特許第6634233号(P6634233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6634233
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】スケール固定装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20200109BHJP
【FI】
   G01D5/245 110J
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-140317(P2015-140317)
(22)【出願日】2015年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-126000(P2016-126000A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2018年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-266856(P2014-266856)
(32)【優先日】2014年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100080252
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 征四郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 節律
(72)【発明者】
【氏名】荻原 将
【審査官】 吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭50−3900(JP,Y1)
【文献】 特開平9−257452(JP,A)
【文献】 特開2013−238423(JP,A)
【文献】 特開2007−42397(JP,A)
【文献】 特開2012−207245(JP,A)
【文献】 特開2011−88746(JP,A)
【文献】 特開平9−303359(JP,A)
【文献】 特開平4−258711(JP,A)
【文献】 実開昭60−135608(JP,U)
【文献】 特表平4−502968(JP,A)
【文献】 特開昭63−151809(JP,A)
【文献】 実開昭62−187805(JP,U)
【文献】 特開平1−308910(JP,A)
【文献】 米国特許第4541181(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第1195581(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00−5/38
F16B 1/00−1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケールを対象物に設置固定するスケールの固定装置であって、
前記スケールの一端を前記対象物に対して不動に固定する固定ブロック部と、
前記スケールの他端を引っ張るようにしながら前記スケールの他端を対象物に固定する引張りブロック部と、を備え、
前記引張りブロック部は、
前記対象物に固定される固定台部と、
前記スケールの他端を把持するとともに、前記固定台部に対して摺動可能に設置されるスライド部と、
一端が前記スライド部に係合し、他端が前記固定台部に係止され、前記スライド部を前記固定台部に対して相対的に他端側へ引っ張る引張り手段と、を備え、
前記スライド部は、長孔を有し、この長孔を挿通して前記固定台部に螺合する第1のネジにて前記固定台部に押し付けられ、
記スライド部の前記固定台部に当接する面が面取りされている
ことを特徴とするスケールの固定装置。
【請求項2】
スケールを対象物に設置固定するスケールの固定装置であって、
前記スケールの一端を前記対象物に対して不動に固定する固定ブロックと、
前記スケールの他端を引っ張るようにしながら前記スケールの他端を対象物に固定する引張りブロック部と、を備え、
前記引張りブロック部は、
前記対象物に固定される固定台部と、
前記スケールの他端を把持するとともに、前記固定台部に対して摺動可能に設置されるスライド部と、
一端が前記スライド部に係合し、他端が前記固定台部に係止され、前記スライド部を前記固定台部に対して相対的に他端側へ引っ張る引張り手段と、を備え、
前記スライド部は、長孔を有し、この長孔を挿通して前記固定台部に螺合する第1のネジにて前記固定台部に押し付けられ、
前記スライド部および前記固定台部の互いの当接面のうち少なくともいずれか一方は鏡面仕上げされている
ことを特徴とするスケールの固定装置。
【請求項3】
スケールを対象物に設置固定するスケールの固定装置であって、
前記スケールの一端を前記対象物に対して不動に固定する固定ブロックと、
前記スケールの他端を引っ張るようにしながら前記スケールの他端を対象物に固定する引張りブロック部と、を備え、
前記引張りブロック部は、
前記対象物に固定される固定台部と、
前記スケールの他端を把持するとともに、前記固定台部に対して摺動可能に設置されるスライド部と、
