特許第6631468号(P6631468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6631468
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】残湯吸引器のノズル位置の設定方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20200106BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20200106BHJP
   F27B 14/18 20060101ALN20200106BHJP
   F27B 14/20 20060101ALN20200106BHJP
【FI】
   C30B29/06 502C
   C30B15/00 Z
   C30B29/06 502Z
   !F27B14/18
   !F27B14/20
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-214457(P2016-214457)
(22)【出願日】2016年11月1日
(65)【公開番号】特開2018-70426(P2018-70426A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】宮原 祐一
(72)【発明者】
【氏名】増田 直樹
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−072792(JP,A)
【文献】 特開昭63−050389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/00
F27B 14/18
F27B 14/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法でルツボ内の原料融液からシリコン単結晶を引き上げた後、前記ルツボ内に残った前記原料融液の残湯に浸漬させ、前記残湯を吸引する為のノズルを備えた残湯吸引器で前記残湯を前記ルツボから除去する際に、前記残湯吸引器の前記ノズル位置を設定する方法であって、
前記残湯吸引器にロードセルを連結し、前記残湯吸引器の前記ノズルの下端が前記ルツボの底に到達するまで前記残湯吸引器を降下させ、前記ロードセルで測定した前記残湯吸引器の重量の変化から前記ノズルの下端の前記ルツボの底への到達及び前記ルツボの底の位置を検知して、その後、前記残湯吸引器の前記ノズルの下端と前記ルツボの底との距離を所定の距離に設定することを特徴とする残湯吸引器のノズル位置の設定方法。
【請求項2】
前記所定の距離を、0mmより大きく5mm以下の範囲に設定することを特徴とする請求項1に記載の残湯吸引器のノズル位置の設定方法。
【請求項3】
前記残湯吸引器のノズルの下端がルツボの底に到達したことを検知した後、前記残湯吸引器の降下を停止させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の残湯吸引器のノズル位置の設定方法。
【請求項4】
前記残湯吸引器の降下を停止した後、前記残湯吸引器を上昇させ、前記残湯吸引器の前記ノズルの下端と前記ルツボの底との接触を解消させることを特徴とする請求項3に記載の残湯吸引器のノズル位置の設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(Czochralski method:CZ法)によりルツボ内の原料融液からシリコン単結晶を引き上げた後の残湯を除去する際に、残湯吸引器のノズル位置を設定する方法及び残湯吸引装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板に用いられるシリコン単結晶の製造方法として、石英ルツボ内の原料融液からシリコン単結晶を育成させながら引き上げるCZ法が広く採用されている。さらに、シリコン単結晶の低酸素濃度化や大直径結晶を容易に製造することなどを目的に、磁場を印加しながらCZ法でシリコン単結晶を引き上げる磁場印加チョクラルスキー法(Magnetic Field applied Czochralski method:MCZ法)が広く知られている。
