判断したら、ユーザが、試験測定装置のメニューを使って補償を開始させても良い。
【0100】
補償発振器300がイネーブルにされると、入力信号の取込みは、スイッチ302によって自動的にオフになって、補償信号304に切り換えられ、ユーザによる操作への関与無しに、補償が実行されるようにしても良い。更に、トリガ・イベントが検出された後、ユーザの入力(指示)無しに、プロセッサなどを用いて、上述のように、補償信号304に切り換えられるようにしても良い。補償発振器300も、各信号取込み処理の後に自動的にオンになって、位相エラー又は振幅エラーを求めるために補償信号304を供給しても良い。
【0101】
デジタイザ30及び32は、アナログ・ミキサを通過する非コンバート信号が同時にサンプルされないという状況で、それぞれのサンプリング・クロック間の位相ドリフトに苦しむことがある。また、デジタイザ30及び32自身も、その有効サンプル・レートを実現するために、同期時間インタリーブのような、インタリーブ技術を採用することがある。この場合、デジタイザ30及び32内のインタリーブされた信号取込みデータのパイプ(複数の並行する処理)は、同様に、それぞれのサンプリング・クロックの位相ドリフトに苦しむことがある。この場合も、補償発振器300を利用して、ATIフロントエンドを介して、各ADCチャンネルに補償信号304を供給し、各ADCチャンネル内又は複数ADCチャンネル間の信号取込みデータのパイプの位相エラーを求めることができる。これは、補償発振器300をクロスオーバー帯域外に同調させて、これによって各ADCチャンネルの帯域幅内で、アナログ・ミキサ18及び24から1つのトーン(tone)だけが出力されるようにすることで実現できる。これに代えて、もし補償発振器300の周波数をクロスオーバー帯域内に留めるなら、各ADCパイプの位相を測定するのに利用されるサイン・フィット(正弦曲線近似、正弦曲線へのあてはめ)アルゴリズムを非コンバート周波数成分だけに合わせて、イメージ成分には合わないように設定しても良い(又は、その逆としても良い)。
【0102】
測定された位相エラーは、デジタル・フィルタ36及び42の位相応答を調整し、サンプリング・タイム・エラーの影響を補正するのに利用できる。一方のデジタル・フィルタの遅延を他方のデジタル・フィルタに対して調整することで、デジタイザ30及び32間の位相エラーを補正できる。もしデジタイザ30及び32が内部的にインタリーブされているなら、パイプに依存した位相シフトをデジタル・フィルタ36及び42のそれぞれで利用して、デジタイザ30及び32それぞれの位相エラーを補正しても良い。これに代えて、これら位相エラーを信号取込みパイプのサンプル・クロック・タイミングを調整するのに利用し、後続の信号取込みにおけるエラーを最小とするようにしても良い。
【0103】
補償発振器300は、負性抵抗を生成するクロス結合されたNPN型差動ペア増幅器と、公称周波数を設定する短絡伝送ライン・スタブとから構築できる。補償発振器300は、差動ペア増幅器中のエミッタ電流を設定することで、オンになって同調される。電流が発振を維持するのに充分な相互コンダクタンスを供給するまで充分に大きくなれば、そこからの更なる電流の増加は、デバイスの入力容量の増加に貢献し、その結果として、この入力容量が伝送ラインの負荷となって、共振周波数を低くする。即ち、周波数調整可能な補償発振器300は、少なくとも1つのバイポーラ接合トランジスタの入力容量の変化によって主に同調(周波数変更)される。
【0104】
入力容量による同調処理を利用すると、こうした周波数で同調する可変容量ダイオード(バラクタ)に比較して、相対的に広く且つ線形な同調レンジが実現できる。同調レンジが広いと、処理をモデル化する際の不確実さや、処理の変動があっても、容易に対応可能となる。もし補償発振器300の同調レンジの広さが原因で補償用信号取込みの間に周波数の不安定さが生じる場合、取り込まれた補償信号データ(記録データ)は、複数の短いセグメントに分割され、各セグメントで潜在的に異なる周波数に応じた別々のサイン・フィットを利用して、位相エラーが分析される。各セグメントにおける非コンバート成分と2コンバート成分間で測定された位相エラーは、アナログ及びデジタル高調波信号間の位相エラーを表し、使用された補償信号の正確な周波数から独立している。よって、セグメントの位相エラー測定値の結果は、平均化されて、単一の長い記録データと同じノイズ除去状態(noise immunity)となる。
【0105】
簡単に上述したように、振幅エラーも補償発振器300を用いて求められる。振幅エラーを求めるため、クロスオーバー帯域内で対称的に対向する少なくとも2つの周波数に渡って、補償信号304でATIデジタイザの入力信号が周波数掃引されるようにする。入力信号の上述の周波数がクロスオーバー帯域の中心周波数より下の場合には、コンバートされた周波数と入力周波数とにおけるデジタル化信号の振幅の比率は、変換利得(conversion gain)とデジタル周波数応答ロールオフの積となるであろう。入力信号の上述の2つ目の周波数がクロスオーバー帯域の中心周波数より対称的な上の位置の場合には、コンバートされた周波数と入力周波数とにおけるデジタル化信号の振幅の比率は、変換利得とデジタル周波数ロールオフの積となるであろう。これら2つの振幅比の幾何平均は、変換利得を表す。そして、アナログ混合関数信号20及び26又はデジタル混合関数信号48及び54は、変換利得が所望値(通常1.0)となるように調整される。
【0106】
本発明の他の実施形態としては、コンピュータ読み出し可能な媒体上に記録されたコンピュータ読み出し可能なコードがあり、これは、実行されると、コンピュータに上述した動作のいずれかを実行させる。ここで、コンピュータとは、コードを実行できる任意のデバイスである。マイクロプロセッサ、プログラマブル・ロジック・デバイス、マルチプロセッサ・システム、デジタル・シグナル・プロセッサ、パーソナル・コンピュータなどは、全てこうしたコンピュータの例である。コンピュータ読み出し可能な媒体は、有形のコンピュータ読み出し可能な媒体であり、これは、コンピュータ読み出し可能なコードを非一時的なやり方で蓄積するよう構成される。
【0107】
具体的な実施形態を説明してきたが、本発明の原理は、これら実施形態に限定されるものではないと理解されたい。以下の請求項に記載される本発明の原理から離れることなく、変形及び変更を行うことができる。当業者であれば、例えば、デジタル・フィルタ処理、混合処理、結合処理の順番を入れ替えることで、入力信号のデジタル的な表現を再構成する機能を同様に実現しながら、デジタル処理をもっと効率良く実行する手法を考えることが可能であろう。