一端が前記スライド部に係合し、他端が前記固定台部に係止され、前記スライド部を前記固定台部に対して相対的に他端側へ引っ張る引張り手段と、を備え、
前記スライド部は、長孔を有し、この長孔を挿通して前記固定台部に螺合する第1のネジにて前記固定台部に押し付けられ、
前記スライド部および前記固定台部の互いの当接面のうち一方は粗面であり、他方には樹脂膜が成膜されている
ことを特徴とするスケールの固定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のスケールの固定装置において
前記第1のネジと前記長孔との間には、第1のフランジ付きスリーブが介装されている
ことを特徴とするスケールの固定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のスケールの固定装置において、
前記スケールの他端は第2のネジによって前記スライド部にネジ止めされており、
前記第2のネジと前記スケールの他端との間には、第2のフランジ付きスリーブが介装されている
ことを特徴とするスケールの固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスケール固定装置に関する。具体的には、長尺状のスケールを対象物に取り付け固定するにあたって、スケールの精度を保つようにできるスケールの固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長さ測定器(リニアエンコーダ)のスケールとして、ガラスまたは金属製の薄いテープ状であるテープスケールが知られている(特許文献1、2、3、4)。テープスケールは、長尺化容易、運搬容易、取り付け簡便といった利点を有する。
【0003】
テープスケールを対象物に取り付け固定するにあたっては、測定軸方向に張力を掛けておく。例えば、テープスケールの一端は対象物に対して不動に固定し、テープスケールの他端は滑動部材に固定して、テープスケールの他端が対象物に対して相対的に移動することを許容する。そして、テープスケールの他端を引っ張るように滑動部材にテンションを掛けておく。これにより、温度変化によってテープスケールが伸縮した場合でもテープスケールは真直を保つようになる。一般的に保証温度は0℃から50℃に設定され、この範囲内であればテープスケールの真直が保たれるようにテンションを掛けておく。例えば、テープスケールをSUS材とした場合、1℃の変化で1mあたり約10.5μm伸縮する。この伸縮を吸収できるようにするには、20℃の環境でエンコーダを設置するとして、1mあたり250μm引っ張る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−237310号公報
【特許文献2】特許4477442号
【特許文献3】特開2013−7718号公報
【特許文献4】特開昭63−252213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにテープスケールには滑動部材を介して所定のテンションが掛かっているのであるが、エンコーダを設置した後しばらくしてから検査してみると、テンションが外れてしまっていることがしばしばあった。すなわち、滑動部材を所定量、例えば、1mあたり250μm引っ張っていたのであるが、しばらくしてから検査してみると滑動部材の位置が当初の設置位置からずれていることがあった。エンコーダのユーザは、一旦エンコーダが設置されてしまえばテープスケールのテンションが適正かどうかを調べることはしないため、測定誤差に繋がる場合がある。
【0006】
ずれてしまう場合とずれない場合とがあり、発生原因もよくわからず、エンコーダ設置時の技量の差とも思われたが、本発明者らは鋭意研究を遂行し、根本的原因の解明に成功するとともにその対策を講じ、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の目的は、スケールのテンションが外れないようにしてスケールの精度を保つことができるスケールの固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスケールの固定装置は、
スケールを対象物に設置固定するスケールの固定装置であって、
前記スケールの一端を前記対象物に対して不動に固定する固定ブロック部と、
前記スケールの他端を引っ張るようにしながら前記スケールの他端を対象物に固定する引張りブロック部と、を備え、
前記引張りブロック部は、
前記対象物に固定される固定台部と、
前記スケールの他端を把持するとともに、前記固定台部に対して摺動可能に設置されるスライド部と、
一端が前記スライド部に係合し、他端が前記固定台部に係止され、前記スライド部を前記固定台部に対して相対的に他端側へ引っ張る引張り手段と、を備え、
前記スライド部の前記固定台部に当接する面が面取りされている
ことを特徴とする。
【0009】
本発明のスケールの固定装置は、
スケールを対象物に設置固定するスケールの固定装置であって、
前記スケールの一端を前記対象物に対して不動に固定する固定ブロックと、
前記スケールの他端を引っ張るようにしながら前記スケールの他端を対象物に固定する引張りブロック部と、を備え、