【0003】
図3は、一般的なシリコン単結晶製造装置100である。図3に示すように、シリコン単結晶製造装置100は、石英ルツボ104等の部材を収容するメインチャンバー101と、メインチャンバー101の上に連設された引き上げチャンバー102と、結晶温度勾配の制御の為の遮熱部材109と、原料シリコン多結晶を加熱溶融する為のヒーター106と、石英ルツボ104を支持する黒鉛ルツボ105と、ヒーター106からの熱がメインチャンバー101に直接輻射されるのを防止する為の断熱材107と、シリコン単結晶112を引き上げる為の引き上げワイヤー114と、引き上げワイヤー114の下端に連結され種結晶118を取り付けるシードホルダー113と、引き上げワイヤー114の昇降を行う引き上げワイヤー巻き取り装置115と、ルツボ104、105を支持するルツボ軸110と、チャンバー内に不活性ガスを導入する為の不活性ガス導入口116と、不活性ガスをメインチャンバー101に導くためのガス整流筒108と、チャンバー内を排気する為の排気口117を具備する。また、図示しないが、メインチャンバー101と引き上げチャンバー102の間を遮断する為のゲートバルブと、不活性ガス導入口116に連結されたガス流量制御装置と、チャンバーの排気口に連結された真空ポンプと圧力制御装置を具備する。
【0004】
CZ法によるシリコン単結晶112の引き上げは、石英ルツボ104内に充填した原料シリコン多結晶をその周囲に配設したヒーター106で加熱融解して原料溶融液とし、その後、不活性ガス雰囲気下で石英ルツボ104内の原料融液103(シリコン融液)に引き上げワイヤー114の先端に連結されたシードホルダー113に取り付けた種結晶118を浸し、該石英ルツボ104及び種結晶118を回転させながら、種結晶118を引き上げることにより所望直径のシリコン単結晶112を育成するものである。MCZ法は、前記CZ法で石英ルツボ104内の原料融液103に磁石111で磁場を印加しながらシリコン単結晶112を育成するものである。
【0005】
CZ法によるシリコン単結晶の製造において、製造コストを低減する方法として、マルチプーリング法(非特許文献1参照)が知られている。マルチプーリング法は、所定の範囲のドーパント濃度を持つシリコン単結晶を引き上げた後、ルツボ内のシリコン原料の減少量に相当する量のシリコン原料を追加供給(リチャージ)し、これを溶融した後、再度、同様のシリコン単結晶を引き上げることを繰り返す方法である。この方法によれば、製造歩留まりが向上すると共に、通常のCZ法では一度しか使用できない石英ルツボから複数本のシリコン単結晶を製造できる為に、ルツボコストが低減し、シリコン単結晶の製造コストを低減することができる。
【0006】
しかし、CZ法によるシリコン単結晶の引き上げでは、シリコン原料に含まれるFe、Cu、Ni、C等の偏析係数が1未満の元素は、シリコン単結晶中に取り込まれる量よりもシリコン融液中に偏析される量の方が多く、シリコン単結晶の成長に伴いシリコン融液中に濃縮されていく。前記マルチプーリング法では、シリコン単結晶引き上げ後の不純物が濃縮されたシリコン融液(残湯)に新しいシリコン原料をリチャージする為、残湯に含まれる不純物に加え、新しいシリコン原料に含まれる不純物が加わる。その為、リチャージ後に引き上げられたシリコン単結晶中の不純物は、リチャージ前に引き上げられたシリコン単結晶中の不純物よりも多くなり、さらにリチャージ後にシリコン単結晶を引き上げた後の残湯に含まれる不純物も、リチャージ前の残湯に比べて多くなる。したがって、マルチプーリング法で引き上げるシリコン単結晶の本数を増やすと、リチャージの回数も増える為、シリコン単結晶中の不純物はマルチプーリングの進行と共に増加していく。
【0007】
このシリコン単結晶中に取り込まれたFe、Cu、Ni、C等の不純物は、半導体デバイスの作製時に結晶欠陥等を発生させ、デバイスの歩留まり低下の原因となる。特に近年の微細化されたデバイスでは、このシリコン単結晶中の不純物の低減が強く要求されている。その為、前記マルチプーリング法で引き上げるシリコン単結晶の本数は、シリコン単結晶中の不純物で制限され、さらにシリコン単結晶の引き上げ本数を増やすことが困難となっている。その為、シリコン単結晶の製造コストの低減が制限されている。
【0008】
このマルチプーリング法で、リチャージ後に引き上げるシリコン単結晶の不純物をリチャージ前に引き上げたシリコン単結晶の不純物と同等にするには、一旦残湯を全量除去し、全て新しいシリコン原料をリチャージする必要がある。
【0009】
そこで、マルチプーリング法におけるシリコン単結晶中の不純物低減策として、例えば特許文献1では、シリコン単結晶引き上げ後の残湯を、チューブ状部材(ノズル)を備えたレセプタクル(残湯吸引器)で除去することが提案されており、具体的には、残湯吸引器のノズルを残湯に浸漬し、その状態で残湯吸引器内に真空圧をかけて残湯吸引器内に残湯を吸引するというものである。
【0010】
この残湯吸引器のノズルを残湯に浸漬させる方法として、特許文献1では、残湯吸引器の下に、ノズルの下端が所望の残湯除去量の深さとなるようにゲージを設置し、該ゲージの下端が残湯の表面に接触するまで残湯吸引器を降下させる方法が提案されている。
【0011】
このような方法では、例えば、まず図3のシリコン単結晶製造装置100でシリコン単結晶112の育成終了後、シリコン単結晶112を引き上げチャンバー102内に巻き上げ、シリコン単結晶112をシードホルダー113から取り外して引き上げチャンバー102の外へ取り出す。
【0012】
次に、図4に示すように、シリコン単結晶製造装置100に従来の残湯吸引装置11を取り付ける。このとき、シリコン単結晶を取り外した後のシードホルダー113に残湯吸引器13を取り付け、残湯吸引器13に連結されたノズル12の下端が残湯103aの表面に接触するまで残湯吸引器13を降下させる。
【0013】
次に、シリコン単結晶の引き上げ前の原料シリコン多結晶の重量から引き上げたシリコン単結晶の重量を差し引いた重量(残湯重量)と石英ルツボ104の設計寸法値より、残湯103aの表面から石英ルツボ104の底までの距離を予め計算で求めておき、その計算で求めた距離の分だけ、残湯吸引器13をさらに降下させる。
【0014】
石英ルツボ104の形状が設計寸法値通りであれば、残湯吸引器13のノズル12の下端の位置は、石英ルツボ104の底に設置されるが、現実には、石英ルツボ104の形状には個体差による寸法誤差があり、またシリコン単結晶の引き上げ中に毎回一定ではない石英ルツボ104の変形による寸法変化が生じる為、残湯103aの表面から石英ルツボ104の底までの実際の距離は、計算で求めた距離と乖離がある。
【0015】
ところが、この方法では、石英ルツボ104の製作誤差、シリコン単結晶の引き上げ中に生じた石英ルツボ104の変形による残湯103aの深さの変化に関係無く、常に残湯103aの表面から設定した深さにしかノズル12の下端を設置できない。
【0016】
そのため、残湯を全量除去する場合、図5のように、従来の残湯吸引装置11では、残湯吸引器13のノズル12の下端位置が石英ルツボ104の底から離れ過ぎて、石英ルツボ104の底の残湯103aに届かず、残湯103aを全量除去できない場合があった。または、図6のように、残湯吸引器13のノズル12の下端位置が石英ルツボ104に底突きしてノズル12の下端の開口を塞いでしまい、残湯103aの除去自体ができなくなってしまう場合があった。
【0017】
これらの場合、残湯を全量除去することができないため、リチャージ後に引き上げたシリコン単結晶中の不純物を有効に除去できず、リチャージ前に引き上げたシリコン単結晶中の不純物よりも多くなってしまう可能性がある。
【0018】
この問題の改善の為に、例えば特許文献2では、ノズルの下端の側方に開口した切り込み部を設けることが提案されている。この方法によれば、ノズルの下端が石英ルツボに底突きするまで残湯吸引器を降下させることでノズルの下端位置を常に石英ルツボの底に設置できる。そのため、ノズルの下端と石英ルツボの底との距離が開きすぎて残湯の除去残りが発生することを防止でき、かつ、ノズルの側方に開口がある為、ノズルの下端の開口は閉塞せず、残湯の除去が可能となる。
【0019】
ところが、この方法では、残湯の除去が終了するまでの間、ノズルの下端が石英ルツボに底突きした状態で保持される為、ノズルの下端と石英ルツボの底が固着してしまい、残湯の除去後に残湯吸引器を上昇させて回収できなくなるという問題がある。この場合、リチャージおよびシリコン単結晶の引き上げの継続ができなくなることに加えて、残湯吸引器の再利用もできなくなる為、シリコン単結晶の製造コストがむしろ高くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平6−72792号公報