前記引張りブロック部は、
前記対象物に固定される固定台部と、
前記スケールの他端を把持するとともに、前記固定台部に対して摺動可能に設置されるスライド部と、
一端が前記スライド部に係合し、他端が前記固定台部に係止され、前記スライド部を前記固定台部に対して相対的に他端側へ引っ張る引張り手段と、を備え、
前記スライド部および前記固定台部の互いの当接面のうち少なくともいずれか一方は鏡面仕上げされている
ことを特徴とする。
【0010】
本発明のスケールの固定装置は、
スケールを対象物に設置固定するスケールの固定装置であって、
前記スケールの一端を前記対象物に対して不動に固定する固定ブロックと、
前記スケールの他端を引っ張るようにしながら前記スケールの他端を対象物に固定する引張りブロック部と、を備え、
前記引張りブロック部は、
前記対象物に固定される固定台部と、
前記スケールの他端を把持するとともに、前記固定台部に対して摺動可能に設置されるスライド部と、
一端が前記スライド部に係合し、他端が前記固定台部に係止され、前記スライド部を前記固定台部に対して相対的に他端側へ引っ張る引張り手段と、を備え、
前記スライド部および前記固定台部の互いの当接面のうち一方は粗面であり、他方には樹脂膜が成膜されている
ことを特徴とする。
【0011】
本発明では、
前記スライド部は、長孔を有し、この長孔を挿通して前記固定台部に螺合する第1のネジにて前記固定台部に押し付けられており、
前記第1のネジと前記長孔との間には、第1のフランジ付きスリーブが介装されている
ことが好ましい。
【0012】
本発明では、
前記スケールの他端は第2のネジによって前記スライド部にネジ止めされており、
前記第2のネジと前記スケールの他端との間には、第2のフランジ付きスリーブが介装されている
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】テープスケールの固定装置の分解斜視図。
図2】テープスケールの固定装置の外観図。
図3】引張りブロック部の断面図。
図4】固定台部とスライド部とを拡大した図。
図5】スライド部の面取りを例示した図。
図6】フランジ付きスリーブを例示した図。
図7】評価結果を示す図。
図8】ベース部を粗面とし、把持駒に薄膜を成膜した場合を例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1図2図3図4を参照して、テープスケールの固定装置100の主要な構成を説明する。本発明のポイントはその後に説明する。
図1は、テープスケール10の固定装置100の分解斜視図であり、図2は、組立てた状態の外観図である。
テープスケール10の固定装置100は、長尺状のスケールホルダ110と、スケールホルダ110の長手方向の一方の端部側に配置される固定ブロック部120と、スケールホルダ110の長手方向の他方の端部側に配置される引張りブロック部200と、を備える。
スケールホルダ110、固定ブロック部120および引張りブロック部200は、主として金属、例えばアルミニウム、アルミニウム合金あるいはSUS材で形成される。
【0015】
スケールホルダ110は、テープスケール10が嵌まる溝を有する。
固定ブロック部120は、対象物(不図示)に固定ネジ121で固定される。さらに、固定ブロック部120には、テープスケール10の一端がネジ留め122される。
【0016】
図3は、引張りブロック部200の断面図であり、図4は、固定台部210とスライド部240とを拡大した図である。
引張りブロック部200は、固定台部210と、スライド部240と、引張りネジ(引張り手段)290と、を備える。
【0017】
固定台部210は、対象物に固定される。
固定台部210は、ベース部220と、引張り壁230と、を有する。
ベース部220は、測定軸方向に長さを有し、スライド部240を長手方向(測定軸方向)に沿って摺動可能に受ける溝221を有する。ベース部220は、長手方向の一端側から他端の途中までの長さを有する切り込み222を溝221内に有する。また、ベース部220は、溝221内の略中央から他端までの間に、長手方向に沿ってネジ孔223、223、224、224を4つ有する。4つのネジ孔のうち両端の二つ(223、223)は固定台部210を対象物にネジ留めするためのネジ孔である。真ん中の二つ(224、224)は、固定台部210の溝221内に設置したスライド部240を、固定台部210に押し付けるネジ253を螺入するためのネジ孔である。
【0018】
引張り壁230は、ベース部220の長手方向の他端からL字状に(ベース部220を対象物に固定したとき、対象物に対して略垂直となるように)起立しており、スライド部240を引っ張るための固定側の壁である。さらに、引張り壁230は、引張りネジ290が挿通される孔231を有する。
【0019】
スライド部240は、把持駒250と、エンドプレート260と、を有する。
把持駒250は、ベース部220の溝221に設置され、測定軸方向に沿って摺動可能とされる。把持駒250の一端側の上面(ベース部220と対向する面と反対側の面)にはテープスケール10の他端がネジ留め(251)され、これにより、把持駒250はテープスケール10の他端を把持する。