【特許文献2】特開2011−57471号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Semiconductor Silicon Crystal technology, Fumio Shimura, p.178−p.179, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、チョクラルスキー法でルツボ内の原料融液からシリコン単結晶を引き上げた後、ルツボ内に残った原料融液の残湯を除去する際に、所望の残湯量が除去できる位置となるように残湯吸引器のノズル位置を安定してより正確に設定することができる残湯吸引器のノズル位置の設定方法及び残湯吸引装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明によれば、チョクラルスキー法でルツボ内の原料融液からシリコン単結晶を引き上げた後、前記ルツボ内に残った前記原料融液の残湯に浸漬させ、前記残湯を吸引する為のノズルを備えた残湯吸引器で前記残湯を前記ルツボから除去する際に、前記残湯吸引器の前記ノズル位置を設定する方法であって、
前記残湯吸引器にロードセルを連結し、前記残湯吸引器の前記ノズルの下端が前記ルツボの底に到達するまで前記残湯吸引器を降下させ、前記ロードセルで測定した前記残湯吸引器の重量の変化から前記ノズルの下端の前記ルツボの底への到達及び前記ルツボの底の位置を検知して、その後、前記残湯吸引器の前記ノズルの下端と前記ルツボの底との距離を所定の距離に設定することを特徴とする残湯吸引器のノズル位置の設定方法を提供する。
【0024】
このようにすれば、ルツボの底の位置を正確に検知することができるので、所望の残湯量が除去できる位置となるように残湯吸引器のノズル位置を安定してより正確に設定することができる。これにより、所望の残湯量を精度良く除去することができる。
【0025】
このとき、前記所定の距離を、0mmより大きく5mm以下の範囲に設定することが好ましい。
【0026】
このようにすれば、残湯の全量除去を行う際に、ノズルの下端とルツボの底との距離が開きすぎたことによる残湯の除去残りや、ノズルの下端とルツボの底が固着して残湯吸引器を回収できなくなることによるマルチプーリングの中止を同時に防止できる。その結果、マルチプーリング法で引き上げた全てのシリコン単結晶中の不純物を、マルチプーリングの初期に引き上げたシリコン単結晶中の不純物と同等に保つことができる。
【0027】
またこのとき、前記残湯吸引器のノズルの下端がルツボの底に到達したことを検知した後、前記残湯吸引器の降下を停止させることが好ましい。
【0028】
このように、残湯吸引器のノズルの下端がルツボの底に到達したことを検知した後、残湯吸引器の降下を停止させることが好適である。
【0029】
またこのとき、前記残湯吸引器の降下を停止した後、前記残湯吸引器を上昇させ、前記残湯吸引器の前記ノズルの下端と前記ルツボの底との接触を解消させることが好ましい。
【0030】
このように残湯吸引器のノズルの下端とルツボの底との接触を解消させることにより、残湯が除去できなくなることを防止することができる。
【0031】
また、本発明によれば、チョクラルスキー法でルツボ内の原料融液からシリコン単結晶を引き上げた後、前記ルツボ内に残った前記原料融液の残湯を吸引する残湯吸引装置であって、
前記残湯に浸漬させ、前記残湯を吸引する為のノズルを備えた残湯吸引器と、該残湯吸引器に連結され、前記残湯吸引器の重量の変化を測定可能なロードセルとを有することを特徴とする残湯吸引装置を提供する。
【0032】
このようなものであれば、ロードセルにより重量変化を測定することで、ルツボの底の位置を正確に検知することができるので、所望の残湯量が除去できる位置となるように残湯吸引器のノズル位置を安定してより正確に設定することができる。これにより、所望の残湯量を精度良く除去することができるとともに、マルチプーリングによるコスト低減効果を発揮できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の残湯吸引器のノズル位置の設定方法及び残湯吸引装置であれば、ルツボの底の位置を正確に検知することができるので、所望の残湯量が除去できる位置となるように残湯吸引器のノズル位置を安定してより正確に設定することができる。これにより、所望の残湯量を精度良く除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の残湯吸引装置をシリコン単結晶製造装置に取り付けた状態を示す概略図である。
図2】本発明の残湯吸引器のノズル位置を設定する方法による残湯の除去方法を示した概略図である。
図3】一般的なシリコン単結晶製造装置を示した概略図である。
図4】シリコン単結晶製造装置に、従来の残湯吸引装置を取り付けた状態を示す概略図である。
図5】従来の残湯の除去方法において、残湯吸引器のノズルの下端が石英ルツボの底から離れすぎた場合を模式的に示した概略図である。
図6】従来の残湯の除去方法において、残湯吸引器のノズルの下端が石英ルツボの底に底突きした場合を模式的に示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
上記したように、石英ルツボの形状には個体差による寸法誤差があり、またシリコン単結晶の引き上げ中に毎回一定ではない石英ルツボの変形による寸法変化が生じる為、残湯の表面から石英ルツボの底までの実際の距離は、計算で求めた距離と乖離がある。そのため、残湯の表面から設定した深さにノズルの下端を設置する場合、例えば残湯を全量除去する際に、図5のように残湯吸引器のノズルの下端位置が石英ルツボの底から離れ過ぎて、残湯を全量除去できない場合や、図6のように残湯吸引器のノズルの下端位置が石英ルツボに底突きしてノズルの下端の開口を塞いでしまい、残湯の除去自体ができなくなってしまう場合があった。
【0037】
また、ノズルの下端の側方に開口した切り込み部を設けて、ノズルの下端が石英ルツボに底突きした状態で残湯の除去を行う方法では、ノズルの下端と石英ルツボの底が固着してしまい、残湯の除去後に残湯吸引器を上昇させて回収できなくなるという問題があった。
【0038】
そこで、本発明者らは、このような問題を解決する為に鋭意検討を重ねた。その結果、残湯吸引器のノズルの下端位置の設定を、残湯の表面を基準とするのではなく、石英ルツボの底を基準とすることにした。
【0039】
石英ルツボの底を基準として残湯吸引器のノズルの下端位置を設定するには、石英ルツボの底の位置を正確に検知する必要があるが、残湯が入った石英ルツボの底は、残湯の表面とは異なり、電気的、視覚的な検知が困難である。
【0040】
そこで、残湯吸引器にロードセルを連結し、残湯吸引器のノズルの下端がルツボの底に到達するまで残湯吸引器を降下させ、ロードセルで測定した残湯吸引器の重量の変化からノズルの下端のルツボの底への到達及びルツボの底の位置を検知して、その後、残湯吸引器のノズルの下端とルツボの底との距離を所定の距離に設定すれば、ルツボの底の位置を正確に検知することができるので、所望の残湯量が除去できる位置となるように残湯吸引器のノズル位置を安定してより正確に設定することができることを見出した。そして、これらを実施するための最良の形態について精査し、本発明を完成させた。
【0041】
まず、本発明の残湯吸引装置について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の残湯吸引装置1をシリコン単結晶製造装置100に取り付けた状態を示す概略図である。本発明の残湯吸引装置1は、チョクラルスキー法で石英ルツボ104内の原料融液からシリコン単結晶を引き上げた後、石英ルツボ104内に残った原料融液の残湯103aを吸引するものである。残湯吸引装置1は、残湯103aに浸漬させ、残湯103aを吸引する為のノズル2を備えた残湯吸引器3と、該残湯吸引器3に連結され、残湯吸引器3の重量の変化を測定可能なロードセル4とを有する。
【0042】
例えば、シードホルダー113を介して残湯吸引器3を取り付けた引き上げワイヤー114にロードセル4を連結し、該ロードセル4で残湯吸引器3の重量を計測することで、残湯吸引器3のノズル2の下端が石英ルツボ104と接触した時の残湯吸引器3の重量変化を測定することができる。