なお、このネジ251の先端はベース部220の切り込み222に入り、テープスケール10とベース部220とは固定されない。
スライド部240が固定台部210に対してスライドすれば、固定台部210に対してテープスケール10とスライド部240とは一体的にスライド移動できる。
また、把持駒250は、略中央から他端までの間に長手方向に沿って長孔252を有する。この長孔252は、ネジ253のネジ部が貫通可能で、且つ、ネジ253のヘッド部は貫通できないサイズの幅とされている。そして、ネジ253のネジ部がベース部220のネジ孔224に螺入され、ネジ253のヘッド部でスライド部240を固定台部210に押し付けるとともに、長孔252によってスライド部240のスライド移動を許容する。
【0020】
エンドプレート260は、把持駒250の他端からL字状に起立し、引張りネジ290が螺入されるネジ孔261を有する。
引張り壁230の孔231を通って引張りネジ290をネジ孔261に螺入する。引張りネジ290を締めていくと、エンドプレート260が引張り壁230の方に引かれる。引張りネジ290を締めていき、所定の張力がテープスケール10に掛かるようにする。
【0021】
図3中、三角マークは電気マイクロメータによる測定ポイントを示す。第1電気マイクロメータ(401)は、固定台部210が動かないことを確認する。第2電気マイクロメータ(402)は、スライド部240の変位をモニターする。第2電気マイクロメータ(402)による検出値を見ながら、スライド部240の移動量が所定値になるまで引張りネジ290を締めていく。
【0022】
さて、スライド部240に掛かっている力に注目する。
スライド部240は引張りネジ290で他端側に引っ張られている。この力を他端側引張り力F2と称することにする(図3)。
また、スライド部240は、テープスケール10によって一端側に引っ張られている。この力を一端側引張り力F1と称することにする(図3)。
【0023】
さらに、もう一つ、把持駒250の長孔252に挿通されたネジ253でスライド部240は固定台部210に押し付けられている。すなわち、把持駒250の裏面とベース部220の表面(溝221の底面)との間に摩擦力F3が働いている。
テープスケール10にテンションを掛けて設置したとき、他端側引張り力F2、一端側引張り力F1、そして、摩擦力F3の三者が釣り合ってスライド部240の位置が止まっているわけである。(もちろん、ネジ253と把持駒250との間の摩擦など、他にも力は掛かっているが、分かりやすいように主要な三つを取り上げた。)
【0024】
他端側引張り力F2や一端側引張り力F1は経時的に変化することはあまりないと考えられる。
一方、本発明者らはこれまで留意されていなかった摩擦力F3に注目し、摩擦力F3が変化してしまうことでスライド部240のズレが生じるということに思い至った。
例えば、0℃から50℃に環境温度が変化すると、ベース部220も把持駒250も僅かながら熱変形し、ベース部220と把持駒250との間の摩擦力F3が変化する。例えば、摩擦力F3が小さくなったりする。すると、他端側引張り力F2、一端側引張り力F1および摩擦力F3のバランスが変わってしまって釣り合い位置がズレるということである。
【0025】
このような知見から本発明者らは、解決手段として、二つの方策が有効であることを確認した。
第1の方策は、温度変化があっても摩擦力が変化しないようにすることである。
第2の方策は、もともと摩擦が無いようにすることである。
第3の方策は、極めて大きな摩擦力が生じるようにしてスライド部240を不動とすることである。
順に説明する。
【0026】
(1)スライド部240の裏面を面取りする。
スライド部240は切削で加工されるものであるため、エッジにバリが残ることがある。バリが残っていると、このバリがベース部220に当接することになるので、スライド部240とベース部220との接触面積が極端に小さくなる。すると、温度変化等があったときに摩擦力F3が変化してスライド部240に予期せぬ滑りが生じてしまう事態が考えられる。
そこで、スライド部240の裏面のエッジを面取りすることが好ましい。図5に示すように、スライド部240の裏面には、幅方向の両サイドに凸状の脚270が二条ある。したがって、脚270の外側エッジと内側エッジを面取り(271)する。これにより、スライド部240とベース部220とが面と面とで接触するようになり、保証温度範囲内での摩擦力の変化が十分小さくなる。したがって、スライド部240がずれなくなる、もしくは、仮にズレたとしてもそのズレ量を十分に小さくできる。
【0027】
(2)部品のバラツキを補う。
把持駒250の長孔252を通してネジ253をベース部220のネジ孔224に螺入することでスライド部240をベース部220に押し付けているわけであるが、部品のバラツキに起因してこの押し付け力にバラツキが生じることが予想される。例えば、ネジ253の座面から先端までの呼び長さや、首下の丸み、座面の平坦度はバラツキやすい。その結果、ネジ253を所定の力で締めたつもりでも、押し付け力が弱かったり強かったりする可能性がある。