【0043】
このようなものであれば、石英ルツボ104の底の位置を正確に検知することができるので、所望の残湯量が除去できる位置となるように残湯吸引器3のノズル2の位置を安定してより正確に設定することができる。これにより、所望の残湯量を精度良く除去することができる。
【0044】
ノズル2は、例えば下端に開口部を有し、この開口部から残湯103aを吸引可能なものとすることができる。
【0045】
なお、残湯吸引装置1を取り付けるシリコン単結晶製造装置100は、従来の一般的なものとすることができる。例えば、石英ルツボ104等の部材を収容するメインチャンバー101と、メインチャンバー101の上に連設された引き上げチャンバー102と、結晶温度勾配の制御の為の遮熱部材109と、原料シリコン多結晶を加熱溶融する為のヒーター106と、石英ルツボ104を支持する黒鉛ルツボ105と、ヒーター106からの熱がメインチャンバー101に直接輻射されるのを防止する為の断熱材107と、シリコン単結晶を引き上げる為の引き上げワイヤー114と、引き上げワイヤー114の下端に連結され種結晶を取り付けるシードホルダー113と、引き上げワイヤー114の昇降を行う引き上げワイヤー巻き取り装置115と、ルツボ104、105を支持するルツボ軸110と、チャンバー内に不活性ガスを導入する為の不活性ガス導入口116と、不活性ガスをメインチャンバー101に導くためのガス整流筒108と、チャンバー内を排気する為の排気口117を具備するものとすることができる。さらに、シリコン単結晶の引上げ中に石英ルツボ104内の原料融液に磁場を印加するための磁石111を具備するものとすることができる。
【0046】
また、図示しないが、メインチャンバー101と引き上げチャンバー102の間を遮断する為のゲートバルブと、不活性ガス導入口116に連結されたガス流量制御装置と、チャンバーの排気口に連結された真空ポンプと圧力制御装置を具備するものとすることができる。
【0047】
このように、シリコン単結晶製造装置100の主要部分は、例えば、図3のシリコン単結晶製造装置と同じとすることができる。
【0048】
次に、本発明の残湯吸引器のノズル位置の設定方法について説明する。以下では、上記したような本発明の残湯吸引装置を用いた場合について説明する。
【0049】
まず、図1に示すようなシリコン単結晶製造装置100により、シリコン単結晶112の育成終了後、シリコン単結晶112を引き上げチャンバー102内に巻き上げ、シリコン単結晶112をシードホルダー113から取り外して引き上げチャンバー102の外へ取り出す。
【0050】
次に、図1に示すように、引き上げたシリコン単結晶を取り外した後のシリコン単結晶製造装置100に、本発明の残湯吸引装置1を取り付ける。そして、シードホルダー113に取り付けた残湯吸引器3を、石英ルツボ104の底に到達するまで降下させる。
【0051】
このとき、図2に示すように、まずノズル2の下端が残湯103aの表面に接触するまで残湯吸引器3を降下させ、この時の引き上げワイヤー114に掛かる残湯吸引器3の重量Aをロードセル4で測定し、記録することができる。
【0052】
そして、残湯吸引器3に連結されたノズル2の下端が石英ルツボ104の底に到達するまで、残湯吸引器3を降下させ、ロードセル4で測定した残湯吸引器3の重量の変化からノズル2の下端の石英ルツボ104の底への到達及び石英ルツボ104の底の位置を検知する。このとき、例えば、200mm/min以下の速度で降下させることが好ましい。また、この時の残湯吸引器3の重量Bをロードセル4で常時計測する。
【0053】
残湯吸引器3のノズル2の下端が石英ルツボ104の底に到達すると、残湯吸引器3の重量が石英ルツボ104に掛かり、引き上げワイヤー114に掛かる重量が急激に減少する為、ロードセル4で常時計測している残湯吸引器3の重量Bが減少する。この常時計測している重量Bと、前記記録しておいた重量Aに、例えば、100g以上の差が生じたことを検出することで、残湯吸引器3のノズル2の下端が石英ルツボ104の底に到達したこと及び、石英ルツボ104の底の位置を検知することができる。
【0054】