そこで、図6に示すように、ネジ253と長孔252との間にフランジ付きスリーブ254を介装する。これにより、部品(ネジ253やスライド部240)のバラツキを補い、所定の力でネジ253を締めればいつも所定の押し付け力でスライド部240をベース部220に押し付けることができる。
【0028】
さらに好ましくは、テープスケール10の他端を把持駒250にネジ留めするにあたっても、ネジ251とテープスケール10との間にフランジ付きスリーブ255を介装することが好ましい。テープスケール10に穿設された孔11の径がネジ251の径よりも(僅かでも)大きいと、孔11とネジ251との間に隙間が生じる。この隙間は、テープスケール10が把持駒250に対して相対変位する余地を生む可能性がある。そこで、孔11とネジ251との間の隙間を限りなく無くし、また、ネジ251でテープスケール10をしっかりと押さえ付けられるように、ネジ251とテープスケール10との間にフランジ付きスリーブ255を介装するとよい。
【0029】
なお、テープスケール10が薄いのでフランジ付きスリーブ255のスリーブをかなり短く加工しなければならない。仮にテープスケール10の厚みが0.2mmだとすれば、フランジ付きスリーブ255のスリーブ部分の長さを0.1mm程度に加工する。あるいは、フランジ付きスリーブ255のスリーブ部分の長さを数mm程度(例えば1mm程度)にしたい場合には、テープスケール10の一端側の厚みをやや厚めに残すようにしてもよいし、把持駒250のネジ孔256の周囲に浅い座刳りを設けておいてもよいだろう。
【0030】
(3)片方だけ鏡面仕上げする。
ベース部220の溝221の底面と把持駒250の裏面とのいずれか一方を鏡面仕上げして、両者の間の摩擦を出来るだけ小さく、理想的にはゼロになるようにする。もともとベース部220と把持駒250との間に摩擦が無ければ、摩擦力F3の変化でスライド部240がズレるといった事象は起こらなくなる。
鏡面の定義としては、例えば、算術平均粗さRaが数十nm以下、例えば80nm以下、できれば10nm以下とすることが好ましい。
【0031】
(4)両方とも鏡面仕上げする。
ベース部220の溝221の底面と把持駒250の裏面との両方を鏡面仕上げして、両者の間の摩擦を極めて大きくする。鏡面仕上げした金属(例えばアルミニウム)同士が密着することで極めて大きな摩擦力が生じるようになる。これにより、摩擦力F3の変化でスライド部240がズレるといった事象は起こらなくなる。
鏡面の定義としては、例えば、算術平均粗さRaが数十nm以下、例えば80nm以下、できれば10nm以下とすることが好ましい。
【0032】
(評価結果)
図7に評価結果を示す。
図7は、スライド部240の引っ張り量が所定の値になるまで引張りネジ290を締めた後、第2電気マイクロメータ(402)でスライド部240の変位を測った結果である。(一端側に変位した場合を正の値としている。)
テープスケールの長さは1mとした。
図中に引っ張り力が600Nの線を明示した。600Nは、温度変化40℃の伸縮量を吸収できる引っ張り力に相当する。
図中のAのラインは、スライド部240の面取りをしていない場合の結果である。
図中の(1)のラインは、スライド部240の面取りをした場合の結果である。
図中の(2)のラインは、スライド部240の面取りをし、さらに、ネジ253と長孔252との間にフランジ付きスリーブ254を介装した場合の結果である。
図中の(3)のラインは、ベース部220の溝221の底面と把持駒250の裏面とを鏡面仕上げした場合の結果である。
【0033】
図7の結果から、上記の対策は効果を発揮していることが示された。
【0034】
(5)一方を粗面にし、他方に樹脂膜を成膜する。
一方を粗面にし、他方に樹脂膜を成膜すると、一方が他方に食い付くようになる。
例えば、図8に示すように、ベース部220の溝221の底面を粗面とし、把持駒250の裏面に樹脂等の薄膜272を成膜する。もちろん、逆に、把持駒250の裏面を粗面にして、ベース部220の溝221の底面に樹脂膜を成膜してもよい。
これにより、両者の摩擦力が維持されるようになるので、スライド部240のズレが防止される。
粗面の定義としては、例えば、算術平均粗さRaが0.数μmから数十μm程度、例えば0.1μmから50μm程度にすることが例として挙げられる。
【0035】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、引張りネジは、固定台部に対してスライド部を相対的に他端側へ引っ張れればよいのであり、例えばバネ等の弾性体に置き換えてもよい。
固定台部やスライド部の形状は一例に過ぎない。
【符号の説明】
【0036】
10…テープスケール、100…テープスケールの固定装置、110…スケールホルダ、120…固定ブロック部、200…引張りブロック部、210…固定台部、220…ベース部、221…溝、230…引張り壁、231…孔、240…スライド部、250…把持駒、252…長孔、254…フランジ付きスリーブ、260…エンドプレート、272…薄膜、290…引張りネジ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8