このとき、残湯吸引器3のノズル2の下端が石英ルツボ104の底に到達したことを検知した後、残湯吸引器3の降下を停止させることが好ましい。
【0055】
またこのとき、残湯吸引器3の降下を停止した後、残湯吸引器3を上昇させ、残湯吸引器3のノズル2の下端と石英ルツボ104の底との接触を解消させることが好ましい。このようにすれば、ノズル2の下端の開口が保たれ、残湯が除去できなくなることを防止することができる。
【0056】
その後、残湯吸引器3のノズル2の下端と石英ルツボ104の底との距離を所定の距離に設定する。このようにすれば、石英ルツボ104の底の位置を正確に検知することができるので、所望の残湯量が除去できる位置となるように残湯吸引器3のノズル2の位置を安定してより正確に設定することができる。これにより、所望の残湯量を精度良く除去することができる。
【0057】
このとき、所定の距離を、0mmより大きく5mm以下の範囲に設定することが好ましい。このようにすれば、残湯の全量除去を行う際に、ノズル2の下端と石英ルツボ104の底との距離が開きすぎたことによる残湯の除去残りを防止して、安定して残湯を全量除去することができる。さらに、ノズル2の下端と石英ルツボ104の底が固着して残湯吸引器を回収できなくなることによるマルチプーリングの中止を同時に防止できる。その結果、マルチプーリング法で引き上げた全てのシリコン単結晶中の不純物を、マルチプーリングの初期に引き上げたシリコン単結晶中の不純物と同等に保つことができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(実施例)
まず、図1に示すシリコン単結晶製造装置100を用い、CZ法で石英ルツボ104内の原料融液からシリコン単結晶112の引上げを行った。
【0060】
具体的には、直径800mmの石英ルツボ104に原料シリコン多結晶を340kg充填し、それをヒーター106により加熱溶融して原料融液とした後、磁石111により中心磁場強度が4000Gの水平磁場を印加し、直径300mmのシリコン単結晶112の引き上げを行った。
【0061】
引き上げたシリコン単結晶を、引き上げワイヤー114に連結したシードホルダー113から取り外し、重量を測定したところ、引き上がったシリコン単結晶112の重量は310kgであった。シリコン単結晶112の引き上げ前の原料シリコン多結晶の重量(340kg)から引き上げたシリコン単結晶の重量(310kg)を差し引いた重量から、石英ルツボ104の中に残湯が30kg残ったことが分かった。この時、石英ルツボ104の設計寸法値から計算で求めた残湯の表面から石英ルツボ104の底までの距離は70mmであった。
【0062】
次に、図1に示すように、引き上げたシリコン単結晶を取り外した後のシリコン単結晶製造装置100に本発明の残湯吸引装置1を取り付けた。具体的には、残湯吸引器3の下に200mmの長さを持つ直径30mmの高純度石英製のノズル2を備えた残湯吸引器3をシードホルダー113に取り付けた。
【0063】
このとき、まずノズル2の下端が残湯103aの表面に接触するまで残湯吸引器3を降下させた。このときの残湯吸引器3の重量Aを引き上げワイヤー114に連結されたロードセル4で計測した結果、26.2kgであった。この残湯吸引器3の初期の重量A=26.2kgを、ロードセル4に接続したコンピューターに記録した。そして、シリコン単結晶製造装置100に設定したプログラムにより、残湯吸引器3の降下中にロードセル4で計測する重量Bが、記録しておいた残湯吸引器3の初期の重量Aよりも100g以上減少した時、残湯吸引器3の降下が自動停止するように設定しておいた。
【0064】
次に、前記残湯吸引器3の降下中の重量Bをロードセル4で常時測定しながら、残湯吸引器3を降下させた。その結果、残湯吸引器3のノズル2の下端が、残湯103aの表面から76mm浸漬したところで、ロードセル4で常時計測していた重量Bが26.2kgから26.1kgに変化し、残湯吸引器3の降下が自動停止した。この時、残湯吸引器3のノズル2の下端が、石英ルツボ104の底に到達したと検出された。
【0065】
次に、石英ルツボ104の底に密着していると推定される残湯吸引器3のノズル2の下端を、石英ルツボ104の底から切り離し、残湯103aを全量除去するために、残湯吸引器3を5mm上昇させ、この状態で残湯103aを残湯吸引器3の中へ吸引する吸引操作を行った。その結果、石英ルツボ104の中の残湯103aはほぼ全量除去されたことが目視で確認できた。
【0066】
この結果から、本発明の方法により、残湯吸引器3のノズル2の下端の設置位置を石英ルツボ104の底から適切な位置に設置できていたことが分かった。また、残湯吸引器3のノズル2の下端と石英ルツボ104の底との距離を5mm以下の範囲に設定すれば、残湯103aの全量除去を行う際に、ノズル2の下端と石英ルツボ104の底との距離が開きすぎたことによる残湯103aの除去残りを防止して、安定して残湯103aを全量除去することができることが分かった。さらに、このように石英ルツボの底との距離を確実に取ることで、ノズル先端とルツボの底との固着も防止できた。
【0067】
(比較例)
まず、図3のシリコン単結晶製造装置100を用い、実施例と同様にして直径300mmのシリコン単結晶112の引き上げを行った。このとき、引き上がったシリコン単結晶112の重量は310kgで、石英ルツボ104の中に残湯が30kg残った。また、石英ルツボ104の設計寸法値から計算で求めた残湯の表面から石英ルツボ104の底までの距離は70mmであった。
【0068】
引き上げたシリコン単結晶112を、引き上げワイヤー114に連結したシードホルダー113から取り外し、その後、図4に示すように、シリコン単結晶製造装置100に従来の残湯吸引装置11を取り付けた。このとき、残湯吸引器13の下に200mmの長さを持つ直径30mmの高純度石英製のノズル12を備えた残湯吸引器13をシードホルダー113に取り付け、ノズル12の下端が残湯103aの表面に接触するまで残湯吸引器13を降下させた。
【0069】
そして、シリコン単結晶製造装置100に設定したプログラムにより、残湯吸引器13が残湯融液表面より、上記のように設計寸法値から計算で求めた残湯の表面から石英ルツボ104の底までの距離の70mm降下したら降下を自動停止するようにしておき、前記残湯吸引器13のノズル12の下端が残湯103aの表面に接触した状態から残湯吸引器13の降下を行った。その結果、前記残湯吸引器13のノズル12の下端が残湯103aの表面から70mm浸漬した位置で、残湯吸引器13の降下が停止した。
【0070】
次に、残湯103aを全量除去するために、前記残湯吸引器13のノズル12の下端が残湯103aの表面から70mm浸漬した状態で、残湯103aを残湯吸引器13の中へ吸引する吸引操作を行った。その結果、石英ルツボ104の中には除去しきれなかった残湯103aの一部が残っていた。
【0071】
残湯吸引器13をシードホルダー113から取り外し、残湯吸引器13の中に除去された残湯103aの重量を計測した結果29.7kgであった。残湯103aの除去前の重量30kgから、除去した重量29.7kgを差し引くことで、石英ルツボ104の中には残湯103aが0.3kg残っていたことが分かる。なお、石英ルツボ104の設計寸法値から計算すると、この時の石英ルツボ104の中に残った残湯103aの表面から石英ルツボ104の底までの距離は、約6mmと見積もられた。
【0072】
この結果より、石英ルツボ104の設計寸法値から計算で求めた残湯103aの表面から石英ルツボ104の底までの距離は、実際の残湯103aの表面から石英ルツボ104の底までの距離と比べて約6mm少なく、残湯吸引器13のノズル12の下端の設置位置が、石英ルツボ104の底から約6mm上であったことが分かった。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0074】
1…残湯吸引装置、 2…ノズル、 3…残湯吸引器、 4…ロードセル、
100…シリコン単結晶製造装置、 101…メインチャンバー、
102…引き上げチャンバー、 103…原料融液、 103a…残湯、
104…石英ルツボ、 105…黒鉛ルツボ、 106…ヒーター、
107…断熱材、 108…ガス整流筒、 109…遮熱部材、 110…ルツボ軸、
111…磁石、 112…シリコン単結晶、 113…シードホルダー、
114…引き上げワイヤー、 115…引き上げワイヤー巻き取り装置、
116…不活性ガス導入口、 117…排気口、 118…種結晶。
図1
図2
図3
図4
図5
図6